(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】車載換気システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/24 20060101AFI20240514BHJP
B60J 1/17 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B60H1/24 661
B60H1/24 661B
B60J1/17
(21)【出願番号】P 2021134243
(22)【出願日】2021-08-19
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 一剛
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-047418(JP,A)
【文献】特開2003-312253(JP,A)
【文献】特開2010-018227(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0008959(US,A1)
【文献】特開2009-280017(JP,A)
【文献】特開2003-194359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/24
B60J 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の窓を開閉可能なパワーウインドウ機構と、
前記パワーウインドウ機構を制御する制御部と、
を備え、前記制御部は前記車両内部の環境を表す第1の環境情報と、前記車両外部の環境を表す第2の環境情報とをそれぞれ取得し、予め用意された複数の換気調整モードの中から、少なくとも一人の搭乗者に適した特定の換気調整モードを前記第1の環境情報および前記第2の環境情報に基づいて自動的に選択し、選択した前記特定の換気調整モードに従い前記パワーウインドウ機構を制御し、
前記制御部は、搭乗者が運転者のみである場合において、
外気温が
20℃より高く且つ28℃より低いときには、運転席位置及びそれと対角関係の座席位置の各窓を開け且つ残りの座席位置の各窓を閉じ、
外気温が
20℃以下又は28℃以上のときには、助手席位置及びそれと対角関係の座席位置の各窓を開け且つ残りの座席位置の各窓を閉じる、
車載換気システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両の複数の窓のうち、1つ以上の窓の開度が互いに異なる複数の換気調整モードを有する、
請求項1に記載の車載換気システム。
【請求項3】
前記車両の複数の座席のそれぞれにおける搭乗者の有無を検知する搭乗者検知部を備え、
前記制御部は、前記搭乗者検知部の検知状態に基づき、少なくとも搭乗者人数を把握し、搭乗者人数の違いを前記換気調整モードの選択に反映する、
請求項1又は2に記載の車載換気システム。
【請求項4】
前記車両の複数の座席のそれぞれにおける搭乗者の有無を検知する搭乗者検知部を備え、
前記制御部は、前記搭乗者検知部の検知状態に基づき、搭乗者人数および各搭乗者の着座位置を把握し、前記車両における複数の窓のそれぞれの開度の組み合わせを搭乗者人数および各搭乗者の着座位置に応じて決定する、
請求項1又は2に記載の車載換気システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両の走行速度の情報を取得し、前記第2の環境情報として現在位置における外気中の風速および外気温の情報を取得し、
前記車両の走行速度が第1閾値以上、又は、前記現在位置における外気中の風速が第2閾値以上の場合には、搭乗者が運転者のみである場合であっても、全ての座席の窓を半分より小さい開度で開ける、
請求項1~4のいずれか1項に記載の車載換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載換気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を利用する場合には、車室内の空気の入れ換えや自然な空気の導入による冷房を目的としてドア等の窓ガラスを開けた状態で走行する場合がある。また、最近ではコロナ禍の感染拡大を防止する必要があるため、車両の走行中であってもエアコンで温度を調整するよりも窓ガラスを開けて、例えば定期的に車室内の換気を実施することが望まれる。
【0003】
車両においてはパワーウインドウ装置が搭載されている場合が多いので、例えば搭乗者が所定のボタンを操作することで、車両の各窓ガラスを全開位置まで開いたり、全閉位置まで閉じることができる。また、所定のボタンを操作している間だけ、開度が大きくなる方向に、又は開度が小さくなる方向に各窓ガラスを開閉することもできる。
【0004】
