(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】不織布及び電気化学素子用セパレータ
(51)【国際特許分類】
D04H 1/541 20120101AFI20240514BHJP
D04H 1/544 20120101ALI20240514BHJP
H01G 9/02 20060101ALI20240514BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20240514BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240514BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240514BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240514BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240514BHJP
H01M 50/494 20210101ALI20240514BHJP
【FI】
D04H1/541
D04H1/544
H01G9/02
H01G11/52
H01M50/417
H01M50/44
H01M50/489
H01M50/491
H01M50/494
(21)【出願番号】P 2020556074
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043276
(87)【国際公開番号】W WO2020100654
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018213234
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-110763(JP,A)
【文献】特開2004-335159(JP,A)
【文献】特開2003-109569(JP,A)
【文献】特開2017-033678(JP,A)
【文献】特開2013-204154(JP,A)
【文献】特開昭49-073629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
H01G 9/02
H01G 11/52
H01M 50/40 - 50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に融着成分を備えた
、ヤング率が60cN/dtex以上であるポリオレフィン系複合融着繊維を含み、前記複合融着繊維が融着しており、縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計が6.5
(N・m
2
)/(50mm・g)以上である、不織布。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系複合融着繊維の引張り強さが5.0cN/dtex以上である、請求項
1に記載の不織布。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系複合融着繊維の伸度が15~35%である、請求項1
または2に記載の不織布。
【請求項4】
平均繊維径が4μm以下の極細繊維を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項5】
最大孔径が40μm以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項6】
不織布の縦方向の5%モジュラス強度が30~100N/50mmである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項7】
不織布の空隙率が45~85%である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項8】
不織布の単位目付あたりのニードル式耐貫通力が
0.20593965(N・m
2
/g)(21(gf・m
2
/g))以上である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項9】
不織布の単位目付あたりのカッター式耐貫通力が
0.20593965(N・m
2
/g)(21(gf・m
2
/g))以上である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項10】
無機粒子が含まれている、請求項1~
9のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の不織布から構成されている、電気化学素子用セパレータ。
【請求項12】
厚さ保持率が92%以上である、請求項
11に記載の電気化学素子用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布及び電気化学素子用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電池やキャパシタなどの電気化学素子の正極と負極とを分離して短絡を防止すると共に、電解液を保持して起電反応を円滑に行うことができるように、正極と負極との間にセパレータが使用されている。
【0003】
近年、電子機器の小型軽量化に伴って、その電源である電気化学素子の占めるスペースも狭くなっているにもかかわらず、電気化学素子には従来と同程度以上の性能が必要とされるため、必然的に前記セパレータの占める体積が小さくならざるを得ない。
【0004】
例えば、このような要求を満足するセパレータとして、本願出願人は「少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが4.5cN/dtex以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を60mass%以上(100mass%を除く)と、繊維径が4μm以下の極細繊維を40mass%以下(0mass%を除く)とから構成され、前記複合高強度ポリプロピレン系繊維が融着した不織布からなり、平均5%モジュラス強度が30~100N/5cm幅であることを特徴とする電池用セパレータ。」(特許文献1)を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のセパレータは、セパレータと極板を重ね、圧力をかけて電気化学素子を製造する際に、極板の端部とセパレータの間に大きな力がかかってセパレータが切断されることにより、短絡が起こるおそれがあった。
【0007】
以上は電気化学素子用セパレータに関する問題であるが、電気化学素子用セパレータ以外にも、外力によって不織布が切断及び破断されるおそれがあった。例えば、フィルターを機器に巻きつけて取り付ける際にフィルターに張力がかかり、フィルターが破断されるおそれがあった。
【0008】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有する不織布、及びこの不織布を使用した電気化学素子用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の不織布は、繊維表面に融着成分を備えたポリオレフィン系複合融着繊維を含み、前記複合融着繊維が融着しており、縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計が6.5N/50mm以上である。
【0010】
前記ポリオレフィン系複合融着繊維のヤング率が60cN/dtex以上であるのが好ましい。また、前記ポリオレフィン系複合融着繊維の引張り強さが5.0cN/dtex以上であるのが好ましい。更に、前記ポリオレフィン系複合融着繊維の伸度が15%~35%であるのが好ましい。
【0011】
前記不織布には、平均繊維径が4μm以下の極細繊維を含むことが好ましい。
【0012】
前記不織布の最大孔径が40μm以下であるのが好ましい。また、前記不織布の縦方向の5%モジュラス強度が30~100N/50mmであるのが好ましい。更に、前記不織布の空隙率が45~85%であるのが好ましい。更に、前記不織布の単位目付あたりのニードル式耐貫通力が21gf以上であるのが好ましい。更に、前記不織布の単位目付あたりのカッター式耐貫通力が21gf以上であるのが好ましい。更に、前記不織布に無機粒子が含まれているのが好ましい。
