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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】高電圧バッテリを有する車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/204 20210101AFI20240514BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20240514BHJP
   H01M 50/222 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/224 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/227 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/231 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/276 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/282 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/229 20210101ALN20240514BHJP
   H01M 50/278 20210101ALN20240514BHJP
   H01M 50/28 20210101ALN20240514BHJP
【FI】
H01M50/204 401H
B60K1/04 Z
H01M50/222
H01M50/224
H01M50/227
H01M50/231
H01M50/249
H01M50/276
H01M50/282
H01M50/342 101
H01M50/229
H01M50/278
H01M50/28
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020555227
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2019061260
(87)【国際公開番号】W WO2019242923
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-11-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】102018210152.3
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】レッティヒ・フィーリプ
(72)【発明者】
【氏名】テンフェルデ・フランク
【合議体】
【審判長】土居 仁士
【審判官】高野 洋
【審判官】衣鳩 文彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-12490(JP,A)
【文献】特開2012-113896(JP,A)
【文献】特開2013-242967(JP,A)
【文献】国際公開第2013/069308(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/026731(WO,A1)
【文献】特開2010-55957(JP,A)
【文献】特開2017-59505(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0273034(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 50/30-50/392
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧バッテリ(1)を有する車両であって、高電圧バッテリは、
-ハウジング(2)と、
-ハウジング(2)内に配置された少なくとも1つのバッテリセルと
を備え、少なくとも1つのバッテリセルは、あらかじめ設定されたセル内圧を超えると開放する緊急抜気開口部(4a~4c)を有するバッテリセルハウジングを備えており、バッテリセルの障害時又は損傷時には、高温気体又は燃焼気体がバッテリセルハウジングの内部から緊急抜気開口部を通して高電圧バッテリ(1)のハウジング(2)内へ漏出することができ、緊急抜気開口部(4a~4c)は、バッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体が流れて向かうハウジング(2)の壁部(2d)へ対向している、車両において、
