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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】スペーサ挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/88 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
A61B17/88
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023040889
(22)【出願日】2023-03-15
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】林 真生
(72)【発明者】
【氏名】高見 公彰
(72)【発明者】
【氏名】松田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】栗山 新一
(72)【発明者】
【氏名】森田 悠吾
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535969(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0271366(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨に形成された骨切り部にスペーサを挿入するスペーサ挿入器具であり、前記スペーサが、相互に対向し前記骨切り部の第1骨切り面および第2骨切り面に沿ってそれぞれ配置される第1面および第2面と、前記第1面と前記第2面とを接続する側面とを有し、
先端側に第1把持部を有し、基端側に第1ハンドル部を有する第1部材と、
先端側に第2把持部を有し、基端側に第2ハンドル部を有する第2部材と、を備え、
前記第1把持部および前記第2把持部が、相互に対向し、前記スペーサを前記側面において把持し、
前記第1把持部が、前記側面の前記第1面と前記第2面との間の幅よりも大きい幅を有し、前記骨の外に挿入され、
前記第2把持部が、前記側面の前記幅よりも小さい幅を有し、前記骨切り部の中に挿入され、
前記第1把持部の前記側面を支持する前記第2把持部側の第1支持面が、前記側面から該側面の幅方向に突出し前記骨の外面と接触可能な接触領域を有する、スペーサ挿入器具。
【請求項2】
前記スペーサが、開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサであり、前記側面の一部分が、脛骨に形成された前記第1骨切り面および前記第2骨切り面の内側後方部分の外周の解剖学的形状と略一致する形状を有し、
前記第1把持部が、前記内側後方部分の外周の解剖学的形状と略一致する湾曲形状を有する湾曲部を有する、請求項1に記載のスペーサ挿入器具。
【請求項3】
前記第1把持部が、帯板状であり、前記第1部材の長手方向において前記スペーサよりも大きな寸法を有し、
前記第1把持部の先端が、前記スペーサの先端よりも前記長手方向に突出した位置に配置される、請求項1に記載のスペーサ挿入器具。
【請求項4】
前記第1部材および前記第2部材が、相互に別の部材からなり、
前記第1ハンドル部と前記第2ハンドル部とを前記第1部材の長手方向に移動可能にまたは相互に分離可能に連結する連結機構をさらに備える、請求項1に記載のスペーサ挿入器具。
【請求項5】
前記連結機構は、前記第2部材が前記第1部材に対して第1位置と第2位置との間で前記長手方向に移動可能に、前記第1ハンドル部と前記第2ハンドル部とを連結し、
前記第1位置は、前記第2把持部が前記第1把持部と対向し前記スペーサを把持可能な位置であり、
前記第2位置は、前記第2把持部の先端が前記第1把持部の基端またはその近傍に配置され、前記スペーサを解放する位置である、請求項4に記載のスペーサ挿入器具。
【請求項6】
前記第1ハンドル部に対する前記第2ハンドル部の移動方向を前記長手方向に規制するガイド機構をさらに備える、請求項5に記載のスペーサ挿入器具。
【請求項7】