【0013】
本発明の電気化学素子用セパレータは、前記不織布から構成されている。
【0014】
前記電気化学素子用セパレータの厚さ保持率が92%以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の不織布は、縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計が6.5N/50mm以上であることにより、前記不織布の構成繊維の外力に対する強度が高く、前記不織布が外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有する。
【0016】
また、前記ポリオレフィン系複合融着繊維のヤング率が60cN/dtex以上であることにより、ポリオレフィン系複合融着繊維が圧力によって変形しにくいため、前記不織布が外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有し、また前記不織布が圧力によって潰れにくい。
【0017】
更に、前記ポリオレフィン系複合融着繊維の引張り強さが5.0cN/dtex以上であることにより、ポリオレフィン系複合融着繊維が外力によって破断されにくいことから、前記不織布が外力によって破断されにくい機械的強度を有する。
【0018】
更に、前記ポリオレフィン系複合融着繊維の伸度が15~35%であることにより、前記不織布が外力により引張られても適度に伸びることから、外力によって破断されにくい機械的強度を有する。
【0019】
更に、前記不織布に平均繊維径が4μm以下の極細繊維を含むことにより、前記不織布は緻密な構造をとることができるため、電気絶縁性、分離性能、液体保持性、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れている。
【0020】
更に、前記不織布の最大孔径が40μm以下であることにより、前記不織布は緻密な構造であることから、電気絶縁性、分離性能、液体保持性、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れている。
【0021】
更に、前記不織布の縦方向の5%モジュラス強度が30~100N/50mmであることにより、前記不織布の最低限の機械的強度は確保しつつ、ある程度の構造的柔軟性を備えていることによって、不織布製造時にずれ(例えば巻きずれ)が生じにくい。
【0022】
更に、前記不織布の空隙率が45~85%であることにより、前記不織布は空隙が多いことによって、イオン透過性、気体透過性、液体透過性、液体保持性などの各種性能に優れている。
【0023】
更に、前記不織布の単位目付あたりのニードル式耐貫通力が21gf以上であることにより、前記不織布が外力によって破断されにくい機械的強度を有する。
【0024】
更に、前記不織布の単位目付あたりのカッター式耐貫通力が21gf以上であることにより、前記不織布が外力によって切断されにくい機械的強度を有する。
【0025】
更に、前記不織布に無機粒子が含まれていることによって、前記不織布の比表面積が大きくなり、また表面が緻密な構造になることから電気絶縁性、分離性能、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れている。
【0026】
更に、前記不織布から構成された電気化学素子用セパレータは、外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有することから、電気化学素子の極板のバリによってセパレータが貫通したり、電気化学素子の極板によってセパレータが切断されたりすることによる短絡が起こりにくい。
【0027】
更に、前記電気化学素子用セパレータの厚さ保持率が92%以上であることにより、前記電気化学素子用セパレータに外圧がかかっても前記電気化学素子用セパレータの構造が維持できることから、電解液保持性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の不織布は、繊維表面に融着成分を備えたポリオレフィン系複合融着繊維を含み、前記複合融着繊維が融着しており、縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計が6.5N/50mm以上である。これにより、不織布の構成繊維の外力に対する強度が高く、外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有する不織布が実現できることを見出した。なお、不織布のゼロスパンによる引張り強さを測定する理由としては、ゼロスパンによる引張り強さを測定することで不織布の構成繊維の強度に相当する値を測定することができるためである。また、縦方向及び横方向のゼロスパンによる引張り強さの合計で評価する理由としては、不織布の構成繊維の配向にばらつきがあり、一方向のみ引張り強さを測定すると配向による測定結果のずれが懸念されるが、縦方向及び横方向の合計とすることで配向による測定結果のずれを小さくできるためである。更に、「単位目付あたりの」ゼロスパンによる引張り強さを評価する理由は、目付と不織布の構成繊維の本数は一般的に比例関係にあり、単位目付あたりに換算することで、不織布の構成繊維一定本数あたりの引張り強さで物性を評価することができ、不織布の構成繊維の強度を評価できるためである。
【0029】
不織布の縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計が高ければ高いほど、外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有することから、不織布の縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計は、6.7N/50mm以上がより好ましく、7.0N/50mm以上が更に好ましい。前記単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計の上限は特に限定するものではないが、20N/50mm程度が適当である。
【0030】
また、本発明における「縦方向」は、不織布の長手方向であり、「横方向」は、前記縦方向に直交する幅方向である。
【0031】
なお、単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの測定方法は、以下の通りである。
(1)不織布から、縦方向に200mm、横方向に50mmの長方形状に不織布試料を採取する(縦方向の不織布試料)。同様に不織布から、縦方向に50mm、横方向に200mmの長方形状に不織布試料を採取する(横方向の不織布試料)。
(2)前記縦方向の不織布試料及び横方向の不織布試料を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:2mm、引張速度100mm/分)へ供し、不織布試料が破断するまで引張った時の強度を測定する。前記測定を任意に選んだ縦方向及び横方向の不織布試料各3点に関して行い、この各3点の算術平均値を縦方向及び横方向のゼロスパンによる引張り強さ(N/50mm)とする。
(3)(2)で求めた縦方向及び横方向のゼロスパンによる引張り強さを、不織布の目付(g/m2)で除すことにより、縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さ(N・m
2
)/(50mm・g)を求める。なお、この「目付」は、JIS P 8124(紙及び板紙-坪量測定方法):2011に規定する方法に基づいて得られる坪量をいう。
【0032】
このような本発明の不織布を構成するポリオレフィン系複合融着繊維は、耐薬品性に優れるポリオレフィン系樹脂から構成されている。また、繊維表面に融着成分を備える繊維であり、この融着成分が融着していることによって不織布構造を維持している。このポリオレフィン系複合融着繊維は、融着成分以外に融着成分の融着温度では融着しない非融着成分を含んでおり、融着成分が融着しても繊維形態を維持しているため、外力によって破断されにくい機械的強度を有する。
【0033】
