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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】超音波処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/38 20060101AFI20240514BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240514BHJP
   B01J 19/10 20060101ALI20240514BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
G01N1/38
G01N1/28 J
B01J19/10
C12M1/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020190806
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079929
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】上杉 研太郎
(72)【発明者】
【氏名】元原 将策
(72)【発明者】
【氏名】岡山 貴光
(72)【発明者】
【氏名】大西 利征
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0053795(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0124142(US,A1)
【文献】特表2016-502663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/38
G01N 1/28
B01J 19/10
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロプレートの1つのウェル内に収まる集束幅をもった集束超音波振動子と、集束超音波振動子を駆動させるための駆動電源と、前記集束超音波振動子の上部にマイクロプレートを設置するためのプレート設置部と、マイクロプレートをプレート設置部に固定するためのプレート固定部と、マイクロプレートに対して超音波を伝播させるための媒体が入った処理槽とを備える装置であって、前記集束超音波振動子に対して水平方向に前記マイクロプレートを移動させるプレート移動機構と、超音波処理中に前記マイクロプレートに対して前記集束超音波振動子を垂直方向に上下動させる振動子上下動機構を備え、前記振動子上下動機構が、照射する超音波の4分の1波長以上の上下動を行うことを特徴とする超音波処理装置。
【請求項2】
前記プレート移動機構が、マイクロプレートのウェル毎に超音波照射位置を移動可能な自動XYステージであることを特徴とする請求項1記載の超音波処理装置。
【請求項3】
前記マイクロプレート底面に存在する空気を除去する空気除去機構を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波処理装置。
【請求項4】
前記空気除去機構が、マイクロプレートの底面に対して空気を送る送気用ポンプと、マイクロプレートの底面から空気を除去する排気用ポンプであることを特徴とする請求項に記載の超音波処理装置。
【請求項5】
前記処理槽内の媒体の温度を一定にするための恒温機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波処理装置。
【請求項6】
前記マイクロプレートは96ウェルプレートであることを特徴とする請求項1に記載の超音波処理装置。
【請求項7】
前記集束超音波振動子から発生させる超音波の周波数は100kHz~10MHzであることを特徴とする請求項1に記載の超音波処理装置。
【請求項8】
マイクロプレートの1つのウェル内に収まる集束幅をもった集束超音波振動子と、集束超音波振動子を駆動させるための駆動電源と、前記集束超音波振動子の上部にマイクロプレートを設置するためのプレート設置部と、マイクロプレートをプレート設置部に固定するためのプレート固定部と、マイクロプレートに対して超音波を伝播させるための媒体が入った処理槽とを備える装置であって、前記集束超音波振動子に対して水平方向に前記マイクロプレートを移動させるプレート移動機構と、超音波処理中に前記マイクロプレートに対して前記集束超音波振動子を垂直方向に上下動させる振動子上下動機構を備えると共に、前記マイクロプレート底面に存在する空気を除去する空気除去機構を備え、前記空気除去機構が、マイクロプレートの底面に対して空気を送る送気用ポンプと、マイクロプレートの底面から空気を除去する排気用ポンプであることを特徴とする超音波処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞やタンパク質、DNA、化合物などのサンプルを含む溶液に対して超音波処理を行うための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は液中照射に伴って発生する音響流やキャビテーションなどの現象を利用して、化学分析時の前処理や分注に使用されるノズルの洗浄など、生化学分野でも広く用いられている。
