(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】二部分型の参照電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20240514BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20240514BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240514BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20240514BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240514BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240514BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240514BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20240514BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240514BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
G01N27/30 311Z
G01N27/416 351B
G01N27/416 341B
G01N27/00 L
H01M10/052
H01M10/48 301
H01M10/48 Z
H01M10/058
H01M50/46
H01M50/451
(21)【出願番号】P 2021556334
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2020058540
(87)【国際公開番号】W WO2020201009
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】102019108921.2
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】シュミット・ヤン・フィリップ
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-111600(JP,A)
【文献】特開2015-191878(JP,A)
【文献】特表2016-517618(JP,A)
【文献】特開2016-192371(JP,A)
【文献】特開2012-079582(JP,A)
【文献】特開2016-048213(JP,A)
【文献】特開2011-003314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0214582(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03413387(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/404
G01N 27/414 - G01N 27/416
G01N 27/42 - G01N 27/49
G01R 31/36 - G01R 31/44
H01M 10/05 - H01M 10/0587
H01M 10/36 - H01M 10/48
H01M 50/40 - H01M 50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池セル用の二部分型の参照電極であって:
-導電体を有する第一の部分電極Ref
1と;
-導電体を有する第二の部分電極Ref
2と;
を有し、
前記二つの部分電極Ref
1およびRef
2は、電気的に互いに分離されて
一つの基板
の一つの面上に形成され且つ略一定の間隔d
1を備えている二部分型の参照電極。
【請求項2】
部分電極間の間隔d
1が10μmから1mmである請求項1に記載の二部分型の参照電極。
【請求項3】
部分電極Ref
1およびRef
2は、互いに対向しており、それぞれ略櫛状の形態を備え、櫛の歯は、一方の櫛の歯と他方の櫛の歯の間の間隔がそれぞれd
1となるように互いに交互に噛み合っている請求項1または2に記載の二部分型の参照電極。
【請求項4】
前記歯は、それぞれ略長方形の形態を備え、歯の先端が長方形の短辺に対応する請求項3に記載の二部分型の参照電極。
