(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】送電線の監視区域内での電気的故障の検出
(51)【国際特許分類】
H02H 3/00 20060101AFI20240514BHJP
H02H 7/26 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H02H3/00 D
H02H7/26 F
H02H7/26 J
H02H7/26 M
(21)【出願番号】P 2022552610
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2021055071
(87)【国際公開番号】W WO2021175793
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】202041008792
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ,ニィートゥ
(72)【発明者】
【氏名】ナイドゥ,オーディ
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-078292(JP,A)
【文献】特開2002-311076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0004103(US,A1)
【文献】米国特許第05453903(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/00
H02H 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電システムにおける監視区域内の故障に応答して送電線を保護するための方法であって、
送電線の少なくとも1つの相における故障の発生を識別することと、
計算された増分電流に基づいて増分電流の実際の変化率を計算することと、
計算された増分電圧、前記計算された増分電流、線パラメータ、および前記監視区域の区域設定に基づいて、増分電流の変化率の閾値を計算することと、
増分電流の実際の変化率と増分電流の変化率の閾値との比較に基づいて、前記故障が前記監視区域内にあると判定することと、
前記比較に基づいて、前記送電線に関連する切り替え装置を制御するためのトリップ信号を生成することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記計算された増分電圧および前記計算された増分電流は、それぞれ電圧および電流の差に対応し、前記電圧および電流は、前記送電線の端子において測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増分電流の実際の変化率を計算することが、
移動平均フィルタに基づいて、前記計算された増分電流を処理して処理済みの増分電流を提供することと、
前記処理済みの増分電流に基づいて前記増分電流の実際の変化率を計算することと
をさらに含む、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
処理済みの増分電圧および処理済みの増分電流が、以下の式を使用して決定され、
【数1】
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記線パラメータは、前記
送電線の抵抗およびインダクタンスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの相における故障の発生を識別することが、前記送電線の1つの端子に関連する前記計算された増分電流に基づく、請求項1および2に記載の方法。
【請求項7】
前記故障を決定することは、
増分電流の処理済みの実際の変化率および増分電流の変化率の処理済みの閾値を提供するために、前記増分電流の実際の変化率の二乗平均平方根値および増分電流の変化率の閾値を計算することと、
増分電流の処理済みの実際の変化率と、前記増分電流の変化率の処理済みの閾値とを比較することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記故障は、前記増分電流の処理済みの実際の変化率が、前記増分電流の変化率の処理済みの閾値よりも大きいときに発生したものである、請求項1および7に記載の方法。
【請求項9】
送電システムの監視区域内の送電線の少なくとも1つの相内で発生している故障から前記送電線を保護するためのインテリジェント電子装置(IED)であって、前記IEDは、少なくとも2つの端子を1つ以上の送電線に接続する前記送電線の一端に設けられ、IEDは、
マイクロプロセッサと、
出力インターフェースと、
相選択モジュールであって、
送電線の少なくとも1つの相における故障の発生を検出する、相選択モジュールと、
故障検出モジュールであって、
前記送電線の端子において測定される電圧および電流に基づいて増分電圧および増分電流を計算し、
計算された増分電流に基づいて増分電流の実際の変化率を計算し、
