(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン、その物を含む医薬組成物、およびその物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240514BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240514BHJP
C07K 14/735 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240514BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240514BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20240514BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240514BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240514BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240514BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240514BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240514BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240514BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240514BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240514BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/00
C07K14/735
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/13
A23L33/17
C12P21/02 C
C12P21/08
A61P37/08
A61P17/00
A61P11/06
A61P11/02
A61P27/02
A61P17/04
A61K39/395 Y
A61P11/14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022130533
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2020557108の分割
【原出願日】2019-01-08
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】10-2018-0002248
(32)【優先日】2018-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520244430
【氏名又は名称】ジーアイ・イノベイション・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GI INNOVATION, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ヨンチョル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ジョンユン
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特許第7128291(JP,B2)
【文献】特表2007-528194(JP,A)
【文献】特表2009-504569(JP,A)
【文献】特表2010-531134(JP,A)
【文献】国際公開第2016/133197(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/028068(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/147143(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/108654(WO,A1)
【文献】ZOLLER, Mark J., and SMITH, Michael,Nucleic Acids Research,Vol. 10, No. 20,1982年,pp. 6487-6500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A23L 31/00-33/29
A23L 5/40- 5/49
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
A61P 1/00-43/00
A61K 35/00-51/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの単量体(その各々がIgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIa-ECD)であって、配列番号1のアミノ酸配列よりなる)を含む、ポリペプチド二量体であって、
ここで、該単量体が配列番号2のアミノ酸配列よりなる修飾Fc領域を含有し、
該修飾Fc領域およびFcεRIa-ECDがヒンジを介して連結され、
該ヒンジが、イムノグロブリンIgDより誘導されるヒンジ領域またはその変種であって、
Arg Asn Thr Gly Arg Gly Gly Glu Glu Lys Lys Xaa1 Xaa2 Lys Glu Lys Glu Glu Gln Glu Glu Arg Glu Thr Lys Thr Pro Glu Cys Pro(配列番号:17)、または
Ala Gln Pro Gln Ala Glu Gly Ser Leu Ala Lys Ala Thr Thr Ala Pro Ala Thr Thr Arg Asn Thr Gly Arg Gly Gly Glu Glu Lys Lys Xaa3 Xaa4 Lys Glu Lys Glu Glu Gln Glu Glu Arg Glu Thr Lys Thr Pro Glu Cys Pro(配列番号:18)であり、
Xaa1とXaa3がGlyであって、
Xaa2とXaa4が
Glyである、ポリペプチド二量体。
【請求項2】
IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIa-ECD)を含
む、請求項1に記載の単量体をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項
2に記載のポリヌクレオチドでロードされる、発現ベクター。
【請求項4】
請求項
3に記載の発現ベクターが導入される、宿主細胞。
【請求項5】
活性成分として、請求項