【請求項5】
短辺の幅d
2が10μmから1mmである請求項4に記載の二部分型の参照電極。
【請求項6】
部分電極Ref
1およびRef
2は、金属導体から作製さ
れている請求項1から5のいずれかに記載の二部分型の参照電極。
【請求項7】
部分電極Ref
1およびRef
2は、10nmから5μmの層厚を備えている請求項1から5のいずれかに記載の二部分型の参照電極。
【請求項8】
リチウムイオン電池セル用の多孔質セパレータフィルムが基板としての役割をなす請求項1から7のいずれかに記載の二部分型の参照電極。
【請求項9】
部分電極Ref
1およびRef
2は、セパレータ基板フィルムとセパレータ被覆フィルムの間に埋め込まれている請求項8に記載の二部分型の参照電極。
【請求項10】
部分電極Ref
1およびRef
2と周囲との間の電荷交換を可能にするノンブロッキング電極として構成されている請求項1から9のいずれかに記載の二部分型の参照電極。
【請求項11】
部分電極Ref
1およびRef
2と周囲との間の電荷交換が遮断されているブロッキング電極として構成されている請求項1から9のいずれかに記載の二部分型の参照電極。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の一つ若しくは複数の参照電極が上に形成されているリチウムイオン電池セル用のセパレータフィルム。
【請求項13】
リチウムイオン電池セルのインピーダンス測定用の請求項1から11のいずれかに記載の参照電極の使用方法であって、部分電極Ref
1とRef
2の間に励起信号が印加され、応答信号が検出される使用方法。
【請求項14】
参照電極は、さらに、リチウムイオン電池セルのアノード及び/又はカソードに対するハーフセル電圧の測定のために使用される請求項13に記載の使用方法。
【請求項15】
リチウムイオン電池セルの温度を特定するための請求項13に記載の使用方法であって、以下の少なくとも一つの特性を特定するためにインピーダンス測定の結果が使用される使用方法:
(i)温度特定;
(ii)被覆層またはリチウムメッキの検出;および
(iii)電解質中のLiイオン濃度の特定。
【請求項16】
少なくとも一つのアノード、カソード、セパレータ、電解質および請求項1から11のいずれかに記載の参照電極を有するリチウムイオン電池セルにおけるインピーダンスを測定する方法であって:
-参照電極の二つの部分電極Ref
1およびRef
2の間に励起信号I(t)を印加し;
-参照電極の二つの部分電極Ref
1およびRef
2の間の応答信号U(t)を測定し;
-インピーダンスをZ=U(t)/I(t)として特定する
ことを含む方法。
【請求項17】
少なくとも一つのアノード、カソード、セパレータ、電解質および請求項1から11のいずれかに記載の一つ若しくは複数の参照電極を有するリチウムイオン電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池セルのインピーダンスを測定するための参照電極および参照電極を有するリチウムイオン電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)は、とりわけリチウムイオン電池セルの特性評価に使用できる確立された方法である。これには一般に、励起信号(この励起信号は交流電流信号(I(t),定電流式)または交流電圧信号(U(t),定電圧式)にすることができる。)をセルに適用し、対応する応答信号(U(t)またはI(t))を測定し、さらに、励起信号と応答信号からなる複素インピーダンスZをU(t)/I(t)として計算することが含まれる。スペクトルを取得するために励起信号の周波数を変更するか或いは複数の周波数を重ね合わせることができる。代わりに、多くの周波数の重ね合わせのパルスを用いることもでき、フーリエ変換によりスペクトルが得られる。
【0003】
従来技術において、リチウムイオン電池セルの状態を診断するため、とりわけ、温度を調べ出すためにも、インピーダンス測定またはインピーダンス分光法を使用することが知られている。セルハウジング面上のセンサ或いはセルハウジング内部のセンサによる直接的な温度測定に比べると、この方法は、ハウジング温度から外れる可能性のある電極配置構造の電気化学的活性領域における温度が直接的に求められるという長所を持つ。特許文献1には、複数のバッテリーを備えた自動車が記載されており、これらのバッテリーは、それぞれ個別に又はブロック単位で車載電気系統から分離されて、モデルを基準にしたバッテリー診断方法を実行するための診断装置に接続することができる。この診断方法には、インピーダンスの測定も含まれ得る。