計算された増分電圧、前記計算された増分電流、線パラメータ、および監視区域の区域設定に基づいて、前記増分電流の変化率の閾値を計算し、
前記増分電流の実際の変化率と前記増分電流の変化率のしきい値とを比較して、前記故障が前記監視区域内にあると判定し、
前記比較に基づいて、前記送電線に関連する切り替え装置を制御するためのトリップ信号を生成する、故障検出モジュールと
を備える、インテリジェント電子装置(IED)。
【請求項10】
前記増分電流の実際の変化率を計算するための故障検出モジュールは、移動平均フィルタに基づいて、前記増分電流をさらに処理して、処理済みの増分電流を提供する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
処理済みの増分電圧および処理済みの増分電流が、以下の式を使用して決定され、
【数2】
請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記故障検出モジュールは、以下の式を使用して前記増分電流の実際の変化率を計算し、
【数3】
請求項9および11に記載の装置。
【請求項13】
前記故障検出モジュールは、以下の式を使用して前記増分電流の変化率の閾値を計算し、
【数4】
を使用してさらに決定される、請求項9および11に記載の装置。
【請求項14】
前記増分電流の処理済みの変化率および前記増分電流の変化率の処理済みの閾値は、
【数5】
請求項9、12、および13に記載の装置。
【請求項15】
前記故障検出モジュールは、前記増分電流の処理済みの変化率が、前記増分電流の変化率の処理済みの閾値よりも大きい場合に、前記監視区域内で故障が発生したと判定する、請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本主題は、一般に、送電システムに関する。より具体的には、本主題は、送電線の監視区域内の故障を検出するための手法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
伝送線に発生する短絡故障は、電力システムにおける危険な現象の1つである。そのような故障は、発生した場合、可能な限り早く検出および除去されなければならない。故障が臨界故障除去時間内に除去または対処されない場合、故障によって送電システムが過渡安定性を失う可能性があり、ひいては停電につながる可能性がある。インテリジェント電子装置(IED)に結合された距離リレーを利用して、そのような故障に対する伝送線の保護を提供することができる。理解されるように、IEDは、その動作中にインピーダンスを監視することができる。IEDによって監視されているインピーダンスが所定の閾値未満である場合、距離リレーを作動させて、故障に対する保護を保証することができる。距離リレーは故障の検出に応答して動作するため、従来の距離リレーの速度は、伝送線故障状態中のフェーザ推定の正確度に依存することが理解されよう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本主題の特徴、態様、および利点は、以下の説明および添付の図面に関してよりよく理解されよう。異なる図における同じ参照符号の使用は、類似または同一の特徴および構成要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】一例による、インテリジェント電子装置を有する電気ネットワークを示す図である。
【
図2】一例による、例示的なインテリジェント電子装置のブロック図である。
【
図3】一例による、送電線の監視区域内の三相故障の発生、電流および電圧の瞬時値、ならびに対応する増分電流および増分電圧を示す例示的なグラフ図である。
【
図4】一例による、送電線の監視区域内の三相故障の発生、電流および電圧の瞬時値、ならびに対応する増分電流および増分電圧を示す例示的なグラフ図である。
【
図5】一例による、送電線の監視区域内の三相故障の発生、電流および電圧の瞬時値、ならびに対応する増分電流および増分電圧を示す例示的なグラフ図である。
【
図6】一例による、送電線の監視区域内の三相故障の発生、電流および電圧の瞬時値、ならびに対応する増分電流および増分電圧を示す例示的なグラフ図である。
【
図7】一例による、送電線の監視区域内の三相故障の発生、電流および電圧の瞬時値、ならびに対応する増分電流および増分電圧を示す例示的なグラフ図である。
【
図8】電気ネットワーク内の送電線の監視区域内の故障の存在を確認するための例示的な方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
図面全体を通して、同一の参照符号は、類似しているが必ずしも同一ではない要素を示すことに留意されたい。図面は必ずしも縮尺通りではなく、いくつかの部品のサイズは、示されている例をより明確に示すために誇張されている場合がある。さらに、図面は、説明と一致する例および/または実施態様を提供するが、説明は、図面に提供される例および/または実施態様に限定されない。
【0006】
詳細な説明
