(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】アルミニウム基複合部材、その製造方法及び電気接続部材
(51)【国際特許分類】
C22C 1/10 20230101AFI20240514BHJP
B22F 1/12 20220101ALI20240514BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240514BHJP
B22F 3/20 20060101ALI20240514BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240514BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240514BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C22C1/10 J
B22F1/12
B22F1/00 N
B22F3/20 C
B82Y40/00
B82Y30/00
C22C21/00 A
C22C21/00 E
(21)【出願番号】P 2021159066
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池谷 隼人
(72)【発明者】
【氏名】大串 和弘
(72)【発明者】
【氏名】加山 忍
(72)【発明者】
【氏名】吉永 聡
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133163(JP,A)
【文献】国際公開第2006/120803(WO,A1)
【文献】特開2017-082309(JP,A)
【文献】特開2015-172225(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0322548(US,A1)
【文献】特開2015-199982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/10
B22F 1/00-3/26
B82Y 5/00-99/00
C22C 21/00-21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒界で区画された複数個のアルミニウム母材相の多結晶体であるアルミニウム多結晶体と、
カーボンナノチューブ又はその凝集体からなり、少なくとも1個の前記アルミニウム母材相中に分散されたカーボンナノチューブ部と、
アルミナからなり、少なくとも1個の前記アルミニウム母材相中に分散されたアルミナ部と、
を備え
、
アルミニウム基複合部材の断面で観察される前記カーボンナノチューブ部の個数であるCNT部断面個数は1~20個/μm
2
存在し、
前記アルミニウム基複合部材の断面で観察される前記アルミナ部の個数であるアルミナ部断面個数は20~80個/μm
2
存在する、アルミニウム基複合部材。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ部を構成するカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブの凝集体は、球相当径が10~300nmで
ある、請求項1に記載のアルミニウム基複合部材。
【請求項3】
Fe、Cu、Si、Mn、Ti及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物からなり、少なくとも1個の前記アルミニウム母材相中に分散された不純物由来分散部をさらに備える、請求項1又は2に記載のアルミニウム基複合部材。
【請求項4】
前記アルミナ部は、前記アルミニウム基複合部材の断面で観察される前記アルミナ部の断面積であるアルミナ部断面積が、前記アルミニウム基複合部材の断面の断面積3000μm
2当りに0.075~67.90μm
2存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム基複合部材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム基複合部材を用いて形成される電気接続部材。
【請求項6】
バスバー、端子、ボルト又はナットである、請求項5に記載の電気接続部材。
【請求項7】
自動車用配索部材として用いられる、請求項5又は6に記載の電気接続部材。
【請求項8】
アルコール中にカーボンナノチューブが分散されたCNT-アルコール分散液を調製するCNT-アルコール分散液の調製工程と、
CNT-アルコール分散液にアルミニウム粉末
及びアルミナを添加し
、ミリング装置で攪拌して、アルコール中に前記アルミニウム粉末と前記カーボンナノチューブと
前記アルミナと含む原料混合物スラリーを調製する原料混合物スラリーの調製工程と、
原料混合物スラリーを乾燥させて原料混合物を作製する原料混合物乾燥工程と、
前記原料混合物に圧力を加えて予備圧粉成形し粉末圧粉体を成形する圧粉体成形工程と、
前記粉末圧粉体に対し押出加工を行う金属押出加工工程と、
を有するアルミニウム基複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基複合部材、その製造方法及び電気接続部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の配索部材としては、バスバー、端子、ボルト、ナット等の電気接続部材が用いられる。これらの電気接続部材は、自動車のエンジン部、バッテリー近傍の部材、等の発熱部位にも用いられる。この発熱部位は、例えば150℃程度になる。
【0003】
なお、自動車の発熱部位に用いられる電気接続部材が例えば150℃の高温下でのクリープ特性、応力緩和特性等に劣ると、問題が生じやすい。例えば、電気接続部材がボルト、ナット等の連結具である場合、連結具が高温下でのクリープ特性に劣ると、連結具が緩むおそれがある。このため、自動車の発熱部位に用いられる電気接続部材には、高温環境下での応力負荷状態で確実に使用できるように、高温下でのクリープ特性、応力緩和特性等に優れることが好ましい。
【0004】
上記電気接続部材に利用可能な材質については、種々提案されている。特許文献1には、Si及びMgを特定量含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成された電気接続部品用アルミニウム合金板が開示されている。
【0005】
特許文献2には、複数個の棒状金属結晶粒の多結晶体からなる金属母材と、カーボンナノチューブからなり特定の形状で金属母材の長手方向に沿って存在するカーボンナノチューブ導電経路部と、を備えるアルミニウム基複合部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-34330号公報
【文献】特開2015-199982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたアルミニウム合金板には、Al中に析出したMg2Si等により導電率が低下するおそれがある。また、Mg2Siは140℃~180℃程度の温度で析出し、これにより力学的特性が大きく変化しやすい。このため、特許文献1に開示されたアルミニウム合金板には、150℃程度の高温下でのクリープ特性、応力緩和特性等が低くなるおそれがある。
【0008】
また、特許文献2には、150℃の高温下でのクリープ特性、応力緩和特性等に優れるアルミニウム基複合部材についての開示はない。
【0009】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑み、例えば150℃の高温化での塑性変形挙動であるクリープ特性に着目してなされたものである。本発明の目的は、高温でのクリープ特性に優れるアルミニウム基複合部材、その製造方法及び電気接続部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様に係るアルミニウム基複合部材は、粒界で区画された複数個のアルミニウム母材相の多結晶体であるアルミニウム多結晶体と、カーボンナノチューブ又はその凝集体からなり、少なくとも1個の前記アルミニウム母材相中に分散されたカーボンナノチューブ部と、アルミナからなり、少なくとも1個の前記アルミニウム母材相中に分散されたアルミナ部と、を備える。
【0011】
本発明の他の態様に係るアルミニウム基複合部材の製造方法は、アルコール中にカーボンナノチューブが分散されたCNT-アルコール分散液を調製するCNT-アルコール分散液の調製工程と、CNT-アルコール分散液にアルミニウム粉末を添加して、アルコール中に前記アルミニウム粉末と前記カーボンナノチューブとアルミナと含む原料混合物スラリーを調製する原料混合物スラリーの調製工程と、原料混合物スラリーを乾燥させて原料混合物を作製する原料混合物乾燥工程と、前記原料混合物に圧力を加えて予備圧粉成形し粉末圧粉体を成形する圧粉体成形工程と、前記粉末圧粉体に対し押出加工を行う金属押出加工工程と、を有する。
