(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】改良されたフルレンジ光コヒーレンストモグラフィ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20240514BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
G01N21/17 630
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2023074349
(22)【出願日】2023-04-28
【審査請求日】2023-04-28
(32)【優先日】2022-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・シャン
(72)【発明者】
【氏名】コー・トニー
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0185685(US,A1)
【文献】特表2014-524021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0100490(US,A1)
【文献】Yoshiaki YASUNO et al.,Simultaneous B-M-mode scanning method for real-time full-range Fourier domain optical coherence tomography,Applied Optics,2006年03月10日,Vol. 45,No. 8,PP.1861-1865
【文献】Yoshiaki YASUNO et al.,Real Time and Full-range Complex Fourier Domain Optical Coherence Tomography,Optical and Quantum Electronics,2005年,Vol. 37,PP.1157-1163
【文献】Yoshiaki YASUNO et al.,High-speed full-range Fourier domain optical coherence tomography by simultaneous B-M-mode scanning,SPIE Proceedings,2005年,Vol.5690, PP.137-142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
A61B 3/00-A61B 3/18
G02F 1/00-G02F 1/125
G02F 1/21-G02F 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉装置内の光源及び分光器と、
位相を増加させる正の位相変調と位相を減少させる負の位相変調とを誘起することによって、分光器によって検出される光の位相を調整するように構成された位相変調器と、
前記調整された位相に基づいて、前記分光器によって検出された信号の位相を再構成し、前記分光器によって検出された信号の振幅と前記再構成された位相とに基づいて、フルレンジ画像を生成するように構成されたプロセッサと、
を含み、
前記位相変調器は、入射光を長さの異なる2つのディレイラインに選択的に通過させ、前記2つのディレイラインを通過した光を結合することで得られた光を出力するように構成されたフォトニック集積回路を含み、
前記正の位相変調及び前記負の位相変調は、1回のB-スキャン中にそれぞれ少なくとも1回ずつ誘起される、イメージングシステム。
【請求項2】
前記位相変調器は、三角波形に従って制御される、請求項1に記載のイメージングシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記誘起された正の位相変調と前記誘起された負の位相変調とに基づいて、前記分光器によって検出された前記信号の位相を別々に再構成し、正に調整された画像と負に調整された画像とを生成するように構成され、
前記プロセッサは、前記正に調整された画像と前記負に調整された画像とを合成することにより、前記フルレンジ画像を生成するように構成されている、請求項1又は請求項2に記載のイメージングシステム。
【請求項4】
前記干渉装置によってイメージングされる対象物を高速スキャン軸に沿ってスキャンするように構成されたスキャン光学系を更に含み、