【0004】
特許文献2は、インバータから入力された交流電圧信号に基づいてセルインピーダンスを特定することによる電動車両のリチウムバッテリーシステムのセル温度測定と劣化測定に関する。この方法は、信号周波数に対するインピーダンスのプロット曲線が温度に依存するという観察に基づいている。
【0005】
特許文献3は、複数の周波数におけるインピーダンスの虚数部を測定し、虚数部がゼロを横切る周波数を見つけることによって、温度を特定する方法に関する。この方法は、セルの特定の充電状態および経時劣化状態におけるゼロ交差周波数が、基本的に温度に依存するという観察結果に基づいている。
【0006】
上記の従来技術の方法では、励起信号の印加と応答信号の測定のいずれもが作用電極(すなわち、アノードとカソード)間で行なわれる。
【0007】
リチウムバッテリーにおける参照電極は、従来技術においては、主にハーフセルの電位を測定するために用いられることが記載されている。これにより、アノードないしカソードの電位を個別に特定することができ、これが電極の経時劣化状態を推論から得られるようにしている。
【0008】
特許文献4は、電気化学的に活性な参照電極が組み込まれたリチウムイオン電池セルを記述している。セルの電極配置構造は、片側に活物質コーティングと多孔質集電体を有した少なくとも一つの電極部位を備えている。その部位の反対側には、セパレータと参照電極が取り付けられている。参照電極を有した電極部位は、記載された実施形態によれば、例えば、ロールの最外層若しくはロールの中心に配置又はスタックの端部若しくは内側に配置することができる。
【0009】
特許文献5は、セルハウジングの内側ではあるが電極ロール若しくは電極スタックの外側に取り付けられた電気化学的に活性な参照電極を有したリチウムイオン電池セルに関する。
【0010】
他方、特許文献6は、インピーダンスを測定するための内蔵型参照電極を備えたバッテリーを記述する。追加的に、酸化還元電位を測定するためのさらに他の参照電極が設けられていてもよい。参照電極を用いてインピーダンス及び/又は酸化還元電位を測定することにより経時劣化状態を特定する方法もまた記述されている。その場合、二つの作用電極間および作用電極と参照電極間の両方でインピーダンスを測定することができる。これにより、作用電極の経時劣化状態を個々に調べ出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】独国特許出願公開第102009038663号明細書
【文献】独国特許出願公開第102013103921号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2667166号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0375325号明細書
【文献】国際公開第2009/036444
【文献】独国特許出願公開第102014001260号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の従来技術の方法では、励起信号I(t)がセルの作用電極に印加され、例えば、インバータを使用してセルの束全体に印加されるか或いは個々のセルの平衡回路に印加される。
インピーダンス値は通常低く、例えば、ミリ・オームの範囲にある場合もある。温度を特定するためには、インピーダンスZを非常に高い精度で特定する必要がある。この目的のために、Z=U(t)/I(t)により、然るべく大きな励起電流が必要となるが、このことは逆に、所定の励起回路では、低いインピーダンス値が温度測定の精度を制限することを意味する。しかも、いずれの場合においても、セルの平均温度は特定されるものの、位置的な分解能を得ることは不可能である。
【0013】
さらに、従来の方法を用いると、観察されたインピーダンスの変化に基づいて、その原因となっている電解質及び/又は電極の変化を推論から詳細に導き出し、それにより電解質の劣化やアノードにおけるLiメッキといった望ましくない現象を検知するようにすることが難しい。
【0014】
これらの問題を考慮して、本発明は、インピーダンス分光法により、より高い精度で且つ位置分解能のある温度測定を可能にし、電解質及び/又は電極の劣化を早期に認識できるようにする方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明により、この課題は、二部分型の参照電極を用いることにより解決し、その二部分型の参照電極は:
-導電体を有する第一の部分電極Ref1と;
-導電体を有する第二の部分電極Ref2と;
を有し、
前記二つの部分電極Ref1およびRef2は、電気的に互いに分離されて基板上に形成され且つ略一定の間隔d1を備えている。
【0016】
参照電極は、周囲との(典型的には、電極がその中で使用されるセル電解質との)電荷(リチウムイオン)の行き来が可能(いわゆるノンブロッキング電極)であるように構成されていてもよいし、或いは、例えば、リチウムの交換ができないような電位で動作させることによるか或いはリチウム不透過性コーティングを施すことにより電荷の行き来が遮断(いわゆるブロッキング電極)され得るように構成されていてもよい。
【0017】
本発明による参照電極は、少なくとも以下の診断のために使用することができる:
(i)電解質の導電率を介した温度特定;
(ii)被覆層またはリチウムメッキの検出;および
(iii)ブロッキング電極を使用している場合に、交流信号に重畳する直流電圧信号も変えながらの、部分電極の界面における誘電特性に基づいた電解質中のLiイオン濃度の特定。
【0018】
ノンブロッキング電極として構成されている場合、さらにハーフセル電位測定のための基準電極としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】二つの部分電極Ref
1およびRef
2が略櫛状の形態をそれぞれ備えた本発明による参照電極の概略的な実施形態であって、櫛の歯が互いに交互に噛み合っており、一方の櫛の歯と他方の櫛の歯との間の間隔がd
1である実施形態を示す図である。
【
図2】歯が幅d
2まで拡げられ、略長方形の形状を備えた他の実施形態を概略的に示す図である。
【
図3】多孔質セパレータフィルムの二層の間に参照電極が埋め込まれている一実施形態を概略的に示す図である。
【
図4】基板としてのセパレータ上に参照電極が片面に形成されているさらに他の一実施形態であって、アノードに対する電気絶縁のためにアノードがリチウムイオン伝導性セラミックで被覆されている実施形態を示す図である。
【
図5】部分電極Ref
1とRef
2の間のインピーダンスを測定するとともに参照電極を基準電極として使用しながらハーフセル電位U
1およびU
2を任意選択的に測定する測定セットアップの概略図である。
【
図6】本発明による電極を使用するための簡略化された等価回路図であって、R
1とR
2の比率が、例えば部分電極の電極間隔と電極面積(或いは
図2による実施形態ではd
1およびd
2)により設定することができる等価回路図を示す。
【
図7】参照電極を用いたリチウム析出の検出を概略的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による参照電極の構造、その機能態様、リチウムイオン電池セルにおけるその使用方法およびインピーダンス測定のための関連する方法を詳細に述べる。
【0021】
部分電極Ref1およびRef2
【0022】
本発明による参照電極は、二つの部分電極Ref1およびRef2を有し、これらの部分電極は、それぞれ導電体を有し、略一定の間隔d1で互いに電気的に分離された状態で基板上に配置されている。セル内に組み入れると、電解質との接触を通してRef1およびRef2の間に測定可能なインピーダンスが形成される。
【0023】
導電体の材料は、それが動作条件下で化学的および電気化学的に不活性でありさえすれば、特に限定されるものではない。例えば、金属製の導体、任意にドープ可能とされた半導体、グラファイトまたは導電性ポリマーも考えられる。金属製の導体は、特に、ニッケル、銅、銀、金、白金の金属またはこれらの合金であることが好ましく、金は、耐薬品性および薄い層厚の観点からとりわけ好ましい。
【0024】
これら二つの部分電極Ref1およびRef2は、略一定の間隔d1で配置されている。これは、部分電極の間隔が、その長さの大部分に亘って、典型的には70%以上、好ましくは80%以上、特に90%以上に亘って一定であることを意味する。間隔d1は、一般に10μmから1mm、好ましくは20μmから500μm、特に50μmから200μmである。
【0025】
部分電極は、例えば、間隔d1の平行な導体トラック、ワイヤまたはストリップ導体として形成することができ、これらはまた、基板上にジグザグパターン、方形波パターンまたはメアンダ状パターンで配設することができる。