【0012】
本発明の他の態様に係る電気接続部材は、上記アルミニウム基複合部材を用いて形成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温でのクリープ特性に優れるアルミニウム基複合部材、その製造方法及び電気接続部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態(実施例1)に係るアルミニウム基複合部材の断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
【
図3B】
図3Aに示される領域のEDS(エネルギー分散型X線分光法)炭素マッピング像である。
【
図4】
図3A中の炭素に着目して拡大観察した透過電子顕微鏡(TEM)写真の一例である。
【
図5A】
図1の黒点部BK
1のEDS分析結果の一例である。
【
図5B】
図1の白点部WH
1のEDS分析結果の一例である。
【
図6】
図1に示されるアルミニウム基複合部材の断面に存在する、多数のアルミナ部の粒子面積(アルミナ部断面積)と度数との関係を示すグラフの一例である。
【
図8】押出加工後に伸線加工により塑性変形を施し、加工硬化させたアルミニウム基複合部材と加工硬化したアルミニウム基複合部材を所定の条件で熱処理して軟化させた際の、降伏応力、最大応力(引張強さ)、及び伸びの関係を示すグラフの一例である。
【
図9】原料中における、形状の異なるアルミニウム粉末の表面積及びカーボンナノチューブの表面積と、カーボンナノチューブの添加量との関係を示す一例である。
【
図10】実施例1の原料混合物スラリー中のアルミニウム粉末の表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
【
図11】比較例4のアルミニウム基複合部材の断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
【
図12】実施形態に係るアルミニウム基複合部材の製造方法の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係るアルミニウム基複合部材、その製造方法及び電気接続部材について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0016】
[アルミニウム基複合部材]
図1は、実施形態(実施例1)に係るアルミニウム基複合部材の断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
図2は、
図1の拡大写真の一例である。
図3Aは、
図1を
図2よりも拡大した拡大写真の一例である。
図3Bは、
図3Aに示される領域のEDS(エネルギー分散型X線分光法)炭素マッピング像である。
図4は、
図3A中の炭素に着目して拡大観察した透過電子顕微鏡(TEM)写真の一例である。
図5Aは、
図1の黒点部BK
1のEDS分析結果の一例である。
図5Bは、
図1の白点部WH
1のEDS分析結果の一例である。
【0017】
図1及び
図2に示すように、実施形態に係るアルミニウム基複合部材1A(1)は、アルミニウム多結晶体100と、カーボンナノチューブ部20と、アルミナ部30と、不純物由来分散部40と、を備える。アルミニウム基複合部材1Aは、押出加工後の棒状部材の一例である。なお、アルミニウム基複合部材1Aの変形例として、不純物由来分散部40を含まない構成とすることも可能である。この変形例は、アルミニウム多結晶体100と、カーボンナノチューブ部20と、アルミナ部30とを備えるものとなる。
【0018】
(アルミニウム母材相)
アルミニウム多結晶体100は、粒界で区画された複数個のアルミニウム母材相10の多結晶体である。
図1には、アルミニウム多結晶体100を構成する多数個のアルミニウム母材相10の一例としてアルミニウム母材相10a、10b、10c、10dを示した。また、
図2には、アルミニウム多結晶体100を構成する多数個のアルミニウム母材相10の一例としてアルミニウム母材相10e、10fを示した。全てのアルミニウム母材相10は、不可避不純物を含む以外は実質的にアルミニウムのみからなるアルミニウム結晶粒である母材部11を主体として含む。
【0019】
アルミニウム母材相10中、母材部11以外の部分を分散部ともいう。実施形態に係るアルミニウム基複合部材1Aでは、カーボンナノチューブ部20、アルミナ部30及び不純物由来分散部40が、分散部になっている。不純物由来分散部40は、Fe、Cu、Si、Mn、Ti及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物からなる。
【0020】
アルミニウム母材相10は、アルミニウムを主成分とするアルミニウム結晶粒のみからなる母材部11中に、分散部が分散されたアルミニウム結晶粒になっている。母材部11は分散部を含まないアルミニウム結晶粒であり、アルミニウム母材相10は母材部11と分散部とを含むアルミニウム結晶粒である。
【0021】
母材部11及びアルミニウム母材相10は、共に、他のアルミニウム母材相10との間に形成される粒界は同一である。このため、母材部11及びアルミニウム母材相10の結晶粒の外形の形状は同一である。このため、アルミニウム母材相10の外形の形状は、母材部11の外形の形状と同じである。アルミニウム母材相10の外形の形状、すなわち母材部11の外形の形状は、特に限定されないが、通常、押出加工条件によって特定の配向性を有する形状を示したり、無配向な形状を示したりする。
【0022】
アルミニウム母材相10の大きさは、特に限定されない。ここで、アルミニウム母材相10の大きさとしては、例えば、アルミニウム基複合部材1Aの断面写真で観察されるアルミニウム結晶粒の断面積に基づきアルミニウム結晶粒を真円近似した場合の直径(μm)が用いられる。アルミニウム母材相10の直径(μm)は、例えば1~20μm、好ましくは2~10μm、より好ましくは2~5μmである。アルミニウム母材相10の直径が上記範囲内にあると強度と延性が高次元で両立したアルミニウム基複合部材を得ることができるため好ましい。なお、ホールペッチ則により、一般的に結晶粒サイズが小さくなるとアルミニウム基複合部材の強度が優れる。このため、アルミニウム基複合部材1Aの強度をさらに高めたい場合は、直径を上記範囲外としてもよい。また、アルミニウム母材相10は、好ましくは等軸晶である。
【0023】
<母材部>
母材部11は、母材部11の100質量部中に、アルミニウムが、例えば99.0~99.9質量部、好ましくは99.4~99.8質量部含まれる。アルミニウムの含有量が上記範囲内にあると工業的に調達可能であり、材料コスト、アルミニウム基複合部材1Aの導電特性、機械特性等に優れるため好ましい。なお、母材部11にアルミニウム以外の物質が含まれる場合、この物質は不可避不純物である。不可避不純物としては、例えばSi、Fe、Cu、Mn、Ti等が挙げられる。
【0024】
<カーボンナノチューブ部>
カーボンナノチューブ部20は、カーボンナノチューブ又はその凝集体からなり、少なくとも1個のアルミニウム母材相10中に分散された部分である。
【0025】
アルミニウム多結晶体100を構成する多数個のアルミニウム母材相10のうち少なくとも1個のアルミニウム母材相10中には、カーボンナノチューブ部20が分散される。
【0026】
カーボンナノチューブ部20は、アルミニウム母材相10中においてアルミニウム母材相10の転位の移動又は消滅による回復、再結晶、弾塑性変形等の転位運動を阻害していると考えられる。このため、カーボンナノチューブ部20は、アルミニウム多結晶体100を構成する多数個のアルミニウム母材相10に分散されると、アルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0027】
図2、
図3A及び
図3Bによれば、カーボンナノチューブ部20は、アルミニウム母材相10を構成するそれぞれの母材部11中に分散されていることが分かる。
【0028】
また、
図2によれば、アルミニウム母材相10e、10fを構成するそれぞれの母材部11中に、カーボンナノチューブ部20及び後述のアルミナ部30が分散されていることが分かる。
【0029】
カーボンナノチューブ部20は、カーボンナノチューブ又はその凝集体からなり、アルミニウム母材相10中に分散した部分である。ここで、カーボンナノチューブの凝集体とは、複数のカーボンナノチューブが凝集してなる凝集体を意味する。カーボンナノチューブの凝集体の形状としては、略同一方向に配列された複数のカーボンナノチューブの集合体、ランダムに配列された複数のカーボンナノチューブの凝集体、等とすることができる。
【0030】
カーボンナノチューブ部20を構成するカーボンナノチューブの長さが1~3000μm、好ましくは1~1000μmである。カーボンナノチューブの長さが上記範囲内にあると、繊維強化が発現してアルミニウム基複合部材1Aの強度を上昇させやすく、かつ高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0031】
