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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】排水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240514BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240514BHJP
   C02F 3/06 20230101ALI20240514BHJP
【FI】
C02F3/34 101B
C02F3/34 101D
C02F1/44 F
C02F3/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023038617
(22)【出願日】2023-03-13
(62)【分割の表示】P 2019050117の分割
【原出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2023065705
(43)【公開日】2023-05-12
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】隅 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕大
(72)【発明者】
【氏名】小野田 草介
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-043281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0020666(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を貯留する処理槽を備え、
前記処理槽は、
前記被処理水に対して嫌気性処理を行う嫌気処理部と、
前記嫌気処理部よりも下流で前記嫌気処理部に接続され、前記被処理水に対して好気性処理を行う好気処理部と、を有しており、
前記好気処理部は、気泡を発生させる気泡発生部を有し、
前記嫌気処理部は、酸素を透過する酸素透過膜を含む酸素透過部を有し、
前記酸素透過部の水深は0.5m未満であり、
前記酸素透過部のすべては、前記好気処理部における前記被処理水の最大水深に対して50パーセント未満の水深に浸漬されている排水処理システム。
【請求項2】
前記酸素透過部は、前記酸素透過膜が筒状に形成された複数の筒状部を含む透過ユニットを有し、
前記透過ユニットは、前記被処理水の水面に沿い浸漬されている請求項1に記載の排水処理システム。
【請求項3】
前記嫌気処理部と前記好気処理部とは同一の前記処理槽で区画されて配置されている請求項1又は2に記載の排水処理システム。
【請求項4】
前記処理槽は、第一槽と、前記第一槽よりも下流に配置された第二槽とを有し、
前記酸素透過部は前記第一槽に浸漬されており、
前記気泡発生部は前記第二槽に浸漬されている請求項1から3のいずれか一項に記載の排水処理システム。
【請求項5】
前記嫌気処理部の水深は0.5m以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の排水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理においては、活性汚泥法による有機物の除去(酸化)に加えて、アンモニア性窒素などの窒素含有化合物(以下、窒素成分と記載する)の除去も行われている。排水の窒素成分の除去は、例えば、好気的な環境で硝化菌を作用させて硝化(硝酸態窒素に酸化)し、さらに嫌気的な環境で脱窒菌を作用させて脱窒(窒素ガスに還元)する。
【0003】
特許文献1には、生物学的窒素除去装置(排水処理システム)が記載されている。この生物学的窒素除去装置は、処理の対象とする流入水(排水)が流入する脱窒処理槽、脱窒処理槽を通過後の被処理水が流入する硝化処理槽、曝気処理された被処理水から活性汚泥を沈降分離して処理水として流出させる最終沈殿池、及び硝化処理槽に空気を送る曝気装置(気泡発生装置)を備えている。
