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特許7488198神経細胞エキソサイトーシスに対して阻害活性を有するペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】神経細胞エキソサイトーシスに対して阻害活性を有するペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20240514BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240514BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240514BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K38/08
A61P21/02
A61P17/00
A61K8/64
A61Q19/08
C12N15/11 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020568963
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2019065219
(87)【国際公開番号】W WO2019238683
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】18177586.7
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592160973
【氏名又は名称】アジェンデ・キミケ・リウニテ・アンジェリニ・フランチェスコ・ア・チ・エレ・ア・エフェ・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】AZIENDE CHIMICHE RIUNITE ANGELINI FRANCESCO A.C.R.A.F.SOCIETA PER AZIONI
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスカ・マンチーニ
(72)【発明者】
【氏名】イサベル・デベサ・ヒネル
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ・フェレル・モンティエル
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリオ・フェルナンデス・バリェステル
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジーナ・マンガノ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ・バルテッラ
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/165299(WO,A2)
【文献】特表2010-507632(JP,A)
【文献】特表2015-514721(JP,A)
【文献】国際公開第2010/115141(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列番号1の配列からなるペプチド、またはその誘導体または塩であって、ここで該誘導体は該ペプチドのN-および/またはC-末端が、アシル基からなる群より選択される有機化合物で化学的に修飾または保護されることを含む、ペプチドまたはその誘導体または塩。
【請求項2】
アシル基が、アセチル、ラウロイル、ミリストリル、およびパルミトイル基からなる群より選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
そのN-末端がアセチルまたはパルミトイル基で化学的に修飾または保護される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
塩が該ペプチドまたはその誘導体と適切な酸または塩基との塩を含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
酸が、塩酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸および乳酸からなる群より選択される、請求項に記載のペプチド。
【請求項6】
酸が、塩酸、酢酸およびトリフルオロ酢酸からなる群より選択される、請求項に記載のペプチド。
【請求項7】
塩基が、モノ-、ジ-およびトリアルキルアミンモノ-、ジ-およびトリアルカノールアミングアニジン、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、ピペラジン、1-ブチルピペリジン、1-エチル-2-メチルピペリジン、N-メチルピペラジン、1,4-ジメチルピペラジン、N-ベンジルフェニルエチルアミン、N-メチルグルコサミン、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、からなる群より選択される、請求項に記載のペプチド。
【請求項8】
該モノ-、ジ-およびトリアルキルアミンが、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、およびエチレンジアミンからなる群より選択される、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
該モノ-、ジ-およびトリアルカノールアミンが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンからなる群より選択される、請求項7に記載のペプチド。
【請求項10】
(i)請求項1~のいずれか一項に記載のペプチド、またはその誘導体または塩、および(ii)少なくとも1つの美容的に許容される成分を含む、化粧用組成物。
【請求項11】
(i)請求項1~のいずれか一項に記載のペプチド、またはその誘導体または塩、および(ii)少なくとも1つの医薬的に許容される成分を含む、医薬組成物。
【請求項12】
神経細胞エキソサイトーシスが介在する皮膚の状態、障害および/または疾患を治療するための医薬の製造における、請求項1~のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項13】
神経細胞エキソサイトーシスが介在する皮膚の状態、障害および/または疾患が、顔面のしわ、運動筋機能障害、過度の発汗、掻痒、皮膚炎症、皮膚炎、アトピー、乾癬、血管過敏症、酒さ、ニキビ、発毛、創傷治癒、タコ、イボ、または皮膚の潰瘍および病変などの敏感な皮膚状態からなる群より選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1~のいずれか一項に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞エキソサイトーシスの阻害能を有するペプチドに、およびかかるペプチドを含む製品、特に神経細胞エキソサイトーシスが介在する、皮膚の状態、障害および/または疾患を改善するのに有用な医薬品および化粧品に言及する。
【背景技術】
【0002】
アセチルコリン(ACh)は、神経筋接合部で、自律神経節、腺神経支配にて、ならびに中枢および末梢神経系内にある種々の部位で、即効型のポイント・ツー・ポイント神経伝達物質である。AChはシナプス前コリン作動性線維の分泌小胞に含まれ、シナプス後コリン作動性膜受容体に対して作用するシナプス間隙へのエキソサイトに供される。神経細胞エキソサイトーシスは、可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(SNARE)ファミリータンパク質によって駆動される、電位トリガーの活動であり、かつCa2+依存性プロセスである。NSF(N-エチルマレイミド感受性融合タンパク質)は、すべての細胞内膜輸送工程に不可欠の6量体ATPaseである。膜輸送におけるその役割において、NSFはSNAP(可溶性NSF付着タンパク質)によって膜に補充され、それは、順次、膜融合の間に形成されるSNARE(SNAP受容体)タンパク質の複合体により補充される。この複合体は、単一小胞のSNARE、シナプスブレビンまたは小胞結合膜タンパク質(VAMP)、およびシンタキシンとSNAP25と称される2つの標的原形質膜によって形成され、小胞ドッキングおよび原形質膜との膜融合と関連付けられる(Kasaiら、Physiol Rev., (2012), 92: 1915-1964)。