例えば特許文献1の車内温度制御システムは、効率良く速やかに車内の温度を下げることができるとともに犯罪を抑制するための技術を開示している。すなわち、ウィンドウガラスを開閉動作させる開閉体駆動装置と、設定温度に応じて車内の温度を調整するエアコン装置と、車外からエアコン装置を冷房運転させることができる制御信号を出力可能なリモートコントローラとを備える。また、車両ECUは、車内の温度が少なくとも外気温よりも高い際に、制御信号が入力されたことに基づいて、ウィンドウガラスが開動作と閉動作とを交互に行うように開閉体駆動装置を駆動させる防犯外気導入処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の走行中などに窓ガラスを開けて換気を実施する場合には、各窓の開度の違いや走行速度の違いに応じて車室内の各領域に吹き込む風の風量などが大きく変化する。また、窓の開口部から車室内に吹き込む風が強すぎると搭乗者が不快に感じることになり、逆に風が弱すぎると搭乗者は暑さを感じることになる。
【0007】
したがって、それぞれの搭乗者にとって適度な風が吹き込むように、各窓の開度を調節する必要がある。しかし、車両に搭載されている一般的なパワーウインドウ装置は、搭乗者が所定のボタンを押している間だけ開度を調整するか、又は全開もしくは全閉位置まで動くので、適度な開度に調整することが難しい。
【0008】
また、同じ車両上に複数の搭乗者が乗車している場合には、窓ガラスを開けて換気している状態で、一部の座席位置の搭乗者にとっては快適な状態であっても、他の座席位置の搭乗者が吹き込む風を不快に感じる可能性がある。すなわち、各窓の開度が同じであっても、それぞれの座席位置に流れ込む風の強さは場所毎に大きく変化するので、全ての搭乗者が快適に感じる状態にすることは困難である。そのため、ボタンを操作した特定の搭乗者が自分にとって快適な風量に窓の開度を調整すると、他の搭乗者は不快感を覚えることになる。
【0009】
特に、シェアカーの普及により不特定多数の利用者が同じ車両に搭乗するような利用環境においては、車両の窓を開けて換気することも重要であるが、一部の搭乗者がボタン操作により窓の開度を手動で調整すると、不快感を感じた他の搭乗者との間でトラブルが発生する可能性が懸念される。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の走行中などに窓の開度調整で換気を行う場合に、手動調整の操作を不要にすると共に、搭乗者が不快感を感じるのを抑制することが可能な車載換気システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載換気システムは、下記を特徴としている。
【0012】
車両の窓を開閉可能なパワーウインドウ機構と、
前記パワーウインドウ機構を制御する制御部と、
を備え、前記制御部は前記車両内部の環境を表す第1の環境情報と、前記車両外部の環境を表す第2の環境情報とをそれぞれ取得し、予め用意された複数の換気調整モードの中から、少なくとも一人の搭乗者に適した特定の換気調整モードを前記第1の環境情報および前記第2の環境情報に基づいて自動的に選択し、選択した前記特定の換気調整モードに従い前記パワーウインドウ機構を制御し、
前記制御部は、搭乗者が運転者のみである場合において、
外気温が20℃より高く且つ28℃より低いときには、運転席位置及びそれと対角関係の座席位置の各窓を開け且つ残りの座席位置の各窓を閉じ、
外気温が20℃以下又は28℃以上のときには、助手席位置及びそれと対角関係の座席位置の各窓を開け且つ残りの座席位置の各窓を閉じる、
車載換気システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車載換気システムによれば、制御部がパワーウインドウ機構を自動的に制御するので、車両の走行中などの状況で、搭乗者が手動調整の操作を行わなくても窓の開度調整で換気を行うことができる。しかも、第1の環境情報および前記第2の環境情報に基づいて自動的に選択された換気調整モードになるので、それぞれの搭乗者が不快感を感じるのを抑制できる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車載換気システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、車載換気システムが使用する換気モードテーブルの構成例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、車載換気システムが使用する状況判定テーブルの構成例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、車載換気システムの主要な動作-1を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