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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】着装シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 13/40 20110101AFI20240514BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240514BHJP
   A41H 43/00 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
G06T13/40
G06F30/10
A41H43/00 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021089412
(22)【出願日】2021-05-27
(65)【公開番号】P2022182085
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2022-12-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Journal of Textile Engineering(2020),Vol.66,No.4,55頁~61頁 発行日 令和2年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 明裕
(72)【発明者】
【氏名】角 奈那子
【審査官】岡本 俊威
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06535215(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0298897(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0121556(US,A1)
【文献】特開2013-200770(JP,A)
【文献】特開2004-013486(JP,A)
【文献】特開2008-140364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 13/40
A41H 43/00
G06F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の三次元形状データを記憶する身体形状データ記憶部と、
第1の姿勢から始まる運動時の連続的な動作における身体の動きを示すモーションデータを記憶するモーションデータ記憶部と、
前記身体の三次元形状データに基づいて、複数のフレームで構成され、前記第1の姿勢とは異なる静止立位姿勢である第2の姿勢から前記第1の姿勢までの身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第1のアニメーションを生成する第1のアニメーション生成部と、
前記身体の三次元形状データと前記モーションデータとに基づいて、複数のフレームで構成され、前記運動時の連続的な動作における身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第2のアニメーションを生成する第2のアニメーション生成部と、
前記第1のアニメーションと前記第2のアニメーションとを連続させ、複数のフレームで構成される第3のアニメーションを生成する第3のアニメーション生成部と、
衣服を構成するパーツの形状を示すパーツデータと、前記パーツの材料の物性データとに基づいて、三次元形状の衣服モデルのデータを生成する衣服モデル生成部と、
前記第3のアニメーションのうち、冒頭から少なくとも1フレームの間に前記第2の姿勢の身体に前記衣服モデルを着装し、前記第2の姿勢の身体への前記衣服モデルの着装が完了したフレームよりも後のフレームでは、前記連続的な動作における身体の動き及び身体の表面形状の変化に追従して前記衣服モデルを変形させて、前記衣服モデルが着装された身体の前記連続的な動作及び前記運動時の連続的な動作における前記衣服モデルの形状変化をシミュレートするシミュレーション実行部とを備え
前記第1のアニメーション生成部及び前記第2のアニメーション生成部は、前記第1のアニメーション中又は前記第2のアニメーション中に、身体を構成する部位同士が干渉する自己衝突が発生するフレームが含まれる場合には、関節角度及び身体の表面形状を変更して前記自己衝突を回避する処理を行い、
前記シミュレーション実行部は、前記衣服モデルの形状変化として、運動時に前記衣服モデルの生地に発生する張力及び伸長率並びに前記衣服から前記身体が受ける着圧をシミュレートする、着装シミュレーション装置。
【請求項2】
静止立位姿勢である前記第2の姿勢は、身体の各関節のうち少なくとも膝関節及び肘関節が伸展した姿勢である、請求項1に記載の着装シミュレーション装置。
【請求項3】
前記第1のアニメーション生成部は、前記第2の姿勢と、前記第1の姿勢との間の姿勢及び身体の表面形状を演算処理によって補間して前記第1のアニメーションを生成する、請求項1又は2に記載の着装シミュレーション装置。