【0003】
SNAREタンパク質複合体介在性ドッキングと小胞融合とは、それらが同一の分子機構を共有するため、いずれかの神経伝達物質の分泌を制御する重要な要素である(Purvesら、Neuroscience, 2nd edition, (2001))。とりわけ、Achのように、セロトニン、ヒスタミン、GABA、グルタミン酸、アスパラギン酸、ATP、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリンまたは神経ペプチド(カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、サブスタンスP、ニューロキニン、VIP、ニューロトロフィン、エンドルフィン)が、SNARE依存性機構を通して放出される。
【0004】
ボツリヌス毒素(BoNT)によるSNAREタンパク質の切断は、小胞の融合および神経伝達物質の放出を妨害する(Binzら、Toxins (Basel), (2010), 2(4):665-682)。分子レベルで、ボツリヌス毒素のBoNT/A、/Cおよび/EはSNAP-25を切断し;BoNT/B、/D、/Fおよび/GはVAMPを切断する。唯一、BoNT/Cが、SNAP25とシンタキシンの両方を切断しうる(Schiavoら、Physiol Rev. (2000); 80:717-66)。従って、SNAREタンパク質は、神経伝達物質の放出により引き起こされる状態を治療および/または防止するために使用される、治療および/または化粧用の化合物および/または製品の標的となる。事実、ボツリヌス毒素由来の承認された治療は、主にSNAP25またはVAMPを介して、SNAREタンパク質を非活性化することによって神経伝達物質のシナプス前小胞からの放出を遮断する(Zakinら、Toxicon (2018), EP 2318033 A2, EP 1856139 A2, EP 1180524 A1, EP 2123673 A1, WO 97/34620)。
【0005】
皮膚は末梢神経系と深く相互作用する。神経系が多数の皮膚プロセスと直接関与していることを示す証拠が増えている。例えば、ACh放出を阻害することに起因して、ボツリヌス毒素誘導体の主な美容用途は、顔の筋肉を弛緩させる、その周知の抗しわ効果である。それにもかかわらず、皮膚では、コリン作動性線維が、汗腺、毛包、血管、および立毛筋などの筋肉を含む、外皮系内にある他のいくつかの付属構造に神経支配を提供する。実際、ボツリヌス毒素誘導体は、多汗症、瘢痕防止、皮膚炎症、創傷治癒、顔面紅潮、ヘルペス後神経痛、皮脂制御、およびかゆみを含む、多くの皮膚科学的症状において実験的に使用され、成功した結果を収めている(Kimら、Toxins (2017), 9, 403)。これらの新規な適応症の根底にある一般的機構は、AChに加えて、サブスタンスP、CGRP、グルタミン酸およびヒスタミン放出の阻害を、さらには肥満細胞の活性化を包含する。
【0006】
例えば、発汗異常性湿疹または炎症性皮膚症などの過度の発汗を伴う皮膚の状態は、典型的な体温調節の異常な発汗に加えて、改善され得る。ACh放出の阻害は、汗腺に対する、および汗腺の周りの平滑筋に対するその直接的作用を妨げる(Swartlingら、J. Am. Acad. Dermatol. (2002), 47, 667-671;Wollina, U.、J. Eur. Acad. Dermatol. Venereol. (2002), 16, 40-42)。この点において、ボツリヌス毒素は、皮膚炎または乾癬に対して、局所発汗の減少を通して過度の発汗によって悪化する皮膚の状態に対して有益な効果を示した(Zanchiら、J. Eur. Acad. Dermatol. Venereol. (2008), 22, 431-436)。その上、結果として生じる神経ペプチド放出、サブスタンスPおよび/またはCGRPの阻害は、不快を惹起し、徴候を悪化させる、関連する掻痒および血管拡張を減少させる(Hummら、Exp. Neurol. (2000), 161, 361-372;Ishikawa.ら、Jpn. J. Opthalmol. (2000), 44, 106-109)。
【0007】
神経細胞エキソサイトーシスの阻害は、いくつかの条件で、異なる分子機構を通して、掻痒を減少させて防止する。AChはアトピー性皮膚炎などの掻痒性皮膚症状においてかゆみを媒介する(Hallett M.、Ann. Neurol. (2000), 48, 7-8)。サブスタンスPは、肥満細胞の活性化を介するヒスタミンの放出を通してかゆみおよび発赤と関連付けられるのに対して、CGRPは血管拡張を通して関連付けられる。従って、ボツリヌス毒素による対応する神経伝達物質の放出の破壊は、かゆみの感覚、ヒスタミン作動性ならびに非ヒスタミン作動性のタイプを減少させる(Gazeraniら、Br. J. Dermatol. (2009), 161,737-745)。掻痒性かゆみは、皮膚炎症および神経性炎症を減少させる神経細胞エキソサイトーシスの抑制と関連付けられ、それでアトピー性皮膚炎および乾癬におけるかゆみは軽減される(Hanら、Dermatol. Surg. (2017);Wardら、J. Investig. Dermatol. (2012), 132, 1927-1930;Saberら、Arch. Dermatol. (2011), 147, 629-630;Gilbertら、J. Drugs Dermatol. (2014), 13, 1407-1408;Gazeraniら、Br. J. Dermatol. (2009), 161,737-745;Caoら、Neuroreport. (2017), 28, 518-526;Ramachandranら、Toxins (2018), 10, pii: E134)。同様に、顔面紅潮および紅斑によって特徴付けられる酒さなどの炎症性皮膚病は、皮膚の血管拡張および皮膚の局所炎症が減少するため、ACh、サブスタンスPおよびCGRP放出の遮断により改善される(Eshghiら、Acta Med. Iran (2016), 54, 454-457;Bloomら、Dermatol. Surg. (2015), 41 (Suppl. 1), S9-S16;Geddoaら、Int. J. Dermatol. (2013), 52, 1547-1550;Odoら、Dermatol. Surg. 2011, 37, 1579-1583)。
【0008】
皮脂腺などの皮膚付属器では、AChは脂腺細胞での脂質合成を増大させ、ボツリヌス毒素はヒトにおける皮脂産生を有意に低下させる(Minら、Aesthet. Surg. J. (2015), 35, 600-610;Roseら、Dermatol. Surg. (2013), 39, 443-448)。従って、立毛筋および皮脂腺にある局所ムスカリン受容体はACh放出の阻害を介して神経調節を制御するための標的である。
【0009】
最後に、ACh放出の阻害は、治癒を妨げ、管理するのに、および/または肥厚性瘢痕の徴候を制御するのに使用され得る。局所でのACh放出の減少は治癒組織周辺の筋肉を固定し、皮膚の緊張を軽減する。このプロセスはケロイド中和と関連するかゆみでの神経線維のトラップを軽減する(Uyesugiら、Am J Phys Med Rehabil. (2010), 89(2):153-155)。この点に関して、ボツリヌス毒素は、線維芽細胞の増殖を阻害し、形質転換成長因子ベータ、コラーゲンIおよびIII、ミオシンII、およびケロイド線維芽細胞にて作用するa-平滑筋を阻害することが示された(Xiaoら、Aesthet. Plast. Surg. (2011), 35, 802-807;Chenら、Ann. Plast. Surg. 2016, 77, e46-e49;Jeongら、Plast. Reconstr. Surg. (2015), 136, 171e-178e;Wang, Xら、Aesthet. Surg. J. (2014), 34, 154-159)。このことに基づいて、筋肉および線維芽細胞の周辺の瘢痕に対する神経細胞エキソサイトーシスを遮断する効果の可能性は、創傷治癒および瘢痕防止についてのその使用を示唆する。
