(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ゲート駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
H02M1/08 A
(21)【出願番号】P 2021117905
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】秋山 博則
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-177853(JP,A)
【文献】特開2017-229151(JP,A)
【文献】特開2020-113867(JP,A)
【文献】特開2021-061517(JP,A)
【文献】特開2021-078309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーフブリッジ回路(4)の上下アームを構成する2つの半導体スイッチング素子(5A、5B)のうち一方である駆動対象素子のゲートを駆動するゲート駆動回路(11、51、61、121、131)と、
前記駆動対象素子に関連する物理量を取得し、その物理量に基づいて前記駆動対象素子の主端子の電圧である素子電圧を検出する検出回路(12、72、112)と、
前記検出回路による検出値および前記素子電圧が変化する変化期間における前記素子電圧の変化率の目標値である目標変化率に基づいて前記変化期間における前記素子電圧の変化率を前記目標変化率に制御するための前記駆動対象素子のゲート駆動速度である第1駆動速度を演算する変化率制御回路(13、73、102)と、
前記駆動対象素子のゲートを駆動する際に各回路において生じる遅延時間を予め取得し、前記目標変化率および前記遅延時間に基づいて前記駆動対象素子のターンオフ中に前記素子電圧が所望する切替電圧よりも所定値だけ低い切替閾値電圧に到達する切替タイミングを求め、その切替タイミングを表すタイミング信号を生成するタイミング生成回路(14、76、92)と、
前記駆動対象素子のターンオフ中、前記タイミング信号が表す前記切替タイミングにて前記駆動対象素子のゲート駆動速度を前記第1駆動速度から前記第1駆動速度とは異なる第2駆動速度へと変更する速度変更回路(15)と、
を備えるゲート駆動装置。
【請求項2】
ハーフブリッジ回路(4)の上下アームを構成する2つの半導体スイッチング素子(5A、5B)のうち一方である駆動対象素子のゲートを駆動するゲート駆動回路(42、51、61、121、131)と、
2つの前記半導体スイッチング素子のうち他方である非駆動対象素子に関連する物理量を取得し、その物理量に基づいて前記非駆動対象素子の主端子の電圧である素子電圧を検出する検出回路(43)と、
前記検出回路による検出値および前記素子電圧が変化する変化期間における前記素子電圧の変化率の目標値である目標変化率に基づいて前記変化期間における前記素子電圧の変化率を前記目標変化率に制御するための前記駆動対象素子のゲート駆動速度である第1駆動速度を演算する変化率制御回路(13)と、
前記駆動対象素子のゲートを駆動する際に各回路において生じる遅延時間を予め取得し、前記目標変化率および前記遅延時間に基づいて前記駆動対象素子のターンオン中に前記素子電圧が所望する切替電圧よりも所定値だけ低い切替閾値電圧に到達する切替タイミングを求め、その切替タイミングを表すタイミング信号を生成するタイミング生成回路(44)と、
前記駆動対象素子のターンオン中、前記タイミング信号が表す前記切替タイミングにて前記駆動対象素子のゲート駆動速度を前記第1駆動速度から前記第1駆動速度とは異なる第2駆動速度へと変更する速度変更回路(45)と、
を備えるゲート駆動装置。
【請求項3】
前記タイミング生成回路は、
前記切替電圧をVt*とし、前記遅延時間をtdとし、前記目標変化率をdV/dt*とし、前記切替閾値電圧をVtとすると、次式
Vt=Vt*-dV/dt*×td
を満たす前記切替閾値電圧に到達するタイミングを前記切替タイミングとして求めるようになっている請求項1または2に記載のゲート駆動装置。
【請求項4】
さらに、前記ハーフブリッジ回路に供給される電源電圧の値を取得する電圧取得回路(74)を備え、
前記タイミング生成回路(76)は、互いに異なる値の前記電源電圧毎の前記遅延時間を予め取得し、前記電圧取得回路により取得された前記電源電圧の値に応じた前記遅延時間に基づいて前記切替タイミングを求めるようになっている請求項1から3のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項5】
さらに、前記半導体スイッチング素子の温度および前記ゲート駆動装置の温度の一方または双方の値を取得する温度取得回路(75)を備え、
前記タイミング生成回路(76)は、互いに異なる値の前記温度毎の前記遅延時間を予め取得し、前記温度取得回路により取得された前記温度の値に応じた前記遅延時間に基づいて前記切替タイミングを求めるようになっている請求項1から4のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項6】
前記タイミング生成回路(92)は、前記第1駆動速度、前記第2駆動速度および前記検出回路による検出値に基づいて前記切替タイミングを調整するようになっている請求項1から5のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項7】
前記検出回路(72)は、
前記駆動対象素子の主端子の電圧を容量(C1、C2)で分圧する分圧回路(82)を備え、
前記分圧回路の出力電圧に基づいて前記素子電圧を検出する構成となっている請求項1から6のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項8】
前記ゲート駆動回路(51)は、複数のトランジスタ(52、55)が並列接続された構成の出力段を備え、
前記速度変更回路(15、45)は、オンにする前記トランジスタの数を調整することにより前記ゲート駆動速度の変更を行うようになっている請求項1から7のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項9】
前記ゲート駆動回路(61)は、
前記駆動対象素子のゲートに流れる電流であるゲート電流を検出する電流検出部(68、69)と、
前記電流検出部による検出値が前記ゲート電流の指令値に等しくなるように駆動状態が制御される出力段のトランジスタ(62、65)と、
を備え、
前記速度変更回路(15、45)は、前記ゲート電流の指令値を調整することにより前記ゲート駆動速度の変更を行うようになっている請求項1から7のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項10】
前記変化率制御回路(73)は、前記検出回路(72)による検出値から得られる前記素子電圧の変化率と前記目標変化率との差分をゼロにするような前記第1駆動速度を演算するようになっている請求項1から9のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項11】
前記変化率制御回路(102、113)は、前記目標変化率と、予め取得された前記素子電圧の変化率および前記ゲート駆動速度の関係を表す関係情報と、に基づいて、前記第1駆動速度を演算するようになっている請求項1から9のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項12】
前記関係情報は、前記駆動対象素子の温度毎、前記ゲート駆動装置の温度毎、前記ハーフブリッジ回路に供給される電源電圧毎および前記駆動対象素子の主端子間に流れる電流である素子電流毎のうち少なくとも1つ毎に設けられており、
前記変化率制御回路(113)は、前記温度、前記電源電圧および前記素子電流のうち少なくとも1つの値を取得し、その取得した値に応じて前記第1駆動速度を演算するために用いる前記関係情報を選択するようになっている請求項11に記載のゲート駆動装置。
【請求項13】
さらに、前記検出回路による検出値および前記変化期間における前記素子電圧のピーク値の目標値である目標ピーク値に基づいて前記変化期間における前記素子電圧のピーク値を前記目標ピーク値に制御するための前記駆動対象素子のゲート駆動速度である前記第2駆動速度を演算するピーク値制御回路(77)を備える請求項1から12のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項14】
前記変化率制御回路は、前記変化率および前記目標変化率の差分が予め定められた誤差許容値未満に安定したことを検知すると変更許可信号を出力するようになっており、
前記速度変更回路は、前記変化率制御回路から前記変更許可信号が出力されている期間にだけ前記ゲート駆動速度の変更を行うようになっている請求項1から13のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項15】
前記変化率制御回路(73)は、
前記ゲート駆動装置の動作開始直後および前記変更許可信号を出力する出力状態から前記変更許可信号の出力を停止する停止状態へと切り替わった直後には、前記目標変化率を本来の値よりも低い値に設定し、
その後は前記変化期間における前記素子電圧のピーク値が予め定められた許容値以下であることを条件として前記目標変化率を本来の値に向けて高めてゆき、
前記目標変化率が本来の値になった状態で前記変化率および前記目標変化率の差分が前記誤差許容値未満に安定したことを検知すると前記変更許可信号を出力するようになっている請求項14に記載のゲート駆動装置。
【請求項16】
前記速度変更回路は、
前記駆動対象素子のスイッチングが開始されるスイッチング開始時、前記駆動対象素子のゲート駆動速度を前記第1駆動速度および前記第2駆動速度よりも大である第3駆動速度に設定し、その後、予め設定された第1切替時間が経過すると前記駆動対象素子のゲート駆動速度を前記第1駆動速度に切り替えるようになっている請求項1から15のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項17】
前記速度変更回路は、
前記駆動対象素子のゲート駆動速度を前記第1駆動速度から前記第2駆動速度へと変更した時点から予め設定された第2切替時間が経過すると前記駆動対象素子のゲート駆動速度を前記第2駆動速度よりも大である第4駆動速度に切り替えるようになっている請求項1から16のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーフブリッジ回路の上下アームを構成する2つの半導体スイッチング素子のうち一方である駆動対象素子のゲートを駆動するゲート駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動対象の半導体スイッチング素子であるIGBTのターンオフ期間中、IGBTのコレクタ電圧をモニタし、コレクタ電圧が予め決定された判定閾値を超えるまでの期間には比較的高い速度でスイッチングを行い、その後の期間には比較的低い速度でスイッチングを行うことにより、半導体スイッチング素子の主端子に印加されるサージ電圧を抑制しつつ半導体スイッチング素子のターンオフ時におけるスイッチング損失の増大を抑制するゲート駆動装置が開示されている。このように、従来、半導体スイッチング素子の保護と半導体スイッチング素子における損失の低減との両立を図るための技術が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された従来のゲート駆動装置では、次のような問題が生じるおそれがある。なお、以下では、特許文献1に開示されたゲート駆動装置のことを従来技術と称する。すなわち、従来技術では、コレクタ電圧が判定閾値を超えたことを検出してから実際にスイッチング速度が変更される時点までの遅延時間の影響により、スイッチング速度の切り替えタイミングが所望するタイミングから外れたタイミングとなる可能性がある。スイッチング速度の切り替えタイミングが所望するタイミングから外れると、スイッチング損失が増加したり、サージ電圧が許容値を超えたり、するおそれがある。
【0005】
具体的には、従来技術では、スイッチング速度の切り替えタイミングが所望するタイミングよりも早まるほどスイッチング損失が増加するとともに、スイッチング速度の切り替えタイミングが所望するタイミングより遅れるほどサージ電圧が高くなる。このような切り替えタイミングのずれに起因する問題は、半導体スイッチング素子をより高い速度でスイッチングする場合に一層顕著なものとなる。したがって、従来技術では、特に半導体スイッチング素子のスイッチング速度が速いシステムに適用する場合、半導体スイッチング素子の保護と半導体スイッチング素子における損失の低減との両立を図ることが困難になってしまう。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、半導体スイッチング素子の保護と半導体スイッチング素子における損失の低減との両立を図ることができるゲート駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のゲート駆動装置は、ゲート駆動回路(11、51、61、121、131)、検出回路(12、72、112)、変化率制御回路(13、73、102)、タイミング生成回路(14、76、92)および速度変更回路(15)を備えている。ゲート駆動回路は、ハーフブリッジ回路(4)の上下アームを構成する2つの半導体スイッチング素子(5A、5B)のうち一方である駆動対象素子のゲートを駆動する。検出回路は、駆動対象素子に関連する物理量を取得し、その物理量に基づいて駆動対象素子の主端子の電圧である素子電圧を検出する。変化率制御回路は、検出回路による検出値および素子電圧が変化する変化期間における素子電圧の変化率の目標値である目標変化率に基づいて変化期間における素子電圧の変化率を目標変化率に制御するための駆動対象素子のゲート駆動速度である第1駆動速度を演算する。
【0008】