電気的故障は、電気ネットワークの外部または内部の変化に起因して発生し得る電圧および/または電流値の逸脱と考えることができる。通常の動作条件下では、伝送線内の電気ネットワーク機器は、通常の電圧および電流を搬送し、それらの通常の動作パラメータ内で動作する。しかしながら、電気的故障の発生中、その結果として、過度に高い電流がそのようなネットワーク機器を通って流れる可能性がある。これは、電気ネットワーク内の機器および装置に損傷を与える可能性がある。従来、電気ネットワークを保護するために多くの予防措置が実施されている。そのような一例では、インピーダンスが所定の値を下回って低下すると、IEDは、距離リレーに故障を検出させ、それに応じて回路遮断器などの切り替え装置が、電気ネットワークで経験されるインピーダンス低下から生じ得る任意の損傷を防止するためにトリップするためのトリップ指令を生成する。故障は、非対称故障および対称故障に広く分類することができる。非対称故障とは、伝送線の3相すべてにおいて三相電源の負荷が不均等になる状態である。他方、対称故障または平衡故障は、電気ネットワークの3相の各々に等しくかつ同時に影響を及ぼすような故障と見なされ得る。そのような対称故障の例には、三線間(L-L-L)、三線接地間(L-L-L-G)が含まれるが、これらに限定されない。
【0007】
故障の検出および/またはこれらの故障からの伝送線の保護に利用される技法の1つは、距離保護法として一般に知られている手法を含む。このような場合、短絡インピーダンスの測定に基づいて伝送線の短絡を検出することができる。この目的のために、IEDなどの保護装置は、故障位置までインピーダンスを測定することができる。これに基づいて、故障が実際に保護装置によって保護されるべき伝送線または区域内で発生しているか否かを確認するためのさらなる判定を行うことができる。発生した短絡が保護されるべき線上にあることが確認された場合、当該ラインは切断され、故障のあるネットワーク部分はシステムから分離される。
【0008】
同じく理解されるように、送電は、1つ以上のソースからの発電を含み得る。現在、発電はまた、電気ネットワークの慣性および過渡安定性マージンを低減する傾向があり得る再生可能な電力源を含むことができる。安定性への影響のために、高速保護が必要である。高速保護のための従来の技法は、特定の時間領域保護原理に基づいている。そのような技法は、高速線保護のために高いサンプリングレートおよび処理電力をさらに利用し得る。そのような手法は、一般に、故障位置およびソース-線インピーダンス比に応じて、故障検出時間を短縮することができた。しかしながら、電気ネットワーク内のそのような再生可能資源の関与が増加するだけであることを考慮すると、したがって、故障をより迅速に検出するための手法が所望される。
【0009】
送電線の監視区域内で発生した可能性がある電気的故障の発生を検出するための手法が記載される。一例では、送電線の少なくとも1つの相における故障の発生を最初に識別することができる。さらに続けると、計算された増分電流および電圧に基づく増分電流および増分電圧の実際の変化率が決定される。増分電流は、それらが電流の差に対応するようなものである。同様に、増分電圧は、電圧の差に対応する値と考えることができる。この例では、電流および電圧は、送電線の端子において測定される。
【0010】
増分電流の実際の変化率が決定されると、増分電流の変化率の閾値がさらに決定され得る。増分電流の変化率の閾値は、区域境界において故障が発生したと仮定した、そのような増分電流の変化率として理解することができる。したがって、増分電流の変化率の閾値は、検討中の故障が区域境界内で発生したか否かを確認するための基礎を形成する。一例では、増分電流の変化率の閾値は、計算された増分電圧、計算された増分電流、線パラメータ、および監視区域の区域設定に基づいて計算することができる。増分電流の変化率の閾値を計算するために他のパラメータを利用することもできることに留意されたい。区域設定(到達設定)は、保護の到達範囲、すなわち保護によってカバーされると予測され、それを超えて保護は動作しない区域を決定する設定である。これは、伝送線長またはインピーダンスの割合に関するものであり得る。
【0011】
その後、故障が監視区域内で発生した可能性があるか否かを確認するために、さらなる判定を行うことができる。監視区域は、インテリジェント電子装置(IED)によって監視される送電線の一部と考えることができる。一例では、判定は、増分電流の実際の変化率と増分電流の変化率の閾値との比較に基づくことができる。例えば、増分電流の実際の変化率が増分電流の変化率の閾値よりも大きいことは、故障を示す。他方、増分電流の実際の変化率が増分電流の変化率の閾値未満である場合、故障が監視区域を超えて発生した可能性があると結論付けることができる。監視区域内で故障が発生したと判断すると、送電線に関連する回路遮断器などの切り替え装置を制御するためのトリップ信号を生成することができる。
【0012】