、車載換気システムの主要な動作-2を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、車載換気システムの主要な動作-3を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、車載換気システムの主要な動作-4を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、車載換気システムの主要な動作-5を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、車載換気システムの主要な動作-6を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る車載換気システム100の構成を示すブロック図である。
【0018】
図1に示した車載換気システム100は、車両上に搭載されており、主要な制御ユニットとして複数のゾーンECU10A、10B、10C、エアコンECU20、セントラルECU30、コネクテッドECU40、ナビゲーションユニット50、及びメータユニット70を備えている。
【0019】
また、各ゾーンECU10A、10B、10C、エアコンECU20、セントラルECU30、ナビゲーションユニット50及びメータユニット70は、車内通信バス90を介して互いに通信できる状態で接続されている。車内通信バス90は、例えばCAN (Controller Area Network)などの車両用通信規格に対応した有線通信用の伝送路を提供する。
【0020】
図1に示した各ゾーンECU10A、10B、及び10Cは、車室内の換気のために各車両ドアの窓ガラスの開閉を管理する機能を有している。また、ゾーンECU10A、10B、及び10Cは、それぞれ運転席近傍の領域、助手席近傍の領域、及び後部座席近傍の領域(リア領域)の管理機能を有している。実際には、各ゾーンECU10A、10B、及び10Cに内蔵されているコンピュータが所定のプログラムを実行することにより、状況に応じた処理を実行する。
【0021】
また、パワーウインドウ機構11A、着座センサ12A、自動換気スイッチ13、及びレインセンサ14がゾーンECU10Aに接続されている。
【0022】
パワーウインドウ機構11Aは、運転席側方のドア内に搭載されている。また、パワーウインドウ機構11Aは、運転席側方のドア内に設けられた電気モータの駆動力によりこのドアの窓ガラスを昇降し、換気のための開口部を形成したり、この開口部を閉じることができる。
【0023】
また、窓ガラスの開度に相当する窓位置(PW位置)情報i11を出力する位置センサ(図示せず)がパワーウインドウ機構11Aに内蔵されている。ゾーンECU10Aが所定の開閉制御信号C10を出力することでパワーウインドウ機構11Aの開閉駆動ができる。
【0024】
着座センサ12Aは、搭乗者が運転席に着座したか否かを検知して着座有無情報i12を出力する。
自動換気スイッチ13は、運転者等の搭乗者がボタン操作等によりオンオフ可能なスイッチである。自動換気のオンオフを切り替えるためのスイッチ情報i13を出力する機能が自動換気スイッチ13に割り当てられている。
【0025】
レインセンサ14は、例えば自車両のフロントウインドシールド(窓ガラス)上部の特定領域に付着した雨滴を光学センサにより検知して、その検知状態を表す雨滴情報i14を出力することができる。
【0026】
また、助手席のパワーウインドウ機構11B、及び着座センサ12BがゾーンECU10Bに接続されている。パワーウインドウ機構11Bは、助手席側方のドア内に搭載されており、運転席のパワーウインドウ機構11Aと同様に、電気モータの駆動力によりこのドアの窓ガラスを昇降し、換気のための開口部を形成したり、この開口部を閉じることができる。
【0027】
また、助手席ドアの窓ガラスの開度に相当する窓位置情報がパワーウインドウ機構11Bから出力され、ゾーンECU10Bに入力される。ゾーンECU10Bが所定の開閉制御信号を出力することでパワーウインドウ機構11Bの開閉駆動ができる。着座センサ12Bは、搭乗者が助手席に着座したか否かを検知して着座有無を表す情報を出力する。
【0028】
また、パワーウインドウ機構11C、11D、着座センサ12C、及び12DがゾーンECU10Cに接続されている。
パワーウインドウ機構11C、及び11Dは、それぞれ後席左側ドア内、及び後席右側ドア内に設置されている。各パワーウインドウ機構11C、11Dは、それぞれパワーウインドウ機構11Aと同様に、電気モータの駆動力により該当するドアの窓ガラスを昇降し、換気のための開口部を形成したり、この開口部を閉じることができる。また、各パワーウインドウ機構11C、11Dは、各ドアの窓ガラスの開度に相当する窓位置情報を出力する。
【0029】