カーボンナノチューブ部20を構成するカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブの凝集体は、球相当径が通常10~300nm、好ましくは10~200nmである。ここで、球相当径とは、カーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブの凝集体を、カーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブの凝集体と同一表面積を有する球体とみなしたときのその球体の直径(nm)を意味する。
【0032】
上記球相当径は、例えば、アルミニウム基複合部材の断面写真で観察されるカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブの凝集体の断面積に基づきカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブの凝集体を真円近似した場合の直径(nm)である。上記球相当径が上記範囲内にあると、オロワン機構に基づく分散強化が発現してアルミニウム基複合部材1Aの強度を上昇させやすく、かつアルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0033】
なお、
図4に示すカーボンナノチューブ部20は、カーボンナノチューブの凝集体であり、具体的には略同一方向に配列された複数のカーボンナノチューブの帯状の集合体になっている。なお、複数のカーボンナノチューブの帯状の集合体からなるカーボンナノチューブ部20は、
図4で観測される格子間隔が0.34nm程度であることから、炭素由来の格子像であることが分かる。
【0034】
図3Bは、
図3Aに示される領域のEDS炭素マッピング像である。
図3Aと
図3Bとを比較すると、
図3Bの炭素マッピング像の形状が、
図3Aのカーボンナノチューブ部20の形状と略一致していることから、
図3Aのカーボンナノチューブ部20が炭素からなることが分かる。
【0035】
カーボンナノチューブ部20は、アルミニウム基複合部材1Aの断面積200μm2当りに1個以上、好ましくは3個以上存在する。また、カーボンナノチューブ部20は、アルミニウム基複合部材1Aの断面積200μm2当りに64個以下、好ましくは30個以下存在する。アルミニウム基複合部材1Aの断面積中にカーボンナノチューブ部20が上記範囲内の個数で存在すると、アルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0036】
アルミニウム基複合部材1Aは、アルミニウム基複合部材1Aの100質量部中に、カーボンナノチューブ部20が、例えば0.1~1.0質量部、好ましくは0.4~0.5質量部、より好ましくは0.43~0.44質量部含まれる。カーボンナノチューブ部20の含有量が上記範囲内にあると、アルミニウム基複合部材1Aの製造加工性が優れると共に、高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0037】
カーボンナノチューブ部20は、アルミニウム基複合部材1Aの断面で観察されるカーボンナノチューブ部20の個数であるCNT部断面個数が、アルミニウム基複合部材1Aの断面の断面積1μm2当りに特定量、存在する。具体的には、CNT部断面個数はアルミニウム基複合部材1の断面に、例えば1~20個/μm2、好ましくは3~15個/μm2、より好ましくは5~10個/μm2存在する。CNT部断面個数が上記範囲内にあると、アルミニウム基複合部材1Aの製造加工性が優れると共に、高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。CNT部断面個数は、例えば、アルミニウム基複合部材1Aの断面のSEM写真を画像処理して特定される各カーボンナノチューブ部20の個数として算出される。
【0038】
カーボンナノチューブ部20は、アルミニウム基複合部材1Aの断面で観察されるカーボンナノチューブ部20の断面積であるCNT部断面積が、アルミニウム基複合部材1Aの断面の断面積3000μm2当りに特定量、存在する。具体的には、CNT部断面積はアルミニウム基複合部材1Aの断面積3000μm2当りに、0.075~67.90μm2、好ましくは0.075~30.16μm2、存在する。CNT部断面積が上記範囲内にあると、アルミニウム基複合部材1Aの製造加工性が優れると共に、高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。CNT部断面積は、例えば、アルミニウム基複合部材1Aの断面のSEM写真を画像処理して特定される各カーボンナノチューブ部20の面積として算出される。
【0039】
<アルミナ部>
アルミナ部30は、アルミナAl2O3からなり、少なくとも1個のアルミニウム母材相10中に分散された部分である。
【0040】
アルミニウム多結晶体100を構成する多数個のアルミニウム母材相10のうち少なくとも1個のアルミニウム母材相10中には、アルミナ部30が分散される。
【0041】
アルミナ部30は、アルミニウム母材相10中においてアルミニウム母材相10の転位の移動又は消滅による回復、再結晶、弾塑性変形等の転位運動を阻害していると考えられる。このため、アルミナ部30は、アルミニウム多結晶体100を構成する多数個のアルミニウム母材相10に分散されると、アルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0042】
図1には、多数個のアルミニウム結晶粒からなるアルミニウム母材相10a、10b、10c、10dと、アルミニウム母材相10c中に分散した黒点部BK
1と、が示されている。
【0043】
図5Aは、
図1の黒点部BK
1のEDS分析結果の一例である。
図5Aより、黒点部BK
1は、アルミニウムAlと酸素Oとを含むことから、Al
2O
3からなるアルミナ部30であることが分かる。
【0044】
図1及び
図5Aによれば、アルミナ部30は、アルミニウム母材相10cを構成する母材部11中に分散されていることが分かる。
【0045】
図6は、
図1に示されるアルミニウム基複合部材の断面に存在する、多数のアルミナ部断面積の分布を示すグラフの一例である。具体的には、
図6は、
図1に示されるアルミニウム基複合部材の断面の断面積3000μm
2当りに存在する、アルミナ部断面積と度数との関係を示すグラフである。
図6より、アルミナ部30は、粒子面積が、アルミニウム基複合部材1Aの断面の断面積3000μm
2当りに0.075~67.90μm
2の範囲で存在することが分かる。
【0046】
また、
図2によれば、アルミナ部30は、アルミニウム母材相10e、10fを構成するそれぞれの母材部11中に分散されていることが分かる。
【0047】
さらに、
図2によれば、アルミニウム母材相10e、10fを構成するそれぞれの母材部11中に、カーボンナノチューブ部20及びアルミナ部30が分散されていることが分かる。
【0048】
アルミニウム基複合部材1Aは、アルミニウム基複合部材1Aの100質量部中に、アルミナ部30が、例えば0.05~0.70質量部、好ましくは0.10~0.50質量部、より好ましくは0.20~0.40質量部含まれる。アルミナ部30の含有量が上記範囲内にあると、アルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0049】
アルミナ部30は、アルミニウム基複合部材1Aの断面で観察されるアルミナ部30の個数であるアルミナ部断面個数が、アルミニウム基複合部材1Aの断面の断面積1μm2当りに特定量、存在する。具体的には、アルミナ部断面個数はアルミニウム基複合部材1Aの断面に、例えば20~80個/μm2、好ましくは30~70個/μm2、より好ましくは40~59個/μm2存在する。アルミナ部断面個数が上記範囲内にあると、アルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。アルミナ部断面個数は、例えば、アルミニウム基複合部材1Aの断面のSEM写真を画像処理して特定される各アルミナ部30の個数として算出される。
【0050】
アルミナ部30は、アルミニウム基複合部材1Aの断面で観察されるアルミナ部30の断面積であるアルミナ部断面積が、アルミニウム基複合部材1Aの断面の断面積3000μm2当りに特定量、存在する。具体的には、アルミナ部断面積はアルミニウム基複合部材1Aの断面積3000μm2当りに、0.02~2.5μm2、好ましくは0.02~1.0μm2存在する。アルミナ部断面積が上記範囲内にあると、アルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。アルミナ部断面積は、例えば、アルミニウム基複合部材1Aの断面のSEM写真を画像処理して二値化し、二値化後に黒色部分として表される各アルミナ部30を真円近似した面積として算出される。