タイミング生成回路は、駆動対象素子のゲートを駆動する際に各回路において生じる遅延時間を予め取得し、目標変化率および遅延時間に基づいて駆動対象素子のターンオフ中に素子電圧が所望する切替電圧よりも所定値だけ低い切替閾値電圧に到達する切替タイミングを求め、その切替タイミングを表すタイミング信号を生成する。速度変更回路は、駆動対象素子のターンオフ中、タイミング信号が表す切替タイミングにて駆動対象素子のゲート駆動速度を第1駆動速度から第1駆動速度とは異なる第2駆動速度へと変更する。
【0009】
このような構成によれば、駆動対象素子のターンオフ中に駆動対象素子のゲート駆動速度が第1駆動速度から第2駆動速度へ変更されることにより、素子電圧の変化率を所望する値に制御しつつサージ電圧を抑制することが可能となる。上記構成では、駆動対象素子のターンオフ中、ゲート駆動速度が第1駆動速度とされているときには素子電圧の変化率が目標変化率に制御される。そのため、タイミング生成回路は、目標変化率および遅延時間に基づいて、素子電圧が切替閾値電圧に到達する切替タイミングを精度良く予測して求めることが可能となる。
【0010】
そのため、上記構成によれば、素子電圧が所望する切替電圧に到達するタイミングまたはそれに近いタイミングで実際のゲート駆動速度が第1駆動速度から第2駆動速度へと変更される。このように、上記構成によれば、所望するタイミングで実際のゲート駆動速度が切り替えられることになるため、素子電圧の変化率を所望する値に制御しつつサージ電圧を抑制すること、つまり半導体スイッチング素子の保護と半導体スイッチング素子における損失の低減との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るゲート駆動装置およびハーフブリッジ回路の概略構成を模式的に示す図
【
図2】第1実施形態に係る半導体スイッチング素子のターンオフ時におけるゲート駆動装置の各部の動作波形を模式的に示すタイミングチャート
【
図3】第1実施形態に係るゲート駆動装置が有する主な機能を模式的に示す図
【
図4】第1実施形態に係るゲート駆動装置の具体的な構成の一例を示す図
【
図5】第1実施形態に係るゲート駆動装置の動作の流れを模式的に示す図
【
図6】第2実施形態に係るゲート駆動装置が有する主な機能を模式的に示す図
【
図7】第2実施形態に係るゲート駆動装置の具体的な構成の一例を示す図
【
図8】第2実施形態に係る半導体スイッチング素子のターンオン時の各部の波形を模式的に示すタイミングチャート
【
図9】第1実施形態および第2実施形態に係るゲート駆動回路の具体的な第1構成例を示す図
【
図10】第1実施形態および第2実施形態に係るゲート駆動回路の具体的な第2構成例を示す図
【
図11】第3実施形態に係るゲート駆動装置が有する主な機能を模式的に示す図
【
図12】第3実施形態に係るゲート駆動装置の具体的な構成の一例を示す図
【
図13】第3実施形態に係るゲート駆動装置の動作の流れを模式的に示す図
【
図14】第4実施形態に係るゲート駆動装置の具体的な構成の一例を示す図
【
図15】第4実施形態に係るタイミング補正回路による調整動作の具体的な一例を示す図
【
図16】第4実施形態に係るドレイン・ソース間電圧の狙いの波形および実際の波形の一例を模式的に示す図
【
図17】第5実施形態に係る半導体スイッチング素子のターンオフ時におけるゲート駆動装置の各部の動作波形を模式的に示すタイミングチャート
【
図18】第6実施形態に係る半導体スイッチング素子のターンオフ時におけるゲート駆動装置の各部の動作波形を模式的に示すタイミングチャート
【
図19】第7実施形態に係るゲート駆動装置の具体的な構成の一例を示す図
【
図20】第8実施形態に係るゲート駆動装置の具体的な構成の一例を示す図
【
図22】ゲート駆動回路の第2変形例を示す図その1
【
図23】ゲート駆動回路の第2変形例を示す図その2
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について
図1~
図5を参照して説明する。
【0013】
<ゲート駆動装置の概略構成>
図1に示すように、本実施形態のゲート駆動装置1Aは、一対の直流電源線2、3の間に接続されたハーフブリッジ回路4の上アームを構成する半導体スイッチング素子5Aを駆動する。また、本実施形態のゲート駆動装置1Bは、ハーフブリッジ回路4の下アームを構成する半導体スイッチング素子5Bを駆動する。この場合、ゲート駆動装置1A、1Bは同様の構成であり、半導体スイッチング素子5A、5Bは同様の構成である。そのため、本明細書では、ゲート駆動装置1A、1Bおよび半導体スイッチング素子5A、5Bのそれぞれについて区別する必要がない場合には、末尾のアルファベットを省略して総称することとする。
【0014】
ハーフブリッジ回路4は、図示しないモータを駆動するインバータに含まれるものである。ハーフブリッジ回路4には、例えば電池などの図示しない直流電源から直流電源線2、3を介して電源電圧Vaが供給されている。半導体スイッチング素子5は、パワー素子であり、この場合、Nチャネル型のMOSFETと、そのMOSFETのドレイン・ソース間にソース側をアノードとして接続された、つまりMOSFETに対して逆並列に接続された還流用のダイオードと、を含む構成となっている。なお、この場合、MOSFETとは別の素子として還流用のダイオードが設けられているが、MOSFETのボディダイオードを還流用のダイオードとして利用してもよい。
【0015】
半導体スイッチング素子5Aのドレインは、高電位側の直流電源線2に接続されている。半導体スイッチング素子5Aのソースは、半導体スイッチング素子5Bのドレインに接続されている。半導体スイッチング素子5Bのソースは、低電位側の直流電源線3に接続されている。半導体スイッチング素子5Aおよび半導体スイッチング素子5Bの相互接続ノードであるノードN1は、上記した図示しないモータに接続されている。これにより、ハーフブリッジ回路4の出力電流である負荷電流ILがモータに供給される。コントローラ6は、例えばマイクロコンピュータなどを含む構成であり、インバータを構成するハーフブリッジ回路4の動作を制御することによりモータの駆動を制御する。
【0016】
コントローラ6には、図示しない電流検出部から出力される負荷電流ILの検出値を表す検出信号Scが与えられている。コントローラ6は、検出信号Scに基づいて負荷電流ILが所望の目標電流に一致するように、ゲート駆動装置1Aの動作を指令する指令信号Saおよびゲート駆動装置1Bの動作を指令する指令信号Sbを生成して出力する。ゲート駆動装置1Aは、コントローラ6から与えられる指令信号Saに基づいて半導体スイッチング素子5Aの駆動をPWM制御する。なお、PWMは、Pulse Width Modulationの略称である。また、ゲート駆動装置1Bは、コントローラ6から与えられる指令信号Sbに基づいて半導体スイッチング素子5Bの駆動をPWM制御する。
【0017】
この場合、半導体スイッチング素子5Aおよび半導体スイッチング素子5Bは、相補的にオンオフされる。したがって、半導体スイッチング素子5Aがオンされる期間には半導体スイッチング素子5Bはオフされており、また、半導体スイッチング素子5Bがオンされる期間には半導体スイッチング素子5Aはオフされている。上記構成では、負荷電流ILがノードN1からモータへと流れる期間、半導体スイッチング素子5Aがドレインからソースに向けて順方向に電流を流すように駆動されるとともに、半導体スイッチング素子5Bがソースからドレインに向けて逆方向に電流を流すように駆動される。また、上記構成では、負荷電流ILがモータからノードN1へと流れる期間、半導体スイッチング素子5Bがドレインからソースに向けて順方向に電流を流すように駆動されるとともに、半導体スイッチング素子5Aがソースからドレインに向けて逆方向に電流を流すように駆動される。
【0018】
上記構成において、半導体スイッチング素子5のドレイン・ソース間電圧Vdsは、半導体スイッチング素子5の主端子の電圧であり、素子電圧に相当する。また、上記構成において、ドレイン電流Idは、半導体スイッチング素子5の主端子間に流れる電流であり、素子電流に相当する。なお、本明細書では、ドレイン電流Id、ドレイン・ソース間電圧Vdsおよび半導体スイッチング素子5のゲート・ソース間電圧Vgsのことを、それぞれ単に電流Id、電圧Vdsおよび電圧Vgsと称することがある。
【0019】
半導体スイッチング素子5のターンオフ時の各部の波形は、
図2に示すような波形となる。なお、
図2では、半導体スイッチング素子5Bに対応した各部の波形を例示しているが、半導体スイッチング素子5Aについても同様の波形となる。半導体スイッチング素子5Bがオフのときのオフ電圧Vds_offは、電源電圧Vaに概ね等しい電圧となる。この場合、ターンオフ時における電圧Vdsのピーク値Vds_pであるピーク電圧とオフ電圧Vds_offとの差電圧が、半導体スイッチング素子5Bに重畳するサージ電圧に相当する。この場合、電圧Vdsの変動の傾きは、素子電圧が変化する変化期間における素子電圧の変化率に相当する。なお、本明細書では、電圧Vdsの変動の傾きのことを変化率dV/dtと称することがある。
【0020】
<ゲート駆動装置が有する主な機能>
続いて、ゲート駆動装置1が有する主な機能について
図3を参照して説明する。
図3などでは、ゲート駆動装置1が有する主な機能を機能ブロックの形で表している。各機能の具体的な実現方法については後述する。以下の説明では、2つの半導体スイッチング素子5のうち、自装置の駆動対象となるものを自アームの半導体スイッチング素子5と称するとともに、自装置とは別のゲート駆動装置1の駆動対象となるものを対向アームの半導体スイッチング素子5と称することとする。
【0021】
自アームの半導体スイッチング素子5は、特許請求の範囲における2つの半導体スイッチング素子のうち一方である駆動対象素子に対応し、対向アームの半導体スイッチング素子5は、特許請求の範囲における2つの半導体スイッチング素子のうち他方である非駆動対象素子に対応する。なお、単に、半導体スイッチング素子5と称する場合、自アームの半導体スイッチング素子5のことを表すものとする。
【0022】
ゲート駆動回路11は、ハーフブリッジ回路4の上下アームを構成する2つの半導体スイッチング素子5A、5Bのうち一方である駆動対象素子、つまり自アームの半導体スイッチング素子5のゲートを駆動する。検出回路12は、自アームの半導体スイッチング素子5、つまり当該ゲート駆動装置1の駆動対象となる半導体スイッチング素子5に関連する物理量を取得し、その物理量に基づいて、自アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsを検出する。上記物理量としては、例えば電圧Vds、電圧Vgs、電流Id、ジャンクション温度Tjなどが挙げられる。なお、検出回路12は、上記物理量として、電圧Vgs、電流Idおよびジャンクション温度Tjのうち少なくとも1つを取得する場合、その物理量に基づいて電圧Vdsを推定することになる。
【0023】
変化率制御回路13は、電圧Vdsが変化する変化期間における変化率dV/dtを、その変化率dV/dtの目標値である目標変化率dV/dt*に制御する。なお、本明細書では、変化率dV/dtを傾きdV/dtと称することがあるとともに、目標変化率dV/dt*のことを目標値dV/dt*と称することがある。具体的には、変化率制御回路13は、検出回路12による検出値および目標値dV/dt*に基づいて、変化期間における電圧Vdsの変化率dV/dtを目標値dV/dt*に制御するための第1駆動速度を演算する。第1駆動速度は、変化期間における変化率dV/dtを目標値dV/dt*に制御するための自アームの半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度である。
【0024】
タイミング生成回路14は、自アームの半導体スイッチング素子5のゲートを駆動する際に各回路において生じる遅延時間tdを予め取得する。タイミング生成回路14は、目標変化率dV/dt*および遅延時間tdに基づいて切替タイミングを求め、その切替タイミングを表すタイミング信号を生成する。切替タイミングは、自アームの半導体スイッチング素子5のターンオフ中に電圧Vdsが所望する切替電圧Vt*よりも所定値だけ低い切替閾値電圧Vtに到達するタイミングである。
【0025】
切替電圧Vt*は、自アームの半導体スイッチング素子5の主端子に印加されるサージ電圧の電圧値が、所定の許容値以下となるような電圧に設定されている。なお、上記許容値は、半導体スイッチング素子5の仕様に応じて定められるものであり、具体的には次のような値となる。すなわち、許容値は、半導体スイッチング素子5の耐圧より所定のマージン分だけ低い値であり、その値の電圧が主端子に印加されても半導体スイッチング素子5が故障する可能性はないものの、その値を上記マージン以上に超える電圧が主端子に印加されると半導体スイッチング素子5が故障する可能性があるような値に設定される。
【0026】
タイミング生成回路14は、下記(1)式を満たす切替閾値電圧Vtに到達するタイミングを切替タイミングとして求めるようになっている。
Vt=Vt*-dV/dt*×td …(1)
【0027】
速度変更回路15は、自アームの半導体スイッチング素子5のターンオフ中、タイミング生成回路14により生成されるタイミング信号が表す切替タイミングにて、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度から第1駆動速度とは異なる第2駆動速度へと変更する。第2駆動速度は、自アームの半導体スイッチング素子5の主端子に印加されるサージ電圧の電圧値が上記した許容値以下となるような速度に設定されている。なお、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度と、そのゲートに流れる電流であるゲート電流と、には相関関係がある。そこで、この場合、変化率制御回路13は、第1駆動速度に対応するゲート電流Ig_offの電流値である第1電流値Ig1を演算するようになっている。
【0028】
