(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20240514BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240514BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20240514BHJP
H01M 10/6554 20140101ALI20240514BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20240514BHJP
H01M 50/209 20210101ALI20240514BHJP
H01M 50/262 20210101ALI20240514BHJP
H01M 50/264 20210101ALI20240514BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20240514BHJP
【FI】
H01M50/204 401H
H01M10/613
H01M10/647
H01M10/6554
H01M10/6556
H01M50/209
H01M50/262 E
H01M50/262 M
H01M50/264
H01M50/342 101
(21)【出願番号】P 2021188518
(22)【出願日】2021-11-19
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 朋秋
(72)【発明者】
【氏名】岡田 渉
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206624(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151037(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187315(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057207(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/153523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/204
H01M 10/613
H01M 10/647
H01M 10/6554
H01M 10/6556
H01M 50/209
H01M 50/262
H01M 50/264
H01M 50/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に沿って配列された複数の電池セルと、
前記複数の電池セルの前記第1の方向の両端に設けられた2つのエンドプレートと、
前記2つのエンドプレートを前記第1の方向に拘束する拘束部材と、
少なくとも前記複数の電池セルの間
、および前記複数の電池セルと前記拘束部材との間に設けられた絶縁部材とを備え、
前記絶縁部材は、熱膨張材料を含む熱膨張部を有し、
前記複数の電池セルは、互いに対向する上面および底面、ならびに4つの側面を含む角型の筐体を各々有し、
前記熱膨張部は、前記4つの側面を取り囲むように設けられ、
前記筐体の前記上面にガス排出弁が設けられ、
前記筐体の前記底面上に金属製の冷却プレートが設けられ、
前記複数の電池セルと前記冷却プレートとの間に伝熱性を有する流動性素材が設けられた、電池モジュール。
【請求項2】
前記熱膨張部が膨張することにより、温度上昇した電池セルに圧縮力を加えることが可能である、
請求項1に記載の電池モジュール。
【請求項3】
前記ガス排出弁は、前記筐体上における前記熱膨張部が形成された部分を避けた位置に形成される、請求項1
または請求項2に記載の電池モジュール。
【請求項4】
前記熱膨張部は、150℃以上200℃以下の温度に達したときに膨張を開始する、請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の電池モジュール。
【請求項5】
前記熱膨張部の膨張倍率は、圧縮拘束のない状態で10倍以上30倍以下である、請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載の電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電池セルを配列し、拘束部材により拘束した電池モジュールが従来から知られている。従来の電池モジュールの構造が、特許文献1ないし特許文献6に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6894379号公報
【文献】特開2020-077493号公報
【文献】国際公開第2019/187315号
【文献】特開2011-171029号公報
【文献】特開2019-114477号公報