【0010】
かくして、全体として、神経伝達物質の放出の阻害および/または調節は、顔面のしわおよび運動筋機能障害についてだけでなく、過度の発汗、掻痒、皮膚炎症、皮膚炎、アトピー、乾癬、血管過敏症、酒さ、ニキビ、発毛、創傷治癒、タコ、イボ、または皮膚の潰瘍および病変などの敏感な皮膚状態などの新規な皮膚関連の状態を予防、治療または治癒するのにも有用である。
【0011】
ボツリヌス毒素由来の治療は注射を繰り返す必要があり、免疫反応を喪失する効力を惹起しうる。他の副作用は、頭蓋痛、吐き気、麻痺または筋肉低下および呼吸不全である。加えて、反応活性度および医薬製剤の不安定性のため、それらは高コストの治療となる。かくして、それらを置き換えるためにより単純でより安定した分子構造を開発する必要がある。このためには、SNAREコア複合タンパク質の一次構造より誘導されるペプチドは神経伝達物質の放出の妨害能を有する。
【0012】
SNAP25のアミノ末端フラグメントの一次構造に由来する合成ヘキサペプチドは、EP1180524A1およびEP2123673A1において記載されるように、しわの発現の治療および予防にて広く使用される。このペプチドは膜を横切って反転し、SNAP25を特異的に干渉し、かくしてSNARE複合体の組み立ておよび神経伝達物質のエキソサイトーシスが損なわれる。
【0013】
同様に、SNAP25のカルボキシ末端領域から由来の、あるいはシナプトブレビンまたはシンタキシンから由来のペプチドもまた、WO97/34620において記載されるように、神経細胞エキソサイトーシスを阻害するように設計された。しかしながら、活性を最適にするには、それらはアミノ酸の長さが最小で20個で、最大で28個である必要がある。従って、その大きさが大きいと生産コストが増加し、化粧品および/または治療薬としてのその後の開発が困難となる。
【0014】
未知の機構SNAREコア複合タンパク質から直接的に誘導されていない他のペプチドが、WO2013153192A1およびWO2013070808A1にて記載されるように、未知の機構で神経細胞エキソサイトーシスを減少させると主張されている。同様に、膜成分のV-ATPaseのサブユニットCより由来のペプチドが、シナプトブレビンを標的とし、抗しわ効果の可能性を示すことで、神経細胞エキソサイトーシスの阻害剤としてWO2011/048443に記載されている。
【0015】
米国特許第6,169,074号(Montalら)は、神経筋接合部のシナプスギャップ内にてSNARE複合体に干渉するペプチドの組み合わせを開示する。
米国特許第6,866,856号(Luら)は、骨格筋の神経筋接合部でのアセチルコリン放出を阻害するリモノイド(柑橘系の果物のアルカロイド抽出物)を記載する。
米国特許第7,566,464号(Belfer)は、ヒトの顔の表情ラインの外観を改善するスキンケア組成物を教示する。この製品は、真皮の強化と、表情ラインに関連する筋肉組織の阻害との相乗効果に基づき、収縮性筋肉要素を迅速に弛緩させ、顔面の表情筋の作用を抑制するオランダセンニチ(Acmella oleracea)の抽出物を含む。
【0016】
米国特許第7,015,192号(Blanesら)は、SNARE複合体内のタンパク質SNAP25のN-末端より誘導されるペプチドがアセチルコリン放出を阻害することを見出した。その主要分子のアセチルヘキサペプチド-8(正式には、アセチルヘキサペプチド-3またはARGIRELINE(登録商標)とも称される)がボツリヌス毒素の効能と競合すると主張されているが、投与由来のリスクと製造コストを減らす。
【0017】
神経細胞エキソサイトーシスにも重要な、SNARE複合体を制御する別の分子がある。例えば、スナピン(Snapin)は、Ca2+によって引き起こされるエキソサイトーシスの間に、シナプトタグミン1とSNARE複合体との間の結合を安定化する、SNAP25-結合タンパク質である(Ilardiら、Nat Neurosci. (1999)2:119-124;Buxtonら、Biochem. J. (2003) 375, 433-440)。スナピンの欠失は神経伝達物質の放出を完全に排除しないが、興奮性シナプス後電流を70%減少させ(Panら、Neuron. (2009) 61:412-424)、そのことはスナピンが神経細胞エキソサイトーシスにおける非必須モジュレーターであることを示唆する。組換えスナピンカルボキシ末端はSNARE複合体のシナプトタグミンとの結合を遮断した。実際、Ct-スナピン配列より由来のペプチドはSNARE複合体の組み立てを邪魔し、神経細胞エキソサイトーシスを損なった(Ilardiら、Nat Neurosci. (1999), 2:119-124)。位置117~136より由来のC-末端コイルドコイルドメインだけに対応する4つの20量体のペプチドフラグメントだけがエキソサイトーシスを阻害した。従って、スナピンは、恐らくはより強力な治療剤の望ましくない作用を軽減する、完全な阻害剤というよりもエキソサイトーシスのレギュレーターを設計する標的としての可能性がある。
【0018】
結論において、本発明は、既存の必需品の代替品を提供するものであり、神経細胞エキソサイトーシスを軽減しうる、新規なペプチド配列の同定を包含する。
【発明の概要】
【0019】
本出願人は、意外にも、神経細胞からの、神経伝達物質、特にアセチルコリン、および神経ペプチドのCGRPの放出を阻害し得るか、または少なくとも低減し得るペプチドを見出した。
たとえ、正確な分子機構が未だ完全に解明され、確認されておらず、何ら理論に拘束されないとしても、本発明者らはエキソサイトーシスの阻害または軽減が、SNAP25相互作用の破壊によるSNARE複合体を形成する間接的な調節に起因し得ると考えている。
【0020】
本出願人は次の配列番号1~5のペプチドが、神経細胞エキソサイトーシスを遮断する効果があり、結果的に、そのようなペプチドが、末梢神経の末端からのアセチルコリンの放出を阻害、または少なくとも低減し得ることを見出した。
配列番号1 HYWRELQYR
配列番号2 MQVWLRMWIDYRAT
配列番号3 RRVVLVNNIL
配列番号4 LRVQMVNMFL
配列番号5 WEQEFLRR
【0021】
本出願人はまた、神経細胞エキソサイトーシスの遮断効果が、長さが20個以下のアミノ酸の配列で、上記した配列番号1~5を含む配列、あるいは配列番号1~5のいずれかの配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列でも得られることを見出した。
【0022】
本出願人はまた、神経細胞エキソサイトーシスの遮断効果が、上記した配列番号1~5のN-末端に、例えば、アセチル基、パルミトイル基またはミリストイル基などのアルキルカルボニル基を連結させ、ならびに上記した配列番号1~5と、例えば、クロリド、アセテートまたはトリフルオロアセテートなどの適切なアニオンとの塩を形成することにより、調節され得ることを見出した。
【0023】
従って、本発明の第1の態様は、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号1~5のいずれか1つを含むか、あるいは配列番号1~5のいずれかの配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩に関する。
【0024】
本発明の第2の態様は、(i)長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号1~5のいずれか1つを含むか、あるいは配列番号1~5のいずれかの配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩、および(ii)少なくとも1つの医薬的または美容的に許容される成分を含む、医薬または化粧用組成物に関する。
【0025】
本発明の第3の態様は、神経細胞エキソサイトーシスが介在する皮膚の状態、障害および/または疾患を改善するための、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸を有するペプチドの使用であって、配列番号1~5のいずれか1つを含むか、あるいは配列番号1~5のいずれかの配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩の使用に関する。
