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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】腎臓の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20240514BHJP
   A01K 67/027 20240101ALI20240514BHJP
   A61K 31/138 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 31/65 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 35/22 20150101ALI20240514BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240514BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240514BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240514BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C12N5/074
A01K67/027
A61K31/138
A61K31/522
A61K31/65
A61K31/706
A61K35/22
A61K38/16
A61L27/36 100
A61L27/38 100
A61L27/54
A61P13/12
A61P43/00 121
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020209594
(22)【出願日】2020-12-17
(62)【分割の表示】P 2018525009の分割
【原出願日】2017-06-08
(65)【公開番号】P2021045169
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2020-12-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2016129393
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514325240
【氏名又は名称】横尾 隆
(73)【特許権者】
【識別番号】506316281
【氏名又は名称】株式会社TESホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】横尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】山中 修一郎
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】藤井 美穂
【審判官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098620(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C12N1/00-7/08
A01K67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト哺乳動物(但し、マウスを除く。)の発生途中の後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する工程(i)と、
前記後腎に前記非ヒト哺乳動物と同種他家又は異種である非ヒト哺乳動物由来の腎臓前駆細胞を移植する工程(ii)と、
前記後腎の発生を進行させる工程であって、移植した前記腎臓前駆細胞が分化成熟し、腎臓の一部を形成する工程(iii)と、
を備える、腎臓の製造方法。
【請求項2】
前記工程(i)~(iii)の前又は後に、
前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去する工程(iv)と、
前記後腎に前記非ヒト哺乳動物と同種他家又は異種である非ヒト哺乳動物由来の腎臓前駆細胞を移植する工程(v)と、
を更に備える、請求項1に記載の腎臓の製造方法。
【請求項3】
前記腎臓前駆細胞がネコ細胞である、請求項1又は2に記載の腎臓の製造方法。
【請求項4】
前記非ヒト哺乳動物がブタである、請求項1~3のいずれか一項に記載の腎臓の製造方法。
【請求項5】
前記非ヒト哺乳動物がネコである、請求項1~3のいずれか一項に記載の腎臓の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法により製造され、前記非ヒト哺乳動物由来の細胞と、前記非ヒト哺乳動物と同種他家又は異種である非ヒト哺乳動物由来の細胞とを含み、前記非ヒト哺乳動物と同種他家又は異種である非ヒト哺乳動物由来の前記細胞の割合が70~99質量%である、腎臓。
【請求項7】
前記非ヒト哺乳動物と同種他家又は異種である非ヒト哺乳動物由来の前記細胞がネコ細胞である、請求項に記載の腎臓。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の腎臓を有する非ヒト哺乳動物。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の腎臓と、尿管と、膀胱とを備える移植用臓器。
【請求項10】
前記尿管及び前記膀胱が前記非ヒト哺乳動物由来である、請求項に記載の移植用臓器。
【請求項11】
非ヒト哺乳動物の発生途中の後腎と、前記後腎の後腎間葉を組織特異的に除去するための第1の薬剤と、前記非ヒト哺乳動物と同種他家又は異種である非ヒト哺乳動物由来の腎臓前駆細胞とを備え、前記第1の薬剤が、ジフテリア毒素、タモキシフェン、タクロリムス、ドキシサイクリン、テトラサイクリン又はガンシクロビルを含む、腎臓製造用キット。
【請求項12】
前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去するための第2の薬剤を更に備え、前記第2の薬剤が、ジフテリア毒素、タモキシフェン、タクロリムス、ドキシサイクリン、テトラサイクリン又はガンシクロビルを含む、請求項11に記載の腎臓製造用キット。
【請求項13】
非ヒト哺乳動物の発生途中の後腎と、前記後腎の後腎間葉を組織特異的に除去するための第1の薬剤と、非ヒト哺乳動物由来の腎臓前駆細胞とを備え、前記第1の薬剤が、ジフテリア毒素、タモキシフェン、タクロリムス、ドキシサイクリン、テトラサイクリン又はガンシクロビルを含む、腎臓再生用医薬。
【請求項14】
前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去するための第2の薬剤を更に備え、前記第2の薬剤が、ジフテリア毒素、タモキシフェン、タクロリムス、ドキシサイクリン、テトラサイクリン又はガンシクロビルを含む、請求項13に記載の腎臓再生用医薬。
【請求項15】
請求項又は10に記載の移植用臓器を患畜の体内に移植する工程と、移植から所定期間後に、上記移植用臓器の膀胱と、患畜の尿管とを接続する工程と、を備える、腎臓の移植方法。
【請求項16】
非ヒト哺乳動物の発生途中の後腎及び総排出腔を患畜の体内に移植する工程と、前記後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する工程と、前記後腎に腎臓前駆細胞を移植する工程であって、移植した前記腎臓前駆細胞が分化成熟して腎臓の一部を形成し、前記総排出腔が分化成熟して膀胱を形成し、当該膀胱は尿管を介して前記腎臓と接続している工程と、前記腎臓前駆細胞の移植から所定期間後に、前記膀胱と、患畜の尿管とを接続する工程と、を備える、腎疾患の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓の製造方法に関する。より詳細には、腎臓の製造方法、腎臓、非ヒト動物、移植用臓器、腎臓製造用キット、腎臓再生用医薬、腎臓の移植方法及び腎疾患の治療方法に関する。本願は、2016年6月29日に、日本に出願された特願2016-129393号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