上記したゲート電流Ig_offは、半導体スイッチング素子5のゲートをターンオフさせるゲート電流である。また、この場合、速度変更回路15は、半導体スイッチング素子5のターンオフ中の切替タイミングにて、ゲート電流Ig_offを第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1から第2駆動速度に対応する第2電流値Ig2に切り替えることにより、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度から第2駆動速度へと変更するようになっている。
【0029】
この場合、変化率制御回路13は、変化率dV/dtと目標値dV/dt*との差分が予め定められた誤差許容値未満に安定したことを検知すると変更許可信号を出力するようになっている。そして、速度変更回路15は、変化率制御回路13から変更許可信号が出力されている期間にだけゲート電流Ig_offの切り替え、つまりゲート駆動速度の変更を行うようになっている。
【0030】
<ゲート駆動装置の具体的構成>
上記したような各機能を有するゲート駆動装置1の具体的な構成としては、例えば
図4に示すような構成例を採用することができる。この場合、ゲート駆動装置1が例えば自動車などの車両に搭載される車載用途を想定しており、半導体スイッチング素子5に印加される電源電圧Vaは、例えば数百Vといった比較的高い電圧となっている。そのため、この場合、コントローラ6とゲート駆動装置1A、1Bとの間は、それぞれ磁気カプラなどからなる絶縁部21、22を介して絶縁されている。
【0031】
つまり、この場合、コントローラ6から出力される指令信号Sa、Sbは、絶縁部21、22を介してゲート駆動装置1A、1Bに与えられている。なお、
図4では、ゲート駆動装置1Bを例にしてゲート駆動装置1の具体的な構成を示しているが、ゲート駆動装置1Aについても同様の構成を採用することができる。
図6に示すゲート駆動装置1は、ゲート駆動回路11、検出回路12、変化率制御回路13、タイミング生成回路14、速度変更回路15、メモリ23などを備えている。
【0032】
メモリ23には、目標変化率dV/dt*、第2電流値Ig2、切替電圧Vt*、遅延時間tdなどが予め記憶されている。これらメモリ23に記憶されている各値は、例えば各種のシミュレーションを行うことなどにより予め取得することができる。メモリ23は、目標変化率dV/dt*を表す信号、第2電流値Ig2を表す信号、切替電圧Vt*を表す信号および遅延時間tdを表す信号を出力する。なお、
図4などでは、各信号について、各信号が表す値などと同じ符号を付して示している。
【0033】
検出回路12には、ノードN1の電圧、つまり半導体スイッチング素子5Bのドレイン電圧が入力されている。検出回路12は、半導体スイッチング素子5Bのソースの電位を基準とした場合における半導体スイッチング素子5Bのドレイン電圧、つまり電圧Vdsを入力し、その電圧Vdsの波形をモニタする回路として構成されている。検出回路12は、電圧Vds波形をモニタすることにより、電圧Vdsの変化率dV/dtおよび電圧Vdsの電圧値を検出する。検出回路12は、変化率dV/dtの検出値を表す信号および電圧Vdsの電圧値に対応した電圧を出力する。なお、
図4などでは、このような電圧Vdsの電圧値に対応した電圧について、電圧Vdsと称することとする。
【0034】
変化率制御回路13には、信号dV/dtおよび信号dV/dt*が入力されている。変化率制御回路13は、それら入力信号に基づいて、ターンオフ時の電圧Vdsの変化率dV/dtが目標値dV/dt*と等しくなるような第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算する。変化率制御回路13は、第1電流値Ig1を表す信号を出力する。タイミング生成回路14は、切替閾値生成回路24およびコンパレータ25を備えている。切替閾値生成回路24には、信号dV/dt*、信号Vt*および信号tdが入力されている。
【0035】
切替閾値生成回路24は、それら入力信号に基づいて、ゲート電流Ig_offの切り替え中における電圧Vdsの変動量ΔVを推定する。
図2に示すように、変動量ΔVは、具体的には、検出回路12により電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに到達したことが検知された時点t2から、実際にゲート電流Ig_offが切り替えられる時点t4までの遅延時間td中に、電圧Vdsが変化した量に相当するものであり、下記(2)式により表される。
ΔV=dV/dt×td …(2)
【0036】
切替閾値生成回路24は、所望する切替電圧Vt*よりも推定した変動量ΔVだけ低い電圧を切替閾値電圧Vtとして生成して出力する。切替閾値電圧Vtは、下記(3)式により表される。
Vt=Vt*-ΔV …(3)
【0037】
コンパレータ25の非反転入力端子には電圧Vdsが入力され、その反転入力端子には切替閾値生成回路24から出力される切替閾値電圧Vtが入力されている。これにより、コンパレータ25から出力される信号Sdは、電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに到達すると反転する2値の信号となり、前述したタイミング信号として機能する。
【0038】
速度変更回路15は、2つの入力端子に入力される信号のうちいずれか一方を選択して出力する切替スイッチにより構成されている。速度変更回路15の一方の入力端子には、変化率制御回路13から出力される信号Ig1が入力され、その他方の入力端子には、メモリ23から出力される信号Ig2が入力されている。速度変更回路15は、コンパレータ25から出力されるタイミング信号Sdのレベルに基づいて、信号Ig1および信号Ig2のうちいずれか一方を、その出力端子から出力する。
【0039】
具体的には、速度変更回路15は、タイミング信号Sdがロウレベルであるときには信号Ig1を出力するとともに、タイミング信号Sdがハイレベルであるときには信号Ig2を出力する。速度変更回路15から出力される信号は、半導体スイッチング素子5のゲートをターンオフさせるゲート電流Ig_offの電流値を指令する電流指令値Ig_off*を表す信号として機能する。
【0040】
ゲート駆動回路11は、半導体スイッチング素子5のゲートを定電流駆動する構成となっている。すなわち、ゲート駆動回路11は、電流源26、27、スイッチ28、29およびゲート駆動ロジック30を備えている。電流源26の上流側端子は、電源電圧Vbが供給される電源線31に接続され、その下流側端子は、スイッチ28を介して半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。電源電圧Vbは、半導体スイッチング素子5のソースに接続される電源線32の電位を基準とした電圧であり、半導体スイッチング素子5のゲート閾値電圧よりも十分に高い電圧となっている。
【0041】
電流源26は、ターンオン時に半導体スイッチング素子5のゲートに供給するための一定の電流、つまり半導体スイッチング素子5のゲートをターンオンさせるゲート電流Ig_onを生成する定電流回路である。なお、ゲート駆動回路11におけるターンオン側の構成として、電流源26に代えて一定の抵抗値を有する抵抗を設けてもよい。つまり、ゲート駆動回路11は、ターンオン側については、定電流駆動する構成でなくともよい。スイッチ28は、例えばPチャネル型MOSトランジスタなどの半導体スイッチング素子を含む構成であり、電流源26と半導体スイッチング素子5のゲートとの間を開閉する。
【0042】
電流源27の下流側端子は、電源線32に接続され、その上流側端子は、スイッチ29を介して半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。電流源27は、ターンオフ時に半導体スイッチング素子5のゲートから引き抜くための一定の電流、つまり半導体スイッチング素子5のゲートをターンオフさせるためのゲート電流Ig_offを生成する定電流回路である。この場合、電流源27は、速度変更回路15から出力される信号Ig_off*に基づいて、その電流値を変更することができる構成となっている。スイッチ29は、例えばNチャネル型MOSトランジスタなどの半導体スイッチング素子を含む構成であり、半導体スイッチング素子5のゲートと電流源27との間を開閉する。
【0043】
ゲート駆動ロジック30は、指令信号Sbに基づいてスイッチ28、29を相補的にオンオフする。ただし、この場合、スイッチ28、29の双方がオフする期間、いわゆるデッドタイムが設けられる。上記構成によれば、スイッチ28がオンされることにより半導体スイッチング素子5がターンオンされるとともに、スイッチ29がオンされることにより半導体スイッチング素子5がターンオフされる。また、上記構成では、信号Ig_off*に応じて電流源27の電流値、つまり半導体スイッチング素子5のターンオフ時におけるゲート電流Ig_offが第1電流値Ig1から第2電流値Ig2に変更されることにより、ターンオフの途中において電圧Vdsが所望の値に到達したタイミングでゲート駆動速度が変更される。
【0044】
<各機能による処理の概要>
続いて、上記構成のゲート駆動装置1による動作の流れについて
図5を参照して説明する。ゲート駆動装置1では、
図5のフローチャートに示すような内容の処理が、自アームの半導体スイッチング素子5のスイッチング毎に繰り返し実行される。本処理において、ゲート駆動装置1は、後述する第1状態および第2状態のうちいずれかに移行する。なお、ゲート駆動装置1は、本処理の開始時点では、初回のスイッチング時には第1状態に移行しており、2回目以降のスイッチング時には前回の処理において移行した状態が引き継がれるようになっている。
【0045】
図5に示すように、処理開始後、最初に実行されるステップS101では、ゲート駆動装置1の状態が判断される。ゲート駆動装置1の状態が第1状態である場合にはステップS102に進み、ゲート駆動装置1の状態が第2状態である場合にはステップS103に進む。ステップS102では、ゲート電流Ig_offを第1電流値Ig1に固定してスイッチングが行われる。一方、ステップS103では、スイッチング中にゲート電流Ig_offを第1電流値Ig1から第2電流値Ig2へと切り替えてスイッチングが行われる。ステップS102またはS103の実行後、ステップS104に進む。
【0046】
ステップS104では、変化率dV/dtと目標値dV/dt*との差分が誤差許容値e*未満に安定したか否かが判断される。具体的には、上記差分が下記(4)式を満たすか否かが判断される。
-e*<dV/dt*-dV/dt<e* …(4)
【0047】
上記差分が(4)式を満たす場合、つまり上記差分が誤差許容値e*未満に安定した場合、ステップS104で「YES」となり、ステップS105に進む。ステップS105では、ゲート駆動装置1の状態が第2状態に移行する。一方、上記差分が(4)式を満たさない場合、つまり上記差分が誤差許容値e*以上である場合、ステップS104で「NO」となり、ステップS106に進む。ステップS106では、ゲート駆動装置1の状態が第1状態に移行する。ステップS105またはS106の実行後、本処理が終了となる。
【0048】
このように、ゲート駆動装置1は、装置の起動時にはゲート電流Ig_offの切り替えを停止し、ゲート電流Ig_offを変化率制御回路13により演算される第1電流値Ig1に固定した状態で半導体スイッチング素子5のゲートを駆動する。その後、ゲート駆動装置1は、変化率dV/dtと目標値dV/dt*との差分が誤差許容値e*未満に安定するとゲート電流Ig_offの切り替えを行うようにする。このようにゲート電流Ig_offの切り替えを行うようにした後、ゲート駆動装置1は、上記差分が誤差許容値e*以上になるとゲート電流Ig_offの切り替えを停止してゲート電流Ig_offを第1電流値Ig1に固定した状態で半導体スイッチング素子5のゲートを駆動する。その後、ゲート駆動装置1は、上記差分が誤差許容値e*未満に安定するとゲート電流Ig_offの切り替えを再開する。
【0049】
<ターンオフ時における各部の動作タイミング>
次に、半導体スイッチング素子5のターンオフ時におけるゲート駆動装置1の各部の動作タイミングについて
図2を参照して説明する。なお、
図2の電圧Vds、電流指令値Ig_off*、ゲート電流Ig_offおよび電圧Vgsは、いずれも自アームの半導体スイッチング素子5のものである。自アームの半導体スイッチング素子5のスイッチングが開始されるスイッチング開始時である時点t0以前、電流指令値Ig_off*は0Aを表す値となっており、これによりゲート電流Ig_offは0Aとなっている。
【0050】
時点t0において、電流指令値Ig_off*が第1電流値Ig1となる。これにより、時点t0から所定の遅延時間が経過した後、ゲート電流Ig_offが0Aから第1電流値Ig1に向けて上昇するとともに、電圧Vgsがターンオン時の電圧値からターンオフ時の電圧値に向けて低下する。その後、時点t1において、自アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsが上昇を開始する。このときの電圧Vdsの上昇の傾きdV/dtは、変化率制御回路13によって目標値dV/dt*に制御されている。
【0051】
そして、時点t2において、電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに達すると、検出回路12により電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに到達したことが検知され、ゲート電流Ig_offの切り替えが開始される。具体的には、時点t2から、検出回路12、変化率制御回路13、タイミング生成回路14および速度変更回路15の動作に伴い生じる所定の遅延時間が経過した後の時点t3において、電流指令値Ig_off*が第1電流値Ig1から第2電流値Ig2に切り替えられる。
【0052】
