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特許7488183ポリビニルアルコール系重合体及び、これを用いた成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系重合体及び、これを用いた成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/06 20060101AFI20240514BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20240514BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C08F16/06
C08F8/12
C08L29/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020531269
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2019027424
(87)【国際公開番号】W WO2020017417
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018137118
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 明宏
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-148209(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170974(WO,A1)
【文献】特開2003-238227(JP,A)
【文献】特開平06-298847(JP,A)
【文献】特開2000-178396(JP,A)
【文献】W.S.Lyoo, H.W.Lee,Synthesis of high-molecular-weight poly(vinyl alcohol) with high yield by novel one-batch suspension,Colloid and Polymer Science,ドイツ,2002年05月22日,Vol.280, No.9,Page.835-840
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 16/06
C08F 8/12
C08L 29/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体であって、以下の式(I)に示す末端カルボン酸及び/又は末端カルボン酸塩構造を前記ポリビニルアルコール系重合体中に、0.003モル%以上、0.015モル%以下の割合で有し、前記ポリビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が、6010以上、1.5×104以下であることを特徴とするポリビニルアルコール系重合体。
【化1】
(式(I)中、波線は主鎖との結合を表し、Xは水素原子、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群より選ばれるいずれか1種であり、Xが2種以上の場合は、鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体の混合物であることを意味する。)
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系重合体において、以下の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造の占める割合が、前記ポリビニルアルコール系重合体中に0.003モル%以上、0.030モル%以下である請求項1に記載のポリビニルアルコール系重合体。
【化2】
(式(II)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系重合体は、主鎖中に以下の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造の占める割合が、前記ポリビニルアルコール系重合体中に0.90モル%以上、1.50モル%以下である請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系重合体。
【化3】
(式(III)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系重合体は、前記ポリビニルアルコール系重合体中に、以下の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造の占める割合が、0.10モル%以上、0.20モル%以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系重合体。
【化4】
(式(IV)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系重合体を含有する成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム等の成形体とした際に、高強度を発現するポリビニルアルコール系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系重合体(以下、「PVA」と略記することがある。)は、繊維、フィルム又はゲルのような様々な強度が要求される成形体に使用されている。PVAは、一般的に重合度が高いほど高強度を発現し易いことから、高重合度のPVAを得るための方法が各種提案されている。例えば、ポリビニルアルコールの前駆体である高重合度のポリビニルエステルの製法として、低温懸濁重合(特許文献1参照)、低温乳化重合(特許文献2参照)、低温光乳化重合(特許文献3参照)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-148209号公報
