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特許7488199乳児疝痛を軽減するためのメラトニン支援細菌の選択及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】乳児疝痛を軽減するためのメラトニン支援細菌の選択及び使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20240514BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240514BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240514BHJP
   C12P 17/10 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
A61K35/744
A61P1/04
A61P25/20
A61P25/00
A61P25/28
C12N1/20 A ZNA
C12N15/55
C12Q1/04
C12P17/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020570056
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2019069984
(87)【国際公開番号】W WO2020020982
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】1812079.0
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1905470.9
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM32846
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM32847
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM32849
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM33198
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500155578
【氏名又は名称】バイオガイア・エイビー
【氏名又は名称原語表記】Biogaia AB
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロース、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】メールスタム、ボー
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-531015(JP,A)
【文献】Front. Immunol.,2017年,Vol.8, Article 1680,p.1-9
【文献】J. Pediatr.,2018年01月,Vol.192,p.171-177.e1
【文献】J. Exp. Med.,2017年,Vol.214 No.1,p.107-123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00~35/768
C12Q 1/00~ 3/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるメラトニンの産生に使用するための、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができるラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株を含む組成物であって、
該菌株がラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32849又はDSM33198であり、
該使用が、乳児疝痛、過敏性腸症候群(IBS)、又は睡眠障害の治療又は予防のためであり、並びに
該菌株が、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM17938と比較して増加したレベルで、
5’-ヌクレオチダーゼ活性を有する、及び/又は
アデノシンを産生することができるか若しくは産生を誘導することができる、及び/又は
メラトニンを産生することができるか若しくは産生を誘導することができる、
上記組成物。
【請求項2】
前記菌株が、5’ヌクレオチダーゼ活性において及び/又はアデノシンのレベルにおいて及び/又はメラトニンのレベルにおいて、DSM17938のレベルと比較して、5倍までの増加を生じさせることができる;或いは
5’ヌクレオチダーゼ活性において及び/又はアデノシンのレベルにおいて及び/又はメラトニンのレベルにおいて、DSM17938のレベルと比較して、少なくとも1.5、2、3、4、又は5倍の増加を生じさせることができる、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記菌株が8ユニット/Lを超える5’-ヌクレオチダーゼ活性を有する、及び/又は8μmol L-1-1を超えるレベルでアデノシンを産生することができるか若しくは産生を誘導することができる、及び/又は20pg/mlを超えるレベルでメラトニンを産生することができるか若しくは産生を誘導することができる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記対象が生後12ヶ月まで、生後6若しくは5ヶ月まで、又は生後3若しくは4ヶ月までの乳児である、及び/又は対象が母乳で育てられているか、若しくは調合乳で育てられているか、若しくはそれらの組み合わせで育てられている、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記使用が、少なくとも1つのさらなる作用剤の投与をさらに含み、該さらなる作用剤がAMP又はAMPの供給源である、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32849又はDSM33198。
【請求項7】
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846。
【請求項8】
治療に使用するための、請求項又はに記載の菌株を含む組成物。
【請求項9】
乳児疝痛の治療又は予防に使用するための、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
過敏性腸症候群(IBS)の治療又は予防に使用するための、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
睡眠障害の治療又は予防に使用するための、請求項に記載の組成物。
【請求項12】
対象におけるメラトニン又はアデノシンの産生を増加させるのに適した組み合わせ製品であって、
(i)ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32849又はDSM33198と、
(ii)該ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株による、メラトニンの産生の誘導を増加又は増強するため及び/又はアデノシンの産生を増加又は増強するための基質成分であって、該基質成分がAMPである、上記基質成分と
を含む、
上記組み合わせ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本明細書において、メラトニン放出の前駆体及び他の重要な成分を産生する能力を含む、疝痛(又はメラトニンレベルの減少に関連する他の疾患)の予防及び/又は治療のためにメラトニンレベルを増加させる能力のために選択される乳酸菌の特定の菌株、そのような菌株を選択する方法、及びそのような菌株を含む製品を提供する。さらに、本発明は、そのような菌株の効力を増強するために特別に選択される基質成分を含む調製物に関する。
【背景技術】
【0002】
有病率と窮状の両方の点におけるその顕著性にもかかわらず、乳児疝痛の性質と原因はよくわからないままである。状態を説明するために使用される異なる用語もある。これらの用語には、「乳児疝痛」、痛みが主に夕方に限定されるために「夕方疝痛」、及び生後約3ヶ月で消失するという理屈を受けて「3ヶ月疝痛」が含まれる。異なる著者が異なる定義を使用している。疝痛が、少なくとも3週間の期間中に1日3時間以上、1週間に3日以上泣く発作であるというウェッセルの定義は、ほとんどの文献で受け入れられている。2006年に、ローマIII基準が発表され、明白な原因なしに開始及び停止する過敏性、騒ぎ、又は泣き声の発作があり、1日3時間以上続き、1週間に少なくとも3日発生し、ただし少なくとも1週について発生する乳児に適用可能な「乳児疝痛」の診断を検討するようにこの基準が修正された(修正ウェッセルの基準と呼ばれることもある)。ローマIV基準でさらに微調整された(Benningaら、Gastroenterology 2016;150:1443-1455)。これらの定義(ローマIII又はローマIV)のいずれかが本発明に関連している。
【0003】
今日まで、主に議論されている乳児疝痛の考えられる原因因子は、心理社会的障害、微生物性腸内毒素症を含む胃腸障害、及び神経発達障害に分けられてきた。
【0004】
心理社会的要因には、通常の泣き声の変種、非定型の子育てによる行動への影響、親と乳児の相互作用における問題の発現が含まれる。
【0005】
胃腸障害は、乳児の脚の位置と泣いている間に顔をしかめることから疝痛に関係があるとされてきた。胃腸の要因を以下に簡単に概説する。
【0006】
哺乳瓶による授乳、水平位置での授乳、及び授乳後のげっぷの不足などの不適切な授乳技術が原因と考えられている。最初の6ヶ月間の母乳育児は、保護因子であることがわかっている。乳児疝痛のリスクは、母乳で育てられていない乳児で1.86倍高くなっている(Saavedra MA、Dacosta JS、Garcias G、Horta BL、Tomasi E、Mendoca R.「乳児疝痛の発生率と関連する危険因子:コホート研究(Infantile colic incidence and associated risk factors:a cohort study.)」Pediatr(Rio J)2003;79(2):115-122)。
【0007】
現在、疝痛の完全な治療法はない。疝痛の現在の治療パラダイムは、薬理学的及び/又は非薬理学的方法のいずれかからなり、症状を最大限に軽減する。親に提供される疝痛の典型的な治療的介入は、食事、身体、行動、薬理学を含む4つのカテゴリーに分類される。食事の操作には、さまざまな授乳技術、あるいは低刺激性ミルク、大豆又はラクトースフリーの調合乳の使用、さまざまなプロバイオティクスやプレバイオティクスなどの栄養補助食品、及び固形物の早期導入に関する専門家の助言が含まれる。
【0008】
疝痛の治療のための処方箋のいらない薬物治療には、主に、シメチコン又はジメチルポリシロキサン、腸の気泡のサイズを縮小する非吸収性の市販薬の投与が含まれている。シメチコンは安全なプロファイルを有し、乳児疝痛に対するシメチコンの有効性がプラセボよりも優れていないことを示すいくつかの研究にもかかわらず、頻繁に推奨されている。
【0009】
疝痛のある乳児の微生物叢パターンの変化を示唆するいくつかの報告があることから、何人かの研究者がさまざまな無作為化臨床対照試験(RCT)を実施及び公開し、これらの乳児の泣く時間を短縮するラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM17938などの能力が評価されている。例えば、Savinoら(Pediatrics 2010;126:e526-33)は、乳児疝痛に対するこの菌株の有効性を試験するために2010年にRCTを実施した。修正ウェッセルの基準に従って診断された母乳だけで育てられている疝痛のある乳児50人を無作為に割り付け、Lロイテリ(L reuteri)DSM17938(10コロニー形成単位)又はプラセボのいずれかを21日間毎日投与した。親の質問票で、毎日の泣く時間と悪影響を監視した。乳児46人(Lロイテリ(L reuteri)群25人、プラセボ群21人)が試験を完了した。毎日の泣く時間(分/日(中央値))は、0日目で370対300、21日目で35.0対90.0(p=.022)であった。
【0010】
2013年、Szajewskaら(J Pediatr 2013;162:257-62)は、同様の設計で5ヶ月未満の乳児80人を対象としたRCTを発表し、治療に対する反応者の割合が、プラセボ群と比較してプロバイオティック群で有意に高いことを明らかにした。分/日(中央値)は、7日目で180対180、14日目で75対128、21日目で52対120(p<0.05)であった。母乳育児の乳児の泣く時間を大幅に短縮することで、疝痛のある乳児におけるLロイテリ(L.reuteri)DSM17938の効果を示すいくつかの他の研究もある。しかし、疝痛のある子供たちがより高い率で泣くこと(調合乳で育てられている子供たちにおけるより高い率を含む)を減らすために、さらに効果的な介入が必要である。