【0026】
好ましい実施形態では、部分電極は、それぞれ略櫛状の構造を持つ。つまり、それらは、背部と、そこから突出する複数の歯部を有している(以下、分かり易いように「背」および「歯」と呼ぶ。)。歯が突き出る角度は、二つの櫛の全ての歯について略同じであり、好ましくは直角である。二つの櫛形の部分電極は、一方の櫛の歯が他方の櫛の歯と噛み合わされ、その間隔がそれぞれd
1となるように平行に配設されている。
図1は、この実施形態を表す図である。
【0027】
櫛の背の互いの間隔は、最終的にはセルの電極形状により制限され、例えば100μmから5cm、好ましくは1mmから2cm、特に5mmから1cmである。歯が直角に配設されている場合、この間隔は、d1と歯の長さの合計にほぼ相当する。
【0028】
二つの部分電極の厚さは、差し支えなく無くセル内に組み込むことができるという観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下、特に好ましくは500nm以下である。好ましい実施形態では、層厚は、10~100nmであり、これは、例えば気相堆積法(例えば、20nmの金フィルムのスパッタリング形成)により実現することができる。
【0029】
幅は、厚さと同じにしてもよいし、或いは、二つの部分電極を拡幅して参照電極の表面積を増やすとともに、それにより電解質に対する抵抗を少なくするのでもよい。
【0030】
従って、二つの部分電極は、例えば略円形または正方形の断面を有し且つ細いワイヤの形態に形成されていてもよいし、或いは、それらは、長方形の断面を有するストリップ形状とされていてもよいし、或いは、それらは、ワイヤ状またはストリップ状の部位により接続されている平坦な部位から構成されていてもよい。
【0031】
好ましい実施形態が
図2に示されている。この実施形態は、交互に噛み合っている櫛形の二つの部分電極を有する
図1に示された実施形態をベースにしているが、歯が長方形になるように拡幅されている。長方形の幅d
2は、面積に比例し、概ね間隔d
1と同程度としてよい。好ましくは、d
1/d
2の比は、20:1~1:20、より好ましくは10:1~1:10、特に5:1~1:5の範囲にある。d
1/d
2の比は、二つの部分電極の間隔と面積の比を表している。この比を選択することにより、以下に詳細に説明するように、Ref
1およびRef
2の間に生じるインピーダンスの相対的な寄与を設定することができる。
【0032】
基板上への形成
【0033】
二つの部分電極Ref1およびRef2は、基板上に形成されている。基板は、一般に、例えばPETまたはポリオレフィンからなるポリマーフィルムとすることができる。
【0034】
可能な一実施形態では、二つの部分電極は、フィルムストリップ上に形成され、このフィルムストリップは、作用電極との電気的接触を回避するために、二つの部分電極がセパレータに面するようにセル内に組み入れられる。この場合、フィルムストリップは、部分的な干渉をできるだけ少なく保つために、可能な限り細くて薄いことが好ましい。組み入れられた部位の長さ若しくは幅の寸法は、例えば、2mm~2cm、好ましくは5mm~1cmであることが好ましい。厚さは、好ましくは1~20μm、好ましくは5~10μmとすることができる。
【0035】
ただし、例えばフィルムストリップなどの非多孔質基板を使用すると、動作中にセルの電流密度が局所的に変化し続けることになり、その結果、セルの充電の際に、参照電極の縁に早い段階でLiメッキが生じるようになる。このため、この実施形態では、参照電極は、セル内の別の場所にメッキが生じるよりも前に必要に応じて充電電流を減らすために、Liメッキを検出するための早期インジケータとしても使用することができる。電解質の導電率を介して温度を特定するための参照電極の適性は、縁に生じる部分的な干渉によって影響を受けないか殆ど無視できる程度にしか影響されない。
【0036】
さらに他の実施形態では、セルのセパレータそのものが基板としての役割をなすことができる。この実施形態は、追加のフィルム層が組み入れられないために、セルの厚さが増えず、しかも、参照電極が基本的にセパレータの表面全体に展開できることから好ましい。
【0037】
例えば、空間的に分離された部分電極Ref1/Ref2の複数の対がセパレータフィルムの異なる領域に同時に形成されるようにすることで、複数の参照電極をセルに組み入れることも容易に可能になる。これにより、例えば、インピーダンス測定の空間分解能を得ることができ、或いは参照電極が異なる形状(例えば、間隔と面積の異なる比率)を有することができることで、セルの異なる要素や現象を調べるために最適化を行なうことができる。