【0004】
特許文献2には、無動力の自然通気により酸素透過膜を介して排水中に大気酸素を取り込む排水処理方法が記載されている。この排水処理方法においては、膜表面に発生する生物膜により排水中のアンモニア性窒素を酸化して硝酸性窒素を生成させ、さらに硝酸性窒素を生物膜から遠ざかる嫌気環境下の排水中に拡散させて脱窒する。
【0005】
特許文献3には、合併処理浄化槽(排水処理システム)が記載されている。この合併処理浄化槽は、嫌気ろ床槽(脱窒する槽)及び接触曝気槽(硝化する槽)に代えて設けた酸素透過膜からなる筒状体と、生物処理槽とを備えている。筒状体は生物処理槽に浸漬される。筒状体の外周面には好気性微生物の生物膜と嫌気性微生物の生物膜との二重膜構造が形成される。この合併処理浄化槽では、好気性微生物及び嫌気性微生物によって有機物を分解させる生物処理工程と、筒状体に空気を送入する送風工程とが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-244894号公報
【文献】特開2003-211185号公報
【文献】特開2016-43281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された排水処理システムでは、窒素成分を十分に硝化しようとすれば、硝化処理槽の容量を大きくしなければならない問題がある。また、硝化処理槽の容量を大きくできなければ処理水の窒素成分を十分削減できない問題がある。特許文献2、3に記載されるように、酸素透過膜を介して嫌気的な環境下の排水中に酸素を供給すれば、消費エネルギーの低減(以下、単に省エネと記載する)と、硝化する槽を省略したり、小さくしたりするなどのコンパクト化とを実現可能であるとも考えられる。しかし、酸素透過膜が破れるなどの破損対策や、生物膜の過剰な成長にともなう酸素供給不足などの問題により、現実には強制通気が必要となって十分な省エネ化がなされていなく、改善の余地がある。
【0008】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、省エネ化された排水処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る排水処理システムの特徴構成は、被処理水を貯留する処理槽を備え、前記処理槽は、前記被処理水に対して嫌気性処理を行う嫌気処理部と、前記嫌気処理部よりも下流で前記嫌気処理部に接続され、前記被処理水に対して好気性処理を行う好気処理部と、を有しており、前記好気処理部は、気泡を発生させる気泡発生部を有し、前記嫌気処理部は、酸素を透過する酸素透過膜を含む酸素透過部を有し、前記酸素透過部の水深は0.5m未満であり、前記酸素透過部のすべては、前記好気処理部における前記被処理水の最大水深に対して50パーセント未満の水深に浸漬されている点にある。
【0010】
この排水処理システムでは、生物脱窒反応が行われる。上記構成によれば、好気処理部は、被処理水に対して好気性処理を行う。好気処理部では、処理水中の酸素と硝化菌とにより、処理水中のアンモニア性窒素などの窒素含有化合物(以下、「窒素成分」と記載する)の酸化(いわゆる硝化、以下、単に「硝化」と記載する)を進行させる好気性処理を行う。これにより、処理水中の窒素成分は硝酸態窒素に変換される。上記構成によれば、処理槽中における気泡発生部の上部近傍の領域は、気泡発生部で発生させた気泡から酸素が供給されて、溶存酸素濃度の高い好気的な領域になる。好気処理部は、処理槽において気泡発生部で発生させた気泡から供給された酸素による好気的な領域である。
【0011】
上記構成によれば、嫌気処理部は、被処理水に対して嫌気性処理を行う。嫌気処理部では、嫌気的な環境下において処理水中の脱窒菌と脱窒菌の栄養となる有機物とにより、硝酸態窒素の還元が進行して窒素が生成する(いわゆる脱窒、以下、単に「脱窒」と記載する)。このような硝化及び脱窒により処理水は、窒素含有化合物を分解除去されて浄化される。