前記第1把持部が、平坦な先端部を有し、
前記第1ハンドル部が、前記先端部と平行または略平行に延びる、請求項1に記載のスペーサ挿入器具。
【請求項8】
前記第2把持部の前記側面を支持する前記第1把持部側の第2支持面が、先端に向かって前記第1把持部に近付く方向に、前記第1把持部に対して傾斜する、請求項1に記載のスペーサ挿入器具。
【請求項9】
前記第1把持部が、前記第1支持面の前記スペーサの前記側面と接触する領域に前記第1支持面に対する前記スペーサの滑りを防止する滑り止めを有する、請求項1に記載のスペーサ挿入器具。
【請求項10】
前記第2把持部が、前記スペーサの前記側面に形成された溝内に嵌合可能である、請求項1に記載のスペーサ挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサ挿入器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、変形性膝関節症等によるO脚変形によって内側に偏った荷重を矯正する治療として、内側開大型高位脛骨骨切り術(OWHTO)が行われている。図11(c)に示されるように、OWHTOにおいて、骨切り面B1,B2間の楔状の骨切り部Cに人工骨等のスペーサ30が挿入される。一般的な楔形のスペーサ30は、骨切り部Cの前方部および後方部に配置される。
このようなHTOを含む骨手術において、骨を把持する器具が使用される(例えば、特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6400420号公報
【文献】特許第3130560号公報
【文献】特許第4966861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12(a)~(e)および図13に示されるように、骨切り面B1,B2の内側後方部分Dの外周Eの解剖学的形状と略一致する外周形状を有するOWHTO用の新規のスペーサ20が提案されている。スペーサ20は、前記外周形状を有する側面23cが内側後方部分Dの外周Eと一致するように、骨切り部Cに配置される必要がある。しかし、皮膚に形成された小さい切開部を通して、このような位置にスペーサ20を正確に配置することは難しい。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、スペーサの側面が骨切り面の外周と一致するように、スペーサを骨切り部に正確にかつ容易に配置することができるスペーサ挿入器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、骨に形成された骨切り部にスペーサを挿入するスペーサ挿入器具であり、前記スペーサが、相互に対向し前記骨切り部の第1骨切り面および第2骨切り面に沿ってそれぞれ配置される第1面および第2面と、前記第1面と前記第2面とを接続する側面とを有し、先端側に第1把持部を有し、基端側に第1ハンドル部を有する第1部材と、先端側に第2把持部を有し、基端側に第2ハンドル部を有する第2部材と、を備え、前記第1把持部および前記第2把持部が、相互に対向し、前記スペーサを前記側面において把持し、前記第1把持部が、前記側面の前記第1面と前記第2面との間の幅よりも大きい幅を有し、前記骨の外に挿入され、前記第2把持部が、前記側面の前記幅よりも小さい幅を有し、前記骨切り部の中に挿入され、前記第1把持部の前記側面を支持する前記第2把持部側の第1支持面が、前記側面から該側面の幅方向に突出し前記骨の外面と接触可能な接触領域を有する、スペーサ挿入器具である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スペーサの側面が骨切り面の外周と一致するように、スペーサを骨切り部に正確にかつ容易に配置することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るスペーサ挿入器具の組立図であり、第2部材が第1位置に配置されている状態での(a)平面図および(b)側面図である。
図2図1のスペーサ挿入器具の動作を説明する図であり、第2部材が第2位置に配置されている状態での(a)平面図および(b)側面図である。