前記スキャン光学系は、前記位相変調器が前記正の位相変調を誘起する場合と前記負の位相変調を誘起する場合とを切り替えるとき、前記高速スキャン軸に沿って前記対象物の一部のスキャンを繰り返すように構成される、請求項1又は請求項2に記載のイメージングシステム。
【請求項5】
前記位相変調器は、前記干渉装置のサンプルアーム内に配置される、請求項1又は請求項2に記載のイメージングシステム。
【請求項6】
前記位相変調器は、前記干渉装置の参照アーム内に配置される、請求項1又は請求項2に記載のイメージングシステム。
【請求項7】
前記位相変調器は、前記1回のB-スキャンの各A-ライン間で、π/2だけ位相を調整するように構成される、請求項1又は請求項2に記載のイメージングシステム。
【請求項8】
干渉イメージングシステムで、入射光で対象物をスキャンし、
前記干渉イメージングシステムからの干渉信号の位相を光学的に変調し、
前記光学的に変調された干渉信号を検出し、
少なくとも4つのA-ライン又はB-スキャン
により得られたデータを結合して単一の値とすることで得られる位相を決定
し、前記決定された位相に基づいて前記検出された
干渉信号の位相を再構成し、
前記検出された
干渉信号の振幅と前記再構成された位相とに基づいて、フルレンジ画像を生成
し、
前記位相の光学的な変調は、フォトニック集積回路に形成された長さの異なる2つのディレイラインに入射光を選択的に通過させ、前記2つのディレイラインを通過した光を結合することで得られた光を出力する
ことを含む、イメージング方法。
【請求項9】
前記位相の光学的な変調は、1回のB-スキャンで正の位相変調と負の位相変調を誘起することを含み、
前記位相は、前記正の位相変調と前記負の位相変調とに基づいて、調整された位相を別々に再構成されたものであり、
前記方法は、前記正の位相変調の再構成された位相に基づいて正に調整された画像を生成することと、前記負の位相変調の再構成された位相に基づいて負に調整された画像を生成することとを、更に含み、
前記フルレンジ画像を生成することは、前記正に調整された画像と前記負に調整された画像とを合成することを含む、請求項
8に記載のイメージング方法。
【請求項10】
前記位相の光学的な変調は、各A-ライン、及び/又は、各B-スキャンの間にπ/2だけ位相を誘起す
ることを含む、請求項
8又は請求項
9に記載のイメージング方法。
【請求項11】
前記フルレンジ画像を生成することは、複素信号に対してフーリエ変換を行うことを含み、
前記複素信号の実部は、前記少なくとも4つのA-ライン又はB-スキャンのうち少なくとも2つによって表され、前記複素信号の虚部は、前記少なくとも4つのA-ライン又はB-スキャンのうち異なる少なくとも2つによって表され、
前記複素信号の実部及び虚部を表すA-ライン又はB-ラインは、前記再構成された位相に基づいて決定される、請求項
8又は請求項
9に記載のイメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良されたフルレンジ光コヒーレンストモグラフィに関する。
【背景技術】
【0002】
光コヒーレンストモグラフィ(OCT)は、非侵襲的なイメージング技術であり、眼科分野において多く用いられる。OCTは、干渉法の原理を利用して、対象物(被検者の眼など)を画像化(imaging)し、情報を収集する。特に、光源からの光は、イメージング対象物によって反射されるサンプルアームと、ミラーなどの参照物体によって反射される参照アームとに分割される。そして、反射光は、分光器やフォトダイオードなどによって捕捉される干渉縞を有する光信号を生成するように、検出アームにおいて光学的に結合される。検出された光信号は、対象物を再構成してOCT画像を生成するように処理される。
【0003】
OCTシステムによって検出された光信号には、振幅部と位相部とが含まれる。しかしながら、分光器のカメラは、光信号の振幅部だけを捕捉する。そのため、光信号の位相部が失われ、OCT画像は、振幅部だけを用いて再構成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
位相信号の損失に起因して、再構成されたOCT画像は、複素共役な鏡像を有する。
図1Aと
図1Bとを参照すると、これら2つの画像は、DCラインとして知られているセンターピークに関して対称である。画像がDCラインを横切る場合、画像が重なることがある。画像のミラーリングのため、画像範囲の半分(「ハーフレンジ」OCT画像)のみが使用可能である。
【0005】
