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特許7488264組織における炎症を検出するためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】組織における炎症を検出するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/24 20060101AFI20240514BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A61B1/24
A61C19/04 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021537496
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2019073912
(87)【国際公開番号】W WO2020053110
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】62/729,466
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】フェルムーレン,オラフ トーマス ヨハン アントニー
(72)【発明者】
【氏名】ディーン,スティーヴン チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】スヘフェルス,リューカス ペトリュス ヘンリキュス
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール-フィシェ,エステル ジュリー ドロテ
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン ベイハールト,アドリアニュス ウィルヘルミュス ディオニシユス マリア
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-514446(JP,A)
【文献】特開2018-051304(JP,A)
【文献】特表2016-535654(JP,A)
【文献】特開2015-134157(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0280392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
5/06-5/22
A61C 19/00-19/10
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織における炎症を検出するためのシステムであって、
発光体と、
300μm~2000μmの光源-検出器間距離を有する拡散反射分光プローブと、
複数の検出器であり、
615nm未満であり、第1の帯域幅を有する第1の波長、及び、
615nm以上であり、それぞれ第2の帯域幅及び第3の帯域幅を有する少なくとも第2の波長及び第3の波長であり、少なくとも前記第2の帯域幅又は前記第3の帯域幅は前記第1の帯域幅よりも大きい、少なくとも第2の波長及び第3の波長、
を検出するように構成された複数の検出器と、
を含み、前記発光体は蛍光体変換発光ダイオードである、システム。
【請求項2】
前記発光体は、歯肉組織に光を送達するように構成され、前記複数の検出器は、前記歯肉組織からの拡散反射光を検出するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
検出される拡散反射光を受けて分析するように構成されたスペクトル分析ユニットであって、前記検出される光を前記複数の検出器にわたって分配するように構成されたスプリッターを含むスペクトル分析ユニット
をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
炎症検出ユニットを含むコントローラであって、組織炎症を検出するために、前記複数の検出器の各々から入力を受信するように構成されているコントローラ
をさらに含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも第2の帯域幅又は第3の帯域幅は、前記第1の帯域幅よりも少なくとも50%大きい、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも第2の帯域幅又は第3の帯域幅は、前記第1の帯域幅よりも100%大きい、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記少なくとも第2の帯域幅又は第3の帯域幅は、前記第1の帯域幅よりも100%~400%大きい、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記複数の検出器は、615nmよりも大きい帯域幅を有する少なくとも第4の波長を検出するように構成され、前記少なくとも第4の波長の帯域幅は、前記第1の帯域幅、前記第2の帯域幅、及び前記第3の帯域幅よりも大きい、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
