(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】二次電池、及び二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240514BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240514BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240514BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/64 A
(21)【出願番号】P 2021025260
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】岩▲さき▼ 和紀
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/125540(WO,A1)
【文献】特開2011-103255(JP,A)
【文献】特開2010-009980(JP,A)
【文献】特開2011-103256(JP,A)
【文献】特開2020-004627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 4/64- 4/84
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔と、
前記集電箔の表面上に垂直配向した薄片状のカーボンナノ構造体と、
前記集電箔の表面において互いに対向するカーボンナノ構造体間に保持された活物質と、
を有し、
前記カーボンナノ構造体は、前記集電箔の表面に沿った第1の方向に配向した状態で互いに離間して前記第1の方向に並列配置され、
前記第1の方向とは異なる第2の方向に配向した状態で前記カーボンナノ構造体が互いに離間して前記第2の方向に並列配置される異配向領域を有する、
二次電池。
【請求項2】
前記第1の方向は、前記集電箔の幅方向と長さ方向の一方である、
請求項
1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記第2の方向は、前記集電箔の幅方向と長さ方向の他方である、
請求項
1又は
2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記第1の方向を前記集電箔の幅方向とし、前記第2の方向を前記集電箔の長さ方向とした場合、
前記異配向領域は、前記集電箔の幅方向において、前記活物質が含まれる活物質層の中央を含んだ中央部分に配置される、
請求項
1乃至
3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記集電箔の表面に直交する方向を垂直方向とし、前記活物質が円盤形状を有する場合、
前記カーボンナノ構造体の垂直方向の高さは、前記活物質の長径の1/√2倍以上であり、
前記集電箔の表面において対向するカーボンナノ構造体間の距離は、前記活物質の長径の1/√2倍以下である、
請求項
1乃至
4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
同一方向に配向して互いに隣接するカーボンナノ構造体間の距離は、円盤形状を有する前記活物質の長径以下である、
請求項
1乃至
5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記カーボンナノ構造体は、カーボンナノチューブ構造体である、
請求項
1乃至
6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
集電箔の表面上に触媒層を形成するステップと、
前記触媒層を起点として前記集電箔の表面上に垂直配向した薄片状のカーボンナノ構造体を気相成長させるステップと、
前記集電箔の表面上に少なくとも活物質を含む活物質層を形成するステップと、
を有し、
前記カーボンナノ構造体は、前記集電箔の表面に沿った第1の方向に配向した状態で互いに離間して前記第1の方向に並列配置さ
れ、
前記カーボンナノ構造体が前記第1の方向とは異なる第2の方向に配向した状態で互いに離間して前記第2の方向に並列配置される異配向領域を有する、
二次電池用電極の製造方法。
【請求項9】
前記触媒層の形成は、
インクジェットプリント法を用いて行われる、
請求項
8に記載の二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池、及び二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、正極及び負極の間にセパレータを介在させ、これらを捲回又は積層して形成される電極体と、電解液と、を電池ケース内に収納して構成される。二次電池に用いられる正極及び負極は、集電箔と、集電箔の表面上に形成される活物質を含む活物質層と、を有する。さらに、活物質層には、導電材やバインダが混合される場合がある。活物質層を構成する各材料の間の空隙は、電解液で満たされることにより、活物質と電解液との界面におけるイオン拡散が円滑に行われる。
【0003】
二次電池の一つであるリチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度や大きい電池容量を要する電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用電源に用いられる。特許文献1には、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体上に保持された構成を有するリチウム二次電池用正極およびその製造方法であって、正極活物質層は、正極集電体上に形成されたカーボンナノウォールと、カーボンナノウォールに担持された正極活物質とを備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなリチウムイオン二次電池では、電解液が活物質層の表面及び周縁から中央部分に向かって浸透する。そして、浸透経路の下流である中央部分には電解液が浸透しにくいことが知られている。例えば、活物質層において電解液が枯渇する部分が生じた場合には、当該部分における抵抗が上昇し、電池性能が低下する。したがって、このような二次電池では、活物質と電解液との界面等におけるイオン拡散が円滑になるように、活物質層中における電解液の浸透経路を適切に確保することが好ましい。