【0026】
本発明の第4の態様は、(i)長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号1~5のいずれか1つを含むか、あるいは配列番号1~5のいずれかの配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩、および(ii)少なくとも1つの医薬的または美容的に許容される成分を含む、医薬または化粧用組成物を局所的に塗布することを含む、神経細胞エキソサイトーシスが介在する皮膚の状態、障害および/または疾患を改善するための、治療的または非治療的方法に関する。
【0027】
より具体的には、神経細胞エキソサイトーシスが介在する皮膚の状態、障害および/または疾患として、しわ、過度の発汗、掻痒、皮膚炎症、皮膚炎、アトピー、乾癬、血管過敏症、酒さ、ニキビ、発毛、創傷治癒、カルス、イボ、あるいは皮膚の潰瘍または病変などの敏感な皮膚状態が挙げられる。
【0028】
本発明のさらなる態様は、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸を有するペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、配列番号1~5のいずれか1つを含むか、あるいは配列番号1~5のいずれかの配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含むポリヌクレオチドに関する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
第1の態様によれば、本発明は、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号1~5のいずれか1つを含むか、あるいは配列番号1~5のいずれかの配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩に関する。
【0030】
好ましくは、本発明は、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸、より好ましくは10個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号1を含むか、あるいは配列番号1と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩に関する。
【0031】
好ましくは、本発明は、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号2を含むか、あるいは配列番号2と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩に関する。
【0032】
好ましくは、本発明は、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸、より好ましくは10個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号3を含むか、あるいは配列番号3と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩に関する。
【0033】
好ましくは、本発明は、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸、より好ましくは10個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号4を含むか、あるいは配列番号4と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩に関する。
【0034】
好ましくは、本発明は、長さが20個以下のアミノ酸、好ましくは15個以下のアミノ酸、より好ましくは10個以下のアミノ酸を有するペプチドであって、配列番号5を含むか、あるいは配列番号5と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列のペプチド、およびその誘導体または塩に関する。
【0035】
本願の発明者および出願人の知る限りでは、明細書に記載のペプチドはいずれも、本願の優先日の前には当該分野において知られていない。しかしながら、本発明の範囲内にある、本願の優先日の前に当該分野にて知られているペプチドはいずれも、本明細書において適切に否定されるものとする。
【0036】
本明細書にて使用されるアミノ酸配列の略語は、次の表Aにて報告されるように、IUPAC-IUB命名法に従うものである。
表A
【表1】
【0037】
ペプチド配列に関する「パーセント配列同一性」は、2つの配列において同一である、残基のパーセンテージをいう。パーセント配列同一性(%SI)は次式:
%SI=(nt-nd)x100/nt
で計算され、ここでntは基本配列中の残基の数であり、ndは最大数のアミノ酸が同一となるようにアライメントされた場合に、対峙する配列での非同一残基の総数である。従って、配列
【化1】
は、配列番号3:RRVVLVNNILと80%の配列同一性を有する(nd=2、およびnt=10)。
【0038】
本発明に係るペプチドは、対照となる配列と最適にアライメントされた場合、その配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%および少なくとも95%の配列同一性を有し得る。配列の最適アライメントは種々の既知の方法、および既知のアルゴリズムのコンピューター化の導入(例えば、Wisconsin Genetics Software Package, Release 7.0, Genetics Computer Group, Madison, WIにあるようなBLAST、TFASTA、BESTFIT)により実施され得る。そのソフトウェアが国立バイオテクノロジー情報センター(www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して入手できるBLASTアルゴリズム(Altschulら、Mol. Biol. (1990), 215, 403-410)も使用できる。
【0039】
本発明の配列番号1~5を含むペプチドのアミノ酸配列の変形は、ペプチド活性に影響を及ぼさない、アミノ酸の保存的置換を含む。ペプチド活性を維持し得る置換は、(a)シートまたは螺旋状三次元構造などの置換領域におけるペプチド骨格の構造を維持する有効性、(b)標的領域における分子の電荷または疎水性を維持する有効性、または(c)側鎖の大部分を維持する有効性、を基礎として選択される。
【0040】
アミノ酸は、次の表Bにおいて記載されるように、一般的な側鎖の特性に従って分類される。
表B
【表2】
【0041】
保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、およびヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミンおよびアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリンおよびメチオニン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン)、および小型アミノ酸(グリシン、アラニン、セリンおよびスレオニン)からなる群に属する。
一般に比活性を変化させないアミノ酸置換は本発明の分野において公知である。
【0042】
最も一般的に生じる変化が、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Glyであり、およびその反対の変化である。保存的置換のもう一つ別の例を次の表Cにて示す。
表C
【表3】
【0043】
本発明のペプチドは、そのN-または/およびC-末端が有機化合物で化学的に修飾されているか、または保護されている、修飾ペプチドの形態であってもよい。
本発明のペプチドに関して本明細書にて利用される「誘導体」または「その誘導体」なる語は、そのN-および/またはC-末端が有機化合物で化学的に修飾または保護されている、ペプチドを意味する。
【0044】