ポリオレフィン系複合融着繊維の融着成分の繊維表面(両端部を除く)に占める割合は特に限定するものではないが、高ければ高い程、融着に関与できる融着成分が多く、不織布の形態安定性に寄与できるため、融着成分は繊維表面(両端部を除く)の50%以上を占めているのが好ましく、70%以上を占めているのがより好ましく、90%以上を占めているのが更に好ましく、融着成分のみ(100%)が繊維表面(両端部を除く)を構成しているのが最も好ましい。
【0034】
このようなポリオレフィン系複合融着繊維の融着成分と非融着成分の横断面における配置状態としては、例えば、芯鞘状、偏芯状、海島状、サイドバイサイド状、オレンジ状、多重積層状を挙げることができ、特に、融着成分のみ(100%)が繊維表面(両端部を除く)を構成できる、芯鞘状、偏芯状、又は海島状であるのが好ましい。
【0035】
なお、ポリオレフィン系複合融着繊維における融着成分と非融着成分との体積比率は特に限定するものではないが、融着に関与できる融着成分が多く、不織布の形態安定性に寄与でき、また、ポリオレフィン系複合融着繊維自体の強度を維持できるように、(融着成分):(非融着成分)=15:85~85:15であるのが好ましく、(融着成分):(非融着成分)=20:80~70:30であるのがより好ましく、(融着成分):(非融着成分)=23:77~55:45であるのが更に好ましく、(融着成分):(非融着成分)=25:75~45:55であるのが特に好ましい。
【0036】
また、融着成分は非融着成分よりも融点が低ければ良いが、融着成分のみを融着させて、ポリオレフィン系複合融着繊維の繊維形態を維持しやすいように、融着成分の融点は非融着成分の融点よりも10℃以上低いのが好ましく、20℃以上低いのがより好ましく、30℃以上低いのが更に好ましい。
【0037】
ポリオレフィン系複合融着繊維は、ポリオレフィン系樹脂から構成されていればどのような樹脂成分から構成されていても良いが、例えばポリオレフィン系複合融着繊維が融着成分と非融着成分の2種類の樹脂成分から構成されている場合、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリメチルペンテン、ポリプロピレン/ポリメチルペンテン、プロピレン共重合体/ポリメチルペンテン、エチレン系共重合体/ポリメチルペンテン、エチレン系共重合体/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレンなどを挙げることができる。
【0038】
特に、ポリオレフィン系複合融着繊維として、ヤング率が60cN/dtex以上のポリオレフィン系複合融着繊維を含んでいると、ポリオレフィン系複合融着繊維が圧力によって変形しにくいため、不織布が外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有し、また前記不織布が圧力によって潰れにくいことから好ましい。
【0039】
ポリオレフィン系複合融着繊維のヤング率が高ければ高いほど、より不織布が機械的強度を有することから、65cN/dtex以上がより好ましく、70cN/dtex以上が更に好ましい。ヤング率の上限は特に限定するものではないが、110cN/dtex程度が適当である。
【0040】
なお、本発明におけるヤング率は、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法):2010、8.11項に規定されている方法により測定した初期引張抵抗度から算出した見掛ヤング率の値を意味する。なお、初期引張抵抗度は定速緊張形試験機によって測定した値をいう。
【0041】
また、ポリオレフィン系複合融着繊維として、引張り強さが5.0cN/dtex以上のポリオレフィン系複合融着繊維を含んでいると、ポリオレフィン系複合融着繊維が圧力によって変形しにくいため、不織布が外力によって破断されにくい機械的強度を有することから好ましい。
【0042】
ポリオレフィン系複合融着繊維の引張り強さが高ければ高いほど、より不織布が機械的強度を有することから、5.5N/dtex以上がより好ましく、6.0cN/dtex以上が更に好ましく、6.5cN/dtex以上が特に好ましい。引張り強さの上限は特に限定するものではないが、50cN/dtex程度が適当である。
【0043】
更に、ポリオレフィン系複合融着繊維の伸度が高いと、不織布が外力によって引張られても適度に伸び、外力によって破断されにくい機械的強度を有することから、前記伸度は15%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、25%以上が更に好ましい。一方、ポリオレフィン系複合融着繊維の伸度が高すぎると、不織布が伸びやすく、形態安定性が悪くなるおそれがあるため、35%以下が好ましく、32%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましい。
【0044】
なお、本発明における繊維の引張り強さ及び伸度は、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法):2010、8.7.1項に規定されている方法により測定される値を意味する。
【0045】
上述のようなヤング率、引張り強さ、及び/または伸度を満たすポリオレフィン系複合融着繊維は上述のようなポリオレフィン系樹脂から構成することができるが、比較的剛性が高く、圧力によって潰れにくく、不織布の空隙を維持しやすいポリプロピレンを含んでいるのが好ましい。また、ポリプロピレンを融着させることなく融着しやすいポリエチレンを含んでいるのが好ましい。したがって、ポリオレフィン系複合融着繊維はポリエチレン/ポリプロピレンから構成されているのが好ましい。
【0046】
このポリオレフィン系複合融着繊維を構成できるポリプロプレンはプロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンとα-オレフィン(例えばエチレン、1-ブテンなど)との共重合体であることができる。より具体的には、結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン-プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、さらに前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部または共重合部が、さらに1-ブテンなどのα-オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体などを挙げることができる。これらの中でもアイソタクチックポリプロピレン単独重合体が強度の点から好適であり、このようなポリプロピレンは、チーグラー・ナッタ型触媒、あるいはメタロセン系触媒などを用いて、プロピレンを単独重合又はプロピレンと他のα-オレフィンとを共重合させて得ることができる。
【0047】
ポリオレフィン系複合融着繊維の一方の成分であるポリエチレンは、例えば、高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体などを挙げることができる。これらの中でも、高密度ポリエチレンはある程度硬く、張りや腰のある不織布とすることができ、取り扱い性に優れる不織布とすることができるため好適である。
【0048】
このような本発明で用いることのできるポリオレフィン系複合融着繊維は、例えば、特開平11-350283号公報又は特開2002-180330号公報に記載されているように、未延伸糸を加圧飽和水蒸気中で延伸することにより得ることができる。
【0049】
ポリオレフィン系複合融着繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、ポリオレフィン系複合融着繊維が均一に分散し、また不織布の機械的強度に優れるように、3~17μmが好ましく、5~15μmがより好ましく、7~13μmが更に好ましい。本発明における「平均繊維径」とは、無作為に選んだ50本の繊維の繊維径の数平均繊維径をいう。なお、「繊維径」は、繊維の横断面形状が円形である場合にはその直径をいい、円形以外の場合には、横断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0050】