1に記載のポリペプチド二量体を含む、アレルギー症状を改善または緩和するための医薬組成物。
【請求項6】
アレルギー疾患が、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性皮膚炎、慢性特発性蕁麻疹、およびアレルギー性接触皮膚炎からなる群より選択されるいずれかの疾患である、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
活性成分として、請求項
1に記載のポリペプチド二量体を含む、アレルギー症状を改善または緩和するための食品組成物。
【請求項8】
請求項
2に記載のポリヌクレオチドおよびシアル酸トランスフェラーゼ遺伝子が導入される細胞を培養する工程;および
ポリペプチド二量体を回収する工程
を含む、ポリペプチド二量体を生成する方法。
【請求項9】
アレルギー疾患を治療または予防するための薬剤の製造における、請求項
1に記載のポリペプチド二量体の使用であって、該ポリペプチド二量体が対象に投与される使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾IgE Fc受容体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息を含む、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎および食物アレルギーなどのアレルギー疾患は、工業化および西洋化した現代社会において急速に広がっており、アナフィラキシー、重度のアレルギー疾患の発症も増加している。これらの慢性免疫疾患は個々の生活の質を大きく損ない、そのために社会経済上のコストは右肩上がりである。かくして、かかる疾患を克服するための方策が何としても必要である。
【0003】
アレルギー疾患の多くは免疫グロブリンE(IgE)の過剰な免疫応答によって引き起こされる。IgEは正常な条件下にて血清中に極めて低濃度で存在する抗体である。IgEはまた、通常は、無害な抗原により産生される。IgEの数が特定のいかなる刺激もなしに増加する場合がある。そのような場合にアレルギー疾患に至る可能性がある。その異常に増加した数のIgEは、肥満細胞、好塩基球等の表面で発現する、高親和性IgE Fc受容体(FcεRI)と結合し得る。かかる結合は、肥満細胞または好塩基球に、ヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジン、ブラジキニン、および血小板活性化因子などの化学伝達物質を放出させる。これらの化学伝達物質の放出はアレルギー症状をもたらす。特に、アレルギー疾患は、IgEとFcεRIとが結合することで症状の悪化を示し得る。FcεRIを発現する細胞はアレルギー患者にて増加することが知られている。
【0004】
最近では、アレルゲン回避、抗アレルギー薬の投与、体内でのIgE合成の制御、および抗IgE抗体の開発などの種々の方法が、アレルギー疾患を治療するのに提案されている。しかしながら、今までのところ、既知の治療方法には、アレルギーの根本にある原因を解決する能力に欠けること、薬物の効能が不十分であること、および重篤な副作用が発生するなどの、多くの課題がある。
【0005】
加えて、IgEとFcγRIIbとを高親和力で結合させる能力を有し、IgEを発現する細胞を阻害する能力を有する免疫グロブリン組成物が研究されている(KR10-1783272B1)。かかる組成物は、アレルギーおよび喘息を含む、IgE介在性障害を治療するのに有用であると報告されている。加えて、IgE抗体のFc部分を標的とする、オマリズマブ(商品名:ゾーレア(Xolair))が開発され、難治性の重度の喘息および難治性蕁麻疹用の治療剤として用いられている。
【0006】
しかしながら、治療効果を維持するためにオマリズマブを高用量で投与することは、重い費用負担、ならびに血管性浮腫およびアナフィラキシー反応などの副作用をもたらすに至る(The Journal of Clinical Investigation Volume 99, Number 5, March 1997, 915-925)。その他に、市販した結果として、アレルギー性肉芽腫性血管炎および特発性重症血小板減少症が報告されている。従って、アレルギー疾患を副作用なく効果的に治療する能力を有する治療剤の開発に対する需要が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、IgE介在性アレルギー疾患を治療するためのポリぺプチド二量体タンパク質を提供することである。本発明のもう一つ別の目的は、該タンパク質をコードする核酸分子、該核酸分子を含有する発現ベクター、および該発現ベクターを含有する宿主細胞を提供することである。本発明のさらにもう一つ別の目的は該ポリペプチド二量体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、2つの単量体を含むポリペプチド二量体であって、その各々がIgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインを含有する、ポリペプチド二量体を提供することである。その単量体は修飾Fc領域を含有し、その修飾Fc領域と、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインとはIgD抗体のヒンジを介して連結される。もう一つ別の態様において、該ポリペプチド二量体を活性成分として含む、アレルギー疾患を治療または予防するための医薬組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るポリペプチド二量体タンパク質は、一般的に使用される抗IgE抗体と比較して、体内にて優れた安全性および持続性を有するだけでなく、一般的に用いられる抗IgE抗体のオマリズマブよりも70倍以上高いIgEとの結合能を有するため、IgEと極めて強く結合し、それによって投与周期を拡張することができる。加えて、本発明に係るポリペプチド二量体タンパク質は、単一の標的としてIgEだけを有し、Fcガンマ受容体と結合しない、すなわち、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)機能を欠く、修飾Fcを適用することによって得られる物である。従って、IgG1 Fc領域を含有する通常の抗IgE抗体とは異なって、ポリペプチド二量体タンパク質は、Fcガンマ受容体と結合せず、そのため脂肪細胞の表面上のFcガンマ受容体と結合されることにより引き起こされるメディエーターの放出を阻害することができ、その結果として、IgG1が脂肪細胞上のFcγ受容体IIIと結合することにより惹起され得るアナフィラキシーの発生などの重度の副作用を最小限に抑えることができる。従って、本発明に係るポリペプチド二量体タンパク質は、従来の抗IgE抗体を含有する治療剤に取って代わり得る、新規な医薬組成物として利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】各細胞株にて産生されるタンパク質についてのSDS-PAGEおよびゲル等電点電気泳動法(IEF)の結果を示す。ここで、末端切断された形態は還元および非還元の両方の条件で生成されず、酸性タンパク質の含有量がシアル酸トランスフェラーゼ遺伝子の導入によって惹起されるシアル酸含有量の増加によって増えることが分かる。