鏡像を除去し、使用可能な画像範囲を2倍にする(つまり、OCT画像の「フルレンジ」を利用する)技術がいくつか開発されているが、これらの技術にはいくつかの欠陥がある。例えば、ピエゾステージを使用する技術では、移動範囲が非常に限られているため、位相調整範囲が制限され、広視野のイメージングには十分でない場合がある。更に、ピエゾステージは高価である。ガルバノスキャナの中心から入射光ビームをオフセットする技術は、固定されたスキャンパターンでのみ機能する。更に、これらの技術は高密度スキャンを必要とするため、スキャン時間が長くなり、必要な処理能力も増加する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例によれば、イメージングシステムは、干渉装置内の光源及び分光器と、位相を増加させる正の位相変調と位相を減少させる負の位相変調とを誘起することによって、分光器によって検出される光の位相を調整するように構成された位相変調器と、前記調整された位相に基づいて、前記分光器によって検出された信号の位相を再構成し、前記分光器によって検出された信号の振幅と前記再構成された位相とに基づいて、フルレンジ画像を生成するように構成されたプロセッサとを含み、前記正の位相変調及び前記負の位相変調は、1回のB-スキャン中にそれぞれ少なくとも1回ずつ誘起される。
【0007】
上記例の様々な実施形態において、前記位相変調器は、三角波形に従って制御される; 前記位相変調器は、回転可能なガラスを含む位相ガルバノである; 前記ガラスは、B-スキャンの少なくとも一部の間に、線形的に回転するように構成される; 前記ガラスは、三角波形に従って前記B-スキャン中に回転するように構成される; 前記位相変調器は、フォトニック集積回路である; 前記プロセッサが、前記誘起された正の位相変調と前記誘起された負の位相変調とに基づいて、前記分光器によって検出された前記信号の位相を別々に再構成し、正に調整された画像と負に調整された画像とを生成するように構成され、前記プロセッサは、前記正に調整された画像と前記負に調整された画像とを合成することにより、前記フルレンジ画像を生成するように構成されている; 前記システムは、更に、前記干渉装置によってイメージングされる対象物を高速スキャン軸に沿ってスキャンするように構成されたスキャン光学系を含み、前記スキャン光学系は、前記位相変調器が前記正の位相変調を誘起する場合と前記負の位相変調を誘起する場合とを切り替えるとき、前記高速スキャン軸に沿って前記対象物の一部のスキャンを繰り返すように構成される; 前記位相変調器は、前記干渉装置のサンプルアーム内に配置される; 前記位相変調器は、前記干渉装置の参照アーム内に配置される、及び/又は、前記位相変調器は、前記1回のB-スキャンの各A-ライン間で、π/2だけ位相を調整するように構成される。
【0008】
本開示の別の例によれば、イメージング方法は、干渉イメージングシステムで、入射光で対象物をスキャンし、前記干渉イメージングシステムからの干渉信号の位相を光学的に変調し、前記光学的に変調された干渉信号を検出し、少なくとも4つのA-ライン又はB-スキャンに基づいて代表的な位相を決定することにより、前記変調された位相に基づいて前記検出された信号の位相を再構成し、前記検出された信号の振幅と前記再構成された位相とに基づいて、フルレンジ画像を生成する。
【0009】
上記例の様々な実施形態において、前記位相の光学的な変調は、1回のB-スキャンで正の位相変調と負の位相変調を誘起することを含み、前記位相は、前記正の位相変調と前記負の位相変調とに基づいて、調整された位相を別々に再構成されたものであり、前記方法は、前記正の位相変調の再構成された位相に基づいて正に調整された画像を生成することと、前記負の位相変調の再構成された位相に基づいて負に調整された画像を生成することとを、更に含み、前記フルレンジ画像を生成することは、前記正に調整された画像と前記負に調整された画像とを合成することを含む; 前記位相の光学的な変調は、各A-ライン、及び/又は、各B-スキャンの間にπ/2だけ位相を誘起すことを含む; 前記位相の光学的な変調は、三角波形に従って位相ガルバノを回転させることを含む; 前記位相の光学的な変調は、フォトニック集積回路を介して光路を切り替えることを含む、及び/又は、前記フルレンジ画像を生成することは、複素信号に対してフーリエ変換を行うことを含み、前記複素信号の実部は、前記少なくとも4つのA-ライン又はB-スキャンのうち少なくとも2つによって表され、前記複素信号の虚部は、前記少なくとも4つのA-ライン又はB-スキャンのうち異なる少なくとも2つによって表され、前記複素信号の実部及び虚部を表すA-ライン又はB-ラインは、前記再構成された位相に基づいて決定される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、従来の「ハーフレンジ」画像の一例を概念的に示したものである。