記載された手法はまた、故障が到達範囲内で発生し、従来の手法と比較してより短い時間内に修正されるべきか否かを判定することを可能にし、それによって、例えば変流器の飽和に起因して生じる故障などの故障の悪影響を防止する。本主題を実装する送電システムは、電力動揺状態中に故障が発生する状況を検出し、安定を維持することが可能であることも観察されている。上述のステップの方法は、求められている保護の範囲を逸脱することなく、様々な例にわたって異なり得る。これらおよび他の態様は、添付の
図1~
図5に関連してさらに詳細に説明される。
【0013】
図1は、一例による等価な電気ネットワーク100のブロック図を提供する。電気ネットワーク100は、伝送線102と、2つの電源、すなわち電源104,106とを備える。伝送線102は、1つ以上の切り替え装置(複数可)108-1、2、3、4、...、N(まとめて切り替え装置(複数可)108と呼ばれる)をさらに備える。切り替え装置(複数可)108は、故障状態中に回路を開いて電気ネットワーク内の過剰電流の流れを制限することを可能にする。図示の電気ネットワーク100は単なる例示であることに留意されたい。電気ネットワーク100は、本主題の範囲から逸脱することなく、さらなる構成要素を含むことができる。
【0014】
電気ネットワーク100には、インテリジェント電子装置110(IED110と呼ばれる)がさらに設置される。IED110は、直接的にまたは他の接続手段を介して伝送線102と電気的に通信することができる。IED110は、動作中に、1つ以上の測定装置から測定値を受信および監視することができる。そのような測定装置の例には、変流器および変圧器が含まれるが、これらに限定されない。受信した測定データに基づいて、IED110は、以下の段落で説明するように、切り替え装置(複数可)108を制御するための1つ以上の信号を生成することができる。
【0015】
IED110は、相選択モジュール112および故障検出モジュール114をさらに含む。相選択モジュール112および故障検出モジュール114は、IED110内にインストールされたソフトウェアとして、またはIED110の回路内に統合された電子回路の形態のハードウェアとして実装されてもよい。本例は、電気ネットワーク100が電気的故障に直面していることを考慮して説明される。本主題は、測定装置からの電流信号を取得することができるように、IED110が伝送線102内の端子Aに配置されたときに、監視区域内のそのような故障の発生を検出することができる。IED110はまた、本主題の範囲から逸脱することなく電力動揺の発生を判定するように適合され得ることに留意されたい。
【0016】
動作中、相選択モジュール112は、伝送線102の特定の相内の故障の発生を判定する。故障が発生した相を判定することができる方法は、他の図と併せてさらに説明される。故障が発生した相が判定されると、IED110は、故障が伝送線102の監視区域内で発生したか否かをさらに判定することができる。一例では、故障検出モジュール114が、故障が監視区域内で発生したか否かを判定することができる。
【0017】
そのような目的のために、故障検出モジュール114は、伝送線102の端子における電流および電圧の値を決定することができる。電流値および電圧値に基づいて、故障検出モジュール114は、端子において測定された電流の変化に基づいて増分電流をさらに決定することができる。同様に、電圧の変化に基づいて、増分電圧も決定することができる。
【0018】
上述の増分値が決定されると、故障検出モジュール114は、決定された増分電流に基づいて増分電流の実際の変化率(簡潔にするために、実際の変化率と呼ばれる)をさらに計算することができる。その後、故障検出モジュール114は、増分電流の変化率のしきい値をさらに計算することができる(簡潔にするために、変化率の閾値と呼ばれる)。一例では、増分電流の変化率の閾値は、計算された増分電圧、計算された増分電流、および監視区域内に存在する伝送線102に対応する線パラメータ(例えば、抵抗またはインダクタンス)に基づいて計算することができる。
【0019】
同じく前述したように、変化率の閾値は、区域境界において故障が発生したと仮定して存在する増分電流の変化率と考えることができる。一例では、区域境界は、伝送線102の長さの一部である長さであってもよい。別の例では、区域境界は、伝送線102の長さの約80%において生じるものとして定義されてもよい。区域境界が存在する長さを定義する本例は、単なる指標であることに留意されたい。区域境界がどこに位置するかを定義する任意の他の尺度が、本主題の範囲から逸脱することなく使用されてもよい。
【0020】
本例に戻ると、増分電流の実際の変化率および変化率の閾値が取得されると、故障検出モジュール114は、これをさらに処理して、増分電流の処理済みの実際の変化率および変化率の処理済みの閾値を取得することができる。一例では、故障検出モジュール114は、実際の変化率および変化率の閾値の二乗平均平方根値を計算して、処理済みの実際の変化率および変化率の処理済みの閾値を提供することができる。
【0021】