【0011】
したがって、現在、乳児の疝痛の治療に有用であることが証明されている、新しい(そして好ましくは改善された)安全で効果的な化合物及び組成物及び技術が必要とされている。本発明の組成物及び方法は、この必要性に応答し、乳児の疝痛(又は疝痛に関連する症状)を安全かつ効果的に予防及び治療することができる製品を提供する。
【0012】
他の目的及び利点は、以下の開示からより完全に明らかになるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
新生児のホルモンの未熟さは、腸運動の発達の早期問題における主な要因に関係があるとされ、それにより乳児疝痛などの乳児の痛みや泣き声も引き起こす。メラトニンは、生体リズムを支援する能力を有し、人間や動物の多くの機能に重要な影響を与えるホルモンである。メラトニンの前駆体はセロトニンであり、セロトニンは、アミノ酸のトリプトファンに由来する神経伝達物質そのものである。
【0014】
メラトニンは、以前は主に松果体から分泌されると考えられていた神経伝達物質である。しかし、網膜や胃腸管など、メラトニンを産生する松果体外の部位がある。
【0015】
乳児疝痛(IC)などの腸の運動障害や痛みを避けるためには、幼児におけるセロトニン及びメラトニンの産生、さまざまな概日リズムとの同期、及びそれに続く放出が潜在的に重要である。
【0016】
セロトニンは腸の平滑筋の収縮を増加させ、メラトニンは腸の平滑筋を弛緩させる。セロトニン濃度のピークは、他の因子とバランスが取れていない場合に腸のけいれんを引き起こす可能性があり、メラトニンは重要な因子の1つである。セロトニンとメラトニンはどちらも概日リズムを有する。乳児が生まれるときにセロトニンが産生され、セロトニンの概日リズムが発達するが、内因性のメラトニン産生とメラトニンの概日リズムは、多くの乳児において生後3ヶ月が経過するまでは開始する準備ができていない。この時間は、乳児疝痛の正常な消失の時間と一致する。
【0017】
乳児疝痛はメラトニン欠乏症と言うことができる。したがって、ICのある乳児に外因性メラトニンを与えることが提案されているが、多くの医師や親は乳児にホルモンを与えることに消極的である。
【0018】
すべての新生児のうち、ICの推定有病率は5%~25%であり、これはいくつかの点で社会、両親、及び乳児自身にとって負担であり、費用がかかる。
【0019】
したがって、一部の子供たちは、食物及び/又は腸内細菌から必要なメラトニンを産生及び放出できるように見え、したがって乳児疝痛を発症する可能性は低いようであるが、そうではなく、したがってICを予防又は治療するための追加の支援を必要とする多くの他の子供たちもいる。
【0020】
したがって、ICを発症するリスクのある子供たち、又はICに罹患した子供たちのメラトニンの産生及び放出を支援するための製品及び方法を見つけて開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、アデノシンを産生することができる細菌、例えば乳酸菌を選択できるという発見に基づいている。アデノシンを産生する乳酸菌は当技術分野で報告されておらず、そのような細菌は、例えば、メラトニン合成の律速酵素であるアリールアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)の産生を増加させるために使用することができる。AANAT酵素は松果体に見出されるが、胃腸管など、メラトニン産生の松果体外部位でも産生される。したがって、AANAT産生の増加(例えば、アデノシン産生の増加を介して)は、メラトニン産生を増加させる手段、又は胃腸管内のメラトニンレベルを増加させる手段を提供する。したがって、そのような細菌は、乳児疝痛あるいはメラトニンの産生又は合成の減少、低下又は欠乏に関連する、又はそれらを特徴とする他の疾患の治療又は予防に使用することができる。
【0022】
したがって、本発明は、細菌株、例えば、対象におけるアデノシンの産生(例えば、アデノシンのレベルの増加又はアデノシンの産生の増加もしくは促進)に使用するための、又は対象におけるメラトニンの産生(例えば、メラトニンのレベルの増加又はメラトニンの産生の増加もしくは促進)に使用するための、アデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株を提供する。
【0023】
本発明はさらに、対象においてアデノシン又はメラトニンを産生するための方法(例えば、アデノシン又はメラトニンのレベルの増加、又はアデノシン又はメラトニンの産生の増加もしくは促進)を提供し、方法は、有効量の細菌株、例えばアデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株を対象に投与するステップを含む。
【0024】
本発明はさらに、対象におけるアデノシン又はメラトニンの産生(例えば、アデノシン又はメラトニンのレベルの増加、又はアデノシン又はメラトニンの産生の増加もしくは促進)に使用するための薬剤又は組成物の製造における、細菌株、例えばアデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株の使用を提供する。
【0025】
より一般的に見ると、本発明はまた、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる細菌、例えば乳酸菌を提供する。したがって、そのような細菌は、メラトニンの産生のために、例えば、対象におけるメラトニンの産生又はレベルを増加させるために使用することができる。
【0026】
したがって、一態様では、本発明は、対象におけるメラトニンの産生(例えば、メラトニンのレベルの増加又はメラトニンの産生の増加もしくは促進)に使用するための、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株を提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、対象においてメラトニンを産生(例えば、メラトニンのレベルの増加又はメラトニンの産生の増加もしくは促進)する方法を提供し、方法は、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる有効量の乳酸菌株を対象に投与するステップを含む。
【0028】
別の態様では、本発明は、対象におけるメラトニンの産生(例えば、メラトニンのレベルの増加、又はメラトニンの産生の増加もしくは促進)に使用するための薬剤又は組成物の製造における、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株の使用を提供する。
【0029】
上記のように、そのような菌株は、乳児疝痛、あるいはメラトニンの産生、合成又はレベルの減少、低下又は欠乏に関連する、又はそれらを特徴とする他の疾患の治療又は予防に使用することができる。
【0030】
したがって、本発明はさらに、乳児疝痛、又は対象におけるメラトニンの産生又は合成又はレベルの減少、低下又は欠乏に関連する、又はそれらを特徴とする他の疾患の治療又は予防に使用するための、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株を提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、対象において、乳児疝痛、又はメラトニン産生又は合成又はレベルの減少、低下又は欠乏に関連する、又はそれらを特徴とする他の疾患を治療又は予防する方法を提供し、方法は、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる有効量の乳酸菌株を対象に投与するステップを含む。
【0032】
別の態様では、本発明は、対象における乳児疝痛、あるいはメラトニン産生又は合成又はレベルの減少、低下又は欠乏に関連する、又はそれらを特徴とする他の疾患の治療又は予防に使用するための薬剤又は組成物の製造における、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株の使用を提供する。
【0033】
そのような菌株は、アデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができてもよく、それにより、本明細書の他の場所に記載されるように、メラトニンを産生(例えば、下流産生)するか又は産生を誘導し得る。
【0034】
本発明の他の目的及び利点は、読者に明らかになり、これらの目的及び利点は、本発明の範囲内にあることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】メラトニン産生経路を示す概略図である。
図2】本発明のアデノシンを産生することができる細菌がメラトニン産生経路にどのように影響するかを示す概略図である。
図3】Lロイテリ(L reuteri)細菌細胞の上清中の5’-ヌクレオチダーゼ活性の測定値を示す図である。
図4】Lロイテリ(L.reuteri)細菌細胞の上清を添加した腸エンテロイドモデルでのメラトニン産生を示す図である。
図5A】DSM17938細菌細胞と比較したLロイテリ(L.reuteri)DSM33198細菌細胞の上清中の5’-ヌクレオチダーゼ活性の測定値を示す図である。
図5B】DSM17938細菌細胞と比較した、さまざまなLロイテリ(L.reuteri)細菌細胞の上清中の5’-ヌクレオチダーゼ活性の測定値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
したがって、上記で概説したように、本発明は、例えば特に胃腸(GI)管でメラトニンのレベルを増加させるために、メラトニンを産生することができるか、或いは産生を刺激、誘導又は支援することができる細菌株、例えば乳酸菌株を提供する。そのような菌株はそれ自体がメラトニンを産生、例えばメラトニンを分泌してもよく、したがって、メラトニンを直接供給又は産生する。
【0037】
しかしながら、例えば、メラトニン合成経路の上流成分(又はメラトニンの前駆体)を産生するか産生を刺激又は誘導し、それによってメラトニン産生を支援又は増加させることによって、間接的にメラトニンの産生をもたらす菌株も提供される。好ましい例は、アリールアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)の産生又は誘導であり、AANATは、セロトニンからN-アセチルセロトニンへの変換における律速酵素であり、N-アセチルセロトニンは次にメラトニンに変換される。
【0038】
上記で概説したように、別の特に好ましい乳酸菌株は、対象において、特に胃腸(GI)管においてアデノシンを産生又は誘導することができるものである。そのようなアデノシンは、適切な細胞表面アデノシン受容体(例えば、A2A受容体、A2B受容体、A3又はA4受容体、好ましくはA2A受容体)に作用し、細胞内cAMPのレベルの上昇をもたらすことができる。A2A及びその他のアデノシン受容体は、胃腸管に見出される細胞に存在することが知られている。次に、細胞内cAMPは、AANATの産生に関与する(図2を参照)。したがって、細胞内cAMPレベルの増加は、AANATレベルの増加、したがってメラトニンレベルの増加をもたらすことができる。したがって、アデノシンは、細胞表面のアデノシン受容体に結合できるようにするために、好ましくは細胞外に提供されるべきである。この目的のために、アデノシンは細菌細胞内で産生され、細胞外に輸送され(又は分泌され)得る。あるいは、アデノシンは、細胞外で、例えば、細菌細胞表面又は上清中で産生され得る。このような細胞外産生は、例えば、適切な基質をアデノシンに変換することができる、細胞壁(又は細胞表面)に固定された5’-ヌクレオチダーゼ酵素(又はエクト5’-ヌクレオチダーゼ酵素)の存在によって便利に起こり得る。このような細胞外産生は、細胞上清又は細胞外空間に5’-ヌクレオチダーゼ酵素(又はエクト5’-ヌクレオチダーゼ酵素)が存在することによっても同様に起こり得る。本明細書に示されるように、細菌株は、そのような5’-ヌクレオチダーゼ酵素(又はエクト5’-ヌクレオチダーゼ酵素)を細胞上清又は細胞外空間に提供、産生又は放出することができ、そこで適切な基質をアデノシンに変換することができる。適切な基質にはAMPが含まれる。
【0039】
したがって、細菌株が本明細書でアデノシンを産生することができると言及される場合、これは、細菌細胞自体によるアデノシンの直接産生を含み、また活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素を有する細胞(例えば、細菌の細胞表面に存在するか、細胞の上清又は細胞外空間に放出される)による細菌細胞によるアデノシンの産生を含み、それにより、例えばAMPなどの適切な基質をアデノシンに変換する、又は変換することができる。そのような基質は、例えば環境内で内因的に、自然に存在することができるか、又は、例えば外因性の手段によって、細菌に提供され得る。
【0040】
したがって、そのような菌株は、例えば、そのような菌株が存在しないレベルと比較して、メラトニンのレベルの増加をもたらすことができる。
【0041】