【0006】
特許文献1に記載の技術では、正極集電体上に形成されたカーボンナノウォールによって正極活物質層中の空隙量を適切に保ち、電解液の浸透経路を確保している。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、電解液の浸透経路の方向制御が不十分である。そのため、中央部分まで均一に電解液が浸透せず、抵抗が上昇する可能性がある。その結果、電池性能を満足に発揮できないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、電解液の浸透性を向上し、電池の内部抵抗を低減する二次電池、及び二次電池用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態にかかる二次電池は、集電箔と、集電箔の表面上に垂直配向した薄片状のカーボンナノ構造体と、集電箔の表面において互いに対向するカーボンナノ構造体間に保持された活物質と、を有し、カーボンナノ構造体は、集電箔の表面に沿った第1の方向に配向した状態で互いに離間して第1の方向に並列配置される。
【0009】
また、一実施の形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、集電箔の表面上に触媒層を形成するステップと、触媒層を起点として集電箔の表面上に垂直配向した薄片状のカーボンナノ構造体を気相成長させるステップと、集電箔上に少なくとも活物質を含む活物質層を形成するステップと、を有し、カーボンナノ構造体は、集電箔の表面に沿った第1の方向に配向した状態で互いに離間して第1の方向に並列配置される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、電解液の浸透性を向上し、電池の内部抵抗を低減する二次電池、及び二次電池用電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1にかかる二次電池の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す二次電池が有する電極体の一部を示す斜視図である。
【
図3】実施の形態1にかかる二次電池においてカーボンナノ構造体が第1の方向に配向した一例を示す図である。
【
図4】実施の形態1にかかる二次電池においてカーボンナノ構造体が第1の方向に配向した他の例を示す図である。
【
図5】実施の形態1にかかる二次電池においてカーボンナノ構造体が第1の方向及び第2の方向に配向した一例を示す図である。
【
図6】実施の形態1にかかる二次電池が有するカーボンナノ構造体の構成を説明する図である。
【
図7】実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図7に示すフローチャートの触媒層形成工程を示す斜視図である。
【
図9】
図7に示すフローチャートの気相成長工程を示す斜視図及び平面図である。
【
図10】
図7に示すフローチャートの活物質層形成工程を示す斜視図及び平面図である。
【
図11】実施例及び比較例1、2の二次電池のIV抵抗を比較した結果を示すグラフである。
【
図12】比較例1の二次電池における内部抵抗の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。図面では、説明の便宜上、各構成の寸法関係が適宜変更されているため、図面に示される寸法関係は、実際の寸法関係を示すものではない。そして、以下の説明において同一又は同等の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
本実施形態にかかる二次電池1では、特に、電極体15を構成する負極板20に特徴の1つを有するため、負極板20について特に詳細に説明する。ただし、本発明は、電極体15を構成する正極板の構造にも適用可能である。
【0014】
本実施形態では、二次電池1をリチウムイオン二次電池に具体化して説明する。まず、
図1を参照して、本実施形態にかかる二次電池1の概要について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる二次電池の一例を示す斜視図である。
図1は、二次電池1の外観を示している。
【0015】
図1に示すように、二次電池1は、主に、ケース本体11及び蓋12からなる電池ケース10と、負極端子13と、正極端子14と、を有する。なお、二次電池1を複数組み合わせることで組電池を形成することができ、二次電池1はその組電池の1つのセルとすることができる。
【0016】
ケース本体11は、上端が開口した扁平な直方体形状を有する。蓋12は、矩形板状を有し、ケース本体11の開口を密封するものである。蓋12には、電池ケース10の内側に形成される電槽に電解液を注入する際に用いられる注液口等が設けられる。電池ケース10は、例えばアルミニウム又はその合金等で構成される。電槽内には、電解液と電極体15とが収納される。本実施形態にかかる二次電池1は、電解液として有機溶媒に支持塩を含有した非水電解液を用いるリチウムイオン二次電池である。
【0017】
電解液が含有する有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、等を用いることができる。また、支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(SO2CF3)3、LiClO4等のリチウム塩を用いることができる。
【0018】
負極端子13及び正極端子14は、蓋12を貫通しており、電槽内に収納される電極体15と電気的に接続される。負極端子13及び正極端子14は、電極体15に対して電流の入出力を行うための電極である。また、負極端子13及び正極端子14は、それぞれ電池ケース10から外側に突出するように設けられる極柱部を有する。
【0019】
電極体15は、正極板と、負極板20と、セパレータと、を有する。電極体15は、それぞれ帯状の正極板及び負極板20が帯状のセパレータを介して積層された状態で長さ方向に捲回し、これを扁平状に圧縮した捲回電極体である。