【0012】
上記構成によれば、酸素透過膜の表面には処理水中の窒素成分を酸素透過膜から供給される酸素で硝化する硝化菌を主として含む生物膜が形成されて、窒素成分の硝化が行われる。すなわち上記構成によれば、気泡発生部により形成される好気的な領域と、酸素透過膜の表面に形成される生物膜内との両方で硝化を行うことができる。なお、酸素透過膜から供給される酸素は、生物膜内で消費し尽されるため、生物膜の外部(外側)領域の嫌気的な環境は維持される。
【0013】
上記構成によれば、酸素透過部は被処理水の最大水深に対して50パーセント未満の浅い水深の領域に浸漬されているため、酸素透過膜の破損などで膜内に水が浸入したとしても低圧の送風で水を排除できる。そのため、酸素透過部に送風(供給)する空気の圧力は低圧で足り、酸素透過部の省エネを実現できる。また、送風する空気が低圧で足りるため、送風機として簡易なものを用いることができ、システムをコストダウン可能である。例えば、高い風圧で送風可能であるが、装置コストの高いブロワを用いる代わりに、低コストなファンを送風機として利用可能である。
【0014】
また、通常は深い水深(例えば、処理槽の最大水深に対して50パーセント以上の深い水深)に浸漬されている気泡発生部には、当該水深の水圧に比例した圧力で送気することを要する。しかし上記構成によれば、酸素透過部から供給される酸素によっても硝化が進行する。そのため、気泡発生部から供給を要する酸素(空気)量を削減できる。これにより、処理槽における硝化のための酸素供給に要するエネルギー全体を低減できる。
【0015】
また上記構成によれば、酸素透過部は浅い水深の領域に浸漬されているため、水面上からのアクセスが容易でありメンテナンス性が高い。つまり、水面上から振動などの外部刺激を容易に加えることができるため、酸素透過膜上に形成される生物膜が成長しすぎた場合の当該生物膜の除去も極めて容易である。これらにより、酸素透過部における硝化の効率低下を回避できる。
【0016】
本発明に係る排水処理システムの更なる特徴構成は、前記酸素透過部は、前記酸素透過膜が筒状に形成された複数の筒状部を含む透過ユニットを有し、前記透過ユニットは、前記被処理水の水面に沿い浸漬されている点にある。
【0017】
上記構成によれば、筒状部は酸素透過膜が筒状に形成されたものであり、内部には空気を通流可能である。透過ユニットは、複数の筒状部を束ねるなどして形成される。筒状部は、透過ユニットとして水平面(水面)に沿う横向きに配置される。筒状部の横向きの配置により、酸素透過膜の設置水深(浸漬する水深)を深くせずに酸素透過膜の面積を増大することができる。したがって、酸素透過膜の破損等による膜内への水の侵入を考慮した場合でも、酸素透過膜に供給する空気の圧力は低圧で足り、酸素透過部の省エネを実現できると共に、酸素透過膜の面積を増大させて酸素透過膜上(生物膜中)での硝化効率の向上を実現可能である。また、筒状部が横向きに配置されるため、水面上からのアクセスも容易でありメンテナンス性が向上する。これにより、酸素透過膜上に形成される生物膜が成長しすぎた場合の当該生物膜の除去も極めて容易になる。
【0018】
本発明に係る排水処理システムの更なる特徴構成は、前記嫌気処理部と前記好気処理部とは同一の前記処理槽で区画されて配置されている点にある。
【0019】
上記構成によれば、処理槽が嫌気処理部と好気処理部とに区画されている。例えば、処理槽を隔壁により上流側の領域と下流側の領域とに区画して、上流側の領域を嫌気処理部、下流側の領域を好気処理部としたり、処理槽を隔壁により鉛直方向(上下方向)の上下に区画し、一方の領域(例えば上方の領域)を嫌気処理部、他方の領域(例えば下方の領域)を好気処理部としたりできる。特に処理槽を鉛直方向の上下に区画する場合には、酸素透過部と気泡発生部とを鉛直方向視において重複させて配置できるため、処理槽のコンパクト化が可能となる。
【0020】
本発明に係る排水処理システムの更なる特徴構成は、前記処理槽は、第一槽と、前記第一槽よりも下流に配置された第二槽とを有し、前記酸素透過部は前記第一槽に浸漬されており、前記気泡発生部は前記第二槽に浸漬されている点にある。