メラトニンは胃腸管で産生されることが知られているため、この領域での産生又は産生の増加は生理学的に効果的であるはずである。好ましくは、産生されるメラトニンの量は、臨床的又は治療的に有意である。したがって、本発明の菌株は、メラトニンのレベルの減少又は低下に関連する(又はそれらを特徴とする)、又はメラトニン欠乏に関連する(又はそれらを特徴とする)任意の疾患又は状態を治療するために使用することができ、あるいはメラトニンのレベルの増加から利益を得るであろう任意の疾患又は状態を治療するために使用することができる。そのような疾患又は状態(及び実際にそのような疾患又は状態に苦しむ対象)は当業者によって容易に認識され、例えば、正常又は健康な対象のレベル、例えば同じ、同等又は比較できる年齢の正常又は健康な対象のレベルと比較して、低下した、減少した、例えば大幅に減少した(又は異常な)メラトニンのレベル、又はメラトニン欠乏症を有する状態又は対象が含まれる。そのような疾患の好ましい例は乳児疝痛である。そのような治療用途に好ましい菌株は、メラトニン又はアデノシンを産生する菌株である。
【0042】
したがって、本発明のさらに別の態様は、例えば、アデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる菌株、又はアデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株により、メラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる乳酸菌株を提供する。そのような菌株の治療的使用も提供される。好ましくは、菌株は5’-ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子を有するか、又はそのような菌株は、例えばAMP(又は他の適切な基質)をアデノシンに変換するための活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素を有する。アデノシン産生の例示的なレベル又は5’-ヌクレオチダーゼ活性又はメラトニン産生のレベルは、本明細書の他の場所に記載されている。
【0043】
本発明の好ましい菌株は、Lロイテリ(L.reuteri)菌株、より好ましくは、Lロイテリ(L.reuteri)菌株DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849、及び/又はDSM33198(その寄託の詳細は本明細書の他の場所に提供される)であり、そのような菌株、例えば単離された菌株又はそのような菌株の生物学的に純粋な培養物又は調製物は本発明のさらなる態様を形成し、この菌株を含む組成物(例えば医薬又は栄養の、例えば栄養補助食品、又はプロバイオティクス、組成物、例えば薬学的又は栄養的に許容される希釈剤及び/又は賦形剤)、又は、例えば本明細書の他の場所に記載されているような、特に乳児疝痛(又は本明細書の他の場所に記載されている他の疾患)の治療又は予防のための、そのような菌株の治療的使用も本発明のさらなる態様を形成する。いくつかの実施形態では、DSM17938菌株は使用されない。したがって、本発明は、例えば本明細書の他の場所に記載されているような疾患を治療又は予防するために、治療で使用するためのラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849及び/又はDSM33198を提供する。本発明はさらに、乳児疝痛の治療又は予防に使用するためのラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849、及び/又はDSM33198を提供する。
【0044】
したがって、本発明のさらに別の態様は、対象における乳児疝痛又は本明細書の他の場所に記載されている他の疾患を治療又は予防する方法を提供し、方法は、有効量のラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849及び/又はDSM33198を対象に投与するステップを含む。
【0045】
別の態様では、本発明は、対象における乳児疝痛又は本明細書の他の場所に記載されている他の疾患の治療又は予防に使用するための薬剤又は組成物の製造におけるラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849、及び/又はDSM33198の使用を提供する。
【0046】
本明細書の他の場所に記載されている本発明の代替の好ましい実施形態及び特徴は、本明細書及び本明細書の他の場所に記載されている本発明の治療方法及び使用に等しく適用される。
【0047】
Lロイテリ(L.reuteri)菌株DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849、及び/又はDSM33198は、例えば、5’-ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子、及び AMP基質をアデノシンに変換することができる活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素を有することにより、アデノシンを産生する能力のために選択されており、アデノシンのレベルを増加させるだけでなく(例えば、菌株が存在しない場合のレベルと比較して)、例えば本明細書の他の場所に記載されているようにAANATのレベルを増加させることによって、メラトニンのレベルを増加させるためにも適している。これらの菌株は、活性細胞壁に固定された5’-ヌクレオチダーゼ酵素を含み、それぞれの上清で5’-ヌクレオチダーゼ酵素活性も示す(図3及び図5A/Bを参照)。
【0048】
Lロイテリ(L.reuteri)のこれらの菌株は、天然に存在する菌株から開発され(言い換えれば、改変、適応、又は進化)、また、胆汁に対する耐性の増加や粘膜表面(例えば胃腸管の表面)への付着の増加など、1又は複数の他の改善された特性のために選択されている。したがって、DSM32846及びDSM32847は、胆汁酸に対してより耐性があり、それによって、例えば胃腸管内でより多数が生存するように進化している。DSM32848及びDSM32849は、例えば本発明によれば、胃腸管内でより良好にコロニー形成し、それによってより良好に機能することを目的として、粘液によりよく付着するように進化している。Lロイテリ(L.reuteri)菌株DSM33198はまた、凍結乾燥手順の繰り返しを含む多段階の選択プロセスで変更されており、ネイティブ分離株(親株)よりも耐性が高く、生産プロセスでの生存率がより高くなっている。したがって、そのような菌株は、自然界に存在する菌株に対応せず、進化を余儀なくされており、非天然菌株である。ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849、DSM33198のすべての菌株が選択される。好ましい菌株は、DSM32846、DSM32847、DSM32849、又はDSM33198である。より好ましい菌株は、DSM32846、DSM32847、又はDSM33198である。
【0049】
一実施形態では、ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32848及び/又はDSM32849株が選択又は使用される。好ましい菌株は、DSM32846、DSM32847、又はDSM32849である。より好ましい菌株は、DSM32846又はDSM32847であり、例えば、いくつかの実施形態ではDSM32846が好ましい。いくつかの実施形態では、菌株DSM33198が選択又は使用される。
【0050】
本発明は、対象におけるアデノシンの産生に使用するための薬剤又は組成物の製造において、アデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる(例えば、アデノシンのレベルを増加させる、又はアデノシンの産生を増加させるか促進する)細菌株、例えば乳酸菌株の使用を提供する。
【0051】
そのような方法及び使用は、乳児疝痛、又は本明細書の他の場所に記載されているような他の疾患、例えば過敏性腸症候群(IBS)、睡眠障害、又は神経変性疾患又は障害、例えばアルツハイマー病又は他のタイプの認知症、例えば他のタイプの老人性認知症の治療又は予防に使用することができる。そのような疾患は、メラトニンの欠乏又は減少に関連する(又はそれらを特徴とする)疾患、又は例えばメラトニンのレベルの上昇又は増加から利益を得るであろう疾患の例でもある。
【0052】
胃腸運動とは、消化されている食物を移動させるための胃腸管の筋肉の伸縮を意味する。これらの筋肉の同期した収縮は蠕動と呼ばれる。
【0053】
運動と分泌を調節する胃腸管内のホルモンを含む、局所的に放出される多くの因子が存在する。消化器系の動き、及びその中の内容物の通過が、運動を定義する。消化管のいずれかの部分の神経及び/又は筋肉、胃腸の運動機能が正常な強さで、かつ協調して機能しない場合、人は運動障害に関連する症状を発症する。
【0054】
運動機能の障害は、例えば乳児疝痛のある対象において、さまざまな腸領域でさまざまな症状を引き起こすことが報告されている。
【0055】
乳児疝痛は、生後3ヶ月の間に明らかな理由もなく過度に泣く乳児を表すために使用される用語である。疝痛は乳児期の最も困った問題の1つである。疝痛は乳児、親、そして医療提供者にとって苦痛である。疝痛の原因は完全には理解されていない。
【0056】
新生児のホルモンの未熟さは、腸運動の発達の早期問題における主な要因に関係があるとされ、それにより乳児疝痛などの乳児の痛みや泣き声も引き起こす。
【0057】
メラトニンは、生体リズムを支援する能力を有し、人間や動物の多くの機能に重要な影響を与えるホルモンである。ホルモンは、胃腸管の平滑筋と腸筋神経叢細胞に発現する選択的受容体(メラトニン受容体)によって胃腸運動に影響を与える。胃腸平滑筋収縮の根底にある基本的なメカニズムは、電流の周期的な生成である。胃腸管の筋電活動は、筋電移動複合体で組織化される徐波と棘波の2種類の電位からなる。
【0058】
メラトニンの前駆体はセロトニンであり、セロトニンは、アミノ酸のトリプトファンに由来する神経伝達物質そのものである。
【0059】
セロトニンによって誘発される食物輸送の低下は、メラトニンによって部分的に阻止されることが示されている。これは、腸活動の調節におけるメラトニンとセロトニンの平衡システムである。
【0060】
さらに、機能的でバランスの取れたメラトニン-セロトニンシステムは、脳と胃腸管の両方でのパラクリン効果だけでなく、内分泌による食欲と消化のプロセスにも影響を与える。
【0061】
2つのホルモンの作用は運動に相反する影響を与えるようであり、最終的な影響は用量に依存する。メラトニンとセロトニンは、過敏症のプロセスと痛みの伝導に関与していることも知られている。
【0062】
N-アセチル-5-メトキシトリプタミンとしても知られるメラトニンは、主に松果体から分泌されると以前は考えられていたホルモンであり神経伝達物質である。しかし、網膜や胃腸管など、メラトニン産生の重要な松果体外部位がある。現在、胃腸管において松果体の少なくとも400倍多くのメラトニンを示す報告がある。胃腸のメラトニンの概日変動は、(松果体のように)光への曝露によって制御されているようには見えず、食事と食物組成によって制御されているように見える。
【0063】
乳児疝痛(IC)などの腸の運動障害や痛みを避けるためには、幼児におけるセロトニン及びメラトニンの産生、さまざまな概日リズムとの同期、及びそれに続く放出が重要である。
【0064】
セロトニンは腸の平滑筋の収縮を増加させ、メラトニンは腸の平滑筋を弛緩させる。セロトニン濃度のピークは、他の因子とバランスが取れていない場合に腸のけいれんを引き起こす可能性があり、メラトニンは重要な因子の1つである。セロトニンとメラトニンはどちらも概日リズムを有する。乳児が生まれるときにセロトニンが産生され、セロトニンの概日リズムが発達するが、内因性のメラトニン産生とメラトニンの概日リズムは、多くの乳児において生後3ヶ月が経過するまでは開始する準備ができていない。この時間は、乳児疝痛の正常な消失の時間と一致する。メラトニンは、疝痛のある乳児では幼いとき午前中に低く、疝痛のない乳児では高いことが示されている(Cengizら、2015、Turkish Journal of Family Medicine and Primary Care;9(1)/10-15)。そのような乳児(例えば、メラトニン又はメラトニンバランスの欠乏、例えば、午前中(例えば午前6時、午前8時、午前10時又は正午、あるいはそれらの時間の前)のメラトニンレベルの欠乏に関連する乳児疝痛の形態を有する乳児)は、本発明を使用して治療することができる対象の例である。
【0065】
したがって、一部の子供たちは必要なメラトニンを食物及び/又は腸内細菌から内因的に産生及び放出できるように見え、したがって乳児疝痛を発症する可能性は低いようであるが、そうではなく、したがってICを予防又は治療するための追加の支援を必要とする多くの他の子供たちもいる。そのような乳児(例えば、完全に発達していない腸内マイクロバイオームによって引き起こされるメラトニンの欠乏を有する乳児、あるいは栄養問題又は摂食問題に苦しむ乳児)も本発明を使用して治療することができる対象の例である。