【0011】
【
図2】本発明の実施態様に係るポリペプチド二量体タンパク質の非還元および還元形態についてのSDS-PAGEの結果を示す。特に、該ポリペプチド二量体はインプット(Input)に相当する培養上清中にあっても高純度であることが分かる。
【0012】
【
図3】オマリズマブのIgEとの結合能を表すグラフを示す。該グラフはオマリズマブを固定し、IgEの処理濃度に依存する、その結合能を分析することにより得られる結果を示す。
【0013】
【
図4】本発明の実施態様に係るポリペプチド二量体タンパク質のIgEとの結合能を表すグラフを示す。該グラフは二量体タンパク質を固定し、IgEの処理濃度に依存する、その結合能を分析することにより得られる結果を示す。
【0014】
【
図5】本発明の実施態様であるポリペプチド二量体タンパク質(IgE
TRAP)、およびオマリズマブの、IgG受容体FcγRI(
図5A)、FcγRIIA(
図5B)、FcγRIIb(
図5C)、FcγRIIIA(
図5D)およびFcγRIIIB(
図5E)との相互作用をバイオレイヤー干渉(BLI)アッセイにより同定することで得られた結果を示す。
【0015】
【
図6】IgE
TRAPとIgG受容体との間、およびオマリズマブとIgG受容体との間の結合能を定量することで得られたグラフを示す。
【
図7】本発明の実施態様に係るポリペプチド二量体タンパク質(IgE
TRAP)の、その濃度に応じた、マウス由来の脂肪細胞の活性に対する阻害能を表すグラフを示す。
【0016】
【
図8】本発明の実施態様に係るポリペプチド二量体タンパク質(IgE
TRAP)およびゾレア(Xolair)(オマリズマブ)の、その濃度に応じた、ヒトFcεRIを発現するマウス由来の脂肪細胞の活性に対する阻害能をその間で比較したグラフを示す。
【
図9】本発明の実施態様に係るポリペプチド二量体タンパク質の、食物アレルギーモデルにおける投与効果を表すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、2個の単量体を含み、その各々が、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIa-ECD)を含有する、ポリペプチド二量体であって、ここで該単量体が修飾Fc領域を含有し、その修飾Fc領域およびFcεRIa-ECDがIgD抗体のヒンジを介して連結される、ポリペプチド二量体に関する。
【0018】
本明細書において使用される「IgE」なる語は、免疫グロブリンEとして知られる抗体タンパク質を意味する。IgEは、脂肪細胞、血中好塩基球等に対して親和性を有する。加えて、IgE抗体とそれに対応する抗原(アレルゲン)との間の反応は炎症性反応を引き起こす。加えて、IgEは、脂肪細胞または好塩基球が突然に分泌されることによって生じるアナフィラキシーを惹起する抗体であることも知られている。
【0019】
本明細書において使用される「IgE Fc受容体」なる語は、Fcε受容体とも称され、IgEのFc部分と結合する。その受容体には2つの型がある。IgE Fcに対して親和性の高い受容体はFcε受容体I(FcεRI)と呼ばれる。IgE Fcに対して親和性の低い受容体はFcε受容体II(FcεRII)と呼ばれる。FcεRIは脂肪細胞および好塩基球で発現される。FcεRIと結合したIgE抗体が多価抗原によって架橋する場合には、脱顆粒現象が肥満細胞または好塩基球で生じ、それによってヒスタミンを含む種々の化学伝達物質が放出される。この放出は即時アレルギー反応をもたらす。
【0020】
FcεRIは、1本のα鎖と、1本のβ鎖と、ジスルフィド結合によって連結された2本のγ鎖とからなる膜タンパク質である。これらの鎖のうちで、IgEが結合する部分がα鎖(FcεRIα)である。FcεRIαは大きさが約60kDaであり、細胞膜の内側に存在する疎水性ドメインと、細胞膜の外側に存在する親水性ドメインとからなる。特に、IgEはα鎖の細胞外ドメインと結合する。
【0021】
具体的には、IgE Fc受容体のアルファサブユニットは、NP_001992.1で示されるアミノ酸配列を有してもよい。加えて、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIa-ECD)は配列番号:1のアミノ酸配列を有してもよい。本明細書において、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインは、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインのフラグメントまたは変種がIgEとの結合能を有する限り、そのフラグメントまたは変種であってもよい。
【0022】
該変種は、野生型FcεRIa-ECD(細胞外ドメイン)にて1または複数のタンパク質を置換、欠失または付加する方法であって、該方法がFcεRIのα鎖の機能を改変しない限り、該方法を介して製造されてもよい。かかる種々のタンパク質またはペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上で同一であってもよい。加えて、配列番号:1のFcεRIa-ECDは、配列番号:5の配列を有するポリヌクレオチドでコードされてもよい。
【0023】
加えて、本明細書において使用される「修飾Fc領域」なる語は、抗体のFc部分の一部が修飾されている領域を意味する。ここで、「Fc領域」なる語は、免疫グロブリンの重鎖定常領域2(CH2)および重鎖定常領域3(CH3)を含有し、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域ならびに軽鎖定常領域1(CH1)を含有しない、タンパク質をいう。特に、修飾Fc領域は、Fc領域にあるいくつかのアミノ酸を置換することにより、または異なる型のFc領域を組み合わせることにより得られる領域を意味する。具体的には、修飾Fc領域は配列番号:2のアミノ酸配列を有してもよい。加えて、配列番号:2の修飾Fc領域は配列番号:6の配列を有するポリヌクレオチドによってコードされてもよい。
【0024】
加えて、本発明の「修飾Fc領域」は、天然型の糖鎖を有するか、天然型と比べて糖鎖が多いか、または天然型と比べて糖鎖が少ない、形態であってもよく、あるいは糖鎖が除去されている形態であってもよい。免疫グロブリンFc糖鎖は、化学方法、酵素方法、および微生物を用いる遺伝子操作方法などの一般的方法により修飾されてもよい。
【0025】