図3】第1把持部の(a)一例および(b)他の例の平面図である。
図4図1のスペーサ挿入器具の第1部材の(a)上面側から見た平面図および(b)下面側から見た底面図である。
図5図1のスペーサ挿入器具の第2部材の(a)側面図および(b)下面側から見た底面図である。
図6】連結機構の連結部材および弾性部材の一例の側面図である。
図7】(a),(b),(c),(d)連結部材および弾性部材による第2部材の固定および固定解除を説明する図である。
図8】(a),(b),(c),(d)スペーサ挿入器具の使用方法を説明する図である。
図9】他の実施形態に係るスペーサ挿入器具の分解図である。
図10図9のスペーサ挿入器具の組立側面図である。
図11】OWHTOを説明する図であり、(a)脛骨を前側から見た正面図と、(b),(c)脛骨を内側から見た側面図である。
図12】解剖学的形状を有するスペーサの(a)正面図、(b)平面図、(c)底面図、(d)左側面図および(e)右側面図である。
図13】骨切り面の内側後方部分を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態に係るスペーサ挿入器具について図面を参照して説明する。
図11(a),(b)に示されるように、本実施形態に係るスペーサ挿入器具100は、内側開大型高位脛骨骨切り術(OWHTO)において、脛骨Aの骨端部に形成された骨切り面B1,B2間の骨切り部Cに人工骨等のスペーサ20を挿入するために使用される。
【0010】
器具100は、図12(a)~(e)に示されるスペーサ20を骨切り部Cに挿入するのに特に適している。
スペーサ20は、相互に対向し第1骨切り面B1および第2骨切り面B2に沿ってそれぞれ配置される第1面21および第2面22と、第1面21の外周と第2面22とを接続する側面23と、を有する。骨切り面B1,B2は相互に同一の形状を有し、したがって、第1面21および第2面22も相互に同一の形状を有する。第2面22は、第1面21に対して角度θだけ傾斜し、角度θが脛骨Aの矯正角度となる。
【0011】
側面23は、平坦な第1側面23aと、第1側面23aと交差する平坦な第2側面23bと、第1側面23aと第2側面23bとを接続する湾曲した第3側面23cと、を有する。第1側面23aおよび第2側面23bは、骨切り部Cの前側および外側にそれぞれ配置され、第3側面23cは、骨切り部Cの内側および後側に配置される(図8(c),(d)参照。)。
【0012】
第3側面23cは、外側に向かって凸の曲面であり、患者の骨切り面B1,B2の内側後方部分Dの外周Eの解剖学的形状と略一致する湾曲形状を有する。図13に示されるように、内側後方部分Dは、第1軸Q1よりも内側に位置し、かつ、第2軸Q2よりも後側に位置する部分である。第1軸Q1は、脛骨Aの前後方向と平行な方向に延び、内側突出点P1から外側に第1距離d1(例えば、28.5m以上30mm以下)の位置に配置される。第2軸Q2は、脛骨Aの内外方向と平行な方向に延び、後側突出点P2から前側に第2距離d2(22.7mm以上35mm以下)の位置に配置される。内側突出点P1は、骨切り面B1,B2の最も内側の位置である。後側突出点P2は、第1軸Q1よりも内側において骨切り面B1,B2の最も後側の位置である。
【0013】
ほとんど全ての患者の内側後方部分Dの外周Eの解剖学的形状は略一致する。したがって、第3側面23cが内側後方部分Dの外周Eと一致するようにスペーサ20を骨切り部Cに配置することによって、ほとんど全ての患者において、脛骨Aを所望の矯正角度θだけ正確に矯正することができる。
すなわち、正確な矯正角度θを得るためには、内側後方部分Dの外周Eに対する第3側面23cの位置合わせが必要である。一方、脛骨Aの周囲には靱帯を含む軟部組織Fが存在する。スペーサ挿入器具100は、軟部組織Fを保護しながら、骨切り部C内でのスペーサ20の正確な配置を可能にするものである。
【0014】
図1から図5に示されるように、スペーサ挿入器具100は、第1部材1と、第2部材2と、第1部材1と第2部材2とを相対移動可能に連結する連結機構3と、を備える。