【文献】国際公開第2015/145927号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池モジュールを構成する複数の電池セルのうちの1つが熱暴走をおこしたとき、その伝播を抑制することが求められる。他方、コストの過度な増大は抑制しなければならない。従来の電池モジュールは、上記観点から必ずしも十分な構成を備えたものとはいえない。
【0005】
本技術の目的は、高容量の電池モジュールにおいても、コストを過度に増大させることなく、熱暴走の伝播を抑制することが可能な電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの局面において、本技術に係る電池モジュールは、第1の方向に沿って配列された複数の電池セルと、複数の電池セルの間に設けられた板状の絶縁部材とを備える。絶縁部材は、熱膨張材料を含む熱膨張部を有する。
【0007】
1つの局面において、本技術に係る電池モジュールは、第1の方向に沿って配列された複数の電池セルと、複数の電池セルの第1の方向の両端に設けられた2つのエンドプレートと、2つのエンドプレートを第1の方向に拘束する拘束部材と、複数の電池セルと拘束部材との間に設けられた絶縁部材とを備える。絶縁部材は、熱膨張材料を含む熱膨張部を有する。
【発明の効果】
【0008】
本技術によれば、電池セルの膨張圧力を絶縁部材で吸収するという従来の考え方とは逆に、電池セルの温度上昇時に絶縁部材が膨張することで、温度上昇した電池セルの熱が近傍の電池セルに伝播すること防ぐことができる。この結果、コストを過度に増大させることなく、熱暴走の伝播を抑制することが可能な電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電池モジュールの基本的構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す電池モジュールにおける電池セルおよびエンドプレートを示す図である。
【
図3】
図1に示す電池モジュールにおける電池セルを示す図である。
【
図4】1つの実施の形態に係る電池モジュールをX軸方向から見た状態を示す図である。
【
図5】1つの実施の形態に係る電池モジュールをZ軸方向から見た状態を示す図である。
【
図6】電池セルとセパレータとの寸法関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本技術の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0011】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本技術の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本技術にとって必ずしも必須のものではない。また、本技術は、本実施の形態において言及する作用効果を必ずしもすべて奏するものに限定されない。
【0012】
なお、本明細書において、「備える(comprise)」および「含む(include)」、「有する(have)」の記載は、オープンエンド形式である。すなわち、ある構成を含む場合に、当該構成以外の他の構成を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0013】
また、本明細書において幾何学的な文言および位置・方向関係を表す文言、たとえば「平行」、「直交」、「斜め45°」、「同軸」、「沿って」などの文言が用いられる場合、それらの文言は、製造誤差ないし若干の変動を許容する。本明細書において「上側」、「下側」などの相対的な位置関係を表す文言が用いられる場合、それらの文言は、1つの状態における相対的な位置関係を示すものとして用いられるものであり、各機構の設置方向(たとえば機構全体を上下反転させる等)により、相対的な位置関係は反転ないし任意の角度に回動し得る。
【0014】
本明細書において、「電池」は、リチウムイオン電池に限定されず、ニッケル水素電池など他の電池を含み得る。本明細書において、「電極」は正極および負極を総称し得る。また、「電極板」は正極板および負極板を総称し得る。
【0015】
図1は、電池モジュール1の基本的構成を示す図である。
図2は、電池モジュール1に含まれる電池セル100とエンドプレート200とを示す図である。
図3は、電池モジュール1における電池セル100を示す図である。
【0016】
図1,
図2に示すように、電池モジュール1は、電池セル100と、エンドプレート200と、拘束部材300と、冷却プレート400を備える。
【0017】
複数の電池セル100は、Y軸方向(第1の方向)に並ぶように設けられる。電池セル100は、電極端子110を含む。複数の電池セル100の間には、図示しないセパレータが介装されている。2つのエンドプレート200に挟持された複数の電池セル100は、エンドプレート200によって押圧され、2つのエンドプレート200の間で拘束されている。