【
図1B】
図1Bは、従来の「フルレンジ」画像の一例を概念的に示したものである。
【
図2A】
図2Aは、従来の「ハーフレンジ」OCT画像の一例である。
【
図2B】
図2Bは、本開示に係る「フルレンジ」OCT画像の一例である。
【
図3】
図3は、光コヒーレンストモグラフィシステムの概略図の一例を示したものである。
【
図4】
図4は、位相ガルバノの一例を示したものである。
【
図5A】
図5Aは、フォトニック集積回路の一例を模式的に示したものである。
【
図5B】
図5Bは、フォトニック集積回路の一例を模式的に示したものである。
【
図6A】
図6Aは、第1例の位相変調を誘起するための位相及び高速スキャンガルバノ制御信号の例を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、第2例の位相変調を誘起するための位相及び高速スキャンガルバノ制御信号の例を示す図である。
【
図6C】
図6Cは、第3例の位相変調を誘起するための位相及び高速スキャンガルバノ制御信号の例を示す図である。
【
図6D】
図6Dは、第4例の位相変調を誘起するための位相及び高速スキャンガルバノ制御信号の例を示す図である。
【
図7】
図7は、フルレンジOCT画像の再構成方法を示す図である。
【
図8】
図8は、正に調整されたOCT画像と負に調整されたOCT画像とをつなぎ合わせた図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以上により、本開示は、現行技術における欠陥のないフルレンジOCTイメージング(撮像)に関するものである。
図2A及び
図2Bを参照すると、本開示によれば、従来のハーフレンジOCT画像(
図2A)に関連する複素共役アーチファクト(鏡像)を軽減又は除去して、イメージング深さ範囲を2倍にして「フルレンジ」OCT画像(
図2B)を生成することが可能である。これは、既存の技術に伴う高密度スキャンや調整範囲の制限を受けることなく、よりコンパクトで費用対効果の高い方法で実現することができる。
【0012】
図3は、OCTシステムの一例を示す。
図3に見られるように、システムは、光源100を含む。光源100によって発生された光は、例えば、ビームスプリッタ(光学系108の一部として)によって分割され、参照アーム104とサンプルアーム106とに送られる。サンプルアーム106内の光は、眼112の網膜のような対象物で後方散乱、又は、その他の方法で反射される。参照アーム104内の光は、ミラー110などの物体によって、後方散乱、又は、その他の方法で反射される。サンプルアーム104と参照アーム106からの光は、光学系108で再結合され、対応する干渉信号が検出器102によって検出される。分光器などの検出器102は、干渉信号に対応する電気信号をプロセッサ114に出力し、そこでOCT信号データに保存及び処理することができる。プロセッサ114は、その後、対応する画像を更に生成したり、又は、その他の方法でデータの解析を実行したりすることができる。プロセッサ114は、処理された画像、又は、それらの画像の解析に関連する情報を出力するためのディスプレイを含む入力/出力インターフェース(図示せず)と接続されていてもよい。入力/出力インターフェースは、システムへのユーザー入力を受け付けるためのボタン、キー、又は、他のコントロールキーなどのハードウェアを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、プロセッサ114は、光源及びイメージング処理を制御するためにも使用され得る。
【0013】
単一の位置(例えば、X-Y点)で収集されたOCT信号データを、A-ライン(X-Y位置におけるZ深度方向の情報を含む)と称する。そして、スキャン光学系116は、光源100からの入射光を画像化対象物上でスキャンパターンに沿って進行させ、対象物の2次元又は3次元データを収集する。例えば、従来のスキャンパターンでは、A-ラインは高速スキャン軸(X方向、Y方向のいずれか一方)に沿って順次に取り込まれ、その後、システムが高速スキャン軸の終点に到達すると、スキャンは低速スキャン軸(X方向、Y方向の他方)に沿って1ステップ進み、高速スキャン軸に沿った取り込みを繰り返す。これは、所望の量(volume)のデータが取り込まれるまで継続する。当然ながら、スキャン光学系116によって他のスキャンパターンが採用されてもよい。低速スキャン軸上の点(例えば、X-Y平面上、又は、Y-Z平面上)における高速スキャン軸に沿ったA-ラインの収集、又は、その逆の場合は、B-スキャンと称される。