また、ポリオレフィン系複合融着繊維の繊維長は特に限定するものではないが、ポリオレフィン系複合融着繊維が均一に分散し、また不織布の機械的強度に優れるように、0.1~25mmであるのが好ましく、1~10mmであるのがより好ましく、2~5mmであるのが更に好ましい。なお、本発明における繊維長は、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法):2010、8.4項のB法(補正ステープルダイヤグラム法)に規定されている方法により測定される長さを意味する。
【0051】
なお、本発明の不織布においては、ポリオレフィン系複合融着繊維として、樹脂成分数、樹脂成分、ヤング率、引張り強さ、伸度、平均繊維径、繊維長など1点以上が異なる2種類以上のポリオレフィン系複合融着繊維を含んでいても良い。
【0052】
このようなポリオレフィン系複合融着繊維は融着していることによって、不織布構造を維持できるように、不織布中、20mass%以上の量で含まれているのが好ましく、50mass%以上の量で含まれていることがより好ましく、70mass%以上の量で含まれていることが更に好ましい。
【0053】
本発明の不織布は、上述のようなポリオレフィン系複合融着繊維に加えて、平均繊維径が4μm以下の極細繊維を含んでいると、不織布が緻密な構造をとることができ、電気絶縁性、分離性能、液体保持性、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れることから好ましい。
【0054】
この極細繊維は平均繊維径が小さければ小さいほど、不織布がより緻密な構造をとることができることから、極細繊維の平均繊維径は3μm以下がより好ましく、2μm以下が更に好ましい。極細繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.1μm程度が適当である。
【0055】
なお、各極細繊維の繊維径は、ほぼ同じであるのが好ましい。各極細繊維の繊維径がほぼ同じであると、大きさの揃った空隙を形成しやすく、不織布の電気絶縁性、分離性能、液体保持性、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れるためである。具体的には、極細繊維の繊維径分布の標準偏差値(σ)を、極細繊維の平均繊維径(d)で除した値(σ/d)が0.2以下(より好ましくは0.18以下)であるのが好ましい。なお、極細繊維の繊維径が全て同じである場合には標準偏差値(σ)が0になるため、前記値(σ/d)の下限値は0である。なお、極細繊維の標準偏差値(σ)は、計測したn本(100本)のそれぞれの極細繊維の繊維径(X)から、次の式によって算出した値である。
標準偏差={(nΣX2-(ΣX)2)/n(n-1)}1/2
【0056】
本発明の極細繊維を得る方法としては、例えば、2種類以上の樹脂成分からなり、外力によって分割可能な外力型分割繊維を分割することによって、又は2種類以上の樹脂成分からなり、化学的作用によって分割可能な化学型分割繊維を分割することによって得ることができる。前記外力型分割繊維を分割できる外力としては、例えば、水流などの流体流、カレンダー、リファイナー、パルパー、ミキサー、ビーターなどを挙げることができる。他方、化学的処理としては、例えば、溶剤による樹脂成分の除去や、溶剤による樹脂成分の膨潤などがある。これらの中でも、化学型分割繊維を分割して得た極細繊維は、長さ方向における繊維径がほぼ同じ、かつ複数の極細繊維間においても繊維径がほぼ同じで、不織布中において均一に分散して、大きさの揃った空隙を形成しやすく、不織布の電気絶縁性、分離性能、液体保持性、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れるため好適である。
【0057】
好適である化学型分割繊維としては、2種類以上の樹脂成分からなり、繊維横断面における配置状態が海島状の繊維が挙げられる。このような海島状の繊維は混合紡糸法又は複合紡糸法によって製造することができるが、複合紡糸法によって製造した海島状の繊維の海成分を除去して発生させた島成分からなる個々の極細繊維は、長さ方向における繊維径がほぼ同じ、かつ複数の極細繊維間においても繊維径がほぼ同じで、大きさの揃った空隙を形成しやすく、不織布の電気絶縁性、分離性能、液体保持性、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れるため好適である。後述の通り、極細繊維はポリオレフィン系樹脂及び/又はナイロン系樹脂を含んでいるのが好ましいため、化学型分割繊維の島成分はポリオレフィン系樹脂及び/又はナイロン系樹脂を含んでいるのが好ましい。特に、耐薬品性に優れるように、ポリオレフィン系樹脂成分のみからなる島成分を有する化学型分割繊維が好ましい。
【0058】
この極細繊維を構成する樹脂成分は特に限定するものではないが、耐薬品性に優れているように、耐薬品性の樹脂成分から構成されているのが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのナイロン系樹脂の、1種類又は2種類以上から構成されているのが好ましい。これらの中でも、特に耐薬品性に優れているポリオレフィン系樹脂を含んでいるのが好ましく、特に、ポリプロピレンは比較的剛性が高く、圧力によって潰れにくく、不織布の空隙を維持しやすいため好適である。
【0059】
なお、極細繊維は1種類の樹脂成分から構成されている必要はなく、融点の相違する2種類以上の樹脂成分から構成されていても良い。融点の相違(好ましい融点差は10℃以上、より好ましくは20℃以上)する2種類以上の樹脂成分から構成された極細繊維が、低融点の樹脂成分によって接着していると、極細繊維のずれを防止し、極細繊維の分散状態を維持でき、不織布の電気絶縁性、分離性能、液体保持性、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れるため好適である。例えば、極細繊維はポリプロピレンとポリエチレンから構成することができる。
【0060】
なお、極細繊維は機械的強度に優れ、圧力によっても潰れにくく、不織布形態を維持しやすいように、延伸した状態にあるのが好ましい。この「延伸した状態」とは、繊維形成後に機械的に延伸されていることを意味し、メルトブロー法により形成された繊維は加熱エアによって延伸されているものの、機械的に延伸されていないため、延伸した状態にはない。なお、外力型分割繊維や化学型分割繊維が分割前の段階で機械的に延伸されていれば、これら分割繊維から発生した極細繊維は延伸した状態にある。
【0061】
本発明の極細繊維の繊維長は特に限定するものではないが、極細繊維が均一に分散して、大きさの揃った空隙を形成できるように、0.1~25mmであるのが好ましく、1~10mmであるのがより好ましく、2~5mmであるのが更に好ましい。
【0062】
なお、極細繊維の束が存在すると、極細繊維が均一に分散することができず、大きさの揃った空隙を形成できなくなる傾向があるため、極細繊維は束の状態で存在せず、個々の極細繊維が分散した状態にあるのが好ましい。
【0063】
このような極細繊維は均一に分散し、不織布が緻密な構造を実現できるように、不織布中、5mass%以上の量で含まれているのが好ましく、10mass%以上の量で含まれていることがより好ましく、15mass%以上の量で含まれていることが更に好ましい。一方で、極細繊維が多すぎると、ポリオレフィン系複合融着繊維の融着によって不織布の構造を維持するのが困難になり、また、不織布の機械的強度が弱くなるおそれがあることから、80mass%以下の量で含まれているのが好ましく、50mass%以下の量で含まれているのがより好ましく、30mass%以下の量で含まれているのが更に好ましい。
【0064】
本発明の不織布は基本的に、上述のようなポリオレフィン系複合融着繊維のみ、又は、ポリオレフィン系複合融着繊維と極細繊維とからなるが、これらの繊維以外のほかの繊維を含むことができる。例えば、平均繊維径が4.0μmを超えるものの、融着に関与しない非融着繊維、平均繊維径が4.0μmを超え、融着に関与するものの、単一樹脂成分からなる単一融着繊維を含むことができる。なお、非融着繊維、単一融着繊維は均一に分散できるように、平均繊維径が4.0μmを超え17μm以下であるのが好ましい。また、非融着繊維はポリオレフィン系複合融着繊維の融着成分の融点よりも10℃以上高い融点を有する樹脂成分を繊維表面に備えているのが好ましく、単一融着繊維はポリオレフィン系複合融着繊維の融着成分の融点±10℃の融点を有する樹脂成分からなるのが好ましく、非融着繊維、単一融着繊維のいずれも、ポリオレフィン系複合融着繊維と同様のポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましい。なお、非融着繊維は引張り強さが5.0cN/dtex以上のポリオレフィン系樹脂成分から構成することができる。更に、非融着繊維、単一融着繊維のいずれも、均一に分散できるように、繊維長は0.01~25mmであるのが好ましい。なお、これら非融着繊維及び/又は単一融着繊維はポリオレフィン系複合融着繊維と極細繊維の作用を損なわないように、不織布中、含まれていても最大75mass%である。