着座センサ12C、及び12Dは、それぞれ後席左側の所定位置、及び後席右側の所定位置に搭乗者が着座したか否かを個別に検出し、着座の有無を表す情報をそれぞれ出力する。
【0030】
ゾーンECU10Aは、窓位置情報i11、運転席の着座有無情報i12、スイッチ情報i13、及び雨滴情報i14を含む車内情報i10Aを車内通信バス90を介してセントラルECU30に送信できる。
【0031】
また、ゾーンECU10Bは、助手席の窓位置情報、及び助手席の着座有無情報を含む車内情報i10Bを車内通信バス90を介してセントラルECU30に送信できる。また、ゾーンECU10Cは後席左側の窓位置情報、後席左側の着座有無情報、後席右側の窓位置情報、及び後席右側の着座有無情報を含む車内情報i10Cを車内通信バス90を介してセントラルECU30に送信できる。
【0032】
また、ゾーンECU10Aは、セントラルECU30から送信される制御要求C30に従い、運転席ドアのパワーウインドウ機構11Aを制御することができる。また、ゾーンECU10Bは制御要求C30に従い、助手席ドアのパワーウインドウ機構11Bを制御することができる。また、後席のゾーンECU10Cは、制御要求C30に従い、後席左側ドア、及び後席右側ドアの各パワーウインドウ機構11C、11Dを個別に制御することができる。
【0033】
エアコンECU20は、この車両に搭載されている空調装置(エアコン)を制御するための機能を有するコンピュータを内蔵している。また、
図1に示すように室温センサ22、及び外気温センサ23がエアコンECU20に接続されている。
【0034】
室温センサ22は、例えば車室内に設置されたサーミスタなどのセンサにより構成され、検出した車室内の温度を表す室温情報i22を出力できる。外気温センサ23は、外気と接触可能な部位に設置された温度センサであり、検出した温度を表す外気温情報i23を出力できる。
【0035】
エアコンECU20は、室温情報i22及び外気温情報i23を含む車内情報i20を、車内通信バス90を介してセントラルECU30に送信できる。
【0036】
セントラルECU30は、車両全体としての機能上、ゾーンECU10、エアコンECU20、ナビゲーションユニット50、メータユニット70等の上位に位置する制御ユニットであり、車載換気システム100の機能を実現するための主制御や時間カウントの処理を行うコンピュータを内蔵している。また、セントラルECU30は、この車両のボデーECUの機能を含んでいる。
【0037】
セントラルECU30は、車内情報i10A、i10B、i10C、i20、位置情報i50、及び車速情報i70を車内通信バス90を介して各ECUから取得できる。また、外部情報i40をコネクテッドECU40から取得できる。これらの情報に基づき、セントラルECU30は状況を把握して、制御要求C30を生成する。この制御要求C30は、車内通信バス90を介して各ゾーンECU10A、10B、及び10Cに送信される。これにより、後述するように適切な自動換気制御を行うことができる。
【0038】
コネクテッドECU40は、所定の無線通信モジュールを搭載しており、車両上とインターネット60との間で無線通信回線を常時接続することができる。したがって、コネクテッドECU40は、車両上で必要とされる様々な情報をインターネット60上から取得することができる。
【0039】
本実施形態では、コネクテッドECU40は、自車両の現在位置近傍の地域における風速情報i60を、インターネット60から取得できる。この風速情報i60は、各地域の気象情報を管理している行政機関や様々な企業が提供する情報としてインターネット60上の所定のサーバから取得できる。風速情報i60は、実際の観測値でも良いし予測値でも良い。
【0040】
ナビゲーションユニット50は、一般的なカーナビゲーション装置と同様に、自車両の現在位置を常時把握すると共に、所定の道路地図情報に基づき、目的地までの移動経路に沿って運転の案内をする機能を有している。自車両の現在位置の情報を算出するために、GPS(Global Positioning System)ユニット51がナビゲーションユニット50に接続されている。
【0041】
GPSユニット51は、複数のGPS衛星からそれぞれ受信した電波の時間に基づいて自車両の現在位置を表す緯度/経度を算出できる。ナビゲーションユニット50は、GPSユニット51が算出した位置情報i51に基づき、位置情報i50を車内通信バス90を介してセントラルECU30に送信することができる。
【0042】
メータユニット70は、例えば現在の自車両の走行速度(車速)[km/h]、エンジン回転速度、冷却水温度、燃料残量など運転者が運転の際に必要とする様々な車両の情報を短い周期で繰り返し取得して管理している。メータユニット70は、車速情報i70を車内通信バス90を介して例えば定期的にセントラルECU30に送信することができる。