【0014】
光信号の位相部を取得してフルレンジOCT画像を生成するために、可変周波数(位相変調信号)が、位相変調器118によって光信号に付加される。
図3に示すように、位相変調器118は、参照アーム104、又は、サンプルアーム106において、それ自体の素子として実装されてよい。しかしながら、位相変調器118は、スキャン光学系116の一部として、さもなければ参照アーム104及び/又はサンプルアーム106の一部として、光学系108と一体化されるか、さもなければ光学系108の一部となり得ることを理解されたい。更に、位相変調器118は、サンプルアーム106内のスキャン光学系116の前、又は、後に含まれてもよい。位相変調器118は、光信号の光路長を制御することにより光信号の位相を調整する。好ましくは、位相変調器118は、各A-ライン間及び/又は各B-ライン間の位相変化を誘起する。
【0015】
図4に示す一実施形態によれば、位相変調器118は、制御信号に従ってガルバノモータなどのアクチュエータによって回転される既知の厚さを有するガラス200(位相ガルバノ)である。図に見られるように、光202は、位相ガルバノに入射し、素子204(例えば、位相変調器118が参照アーム104内にある場合は参照ミラー、又は、位相変調器118がサンプルアーム106内にある場合は対象物112)によって反射され、光206は、位相ガルバノから出射する。入射光202、及び、出射光206は、それぞれ、ガラスの回転角に依存する経路長に沿ってガラス200を通過する。例えば、位相ガルバノのガラス200は、第1位置200_1(光202、206に対して90度になる位置)において、光が通過する経路長がガラス200の厚さd_1に等しくなることが示されている。これに対して、第2位置200_2(光202、206に対して45度になる位置)においてガラス200を通る経路長d_2は、ガラス200の幅d_1より大きい。経路長d_1、d_2が異なると、光が通過するのに要する時間が異なる。従って、ガラス200が回転されると、光202、206に遅延(位相変調信号)が誘起され、その結果、光信号が得られる。光202、206の相対的な位置は一例に過ぎず、光はガラス200の全長にわたって位相変調器に入射して出射することが可能であることを理解されたい。
【0016】
ガラス200が回転される(すなわち、円形に調整される)ため、一定の厚みを有するガラス200を通る経路長の変化は線形的ではない。言い換えれば、ガラス200を通る経路長の変化は、ガラス200の回転角度と線形関係にはない。その結果、このような位相ガルバノによって誘起される位相変調信号は一定ではない。言い換えれば、任意の2つの位置で位相ガルバノによって(すなわち、位相ガルバノの回転によって)誘起される位相の差は、同じではない。
【0017】
特に、傾斜したガラスの光路は、次のように与えられる。
【数1】
ここで、dはガラス内の光路であり、nはガラスの反射率であり、d1はガラスの厚さであり、θは傾斜角度である。従って、隣接する位置間(例えば、隣接するA-ライン間、又は、隣接するB-スキャン間)の経路差は、次のように与えられる。
【数2】
ここで、Δθは隣接する位置(ある位置に相関する位相ガルバノ角度がθであり、別の位置に相関する位相ガルバノ角度が(θ+Δθ)である)間の位相ガルバノ回転角度差である。位相ガルバノガラスが45度回転し、隣接する位置間の回転角度が小さいと仮定すると、隣接する位置間の経路差は次のように簡略化できる。
【数3】
【0018】
別の実施形態によれば、位相変調器118は、
図5A及び
図5Bに図示されるようなフォトニック集積回路(PIC)内の光ディレイラインであってもよい。上記のように、位相変調器用のPICは、別個の素子であってもよいし、光学系108、又は、スキャナ116と一体化さてもよい。PICを用いる場合、制御信号は、長さの異なる2つのラインの間で光路を切り替えるように、PICに供給されるデジタル信号であってよい。
図5A及び