その後、時点t3から、ゲート駆動回路11の動作に伴い生じる所定の遅延時間が経過した後の時点t4において、実際のゲート電流Ig_offが第2電流値Ig2となり、ゲート電流Ig_offの切り替えが完了する。時点t4は、ゲート電流Ig_offの切り替えが行われる実際の切替タイミングに相当する。このような時点t4における電圧Vdsの電圧値は、所望する切替電圧Vt*に概ね等しい電圧値となっている。時点t4以降、電圧Vdsの傾きdV/dtは、時点t4以前に比べ、緩やかなものとなり、これにより、サージ電圧の電圧値が許容値以下に抑制される。
【0053】
以上説明した本実施形態のゲート駆動装置1によれば、自アームの半導体スイッチング素子5のターンオフ中に半導体スイッチング素子5のゲート電流Ig_offが第1電流値Ig1から第2電流値Ig2に切り替えられることにより、つまりゲート駆動速度が第1駆動速度から第2駆動速度へ変更されることにより、電圧Vdsの変化率dV/dtを所望する目標値dV/dt*に制御しつつサージ電圧を抑制することが可能となる。上記構成では、自アームの半導体スイッチング素子5のターンオフ中、ゲート駆動速度が第1駆動速度とされているときには電圧Vdsの変化率dV/dtが目標変化率dV/dt*に制御されている。そのため、タイミング生成回路14は、目標変化率dV/dt*および遅延時間tdを用いた上記(1)式に基づいて、電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに到達する切替タイミングを精度良く予測して求めることが可能となる。
【0054】
そのため、上記構成によれば、電圧Vdsが所望する切替電圧Vt*に到達するタイミングまたはそれに近いタイミングで実際のゲート電流Ig_offが切り替えられることにより実際のゲート駆動速度が第1駆動速度から第2駆動速度へと変更される。このように、本実施形態によれば、所望するタイミングで実際のゲート駆動速度が切り替えられることになるため、電圧Vdsの変化率dV/dtを所望する目標値dV/dt*に制御しつつサージ電圧を抑制すること、つまり半導体スイッチング素子5の保護と半導体スイッチング素子5における損失の低減との両立を図ることができる。
【0055】
タイミング生成回路14は、電圧Vdsの変化率dV/dtが目標変化率dV/dt*と概ね一致していると仮定したうえで切替タイミングを求めるようになっている。そのため、電圧Vdsの変化率dV/dtが目標変化率dV/dt*から大きく離れた値になっていると、タイミング生成回路14による変動量ΔVの推定精度が低下し、タイミング生成回路14により求められる切替タイミングが所望するタイミングから大きく離れたものとなるおそれがあり、その結果、所望する切替タイミングでゲート電流Ig_offの切り替えが行われなくなる可能性がある。
【0056】
また、切替タイミングが本来のタイミングから外れると、その後の変化率制御回路13の制御にも影響が及び、変化率dV/dtが目標変化率dV/dt*からさらに離れた値になるおそれがある。そこで、本実施形態では、変化率制御回路13は、電圧Vdsの変化率dV/dtおよび目標変化率dV/dt*の差分が予め定められた誤差許容値e*未満に安定したことを検知すると変更許可信号を出力するようになっており、速度変更回路15は、変化率制御回路13から変更許可信号が出力されている期間にだけゲート電流Ig_offの切り替え、ひいてはゲート駆動速度の変更を行うようになっている。
【0057】
このようにすれば、変化率dV/dtおよび目標変化率dV/dt*の差分が誤差許容値e*以上である場合、ゲート電流Ig_offの切り替えが行われることなく、ゲート電流Ig_offが第1電流値Ig1に固定される。従って、上記構成によれば、何らかの異常により変化率dV/dtと目標変化率dV/dt*との差分が一時的に大きくなった場合であっても、その影響により切替タイミングのずれと変化率dV/dtのずれとが互いに影響し合うことで回路動作が破綻するといった事態の発生を避けることができる。
【0058】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について
図6~
図8を参照して説明する。
<ゲート駆動装置が有する主な機能>
本実施形態のゲート駆動装置41が有する主な機能について
図6を参照して説明する。ゲート駆動回路42は、第1実施形態のゲート駆動回路11と概ね同様の機能を有する。ただし、ゲート駆動回路42は、ハーフブリッジ回路4の上下アームを構成する2つの半導体スイッチング素子5A、5Bのうち一方である駆動対象素子、つまり自アームの半導体スイッチング素子5のゲートを駆動する。
【0059】
検出回路43は、第1実施形態の検出回路12と概ね同様の機能を有する。ただし、検出回路43は、対向アームの半導体スイッチング素子5に関連する物理量を取得し、その物理量に基づいて、対向アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsを検出する。この場合、変化率制御回路13は、検出回路43による検出値および目標値dV/dt*に基づいて、変化期間における電圧Vdsの変化率dV/dtを目標値dV/dt*に制御するための第1駆動速度を演算する。
【0060】
タイミング生成回路44は、第1実施形態のタイミング生成回路14と概ね同様の機能を有する。ただし、タイミング生成回路44が求める切替タイミングは、自アームの半導体スイッチング素子5のターンオン中に電圧Vdsが所望する切替電圧Vt*よりも所定値だけ低い切替閾値電圧Vtに到達するタイミングである。速度変更回路45は、第1実施形態の速度変更回路15と概ね同様の機能を有する。ただし、速度変更回路45は、自アームの半導体スイッチング素子5のターンオン中、タイミング生成回路44により生成されるタイミング信号が表す切替タイミングにて、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度から第1駆動速度とは異なる第2駆動速度へと変更する。
【0061】
この場合、変化率制御回路13は、第1駆動速度に対応するゲート電流Ig_onの電流値である第1電流値Ig1を演算するようになっている。また、この場合、速度変更回路45は、半導体スイッチング素子5のターンオン中の切替タイミングにて、ゲート電流Ig_onを第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1から第2駆動速度に対応する第2電流値Ig2に切り替えることにより、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度から第2駆動速度へと変更するようになっている。また、この場合、速度変更回路45は、変化率制御回路13から変更許可信号が出力されている期間にだけゲート電流Ig_onの切り替え、つまりゲート駆動速度の変更を行うようになっている。
【0062】
<ゲート駆動装置の具体的構成>
上記したような各機能を有するゲート駆動装置41の具体的な構成としては、例えば
図7に示すような構成例を採用することができる。コントローラ6とゲート駆動装置41A、41Bとの間は、第1実施形態と同様、それぞれ磁気カプラなどからなる絶縁部21、22を介して絶縁されている。なお、
図7では、ゲート駆動装置41Bを例にしてゲート駆動装置41の具体的な構成を示しているが、ゲート駆動装置1Aについても同様の構成を採用することができる。
【0063】
図7に示すゲート駆動装置41は、ゲート駆動回路42、検出回路43、変化率制御回路13、タイミング生成回路44、速度変更回路45、メモリ23などを備えている。検出回路43は、第1実施形態の検出回路12と同様、半導体スイッチング素子5の電圧Vdsの波形をモニタする回路として構成されている。この場合、対向アーム側のゲート駆動装置41に設けられた検出回路43から出力される信号が、例えば磁気カプラなどからなる絶縁部46を介して自アーム側のゲート駆動装置41に与えられている。
【0064】
なお、半導体スイッチング素子5に印加される電源電圧Vaが例えば12Vといった比較的低い電圧である低電圧システムへの適用が想定される場合、ゲート駆動装置41が高耐圧プロセスを用いた回路として構成される場合などには、絶縁部46を省くことができる。また、ゲート駆動装置41A、41B間で、それぞれの検出回路43から出力される信号を直接通信する構成に限らずともよく、コントローラ6を介して伝達する構成とすることも可能である。
【0065】
この場合、変化率制御回路13には、対向アーム側の検出回路43から出力される信号dV/dtおよび自アーム側のメモリ23から出力される信号dV/dt*が入力されている。変化率制御回路13は、それら入力信号に基づいて、ターンオン時の電圧Vdsの変化率dV/dtが目標値dV/dt*と等しくなるような第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算する。
【0066】
タイミング生成回路44は、第1実施形態のタイミング生成回路14と同様、切替閾値生成回路24およびコンパレータ25を備えている。この場合、切替閾値生成回路24は、各入力信号に基づいて、ゲート電流Ig_onの切り替え中における電圧Vdsの変動量ΔVを推定する。
図8に示すように、変動量ΔVは、具体的には、検出回路43により電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに到達したことが検知された時点t2から、実際にゲート電流Ig_onが切り替えられる時点t4までの遅延時間td中に、電圧Vdsが変化した量に相当するものであり、前述した(2)式により表される。
【0067】
コンパレータ25の非反転入力端子には対向アーム側の検出回路43から出力される電圧Vdsが入力され、その反転入力端子には自アーム側の切替閾値生成回路24から出力される切替閾値電圧Vtが入力されている。速度変更回路45は、第1実施形態の速度変更回路15と同様の切替スイッチにより構成されている。この場合、速度変更回路45から出力される信号は、半導体スイッチング素子5のゲートをターンオンさせるゲート電流Ig_onの電流値を指令する電流指令値Ig_on*を表す信号として機能する。
【0068】
ゲート駆動回路42は、第1実施形態のゲート駆動回路11と同様、半導体スイッチング素子5のゲートを定電流駆動する構成であり、電流源26、27、スイッチ28、29およびゲート駆動ロジック30を備えている。ただし、この場合、電流源26は、速度変更回路45から出力される信号Ig_on*に基づいて、その電流値を変更することができる構成となっている。なお、ゲート駆動回路42におけるターンオフ側の構成として、電流源27に代えて一定の抵抗値を有する抵抗を設けてもよい。つまり、ゲート駆動回路42は、ターンオフ側については、定電流駆動する構成でなくともよい。
【0069】
上記構成では、信号Ig_on*に応じて電流源26の電流値、つまり半導体スイッチング素子5のターンオン時におけるゲート電流Ig_onが第1電流値Ig1から第2電流値Ig2に変更されることにより、ターンオンの途中において電圧Vdsが所望の値に到達したタイミングでゲート駆動速度が変更される。
【0070】
<ターンオン時における各部の動作タイミング>
次に、半導体スイッチング素子5のターンオン時におけるゲート駆動装置41の各部の動作タイミングについて
図8を参照して説明する。なお、
図8の電圧Vdsは、対向アームの半導体スイッチング素子5のものであり、電流指令値Ig_on*、ゲート電流Ig_onおよび電圧Vgsは、いずれも自アームの半導体スイッチング素子5のものである。自アームの半導体スイッチング素子5のスイッチングが開始されるスイッチング開始時である時点t0以前、電流指令値Ig_on*は0Aを表す値となっており、これによりゲート電流Ig_onは0Aとなっている。
【0071】
時点t0において、電流指令値Ig_on*が第1電流値Ig1となる。これにより、時点t0から所定の遅延時間が経過した後、ゲート電流Ig_onが0Aから第1電流値Ig1に向けて上昇するとともに、電圧Vgsがターンオフ時の電圧値からターンオン時の電圧値に向けて上昇する。その後、時点t1において、対向アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsが上昇を開始する。このときの電圧Vdsの上昇の傾きdV/dtは、変化率制御回路13によって目標値dV/dt*に制御されている。
【0072】
そして、時点t2において、電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに達すると、対向アーム側の検出回路43により電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに到達したことが検知され、ゲート電流Ig_onの切り替えが開始される。具体的には、時点t2から、検出回路43、変化率制御回路13、タイミング生成回路44および速度変更回路45の動作に伴い生じる所定の遅延時間が経過した後の時点t3において、電流指令値Ig_on*が第1電流値Ig1から第2電流値Ig2に切り替えられる。
【0073】
その後、時点t3から、ゲート駆動回路42の動作に伴い生じる所定の遅延時間が経過した後の時点t4において、実際のゲート電流Ig_onが第2電流値Ig2となり、ゲート電流Ig_onの切り替えが完了する。時点t4は、ゲート電流Ig_onの切り替えが行われる実際の切替タイミングに相当する。このような時点t4における電圧Vdsの電圧値は、所望する切替電圧Vt*に概ね等しい電圧値となっている。時点t4以降、電圧Vdsの傾きdV/dtは、時点t4以前に比べ、緩やかなものとなり、これにより、サージ電圧の電圧値が許容値以下に抑制される。
【0074】
以上説明した本実施形態のゲート駆動装置41によれば、自アームの半導体スイッチング素子5のターンオン中に半導体スイッチング素子5のゲート電流Ig_onが第1電流値Ig1から第2電流値Ig2に切り替えられることにより、つまりゲート駆動速度が第1駆動速度から第2駆動速度へ変更されることにより、対向アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsの変化率dV/dtを所望する目標値dV/dt*に制御しつつ対向アームの半導体スイッチング素子5の主端子に印加されるサージ電圧を抑制することが可能となる。
