(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】デジタルFM変調装置
(51)【国際特許分類】
H03C 3/09 20060101AFI20240514BHJP
H03C 3/00 20060101ALI20240514BHJP
H04L 27/12 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H03C3/09
H03C3/00 A
H04L27/12 A
(21)【出願番号】P 2020206676
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】西脇 裕人
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-048338(JP,A)
【文献】特開平06-104648(JP,A)
【文献】特開昭62-266903(JP,A)
【文献】特開平09-321542(JP,A)
【文献】特開平06-037818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03C 3/00ー 7/04
H04L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数偏移幅を示す周波数偏移幅データと予め定められた定数を示す定数データとが入力し、入力した前記周波数偏移幅データ及び前記定数データを乗算した結果を変換係数データとして出力する第1乗算回路と、
前記周波数偏移幅に対応する被変調波データと前記変換係数データとが入力し、入力した前記被変調波データ及び前記変換係数データを乗算した結果を補正後被変調波データとして出力する第2乗算回路と、
前記補正後被変調波データが入力したことに応じて、搬送波を前記周波数偏移幅に対応してFM変調させたFM変調信号を出力するダイレクト・デジタル・シンセサイザ(DDS)と
を備え
、
予め定められた前記定数をGとすると、前記定数Gは、前記DDSが有する正弦波テーブルの最大の振幅値Vmaxと、前記DDSが出力する前記FM変調信号の周波数の設定精度Fpとを用いて、次式によって算出され、
前記FM変調信号の周波数の設定精度Fpは、前記DDSの正弦波テーブルのアドレス数を前記DDSのシステムクロック数で除算した値である、
デジタルFM変調装置。
【請求項2】
変調信号が入力し、入力した変調信号をデジタル信号に変換して出力するAD変換器と、
前記AD変換器が出力する前記デジタル信号と前記周波数偏移幅データとが入力し、入力した前記デジタル信号及び前記周波数偏移幅データを乗算した結果を変調波データとして出力する第3乗算回路と、
前記第3乗算回路が出力する前記変調波データと加算データとが入力し、入力した前記変調波データ及び前記加算データを加算した結果を前記被変調波データとして出力する加算回路と
を更に備える、
請求項1
に記載のデジタルFM変調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルFM変調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイレクト・デジタル・シンセサイザ(DDS)に被変調波データを供給して、搬送波を被変調波データが示す周波数偏移幅だけFM変調させるデジタルFM変調装置が知られている(例えば、特許文献1および2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開1996-307365号公報
【文献】特開1993-145343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなデジタルFM変調装置は、設定した周波数偏移幅に応じて搬送波をFM変調できるが、搬送波の中心周波数も変化してしまうことがあった。従来は、周波数偏移幅の設定値に対応する中心周波数の補正値を含むテーブルを予め準備し、テーブルを参照することにより、DDSに供給する被変調波データを補正していた。この場合、周波数偏移幅の設定値ごとに、大量の補正値を用意しなければならず、大容量の記憶素子等が必要になっていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、中心周波数の補正値を記憶素子に記憶させておくことなく、デジタルFM変調装置が出力するFM変調信号の中心周波数の変動を低減させるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、周波数偏移幅を示す周波数偏移幅データと予め定められた定数を示す定数データとが入力し、入力した前記周波数偏移幅データ及び前記定数データを乗算した結果を変換係数データとして出力する第1乗算回路と、前記周波数偏移幅に対応する被変調波データと前記変換係数データとが入力し、入力した前記被変調波データ及び前記変換係数データを乗算した結果を補正後被変調波データとして出力する第2乗算回路と、前記補正後被変調波データが入力したことに応じて、搬送波を前記周波数偏移幅に対応してFM変調させたFM変調信号を出力するダイレクト・デジタル・シンセサイザ(DDS)とを備える、デジタルFM変調装置を提供する。