【0003】
また、超音波はその熱的作用や機械的作用により、細胞やタンパク質、DNA、化合物などを含むサンプル自身に様々な影響をもたらす。この影響を利用し、超音波は医療分野においても診断や治療目的で多くの研究開発が進められている。
【0004】
生化学、医療分野においてin vitro系で研究を進める際、研究の効率化を図るためにマイクロプレートを使用して、各ウェルに同一サンプルを加え、異なる条件の刺激を与えることで刺激の条件検討を行うことや、各ウェルに異なるサンプルを加え、同一条件の刺激を与えることでサンプル間の影響の違いを評価することが良く行われる。
【0005】
同一条件で刺激を与える場合、与える刺激はウェル間で均一にする必要があるが、刺激に超音波を用いる場合、振動子から発振される超音波音圧分布の不均一性や複数振動子を使用する場合の振動子間の個体差、マイクロプレートの形状や材質、振動子とマイクロプレート間の媒質の状態など様々な要因によりウェル内に伝播する超音波音場のばらつきが生じる。
【0006】
例えば、特許文献1に開示されたシステムでは、凹みをもった単一の超音波振動子から複数のチューブに同時に超音波処理を行うことで試験の効率化を図っているが、上記の通り、振動子から発振される超音波の音圧分布は均一ではないため、それぞれのチューブ内の音場にはばらつきが生じる可能性が高い。
【0007】
このような事例への対策として、特許文献2に開示されたシステムでは2つの振動子から発振される超音波が直行するように振動子を配置し、直行する領域にマイクロプレートを設置、さらに超音波処理中にプレートを周回移動することで各ウェルに処理される超音波エネルギーの平均化を図っている。このような手法をとることで、各ウェル内の音場のばらつきは低減できるが、プレート全体に同時に超音波を処理する構造であるため、ウェル個々に対して超音波処理することはできない。
【0008】
さらに特許文献3に開示されたシステムではマイクロプレートの個々のウェルに対応する数の振動子を配置し、個々のウェルに個々の振動子から超音波処理を行う機構であり、各振動子は個別に制御することが可能であるため、ウェルごとに超音波処理条件を変更することも可能である。さらにプレート上部からシーリング膜を介して超音波処理を行うことからプレートの形状や材質の影響も受けにくい。ただし、プレート上部から超音波処理を行う場合、ウェル内に空気層が存在すると超音波を反射してしまうため、ウェル内を溶液で満たす必要があり、液量が必要である。また、液量を抑えるためにプレート下部から超音波処理を行う場合は、プレートの底面形状や材質の影響を受けるため、ウェル内音場にばらつきが生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2014/139630号
【文献】国際公開第2012/017739号
【文献】国際公開第2019/003601号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の状況を鑑みてなされたものであって、少液量のサンプルを含む溶液が加えられたマイクロプレート内の個々のウェルに超音波処理が行えるシステムにおいて、各ウェルに処理される超音波エネルギーが均質になる機構を備えたものに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超音波処理装置は、マイクロプレートの1つのウェル内に収まる集束幅をもった1つまたは複数の集束超音波振動子と、1つまたは複数の超音波振動子を駆動させるための駆動電源と、前記集束超音波振動子の上部にマイクロプレートを設置するためのプレート設置部と、マイクロプレートを固定するためのプレート固定部と、超音波を伝播させるための媒体が入った処理槽とを備える装置であって、前記集束超音波振動子に対して水平方向に前記マイクロプレートを移動させる機構と、超音波処理中に前記マイクロプレートに対して前記集束超音波振動子を垂直方向に上下動させる機構を備えることを特徴とする超音波処理装置である。
【0012】
また本発明は、測定試料を充填した試料容器内に収まる集束幅をもった集束超音波振動子を備え、試料容器の底面から容器内の測定試料に超音波を照射する装置であり、超音波処理中に前記試料容器中の超音波集束位置を上下動させる振動子上下動機構を備えた超音波処理装置、特にマイクロプレートの1つのウェル内に収まる集束幅をもった1つまたは複数の集束超音波振動子を備え、マイクロウェルプレートマイクロプレートの底面からウェル内の測定試料に対してウェル毎に超音波を照射する装置であり、超音波処理中に前記ウェル中の超音波集束位置を上下動させる振動子上下動機構を備えた超音波処理装置を提供する。
【0013】