次いで、故障検出モジュール114は、処理済みの実際の変化率および変化率の処理済みの閾値に基づいて、故障が区域境界内で発生したか否かを評価することができる。例えば、故障検出モジュール114は、処理済みの実際の変化率と、変化率の処理済みの閾値とを比較することができる。処理済みの実際の変化率が変化率の処理済みの閾値未満である場合、故障検出モジュール114は、故障が監視区域境界を超えて発生したことを示すことができる。しかしながら、処理済みの実際の変化率が処理済みの閾値変化率より大きい場合、故障検出モジュール114は、対応して、故障が監視区域境界内で発生したことを示すことができる。
【0022】
監視区域境界内の故障の発生を判定すると、故障検出モジュール114は、検討中の伝送線102に結合され得る切り替え装置(複数可)108、例えば、回路遮断器のための1つ以上のトリップ信号をさらに生成することができる。トリップ信号に基づいて、切り替え装置(複数可)108が作動して、監視区域境界内で発生した故障を分離することができる。これらおよび他の例は、
図2に関連してさらに説明される。
【0023】
図2は、一例による、インテリジェント電子装置(IED)110のブロック図を提供する。IED110は、プロセッサ(複数可)202、インターフェース(複数可)204、およびメモリ(複数可)206を含む。プロセッサ(複数可)202は、単一の処理ユニットであってもよく、または複数のユニットを含んでもよく、それらすべてが複数のコンピューティングユニットを含んでもよい。プロセッサ(複数可)202は、1つ以上のマイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、デジタル信号プロセッサ、中央処理装置、ステートマシン、論理回路、および/または動作命令に基づいて信号を操作する任意の装置として実装することができる。とりわけ、プロセッサ(複数可)202は、メモリ206に格納されたプロセッサ可読命令をフェッチおよび実行して、1つ以上の機能を実装するように適合される。
【0024】
インターフェース(複数可)204は、様々なソフトウェアおよびハードウェア対応インターフェースを含むことができる。インターフェース(複数可)204は、IED110と電気ネットワーク100の他の構成要素との間の通信および接続を可能にすることができる。そのような構成要素の例には、切り替え装置(複数可)108およびセンサが含まれるが、これらに限定されない。インターフェース(複数可)204は、多種多様なプロトコル内の複数の通信を促進することができ、また、1つ以上のコンピュータ対応端子または同様のネットワーク構成要素との通信を可能にすることができる。
【0025】
メモリ(複数可)206は、プロセッサ(複数可)202に結合することができる。メモリ(複数可)206は、例えば、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)およびダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)などの揮発性メモリ、ならびに/または読み出し専用メモリ(ROM)、消去可能プログラマブルROM(EPROM)、フラッシュメモリ、ハードディスク、光ディスク、および磁気テープなどの不揮発性メモリを含む、当該技術分野で知られている任意のコンピュータ可読媒体を含むことができる。
【0026】
IED110は、1つ以上のモジュール(複数可)208をさらに含むことができる。モジュール(複数可)208は、モジュール(複数可)208の様々な機能を実装するために、ハードウェアとプログラミング(例えば、プログラム可能命令)との組み合わせとして実装されてもよい。本明細書に記載の例では、ハードウェアとプログラミングとのそのような組み合わせは、いくつかの異なる方法で実装されてもよい。例えば、モジュール(複数可)208のプログラミングは実行可能命令であってもよい。そのような命令は、このとき、IED110と直接的にまたは間接的に(例えば、ネットワーク化された手段を介して)結合することができる非一時的機械可読記憶媒体に記憶することができる。ハードウェアとして実装される例では、モジュール(複数可)208は、そのような命令を実行するための処理リソース(例えば、単一のプロセッサまたは複数のプロセッサの組み合わせのいずれか)を含むことができる。本例では、プロセッサ可読記憶媒体は、処理リソースによって実行されると、モジュール(複数可)208を実装する命令を格納することができる。他の例では、モジュール(複数可)208は電子回路によって実装されてもよい。
【0027】