【0020】
正極板及び負極板20は、それぞれ、集電箔と、活物質を含む活物質層と、を有する。正極板及び負極板20を構成する各活物質層は、各集電箔の少なくとも一方の表面上に、集電箔の長さ方向に沿って形成される。各集電箔の幅方向の一方の縁部には、活物質層が形成されず、集電箔の長さ方向に渡って集電箔が露出した露出部が設けられる。電極体15において、電極体15の捲回軸の軸線方向の一方側には、正極板の露出部が配置され、他方側には、負極板20の露出部23が配置される。負極板20における活物質層22の軸線方向の長さは、正極板における活物質層の軸線方向の長さよりも大きいことが好ましい。
【0021】
正極板は、正極板の露出部に付設された正極集電板を介して正極端子14と電気的に接続される。負極板20は、負極板20の露出部23に付設された負極集電板を介して負極端子13と電気的に接続される。
【0022】
セパレータには、リチウムイオンが通過可能な多孔質の絶縁シートが用いられる。セパレータは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の絶縁性樹脂材料で構成される。セパレータは、正極板の活物質層と負極板20の活物質層22とを絶縁するように配置される。セパレータの軸線方向の長さは、負極板20の活物質層22の軸線方向の長さよりも大きいことが好ましい。
【0023】
そして、正極板の活物質層、負極板20の活物質層22、及びセパレータは、電槽内において電解液により含浸される。例えば、これらの活物質層では、活物質を構成する各材料の間の微小な空隙に電解液が浸透することで活物質と電解質との間で電荷担体であるリチウムイオンの受け渡しが行われる。正極板及び負極板20に蓄電された電気は、それぞれ正極集電板及び負極集電板で集電され、正極端子14及び負極端子13から出力される。
【0024】
正極板を構成する集電箔は、長尺な帯状の導電材からなる金属箔である。正極板の集電箔には、例えばアルミニウム又はその合金を用いることができる。正極板を構成する活物質層は、少なくとも活物質を有する。活物質層は、導電材及びバインダ等を含んでもよい。
【0025】
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であり、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等を用いることができる。
【0026】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素材料等を用いることができる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(BR)等を用いることができる。
【0027】
このような正極板を形成する際は、活物質、導電材、バインダ、及びバインダを均一に溶解又は分散し得る溶媒を混練してペーストを得る。さらに、得られたペーストを集電箔の表面上に塗工して乾燥し、圧縮することで正極板を形成することができる。
【0028】
次に、
図2を参照して、負極(負極板20)の詳細な構成を説明する。
図2は、
図1に示す二次電池が有する電極体の一部を示す斜視図である。
図2には、電極体15のうち、負極板20のみを図示しており、正極板及びセパレータの図示を省略している。
【0029】
以下の説明では、集電箔21の幅方向をX方向、X方向に直交する方向であって、集電箔21の長さ方向をY方向、X方向及びY方向に直交する方向であって、集電箔21の表面21s(XY面)に対して垂直方向をZ方向とする。
【0030】
なお、電極体15において、X方向は電極体15の軸線方向と一致し、Y方向は電極体15が捲回される捲回方向に沿っている。電極体15は、軸線方向が電池ケース10の長さ方向と略一致し、電極体15の軸線方向と直交する高さ方向が電池ケース10の高さ方向と略一致するように、電槽に配置される。
【0031】
負極板20は、集電箔21と、活物質層22と、を有する。集電箔21は、長尺な帯状の導電材料からなる金属箔である。集電箔21には、例えば銅又はその合金等を用いることができる。活物質層22は、少なくとも、カーボンナノ構造体30と、触媒層31と、活物質40と、を有する。活物質層22は、導電材及びバインダ等を含んでもよい。
【0032】
導電材としては、例えば、正極板と同様の炭素材料等を用いることができる。また、バインダとしては、例えば、正極板と同様のものを用いることができる。その他、増粘剤等の添加剤を適宜使用することもできる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を用いることができる。
【0033】
カーボンナノ構造体30は、炭素原子が幾何学的に結合した微細構造を有する。カーボンナノ構造体30は、炭素の六角板状結晶が単一の層状に連なったグラフェンシートが集電箔21の表面21sに対して垂直方向に成長し、二次元的に広がった炭素材料である。このような二次元の構造体として、グラフェンシートを複数重ねて壁状に成長させたカーボンナノウォールが知られている。
【0034】
本実施形態においては、カーボンナノ構造体30は、複数のカーボンナノチューブ(以下、CNT)の集合体により構成されるカーボンナノチューブ構造体である。CNTは、グラフェンシートが筒状に丸まったチューブ形状を有し、1次元の構造体に分類される。CNTは、その軸方向が垂直方向に沿って、集電箔21の表面21sから垂直方向に成長したものである。CNTの寸法は、例えば、直径は数nm~数百nm程度、長さは数μm以上に形成することができる。CNTは、単層であってもよく、多層であってもよい。CNTにより構築されるカーボンナノ構造体30は、負極板20における電子伝導性の向上に寄与する。
【0035】
CNTの集合体であるカーボンナノ構造体30は、後述する触媒層31を起点として、集電箔21の表面21s上に垂直配向している。カーボンナノ構造体30の基端は、触媒層31又は集電箔21と接触している。カーボンナノ構造体30は、集電箔21の表面21s上に複数個が規則的なパターンで配置される。
【0036】