高齢化や適応疾患の拡大等により、人工透析患者は急速に増加している。透析医療によりこれらの患者を救命することは可能であるが、人工透析では全ての腎機能を代償できないため、患者の心血管疾患が増加し、致死率が上昇してしまう傾向にある。また、透析患者の時間的負担や精神的負担は非常に大きく、社会復帰が困難な場合も多い。
【0003】
また、腎臓移植を必要とする末期腎不全の患者は世界に約2百万人存在しており、ドナー臓器の不足から、その数は更に増加する傾向にある。したがって、末期腎不全は医療上の重大な問題である。
【0004】
現在、iPS細胞/ES細胞等の多能性幹細胞から様々な組織特異的な前駆細胞又は組織幹細胞の誘導が可能となっている(例えば非特許文献1を参照)。しかしながら、例えば腎臓は、自己修復能が低い臓器であり、腎機能は多種類の細胞から構成される複雑な構造に依存している。このため、現在、腎臓前駆細胞から複雑な3次元構造を有する腎臓の再生には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Takasato M, et al., Directing human embryonic stem cell differentiation towards a renal lineage generates a self-organizing kidney, Nat. Cell Biol., 16 (1), 118-126, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、腎臓前駆細胞から腎臓を作製する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
(1)非ヒト動物の後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する工程と、前記後腎に前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植する工程と、前記後腎の発生を進行させる工程であって、移植した前記腎臓前駆細胞が分化成熟し、腎臓の一部を形成する工程と、を備える、腎臓の製造方法。
(2)前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去する工程と、前記後腎に前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植する工程と、を更に備える、(1)に記載の腎臓の製造方法。
(3)前記腎臓前駆細胞がネコ細胞である、(1)又は(2)に記載の腎臓の製造方法。
(4)前記非ヒト動物がブタである、(1)~(3)のいずれかに記載の腎臓の製造方法。
(5)前記非ヒト動物がマウスである、(1)~(3)のいずれかに記載の腎臓の製造方法。
(6)前記非ヒト動物がネコである、(1)~(3)のいずれかに記載の腎臓の製造方法。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法により製造された、腎臓。
(8)非ヒト動物由来の細胞と、前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の細胞とを含み、前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の前記細胞の割合が70質量%以上である、腎臓。
(9)前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の前記細胞がネコ細胞である、(8)に記載の腎臓。
(10)(7)~(9)のいずれか一項に記載の腎臓を有する非ヒト動物。
(11)(7)~(9)のいずれかに記載の腎臓と、尿管と、膀胱とを備える移植用臓器。
(12)前記尿管及び前記膀胱が前記非ヒト動物由来である、(11)に記載の移植用臓器。
(13)非ヒト動物の後腎と、前記後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する薬剤と、前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞とを備える、腎臓製造用キット。
(14)前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去する薬剤を更に備える、(13)に記載の腎臓製造用キット。
(15)非ヒト動物の後腎と、前記後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する薬剤と、非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞とを備える、腎臓再生用医薬。
(16)前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去する薬剤を更に備える、(15)に記載の腎臓再生用医薬。
(17)(11)又は(12)に記載の移植用臓器を患畜の体内に移植する工程と、移植から所定期間後に、上記移植用臓器の膀胱と、患畜の尿管とを接続する工程と、を備える、腎臓の移植方法。
(18)非ヒト動物の後腎及び総排出腔を患畜の体内に移植する工程と、前記後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する工程と、前記後腎に腎臓前駆細胞を移植する工程であって、移植した前記腎臓前駆細胞が分化成熟して腎臓の一部を形成し、前記総排出腔が分化成熟して膀胱を形成し、当該膀胱は尿管を介して前記腎臓と接続している工程と、前記腎臓前駆細胞の移植から所定期間後に、前記膀胱と、患畜の尿管とを接続する工程(b)と、を備える、腎疾患の治療方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、腎臓前駆細胞から腎臓を作製する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】胎生11日前後のマウスの胎仔を示す模式図である。
図2】(a)~(c)は、腎臓が発生する様子を説明する模式図である。
図3】実験例3における腎臓組織標本の免疫染色の結果を示す写真である。
図4】実験例4における腎臓組織標本の免疫染色の結果を示す写真である。
図5】(a)及び(b)は、実験例5においてマウスの体内で再生した腎臓を撮影した写真である。
図6】(a)及び(b)は、実験例5においてマウスの体内で再生した腎臓の組織切片標本の顕微鏡写真である。
図7】(a)~(c)は、実験例6における後腎の組織標本の免疫染色の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[腎臓の製造方法]
図1は、胎生11日前後のマウスの胎仔を示す模式図である。腎臓は前腎、中腎、後腎の3段階を経て形成される。このうち、前腎及び中腎は後に退行変性する。哺乳類成体において機能する腎臓は後腎である。
【0011】
図1に示すように、腎臓は、尿管芽とその周囲の後腎間葉との相互作用によって形成される。尿管芽は集合管から尿管までを構成し、後腎間葉に含まれるネフロン前駆細胞は糸球体及び尿細管の起源となる。本明細書では、尿管芽及び後腎間葉を含む腎発生領域を腎発生ニッチという。
【0012】