組織炎症を検出するためのシステムであって、
複数の発光体であり、
615nm未満であり、第1の帯域幅を有する第1の波長、及び、
615nm以上であり、それぞれ第2の帯域幅及び第3の帯域幅を有する少なくとも第2の波長及び第3の波長であり、前記第2の帯域幅又は前記第3の帯域幅は前記第1の帯域幅よりも大きい、少なくとも第2の波長及び第3の波長
を提供するように構成された複数の発光体と、
300μm~2000μmの光源-検出器間距離を有する拡散反射分光プローブと、
前記複数の発光体によって提供された波長を検出するように構成された検出器と、
を含み、前記複数の発光体は蛍光体変換発光ダイオードである、システム。
【請求項10】
前記複数の発光体は、歯肉組織に光を送達するように構成され、前記検出器は、前記歯肉組織からの拡散反射光を検出するように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記複数の発光体は、光コンバイナに光を送達するように構成され、前記光コンバイナは、発せられた前記光を組み合わせ、組み合わされた前記光を歯肉組織に送達するように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
少なくとも前記第2の帯域幅又は第3の帯域幅は、前記第1の帯域幅よりも少なくとも50%大きい、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
少なくとも前記第2の帯域幅又は第3の帯域幅は、前記第1の帯域幅よりも100%大きい、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
少なくとも前記第2の帯域幅又は第3の帯域幅は、前記第1の帯域幅よりも100%~400%大きい、請求項9に記載のシステム。
【請求項15】
前記検出器は、615nmよりも大きい帯域幅を有する少なくとも第4の波長を検出するように構成され、前記少なくとも第4の波長の帯域幅は、前記第1の帯域幅、前記第2の帯域幅、及び前記第3の帯域幅よりも大きい、請求項9に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、スペクトル分析のための最適化された波長選択を使用して、組織炎症、特に歯肉炎の存在を検出するための口腔ヘルスケアシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
拡散反射分光法(DRS)を使用した歯肉炎検出は、口腔内の限られた空間のために、光を運ぶ1つ以上の光ファイバの周囲に構成された小さな斜角プローブを用いて現在行われている。そのような小さなプローブは、歯肉炎が一般的に発生する隣接面領域での測定に有用である。しかし、接触すると、そのような小さなプローブは、組織に大きな圧力をかけ、血液を押し出し、それによって血液特性のDRS測定を中断させる恐れがある。従って、DRS測定は、好ましくは、非接触モードで行われ、必要な非接触モードは、所望の拡散反射成分に加えて鏡面反射光を検出することになる。拡散反射光(すなわち、組織を通って伝搬される光)はかなり減衰されるため、これらの鏡面成分は比較的大きくなり得る。
【0003】
歯肉組織における異なる発色団のために、拡散反射光のスペクトル特性は、光源光のスペクトル特性とは異なる。拡散反射を可能にする(すなわち、それなしでは、光は拡散的に反射されない/戻らない)成分である散乱成分及び歯肉組織における主要な吸収発色団の1つであるメラニンによる吸収成分と同様に、ヘモグロビン吸収の影響は明らかである。他の主要な発色団はカロチン及びヘモグロビンであり、特に酸素化した及び脱酸素化したものである。
【0004】
原則として、全ての組織光学特性を、測定されたDRSスペクトルから抽出することができる。これは、モンテカルロシミュレーションを使用して生成されたルックアップテーブル(LUT)又は逆モデルを使用して行うことができる。しかし、これらのアプローチは、必要な処理能力及び時間、特に、必要なサンプリング波長の数のために、消費者製品には適していない。
【0005】
DRSスペクトルからヘモグロビン濃度を抽出するためには、例えば約584nm及び800nmのもの等、1つ以上の等吸収波長を使用することが一般的である。しかし、近赤外(NIR)波長は、そのような波長は見えないため、通常、照明LEDによって生成されない。従って、通常の照明LEDの>780nmでの出力は、極端に低いか又はゼロである。
【0006】
従って、最小数の波長及び市販の蛍光体変換(PC:phosphor-converted)発光ダイオード(LEDs)を使用した、組織炎症、特に歯肉炎の正確な検出を可能にする独創的な口腔ヘルスケアシステム及び方法が当技術分野において継続して必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】RR. Lobene, et al., “A modified gingival index for use in clinical trials”, Clin. Prev. Dent. 8:3-6, (1986)