【0007】
予め定められた前記定数をGとすると、前記定数Gは、前記DDSが有する正弦波テーブルの最大の振幅値Vmaxと、前記DDSが出力する前記FM変調信号の周波数の設定精度Fpとを用いて、次式によって算出されてもよい。
【0008】
前記FM変調信号の周波数の設定精度Fpは、前記DDSの正弦波テーブルのアドレス数を前記DDSのシステムクロック数で除算した値であってもよい。
【0009】
変調信号が入力し、入力した変調信号をデジタル信号に変換して出力するAD変換器と、前記AD変換器が出力する前記デジタル信号と前記周波数偏移幅データとが入力し、入力した前記デジタル信号及び前記周波数偏移幅データを乗算した結果を変調波データとして出力する第3乗算回路と、前記第3乗算回路が出力する前記変調波データと加算データとが入力し、入力した前記変調波データ及び前記加算データを加算した結果を前記被変調波データとして出力する加算回路とを更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中心周波数の補正値を記憶素子に記憶させておくことなく、デジタルFM変調装置が出力するFM変調波の中心周波数の変動を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るデジタルFM変調装置10の構成例を示す。
【
図2】本実施形態に係るデジタルFM変調装置10の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<デジタルFM変調装置10の構成例>
図1は、本実施形態に係るデジタルFM変調装置10の構成例を示す。デジタルFM変調装置10は、搬送波の中心周波数の変動を低減させつつ、設定された周波数偏移幅のFM変調信号を出力する。デジタルFM変調装置10は、入力端子110と、基準信号源120と、DDS130と、制御部140と、第1乗算回路150と、第2乗算回路160と、出力端子170とを備える。
【0013】
入力端子110には、搬送波の周波数を変調させる(FM変調させる)ための被変調波データが入力する。入力端子110は、コネクタ等が設けられていてもよく、これに代えて、外部の回路と電気的に接続するための電極、配線等であってもよい。被変調波データは、例えば、所定の周波数のアナログ信号をデジタルデータに変換したデータである。ここで、被変調波データの振幅値は、搬送波をFM変調させた場合の周波数偏移幅に相当する。
【0014】
基準信号源120は、所定の周波数の基準信号を出力する。基準信号源120は、DDS130のシステムクロックである。基準信号源120は、周波数可変の信号源であってもよい。
【0015】
DDS130は、基準信号源120が出力する基準信号の周波数を基準として動作し、設定された波形及び周波数の信号を出力する。DDS130の動作については既知なので、ここでは詳細な動作の説明を省略する。
【0016】
このようなDDS130を用いてFM変調信号を出力させる場合、一般的には、被変調波データをDDS130に入力する。そして、DDS130は、入力した被変調波データを基準信号の周期ごとに積分し、積分した結果を位相量とした信号を出力する。この場合、DDS130は、被変調波データが示す被変調波の直流成分に対応する中心周波数の搬送波を、被変調波データの振幅値に対応する周波数偏移幅でFM変調させたFM変調信号を出力する。
【0017】
FM変調信号の周波数スペクトルは、搬送波の中心周波数をfc、周波数偏移幅をfsとすると、ピーク周波数がfc、fc-fs、およびfc+fsとなる3つの周波数成分を有する。しかしながら、DDS130は、被変調波データの周波数偏移幅fsの大きさに応じて、搬送波の中心周波数fcが変動してしまうことがあった。
【0018】
この場合、従来のFM変調器は、周波数偏移幅、システムクロック等に対応して補正するための補正値データを予め準備してROM等に記憶させていた。そして、周波数偏移幅、システムクロック等を変更するごとに、対応する補正値データをROMから読み出して被変調波データに反映させてから、被変調波データをDDS130に供給していた(詳細は引用文献1等を参照)。したがって、従来は、例えば、FM変調器が実際に出力する信号の中心周波数と設定した中心周波数の誤差を、設定可能な設定値ごとに測定しなければならなかった。