【0066】
乳児疝痛はメラトニン欠乏症と言うことができる。これは、ストレスの多い状況にある子供たち、又は完全な妊娠期間の前に生まれた子供たちや食物代謝が完全に機能していないなど、ストレスに対処する能力が低い子供たちにとって特に重要である。そのような乳児(例えば、完全な妊娠期間の前に、又は帝王切開によって、又は完全に機能する食物代謝を持たずに生まれた、メラトニンの欠乏を有する乳児)も、本発明を使用して治療することができる対象の例である。
【0067】
メラトニン機能のバランスに関連する状態の別の例は、過敏性腸症候群(IBS)であり、これは、特定の原因がない排便習慣の乱れを伴う反復性腹痛又は不快感を特徴とする一般的な障害である。メラトニンは、痛みの知覚と排便習慣に正の効果を示すことが示唆されている(Siah KTHら、2014、World J Gastroenterol;20(10):2492-2498)。したがって、IBS、特にメラトニン又はメラトニンバランスの欠乏に関連するIBSの形態を有する対象も、本発明を使用して治療することができる対象の例である。
【0068】
メラトニン欠乏症は、主に松果体、循環、唾液、脳脊髄液で、また尿中の代謝物である6-スルファトキシメラトニンを測定することによって、調査されてきた。
【0069】
腸内には20種類以上の腸内分泌細胞があり、人体で最大の内分泌器官となっている。腸クロム親和性(EC)細胞は、腸内分泌細胞及び神経内分泌細胞の一種である。それらは消化管の内腔を裏打ちする上皮と並んで存在し、胃腸の調節、特に腸運動と分泌において重要な役割を果たす。EC細胞は、神経伝達物質であるセロトニンやその他のペプチドの分泌を介して腸管神経系(ENS)のニューロンシグナル伝達を調節し、さらにアデノシン受容体を発現し、メラトニンを活発に合成する。
【0070】
不十分なメラトニンシグナル伝達の一般的な症状は睡眠障害であり、メラトニンは我々の時代の最も人気のある自然の健康補助食品の1つである。メラトニンは、その合成と分泌が暗闇によって強化され、光によって抑制される身体のいくつかの場所にあるため、しばしば「暗闇のホルモン」と呼ばれる。睡眠障害は子供たちに非常に蔓延しており、適切な治療を行わないと、慢性的になり、何年も続く可能性がある(Espositoら、2019、J Transl Med、17:77)。高齢者でさえ睡眠障害を経験すると報告されている夜間のメラトニンのピークは、加齢とともに低下することが通常観察される。したがって、睡眠障害(sleep disturbance)又は睡眠障害(sleep disorder)、特にメラトニン又はメラトニンバランスの欠乏に関連する形態の睡眠障害(sleep disturbance)又は睡眠障害(sleep disorder)を有する又は罹患している対象も、本発明を使用して治療することができる対象の例である。
【0071】
メラトニンのレベルの低下は、神経変性障害、特にアルツハイマー病や他のタイプの老人性認知症でも繰り返し報告されている(Blumenbach Johann Friedrich、2012、The Scientific World Journal Volume 2012、Article ID 640389)。したがって、そのような神経変性障害、特にメラトニン又はメラトニンバランスの欠乏に関連するそのような神経変性障害の形態を有する対象も、本発明を使用して治療することができる対象の例である。
【0072】
メラトニン形成の速度は、松果体だけでなく、胃腸管など、メラトニン産生の松果体外部位においても酵素アリールアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)(図1及び図2)の活性に依存する。
【0073】
アデノシンは、アデノシン受容体を介して細胞内cAMPレベルを増加させ、メラトニン合成の律速酵素であるAANATの産生を増加させる。
【0074】
本発明の目的は、乳児疝痛を予防及び/又は治療するためにアデノシン産生乳酸菌株を使用することである。
【0075】
本発明の別の目的は、IBSを予防及び/又は治療するためにアデノシン産生乳酸菌株を使用することである。
【0076】
本発明の別の目的は、睡眠障害を予防及び/又は治療するためにアデノシン産生乳酸菌株を使用することである。
【0077】
本発明の別の目的は、神経変性障害、例えば、アルツハイマー病及び他のタイプの認知症、例えば他のタイプの老人性認知症を予防及び/又は治療するためにアデノシン産生乳酸菌株を使用することである。
【0078】
本発明はまた、アデノシンを産生することができる乳酸菌株を含む特定の細菌株を選択する方法、及び疝痛を有する又は疝痛のリスクがある乳児に有益な効果をもたらすためのそのような菌株の使用に関する。本発明のさらなる目的は、アデノシンを産生することができる新しい細菌株を提供することである。
【0079】
人体における重要な代謝プロセスの1つはプリン代謝であり、プリンは特定の酵素によって代謝及び分解される。これらの酵素の一例は、アデノシンの産生における重要な酵素であると考えられているエクト-5’-ヌクレオチダーゼ(CD73)である。
【0080】
本発明者らは、驚くべきことに、いくつかの特定のプロバイオティクス細菌株がアデノシンを産生することができることを発見した。
【0081】
したがって、本発明は、アデノシンの産生に有効である乳酸菌の菌株を含む、特定の細菌株を選択する新しい方法を含む。特定の細菌株を選択する目的は、乳児疝痛(又は本明細書の他の場所に記載されている他の疾患)などの特定の障害を治療するためにそれらを使用することである。
【0082】
本発明は、プロバイオティクスとして、及び治療において、例えば医薬品として又は栄養補助食品として有用である細菌株、特に乳酸菌株を選択する方法を提供する。
【0083】
したがって、本発明の一態様は、アデノシンを産生することができる細菌株、好ましくは乳酸菌株を選択する方法を提供し、方法は、
a)5’-ヌクレオチダーゼ、例えば細胞壁に固定された5’-ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子の存在について、細菌株、例えば乳酸菌株をスクリーニングすること、及び/又は
b)活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素、例えば細胞壁に固定された5’-ヌクレオチダーゼ酵素の存在について、例えば乳酸菌株などの細菌株、又はその上清をスクリーニングすること
を含む。
このような5’-ヌクレオチダーゼ(5’NT)酵素は、エクト-5’ヌクレオチダーゼ酵素又はCD73(分化クラスター73)と呼ばれることもある。次に、アデノシンを産生することができる菌株を選択することができる。
【0084】
あるいは、本発明は、アデノシンを産生する能力について例えば乳酸菌株などの細菌株をスクリーニングし、その能力を有する菌株を選択することによって、細菌株、好ましくは乳酸菌株を選択する方法を提供する。
【0085】
本発明の方法を使用して適切な菌株が選択されると、それを次に、対象におけるアデノシンの産生、例えば局所産生のために使用することができる。
【0086】
本発明の方法によって選択される、産生される、得られる、又は得ることができる例えば乳酸菌株などの細菌株であって、この菌株が、例えば対象におけるアデノシンの局所産生など、アデノシンを産生することができる、細菌株が本発明のさらに別の態様である。
【0087】
本発明によって選択された菌株の乳児疝痛(又は本明細書の他の場所に記載されている他の疾患)における治療的使用も提供される。
【0088】
したがって、本発明のさらなる態様は、本発明の方法によって選択される、産生される、得られる、又は得ることができる例えば乳酸菌株などの細菌株を提供し、この菌株は、5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子又は活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素を有し、対象におけるアデノシンの産生、例えば局所産生に使用するためのアデノシンを産生することができる。
【0089】
本発明の代替の実施形態は、例えば乳酸菌株などの細菌株を提供し、この菌株は、5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子又は活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素を有し、対象におけるアデノシンの産生、例えば局所産生に使用するためのアデノシンを産生することができる。この菌株の好ましい特徴及びその使用は、本明細書の他の場所に記載されている。
【0090】
本明細書の他の場所で概説されるように、本発明の特定の実施形態は、乳児疝痛(又は本明細書の他の場所に記載されている他の疾患)の予防及び/又は治療である。
【0091】
治療方法又は対象におけるアデノシンの産生、例えば局所産生の方法も提供され、方法は、対象におけるアデノシンの例えば局所産生などの産生を可能にするための有効量で対象に、本発明の選択方法によって選択される、産生される、得られる、又は得ることができる、例えば乳酸菌株などの細菌株を投与すること、又は例えば乳酸菌株などの細菌株を投与することであって、この菌株が5’ヌクレオチダーゼ遺伝子又は活性5’ヌクレオチダーゼ酵素を有し、アデノシンを産生することができることを含む。例えば乳児疝痛(又は本明細書の他の場所に記載されている他の疾患)における、菌株の好ましい特徴及びその治療用途は、本明細書の他の場所に記載されている。
【0092】
また、本発明によって提供されるのは、本発明の選択方法によって選択される、産生される、得られる、又は得ることができる、例えば乳酸菌株などの細菌株の使用であって、この菌株は、5’ヌクレオチダーゼ遺伝子又は活性5’ヌクレオチダーゼ酵素を有し、対象におけるアデノシンの産生、例えば局所産生に使用するための組成物又は薬剤の製造において、アデノシンを産生することができる。代替の実施形態は、例えば乳酸菌株などの細菌株の使用を提供し、この菌株は、5’ヌクレオチダーゼ遺伝子又は活性5’ヌクレオチダーゼ酵素を有し、対象におけるアデノシンの産生、例えば局所産生に使用するための組成物又は薬剤の製造において、アデノシンを産生することができる。例えば乳児疝痛(又は本明細書の他の場所に記載されている他の疾患)における、菌株の好ましい特徴及びその治療用途は、本明細書の他の場所に記載されている。
【0093】
本明細書に記載されるような細菌株(例えば、アデノシン、メラトニンなどを産生又は誘導することができる細菌株)を含む(例えば、1又は複数の細菌株を含む)、例えば医薬組成物、プロバイオティクス組成物、又は食事/栄養補助食品組成物などの製品又は組成物、ならびに本明細書に記載の方法及び使用における製品又は組成物の使用は、本発明のさらに別の態様を形成する。
【0094】
国連食糧農業機関は、プロバイオティクスを「適切な量で投与されたときに宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義している。今日では、例えば、ラクトバチルス菌(Lactobacillus)やビフィズス菌(Bifidobacterium)などの乳酸産生細菌など、多くの異なる細菌がプロバイオティクスとして使用されている。
【0095】
本明細書の他の場所に記載されている本発明の代替の好ましい実施形態及び特徴は、本発明の治療方法、使用及び製品に等しく適用される。
【0096】
上記のように、本発明は、アデノシンを産生することができる細菌株の選択及び使用に関する。
【0097】
アデノシンの産生に有効である菌株は、例えば哺乳類、好ましくはヒトの対象におけるアデノシンの局所産生のために使用することができる。
【0098】
したがって、上記で概説したように、本発明は、アデノシンを産生することができる細菌株を選択又はスクリーニングするためのさまざまな方法を提供する。
【0099】
いくつかの方法は、例えば細胞壁に固定された5’-ヌクレオチダーゼなどの5’-ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子の存在についてスクリーニングするステップ(例えば、ステップa))を含む。このようなスクリーニングは、任意の適切な方法を使用して実行することができ、5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子に陽性の菌株が選択される。そのような方法は、インビトロで都合よく実行され、例えば、その配列が当技術分野で知られている、細胞壁に固定された5’ヌクレオチダーゼ(又はその識別フラグメント)など、5’ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子の存在を検出するための遺伝的又は核酸ベースの方法であろう。例えば、PCRプロトコル(又は他の核酸ベースの技術)は、酵素をコードする既知の核酸配列に基づいてこれを行うように容易に設計することができ、あるいは、代替として、候補菌株のゲノム配列を、例えば、以下に論じられるようなLPXTGモチーフ(配列番号1)の存在などを含む、既知の5’ヌクレオチダーゼ配列との相同性に基づいて、例えば細胞壁に固定された5’ヌクレオチダーゼなどの5’ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子を同定する目的で精査することができる。