【発明の概要】
【0008】
本開示は、照明発光ダイオードを使用した拡散反射分光法に基づく歯肉炎検出のための独創的なシステム及び方法に関する。本明細書における様々な実施形態及び実装形態は、依然として正確な歯肉炎検出を可能にする、市販の発光ダイオード(LEDs)及び最適化された最小数の波長を使用した口腔ヘルスケア装置を含む歯肉炎検出システムに関する。口腔ヘルスケア装置は、市販の照明LEDを使用した1つ以上の発光体、DRSプローブ、及び最適化された最小数の波長を使用した検出器を含む。
【0009】
一般的に、一態様において、組織炎症を検出するためのシステムが提供される。当該システムは、発光体;300μm~2000μmの光源-検出器間距離(source-detector distance)を有する拡散反射分光プローブ;並びに、615nm未満であり、第1の帯域幅を有する第1の波長、及び、615nm以上であり、それぞれ第2及び第3の帯域幅を有する第2及び第3の波長であって、第2又は第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも大きい、第2及び第3の波長を検出するように構成された複数の検出器;を含む。
【0010】
様々な実施形態において、発光体は、歯肉組織に光を送達するように構成され、複数の検出器は、歯肉組織からの拡散反射光を検出するように構成される。
【0011】
一実施形態において、当該システムは、検出される拡散反射光を受けて分析するように構成されたスペクトル分析ユニットをさらに含み、スペクトル分析ユニットは、検出される光を複数の検出器にわたって分配するように構成されたスプリッターを含む。
【0012】
様々な実施形態において、当該システムは、炎症検出ユニットを有するコントローラをさらに含み、コントローラは、組織炎症を検出するために、複数の検出器の各々から入力を受信するように構成されている。
【0013】
一実施形態において、第2又は第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも少なくとも50%大きい。
【0014】
一実施形態において、第2又は第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも100%大きい。
【0015】
一実施形態において、第2又は第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも100%~400%大きい。
【0016】
一実施形態において、第2及び第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも大きい。
【0017】
一般的に、別の態様において、組織炎症を検出するためのシステムが提供される。当該システムは、複数の発光体;300μm~2000μmの光源-検出器間距離を有する拡散反射分光プローブ;並びに、615nm未満であり、第1の帯域幅を有する第1の波長、及び、615nm以上であり、それぞれ第2及び第3の帯域幅を有する第2及び第3の波長であって、第2又は第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも大きい、第2及び第3の波長を検出するように構成された検出器;を含む。
【0018】
様々な実施形態において、複数の発光体は、歯肉組織に光を送達するように構成され、検出器は、歯肉組織からの拡散反射光を検出するように構成されている。
【0019】
一実施形態において、複数の発光体は、光コンバイナに光を送達するように構成され、光コンバイナは、発せられた光を組み合わせ、組み合わされた光を歯肉組織に送達するように構成されている。
【0020】
一実施形態において、第2又は第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも少なくとも50%大きい。
【0021】
一実施形態において、第2又は第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも100%大きい。
【0022】
一実施形態において、第2又は第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも100%~400%大きい。
【0023】
一実施形態において、第2及び第3の帯域幅は、第1の帯域幅よりも大きい。
【0024】
本開示のために本明細書において使用される場合、「コントローラ」という用語は、一般的に、撮像装置、システム、又は方法の動作に関する様々な装置を記述するために使用される。コントローラは、本明細書において論じられる様々な機能を行うために、多数の方法(例えば、専用のハードウェアを用いて等)で実施することができる。「プロセッサ」は、本明細書において論じられる様々な機能を行うために、ソフトウェア(例えば、マイクロコード)を使用してプログラムされてもよい1つ又は複数のマイクロプロセッサを利用するコントローラの一例である。コントローラは、プロセッサを利用して又は利用せずに実施されてもよく、また、一部の機能を行うための専用のハードウェアと、他の機能を行うためのプロセッサ(例えば、1つ又は複数のプログラムされたマイクロプロセッサ及び関連する回路等)との組み合わせとして実施されてもよい。本開示の様々な実施形態において利用され得るコントローラの構成要素の例として、従来のマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASICs)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGAs)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