【請求項4】
人体をスキャンして生成された三次元表面形状データと、骨格及び筋肉の標準的な構造を示すテンプレートデータとを合成して、前記身体の三次元形状データを生成する身体形状データ生成部を備える、請求項1からのいずれか1項に記載の着装シミュレーション装置。
【請求項5】
前記身体形状データ生成部は、性別によって異なる前記テンプレートデータを用いて前記身体の三次元形状データを生成する、請求項に記載の着装シミュレーション装置。
【請求項6】
前記身体形状データ生成部は、前記三次元表面形状データを編集し、前記三次元表面形状データが示す身体の体型を変更可能である、請求項又はに記載の着装シミュレーション装置。
【請求項7】
前記第2のアニメーション中のフレームの身体の関節角度を変更するモーション編集部を備える、請求項1からのいずれか1項に記載の着装シミュレーション装置。
【請求項8】
前記第3のアニメーション生成部は、前記第3のアニメーションのフレームレートを変更可能である、請求項1からのいずれか1項に記載の着装シミュレーション装置。
【請求項9】
前記身体の表面形状の変化には、前記身体の皮膚の伸縮と、前記身体の筋肉の収縮及び弛緩によって生じる身体部位表面の隆起状態の変化が含まれる、請求項1から8のいずれか1項に記載の着装シミュレーション装置。
【請求項10】
前記シミュレーション実行部は、前記衣服モデルの形状変化として、前記身体と前記衣服の生地との間の隙間量及び前記生地の曲率をさらにシミュレートする、請求項1から9のいずれか1項に記載の着装シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動時の衣服の着用状態をシミュレートする着装シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運動時に着用する衣服は、走行時の空気抵抗を低減させたり、コンタクトプレー時の掴みしろを減少させたりする目的から、着用者の体にフィットするフォルムが採用されることが多い。着用者の体にフィットする衣服は、着用者の身体の動きに追従して変形し、着用者の身体の動きを妨げないことが求められる。衣服のサンプルを作成して着用状態を確認した上で設計を変える方法は、時間及びコストがかかるため、運動時の衣服の着用状態をシミュレートし、シミュレートの結果に基づいて衣服の設計を変える手法が用いられている。
【0003】
特許文献1には、衣服の布特性と布の動きとを計算によってコンピュータグラフィックス化する発明が開示されている。特許文献1に開示される発明は、数値データからなる衣服の型紙を格子状の微少な小片に分割し、布の力学的特性と布の動きとを計算し数値データからなる人体形状に着せ付ける時に布と人体との衝突を検出処理して、衣服の着用状態を予測表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-44785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人体は、関節が伸展又は屈曲する際に、筋肉の収縮及び弛緩に伴って身体部位表面の隆起の程度が変化したり、皮膚に皺が生じたりする。したがって、運動時の衣服の着用状態をシミュレートするためには、運動時の身体の表面形状の変化を反映させて衣服の着用状態をシミュレートする必要がある。
【0006】
運動時の身体の表面形状の変化を反映させるためには、モーションキャプチャで身体の連続的な動作を撮影し、撮影した動作に従って身体に追従して衣服を変形させる必要がある。しかし、モーションキャプチャは、画角により撮影範囲に制約があるため、運動の途中から動作の撮影を開始しなければならない場合がある。運動の途中から動作の撮影を開始すると、撮影した動作の最初の姿勢が、身体モデルへ衣服モデルを着装可能な姿勢ではなくなってしまう。
【0007】
したがって、特許文献1に開示される発明では、運動時の身体の表面形状の変化を反映させて衣服の着用状態を正確に予測することができなかった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、運動時の身体の表面形状の変化を反映させて衣服の着用状態をシミュレートできる着装シミュレーション装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る着装シミュレーション装置は、身体の三次元形状データを記憶する身体形状データ記憶部と、第1の姿勢から始まる連続的な動作における身体の動きを示すモーションデータを記憶するモーションデータ記憶部とを備える。また、着装シミュレーション装置は、身体の三次元形状データとモーションデータとに基づいて、複数のフレームで構成され、第1の姿勢とは異なる第2の姿勢から第1の姿勢までの身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第1のアニメーションを生成する第1のアニメーション生成部と、身体の三次元形状データとモーションデータとに基づいて、複数のフレームで構成され、連続的な動作における身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第2のアニメーションを生成する第2のアニメーション生成部と、第1のアニメーションと第2のアニメーションとを連続させ、複数のフレームで構成される第3のアニメーションを生成する第3のアニメーション生成部とを備える。