緊急抜気開口部(4a~4c)が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体がバッテリセルハウジングから流出する範囲における高電圧バッテリ(1)のハウジング(2)の壁部(2d)が、当該範囲から離れた壁部(2d)の範囲よりも大きい耐熱性をもって構成されていること、及び少なくとも1つの緊急抜気開口部(4a~4c)の範囲における壁部(2d)は、当該範囲から離れた壁部(2d)の範囲よりも少なくとも1つ多い数の耐熱層(6a)を更に備えていることを特徴とする車両。
【請求項2】
緊急抜気開口部(4a,4c)が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体が流出する範囲において局所的により耐熱性をもって構成されたアルミニウム薄板で壁部(2d)が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
緊急抜気開口部(4a~4c)が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体が流出する範囲において局所的により耐熱性をもって構成された合成樹脂材料で壁部(2d)が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項4】
緊急抜気開口部はバッテリセルの規定どおりの状態においては気密に閉鎖されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項5】
緊急抜気開口部は予定破断箇所によって形成されており、予定破断箇所は、バッテリセルハウジングの内部におけるあらかじめ設定された圧力の超過時に開放されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項6】
少なくとも1つの耐熱層又は複数の耐熱層が、合計で少なくとも0.1mmの層厚を有していることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
壁部(2d)は、少なくとも1つの緊急抜気開口部(4a~4c)の範囲において、耐熱性の塗装層を備えていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の車両。
【請求項8】
壁部(2d)は、少なくとも1つの緊急抜気開口部(4a~4c)の範囲において、層状ケイ酸塩若しくは雲母及び/又は鉱物繊維若しくはガラスファイバ及び/又はセラミックを含む少なくとも1つの耐熱層を備えていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の車両。
【請求項9】
少なくとも1つの耐熱層(6a)が壁部(2d)に接着されていることを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の車両。
【請求項10】
接着剤が、少なくとも600℃までの温度の耐熱性を有するとともに1200℃の温度まで燃焼しない接着剤であることを特徴とする請求項9に記載の車両。
【請求項11】
少なくとも1つの耐熱層(6a)が壁部(2d)に螺着及び/又はリベット留めされていることを特徴とする請求項6~10のいずれか1項に記載の車両。
【請求項12】
緊急抜気開口部(4a~4c)が重力の方向(5)に関して高電圧バッテリの上側の壁部(2d)又はカバーに対向するように少なくとも1つのバッテリセル(1)が配置されていることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の車両。
【請求項13】
ハウジング(2)の内側である緊急抜気開口部に対向する側における壁部(2d)は、当該壁部(2d)の範囲から離れた範囲よりも大きな耐熱性をもって構成されていることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の車両。
【請求項14】
高電圧バッテリのハウジング(2)内に複数のバッテリセルが配置されており、バッテリセルのハウジングがそれぞれ1つの緊急抜気開口部を備えていることを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の車両。
【請求項15】
バッテリセルの各緊急抜気開口部(4a~4c)がハウジング(2)の同一の壁部(2d)に対向するように全てのバッテリセルが配置されていることを特徴とする請求項14に記載の車両。
【請求項16】