各部材1,2は、先端および基端を有する長尺の帯板状の部材であり、厚さ方向に見た平面視において真っ直ぐに延びる(例えば、図1(a)および図2(a)参照。)。第1部材1は、先端側の第1把持部4と、基端側の第1ハンドル部5とを有する。第2部材2は、先端側の第2把持部7と、基端側の第2ハンドル部8とを有する。
【0015】
2つの部材1,2は厚さ方向に配列し、平坦な第1ハンドル部5上に平坦な第2ハンドル部8が配置される。
以下、2つの部材1,2の配列方向を器具100の高さ方向Z、部材1,2の幅方向(短手方向)を器具100の幅方向X、高さ方向Zおよび幅方向Xに直交する部材1,2の長手方向を器具100の長さ方向Yと定義する。
【0016】
第1部材1は、第1把持部4と第1ハンドル部5との間に、第2部材2とは反対側に向かって幅方向Xの軸回りに湾曲する湾曲部6を有し、第1把持部4は、第2把持部7から高さ方向Zに距離をあけて配置される。一対の把持部4,7は、高さ方向Zに相互に対向し、スペーサ20を側面23において把持する。
【0017】
第1把持部4の第2部材2側の面4aは、第3側面23cと接触し第3側面23cを支持する第1支持面である。第2把持部7の第1部材1側の面7aは、第1側面23aと接触し第1側面23aを支持する第2支持面である。把持部4,7に対するスペーサ20の固定性を向上するために、第1側面23aに第2把持部7が篏合する溝23dが形成されていてもよい(例えば、図12(b)参照。)。
【0018】
第1把持部4は、第1部材1の先端を含む平坦な先端部41と、先端部41の基端と湾曲部6の先端とを接続する基端部42とを有する。
先端部41は、幅方向Xに見た側面視において、ハンドル部5,8と平行または略平行である。基端部42は、第2把持部7とは反対側に向かって凸となるように、幅方向Xの軸回りに湾曲する。したがって、第1部材1は、側面視において略クランク形状を有する(図1(b)および図2(b)参照。)。
第2部材2は、側面視において、先端から基端までの全長にわたって平坦である。第2把持部7は、幅方向Xにおいて、第2ハンドル部8、第1把持部4および第1ハンドル部5よりも細い。
【0019】
図3(a),(b)に示されるように、第1把持部4の幅W1は、第1把持部4の先端から基端までの全長にわたって、面21,22間の側面23の幅αよりも大きい。第2把持部7の幅W2は、第2把持部7の先端から基端までの全長にわたって、幅αよりも小さい。幅W1,W2は、幅方向Xの寸法である。
骨切り面B1,B2間の骨切り部Cの幅は、側面23の幅αと同程度である。したがって、第2把持部7は、骨切り部Cの中に挿入可能である。一方、第1把持部4は、脛骨Aの外面に沿って脛骨Aの外に挿入される(図8(a)~図8(d)参照。)。すなわち、第1把持部4は、スペーサ20と脛骨Aの周囲の軟部組織Fとの間に配置され軟部組織Fを保護するレトラクタとして機能する。
【0020】
第1支持面4aは、第1支持面4aに支持される第3側面23cの幅方向Xの両側に、側面23cから幅方向Xに突出する接触領域4bを有する。図3(a),(b)において、接触領域4bは、ハッチングで示されている。両側の接触領域4bは、骨切り部Cの近位側および遠位側において脛骨Aの外面に接触可能であり、接触領域4bを脛骨Aの外面に接触させることによって第3側面23cが骨切り面B1,B2の外周Eに一致させられる。
【0021】
平面視において、第1把持部4は、図3(a)に示されるように、先端に向かって幅W1が漸次狭くなる略台形状であってもよく、図3(b)に示されるように、幅W1が一定である略矩形状であってもよい。軟部組織Fとの干渉を避けながら第1把持部4を脛骨Aの外面に沿って容易に挿入可能とするために、図3(a)のような幅狭の第1把持部4が好ましい。
【0022】
第1把持部4の長さL1は、スペーサ20の長さβよりも大きく、第2把持部7の長さL2は、長さβよりも小さい。長さL1,L2は、長さ方向Yにおける把持部4,7の寸法であり(図1(b)参照。)、長さβは、内外方向におけるスペーサ20の最大寸法である(図12(a)参照。)。したがって、第1把持部4の先端は、スペーサ20の先端の第2側面23bよりも長さ方向Yに突出した位置に配置される。