【0051】
<不純物由来分散部>
不純物由来分散部40は、Fe、Cu、Si、Mn、Ti及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物からなり、少なくとも1個のアルミニウム母材相10中に分散された部分である。
【0052】
図1には、アルミニウム母材相10a(10)中に分散した白点部WH
1が示されている。
【0053】
図5Bは、
図1の白点部WH
1のEDS分析結果である。
図5Bより、白点部WH
1は、AlとFeとCuとを含むことから、AlとFeとCuとの金属間化合物からなる不純物由来分散部40であることが分かる。
【0054】
図1及び
図5Bによれば、不純物由来分散部40は、アルミニウム母材相10aを構成する母材部11中に分散されていることが分かる。
【0055】
アルミニウム基複合部材1Aは、アルミニウム基複合部材1Aの100質量部中に、不純物由来分散部40が、例えば0.1~0.4質量部、好ましくは0.1~0.3質量部含まれる。ここで、不純物由来分散部40量とは、Fe、Cu、Si、Mn、Ti及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物からなる不可避不純物の合計量を意味する。不純物由来分散部40の含有量が上記範囲内にあるとアルミニウム基複合部材1Aの導電率の低下を防ぐことができるため好ましい。
【0056】
アルミニウム基複合部材1Aでは、分散部は、カーボンナノチューブ部20、アルミナ部30及び不純物由来分散部40になっている。
【0057】
(特性)
アルミニウム基複合部材1Aは、導電率が58%IACA以上、好ましくは60%IACA以上である。また、アルミニウム基複合部材1Aは、室温25℃で測定した0.2%耐力が40MPa以上、好ましくは81MPa以上である。導電率及び0.2%耐力は公知の方法で測定することができる。
【0058】
アルミニウム基複合部材1Aのアルミニウム母材相10は、降伏点を有しない高純度のアルミニウムからなる。また、アルミニウム基複合部材1Aにおいては、アルミニウム母材相10の質量比率が一番多い。このため、アルミニウム基複合部材1Aでは、応力を取り除いても0.2%の永久ひずみを生じる応力である0.2%耐力で応力を測定する。
【0059】
アルミニウム基複合部材1Aは、押出加工で製造された後に未加工の前記アルミニウム基複合部材1Aである押出後未加工複合部材の引張強さが、好ましくは120MPa以上、より好ましくは135MPa以上、より好ましくは145MPa以上である。ここで、未加工とは、「時効処理」以外の、物理的処理又は化学的処理をしていないことを意味する。
【0060】
また、アルミニウム基複合部材1Aは、押出後未加工複合部材の破断伸びが、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。押出後未加工複合部材の破断伸びが上記数値範囲内にあると、アルミニウム基複合部材1Aにおける、押出加工後の製品形状への曲げ、ねじり等の加工性が向上するため好ましい。
【0061】
(効果)
アルミニウム基複合部材1Aは、高温でのクリープ特性、例えば150℃でのクリープ特性に優れる。
【0062】
アルミニウム基複合部材1Aのクリープ特性は、クリープ試験で測定することができる。クリープ試験としては、例えば、大気中、150℃の条件下において、幅20mm、厚さ3mm、長さ200mmの角柱試験片に0.2%耐力の値の80%の荷重の負荷をかけ、時間と変位との関係を測定する方法が用いられる。
【0063】
アルミニウム基複合部材1Aによれば、上記クリープ試験において、500時間経過後もクリープ破断が生じない。また、アルミニウム基複合部材1Aによれば、上記クリープ試験において、500時間経過時の変位が1.1mm程度と小さい。このように、アルミニウム基複合部材1Aは、150℃等の高温でのクリープ特性に優れる。
【0064】
なお、アルミニウム基複合部材1Aに代えてアルミニウム合金A6063-T5を用いると、例えば4.3時間程度でクリープ破断が生じ、破断時の変位も50mm超える。このため、A6063-T5はクリープ特性が十分でない。また、アルミニウム基複合部材1Aに代えてAl-Fe合金を用いると、例えば26.9時間程度でクリープ破断が生じ、破断時の変位も50mm超える。このため、Al-Fe合金はクリープ特性が十分でない。
【0065】
アルミニウム基複合部材1Aが150℃等の高温でのクリープ特性に優れる理由は、以下のようであると推測される。アルミニウム基複合部材1Aにおいて、クリープ変形が小さく、クリープ破壊が生じにくいことは、アルミニウム基複合部材1Aの微視的構造が、転位の移動、増殖、回復等の転位運動を阻害しているためだと考えられる。
【0066】
具体的には、アルミニウム基複合部材1Aでは、アルミニウム母材相10中に分散しているカーボンナノチューブ部20及びアルミナ部30がそれぞれナノサイズで小さい。このため、アルミニウム基複合部材1Aでは、ナノサイズのカーボンナノチューブ部20及びアルミナ部30が上記転位運動を阻害してクリープ破壊までの変形を遅延させることから、150℃等の高温でのクリープ特性が良好になっているものと推測される。
【0067】
また、アルミニウム基複合部材1Aは、押出後未加工複合部材の引張強さが高く破断伸びが大きい。
【0068】
実施形態に係るアルミニウム基複合部材1Aは、例えば、下記の実施形態に係るアルミニウム基複合部材の製造方法により製造される。
【0069】
[アルミニウム基複合部材の製造方法)
実施形態に係るアルミニウム基複合部材の製造方法は、CNT-アルコール分散液の調製工程と、原料混合物スラリーの調製工程と、原料混合物乾燥工程と、圧粉体成形工程と、金属押出加工工程と、を有する。
図12に、実施形態に係るアルミニウム基複合部材の製造方法の一例を示す。
図12に示す製造方法は、実施形態に係るアルミニウム基複合部材の製造方法を工程を用いない表現で示したものである。
【0070】
(CNT-アルコール分散液の調製工程)
CNT-アルコール分散液の調製工程は、アルコール中にカーボンナノチューブが分散されたCNT-アルコール分散液を調製する工程である。
【0071】
アルコールとしては、例えば、2-プロパノール、エタノール、メタノール、2-メチル-1プロパノール、1-ブタノール、1-オクタノール、ベンジルアルコール等が用いられる。このうち、2-プロパノールは、工業的に比較的安価で、分散液溶媒として良好な分散性を示すため好ましい。CNT-アルコール分散液を構成するアルコールは、CNT-アルコール分散液にアルミニウム粉末が添加されたとき、アルミニウム粉末を構成するアルミニウム粒子の表面にアルミナAl2O3層がさらに形成されることを抑制する。なお、CNT-アルコール分散液へのアルミニウム粉末の添加は、後述の原料混合物スラリーの調製工程において行われる。
【0072】
カーボンナノチューブとしては、アルミニウム基複合部材1Aで用いられるものと同じものが用いられる。なお、カーボンナノチューブは、予め酸で洗浄することにより白金等の金属触媒やアモルファスカーボンを除去したり、予め高温処理することにより黒鉛化したりしたものであってもよい。カーボンナノチューブにこのような前処理を行うと、カーボンナノチューブを高純度化したり高結晶化したりすることができる。
【0073】
カーボンナノチューブは、長さが1~3000μm、好ましくは1~1000μmである。カーボンナノチューブの長さが上記範囲内にあると、繊維強化が発現してアルミニウム基複合部材1Aの強度を上昇させやすく、かつ高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0074】
カーボンナノチューブ部20を構成するカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブの凝集体は、球相当径が10~300nm、好ましくは10~200nmである。上記球相当径が上記範囲内にあると、オロワン機構に基づく分散強化が発現して、得られるアルミニウム基複合部材1Aの強度を上昇させやすく、かつアルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0075】
CNT-アルコール分散液を調製する方法としては、例えば、カーボンナノチューブを含むアルコール混合物にであるCNT-アルコール混合物に超音波を照射する方法、CNT-アルコール混合物をミリング装置等の攪拌混合装置で攪拌する方法、が用いられる。ミリング装置を用いると、カーボンナノチューブの凝集が解きほぐれ微細に分散するため好ましい。ミリング装置での攪拌混合時間は、例えば、1~120分行う。
【0076】