【0065】
本発明の不織布は、ポリオレフィン系複合融着繊維が融着していることによって不織布形態を維持している。このように、ポリオレフィン系複合融着繊維自体が融着しているため、不織布に圧力が加わったとしても、ポリオレフィン系複合融着繊維のずれが生じにくいため、不織布の機械的強度に優れる。また、極細繊維も融着していると、不織布から極細繊維が脱落したり、不織布が毛羽立ったりすることがないため好適である。
【0066】
特に、本発明の不織布が、繊維(ポリオレフィン系複合融着繊維、場合により極細繊維を含む)の融着のみによって固定されているのが好ましい。このように繊維(特にポリオレフィン系複合融着繊維)の融着のみによって固定されていると、不織布内での繊維のバラつきが少なく、各種用途に使用した際に好適であるためである。例えば、融着以外に絡合によって固定されていると、絡合させるための作用(例えば、水流などの流体流)によって、不織布の表面から裏面への貫通孔が形成される傾向があるが、融着のみによって固定されていれば、融着する際に繊維の配置が乱れないため貫通孔が形成されにくくなる。なお、不織布を製造する際に、絡合処理を実施しなくても繊維が絡むことがある。例えば、乾式法又は湿式法により繊維ウエブを形成した場合に、繊維ウエブは形態をある程度保つことができるため、少なくとも繊維同士が絡んだ状態にある。しかしながら、この絡合は、上述の流体流による絡合のように、繊維の配置を乱す絡合ではないため、絡合していないものとみなす。このように、「繊維の融着のみ」とは、繊維ウエブを形成した後における繊維同士の固定が融着のみによってなされている状態をいう。
【0067】
本発明の不織布は、緻密な構造をとり、また地合いが均一であるように、最大孔径が40μm以下であるのが好ましく、20μm以下であるのがより好ましく、15μm以下であるのが更に好ましい。また、平均孔径は特に限定するものではないが、20μm以下であるのが好ましく、15μm以下であるのがより好ましく、10μm以下であるのが更に好ましい。この「最大孔径」、「平均孔径」は、ポロメータ〔Polometer,コールター(Coulter)社製〕を用いてバブルポイント法により測定される値をいう。
【0068】
本発明の不織布は、縦方向の5%モジュラス強度が30~100N/50mmであると、最低限の機械的強度は確保しつつ、ある程度の構造的柔軟性を備え、不織布製造時や不織布を機器に組み込む際にずれ(例えば巻きずれ)を生じにくい傾向がある。つまり、このような5%モジュラス強度を有することによって、ポリオレフィン系複合融着繊維を多く使用した場合の弊害をなくし、不織布の生産性を向上でき、また不織布の取り扱い性がよくなり好ましい。なお、「縦方向」の5%モジュラス強度で評価する理由としては、不織布製造時、不織布を巻き取る際に縦方向に外力がかかるため、また、不織布を電気化学素子やフィルター等の機器に組み込む際に、縦方向に不織布を引張って組み込むためである。
【0069】
本発明の不織布の縦方向の5%モジュラス強度は、最低限の機械的強度を確保できるように、32N/50mm以上であるのがより好ましく、35N/50mm以上であるのが更に好ましい。一方で、ある程度の構造的柔軟性を備えていることによって、不織布製造時にずれ(例えば巻きずれ)を生じにくいように、95N/50mm以下であるのがより好ましく、90N/50mm以下であるのが更に好ましい。
【0070】
なお、不織布の縦方向に直交する横方向の平均5%モジュラス強度は特に限定するものではないが、10N/50mm以上であるのが好ましく、15N/50mm以上であるのがより好ましく、20N/50mm以上であるのが更に好ましい。引張り強さの上限についても特に限定するものではないが、150N/50mm以下が現実的である。
【0071】
なお、5%モジュラス強度の測定方法は、以下の通りである。
(1)不織布から、縦方向に200mm、横方向に50mmの長方形状に不織布試料を採取する(縦方向の不織布試料)。同様に不織布から、縦方向に50mm、横方向に200mmの長方形状に不織布試料を採取する(横方向の不織布試料)。
(2)前記縦方向の不織布試料及び横方向の不織布試料を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:100mm、引張速度300mm/分)へ供し、5mm(5%)引張った時の強度(N/50mm)を測定する。前記測定を任意に選んだ縦方向及び横方向の不織布試料各3点に関して行い、この各3点の算術平均値を縦方向及び横方向の5%モジュラス強度とする。
【0072】
本発明の不織布の縦方向の引張り強度(MD)は、引張り強度が高ければ高いほど、繊維間の接着強度が強く、機械的強度に優れた不織布であるため、10N/50mm以上であるのが好ましく、30N/50mm以上であるのがより好ましく、50N/50mm以上であるのが更に好ましい。引張り強度の上限については特に限定するものではないが、500N/50mm以下が現実的である。
【0073】
なお、不織布の縦方向に直交する横方向の引張り強度(CD)は特に限定するものではないが、2N/50mm以上であるのが好ましく、5N/50mm以上であるのがより好ましく、10N/50mm以上であるのが更に好ましい。引張り強さの上限についても特に限定するものではないが、250N/50mm以下が現実的である。
【0074】
なお、引張り強度の測定方法は、以下の通りである。
(1)不織布から、縦方向に200mm、横方向に50mmの長方形状に不織布試料を採取する(縦方向の不織布試料)。同様に不織布から、縦方向に50mm、横方向に200mmの長方形状に不織布試料を採取する(横方向の不織布試料)。
(2)前記縦方向の不織布試料及び横方向の不織布試料を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:100mm、引張速度:300mm/分)へ供し、不織布試料が破断するまで引張った時の最大強度を測定する。前記測定を任意に選んだ縦方向及び横方向の不織布試料各3点に関して行い、この各3点の算術平均値を縦方向及び横方向の引張り強度(N/50mm)とする。
【0075】
本発明の不織布の横方向の引張り強度(CD)に対する縦方向の引張り強度(MD)の比率である、引張り強度の縦横比(MD/CD)は、前記比率が高ければ高いほど、不織布使用時に外力がかかった際に、不織布が変形及び破断しにくく取り扱い性に優れる一方、前記比率が高すぎると、不織布の構成繊維が極度に一方向に配向しており、不織布に外力がかかった際に繊維の配向方向に裂けやすい上に厚さ方向に潰れやすく、例えば不織布を電気化学素子用セパレータとして用いた際に、電気化学素子の極板のバリが不織布を突き抜け短絡が起こりやすく、また、不織布の保液性が劣る傾向があることから、引張り強度の縦横比(MD/CD)は、1.2~5.3が好ましく、2.0~5.3であるのがより好ましく、3.0~5.0であるのが更に好ましく、3.5~4.8であるのが特に好ましい。
【0076】
本発明の不織布の目付は、目付が小さいほど結果として不織布の厚さが薄くなり、イオン透過性、気体透過性、液体透過性に優れることから、60g/m2以下が好ましく、50g/m2以下がより好ましく、40g/m2以下が更に好ましい。目付の下限は、不織布が機械的強度に優れているように、4g/m2以上であるのが好ましい。
【0077】
同様に、本発明の不織布の厚さは、厚さが薄いほどイオン透過性、気体透過性、液体透過性に優れることから、150μm以下であるのが好ましく、100μm以下であるのがより好ましく、80μm以下であるのが更に好ましい。厚さの下限は、不織布が機械的強度に優れているように、5μm以上が好ましい。なお、この「厚さ」は、4N荷重時の外側マイクロメーターによる測定値をいう。