また、着装シミュレーション装置は、衣服を構成するパーツの形状を示すパーツデータと、パーツの材料の物性データとに基づいて、三次元形状の衣服モデルのデータを生成する衣服モデル生成部と、第3のアニメーションのうち、冒頭から少なくとも1フレームの間に第2の姿勢の身体に衣服モデルを着装し、第2の姿勢の身体への衣服モデルの着装が完了したフレームよりも後のフレームでは、連続的な動作における身体の動き及び身体の表面形状の変化に追従して衣服モデルを変形させて、衣服モデルが着装された身体の連続的な動作及び連続的な動作における衣服モデルの形状変化をシミュレートするシミュレーション実行部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る着装シミュレーション装置は、運動時の身体の表面形状の変化を反映させて衣服の着用状態をシミュレートできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。
図2図2は、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置における第2の姿勢を示す図である。
図3図3は、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置の動作の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置のモーションデータ、第1のアニメーション、第2のアニメーション及び第3のアニメーションの関係を示す図である。
図5図5は、本発明の実施の形態2に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。
図6図6は、本発明の実施の形態3に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。
図7図7は、本発明の実施の形態4に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。
図8図8は、本発明の実施の形態5に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。
図9図9は、実施の形態1から実施の形態5に係る着装シミュレーション装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る着装シミュレーション装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。なお、以下に示す実施の形態においては、同一の部分又は共通する部分については同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。実施の形態1に係る着装シミュレーション装置100Aは、骨格及び筋肉の標準的な構造を示すテンプレートデータを記憶するテンプレートデータ記憶部101を備える。テンプレートデータ記憶部101には、例えば人種及び年齢に基づいて細分化された性別ごとの複数のテンプレートデータが記憶される。その他、身長、体重、BMI(Body Mass Index)などに基づいて細分化された体型ごとの複数のテンプレートデータ、又は性別と体型との組み合わせからなる複数のテンプレートデータを記憶するようにしてもよい。
【0014】
また、着装シミュレーション装置100Aは、衣服を構成する複数のパーツの形状を示すパーツデータと、複数のパーツの各々の材料の物性データと、パーツ同士のつなぎ合わせ方を示す縫製情報とを記憶する衣服データ記憶部102を備える。
【0015】
また、着装シミュレーション装置100Aは、ボディスキャナ200で人体をスキャンして生成された三次元表面形状データと、テンプレートデータとを合成して、身体の三次元形状データを生成する身体形状データ生成部103と、身体形状データ生成部103によって生成された身体の三次元形状データを記憶する身体形状データ記憶部104と、第1の姿勢から始まる連続的な動作における身体の動きを示すモーションデータを記憶するモーションデータ記憶部105とを備える。モーションデータ記憶部105に記憶されるモーションデータは、モーションキャプチャ300を用いて、人体の実際の動きを撮影して生成される。
【0016】
また、着装シミュレーション装置100Aは、複数のフレームで構成され、身体の三次元形状データとモーションデータとに基づいて、第1の姿勢とは異なる第2の姿勢から第1の姿勢までの身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第1のアニメーションを生成する第1のアニメーション生成部106と、複数のフレームで構成され、身体の三次元形状データとモーションデータとに基づいて、連続的な動作における身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第2のアニメーションを生成する第2のアニメーション生成部107と、第1のアニメーションと第2のアニメーションとを連続させ、複数のフレームで構成される第3のアニメーションを生成する第3のアニメーション生成部108とを備える。