修飾の例として、リン酸化、グリコシル化、アシル化(アセチル化、ラウロイル化、ミリストイル化、パルミトイル化を含む)、アルキル化、カルボキシル化、ヒドロキシル化、糖化、ビオチニル化、ユビキチニル化、およびアミド化が挙げられる。
好ましくは、本発明のペプチドは、そのN-末端で、より好ましくは、アセチル化、ラウロイル化、ミリストイル化、およびパルミトイル化を含む、アシル化によって修飾されてもよい。N-末端アセチルおよびパルミトイルペプチド誘導体が本発明の好ましい態様である。
【0045】
本発明のペプチドに関して本明細書にて利用されるような「塩」または「その塩」なる語は、ペプチドの適切な酸または塩基との塩あるいはその誘導体を意味する。
酸の典型例として、例えば、塩酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸および乳酸が挙げられる。
【0046】
塩基の典型的な例として、例えば、モノ-、ジ-およびトリアルキルアミン、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、エチレンジアミン、モノ-、ジ-およびトリアルカノールアミン、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン;グアニジン、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、ピペラジン、1-ブチルピペリジン、1-エチル-2-メチルピペリジン、N-メチルピペラジン、1,4-ジメチルピペラジン、N-ベンジルフェニルエチルアミン、N-メチルグルコサミン、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが挙げられる。
【0047】
ペプチドの酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩、あるいはその誘導体が、好ましくは、本発明の下で利用される。
【0048】
その長さに応じて、本発明のペプチドは、当該分野において周知の方法により、例えば、自動化ペプチド合成装置によって合成されてもよく、あるいは遺伝子操作技法により生成されてもよい。例えば、本発明の融合パートナーおよびペプチドを含む融合タンパク質をコードする融合遺伝子を、遺伝子操作で調製し、次に宿主細胞に形質転換させ、融合タンパク質を発現させる。その後で、所望のペプチドを産生するのにプロテアーゼまたは化合物を用いて、本発明のペプチドを切断して融合タンパク質から単離する。このために、第Xa因子またはエンテロキナーゼなどのプロテアーゼ、またはCNBrまたはヒドロキシルアミンなどの化合物によって切断され得るアミノ酸残基をコードするDNA配列を、融合パートナーをコードするポリヌクレオチドと、本発明のペプチドとの間に挿入することができる。
【0049】
本発明のペプチドは、立体異性体、または立体異性体の混合物;例えば、L-配置、D-配置を有するか、または相互に独立してラセミであり得る、それらを構成する、アミノ酸として存在し得る。従って、不斉炭素の数、およびどのような異性体または異性体混合物が存在するかに応じて、異性体の混合物、ならびにラセミ体あるいはジアステレオマー混合物または純粋なジアステレオマーもしくはエナンチオマーを得ることが可能である。本発明のペプチドの好ましい構造は、純粋な異性体、すなわち、エナンチオマーまたはジアステレオマーである。本発明のペプチドの最も好ましい構造は、L-配置を有するアミノ酸を包含する。特記されない限り、1つのアミノ酸がAlaであり得ることを示す場合、それはL-Ala-、D-Ala-、あるいは両方のラセミまたは非ラセミ混合物より選択されると理解されることを認識する。
【0050】
本発明の化粧用組成物は、上記した少なくとも1つのペプチドを、少なくとも1種の美容的に許容される成分と一緒に含む。
本発明の医薬組成物は、上記した少なくとも1つのペプチドを、少なくとも1種の医薬的に許容される成分と一緒に含む。
本発明の医薬または化粧用組成物は、0.00000001重量%~20重量%、好ましくは0.000001重量%~15重量%、より好ましくは0.0001重量%~10重量%、さらにより好ましくは0.0001重量%~5重量%の範囲にある、量のペプチド、あるいはその誘導体および/または塩を含み得る。
【0051】
本発明の化粧用組成物は、かかる組成物を美容的または審美的により許容可能とするのに、あるいはそれらに付加的な使用上の利点を提供するのに、適する種々の他の任意の成分を含有し得る。そのような従来の任意の成分は当業者に周知である。これらは、Wenninger およびMcEwen編集の、CTFA International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook, 第7版(The Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Association, Inc., Washington, D. C., 1997)に見られる美容的に許容される成分などのいずれの成分も包含する。本明細書にて使用される場合、「美容的に許容される」は、下記に定義されるような、皮膚、毛髪または他の適切な物質と接触して使用するのに適する、材料(例えば、化合物または組成物)を意味する。
【0052】
本発明において有用な美容的に許容される成分は、美容的に許容される担体、揮発性および非揮発性溶媒、水、および界面活性剤、保存剤、吸収剤、キレート化剤、滑沢剤、保湿剤、撥水剤、酸化防止剤、UV吸収剤、抗刺激剤、ビタミン、微量金属、抗菌剤、香料、色素および着色成分、および/または構造化剤などの他の付加的な成分を包含する。
【0053】
本明細書にて使用される「美容的に許容される担体」なる語は、上記にて定義されるような、美容的に許容される1または複数の適合性のある固体または液体の充填剤、希釈剤、増量剤等を意味する。本明細書にて使用される「適合性」なる語は、本発明の組成物の成分が、通常の使用状況下で組成物の効能を実質的に減少させる相互作用がないように、本発明の主たる活性剤と組み合わせることができ、および該成分を相互に組み合わせることができることを意味する。
【0054】
本発明にて利用される担体の型は、所望する製品の型に依存する。本発明において有用な組成物は多種多様な製品の形態であってもよい。これらは、ローション、クリーム、ゲル、スティック、スプレー、軟膏、ペースト、ムースおよび化粧品(例えば、ファウンデーションを含む、固体、半固体または液体のメイクアップ)を包含するが、これらに限定されない。
これらの製品の形態は、溶液、エアロゾル、エマルジョン(水中油型または油中水型を含む)、ゲル、固体およびリポソームを含むが、これらに限定されない、数種の型の担体を含んでもよい。
【0055】
本発明の組成物は、その組成物の形態に応じて、水を異なる量で含んでもよい。水の量は、あるとすれば、組成物の全重量に対して1重量%未満から99重量%を超える範囲とすることができる。本発明の水性組成物は、特に水性ローションとして、または油中水型または水中油型エマルジョンとして、あるいは複数のエマルジョン(油中水中油型または水中油中水型のトリプルエマルジョン)として処方される。かかるエマルジョンは知られており、例えば、C. FOXにより、「Cosmetics and Toiletries」- November 1986 - Vol. 101 - pages 101 - 112に記載されている。
【0056】
固体組成物、スプレー組成物および油中水型クリームは、通常、組成物の全重量に対して10重量%未満、より好ましくは5重量%未満の量の水を含む。ロールオン(roll-on)組成物、水性組成物、および防臭剤は、通常、組成物の全重量に対して、約15%~約99%、より好ましくは約30重量%~約90重量%、さらにより好ましくは約50重量%~約80重量%の量の水を含む。
【0057】
本発明の組成物はまた、シリコーンを含んでもよい。存在するとすれば、シリコーンは、一般に、組成物の全重量に対して、約30重量%~約85重量%、より好ましくは約40重量%~約75重量%、さらにより好ましくは約50重量%~約65重量%のレベルであろう。
【0058】