【0038】
セパレータは、通常、多孔質ポリマーフィルムであり、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)からできていることが多い。セパレータは、PP/PE/PPからなる積層体を含む所謂シャットダウンセパレータであってもよい。PEは、PPよりも融点が低いため、温度が異常に上昇した場合にPE層が溶融し、PP層の細孔を塞ぐことができる(“シャットダウン機能”)。さらに、セパレータは、セラミック材料によるコーティングを備えていてもよい。
【0039】
部分電極Ref
1およびRef
2は、セパレータの表面に形成することができ、絶縁のために、リチウムイオンを透過させる被覆層が設けられていてもよい。被覆層は、セパレータフィルムの二番目の層とすることができるか或いは電気絶縁性でリチウムイオン伝導性の材料によるコーティングとすることができる。特に、多層セパレータまたはセラミック材料でコーティングされたセパレータを使用する場合、部分電極は、層間に埋め込むことができる。
図3は、そのような配置構造を表している。
【0040】
代替的に、参照電極上の被覆層を省くことも可能である。しかしながらこの場合、部分電極Ref
1およびRef
2上に当接するセルの作用電極上に、電気的な絶縁のために例えば、セラミックのリチウムイオン電導体によるコーティングといった相応の被覆層が設けられなければならない。この実施形態が
図4に示されている。参照電極の表面は、Liイオンを通さないコーティングが施されていてもよい。
【0041】
以下では、電解質との電荷交換が遮断される構成をブロッキング電極と呼び、電荷交換が可能である構成をノンブロッキング電極と呼ぶ。電解質と接触している金属電極の場合、リチウムイオン交換が可能であるかどうかは、印加電位に依存し、その印加電位は、リチウムの析出または合金の形成が可能となるためには、十分低くなければならない。従って、そのような電極は、電位に応じてブロッキング電極としてもノンブロッキング電極としても動作させることができる。
【0042】
ブロッキング電極の場合、部分電極は、電気化学的ポテンシャルを確定できなくなるために基準電極として使用できなくなる。それでも、二つの部分電極間のインピーダンスの測定は可能であり、その場合、部分電極と電解質との間の界面でのインピーダンスは純粋に容量性である。
【0043】
基板上への形成方法は特に限定されず、電極材料と所望の形状に依存してもよい。PVD、CVD、スパッタリング等の気相堆積プロセスが好ましい。マスク技術を使用することにより、所望の形状を実現することができる。代替的に、例えば、インクジェット印刷プロセスも考えられる。
【0044】
参照電極の接続部は例えば、幅広の接続パッドの形で使えるようにでき、そのときには、接続パッドは、例えば、箔導体または細い金線を介してセルから引き出される。或いは、基板は、突起を提供することができ、その上に接続部を形成し、セルから引き出すことができる。この目的のために、セルのハウジングには、導体またはフィルムストリップをガイドするのに通す密閉可能な開口部を設けることができるか或いはハウジング内部で参照電極の接続部が接続され且つ外側でハウジング面に相応の接点を提供する接続実現部を設けることができる。
【0045】
インピーダンス測定
【0046】
本発明による参照電極は、任意のタイプのリチウムイオン電池セルと組み合わせて使用することができ、特に、液体電解質を有するロールタイプまたはスタックタイプのセルにおいて使用することができる。
【0047】
この参照電極は、インピーダンス測定により、主として、温度を特定し、リチウム析出などの望ましくない電極プロセスを検出し、さらにLiイオン濃度を特定するために設けられている。その他に、参照電極は、選択的に例えば、二回のインピーダンス測定の合間にアノードまたはカソードに対するハーフセル電位を測定するための基準電極としても用いることができる。
【0048】
インピーダンス測定に用いるためには、二つの部分電極Ref
1およびRef
2の間に励起信号が印加され、応答信号が測定される。励起信号は、例えば交流電流信号I(t)とすることができる一方、応答信号としては電圧U(t)が測定される。次いで、インピーダンスはZ=U(t)/I(t)として算出される。測定セットアップは、
図5に表されている。
【0049】