全ての緊急抜気開口部(4a~4c)の範囲における壁部(2d)は、当該範囲から離れたハウジング(2)の壁部(2d)の範囲よりも大きな耐熱性をもって構成されていることを特徴とする請求項14又は15に記載の車両。
【請求項17】
少なくとも1つの耐熱層が、少なくとも1000℃又は1100℃又は1200℃又は1300℃の温度まで溶融せず、かつ、燃焼しない材料で構成されていることを特徴とする請求項6~16のいずれか1項に記載の車両。
【請求項18】
より大きな耐熱性をもって構成された壁部(2d)の範囲(6a,6b)が、少なくとも0.5分の間、穴があくことなく、あるいは燃焼することなく、2000℃までの温度に耐え得ることを特徴とする請求項1~17のいずれか1項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分による高電圧バッテリを有する車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば車両「BMWi3」のような電気車両あるいはハイブリッド車両の高電圧バッテリは、内部に複数のいわゆる「セルモジュール」を有する高電圧バッテリハウジングを備えている。各セルモジュールは、電気的に互いに配線された、相前後して一列に配置された複数のバッテリセルで構成されている。BMWi3においては、個々のバッテリセルが配置されているハウジングは比較的剛直なアルミニウムハウジングであり、当該アルミニウムハウジングは、「上方へ向けて」、すなわち車室の方向へ向けて、螺着されたカバーによって閉鎖されている。
【0003】
BMWi3の個々のバッテリセルは、それぞれ1つの本質的に立方体状のバッテリセルハウジングを備えている。バッテリセルが規定どおりの(適切な)状態にあれば、バッテリセルハウジングは、流体密及び気密であり、すなわち、バッテリセルハウジングの内部から何も外部へ漏出することがない。
【0004】
例えば極端に大きな事故においてバッテリセルが損傷し、及び/又は個々のバッテリセルにおいて、若しくは個々のバッテリセル間で短絡が生じ、バッテリセルの内部が許容できないほど強く加熱される場合には、該当するバッテリセルの「緊急抜気」が可能である必要がある。このために、通常、バッテリセルハウジングは緊急抜気開口部を備えており、当該緊急抜気開口部は、例えば、あらかじめ設定されたセル内圧の超過時に開放されてバッテリセルの内部から外方へ気体を排出することができる予定破断箇所として形成されることが可能である。例えば個々のバッテリセルの激しい損傷時のような極端な場合には、非常に不都合な位置関係において、発生する気体が発火することがあり、周囲又は車両の車室内への漏出は、バッテリセルが更に高電圧バッテリハウジングによって包囲されていることによって高い安全性をもって阻止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、場合によってはあり得る火災のおそれについて、従来の高電圧バッテリを有する車両に比してより高い安全性を提供する高電圧バッテリを有する車両を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
当該課題は、請求項1によって解決される。本発明の有利な構成及び発展形成は、従属請求項から見て取れる。
【0007】
本発明の起点は、個々のバッテリセルの極端な機械的な損傷時及び/又はセル内部の短絡時には、バッテリセルハウジングの緊急抜気開口部を介して非常に高温の燃焼気体を個々のバッテリセルの内部から高電圧バッテリハウジングの内部へ排出することができるべきであるという考察にある。
【0008】
本発明の基本原理は、少なくともバッテリセルの緊急抜気開口部が配置されている範囲において、高電圧バッテリハウジングを局所的により耐熱性をもって構成することにある。原則的には、例えば、例えば鋼のような適当な耐火性の材料の選択及び十分に大きな壁厚によって、高電圧バッテリハウジング全体を全体的に耐火性に構成することが可能である。しかしながら、このことは、安全性の理由から必ずしも必要ではなく、その他の点では、高電圧バッテリハウジングの大きな重量に結び付くものである。これに対応して、本発明は、極端な場合において、すなわちいわゆる「熱的な事象」時に熱的に大きな負荷を受ける範囲において(のみ)高電圧バッテリのハウジングを強化することを目的としている。
【0009】
本発明の起点は、ハウジングと、当該ハウジング内に配置された少なくとも1つのバッテリセルとを備えた高電圧バッテリを有する車両である。バッテリセルの代わりに、当然、「パケット式に」いわゆる「セルモジュール」へ互いに配線され得る複数あるいは多数のバッテリセルをハウジング内に配置することが可能である。