図5Bの例では、光は、変調信号によって制御される光スイッチに入力される。光スイッチは、入力された光を、集積ディレイライン1(経路長xを有する)、又は、集積ディレイライン2(経路長(x±Δλ/4)、すなわち、通過する光の中心波長の1/4の長さを有する)のいずれかに選択的に通過させる。
図5Aの例では、2つのディレイラインは、集積カプラによって結合され、光は、集積カプラから出力される。
図5Bの例では、各ディレイライン内の光は、集積反射器によって反射され、集積ディレイラインを二度通過し、光スイッチから出力される。
【0019】
各集積ディレイラインの遅延は、
図5A、及び、
図5Bに記した遅延とは異なってもよいことを理解されたい。例えば、
図5Bの実施形態では光が反射して各ディレイラインを2回通過するため、各ラインの長さは所望の長さ/遅延の半分であってよい。例えば、
図5Bの集積ディレイライン1の長さはxに等しく、集積ディレイライン2の長さは(x±Δλ/4)に等しくてもよい。いくつかの実施形態では、ディレイライン間の経路長の差は、中心波長の1/4よりより大きくてもよいし、小さくてもよい。更に、1つのPIC内に、3以上のディレイラインが実装されていてもよい。
【0020】
位相変調信号は、特定の周波数と振幅における波形に従って調整され、その波形は位相変調器118に対する制御、又は、誘起された位相変調そのものとして適用される。以下の例に関して説明するように、波形は、鋸歯状、階段状、三角形、又は、類似のパターンの形態を取ることができる。一般的に、波形は、フルレンジOCT画像の消光比が最大になるように決定される。それにより、複素共役なアーチファクト/鏡像を最小化することができる。すなわち、消光比は、信号と複素共役アーチファクトとの比などとして定義することができ、アーチファクトの量を最小化することで比を最大化することができる。
図6A~
図6Dは、本開示の異なる複数の例に係る位相変調信号を誘起するための、(位相ガルバノ位相変調器118を制御するための)様々な位相ガルバノ制御信号及び(高速イメージング軸のスキャン光学系116を制御するための)高速スキャンガルバノ制御信号を示す。
【0021】
図6Aに示す第1の例によれば、位相ガルバノ制御信号は、各B-スキャン(高速スキャンガルバノ制御信号の1周期)の間に、位相ガルバノの一定の回転(又は、PIC内のディレイラインの変化)を生じさせる。これにより、B-スキャン内変調が発生する。各B-スキャン内では、位相ガルバノ制御信号は、位相ガルバノの一定の回転を生じさせる。つまり、B-スキャンの隣接するA-ライン間の角度の変化は、B-スキャンの全体にわたって一定である。この例では,位相ガルバノ信号は、高速スキャンガルバノ制御信号をそのまま反映したものであり、それぞれが鋸歯状波形を有する。
【0022】
これに対し、
図6Bに示す例では、位相ガルバノ制御信号は、B-スキャンの間だけで変化する。これにより、B-スキャン間変調が発生する。すなわち、
図6Bの例によれば、1回のB-スキャンにおいて、A-ラインごとに(例えば、低速移動軸上の1スキャン点における高速スキャン軸に沿って)同じ位相変調が誘起される。スキャンパターンが高速スキャン軸の終点に到達すると、次のB-スキャンで異なる位相変調信号が導入されるように、位相ガルバノが回転される(又は、PIC内でディレイラインが切り替えられる)。このような位相ガルバノ制御は、階段状パターンに相当する。
【0023】
図6Cの例は、三角形の波形を示す。
図6Aの例と同様に、
図6Cの波形は、B-スキャン内変調を誘起する。しかしながら、
図6Aの例とは対照的に、位相ガルバノの回転がB-スキャン中に1回以上方向転換する。例えば、B-スキャンにおける複数のA-ラインの最初の部分(例えば、複数のA-ラインの半分)に対して位相ガルバノを一方向に回転させ(正の傾斜の位相ガルバノ制御信号)、次に、B-スキャンにおける複数のA-ラインの後半の残りの部分に対して逆方向に回転させてもよい(負の傾斜の位相ガルバノ制御信号)。つまり、1つのB-スキャン内で位相ガルバノを前後に回転させてもよい。位相変調器118がPICであるとき、この効果は、複数のA-ラインの最初の部分について、増加する経路長/遅延を有するディレイラインを順次に切り替え、次に、複数のA-ラインの後半の残りの部分について、経路長/遅延を連続的に減少させるディレイラインを順次に逆戻りさせることによって達成することができる。一般に、遅延を増加させることは正の位相変調信号を生成し、逆に、遅延を反転、又は、減少させることは負の位相変調信号を生成すると言われる。このように、
図6Cの例は、少なくとも1つの正の位相変調信号と少なくとも1つの負の位相変調信号を発生させる。