【0023】
先端部41の第1支持面4aは、第3側面23cの後側部分と少なくとも1点において接触し、基端部42の第1支持面4aは、第3側面23cの内側部分と少なくとも1点において接触する。
基端部42の第3側面23cとの接触面積を増大させるために、基端部42の第1支持面4aの少なくとも一部分が内側後方部分Dの外周Eの形状と略一致する湾曲形状を有することが好ましい。具体的には、第3側面23cは、内側後方部分Dの外周Eの形状に対応して2つの曲率半径R1,R2を有する(図12参照。)。R1は、内側突出点P1付近に対応する部分の曲率半径であり、R2は、R1の部分よりも後側の部分の曲率半径である。このような第3側面23cの湾曲形状に基づき、基端部42の第1支持面4aは、曲率半径の異なる2つの湾曲部42a,42bを有してもよい(図1(b)および図2(b)参照。)。例えば、基端側の第1湾曲部42aの第1支持面4aの曲率半径は、8mm以上10mm以下であることが好ましく、先端側の第2湾曲部42bの第1支持面4aの曲率半径は、20mm以上22mm以下であることが好ましい。
【0024】
骨切り部C内にスペーサ20を挿入するためにハンマーで器具100を叩くことがある。基端部42の側面23cとの接触面積が大きい程、ハンマーから器具100を経由してスペーサ20に加わる力を空間的に分散し、力の集中を防止することができる。第1ハンドル部5の基端に、ハンマーで叩かれる被打部5cが設けられていてもよい。被打部5cは、例えば、約90°湾曲した第1ハンドル部5の基端部から形成される。
【0025】
一設計例において、先端部41の幅W1は、5mm以上18mm以下であることが好ましく、先端部41の長さL3は、20mm以上30mm以下であることが好ましい。第2把持部7の幅W2は、1mm以上2mm以下であることが好ましく、第2把持部7の長さL2は、20mm以上30mm以下であることが好ましい。
【0026】
幅W1が5mm未満である場合、第1把持部4が骨切り部Cの中に入ってしまい、接触領域4bを脛骨Aの外面に接触させることが困難になり得る。幅W1が18mmよりも大きい場合、接触領域4bの脛骨Aの外面へのフィット性が低下し、接触領域4bと脛骨Aの外面との間の隙間が大きくなる。
長さL3が20mm未満である場合、スペーサ20の先端と第1把持部4の先端との間の隙間が小さくなり、第1把持部4がレトラクタとして効果的に機能しない可能性がある。長さL3が30mmよりも大きい場合、第1把持部4の先端が脛骨Aの後面の外顆G(図13参照。)に突き当たることによって、スペーサ20を骨切り部Cの適切な位置まで挿入することが困難になり得る。
【0027】
連結機構3は、第2部材2が第1部材1に対して第1位置と第2位置との間で長手方向に移動可能に、第1部材1と第2部材2とを連結する。
第1位置は、第2把持部7の先端(すなわち、第2部材2の先端)が先端部41の基端と先端との間に配置される位置である(図1(a),(b)参照。)。第2部材2が第1位置に配置されているとき、高さ方向Zに相互に対向する一対の把持部4,7は、スペーサ20を把持することができる。
第2位置は、第2把持部7の先端が第1把持部4の基端またはその近傍に配置される位置である(図2(a),(b)参照。)。第2部材2が第2位置に配置されているとき、一対の把持部4,7はスペーサ20を解放する。
【0028】
図6は、連結機構3の一例を示す。連結機構3は、連結部材9と、弾性部材10とを備える。
連結部材9は、柱状の軸部9aと、軸部9aの両端に設けられ軸部9aよりも大径の2つの頭部9b,9cとを有する。連結部材9は、例えば、第1頭部9bを有する雄ねじ91と、第2頭部9cを有する雌ねじ92と、からなる組ねじである。
弾性部材10は、例えば、軸部9aの周囲に配置される圧縮コイルばねである。
【0029】
第1ハンドル部5は、厚さ方向に貫通し長手方向に延びるスロット11を有し(図4(a),(b)参照。)、第2ハンドル部8は、厚さ方向に貫通しスロット11の一部分と高さ方向Zに連通する穴12を有する(図5(a),(b)参照。)。