【0010】
高電圧バッテリのハウジング内に配置された少なくとも1つのバッテリセルは、あらかじめ設定されたセル内圧を超えると開放する緊急抜気開口部を備えており、バッテリセルの障害時又は損傷時に、高温気体又は燃焼気体は、バッテリセルハウジングの内部から緊急抜気開口部を通して高電圧バッテリのハウジング内へ排出されることが可能である。バッテリセルハウジングの緊急抜気開口部は、高電圧バッテリのハウジングの壁部に対向しており、当該壁部に対して(向けて)、バッテリセルの障害時又は損傷時に(直接的な)高温気体又は燃焼気体が流れる。
【0011】
既に上述したように、本発明の核心は、緊急抜気開口部が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体がバッテリセルハウジングから流出する範囲における高電圧バッテリのハウジングの壁部が、当該範囲から離れた壁部の範囲よりも大きな耐熱性をもって構成されていることにある。
【0012】
したがって、高電圧バッテリのハウジングの壁部は、局所的にのみ熱的に強化して構成されているか、あるいは耐熱性をもって構成されている。この関係において、「局所的」は、溶接バーナの燃焼気体噴射の場合に類するように、1つあるいは複数のバッテリセルハウジングの内部から流出する高温気体又は燃焼気体が高電圧バッテリのハウジングの壁部へ直接当たる1つあるいは複数の範囲を意味する。
【0013】
高電圧バッテリのハウジングの壁部が、全体的に、又は部分範囲において、例えばアルミニウム又はアルミニウム薄板で構成されており、当該アルミニウム又はアルミニウム薄板は、少なくとも1つの緊急抜気開口部が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体が流出する範囲において局所的により耐熱性をもって構成されている。
【0014】
これに代えて、高電圧バッテリのハウジングの壁部が、全体的に、又は少なくとも部分範囲において、合成樹脂材料(又は繊維強化された合成樹脂材料)で構成されており、当該合成樹脂材料(又は繊維強化された合成樹脂材料)は、少なくとも1つの緊急抜気開口部が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体が流出する範囲において局所的により耐熱性をもって構成されている。
【0015】
既に上述したように、少なくとも1つのバッテリセルの規定どおりの状態ではバッテリセルの内部が緊急抜気開口部によって気密に閉鎖されているように構成することが可能である。緊急抜気開口部は、例えば、バッテリセルハウジングに設けられた予定破断箇所によって形成されることができ、当該予定破断箇所は、バッテリセルハウジングの内部においてあらかじめ設定された圧力を超過して初めて開放あるいは「裂開」又はこじ開けられる。
【0016】
原則的には、高電圧バッテリのハウジング全体が追加的な耐熱層を備えることが可能である。本発明の思想は、少なくとも1つの緊急抜気開口部の範囲における高電圧バッテリの壁部が、当該壁部の範囲から離れた壁部の範囲より少なくとも1つ多い数の、すなわち少なくとも1つの追加的な耐熱層を備えていることにある。
【0017】
例えば、高電圧バッテリの壁部を局所的に熱的に強化する1つ又は複数の耐熱層が合計で少なくとも0.1mmの層厚を有しているように構成することが可能である。
【0018】
高電圧バッテリのハウジングの壁部を局所的に強化するために、例えば、少なくとも1つの緊急抜気開口部の範囲において壁部を耐熱性の塗装層でコーティングするように構成することが可能である。この関係において、「耐熱」は、少なくとも例えば1000℃又は1100℃又は1200℃又は1300℃のあらかじめ設定された最小温度まで熱的に耐え得る塗装層が用いられることを意味する。このとき、緊急抜気の発生した熱による塗装層の活性化は、ポジティブな効果として利用されることが可能である。したがって、塗装は、ハウジングへ施される際に、例えば焼き付けられず、(特にセラミック塗装の場合には)塗装されるのみである。塗装の通常の乾燥により、通常動作に対して十分に大きな付着が得られる。そして、当該塗装は、緊急抜気の熱により、活性化/燃焼され、したがってその完全な「耐熱性」を得ることができる。したがって、塗装層は、膨張性の層(「膨張塗料」)であってよい。膨張性の材料は、熱の作用の下で体積について増大し、密度について低下する。層が熱の作用の下で「炭化」し、このとき膨張し、したがって断熱的に作用するように構成することが可能である。
【0019】