【文献】特開昭63-37106号公報
【文献】特開昭63-284206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの手法では高強度の発現が十分でない場合やPVAの生産が困難である場合等の問題があった。例えば、乳化重合に関しては、反応速度が速く効率的であるが、ポリマーと水とを分離するのが困難であるため、加工性の良いペレット状や粉末状の樹脂を得る手法としては適していない。
【0005】
本発明は、フィルム又はゲルのような成形体とした際に高強度を発現するポリビニルアルコール系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記に例示される(1)~(6)の本発明により達成される。
(1)鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体であって、以下の式(I)に示す末端カルボン酸及び/又は末端カルボン酸塩構造を前記ポリビニルアルコール系重合体中に、0.003モル%以上、0.015モル%以下の割合で有することを特徴とするポリビニルアルコール系重合体。
【化1】
(式(I)中、波線は主鎖との結合を表し、Xは水素原子、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群より選ばれるいずれか1種であり、Xが2種以上の場合は、鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体の混合物であることを意味する。)
【0007】
(2)前記ポリビニルアルコール系重合体において、以下の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造の占める割合が、前記ポリビニルアルコール系重合体中に0.003モル%以上、0.030モル%以下である(1)に記載のポリビニルアルコール系重合体。
【化2】
(式(II)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【0008】
(3)前記ポリビニルアルコール系重合体は、主鎖中に以下の(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造の占める割合が、前記ポリビニルアルコール系重合体中に0.90モル%以上、1.50モル%以下である上記(1)又は(2)に記載のポリビニルアルコール系重合体。
【化3】
(式(III)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【0009】
(4)前記ポリビニルアルコール系重合体は、前記ポリビニルアルコール系重合体中に、以下の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造の占める割合が、0.10モル%以上、0.20モル%以下である上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系重合体。
【化4】
(式(IV)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【0010】
(5)前記ポリビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が、5.5×103以上1.5×104以下である上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系重合体。
(6)(1)乃至(5)のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系重合体を含有する成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フィルム、ゲル状の成形体とした際に高強度を発現するポリビニルアルコール系重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための形態について詳細に説明する。尚、以下に記載する実施形態は、本発明を説明するための例示であり、必ずしも実施形態に限定されるものでない。
【0013】
本発明は、鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体であって、前記ポリビニルアルコール系重合体中に、下記式(I)に示す末端カルボン酸及び/又は末端カルボン酸塩構造の占める割合が0.003モル%以上、0.015モル%以下であるポリビニルアルコール系重合体である。本発明によるポリビニルアルコール系重合体を用いて得られる成形体は、従来よりも高強度となり、例えば、より薄膜化したフィルムや、亀裂の入りにくいフィルムの作製が可能である。また、高強度、高弾性なゲル成形体等の作製も可能になる。下記式(I)に示す末端カルボン酸又は末端カルボン酸塩構造の占める割合は、好ましくは0.005モル%以上、0.012モル%以下であり、より好ましくは0.008モル%以上、0.010モル%以下である。
【化5】
(式(I)中、波線は主鎖との結合を表し、Xは水素原子、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群より選ばれるいずれか1種であり、Xが2種以上の場合は、鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体の混合物であることを意味する。)
【0014】
Xとしては、溶解性の観点からアルカリ金属が好ましく、その中でもナトリウムが好ましい。
【0015】