CNT-アルコール分散液は、25℃での粘度が1~3000mPa・sであると、カーボンナノチューブが沈降せず、良好に分散するため好ましい。なお、カーボンナノチューブが沈降したCNT-アルコール分散液を用いると、アルミニウム基複合部材1A中に含まれるカーボンナノチューブがμmオーダー、mmオーダーのように大きいまま凝集しやすい。この場合、アルミニウム基複合部材1Aに、強度の低下、クリープ変形時の応力の部分的な集中に基づく早期のクリープ破断等が生じやすいため好ましくない。
【0077】
本工程によれば、アルコール中にカーボンナノチューブが分散されたCNT-アルコール分散液が得られる。
【0078】
(原料混合物スラリーの調製工程)
原料混合物スラリーの調製工程は、CNT-アルコール分散液にアルミニウム粉末を添加して、アルコール中にアルミニウム粉末とカーボンナノチューブとアルミナと含む原料混合物スラリーを調製する工程である。
【0079】
CNT-アルコール分散液に添加されるアルミニウム粉末としては、例えばFe、Cu、Si、Mn、Ti及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を不可避不純物として含むアルミニウム粉末が用いられる。また、CNT-アルコール分散液に添加されるアルミニウム粉末としては、例えば、球状又は扁平状のアルミニウム粉末が用いられる。ここで、球状とは、アスペクト比が1~2の範囲内にあることを意味する。また、アスペクト比とは、アルミニウム粉末の粒子の顕微鏡像において、(最大長径/最大長径に直交する幅)で定義される値を意味する。さらに、扁平状とは、アスペクト比が2を超えることを意味する。
【0080】
なお、粒子の扁平状の程度を示す指標として、扁平率を用いてもよい。ここで、扁平率とは、扁平化前の球状粒子の粉末直径Ds(μm)に対する、扁平化後の扁平化粒子の粉末直径Df(μm)の比率(Df/Ds)を意味する。アルミニウム粉末を扁平化する場合、扁平率を、例えば1.2~4、好ましくは1.5~3.0とする。
【0081】
アルミニウム粉末は、大気又は酸化雰囲気に曝露させると、通常、アルミニウム粉末を構成するアルミニウム粒子の表面にアルミナAl2O3の自然酸化被膜が形成される。
【0082】
扁平状のアルミニウム粉末を用いる場合、アスペクト比が1以上であると、アルミニウム粉末の表面積が大きくなり、カーボンナノチューブの付着面積が大きくなることでカーボンナノチューブを凝集させずに配合量を多くすることが可能であるため好ましい。このように原料混合物におけるカーボンナノチューブの配合量が多いと、アルミニウム基複合部材1Aのクリープ特性が高くなりやすいため好ましい。
【0083】
ここで、原料混合物とは、アルミニウム粉末とカーボンナノチューブとアルミナAl2O3とを含む混合物を意味する。原料混合物を構成するアルミナAl2O3としては、アルミニウム粉末を構成するアルミニウム粒子の表面に形成されたアルミナAl2O3の自然酸化被膜のみを用いてもよいし、アルミニウム粉末と別に配合したものを用いてもよいし、これらを併用してもよい。
【0084】
なお、原料混合物においてカーボンナノチューブの表面積がアルミニウム粉末の表面積よりも大きくなりすぎると、余剰のカーボンナノチューブが凝集してアルミバルク中に分散されることから分散強化に寄与せず破壊の起点となり得るため、好ましくない。また、カーボンナノチューブの表面積の総和がアルミニウム粉末の表面積の総和よりも大きくなりすぎると、カーボンナノチューブが効率的に強化に寄与しないため、無駄になる。このため、原料混合物において、カーボンナノチューブの表面積は、アルミニウム粉末の表面積よりも大きくなりすぎないことが経済上及び得られるアルミニウム基複合部材1Aの高温でのクリープ特性上、好ましい。例えば、原料混合物におけるカーボンナノチューブの表面積は、アルミニウム粉末の表面積と同等以下であることが好ましい。扁平状のアルミニウム粉末を用いると、球状のアルミニウム粉末を用いるよりもアルミニウム粉末の表面積を大きくすることができることから、原料混合物中のカーボンナノチューブの配合量を大きくすることができるため好ましい。
【0085】
図9は、原料中における、形状の異なるアルミニウム粉末の表面積及びカーボンナノチューブの表面積と、カーボンナノチューブの添加量との関係を示す一例である。
図9中、「球状Al」のグラフは、粒径10μm、扁平率が1.0のアルミニウム粉末の、原料混合物中の配合量(添加量)と表面積との関係を示す。
図9中、「ディスク状Al」のグラフは、球状Alを扁平率3で扁平化したアルミニウム粉末の、原料混合物中の配合量(添加量)と表面積との関係を示す。
図9中、「CNT」のグラフは、直径10~20nmのカーボンナノチューブの、原料混合物中の配合量(添加量)と表面積との関係を示す。
【0086】
図9より、「ディスク状Al」のグラフは、どの配合量においても、「球状Al」のグラフよりも表面積が大きいことが分かる。また、
図9より、カーボンナノチューブの表面積は、「CNT添加量」が少ないときは「ディスク状Al」及び「球状Al」より小さく、「CNT添加量」が増加すると「ディスク状Al」の表面積及び「球状Al」の表面積の順番に上回ることが分かる。
【0087】
上記のように原料混合物におけるカーボンナノチューブの表面積が、アルミニウム粉末の表面積よりも大きくなりすぎるとカーボンナノチューブの凝集によりカーボンナノチューブに無駄が生じるため好ましくない。
図9より、「球状Al」よりも「ディスク状Al」のほうが、原料混合物におけるカーボンナノチューブの配合量をより多くすることによりカーボンナノチューブに無駄がなくカーボンナノチューブの表面積をより増加させることが可能であることが分かる。
【0088】
本工程で、CNT-アルコール分散液にアルミニウム粉末を添加すると、アルコール中にアルミニウム粉末とカーボンナノチューブとアルミナと含む原料混合物スラリーが調製される。
【0089】
原料混合物スラリーを調製する方法としては、例えば、CNT-アルコール混合物にアルミニウム粉末とアルミナとを添加してミリング装置等の攪拌混合装置で攪拌する方法、を用いることができる。また、原料混合物スラリーを調製する方法としては、例えば、CNT-アルコール混合物にアルミニウム粉末とアルミナとを添加して超音波を照射する方法、を用いることができる。
【0090】
このうち、ミリング装置を用いる方法は、カーボンナノチューブの絡み合いが解け、かつアルミニウム粉末を扁平化させることができるため好ましい。ミリング装置としては、例えば、スパイクミル(登録商標)が用いられる。スパイクミルは、連続アニュラー型ビーズミルである。具体的には、スパイクミルは、円筒状のベッセルと、ベッセル内に配置され、外側表面にスパイク形状が形成された円筒状のローターと、を備えた二重円筒型の構造を有する。
【0091】
スパイクミルでは、ベッセル-ローター間の環状間隙にビーズ及び処理対象物、並びに必要により溶媒を投入し、ローターを回転させると、ビーズが運動し、処理対象物にビーズの衝突エネルギーが与えられ、処理対象物に粉砕、せん断、磨砕作用が生じる。例えば、スパイクミルに投入されたアルミニウム粉末は、通常、せん断応力等により扁平化する。スパイクミルを用いられるビーズとしては、例えば、直径0.5~2.5mmのジルコニアビーズが挙げられる。スパイクミルでの攪拌混合時間は、例えば1~120分、好ましくは10~60分、より好ましくは30~60分とする。
【0092】
ミリング装置を用いると、通常、アルコール分散液中のカーボンナノチューブがファンデルワールス力によりアルミニウム粉末の表面に吸着する。本工程では、カーボンナノチューブ及びアルミニウム粉末の形状、配合量等の調整により、通常、原料混合物スラリー中に存在するカーボンナノチューブの95質量%以上をアルミニウム粉末の表面に吸着させることができる。
【0093】
本工程においてミリング装置を用いる場合、ミリング装置によりアルミニウム粉末が扁平化される。このため、ミリング装置を用いる場合、CNT-アルコール分散液に添加されるアルミニウム粉末は、扁平状でなくてもよいし扁平状であってもよい。また、アルミニウム粉末は、予めアルミニウム粉末のみについてミリング装置等を用いて扁平状にしてから、CNT-アルコール分散液に添加してもよい。
【0094】
なお、アルミニウム粒子の表面にアルミナAl2O3の自然酸化被膜が形成されたアルミニウム粉末について、ミリング装置等を用いて扁平状にすると、通常、アルミニウム粒子の変形に伴い自然酸化被膜が破壊される。
【0095】
本工程によれば、アルコール中にアルミニウム粉末とカーボンナノチューブとアルミナと含む原料混合物スラリーが得られる。
【0096】
原料混合物スラリーは、金属押出加工工程後に得られるアルミニウム基複合部材1Aにおいて、カーボンナノチューブ部20の含有量が適切になるように配合する。具体的には、上記原料混合物スラリー及び上記CNT-アルコール混合物は、得られるアルミニウム基複合部材1Aの100質量部中にカーボンナノチューブ部20が例えば0.1~0.9質量部含まれるように調製する。