【0075】
上記構成では、自アームの半導体スイッチング素子5のターンオン中、ゲート駆動速度が第1駆動速度とされているときには対向アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsの変化率dV/dtが目標変化率dV/dt*に制御されている。そのため、タイミング生成回路44は、目標変化率dV/dt*および遅延時間tdを用いた上記(1)式に基づいて、対向アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsが切替閾値電圧Vtに到達する切替タイミングを精度良く予測して求めることが可能となる。
【0076】
そのため、上記構成によれば、対向アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsが所望する切替電圧Vt*に到達するタイミングまたはそれに近いタイミングで実際のゲート電流Ig_onが切り替えられることにより実際のゲート駆動速度が第1駆動速度から第2駆動速度へと変更される。このように、本実施形態によれば、所望するタイミングで実際のゲート駆動速度が切り替えられることになるため、対向アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsの変化率dV/dtを所望する目標値dV/dt*に制御しつつサージ電圧を抑制すること、つまり半導体スイッチング素子5の保護と半導体スイッチング素子5における損失の低減との両立を図ることができる。
【0077】
<ゲート駆動回路の具体的構成>
次に、第1実施形態のゲート駆動回路11および第2実施形態のゲート駆動回路42の具体的な構成例について、
図9および
図10を参照して説明する。なお、各構成例では、ゲート電流Ig_onおよびゲート電流Ig_offの両方を変更可能な構成となっているが、第1実施形態のゲート駆動回路11として用いる場合にはゲート電流Ig_offだけを変更可能な構成とすればよいし、第2実施形態のゲート駆動回路42として用いる場合にはゲート電流Ig_onだけを変更可能な構成とすればよい。
【0078】
[1]第1構成例
図9に示すように、第1構成例のゲート駆動回路51は、複数のトランジスタが並列接続された構成の出力段を備えている。なお、ここでは、3つのトランジスタが並列接続された構成を例示しているが、並列接続するトランジスタの数は、3つに限らずともよく、2つでもよいし、4つ以上でもよい。具体的には、ゲート駆動回路51は、ターンオン側の出力段を構成する3つのトランジスタ52、3つのNAND回路53、選択部54、ターンオフ側の出力段を構成する3つのトランジスタ55、3つのAND回路56および選択部57を備えている。
【0079】
3つのトランジスタ52は、Pチャネル型MOSトランジスタであり、それらの各ソースは、共通接続されるとともに、電源線31に接続されている。3つのトランジスタ52の各ドレインは、共通接続されるとともに、半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。3つのトランジスタ52の各ゲートには、3つのNAND回路53の出力信号がそれぞれ入力されている。3つのNAND回路53の一方の入力端子には、選択部54の出力信号が入力されており、それらの他方の入力端子には、ON指令信号Seが入力されている。
【0080】
ON指令信号Seは、コントローラ6から与えられる指令信号Sa、Sbに基づいて生成される2値の信号であり、半導体スイッチング素子5のターンオンを指令する際、つまりゲートONを指令する際にハイレベルになる。選択部54は、信号Ig_on*に基づいて、3つのトランジスタ52のうちのいずれをオンさせるのかを選択し、選択したトランジスタ52をオンさせるための信号を出力する。このような構成によれば、ON指令信号Seがハイレベルである期間には信号Ig_on*に基づいて選択されるトランジスタ52をオンさせることができる。
【0081】
上記構成では、トランジスタ52がオンされたとき、そのオンされたトランジスタ52の飽和電流分のゲート電流Ig_onを流すことが可能となる。そのため、上記構成によれば、オンさせるトランジスタ52を調整することにより、ゲート電流Ig_onの電流値を自由に設定することができる。また、上記構成によれば、オンさせるトランジスタ52の数を調整することも可能であり、そのようにすることで、ゲート電流Ig_onの電流値をより細かく設定することができる。
【0082】
3つのトランジスタ55は、Nチャネル型MOSトランジスタであり、それらの各ソースは、共通接続されるとともに、電源線32に接続されている。3つのトランジスタ55の各ドレインは、共通接続されるとともに、半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。3つのトランジスタ55の各ゲートには、3つのAND回路56の出力信号がそれぞれ入力されている。3つのAND回路56の一方の入力端子には、選択部57の出力信号が入力されており、それらの他方の入力端子には、OFF指令信号Sfが入力されている。
【0083】
OFF指令信号Sfは、コントローラ6から与えられる指令信号Sa、Sbに基づいて生成される2値の信号であり、半導体スイッチング素子5のターンオフを指令する際、つまりゲートOFFを指令する際にハイレベルになる。選択部57は、信号Ig_off*に基づいて、3つのトランジスタ55のうちのいずれをオンさせるのかを選択し、選択したトランジスタ55をオンさせるための信号を出力する。このような構成によれば、OFF指令信号Sfがハイレベルである期間には信号Ig_off*に基づいて選択されるトランジスタ55をオンさせることができる。
【0084】
上記構成では、トランジスタ55がオンされたとき、そのオンされたトランジスタ55の飽和電流分のゲート電流Ig_offを流すことが可能となる。そのため、上記構成によれば、オンさせるトランジスタ55を調整することにより、ゲート電流Ig_offの電流値を自由に設定することができる。また、上記構成によれば、オンさせるトランジスタ55の数を調整することも可能であり、そのようにすることで、ゲート電流Ig_offの電流値をより細かく設定することができる。
【0085】
上記構成のゲート駆動回路51を第1実施形態のゲート駆動回路11として用いる場合速度変更回路15は、オンにするトランジスタ52の数を調整することによりゲート駆動速度の変更を行うことになる。また、上記構成のゲート駆動回路51を第2実施形態のゲート駆動回路42として用いる場合、速度変更回路45は、オンにするトランジスタ55の数を調整することによりゲート駆動速度の変更を行うことになる。上記構成において、トランジスタ52、55は、電流源26およびスイッチ28として機能する。また、上記構成において、NAND回路53、選択部54、AND回路56および選択部57は、ゲート駆動ロジック30として機能する。
【0086】
[2]第2構成例
図10に示すように、第2構成例のゲート駆動回路61は、ターンオン側の出力段を構成するトランジスタ62、シャント抵抗Rs1、検出部63、OPアンプOP1、スイッチ64、ターンオフ側の出力段を構成するトランジスタ65、シャント抵抗Rs2、検出部66、OPアンプOP2およびスイッチ67を備えている。
【0087】
トランジスタ62は、Pチャネル型MOSトランジスタであり、そのソースは、シャント抵抗Rs1を介して電源線31に接続されている。トランジスタ62のドレインは、半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。検出部63は、シャント抵抗Rs1の上流側端子の電圧から下流側端子の電圧を減算して得られる電圧、つまりシャント抵抗Rs1の端子間電圧に対応した信号を出力する。検出部63から出力される信号は、トランジスタ62の主端子間に流れる電流、つまり半導体スイッチング素子5のゲート電流Ig_onに応じた信号となる。
【0088】
上記構成において、シャント抵抗Rs1および検出部63は、半導体スイッチング素子5のゲートに流れる電流であるゲート電流Ig_onを検出する電流検出部68として機能する。OPアンプOP1の非反転入力端子には、検出部63から出力される信号が入力され、その反転入力端子には、スイッチ64から出力される信号が入力されている。OPアンプOP1の出力信号は、トランジスタ62のゲートに入力されている。
【0089】
スイッチ64は、2つの入力端子に入力される信号のうちいずれか一方を選択して出力する。スイッチ64の一方の入力端子には、信号Ig_on*が入力され、その他方の入力端子には、グランド電位、つまり0Vの信号が入力されている。スイッチ64は、ON指令信号Seに基づいて、信号Ig_on*および0Vの信号のうちいずれか一方を、その出力端子から出力する。具体的には、スイッチ64は、ON指令信号Seがロウレベルであるときには0Vの信号を出力するとともに、ON指令信号Seがハイレベルであるときには信号Ig_on*を出力する。
【0090】
このような構成によれば、ON指令信号Seがハイレベルである期間、検出部63から出力される信号のレベルが信号Ig_on*のレベルと等しくなるようにトランジスタ62の駆動状態が制御される。つまり、上記構成によれば、ON指令信号Seがハイレベルである期間、電流検出部68による検出値がゲート電流Ig_onの指令値である電流指令値Ig_on*に等しくなるように出力段のトランジスタ62の駆動状態が制御される。このように、上記構成によれば、ゲート電流Ig_onの電流値を精度良く調整することができる。
【0091】
トランジスタ65は、Nチャネル型MOSトランジスタであり、そのソースは、シャント抵抗Rs2を介して電源線32に接続されている。トランジスタ65のドレインは、半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。検出部66は、シャント抵抗Rs2の上流側端子の電圧から下流側端子の電圧を減算して得られる電圧、つまりシャント抵抗Rs2の端子間電圧に対応した信号を出力する。検出部66から出力される信号は、トランジスタ65の主端子間に流れる電流、つまり半導体スイッチング素子5のゲート電流Ig_offに応じた信号となる。
【0092】
上記構成において、シャント抵抗Rs2および検出部66は、半導体スイッチング素子5のゲートに流れる電流であるゲート電流Ig_offを検出する電流検出部69として機能する。OPアンプOP2の反転入力端子には、検出部66から出力される信号が入力され、その非反転入力端子には、スイッチ67から出力される信号が入力されている。OPアンプOP2の出力信号は、トランジスタ65のゲートに入力されている。
【0093】
スイッチ67は、2つの入力端子に入力される信号のうちいずれか一方を選択して出力する。スイッチ67の一方の入力端子には、信号Ig_off*が入力され、その他方の入力端子には、グランド電位、つまり0Vの信号が入力されている。スイッチ67は、OFF指令信号Sfに基づいて、信号Ig_off*および0Vの信号のうちいずれか一方を、その出力端子から出力する。具体的には、スイッチ67は、OFF指令信号Sfがロウレベルであるときには0Vの信号を出力するとともに、OFF指令信号Sfがハイレベルであるときには信号Ig_off*を出力する。
【0094】
このような構成によれば、OFF指令信号Sfがハイレベルである期間、検出部66から出力される信号のレベルが信号Ig_off*のレベルと等しくなるようにトランジスタ65の駆動状態が制御される。つまり、上記構成によれば、OFF指令信号Sfがハイレベルである期間、電流検出部69による検出値がゲート電流Ig_offの指令値である電流指令値Ig_off*に等しくなるように出力段のトランジスタ65の駆動状態が制御される。このように、上記構成によれば、ゲート電流Ig_offの電流値を精度良く調整することができる。
【0095】
上記構成のゲート駆動回路61を第1実施形態のゲート駆動回路11として用いる場合速度変更回路15は、ゲート電流Ig_offの指令値である電流指令値Ig_off*を調整することによりゲート駆動速度の変更を行うことになる。また、上記構成のゲート駆動回路61を第2実施形態のゲート駆動回路42として用いる場合、速度変更回路45は、ゲート電流Ig_onの指令値である電流指令値Ig_on*を調整することによりゲート駆動速度の変更を行うことになる。上記構成において、トランジスタ62、65は、電流源26およびスイッチ28として機能する。また、上記構成において、検出部63、OPアンプOP1、スイッチ64、検出部66、OPアンプOP2およびスイッチ67は、ゲート駆動ロジック30として機能する。
【0096】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について
図11~
図13を参照して説明する。
<ゲート駆動装置が有する主な機能>
本実施形態のゲート駆動装置71が有する主な機能について
図11を参照して説明する。検出回路72は、第1実施形態の検出回路12と同様の機能に加え、前述した物理量に基づいて変化期間における半導体スイッチング素子5の電圧Vdsのピーク値Vds_pを検出する機能を備えている。
【0097】
変化率制御回路73は、第1実施形態の変化率制御回路13と概ね同様の機能を有する。ただし、変化率制御回路73は、検出回路72による検出値から得られる電圧Vdsの変化率dV/dtと目標変化率dV/dt*との差分をゼロにするような第1駆動速度を演算するようになっている。電圧取得回路74は、ハーフブリッジ回路4に供給される電源電圧Vaの値を取得する。温度取得回路75は、半導体スイッチング素子5の温度およびゲート駆動装置71の温度の一方または双方の値を取得する。
【0098】
タイミング生成回路76は、第1実施形態のタイミング生成回路14と概ね同様の機能を有する。ただし、この場合、タイミング生成回路76は、互いに異なる値の電源電圧Va毎の遅延時間tdを予め取得し、電圧取得回路74により取得された電源電圧Vaの値に応じた遅延時間tdに基づいて切替タイミングを求めるようになっている。また、この場合、タイミング生成回路76は、互いに異なる値の温度毎の遅延時間tdを予め取得し、温度取得回路75により取得された温度の値に応じた遅延時間tdに基づいて切替タイミングを求めるようになっている。