図7(a)~(d)に示されるように、軸部9aは、高さ方向Zに移動可能にスロット11および穴12内を貫通し、2つの頭部9b,9cは、高さ方向Zにおいてハンドル部5,8の両側に配置される。弾性部材10は、第2ハンドル部8側の第1頭部9bと第2ハンドル部8との間に配置され、第1頭部9bおよび第2ハンドル部8を相互に離れる方向に付勢する。
【0030】
図7(a)に示されるように、通常状態において、弾性部材10の付勢力によって、2つのハンドル部5,8には相互に密着する方向の力が作用し、これにより、第2部材2は、第1部材1に対して固定される。具体的には、弾性部材10が第2ハンドル部8を第1ハンドル部5側へ押圧し、第1ハンドル部5側の第2頭部9cが、第1ハンドル部5を第2ハンドル部8側へ押圧する。
【0031】
図7(b),(c)に示されるように、ユーザが第2ハンドル部8側の第1頭部9bを弾性部材10の付勢力に抗して押下することによって、第2ハンドル部8の固定が解除される。固定解除された状態において、スロット11内の軸部9aの移動によって、第2部材2は第1部材1に対して第1位置と第2位置との間で移動可能になる。
第2部材2の移動後、図7(d)に示されるように、第1頭部9bを解放することによって、第2部材2は、弾性部材10の付勢力によって第1部材1に対して再び固定される。
【0032】
次に、スペーサ挿入器具100の使用方法について説明する。
OWHTOにおいて、脛骨Aの骨端部を内側面から外側に向かって骨鋸で骨切りし、骨切り面B1,B2間を開大器で開大する。骨鋸および開大器は、膝の内側の皮膚に形成された切開部から膝内に挿入される。
続いて、図8(a)に示されるように、スペーサ20を把持した一対の把持部4,7を切開部から膝内に挿入し、第1面21および第2面22を骨切り面B1,B2にそれぞれ沿わせながらスペーサ20を内側から外側に向かって骨切り部Cに挿入する。このとき、第2把持部7を、骨切り面B1,B2間の骨切り部Cの中に挿入し、第1把持部4を、脛骨Aの外に挿入する。第1把持部4は、内側側副靱帯(MCL)のような軟部組織Fを脛骨Aから遠ざけながら脛骨Aの外面に沿って進み、先端部41が脛骨Aの後側に配置される。
【0033】
次に、図8(b)に示されるように、脛骨Aの後側および内側にそれぞれ配置された先端部41および基端部42の第1支持面4aを、脛骨Aの内側後方部分Dの外面に突き当てる。これにより、先端部41および基端部42の接触領域4bが、骨切り部Cの遠位側および近位側において脛骨Aの外面と接触し、スペーサ20は、第3側面23cが骨切り面B1,B2の内側後方部分Dの外周Eと一致する位置に位置決めされる。
【0034】
スペーサ20の位置決め後、開大器による骨切り部Cの開大を解除する。
次に、図8(c)に示されるように、第1頭部9bを押下することによって第2部材2を固定解除し、第2部材2を第2位置へスライドさせる。これにより、スペーサ20を把持部4,7から解放する。
次に、図8(d)に示されるように、第1部材1を前側に向かって回転させながら脛骨Aと軟部組織Fとの間から引き抜く。
【0035】
このように、本実施形態によれば、第3側面23cを支持する第1支持面4aが、第3側面23cの幅方向の両側に接触領域4bを有する。したがって、接触領域4bを脛骨Aの外面に接触させるだけで、骨切り部C内のスペーサ20の第3側面23cを骨切り面B1,B2の内側後方部分Dの外周Eと一致させることができる。これにより、スペーサ20を骨切り部Cに正確にかつ容易に配置することができる。
特に、脛骨Aの後側に配置される第3側面23cの後側部分は、皮膚の切開部を介して目視することが難しい。本実施形態によれば、脛骨Aの後側の先端部41の接触領域4bを脛骨Aの後面に接触させるだけで、第3側面23cの後側部分を容易に外周Eに一致させることができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、脛骨Aと軟部組織Fとの間に挿入される第1把持部4は、軟部組織Fを保護するレトラクタとして機能する。したがって、器具100のみを使用して、脛骨Aの周辺の軟部組織Fを保護しながらスペーサ20を骨切り部Cに挿入することができる。