ここで、本発明の「修飾Fc領域」は、FcγRまたはClqについての結合部位がないため、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)機能を欠く、領域であってもよい。加えて、修飾Fc領域およびFcεRIα-ECDはIgD抗体のヒンジを通して連結されてもよい。IgD抗体のヒンジは64個のアミノ酸からなり、20~60個の連続したアミノ酸、25~50個の連続したアミノ酸、または30~40個のアミノ酸を選択的に含有してもよい。実施態様において、IgD抗体のヒンジは下記の30または49個のアミノ酸からなってもよい。加えて、該IgD抗体のヒンジは該ヒンジ領域を修飾することにより得られるヒンジ変種であってもよく、その場合のヒンジは少なくとも1個のシステインを含有してもよい。ここで、該ヒンジ変種は、タンパク質を産生する工程の間で末端切断された形態の生成を最小限とするために、IgD抗体のヒンジ配列にていくつかを修飾することにより得ることもできる。
【0026】
実施態様において、該ヒンジは次の配列を含有してもよい:
Arg Asn Thr Gly Arg Gly Gly Glu Glu Lys Lys Xaa1 Xaa2 Lys Glu Lys Glu Glu Gln Glu Glu Arg Glu Thr Lys Thr Pro Glu Cys Pro(配列番号:17)(配列中、Xaa1はLysまたはGlyであってもよく、Xaa2はGlu、GlyまたはSerであってもよい)。具体的には、該ヒンジは配列番号:3または配列番号:19のアミノ酸配列を有してもよく、それによりタンパク質を産生する工程の間にて末端切断された形態の生成を最小限とする。
【0027】
もう一つ別の実施態様において、該ヒンジは次の配列を含有してもよい:
Ala Gln Pro Gln Ala Glu Gly Ser Leu Ala Lys Ala Thr Thr Ala Pro Ala Thr Thr Arg Asn Thr Gly Arg Gly Gly Glu Glu Lys Lys Xaa3 Xaa4 Lys Glu Lys Glu Glu Gln Glu Glu Arg Glu Thr Lys Thr Pro Glu Cys Pro(配列番号:18)(配列中、Xaa3はLysまたはGlyであってもよく、Xaa4はGlu、GlyまたはSerであってもよい)。具体的には、該ヒンジは配列番号:4のアミノ酸配列を有してもよく、それによりタンパク質を産生する工程の間にて末端切断された形態の生成を最小限とする。
【0028】
特に、配列番号:4の配列を有するヒンジにおいて、少なくとも1つのThrがグリコシル化されてもよい。具体的には、配列番号:18のアミノ酸の中で、13番、14番、18番または19番目のThrがグリコシル化されてもよい。4個すべてのアミノ酸がグリコシル化されるのが好ましい。ここで、グリコシル化はO-グリコシル化とすることができる。
【0029】
加えて、上記されるように、本発明によって提供されるポリペプチド二量体は、2個の単量体が相互に結合し、各単量体がIgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインと、修飾Fc領域とを結合することにより得られる、形態であってもよい。該ポリペプチド二量体は、2個の同じ単量体がヒンジ部位に配置されたシステインによって相互に結合している形態であってもよい。加えて、該ポリペプチド二量体は、2個の異なる単量体が相互に結合している形態であってもよい。例えば、2個の単量体が相互に異なる場合には、該ポリペプチド二量体は、一方の単量体がIgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインを含有し、他方の単量体がIgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインのフラグメントを含有する、形態であってもよい。ここで、該単量体の実施態様は、配列番号:20、配列番号:21または配列番号:22のアミノ酸配列を有してもよい。
【0030】
加えて、本発明によって提供されるポリペプチド二量体は、抗IgE抗体である、オマリズマブよりも10~100倍、20~90倍、20~70倍、30~70倍、または40~70倍高い、IgEとの結合能を示し、好ましくはオマリズマブよりも70倍高いIgEとの結合能を示し得る。
【0031】
本発明のもう一つ別の態様において、修飾Fc領域が結合する、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインを含有する単量体をコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0032】
その一方で、該ポリヌクレオチドは、シグナル配列またはリーダー配列を付加的に含有してもよい。本明細書において使用される「シグナル配列」なる語は、標的タンパク質の分泌を指示する、シグナルペプチドをコードする核酸を意味する。該シグナルペプチドを翻訳し、次に宿主細胞中にて切断する。具体的には、本発明のシグナル配列は、小胞体(ER)膜を横切るタンパク質移行を開始する、アミノ酸配列をコードするヌクレオチドである。本発明において有用なシグナル配列として、抗体軽鎖シグナル配列、例えば、抗体14.18(Gilliesら、J. Immunol. Meth 1989. 125:191-202)、抗体重鎖シグナル配列、例えば、MOPC141抗体重鎖シグナル配列(Sakanoら、Nature, 1980. 286:676-683)、および当該分野において既知の他のシグナル配列(例えば、Watsonら、Nucleic Acid Research, 1984. 12:5145-5164を参照のこと)が挙げられる。
【0033】
シグナル配列はその特性について当該分野において周知である。シグナル配列は、典型的には、16ないし30個のアミノ酸残基を含有し、より多く、またはより少ないアミノ酸残基を含有してもよい。典型的なシグナルペプチドは、塩基性N-末端領域、中央疎水性領域、および極性の高いC-末端領域である、3つの領域からなる。該中央疎水性領域は、未成熟ポリペプチドを移行する間に膜脂質二重層を介してシグナル配列を固定する4ないし12個の疎水性残基を含有する。
【0034】
開始した後、シグナル配列は、シグナルペプチダーゼとして周知の細胞酵素によってERのルーメン中で切断される。ここで、該シグナル配列は、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D(HSVgD)または成長ホルモンのための分泌シグナル配列であってもよい。好ましくは、哺乳類等を含む高等真核細胞にて使用される分泌シグナル配列を用いることができる。加えて、分泌シグナル配列は宿主細胞において発現が高頻度でなされ、使用されるコドンで置換されてもよい。
【0035】
その一方で、シグナル配列および修飾Fc領域が結合する、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインの単量体は、配列番号:11または配列番号:13のアミノ酸配列を有してもよい。配列番号:11および配列番号:13のタンパク質は、各々、配列番号:12および配列番号:14の配列を有するポリヌクレオチドによってコードされてもよい。
【0036】
本発明のさらにもう一つ別の態様において、該単量体をコードするポリヌクレオチドをロードした発現ベクターが提供される。ここで、該ポリヌクレオチドは配列番号:12または配列番号:14の配列を有してもよい。