【0100】
本発明の方法で検出される例示的な遺伝子は、Lロイテリ(L.reuteri)由来の細胞壁固定(エクト)5’ヌクレオチダーゼ遺伝子(例えば、GenBankアクセッション番号:AEI56270.1、LPXTGモチーフ細胞壁アンカードメインタンパク質[ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)SD2112])、又は他の種の細菌、例えば他の乳酸菌に由来する適切なホモログ/5’ヌクレオチダーゼである。例示的な技術は、実験例に記載されている。
【0101】
いくつかの方法は、例えば細胞壁に固定された5’ヌクレオチダーゼ酵素などの活性(機能的)5’-ヌクレオチダーゼ酵素の存在についてスクリーニングするステップ(例えば、ステップb))を含む。そのようなステップは、任意の適切な方法を使用して、例えば酵素アッセイを使用して実行することができる。5’-ヌクレオチダーゼ酵素は次の反応:
【数1】

(AMPはアデノシン一リン酸)を触媒し、この反応を測定するアッセイは、活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素の存在(又は5’-ヌクレオチダーゼ活性)を決定するために容易に使用できる。言い換えれば、本明細書における活性又は機能的5’-ヌクレオチダーゼ酵素への言及は、適切な条件下で、例えばAMPなどの適切な基質が供給される場合に、この反応を触媒することができるものである。5’-ヌクレオチダーゼ酵素の活性は、例えばそのような酵素アッセイで、例えば、反応で産生され、測定又は定量化することができるリン酸、アデノシン、又はアデノシンの他の適切な下流産生物の量又は濃度を測定することによって、必要に応じて定量化することができる。活性は、細菌細胞のサンプル、又は細菌細胞からの上清で便利に測定することができる。
【0102】
そのようなアッセイを実施するための方法は、当業者によく知られているであろう。例えば、AMPのアデノシンへの変換の下流産生物として(すなわち、アデノシンの産生の結果として)形成される色素(キノン色素)の産生によって5’-ヌクレオチダーゼ酵素活性が測定されるCrystal Chem 5’-ヌクレオチダーゼアッセイキット(Crystal Chem、カタログ番号80229、ダウナーズグローブ、イリノイ州、米国)など、適切なキットが市販されている。AMPは基質として提供される。例示的な手法は、例のセクションに記載されている。適切な方法論は、他の試薬サプライヤー、例えばSigmaからも5’-ヌクレオチダーゼ酵素試薬と合わせて、容易に入手できる。
【0103】
5’-ヌクレオチダーゼ酵素(又は5’-ヌクレオチダーゼ活性)の産生レベルが高い又は有意な菌株、例えば、5’-ヌクレオチダーゼ活性が2ユニット/L(リットルあたりのユニット)以上である、及び/又はアデノシンを2μmol L-1-1(μmol/リットル/分)以上のレベルで産生することができる菌株が好ましい。したがって、好ましい実施形態において、菌株は、5’-ヌクレオチダーゼ活性が3、4、5、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140又は150ユニット/L以上のレベルである、及び/又はアデノシンを3、4、5、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、又は150μmolL-1-1以上のレベルで産生することができるように選択される。いくつかの実施形態では、そのような値は上限を表すことができる。このような値は、一般に、細菌細胞のサンプル、例えば細菌細胞の表面、又は培養中の細菌細胞の上清中、好ましくは上清中で測定される5’-ヌクレオチダーゼ活性の値を指す。そのような値は、一般に、細菌細胞のサンプル、例えば培養中の細菌細胞の上清中で測定されるアデノシンレベル(好ましくは細胞外アデノシンレベル)を指す。そのような値は、一般に、10細菌/mlの濃度、又はそのような培養物からの上清で測定されたときの5’-ヌクレオチダーゼ活性(又はアデノシンレベル)の値を指す。1ユニットは、1μmol産生物/分(例えば、1μmol産生物/リットル/分)を産生するために必要な酵素の量として定義される。ユニット/リットルの濃度は、1μM/分(例えば1μM/リットル/分)で濃度を上げるために必要な酵素濃度に対応する。この活性を測定するための適切で例となるアッセイは、Crystal Chem Incの5’-ヌクレオチダーゼキット(#80229)を使用した例に示されている。したがって、好ましい実施形態では、上記の単位及び値は、このキット、及び/又は、特に10細菌/mlの濃度又はそのような培養物からの上清を用いて例に記載された条件、又は同等のアッセイを使用して測定したときの単位及び値を指す。したがって、そのような方法は、インビトロで都合よく実行されるであろう。
【0104】
5’-ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子の存在は、活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素の存在を常に示すとは限らないため、少なくともステップb)を含む方法が好ましいであろう。本発明の方法、使用及び乳酸菌において、アデノシン産生又はアデノシン活性は、例えば、上清又は乳酸菌によって産生される他の細胞外液中に存在することができるように、細胞外で、すなわち乳酸菌の外側又は表面で起こるべきである。したがって、例えば細胞壁に固定された5’-ヌクレオチダーゼの形態での細胞表面上の、又は細菌細胞からの細胞外、例えば上清中の活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素の存在は、アデノシンを産生する反応が細胞の外側、例えば細菌細胞の表面で起こるようになっている有用な特徴であり得る。
【0105】
したがって、良好なレベルのアデノシンの産生(例えば、5’-ヌクレオチダーゼ酵素によって産生される細胞外アデノシン)はまた、5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子の存在又は活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素の存在の指標となり得る。したがって、本発明の選択方法はまた、アデノシンを産生している菌株を選択するステップを含み得る。アデノシン(例えば細胞外アデノシン)の産生レベルが高い又は有意な菌株、例えば、対象において治療的に有効なレベルで、又はメラトニンの増加した(そして好ましくは治療的に有効な)レベルが観察されるようなレベルでアデノシンを産生する菌株が好ましい。そのような値は、一般に、培養中の菌株の上清又は培養中の菌株の細胞表面(インビトロ)で測定されたアデノシンの値を指し、いくつかの例示的な特定の値が上記に提供されている。
【0106】
しかしながら、いくつかの実施形態では、対象において、例えば投与部位で、例えば胃腸管内で、例えば局所的に産生されるアデノシンの値、レベル、又は量を指すことが適切である。例えば、好ましい菌株は、例えば、菌株が投与されていないときのアデノシンのレベル、又は特定の対象におけるアデノシンのベース又は自然のレベルなど、本明細書の他の場所に記載されている関連対照と比較した場合に、アデノシンの産生の増加、例えば、アデノシンのインビボ産生の増加、例えば局所産生(例えば、胃腸管内)を可能にすることができる。
【0107】
本明細書に記載の本発明のすべての態様において、局所産生は、投与部位でのアデノシンの産生又はレベル、例えば、(例えば投与が経口である場合)胃腸管でのアデノシンの産生又はレベルを指すことができる。一態様では、アデノシンの局所産生は、全身性の下流効果を有する可能性があり、循環系、例えば、血液又は血漿、又は胃腸管外の他の場所におけるアデノシン又はメラトニンのレベルを増加させ得る。
【0108】
したがって、例えば対象の胃腸管において、アデノシン(又はメラトニン又は5’ヌクレオチダーゼ活性)の局所レベルの増加を生じさせることができる菌株は、特に、菌株が経口投与されたときにそのような効果が観察される場合に好ましい。好ましくは、増加は、測定可能又は有意な増加であり、例えば、統計的又は臨床的に有意である。例として、アデノシン(又はメラトニン又は5’ヌクレオチダーゼ活性)のレベル、例えばアデノシン(又はメラトニン又は5’ヌクレオチダーゼ活性)の局所レベルにおいて、少なくとも、又は最大で、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍又は10倍の増加を生じさせることができる菌株が好ましい。例えば、菌株が投与されていないときに観察されたレベル、又は対照製剤、例えば関連する菌株を含まない対照製剤が投与されるときのレベルと比較した場合の増加など、任意の適切な比較を使用することができる。
【0109】
アデノシン(又はメラトニン又は5’ヌクレオチダーゼ活性)産生のレベルを測定する適切な方法は、当業者によく知られているであろう。したがって、本発明のいくつかの実施形態では、選択方法は、候補菌株によって産生されるアデノシンの量又はレベル(例えば、濃度)を検出又は決定するステップを含むであろう。
【0110】
必要に応じて、アデノシン産生又は5’ヌクレオチダーゼ活性のレベル(又は実際には本明細書に記載の菌株の任意の他の適切な特性)を、陽性又は陰性対照菌株と都合よく比較することができる。適切な陽性対照菌株は、例えば細菌細胞の上清において、有意なレベルのアデノシン/5’ヌクレオチダーゼ活性を産生することが例に示されているDSM17938であり得る。一部の菌株は、例えば細菌細胞の上清において、DSM17938よりも高いレベル、時には著しく高いレベルのアデノシン/5’ヌクレオチダーゼ活性を産生する。したがって、例えば細菌細胞の上清において、例えばインビトロで評価した場合に、DSM17938よりも高い(増加した)レベル又は有意に高い(増加した)レベルの5’ヌクレオチダーゼ活性を産生することができる菌株は、本発明のなおさらなる態様を形成する。例示的な菌株は、DSM32846、DSM32847、DSM32849、及びDSM33198である(図3及び図5A/Bを参照)。あるいは、例えば細菌細胞の上清において、例えばインビトロで評価した場合に、DSM17938よりも高い(増加した)レベル、又は有意に高い(増加した)レベルのアデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる菌株は、本発明のなおさらなる態様を形成する。例えば、インビボで評価した場合にDSM17938に比べて対象におけるアデノシンの局所レベルが例えばより高いなど、例えば、対象においてより高い(増加した)レベル又は有意に高い(増加した)レベルのアデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる菌株は、特に菌株が経口投与されるときにそのような効果が観察される場合に、本発明のなおさらなる態様を形成する。
【0111】
一般に、DSM17938と比較した場合に1又は複数の改善された(例えば、著しく改善された)特性を有する菌株が、いくつかの実施形態に好ましい。
【0112】
好ましくは、(アデノシン産生又は5’ヌクレオチダーゼ活性の)増加は、測定可能又は有意な増加であり、例えば、統計的又は臨床的に有意である。例として、DSM17938のレベルと比較したアデノシンのレベル、例えば、アデノシンの局所又はインビトロレベル、又は5’ヌクレオチダーゼ活性のレベル(例えば、インビトロで評価した場合)において、少なくとも、又は最大10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、又はそれ以上の増加を引き起こすことができる菌株が好ましい。あるいは、DSM17938のレベルと比較したアデノシンのレベル、例えば、アデノシンの局所的又はインビトロレベル、又は5’ヌクレオチダーゼ活性のレベルにおいて、少なくとも、又は最大で、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍又は10倍の増加を引き起こすことができる菌株が好ましい。インビトロレベルは、例えば細菌培養物中で、本明細書の他の場所に記載されているように便利に測定することができる。好ましくは、そのような増加は、例えばインビトロで、例えば細菌培養物の上清で測定されるような、アデノシン又は5’ヌクレオチダーゼ活性の細胞外レベルの増加である。
【0113】
適切な陰性対照菌株は、5’ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子を含まないか、又は活性5’ヌクレオチダーゼ酵素を含まない(又は本明細書の他の場所に記載されているように5’ヌクレオチダーゼ活性を有していない)菌株であり得る。
【0114】
本発明の方法によって選択される菌株の下流での使用のために、アデノシン産生菌株が選択又は単離された後、他の実施形態はさらに、そのような菌株を培養又は増殖又は産生するステップ、及び任意選択で、例えば本明細書の他の場所に記載されているように、培養又は増殖又は産生された菌株をこの菌株を含む組成物、例えば医薬又は栄養組成物に製剤化するステップ、あるいは、そのような菌株を将来の使用のために、例えばリュフィリゼーション(lyophilisation)又は凍結乾燥によって、保存するステップを含むであろう。一実施形態では、細菌株は凍結乾燥形態で提供される。