特に、骨切り部Cへのスペーサ20の挿入時、第1把持部4の先端がスペーサ20の前方に配置されることによって、軟部組織Fを効果的に保護することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、第1ハンドル部5が、先端部41と平行または略平行である。手術中、術者は、膝内の先端部41を目視することができない。第1ハンドル部5が先端部41と平行または略平行であることによって、術者は、第1ハンドル部5の方向に基づいて膝内の先端部41の方向を認識することができ、第1把持部4が脛骨Aの内外方向に配置されるように、膝内の第1把持部4の方向を適切に調整することができる。
【0038】
上記実施形態において、基端部42の支持面4aが第3側面23cと接触することとしたが、基端部42の支持面4aは、必ずしも第3側面23cと接触しなくてもよい。すなわち、第1把持部4は、少なくとも先端部41の支持面4aにおいて第3側面23cと接触すればよく、基端部42は、任意の形状を有していてもよい。
脛骨Aの内側に配置される第3側面23cの内側部分は、皮膚の切開部を介して目視することができる。したがって、第3側面23cの後側部分の外周Eへの位置合わせは先端部41の接触領域4bを使用して行い、第3側面23cの内側部分の外周Eへの位置合わせは目視によって行ってもよい。
【0039】
上記実施形態において、スペーサ挿入器具100は、第1ハンドル部5に対する第2ハンドル部8の移動方向を長さ方向Yに規制するガイド機構13をさらに備えることが好ましい。ガイド機構13を設けることによって、幅方向Xにぶれることなく第2部材2を第1部材1に対して長さ方向Yに真っ直ぐにスライドさせることができる。
【0040】
ガイド機構13の一例は、凸部13aと、凸部13aを高さ方向Zに受け入れるガイド溝13bとを有する。図5(a),(b)に示されるように、凸部13aは、第2ハンドル部8の第1ハンドル部5側の下面8bに設けられ、下面8bから高さ方向Zに突出する。図4(a),(b)に示されるように、ガイド溝13bは、第1ハンドル部5の第2ハンドル部8側の上面5aに設けられ、長さ方向Yに直線状に延びる。ガイド溝13bの幅は凸部13aの幅と略等しく、ガイド溝13b内の凸部13aの移動は長さ方向Yのみに制限される。
凸部13aおよびガイド溝13bの配置は、逆であってもよい。すなわち、凸部13aが上面5aに設けられ、ガイド溝13bが下面8bに設けられてもよい。
【0041】
上記実施形態において、把持部4,7によるスペーサ20の把持力を向上するために、第2支持面7aは、先端に向かって第1支持面4aに漸次近付く方向に傾斜していてもよい。
図5(a)に示されるように、第1支持面4aに対する第2支持面7aの傾斜は、先端に向かって高さ方向Zに薄くなる楔形の凸部13aによって形成されてもよい。この構成によれば、膝内に挿入される把持部4,7に部材を追加することなく、把持力を高めることができる。
【0042】
上記実施形態において、第1把持部4は、第1支持面4aに対するスペーサ20の滑りを防止するための滑り止め17を有することが好ましい。滑り止め17は、第1支持面4aのスペーサ20と接触する領域に設けられる(例えば、図1(a)および図2(a)参照。)。滑り止め17は、第1支持面4aに形成された微細な凹凸構造から構成されていてもよく、第1支持面4aに固定されたシリコーンゴム等の摩擦係数の高い部材から構成されていてもよい。把持部4,7によって把持されたスペーサ20は、幅方向Xの力に対して不安定である。幅方向Xの安定性を高めるために、凹凸構造は、長さ方向Yに相互に平行に延びる複数の凸部から構成されていてもよい。
【0043】
上記実施形態において、連結部材9を押すワンタッチ操作によって、第2部材2が第1部材1に対して固定解除されることとしたが、これに代えて、第2部材2は、ねじ等の固定部材によって第1部材1に対して固定解除可能に固定されてもよい。
図9および図10は、他の実施形態に係るスペーサ挿入器具101を示している。第1部材1は、厚さ方向に貫通するねじ穴14を有し、第2部材2は、厚さ方向に貫通し長さ方向Yに延びるスロット15を有する。器具101の連結機構3は、スロット15内を通ってねじ穴14に挿入される固定ねじ16を有する。固定ねじ16を締めることによって、第2部材2が第1部材1に対して固定され、固定ねじ16を緩めることによって、第2部材2が固定解除され長さ方向Yに移動可能になる。