【0037】
本明細書において使用される「ベクター」なる語は、宿主細胞に導入されるものであって、宿主細胞ゲノムと組み合わさって、その中に挿入される能力を有するものとする。あるいはまた、ベクターはエピソームであり、自動的に複製され得るヌクレオチド配列を含有する核酸ユニットとして認識される。該ベクターは、線状核酸、プラスミド、ファージミド、コスミド、RNAベクター、ウイルスベクター、およびそれらのアナログを包含する。ウイルスベクターの例として、限定されないが、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスが挙げられる。加えて、プラスミドは抗生物質耐性遺伝子などの選択可能なマーカーを含有してもよく、該プラスミドを含む宿主細胞が選択条件下で培養されてもよい。
【0038】
本明細書において使用される、標的タンパク質の「遺伝的発現」または「発現」なる語は、DNA配列の転写、mRNA転写物の翻訳、および融合タンパク質の産生物またはそのフラグメントの分泌を意味すると解される。有用な発現ベクターはRcCMV(Invitrogen, Carlsbad)またはその変種であってもよい。発現ベクターは、哺乳類細胞において標的遺伝子の連続的転写を促進するためにヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを、そして転写後のRNAの安定性レベルを向上させるためにウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル配列を含有してもよい。
【0039】
本発明のさらにもう一つ別の態様において、発現ベクターがその中に導入される宿主細胞が提供される。本明細書において使用される「宿主細胞」なる語は、組換え発現ベクターがその中に導入され得る原核または真核細胞をいう。本明細書において使用される「形質導入」、「形質変換」および「トランスフェクト」なる語は、当該分野にて既知の技法を用いて核酸(例えば、ベクター)を細胞中に導入することを意味する。
【0040】
本発明にて使用され得る好ましい宿主細胞として、不死ハイブリドーマ細胞、NS/0骨髄腫細胞、293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、HeLa細胞、ヒト羊水誘発細胞(CapT細胞)またはCOS細胞が挙げられる。好ましくは、宿主細胞はCHO細胞であってもよい。他方において、宿主細胞は、該ベクターが、およびシアル酸トランスフェラーゼ遺伝子がロードされたベクターが導入される細胞であってもよい。ここで、シアル酸トランスフェラーゼは、2,3-シアル酸トランスフェラーゼまたは2,6-シアル酸トランスフェラーゼであってもよい。ここで、2,6-シアル酸トランスフェラーゼは配列番号:15のアミノ酸配列を有してもよい。
【0041】
本発明のさらにもう一つ別の態様において、ポリペプチド二量体を活性成分として含む、アレルギー疾患を治療または予防するための医薬組成物が提供される。
【0042】
本明細書において、「アレルギー疾患」なる語は、脂肪細胞の脱顆粒などの脂肪細胞の活性化により媒介されるアレルギー反応によって引き起こされる病的症状を意味する。かかるアレルギー疾患は、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、アナフィロキシー、蕁麻疹、掻痒、昆虫アレルギー、慢性特発性蕁麻疹、薬物アレルギー等を包含する。特に、アレルギー疾患はIgEを介在するものであってもよい。
【0043】
本発明のアレルギー疾患を治療または予防する組成物において、活性成分は、該活性成分が抗アレルギー活性を示し得る限り、使用、処方、ブレンドの目的等に応じて、いずれの量(有効量)で配合されてもよい。活性成分の典型的な有効量は、組成物の全重量に基づいて、0.001重量%~20.0重量%の範囲内で決定されるであろう。ここで、「有効量」は抗アレルギー作用の誘発能を有する活性成分の量をいう。かかる有効量は当業者の有する通常の技術の範囲内で実験により決定され得る。
【0044】
ここで、医薬組成物は医薬的に許容される担体をさらに含有してもよい。医薬的に許容される担体について、担体が患者への送達に適する非毒性の物質である限り、いずれの担体を用いることもできる。蒸留水、アルコール、脂肪、ろう、および不活性固体が担体として含有されてもよい。医薬的に許容されるアジュバント(緩衝剤および分散剤)
もまた、医薬組成物に配合されてもよい。
【0045】
具体的には、本発明の医薬組成物は、活性成分に加えて、医薬的に許容される担体を含有し、投与経路に応じて、当該分野にて既知の慣用的方法により、経口または非経口用製剤に処方されてもよい。ここで、「医薬的に許容される」なる語は、適用(処方)されるはずの対象よりも毒性が強くなく、活性成分の活性を阻害することなく、適応し得ることを意味する。
【0046】
本発明の医薬組成物が経口用製剤に処方される場合において、該医薬組成物は、当該分野において既知の方法に従って、適切な担体と一緒に、散剤、顆粒、錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、懸濁液およびウェハーなどの製剤に処方されてもよい。ここで、適切な医薬的に許容される担体の例として、ラクトース、グルコース、シュークロース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、およびキシリトールなどの糖類、トウモロコシ澱粉、イモ澱粉、および小麦澱粉などの澱粉、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、ステアリン酸マグネシウム、鉱油、麦芽、ゼラチン、タルク、ポリオール、植物油等を挙げることができる。製剤に処方される場合において、該製剤は、必要に応じて、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤および界面活性剤などの希釈剤および/または賦形剤を配合することによって製造され得る。
【0047】
本発明の医薬組成物が非経口用製剤に処方される場合において、該医薬組成物は、当該分野において既知の方法に従って、適切な担体と一緒に、注射、経皮薬物、経鼻吸入剤、および坐剤の形態の製剤に処方されてもよい。注射剤に処方される場合には、滅菌水、エタノール、グリセロールおよびプロピレングリコールなどのポリオール、またはそれらの混合液を適切な担体として使用してもよい。担体には、リンガー液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(トリエタノールアミン、注射用滅菌水、および5%デキストロースを含有する)などの等張溶液が使用されるのが好ましい。
【0048】
医薬組成物の製造は当該分野にて公知であり、具体的には、レミントン・ファーマシューティカル・サイエンシズ(Remington’s Pharmaceutical Sciences)(第19版, 1995)等に言及され得る。該刊行物は本明細書の一部を形成すると考えられる。