上述の概念及び以下においてより詳細に論じられるさらなる概念の全ての組み合わせが(そのような概念が相互に矛盾しないとすれば)、本明細書において開示される本発明の特定事項の一部であるとして熟考されるということが正しく理解されるべきである。特に、本開示に付随する特許請求の範囲における特定事項の全ての組み合わせが、本明細書において開示される本発明の特定事項の一部であるとして熟考される。
【0026】
本発明の上記及び他の態様が、以下に記載される1つ又は複数の実施形態から明らかになり、以下に記載される1つ又は複数の実施形態を参照して解明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図面において、同様の参照符号は、異なる図を通じて同じ部分を概ね指している。また、図面は、必ずしも正確な縮尺ではなく、代わりに、本発明の原理を例示することに概ね重点が置かれている。
図1】健康な歯肉から測定された拡散反射分光スペクトルを表すグラフを示した図である。
図2】酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの吸収スペクトルを表すグラフを示した図である。
図3】異なる光源-検出器間距離に対する200μmファイバを使用した波長依存性のサンプリング深さを表すグラフを示した図である。
図4】一実施形態による、組織炎症を検出するためのシステムの概略図である。
図5】一実施形態による、組織炎症を検出するためのシステムの概略図である。
図6】一実施形態による、拡散反射分光プローブの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、市販の発光ダイオード(LEDs)及び拡散反射分光法(DRS)を使用した、組織炎症、特に歯肉炎の改善された検出のためのシステム及び方法の様々な実施形態を記載している。より一般的には、出願人は、可視スペクトル内の波長を使用したDRSベースの歯肉炎検出のための最適化された波長選択を提供することが有益であるということを認識し、正しく理解している。従って、本明細書において記載されるか又さもなければ構想されるシステム及び方法は、歯肉組織の測定値を得るように構成された口腔ヘルスケア装置を提供する。口腔ヘルスケア装置は、市販の照明LEDを使用した発光体、DRSプローブ、及びスペクトル分析のための検出器を含む。
【0029】
本明細書において開示されるか又さもなければ構想される実施形態及び実装形態は、任意の適した口腔ヘルスケア装置と共に利用することができる。適した口腔ヘルスケア装置の例として、歯ブラシ、フロス装置、口腔洗浄器、舌クリーナー、又は他の個人用ケア装置が挙げられる。しかし、本開示は、これらの口腔ヘルスケア装置に限定されず、従って、本開示及び本明細書において開示される実施形態は、任意の口腔ヘルスケア装置を包含し得る。
【0030】
腫れた歯茎、浮腫、及び発赤によって特徴づけられる、歯茎の炎症である歯肉炎は、主に、ほとんどの場合歯肉溝(歯肉ポケット)においてプラークが蓄積することによって引き起こされる。そのような歯茎の疾患は、典型的には、歯間の隣接面領域及び後方歯の周囲等、手の届きにくい領域において見られる。
【0031】
実際に、成人人口の50%~70%が歯肉炎に冒されていると推定される。しかし、消費者は、歯肉炎の初期徴候を検出できないことが多くある。典型的には、歯肉炎は、歯を磨くときに歯茎が出血しやすいことに個人が気づくまで進行する。従って、歯肉炎は、疾患がすでに進んでおり、治療がかなり困難なときにのみ検出され得る。歯肉炎は、口腔衛生の改善によって容易に元に戻るけれども、歯肉炎は不可逆性の歯周炎に伝播し得るため、口腔の健康を良好に保ち、可能な限り早く歯肉炎を検出することが重要である。
【0032】
歯肉炎は、歯肉の発赤及び腫れを検出することによって視覚的に診断されることがある(歯肉の発赤及び炎症に基づく非接触の歯肉炎指数を記載した非特許文献1を参照されたい)。しかし、これは感度が限られており、使用される光源の演色評価数に大きく依存している。従って、現代の蛍光体変換LEDは、低いCRIを有し、結果として視覚的判断が不十分となる恐れがある。
【0033】
図1は、チャートにおける一番下の線(点線)である、健康な歯肉から測定された拡散反射分光(DRS)スペクトルの例1を示しており、これは、ヘモグロビン(血液)及びメラニンを含む測定値を示している。チャートにおける一番上の線である散乱成分2も示されており、これは、拡散反射を可能にする(すなわち、それがなければ、光は拡散的に反射されない/戻らない)成分である。線3(チャートにおける真ん中の線)は、歯肉組織において主要な吸収発色団の1つであるメラニン3による吸収成分を示している。ヘモグロビンによって支配される領域は、血液から発生するDRS信号の量を決定するのに最も適している。