【0099】
ピーク値制御回路77は、検出回路72による検出値および変化期間における電圧Vdsのピーク値Vds_pの目標値である目標ピーク値Vds_p*に基づいて、変化期間における電圧Vdsのピーク値Vds_pを目標ピーク値Vds_p*に制御するための半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度である第2駆動速度を演算する。この場合、ピーク値制御回路77は、第2駆動速度に対応するゲート電流Ig_offの電流値である第2電流値Ig2を演算するようになっている。
【0100】
この場合、変化率制御回路73は、ゲート駆動装置71の動作開始直後および変更許可信号を出力する出力状態から変更許可信号の出力を停止する停止状態へと切り替わった直後には、目標変化率dV/dt*を本来の値よりも低い値に設定する。その後、変化率制御回路73は、変化期間における電圧Vdsのピーク値Vds_pが予め定められた許容値以下であることを条件として目標変化率dV/dtを本来の値に向けて高めてゆき、目標変化率dV/dtが本来の値になった状態で変化率dV/dtおよび目標変化率dV/dt*の差分が誤差許容値e未満に安定したことを検知すると変更許可信号を出力するようになっている。
【0101】
<ゲート駆動装置の具体的構成>
上記したような各機能を有するゲート駆動装置71の具体的な構成としては、例えば
図12に示すような構成例を採用することができる。
図12に示すゲート駆動装置71は、
図4に示した第1実施形態のゲート駆動装置1に対し、検出回路12、変化率制御回路13、タイミング生成回路14およびメモリ23に代えて検出回路72、変化率制御回路73、タイミング生成回路76およびメモリ81を備えている点、温度取得回路75およびピーク値制御回路77が追加されている点などが異なっている。なお、
図12では、ゲート駆動ロジック30の図示を省略している。
【0102】
メモリ81には、目標変化率dV/dt*、切替電圧Vt*、目標ピーク値Vds_p*などが予め記憶されている。遅延時間tdは、ゲート駆動装置71の温度、半導体スイッチング素子5の温度、電源電圧Vaなどに依存して変化する。そこで、メモリ81には、遅延時間tdとゲート駆動装置71の温度との関係、遅延時間tdと半導体スイッチング素子5の温度との関係、遅延時間tdと電源電圧Vaとの関係などを表すマップデータDaが記憶されている。これらメモリ81に記憶されている各値およびマップデータDaは、例えば各種のシミュレーションを行うことなどにより予め取得することができる。
【0103】
検出回路72は、自アームの半導体スイッチング素子5のドレインの電圧を2つの容量C1、C2で分圧する分圧回路82を備え、分圧回路82の出力電圧に基づいて電圧Vdsを検出する構成となっている。この場合、検出回路12は、dV/dtモニタ回路83、サージ電圧モニタ回路84および電源電圧モニタ回路85を備えている。dV/dtモニタ回路83は、分圧回路82の出力電圧に基づいて、電圧Vdsの変化率dV/dtを検出し、その検出値を表す信号を出力する。
【0104】
サージ電圧モニタ回路84は、分圧回路82の出力電圧に基づいて、電圧Vdsのピーク値Vds_pを検出し、その検出値を表す信号を出力する。電源電圧モニタ回路85は、分圧回路82の出力電圧に基づいて、半導体スイッチング素子5がオフのときのオフ電圧Vds_offを検出し、その検出値に基づいて電源電圧Vaの値を推定して取得する。電源電圧モニタ回路85は、電源電圧Vaの値に対応した信号を出力する。上記構成において、電源電圧モニタ回路85は、電圧取得回路74として機能する。
【0105】
変化率制御回路73は、減算器86および制御器87を備えている。減算器86には、信号dV/dtおよび信号dV/dt*が入力されている。減算器86は、目標変化率dV/dt*から変化率dV/dtを減算することにより、変化率の偏差を求め、その変化率の偏差を制御器87へと出力する。制御器87は、PID制御器であり、減算器86から出力される変化率の偏差に対するPID演算を実行して第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を求め、その第1電流値Ig1を表す信号を出力する。
【0106】
ピーク値制御回路77は、減算器88および制御器89を備えている。減算器88には、信号Vds_pおよび信号Vds_p*が入力されている。減算器88は、目標ピーク値Vds_p*からピーク値Vds_pを減算することにより、ピーク値の偏差を求め、そのピーク値の偏差を制御器89へと出力する。制御器89は、PID制御器であり、減算器88から出力されるピーク値の偏差に対するPID演算を実行して第2駆動速度に対応する第2電流値Ig2を求め、その第2電流値Ig2を表す信号を出力する。なお、制御器87、89としては、PI演算を行うもの、P演算を行うもの、他のフィードバック制御器など、さまざま形式の制御器を採用することができる。
【0107】
温度取得回路75は、温度センサなどにより検出される半導体スイッチング素子5の温度Taを取得し、その温度Taの値を表す信号を出力する。また、温度取得回路75は、温度センサなどにより検出されるゲート駆動装置71の温度Tbを取得し、その温度Tbの値を表す信号を出力する。タイミング生成回路76は、第1実施形態のタイミング生成回路14が備える構成に加え、セレクタ90を備えている。
【0108】
セレクタ90には、マップデータDa、信号Va、信号Taおよび信号Tbが入力されている。セレクタ90は、マップデータDaと信号Va、Ta、Tbとに基づいて、電源電圧Vaの値、温度Taの値、温度Tbの値に応じた最適な遅延時間Tdを決定し、その決定した遅延時間tdを表す信号を切替閾値生成回路24へと出力する。このような構成によれば、ゲート駆動装置71の各種の状態に合わせて最適な遅延時間tdを用いて切替閾値電圧Vtが生成される。
【0109】
<各機能による処理の概要>
続いて、上記構成のゲート駆動装置71による動作の流れについて
図13を参照して説明する。ゲート駆動装置71では、
図13のフローチャートに示すような内容の処理が、自アームの半導体スイッチング素子5のスイッチング毎に繰り返し実行される。本処理において、ゲート駆動装置71は、後述する第1状態、第2状態、第3状態および第4状態のうちいずれかに移行する。なお、ゲート駆動装置71は、本処理の開始時点では、初回のスイッチング時には第1状態に移行しており、2回目以降のスイッチング時には前回の処理において移行した状態が引き継がれるようになっている。
【0110】
図13に示すように、処理開始後、最初に実行されるステップS201では、ゲート駆動装置71の状態が判断される。ゲート駆動装置71の状態が第1状態である場合にはステップS202に進み、ゲート駆動装置71の状態が第2状態である場合にはステップS203に進み、ゲート駆動装置71の状態が第3状態である場合にはステップS204に進み、ゲート駆動装置71の状態が第4状態である場合にはステップS205に進む。ステップS202では、目標変化率dV/dt*を本来の値よりも低い値に設定する。ステップS202の実行後はステップS206に進む。
【0111】
ステップS206では、ゲート電流Ig_offを第1電流値Ig1に固定してスイッチングが行われる。ステップS206の実行後はステップS207に進む。ステップS207では、ピーク値Vds_pが目標ピーク値Vds_p*未満であるか否か、つまりサージ電圧が許容値未満であるか否かが判断される。ピーク値Vds_pが目標ピーク値Vds_p*未満である場合、ステップS207で「YES」となり、ステップS208に進む。ステップS208では、ゲート駆動装置71の状態が第2状態に移行する。一方、ピーク値Vds_pが目標ピーク値Vds_p*以上である場合、ステップS207で「NO」となり、ステップS209に進む。ステップS209では、ゲート駆動装置71の状態が第1状態に移行する。ステップS208またはS209の実行後、本処理が終了となる。
【0112】
ステップS203では、目標変化率dV/dt*を前回よりも高い値に設定する。なお、ここでの設定における目標変化率dV/dt*の上限値は、本来の値となる。ステップS203の実行後はステップS210に進む。ステップS210では、ゲート電流Ig_offを第1電流値Ig1に固定してスイッチングが行われる。ステップS204では、目標変化率dV/dt*を本来の値に設定する。ステップS204の実行後はステップS211に進む。ステップS211では、ゲート電流Ig_offを第1電流値Ig1に固定してスイッチングが行われる。
【0113】
ステップS205では、目標変化率dV/dt*を本来の値に設定する。ステップS205の実行後はステップS212に進む。ステップS212では、スイッチング中にゲート電流Ig_offを第1電流値Ig1から第2電流値Ig2へと切り替えてスイッチングが行われる。ステップS210、S211またはS212の実行後、ステップS213に進む。ステップS213では、ピーク値Vds_pが目標ピーク値Vds_p*未満であるか否かが判断される。
【0114】
ピーク値Vds_pが目標ピーク値Vds_p*以上である場合、ステップS213で「NO」となり、ステップS214に進む。ステップS214では、ゲート駆動装置71の状態が第1状態に移行する。一方、ピーク値Vds_pが目標ピーク値Vds_p*未満である場合、ステップS213で「YES」となり、ステップS215に進む。ステップS215では、目標変化率dV/dt*が本来の値であるか否かが判断される。目標変化率dV/dt*が本来の値ではない場合、ステップS215で「NO」となり、ステップS216に進む。ステップS216では、ゲート駆動装置71の状態が第2状態に移行する。
【0115】
一方、目標変化率dV/dt*が本来の値である場合、ステップS215で「YES」となり、ステップS217に進む。ステップS217では、変化率dV/dtと目標変化率dV/dt*との差分が誤差許容値e*未満に安定したか否かが判断される。具体的には、上記差分が前述した(4)式を満たすか否かが判断される。上記差分が(4)式を満たさない場合、つまり上記差分が誤差許容値e*以上である場合、ステップS217で「NO」となり、ステップS218に進む。
【0116】
ステップS218では、ゲート駆動装置71の状態が第3状態に移行する。一方、上記差分が(4)式を満たす場合、つまり上記差分が誤差許容値e*未満に安定した場合、ステップS217で「YES」となり、ステップS219に進む。ステップS219では、ゲート駆動装置71の状態が第4状態に移行する。ステップS214、S216、S218またはS219の実行後、本処理が終了となる。
【0117】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
実際の遅延時間tdは、半導体スイッチング素子5の温度Ta、ゲート駆動装置71の温度Tb、電源電圧Vaの温度などに依存して変化する可能性がある。実際の遅延時間tdが、切替閾値電圧Vtを演算する際に用いられる遅延時間tdと大きく離れた値になると、切替閾値電圧Vtの演算の精度が低下し、その結果、ゲート電流Ig_offの切り替えが所望する切替タイミングで行われなくなるおそれがある。
【0118】
そこで、本実施形態では、タイミング生成回路76は、互いに異なる値の電源電圧Va毎の遅延時間tdを予め取得し、電圧取得回路74により取得された電源電圧Vaの値に応じた遅延時間tdに基づいて切替タイミングを求めるようになっている。このようにすれば、遅延時間tdの電源電圧Va依存性によって切替タイミングが所望するタイミングから外れることが抑制され、その分だけ切替タイミングの高精度化が実現される。
【0119】
また、本実施形態では、タイミング生成回路76は、互いに異なる値のゲート駆動装置71の温度Ta毎の遅延時間tdを予め取得し、温度取得回路75により取得された温度Taの値に応じた遅延時間tdに基づいて切替タイミングを求めるようになっている。このようにすれば、遅延時間tdの温度Ta依存性によって切替タイミングが所望するタイミングから外れることが抑制され、その分だけ切替タイミングの高精度化が実現される。
【0120】
さらに、本実施形態では、タイミング生成回路76は、互いに異なる値の半導体スイッチング素子5の温度Tb毎の遅延時間tdを予め取得し、温度取得回路75により取得された温度Tbの値に応じた遅延時間tdに基づいて切替タイミングを求めるようになっている。このようにすれば、遅延時間tdの温度Tb依存性によって切替タイミングが所望するタイミングから外れることが抑制され、その分だけ切替タイミングの高精度化が実現される。
【0121】
上記構成において、検出回路72は、半導体スイッチング素子5の主端子の電圧を容量C1、C2で分圧する分圧回路82を備え、その分圧回路82の出力電圧に基づいて電圧Vdsを検出する構成となっている。このような構成によれば、電源電圧Vaが比較的高いシステムであっても適用することができる。
【0122】
本実施形態のゲート駆動装置71は、検出回路72による検出値および変化期間における電圧Vdsのピーク値Vds_pの目標値である目標ピーク値Vds_p*に基づいて変化期間におけるピーク値Vds_pを目標ピーク値Vds_p*に制御するための半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度である第2駆動速度、ひいては第2駆動速度に対応する第2電流値Ig2を演算するピーク値制御回路77を備えている。このような構成によれば、ゲート電流Ig_offが第2電流値Ig2に切り替えられてゲート駆動速度が第2駆動速度とされているときにサージ電圧が許容値未満となるように制御されるため、サージ電圧の抑制効果を一層高めることができる。
【0123】