本明細書にて有用なシリコーンは、好ましくは、2~7個のケイ素原子を有する線状または環状シリコーンであり、これらのシリコーンは炭素数1~10のアルキルまたはアルコキシ基で所望により置換されてもよい。適切なシリコーンは、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、シクロペンタシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、シクロテトラシロキサン、ヘプタメチルオクチルトリシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、オクタメチルテトラシロキサン、およびその混合物を包含する。
【0059】
本発明の組成物は1または複数の揮発性溶媒を含んでもよい。含むとすれば、揮発性溶媒またはその混合物は、組成物の全重量に対して、一般に、約10重量%~約90重量%、より好ましくは、約25重量%~約75重量%、さらにより好ましくは、約35重量%~約65重量%のレベルであろう。本明細書にて有用な溶媒は好ましくは有機揮発性溶媒である。
【0060】
本明細書にて使用される場合、「揮発性」は、当業者によって理解されるように、外界条件下で有意な量の蒸気圧を有する物質をいう。
本明細書において有用な揮発性溶媒は、25℃で、好ましくは約2kPa以上、より好ましくは約6kPa以上の蒸気圧を有するであろう。本明細書において有用な揮発性溶媒は、大気圧(1atm)下で、好ましくは約150℃未満、より好ましくは約100℃未満、さらにより好ましくは約90℃未満、その上さらにより好ましくは約80℃未満の沸点を有するであろう。
【0061】
好ましくは、本明細書において有用な揮発性溶媒は、比較的無臭であり、ヒト皮膚に使用するのに相対的に安全であろう。適切な揮発性溶媒は、C1-C4アルコール、揮発性シリコーンおよびその混合物を包含するが、これらに限定されない。好ましい揮発性溶媒は、C1-C4アルコールおよびその混合物である。本明細書において用いるのにより好ましいのはエタノールである。
【0062】
本発明の組成物はまた、1または複数の非揮発性溶媒を含んでもよい。含むとすれば、非揮発性溶媒またはその混合物は、組成物の全重量に対して、一般に、約1重量%~約20重量%、より好ましくは、約2重量%~約10重量%、さらにより好ましくは、約3重量%~約5重量%のレベルであろう。適切な非揮発性溶媒は、安息香酸ベンジル、セテアリールアルコール、セチルアルコール、フタル酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、ジメチコン、カプリリルメチコン、およびその混合物を含むが、これらに限定されない。
【0063】
他のいくつかの添加成分が本発明の組成物中に存在し得る。これらは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)およびポロキサマーより選択される親水性ポリマー;ベンゾフェノン-3などのUV安定剤;酢酸トコフェロールなどの抗酸化剤;フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベンなどの保存剤;乳酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、リン酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのpH調整剤;ファルネソール、フェノールスルホン酸亜鉛およびエチルヘキシルグリセリンなどの脱臭剤および抗菌剤;トリベヘニン、グリセリンなどの保湿剤;アラントインなどの皮膚調節剤;トリメチルイソプロピルブタナミドおよびメンソールなどの冷却剤;パンテノール、パンテチン、パントテイン、パンテニルエチルエーテル、およびその組み合わせなどのヘアーコンディショニング成分;プロパン、イソプロパン、ブタンおよびイソブタンなどの噴射剤;一般に、酢酸カリウムおよび塩化ナトリウム、およびその混合物などの塩;香料および染料を包含するが、これらに限定されない。
【0064】
含むとすれば、これらの添加成分は、組成物の全重量に対して、好ましくは、10重量%未満、より好ましくは5重量%未満のレベルで存在するであろう。
好ましくは、本発明の医薬組成物は、有効量の上記したペプチドの少なくとも1つと、少なくとも1つの医薬的に許容される成分とを一緒に含む適切な剤形にて製造される。
【0065】
適切な剤形の例が、経口投与用の錠剤、カプセル、コーティング錠、顆粒、液剤およびシロップ;局所投与用の溶液、ポマードおよび軟膏;経皮投与用の薬用パッチ;経直腸投与用の坐剤、および注射可能な滅菌溶液である。他の適切な剤形が徐放性剤形、ならびに経口、注射または経皮投与用のリポソームを基礎とする剤形である。
【0066】
本明細書にて記載される場合、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの上記したペプチドと、本明細書にて使用されるように、所望する特定の剤形に適する、ありとあらゆる溶媒、希釈剤または他のビヒクル、分散または懸濁化助剤、界面活性剤、等張剤、増粘または乳化剤、保存剤、固形結合剤、滑沢剤等を含む、医薬的に許容される賦形剤とを含む。
【0067】
医薬的に許容しうる賦形剤として供し得る材料のいくつかの例として、ラクトース、グルコースおよびシュークロースなどの糖類;コーンスターチおよびポテトスターチなどの澱粉;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;トラガカント粉末;麦芽;セラチン;タルク;カカオバターおよび坐剤脂などの賦形剤;落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油および大豆油などの油類;プロピレングリコールなどのグリコール類;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル類;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱物質不含水;等張セイライン;リンガー溶液;エチルアルコール、およびリン酸緩衝液;ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの他の非毒性適合性滑沢剤;着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、矯味矯臭剤および香料、保存剤および酸化防止剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
「医薬的に許容される」および「生理学的に許容される」なる語は、何ら特定の制限なしに、生物に投与される医薬組成物を製造するのに適するいずれの材料を定義するものとする。
剤形はまた、保存剤、安定剤、界面活性剤、緩衝剤、浸透圧を調節するための塩、乳化剤、甘味剤、着色剤、矯味矯臭剤等などの他の伝統的成分を含有し得る。
【0069】
本発明の医薬組成物は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーにより、局所的に、経直腸的に、経鼻的に、バッカル的に、経膣的に、あるいは移植リザバーを介して投与されてもよい。本明細書にて使用される非経口的なる語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病変内および頭蓋内の注射または注入技法を包含する。
本発明の医薬組成物はまた、経鼻エアロゾルまたは吸入によって投与されてもよく、移植可能なまたは留置デバイス、例えば、ステントなどの移植操作(例えば、外科的に)送達されてもよい。
【0070】
本発明の医薬組成物の剤形は、製薬化学者に周知であって、混合、造粒、圧縮、溶解、滅菌化等を含む、技法によって製造され得る。
本発明のペプチドは、神経伝達物質、特にアセチルコリンの放出、および神経ペプチド、CGRPの神経細胞からの放出を阻害、または少なくとも軽減することができる。
従って、本発明のさらなる態様は、神経細胞エキソサイトーシスが介在する皮膚の状態、障害および/または疾患を改善するための上記したペプチドおよびその誘導体または塩のうち少なくとも1つの使用に関する。
【0071】