【0034】
ヘモグロビン吸収の影響は、図2を見ると明らかである。他の主要な吸収発色団の一部はヘモグロビンであり、特にオキシヘモグロビン(HbO2)及びデオキシヘモグロビン(Hb)である。これら2つの発色団の吸収スペクトルが、図2において明確に示されている。
【0035】
歯肉の発赤は、歯肉溝又は歯肉線に沿った領域におけるプラーク由来の細菌性バイオフィルム毒素に対する急性炎症反応である。この短期間での炎症反応は、細動脈における平滑筋細胞が弛緩する血管拡張を引き起こし、さらに、血管を広げて毛細血管床への血液供給を増加させる。これによって、歯肉の発赤が生じ、温度がわずかに上昇する恐れがあり、これは、測定するのが困難である。加えて、毛細血管はより透過性になり、毛細血管から間質腔への体液喪失が増加し、結果として歯茎の腫れが生じる。炎症が慢性である場合、増加した組織の血管新生によってさらなる発赤が起こり、組織のさらなる血液需要に対処するためにさらなる毛細血管が形成され得る。
【0036】
これらの因子は、拡散反射分光法(DRS)に基づく歯肉炎の検出を可能にする。DRSは、例えば白色光を標的に向けて発し、さらに、(鏡面反射光ではなく)拡散反射光のスペクトル特性を分析することを含む光学的方法である。DRSプローブの構成は、1つの検出ファイバに隣接する1つの光源ファイバ(source fiber)、複数の検出ファイバによって囲まれる1つの中央光源ファイバ、又は光源及び検出器として同時に機能する単一のファイバから成る。プローブの重要な特性は光源-検出の分離であり、それは、プローブのサンプリング深さ(すなわち、組織内のどのくらいの深さから、測定される光は発生しているのか)に影響するためである。歯肉炎を検出するためには、250μmよりも大きい平均拡散反射分光法によるサンプリング深さが必要である。そのような平均値を得るために、波長に応じて、約300μmの最小の光源-検出器間距離が必要である。しかし、そのようなサンプリング深さは、ヘモグロビンにおける高い吸収のため、青色光では達成することができない。図3は、異なる光源-検出器間距離に対する波長依存性のサンプリング深さ(250μmから1000μm)を示している。さらに、全ての歯肉は等しくなく、一部の個人において、サンプリング深さをより深くする必要があり得るため、1つ又は複数の異なる波長及び/又はプローブの設計が必要となる場合がある。
【0037】
本開示の特定の実施形態を利用する特定の目標は、最小数の波長及び市販の蛍光体変換(PC)発光ダイオード(LEDs)を使用した拡散反射分光信号を用いた正確な歯肉炎検出を可能にすることである。
【0038】
図4を参照すると、一実施形態における、組織炎症検出システム100が示されている。システム100は、市販の照明LEDを使用する発光体102を含む。本明細書において記載される本発明のシステムは、市販の照明LEDが安価で効率的であるため、市販の照明LEDを使用する。従って、利用可能な波長範囲は、典型的には、500nm~780nmである。システム100は、300μm~2000μmの光源-検出器間距離dを有する(図6において示されている)拡散反射分光(DRS)プローブ107も含む。光源ファイバ101には、蛍光体変換LED等の光源からの光が供給され、そのような光を組織104に送達するように構成される。検出器ファイバ103は、組織104からの拡散反射光を得て、この光をスペクトル分析ユニット105に送るように構成される。図6において示されているように、DRSプローブ107は、1つの光源ファイバ101及び1つの検出ファイバ103から成るが、本明細書において記載される実施形態に従って、他の適した構成も熟考される。例えば、2つ以上の検出器ファイバを含む実施形態では、各ファイバからの出力は、共に組み合わされるべきであり、単一の結果として生じる信号が、スペクトル分析ユニット105に送られるべきであり、そこで、信号は波長感受性検出器にわたって分配される。
【0039】
一実施形態によると、スペクトル分析ユニット105は、受けた拡散反射光をnの波長感受性光検出器(例えば、バンドパスフィルタ+フォトダイオード)106、108、110、及び112にわたって分配するように構成されたスプリッターである。スペクトル分析ユニット105は、溶融ファイバスプリッター、分散スプリッター(例えば、プリズム若しくは格子等)、ライトガイドマニホルド、又は任意の適した代替物を含み得る。検出器106は、特定の半値全幅(FWHM1)を有するλ1に対して感受性であるように構成される。検出器108は、FWHM2を有するλ2に対して感受性であるように構成される。検出器110は、FWHM3を有するλ3に対して感受性であるように構成される。検出器112は、FWHM4を有するλ4に対して感受性であるように構成される。各波長感受性光検出器の出力は、炎症検出ユニット114を有するコントローラ113に入力される。炎症検出ユニット114は、これらの入力に関する任意の数学的方程式に基づき得るアルゴリズムを含んでもよい。一実施形態によると、分光計又はチューナブルフィルタも、スペクトル検出器として使用することができる。しかし、これらは現在、消費者製品にとっては高すぎる及び/又は巨大すぎると考えられている。