更に本発明は、測定試料を充填した試料容器内に収まる集束幅をもった集束超音波振動子を備え、試料容器の底面から容器内の測定試料に超音波を照射すると共に、超音波処理中に前記試料容器中の超音波集束位置を上下動させることを特徴とする超音波処理方法、特に、マイクロウェルプレートの1つのウェル内に収まる集束幅をもった集束超音波を、マイクロウェルプレートの底面からウェル内の測定試料に対してウェル毎に超音波を照射すると共に、超音波処理中に前記ウェル中の超音波集束位置を上下動させることを特徴とする超音波処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マイクロプレートの1つのウェル内に収まる集束幅をもった集束超音波振動子を有し、さらに前記マイクロプレートを前記集束超音波振動子に対して水平方向に移動させることで、単一の振動子で複数のウェルに対し超音波処理を行える。また、複数の振動子を備えることで、同時に複数ウェルの超音波処理が行えるため、評価の効率化につながる。さらに、各振動子を駆動させるための電気的パラメータを制御することで、各振動子を別々の超音波条件で駆動させる、あるいはマイクロプレートの超音波処理中に振動子を駆動させるための電気的パラメータを変化させることで、ウェル毎に異なる条件の超音波処理を行うことが可能である。加えて、超音波処理中に集束超音波振動子を上下動させることで、ウェル内の超音波集束領域も上下動するため、ウェル内音場が平均化され、振動子間の製造誤差、および/またはマイクロプレートの形状や材質によるウェル内に発生する音場のばらつきを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の超音波処理装置の断面概略図。
図2】本発明の超音波処理装置の上面概略図。
図3】本発明の超音波処理装置におけるマイクロプレート底面の空気除去機構を示す断面概略図。
図4】マイクロプレートに対する集束超音波の照射状態を示す模式図。
図5】本発明の超音波処理装置を用いた実験結果。
図6】本発明の超音波処理装置を用いた処理方法を示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る好ましい実施例である超音波処理装置を、図面を参照して説明する。
【0017】
[超音波処理装置]
図1~3を用いて、本発明の実施の形態に係る超音波処理装置の概略を説明する。本実施の形態に係る超音波処理装置1は、細胞やタンパク質、DNA、化合物などのサンプルを含む溶液に超音波処理を行うために用いられる。
【0018】
本実施の形態に係る超音波処理装置1は、マイクロプレート2の1つのウェル内に収まる集束幅をもった1つまたは複数の集束超音波振動子3と、1つまたは複数の超音波振動子を駆動させるための駆動電源4と、前記集束超音波振動子の上部にマイクロプレート2を設置するためのプレート設置部5と、マイクロプレート2を固定するためのプレート固定部6と、超音波を伝播させるための媒体が入った処理槽7と、前記集束超音波振動子に対して水平方向に前記マイクロプレート2を移動させるプレート移動機構8と、超音波処理中に前記マイクロプレート2に対して前記集束超音波振動子を垂直方向に上下動させる上下動機構9と、を備える。
【0019】
また、上記に加え、処理槽内の媒体の温度を任意の温度に保持する恒温機構10を備えても良く、前記マイクロプレート2の底面に混入した空気を排除するための空気除去機構11を備えても良い。
【0020】
本実施の形態において、マイクロプレート2は例えばポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)のようなプラスチック材料から作られる標準的なマイクロプレートのことを言う。本超音波処理装置で使用されるマイクロプレート2は、好ましくは、円筒平底のウェルで、96個のウェルが12行8列に配列されたマイクロプレートを使用すると良いが、ウェル数、配置、容量などはこれに限定されるものではない。マイクロプレートの底面には、超音波伝搬の障害となる空気層ができないように、ウェル全体を覆う底板を備えるのが好ましい。
【0021】
ウェル内には成分や濃度などが同一のサンプル溶液が入れられても良いし、異なる溶液が入れられても良い。また、溶液が超音波照射によりマイクロプレート2のウェルに含まれるサンプル溶液が飛散しないようにマイクロプレート2の上面にPPやPETのようなプラスチック材料、またはアルミニウムやシリコン、ポリオレフィン等で作られるシーリング膜を貼ると良い。
【0022】
本実施の形態において、集束超音波振動子3とは、例えば超音波処理面が凹面形状である圧電素子であり、図4に示すようにマイクロプレート2の1つのウェル内に照射した超音波が集束するように設計されている。超音波処理装置に備える集束超音波振動子3の数
は1つでも良いし、複数でも良い。複数本備えることで、複数のウェルに対して同時に超音波処理を行えるため、総超音波処理時間の削減につながり、評価の効率が向上する。
【0023】