1実施形態において、本発明は、非ヒト動物の後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する工程(i)と、前記後腎に前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植する工程(ii)と、前記後腎の発生を進行させる工程であって、移植した前記腎臓前駆細胞が分化成熟し、腎臓の一部を形成する工程(iii)と、を備える、腎臓の製造方法を提供する。
【0013】
従来、腎発生ニッチへの細胞移植は非常に定着効率が悪かった。これに対し、実施例において後述するように、本実施形態の製造方法によれば、移植した腎臓前駆細胞を高い効率で生着させることができる。更に、移植した腎臓前駆細胞が、ホストの発生プログラムを引き継ぎ、複雑な分化誘導を自律的に進めて腎臓の一部を形成することができる。
【0014】
本実施形態の腎臓の製造方法について、図2を参照しながらより詳細に説明する。図2(a)~(c)は、腎臓が発生する様子を説明する模式図である。これらのうち、図2(a)が本実施形態の腎臓の製造方法に対応する。
【0015】
図2(a)では、非ヒト動物の胚の初期腎臓の後腎間葉を除去薬剤の添加により除去する。これにより、ホスト由来の腎幹細胞が存在しない状態、すなわち、ニッチが空いた状態となる。続いて、この腎発生ニッチに新たな腎臓前駆細胞(腎幹細胞)を移植する。すると、移植した腎臓前駆細胞が定着し、ホストの発生プログラムを引き継いで腎臓の発生を進行させる。その結果、移植した腎臓前駆細胞により腎臓が再生される。
【0016】
一方、図2(b)では、非ヒト動物の胚の初期腎臓の後腎間葉を除去薬剤の添加により除去する。これにより、ホスト由来の腎幹細胞が存在しない状態、すなわち、ニッチが空いた状態となる。図2(b)においては、新たな腎臓前駆細胞の移植は行わない。この状態で腎臓の発生を進行させても、腎臓は退縮してしまう。
【0017】
また、図2(c)では、非ヒト動物の胚の初期腎臓の後腎間葉に、ホスト由来の腎幹細胞を残存させたまま、新たな腎臓前駆細胞を移植している。しかしながら、腎発生ニッチを占有しているホスト由来の既存の細胞による競合が強く、移植した腎臓前駆細胞は定着しない。その結果、ホスト由来の細胞から構成される腎臓が形成される。
【0018】
以下、本実施形態の腎臓の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0019】
(工程(i))
本工程では、非ヒト動物の胚の後腎間葉を組織特異的に除去する。非ヒト動物としては、特に制限はなく、例えば、ブタであってもよい。ブタは臓器の大きさがヒト等への移植に適しており、遺伝子改変技術も確立されている。あるいは、非ヒト動物はマウスであってもよい。マウスは、遺伝子改変技術や様々な実験系が確立されているため利用しやすい。あるいは、非ヒト動物はネコであってもよい。ネコは、ペットとして最も一般的な動物の1種であるが、慢性腎疾患の罹患率が非常に高い動物である。例えば、ネコの死因の約30%が慢性腎不全であり、ネコの50%以上が腎機能の低下が原因で死亡したり安楽死させられているという報告もある。このようなことから、腎疾患に罹患したネコの延命技術の1つとして、潜在的に腎臓移植の需要がある。
【0020】
後腎間葉の組織特異的な除去は、後腎間葉を組織特異的に除去することができる限り特に制限されず、例えば、遺伝子組換え技術を使用して行うことができる。
【0021】
後腎間葉を組織特異的に除去するより具体的な方法を、マウスの系を例に説明する。後腎間葉を組織特異的に除去する方法として、例えば、Creリコンビナーゼ活性依存的にジフテリア毒素受容体(DTR)を発現するiDTRマウスと、Six2のプロモーターの下流にCreリコンビナーゼ遺伝子を導入したSix2-Creマウスとを交配し、得られた子孫の後腎組織にジフテリア毒素を接触させることが挙げられる。
【0022】
iDTRマウスは、ジフテリア毒素受容体をコードする遺伝子の上流に2つのloxP配列で挟まれた転写停止配列を有している。このため、そのままではジフテリア毒素受容体を発現しない。しかしながら、Creリコンビナーゼにより、2つのloxP配列で挟まれた転写停止配列が除去されると、ジフテリア毒素受容体を発現するようになる。
【0023】
マウスはジフテリア毒素受容体を有しないため、本来、ジフテリア毒素をマウスの細胞に接触させても細胞が死滅することはない。しかしながら、ジフテリア毒素受容体を発現させたマウスの細胞にジフテリア毒素を接触させると死滅することが知られている。上記の例ではこの現象を利用している。
【0024】
まず、iDTRマウスと後腎間葉特異的にCreリコンビナーゼを発現するSix2-Creマウスとを交配すると、得られた子孫の中に後腎組織で組織特異的にジフテリア毒素受容体を発現するマウスが出現する。なお、Six2は、後腎間葉で特異的に発現する転写因子である。
【0025】
続いて、上記のマウスの後腎にジフテリア毒素を接触させると、後腎間葉特異的に細胞を死滅させ、後腎間葉を組織特異的に除去することができる。すなわち、腎発生ニッチを空けることができる。
【0026】
ジフテリア毒素の接触は、親マウス又はマウスの胎仔にジフテリア毒素を注射すること等により行ってもよい。あるいは、マウスの胎仔から後腎を摘出し、摘出した後腎を器官培養し、その培地中にジフテリア毒素を添加すること等により行ってもよい。あるいは、摘出した後腎を患畜の傍大動脈領域や体網に移植し、患畜の体内において、ジフテリア毒素を局所投与すること等により行ってもよい。本明細書において、患畜としては、例えば、ネコ、イヌ、ウマ(特に競馬ウマ)、サル、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、マウス等が挙げられる。
【0027】
上述した方法は、後腎間葉を組織特異的に除去する方法の1つであり、マウスに限らずあらゆる非ヒト動物に適用することができる。
【0028】
(工程(ii))
続いて、本工程において、後腎に前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植する。工程(i)及び工程(ii)は並行して実施してもよい。すなわち、ニッチを空ける時期と、腎臓前駆細胞を移植する時期は重なっていてもよい。例えば、除去薬剤の添加と腎臓前駆細胞の移植を同時に実施してもよい。
【0029】
腎臓前駆細胞としては、例えば、哺乳動物由来の間葉系幹細胞(MSCs)や、iPS細胞、ES細胞等の多能性幹細胞から分化誘導した腎臓前駆細胞(腎臓幹細胞)等が挙げられる。腎臓前駆細胞は、患畜由来の細胞であってもよく、患畜における拒絶反応が抑制された他家の細胞であってもよい。
【0030】
腎臓前駆細胞は、製造後の腎臓を移植する対象である患畜由来の細胞であることが好ましい。例えば、患畜由来の骨髄、脂肪組織、流血中又は臍帯血から分取された間葉系幹細胞等から分化誘導した腎臓前駆細胞が挙げられる。患畜自身の骨髄、流血中又は臍帯血から分取される間葉系幹細胞から分化誘導した腎臓前駆細胞であってもよい。分取法は、一般的な外科的医学手法によればよい。分取された細胞は、最適条件を選択し、好適には培養を2~5細胞継代行う。また、間葉系幹細胞の形質転換を抑制しながら培養を継続する目的でCambrex BioScience社製のヒト間葉系幹細胞専用培地キット等を用いて培養してもよい。
【0031】
腎臓前駆細胞には、所望により、アデノウイルス又はレトロウイルス等を用いて所望の遺伝子を導入してもよい。例えば、腎臓形成を補助する目的でグリア細胞由来神経栄養因子(Glial cellline-derived neurotrophic factor-GDNF)を発現するように遺伝子導入させてもよい。これは、腎臓が形成される直前の間葉組織はGDNFを発現するようになり、その受容体であるc-retを発現する尿管芽を引き込むことで腎臓発生の最初の重要なステップを完了させるからである。
【0032】