【0021】
上記構成によれば、酸素透過部が浸漬される第一槽は嫌気処理部であるが、生物膜の外部領域における脱窒が進行するだけでなく、生物膜の内部領域において硝化も進行する。また、第二槽は好気処理部であり、硝化が行われる。このように処理槽が第一槽と第二槽とを有する場合、第一槽を嫌気処理部、第二槽の好気処理部とすることで、それぞれの槽の処理効率を向上させる。なお、第一槽を嫌気処理部とした場合でも、酸素透過部の酸素透過膜から供給される酸素は酸素透過膜上に形成された生物膜中で消費し尽されるため、第一槽は全体として嫌気的な環境に維持される。したがって第一槽における脱窒は阻害されない。
【0022】
本発明に係る排水処理システムの更なる特徴構成は、前記嫌気処理部の水深は0.5m以下である点にある。
【0023】
上記構成によれば、第一槽の水深が0.5m以下という浅い水深に抑えられているため、酸素透過部へ供給される空気の圧力は極めて低圧で足りる。これにより省エネを実現できる。また、酸素透過膜が0.5m以下という特に浅い水深に浸漬されるため、水面上からのアクセスが容易でありメンテナンス性が高い。また、水面上から振動などの外部刺激を極めて容易に加えることができる。これらにより、酸素透過膜上に形成される生物膜が成長しすぎた場合の当該生物膜の除去を極めて容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第一実施形態に係る処理槽の側面視の模式図である。
図2】第一実施形態に係る処理槽の上面視の模式図である。
図3】排水処理システム及び処理系列の説明図である。
図4】透過ユニットの断面構造の説明図である。
図5】生物膜が形成された透過ユニットの断面構造の説明図である。
図6】酸素透過膜及び生物膜の断面構造の説明図である。
図7】第二実施形態における処理槽の模式図である。
図8】別実施形態に係る透過ユニットの配置状態の模式図である。
図9】別実施形態に係る処理槽の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係る排水処理システムについて説明する。
【0026】
〔第一実施形態〕〔全体構成の説明〕
図1図2には、流入する排水(被処理水)を浄化する排水処理システム100の概略構成を図示している。この排水処理システム100は、下水処理場等に設けられている。排水処理システム100は、上流から連続的に流入する排水を貯留する処理槽R、処理槽Rに貯留された排水に酸素透過膜30を介して酸素を供給する酸素透過部3、及び、処理槽Rに貯留された排水に気泡B(図1参照)を発生させて酸素を供給する気泡発生部6を備えている。処理槽Rは、嫌気槽1(第一槽の一例、嫌気処理部の一例)と、嫌気槽1よりも下流側の好気槽2(第二槽の一例、好気処理部の一例)とを有する。酸素透過部3は、嫌気槽1に貯留された排水中に浸漬されている。気泡発生部6は、好気槽2に貯留された排水中に浸漬されている。
【0027】
本実施形態においては、処理槽Rに流入する排水は、少なくともアンモニア性窒素などの窒素含有化合物(以下、「窒素成分」と記載する)と、有機物とを含んでいる。処理槽Rでは、窒素成分を亜硝酸態窒素や硝酸態窒素に酸化する硝化(好気性処理の一例)や、亜硝酸態窒素や硝酸態窒素を還元して窒素に還元する脱窒(嫌気性処理の一例)が行われる。以下では、亜硝酸態窒素と硝酸態窒素とを包括して、単に「硝酸態窒素」と記載する。
【0028】
本実施形態の排水処理システム100は、図3に示すように、処理槽Rの上流に最初沈殿池91、処理槽Rよりも下流に最終沈殿池99を含む。排水処理システム100は、最初沈殿池91、処理槽R、及び最終沈殿池99を有する複数の処理系列N1,N2,N3等を有する場合がある。本実施形態では、処理系列N1,N2,N3はいずれも等価である。以下では、処理系列N1について説明するが、処理系列N2,N3についても同様である。なお、本実施形態において処理槽Rに貯留されている排水の概念には、活性汚泥としての硝化菌や脱窒菌を含む浮遊物質(SS)が懸濁状態で存在している、いわゆる混合液の概念を含む。