【0017】
実施の形態1において、第2の姿勢は、両脚を肩幅程度に開いて膝関節及び肘関節を伸展させた静止立位姿勢である。図2は、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置における第2の姿勢を示す図である。第1の姿勢から始まる連続的な動作において、肩よりも高く腕を上げる姿勢が含まれる場合には、一般的には、図2(a)に示すように、両腕を水平に伸ばしたTポーズが第2の姿勢に用いられる。また、第1の姿勢から始まる連続的な動作において、肩よりも高く腕を上げる姿勢が含まれない場合には、一般的には、図2(b)に示すように、両腕を斜め下に伸ばしたAポーズが第2の姿勢に用いられる。なお、第2の姿勢は、例示したAポーズ又はTポーズとは異なる姿勢であってもよい。
【0018】
また、着装シミュレーション装置100Aは、パーツデータと、物性データと、縫製情報とに基づいて、三次元形状の衣服モデルのデータを生成する衣服モデル生成部109を備える。衣服モデル生成部109は、複数のパーツを縫製情報に基づいてつなぎ合わせることにより、三次元形状の衣服モデルのデータを生成する。
【0019】
また、着装シミュレーション装置100Aは、第3のアニメーションのうち、冒頭から少なくとも1フレームの間に第2の姿勢の身体に衣服モデルを着装し、第2の姿勢の身体への衣服モデルの着装が完了したフレームよりも後のフレームでは、連続的な動作における身体の動き及び身体の表面形状の変化に追従して衣服モデルを変形させて、衣服モデルが着装された身体の連続的な動作及び連続的な動作における衣服モデルの形状変化をシミュレートするシミュレーション実行部110を備える。シミュレーション実行部110は、シミュレーションの結果を表示装置400に表示させる。表示装置400には、第2の姿勢から第1の姿勢を経て連続的な動作を行う第3のアニメーションの各フレームにおける衣服の着用状態が、アニメーションとして表示される。
【0020】
シミュレーション実行部110は、身体の動き及び身体表面の変化に追従して衣服モデルの状態を変化させることにより、運動中に衣服の生地に発生する張力、生地の伸張率及び衣服から身体が受ける着圧をシミュレートする。例えば、シミュレーション実行部110は、張力、伸張率及び着圧が高い部分ほど濃い色で表示されるように、シミュレーション結果を表示装置400に表示させる。この他、シミュレーション実行部110において、身体と衣服の生地との間の隙間量、及び生地の曲率などをシミュレートし、これらをシミュレーション結果に反映させてもよい。
【0021】
図3は、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置の動作の流れを示すフローチャートである。ステップS1において、身体形状データ生成部103は、ボディスキャナ200から入力される三次元表面形状データと、テンプレートデータ記憶部101から読み出したテンプレートデータとに基づいて、身体形状データを生成し、身体形状データ記憶部104に記憶させる。ステップS2において、モーションデータ記憶部105は、モーションキャプチャ300を用いて撮影されたモーションデータを記憶する。
【0022】
ステップS3において、第1のアニメーション生成部106は、第2の姿勢から連続的な動作における最初の姿勢である第1の姿勢までの身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第1のアニメーションを生成する。なお、ここでの身体の表面形状の変化とは、皮膚の伸縮と、筋肉の収縮及び弛緩によって生じる身体部位表面の隆起状態の変化とが含まれる。
【0023】
第1のアニメーション生成部106は、第2の姿勢と第1の姿勢との間の姿勢及び身体の表面形状を、演算処理によって補間して第1のアニメーションを生成する。例えば、第1のアニメーション生成部106は、第2の姿勢から第1の姿勢まで一定速度で関節を動かすように補間したり、第1の姿勢に近づくほど関節の動きが遅くなるように補間したりする。また、第1のアニメーション生成部106は、不図示の入力インタフェースを介して手動で入力されたフレームごとの関節角度に基づいて、第1のアニメーションを生成してもよい。また、第1のアニメーション生成部106は、演算処理によって補間した関節角度を、不図示の入力インタフェースを介して手動で入力されたフレームごとの関節角度に基づいて修正してもよい。
【0024】
ステップS4において、第2のアニメーション生成部107は、連続的な動作中の身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第2のアニメーションを生成する。ステップS5において、第3のアニメーション生成部108は、第1のアニメーションと第2のアニメーションとを連続させた第3のアニメーションを生成する。第3のアニメーションは、第2の姿勢から第1の姿勢まで身体を動かしたのちに連続的な動作を行う際の身体の動き及び身体表面の変化を示す。