移植の方法としては、例えば、注射針等を用いて、後腎に非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を注入すればよい。移植する腎臓前駆細胞の数は例えば1×10~1×10個程度が好ましい。腎臓前駆細胞の移植は、インビトロで実行することもできるため、手技の熟練を要さず、非常に容易である。
【0033】
腎臓前駆細胞はネコ細胞であってもよい。この場合、製造される腎臓は腎発生ニッチに移植したネコ細胞から構成されたものとなる。この腎臓は、患畜であるネコに移植して機能させることができる。腎臓前駆細胞が、患畜の細胞又は患畜との拒絶反応が抑制された細胞であると、より好ましい。
【0034】
腎臓前駆細胞はネコ以外の非ヒト動物由来の細胞であってもよい。ネコ以外の非ヒト動物としては、上述した患畜が挙げられる。この場合、製造される腎臓は腎発生ニッチに移植した非ヒト動物由来の細胞から構成されたものとなる。この腎臓は、患畜である非ヒト動物に移植して機能させることができる。腎臓前駆細胞が、患畜の細胞又は患畜との拒絶反応が抑制された細胞であると、より好ましい。
【0035】
(工程(iii))
続いて、本工程において、腎臓前駆細胞を移植した後腎の発生を進行させる。その結果、移植した腎臓前駆細胞が分化成熟し、腎臓の一部を形成する。後腎の発生の進行は、胚から後腎を摘出せずに腎臓前駆細胞を移植した場合には、胚を再び親動物の子宮に戻して成長させることや、全胚培養すること等により実施することができる。あるいは、後腎を摘出して腎臓前駆細胞を移植した場合には、後腎の器官培養を継続することにより実施することができる。あるいは、後腎を患畜の傍大動脈領域や体網に移植し、患畜の体内で腎臓前駆細胞を移植した場合には、そのまま後腎を成長させることにより実施することができる。
【0036】
その結果、実施例において後述するように、移植した腎臓前駆細胞がホストの発生プログラムを引き継ぎ、残存する尿管芽と相互作用しながら複雑な分化誘導を自律的に進めて糸球体や尿細管を形成する。また、ホスト側の後腎間葉を構成する腎臓前駆細胞を完全に除去するため、再生される糸球体及び尿細管は、実質的に移植した腎臓前駆細胞に由来する細胞のみで構成される。
【0037】
ここで、「実質的に」とは、非ヒト動物の腎発生ニッチを利用して腎臓を製造した場合に、移植した腎臓前駆細胞以外の細胞が混入することを排除しないという意味である。いいかえると、再生される糸球体及び尿細管は、70質量%以上が移植した腎臓前駆細胞からなることが好ましく、80質量%以上が移植した腎臓前駆細胞からなることがより好ましく、90質量%以上が移植した腎臓前駆細胞からなることが更に好ましく、95質量%以上が移植した腎臓前駆細胞からなることが更により好ましく、99質量%以上が移植した腎臓前駆細胞からなることが特に好ましい。
【0038】
本実施形態の腎臓の製造方法は、前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去する工程(iv)と、前記後腎に前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植する工程(v)と、を更に備えていてもよい。また、工程(iv)及び(v)は、上述した工程(i)~(iii)の前に実施してもよいし、上述した工程(i)~(iii)の後に実施してもよい。また、工程(iv)及び(v)の後に工程(iii)を更に実施してもよい。
【0039】
これにより、後腎間葉だけでなく尿管芽も、移植した腎臓前駆細胞に由来する細胞に置き換えることができる。その結果、実質的に移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に由来する細胞のみで構成された腎臓を製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0040】
(工程(iv))
本工程において、非ヒト動物の後腎の尿管芽を組織特異的に除去する。尿管芽の組織特異的な除去は、尿管芽を組織特異的に除去することができる限り特に制限されず、例えば、遺伝子組換え技術を使用して行うことができる。
【0041】
例えば、上述したiDTRマウスとSix2-Creマウスとを交配して得られたマウスにおいて、尿管芽特異的プロモーターの下流にCre-ERタンパク質をコードする遺伝子を更に導入したマウスを用いることができる。ここで、尿管芽特異的プロモーターとしては、サイトケラチン8のプロモーター、HoxB7のプロモーター等が挙げられる。
【0042】
このようなマウスとしては、例えば、Six2-Cretg/wtサイトケラチン8-Cre-ERtg/wtの遺伝子型を有するiDTRマウス、Six2-Cretg/wtHoxB7-Cre-ERtg/wtの遺伝子型を有するiDTRマウス等が挙げられる。ここで、「tg」はトランスジェニックであることを表し、「wt」は野生型であることを表す。
【0043】
Cre-ERタンパク質とは、Creリコンビナーゼと変異エストロゲン受容体の融合タンパク質である。上記のマウスは尿管芽のマーカーであるサイトケラチン8又はHoxB7のプロモーター依存的にCre-ERを発現する。
【0044】
Cre-ERタンパク質は通常細胞質に存在するが、エストロゲン誘導体であるタモキシフェンと結合することにより核内に移行し、loxP配列に対して組換えを起こす。これを利用してCre-loxPシステムの働く時期をタモキシフェン依存的に調節することが可能である。したがって、Cre-ER及びCreが同時に発現していても、タモキシフェンを投与するか否かにより、Cre-ERの活性発現を制御することができる。ここで、Cre-ERの代わりに、Cre-ERの改変体である、Cre-ERT、Cre-ERT2等を用いてもよい。
【0045】
上記のマウスは、後腎間葉特異的にジフテリア毒素受容体を発現する。そこで、まず、上述した工程(i)、(ii)、(iii)を実行するとよい。具体的には、上記のマウスの胚の後腎にジフテリア毒素を接触させることにより、後腎間葉を除去する。続いて、上述した方法により、後腎に非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植して、後腎の発生を進行させる。その結果、移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞により後腎間葉が再生される。
【0046】
続いて、この後腎にタモキシフェンを接触させると、尿管芽特異的にジフテリア毒素受容体が発現する。そこで、この後腎にジフテリア毒素を接触させることにより、尿管芽を組織特異的に除去することができる。すなわち、腎発生ニッチを空けることができる。
【0047】
上記のマウスの例では、後腎間葉特異的プロモーターの下流にCreタンパク質をコードする遺伝子が導入され、尿管芽特異的プロモーターの下流にCre-ERタンパク質をコードする遺伝子が導入されていた。しかしながら、後腎間葉特異的プロモーターの下流にCre-ERタンパク質をコードする遺伝子が導入され、尿管芽特異的プロモーターの下流にCreタンパク質をコードする遺伝子が導入されていてもよい。また、Cre-ERの代わりに、Cre-ERの改変体である、Cre-ERT、Cre-ERT2等を用いてもよい。
【0048】
例えば、iDTRマウスと、後腎間葉特異的プロモーターの下流にCre-ERタンパク質をコードする遺伝子を導入したマウスとを交配して得られたマウスに、更に尿管芽特異的なプロモーターの下流にCreタンパク質をコードする遺伝子を導入したマウスを用いてもよい。
【0049】
より具体的には、例えば、Six2-Cre-ERtg/wtHoxB7-Cretg/wtの遺伝子型を有するiDTRマウス等が挙げられる。ここで、「tg」、「wt」は上述したものと同じ意味を表す。
【0050】
このマウスは後腎間葉特異的にCre-ERを発現する。また、尿管芽特異的にジフテリア毒素受容体を発現する。そこで、このマウスを使用する場合には、工程(i)~(iii)を実施する前に、工程(iv)及び(v)を実施することになる。具体的には、このマウスの胚の後腎にジフテリア毒素を接触させることにより、尿管芽を除去することができる。