カーボンナノ構造体30の起点となる触媒層31は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、又は金(Au)等の金属微粒子で構成される。触媒層31は、カーボンナノ構造体30の数量に応じた複数個の触媒層31が規則的なパターンで形成される。触媒層31を構成する金属微粒子は、カーボンナノ構造体30を構成するCNTが気相成長する際の核となる。各触媒層31は、集電箔21の表面21s上であって、それぞれ対応するカーボンナノ構造体30の基端側に配置されている。
【0037】
集電箔21の表面21sにおいて、互いに対向するカーボンナノ構造体30間には活物質40が保持される。活物質40は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であり、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、活性炭等の炭素材料を用いることができる。活物質40の形状や寸法は特に制限されないが、本実施形態では、活物質40として、優れた充放電特性を有することから、鱗片状、鱗状、及び塊状の天然黒鉛が好適に用いられる。このような黒鉛は、造粒処理を施して用いることもできる。
【0038】
黒鉛は、炭素の六角板状結晶が単一の層状に連なったグラフェンシートが複数重なった積層構造体であり、各層間に吸蔵されるリチウムイオンの可逆的な挿入と脱離は、黒鉛の複数の層が重なった縁が露出したエッジ面40e(積層面)を通じて行われる。一方、黒鉛粒子において比較的大面積を占めるベーサル面40b(グラフェンシートの平面であって、ベンゼン縮合面)は、通常、リチウムイオンの挿入及び脱離に寄与しない面とされている。したがって、活物質40として黒鉛粒子を用いる場合は、エッジ面40eからのリチウムイオンの挿入及び脱離の反応速度が、二次電池の入出力特性を制限する一つの要因となる。
【0039】
本実施形態では、負極板20を構成する活物質40として、天然黒鉛のうち扁平な円盤形状を有する鱗片状の黒鉛粒子を用いた場合について説明する。本実施形態では、黒鉛粒子からなる活物質40は、任意のアスペクト比を有し、その長径が100μmであり、短径は長径以下の長さであり、長径及び短径と直交する厚さが1.0μmである場合を例に挙げて説明する。また、活物質40のうち、長径方向に広がる面がベーサル面40bであり、ベーサル面40bと直交する方向にエッジ面40eが形成される(
図10を参照)。なお、
図2以降の図面において、視認性を確保するために、活物質40にはハッチングを付与している場合があるが、当該ハッチングは断面を示しているわけではない。
【0040】
ここで、
図3~
図5を参照して、カーボンナノ構造体30の配置パターンの詳細について説明する。
図3は、実施の形態1にかかる二次電池においてカーボンナノ構造体が第1の方向に配向した一例を示す図である。
図4は、実施の形態1にかかる二次電池においてカーボンナノ構造体が第1の方向に配向した他の例を示す図である。
図5は、実施の形態1にかかる二次電池においてカーボンナノ構造体が第1の方向及び第2の方向に配向した一例を示す図である。
【0041】
なお、
図3~
図5において、各図の上側には、活物質層22形成前において表面21s上にカーボンナノ構造体30が形成された集電箔21の外観を上から見た平面図を示している。また、
図3~
図5において、各図の下側には、活物質層22形成後であって捲回された電極体15を構成する負極板20の外観を斜め方向から見た斜視図を示している。そして、
図3~
図5において、白抜き矢印は電解液の流れを示している。
【0042】
まず、カーボンナノ構造体30のZ方向の配向について説明する。
図3~
図5に示すように、各カーボンナノ構造体30は、集電箔21の表面21s上に垂直配向している。すなわち、各カーボンナノ構造体30は、電極体15の軸線方向(X方向)及び捲回方向(Y方向)に対して垂直に配向している。以下、3通りの配置パターンを例に挙げて、カーボンナノ構造体30のX方向及びY方向の配向について詳細を説明する。
【0043】
図3には、カーボンナノ構造体30の配置パターンの一例として、第1パターンを示している。第1パターンは、集電箔21の表面21s上において、X方向に配向したカーボンナノ構造体30が千鳥状に二次元配列されている。すなわち、第1パターンでは、X方向が第1の方向に相当する。
【0044】
具体的には、個々のカーボンナノ構造体30は、X方向に延在するように配向され、XZ平面に広がる薄片状を呈している。X方向に配向した複数のカーボンナノ構造体30が互いに離間し、所定間隔毎にX方向に並列配置された列30aを形成している。さらに、当該列30aがY方向に互いに離間し、所定間隔毎に複数形成され、各列30aはX方向に延在している。X方向に隣接する2つカーボンナノ構造体30の中間位置には、隣接する列30aを構成する1つのカーボンナノ構造体30が配置されるように、Y方向に隣接して対向するカーボンナノ構造体30は互い違いに配置されている。すなわち、X方向に隣接する2つカーボンナノ構造体30と、当該2つのカーボンナノ構造体30の中間位置に配置された隣接する列30aを構成する1つのカーボンナノ構造体30と、の3つのカーボンナノ構造体30は、正三角形又は二等辺三角形の頂点に配置されている。
【0045】
第1パターンが適用された負極板20を含む電極体15が収納された二次電池1において、電解液は、カーボンナノ構造体30の隣接する列30aと列30aとの間の隙間を通って流れる。第1パターンでは、この隙間が軸線方向に延在するため、軸線方向における活物質層22の周縁となる両端部から中央に向かって電解液の供給を促すことができる。
【0046】
続いて、
図4には、カーボンナノ構造体30の配置パターンの他の例として、第2パターンを示している。第2パターンは、集電箔21の表面21s上において、Y方向に配向したカーボンナノ構造体30が千鳥状に二次元配列されている。すなわち、第2パターンでは、Y方向が第1の方向に相当する。
【0047】