【0115】
本発明の方法の選択ステップ(及び実際には本明細書に記載されているような治療的方法)は、一般に、アデノシン産生を支援する適切な培養培地(又はインビボ環境)で実施する必要がある。好ましい培養培地(又はインビボ環境)は適切な炭素源を含み、炭素源は、好ましくは5’ヌクレオチダーゼ酵素によるアデノシン産生のための適切な基質(例えばAMP)と共に、菌株によるアデノシンの産生を支援する。
【0116】
このようなアッセイはインビトロで都合よく実行できるが、別のオプションは、例えば適切な腸エンテロイドモデルを使用して(例えばメラトニンのレベルを評価することができる、例5に記載の腸エンテロイドモデル及びアッセイを参照)、適切なエクスビボアッセイで菌株を評価することであろう。
【0117】
したがって、菌株を評価するための、例えば菌株によるアデノシン又はメラトニン産生の誘導を評価するための、任意の適切なインビトロ又はエクスビボモデル、菌株を評価するための好ましいインビトロ又はエクスビボモデルは、腸エンテロイドモデル、好ましくはヒト腸エンテロイドモデルであるが、例えばこれをメラトニンレベルを評価するために使用することができる。そのようなモデルは、例えば例5に記載されるように、腸内分泌細胞を含むことが好ましい。
【0118】
本発明の好ましい菌株は、少なくとも又は最大10、20、30、40、50、60又は70pg/mlのメラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる。いくつかの実施形態では、そのような値は上限を表すことができる。そのような値は、一般に、適切なインビトロ又はエクスビボアッセイで測定されたときに菌株によって誘導されるメラトニン産生のレベルを指し、例えば、細胞が本発明の菌株又は菌株から採取された上清と接触するときに、腸内分泌細胞(好ましくはヒト細胞)によって産生される、又は(例えば、本明細書の他の場所に記載されているような腸内分泌細胞のパーセンテージで)腸内分泌細胞を含む腸エンテロイドモデル、好ましくはヒト細胞を含むモデルで産生されるメラトニンのレベルを指す。この活性を測定するための適切で例となるアッセイは、腸内分泌細胞、例えば少なくとも20%又は30%、例えば20~40%、30~40%、又は最大40%の腸内分泌細胞を含むヒト腸エンテロイドモデルを使用する例に示されている。したがって、好ましい実施形態では、上記の値は、このアッセイ(又は例えば上記パーセンテージの腸内分泌細胞を用いた同等のアッセイ)及び/又は例に記載の条件を使用して測定した場合の値を指す。
【0119】
いくつかの菌株は、例えば腸内分泌細胞から、又は上記の腸エンテロイドモデルにおいて、DSM17938よりも高いレベル、時には著しく高いレベルのメラトニンを産生又は誘導することができる。したがって、例えば上記のように、例えば腸内分泌細胞又は腸エンテロイドモデルを使用して、評価した場合に、DSM17938よりも高い(増加した)レベル、又は有意に高い(増加した)レベルのメラトニンを産生又は誘導することができる菌株は、本発明のなおさらなる態様を形成する。例示的な菌株は、DSM17938のレベルと比較して、メラトニン産生のレベルにおいて少なくとも、又は最大、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍、又は10倍の増加を生じさせることができ、また好ましい。
【0120】
したがって、本発明のスクリーニング方法は、任意選択で、例えば上記の方法論又は任意の他の適切な方法論を使用してメラトニンを産生することができるか又は産生を誘導することができる菌株を選択するさらなるステップを含むことができる。選択された菌株は、好ましくは、上記のレベルでメラトニンの産生を誘導することができる。
【0121】
本発明の方法を使用して2以上の細菌株をスクリーニングする実施形態では、生成されたアデノシン又は5’ヌクレオチダーゼ活性(又はメラトニン)の量を任意選択で定量化することができ、細菌株、例えば、最も高い活性又はレベルの5’-ヌクレオチダーゼ酵素あるいは十分に高い活性又はレベルの5’-ヌクレオチダーゼ酵素を有する、例えば、本明細書の他の場所に記載されているような活性又はレベルを有する、例えば、DSM17938よりも高い(好ましくは有意に高い)活性又はレベルを有する乳酸菌株、もしくは、最高量又は最高レベルのアデノシン又はメラトニンあるいは十分に高い量又はレベルのアデノシン又はメラトニンを産生する菌株、例えば、本明細書の他の場所に記載されている量又はレベルを有する、例えば、DSM17938よりも高い(好ましくは有意に高い)量又はレベルを有する菌株を選択することができる。
【0122】
したがって、
a)5’-ヌクレオチダーゼ、例えば細胞表面に固定された5’ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子の存在について、乳酸菌株をスクリーニングすること、及び
b)5’-ヌクレオチダーゼ酵素の活性を定量化すること、及び任意選択で、
c)5’-ヌクレオチダーゼ酵素の活性が最も高い又は十分に高い乳酸菌株を選択すること
を含む、アデノシン(又はメラトニン)の産生に有効な細菌株、好ましくは乳酸菌株を選択するための方法を提供することは、本発明のなおさらなる態様である。
【0123】
本明細書に記載の特定のステップを含む方法には、適切な場合、これらのステップからなる方法も含まれる。
【0124】
上述のように、細菌株、例えば、本発明の方法によって選択される、産生される、得られる、又は得ることができる乳酸菌株であって、この菌株が、アデノシンを産生することができ、好ましくは、メラトニンを産生するか、産生、例えば増加した産生を支援することができることは、本発明のなおさらなる態様である。
【0125】
任意の適切な細菌株、例えばプロバイオティクス細菌株、例えば任意のプロバイオティクス細菌を本発明の選択方法に供することができ、アデノシンを産生することができる任意の適切な細菌株、例えばプロバイオティクス細菌株を本発明の方法又は使用において、例えば本明細書に記載の治療的方法又は使用において使用することができる。
【0126】
好ましい細菌株は、乳酸菌、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)又はビフィズス菌(Bifidobacterium)である。特に好ましい細菌株は、ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)であり、特に、2018年7月4日のDSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(Mascheroder Weg 1b,Inhoffenstr.7B,D-38124 Braunschweig)でブダペスト条約に基づいて寄託されたラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32848及びDSM32849、ならびに2019年7月9日のDSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(Mascheroder Weg 1b、Inhoffenstr.7B、D-38124 Braunschweig)でブダペスト条約に基づいて寄託されたラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM33198の菌株である。これらの細菌株又は単離された細菌株(及び、これらの寄託株の1又は複数における1又は複数の特徴、例えば、アデノシン及び/又は5’ヌクレオチダーゼ活性及び/又はメラトニンを産生するか産生に対する効果を誘導する能力を有する他の菌株、例えばLロイテリ(L.reuteri)菌株、特に関連するLロイテリ(L.reuteri)菌株)は、本発明の好ましい態様を形成し、例えば、本明細書の他の場所に記載されているような疾患又は状態を治療するために、あるいは本明細書に記載されているような任意の他の用途に使用することができる。いくつかの実施形態では、Lロイテリ(L.reuteri)菌株DSM17938は使用されない。
【0127】
したがって、本発明のなおさらなる態様は、本明細書に記載されているような1又は複数の疾患を治療又は予防するためのそのような菌株の使用を提供する。
【0128】
本発明の別の目的は、例えば乳酸菌株など、選択された菌株の5’-ヌクレオチダーゼの活性を最大化、増加又は改善することを含む、本明細書に記載される特定の障害の治療の使用及び効果を改善するための方法を提供することであり、これは、アデノシンの産生の増加又は改善につながることが好ましい。これは、特定の増殖条件で細菌を培養して、アデノシンの高収量(又は、例えば特定の増殖条件がない場合に観察される収量と比較して、より高い、例えば著しく高いアデノシンの収量)を可能にすることによって達成することができる。本発明の一実施形態では、特定の増殖条件は、例えば、5’ヌクレオチダーゼ酵素によるアデノシン産生のための適切な基質、例えばAMP、又はADP及び/又はATPなどAMPの適切な上流成分を補充した通常の増殖培地で乳酸菌を培養することであり得る。
【0129】
本発明のさらなる関連する実施形態では、5’-ヌクレオチダーゼの活性を最大化するために、より高濃度の細菌、例えば乳酸菌を投与することができる。例示的な濃度は、従来の用量よりも2~10倍高くなり得る。
【0130】
本発明のさらなる関連する実施形態では、5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子は、適切な方法、例えば、適切なプロモーター、例えば誘導性プロモーターの制御下で5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子を含むプラスミドベクターを挿入することによって細菌株で過剰発現させるか誘導することができる。あるいは、5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子は、適切なプロモーター、例えば誘導性又はネイティブプロモーターの制御下で、例えば細菌細胞の染色体上に挿入するなど、細菌細胞に遺伝子の1又は複数の追加のコピーを挿入することによって過剰発現させることができる。
【0131】
上記のように、本発明の菌株、又は本発明の方法によって選択される、産生される、得られる、又は得ることができる菌株は、治療に使用される。したがって、本発明のさらなる態様は、対象におけるアデノシン、及びそれにより好ましくはメラトニンの産生、例えば局所産生に使用するための本発明のアデノシン産生株、又は本発明の選択方法を使用して選択される、得られる、又は得ることができる菌株を提供する。本発明の好ましい実施形態では、アデノシンなど、及び好ましくはメラトニンの産生は、アデノシン及びそれによるメラトニンの産生又は産生の増加、例えば局所産生から利益を得る乳児疝痛(及び本明細書に記載の他の疾患)の治療に使用される。
【0132】
本発明の治療方法及び使用における細菌株の投与は、治療を必要とする対象(動物/哺乳類)に対して、薬学的、治療的、又は生理学的に有効な量で実施される。したがって、方法及び使用は、治療を必要とする対象を特定する追加のステップを含み得る。
【0133】
本発明による疾患又は状態の治療(例えば、既存の疾患の治療)は、疾患又は状態の治癒、又は疾患又は疾患の症状の軽減又は緩和(例えば、疾患の重症度の低下)を含む。
【0134】
本発明の方法及び使用は、疾患又は状態の予防ならびに疾患又は状態の治療に適している。したがって、予防的治療も本発明に含まれる。このため、本発明の方法及び使用において、治療又は療法はまた、適切な場合、予防法又は予防を含む。
そのような予防的(又は保護的)態様は、本明細書に記載されるように健康又は正常な対象に対して都合よく実行することができ、完全な予防及び有意な予防の両方を含むことができる。同様に、有意な予防には、治療を行わない場合に予想される重症度又は症状と比較して、疾患の重症度又は疾患の症状が軽減される(例えば、測定可能に又は大幅に軽減される)シナリオが含まれ得る。
【0135】
本発明のなおさらなる態様は、本明細書の他の場所で定義される治療用途のための菌株又は製品を提供し、ここで、使用は、少なくとも1つのさらなる作用剤、例えばさらなる治療薬又は栄養剤の投与をさらに含む。例示的な作用剤は、アデノシンの産生を増加又は増強させる基質成分(例えば、アデノシンの産生を増加又は増強することができる成分)、又はそのような成分の供給源であり得る。
【0136】
したがって、アデノシン産生細菌が関係する本発明のなおさらなる実施形態では、菌株又は産生物の投与は、基質成分、例えばAMP、及び/又はこの成分を産生する材料又は作用剤の投与をさらに含む。好ましい基質は、AMP、又はAMPの供給源であろう。
【0137】
そのような実施形態では、基質成分又は他の追加の成分は、対象に投与する直前に細菌調製物に添加され得る。あるいは、製造プロセスの終わり、例えば発酵の終わりに細菌調製物に添加され得、その後、細菌を将来の使用のために例えばリュフィリゼーション(lyophilisation)又は凍結乾燥によって保存することができる。あるいは、以下に説明するように別々に投与することができる。