【0049】
本発明の医薬組成物の好ましい日用量は、患者の健康条件、体重、性別、年齢、疾患の重篤度、または投与経路に応じて、0.01μg/kg~10g/kg、好ましくは0.01mg/kg~1g/kgの範囲にある。投与は一日に1回または数回にわたって実施されてもよい。かかる投与量は本発明の範囲を制限するものとして何ら解釈されるべきではない。
【0050】
本発明の組成物が適用(処方)され得る対象は哺乳類およびヒトであり、なかでもヒトが特に好ましい。本発明の抗アレルギー用の組成物は、活性成分に加えて、抗アレルギー活性を惹起かつ強化することを目的として、その安全性が既に立証されており、抗アレルギー活性のあることが分かっている、いずれの化合物または天然抽出物をさらに含んでもよい。
【0051】
本発明のもう一つ別の態様において、アレルギー症状を改善および緩和するための食品組成物であって、活性成分として該ポリペプチド二量体を含む食品組成物が提供される。
【0052】
ここで、該ポリぺプチド二量体は、腸に効率よく送達するための適切な送達ユニットと合わされてもよい。本発明の食品組成物はいずれの形態で製造されてもよく、例えば、茶、ジュース、炭酸飲料、イオン飲料などの飲料、牛乳およびヨーグルトなどの加工乳製品、錠剤、カプセル、ピル、顆粒、液剤、散剤、フレーク、ペースト、シロップ、ゲル、ゼリーおよびバーなどの健康機能性食品等の形態で製造されてもよい。加えて、本発明の食品組成物は、その食品組成物が、製造および分配される時点で、施行規則に適合する限り、法的または機能的分類においていずれの製品カテゴリーの範囲に含まれてもよい。例えば、該食品組成物は、健康機能性食品法(Health Functional Foods Act)による健康機能性食品であってもよく、あるいは食品衛生法の食品基準(Food Code of Food Sanitation Act)(食品医薬品局(Food and Drug Administration)によって通知される、食品用の標準および規格)による菓子、豆、茶、飲料、特殊用途食品等の範囲に含まれてもよい。本発明の食品組成物に含まれてもよい他の食品添加物に関しては、食品衛生法に係る食品基準または食品添加物基準に言及することができる。
【0053】
本発明のさらにもう一つ別の態様において、ポリペプチド二量体を生成する方法であって、単量体をコードするポリヌクレオチドおよびシアル酸トランスフェラーゼ遺伝子を導入した宿主細胞を培養する工程;およびポリペプチド二量体を回収する工程を含む、方法が提供される。
【0054】
ここで、該単量体をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞に、発現ベクター上にロードされる形態にて導入されてもよい。加えて、シアル酸トラスフェラーゼ遺伝子はベクター上にロードされた形態にて宿主細胞中に導入されてもよい。
【0055】
まず、宿主細胞に、単量体をコードするポリヌクレオチドをロードしたベクター、およびシアル酸トラスフェラーゼ遺伝子をロードしたベクターを導入する工程が行われる。ここで、該シアル酸トランスフェラーゼは、2,3-シアル酸トラスフェラーゼであっても、2,6-シアル酸トラスフェラーゼであってもよい。
次に、該形質転換細胞を培養する工程を行う。
【0056】
最後に、ポリペプチド二量体を回収する工程を行う。ここで、該ポリペプチド二量体は培地または細胞抽出物より精製されてもよい。例えば、ポリペプチド二量体を分泌する培地の上清を得た後に、その上清を、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばアミコン(Amicon)またはミリポア・ペリコン(Millipore Pellicon)の限外濾過ユニットを用いて濃縮してもよい。次に、その濃縮物を当該分野にて既知の方法により精製してもよい。例えば、該精製はタンパク質Aと結合したマトリックスを用いてなされてもよい。
【0057】
本発明のさらにもう一つ別の態様において、二量体を生成する上記の方法により生成されるポリペプチド二量体が提供される。
ここで、該ポリペプチド二量体はシアル酸含有量が高く、かくして理論上のpI値と比べて酸性タンパク質の含有量が極めて高い。
【0058】
本発明のさらにもう一つ別の態様において、活性成分として、二量体を生成する上記の方法により生成されるポリペプチド二量体を含む、アレルギー疾患を治療または予防するための医薬組成物が提供される。
【0059】
本発明のさらにもう一つ別の態様において、活性成分として、二量体を生成する上記の方法により生成されるポリペプチド二量体を含む、アレルギー症状を改善または緩和するための食品組成物が提供される。
【0060】
本発明のさらにもう一つ別の態様において、2個の単量体を含有し、その各々が、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIa-ECD)を含有する、ポリペプチド二量体を対象に投与する工程を含む、アレルギー疾患を治療または予防するための方法が提供される。
【0061】
対象は哺乳類、好ましくはヒトであってもよい。ここで、投与は経口または非経口で達成され得る。ここで、非経口投与は、皮下投与、静脈内投与、粘膜投与および筋肉投与などの方法により行われ得る。
【0062】
以下、本発明を次の実施例を参考にしてさらに詳細に記載する。しかしながら、次の実施例は、本発明を説明するに過ぎず、本発明の範囲がそこだけに限定されることを意図するものではない。
【0063】
実施例1. FcεRIα-ECDおよび修飾Fc領域を含有するポリペプチドの製造
IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIα-ECD)のC-末端修飾ポリペプチドを、米国特許第7,867,491号に開示される方法に従って製造した。
【0064】
まず、タンパク質(FcεRIαECD-Fc1)、タンパク質(FcεRIαECD-Fc2)、およびタンパク質(FcεRIαECD-Fc3)(ここで、配列番号:1のアミノ酸配列を有するFcεRIのα-鎖の細胞外ドメインと、配列番号:2の修飾免疫グロブリンFcとを、各々、配列番号:19のヒンジ、配列番号:3のヒンジ、および配列番号:4のヒンジを介して連結させた)を発現させるために、各タンパク質をコードする遺伝子を連結することにより得られたカセットをpAD15ベクター(Genexin, Inc.)中にクローン化し、FcεRIαECD-Fcタンパク質発現ベクターを構築した。次に、該発現ベクターを、各々、CHO DG44細胞(Dr. Chasin, Columbia University, USAから由来)中に形質導入した
【0065】
ここで、細胞株に形質導入された時点で、α-2,6-シアル酸トラスフェラーゼ遺伝子をpCIヒグロ(Hygro)ベクター(Invitrogen)にクローン化することによって得られた発現ベクターは同時に形質導入され、シアル酸が付加されている、FcεRIαECD-Fc2STおよびFcεRIα ECD-Fc3STタンパク質を発現する能力を有する細胞株を別個に製造した。