【0044】
スペーサ挿入器具101のガイド機構は、第2ハンドル部8の両側の側面に固定され、下面8bから高さ方向Zに突出する一対のガイド片13c,13dを有する。第1ハンドル部5の両側の側面に沿って移動する一対のガイド片13c,13dによって、第2部材2が長さ方向Yにガイドされる。
一対のガイド片13c,13dは、第1ハンドル部5の両側の側面に固定され、第2ハンドル部8の両側の側面に沿って移動するように構成されていてもよい。
【0045】
上記実施形態において、連結機構3が、2つの部材1,2を長さ方向Yに相対移動可能に連結することとしたが、これに代えて、2つの部材1,2を相互に分離可能に連結してもよい。例えば、連結機構は、ねじ等の固定部材によって、第2部材2を取り外し可能に第1部材1に固定してもよい。スペーサ20を骨切り部Cに配置した後、第2部材2を第1部材1から取り外すことによってスペーサ20が解放される。
このように、2つの部材1,2を長さ方向Yに相対移動させない場合、ハンドル部5,8は、必ずしも直線状かつ平坦である必要はなく、湾曲していてもよい。
【0046】
上記実施形態において、第1部材1および第2部材2が別々の部材であることとしたが、これに代えて、第1部材および第2部材が単一の部材から構成されていてもよい。例えば、第1部材および第2部材は、これらの基端において相互に連続され、スペーサ挿入器具は、ピンセットのような形状を有していてもよい。
【0047】
上記実施形態において、膝内の把持部4,7の方向を体外から確認するために、把持部4,7は、X線透視下で視認可能であり把持部4,7の方向を示すマーカを有していてもよい。例えば、マーカは、把持部4,7の先端に設けられた突起部であってもよく、把持部4,7の中心線に沿って設けられた肉厚部であってもよい。
【0048】
以上、本発明の実施形態およびその変形例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第2把持部7は、必ずしも平坦である必要はなく、第2把持部7が第1側面23aと接触することができる限りにおいて他の形状を有していてもよい。
スペーサ挿入器具の用途は、解剖学的形状を有するスペーサ20を骨切り部Cに挿入するOWHTOに限らず、スペーサの側面を骨切り面の外周に一致させる必要がある他の骨手術にスペーサ挿入器具が使用されてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 第1部材
2 第2部材
3 連結機構
4 第1把持部
4a 第1支持面
41 先端部
42 基端部(湾曲部)
5 第1ハンドル部
7 第2把持部
7a 第2支持面
8 第2ハンドル部
9 連結部材(連結機構)
10 弾性部材(連結機構)
13 ガイド機構
13a 凸部(ガイド機構)
13b ガイド溝(ガイド機構)
13c,13d ガイド片(ガイド機構)
16 固定ねじ(連結機構)
20 スペーサ
21 第1面
22 第2面
23 側面
23a 第1側面
23b 第2側面
23c 第3側面
100,101 スペーサ挿入器具
A 脛骨
B1,B2 骨切り面
C 骨切り部
D 内側後方部分
【要約】      (修正有)
【課題】スペーサを骨切り部に正確にかつ容易に配置することができるスペーサ挿入器具を提供する。
【解決手段】スペーサ挿入器具100は、先端側に第1把持部4を有する第1部材1と、先端側に第2把持部7を有する第2部材2とを備え、第1および第2把持部4,7が、スペーサ20を側面において把持する。第1把持部4は、側面の幅よりも大きい幅を有し、骨の外に挿入され、第2把持部7は、側面の幅よりも小さい幅を有し、骨切り部の中に挿入される。第1把持部4の側面を支持する第1支持面4aは、側面から幅方向に突出し骨の外面と接触可能な接触領域を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13