【0043】
図1に示したセントラルECU30は、自動換気スイッチ13により自動換気機能がオンになっているときには、状況を自動的に把握して、この車両に搭乗している全ての搭乗者にとって快適な環境で窓開けによる換気ができるように各ドアのパワーウインドウの制御を自動的に実施する。
【0044】
具体的には、少なくとも以下に示す「A」、「B」、「C」の3種類の状況を識別する。
「A」:各搭乗者が窓からの直風に当たることによる快適感を得られる状況
「B」:各搭乗者が窓からの直風に当たると不快感を覚える外気温度の状況
「C」:窓を開けることで車室内に強風が入ってくる虞がある状況
【0045】
また、上記「A」、「B」、「C」の複数の状況が同時に発生した場合は、制御の優先順位を「C>B>A」とする。
また、実際の換気制御においては、車両に実際に搭乗している各搭乗者の着座位置及び人数の違いを考慮して、上記「A」、「B」、「C」を更に細分化して「A1」、「A2」、「B1」、「B2」、「B3」、及び「C」の6種類の状況を識別する。また、5種類の換気モードM1~M5を状況に応じて選択可能にする。
【0046】
図2は、車載換気システムが使用する換気モードテーブルT01の構成例を示す模式図である。
【0047】
図2に示した換気モードテーブルT01においては、搭乗者状況C00が「A1」、「A2」、「B1」、「B2」、「B3」、及び「C」の6種類に区分されている。
【0048】
この換気モードテーブルT01において、搭乗者状況C00の「A1」は、搭乗者が運転者のみの状況であり、且つ上記「A」に該当する状況であることを表している。
また、搭乗者状況C00の「A2」は搭乗者が複数の状況であり、且つ上記「A」に該当する状況であることを表している。
【0049】
また、搭乗者状況C00の「B1」は、搭乗者が運転者のみの状況であり、且つ上記「B」に該当する状況であることを表している。搭乗者状況C00の「B2」は、空席が1つ以上存在する状況であり、且つ上記「B」に該当する状況であることを表している。搭乗者状況C00の「B3」は、搭乗者により満席の状況であり、且つ上記「B」に該当する状況であることを表している。
【0050】
図2の換気モードテーブルT01においては、搭乗者状況C00の「A1」、「A2」、「B1」、「B2」、「B3」、及び「C」に対して、それぞれ換気モードMxのM1、M2、M3、M4、M5、及びM5が割り当ててある。
【0051】
換気モードM1は、運転席側方位置の窓、及びそれと対角関係の位置(後席左側)にある窓を大きく開けて換気する機能を有する。
換気モードM2は、全ての搭乗者の各々の着座位置側方の窓を大きく開けて換気する機能を有する。
換気モードM3は、助手席側方位置の窓、及びそれと対角関係の位置(後席右側)にある窓を半分の開度で開けて換気する機能を有する。
換気モードM4は、全ての座席側方の窓を半分の開度で開けて換気する機能を有する。
換気モードM5は、全ての窓をそれぞれ少しだけ開けて換気する機能を有する。
【0052】
<状況判定テーブル>
図3は、車載換気システムが使用する状況判定テーブルT02の構成例を示す模式図である。
【0053】
この状況判定テーブルT02は、上記3種類の状況「A」、「B」、「C」のそれぞれに該当するか否かを判定するための具体的な基準を表している。すなわち、状況「A」、「B」、「C」のそれぞれに該当する条件は次の通りである。
「A」:以下のAa、Ab、Acのいずれかの条件を満たす場合
Aa.外気温が一定範囲内、例えば20℃~28℃の範囲、ヒステリシス±2℃
Ab.車速が一定未満、例えば70km/h未満、ヒステリシス±10km/h
Ac.現在地の外気の風速が一定未満
「B」:外気温度が一定の範囲外、例えば20℃以下、28℃以上
「C」:以下のCa、Cbのいずれかの条件を満たす場合
Ca.高速走行時、例えば車速が70km/h以上
Cb.現在地の外気の風速が一定以上
【0054】
<車載換気システムが制御に利用する主要な情報>
(1)車速情報i70、メータユニット70から取得可能。
(2)搭乗者毎の着座位置および人数:各着座センサ12A~12Dの出力する着座有無情報i12や、車室内を撮影するカメラの画像に基づいて把握可能。
(3)外気温度:エアコンECU20から取得可能。
(4)自車両の現在位置:GPSユニット51の出力する位置情報i51が利用可能。
(5)現在位置の風速:位置情報とコネクテッドECU40を利用してインターネット上から取得可能。
【0055】
図4~
図9は、車載換気システム100が自動換気機能を実現するための主要な動作を示すフローチャートである。本実施形態では、セントラルECU30が主体となってこの制御を実施する。勿論、セントラルECU30の代わりにゾーンECU10A等が制御しても良い。
図4~
図9の動作について以下に説明する。
【0056】
図4~