【0066】
一次スクリーニング操作として、5-ヒドロキシトリプタミン(HT)フリー10%dFBS培地(Gibco, USA, 30067-334)、MEMα培地(Gibco, 12561, USA, カタログ番号12561-049)およびHT+培地(Gibco, USA, 11067-030)を用いてHT選択を行った。次に、メトトレキサート(MTX)増幅をHT選択のクローンを用いて行い、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)システムを用いて生産能を増幅させた。
【0067】
MTX増幅の終了後、生産能を評価する目的で細胞の安定化のために継代培養を約1~5回行った。その後に、MTX増幅細胞の単位生産能の評価を行った。結果を以下の表1に示す。
【0068】
【0069】
表1に示されるように、FcεRIαECD-Fc3細胞株は、メトトレキサートと2μMで増幅させた後に16.9μg/106細胞の生産能を示した。他方では、FcεRIαECD-Fc3細胞株(FcεRIαECD-Fc3ST)は、2,6-シアル酸トラスフェラーゼとの共形質導入で、メトトレキサートと1μMで増幅させた後に17.5μg/106細胞の生産能を示した。加えて、FcεRIαECD-Fc2細胞株は、0.5μMでのメトトレキサート増幅条件下で20.9μg/106細胞の生産能を示した。加えて、FcεRIαECD-Fc2細胞株(FcεRIαECD-Fc2ST)は、2,6-シアル酸トラスフェラーゼとの共形質導入で、0.1μMでのメトトレキサート増幅の後に25.1μg/106細胞の生産能を示した。すなわち、0.1μMでのメトトレキサート増幅条件下で選択された、FcεRIαECD-Fc2細胞株の2,6-シアル酸トラスフェラーゼとの共形質導入が、最も優れた生産能を示すことが同定された。
【0070】
実施例2. FcεRIα ECD融合タンパク質の精製およびその純度の同定
上記した実施例1にて選択された細胞株の中で、i)FcεRIαECD-Fc3,ii)FcεRIαECD-Fc3ST、およびiii)FcεRIαECD-Fc2STをバッチ培養法により60mlのスケールで培養した。得られた培養物をタンパク質Aアフィニティカラムを用いて精製し、次に精製したタンパク質をSDS-PAGEおよびサイズ排除HPLC(SE-HPLC)に供し、そのタンパク質の純度を同定した。
【0071】
図1に示されるように、SE-HPLC方法によって精製されたすべての個々のタンパク質は純度が93%以上であることが同定された。加えて、SDS-PAGE分析の結果として、大きさが約150kDaおよび約75kDaのタンパク質が、各々、非還元および還元条件において検出されることが同定された(
図1、レーン1~6)。このことから、Fc結合のFcεRIαECDは二量体を形成することが判明した。加えて、末端切断された形態などの不純物はSDS-PAGE結果にて全く観察されなかった。とりわけ、解凍/凍結の工程後でさえも(
図1、レーン7~8)、すべてのタンパク質が93%以上の純度を有し、不純物のないことが同定された。このことから、末端切断された形態のタンパク質の生成は、野生型IgDヒンジを適用したFcεRIαECD-Fc1と比べて減少していることが判明した。
【0072】
ここで、Gel-IEFを以下の試験条件下で行い、シアル酸トラスフェラーゼを導入した後のタンパク質におけるシアル酸含有量を同定した。このことから、酸性タンパク質の含有量が、シアル酸含有量の増加によって、増えていることが同定された。
【0073】
【0074】
精製率の再現性を同定するために、FcεRIαECD-Fc2ST細胞株を1Lのフラスコにおいて250mlのスケールでバッチ培養に付し、タンパク質Aアフィニティカラムを用いて精製した。その後で、培養上清および精製した生成物を4%~15%TGXTMゲル(Bio-Rad Laboratories, Inc.)にて、トリス-グリシンSDS(TGS)緩衝液および200Vの条件で30分間にわたって操作に供し、ついでSDS-PAGE分析に付した。結果として、タンパク質が第1の精製工程だけでも極めて高純度(98%以上)に精製されるだけでなく、タンパク質が培養上清においてでさえ極めて高純度で発現されることが同定された。このことは、問題となっている細胞株にて発現されたFcεRIαECD-Fcタンパク質を医薬品に進展させるのに、プロセスの進展工程が簡素化させることができ、結果として、医薬品の開発コストを著しく減らす可能性が大いにあることを示す。
【0075】
実施例3. FcεRIα ECD融合タンパク質のIgEとの結合能の同定
IgEとの結合能を、上記した実施例2の方法を通して精製された、4種のタンパク質、i)FcεRIαECD-Fc2、ii)FcεRIαECD-Fc2ST、iii)FcεRIαECD-Fc3、およびiv)FcεRIαECD-Fc3ST、ならびに市販の抗IgE抗体であるオマリズマブ(商品名:ゾーレア)について比較して測定した。具体的には、IgEとの結合能は、タンパク質GLCセンサーチップ(Bio-Rad Laboratories, Inc.、カタログ番号176-5011)のチャンネルでIgEをコーティングし、オマリズマブまたは各FcεRIαECD-Fcタンパク質を種々の濃度にて30μl/分の速度で流れるようにすることにより測定された。
【0076】
実験は、25mM NaOHを再生緩衝液として用いてゼロベースを同定し、ついで上記した工程を反復することによりなされた。その後で、タンパク質結合アナライザー(ProteOn XPR36、Bio-Rad Laboratories, Inc., USA)を用いて結合曲線を同定した。結果を表3、ならびに
図3および4にて示す。
【0077】
【0078】
表3に示されるように、本発明の実施態様に係るポリペプチド二量体の会合速度(ka)値は、オマリズマブの値よりも1.5~2.0倍低いことが測定された。すなわち、該ポリペプチド二量体のIgE以外の物質との結合能はオマリズマブの結合能よりも1.5~2.0倍小さいことが判明した。加えて、本発明の実施態様に係るポリペプチド二量体の解離速度(kd)値は、オマリズマブの値よりも40~106倍高いことが測定された。加えて、
図3および4に示されるように、結合から特定の期間が経過した場合には、オマリズマブはそのIgEとの結合を失うのに対して、本発明のFcεRIαECD融合タンパク質のぺプチド二量体は一度でもIgEと結合すると、そのポリペプチド二量体はIgEから分離されないことを同定できた。
【0079】
すなわち、本発明のポリペプチド二量体はIgEより容易に分離されず、オマリズマブよりもその結合状態を維持するために極めて優れた能力を有することが分かる。結果として、本発明の実施態様に係るポリペプチド二量体は、オマリズマブよりも22~69倍大きな平衡解離定数(KD<kd/ka>)値を有することが分かる。このことから、本発明のFcεRIαECD融合タンパク質はオマリズマブと比べてIgEとの結合能を著しく増大させることが同定された。特に、シアル酸が付加される、FcεRIαECD-Fc2(FcεRIαECD-Fc2ST)が、オマリズマブよりも69倍高い、最も高いIgE結合能を示すことが同定された。