【0019】
これに対し、本実施形態に係るデジタルFM変調装置10は、誤差の要因を把握して、被変調波データを補正する変換係数を算出する回路を設けることにより、記憶素子に補正値データを記憶させることなく、DDS130が出力する搬送波の中心周波数を安定化させる。具体的には、デジタルFM変調装置10は、被変調波データと変換係数とを乗算することにより補正後被変調波データを生成し、生成した補正後被変調波データをDDS130に供給する。そして、DDS130は、補正後被変調波データが入力したことに応じて、搬送波を周波数偏移幅に対応してFM変調させたFM変調信号を出力する。補正後被変調波データは、制御部140、第1乗算回路150、及び第2乗算回路160によって生成される。
【0020】
制御部140は、定数データ及び周波数偏移幅データを第1乗算回路150に供給する。定数データは、予め定められた定数を示す。制御部140は、例えば、定数データを記憶している記憶部142を有する。この場合、制御部140は、記憶部142から定数データを読み出して第1乗算回路150に供給する。制御部140は、CPU等のプロセッサを有してもよい。この場合、記憶部142は、CPUが実行するプログラムの情報を格納してもよい。記憶部142は、当該プログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してもよい。
【0021】
また、制御部140は、ユーザ等により設定された周波数偏移幅データを第1乗算回路150に供給する。周波数偏移幅データは、被変調波データの振幅値である周波数偏移幅を示す。制御部140は、例えば、外部回路、入力デバイス等から入力された周波数偏移幅データを受け取り、受け取った周波数偏移幅データを第1乗算回路150に供給する。また、周波数偏移幅データが記憶部142に記憶されている場合、制御部140は、記憶部142から周波数偏移幅データを読み出して第1乗算回路150に供給してもよい。
【0022】
第1乗算回路150には、周波数偏移幅を示す周波数偏移幅データと予め定められた定数を示す定数データとが入力し、第1乗算回路150は、入力した周波数偏移幅データ及び定数データを乗算した結果を変換係数データとして出力する。変換係数データは、被変調波データを補正するための変換係数を示す。ここで、予め定められた定数をG、変換係数をKとし、周波数偏移幅をfsとする。この場合、K=G・fsとなる。
【0023】
第2乗算回路160には、周波数偏移幅に対応する被変調波データと変換係数データとが入力し、第2乗算回路160は、入力した被変調波データ及び変換係数データを乗算した結果を補正後被変調波データとして出力する。第2乗算回路160は、被変調波データに変換係数Kを乗算することにより、被変調波データを補正した補正後被変調波データを生成してDDS130に供給する。
【0024】
ここで、発明者らは、DDS130が出力する搬送波の中心周波数は、周波数偏移幅、DDS130の周波数設定精度、DDS130が有する正弦波テーブルの最大の振幅値に基づいて変動する傾向にあることを見いだした。そして、被変調波データに設定した周波数偏移幅の大きさに比例して被変調波データを補正する変換係数の値を大きくすることで、このような変動の傾向を低減できることがわかった。また、この場合の比例係数をDDS130の周波数設定精度と正弦波テーブルの最大の振幅値との積の逆数にすればよいこともわかった。
【0025】
言い換えると、次式のように算出した変換係数Kを用いて被変調波データを補正することで、このような中心周波数の変動を低減できることがわかった。なお、DDS130が有する正弦波テーブルの最大の振幅値をVmax、DDS130の周波数設定精度をFpとした。
【数1】
【0026】
そこで、予め定められた定数Gは、DDSが有する正弦波テーブルの最大の振幅値Vmaxと、DDS130が出力するFM変調信号の周波数の設定精度Fpとを用いて、次式のように算出すればよい。なお、DDS130のFM変調信号の周波数の設定精度Fpは、DDS130の正弦波テーブルのアドレス数をDDS130のシステムクロック数で除算した値である。
【数2】
【0027】
言い換えると、(数2)式のように定数Gを予め定めることにより、第1乗算回路150は、(数1)式の変換係数Kを示す変換係数データを出力できる。そして、第2乗算回路160は、(数1)式の変換係数Kを被変調波データに乗算して補正した補正後被変調波データを生成できる。これにより、DDS130は、中心周波数の変動を低減させたFM変調信号を出力できる。
【0028】