具体的には、個々のカーボンナノ構造体30は、Y方向に延在するように配向され、YZ平面に広がる薄片状を呈している。Y方向に配向した複数のカーボンナノ構造体30が互いに離間し、所定間隔毎にY方向に並列配置された列30bを形成している。さらに、当該列30bがX方向に互いに離間し、所定間隔毎に複数形成され、各列30bはY方向に延在している。Y方向に隣接する2つカーボンナノ構造体30の中間位置には、隣接する列30bを構成する1つのカーボンナノ構造体30が配置されるように、X方向に隣接して対向するカーボンナノ構造体30は互い違いに配置されている。すなわち、Y方向に隣接する2つカーボンナノ構造体30と、当該2つのカーボンナノ構造体30の中間位置に配置された隣接する列30bを構成する1つのカーボンナノ構造体30と、の3つのカーボンナノ構造体30は、正三角形又は二等辺三角形の頂点に配置されている。
【0048】
第2パターンが適用された負極板20を含む電極体15が収納された二次電池1において、電解液は、カーボンナノ構造体30の隣接する列30bと列30bとの間の隙間を通って流れる。第2パターンでは、この隙間が捲回方向に延在するため、捲回方向における活物質層22(電極体15)の下端から上端に向かって電解液の供給を促すことができる。
【0049】
続いて、
図5には、カーボンナノ構造体30の配置パターンの他の例として、第3パターンを示している。第3パターンは、第1のパターン及び第2のパターンを組み合わせた配置パターンである。第3パターンでは、集電箔21の表面21s上において、X方向に配向したカーボンナノ構造体30が千鳥状に二次元配列した領域と、Y方向に配向したカーボンナノ構造体30が千鳥状に二次元配列した異配向領域と、が形成される。すなわち、第3パターンでは、X方向及びY方向の一方が第1の方向に相当し、他方が第2の方向に相当する。
【0050】
第3パターンでは、活物質層22の中央部分22aにY方向に延在する複数の列30bを配置し、当該中央部分22aを除いた活物質層22の他の部分(非中央部分22b)にX方向に延在する複数の列30aを配置する。中央部分22aとは、X方向における活物質層22の中央を含んでX方向に所定の幅を有し、Y方向に沿って延在する活物質層22の中央領域である。すなわち、異配向領域は、中央部分22aに配置されている。
【0051】
中央部分22aでは、列30b同士はX方向に互いに離間し、所定間隔毎に形成される。Y方向に隣接する2つカーボンナノ構造体30の中間位置には、X方向に隣接する列30bを構成する1つのカーボンナノ構造体30が配置されるように、X方向に隣接する列30b同士が互い違いに配置されている。非中央部分22bでは、列30a同士はY方向に互いに離間し、所定間隔毎に形成される。X方向に隣接する2つカーボンナノ構造体30の中間位置には、Y方向に隣接する列30aを構成する1つのカーボンナノ構造体30が配置されるように、Y方向に隣接する列30aが互い違いに配置されている。
【0052】
列30aと列30bとは、互いに離間して配置される。そして、列30a同士又は列30b同士の間に電解液が流れる流路となる隙間を確保するために、各列30a、30bは、それぞれ少なくとも2つ以上を設けることが好ましい。
【0053】
第3パターンでは、非中央部分22bにおいて列30aと列30aとの隙間が軸線方向に延在する。また、中央部分22aにおいて列30bと列30bとの隙間が捲回方向に延在する。したがって、電解液は、非中央部分22bにおいては、軸線方向における活物質層22の周縁となる両端部から中央に向かって流れ、中央部分22aにおいては、捲回方向における活物質層22(電極体15)の下端から上端に向かって流れる。これにより、電極体15(活物質層22)の中央部分22a且つ上端部に対する電解液の供給を促し、中央部分22a且つ上端部の領域に対する電解液の浸透性が向上する。
【0054】
なお、第1の方向及び第2の方向はX方向及びY方向に限定されるものではない。第1の方向及び第2の方向は集電箔21の表面21sに沿った異なる方向であればよく、例えばX方向及びY方向のように必ずしも互いに直交する方向である必要はない。
【0055】
以上、上記3通りの配置パターンを例示してカーボンナノ構造体30の配向について説明した。次に、
図6を参照して、カーボンナノ構造体30の寸法等の構成を説明する。
図6は、実施の形態1にかかる二次電池が有するカーボンナノ構造体の構成を説明する図である。
【0056】
まず、互いに隣接するカーボンナノ構造体間の距離について説明する。
図6に示すように、同一方向に配向された複数のカーボンナノ構造体30は、互いに離間して所定間隔毎に同一方向に並列配置される。同一方向に配向したカーボンナノ構造体30では、同一方向に互いに隣接するカーボンナノ構造体30間の間隔Cは、20μm以上、活物質40の長径以下であることが好ましい。間隔Cが20μmより小さいと、電解液の流れを妨げる場合がある。間隔Cが活物質40の長径(本実施形態では、100μm)より大きいと、活物質40をカーボンナノ構造体30間に保持することが困難になる。
【0057】
また、同一方向に配向したカーボンナノ構造体30と、これに対して直交する方向に対向するカーボンナノ構造体30と、は厚みT方向に対向している。この厚みT方向に対向するカーボンナノ構造体30間の間隔Lは、活物質40の厚さ以上であることが好ましい。本実施形態では、間隔Lは、10μm以上である。間隔Lが活物質40の厚さより小さいと、カーボンナノ構造体30間に活物質40を保持することが困難になる。
【0058】
さらに、例えば、第3パターンのように、カーボンナノ構造体30が異なる2つの方向に配向する場合、互いに直交しつつ隣接するカーボンナノ構造体30間の間隔は、間隔Cと同様に、20μm以上、活物質40の長径以下であることが好ましい。
【0059】
続いて、個別のカーボンナノ構造体30の好適な寸法について説明する。個別のカーボンナノ構造体30は薄片状に形成され、厚さT、幅W、及び高さHを有する。なお、厚さT及び幅Wは、カーボンナノ構造体30のXY平面に沿う長さであり、高さHは、カーボンナノ構造体30のZ方向に沿う長さである。
【0060】
カーボンナノ構造体30の厚さTは、3μm以上、10μm以下であることが好ましい。厚さTが3μmより小さいと、製造が困難になる場合がある。一方、厚さTが3μm以上であると後述するインクジェットプリント法を用いて、配置パターンを自在に作成することができる。厚さTが10μmより大きいと、負極板20中に占めるカーボンナノ構造体30の体積の占有率が増大し、これによりエネルギー密度が低下する場合がある。