【0025】
ステップS6において、衣服モデル生成部109は、衣服データ記憶部102から読み出したパーツデータ、物性データ及び縫製情報に基づいて、三次元形状の衣服モデルのデータを生成する。ステップS7において、シミュレーション実行部110は、第2の姿勢から第1の姿勢まで身体を動かしたのちに連続的な動作を行う際の衣服の着用状態のシミュレーションを実行する。シミュレーション実行部110は、第3のアニメーションの冒頭から少なくとも1フレームの間に第2の姿勢の身体に衣服モデルを着装し、第2の姿勢の身体への衣服モデルの着装が完了したフレームよりも後のフレームでは、連続的な動作における身体の動き及び身体の表面形状の変化に追従して衣服モデルを変形させることにより、第2の姿勢から第1の姿勢まで身体を動かしたのちに連続的な動作を行う際の身体の動き及び身体表面の変化に追従する衣服モデルの形状変化をシミュレートする。なお、図3に示したフローチャートは一例であり、一部のステップについては順番を入れ替えてもよい。例えば、三次元形状の衣服モデルのデータを生成するステップS6は、ステップS5よりも前のいずれかの段階で行っても構わない。
【0026】
身体の連続的な動作を撮影するモーションキャプチャ300は、画角により撮影範囲に制約があるため、静止立位姿勢から運動を開始して動作を撮影すると、所望の動作を撮影できない場合がある。例えば、走行フォームをモーションキャプチャ300で撮影する場合であってフォームが安定してからの走行フォームが所望の動作である場合、撮影範囲内で静止立位姿勢を取ってから走り出すと、フォームが安定する前に撮影範囲外に走り出てしまい、安定した走行フォームを撮影することができない。安定した走行フォームをモーションキャプチャ300の撮影範囲に収めるためには、運動の途中から撮影を開始する必要がある。一方、三次元モデルの身体に衣服を着装する場合、関節が屈曲位にある姿勢であると衣服を着装できないため、静止立位姿勢の身体に衣服を着装する必要がある。運動の途中から撮影された走行フォームは、最初の姿勢が静止立位姿勢ではないため、三次元モデルの身体に衣服を着装することはできない。このように、モーションキャプチャで連続的な運動を撮影しても、三次元モデルの身体に衣服を着装することができないことがある。
【0027】
図4は、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置のモーションデータ、第1のアニメーション、第2のアニメーション及び第3のアニメーションの関係を示す図である。図4中の実線は、膝関節の屈伸角度を示しており、破線は股関節の屈伸角度を示している。なお、ここでは、下半身を覆う衣装をシミュレーションの対象としているため、膝関節及び股関節の関節角度を示しているが、上半身を覆う衣装をシミュレーションの対象とする場合は、肘関節及び肩関節などの角度によって姿勢が規定される。モーションキャプチャ300の撮影範囲を通り抜けながら動作をキャプチャしているため、モーションデータは、関節が曲がった姿勢から始まっている。したがって、シミュレーション実行部110は、モーションデータが示す身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第2のアニメーションの最初の姿勢の三次元モデルの身体に対して衣服モデルを着装することが困難である。このため、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置100Aは、静止立位姿勢である第2の姿勢から、モーションデータの最初の姿勢である第1の姿勢までの身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第1のアニメーションを生成し、モーションデータが示す動作における身体の動き及び身体の表面形状の変化を示す第2のアニメーションとつなげて第3のアニメーションを生成する。第3のアニメーションの冒頭の少なくとも1フレームは、静止立位姿勢であるため、三次元モデルの身体に衣服を着装することが容易である。さらに、第3のアニメーションの後半は、連続的な動作を行う際の身体の動き及び身体表面の変化を示すため、運動時の身体の表面形状の変化を反映させて運動時の衣服の着用状態をシミュレートすることができる。
【0028】
このように、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置100Aは、ボディスキャナ200で人体をスキャンして生成された三次元表面形状データと、テンプレートデータとを基にした身体の三次元形状データに基づいて生成した第1のアニメーションと、モーションキャプチャ300で実際に撮影したモーションデータに基づいて生成した第2のアニメーションとをつなげて第3のアニメーションを生成するため、モーションキャプチャ300で撮影されるシミュレーションを所望する動作が静止立位姿勢から始まっていなくても、第3のアニメーションを用いて衣服の着用状態をシミュレートすることができる。