出力端子170は、DDS130が出力するFM変調信号をデジタルFM変調装置10の出力として外部に出力する。出力端子170は、コネクタ等が設けられていてもよく、これに代えて、外部の回路と電気的に接続するための電極、配線等であってもよい。
【0029】
なお、(数1)式に基づく変換係数Kは、周波数偏移幅fsに対応して算出される。したがって、ユーザ等により周波数偏移幅fsの設定が変更されても、デジタルFM変調装置10は、対応する補正後被変調波データを生成することができ、変更された設定に対応して、中心周波数の変動を低減させたFM変調信号を出力できる。また、DDS130の周波数設定精度Fpは、システムクロック数に応じて算出される。したがって、ユーザ等によりシステムクロック数の設定が変更されても、デジタルFM変調装置10は、対応する補正後被変調波データを生成することができ、中心周波数の変動を低減させたFM変調信号を出力できる。
【0030】
以上のように、本実施形態に係るデジタルFM変調装置10は、乗算回路を用いて被変調波データを補正した補正後被変調波データを生成する。したがって、デジタルFM変調装置10は、予め中心周波数を補正するための補正値を準備しなくてもよく、補正値を記憶するための記憶領域を不要とすることができる。
【0031】
以上の本実施形態に係るデジタルFM変調装置10は、入力した被変調波データに応じてFM変調信号を出力する例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、デジタルFM変調装置10に変調信号が入力し、デジタルFM変調装置10は、入力した変調信号に基づいて被変調波データを生成してもよい。このようなデジタルFM変調装置10について次に説明する。
【0032】
<デジタルFM変調装置10の変形例>
図2は、本実施形態に係るデジタルFM変調装置10の変形例を示す。本変形例のデジタルFM変調装置10において、
図1に示された本実施形態に係るデジタルFM変調装置10の動作と略同一のものには同一の符号を付け、重複する説明を省略する。本変形例のデジタルFM変調装置10の入力端子110には、変調信号が入力する。変調信号は、例えば、発振器210が出力する所定の周波数の正弦波信号である。デジタルFM変調装置10は、AD変換器220と、第3乗算回路230と、加算回路240とを更に備える。
【0033】
AD変換器220は、変調信号が入力し、入力した変調信号をデジタル信号に変換して出力する。第3乗算回路230は、AD変換器220が出力するデジタル信号と周波数偏移幅データとが入力し、入力したデジタル信号及び周波数偏移幅データを乗算した結果を変調波データとして出力する。第3乗算回路230は、例えば、制御部140から周波数偏移幅データを受け取る。
【0034】
加算回路240は、第3乗算回路230が出力する変調波データと加算データとが入力し、入力した変調波データ及び加算データを加算した結果を被変調波データとして出力する。加算回路240は、例えば、制御部140から加算データを受け取る。加算回路240は、生成した被変調波データを第2乗算回路160に供給する。
【0035】
言い換えると、制御部140は、周波数偏移幅を示す周波数偏移幅データを第3乗算回路230に供給して、デジタルFM変調装置10が出力するFM変調信号の最大周波数偏移の大きさを設定する。また、制御部140は、中心周波数に対応する加算データを加算回路240に供給して、デジタルFM変調装置10が出力するFM変調信号の中心周波数を設定する。第3乗算回路230及び加算回路240は、設定された周波数偏移幅及び中心周波数に対応する被変調波データを生成する。
【0036】
デジタルFM変調装置10は、このように生成された被変調波データに変換係数データを乗算して補正後被変調波データとしてからDDS130に供給して、FM変調信号を出力する。このように、本変形例のデジタルFM変調装置10は、周波数偏移幅及び中心周波数が設定可能な装置として動作できる。
【0037】
以上のように、デジタルFM変調装置10は制御部140が、周波数偏移幅データ及び定数データを出力する例を説明したが、これに限定されることはない。周波数偏移幅データ及び定数データは、デジタルFM変調装置10の外部から供給されてもよい。この場合、デジタルFM変調装置10は制御部140が無くてもよい。
【0038】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0039】
10 デジタルFM変調装置
110 入力端子
120 基準信号源
130 DDS
140 制御部
142 記憶部
150 第1乗算回路
160 第2乗算回路
170 出力端子
210 発振器
220 AD変換器
230 第3乗算回路
240 加算回路