データ212は、モジュール(複数可)208のいずれかによって実装される機能の結果として格納または生成されるデータを含む。データ212に格納され利用可能な情報は、故障が発生したことになる区域を検出するために利用されてもよいことにさらに留意されたい。一例では、モジュール(複数可)208は、相選択モジュール112、故障検出モジュール114、および他のモジュール(複数可)210を含む。他のモジュール(複数可)210は、IED110またはモジュール(複数可)208のいずれかによって実行されるアプリケーションまたは機能を補完する機能を実装することができる。他方、データ212は、故障前ループ電圧214、故障前ループ電流216、増分電圧218、増分電流220、増分電流の実際の変化率222、増分電流の変化率の閾値224、増分電流の処理済みの変化率226、増分電流の変化率の処理済みの閾値228、および他のデータ230を含むことができる。加えて、IED110は、他の構成要素(複数可)232をさらに含むことができる。そのような他の構成要素(複数可)232は、電気ネットワーク100の動作を管理および制御する機能を可能にする様々な他の電気構成要素を含むことができる。そのような他の構成要素232の例には、リレー、コントローラ、スイッチ、および電圧レギュレータが含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
IED110は、電気ネットワーク100などの電気ネットワーク内の送電線の監視区域内での電気的故障の発生を検出する。IED110の動作は、
図3~
図4に関連してさらに説明される。
図3~
図4は、電流波形を示す一連の例示的なグラフである。このように描かれた波形は、単なる指標であり、本実施例に関連し得ることに留意されたい。波形は実施態様に応じてわずかに異なり得る。
【0029】
本例に戻ると、IED110は、インターフェース(複数可)204を介して電気ネットワーク100内に設置された1つ以上の測定装置と接続することができる。前述のように、そのような測定装置の例には、変流器または変圧器が含まれる。動作中、相選択モジュール112は、故障が発生した相を識別するために、電気ネットワーク100内で伝送されている三相電流に対応する電流および電圧測定値を監視することができる。
【0030】
一例では、電気ネットワーク100内の電流の流れを監視しながら、相選択モジュール112が、始動信号の状態を決定する。始動信号の状態に基づいて、相選択ステップを開始することができる。一例では、相選択モジュール112は三相入力電流を処理することができる。さらに、相選択モジュール112は、相ごとの入力電流の移動平均を計算することによって相相量を決定することができる。入力電流の移動平均に基づいて、相選択モジュール112は、1つ以上の相相量を決定することができ、それに基づいて始動信号を生成することができる。移動平均および相相量は、以下に示すように、式1~6に基づいて決定することができる。
【0031】
【0032】
【0033】
相選択始動信号が生成されると、故障検出モジュール114は、増分電流の値をさらに計算することができる。一例では、任意の瞬間における電気信号の増分量は、ある瞬間における信号の瞬間的な大きさと、前のパワーサイクルにおけるそのような瞬間における同じ信号の大きさとの間の差として定義される。一例では、相電流および相相電流について増分量が計算され、これは以下の式に基づく。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
処理が実行されると、相選択モジュール112は、相量および相相量のうちの最大値および最小値が各サンプルについて識別されるように、故障ループを識別する。一例では、各サンプルに対して識別された相量および相相量のうちの最大値および最小値は、以下の式に基づく。
【0038】
相量間の最大電流値および最小電流値について、
【0039】
【0040】
相相量間の最大電流値および最小電流値について、
【0041】
【0042】
【0043】
上記の手法は、以下の例に関連して説明される。本例では、各相または相相ループに対応する6つのカウンタが定義される。例えば、カウンタA、B、およびCは、相a、b、およびcに対応することができる。さらなる例示的なカウンタAB、BC、CAを定義することができ、そのようなそれぞれのカウンタはab、bc、およびcaの相に対応する。カウンタA、B、C、AB、BC、CAの各々が増分される方法は、下記に説明するように、以下の式に基づいて決定することができる。
【0044】
以下の場合、カウンタAを増分する。
【0045】
【0046】
以下の場合、カウンタBを増分する。
【0047】
【0048】
以下の場合、カウンタCを増分する。
【0049】
【0050】
以下の場合、カウンタABを増分する。
【0051】
【0052】
以下の場合、カウンタBCを増加させる。
【0053】
【0054】
以下の場合、カウンタCAを増分する。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
故障の発生を検出した後、故障検出モジュール114は、伝送線102の故障が監視区域境界内で発生したか否かを確認することができる。一例では、故障検出モジュール114は、故障前ループ電圧214および故障前ループ電流216の測定値を受信する。故障検出モジュール114は、伝送線102の端子における電流および電圧の値を測定することによって、電流および電圧をさらに取得することができる。一例では、波形302および304は、一例において
図3A~
図3Bに示すように、測定された電圧および電流をそれぞれ示す。さらに、故障検出モジュール114は、増分電圧218および増分電流220の測定値も受信し、増分電圧218および増分電流220は、故障中に測定されたおよび/または故障の発生前に測定された電圧および電流の差にそれぞれ対応し、これは以下の式に基づく。