【0078】
本発明の不織布はイオン透過性、気体透過性、液体透過性、液体保持性などの各種性能に優れるように、不織布の空隙率は45~85%であるのが好ましく、50~85%であるのがより好ましく、55~80%であるのが更に好ましく、60~70%であるのが特に好ましい。この「空隙率(P)」(単位:%)は次の式から得られる値をいう。
P=100-(Fr1+Fr2+・・+Frn)
ここで、Frnは不織布を構成するn成分の充填率(単位:%)を示し、次の式から得られる値をいう。
Frn={(M×Prn)/(T×SGn)}×100
ここで、Mは不織布の目付(単位:g/cm2)、Tは不織布の厚さ(単位:cm)、Prnは不織布におけるn成分の存在質量比率、SGnはn成分の密度(単位:g/cm3)をそれぞれ意味する。
【0079】
本発明の不織布は、機械的強度に優れるように、前記不織布のニードル式耐貫通力を前記不織布の目付で除した、不織布の単位目付あたりのニードル式耐貫通力が0.20593965(N・m
2
/g)(21(gf・m
2
/g))以上であるのが好ましい。これにより、例えば不織布を電気化学素子用セパレータに用いた際に、電気化学素子の極板のバリが不織布を突き抜け短絡が起こりにくく、また、不織布を濾材としてフィルターに用いた際に、フィルターを構成する濾材に異物が刺さって穴が開きにくい。なお、「単位目付あたりの」耐貫通力を評価する理由は、単位目付あたりに換算することで、不織布の構成繊維一定重量あたりの耐貫通力で物性を評価することができ、不織布の構成繊維の強度を評価できるためである。
【0080】
この不織布の単位目付あたりのニードル式耐貫通力が高ければ高いほど、不織布が外力によって破断されにくい機械的強度を有することから、前記単位目付あたりのニードル式耐貫通力は0.21574630(N・m
2
/g)(22(gf・m
2
/g))以上がより好ましく、0.22555295(N・m
2
/g)(23(gf・m
2
/g))以上が更に好ましい。
【0081】
なお、ニードル式耐貫通力の測定方法は、以下の通りである。
まず、円筒状貫通孔(内径:11mm)を有する支持台上に、円筒状貫通孔を覆うように不織布を1枚載置し、更に不織布上に、円筒状貫通孔(内径:11mm)を有する固定材を、前記支持台の円筒状貫通孔の中心と一致するように載置して不織布を固定する。次に、不織布に対して、ハンディー圧縮試験機(カトーテック製、KES-G5)に取り付けられたニードル(先端部における曲率半径:0.5mm、直径:1mm、治具からの突出長さ:2cm)を、0.1cm/sの速度で垂直に突き刺し、ニードルが突き抜けるのに要する力を測定する。この測定を10回行い、その算術平均値をニードル式耐貫通力とする。
また、単位目付あたりのニードル式耐貫通力は、上記方法で測定したニードル式耐貫通力を、不織布の目付(g/m2)で除すことにより、単位目付あたりのニードル式耐貫通力(N・m
2
/g)を求める。
【0082】
本発明の不織布は、機械的強度に優れるように、前記不織布のニードル式耐貫通力を、前記不織布の目付及び前記不織布を構成する繊維の平均繊維径で除した、単位目付及び平均繊維径あたりのニードル式耐貫通力が0.053936575(N・m
2
/(g・μm))(5.5(gf・m
2
/(g・μm)))以上であるのが好ましい。これにより、例えば不織布を電気化学素子用セパレータに用いた際に、電気化学素子の極板のバリが不織布を突き抜け短絡が起こりにくく、また、不織布を濾材としてフィルターに用いた際に、フィルターを構成する濾材に異物が刺さっても穴が開きにくい。なお、「単位目付及び平均繊維径あたりの」耐貫通力を評価する理由は、単位目付及び平均繊維径あたりの耐貫通力に換算することで、不織布の構成繊維一定重量あたりの耐貫通力で物性を評価することができ、かつ、構成繊維の平均繊維径以外の耐貫通力に関わる要因、例えば、構成繊維同士の接着状態や、構成繊維の配向性、構成繊維を構成する樹脂の強度などによる耐貫通力への影響を評価することができるためである。
【0083】
この不織布の単位目付及び平均繊維径あたりのニードル式耐貫通力が高ければ高いほど、不織布が外力によって破断されにくい機械的強度を有することから、前記単位目付及び平均繊維径あたりのニードル式耐貫通力は0.059820565(N・m
2
/(g・μm))(6.1(gf・m
2
/(g・μm)))以上がより好ましく、0.061781895(N・m
2
/(g・μm))(6.3(gf・m
2
/(g・μm)))以上が更に好ましい。
【0084】
この単位目付及び平均繊維径あたりのニードル式耐貫通力は、上記方法で測定したニードル式耐貫通力を、不織布の目付(g/m2)及び平均繊維径(μm)で除すことにより、単位目付及び平均繊維径あたりのニードル式耐貫通力(N・m
2
/(g・μm))を求める。
【0085】
この不織布を構成する繊維の「平均繊維径」(D)は次の式から算出される値をいう。
【数1】
【0086】
ここで、xiは各繊維の不織布における存在百分率(単位:%)、Diは各繊維の平均繊維径(単位:μm)、ρiは各繊維を構成する樹脂の比重、ρAVは次の式から算出される、繊維を構成する各繊維の平均密度を、それぞれ意味する。
【0087】
例えば、平均繊維径がD
A(μm)で、樹脂
密度がρ
Aのポリオレフィン系複合融着繊維をX
Amass%と、平均繊維径がD
B(μm)で、樹脂比重がρ
Bの極細繊維をX
Bmass%とが、不織布中に存在している場合、不織布構成繊維の平均繊維径(D)は、次の式から算出される値をいう。
【数3】
【0088】
なお、平均
密度であるρ
AVは次の式から算出される値である。
【数4】
【0089】
本発明の不織布は、機械的強度に優れるように、前記不織布の単位目付あたりのカッター式耐貫通力が0.20593965(N・m
2
/g)(21(gf・m
2
/g))以上であるのが好ましい。これにより、例えば不織布を電気化学素子用セパレータに用いた際に、電気化学素子の極板で切断されにくく、また、例えば不織布をワイパーに用いた際に、鋭利な部分を拭き取ったときに不織布が切断されにくい。この不織布の単位目付あたりのカッター式耐貫通力が高ければ高いほど、不織布が外力によって切断されにくい機械的強度を有することから、前記単位目付あたりのカッター式耐貫通力は0.22555295(N・m
2
/g)(23(gf・m
2
/g))以上がより好ましく、0.24516625(N・m
2
/g)(25(gf・m
2
/g))以上が更に好ましい。
【0090】
なお、カッター式耐貫通力の測定方法は、以下の通りである。
不織布を重ねて合計約2mmの厚さとし、その一番上の不織布に対して、ハンディー圧縮試験機(カトーテック製、KES-G5)に取り付けられたステンレス製ジグ(厚さ:0.5mm、先端の刃先角度:60°)を、0.01cm/sの速度で垂直に突き刺し、一番上の不織布を切断するのに要する力を測定する。この測定を10回行い、その算術平均値をカッター式耐貫通力とする。
また、単位目付あたりのカッター式耐貫通力は、上記方法で測定したカッター式耐貫通力を、不織布の目付(g/m2)で除すことにより、単位目付あたりのカッター式耐貫通力(N・m
2
/g)を求める。
【0091】
本発明の不織布は、液体保持性を付与又は向上するように、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、放電処理、界面活性剤処理、或いは親水性樹脂付与処理の中から選ばれる親水化処理が施されているのが好ましい。これらの中でも、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、或いは放電処理は、親水性の低下が少なく、長期にわたって不織布の液体保持性が優れるため好適である。
【0092】
本発明の不織布は、不織布の機械的強度が優れるように、一層構造からなるのが好ましい。この「一層構造」とは、同一の繊維配合から構成されていることを意味する。
【0093】
本発明の不織布は、不織布の比表面積が大きくなり、また不織布表面が緻密な構造にでき、電気絶縁性、分離性能、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れることから、無機粒子が含まれているのが好ましい。
【0094】