好ましい実施形態においては、以下の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造の占める割合が、前記ポリビニルアルコール系重合体中に0.003モル%以上、0.030モル%以下であり、当該割合は0.005モル%以上、0.020モル%以下であることがより好ましい。
【化6】
(式(II)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【0016】
好ましい実施形態においては、前記ポリビニルアルコール系重合体において、主鎖中に以下の(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造の占める割合が0.90モル%以上、1.50モル%以下である。当該割合は1.10モル%以上、1.40モル%以下であることがより好ましい。
【化7】
(式(III)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【0017】
好ましい実施形態においては、前記ポリビニルアルコール系重合体において、以下の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造の占める割合が、0.10モル%以上、0.20モル%以下である。当該割合は0.12モル%以上、0.18モル%以下であることがより好ましい。
【化8】
(式(IV)中、波線は主鎖との結合を表す。)
【0018】
前記鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体の合成方法は、特に限定されるものでなく、一般的に用いられる方法により合成でき、例えば、ビニルエステルモノマーと重合開始剤を用いて、所定の温度で反応させることで、ポリビニルエステルを得て、得られたポリビニルエステルを水酸化ナトリウムのメタノール溶液などのアルカリ溶液で鹸化することによって得ることができる。ポリビニルアルコール系重合体の鹸化度は、好ましくは99モル%以上である。
なお、ポリビニルエステルの合成はビニルエステルと共重合可能なビニルエステル以外のモノマーを混合して用いても良い。
【0019】
本発明で用いられるビニルエステルモノマーとしては、特に限定されるものでなく、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。これらの中で重合のし易さの観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0020】
ビニルエステルモノマーと共重合可能なビニルエステル以外の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のα-オレフィン単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等の不飽和アミド単量体、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸単量体、不飽和カルボン酸のアルキル(メチル、エチル、プロピル等)エステル単量体、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸の無水物、不飽和カルボン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウム等との塩、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体又はその塩、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート等のリン酸基含有単量体、アルキルビニルエーテル単量体等が挙げられる。
【0021】
ビニルエステルモノマーを重合する重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、バルク重合等の既知の重合方法が採用可能であるが、懸濁重合が好ましい。溶液重合においては、一般的にはメタノール等のアルコール系の溶媒が使用され、溶媒への連鎖移動により得られるPVAの重合度が低下する、またバルク重合においては、反応液の粘度上昇によりハンドリングが困難となる問題点がある。
【0022】
懸濁重合の際に使用する水性溶媒としては、イオン交換等により十分に精製した水を用いることが好ましいが、事前に使用に問題が無いことを確認出来れば、工業用水等でも使用することができる。
また、水性溶媒中には、pHを調整するための緩衝剤や、泡立ちを抑えるための消泡剤等を加えることも可能である。
【0023】
ビニルエステルモノマーを懸濁重合するに際しては、一般的に分散安定剤が使用される。この際の分散安定剤としては、特に制限するものではなく、一般的な懸濁重合用の分散安定剤であるポリビニルアルコール類、メチルセルロース類、ポリビニルピロリドン類等が使用可能である。本発明においては、製造するポリビニルアルコール系重合体の構造が類似する構造のポリビニルアルコール類を使用することが好ましい。類似する構造とすることで相溶性がよくなり、フィルムにした際の強度の向上、亀裂の入りにくいフィルムを得ることができる。
【0024】
ビニルエステルモノマーをラジカル重合する際の重合開始剤は、特に限定されるものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリルなどのアゾ化合物、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテートなどの過酸化物、ジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物等を単独又は組み合わせて使用することができるが、低温で重合する場合はアゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)が好ましい。重合開始剤は、多いと重合速度が速くなって反応熱により系内の温度が上昇してしまい、また、分子量分布が広くなりやすいことから、ラジカル重合するビニルエステルモノマー100質量部に対して0.005~0.05質量部とすることが好ましい。