作用電極に励起信号を印加することによる従来のインピーダンス測定と比較して、本発明による参照電極は、弱い励起電流で正確なインピーダンス測定を行うことができるという長所を有する。これにより、インピーダンスに基づく温度特定の精度が向上し、位置的な分解能が向上する。その他にも、電解質及び/又は作用電極の経時劣化現象、特にアノード上のLiメッキ等は、形状を適切に選択することにより、本発明による電極を用いて狙い通りに検出することができる。
【0050】
図6は、Ref
1とRef
2の間のインピーダンスに寄与する要素の簡略化された回路図を示す。図に示すように、電極と電解質の間の界面は、ブロッキング電極として実施する場合には、純粋な容量性抵抗として、また、電解質ないし作用電極の活性層は、オーム性抵抗としてモデル化することができる。
【0051】
より高い周波数では、容量性の寄与は無視できるため、インピーダンスは、並列に接続されたオーム性抵抗R1およびR2によって概ね決まる。R1は、電解質を介したRef1からRef2への直接の電気接続の抵抗を表し、R2は、Ref1から作用電極へ、そしてこの作用電極からRef2に戻る接続の抵抗を表す。言い換えれば、R1は、概ねRef1とRef2の間の電解質抵抗を表し、R2は、概ね作用電極の活性層の抵抗を表す。
【0052】
ブロッキング電極に関する上記の説明は、高周波数の場合に、ノンブロッキング電極に関しても同様に当てはまる。この場合、界面はもはや
図6に示すような純粋に容量性のものではなく、その代わりに電荷交換を反映したオーム性抵抗と容量性抵抗との並列接続として表される。低周波数では、電極表面のインピーダンスに両方の成分が関与する。これに対して、高周波数では、容量性の成分はゼロになり、その一方で、オーミック性の成分は、有限のままであり、その結果、並列接続のインピーダンスは、再び無視できるようになる。つまり、総インピーダンスは、この場合にはやはり二つの並列抵抗R
1およびR
2によって決まる。
【0053】
R1はこのとき、電解質内における電荷キャリアの経路を示す間隔d1と電極面積と、の両方に依存する。これに対して、R2は、主として厚さ方向に活物質層を通る電気伝導によって決まり、同時に金属製の導電体を介した表面に沿った電導を生じはしても、その抵抗は無視できる。これにより、R2は、良好な近似で電極面積にのみ依存する。
【0054】
形状を適切に選択することによって、特に、間隔d
1と参照電極の面積の比率、例えば
図2の実施形態の場合ではd
1/d
2の比率を選択することによって、インピーダンスに対するR
1およびR
2の相対的な寄与を調整することができる。これにより、電解質の導電率と作用電極の微細構造をピンポイントで調べることができ、差別化を図った経時劣化の診断を下すことができる。
【0055】
さらに、間隔/面積比(または、d1/d2比)が異なる複数の本発明による参照電極を使用することができ、これらの参照電極は、例えば、二つの特性を独立して調べることができるように全てまとめてセパレータに形成されている。複数の参照電極を使用する場合、これらは例えば、励起装置か或いは測定想定に多重化式に(マルチプレクサ式に)交互に接続されることによって、順番に制御することができる。
【0056】
励起周波数は、診断される特性ごとに調整され、一般に10Hzから20kHz、好ましくは50Hzから10kHzの範囲にある。電解質の導電率を測定し、アノード上に存在し得るリチウムメッキを検出するには、先に説明したように、インピーダンスが基本的に抵抗R1およびR2により特定されるように、例えば500Hzから20kHz、好ましくは1kHzから10kHzの高い周波数が好ましい。これに対して、例えば電解質の誘電特性及びそれに伴って考えられ得る被覆層の構造を調べたり或いはイオン濃度の変化を調べたりするために、電荷交換に関連する特性および電極上の容量性の二重層に関連する特性が求められなければならない場合、例えば10Hzから1kHz、好ましくは50Hzから500Hzの範囲の比較的低い周波数が使用される。
【0057】
励起信号の信号レベルは、通常は1~50mVの範囲にある。好ましくは、一方ではシステムの線形性を維持するため、他方では計測の手間を少なく保つために、5~20mV、例えば約10mVのレベルを使用することが好ましい。振幅を大きくすると、非線形になり得るという対価を払って分解能をより一層向上できるようになる一方、振幅を小さくすると、測定値の取得が困難になる。
【0058】