図9の動作は、セントラルECU30により例えば一定の周期で繰り返し実施される。セントラルECU30は、
図4のS11で自動換気スイッチ13の操作に応じたスイッチ情報i13の状態を把握し、自動換気設定のオンオフを識別する。
【0057】
自動換気設定がオフの場合は、セントラルECU30は、自動換気制御で使用する各種フラグ等を
図5のS30で初期化する。
すなわち、自動換気によるPW(パワーウインドウ)制御が元の状態に復帰済みでなければ、S31からS32に進んで全てのPW位置を自動換気制御前の位置に復帰させる。また、セントラルECU30は、PWステータスをリセットし(S33)、強風フラグOFF確定タイマをリセットし(S34)、外気温不快フラグOFF確定タイマをリセットし(S35)、強風フラグをOFFにして(S36)、外気温不快フラグをOFFにする(S37)。
【0058】
セントラルECU30は、
図4のS12で強風フラグの状態を確認し、強風フラグがOFFなら次のS13の処理を実行し、強風フラグがOFFでなければS20の処理を実行する。
【0059】
S13の処理を実行する場合は、セントラルECU30は、S14で「車速<閾値」の比較を行い、S15で「現在地の風速<閾値」の比較を行う。そして、車速が高い場合、又は風速が高い場合には、強風フラグをONにして(S16)、PWステータスに「5」をセットする(S17)。すなわち、窓を開けると強風が車内に入ってきそうな場合は、窓を開ける量を少しだけにするためのフラグをS13の処理で立てる。
【0060】
一方、S20の処理を実行する場合には、セントラルECU30は、S21で「強風フラグOFF確定タイマ≧閾値」の比較を行い、タイマ満了なら次のS22で強風フラグをOFFにする。タイマ満了でなければ、セントラルECU30はS23、S24の比較を実施する。
【0061】
すなわち、S23では「車速<閾値」を比較する。但し、S23の閾値には所定のヒステリシスを加味して制御を安定化する。また、S24では「現在地の風速<閾値」を比較する。但し、S24の閾値には所定のヒステリシスを加味して制御を安定化する。
【0062】
そして、車速が低く、且つ風速も低い場合には、セントラルECU30は、強風フラグOFF確定タイマのカウントを実施する(S25)。また、車速が高い場合、又は風速が高い場合には、セントラルECU30は、強風フラグOFF確定タイマをリセットする(S26)。
【0063】
つまり、S20の処理によりセントラルECU30が強風フラグを制御する。そして、車速又は風速がヒステリシスを加味した強風閾値を一定時間連続して下回った場合にこの強風フラグを解除する。
【0064】
一方、
図6に示したS40の処理においては、窓を開けると不快な温度の風が車内に入ってきそうな場合に、セントラルECU30は、開ける窓の位置および各窓の開度を適切に調整するフラグを立てるための処理を行う。
【0065】
セントラルECU30は、外気温不快フラグがOFFの場合は、S41からS42に進み、「閾値L≦外気温<閾値H」の比較を行う。ここで、「閾値L」は範囲の下限値、「閾値H」は範囲の上限値である。
【0066】
そして、車外が暑い場合、又は車外が寒い場合はS43で外気温不快フラグをONにする。また、外気温不快フラグよりも強風フラグを優先するため、S44で強風フラグがONの場合は、車外が適温の場合と同じ処理を行う。
【0067】
一方、外気温不快フラグがOFFでなければ、セントラルECU30はS45の比較を実施する。すなわち、強風フラグの状態がONからOFFに変化したことを意味するエッジ発生の有無をS45で確認する。このエッジが発生した場合はS46に進み、エッジが発生していない場合は
図7のS60の処理に進む。
【0068】
外気温不快フラグが立っている(ON)時に、強風フラグを降ろした場合は、その1ルーチンのみ開く窓位置を適切に変えるために、セントラルECU30はS46の処理に進み車両上の各搭乗者の状態を把握する。
【0069】
そして、搭乗者が運転者のみの場合はS46からS47に進み、セントラルECU30は、PWステータスに「3」をセットする。また、空き座席が存在しない満席の状態であれば、S48からS49に進み、PWステータスに「5」をセットする。また、搭乗者が複数であり、且つ空き座席が存在する場合にはS48からS50に進み、PWステータスに「4」をセットする。
【0070】
一方、
図7のS60の処理においては、セントラルECU30は、外気温不快フラグを適切に制御する。すなわち、外気温が一定時間連続して適温の状態になったら、外気温不快フラグを解除する。
【0071】
S61では、セントラルECU30は、外気温不快フラグOFF確定タイマの値を閾値と比較する。S61の条件を満たす場合は、次のS62で外気温不快フラグをOFFにする。また、S61の条件を満たさない場合はS63の比較を行う。
【0072】