【0025】
ビニルエステルモノマーをラジカル重合する際の重合禁止剤は特に限定されるものではないが、4-tert-ブチルカテコール等のカテコール化合物、ソルビン酸等の不飽和二重結合を有する化合物、クペロン等のニトロソ化合物、空気等の酸素含有気体等を単独又は組み合わせて使用することができる。これらの化合物の中でも、重合停止能力が高いため4-tert-ブチルカテコールやソルビン酸を用いることが好ましい。重合禁止剤は開始剤の0.01倍~2倍のモル量とすることが好ましい。重合禁止剤の添加量が少なすぎると目標の重合率で反応が停止しない。
【0026】
ビニルエステルモノマーの重合温度は、10~50℃であることが好ましく、より好ましくは15~45℃、更に好ましくは20~40℃である。重合温度が10℃未満の場合、重合速度が遅く、実用上問題となる場合がある。また、重合温度が50℃超の場合、得られるPVAの重合度が低下して末端カルボン酸及び/又は末端カルボン酸塩構造及び主鎖及び末端1、2-グリコール構造が増加する。また分岐構造も増加して、末端ヒドロキシ構造が増加する。このため、得られるPVAフィルムの引張強度が低下する。
【0027】
ビニルエステルモノマーの重合率は、好ましくは60%以下であり、より好ましくは50%以下であり、更に好ましくは40%以下である。重合率が60%超であると、ポリビニルエステルの分岐構造が大きく増加し、溶解性が低下する。また分子量分布が広くなり、末端カルボン酸及び/又は末端カルボン酸塩構造及び主鎖及び末端1、2-グリコール構造が増加する。
【0028】
本発明で云う重合率は、ビニルエステルモノマー及びポリビニルエステル粒子が水中で均一に分散している状態で少量サンプリングし、そのサンプリングした溶液を150℃で30分乾燥させ、重量法から求められる。
【0029】
本発明に係る鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体の合成方法は、特に限定されないが、例えば、上記ポリビニルエステルを鹸化することで、本発明の鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体を得ることが出来る。鹸化反応は、常法により実施可能であるが、ポリビニルエステルをアルコール系溶媒に溶解し、アルカリ触媒により鹸化する方法が簡便であり、好ましい。使用するアルコール系溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられ、メタノールの使用が好ましい。メタノールを用いると溶媒の回収が容易で、回収したメタノールを再利用することで製造コストを下げることができる。アルコール系溶媒中の重合体の濃度は、2~50質量%の範囲が好ましく、より好ましくは3~40質量%、更に好ましくは5~30質量%である。
【0030】
鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体であって、前記ポリビニルアルコール系重合体中に、上記式(I)に示す末端カルボン酸又は末端カルボン酸塩構造の占める割合が0.003モル%以上、0.015モル%以下であるビニルアルコール系重合体の合成方法は、特に限定されないが、鹸化反応時にアルカリ触媒を用いることができる。アルカリ触媒としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属のアルコール塩や、マグネシウム、カルシウムなどを用いた金属水酸化物を用いることができる。
本発明のポリビニルアルコール系重合体の式(I)のXは、酸の状態又はイオン化された状態であれば良く、ポリビニルアルコール系重合体中に、上記式(I)に示す末端カルボン酸又は末端カルボン酸塩構造の占める割合が0.003モル%以上、0.015モル%以下であることで、フィルムにしたときの強度が上がる。Xは、水素であっても、アルカリ金属であっても、アルカリ土類金属であってもフィルムにした場合の強度は向上する。
【0031】
また、アルカリ触媒の替わりに酸触媒を使用しても鹸化することが可能である。酸触媒としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。これらアルカリ若しくは酸触媒の使用量はビニルエステル系単量体に対して1~100ミリモル当量にすることが必要である。
鹸化反応温度には、特に制限はないが、通常10~70℃であり、好ましくは30~50℃である。反応は通常15~180分間に渡って行われる。
【0032】
上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造の占める割合が0.003モル%以上、0.030モル%以下であるポリビニルアルコール系重合体の合成方法は、特に限定されないが、例えば、以下の合成方法が挙げられる。まず、酢酸ビニルモノマーを懸濁重合法により、重合温度、開始剤及び重合禁止剤を調整することで酢酸ビニル樹脂を得る。次に、得られた酢酸ビニル樹脂を水酸化ナトリウムのメタノール溶液などのアルカリ溶液で鹸化する。重合温度、開始剤及び重合禁止剤を調整することで、式(II)に示す末端ヒドロキシ構造の占める割合を0.003モル%以上、0.030モル%以下に容易に調整することができる。このようにして得られたポリビニルアルコール系重合体は、メタノール中で重合する場合に比べ、高分子量で、分岐が少なく、分子量分布の狭いものとなる。
【0033】