【0029】
〔各部の説明〕
最初沈殿池91は、流入した排水に含まれる汚泥の一部を沈降させて除去するための槽である。最初沈殿池91で除去されなかった窒素成分と有機物とを含む排水が処理槽R(嫌気槽1)へ流入する。
【0030】
処理槽Rは、図1図2に示すように、1つの嫌気槽1と、嫌気槽1よりも下流に直列的に接続された1つの好気槽2とを有する。嫌気槽1に流入した排水は、嫌気槽1で所定時間だけ滞留して好気槽2に流入する。好気槽2に流入した排水は、好気槽2で所定時間だけ滞留して流出する。好気槽2では、主として硝化が進行する。嫌気槽1では、主として脱窒が進行し、併せて硝化も進行する。好気槽2から流出した排水の一部は、返送流路9を介してポンプ(図示せず)などで送液されて嫌気槽1に返送(供給)される(図3参照)。以下では、返送流路9により嫌気槽1に返送される処理水を硝化液と記載する。
【0031】
嫌気槽1は、排水が嫌気的な環境(溶存酸素の乏しい環境)に保たれた槽である。嫌気槽1では、主として脱窒を行い、併せて硝化も行う。嫌気槽1には、図1に示すように、酸素透過膜30を有する酸素透過部3が浸漬されている。
【0032】
嫌気槽1では、酸素透過膜30を介して排水に酸素が供給されており、酸素透過膜30の表面近傍で硝化が進行する。嫌気槽1における酸素透過膜30の表面近傍以外の領域は嫌気的な環境に保たれており、脱窒菌により脱窒が進行する。酸素透過部3や酸素透過膜30における硝化についての詳細は、酸素透過部3の詳細と共に後述する。
【0033】
嫌気槽1は、例えば最大水深(水面から槽の最も深い底面までの鉛直方向Vに沿った距離、以下、水深d1と記載)が0.3mから5m程度で、好気槽2よりも水深の浅い槽である。嫌気槽1の水深d1は、後述する好気槽2の最大水深である水深d2の50パーセント未満に設定する。本実施形態では、嫌気槽1の水深d1は、0.5mである。
【0034】
好気槽2は、排水が好気的な環境(溶存酸素に富む環境)に保たれた槽である。好気槽2には、図1に示すように、気泡発生部6が浸漬されている。好気槽2では、気泡発生部6からバブリングにより空気が供給(散気)されており、気泡Bからの酸素の溶解により、排水に酸素が供給されている(いわゆる曝気)。これにより、好気槽2は好気的な環境に保たれる。好気槽2では、気泡発生部6により供給される酸素を利用した硝化が進行する。好気槽2は、たとえば最大水深が3mから10m程度の、嫌気槽1よりも水深の深い槽である。本実施形態における好気槽2(処理槽R)の最大水深である水深d2は5mである。気泡発生部6の詳細は後述する。好気槽2から最終沈殿池99に排出される排水の一部、又は好気槽2で好気処理された排水の一部は硝化液として嫌気槽1に返送される(図3参照)。
【0035】
最終沈殿池99は、好気槽2(処理槽R)から流出した排水を受け入れて、排水中の活性汚泥などを沈降させる沈降槽である。本実施形態では、最終沈殿池99において沈殿した汚泥が、返送流路9により嫌気槽1に返送される(図3参照)。
【0036】
気泡発生部6は、供給された空気を好気槽2の排水中にバブリング供給する散気装置である。気泡発生部6は、例えば5mの水深である好気槽2の底部に固定されている。気泡発生部6は、供給された空気を吹き出すための散気機構として複数の孔部が設けられた散気管(図示せず)などを有する。気泡発生部6は、例えばファンやブロワなどの送風機76から、送風管76aを介して所定の送風圧力で空気を供給する。
【0037】
本実施形態における気泡発生部6は5mの水深に浸漬されている。そのため、水圧に抗して十分な空気(酸素)を供給して好気槽2での硝化を十分に進行せしめるべく、例えば60kPaの静圧の空気が送風機76から供給される。この場合には、送風機76としては、ブロワを用いる。
【0038】