【0059】
【0060】
上記の式は単なる例示であり、第1のセットは他の機構によっても決定されることに留意されたい。
【0061】
増分電圧218および増分電流220に対応する波形が、それぞれ
図3C~
図3Dにさらに示されている。
図3C~
図3Dは、増分電圧218および増分電流220を波形306,308として示す例示的なグラフである。図示されたグラフは単なる指標であり、本主題の範囲内にも入る多くの他の例のうちの1つに対応することにも留意されたい。増分電圧218および増分電流220が決定されると、故障検出モジュール114はまた、ノイズを低減して故障前ループ電圧、故障前ループ電流、増分電圧および増分電流の処理済みの値を提供するために、故障前ループ電圧214、故障前ループ電流216、増分電圧218、および増分電流220を処理する。故障検出モジュール114によって実行される前処理は、ノイズまたは任意の他の望ましくない構成要素に起因して引き起こされた可能性があるエラーを分離するためにサンプルを平滑化するために実行することができる。
【0062】
一例では、前処理は、以下の式に基づいて故障検出モジュール114によって実行することができる。
【0063】
【0064】
前述の値が取得されると、故障検出モジュール114は、処理済みの増分電流に基づいて増分電流222の実際の変化率を計算する。増分電流222の実際の変化率の値は、以下の式に基づいて計算することができる。
【0065】
【0066】
上記に加えて、故障検出モジュール114はまた、処理済みの増分電圧、処理済みの増分電流、および故障の発生前に監視区域の境界において(すなわち、伝送線102の境界Aにおいて)測定された電圧に基づいて、増分電流の変化率の閾値224を計算することができる。一例では、増分電流の変化率の閾値は、以下の式に基づいて計算される。
【0067】
【0068】
計算後、故障検出モジュール114は、増分電流の変化率222の二乗平均平方根値および増分電流の変化率の閾値224を決定して、増分電流の処理済みの変化率226および増分電流の変化率の処理済みの閾値228を提供し、これは以下のように表すことができる。
【0069】
【0070】
その後、故障検出モジュール114は、増分電流の処理済みの変化率226と増分電流の変化率の処理済みの閾値228との間の比較に基づいて、故障が監視区域内で発生したか否かをさらに判定する。一例では、増分電流の処理済みの変化率226が増分電流の変化率の処理済みの閾値228よりも大きい場合、故障検出モジュール114は、監視区域内の故障の発生を識別する。逆に、増分電流の処理済みの変化率226が増分電流の変化率の処理済みの閾値228よりも小さい場合、故障検出モジュール114は、監視区域外での故障の発生を示す。増分電流の処理済みの変化率226と増分電流の変化率の処理済みの閾値228との間の比較に関する波形402,404が
図4に示されている。
【0071】
一実施形態では、提案された方法は、CT飽和、電力動揺、電力動揺中の故障などの特別な例で試験される。これらおよび他の態様は、添付の
図5~
図7に関連してさらに詳細に説明される。一例では、CT飽和下の故障シナリオを考える。
図5は、CT飽和を伴う故障例に対する提案されたアルゴリズムの性能を示す。この試験例では、0.1オームの低い故障耐性を有する線の2%(200km線では4km)に故障がある。典型的には、
図5Aは、波形502に示すようなローカル端子Aにおいて測定された端子電流を示し、
図5Bは、波形504に示すような電流の増分量を示し、
図5Cは、それぞれ波形506および508に示すような電流の実際の変化率と閾値との比較を行った。両方の波形から、故障電流は10kAと高く、CTは飽和していることが分かる(
図5Bに示す波形の丸で囲んだ部分)。
【0072】
別の例では、
区域内の故障検出は、電力動揺中に発生する可能性があ
る。図6は、電力動揺中を示す対応する波形を示す。典型的には、
図6Aは、波形602に示されるような電力動揺中の端子電圧を示し、
図6Bは、波形604に示されるような電力動揺中の端子電流を示し、
図6Cは、電力動揺中の増分電流220を示し、
図6Dは、それぞれ波形606および608に示されるような増分電流の実際の変化率222と増分電流の変化率の閾値224との比較を示す。波形から分かるように、電流の変化率は閾値に交わらず、したがって距離要素は動作しない。さらに別の例では、電力動揺ブロック機能(例えば、IED110によって実施されるような)は、電力動揺中の動作を防止するように距離リレーをブロックする。しかしながら、電力動揺中に故障が発生した場合、伝送線の距離保護は確実に動作することになる。
図7は、電力動揺中に検出された故障を示す対応する波形を示す。現在、電力動揺中の故障を検出し、距離リレーのブロックを解除するために、ブロック解除機能が使用されている。前のセクションで説明した、提案された解決策は、電力動揺中にブロッキングを一切必要としない。これは、