【0138】
そのような実施形態では、さらなる治療薬は、問題の疾患の治療に有用な任意のさらなる作用剤であり得る。
【0139】
さらなる作用剤は、本発明の菌株又は産生物と一緒に(例えば、組み合わせた調製物として)投与することができ、又は別々に投与することができる。これに加えて、さらなる作用剤は、本発明の菌株又は産生物と同時に、又は異なる時点で、例えば順次、投与することができる。適切な投与レジーム及びタイミングは、問題のさらなる作用剤に応じて当業者によって容易に決定され得る。
【0140】
本発明はまた、
(i)細菌株、例えば本発明の選択方法によって選択される、産生される、得られる、又は得ることができる乳酸菌株(又は本明細書で別途定義されるようにアデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる細菌株)であって、細菌株が、細胞表面に固定された5’-ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子又は活性5’ヌクレオチダーゼ酵素を有し、アデノシンを産生することができる、細菌株と、
(ii)アデノシンの産生を増加又は増強させる1又は複数の基質成分又は作用剤、あるいはそのような成分又は作用剤の供給源と
を含む組成物(又は組み合わせ製品又はキット)を提供する。
例示的な成分又は作用剤は上記に概説されている。好ましい成分は、AMP又はAMPの供給源である。
【0141】
本発明はまた、
(i)本明細書に記載されるようにメラトニン又はアデノシンを産生することができるか又は産生を誘導することができる最初の細菌株、例えば乳酸菌株と、
(ii)乳酸菌株によるメラトニン及び/又はアデノシンのさらなる供給源、又はメラトニン及び/又はアデノシンの産生又は誘導を増加又は増強するための1又は複数の基質成分又は作用剤、又は必要に応じて、そのような成分又は作用剤の供給源と
を含む、対象においてメラトニン又はアデノシンの産生を増加させるのに適した組成物(又は組み合わせ製品又はキット)を提供する。
好ましい成分は、AMP又はAMPの供給源である。
【0142】
本発明のキット又は組み合わせ製品では、構成要素(i)及び(ii)は、一般に、別個の区画又は容器内に、又はキット又は製品の別個の構成要素として提供される。キットはさらなる構成要素を含んでもよく、それも別個の区画又は容器内にあり得る。好ましくは、キット(又は組み合わせ製品)は、本明細書に記載の本発明の方法又は使用に使用するためのものであり、例えば、本明細書に記載の他の疾患、特に乳児疝痛の治療又は予防に使用するためのものである。本発明の方法及び使用におけるキット又は製品の使用に関する指示は、任意選択で提供され得る。
【0143】
本明細書で使用される「対象」という用語は、哺乳類、特にヒト、特に乳児(例えば、予防又は治療される疾患が疝痛である場合)を含む。本発明の好ましい実施形態では、選択された菌株、例えば乳酸菌株は、ヒトに投与される。疝痛以外の疾患の場合、疾患に罹患している、又は疾患に罹患していることが疑われる、又は疾患のリスクがある任意の対象、例えばヒト対象、例えば成人又は子供又は乳児の対象が適切である。
【0144】
本発明による好ましい対象は、生後12ヶ月未満又は以下、好ましくは生後5又は6ヶ月未満又は以下、好ましくは生後3又は4ヶ月未満又は以下の乳児である。そのような対象は、治療又は予防される疾患が乳児疝痛である場合に特に適切である。したがって、対象は、出生から、又は生後最初の数週間以内(例えば、最初の1、2、3又は4週間以内)又は最初の数ヶ月以内(例えば、最初の1、2、3又は4ヶ月以内)に治療することができる。
【0145】
本明細書の他の場所に記載されているように、好ましい対象は、乳児疝痛(又は本明細書に記載されている他の疾患の1つ)に罹患している、あるいは乳児疝痛(又は本明細書に記載されている他の疾患の1つ)に罹患していると信じられる又は疑われる対象である。本発明の治療的使用は疾患を予防するために使用することもできるため、適切な対象には、乳児疝痛(又は本明細書に記載されている他の疾患の1つ)に罹患するリスクのある対象が含まれる。
【0146】
例示的な対象には、母乳だけ(のみ)で育てられている乳児、及び調合乳だけ(のみ)で育てられている乳児(母乳で育てられていない乳児)、又は母乳と調合乳の両方で育てられている乳児が含まれる。
【0147】
他の例示的な対象には、まだメラトニンを産生又は放出していない、あるいはそうでなければメラトニンを産生又は放出することができない乳児、特に疝痛を有する乳児、疝痛を有すると疑われる乳児、又は疝痛を発症するリスクがある乳児、例えば、メラトニン概日周期がまだ発達していないか開始されていない乳児、あるいは必要なメラトニンを食物及び/又は腸細菌から産生又は放出することができない乳児が含まれ、あるいは、例えば正常又は健康な対象のレベル、例えば同じ、同等又は比較できる年齢の正常又は健康な対象のレベルと比較して、低下した、減少した、例えば大幅に減少した(又は異常な)メラトニンのレベル、又はメラトニン欠乏症を有する乳児が含まれる。
【0148】
疝痛以外の疾患の場合、例示的な対象には、例えば、正常又は健康な対象のレベル、例えば同じ、同等、又は比較できる年齢の正常又は健康な対象のレベルと比較して、低下した、減少した、例えば大幅に減少した(又は異常な)メラトニンのレベル、又はメラトニン欠乏症を有する対象が含まれる。
【0149】
他の例示的な対象には、例えばメラトニンのレベルが低いか不十分である、ある種の栄養的又は食事上の問題点又は問題を抱えている乳児が含まれる。そのような対象には、完全な妊娠期間よりも前に生まれた乳児、例えば未熟児又は妊娠36週よりも前に生まれた乳児、あるいは完全に機能する食物代謝がない乳児、あるいは摂食問題又は栄養問題を有する乳児が含まれる場合がある。
【0150】
他の例示的な対象には、例えば同じ年齢の正常な乳児又は対象と比較して、ホルモンが未熟(すなわち、ホルモン産生が最適以下、正常以下、未発達、欠乏、低下又は未熟)、例えばメラトニンが未熟な対象、好ましくは乳児、特に、上記のホルモンの未熟さの結果として腸運動に欠陥がある対象が含まれる。そのようなホルモンの未熟さ、例えばメラトニンの未熟さ又はメラトニンの減少又は欠乏は、例えば、乳児疝痛に苦しむ一部の乳児に関連している可能性がある。治療されるべき他の好ましい疾患(したがって対象)は、メラトニン欠乏症に関連する疾患又は状態(又はこの疾患に罹患している対象)である。
【0151】
そのようなすべての対象において、適切又は必要な場合、対象におけるメラトニンのレベルは、当技術分野で容易に利用可能かつ既知の技術を使用して容易に測定することができる。例えば、メラトニンのレベルは、血清/血液又は唾液サンプルで容易に測定できる。このような測定用の市販キットも利用可能である。
【0152】
任意の適切な投与様式を使用することができる。便利なことに、投与は経口、直腸、又は経管栄養によるものである。したがって、細菌は、所望に応じて、又は適切に、胃腸管又は口腔に投与することができる。細菌は、乳児用調合乳、栄養補助食品、オイルドロップ、及び医薬製剤に含めることができる。
【0153】
本明細書で定義される本発明の菌株、産生物及び組成物の適切な用量は、治療される疾患(又は状態)、投与様式、及び関連する製剤に応じて容易に選択することができる。
【0154】
例えば、投与量及び投与レジームは、本発明に従って対象に投与される細菌が、アデノシン(又はメラトニン)の産生、例えば局所産生の増加をもたらすことができ、また乳児疝痛(又は治療される他の疾患)において望ましい治療効果又は健康上の利益を生じさせることができるように選択される。したがって、好ましくは、投薬量は、治療される哺乳類のタイプ及び状態に適切であり、例えば、それを必要とする対象に投与される治療上有効な投薬量である。例えば、日用量は、例えば、細菌の総CFUで10から1012、例えば10から10、又は10から10、又は10から1010、又は1010から1012の1日1回投与が使用され得る。
【0155】
一実施形態では、日用量(例えば、CFUで10から10、又は10から10、又は10から1010、又は1010から1012)は、数回の投与、例えば2~8回の投与(3~5回の投与など)に、あるいは対象の各摂食(母乳及び/又は調合乳)に関連して分割される。一実施形態では、対象におけるより速い緩和を得るために、開始期間後に2~10倍、又は10~100の用量などのより高い用量、及び/又はより頻繁に投与される用量が開始用量として3~14日間(例えば、5~10日間、7日間など)投与される。
【0156】
本明細書に記載される用語「増加する」又は「増強する」又は「より高い」(又は同等の用語)は、適切な対照と比較した場合の任意の測定可能な増加又は上昇を含む。適切な対照は、当業者によって容易に識別され、菌株が存在しない場合のレベル、あるいは未治療又はプラセボ治療対象のレベル、あるいは健康又は正常な対象のレベル(例えば年齢が一致する対象、又は治療前の同じ対象)を含み得る。好ましくは、増加は有意であり、例えば臨床的又は統計的に有意であり、例えば確率値が0.05以下である。
【0157】
好ましくは、適切な対照レベル又は値と比較した場合(例えば、未治療又はプラセボ治療対象と比較した場合、あるいは健康又は正常な対象と比較した場合、あるいは治療前の同じ対象と比較した場合)、そのような増加(及び実際に本明細書の他の場所で言及されている他の増加、改善又は正の効果)は、測定可能な増加などであり(適切な場合)、より好ましくは、それらは有意な増加であり、好ましくは臨床的に有意又は統計的に有意な増加であり、例えば確率値が0.05以下である。
【0158】
本明細書に記載される用語「低下する」又は「減少する」(又は同等の用語)は、適切な対照と比較した場合の任意の測定可能な低下又は減少を含む。適切な対照は、当業者によって容易に識別され、菌株が存在しない場合のレベル、あるいは未治療又はプラセボ治療対象のレベル、あるいは健康又は正常な対象のレベル(例えば年齢が一致する対象、又は治療前の同じ対象)を含み得る。好ましくは、低下又は減少は有意であり、例えば臨床的又は統計的に有意であり、例えば確率値が0.05以下である。
【0159】
したがって、好ましくは、適切な対照レベル又は値と比較した場合(例えば、未治療又はプラセボ治療対象と比較した場合、あるいは健康又は正常な対象と比較した場合、あるいは治療前の同じ対象と比較した場合)、そのような低下(及び実際に本明細書の他の場所で言及されている他の低下、減少又は負の効果)は、測定可能な低下などであり(適切な場合)、より好ましくは、それらは有意な低下であり、好ましくは臨床的に有意又は統計的に有意な低下であり、例えば確率値が0.05以下である。
【0160】
本出願全体で使用されるように、「a」及び「an」という用語は、上限がその後具体的に述べられる場合を除いて、参照される構成要素又はステップの「少なくとも1つ」、「少なくとも最初」、「1又は複数」又は「複数」を意味するという意味で使用される。
【0161】
さらに、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「有する(has)」又は「有する(having)」という用語、又は他の同等の用語が本明細書で使用される場合、いくつかのより具体的な実施形態においてこれらの用語は、「からなる(consists of)」又は「から本質的になる(consists essentially of)」という用語あるいは他の同等の用語を含む。
本明細書で論じられるようなさまざまな構成要素及び特徴「からなる」リストはまた、さまざまな構成要素及び特徴を「含む」リストを指すことができる。
【0162】
他の目的及び利点は、以下の非限定的な例及び添付の特許請求の範囲からより完全に明らかになるであろう。
【0163】

例1
5’-ヌクレオチダーゼに位置する細胞表面をコードする遺伝子を有する菌株を同定する方法
細菌をMRSプレート上で嫌気性雰囲気中37℃で16時間培養する。滅菌プラスチックループで10個の細菌コロニーを収集し、100マイクロリットルの滅菌水(PCR品質)に懸濁する。(代替法では、適切な方法を使用して細菌培養物からDNAを調製する。)
【0164】
5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子の存在は、例えばPuReTaq Ready To Go PCRビーズ(GE HealthCare)及び以下に説明するプライマーペアのいずれか(それぞれ0.4mM)を使用することにより、PCRによって調べることができる。細菌懸濁液又はDNA調製物(0.5マイクロリットル)をPCRミックスに添加し、95℃で5分、30x(95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒)、72°で10分のプログラムを行ってPCR反応を実行する必要がある。PCR産物は、標準的なアガロースゲル電気泳動と、標準的なサンガーシーケンシング(PCRに使用されるフォワードプライマーを使用)によって決定されたシーケンスを使用して分離及び視覚化できる。
【0165】
遺伝子は、以下のプライマーのいずれかを使用して検出され得る。