【0051】
上述した方法は、尿管芽を組織特異的に除去する方法の1つであり、マウスに限らずあらゆる非ヒト動物に適用することができる。
【0052】
(工程(v))
続いて、本工程において、上記の後腎に前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植して、尿管芽の発生を進行させる。その結果、移植したヒト腎臓前駆細胞により尿管芽が再生される。工程(iv)及び工程(v)は並行して実施してもよい。すなわち、ニッチを空ける時期と、腎臓前駆細胞を移植する時期は重なっていてもよい。例えば、除去薬剤の添加と腎臓前駆細胞の移植を同時に実施してもよい。
【0053】
続いて、上述した工程(iii)を実施し、非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植した胚(後腎)の発生を進行させる。その結果、移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞が分化成熟し、腎臓の一部を形成する。
【0054】
非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞としては、上述したものと同様のものを用いることができる。ここで、腎臓前駆細胞が、上述した後腎間葉の再生における腎臓前駆細胞と由来が同じである場合には、製造される腎臓は、糸球体、尿細管だけでなく、集合管、尿管も、由来が同じ細胞から構成されたものとなる。
【0055】
このため、腎臓前駆細胞が、患畜由来の細胞又は患畜との拒絶反応が抑制された細胞であると、患畜に移植した場合に、より拒絶反応の少ない腎臓を製造することができる。
【0056】
例えば、Six2-Cre-ERtg/wtHoxB7-Cretg/wtの遺伝子型を有するiDTRマウスを用いて、工程(iv)及び(v)を先に実施した場合には、引き続き、上述した工程(i)、(ii)、(iii)を実施してもよい。すなわち、移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞により尿管芽が再生したマウスの後腎にタモキシフェンを接触させると、今度は後腎間葉特異的にジフテリア毒素受容体が発現する。そこで、この後腎にジフテリア毒素を接触させることにより、今度は後腎間葉を組織特異的に除去することができる。すなわち、腎発生ニッチを空けることができる。
【0057】
上述した方法は、尿管芽を組織特異的に除去する方法の1つであり、マウスに限らずあらゆる非ヒト動物に適用することができる。
【0058】
本実施形態の腎臓の製造方法において、後腎間葉の除去と尿管芽の除去は、いずれを先に行ってもよい。尿管芽の除去を先に行う場合には、上述したCre-loxPシステムを適宜改変してもよい。
【0059】
また、本実施形態の腎臓の製造方法において、細胞を死滅させるシステムは、対象とする非ヒト動物の種に適用することができ、組織特異的、時期特異的に作動させることができるものであれば特に制限なく用いることができる。
【0060】
したがって、ジフテリア毒素受容体以外のシステムにより細胞を死滅させる構成であってもよい。例えば、組織特異的なプロモーターの下流で、Creリコンビナーゼ活性依存的にジフテリア毒素(diphteria toxin A subunit,DT-A)を発現するシステムが挙げられる。このシステムは、本来ジフテリア毒素に感受性がある非ヒト動物に適用することができる。このような非ヒト動物としては、例えばブタが挙げられる。
【0061】
あるいは、組織特異的なプロモーターの下流で、ガンシクロビルの投与によってアポトーシスを誘導するヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子(HSV-TK)を発現させるシステムが挙げられる。HSV-TKを発現させた細胞はガンシクロビル投与下で細胞死が誘導される。
【0062】
あるいは、AP20187の投与により、Caspase3、Caspase8、Caspase9等を二量体化させてアポトーシスを誘導するシステムを用いてもよい。
【0063】
本実施形態の腎臓の製造方法は、後腎の後腎間葉又は尿管芽を組織特異的に除去することができる限り上述したものに限定されず、様々な遺伝子組換えシステムや、遺伝子組換えシステムの組み合わせを用いることができる。
【0064】
[腎臓]
1実施形態において、本発明は、上述した製造方法により製造された、腎臓を提供する。本実施形態の腎臓は、ホストである非ヒト動物の腎発生ニッチ及び発生プログラムを利用して、所望の非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞から製造されている。したがって、患畜に移植して機能させることができる。
【0065】
上述したように、本実施形態の腎臓は、後腎間葉若しくは尿管芽又はこれらの双方が、移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に置換され形成されている。このため、特に、後腎間葉及び尿管芽の双方が、移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に置換された腎臓である場合には、当該腎臓は、実質的に移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に由来する細胞のみで構成されている。このため、腎臓を構成する細胞を特定することにより、上述した製造方法により製造された腎臓であるか、移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を調製するもととなった患畜の本来の腎臓であるかを特定することは困難である。
【0066】
上記の腎臓は、非ヒト動物由来の細胞と、前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の細胞とを含み、前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の前記細胞の割合が70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、更により好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上であるものであってもよい。
【0067】
ここで、非ヒト動物としては、上述したように、例えば、ブタ、マウス、ネコ等が挙げられる。また、これらの非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の細胞としては、上述した患畜由来の細胞等が挙げられる。このような腎臓は、上述した腎臓の製造方法により製造することができる。
【0068】
本実施形態の腎臓は、例えば、上述した製造方法により、後腎間葉が移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に置換されて形成されたものであってもよい。この場合、尿管芽に由来する集合管や尿管は、ホストである非ヒト動物に由来するものとなる。
【0069】
あるいは、本実施形態の腎臓は、上述した製造方法により、尿管芽が移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に置換されて形成されたものであってもよい。この場合、後腎間葉に由来する糸球体や尿細管は、ホストである非ヒト動物に由来するものとなる。
【0070】