交流電流信号に加えて、二つの部分電極の間に、分極電圧が印加されるのでもよい。これにより、電解質の組成およびイオン濃度に依存し、それと同時に経時劣化にも依存する、表面の電荷キャリア二重層の特徴を明らかにすることができる。
【0059】
温度特定
【0060】
本発明による参照電極は、温度とインピーダンスT(Z)との間の既知の関係を使って、インピーダンス測定によって温度を特定するために使用することができる。T(Z)は、通常、ルックアップデータ及び/又は計算モデルの形で、場合によってはSOCや経時劣化状態などのさらなるパラメータの関数として、バッテリー管理システムに格納されている。
【0061】
T(Z)の特定は、基本的に周知である。従って、T(Z)は、例えば、セルを特定の温度と特定のSOCに設定してインピーダンスを測定する校正データを集めることで求めることができる。代替的または組み合わせで、T(Z)は、例えば、モデル構成要素の既知の温度依存性と組み合わせたインピーダンスモデルに基づいて計算することもできる。電極プロセスの動特性に依存するインピーダンス寄与分の温度依存性については、例えば、アレニウスの関係式を想定することができ、電解質の導電率については、イオン移動度の既知の温度依存性に基づくことができる。
【0062】
リチウム析出の検出
【0063】
さらに、本発明による参照電極は、例えば、インピーダンスの経時劣化に伴う金属リチウムの析出(Liメッキ)またはアノードと電解質の間の界面層(SEI)における欠陥の形成等の望ましくない電極プロセスの検出にも特に適している。
【0064】
図7は、インピーダンスの急激な低下によって気付けるようになるリチウム析出の場合について表している。これは、図示されているように、二つの部分電極Ref
1またはRef
2のうち一方とアノードとの間或いは二つの部分電極の間に金属リチウムのブリッジが形成されることにより引き起こされ、このブリッジが、オーム性抵抗の大幅な低下をもたらし、或いは極端な場合、二つの部分電極間の短絡をもたらす。
【0065】
リチウムが析出する場合、参照電極はさらに、定まった欠陥位置として働く。すなわち、参照電極とアノードとの間の電界に起因して参照電極及び/又はLiのデンドライトの近くで先ず優先的に析出が起こり、参照電極の方向に成長し、他の位置での析出の可能性が減少する。従って、参照電極は、この種のリチウム析出の早期検出に特に適している。
【0066】
リチウムイオン濃度の特定
【0067】
リチウムイオン濃度は、部分電極の界面における誘電特性を調べることによって特定できる。先に説明したように、この目的のために通常は低めの励起周波数が使用され、その周波数では、容量性の抵抗は消失せずに-1/ωCで周波数に依存し、Cは二重層の容量を表す。さらに、交流信号に重畳された可変の直流電圧信号(バイアス)を電極に印加することができる。この場合、例えば200mVのバイアス電圧が二つの電極の間に印加され、交流インピーダンスが求められ、次いで、例えば400mVのバイアス電圧に変更されて、交流インピーダンスが再び求められる。電荷キャリア二重層の形態は、分極電圧とイオン濃度に依存するため、求められた分極電圧の依存性から、現在のイオン濃度を特定することができる。
【0068】
電位測定のための基準電極としての使用
【0069】
さらに、本発明による参照電極は、
図5にも説明されているように、例えば選択的に、二つのインピーダンス測定の合間にアノードまたはカソードに対するハーフセル電位を測定するための基準電極としても用いることができる。安定した基準電位が利用できるようにするために、一方の又は両方の部分電極上に先ず少量の金属リチウムを析出させ(その場での(イン・サイチュ)リチウム化)、それにより、電位がLi/Li
+のものに対応するようにする。次に、作用電極に対する電圧が測定される。測定は、良好な近似で無電流で行われるので、基準電位は一定に保たれる。
【0070】
金属リチウムが析出する代わりに、参照電極の材料(例えばアルミニウムや金の場合)によってはリチウム合金が形成される場合もある。これらは通常、リチウム濃度に依存した段階的な推移を示す。そのような場合、自己放電による基準電位の変動を回避するために、できるだけ顕著な(つまり、広いリチウム濃度範囲に亘って存在し、限界で比較的強く変化する)電位ステップを大容量で制御することが有利である。その他にも、形成された合金上に金属リチウムを析出させることもできる。銅のように合金を形成しない材料の場合には、いずれにしろ金属リチウムが析出させられるはずである。さらに、二つの部分電極を利用できるという事情は、部分電極の自己放電を検出し、再び再充電するために有利に利用できる。