使用できる無機粒子の種類は、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、アルミナ-シリカ複合酸化物、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、スズ-インジウム酸化物などの無機酸化物が挙げられる。
【0095】
使用する無機粒子の形状は、例えば、球状(略球状や真球状)、繊維状、針状、平板状、多角形立方体状、羽毛状などから適宜選択することができる。
【0096】
本発明で使用できる無機粒子の平均粒子径は適宜調整するが、不織布の空隙に無機粒子が均一に存在することによって不織布の電気絶縁性、分離性能、液体保持性、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れるように、無機粒子の平均粒子径は、10μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのがより好ましく、1μm以下であるのが更に好ましい。無機粒子の平均粒子径の下限は特に限定するものではないが、0.01μm以上が現実的である。
【0097】
なお、無機粒子の平均粒子径は、無機粒子を大塚電子(株)製FPRA1000に供して、動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求める。つまり、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示したデータにおける無機粒子の累積値50%点の粒子径D50(以降、D50と略して称する)を、無機粒子の平均粒子径とする。なお、測定に使用する分散液は温度25℃に調整し、25℃の水を散乱強度のブランクとして用いる。
【0098】
また、無機粒子の粒子径分布は適宜調整するが、粒子径の大きな無機粒子が多数存在する場合には無機粒子が脱落してピンホールが形成され易くなるおそれがあり、粒子径の小さな無機粒子が多数存在する場合には不織布の空隙が閉塞するおそれがある。
【0099】
そのため、無機粒子の粒子径分布は(D50/2)以上(D50×2)以下の範囲内にあるのが好ましい。なお、無機粒子の粒子径分布は上述した動的光散乱法で測定し、測定強度から得られた粒子径測定データから求める。
【0100】
不織布に無機粒子が含まれている場合、無機粒子が含まれている不織布全体に占める無機粒子の割合が大きければ大きいほど、不織布表面が緻密な構造にでき、電気絶縁性、分離性能、払拭性、隠蔽性などの各種性能により優れることから、無機粒子が含まれている不織布全体に占める無機粒子の割合は10mass%以上の量で含まれているのが好ましく、25mass%以上の量で含まれていることがより好ましく、30mass%以上の量で含まれていることが更に好ましい。一方、無機粒子が含まれている不織布全体に占める無機粒子の割合が大きすぎると、不織布の空隙を無機粒子がふさぐため、気体透過性、液体透過性が劣るおそれがあることから、無機粒子が含まれている不織布全体に占める無機粒子の割合は80mass%以下の量で含まれていることが好ましく、70mass%以下の量で含まれていることがより好ましく、50mass%以下の量で含まれていることが更に好ましい。
【0101】
本発明の不織布は、例えば電気化学素子用セパレータ、気体/液体用フィルター、ワイパー等の様々な用途に用いることができる。そのなかでも、一次電池、二次電池(ニッケル水素電池、リチウムイオン電池など)、キャパシタなどの電気化学素子用セパレータとして用いると、本発明の不織布は外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有することから、電気化学素子の極板のバリによってセパレータが貫通したり、電気化学素子の極板によってセパレータが切断したりすることによる短絡が起こりにくいことから特に好ましい。
【0102】
本発明の不織布を用いた電気化学素子用セパレータは、圧力によって潰れ、保持していた電解液を遊離させないように、圧力によっても潰れにくい、圧力に対して抗することのできる電解液保持性の優れるものであるのが好ましい。このような状態は「厚さ保持率」によって表現することができ、厚さ保持率が92%以上であるのが好ましく、93%以上であるのがより好ましく、94%以上であるのが更に好ましい。なお、上限は100%である。この「厚さ保持率(R:%)」は、マイクロメーターにより320kPa荷重時の厚さ(T
320)の、130kPa荷重時の厚さ(T
130)に対する百分率をいう。つまり、次の式により得られる値をいう。
【数5】
なお、130kPa荷重時の厚さと320kPa荷重時の厚さで評価している理由としては、電気化学素子用セパレータを電気化学素子に組み込んだ際に電気化学素子用セパレータにかかる荷重が約130kPa程度であり、電気化学素子の充放電時に電極が膨張し、電気化学素子用セパレータにより圧力がかかった際に、電気化学素子用セパレータにかかる荷重が約320kPa程度であるためである。
【0103】
本発明の不織布は、例えば次のようにして製造することができる。
【0104】
まず、上述のようなポリオレフィン系複合融着繊維と、必要に応じて極細繊維を用意する。
【0105】
次いで、前記繊維を配合して繊維ウエブを形成する。この繊維ウエブの形成方法は特に限定するものではないが、例えば、乾式法(例えば、カード法、エアレイ法など)や湿式法により形成することができる。これらの中でも繊維が均一に分散して繊維ムラの少ない不織布を製造しやすい湿式法により形成するのが好ましい。この湿式法としては、従来公知の方法、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式により形成できる。なお、二層以上を抄き合わせる場合には、一層構造の不織布を製造できるように、同一の繊維配合からなる繊維ウエブを抄き合わせるのが好ましい。
【0106】
次いで、この繊維ウエブを構成するポリオレフィン系複合融着繊維の融着成分を融着(場合により極細繊維の融着成分を融着)させて、本発明の不織布を得ることができる。なお、繊維の配置が乱れて地合いを損なわないように、絡合等を実施することなく、繊維の融着成分の融着処理のみを実施するのが好ましい。融着方法についてはポリオレフィン系複合融着繊維の融着成分によって融着されていれば特に限定するものではないが、例えば繊維ウエブをコンベアで支持し、熱風を吹き付ける方法や、カレンダーによって熱をかける方法等が挙げられる。
【0107】
本発明の不織布に親水化処理を施す場合には、続いて親水化処理を実施する。親水化方法としては、特に限定されるものではないが、例えばスルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合、界面活性剤処理、放電処理、親水性樹脂付与処理などが挙げられる。
【0108】
なお、不織布の厚さが所望厚さでない場合には、適宜厚さを調整するのが好ましい。例えば、一対のロール間を通過させるなどの方法により、厚さを調整するのが好ましい。この厚さ調整は1回である必要はなく、何回でも実施することができる。例えば、融着処理後親水化処理前に1回、親水化処理後に1回実施することができる。
【0109】
また、無機粒子が含まれている不織布を製造する場合、不織布の構成繊維に無機粒子を含ませる方法は特に限定するものではないが、例えば、バインダにより不織布の構成繊維に無機粒子を接着固定する方法を挙げることができる。バインダにより不織布の構成繊維に無機粒子を接着固定する方法は適宜選択できるが、例えば、
1.溶媒あるいは分散媒にバインダと無機粒子を混合してなる塗工液(以降、塗工液と称することがある)を用意し、無機粒子を含む前の不織布を塗工液に浸漬する、
2.無機粒子を含む前の不織布に塗工液をスプレーする、
3.グラビアロールを用いたキスコータ法などの塗工方法を用いて、無機粒子を含む前の不織布の一方の主面あるいは両主面に塗工液を塗布する、
ことを行った後、乾燥して、塗工液中の溶媒や分散媒を除去する方法を挙げることができる。
【0110】