あるいは、本実施形態の腎臓は、上述した製造方法により、後腎間葉及び尿管芽の双方が移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に置換されて形成されたものであってもよい。この場合、糸球体、尿細管、集合管、尿管の実質的に全てが移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に由来するものとなる。しかしながら、形成された腎臓に、ホストである非ヒト動物に由来する細胞が残存する場合がある。
【0071】
[移植用臓器]
1実施形態において、本発明は、上述したいずれかの腎臓と、尿管と、膀胱とを備える移植用臓器を提供する。
【0072】
発明者らは、以前に、再生腎臓の移植により尿を生成することができても、生成した尿を排泄することができずに水腎症を起こしてしまい、腎機能を長期間持続することができないことを見出した。発明者らはまた、腎臓だけでなく、腎臓と、尿管と、膀胱とを備える構造体を移植することにより、尿を生成するだけでなく、生成した尿を排泄することが可能となることを以前に見出した。
【0073】
したがって、本実施形態の移植用臓器は、腎臓と、尿管と、膀胱とを備えるため、患畜に移植した場合においても、尿を生成するだけでなく、生成した尿を排泄することができ、腎機能を長時間持続することができる。
【0074】
本実施形態の移植用臓器は、患畜の傍大動脈領域や体網に移植してもよく、例えば患畜の脾臓(脾動脈の周辺)に移植してもよい。また、上記の移植用臓器を構成する膀胱は、患畜の尿管に接続されてもよい。これにより、腎臓と、第1の尿管と、第1の膀胱と、第2の尿管と、第2の膀胱とがこの順に接続された臓器構造体が形成される。ここで、第2の尿管と第2の膀胱は、患畜が本来有している尿管及び膀胱である。
【0075】
このような臓器構造体を形成することにより、上述した移植用臓器を構成する再生腎臓が生成した尿を排泄することが更に容易になる。
【0076】
本実施形態の移植用臓器において、前記尿管(第1の尿管)及び前記膀胱(第1の膀胱)は、上述した腎臓の製造方法における非ヒト動物由来であってもよい。尿管や膀胱は一般的に免疫原性が低いため、尿管や膀胱が異種の動物由来であっても問題になりにくい。ここで、非ヒト動物は、上述した腎臓の製造方法において、足場となる腎発生ニッチを提供したホスト動物である。すなわち、本実施形態の移植用臓器は、上述した製造方法により形成された腎臓と、これに続く尿管と、これに続く膀胱とから構成されていてもよい。
【0077】
本実施形態の移植用臓器は、腎臓、尿管及び膀胱が接続した状態で、非ヒト動物から摘出して保存・流通させることができる。ここで、移植用臓器を凍結して保存・流通させてもよい。あるいは、本実施形態の移植用臓器は、本実施形態の移植用臓器を有する非ヒト動物の形態で流通させることもできる。
【0078】
[腎臓製造用キット]
1実施形態において、本発明は、非ヒト動物の後腎と、前記胚の後腎間葉を組織特異的に除去する薬剤と、前記非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞とを備える、腎臓製造用キットを提供する。
【0079】
本実施形態のキットを用いて、上述した腎臓の製造方法を実施することにより、腎臓を製造することができる。非ヒト動物としては、上述したように、ブタ、マウス、ネコ等が挙げられる。非ヒト動物の後腎は、胚の形態で提供されてもよいし、胎仔を含む親動物の形態で提供されてもよい。また、後腎は後に膀胱となる総排出腔に接続した状態であってもよい。この場合、後腎が腎臓及び尿管を形成し、総排出腔が膀胱を形成し、これらの腎臓、尿管、膀胱が接続された状態となる。この結果、上述したように、製造された腎臓は、尿を生成するだけでなく、生成した尿を排泄することが可能となる。
【0080】
本実施形態のキットにおいて、後腎間葉を組織特異的に除去する薬剤としては、例えば、上述したジフテリア毒素等が挙げられる。この場合、非ヒト動物としては、Cre-loxPシステム等により、後腎間葉特異的にジフテリア毒素受容体を発現する非ヒト動物が挙げられる。
【0081】
あるいは、後腎間葉を組織特異的に除去することができる限り、上述したもの以外の種々のコンディショナルノックアウトシステムも用いることができる。後腎間葉を組織特異的に除去する薬剤としては、使用するシステムに応じて、ジフテリア毒素(iDTRシステム)、タモキシフェン(Cre-ERT2システム)、タクロリムス(Mos-iCsp3システム)、ドキシサイクリン、テトラサイクリン(Tet-on/offシステム)、ガンシクロビル(ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子システム)等を使用することができる。
【0082】
これらのコンディショナルノックアウトシステムは、ゲノム編集技術等を用いて作製することができ、非ヒト動物の腎発生ニッチにおいて、組織特異的に細胞を除去することができる。また、細胞を除去する時期を薬剤の投与によって調節することができる。これらのシステムを用いることにより、標的細胞の除去を時空間特異的に制御し、腎臓再生に適した生きた足場を構築することができる。
【0083】
後腎間葉を組織特異的に除去する薬剤の投与方法は特に制限されず、使用する薬剤に応じて適宜選択すればよい。例えば、インビトロで器官培養等の培地に添加すること、インビボで局所投与、腹腔内投与、静脈内注射、経口投与すること等が挙げられる。
【0084】
また、非ヒト動物と同種他家又は異種である非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞としては、例えば、上述した患畜由来の腎臓前駆細胞等が挙げられる。腎臓前駆細胞としては、患畜由来のiPS細胞、間葉系幹細胞(MSCs)等から分化誘導した腎臓前駆細胞、患畜における拒絶反応が抑制された他家のiPS細胞やES細胞から分化誘導した腎臓前駆細胞等が挙げられる。上記の他家のiPS細胞は、例えば、細胞バンク等から入手することができる。
【0085】
腎臓の製造は患畜の体外で行い、その後患畜の傍大動脈領域や体網に移植してもよい。あるいは、腎臓の製造は、患畜の体内で行ってもよい。より詳細には、まず、非ヒト動物の後腎を患畜の傍大動脈領域や体網に移植し、患畜の体内において後腎のニッチを空け、腎臓前駆細胞を移植し、腎臓を製造してもよい。この方法によれば、再生された腎臓に引き込まれる血管系が患畜の血管になり、機能的な腎臓を構築することができる点が有利である。
【0086】
本実施形態のキットは、前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去する薬剤を更に備えていてもよい。これにより、後腎間葉に由来する組織だけでなく、尿管芽に由来する組織も移植した腎臓前駆細胞に由来する腎臓を製造することが可能となる。
【0087】
尿管芽を組織特異的に除去する薬剤としては、例えば、上述した、タモキシフェン及びジフテリア毒素の組み合わせ等が挙げられる。この場合、非ヒト動物としては、Cre-loxPシステム等により、後腎間葉特異的にジフテリア毒素受容体を発現するとともに、タモキシフェンの投与により尿管芽特異的にジフテリア毒素受容体を発現する非ヒト動物が挙げられる。
【0088】
あるいは、上述した種々のコンディショナルノックアウトシステムのいずれかを使用して尿管芽を除去することもできる。この場合、尿管芽を組織特異的に除去する薬剤は、採用したシステムに応じた適宜の薬剤となる。
【0089】
上述した種々のコンディショナルノックアウトシステムを組み合わせることにより、複数の対象組織を任意の時期に除去することが可能となる。例えば、タモキシフェンを用いて尿管芽を組織特異的に除去した後に、タクロリムスを用いて後腎間葉を段階的に、組織特異的に除去することができる。その結果、ほぼ全ての腎臓組織を移植した腎臓前駆細胞に由来するものにすることができる。
【0090】
[腎臓再生用医薬]