酸素透過部3は、供給された空気に含まれる酸素を、酸素透過膜30を介して排水に供給する装置である。酸素透過部3は、嫌気槽1に浸漬されている。酸素透過部3は、酸素透過膜30を有する透過ユニット33と、透過ユニット33に空気を供給及び排出する分配流路である一対のマニホールド35とを有する。本実施形態では、透過ユニット33及び一対のマニホールド35は、全体が嫌気槽1に浸漬されている。
【0039】
透過ユニット33は、図4に示すように、基材32と、酸素透過膜30を中空糸状(細長い筒状)に形成した筒状部31を有する。透過ユニット33は、基材32の表面上に筒状部31を複数本束ね、図1図2に示すような直線的な棒状のユニットとして構成されている。各筒状部31は、一端が給気側のマニホールド35、他端側が排気側のマニホールド35に接続されている。
【0040】
酸素透過部3は、図1図2に示すように、例えばファンやブロワなどの送風機73から、給気側のマニホールド35に接続された送風管73aを介して所定の送風圧力で空気が供給されており、当該供給された空気に含まれる酸素を、酸素透過膜30から排水に供給する。排気側のマニホールド35は排気管73bを介して外部に開放されており、筒状部31を通過した空気は外部に放出される。
【0041】
筒状部31として形成された酸素透過膜30は、図5に示すように、筒状部31の筒内部を通流する空気(図6のガスG)に含まれる酸素(O)を透過させて筒外部の排水に供給する、酸素透過能を有する膜材料である。
【0042】
酸素透過膜30の膜表面上には、図5図6に示すように、生物膜Lが形成される。本実施形態における生物膜Lは、図6に示すように、酸素透過膜30の膜表面(外表面)に隣接して成長し、硝化菌を主として含む第一生物膜Laと、生物膜Lの外表面側で成長し、脱窒菌を主として含む第二生物膜Lbとを含む。
【0043】
第一生物膜Laでは、硝化菌が、酸素透過膜30から供給される酸素(O)により排水中の窒素成分(例えば、NH )を酸化(硝化)して、硝酸態窒素(NO )を生成する。第一生物膜Laでは、酸素透過膜30から供給される酸素は消費し尽くされる。なお、嫌気槽1では、第一生物膜Laにより、排水中の窒素成分の一部が硝化される。
【0044】
本実施形態では、上記のごとく、好気槽2と、嫌気槽1における第一生物膜Laとで硝化することができるため、好気槽2のみで硝化する場合に比べて、好気槽2をコンパクト化できる。これにより、処理槽Rや、排水処理システム100全体をコンパクト化できる。
【0045】
第二生物膜Lb及び第二生物膜Lbの外部領域(嫌気槽1の酸素透過部3及び生物膜L以外の排水中)では、脱窒菌が、排水中の有機物(BOD)を栄養源として硝酸態窒素(NO )を還元(脱窒)して窒素(N)を放出する。なお、嫌気槽1で脱窒される硝酸態窒素は、第一生物膜Laにより生成されたものと、好気槽2から嫌気槽1に返送された硝化液に含まれるものとの両方である。嫌気槽1では、嫌気槽1(処理槽R)に流入した全窒素成分の内、例えば70%が窒素に還元(脱窒)される。嫌気槽1で脱窒されなかった硝酸態窒素は、好気槽2を経て処理槽Rから流出する。
【0046】
なお、生物膜Lは、過度に成長すると(膜の厚みが厚くなりすぎると)膜内部(酸素透過膜30から酸素の供給が可能な領域)への硝酸態窒素の供給が阻害され、効率的に硝化が進行しない場合がある。そのため、酸素透過部3や嫌気槽1には、過度に成長した生物膜Lを酸素透過膜30から脱落させる機構(図示せず、以下では「脱落機構」と記載)を設ける場合がある。脱落機構としては例えば、透過ユニット33の近傍に水流を発生させたり、透過ユニット33を揺すったり(シェイキング)する機構が例示される。
【0047】
本実施形態において嫌気槽1の水深d1は0.5mであり、酸素透過部3は、0.5m未満の水深に浸漬されているに過ぎない。本実施形態では、水面から筒状部31の下端までの水深d3(図1参照)が0.3mである。そのため、筒状部31への送気に要する空気の静圧は、酸素透過膜30の破損等による膜内への水の侵入を考慮した場合でも、たかだか10kPa未満で足りる。したがって、送風機76としては、ファンを用いれば足りる。これらより送気に要する動力を削減できる。また、送風機76として安価なもの(例えばファン)を採用してシステムコストを低減可能である。