【0061】
カーボンナノ構造体30の幅Wは、活物質40の長径以上、200μm以下であることが好ましい。カーボンナノ構造体30の幅Wが活物質40の長径(本実施形態では、100μm)以上であると、厚み方向に対向するカーボンナノ構造体30間に活物質40を確実に保持することができる。幅Wが200μmを超えると、幅方向に直交する方向に向かう電解液の流れが妨げられる場合がある。
【0062】
カーボンナノ構造体30の高さHは、活物質40の長径以下であることが好ましい。本実施形態では、高さHは、100μm以下である。高さHが必要以上に高いと、カーボンナノ構造体30の生成に時間がかかり生産性が低下する場合がある。また、高さHが必要以上に高いと、活物質層22の厚みが増大し、二次電池1が大型化する可能性がある。
【0063】
さらに、間隔L及び高さHは、ともに活物質40の長径の1/√2倍以下であることが好ましい。本実施形態では、間隔L及び高さHは、70μm以下である。間隔L及び高さHが活物質40の長径の1/√2倍以上であると、カーボンナノ構造体30間に保持された活物質40のベーサル面40bとカーボンナノ構造体30(Z方向)とのなす角度が45°以下となる。Z方向に対する活物質40のベーサル面40bの傾きを低減することにより、活物質40のエッジ面40eが電解液面に対してより多く露出する。活物質40のエッジ面40eが電解液面に多く露出すると、負極においてリチウムイオンの受け入れ性が向上する。これにより、エッジ面40eからのリチウムイオンの挿入及び脱離の反応速度が増加し、二次電池1の入出力特性が向上する。
【0064】
そして、カーボンナノ構造体30の密度は、50mg/cm3以上、200μg/cm3以下であることが好ましい。この範囲外であると製造が困難になる場合がある。
【0065】
以上の構成を有するカーボンナノ構造体30を含む二次電池用電極の製造方法について、
図7を参照して説明する。
図7は、実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法の一例を示すフローチャートである。以下の説明では、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法を上記した負極板20の製造方法に具体化して説明するが、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、正極板にも適用可能である。
【0066】
図7に示すように、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、以下のステップS1~S4の工程を有する。ステップS1の触媒層形成工程では、集電箔21の表面21s上に触媒層31を形成する。ステップS2の気相成長工程では、触媒層31を起点として集電箔21の表面21s上に垂直配向した薄片状のカーボンナノ構造体30を気相成長させる。ステップS3の活物質層形成工程では、集電箔21の表面21s上に少なくとも活物質40を含む活物質層22を形成する。
【0067】
上記の各工程について、
図8~
図10を参照してより詳細に説明する。
図8は、
図7に示すフローチャートの触媒層形成工程を示す斜視図である。
図9は、
図7に示すフローチャートの気相成長工程を示す斜視図及び平面図である。
図10は、
図7に示すフローチャートの活物質層形成工程を示す斜視図及び平面図である。なお、
図8~
図10において、斜視図は集電箔21の外観を斜め方向から見た図を示しており、平面図は集電箔21の外観を上から見た図を示している。また、
図10の斜視図では、活物質40の図示を省略している。
【0068】
図8に示すように、まず、ステップS1では、集電箔21の少なくとも一方の表面21s上に触媒層31を構成する金属微粒子を塗布する。金属微粒子を塗布する際の塗布パターンは、上記で説明した規則的な配置パターンに基づいて設計する。金属微粒子の塗布には、例えば、インクジェットプリント法等の印刷法を用いることができる。
【0069】
インクジェットプリント法を用いて触媒層31を形成する場合、まず触媒インクを調製する。触媒インクは、金属微粒子と、適当な結着材及び溶媒と、を含んだ所要の粘度を有する分散液である。調製した触媒インクは、インクジェットプリンタのノズルから噴出させ、予めコンピュータ上で設計した塗布パターンに基づいて集電箔21の表面21sに付着させる。集電箔21の表面21sに付着した触媒インクは、乾燥させて溶媒を除去することにより、集電箔21の表面21s上に触媒層31を形成することができる。
【0070】
このように、インクジェットプリント法を用いると、コンピュータ及びプリンタを用いた画像作成及びプリントアウトの作業と同様に、容易な方法で金属微粒子を集電箔21に塗布できる。したがって、インクジェットプリント法を用いれば、触媒層31の形状を精密に制御することができるため、非常に薄くて均一な触媒層31を作製できる。
【0071】
また、インクジェットプリント法では、コンピュータ上で自在に塗布パターンを設計することができるため、例えば、上記で説明した第1パターン、第2パターン、又は第3パターン等の所望の配置パターンに基づく触媒層31を容易に作製することできる。
【0072】
次に、
図9に示すように、ステップS2では、CVD(Chemica Vapor Deposition)法を用いてCNTの集合体であるカーボンナノ構造体30を生成する。まず、ステップS1で得られた触媒層31を有する集電箔21をCVD装置の反応炉内に設置して、所要の温度まで加熱する。この反応炉内に、炭素源となる炭化水素ガスを含むガスを導入し、数百℃~数千℃の反応温度で加熱保持する。加熱により炭化水素ガスがベンゼン環縮合し、触媒層31を構成する金属微粒子を核として複数のCNTが気相成長する。この時、各CNTは、集電箔21の表面21sからZ方向の上側に向かって成長する。個々の触媒層31において、多数のCNTが集合した状態で成長することにより、薄片状のカーボンナノ構造体30が形成される。
【0073】