これに代えて、又はこれに加えて、高電圧バッテリのハウジングの壁部が、少なくとも1つの緊急抜気開口部の範囲において、層状ケイ酸塩若しくは雲母及び/又は鉱物繊維若しくはガラスファイバ及び/又はセラミックを含む少なくとも1つの耐熱層を備えるように構成することが可能である。層状ケイ酸塩又は雲母を含む層として、例えば、市場において「マイカ」層あるいは「マイカ」プレートの用語の下で知られた層又はプレートを用いることが可能である。
【0020】
少なくとも1つの耐熱層は、高電圧バッテリのハウジングの壁部に接着、螺着、リベット留め又は他の態様で結合されることが可能である。耐熱層は、高電圧バッテリハウジングの壁部に直接施されることができるか、又はスペーサ要素を用いて、高電圧バッテリハウジングの壁部から数mm程度の間隔だけ離して配置されることが可能である。耐熱層が高電圧バッテリハウジングの壁部に接着される場合には、好ましくは、少なくとも、少なくとも600℃の温度まで耐熱性を有し、かつ、1200℃の温度まで燃焼しない接着剤が用いられる。
【0021】
これに代えて、又はこれに加えて、少なくとも1つの耐熱層が全体的に、又は部分的に、壁部を構成する材料(例えばアルミニウム、アルミニウム鋳造材料、合成樹脂など)でオーバーモールドされるか、又はプレス加工されるように構成されることが可能である。
【0022】
本発明の一発展形成によれば、少なくとも1つのバッテリセルの緊急抜気開口部が重力の方向に関して高電圧バッテリの上側の壁部又はカバーに割り当てられるように高電圧バッテリのハウジングの内部に配置された少なくとも1つのバッテリセルが配置されるように構成されている。
【0023】
また、緊急抜気開口部に対向する側、すなわちハウジングの内側における高電圧バッテリのハウジングの壁部が、当該壁部の範囲から離れた壁部の範囲よりも大きな耐熱性をもって構成されることが可能である。したがって、好ましくは、「局所的な熱的な強化」は、高電圧バッテリのハウジングの壁部の内側において設けられる。しかし、このことは必ずしも必要ではない。原則的には、高電圧バッテリの壁部は、高電圧バッテリハウジングの内部とは反対側、すなわち高電圧バッテリハウジングの壁部の外側においても局所的に熱的に強化されることが可能である。
【0024】
既に上述したように、高電圧バッテリのハウジング内には、好ましくは複数の、あるいは多数のバッテリセルが配置されており、当該バッテリセルは、それぞれ緊急抜気開口部を備えている。好ましくは、全てのバッテリセルの各緊急抜気開口部がハウジングの同一の壁部(例えばハウジングカバー)に対向するように全てのバッテリセルが配置されている。これに対応して、壁部は、全ての緊急抜気開口部の範囲においてより耐熱性をもって構成されており、当該耐熱性は、壁部における、当該耐熱性をもった範囲から離れた範囲よりも大きいように構成されることが可能である。
【0025】
例えば、高電圧バッテリのハウジングの壁部を局所的に熱的に強化する少なくとも1つの耐熱層が、少なくとも1000℃又は1100℃又は1200℃又は1300℃の温度まで溶融せず、かつ、燃焼しない材料で構成されているように構成することが可能である。
【0026】
また、より大きな耐熱性をもって構成された壁部の範囲が少なくとも0.5分の間、穴があくことなく、あるいは燃焼することなく、2000℃までの温度、特に1600℃までの温度に耐えるように構成されることが可能である。
【0027】
少なくとも1つの耐熱層は、特にいわゆる「SMC層(Sheet molded Compound)」、すなわち複数の個々の層で形成された層であってよい。当該層のうち1つ又は複数は、例えばガラスファイバ及び/又は鉱物繊維で強化された合成樹脂層であってよい。
【0028】
以下に、図面に関連して本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1a】本発明による高電圧バッテリハウジングを概略的に示す平面図である。
図1b】本発明による高電圧バッテリハウジングを概略的に示す断面図である。
図1c】耐熱層によって局所的に強化された高電圧バッテリハウジングの壁部の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1aには、ハウジング2を備えた高電圧バッテリ1の概略的な平面図が示されている。高電圧バッテリ1のハウジング内には、2つのセルモジュール3a,3bが配置されている。両セルモジュール3a,3bのそれぞれは、相前後して配置された複数の個々のバッテリセル(詳細には不図示)で構成されており、当該バッテリセルは、互いに電気的に配線されている。各バッテリセルは、バッテリセルハウジングを備えている。