【0080】
実施例4. FcεRIα ECD融合タンパク質のIgG受容体との結合能の同定
IgE
TRAPおよびオマリズマブのIgG受容体との結合度は、Octet RED384システム(ForteBio, CA, USA)を用いて同定された。FcγRI、 FcγRIIA、FcγRIIb、FcγRIIIA、およびFcγRIIIB組換えタンパク質(R & D Systems Inc.、5μg/ml)を300mMの酢酸緩衝液(pH5)中にて活性化AR2Gバイオセンサー上で固定した。ランニング緩衝液として、0.1%ツィーン20および1%ウシ血清を含有するPBSを用いた。すべての実験は、30℃でサンプルプレート振盪器を用いて1,000rpmの速度で実施された。結果を
図5A~5Eに示し、オマリズマブおよびIgE
TRAPのIgG受容体との結合能を定量し、
図6に示す。
【0081】
実施例5. マウス骨髄由来の脂肪細胞においてベータ-ヘキソサミニダーゼアッセイを介するFcεRIα ECD融合タンパク質の活性の同定
ベータヘキソサミニダーゼアッセイを、本発明のFcεRIαECD融合タンパク質のインビトロでの活性分析について行った。具体的には、本発明の実施態様に係るFcεRIαECD-Fc2タンパク質を、各濃度で、マウスIgE(1μg/mL)と混合し、室温(20℃)で30分間インキュベートし、サンプルを調製した。脂肪細胞を活性化するための培養液中にあるマウス骨髄由来の脂肪細胞をハンクス平衡塩溶液(HBSS)の緩衝液で洗浄し、培地を除去し、細胞の数を測定した。次に、5x105個の細胞が40μLのHBSS緩衝液に注入されるように調整を行った。
【0082】
次に、プレインキュベーションを介して製造された50μLのサンプル溶液を活性化された脂肪細胞に加えた。ついで、得られた物を5%CO
2インキュベーターにて37℃で30分間インキュベートした。その後で、異種抗原であるDNP(2,4-ジニトロフェノール、100ng/mL)を、各々、10μLで添加した後に、37℃で30分間にわたって5%CO
2中で再びインキュベーションを行い、ついで30μLの上清を分離した。30μLの上清および30μLの基質(4-ニトロフェニル N-アセチル-β-D-グルコサミニド、5.84mM)を十分に混合し、ついで37℃で20分間にわたって5%CO
2中でインキュベートした。次に、140μLの0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH10)を停止溶液として添加して、反応を終えた。その後、405nmでの吸光度を測定し、活性化された脂肪細胞において異種抗原により分泌されたβ-ヘキソサミニダーゼの分泌量を同定した。結果を
図7に示す。
【0083】
図7に示されるように、本発明の実施態様のポリペプチド二量体は、マウスIgEのの半分の濃度(0.5μg/mL)である場合に、約49.4%の脂肪細胞の阻害割合を示し、マウスIgEと同じ濃度(1μg/mL)である場合に、約99.4%の脂肪細胞の阻害割合を示した。すなわち、骨髄由来の脂肪細胞のIgE誘発活性は、本発明のFceRIa-ECDポリペプチド二量体によって大いに抑制されることが分かり得る。
【0084】
実施例6. ヒトFcεRIを発現する骨髄由来の脂肪細胞においてβ-ヘキソサミニダーゼアッセイを用いる、FcεRIα ECD融合タンパク質および抗ヒトIgE抗体の活性の比較
β-ヘキソサミニダーゼアッセイを行い、インビトロ活性分析を介してゾレアと比較したFcεRIα ECD融合タンパク質の優位性を同定した。各薬物の、FcεRIαECD-Fc2ST(IgETRAP)およびゾレアを各濃度で製造し、次にヒトIgE(1μg/mL)と混合した。次に、インキュベーションを室温で30分間行った。薬物のプレインキュベーションの間に、ヒトFcεRI遺伝子を導入し、マウス骨髄から誘導され、分化した、マウスFcεRI遺伝子が除去された、脂肪細胞を調製した。調製した脂肪細胞をHBSS緩衝液で洗浄し、次に5x105細胞を60μLのHBSS緩衝液中に注入した。20μLのプレインキュベートしたサンプルを調製した脂肪細胞に添加し、ついで5%CO2インキュベーター中、37℃で30分間にわたってインキュベートした。
【0085】
その後で、20μLの抗ヒトIgE抗体(BioLegend、カタログ番号325502、0.5μg/mL)を添加した後、結果として得られた物を5%CO2インキュベーター中、37℃で30分間にわたって再びインキュベートした。その後、1,500rpmにて4℃で遠心分離に付した後、30μLの上清を分離した。30μLの分離した上清および30μLの基質(4-ニトロフェニル N-アセチル-β-D-グルコサミニド、5.84mM)を十分に混合し、ついで5%CO2インキュベーター中、37℃で25分間にわたってインキュベートした。次に、140μLの0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH10)を添加して反応を停止させた。
【0086】
その後、405nmでの吸光度を測定し、分泌されたβ-ヘキソサミニダーゼの相対量を比較し、各薬物濃度に応じた脂肪細胞阻害作用を同定した。結果を
図8に示す。
図8に示されるように、FcεRIα ECD融合タンパク質のIC
50は約11.16ng/mLであることが測定され、ゾレアタンパク質のIC
50は約649.8ng/mLであることが測定された。したがって、FcεRIα ECD融合タンパク質はゾレアと比べて脂肪細胞活性に対して58倍高い阻害能を有することが同定された。
【0087】
実施例7 FcεRIα ECD融合タンパク質のインビボアッセイ(食物アレルギー実験)
50μgのオマリズマブ(OVA)および1mgのアルム(alum)をBalb/cマウス(Orientbio Inc.)に14日間の間隔で2回腹腔内投与に付し、感作を誘発させた。その後で、50mgのOVAを第28日、30日、32日、34日および36日に合計で5回経口投与に付し、腸において食物アレルギーを誘発した。
【0088】
OVAを2回経口投与した後、すなわち、第31日目に、マウスを一群7匹の3群に分けた。3つに分けた群は次のとおりであった:第1群はFcεRIαECD-Fc2ST融合タンパク質を高濃度(200μg)で受容し、第2群はFcεRIαECD-Fc2ST融合タンパク質を低濃度(20μg)で受容し、第3群は何も受容しなかった。OVAを経口投与した場合に、食物アレルギー誘発に起因して下痢が生じているかどうかを同定した。第37日目にマウスを殺し、小腸での脂肪細胞の数、血中のIgE濃度、および血中における脂肪細胞の脱顆粒した酵素(脂肪細胞プロテアーゼ-1(MCPT-1))の濃度を各群に属するマウスについて分析した。
【0089】
図9に示されるように、ポリペプチド二量体である、FcεRIαECD-Fc2STを高濃度で受容している群に属するマウスは、何も受容していない群に属するマウスと比べて、濃度依存的に、食物アレルギーを緩和する効果を示すことが同定された。
【配列表】