このように形成されたカーボンナノ構造体30は、集電箔21の表面21s上に垂直配向している。また、カーボンナノ構造体30の配置パターンは、触媒層31の塗布パターンに応じたものである。このように形成されるカーボンナノ構造体30は、その幅方向が集電箔21の表面21sに沿った第1の方向に配向した状態で互いに離間して第1の方向に並列配置されることが好ましい。さらに、複数形成されたカーボンナノ構造体30のうち、その幅方向が第1の方向とは異なる第2の方向に配向した状態でカーボンナノ構造体30が互いに離間して第2の方向に並列配置される異配向領域を有していてもよい。なお、カーボナノ構造体は、露出部23を除いた集電箔21の長さ方向に延在する帯状の範囲に形成される。
【0074】
カーボンナノ構造体30の形状(厚さT、幅W、高さH)は、ステップS1において形成される触媒層31の形状と、ステップS2における気相成長の反応時間と、を調整することにより自在に制御可能である。また、金属微粒子の塗布条件やCVDの反応条件を適宜変更することにより、任意の密度を有するカーボンナノ構造体30を形成することができる。そして、カーボンナノ構造体30の配置パターンは、ステップS1における触媒層31の塗布パターンに対応するものであるため、インクジェットプリント法を用いた触媒層31のパターニングにより自在に制御可能である。
【0075】
次に、ステップS3では、集電箔21の表面21s上に少なくとも活物質40を含む活物質層22を形成し、負極板20を作製する。ステップS3における負極板20の作製方法は特に限定されないが、例えば、
図10に示すように、少なくとも活物質40と、バインダを均一に溶解又は分散し得る溶媒と、を含むペースト41を調製する。ペースト41は、活物質40及び溶媒を含み、必要に応じて導電材及びバインダ等を添加し、これらを混錬することにより得られる。
【0076】
その後、ステップS2で得られたカーボンナノ構造体30を有する集電箔21の表面21s上に、調製したペースト41を塗工する。ペースト41は、露出部23を除いた集電箔21の長さ方向に延在する帯状の範囲に塗工する。ペースト41が塗工された集電箔21の表面21s上では、カーボンナノ構造体30間の隙間に活物質40が充填されている。カーボンナノ構造体30は、所定の配置パターンを用いて形成されるため、活物質40は、活物質40のベーサル面40bとカーボンナノ構造体30(Z方向)とのなす角度が45°以下となるようにカーボンナノ構造体30間の隙間に充填される。
【0077】
次に、ステップS4では、集電箔21の表面21s上に塗工されたペースト41を乾燥させて溶媒を除去した後、これを圧縮する。このようにして、集電箔21の表面21s上に活物質層22が形成された負極板20が得られる。捲回された負極板20は、例えば
図2に示される通りである。活物質層22における活物質40は、活物質40のベーサル面40bとカーボンナノ構造体30(Z方向)とのなす角度が45°以下となるようにカーボンナノ構造体30間に保持される。
【0078】
このように、集電箔21の表面21s上にカーボンナノ構造体30を規則的な配置パターンを用いて形成し、形成されたカーボンナノ構造体30間に活物質40を充填することにより、カーボンナノ構造体30間に活物質40が保持された活物質層22を有する負極板20が製造される。
【0079】
次に、以下の各負極板を備えた評価用の二次電池(実施例、及び比較例1、2)を作製し、その性能を評価した。なお、実施例は本発明を限定するものではない。
【0080】
(実施例)
図3のフローに示す製造方法にしたがって製造した負極板20と、正極板と、セパレータと、を用いて実施例にかかる二次電池(セル)を作製した。実施例の二次電池1は、カーボンナノ構造体30の配置パターンとして第3パターンを適用した
図5に示される負極板20を備える。
【0081】
この負極板20において、隣接するカーボンナノ構造体30間の距離は、間隔Cが40μm、間隔Lが50μmであり、互いに直交しつつ隣接するカーボンナノ構造体30間の間隔は40μmである。また、個別のカーボンナノ構造体30の寸法は、厚さTが5μm、幅Wが150μm、高さHが80μm、密度が100mg/cm3である。
【0082】
(比較例1)
比較例1の二次電池100は、集電箔21の表面21s上にカーボンナノ構造体30が形成されていない負極板を備える。比較例1の二次電池100は、カーボンナノ構造体30がないことを除いて、その他の構成は実施例と同様である。
【0083】
(比較例2)
比較例2の二次電池は、集電箔21の表面21s上にカーボンナノ構造体30がランダムに形成された負極板を備える。この負極板において、カーボンナノ構造体30は、触媒層31を起点として集電箔21の表面21s上に垂直配向しているが、集電箔21の表面21sに沿った配向は、不規則である。また、個別のカーボンナノ構造体30の寸法は実施例と同様であるが、隣接するカーボンナノ構造体30間の距離は規定されない。比較例2の二次電池において、その他の構成は実施例と同様である。
【0084】
以上の実施例及び比較例1、2の各二次電池について、IV抵抗を測定した結果を
図11に示す。
図11は、実施例及び比較例1、2の二次電池のIV抵抗を比較した結果を示すグラフである。
図11の縦軸は、比較例1の二次電池100についての抵抗値を100%として、IV抵抗を相対値で示している。なお、IV抵抗は所定の条件で放電した際の電圧降下量を放電電流値で除した値とすることで測定した。
【0085】
図11に示すように、比較例1の二次電池100のIV抵抗を100%とした場合、IV抵抗は比較例2では5%低下し、実施例では9%低下した。この結果からわかるように、集電箔21の表面21s上に垂直配向したカーボンナノ構造体30が形成された負極板を備えた二次電池(実施例、比較例2)の方が、カーボンナノ構造体30のない負極板を備えた二次電池100(比較例1)に比べてIV抵抗が低下することが確認された。これは、実施例及び比較例2の二次電池では、Z方向に配向されるカーボンナノ構造体30が形成されることにより、Z方向における電解液の流れが良好になり、活物質層22の表面から内部へ向かう電解液の浸透性が向上したためであると考えられる。
【0086】
さらに、実施例の二次電池1と比較例2の二次電池とを比較すると、カーボンナノ構造体30が集電箔21の表面21sに沿った方向に規則的に配向された実施例の二次電池1の場合に、IV抵抗の低減効果が大きいことが判った。実施例の二次電池1のIV抵抗は、比較例2の二次電池のIV抵抗よりも4%低下した。したがって、これら3種類の二次電池のうち、X方向、Y方向、及びZ方向に規則的に配向されたカーボンナノ構造体30を備えた実施例の二次電池1は、最も優れた電池性能を有することが確認された。