【0018】
エンドプレート200は、Y軸方向において電池モジュール1の両端に配置されている。エンドプレート200は、電池モジュール1を収納するケースなどの基台に固定される。エンドプレート200のX軸方向の両端には、段差部210が形成される。段差部210は、Z軸方向に延びるように形成される。X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向は、互いに直交する。
【0019】
エンドプレート200は、たとえばアルミニウムまたは鋳鉄からなる。エンドプレート200を構成する素材は、これらに限定されない。
【0020】
拘束部材300は、2つのエンドプレート200を互いに接続する。拘束部材300は、2つのエンドプレート200に各々形成された段差部210に取り付けられる。
【0021】
複数の電池セル100およびエンドプレート200の積層体に対してY軸方向の圧縮力を作用させた状態で拘束部材300を段差部210に係合させ、その後に圧縮力を解放することにより、2つのエンドプレート200を接続する拘束部材300に引張力が働く。その反作用として、拘束部材300は、2つのエンドプレート200を互いに近づける方向に押圧する。なお、エンドプレート200および拘束部材300の形状は、
図1に示す例に限定されない。たとえば、段差部210が形成されないエンドプレート200を設け、板状のエンドプレート200に拘束部材300を係合させ、Y軸方向の両端方向からねじ留めして固定する場合もある。また、溶接によりエンドプレート200と拘束部材300とを接合する場合もある。
【0022】
拘束部材300は、たとえばアルミニウム、鉄またはステンレスからなる。拘束部材300を構成する素材は、これらに限定されない。
【0023】
冷却プレート400は、複数の電池セル100の底面上に設けられる。冷却プレート400は、伝熱性に優れた金属などから構成される。一例として、冷却プレート400は、アルミニウム製の押出材から形成される。冷却プレート400により、電池セル100からの放熱が促進される。冷却プレート400の内部に流路を設け、流路内に冷却媒体を流して冷却性能をさらに高めてもよい。
【0024】
図3に示すように、電池セル100は、平坦面状の略直方体形状に形成されている。電極端子110は、正極端子111と、負極端子112とを含む。正極端子111と負極端子112とは、X軸方向(第2の方向)に並ぶ。
【0025】
電極端子110は、角型の筐体120(ケース)の上面に設けられている。Z軸方向(第3の方向)に沿って対向する筐体120の上面および底面は、X軸方向が長辺方向、Y軸方向が短辺方向となるような略長方形形状を有する。筐体120には、電極体および電解液が収容されている。
【0026】
筐体120の上面には、ガス排出弁121が設けられている。筐体120内の圧力が上昇したときは、ガス排出弁121が開弁して筐体120内のガスが排出される。
【0027】
電池モジュール1を製造する際は、まず、複数の電池セル100をY軸方向に沿って積層する。次に、積層された複数の電池セル100の両端にエンドプレート200が設けられる。そして、複数の電池セル100およびエンドプレート200が、拘束部材300によってY軸方向に拘束される。冷却プレート400は、複数の電池セル100が拘束される前に組み付けられてもよいし、複数の電池セル100が拘束された後に組み付けられてもよい。
【0028】
図4は、電池モジュール1をX軸方向から見た状態を示す図である。
図4に示すように、電池モジュール1は、Y軸方向(第1の方向)に沿って配列された複数の電池セル100の間に設けられたセパレータ500(絶縁部材)と、電池セル100と冷却プレート400との間に設けられた伝熱ゲル600(流動性素材)とを含む。
【0029】
セパレータ500は、熱膨張材料を含む熱膨張部を構成する。セパレータ500は、たとえば積水化学(株)製のFi-Blockを板状部材としたものにより構成することができる。セパレータ500を構成する板状部材は、押出成形または射出成形により形成することが可能である。
【0030】
電池モジュール1において、1つの電池セル100が熱暴走をおこしたとき、その熱がセパレータ500を介して隣接する電池セル100に伝播する(矢印A)こと、および冷却プレート400を介して隣接する電池セル100に伝播する(矢印B)ことを抑制したいという要請がある。
【0031】
従来の電池モジュールは、電池セル100の膨張圧力を、電池セル100間のセパレータ(絶縁部材)に吸収させるという考え方を採用していた。
【0032】
本実施の形態に係る電池モジュール1においては、従来の考え方とは逆に、電池セル100の温度上昇時にセパレータ500を膨張させる。セパレータ500が膨張することにより、温度が上昇した電池セル100と隣接する電池セル100との距離を拡大することができる。これにより、熱暴走をおこした電池セル100の熱がセパレータ500を介して隣接する電池セル100に伝播する(矢印A)ことを抑制できる。