【0097】
(原料混合物乾燥工程)
原料混合物乾燥工程は、原料混合物スラリーを乾燥させて原料混合物を作製する工程である。
【0098】
乾燥方法としては、例えば、エバポレーターを用いる方法、自然乾燥させる方法、加熱する方法等が用いられる。このうち、エバポレーターを用いる方法は、原料混合物スラリーに含まれるアルコールを回収して再利用することが容易であるため好ましい。アルコールの再利用は、例えば、回収したアルコールを蒸留して再生することにより可能である。
【0099】
本工程によれば、アルミニウム粉末とカーボンナノチューブとアルミナとを含む原料混合物が得られる。
【0100】
原料混合物は、原料混合物の100質量部中に、アルミニウム粉末が、例えば98.6~99.5質量部、好ましくは98.9~99.2質量部含まれる。アルミニウム粉末の含有量が上記範囲内にあるとアルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0101】
原料混合物は、原料混合物の100質量部中に、カーボンナノチューブが、例えば0.1~0.9質量部、好ましくは0.4~0.5質量部、より好ましくは0.43~0.44質量部含まれる。カーボンナノチューブの含有量が上記範囲内にあるとアルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0102】
原料混合物は、原料混合物の100質量部中に、アルミナが、例えば0.05~0.70質量部、好ましくは0.10~0.50質量部、より好ましくは0.20~0.40質量部含まれるようにする。原料混合物中のアルミナの含有量が上記範囲内にあると、アルミニウム基複合部材1Aが高温でのクリープ特性に優れるため好ましい。
【0103】
原料混合物では、カーボンナノチューブの多く又はすべてが、アルミニウム粉末の表面に吸着されるようにするとカーボンナノチューブの凝集体の生成、カーボンナノチューブの含有量不足等が生じにくい。このため、カーボンナノチューブの多く又はすべてが、アルミニウム粉末の表面に吸着されるようにすると、得られるアルミニウム基複合部材1Aの高温でのクリープ特性が優れるため好ましい。カーボンナノチューブの表面積とアルミニウム粉末の表面積とが適切な関係にあると、通常、カーボンナノチューブの多く又はすべては、ファンデルワールス力によりアルミニウム粉末の表面に吸着される。カーボンナノチューブの表面積とアルミニウム粉末の表面積とが適切な関係にある場合とは、例えば、以下の関係を満たす場合である。すなわち、原料混合物において、カーボンナノチューブの表面積が、アルミニウム粉末の表面積の例えば0.5~1.5倍、好ましくは0.8~1.2倍、より好ましくは0.9~1.1倍になる関係である。
【0104】
なお、カーボンナノチューブの表面積とアルミニウム粉末の表面積とが不適切な関係にあると、カーボンナノチューブの凝集体の過剰な生成、カーボンナノチューブの含有量不足等が生じやすい。このため、カーボンナノチューブの表面積とアルミニウム粉末の表面積とが不適切な関係にあると、得られるアルミニウム基複合部材1Aの高温でのクリープ特性が劣化しやすい。
【0105】
(圧粉体成形工程)
圧粉体成形工程は、原料混合物に圧力を加えて予備圧粉成形し粉末圧粉体を成形する工程である。
【0106】
圧粉体成形工程では、上記原料混合物に圧力を加えて押し固めることにより粉末圧粉体を成形する。原料混合物に圧力を加える方法としては公知の方法を用いることができる。例えば、筒状の圧粉体成形容器に原料混合物を投入した後、この容器内の原料混合物を加圧する方法が用いられる。圧粉体成形工程は、粉末圧粉体を連続的に成形する方法、粉末圧粉体をバッチで成形する方法、のいずれであってもよい。
【0107】
圧粉体成形工程で原料混合物に圧力を加える処理は、加熱せずに、通常、10~35℃で行う。圧粉体成形工程で原料混合物に圧力が加えられると、粉末圧粉体が成形される。圧粉体成形工程では、アルミニウム粉末の粒子の表面に形成されたアルミナAl2O3層、又はアルミニウム粉末と別に配合されたアルミナ粉末に圧力が加えられることにより、アルミニウム粉末を構成するアルミニウム粒子中にアルミナが分散することがある。圧粉体成形工程においてアルミニウム粉末を構成するアルミニウム粒子中にアルミナが分散すると、最終製品であるアルミニウム基複合部材1Aにおいてアルミニウム母材相10中にアルミナ部30を分散しやすくなるため好ましい。
【0108】
本工程によれば、粉末圧粉体が得られる。得られた粉末圧粉体は、次工程である金属押出加工工程に用いられる。
【0109】
なお、粉末圧粉体については、必要により、粉末圧粉体の少なくとも一部を焼結させる焼結工程を行ってもよい。焼結工程を行うと、粉塵爆発のリスクを低減することができるため好ましい。焼結工程の焼結温度は、例えば500~600℃とする。焼結工程では、通常、粉末圧粉体を構成するアルミニウム粉末の粒子同士が焼結して焼結体が形成される。なお、焼結前の粉末圧粉体に含まれるカーボンナノチューブ及びアルミナは、通常、得られた焼結体を構成するアルミニウム粒の表面に存在する。焼結工程で得られた焼結体は、次工程である金属押出加工工程に用いられる。
【0110】
以下、上記粉末圧粉体及び焼結体を含めた概念を「押出前成形体」という。押出前成形体は、アルミニウムとカーボンナノチューブとアルミナとを含む固形物又は焼結体である。
【0111】
(金属押出加工工程)
金属押出加工工程は、押出前成形体に対し押出加工を行う工程である。押出前成形体が粉末圧粉体である場合、金属押出加工工程は、粉末圧粉体に対し押出加工を行う工程である。押出前成形体が焼結体である場合、金属押出加工工程は、焼結体に対し押出加工を行う工程である。
【0112】
金属押出加工工程では、押出前成形体に押出加工を行うことにより、押出前成形体から、アルミニウム母材相10とカーボンナノチューブ部20とアルミナ部30とを備えるアルミニウム基複合部材1を作製する。
【0113】
金属押出加工工程では、例えば、押出前成形体を加熱して押出加工する。
【0114】
押出前成形体の加熱は、押出前成形体の温度が、通常400℃以上、好ましくは450~550℃、より好ましくは480~520℃になるように行う。押出前成形体の温度が400℃未満であると、押出加工が困難になる。また、押出前成形体の温度が550℃を超えると、アルミニウム基複合部材1A中にアルミニウムカーバイド(炭化アルミニウム)が生成されるおそれがある。
【0115】
押出前成形体の加熱時間は、押出前成形体および加熱炉の体積に依存して変化する。押出前成形体の加熱時間を、例えば1~180分、好ましくは60~120分とすると、金属押出加工工程での押出前成形体の均熱化が容易であるため好ましい。
【0116】
金属押出加工工程が終了すると、アルミニウム母材相10とカーボンナノチューブ部20とアルミナ部30と不純物由来分散部40とを備えるアルミニウム基複合部材1Aが得られる。金属押出加工工程で製造され、その後、未加工のアルミニウム基複合部材1Aを、「押出後未加工複合部材」という。ここで、未加工とは、「時効処理」以外の、物理的処理又は化学的処理をしていないことを意味する。
【0117】
[電気接続部材]
本実施形態に係る電気接続部材は、本実施形態に係るアルミニウム基複合部材1を用いて形成される部材である。電気接続部材としては、例えば、バスバー、端子、ボルト又はナットが用いられる。本実施形態に係る電気接続部材は、自動車用配索部材として用いられると、自動車のエンジン部、バッテリー近傍の部材、等の発熱部位における150℃程度の高温環境下で、クリープ特性に優れる特性を発揮することができるため好ましい。
【0118】
(効果)
本実施形態に係る電気接続部材は、アルミニウム基複合部材1を用いる。このため、本実施形態に係る電気接続部材は、アルミニウム基複合部材1を用いた部分が高温でのクリープ特性、例えば150℃でのクリープ特性に優れる。
【実施例】
【0119】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0120】
[実施例1]
(アルミニウム基複合部材の製造)
<CNT-アルコール分散液の調製工程>
2-プロパノール中に、平均直径が10~15nmのカーボンナノチューブを添加し、株式会社井上製作所製スパイクミル(登録商標)SHG-10を用いて60分混合して、CNT-アルコール分散液を調製した。スパイクミルには、直径1.0mmのジルコニアビーズを投入した。
2-プロパノールへのカーボンナノチューブの添加量は、最終製品として得られるアルミニウム基複合部材が、アルミニウムと不可避不純物との合計量99.5質量%、カーボンナノチューブ0.5質量%となるように調整した。
CNT-アルコール分散液は、25℃での粘度が1~3000mPa・sの範囲内になるように調整した。
【0121】
<原料混合物スラリーの調製工程>