【0040】
4つの波長を含む例となる実施形態によると、検出器106は、λ1に対して感受性であり、ここで、λ1=575nm~585nm、好ましくは580nm、及びFWHM1 = 10nmであり;検出器108はλ2に対して感受性であり、ここで、λ2=589nm~599nm、好ましくは594nm、及びFWHM2 = 10nmであり;検出器110は、λ3に対して感受性であり、ここで、λ3=670nm~680nm、好ましくは675nm、及びFWHM3≧10nmであり;さらに、検出器112は、λ4に対して感受性であり、ここで、λ4=695nm~705nm、好ましくは700nm、及びFWHM4≧15nm、好ましくは20~50nmである。
【0041】
5つの波長を含む別の例となる実施形態によると、検出器106は、λ1に対して感受性であり、ここで、λ1=575nm~585nm、好ましくは580nm、及びFWHM1 = 10nmであり;検出器108は、λ2に対して感受性であり、ここで、λ2=589nm~599nm、好ましくは594nm、及びFWHM2 = 10nmであり;検出器110は、λ3に対して感受性であり、ここで、λ3=670nm~680nm、好ましくは675nm、及びFWHM3≧10nmであり;検出器112は、λ4に対して感受性であり、ここで、λ4=689nm~699nm、好ましくは694nm、及びFWHM4≧10nmであり;さらに、さらなる検出器(図示せず)は、λ5に対して感受性であり、ここで、λ5=715nm~725nm、好ましくは720nm、及びFWHM5≧15nm、好ましくは20~50nmである。
【0042】
5つの波長を含む別の例となる実施形態によると、検出器106は、λ1に対して感受性であり、ここで、λ1=570nm~580nm、好ましくは575nm、及びFWHM1 = 10nmであり;検出器108は、λ2に対して感受性であり、ここで、λ2=625nm~635nm、好ましくは630nm、及びFWHM2 = 10nmであり;検出器110は、λ3に対して感受性であり、ここで、λ3=669nm~679nm、好ましくは674nm、及びFWHM3≧10nmであり;検出器112は、λ4に対して感受性であり、ここで、λ4=737nm~747nm、好ましくは742nm、及びFWHM4≧10nmであり;さらなる検出器(図示せず)は、λ5に対して感受性であり、ここで、λ5=765nm~775nm、好ましくは770nm、及びFWHM5≧15nm、好ましくは20nmである。
【0043】
上記の特定の波長選択のいずれも、スペクトルの多様性が波長感受性検出器ではなく波長特異的エミッタによって提供される実施形態に組み込むことができる。図5において示されているように、所望のスペクトル特性及び/又は例えばバンドパスフィルタの適用によって変更された特性を有するLEDからの光が供給されるように構成された4つの波長特異的エミッタ202、204、206、及び208を含む炎症検出システム200が示されている。エミッタ202は、λ1及びFWHM1と関連している。エミッタ204は、λ2及びFWHM2と関連している。エミッタ206は、λ3及びFWHM3と関連している。エミッタ208は、λ4及びFWHM4と関連している。システム100と同様に、システム200は、さらなる波長及び帯域幅と関連するさらなるエミッタを含み得る。4つの波長特異的エミッタからの光は、光コンバイナ205又は任意の適した代替物に送られる。システム100と同様に、システム200は、300μm~2000μmの光源-検出器間距離を有する図6において描かれているもの等の拡散反射分光(DRS)プローブを含む。検出器ファイバ103は、組織204からの拡散反射光を得て、この光を、炎症検出ユニット214を有するコントローラ213に送るように構成される。炎症検出ユニット214は、これらの入力に関する任意の数学的方程式に基づき得るアルゴリズムを含んでもよい。
【0044】
有利には、本発明のシステムは、最小数の波長及び市販の蛍光体変換(PC)発光ダイオード(LEDs)を使用した正確な歯肉炎の検出を可能にする。
【0045】
全ての定義は、本明細書において定義され且つ使用される場合、辞書的定義、参照により援用する文献中の定義、及び/又は定義された用語の通常の意味を支配すると理解されるべきである。
【0046】
不定冠詞「a」及び「an」は、本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、反対のことが明確に示されていない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0047】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、「及び/又は」という句は、そのように結合された要素、すなわち、ある場合には結合して存在し、他の場合には分離して存在する要素のうち「いずれか又は両方」を意味すると理解されるべきである。「及び/又は」と共に列挙された複数の要素は、同じ様式で、すなわち、そのように結合された要素のうち「1つ又は複数」と解釈されるべきである。他の要素が、任意的に、「及び/又は」という句によって具体的に特定される要素以外に、具体的に特定されるそれらの要素に関連するか否かを問わず、存在してもよい。