主鎖中において、上記の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造の占める割合が0.90モル%以上、1.50モル%以下であるポリビニルアルコール系重合体の合成方法は、特に限定されないが、例えばビニルエステルモノマーを重合温度10~50℃で重合し、鹸化することで、主鎖中において、式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造の占める割合を0.90モル%以上、1.50モル%以下に容易に調整することができる。上記の範囲とすることで、上記ポリビニルアルコール系重合体を用いて得られるフィルムは、結晶性を維持し、高強度なものとなる。
【0034】
さらに、主鎖中において、上記の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造の占める割合が0.10モル%以上、0.20モル%以下であるポリビニルアルコール系重合体の合成方法は、懸濁重合にて重合温度10~50℃で重合し、鹸化することで、主鎖中に式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造の占める割合が0.10モル%以上、0.20モル%以下に容易に調整することができる。上記ポリビニルアルコール系重合体を用いて得られるフィルムは、結晶性を維持し、高強度なものとなる。
【0035】
本発明のポリビニルアルコール系重合体の鹸化度は好ましくは98モル%以上であり、より好ましくは99モル%であり、更に好ましくは99.4モル%以上である。鹸化度を98モル%以上とすることで、ポリビニルアルコール系重合体を成形体とした際に高強度を発現する。鹸化度が98モル%未満の場合、成形体の強度が大きく低下する。
【0036】
本発明で云うポリビニルアルコール系重合体の鹸化度は、JIS-K6726:1994に従った方法にて測定される。すなわち、JIS-K8951:2006に規定されているN/10の硫酸とJIS-K8576:2019に規定されているN/10の水酸化ナトリウム溶液を用いた逆滴定から求められる。
【0037】
本発明のポリビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度は好ましくは5.5×103以上、1.5×104以下である。より好ましくは、8.0×103以上、1.2×104以下である。粘度平均重合度が1.5×104を超えると、鹸化前のポリビニルエステルの粘度が高く、ハンドリングが困難となり、5.5×103未満の場合は、強度が低下する場合がある。
【0038】
本発明の鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度は、JIS-K6726:1994に準拠する方法にて測定される。すなわち、ビニルアルコール系重合体を完全に鹸化し、精製した後、30℃の水中で測定して得られた相対粘度から算出した極限粘度[η]から求める。
【0039】
本発明の鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体は、特定の末端構造を特定の比率で有することが好ましい。特定の末端構造を特定の比率とすることでより高強度を発現することができ、特定の末端構造を特定の比率を有することで、得られたフィルムは、より薄膜化したフィルムや、亀裂の入りにくいフィルムの作製が可能である。また、高強度なゲル成形体等の作製も可能になる。これら末端構造の定量は、網屋繁俊,「PVAの微細構造」,高分子加工,38(8),P388-396,1989年に記載されている通り1H-NMRのピーク位置及びその積分値から同定及び定量可能である。
【0040】
上記の式(I)に示す末端カルボン酸又は末端カルボン酸塩構造、上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造、上記の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造及び、上記の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造の測定手順について説明する。
【0041】
鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体に対して、1H-NMR(例:日本電子株式会社製「ECX-400」)を用いて測定を行う。
【0042】
上記の式(I)に示す末端カルボン酸又は末端カルボン酸塩構造を分析する場合、作製した分析用のポリビニルアルコール系重合体を重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH14にし、末端カルボン酸をすべて末端カルボン酸ナトリウム構造とした後、1H-NMR(例:日本電子株式会社製「ECX-400」)を用いて、400MHz、測定温度80℃、積算回数1024の条件にて、1H-NMRスペクトルを得て、構造を同定する。
【0043】
上記の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造を分析する場合、作製した分析用の鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体を重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH14にした後、400MHzの1H-NMR(例:日本電子社の「ECX-400」)を用いて、測定温度80℃、積算回数1024の条件にて、1H-NMRスペクトルを得て、構造を同定する。
【0044】
また、上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造及び、上記の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造を分析する場合、作製した分析用のビニルアルコール系重合体を重DMSOに溶解し、400MHzの1H-NMR(例:日本電子社の「ECX-400」)を用いて、測定温度60℃、積算回数1024の条件にて、1H-NMRスペクトルを得て、構造を同定する。