塗工液中の溶媒や分散媒を除去する際の乾燥方法は、適宜選択できるが、例えば、近赤外線ヒータ、遠赤外線ヒータ、また、熱風あるいは送風などにより溶媒あるいは分散媒を除去する方法などを使用できる。また、塗工液を含んだ不織布を、例えば、室温(25℃)に放置する方法、減圧条件下に曝す方法、溶媒あるいは分散媒が揮発可能な温度以上の雰囲気下に曝す方法など、公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0111】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0112】
(ポリオレフィン系複合融着繊維A)
ホモポリプロピレン(融点:168℃)を芯成分(非融着成分)とし、高密度ポリエチレン(融点:135℃)を鞘成分(融着成分)とする、引張り強さが6.5cN/dtex、ヤング率が75cN/dtex、伸度が25%のポリオレフィン系複合融着繊維A(両端部を除いて高密度ポリエチレンが繊維表面を被覆、芯成分と鞘成分の体積比率=65:35、平均繊維径:7.4μm、繊維長:5mm、密度:0.94g/cm3)を用意した。
【0113】
(ポリオレフィン系複合融着繊維B)
ホモポリプロピレン(融点:168℃)を芯成分(非融着成分)とし、高密度ポリエチレン(融点:135℃)を鞘成分(融着成分)とする、引張り強さが6.0cN/dtex、ヤング率が47cN/dtex、伸度が20%のポリオレフィン系複合融着繊維B(両端部を除いて高密度ポリエチレンが繊維表面を被覆、芯成分と鞘成分の体積比率=60:40、平均繊維径:10.5μm、繊維長:5mm、密度:0.94g/cm3)を用意した。
【0114】
(ポリオレフィン系複合融着繊維C)
ホモポリプロピレン(融点:168℃)を芯成分(非融着成分)とし、高密度ポリエチレン(融点:135℃)を鞘成分(融着成分)とする、引張り強さが5.5cN/dtex、ヤング率が57cN/dtex、伸度が10%のポリオレフィン系複合融着繊維C(
両端部を除いて高密度ポリエチレンが繊維表面を被覆、芯成分と鞘成分の体積比率=50:50、平均繊維径:7.4μm、繊維長:5mm、密度:0.94g/cm3)を用意した。
【0115】
(極細繊維)
共重合ポリエステルからなる海成分中に、ポリプロピレンからなる島成分が25個存在し、複合紡糸法により製造した海島型複合繊維(繊度:1.65dtex、繊維長:2mm)を、10mass%水酸化ナトリウム水溶液から成る浴(温度:80℃)中に30分間浸漬し、海島型複合繊維の海成分である共重合ポリエステルを抽出除去して、ポリプロピレン極細繊維(平均繊維径:2μm、融点:172℃、繊維長:2mm、横断面形状:円形、密度:0.91g/cm3)を得た。このポリプロピレン極細繊維は、フィブリル化しておらず、延伸した状態にあり、しかも各繊維が繊維軸方向において実質的に同じ直径を有していた。
【0116】
(実施例1~7、比較例1~2)
ポリオレフィン系複合融着繊維A、B又はCとポリプロピレン極細繊維とを、表1に示す質量割合でスラリー中に分散させ、湿式法(水平長網方式)により、個々のポリオレフィン系複合融着繊維A、B又はC及びポリプロピレン極細繊維が分散した繊維ウエブをそれぞれ形成した。
次いで、前記繊維ウエブをコンベアで支持し、コンベアの下方から吸引して繊維ウエブをコンベアと密着させて搬送しながら、繊維ウエブに対して温度139℃の熱風を10秒間吹きつけ、十分な量の熱風を通過させる無圧下での熱処理を実施するエアスルー法により行い、繊維ウエブの乾燥と同時にポリオレフィン系複合融着繊維A、B又はCの高密度ポリエチレン成分のみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
【0117】
次いで、実施例1、3、6、7及び比較例1の融着繊維ウエブは、プラズマ処理へ供することで、親水化処理した不織布を形成した。
【0118】
実施例2、5、及び比較例2の融着繊維ウエブは、温度60℃の発煙硫酸(15%SO3溶液)によるスルホン化処理へ供することで、親水化処理した不織布を形成した。
【0119】
実施例4の融着繊維ウエブは、フッ素ガス処理へ供することで、親水化処理した不織布を形成した。
【0120】
実施例及び比較例の不織布の繊維組成、親水処理方法、平均繊維径、目付、厚さ、見掛密度(目付を厚さで除した値)、空隙率を、以下の表1に示す。
【表1】
【0121】
また、上述の方法により、縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計、縦方向及び横方向の5%モジュラス強度、縦方向及び横方向の引張り強度(MD、CD)、引張り強度の縦横比(MD/CD)、最大孔径、平均孔径、厚さ保持率、ニードル式/カッター式耐貫通力、単位目付あたりのニードル式/カッター式耐貫通力、単位目付及び平均繊維径あたりのニードル式耐貫通力を測定し、以下の方法により、加圧保液率の測定を行い、不織布の物性を評価した。
【0122】
(加圧保液率の測定)
まず、各不織布を直径30mmの円形に裁断して試験片を調製し、温度20℃、相対湿度65%の状態下で、水分平衡に至らせた後、質量(M0)をそれぞれ測定した。
次に、試験片の空気を水酸化カリウム溶液で置換するように、密度1.3(20℃)の水酸化カリウム溶液に1時間浸漬し、水酸化カリウム溶液を保持させた。
次に、この試験片を上下3枚ずつのろ紙(直径:30mm)で挟み、加圧ポンプにより、5.7MPaの圧力を30秒間作用させた後、試験片の質量(M1)を測定した。
そして、次の式により、加圧保液率を求めた。なお、この測定は1つのセパレータの4枚の試験片について行い、その算術平均を加圧保液率(Rp、単位:%)とした。
Rp=[(M1-M0)/M0]×100
不織布の物性評価結果を、以下の表2に示す。
【0123】
【0124】
実施例1と比較例1の比較、実施例2と比較例2の比較、及び実施例3~7の結果から、縦方向及び横方向の単位目付あたりのゼロスパンによる引張り強さの合計が6.5N/50mm以上であることによって、ニードル及びカッターによる耐貫通力が向上することから、本発明の不織布は機械的強度に優れ、また、本発明の不織布を電気化学素子用セパレータとして用いた際に、電気化学素子の極板のバリによって貫通したり、電気化学素子の極板によってセパレータが切断されたりすることによる短絡が起こりにくいことがわかった。また、ヤング率の高いポリオレフィン系複合融着繊維を用いることによって、ニードル及びカッターによる耐貫通力が向上し、不織布の機械的強度が優れる上、不織布が圧力によってつぶれにくく、これにより厚さ保持率が高いことから、本発明の不織布は液体保持性に優れることがわかった。更に、伸度の高いポリオレフィン系複合融着繊維を用いることによって、ニードル及びカッターによる耐貫通力が向上し、不織布の機械的強度が優れることがわかった。なお、実施例7の不織布は、繊維配合及び親水処理が同じ実施例3の不織布と比べて厚さ保持率、加圧保液率が低いが、この原因は実施例7の不織布の構成繊維が一方向に配列していることにより、比較的構成繊維がランダムに配列している実施例3の不織布に比べて不織布が厚さ方向に潰れやすいためと考えられた。
【0125】
また、実施例3と実施例7の比較から、不織布の引張り強度の縦横比が5.3以下であると、不織布のニードルによる耐貫通力が向上しより機械的強度に優れ、本発明の不織布を電気化学素子用セパレータとして用いた際に、電気化学素子の極板のバリによって貫通することによる短絡が起こりにくいことがわかった。
【0126】
更に、実施例1~6の不織布は、実施例7及び比較例1~2の不織布と比較して、単位目付及び平均繊維径あたりの耐貫通力が高い、機械的強度に優れる不織布であった。この理由は、不織布の構成繊維の配向性、不織布の構成繊維を構成する樹脂の強度などが関連しているものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の不織布は、機械的強度に優れるものであるため、例えば電気化学素子用セパレータ、気体/液体用フィルター、ワイパー等の様々な用途に用いることができる。そのなかでも、一次電池、二次電池(ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池など)、キャパシタなどの電気化学素子用セパレータとして本発明の不織布を用いると、電気化学素子の極板のバリによってセパレータが貫通したり、電気化学素子の極板によってセパレータが切断したりすることによる短絡が起こりにくいことから特に好ましい。また、本発明の不織布を電気化学素子用セパレータに用いる場合、電気化学素子の電極構造は巻回型、積層型であっても使用でき、またその他の形状であっても使用できる。