【0031】
バッテリセルハウジングの(紙面からこちらへ向いた)上側では、個々のバッテリセルハウジングは、それぞれ1つの緊急抜気開口部4a,4b,4c(図1b参照)を備えている。バッテリセルが規定どおりの(適切な)状態にあれば、緊急抜気開口部は閉鎖されており、すなわち、バッテリセルハウジングは気密であり、バッテリセルハウジングの内部から液体も、また気体も何も漏出することがない。
【0032】
個々のバッテリセルの障害時又は損傷時には、セル内部の短絡、セル内圧の上昇及び個々のバッテリセルの内部から高電圧バッテリ1のハウジング2の内部への可燃性気体あるいは燃焼気体の漏出に至り得る。
【0033】
排出された気体の引火が生じる場合には、特に緊急抜気開口部4a,4b,4cの範囲、すなわち燃焼気体がバッテリセルから漏出する範囲では、溶接機器の燃焼気体噴射の場合に類するように、非常に高い温度が生じる。
【0034】
このような極端な場面における人員自身を危険にさらすことを回避するために、高電圧バッテリ1のハウジングが熱的に十分に抵抗性を有していることが重要である。個々のバッテリセルからの燃焼気体の排出時には、緊急抜気開口部の範囲あるいは直近において最大の熱的な負荷が生じる。緊急抜気開口部から数センチメートル離れただけで熱的な負荷は、本質的により低減される。
【0035】
図1bには、矢印5によって重力の方向が図示されている。高電圧バッテリ1のハウジング2は、底部2aと、側壁部2b,2cと、ハウジング2の上側に配置されたカバー2dとを備えている。カバー2dの内側には、耐熱層6a,6bが配置されている。
【0036】
図1aから分かるように、耐熱層6a,6bは、カバー2dの全面あるいは内側全体にわたって延在しておらず、ここでは詳細に示されていないバッテリセルの緊急抜気開口部4a,4b,4cが配置されている範囲にわたってのみ延在している。
【0037】
したがって、耐熱層6a,6bは、当該耐熱層が実際に必要とされる箇所にのみ、すなわち、熱的な事象において最大の熱的な負荷が生じる箇所にのみ設けられている。ハウジングのカバー2dあるいは側壁部2b,2c又は底部2aの更に離れた範囲は、そのような追加的な耐熱層を備えていない。したがって、耐熱層6a,6bは、事故時などに熱的に最も多く負荷を受ける範囲において局所的にのみ配置されている。耐熱層は、例えば、層状ケイ酸塩若しくは雲母及び/又は鉱物繊維若しくはガラスファイバ及び/又はセラミック及び/又は適当な耐熱塗装であってよい。耐熱層6a,6bは、ここでも複数の個々の層で構成されることが可能である。
【0038】
図1cには、高電圧バッテリ1の、ここでは詳細に図示されていないハウジング2のカバー2dに耐熱層6aが配置されている実施例が示されている。耐熱層6aは複数の貫通開口部を備えているが、ここでは1つの貫通開口部7のみが図示されている。カバー2dの材料は、プラグ状に、したがって係合式に貫通開口部7を貫通して延びている。カバー材料のプラグ2d’は係合式に貫通孔7から突出し、これにより、耐熱層6aが係合式にカバー2dに結合されている。カバー2dは、例えば、例えばアルミニウム又はアルミニウム鋳造材料のような金属又は例えば埋入された繊維(例えばガラスファイバ)により強化された合成樹脂材料で構成されることが可能である。
【0039】
したがって、耐熱層は、部分的に、又は全体的にカバー2dの材料でオーバーモールドされることができるか、又はプレス加工されることが可能である。これに代えて、耐熱層6aは、カバー2dに接着、螺着、リベット留め又は他の態様で結合されることも可能である。
なお、本発明は、以下の態様も包含し得る:
1.高電圧バッテリ(1)を有する車両であって、高電圧バッテリは、
-ハウジング(2)と、
-ハウジング(2)内に配置された少なくとも1つのバッテリセルと
を備え、少なくとも1つのバッテリセルは、あらかじめ設定されたセル内圧を超えると開放する緊急抜気開口部(4a~4c)を有するバッテリセルハウジングを備えており、バッテリセルの障害時又は損傷時には、高温気体又は燃焼気体がバッテリセルハウジングの内部から緊急抜気開口部を通して高電圧バッテリ(1)のハウジング(2)内へ漏出することができ、緊急抜気開口部(4a~4c)は、バッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体が流れて向かうハウジング(2)の壁部(2d)へ対向している、車両において、