【0029】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。実施の形態2に係る着装シミュレーション装置100Bは、第1のアニメーション生成部106及び第2のアニメーション生成部107が、自己衝突回避処理部106a,107aを備える点で、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置100Aと相違する。自己衝突回避処理部106aは、第1のアニメーション中に、身体を構成する部位同士が干渉する自己衝突が発生するフレームが含まれる場合には、関節角度及び身体の表面形状の少なくとも一方を変更して自己衝突を回避する処理を行う。自己衝突回避処理部107aは、第2のアニメーション中に、身体を構成する部位同士が干渉する自己衝突が発生するフレームが含まれる場合には、関節角度及び身体の表面形状の少なくとも一方を変更して自己衝突を回避する処理を行う。この他は、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置100Aと同様である。
【0030】
身体の連続的な動作をモーションキャプチャ300で撮影した場合、実際には、身体を構成する部位同士が干渉していないにも関わらず、干渉が発生していると認識されてしまうことがある。例えば、前腕を大きく曲げる動作を行った場合、前腕が上腕にめり込んだ状態の姿勢と認識されてしまうことがある。このような現象は、「自己衝突」と称されている。自己衝突が発生すると、身体の表面形状の変化に衣服が追従できなくなってしまう。したがって、第1のアニメーション又は第2のアニメーションに自己衝突が発生するフレームが含まれていると、第3のアニメーションにも自己衝突が発生するフレームが含まれることになり、身体の動き及び表面形状の変化に追従させて衣服モデルを変形させることができなくなってしまう。
【0031】
実施の形態2に係る着装シミュレーション装置100Bは、第1のアニメーション中又は第2のアニメーション中に自己衝突が発生するフレームが含まれる場合には、自己衝突回避処理部106a,107aが関節角度及び身体の表面形状の少なくとも一方を変更して自己衝突を回避する処理を行う。このため、シミュレーション実行部110は、関節を大きく曲げる動きを含む動作についても、身体の動き及び表面形状の変化に追従させて衣服モデルを変形させることが可能となる。
【0032】
また、ボディスキャナ200で読み取った身体の三次元形状データと、モーションキャプチャ300で連続的な動作を撮影したモーションデータとが、別人のものである場合、第1のアニメーション又は第2のアニメーションに自己衝突が発生するフレームが含まれやすくなるが、実施の形態2に係る着装シミュレーション装置100Bは、自己衝突回避処理部106a,107aが自己衝突を回避する処理を行うため、身体の三次元形状データとモーションデータとが別人のものであっても、身体の動き及び表面形状の変化に追従させて衣服モデルを変形させることができる。
【0033】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。実施の形態3に係る着装シミュレーション装置100Cは、第2のアニメーション中のフレームの身体の関節角度を変更するモーション編集部111を備える点で、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置100Aと相違する。
【0034】
モーションキャプチャ300で被撮影者の動作を撮影する場合、被撮影者の関節運動が正常な範囲を超えないと取ることができないような姿勢、例えば、被撮影者が受傷してしまうような姿勢を取ることは困難である。これに対し、実施の形態3に係る着装シミュレーション装置100Cは、モーション編集部111が第2のアニメーション中の身体の関節角度を変更できるため、被撮影者に取らせることが困難な姿勢を含む第2のアニメーションを作成することができる。したがって、シミュレーション実行部110は、被撮影者に取らせることが困難な姿勢における身体の動き及び表面形状の変化に追従させて衣服モデルを変形させてシミュレーションを実行することができる。これにより、実施の形態3に係る着装シミュレーション装置100Cのユーザは、着用者が受傷しにくい衣服の設計などを行うことができる。
【0035】
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。実施の形態4に係る着装シミュレーション装置100Dは、身体形状データ生成部103が、三次元表面形状データを編集する三次元表面形状データ編集部103aを備える点で、実施の形態1に係る着装シミュレーション装置100Aと相違する。三次元表面形状データ編集部103aは、三次元表面形状データを編集することにより、三次元表面形状データが示す身体の体型を変更可能である。
【0036】
実施の形態4に係る着装シミュレーション装置100Dは、三次元表面形状データ編集部103aが、三次元表面形状データが示す体型を変更することにより、着用者の体重が増減したり、身長が伸びたりして体型が変化した場合の身体の表面形状に基づいて、第1のアニメーション、第2のアニメーション及び第3のアニメーションを生成できる。したがって、シミュレーション実行部110は、ボディスキャナ200でスキャンした人の実際の体型とは異なる体型の身体の動き及び表面形状の変化に衣服がどのように追従するかをシミュレートすることができる。