【0048】
透過ユニット33は、筒状部31が水面(水平面)に沿う横向きになる状態で嫌気槽1の排水に浸漬(配置)されている。これにより、酸素透過膜30の面積を増大させる場合に筒状部31の設置水深(浸漬する水深)が深くなることを回避できる。これにより、酸素透過膜30の面積を増大させても筒状部31への送気に要する空気の静圧を上昇させることを要せず省エネである。
【0049】
また、透過ユニット33は、筒状部31が水面(水平面)に沿う横向きで水深d3程度の浅い位置に浸漬されているにすぎない。そのため、例えば透過ユニット33に、透過ユニット33を直接シェイキングするような脱落機構を設ける場合にも、脱落機構を嫌気槽1内(排水中)に配置等することを必ずしも要せず、例えば嫌気槽1の外部(水面上、排水の外)に脱落機構の本体部分を配置し、シェイキングのための連結機構の一部のみを排水中を介して透過ユニット33に接続すれば足りる。また、水流などにより間接的に透過ユニット33をシェイキングするような脱落機構の場合には、全てを嫌気槽1の外部に配置可能である。脱落機構を嫌気槽1の外部に配置することにより、メンテナンス性が向上するため好ましい。
【0050】
〔第二実施形態〕
第一実施形態では、図1図2に示すように、処理槽Rが、嫌気槽1と、嫌気槽1よりも下流の好気槽2とを有する場合を説明した。本実施形態では、これに代えて、図7に示すように処理槽Rが隔壁Dにより鉛直方向Vにおいて(上下に)区画された一つの槽である点で異なり、他の構成は同様である。
【0051】
処理槽Rは、隔壁Dにより鉛直方向Vにおいて少なくとも一部が区画されており、水面側の第一領域1A(嫌気処理部の他の例)と、底部側の第二領域2A(好気処理部の他の例)とに区画されている。水面から隔壁Dまでの最大水深である水深d4は、第一実施形態における嫌気槽1の水深d1と同様に0.3mから5m程度に設定される。本実施形態では、水深d4は、0.5mである。なお、水面から隔壁Dまでの最大水深とは、水面から最も深い位置にある隔壁Dの上面までの距離である。水深d4は、水深d1と同様に処理槽Rの最大水深である水深d2の50パーセント未満に設定するとよい。
【0052】
第二領域2Aは、第一実施形態の好気槽2に対応しており、主として好気的な環境に保たれている領域である。第二領域2Aは、第一実施形態の好気槽2と同様に、気泡発生部6が浸漬されている。第二領域2Aは、気泡発生部6により酸素を供給されて主として好気的な環境に保たれており、硝化菌による硝化が進行する。
【0053】
本実施形態では、気泡発生部6を処理槽Rの最大水深である水深d2に対して50パーセント以上の深い水深に浸漬することが好ましい。これにより気泡発生部6から供給される気泡Bに含まれる酸素は、処理槽Rの水面に至るまでに、主として硝化により消費し尽くされる。そのため、処理槽Rにおける最大水深である水深d2に対して50パーセント未満の浅い水深の領域、特に、第一領域1Aは、嫌気的に保たれる。
【0054】
第一領域1Aは、第一実施形態の嫌気槽1に対応しており、上記のごとく嫌気的な環境に保たれている領域である。第一領域1Aは、第一実施形態の嫌気槽1と同様に、酸素透過部3が浸漬されている。第一領域1Aでは、第一領域1Aにおける第二生物膜Lb及び第二生物膜Lbの外部領域での脱窒と、第二領域2A及び第一領域1Aにおける第一生物膜Laでの硝化とが進行する。
【0055】
本実施形態では、水面から処理槽Rの底に向けて酸素透過部3、隔壁D及び気泡発生部6の順に配置されており、酸素透過部3、隔壁D及び気泡発生部6は鉛直方向Vにおいて重複するように配置されている。これにより、酸素透過部3の近傍への気泡発生部6から上昇する気泡Bの供給が阻害される。すなわち、第一領域1Aは、このように、隔壁Dにより気泡発生部6からの気泡Bの供給が阻害される領域である。
【0056】