【0045】
何れの末端及び主鎖の含有量(モル%)も鹸化度が98モル%以上であるポリビニルアルコール系重合体の主鎖のメチレン基(1.2~2.0ppm)のピークの積分値を基準として、各末端又は主鎖を示すピークの積分値から算出する(上記の式(I)に示す末端カルボン酸ナトリウム構造:2.2~2.3ppm、上記の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造:3.2~3.3ppm、上記の式(IV)に示す末端1、2グリコール構造:1.0~1.1ppm)。具体的には、各末端測定用の1H-NMRスペクトルにおいて、PVAの主鎖のメチレン基のピークの積分値をbとし、末端カルボン酸ナトリウム構造のピークの積分値をaとすると、各々のピークに由来する炭素上のプロトン数を考慮し算出する。式(I)に示す構造の含有率A(モル%)は、末端カルボン酸ナトリウム構造はメチレン基(プロトン数=2)を分析しているので、A=(a/2)/(b/2)×100と計算できる。同様に、(III)に示す構造の含有率B(モル%)は、主鎖1、2-グリコール構造のピークの積分値をcとすると、B=(c/2)/(b/2)×100と計算でき、(IV)に示す構造の含有率C(モル%)は、末端1、2グリコール構造のピークの積分値をdとすると、C=(d/3)/(b/2)×100と計算できる。
上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造の場合においては、3.4~3.5ppm付近のピークの積分値(e)から末端量を算出するが、3.4~3.5ppm付近のピークには、上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造、上記の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造、及び上記の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造のプロトンに由来するピークも含まれている。ただし、上記の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造は、3.2~3.3ppmのピークの積分値(c)から算出でき、また上記の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造は、1.0~1.1ppmのピークの積分値(d)から算出できるので、上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造含有率D(%)はD=(e-c-(d/3))/2×100と計算される。
【0046】
なお、末端カルボン酸構造はγ-ラクトン構造と化学平衡にある。NMRの測定は上述の通りpH14で行うため、PVA中にγ-ラクトン構造が存在していた場合でもすべて末端カルボン酸ナトリウム構造に平衡が偏る。このため、本発明において末端カルボン酸ナトリウム構造の含有量は末端カルボン酸構造、末端カルボン酸塩構造及びγ-ラクトン構造の合計含有量を意味することになる。
【0047】
本発明のポリビニルアルコール系重合体は、高強度を発現することから、フィルム、繊維、ゲル等の成形体の原材料として好適に使用可能であるが、これら以外にも接着剤、増粘剤、バインダー等の原材料としても優れた特性を発揮する。
【実施例
【0048】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、特に断りがない限り、「部」及び、「%」は「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0049】
(実施例1)
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた重合缶に、酢酸ビニルモノマーを100質量部、水120質量部、開始剤である2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.018質量部及び、主にポリビニルアルコールからなる分散剤(デンカ株式会社製DENKA W-20N)0.1質量部を仕込み、25℃で7時間重合後に重合禁止剤である4-tert-ブチルカテコールを加えて反応を停止した。このときの重合率は21.4%であった。
重合反応終了後、その容器を密閉し、内部を減圧状態に保ちながら、撹拌下70℃で、3時間未反応モノマーの除去を行った。得られた酢酸ビニル樹脂スラリーを冷却、濾過、水洗、脱水し、次いで乾燥器にて35℃にて2時間乾燥処理を行って細粒状の粘度平均重合度が12,560の酢酸ビニル樹脂を得た。なお、粘度平均重合度は、JIS K6725:1977「酢酸ビニルの試験方法」の「3.2平均重合度」に準じて測定した。
【0050】
上記で得られた酢酸ビニル樹脂をメタノールに溶解し、そこに10%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加し(酢酸ビニルに対し水酸化ナトリウムを固形分換算で0.04質量部)、40℃で60分間鹸化反応を行った。酢酸で中和後に、得られた固形分を乾燥器にて120℃で1時間、乾燥処理して、鹸化度99.4%、粘度平均重合度が9,840のPVAを得た。
【0051】
上記で得られたPVAについて、NMRを用いて、下記に記す条件にて末端及び主鎖構造の定量評価を行ったところ、上記の式(I)に示す末端カルボン酸又は末端カルボン酸塩構造が0.008モル%、上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造が0.008モル%、上記の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール結合構造が1.26モル%、上記の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造が0.18モル%であった。