CNT-アルコール分散液に、アルミニウム粉末を添加し、上記スパイクミルを用いて60分混合して、原料混合物スラリーを調製した。アルミニウム粉末としては、粒子形状が球状で平均粒径が75~150μmの範囲内にあり、表面に酸化アルミニウム被膜が形成されたものを用いた。スパイクミルには、直径1.0mmのジルコニアビーズを投入した。
アルミニウム粉末の添加量は、最終製品として得られるアルミニウム基複合部材が、アルミニウムと不可避不純物との合計量99.5質量%、カーボンナノチューブ0.5質量%となるように調整した。
得られた原料混合物スラリーでは、ほぼ全てのカーボンナノチューブが、扁平化されたアルミニウム粉末の表面にファンデルワールス力で吸着していた。
図10は、実施例1の原料混合物スラリー中のアルミニウム粉末の表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
図10において、扁平化されたアルミニウム粉末5の表面に観察される多数の紐状の物質はカーボンナノチューブ部20を示す。
図10より、扁平化されたアルミニウム粉末5の表面にカーボンナノチューブ部20が存在することが確認された。
【0122】
<原料混合物乾燥工程>
エバポレーターを用い、原料混合物スラリーから2-プロパノールを蒸発させて回収し、原料混合物スラリーを乾燥させた。これにより、扁平化されたアルミニウム粉末と、カーボンナノチューブと、を含む原料混合物が得られた。
【0123】
<圧粉体成形工程>
25℃の大気中で、回転式打錠機を用いて原料混合物を圧粉成形し、直径5mm、高さ5mmの圧粉体(金属ペレット)を作成した。なお、参考のために、25℃の大気中で、ハンドプレス機を用いて原料混合物を圧粉成形したところ、直径60mm、高さ10mmの圧粉体が得られた。
【0124】
<金属押出加工工程>
圧粉体(金属ペレット)を大気圧下、ダイス温度500℃で10分間保持し、押出加工した。
【0125】
押出加工の終了後、幅20mm、厚さ2.0mmの角柱状のアルミニウム基複合部材(試料No.A1)が得られた。得られたアルミニウム基複合部材は、金属押出加工工程で製造された後、「時効処理」以外の物理的処理又は化学的処理をしていない、未加工の押出後未加工複合部材である。
【0126】
(評価)
得られたアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材)について、下記評価を行った。
【0127】
<断面観察>
得られたアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材)の断面について、走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、EDS(エネルギー分散型X線分光法)で成分を分析した。
また、SEM観察に基づき、アルミニウム基複合部材1を構成する母材部11及び分散部について、大きさ、個数等を調べた。調査対象である分散部としては、カーボンナノチューブ部20、アルミナ部30、不純物由来分散部40、及び母材部11に分散されたその他の材質からなる部分、とした。
結果を、表1、
図1~
図6に示す。
【0128】
【0129】
図1は、実施例1に係るアルミニウム基複合部材の断面のSEM写真の一例である。
図2は、
図1の拡大写真の一例である。
図3Aは、
図1を
図2よりも拡大した拡大写真の一例である。
図3Bは、
図3Aに示される領域のEDS(エネルギー分散型X線分光法)炭素マッピング像である。
図4は、
図3A中の炭素に着目して拡大観察した透過電子顕微鏡(TEM)写真の一例である。
図5Aは、
図1の黒点部BK
1のEDS分析結果の一例である。
図5Bは、
図1の白点部WH
1のEDS分析結果である。
図6は、
図1に示されるアルミニウム基複合部材の断面に存在する、多数のアルミナ部の粒子面積(アルミナ部断面積)と度数との関係を示すグラフの一例である。
【0130】
図1~
図3Bに示すように、アルミニウム基複合部材1は、アルミニウム母材相10と、カーボンナノチューブ部20と、黒点部BK
1と、白点部WH
1と、を備える。ここで、黒点部BK
1は、
図5Aより、Al
2O
3からなるアルミナ部30であることが分かった。また、白点部WH
1は、
図5Bより、AlとFeとCuとの金属間化合物からなる不純物由来分散部40であることが分かった。
【0131】
従って、
図1~
図3Bに示すアルミニウム基複合部材1は、アルミニウム母材相10と、カーボンナノチューブ部20と、アルミナ部30と、不純物由来分散部40とを備えることが分かった。
【0132】
また、
図6より、アルミナ部30は、粒子面積が、アルミニウム基複合部材1の断面の断面積3000μm
2当りに0.02~2.5μm
2の範囲で存在することが分かった。
【0133】
<元素分析>
アルミニウム基複合部材1を構成するアルミニウム母材相10の、母材部11及び分散部について、透過型電子顕微鏡(TEM)及びエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いてより詳しく元素分析した。調査対象である分散部としては、カーボンナノチューブ部20、アルミナ部30、不純物由来分散部40、及び母材部11に分散されたその他の材質からなる部分、とした。
結果を、表2に示す。表2において、分散部のCNTの欄はカーボンナノチューブ部20、分散部のAl2O3の欄はアルミナ部30を示す。なお、分散部のAl4C3の欄はその他の材質からなる部分を示す。
【0134】
【0135】
得られたアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材)について、以下のようにして、引張強さ、0.2%耐力、破断伸び、導電率、及びクリープ特性を測定した。
【0136】
<引張強さ、0.2%耐力、破断伸び>
幅20mm×厚さ2.0mmの角柱状の試験片を用いて引張強さ、0.2%耐力、破断伸びを測定した。結果を表3に示す。なお、後述の比較例1~4ではφ0.3mm~1.0mmの線材を用いて引張強さ、0.2%耐力、破断伸びを測定した。
【0137】
【0138】
<導電率>
幅20mm×厚さ2.0mmの角柱状の試験片を用い、JIS H 0505に基づき導体抵抗を測定して導電率を測定した。結果を表3に示す。
【0139】
<クリープ特性>
幅20mm、厚さ2.0mm、長さ300mmの角柱状の試験片を用い、クリープ特性を測定した。なお、試験片の長さは試験機の仕様により適宜変えた。具体的には、クリープ試験機のチャック部に試験片をセットし、大気中、150℃の条件下においた試験片に、0.2%耐力の値の80%の荷重の負荷をかけ、時間と変位との関係を測定した。そして、試験片が破断したときの時間(クリープ破断時間)又は最大500時間までの変位を測定した。
クリープ特性は、クリープ破断時間が500時間以下の場合に「×不良」、クリープ破断時間が500時間以内に観察されない場合に「○良好」と評価した。結果を表3及び
図7に示す。
図7において、実施例1を「アルミニウム基複合部材」と示す。
【0140】
[実施例2]
(アルミニウム基複合部材の作製)
平均粒径が75μmのアルミニウム粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、幅20mm、厚さ2.0mmの角柱状のアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材、試料No.A2)を得た。
【0141】
(評価)
得られたアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材)につき、実施例1と同様にして、断面観察及び元素分析を行い、引張強さ、0.2%耐力、破断伸び、導電率及びクリープ特性を測定した。結果を表1~表3に示す。
【0142】
[実施例3]
(アルミニウム基複合部材の作製)
平均粒径が45μmのアルミニウム粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、幅20mm、厚さ2.0mmの角柱状のアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材、試料No.A3)を得た。
【0143】
(評価)
得られたアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材)につき、実施例1と同様にして、断面観察及び元素分析を行い、引張強さ、0.2%耐力、破断伸び、導電率及びクリープ特性を測定した。結果を表1~表3に示す。
【0144】
[比較例1]
(アルミニウム基複合部材の作製)
実施例1のアルミニウム基複合部材に代えて、市販されている幅20mm、板厚2.0mmのアルミニウム合金A6063-T5の角柱状の試験片(試料No.B1)を用いた。また、アルミニウム合金A6063-T5からなるφ0.3mm~1.0mmの線状の試験片も作成した。
【0145】
(評価)
角柱状の試験片を用いて元素分析、導電率及びクリープ特性を測定し、線状の試験片を用いて引張強さ、0.2%耐力及び破断伸びを測定した。