1実施形態において、本発明は、非ヒト動物の後腎と、前記後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する薬剤と、非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞とを備える、腎臓再生用医薬を提供する。
【0091】
本実施形態の医薬によれば、患畜の体内で上述した腎臓の再生を行うことができる。本実施形態の医薬は次のようにして用いることができる。まず、非ヒト動物の後腎を患畜の傍大動脈領域や体網に移植する。患畜としては、上述したものが挙げられる。非ヒト動物の後腎としては、上述した腎臓製造用キットにおけるものと同様のものを用いることができる。
【0092】
続いて、患畜に、後腎間葉を組織特異的に除去する薬剤を投与する。薬剤としては、上述した腎臓製造用キットにおけるものと同様のものを用いることができる。薬剤の投与は、使用する薬剤に応じて、適宜、局所投与、腹腔内投与、静脈内注射、経口投与等により行うとよい。
【0093】
続いて、非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植する。非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞としては、例えば、患畜由来のiPS細胞、間葉系幹細胞(MSCs)等から分化誘導した腎臓前駆細胞、患畜における拒絶反応が抑制された他家のiPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞から分化誘導した腎臓前駆細胞等が挙げられる。その後、移植した後腎の発生を進行させることにより、患畜の体内で移植した腎臓前駆細胞により構成された腎臓が製造(再生)される。
【0094】
本実施形態の医薬によれば、再生された腎臓に引き込まれる血管系が患畜の血管になり、機能的な腎臓を構築することができる点が有利である。
【0095】
上記の腎臓再生用医薬は、後腎の尿管芽を組織特異的に除去する薬剤を更に備えていてもよい。これにより、後腎間葉に由来する組織だけでなく、尿管芽に由来する組織も移植した腎臓前駆細胞に由来する腎臓を再生することができる。後腎の尿管芽を組織特異的に除去する薬剤としては、上述した腎臓製造用キットにおけるものと同様のものを用いることができる。
【0096】
[腎臓の移植方法]
1実施形態において、本発明は、上述した腎臓、尿管及び膀胱を備える移植用臓器を患畜の体内に移植する工程(a)と、移植から所定期間後に、上記移植用臓器の膀胱と、患畜の尿管とを接続する工程(b)と、を備える、腎臓の移植方法を提供する。患畜としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0097】
本実施形態の方法は、腎疾患の治療方法であるともいえる。移植用臓器としては上述したものを用いることができる。
【0098】
上記工程(a)で移植した移植用臓器を所定期間放置することにより、移植用臓器が成長し、尿産生を開始する。所定期間は、移植用臓器が十分に成長し、かつ、水腎症を起こす前までの期間であればよい。所定期間は、患畜の症状等によって適宜調整すればよいが、例えば1~10週間であってよい。
【0099】
続いて、移植から所定期間後(1~10週間後)に工程(b)を実施する。工程(b)において、移植用臓器の膀胱と、患畜の尿管とを接続する。ここで、患畜の尿管は、患畜の膀胱につながっている。
【0100】
移植用臓器の膀胱と、患畜の膀胱とを患畜の尿管で接続することにより、移植用臓器が産生した尿を、患畜の膀胱へと排泄させることができる。より詳細には、移植用臓器の腎臓が産生した尿が、移植用臓器の尿管を通じて移植用臓器の膀胱まで排泄され、次いで、移植用臓器の膀胱から、患畜の尿管を通じて患畜の膀胱まで排泄される。
【0101】
本実施形態の方法により、移植用臓器の腎臓が産生した尿を、患畜の膀胱へと排泄させることができる。
【0102】
[腎疾患の治療方法]
1実施形態において、本発明は、非ヒト動物の後腎及び総排出腔を患畜の体内に移植する工程(a1)と、前記後腎の後腎間葉を組織特異的に除去する工程(a2)と、前記後腎に腎臓前駆細胞を移植する工程であって、移植した前記腎臓前駆細胞が分化成熟して腎臓の一部を形成し、前記総排出腔が分化成熟して膀胱を形成し、当該膀胱は尿管を介して前記腎臓と接続している工程(a3)と、前記腎臓前駆細胞の移植から所定期間後に、前記膀胱と、患畜の尿管とを接続する工程(b)と、を備える、腎疾患の治療方法を提供する。患畜としては、上述したものが挙げられる。
【0103】
本実施形態の方法においては、腎臓の製造(再生)を、患畜の体内で行う。工程(a2)及び工程(a3)は並行して実施してもよい。すなわち、ニッチを空ける時期と、腎臓前駆細胞を移植する時期は重なっていてもよい。例えば、除去薬剤の添加と腎臓前駆細胞の移植を同時に実施してもよい。腎臓前駆細胞としては、上述した腎臓再生用医薬におけるものと同様のものが挙げられる。
【0104】
上記工程(a3)における腎臓前駆細胞の移植から所定期間経過すると、移植した腎臓前駆細胞が腎臓を形成し、尿産生を開始する。所定期間は、腎臓及び膀胱が十分に成長し、かつ、水腎症を起こす前までの期間であればよい。所定期間は、患畜の症状等によって適宜調整すればよいが、例えば2~4週間であってよい。
【0105】
続いて、移植から所定期間後(2~4週間後)に工程(b)を実施する。工程(b)において、総排出腔が分化成熟して形成された膀胱と、患畜の尿管とを接続する。ここで、患畜の尿管は、患畜の膀胱につながっている。
【0106】
本実施形態の治療方法は、前記後腎の尿管芽を組織特異的に除去する工程(a2’)を更に備えていてもよい。これにより、後腎間葉だけでなく尿管芽も、移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に由来する細胞に置き換えることができる。その結果、実質的に移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞に由来する細胞のみで構成された腎臓を製造することができる。
【0107】
工程(a2’)を実施する場合、工程(a2)及び工程(a2’)はいずれを先に実施してもよいが、一方を実施した後、他方を実施するまでに4~7日間の期間を設けることが好ましい。この間に、移植した非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞が発生プログラムを進行させて分化する。
【0108】
工程(a2)及び工程(a3)、又は工程(a2’)及び工程(a3)は並行して実施してもよい。すなわち、ニッチを空ける時期と、非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞を移植する時期は重なっていてもよい。例えば、除去薬剤の添加と非ヒト動物由来の腎臓前駆細胞の移植を同時に実施してもよい。
【0109】
例えば、まず、工程(a2)及び工程(a3)を同時に実施し、所定期間後、工程(a2’)及び工程(a3)を同時に実施してもよい。あるいは、まず、工程(a2’)及び工程(a3)を同時に実施し、所定期間後、工程(a2)及び工程(a3)を同時に実施してもよい。
【実施例
【0110】
次に実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0111】
[実験例1]
(マウス胚における後腎間葉の組織特異的な除去)
Creリコンビナーゼ活性依存的にジフテリア毒素受容体(DTR)を発現するiDTRマウスと、Six2のプロモーターの下流にCreリコンビナーゼ遺伝子を導入したSix2-Creマウスとを交配した。なお、Six2は、後腎間葉で特異的に発現する転写因子である。
【0112】