上記されるように、この特性は、顔のしわや運動筋機能障害の治療のためだけでなく、過度の発汗、掻痒、皮膚の炎症、皮膚炎、アトピー、乾癬、血管過敏症、酒さ、ニキビ、発毛、創傷治癒、タコ、イボ、または皮膚の潰瘍および病変などの敏感な皮膚状態などの、神経小胞の放出が関与する、いくつかの皮膚関連の状態を軽減、防止または治癒するために使用され得る。
【0072】
言い換えれば、神経細胞エキソサイトーシスが介在する皮膚の状態、障害および/または疾患は、顔のしわ、運動筋機能障害、過度の発汗、掻痒、皮膚の炎症、皮膚炎、アトピー、乾癬、血管過敏症、酒さ、ニキビ、創傷治癒、タコ、イボ、または皮膚の潰瘍および病変などの敏感な皮膚状態等を包含する。
【0073】
従って、本発明はまた、神経細胞エキソサイトーシスが介在する皮膚の状態、障害および/または疾患を改善するための、特にしわ、過度の発汗、掻痒、皮膚の炎症、皮膚炎、アトピー、乾癬、血管過敏症、酒さ、ニキビ、発毛、創傷治癒、あるいは皮膚の潰瘍および病変などの敏感な皮膚状態を軽減するための治療的または非治療的方法であって、(i)少なくとも1つの上記したペプチド、およびその誘導体または塩、および(ii)少なくとも1つの医薬的または美容的に許容される成分を含む、医薬組成物または化粧用組成物を局所的に塗布することを含む、方法に関する。
【0074】
本発明のさらなる態様は、上記した少なくとも1つのペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。
上記したポリヌクレオチドは、本発明のペプチドの大量生産を可能とする。例えば、ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ベクターの培養はペプチドの大量生産を可能とする。
【0075】
ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖のいずれかの自発的または人工的なDNAまたはRNA分子であり得る、核酸分子である。核酸分子は、同じ型(例えば、同じヌクレオチド配列を有する型)の1または複数の核酸であるか、異なる型の核酸を有し得る。核酸分子は1または複数のDNA、cDNA、デコイDNA、RNA、siRNA、miRNA、shRNA、stRNA、snoRNA、snRNA、PNA、アンチセンスオリゴマー、プラスミドおよび他の修飾核酸を含むが、それらに限定されない。
【0076】
次に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、それは発明を何ら限定するものではない。
【実施例
【0077】
実施例1:化学合成
ペプチドはすべて、標準的なFmoc固相法(Perez de la Vegaら、Molecules (2010), 15:4924-4933;Behrendtら、J. Pept. Sci. (2016), 22(1):4-27;Madeら、Beilstein J. Org. Chem. (2014), 10:1197-1212)を用いてアミド化されたC末端で合成された。発明のペプチド、混合物および/またはその美容的に許容される塩の合成は、固相ペプチド合成法、酵素合成、またはいずれかの組み合わせ(Bondazkyら、Int. J. Pept. Protein Res. (1993), 42(1):10-3)などの、当該分野にて公知の従来の方法に従って実施され得る。
【0078】
合成プロセスはすべて、クロマシル(Kromasil)C18-HPLC(5μm、4.6x250mm)を用いて実施された。その後で、直線勾配のアセトニトリル(CHCN)とトリフルオロ酢酸(TFA)を用いてペプチドを溶出させた(勾配:2分間で5-55%Bとする、流速:1mL/分、溶出液A:100%HO+0.1%TFA;溶出液B:100%CHCN+0.1%TFA)。ペプチドの検出は、吸光度を220nmで測定することにより行われた。Fmoc基は20%ピペリジン/DMF溶液を用いて30分間反応させて除去された。段階間に洗浄はDMF(5回)を用いて実施された。すべての合成反応および洗浄は25℃で行われた。得られたペプチドのHPLC分析はあらゆるケースで80%を超える純度を示した。得られたペプチドの同一性はESI-MSで確認された。
【0079】
Nt-アセチル基をペプチジル樹脂上に導入する方法:
1ミリモル(1当量)のペプチジル樹脂を、5mLのDMFを溶媒として用い、25当量のDIEAの存在下にある、25当量の予め溶かした無水酢酸で処理した。30分間反応させた後、ペプチド樹脂をDMF(1分x5)、DCM(1分x4)およびジエチルエーテル(1分x4)で洗浄した。最後に、ペプチジル樹脂を真空下で乾燥させた。
【0080】
Nt-パルミトイル基をペプチジル樹脂上に導入する方法:
3ミリモル(3当量)の予め溶かしたパルミチン酸を、3当量のHTBUおよび6当量のNMMの存在下でペプチジル樹脂上に組み込んだ。それらを、試薬としてDMFを用いて、30~60分間反応させた。その後で、樹脂をDMFで3回洗浄した。
【0081】
ペプチジル樹脂のポリマー支持体からの切断方法:
乾燥させたペプチジル樹脂をTFA:TIS:HO(95:2.5:2.5)で25℃で2時間にわたって振動下で処理した。
【0082】
実施例2:培養された感覚神経細胞での発明のペプチドによるCGRP放出の阻害
カプサイシンによるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の放出の誘発が神経細胞エキソサイトーシスを直接測定することを可能とする(Meng J.ら、J. Cell. Sci. (2007) 15;120(Pt 16):2864-74、およびMeng J.ら、Mol. Neurobiol. (2014); 50(2):574-88)。
【0083】
試験ペプチドを、ペプチド作動性感覚神経細胞でのCGRP誘発性放出を阻害する、その能力を測定することで評価した。後根神経節を、ポリ-L-リジンおよびラミニンを事前に被覆した96ウェルプレートに播種した(50,000細胞/ウェル)。播種から48時間経過した後、細胞を発明のペプチドを20、50または100μMで含有するハンク平衡塩溶液(Hank’s Balanced salt solution)と一緒に1時間インキュベートした。次に、細胞を1μMカプサイシンで37℃にて10分間刺激した。ついで、上澄中のCGRP含量を、製造業者の指示に従って、比色分析をベースとするCGRP EIA(Spi-Bio Inc)を用いて測定した。ビヒクル処理の細胞においてカプサイシン刺激で検出された最大シグナルに関して、吸光度の測定(405nm)を標準化した。CGRP放出の阻害値を、最大シグナルをカプサイシン誘発の放出について、最小を非刺激細胞として考慮することでパーセンテージとして計算した。表Dは発明のペプチドについて得られたM3活性阻害の阻害値を詳しく記載する。
【0084】
表D
【表4】
【0085】
ペプチドは、Nt-パルミトイル化では20μMで10-50%、50μMで50-75%の範囲で、Nt-アセチル化では100μMで40-77%の範囲でカプサイシン誘発のCGRP放出を阻害した。
【0086】
実施例3:発明のペプチドによる神経芽腫細胞株でのアセチルコリン放出の阻害
本発明の化合物のアセチルコリン放出に対する効果を測定するために、ヒト神経芽腫細胞株(50,000細胞/ウェル)を用いた。細胞を4日間にわたってコリン作動性ニューロン表現型に分化させた。次に、細胞をアセチルまたはパルミトイル型の化合物(0.1~100μM)と一緒に60分間にわたってプレインキュベーションに付し、トリフルオロ酢酸塩(TFA)または酢酸塩とコンジュゲートさせた。その後で、50mM KClと一緒に15分間インキュベーションすることで引き起こされた膜の脱分極によってアセチルコリン放出を誘発させた。上澄中のアセチルコリン濃度を、アンプレックス(Amplex)(登録商標)Red Acetylcholine Assay Kit(Thermofisher)を用いて製造業者に指示に従って定量した。アセチルコリンをHを生成するように酵素的に変換させ、それにより定量可能な蛍光シグナルがもたらされた。蛍光(Ex530nm/Em590nm)をフルオルスター(FluorStar)装置を用いて測定した。アセチルコリン含量を、BCAアッセイ(Pierce)を用い、製造業者の指示に従って、総タンパク質含量に対して正規化した。蛍光測定値を、ビヒクル処理細胞にてKCl刺激で検出された最大シグナルに対して正規化した。本発明の化合物による小胞エキソサイトーシス破壊はアセチルコリン放出の減少をもたらす(表E)。