【0037】
(実施の形態5)
図8は、本発明の実施の形態5に係る着装シミュレーション装置の構成を示す図である。実施の形態5に係る着装シミュレーション装置100Eは、第3のアニメーション生成部108が第3のアニメーションのフレームレートを変更するフレームレート変更部108aを備える点で実施の形態1に係る着装シミュレーション装置100Aと相違する。フレームレート変更部108aは、フレームレートを低くする場合には、第3のアニメーションのフレームを間引く処理を行う。また、フレームレート変更部108aは、フレームレートを高くする場合には、前後のフレームの姿勢の中間の姿勢となるようフレームを補間する処理を行う。
【0038】
第1の姿勢から始まる連続的な動作が、ゆっくりした動作である場合、フレームレートが低くても、身体の動き及び表面形状の変化に衣服を追従させることができる。したがって、ゆっくりした動作のシミュレーションを行う場合には、フレームレート変更部108aでフレームレートを低くする処理を行うことにより、シミュレーション実行部110の処理負荷を低減し、シミュレーションの実行速度を高速にすることができる。また、速い動作のシミュレーションを行う場合には、フレームレートが低いと、身体の動き及び表面形状の変化に衣服を追従させることができなくなるが、フレームレート変更部108aがフレームを補間してフレームレートを高くする処理を行うことにより、シミュレーション実行部110は、身体の動き及び表面形状の変化に衣服を追従させてシミュレーションを実行できる。
【0039】
次に、上記の各実施の形態に係る着装シミュレーション装置100A,100B,100C,100D,100Eのハードウェア構成について説明する。図9は、実施の形態1から実施の形態5に係る着装シミュレーション装置のハードウェア構成例を示す図である。図9には、プログラムを実行するハードウェアを用いることによって着装シミュレーション装置100A,100B,100C,100D,100Eの機能が実現される場合におけるハードウェア構成を示している。
【0040】
着装シミュレーション装置100A,100B,100C,100D,100Eは、各種処理を実行するプロセッサ81と、内蔵メモリであるメモリ82と、情報を記憶する記憶装置83とを有する。プロセッサ81は、記憶装置83に格納されているプログラムをメモリ82に読み出して実行する。テンプレートデータ記憶部101、衣服データ記憶部102、身体形状データ記憶部104及びモーションデータ記憶部105は、記憶装置83によって実現される。
【0041】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【0042】
例えば、上述した実施形態においては、第2の姿勢が脚を開いて膝関節及び肘関節を伸展させた静止立位状態である例を示したが、第2の姿勢は衣服を着せ付けることができる姿勢であればそれ以外の姿勢でもよい。具体的には、第2の姿勢は膝関節及び肘関節を伸展させた寝た姿勢などでも構わない。その他、第2の姿勢は、下衣のみの衣服モデルのシミュレーションを行う場合であれば、少なくとも膝関節が伸展した姿勢であればよく、上衣のみの衣服モデルのシミュレーションを行う場合であれば、少なくとも肘関節が伸展した姿勢であればよい。
【0043】
また上述した実施形態においては、衣服データ記憶部102に、衣服を構成する複数のパーツの形状を示すパーツデータと、複数のパーツの各々の材料の物性データと、パーツ同士のつなぎ合わせ方を示す縫製情報とが記憶され、衣服モデル生成部109において、それら複数のパーツを縫製情報に基づいてつなぎ合わせることにより、三次元形状の衣服モデルのデータを生成する例を示したが、例えば、靴下のように単純な構造の衣服の場合は、衣服を構成するパーツは複数でなく単一のパーツ形状を示すパーツデータとその単一パーツの物性データとを衣服データ記憶部102に記憶し、これに基づいて衣服モデル生成部109において三次元形状の衣服モデルのデータを生成するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0044】
81 プロセッサ、82 メモリ、83 記憶装置、100A,100B,100C,100D,100E 着装シミュレーション装置、101 テンプレートデータ記憶部、102 衣服データ記憶部、103 身体形状データ生成部、103a 三次元表面形状データ編集部、104 身体形状データ記憶部、105 モーションデータ記憶部、106 第1のアニメーション生成部、106a,107a 自己衝突回避処理部、107 第2のアニメーション生成部、108 第3のアニメーション生成部、108a フレームレート変更部、109 衣服モデル生成部、110 シミュレーション実行部、111 モーション編集部、200 ボディスキャナ、300 モーションキャプチャ、400 表示装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9