図7の様々な波形に示すように、電力動揺中の故障に対して正確に機能する。
【0073】
例えば、
図7Aは、200km伝送線上の20km以内で特定される故障位置を示す。一例では、故障開始時間は波形702に示すように5秒であり、検出時間は波形704に示すように約5.002秒である。そのような分析は、監視区域内に存在する故障をさらに示す。
図7Aの実験グラフは、故障の発生後2ms以内にキャプチャされたことに留意されたい。
図7Bは、200km伝送線上の100km以内で特定される故障位置を示す。一例では、故障開始時間は波形706に示すように5秒であり、検出時間は波形708に示すように約5.003秒である。そのような分析は、監視区域内に存在する故障をも示す。
図7Bの実験グラフは、故障の発生後3ms以内にキャプチャされたことに留意されたい。
【0074】
図7Cは、200km伝送線上の128km以内で特定される故障位置を示す。一例では、故障開始時間は波形710に示すように5秒であり、検出時間は波形712に示すように約5.003秒である。そのような分析は、監視区域内に存在する故障をも示す。
図7Cの実験グラフは、故障の発生後3ms以内にキャプチャされたことに留意されたい。
図7Dは、200km伝送線上の128km以内で特定される故障位置を示す。一例では、故障開始時間は波形714に示すように5秒であり、検出時間は波形716に示すようにほとんど無視できる。そのような分析は、監視区域外に存在する故障を示す。したがって、この解決策は、区域1距離リレーの電力動揺ブロッキングまたはブロック解除の必要性を潜在的に排除することができる。
【0075】
図8は、本主題の一実施態様による、送電システムにおける送電線の監視区域内の電気的故障の発生を検出するための方法800のフローチャートを示す。方法が説明される順序は、限定として解釈されることを意図するものではなく、任意の数の説明された方法ブロックを任意の順序で組み合わせて方法または代替方法を実施することができる。さらに、方法800は、任意の適切なハードウェア、非一時的機械可読命令、またはそれらの組み合わせを介してリソースを処理することによって実施することができる。
【0076】
ブロック802において、IED110は、故障前ループ電圧214および故障前ループ電流216の測定値を受信する。一例では、故障前ループ電圧214および故障前ループ電流216の測定値は、送電線の一端から得られた電流および電圧の初期値に対応することができる。
【0077】
ブロック804において、IED110は、特定の相内の故障の発生を識別する。一例では、特定の相におけるループ識別は、三相電流または三相電圧の一方の各相に対応することができる。ループ内の故障の発生は、式(19)~(33)で先に表されたように、所定の条件に基づいて識別することができる。故障を検出すると、トリップ信号が生成され得る。
【0078】
ブロック806において、IED110は、増分電圧218および増分電流220の測定値を決定する。一例では、増分電圧218および増分電流220は、故障中に測定されたおよび/または故障の発生前に測定された電圧および電流の差にそれぞれ対応することができる。このような判定に基づく式は、先に式(34)~(35)で表現されている。
【0079】
ブロック808において、IED110は、処理済みの増分電流に基づいて増分電流の実際の変化率222を計算する。処理済みの増分電流は、増分電流220に基づく。一例では、処理済みの増分電流は、故障の発生前に監視区域の境界において測定される。処理済みの増分電流および増分電流の実際の変化率222が決定される基礎となる式は、式(36)~(41)において先に表現されている。
【0080】
ブロック810において、IED110は、処理済みの増分電圧に基づいて増分電流の変化率の閾値224をさらに計算する。一例では、処理済みの増分電圧は、故障の発生前に監視区域の境界において測定される。増分電流の変化率の閾値224が決定される基礎となる方程式は、式(42)において先に表現されている。
【0081】
ブロック812において、IDE110は、増分電流の処理済みの変化率226と増分電流の変化率の処理済みの閾値228との間の比較に基づいて、故障が監視区域内で発生したか否かをさらに判定する。一例では、増分電流の処理済みの変化率226が増分電流の変化率の処理済みの閾値228よりも大きい場合、故障検出モジュール114は、監視区域内の故障の発生を示す。逆に、増分電流の処理済みの変化率226が増分電流の変化率の処理済みの閾値228よりも小さい場合、故障検出モジュール114は、監視区域外での故障の発生を識別する。増分電流の処理済みの変化率226および増分電流の変化率の処理済みの閾値228を決定する基礎となる式は、式(43)~(44)として表現されている。
【0082】
本主題の実施態様は、構造的特徴および/または方法に固有の文言で説明されているが、本主題は必ずしも説明された特定の特徴または方法に限定されないことに留意されたい。むしろ、特定の特徴および方法は、本主題のいくつかの実施態様の文脈で開示および説明されている。