続いて、胎生13日目のFマウスから、後腎間葉特異的にジフテリア毒素受容体を発現したものを選択し、後腎を摘出した。摘出した後腎を、定法にしたがって器官培養し、培地にジフテリア毒素を添加した。その結果、ジフテリア毒素受容体を発現した、後腎間葉のSix2陽性腎臓前駆細胞が死滅した。これにより後腎間葉が組織特異的に除去された。
【0113】
[実験例2]
(腎臓前駆細胞の移植)
野生型マウス由来の腎臓前駆細胞を、定法により後腎から調製し、細胞解離試薬を用いて単一細胞に解離した。続いて、腎臓前駆細胞1×10個を、実験例1で調製した、後腎間葉が組織特異的に除去された後腎組織に移植した。その後、後腎組織の器官培養を継続した。
【0114】
[実験例3]
(腎臓組織の免疫染色1)
実験例2の後腎組織を、腎臓前駆細胞の移植から5日間培養後に4%パラホルムアルデヒド固定して組織切片標本を作製した。続いて、後腎間葉のマーカーであるSix2及び尿管芽のマーカーであるサイトケラチン8をそれぞれ免疫染色した。図3は免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。倍率は100倍である。図3において、Six2陽性細胞は移植した腎臓前駆細胞由来である。また、サイトケラチン8陽性細胞はホスト動物(実験例1のFマウス)由来である。
【0115】
その結果、実験例1のFマウス由来の尿管芽を足場として、実験例2で移植した腎臓前駆細胞がホストの発生プログラムを引き継ぎ、複雑な分化誘導を自律的に進めて後腎間葉を形成したことが確認された。この結果は、上述した方法により、後腎間葉を構成する細胞を、移植した腎臓前駆細胞由来の細胞に置き換えることができることを示す。
【0116】
[実験例4]
(腎臓組織の免疫染色2)
緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス(GFP tgマウス)由来の腎臓前駆細胞を、定法により後腎から調製し、細胞解離試薬を用いて単一細胞に解離した。続いて、腎臓前駆細胞1×10個を、実験例1と同様にして調製した、後腎間葉が組織特異的に除去された後腎組織に移植した。その後、後腎組織の器官培養を継続した。
【0117】
続いて、腎臓前駆細胞の移植から7日間培養後に4%パラホルムアルデヒド固定して組織切片標本を作製した。続いて、尿管芽のマーカーであるサイトケラチン8、及び糸球体のマーカーであるWilms tumor suppressor protein-1(WT1)をそれぞれ免疫染色した。続いて、移植細胞が発現しているGFP、免疫染色したサイトケラチン8及びWT1の蛍光を蛍光顕微鏡で観察した。図4は免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。倍率は200倍である。図4において、GFP陽性細胞及びWT1陽性細胞は移植した腎臓前駆細胞由来である。また、サイトケラチン8陽性細胞はホスト動物(実験例1のFマウス)由来である。
【0118】
その結果、移植したGFP tgマウス由来の腎臓前駆細胞が糸球体や尿細管を形成したことが確認された。この結果は、上述した方法により、腎臓前駆細胞から機能的な腎臓組織を形成することができることを示す。
【0119】
[実験例5]
(マウスの生体内での腎臓の再生)
野生型マウスの傍大動脈領域に、iDTRマウスとSix2-Creマウスとを交配して得られた、後腎組織で組織特異的にジフテリア毒素受容体を発現する胎仔の後腎及び総排出腔を移植した。
【0120】
続いて、ジフテリア毒素を投与することにより、上記の後腎の後腎間葉を除去し、GFP tgマウス由来の腎臓前駆細胞1×10個を移植した。続いて、後腎を移植したマウスを7日間飼育した。
【0121】
続いて、上記のマウスを開腹し、移植した後腎から形成された腎臓(再生腎臓)を観察した。
【0122】
図5(a)は再生腎臓が存在する領域を撮影した写真である。倍率は15倍である。右上に野生型マウス(ホスト)の腎臓が見えている。中央付近の点線で囲んだ領域に再生腎臓が存在する。
【0123】
図5(b)は図5(a)と同一視野において、GFPの蛍光を観察した結果を示す写真である。倍率は15倍である。その結果、移植した腎臓前駆細胞に由来するGFPの蛍光が観察された。この結果は、マウスの体内において、インビボで腎臓の再生ができたことを示す。
【0124】
図6(a)は、上記の再生腎臓を4%パラホルムアルデヒド固定して作製した組織切片標本の光学顕微鏡写真である。倍率は400倍である。図6(a)中、矢頭で示す部分に再生された糸球体が観察された。
【0125】
図6(b)は、図6(a)と同一視野において、GFPの蛍光を観察した結果を示す蛍光顕微鏡写真である。倍率は400倍である。図6(b)中、矢頭で示す部分にGFPの蛍光が観察された。この結果は、再生された糸球体が移植した腎臓前駆細胞に由来するものであることを示す。
【0126】
以上の結果から、インビボにおいても腎臓の再生を行うことができることが明らかとなった。
【0127】
[実験例6]
(マウス胚の後腎間葉及び尿管芽の双方の置換)
《尿管芽の組織特異的な除去》
本実験例では、Six2-Cre-ERtg/wtHoxB7-Cretg/wtの遺伝子型を有するiDTRマウスを用いた。まず、実験例1と同様にして、マウス胚から後腎を摘出して器官培養した。続いて、培地にジフテリア毒素を添加して尿管芽を組織特異的に除去した。
【0128】
《腎臓前駆細胞の移植》
続いて、尿管芽を除去したマウス後腎に、実験例2と同様にして、野生型マウス由来の腎臓前駆細胞1×10個を移植した。その後、後腎の器官培養を5日間継続した。
【0129】
《後腎間葉の組織特異的な除去》
続いて、器官培養の培地にタモキシフェン及びジフテリア毒素を添加した。その結果、後腎間葉特異的なマーカーであるSix2発現細胞において、Cre-ERが核内に移行して組換えを起こし、ジフテリア毒素受容体を発現した。その結果、後腎間葉の細胞がジフテリア毒素により死滅した。これにより、後腎間葉を組織特異的に除去した。
【0130】
《腎臓前駆細胞の移植》
続いて、後腎間葉を除去したマウス後腎に、実験例2と同様にして、野生型マウス由来の腎臓前駆細胞1×10個を再度移植した。その後、後腎の器官培養を3~5日間継続した。
【0131】
《免疫染色》
続いて、器官培養した後腎を4%パラホルムアルデヒド固定して組織切片標本を作製した。続いて、尿管芽を染色する抗カルビンディン抗体で免疫染色して蛍光顕微鏡で観察した。
【0132】
図7(a)は、陽性対照の後腎の代表的な写真である。陽性対照では、尿管芽の除去段階でジフテリア毒素を添加せず、また、腎臓前駆細胞も移植しなかった。したがって、陽性対照では、本来の尿管芽に由来する組織が維持されていた。
【0133】
図7(b)は、陰性対照の後腎の代表的な写真である。陰性対照では、尿管芽の除去段階でジフテリア毒素を添加し、また、腎臓前駆細胞を移植しなかった。したがって、陰性対照では、尿管芽が組織特異的に除去され、腎臓前駆細胞は移植されなかったために、尿管芽が欠失していた。
【0134】
図7(c)は、試験群の後腎の代表的な写真である。試験群では、尿管芽が組織特異的に除去され、腎臓前駆細胞が移植された。その結果、移植された腎臓前駆細胞により尿管芽が置き換えられ、尿管芽に由来する組織の成長が認められた。
【0135】
下記表1は、陽性対照(n=5)、陰性対照(n=5)及び試験群(n=5)の後腎における尿管芽の先端の数を計測した結果である。
【0136】
【表1】
【0137】
その結果、陰性対照では、陽性対照と比較して尿管芽の先端の数の減少が認められた。これに対し、試験群では、陽性対照と同程度の尿管芽の先端の数が計測された。この結果は、本実験例の方法により、後腎間葉及び尿管芽の双方を、移植した腎臓前駆細胞で置換することができることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、腎臓前駆細胞から腎臓を作製する技術を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7