S63ではセントラルECU30が「閾値L≦外気温<閾値H」の比較を行う。ここで、「閾値L」は外気温の下限値、「閾値H」は外気温の上限値であり、いずれも所定のヒステリシスを加味した値とする。
【0073】
そして、外気温が適温の範囲内であれば、セントラルECU30は、S64で外気温不快フラグOFF確定タイマのカウントを実施する。また、外気温が暑い場合、又は寒い場合はS65に進み、外気温不快フラグOFF確定タイマをリセットする。
【0074】
一方、
図8に示したS70の処理は、強風でもなく車外温度が適温であったら、搭乗者のいる窓を開けるためのフラグを立てる機能を有する。すなわち、セントラルECU30はS71で強風フラグの状態を確認し、S72で外気温不快フラグを確認し、S73で搭乗者が運転者のみか否かを確認する。
【0075】
そして、強風フラグがOFF、且つ外気温不快フラグがOFFで、搭乗者が運転者のみの場合は、セントラルECU30がS74でPWステータスに「1」をセットする。また、搭乗者が運転者以外にもいる場合は、セントラルECU30がS75でPWステータスに「2」をセットする。
【0076】
一方、
図9に示したS80の処理は、各フラグの状態に応じて適切なパワーウインドウ制御を行うための機能を有している。セントラルECU30は、
図9のS76PWステータスが前回の処理と同値か否かを識別し、PWステータスの値に変化があった場合にS80の処理に進む。
【0077】
そして、PWステータスの値が「1」の場合はS81からS82に進み、PWステータスの値が「2」の場合はS83からS84に進み、PWステータスの値が「3」の場合はS85からS86に進み、PWステータスの値が「4」の場合はS87からS88に進み、PWステータスの値が「5」の場合はS89に進む。
【0078】
S82では、セントラルECU30は他のPWステータス制御によるPW位置を復帰させつつ、運転席位置及びそれと対角関係の座席位置の各窓を大きく開けるように各PWを制御する。
【0079】
S84では、セントラルECU30は、他のPWステータス制御によるPW位置を復帰させつつ、搭乗者が着座している全ての座席位置の窓を大きく開けるように各PWを制御する。
【0080】
S86では、セントラルECU30は、他のPWステータス制御によるPW位置を復帰させつつ、助手席位置及びそれと対角関係の座席位置の各窓を半分の開度で開けるように各PWを制御する。
【0081】
S88では、セントラルECU30は、他のPWステータス制御によるPW位置を復帰させつつ、搭乗者が着座していない全ての座席位置の窓を半分の開度で開けるように各PWを制御する。
【0082】
S89では、セントラルECU30は、他のPWステータス制御によるPW位置を復帰させつつ、全ての座席位置の窓を少しの開度(例えば全開の10%)で開けるように各PWを制御する。
【0083】
以上のように、本実施形態に係る車載換気システム100によれば、自動換気スイッチ13により自動換気設定がオンになっている場合には、セントラルECU30が自動的に換気モードM1~M5(
図2参照)を切り替えて状況に応じた適切な換気を実施するので、換気のための手動操作が不要になる。しかも、スイッチ操作が不要なので、運転者など換気を希望する特定の搭乗者の快適感だけでなく、それ以外の搭乗者の感覚にも配慮した換気が可能になる。
【0084】
また、
図2に示した換気モードテーブルT01を利用する場合には、複数の換気モードM1~M5の選択により窓の開度の違いを使い分けることができるので、換気の強度や各搭乗者に当たる風の強さを必要に応じて適正に調整することが容易である。
【0085】
また、
図2に示した換気モードテーブルT01を利用する場合には、実際に車両に乗車している搭乗者の人数の違いを考慮して複数の換気モードM1~M5を選択できるので、搭乗者の人数に合わせて換気状態をより適正に調整することが容易になる。
【0086】
また、
図2に示した換気モードテーブルT01を利用する場合には、複数の窓の開度の組み合わせを複数の換気モードM1~M5により選択できるので、車室内の各領域を流れる風の強さの微妙な調整が可能になる。更に、各搭乗者の実際の着座位置を考慮して換気モードM1~M5を選択することで、強風などの影響で不快感を感じる搭乗者が生じないように配慮することが可能になる。
【0087】
また、外気温の情報に基づいて換気モードM1~M5を選択することで、暑すぎる風や寒すぎる風などの換気により各搭乗者が不快感を感じるのを防止することが可能になる。また、自車両の車速や、外気の風速の情報に基づいて換気モードM1~M5を選択することで、強すぎる風が窓から吹き込み搭乗者に不快感を与えるのを防止できる。