【0048】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、「又は」は、上記の「及び/又は」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内のアイテムを分ける場合、「又は」又は「及び/又は」は、包括的である、すなわち、多くの要素又は要素のリストのうち、並びに、任意的にさらなる列挙されていないアイテムのうち少なくとも1つを包含するが、そのうち2つ以上も含むと解釈されるはずである。「のうち1つのみ」若しくは「のうちちょうど1つ」、又は、特許請求の範囲において使用される場合に「から成る」等、反対のことが明確に示されている用語のみが、多くの要素又は要素のリストのうちちょうど1つの要素を包含することを指すことになる。一般に、「又は」という用語は、本明細書において使用される場合、「いずれか」、「のうち1つ」、「のうち1つのみ」、又は「のうちちょうど1つ」等の排他性の用語が先行する場合、排他的な代替案(すなわち、1つ又は他のものであるが両方ではない)を示すとしてのみ解釈されるはずである。
【0049】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、「少なくとも1つ」という語句は、1つ又は複数の要素のリストに関連して、要素のリスト内の任意の1つ又は複数の要素から選択された少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきであるが、必ずしも要素のリスト内に具体的に列挙された各要素及び全ての要素のうち少なくとも1つを含むというわけではなく、要素のリスト内の任意の要素の組み合わせを排除しない。この定義は、「少なくとも1つ」という語句が言及する要素のリスト内で具体的に特定された要素以外の要素が、具体的に特定されたそれらの要素に関連するか否かを問わず、任意的に存在し得るということも可能にする。
【0050】
反対のことが明確に示されていない限り、2つ以上のステップ又は行為を含む本明細書において請求されるいかなる方法においても、その方法のステップ又は行為の順は、必ずしもその方法のステップ又は行為が記載される順に限定されるわけではないということも理解されるべきである。
【0051】
特許請求の範囲において、並びに、上記の本明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「保有する」、「有する(having)」、「有する(containing)」、「含む(involving)」、「保持する」、及び「構成される」等の全ての移行句は、オープンエンドである、すなわち、何かを含むがそれに限定されないということを意味すると理解されることになる。「~から成る」及び「本質的に~から成る」という移行句のみが、それぞれ、クローズド又はセミクローズドの移行句であるはずである。
【0052】
いくつかの本発明の実施形態が本明細書において記載及び例示されてきたけれども、当業者は、本明細書において記載される機能を行う、及び/又は、結果及び/又は利点のうち1つ以上を得るための種々の他の手段及び/又は構造を容易に構想し、そのような変更及び/又は修正の各々が、本明細書において記載される本発明の実施形態の範囲内にあるとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書において記載される全てのパラメータ、寸法、材料、及び構成が例証的であるはずということ、及び、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成は、本発明の教示が使用される特定の1つ又は複数の用途に依存することになるということを容易に正しく理解することになる。当業者は、ルーチン的な実験のみを使用して、本明細書において記載される特定の本発明の実施形態に対する多くの同等物を認識することになる又はそれを確認することができるようになる。従って、上述の実施形態は単に例として提示されるということ、及び、添付の特許請求の範囲及びその同等物内で本発明の実施形態は実行されてもよく、さもなければ、具体的に記載され且つ特許請求される以外の方法で実行されてもよいということが理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書において記載される各々個々の特徴、システム、製品、材料、キット、及び/又は方法を対象としている。加えて、2つ以上のそのような特徴、システム、製品、材料、キット、及び/又は方法のいずれの組合せも、そのような特徴、システム、製品、材料、キット、及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6