【0087】
ここで、
図12を参照しつつ、捲回電極体を備える二次電池の内部抵抗の分布について、比較例1の二次電池100を例に挙げて説明する。
図12は、比較例1の二次電池における内部抵抗の分布を示す図である。
図12に示す二次電池100は、ケース本体11及び蓋12からなる電池ケース10の内側に形成される電槽内にカーボンナノ構造体30のない負極板を含んだ電極体が収納されている比較例1の二次電池100である。
【0088】
このような二次電池100では、ハイレートで充放電を行った際の活物質層(活物質)の膨張収縮に伴って、放電時には、電極体の内部に含浸された電解液が電極体の軸線方向の両端部から電極体の外部に排出される。そして、電極体の外部に排出された電解液が、次の充電時に再び電極体の内部に含浸(浸透)しなければ、電極体の内部において電解液の不均一化や電解液が枯渇する部分が生じる可能性がある。
【0089】
電解液が不均一化した場合は、塩濃度の分布が不均一となり、正極板と負極板との間を流れる電流密度が偏在する。また、電解液が枯渇した部分が生じた場合は、電極体内部の充放電反応に電荷担体であるリチウムイオンを供給できない。これらに起因して、負極板内では、電流が集中する部分でリチウムが析出して容量劣化が生じる虞がある。一方、電流が流れにくい部分では、電池の内部抵抗が上昇する。その結果、二次電池の電池性能が低下する。また、このような二次電池を製造する際の注液工程において、活物質層内への電解液の浸透が不十分であると、充放電反応の不均一さが増す。このため、電解液の浸透性は、電池性能に影響を与えるものである。
【0090】
電解液は、活物質層の表面及び周縁から活物質層の中央に向かって浸透する。扁平状の捲回電極体を備えた二次電池においては、軸線方向において電解液の浸透経路の下流である活物質層の中央部分には電解液が浸透しにくい。また、重力の影響により電極体の上端側の上端部において電解液が減少しやすい。したがって、
図12に示すように、比較例1の二次電池100では、特に二次電池100(電槽)の中央部分且つ上端部に対する電解液の浸透性が悪く、この部分で電解液の枯渇等が生じて電池の内部抵抗が上昇しやすい。
【0091】
これに対し、実施例の二次電池1において、負極板20は第3パターンを適用して形成されたカーボンナノ構造体30を備えている。これにより、電解液がZ方向に沿って活物質層22の表面から内部に向かって流れる浸透経路が確保される。これに加え、電解液がX方向に沿って活物質層22の両端部から中央部分22aに向かって流れる浸透経路と、電解液がY方向に沿って活物質層22(電極体15)の下端から上端に流れる浸透経路が確保される。
【0092】
このように、実施例の二次電池1では、電解液の浸透経路が制御され、電解液の枯渇等が生じやすい二次電池1(電槽)の中央部分22a且つ上端部に対する電解液の浸透性が向上する。これにより、実施例の二次電池1では、電解液が電極体15の全体に渡って浸透するため、充放電反応の均一性が増す。その結果、比較例1、2の各二次電池と比べて、特に電槽の中央部分22a且つ上端部における電池の内部抵抗の増加が抑制される。
【0093】
また、実施例の二次電池1において、負極板20に含まれる活物質40は、エッジ面40eが電解液面に対してより露出した姿勢でカーボンナノ構造体30間に保持されている。このため、エッジ面40eでのリチウムイオンの受け入れ性が向上し、リチウムイオンの挿入及び脱離の反応速度が増加することにより二次電池1の入出力特性が向上する。そして、カーボンナノ構造体30は、電子伝導性の高いCNTによって構成されるため、実施例の二次電池1においては、活物質40間及び/又は活物質40と集電体(集電箔21)との間の電子移動が円滑に行われる。
【0094】
また、CNTで構築されるカーボンナノ構造体30は、例えば、連続的な壁状の構造を有するカーボンナノウォールと比べて、断続的な薄片状の構造体として形成される。このような構成により、カーボンナノ構造体30間の隙間に電解液が滞りなく流れるための流路を形成することができる。これにより、活物質層22における電解液の流れが良好になり、電解液の浸透性の低下が抑制される。したがって、実施例の二次電池1においては、活物質40間及び/又は活物質40と電解液との界面におけるイオン拡散が円滑に行われる。
【0095】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、二次電池1を構成する各種材料は、上記実施の形態で挙げられるものに限らない。
【0096】
また、上記実施の形態では、集電箔21の表面21sに沿った方向として、カーボンナノ構造体30がX方向及びY方向に配向された場合について説明したが、カーボンナノ構造体30の配向や配置パターンはこれに限られたものではない。所望の方向に配向したカーボンナノ構造体30を適宜組み合わせることにより電解液の浸透経路を制御して、悪化した電解液の流れを局所的に改善することができる。
【0097】
また、上記実施の形態では、鱗片状の黒鉛粒子を活物質40として用いる場合について説明した。しかしながら、活物質40の種類、形状、及び寸法はこれに限定されるものではなく、用いる活物質40に応じてカーボンナノ構造体30の配置パターン及び寸法等を適宜設計すればよい。
【0098】
さらに、上記実施の形態では、扁平形状の捲回型電極体を備える二次電池1について説明したが、二次電池1は、複数の板状の正極板及び負極板20がセパレータを介して積層された積層型の電極体を備える二次電池として構成することもできる。
【符号の説明】
【0099】
1、100 二次電池
10 電池ケース
11 ケース本体
12 蓋
13 負極端子
14 正極端子
15 電極体
20 負極板
21 集電箔
21s 表面
22 活物質層
22a 中央部分
22b 非中央部分
23 露出部
30 カーボンナノ構造体
30a、30b 列
31 触媒層
40 活物質
40b ベーサル面
40e エッジ面
41 ペースト
C 間隔
H 高さ
L 間隔
T 厚さ
W 幅