【0088】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0089】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る車載換気システムの特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 車両の窓を開閉可能なパワーウインドウ機構(11A~11D)と、
前記パワーウインドウ機構を制御する制御部(セントラルECU30)と、
を備え、前記制御部は前記車両内部の環境を表す第1の環境情報(例えば車速情報i70)と、前記車両外部の環境を表す第2の環境情報(例えば外気温情報i23、風速情報i60)とをそれぞれ取得し、予め用意された複数の換気調整モード(換気モードM1~M5)の中から、少なくとも一人の搭乗者に適した特定の換気調整モードを前記第1の環境情報および前記第2の環境情報に基づいて自動的に選択し(
図2、
図3参照)、選択した前記特定の換気調整モードに従い前記パワーウインドウ機構を制御する(S82、S84、S86、S88、S89)、
車載換気システム(100)。
【0090】
上記[1]の構成の車載換気システムによれば、制御部がパワーウインドウ機構を自動的に制御するので、車両の走行中などの状況で、搭乗者が手動調整の操作を行わなくても窓の開度調整で換気を行うことができる。しかも、第1の環境情報および前記第2の環境情報に基づいて自動的に選択された換気調整モードになるので、それぞれの搭乗者が不快感を感じるのを抑制できる。
【0091】
[2] 前記制御部は、前記車両の複数の窓のうち、1つ以上の窓の開度が互いに異なる複数の換気調整モード(換気モードM1~M5)を有する(
図2参照)、
上記[1]に記載の車載換気システム。
【0092】
上記[2]の構成の車載換気システムによれば、複数の換気調整モードの選択により窓の開度の違いを使い分けることができるので、換気の強度や各搭乗者に当たる風の強さを必要に応じて適正に調整することが容易である。
【0093】
[3] 前記車両の複数の座席のそれぞれにおける搭乗者の有無を検知する搭乗者検知部(着座センサ12A~12D)を備え、
前記制御部は、前記搭乗者検知部の検知状態に基づき、少なくとも搭乗者人数を把握し、搭乗者人数の違いを前記換気調整モードの選択に反映する(
図2参照)、
上記[1]又は[2]に記載の車載換気システム。
【0094】
上記[3]の構成の車載換気システムによれば、実際に車両に乗車している搭乗者の人数の違いを考慮して複数の調整換気モードを選択できるので、搭乗者の人数に合わせて換気状態をより適正に調整することが容易になる。
【0095】
[4] 前記車両の複数の座席のそれぞれにおける搭乗者の有無を検知する搭乗者検知部(着座センサ12A~12D)を備え、
前記制御部は、前記搭乗者検知部の検知状態に基づき、搭乗者人数および各搭乗者の着座位置を把握し、前記車両における複数の窓のそれぞれの開度の組み合わせを搭乗者人数および各搭乗者の着座位置に応じて決定する(
図2参照)、
上記[1]又は[2]に記載の車載換気システム。
【0096】
上記[4]の構成の車載換気システムによれば、各搭乗者の実際の着座位置を考慮して換気調整モードを選択することで、強風などの影響で不快感を感じる搭乗者が生じないように配慮することが可能になる。
【0097】
[5] 前記制御部は、前記第1の環境情報として少なくとも前記車両の走行速度の情報(車速情報i70)を取得し、前記第2の環境情報として現在位置における外気中の風速(風速情報i60)および外気温の情報(外気温情報i23)を取得する、
上記[1]~[4]のいずれかに記載の車載換気システム。
【0098】
上記[5]の構成の車載換気システムによれば、暑すぎる風や寒すぎる風などの換気により各搭乗者が不快感を感じるのを防止することが可能になる。また、自車両の車速や、外気の風速の情報に基づいて換気調整モードを選択することで、強すぎる風が窓から吹き込み搭乗者に不快感を与えるのを防止できる。
【符号の説明】
【0099】
10,10A,10B,10C ゾーンECU
11,11A,11B,11C,11D パワーウインドウ機構
12,12A,12B,12C,12D 着座センサ
13 自動換気スイッチ
14 レインセンサ
20 エアコンECU
22 室温センサ
23 外気温センサ
30 セントラルECU
40 コネクテッドECU
50 ナビゲーションユニット
51 GPSユニット
60 インターネット
70 メータユニット
90 車内通信バス
100 車載換気システム
C00 搭乗者状況
C10 開閉制御信号
C20 切替制御信号
C30 制御要求
i10,i10A,i10B,i10C,i20 車内情報
i11 窓位置情報
i12 着座有無情報
i13 スイッチ情報
i14 雨滴情報
i22 室温情報
i23 外気温情報
i40 外部情報
i50,i51 位置情報
i60 風速情報
i70 車速情報
Mx,M1,M2,M3,M4,M5 換気モード
T01 換気モードテーブル
T02 状況判定テーブル