上記構成において、変化率制御回路73は、ゲート駆動装置71の動作開始直後および変更許可信号を出力する出力状態から変更許可信号の出力を停止する停止状態へと切り替わった直後には、目標変化率dV/dt*を本来の値よりも低い値に設定し、その後は変化期間におけるピーク値Vds_pが予め定められた許容値以下であることを条件として目標変化率dV/dt*を本来の値に向けて高めてゆき、目標変化率dV/dt*が本来の値になった状態で変化率dV/dtおよび目標変化率dV/dt*の差分が誤差許容値e未満に安定したことを検知すると変更許可信号を出力するようになっている。このような構成によれば、例えば始動時など、ゲート電流Ig_offの切り替えが停止されて第1電流値Ig1固定となったときにサージ電圧が許容値を超えて上昇することが防止されるため、安全性を高めることができる。
【0124】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について
図14~
図16を参照して説明する。
図14に示すように、本実施形態のゲート駆動装置91は、
図4に示した第1実施形態のゲート駆動装置1に対し、タイミング生成回路14に代えてタイミング生成回路92を備えている点などが異なっている。タイミング生成回路92は、第1駆動速度、第2駆動速度および検出回路12による検出値に基づいて切替タイミングを調整するようになっている。
【0125】
このような機能を実現するため、タイミング生成回路92は、タイミング生成回路14が備える構成に加え、タイミング補正回路93および加算器94を備えている。タイミング補正回路93には、第1駆動速度に対応した第1電流値Ig1を表す信号、第2駆動速度に対応した第2電流値Ig2を表す信号、検出回路12による検出値を表す信号dV/dtおよび電圧Vdsが入力されている。タイミング補正回路93は、ゲート電流Ig_offの変更前後の電流値、つまり第1電流値Ig1および電流値Ig2と、電圧Vdsに基づいて推定することができる実際に発生したサージ電圧の値と、変化率dV/dtの値と、に基づいて、ゲート電流Ig_offの切替タイミングが所望するタイミング、つまり狙いのタイミングになっているかどうか、具体的には、切替タイミングが狙い通りであるか、狙いより早いか、狙いより遅いか、を判断する。
【0126】
この場合、変化率dV/dtの値としては、電圧Vdsが変動する変化期間における変化率dV/dtの平均値とすることができる。タイミング補正回路93は、このような判断の結果に基づいて、切替タイミングが狙いのタイミングになるように、切替閾値電圧Vtを調整するための調整電圧Vcを生成して出力する。加算器94は、切替閾値電圧Vtに対して調整電圧Vcを加算して得られる調整後の切替閾値電圧Vtaをコンパレータ25へと出力する。
【0127】
タイミング補正回路93は、例えば
図15に示すような表に基づいて、上述した動作を行うことができる。すなわち、タイミング補正回路93は、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より大きく、サージ電圧が狙い通りであり、変化率dV/dtが狙いより小さい場合、切替タイミングが狙いより早いと判断し、切替閾値電圧Vtを上げる調整を行う。この場合、電圧Vdsの波形は、
図16に示すような波形となる。なお、
図16では、狙いの電圧Vds波形を太い実線で表し、実際の電圧Vds波形を点線で表している。
図16に示すように、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より大きく、サージ電圧が狙い通りであり、変化率dV/dtが狙いより小さい場合、実際の切替タイミングである時刻taが、狙いの切替タイミングである時刻tbよりも早いタイミングとなっている。
【0128】
タイミング補正回路93は、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より大きく、サージ電圧が狙いより大きく、変化率dV/dtが狙い通りである場合、切替タイミングが狙いより遅いと判断し、切替閾値電圧Vtを下げる調整を行う。タイミング補正回路93は、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より大きく、サージ電圧が狙い通りであり、変化率dV/dtが狙い通りである場合、切替タイミングが狙い通りであると判断し、切替閾値電圧Vtの調整を行わない。
【0129】
タイミング補正回路93は、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より小さく、サージ電圧が狙い通りであり、変化率dV/dtが狙いより大きい場合、切替タイミングが狙いより早いと判断し、切替閾値電圧Vtを上げる調整を行う。タイミング補正回路93は、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より小さく、サージ電圧が狙いより小さく、変化率dV/dtが狙い通りである場合、切替タイミングが狙いより遅いと判断し、切替閾値電圧Vtを下げる調整を行う。タイミング補正回路93は、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より小さく、サージ電圧が狙い通りであり、変化率dV/dtが狙い通りである場合、切替タイミングが狙い通りであると判断し、切替閾値電圧Vtの調整を行わない。
【0130】
なお、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より小さくなることは、次のようなケースにおいてあり得る。すなわち、サージ電圧の許容値は、半導体スイッチング素子5の素子耐圧に応じたものとなる。一方、変化率dV/dtは、大きいほどスイッチングに伴うノイズが大きくなることから、システムのノイズに関する仕様に応じた値に制御されることになる。
【0131】
したがって、システムの仕様がノイズに厳しいものである場合、変化率dV/dtを小さく抑える必要があることから、第1電流値Ig1を小さく抑えざるを得なくなる。一方、半導体スイッチング素子5として素子耐圧が高い素子が用いられる場合、サージ電圧の許容値が比較的高くなることから、第2電流値Ig2を大きくすることが可能となる。このように、システムの仕様がノイズに厳しいものであり且つ半導体スイッチング素子5として素子耐圧が高い素子が用いられる場合、第1電流値Ig1が第2電流値Ig2より小さくなる可能性がある。
【0132】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
本実施形態では、タイミング生成回路92は、第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1と、第2駆動速度に対応する第2電流値Ig2と、検出回路12による検出値から得られるサージ電圧の値および変化率dV/dtの値と、に基づいて、切替タイミングを調整するようになっている。このような構成によれば、実際の切替タイミングが狙いの切替タイミングとなるように調整が行われるため、所望するタイミングにおけるゲート駆動速度の切り替えを一層高精度に実現することができる。
【0133】
(第5実施形態)
以下、第5実施形態について
図17を参照して説明する。
上記各実施形態では、ゲート電流Ig_offの切り替え、つまりゲート駆動速度の変更を1度だけ実施するようにしていたが、ゲート駆動速度の変更を2度以上の変更を実施することも可能である。本実施形態では、上記各実施形態における切替タイミングの前にも、ゲート電流Ig_offを切り替えてゲート駆動速度を変更するようになっている。
【0134】
すなわち、本実施形態では、速度変更回路15は、自アームの半導体スイッチング素子5のスイッチングが開始されるスイッチング開始時、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度および第2駆動速度よりも大である第3駆動速度に設定し、その後、予め設定された第1切替時間が経過すると半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度に切り替えるようになっている。この場合、速度変更回路15は、スイッチング開始時、ゲート電流Ig_offを第3駆動速度に対応する第3電流値Ig3に設定する。第3電流値Ig3は、第1電流値Ig1および第2電流値Ig2のいずれよりも大きい値に設定されている。
【0135】
次に、半導体スイッチング素子5のターンオフ時におけるゲート駆動装置1の各部の動作タイミングについて
図17を参照して説明する。なお、
図17の電圧Vds、電流指令値Ig_off*、ゲート電流Ig_off、電圧Vgsおよび電流Idは、いずれも自アームの半導体スイッチング素子5のものである。この場合、自アームの半導体スイッチング素子5のスイッチングが開始されるスイッチング開始時は、時点tcとなっている。時点tc以前、電流指令値Ig_off*は0Aを表す値となっており、これによりゲート電流Ig_offは0Aとなっている。
【0136】
時点tcにおいて、電流指令値Ig_off*が第3電流値Ig3となる。これにより、時点tcから所定の遅延時間が経過した後、ゲート電流Ig_offが0Aから第3電流値Ig3に向けて上昇するとともに、電圧Vgsがターンオン時の電圧値からターンオフ時の電圧値に向けて低下する。その後、時点tcから第1切替時間Tc1が経過した時点t0において、電流指令値Ig_off*が第1電流値Ig1となる。時点t0以降の動作は、
図2に示した第1実施形態の動作と同様のものとなる。なお、第1切替時間Tc1は、時点tcから時点t0の期間において自アームの半導体スイッチング素子5の電圧Vdsが確実に変動しないような時間に設定されている。
【0137】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
本実施形態では、速度変更回路15は、スイッチング開始時、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度および第2駆動速度よりも大である第3駆動速度に設定し、その後、予め設定された第1切替時間Tc1が経過するとゲート駆動速度を第1駆動速度に切り替えるようになっている。
【0138】
半導体スイッチング素子5では、そのゲート電流が流れ始めてから電圧Vdsが実際に変動を開始するまでに所定時間の時間を要する。この所定時間は、ゲート駆動速度、つまりゲート電流を大きくするほど短縮することが可能である。本実施形態によれば、スイッチング開始時点tcから時点t0の期間に、つまりスイッチング開始直後に、最も大きな第3電流値Ig3のゲート電流Ig_offが流れることになるため、上記した所定時間を短縮することができる。したがって、本実施形態によれば、スイッチング開始時点から実際に電圧Vdsが変動を開始するまでの時間が短縮される分だけ、デッドタイムを短縮することができるという効果が得られる。
【0139】
(第6実施形態)
以下、第6実施形態について
図18を参照して説明する。
本実施形態では、上記各実施形態における切替タイミングの後にも、ゲート電流Ig_offを切り替えてゲート駆動速度を変更するようになっている。すなわち、本実施形態では、速度変更回路15は、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度から第2駆動速度へと変更した時点から予め設定された第2切替時間が経過すると半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第2駆動速度よりも大である第4駆動速度に切り替えるようになっている。
【0140】
この場合、速度変更回路15は、ゲート駆動速度を第1駆動速度から第2駆動速度へと変更した時点から第2切替時間が経過すると、ゲート電流Ig_offを第4駆動速度に対応する第4電流値Ig4に設定する。第4電流値Ig4は、第2電流値Ig2よりも大きい値に設定されている。
【0141】
次に、半導体スイッチング素子5のターンオフ時におけるゲート駆動装置1の各部の動作タイミングについて
図18を参照して説明する。なお、
図18の電圧Vds、電流指令値Ig_off*、ゲート電流Ig_off、電圧Vgsおよび電流Idは、いずれも自アームの半導体スイッチング素子5のものである。時点t4以前の動作は、
図2に示した第1実施形態の動作と同様ものとなる。時点t4の後、時点t3から第2切替時間Tc2が経過した時点t5において、電流指令値Ig_off*が第4電流値Ig4となる。これにより、時点t5から所定の遅延時間が経過した後、ゲート電流Ig_offが第2電流値Ig2から第4電流値Ig4に向けて上昇する。
【0142】
その後、時点t5からゲート駆動回路11の動作に伴い生じる所定の遅延時間が経過した後の時点t6において、実際のゲート電流Ig_offが第4電流値Ig4となり、ゲート電流Ig_offの2回目の切り替えが完了する。この場合、サージ電圧は、時点t6よりも前の時点でピークになっている、言い換えると、この場合、ゲート電流Ig_offの2回目の切り替えは、サージ電圧がピークに達した後に行われる。なお、第2切替時間Tc2は、サージ電圧が許容値未満となるような時間に設定されている。時点t6以降の期間には、時点t4から時点t6の期間よりも急峻な傾き、つまり大きな変化率dI/dtで電流Idが0Aに向けて低下する。
【0143】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
本実施形態では、速度変更回路15は、半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度を第1駆動速度から第2駆動速度へと変更した時点から予め設定された第2切替時間が経過するとゲート駆動速度を第2駆動速度よりも大である第4駆動速度に切り替えるようになっている。サージ電圧がピークに達した後は、ゲート電流Ig_offを大きくしてもサージ電圧がさらに大きくなることはない。
【0144】
本実施形態によれば、サージ電圧がピークに達した後、ゲート電流Ig_offが第2電流値Ig2から第2電流値Ig2よりも大きい第4電流値Ig4に切り替えられ、第1実施形態と比べて高速なスイッチングが行われる。従って、本実施形態によれば、ターンオフ時におけるスイッチング損失がさらに低減されるという効果が得られる。また、本実施形態によれば、電流Idをより素早く0Aにすることが可能となるため、スイッチングに要する時間を短縮することができるという効果が得られる。