【0087】
表E
【表5】
【0088】
すべてのペプチドが、神経芽腫細胞株での神経細胞エキソサイトーシス調節の阻害剤であると機能的に検証された。特に、配列番号1、2、4および5のアセチル化形態が、ACh放出を、TFA塩として10μMの濃度で50~87%にて、酢酸塩として0.1μMで約40%にて有意に減少させた。パルミトイル化の配列番号4は、10μMで約50%のアセチルコリン放出を有意に減少させた。試験した0.1μMの最低濃度で活性であったため、最も強力なペプチドはパルミトイル化の配列番号3であった。全体として、すべての効果的なペプチドはマイクロモルの範囲にあった。
【0089】
実施例4:ヒト表皮ケラチノサイトおよび皮膚線維芽細胞での細胞生存能アッセイ
この実施例は、発明のペプチドの、ヒト表皮ケラチノサイトおよび真皮線維芽細胞に対する効果を評価した。細胞生存能は臭化3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウム(MTT)アッセイで測定された。該MTTアッセイは、ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ酵素のMTTのテトラゾリウム環を破壊および変換する能力に基づく、比色反応である。表皮ケラチノサイト(HEK)を、100μLの対応する補足培地にて50~60%のコンフルエンスで予めコーティングされた96ウェルプレートに播種した。皮膚線維芽細胞(HDFa)を、100μLの補足培地にて70%のコンフルエンスで96ウェルプレートに播種された。両方の細胞株で、播種から24時間経過した後、培地を、ペプチドを0.1~200μMの範囲の濃度で溶かして含有する補足培地と交換した。すべての試験物質を37℃および5%COで24時間インキュベートした。その後で、完全培地にて4時間にわたって、培地を0.5mg/mLのMTT溶液と交換した。ついで、培地を注意して取り除き、150μL/ウェルのDMSOを添加してホルマザン結晶を可溶化させた。プレートを光から保護し、60秒間振盪し、620nmの対照フィルターを用いて570nmで光学密度を測定した。表Fは、発明のペプチドの、阻害%として表される、ケラチノサイトおよび線維芽細胞の生存能についての効果を詳述する。
【0090】
表F
【表6】
【表7】
【0091】
Nt-アセチル置換の配列番号1、2および5のペプチドは、ヒト表皮ケラチノサイトおよび皮膚線維芽細胞にて200μMまで細胞生存能を修飾しなかった。配列番号4のアセチル化およびパルミトイル化したペプチドは、50μM未満で評価した場合に、ケラチノサイト生存能を修飾しなかった。パルミトイル化した配列番号3は1μM以下でケラチノサイトおよび線維芽細胞の生存能を修飾しなかった。
【0092】
実施例5:汗分泌のマウス実験における急性投与に対する発汗抑制作用の評価
この実施例は、パルミトイル化した形態の配列番号1の発明のペプチドの急性作用を、ピロカルピンにより誘発されたインビボでの発汗実験にて評価した。この実験は、11週齢のC57BL6/Rccの雄マウスにて、ムスカリン受容体の非選択性アゴニストである、ピロカルピンを用いて確立された。試験化合物は、次の配列(配列番号1):
Palm-HYWRELQYR-NH
を有する本発明のペプチドである。
【0093】
試験化合物を、発汗刺激を行う30分前に右後肢に足底内(i.pl.)注射を行った(10、30および100μg)。ビヒクルはセイライン溶液であった。
発汗を、ヨウ素/澱粉反応を用い、皮膚表面でのアミラーゼ活性検出を通してモニター観察した。5分間誘発した後にダーク(Dark)発汗滴を定量し、各条件での肢当たりの発汗滴の数を計数した。サンプルは一群に付きn=5~6の個体とする。データは平均値±標準偏差(SEM)で示される。生データは、非注射の刺激個体(対照、100%)と、セイライン注射の非刺激個体(ビヒクル、0%)とに関するパーセンテージとして正規化された。統計分析は一元配置分散分析(one-way ANOVA)であり、つづいて、各条件を対応する対照群と比較する、ダネットの事後多重比較試験(Dunnett’s post-hoc multiple comparison test)に付した、****p<0.0001、***p<0.001、**p<0.01、*p<0.05。
【0094】
結果を次の表Gにおいて要約する。
表G
【表8】
【0095】
試験化合物は、10、30および100μgで発汗を有意に減少させた。
【0096】
実施例6:汗分泌のマウス実験における慢性投与に対する発汗抑制作用の評価
この実施例は、パルミトイル化した形態の配列番号1の発明のペプチドの慢性作用を、インビボでの発汗実験にて評価した。この実験は、11週齢のC57BL6/Rccの雄マウスにて、ムスカリン受容体の非選択性アゴニストである、ピロカルピンを用いて確立された。試験化合物を週に3回、4週間にわたって局所投与した(処理)。発汗は、表Hに従って、第1、第2および第4週に1回、ピロカルピン(3μg/肢)を右後肢に足底内(i.pl.)注射を行うことで誘発された(発汗)。
【0097】
表H
【表9】
【0098】
試験化合物は、次の配列(配列番号1):
Palm-HYWRELQYR-NH
を有する本発明のペプチドである。
試験化合物を、右後肢の足底内(i.pl.)に注射し(1、10および100μg)、ビヒクルはセイライン溶液であった。
【0099】
発汗を、ヨウ素/澱粉反応を用い、皮膚表面でのアミラーゼ活性検出を通してモニター観察した。5分間誘発した後にダーク発汗滴を定量し、各条件での肢当たりの発汗滴の数を計数した。サンプルは一群に付きn=5~6の個体とする。データは平均値±標準偏差(SEM)で示される。生データは非注射の刺激個体(対照、100%)に関するパーセンテージとして正規化された。統計分析は一元配置分散分析であり、つづいて、各条件を対応する対照群と比較する、ダネットの事後多重比較試験に付した、****p<0.0001、***p<0.001、**p<0.01、*p<0.05。
【0100】
結果を次の表Iにおいて要約する。
表I
【表10】
【0101】
Palm-配列番号1は、100μg/肢で比較した場合に、4週間の処理の間に有意な発汗阻害を示した。
【0102】
実施例7:神経細胞感作のためのインビトロ機能アッセイ
この実施例では、敏感肌の状況での侵害受容器感作における配列番号1のパルミトイル化形態のインビトロ作用を評価した。
【0103】
ウィスター(Wister)ラット(3~5日齢)より単離した新生児ラット後根神経節に、ネズミNGFを捕捉したDMEMグルタマックス(Glutamax)、10%FBS、1%P/Sにて微小電極アレイチップを播種した。全ての実験は播種した48時間後に行われた。
【0104】
感覚神経細胞を、ブラジキニン、ヒスタミンおよいATPを含む炎症誘発性カクテルに急性暴露することで感作させた。刺痛、灼熱感、およびかゆみ感が主にTRPV1により惹起されるため、TRPV1介在性興奮を分析した。TRPV1アゴニストのカプサイシンを反復適用(15回の適用 500nM)に供し、最初の活性化(P1)に、つづいて脱感作(第2適用)に付した。脱感作の培養物をカクテルで感作させ、第2(P2)および第3(P3)のカプサイシンパルス(8分)の間に外部溶液を用いて、興奮性を回復した。細胞の生存能を確認するために、40mM KClを最後に適用した。モニター観察する前に試験化合物を0.1、1および10μMで1時間インキュベートした。試験化合物は、次式(配列番号1):
Palm-HYWRELQYR-NH
を有するペプチドである。
【0105】
感作は、炎症誘発性カクテルによって誘発される感作応答を示す、P3とP1カプサイシンパルスの間の割合(割合P3/P1)として計算された。阻害パーセンテージは100-感作として算定された。データは平均値±標準偏差(SEM)で示される。統計分析は一元配置分散分析であり、つづいて各条件を対応する対照群と比較する、ダネットの事後多重比較試験に付した、****p<0.0001、***p<0.001、**p<0.01、*p<0.05。
【0106】
結果を次の表Jにおいて要約する。
表J
【表11】
【0107】
3種の濃度の試験化合物は、感作プロセスを同様の効能で有意に阻害した。
【配列表】
0007488198000001.app