具体的には、実施例1のアルミニウム基複合部材の試験片に代えて幅20mm、板厚2.0mmのアルミニウム合金A6063-T5の角柱状の試験片を用いた以外は実施例1と同様にして、元素分析、導電率及びクリープ特性を測定した。
また、実施例1のアルミニウム基複合部材の試験片に代えてφ0.3mm~1.0mmの線状の試験片を用いた以外は実施例1と同様にして、引張強さ、0.2%耐力及び破断伸びを測定した。
結果を表2及び表3、並びに
図7に示す。
図7において、比較例1を「A6063-T5」と示す。
【0146】
[比較例2]
(アルミニウム基複合部材の作製)
実施例1のアルミニウム基複合部材に代えて、自動車用低圧電線向けに使用されているAl-Fe系の合金(試料No.B2)を用いて幅20mm、板厚2.0mmの角柱状の試験片を作成した。また、上記Al-Fe系の合金からなるφ0.3mm~1.0mmの線状の試験片も作成した。
【0147】
(評価)
角柱状の試験片を用いて元素分析、導電率及びクリープ特性を測定し、線状の試験片を用いて引張強さ、0.2%耐力及び破断伸びを測定した。
具体的には、実施例1のアルミニウム基複合部材の試験片に代えて幅20mm、板厚2.0mmの角柱状のAl-Fe合金の試験片を用いた以外は実施例1と同様にして、元素分析、導電率及びクリープ特性を測定した。
また、実施例1のアルミニウム基複合部材の試験片に代えてφ0.3mm~1.0mmの線状の試験片を用いた以外は実施例1と同様にして、引張強さ、0.2%耐力及び破断伸びを測定した。
結果を表2及び表3、並びに
図7に示す。
図7において、比較例1を「Al-Fe合金」と示す。
【0148】
[比較例3]
(アルミニウム基複合部材の作製)
実施例1のアルミニウム基複合部材に代えて、市販されている幅20mm、板厚2.0mmの純アルミニウムA1070-O(試料No.B3)を用いた。また、純アルミニウムA1070-Oからなるφ0.3mm~1.0mmの線状の試験片も作成した。
【0149】
(評価)
角柱状の試験片を用いて元素分析、導電率及びクリープ特性を測定し、線状の試験片を用いて引張強さ、0.2%耐力及び破断伸びを測定した。
具体的には、実施例1のアルミニウム基複合部材の試験片に代えて幅20mm、板厚2.0mmのA1070-Oの角柱状の試験片を用いた以外は実施例1と同様にして、元素分析、導電率及びクリープ特性を測定した。
また、実施例1のアルミニウム基複合部材の試験片に代えてφ0.3mm~1.0mmの線状の試験片を用いた以外は実施例1と同様にして、引張強さ、0.2%耐力及び破断伸びを測定した。
結果を表3に示す。
【0150】
[比較例4]
(アルミニウム基複合部材の作製)
実施例1のアルミニウム基複合部材に代えて、隣接するアルミニウム母材相10の粒界のみにカーボンナノチューブが存在するアルミニウム基複合部材を用いた。これ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材、試料No.B4)を得た。試料No.B4のアルミニウム基複合部材は、以下のようにして作製した。
【0151】
はじめに、得られるアルミニウム基複合部材における炭化アルミニウムの含有量が0.40質量%となるように、アルミニウム粉末とカーボンナノチューブとを秤量した。なお、アルミニウム粉末は、株式会社高純度化学研究所製、製品名ALE16PBを用い、平均粉体径が20μmであった。また、カーボンナノチューブは、CNano Technology Limited製、製品名Flotube9000G2を用いた。
次に、秤量したアルミニウム粉末及びカーボンナノチューブを遊星ボールミルのポットに投入し、回転処理することにより、混合粉末を調製した。遊星ボールミルを用いたため、混合粉末中のアルミニウム粉末は扁平形状になっていた。さらに、得られた混合粉末を金型に投入し、常温で600MPaの圧力を加えることにより、圧粉体を調製した。
得られた圧粉体を、電気炉を用いて、真空中630℃で300分間加熱することにより、アルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材)を調製した。このアルミニウム基複合部材は、隣接するアルミニウム母材相10の粒界のみにカーボンナノチューブが存在するアルミニウム基複合部材になっていた。
さらに得られたアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材)を伸線加工したところ、φ1.0mmの線材からなるアルミニウム基複合部材(線状の試験片、試料No.B4)が得られた。
【0152】
(評価)
実施例1のアルミニウム基複合部材の試験片に代えてφ1.0mmの線状の試験片を用いた以外は実施例1と同様にして、元素分析等を行った。すなわち、φ1.0mmの線状の試験片を用いた以外は実施例1と同様にして、断面観察及び元素分析を行い、引張強さ、0.2%耐力、破断伸び、導電率及びクリープ特性を測定した。結果を表3及び
図11に示す。
【0153】
図11は、比較例4のアルミニウム基複合部材の断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
図11より、比較例4のアルミニウム基複合部材50では、アルミニウム母材相110中にAl
4C
3からなる分散部150が分散していることが分かる。
【0154】
[実施例4]
(アルミニウム基複合部材の作製)
アルミニウム基複合部材の加工硬化特性及び軟化特性を調べた。具体的には、実施例1(試料No.A1)と同じ組成の直径2.6mmの線状のアルミニウム基複合部材(押出後未加工複合部材、試料No.C1)に伸線処理、熱処理等を行ってアルミニウム基複合部材(試料No.C2~C4)を作製した。以下、試料No.C1の押出後未加工複合部材を「押出後部材」という。
具体的には、押出後部材(試料No.C1)に相当ひずみεが3.32の伸線処理を行ったところ「伸線後部材」(試料No.C2)が得られた。伸線後部材は、直径0.55mmの線状の試験片であった。
また、伸線後部材(試料No.C2)に325℃で1時間の熱処理を行ったところ「熱処理後部材」(試料No.C3)が得られた。
さらに、伸線後部材(試料No.C2)に400℃で1時間の熱処理を行ったところ「熱処理後部材」(試料No.C4)が得られた。
【0155】
(評価)
得られたアルミニウム基複合部材(試料No.C1~C4)について、引張強さ、降伏応力及び伸びを測定した。なお、押出後部材(試料No.C1)については、実施例1で引張強さ及び伸びを測定しているため新たに測定を行わず、降伏応力のみを測定した。降伏応力は、以下のようにして測定した。
【0156】
<降伏応力>
試料No.C1~C4について、直径0.55mmの試験片を用い、引張試験により降伏応力を測定した。なお、試料No.C1の直径0.55mmの試験片は、上記直径2.6mmの線状のアルミニウム基複合部材を伸線加工することにより作製した。結果を
図8に示す。
押出後部材(試料No.C1)の引張強さ及び伸びとしては、実施例1で測定した値を用いた。また、
図8には、試料No.C3の熱処理後部材を「325℃1h熱処理後」と示し、試料No.C4の熱処理後部材を「400℃1h熱処理後」と示した。
【0157】
図8より、伸線後部材(試料No.C2)に熱処理を加えた2個の熱処理後部材(試料No.C3及びC4)は、伸線後部材(試料No.C2)よりも伸びが小さくなっており、延性が向上していないことが分かった。すなわち、試料No.C3及びC4において再結晶が完了していないことは明らかであった。
なお、一般的なアルミニウム合金部材では、250~350℃の熱処理により再結晶化するために、熱処理前に比較して延性が向上する。
これに対し、伸線後部材(試料No.C2)に325℃及び400℃の熱処理を行った熱処理後部材(試料No.C3及びC4)は、伸線後部材(試料No.C2)に対して延性が向上していない。このため、実施例1のアルミニウム基複合部材(試料No.A1及びC1)は、熱処理に対する挙動が一般的なアルミニウム合金部材と大きく異なっていることが分かった。
この実施例1のアルミニウム基複合部材(試料No.A1及びC1)の熱処理に対する特異な挙動は、実施例1のアルミニウム基複合部材の微視的構造により、転位の移動、回復等の転位運動が阻害されているためだと考えられる。
【0158】
実施例1~3及び比較例1~4のクリープ特性等の結果、及び実施例4の熱処理特性等の結果より、実施例1~3のアルミニウム基複合部材が高温でのクリープ特性に優れることが分かった。
【0159】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0160】
1、1A、50 アルミニウム基複合部材
5 アルミニウム粉末
10、10e、10f、10a、10b、10c、110 アルミニウム母材相
11 母材部
150 分散部
20 カーボンナノチューブ部
30 アルミナ部
BK1 黒点部
40 不純物由来分散部
WH1 白点部