気泡発生部6による気泡Bの上昇流により、処理槽Rは撹拌される。この撹拌により、最初沈殿池91から新たに流入する排水、第一領域1Aの排水、及び第二領域2Aの排水は、第一領域1Aと第二領域2Aとを循環している。当該循環により、第二領域2Aで硝化された硝酸態窒素は第一領域1Aに供給されて脱窒される。なお、第二領域2Aの排水に溶解した酸素は硝化により消費し尽くされるため、第二領域2Aから第一領域1Aに流入する排水は嫌気的である。気泡発生部6には、排水の循環を促進すべく、撹拌機(図示せず)を設けてもよい。
【0057】
本実施形態では、気泡発生部6から上昇する気泡Bが酸素透過部3の筒状部31に接触しないように、気泡発生部6から上昇する気泡Bの流れに対して酸素透過部3の下面側を覆うように隔壁Dが配置されている。これにより、気泡発生部6から上昇する気泡Bが筒状部31に接触して酸素透過膜30の膜表面の生物膜Lが脱離し、生物膜Lの第一生物膜Laにおける硝化が阻害されることを防止している。これにより、第一領域1Aにおける硝化の効率を高く維持できる。
【0058】
以上のようにして、省エネかつコンパクト化された排水処理システムを提供することができる。
【0059】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、透過ユニット33は、筒状部31が水面(水平面)に沿う横向きになる状態で排水に浸漬されている場合を説明した。しかし、筒状部31は横向きに限られない。図8に示すように、筒状部31を鉛直方向Vに沿う縦向きになる状態で排水に浸漬してもよい。図8では、嫌気槽1に浸漬された筒状部31が縦向きで浸漬されている場合を図示しているが、筒状部31が第一領域1Aに浸漬される場合も同じである。
【0060】
(2)上記第一実施形態では、処理槽Rが、1つの嫌気槽1と、嫌気槽1よりも下流に直列的に接続された1つの好気槽2とを有する場合を説明した。しかし、嫌気槽1は、複数槽であってもよい。例えば図9に示すように、嫌気槽1を、例えば槽11,12,13の三つの槽で構成し、これら槽11,12,13を上流からこの順に直列に接続してもよい。この場合、槽11,12,13を鉛直方向Vにおいて重複するように配置すると、嫌気槽1をコンパクトに形成できるため好ましい。嫌気槽1(槽11,12,13)の水深は、好気槽2に比べて浅いため、例えば、1つの深い槽を構築する代わりに、槽11,12,13を鉛直方向Vに積層するように配設することができる。これにより嫌気槽1のコンパクト化が図られる。
【0061】
(3)上記実施形態では、酸素透過部3は、嫌気槽1に浸漬されており、その透過ユニット33及びマニホールド35は、全体が嫌気槽1に浸漬されている場合を説明した。しかし、酸素透過部3は、全体が嫌気槽1に浸漬されている場合に限られない。例えば、少なくとも一対のマニホールド35と、これと接続される透過ユニット33の各筒状部31の空気の出入口とを水面上に配置してもよい。このようにすることで、筒状部31の酸素透過膜30が破れた(破損した)場合でも、筒状部31の筒内部へ水が侵入し難くなるため好ましい。
【0062】
(4)上記第一実施形態では、酸素透過部3は、嫌気槽1に貯留された排水中に浸漬されている場合を説明したがこれに限られない。酸素透過部3は、嫌気槽1から好気槽2にわたって排水中に浸漬されてもよい。
【0063】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、下水処理場等に導入される排水処理システムに適用できる。また、下水処理場だけではなく、工場排水処理などにも適用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 :嫌気槽(第一槽、嫌気処理部)
1A :第一領域(嫌気処理部)
2 :好気槽(第二槽、好気処理部)
2A :第二領域(好気処理部)
3 :酸素透過部
6 :気泡発生部
30 :酸素透過膜
31 :筒状部
33 :透過ユニット
73 :送風機
76 :送風機
100 :排水処理システム
B :気泡
L :生物膜
R :処理槽
V :鉛直方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9