【0033】
さらに、セパレータ500が膨張して電池セル100に圧縮力を加えることにより、筐体120に設けられたガス排出弁121を開弁させ、筐体120の内圧を低下させることが可能となる。
【0034】
筐体120の底面においては、膨張した電池セル100と冷却プレート400との間に位置する伝熱ゲル600が、セパレータ500の熱膨張により当該電池セル100の下部から排除される。これにより、熱暴走をおこした電池セル100の熱が冷却プレート400を介して隣接する電池セル100に伝播する(矢印B)ことを抑制できる。
【0035】
図5は、電池モジュール1をZ軸方向から見た状態を示す図である。
図5に示すように、電池モジュール1は、Y軸方向(第1の方向)に沿って配列された複数の電池セル100と拘束部材300との間に設けられたシート部材700(絶縁部材)を含む。
【0036】
シート部材700は、熱膨張材料を含む熱膨張部を構成する。シート部材700を構成する熱膨張部は、セパレータ500を構成する熱膨張部と同じ素材により形成され得る。シート部材700は、セパレータ500と同様に、熱暴走をおこした電池セル100に隣接する位置で膨張する。これにより、熱暴走をおこした電池セル100の側面を覆い、筐体120が破れることを防ぐことができるので、電池セル100の側面からセル内容物が飛び出す(矢印C)ことを抑制することができる。さらに、シート部材700が膨張して電池セル100に圧縮力を加えることにより、筐体120に設けられたガス排出弁121を開弁させ、意図しない方向からのガス噴出を抑制することができる。
【0037】
セパレータ500およびシート部材700により、電池セル100の4つの側面を取り囲むように熱膨張部を設けることができる。他方、電池セル100の筐体120に形成されたガス排出弁121は、筐体120上における熱膨張部が形成された部分(筐体120の側面)を避けた位置(筐体120の上面)に形成される。
【0038】
これにより、電池セル100の4つの側面方向(4方向)から熱暴走をおこした電池セル100に圧縮力を加え、筐体120に設けられたガス排出弁121の開弁を促し、意図しない方向からのガス噴出を抑制することができる。この結果、高容量の電池モジュール1においても、コストを過度に増大させることなく、熱暴走の伝播を抑制することができる。
【0039】
セパレータ500およびシート部材700を構成する熱膨張部は、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ブチルゴムなどのベース素材に熱膨張性の高い無機材料、揮発性有機化合物を配合した樹脂により構成することができる。熱膨張部は、150℃以上200℃以下程度の温度に達したときに膨張を開始する。熱膨張部の膨張倍率は、圧縮拘束のない状態で10倍以上30倍以下程度である。熱膨張部は、難燃性に構成される。
【0040】
セパレータ500およびシート部材700を構成する熱膨張部において、膨張後の熱伝導率(たとえば0.22W/m・K程度)は、膨張前の熱伝導率(たとえば0.46W/m・K程度)よりも低い。すなわち、膨張後においては、厚み増による熱抵抗の増大に加えて、熱伝導率の低下による熱抵抗の増大の効果を得ることができる。
【0041】
図6は、電池セル100とセパレータ500との寸法関係を説明するための図である。
図6に示すように、セパレータ500の幅(B1:たとえば144mm程度)は、電池セル100の筐体120の幅(B:たとえば148mm程度)よりも若干小さく形成されている。セパレータ500は、筐体120の幅方向(X軸方向)の両側に各々略同じ距離(B2)のマージンをもって配置される。マージン(B2)は、たとえば約2mm程度である。
【0042】
セパレータ500の高さ(H1:たとえば75mm程度)は、電池セル100の筐体120の高さ(H:たとえば91mm程度)よりも小さく形成されている。セパレータ500は、筐体120の高さ方向(Z軸方向)の両側にマージンをもって配置される。底面側のマージン(H2)は、たとえば約2.5mm程度である。
【0043】
ただし、セパレータ500の幅(B1)ないし高さ(H1)は適宜変更される。セパレータ500は、電池セル100の筐体120と同じ幅(B)ないし高さ(H)を有してもよい。セパレータ500の想定厚みは、たとえば0.5mm以上1.2mm以下程度である。
【0044】
以上、本技術の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本技術の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0045】
1 電池モジュール、100 電池セル、110 電極端子、111 正極端子、112 負極端子、120 筐体、121 ガス排出弁、200 エンドプレート、210 段差部、300 拘束部材、400 冷却プレート、500 セパレータ、600 伝熱ゲル、700 シート部材。