プライマーペア1(産物のサイズ233bp)
LrNuc1f:GGAACTTTGGGAAACCATGA(配列番号2)
LrNuc1r:CGGGCAACTTTACCATCACT(配列番号3)
プライマーペア2(産物のサイズ212bp)
LrNuc2f:TACTCGTGAAAATGCCGTTG(配列番号4)
LrNuc2r:GTGCCCCTGTCATTTCAACT(配列番号5)
プライマーペア3(産物のサイズ232bp)
LrNuc3f:AGCTTTACCAAATTGACCCTGA(配列番号6)
LrNuc3r:TTGATATTAGGCGCATCCTTTT(配列番号7)
【0166】
シーケンス
細胞表面に固定された5’-ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子、GenBankアクセッション番号:AEI56270.1、LPXTG-モチーフ細胞壁アンカードメインタンパク質[ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)SD2112](配列番号:8)


細胞表面に固定された5’-ヌクレオチダーゼタンパク質、GenBankアクセッション番号:AEI56270.1、LPXTG-モチーフ細胞壁アンカードメインタンパク質[ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)SD2112](配列番号:9)
【0167】
例2
5’-ヌクレオチダーゼ活性を分析するための手順
Crystal Chem 5’-ヌクレオチダーゼアッセイキット(Crystal Chem、エルクグローブヴィレッジ、イリノイ州、米国)を使用して、細菌細胞及び発酵上清の5’-ヌクレオチダーゼ活性を測定した。要するに、手順は次の通りであった。
【0168】
2つのステップで、試薬CC1及びCC2を細菌又は上清を含むサンプルに添加した。試薬1には、細菌の5’-ヌクレオチダーゼ酵素によってアデノシンに変換されたAMPが含まれている。アデノシンは、試薬1の成分によってイノシンとヒポキサンチンにさらに加水分解された。第2のステップでは、ヒポキサンチンを尿酸と過酸化水素に変換し、これを使用してキノン色素を生成し、分光光度計で550nmで速度論的に測定した。活性は、3~5分間の吸光度の変化を計算し、キャリブレーターサンプルの値と比較することによって決定した。
【0169】
例3
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株の5’-ヌクレオチダーゼ活性
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849、及びラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM17938(2006年1月30日のDSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(Mascheroder Weg 1b,D-38124 Braunschweig)でブダペスト条約に基づいて寄託)における5’-ヌクレオチダーゼ活性を示す実験データは、上記の例2で説明した方法を使用して生成した。結果を図3に示す。
【0170】
例4
菌株の選択
上記の例3のすべての新しい菌株、すなわち、ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32848、及びDSM32849は、細菌上清において5’-ヌクレオチダーゼ活性を示す。分析は、1mlあたり10個の細菌の濃度を有する細菌培養物の上清で実施した。
【0171】
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32848、及びDSM32849は、特性を改善するために開発/進化されている。DSM32846及びDSM32847は、胆汁酸に対してより耐性があり、それによって胃腸管内でより多く生き残るように進化するように作られている。DSM32848及びDSM32849は、胃腸管においてより良好にコロニー形成し、それにより本発明に従ってより良好に機能することを目的として、粘液によりよく付着するように進化している。
【0172】
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846、DSM32847、DSM32848、DSM32849のすべての菌株が選択されている。好ましい菌株は、DSM32846、DSM32847、及びDSM32849である。
【0173】
例5
ヒト腸エンテロイドモデルにおけるメラトニン産生に対するプロバイオティクス細菌株の影響
背景
腸陰窩幹細胞に由来するヒト腸エンテロイド(HIE)は、腸上皮のインビトロモデルに生物学的に関連している。HIEにはすべての腸上皮細胞タイプが含まれているが、ヒトの腸と同様に、HIEは通常、腸内分泌細胞(EEC)を少量(約1%)産生するため、研究が制限される。HIEのEEC数を増やすために、レンチウイルス形質導入を使用して、EEC分化を駆動する転写因子(tetNGN3-HIE)であるニューロゲニン-3(NGN3)のドキシサイクリン誘導性発現を伴う空腸HIEを安定的に操作した。この遺伝子操作された細胞株では、培養物中に存在する腸内分泌細胞の数が1%以下から約40%に増加する。
【0174】
材料及び方法
ヒト腸エンテロイド
HIE培養物は、肥満手術を受けている成人患者の空腸組織から分離された陰窩から生成された。これらの確立された培養物は、テキサス医療センター消化器疾患センター研究デザイン及び臨床研究コアを通じてベイラー医科大学で取得した。三次元HIE培養物は、組織サンプルから調製され、培養物中に維持された。HIEのEEC数を増やすために、レンチウイルス形質導入を使用して、EEC分化を駆動する転写因子(tetNGN3-HIE)であるニューロゲニン-3(NGN3)のドキシサイクリン誘導性発現を伴う空腸HIEを安定的に操作した。この遺伝子操作された細胞株では、培養物中に存在する腸内分泌細胞の数が1%以下から約40%に増加する。すべてのエンテロイドは、標準的なプロトコルに従って、96ウェル単層形態で増殖及び分化された。このエンテロイド株、その培養方法、及びアッセイの一般的な方法論の詳細については、Chang-Grahamら(Chang-Grahamら「細胞及び分子の胃腸病学及び肝臓学(Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology)」2019、S2352-345X(19)30049-9、印刷中、オンライン出版が利用可能)に記載されている。
【0175】
細菌株及び調製
この実験では、2つの異なるラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株(DSM17938及びDSM32846)を、腸内のメラトニン産生を増加させる能力に関して研究した。
【0176】
この研究では、Lactobacillus Defined Media 4(LDM4)培地で静止期に達するまで増殖させたラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM17938及びラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM32846の馴化培地(上清)を使用した(詳細は以下を参照)。
【0177】
細菌株の単一のコロニーをMRS寒天プレートから選び、10mLのMRSブロスに接種するために使用し、37℃の水浴中の密閉されたコニカルチューブ内でインキュベートした。8時間後、培養物の1:10希釈を行い、600nmでの光学密度を分光光度計で読み取った後、25mLの予熱したLDM4を開始OD 0.1(以下の計算)で接種し、水浴中に配置して16時間インキュベートした。
○OD=0.307。1:10希釈=3.07のOD
25mL*(0.1 OD)=3.07x x=0.814mL
○814uLを24.19mLのLDM4と組み合わせた。
【0178】
16時間後に培養物を取り出した。最終的なODは2.6であった。細胞を4700rpmでの遠心分離によりペレット化し、上清を新しい50mLコニカルチューブに移した。上清を-20℃で一晩保存した。
【0179】
使用した化学薬品
AMP=アデノシン5’-一リン酸、99%(Acros Organics)コード:102790259、ロット:A0395274。
10mLのストック溶液(2mM=6.9mg/ml(FW=347.224)のストック溶液)をMiliQ水で作成し、0.22uMフィルターでフィルター滅菌した。
【0180】
実験のセットアップ
誘発されたエンテロイドの対照処理:
●LDM4(培養培地)、
●LDM4+20uM AMP、
●LDM4+200uM AMP
【0181】
誘発されたエンテロイドに対するDSM32846及びDSM17938上清の実験的処理:
●DSM32846上清のみ
●DSM32846上清+20uM AMP
●DSM32846上清+200uM AMP
●DSM17938上清のみ
●DSM17938上清+20uM AMP
●DSM17938上清+200uM AMP
【0182】
上清又は他の添加物をエンテロイドに適用する準備ができる前に、pHを中和し、上清をフィルター滅菌した。10~30uLの10M水酸化ナトリウム溶液を使用してpHを7.0に調整し、2uLの上清をpHペーパー(Fisher Brand - Cat.13-640-510範囲6.0~8.0)に塗布してpHを測定した。上清を0.22uMフィルター(Thermo Scientific Nalgene Rapid Flow 0.22uMフィルターコード:00158)を使用してフィルター滅菌した。
【0183】
100uL(総量)の処理をエンテロイドに配置した。インキュベーションは、エンテロイド上で37℃、5%CO組織培養インキュベーターで1時間行った。インキュベーション後、上清を除去し、下流分析まで-20℃で保存した。
【0184】
メラトニンはELISA(Eagle Biosciences Inc、アムハースト、ニューハンプシャー州、米国)で検出した。標準プロトコルに従う前に行った唯一のステップは、上清を解凍し、室温に到達させることであった(摂氏約20~21度)。
【0185】
結果
ヒト腸エンテロイド(HIE)は、腸上皮のインビトロモデルとして生物学的に関連している。図4に示すように、DSM32846だけでは大きな影響はないが、AMPを追加すると、HIEからのメラトニン産生に顕著な影響が見られる。より高い濃度のAMPは、さらに高いメラトニン産生をもたらした。DSM17938のメラトニン産生は、対照と比較して増加しているが、DSM32846よりも少ない。したがって、DSM32846は、腸内でのメラトニンの産生に使用するのに適した候補菌株である。
【0186】
例6
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)菌株の5’-ヌクレオチダーゼ活性
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM33198の5’-ヌクレオチダーゼ活性を示す実験データは、上記の例2で説明した方法を使用して生成された。結果は図5Aに示されており、図5Aでは、同じ実験のDSM17938の5’-ヌクレオチダーゼ活性(DSM17938活性=1)に関連して正規化されている。DSM17938の5’-ヌクレオチダーゼ活性(DSM17938活性=1)に関連する同じタイプの正規化を図3の結果にも行い、これは図5Bに示されており、異なる細菌株についてDSM17938に関連する5’-ヌクレオチダーゼ活性の倍率変更の比較を容易にしている。
【0187】
例7
菌株の選択
上記の例6の新しい菌株、すなわちラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM33198は、細菌の上清で高い5’-ヌクレオチダーゼ活性を示す。分析は、1mlあたり10個の細菌の濃度を有する細菌培養物の上清で実施した。
【0188】
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM33198は、特性を改善するために開発された。Lロイテリ(L.reuteri)菌株DSM33198は、凍結乾燥手順の繰り返しを含む多段階の選択プロセスで変更されており、ネイティブ分離株よりも耐性が高く、製造プロセスでの生存率が高くなっている。
【0189】
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM33198が選択されている。
【配列表フリーテキスト】
【0190】
配列表1 <223>モチーフ
<223>任意のアミノ酸
配列表2 <223>プライマーLrNuc1f
配列表3 <223>プライマーLrNuc1r
配列表4 <223>プライマーLrNuc2f
配列表5 <223>プライマーLrNuc2r
配列表6 <223>プライマーLrNuc3f
配列表7 <223>プライマーLrNuc3r
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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