緊急抜気開口部(4a~4c)が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体がバッテリセルハウジングから流出する範囲における高電圧バッテリ(1)のハウジング(2)の壁部(2d)が、当該範囲から離れた壁部(2d)の範囲よりも大きい耐熱性をもって構成されていることを特徴とする車両。
2.緊急抜気開口部(4a,4c)が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体が流出する範囲において局所的により耐熱性をもって構成されたアルミニウム薄板で壁部(2d)が構成されていることを特徴とする上記1.に記載の車両。
3.緊急抜気開口部(4a~4c)が配置されているとともにバッテリセルの障害時又は損傷時に高温気体又は燃焼気体が流出する範囲において局所的により耐熱性をもって構成された合成樹脂材料で壁部(2d)が構成されていることを特徴とする上記1.に記載の車両。
4.緊急抜気開口部はバッテリセルの規定どおりの状態においては気密に閉鎖されていることを特徴とする上記1.~3.のいずれか1つに記載の車両。
5.緊急抜気開口部は予定破断箇所によって形成されており、予定破断箇所は、バッテリセルハウジングの内部におけるあらかじめ設定された圧力の超過時に開放されることを特徴とする上記1.~4.のいずれか1つに記載の車両。
6.少なくとも1つの緊急抜気開口部(4a~4c)の範囲における壁部(2d)は、当該範囲から離れた壁部(2d)の範囲よりも少なくとも1つ多い数の耐熱層(6a)を備えていることを特徴とする上記1.~5.のいずれか1つに記載の車両。
7.少なくとも1つの耐熱層又は複数の耐熱層が、合計で少なくとも0.1mmの層厚を有していることを特徴とする上記6.に記載の車両。
8.壁部(2d)は、少なくとも1つの緊急抜気開口部(4a~4c)の範囲において、耐熱性の塗装層でコーティングされていることを特徴とする上記1.~7.のいずれか1つに記載の車両。
9.壁部(2d)は、少なくとも1つの緊急抜気開口部(4a~4c)の範囲において、層状ケイ酸塩若しくは雲母及び/又は鉱物繊維若しくはガラスファイバ及び/又はセラミックを含む少なくとも1つの耐熱層を備えていることを特徴とする上記1.~8.のいずれか1つに記載の車両。
10.少なくとも1つの耐熱層(6a)が壁部(2d)に接着されていることを特徴とする上記7.~9.のいずれか1つに記載の車両。
11.接着剤が、少なくとも600℃までの温度の耐熱性を有するとともに1200℃の温度まで燃焼しない接着剤であることを特徴とする上記10.に記載の車両。
12.少なくとも1つの耐熱層(6a)が壁部(2d)に螺着及び/又はリベット留めされていることを特徴とする上記7.~11.のいずれか1つに記載の車両。
13.少なくとも1つの耐熱層(6a)が、壁部(2d)を構成する材料で部分的に又は全体的にオーバーモールド及び/又はプレス加工されていることを特徴とする上記7.~12.のいずれか1つに記載の車両。
14.緊急抜気開口部(4a~4c)が重力の方向(5)に関して高電圧バッテリの上側の壁部(2d)又はカバーに対向するように少なくとも1つのバッテリセル(1)が配置されていることを特徴とする上記1.~13.のいずれか1つに記載の車両。
15.ハウジング(2)の内側である緊急抜気開口部に対向する側における壁部(2d)は、当該壁部(2d)の範囲から離れた範囲よりも大きな耐熱性をもって構成されていることを特徴とする上記1.~14.のいずれか1つに記載の車両。
16.高電圧バッテリのハウジング(2)内に複数のバッテリセルが配置されており、バッテリセルのハウジングがそれぞれ1つの緊急抜気開口部を備えていることを特徴とする上記1.~15.のいずれか1つに記載の車両。
17.バッテリセルの各緊急抜気開口部(4a~4c)がハウジング(2)の同一の壁部(2d)に対向するように全てのバッテリセルが配置されていることを特徴とする上記16.に記載の車両。
18.全ての緊急抜気開口部(4a~4c)の範囲における壁部(2d)は、当該範囲から離れたハウジング(2)の壁部(2d)の範囲よりも大きな耐熱性をもって構成されていることを特徴とする上記16.又は17.に記載の車両。
19.少なくとも1つの耐熱層が、少なくとも1000℃又は1100℃又は1200℃又は1300℃の温度まで溶融せず、かつ、燃焼しない材料で構成されていることを特徴とする上記7.~18.のいずれか1つに記載の車両。
20.より大きな耐熱性をもって構成された壁部(2d)の範囲(6a,6b)が、少なくとも0.5分の間、穴があくことなく、あるいは燃焼することなく、2000℃までの温度、特に1600℃までの温度に耐え得ることを特徴とする上記1.~19.のいずれか1つに記載の車両。
図1a
図1b
図1c