上記の式(I)に示す末端カルボン酸又は末端カルボン酸塩構造を分析する場合、ポリビニルアルコール系重合体を重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH14にし、末端カルボン酸をすべて末端カルボン酸ナトリウム構造とした後、1H-NMR(日本電子株式会社製「ECX-400」)を用いて、400MHz、測定温度80℃、積算回数1024に条件にて、1H-NMRスペクトルを得て、構造を同定した。
上記の式(IV)に示す末端1、2-グリコール構造を分析する場合、同様にポリビニルアルコール系重合体を重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH14にした後、NMR(日本電子社の「ECX-400」)を用いて、測定温度80℃、積算回数1024に条件にて、1H-NMRスペクトルを得て、構造を同定した。
また、上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造及び、上記の式(III)に示す主鎖1、2-グリコール構造及を分析する場合、作製した分析用のビニルアルコール系重合体を重DMSOに溶解し、1H-NMR(日本電子社の「ECX-400」)を用いて、測定温度60℃、積算回数1024に条件にて、1H-NMRスペクトルを得て、構造を同定した。
【0052】
上記で得られたPVAを水に溶解し、高圧ろ過により異物を除去後、アプリケーターを用いて、上記PVA水溶液をポリエチレンテレフタラートフィルム上に塗布して、乾燥させることによって膜厚15.0±1.0μmのフィルムを得た。なお、上記高圧ろ過は、バンテック社製 ろ紙5A(φ110)を用いて、JIS P3801:1995に従って行った。
【0053】
(引張強度評価)
上記で得られたPVAからなるフィルムを、20℃、60%RHで2日間静置後、引張り試験を実施した。引張り試験は(株式会社島津製作所社製「AG-X」型番)を用いた。
PVAフィルムサンプルは幅9.0mm、つかみ器具距離90.0mm、引張り速度50mm/minで行ったところ、フィルムの引張強度は71.2N/mm2であった。
【0054】
(実施例2~10)
重合温度、重合時間(重合率)をそれぞれ表1に記載したように変えた以外は、実施例1と同様にして高重合度PVAを得て、末端及び主鎖構造の定量評価を行った。また、実施例1と同様にPVAからなるフィルムを作製し、実施例1と同様に引張強度評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(註)
主鎖1,2-Gly:主鎖中に上記の式(III)に示す1、2-グリコール構造の占める割合
末端1,2-Gly:上記の式(IV)に示す末端1、2グリコール構造の占める割合
末端-COOX:上記の式(I)に示す末端カルボン酸又は末端カルボン酸塩構造の占める割合
末端-CH2CH2OH:上記の式(II)に示す末端ヒドロキシ構造の占める割合
【0057】
(比較例1~4)
重合温度、重合時間(重合率)をそれぞれ表1に記載したように変えた以外は、実施例1と同様にして、PVAからなるフィルムを作成し、実施例1と同様に引張強度評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例5)
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた重合缶に、酢酸ビニルモノマー100質量部、メタノール65.3質量部、及び重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを酢酸ビニルに対して0.022重量部仕込み、窒素気流下で攪拌しながら外温65℃で8時間重合を行った。得られた重合反応溶液中にメタノール蒸気を吹き込んで未反応酢酸ビニルを除去した後、メタノールにて希釈して酢酸ビニル樹脂のメタノール溶液を調整し、粘度平均重合度780の酢酸ビニル樹脂のメタノール溶液を得た。
【0059】
上記で得られた酢酸ビニル樹脂のメタノール溶液に、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加し、40℃で45分間鹸化反応を行った。得られた鹸化反応溶液を加熱乾燥して鹸化度96.8モル%、粘度平均重合度が600のPVAを得た。得られたPVAについてNMRを用いて、実施例1と同様の方法で末端及び主鎖構造の定量評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(引張強度評価)
上記で得られたPVAからなるフィルムを、実施例1と同様に引張試験を行い、引張強度を算出したところ33.8N/mm2であった。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例6)
メタノールの添加量を20.8質量部に変えた以外は、比較例5と同様にして、鹸化度98.7モル%、粘度平均重合度が1800のPVAを得た。上記で得られたPVAからなるフィルムを作成し、実施例1と同様に引張強度評価を行った。作製したPVAの構造分析結果及び、フィルムの評価結果を表1に示す。
【0062】
(比較例7)
メタノールの添加量を5.3質量部に変えた以外は、比較例5と同様にして、鹸化度99.1モル%、粘度平均重合度が3460のPVAを得た。上記で得られたPVAからなるフィルムを作成し、実施例1と同様に引張強度評価を行った。作製したPVAの構造分析結果及び、フィルムの評価結果を表1に示す。
【0063】
重合度が高い方が、高いフィルム強度を示し、さらに末端数が少ない方がより高いフィルム強度を示す。