照射する超音波がウェル底面から垂直方向にあたるようにマイクロプレート2はプレート設置部5に水平に設置し、プレート固定部6で固定すると共に、集束超音波振動子3は超音波処理面がプレート設置部5に対して水平になるように振動子固定部12に固定されている。
【0024】
本実施の形態において、超音波を駆動させるための駆動電源4とは超音波振動子に任意の電力を供給し、超音波振動子を発振させるためのものである。当該駆動電源は単一の振動子に電力を供給しても良いし、複数の振動子に同時に電力を供給しても良い。また、振動子に供給する電気的パラメータ(例えば、電圧、パルス幅、周波数など)は振動子毎に任意の値に制御することができ、1つのウェルへの超音波処理を行う度に変更しても良い。振動子に供給する電気的パラメータの制御により、振動子から処理される超音波の条件(音圧、周波数、パルス幅、繰り返し周波数、デューティサイクルなど)を制御できる。好ましくは、発振される超音波の周波数は100kHzから10MHzである。
【0025】
本実施の形態において処理槽7は集束超音波振動子3から発振される超音波のウェル内への伝播を妨げないよう媒質で満たされている。媒質とは例えば水であり、好ましくは脱気水であるが、これに限定されるものではない。脱気することで水の中に存在する溶存気体による超音波処理中の媒質中における気泡発生や、超音波エネルギーの減衰を低減することができるため、効率よくウェル内へ超音波を伝播させることができる。また、脱気状態を実験毎に合わせることでウェル内に伝播する超音波エネルギーのばらつきを低減できる。
【0026】
本実施の形態においてプレート固定部6は使用するマイクロプレート2に嵌合するように設計されており、プレート設置部5から垂直に伸びている位置決めピン13にはめ込むことで、プレート設置部5に水平にマイクロプレート2を設置することができる。マイクロプレート2の位置は処理層の水面以下になる位置とし、さらに、マイクロプレート設置後にマイクロプレート2が動かないように、プレート設置部5に対してプレート固定部6を押し付けるための押し付け力を付与する固定手段14を備えても良い。
【0027】
図1に示すように、プレート設置部5はプレート移動機構8に接続されている。プレート移動機構8とは、例えばステッピングモーターにより移動距離を制御できる自動XYステージである。ステッピングモーターコントローラによりモーターの回転数を制御することで、プレート設置部を水平面内の任意の位置に移動させることができる。プレート設置部の移動距離および待機時間を制御することで、マイクロプレート2の任意のウェルに任意の時間、超音波処理を行うことができる。例えば、プレート設置部5を一定の時間間隔でウェル間距離移動させると、各ウェルに同一時間の超音波処理を行うことができる。
【0028】
図2に示すように、振動子固定部12は振動子上下動機構9に接続されている。振動子上下動機構9は、例えばモーターの回転を上下方向の運動に変換できるようなカム機構である。超音波処理中にモーターに電力を供給することで、振動子固定部12が任意の距離を繰り返し上下動する。前記振動子上下機構は自動Zステージでも良い。また、振動子固定部またはプレート設置部は取り付ける振動子の集束距離に合わせて振動子とプレート間の距離を調整できる上下位置調整機構を備えても良い。さらに、複数の振動子を取り付ける場合、個々の振動子の集束距離に合わせて、振動子毎に上下方向の振動子取り付け位置が異なっていても良い。
【0029】
超音波を溶液中に照射すると液面で反射して照射波と反射波が重なり合い、定在波が発
生する。この定在波は波長の4分の1および4分の3でキャビテーションが発生する負圧が強くなるポイントが来ることから、溶液中でこのキャビテーション発生ポイントの数がそろうように、振動子の上下動範囲は波長の4分の1以上が望ましいが、これに限るものではない。例えば、照射する超音波の周波数が1MHzの場合、水中における波長は約1.5mmとなり、ウェル底面から6mmの高さまでサンプルを入れた場合、超音波の集束位置を3mmとし、±1.5mmの上下動するように設定することができる。96穴プレートのウェルの高さは一般に10mm程度であり、上下動の幅は固定値でも良いが、測定サンプルの液量によりウェル中のサンプルの高さが変わることから、液量高さに応じて上下動の幅を変更することが出来るのが望ましい。
【0030】
かかる上下動機構9により超音波処理中に集束超音波振動子3を上下動させることで、超音波の集束点(音圧が最も高い点)がウェル内の溶液内で上下動することで全体に行き渡り、かつサンプルに照射される超音波エネルギーは時間的に平均化されるため、溶液中に分散するサンプルが受ける超音波エネルギーのばらつきは低減される。
【0031】
本実施の形態においては、恒温機構10として、例えば温度制御機能を搭載したヒーターを搭載することが出来る。媒体温度はサンプルの状態(例えば、細胞活性など)やキャビテーションの発生に影響を受けるため、媒体温度を毎実験一定にすることで、実験間誤差を低減することができる。