【0145】
(第7実施形態)
以下、第7実施形態について
図19を参照して説明する。
図19に示すように、本実施形態のゲート駆動装置101は、
図4に示した第1実施形態のゲート駆動装置1に対し、変化率制御回路13およびメモリ23に代えて変化率制御回路102およびメモリ103を備えている点などが異なっている。半導体スイッチング素子5のゲート電流は、電圧Vdsの変化率と相関関係がある。変化率制御回路102は、このような点に着目し、次のようにして第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算するようになっている。
【0146】
すなわち、変化率制御回路102は、目標変化率dV/dt*と、予め取得された電圧Vdsの変化率dV/dtおよびゲート駆動速度に対応するゲート電流Ig_offの関係を表す関係情報と、に基づいて、第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算するようになっている。上記した関係情報は、入力となる目標変化率dV/dt*に対して出力となる第1電流値Ig1が定義されたマップデータ、目標変化率dV/dt*と第1電流値Ig1との関係を示す数式データなどである。メモリ103には、メモリ23に記憶されている各値に加え、上記した関係情報を表すデータDbが記憶されている。データDbは、例えば各種のシミュレーションを行うことなどにより予め取得することができる。
【0147】
この場合、検出回路12は、信号dV/dtを出力しないようになっており、それに代えて、メモリ103から出力されるデータDbが変化率制御回路102に入力されるようになっている。変化率制御回路102は、信号dV/dt*およびデータDbに基づいて、第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算して出力する。具体的には、変化率制御回路102は、データDbが表す関係情報を参照して信号dV/dt*が表す目標変化率dV/dt*に対応する第1電流値Ig1を求め、その値を表す信号を出力する。
【0148】
以上説明した本実施形態によっても、変化率制御回路102は、ターンオフ時の電圧Vdsの変化率dV/dtが目標値dV/dt*と等しくなるような第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を求めることができるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態によれば、変化率制御回路102は、データDbを参照して第1電流値Ig1を求める、といった比較的簡単な処理を実行できる構成であればよいため、変化率dV/dtおよび目標変化率dV/dt*を用いて演算を行う必要がある変化率制御回路13、73に比べ、その回路規模を小さく抑えることができる。
【0149】
(第8実施形態)
以下、第8実施形態について
図20を参照して説明する。
図20に示すように、本実施形態のゲート駆動装置111は、
図19に示した第7実施形態のゲート駆動装置101に対し、検出回路12、変化率制御回路102およびメモリ103に代えて検出回路112、変化率制御回路113およびメモリ114を備えている点、温度モニタ回路115および電流モニタ回路116が追加されているなどが異なっている。
【0150】
半導体スイッチング素子5のゲート電流は、電圧Vdsの変化率だけでなく、半導体スイッチング素子5の温度Ta、ゲート駆動装置111の温度Tb、ハーフブリッジ回路4に供給される電源電圧Va、半導体スイッチング素子5の電流Idなどとも相関関係がある。変化率制御回路113は、このような点に着目し、次のようにして第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算するようになっている。
【0151】
すなわち、この場合、関係情報は、温度Ta毎、温度Tb毎、電源電圧Va毎および電流Id毎のうち少なくとも1つ毎に設けられている。変化率制御回路113は、温度Ta、温度Tb、電源電圧Vaおよび電流Idのうち少なくとも1つの値を取得し、その取得した値に応じて第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算するために用いる関係情報を選択する。そして、変化率制御回路113は、目標変化率dV/dt*と、選択した関係情報と、に基づいて、第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算するようになっている。
【0152】
メモリ114には、温度Ta毎、温度Tb毎、電源電圧Va毎および電流Id毎に設けられた関係情報を表すデータDcが記憶されている。データDcは、例えば各種のシミュレーションを行うことなどにより予め取得することができる。検出回路112は、電圧Vds波形をモニタすることにより、半導体スイッチング素子5がオフのときのオフ電圧Vds_offの値を検出し、その値から電源電圧Vaの値を推定する。検出回路112は、電源電圧Vaの値を表す信号を出力する。
【0153】
温度モニタ回路115は、温度センサなどを介して半導体スイッチング素子5の温度Taおよびゲート駆動装置111の温度Tbを検出し、それら検出した温度Taおよび温度Tbの各値を表す信号を出力する。電流モニタ回路116は、電流センサなどを介して半導体スイッチング素子5の電流Idを検出し、その検出した電流Idの値を表す信号を出力する。
【0154】
変化率制御回路113には、検出回路112から出力される信号Vaと、メモリ114から出力される信号dV/dt*およびデータDcと、温度モニタ回路115から出力される信号Ta、Tbと、電流モニタ回路116から出力されるIdと、が入力されている。変化率制御回路113は、これら入力される信号などに基づいて、電源電圧Vaの値、温度Taの値、温度Tbの値、電流Idの値に応じた最適な関係情報を選択する。そして、変化率制御回路113は、選択した関係情報を参照して信号dV/dt*が表す目標変化率dV/dt*に対応する第1電流値Ig1を求め、その値を表す信号を出力する。
【0155】
以上説明した本実施形態によれば、第7実施形態と同様の効果が得られるとともに、次のような効果が得られる。すなわち、実際のゲート電流と電圧Vdsの変化率との関係は、半導体スイッチング素子5の温度Ta、ゲート駆動装置71の温度Tb、電源電圧Vaの温度、電流Idなどに依存して変化する可能性がある。実際のゲート電流と電圧Vdsとの関係が、予め取得された関係情報が表す関係と大きく離れたものになると、第1電流値Ig1の演算の精度が低下して変化率dV/dtの制御の精度が低下するおそれがある。
【0156】
そこで、本実施形態では、温度Ta毎、温度Tb毎、電源電圧Va毎および電流Id毎に関係情報を設けておき、変化率制御回路113は、温度Ta、温度Tb、電源電圧Vaおよび電流Idの値を取得し、それら取得した値に応じて第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算するために用いる関係情報を選択する。そして、変化率制御回路113は、目標変化率dV/dt*と、選択した関係情報と、に基づいて、第1駆動速度に対応する第1電流値Ig1を演算するようになっている。このようにすれば、温度Ta、温度Tb、電源電圧Va、電流Idなどに起因する第1電流値Ig1の演算の精度の低下が抑制され、その結果、変化率dV/dtの制御の精度を良好に維持することができる。
【0157】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記各実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
【0158】
上記各実施形態におけるゲート駆動装置は、Nチャネル型のMOSFETに限らず、Pチャネル型のMOSFET、IGBTなど、各種の半導体スイッチング素子を駆動対象とすることができる。
【0159】
半導体スイッチング素子5のゲート駆動速度の変更は、第1実施形態および第2実施形態において説明したゲート電流の切り替えによるものに限らずともよく、ゲート抵抗の切り替えによるもの、駆動用の電源電圧の切り替えによるものなどであってもよい。ゲート抵抗の切り替えによりゲート駆動速度の変更を行うように変形する場合、ゲート駆動回路11、42に代えて、
図21に示す第1変形例のゲート駆動回路121を用いることができる。
【0160】
ゲート駆動回路121は、
図9に示したゲート駆動回路51に対し、ターンオン側の3つのゲート抵抗122およびターンオフ側の3つのゲート抵抗123が追加されている点などが異なっている。この場合、トランジスタ52の各ドレインは、それぞれゲート抵抗122を介して半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。また、この場合、トランジスタ55の各ドレインは、それぞれゲート抵抗123を介して半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。
【0161】
この場合、選択部54は、ターンオン側のゲート抵抗Rg_onの抵抗値を指令する抵抗指令値Rg_on*を表す信号に基づいて、3つのトランジスタ52のうちのいずれをオンさせるのかを選択し、選択したトランジスタ52をオンさせるための信号を出力する。上記構成では、トランジスタ52がオンされたとき、そのトランジスタ52に直列接続されたゲート抵抗122が有効になる。そのため、上記構成によれば、オンさせるトランジスタ52を調整することにより、ターンオン側のゲート抵抗Rg_onの抵抗値を自由に設定することができる。また、上記構成によれば、オンさせるトランジスタ52の数を調整することも可能であり、そのようにすることで、ゲート抵抗Rg_onの抵抗値をより細かく設定することができる。
【0162】
また、この場合、選択部57は、ターンオフ側のゲート抵抗Rg_offの抵抗値を指令する抵抗指令値Rg_off*を表す信号に基づいて、3つのトランジスタ55のうちのいずれをオンさせるのかを選択し、選択したトランジスタ55をオンさせるための信号を出力する。上記構成では、トランジスタ55がオンされたとき、そのトランジスタ55に直列接続されたゲート抵抗123が有効になる。そのため、上記構成によれば、オンさせるトランジスタ55を調整することにより、ターンオフ側のゲート抵抗Rg_offの抵抗値を自由に設定することができる。また、上記構成によれば、オンさせるトランジスタ55の数を調整することも可能であり、そのようにすることで、ゲート抵抗Rg_offの抵抗値をより細かく設定することができる。
【0163】
駆動用の電源電圧の切り替えによりゲート駆動速度の変更を行うように変形する場合、ゲート駆動回路11、42に代えて、
図22および
図23に示す第2変形例のゲート駆動回路131を用いることができる。ゲート駆動回路131は、
図4、
図7などに示したゲート駆動回路11、42に対し、電流源26、27に代えて電源132、133を備えている点、ゲート抵抗134、135が追加されている点などが異なっている。
【0164】
電源132は、電源線31とスイッチ28との間に接続されたものであり、半導体スイッチング素子5のゲートをターンオンさせる正の電源電圧V_onを出力する。ゲート抵抗134は、スイッチ28と半導体スイッチング素子5のゲートとの間に接続されている。電源132から出力される電源電圧V_onは、スイッチ28およびゲート抵抗134を介して半導体スイッチング素子5のゲートに印加される。電源132は、電源電圧V_onの電圧値を指令する電圧指令値V_on*を表す信号に基づいて、その電圧値を変更することができる構成となっている。
【0165】
このように電源電圧V_onの電圧値を変更することができる電源132を実現する具体的な構成例としては、
図23に示すように、OPアンプ136およびPチャネル型MOSトランジスタであるトランジスタ137を用いた構成を採用することができる。トランジスタ137のソースは、電源線31に接続され、そのドレインは、スイッチ28およびゲート抵抗134を介して半導体スイッチング素子5のゲートに接続されている。
【0166】
OPアンプ136の反転入力端子には、信号V_on*が入力されている。OPアンプ136の非反転入力端子は、トランジスタ137のドレインに接続されている。OPアンプ136の出力信号は、トランジスタ137のゲートに入力されている。このような構成によれば、OPアンプ136を用いてトランジスタ137のゲート電圧を変更することにより、電源電圧V_onを精度良く制御することができる。
【0167】
電源133は、電源線32とスイッチ29との間に接続されたものであり、半導体スイッチング素子5のゲートをターンオフさせる負の電源電圧V_offを出力する。ゲート抵抗135は、スイッチ29と半導体スイッチング素子5のゲートとの間に接続されている。電源133から出力される電源電圧V_offは、スイッチ29およびゲート抵抗135を介して半導体スイッチング素子5のゲートに印加される。電源133は、電源電圧V_offの電圧値を指令する電圧指令値V_off*を表す信号に基づいて、その電圧値を変更することができる構成となっている。
【0168】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0169】
1A、1B、1、41A、41B、41、71A、71B、71、91A、91B、91、101A、101B、101、111A、111B、111…ゲート駆動装置、4…ハーフブリッジ回路、5A、5B、5…半導体スイッチング素子、11、42、51、61、121、131…ゲート駆動回路、12、72、112…検出回路、13、73、102、113…変化率制御回路、14、76、92…タイミング生成回路、15…速度変更回路、74…電圧取得回路、75…温度取得回路、77…ピーク値制御回路、82…分圧回路、C1、C2…容量。