【0032】
マイクロプレート2をプレート設置部5に固定する時、プレート底面に空気層が生じた場合には、媒体と空気の境界面で超音波が反射し、ウェル内に到達できる超音波エネルギーが非常に小さくなる。本願発明の超音波処理装置の態様では、図3に示すように、空気除去機構11として、排気ポンプを備える。排気ポンプは、例えばマイクロプレート底面の周囲にある溝15から空気除去ピン16を介してプレート底面に混入した空気を吸引除去することができる。
【0033】
また、空気除去機構11には空気除去ピン16を介してマイクロプレート底面に空気を送る給気ポンプを備えても良い。空気除去ピン16はプレート底面の周囲に配置されているため、例えばプレート底面中央部のみに空気が混入している場合は、その空気を除去することができない。そのような場合、給気ポンプによりマイクロプレート底面に空気を送ることで、一度プレート底面全面を空気で満たすことで、プレート底面の周囲に配置されている空気除去ピンから排気ポンプによりプレート底面の空気を除去することができるようになる。
【0034】
図5に各ウェルに同一条件の活性酸素検出試薬(H2DCFDA)を含む溶液を入れた96穴プレートに本発明の実施の形態に係る超音波処理装置を使用して、超音波処理を行った結果を示す。H2DCFDAを使用することで、溶液への超音波処理に伴うキャビテーションにより発生する活性酸素を検出できるため、各ウェルに対するキャビテーション発生量を間接的に示すことができる。図5に示す通り、上下動機構を使用することで、エラーバーが示すウェル間およびプレート間の活性酸素発生量のばらつきが低減できることを示唆している。
【0035】
上述のとおり、図1から図3には、試料容器としてマイクロプレートを用い、超音波振動子に対して水平方向にマイクロプレートを移動させるプレート移動機構、振動子上下動機構を備え、超音波処理中に各ウェル中での超音波集束位置を上下動させる超音波処理装置の態様例を示したが、本発明は、かかる水平方向のプレート移動機構を備えない超音波処理装置にも適用可能である。
【0036】
また、マイクロプレート以外の他の試料容器を用いることができ、測定試料を充填した
試料容器内に収まる集束幅をもった集束超音波振動子を備え、試料容器の底面から容器内の測定試料に超音波を照射すると共に、超音波処理中に前記試料容器中の超音波集束位置を上下動させる振動子上下動機構を備えた超音波処理装置にも適用可能である。
【0037】
[サンプル溶液の超音波処理方法]
以下、図6を参照して本発明によるサンプル溶液の超音波処理方法の実施形態を説明する。
【0038】
まず、ステップS1に示すように、複数のウェルにサンプル溶液が入れられたマイクロプレートを用意する。サンプル溶液が入れられたマイクロプレート上部には超音波照射中にサンプル溶液が飛散しないよう、シーリング膜を貼付すると良い。
【0039】
次いで、ステップS2、ステップS3に示すように、サンプル溶液が入れられたマイクロプレートを超音波処理装置に設置すると共に、マイクロプレート底面に空気が混入した場合には、混入した空気を空気除去機構により除去する。
【0040】
そして、ステップS4に示すように、サンプル溶液の入ったマイクロプレートに対して、超音波処理を開始する。使用する超音波振動子によっては、照射される超音波の音圧が安定するまでに時間を要するものもあるため、そのような場合は、サンプル溶液の入っていないウェル、あるいはマイクロプレートの外側に対して予備照射を行い、音圧の安定化待ちの時間を設けても良い。超音波照射を開始するタイミングで、超音波振動子の上下動を開始する。予備照射を設ける場合は予備照射中に上下動を開始しても良い。
【0041】
超音波照射開始後は、マイクロプレートがプレート移動機構により移動することで、ウェルごとに超音波処理を行うことができる。この際、ウェルごとに照射される超音波条件は試験条件により決定し、同一でも良いし、異なっても良い。プレートの移動距離は任意に設定することができるため、例えば1ウェルごとに移動させることもできるし、1ウェルおきに移動させることで超音波処理をしないウェルを設定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、細胞やDNA、タンパク質、化合物を含む様々なサンプル溶液にばらつきの少ない超音波処理を行うことができるため、超音波により細胞等におこる現象の解明や超音波により活性化する化合物のスクリーニングなどに利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 超音波処理装置
2 マイクロプレート
3 集束超音波振動子
4 駆動電源
5 プレート設置部
6 プレート固定部
7 処理槽
8 プレート移動機構
9 上下動機構
10 恒温機構
11 空気除去機構
12 振動子固定部
13 位置決めピン
14 固定手段
15 溝
16 空気除去ピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6