図6Cの例の位相変調プロトコルは、調整範囲を向上させ、広視野イメージングにおける調整範囲の制限を回避することができる。
【0024】
位相変調信号を反転(例えば、正から負へ)させると、アーチファクトが発生する場合がある。これらのアーチファクトは、位相変調信号が反転したときに高速スキャン方向にスキャンを反転させることによって、除去、又は、軽減され得る。このようなスキャンプロトコルは、
図6Dの例で図示されている。
図6Dに見られるように、高速スキャン方向のスキャンは、所定数のA-ライン(例えば、64個のA-ライン)を戻り、位相変調信号が方向を変えるとスキャンを再開する。つまり、位相ガルバノの方向転換時にスキャンされたA-ラインは、方向転換に続いて再スキャンされる。特に、
図6Dに見られるように、位相ガルバノ制御信号は、B-スキャンの最初の512個のA-ラインに対して増加する。それにより、位相ガルバノを第1の方向に回転させることができる。この間、高速スキャンガルバノ制御信号もまた増加し、高速スキャン軸に沿ったスキャンを進行させる。その後、位相ガルバノ制御信号は、B-スキャンの残りの512個のA-ラインに対して減少する。それにより、位相ガルバノの方向を開始位置まで反転させることができる。位相ガルバノを反転させると、高速スキャンガルバノ制御信号が減少し、64個のA-ラインに相当する分だけスキャナが戻る。その後、1024個のA-ラインが取得されるまで、再び高速スキャン方向にスキャンを進める。
【0025】
図6Dの例は、1つのB-スキャン中の1回の方向転換のみを示しているが、位相ガルバノが方向を変更する(正から負、又は、負から正のいずれか)たびに、上記のプロセスを繰り返すことができることを理解されたい。いくつかの実施形態では、
図6Cに示した三角波形のように、各方向の複数の変化が単一のB-スキャン内で発生してもよい。
【0026】
イメージングが完了すると(対象物のすべての関心領域からデータを取得するためのスキャンプロトコルの完了後)、
図7に示す方法に従ってフルレンジOCT画像を再構成することができる。要するに、誘起された位相変調信号を含む、検出器102によって捕捉された(且つ、従来のハーフレンジOCT画像を生成するために使用可能な)原強度データは、光信号の位相部を再構成するために処理される。そして、原強度データから再構成された位相部と振幅部の両方は、フルレンジのOCT画像を再構成するために用いられる。
【0027】
一実施形態によれば、位相部は、多要素結合技術(multi-element combination technique)で再構成することができる。要するに、この技術は、データの複数の要素(例えば、A-ライン、又は、B-スキャン)を結合して単一の代表値にすることによって、代表位相信号を生成する。例えば、4要素再構成技術は、4つの隣接するA-ラインのデータを結合して、4つの結合されたA-ラインの1つを代表する位相を生成することができる。
【0028】
それぞれ強度I
1~I
4を有する任意の4つのデータ要素(例えば、A-ライン、又は、B-スキャン1~4)に対して、代表的な位相は、以下のように与えることができる。
【数4】
5以上のデータ要素に基づいて位相を決定する場合、代表的な位相は、複数の4要素サブセットについて決定される。例えば、5つのデータ要素(例えば、A-ライン、又は、B-スキャン1~5)から再構成された位相は、第1の4要素サブセット(例えば、A-ライン、又は、B-スキャン1~4)と第2の4要素サブセット(例えば、A-ライン、又は、B-スキャン2~5)を結合したものに基づくものとなる。各4要素サブセットの位相は、上記のフォーマットに従う。しかしながら、4要素サブセットの間の相対的な位相がπ/2だけ異なる場合(例えば、誘起された位相変調信号が各要素間でπ/2の間隔で調整される場合)、上記の位相式の分子と分母が反転する。従って、要素2~5の代表的な位相(又は、π/2だけ位相オフセットを有する4要素の他のセット)は、以下のように与えることができる。
【数5】
【0029】
そして、4要素サブセットは、以下のように結合される。
【数6】
ここで、N
1及びN
2は、それぞれ第1の4要素サブセット及び第2の4要素サブセットの位相の分子であり、D1及びD2は、それぞれ第1の4要素サブセット及び第2の4要素サブセットの位相の分母である。従って、5つの要素に基づく代表的な位相は、次のように与えることができる。
【数7】
その他の要素の使用も同様の形式に従い、以下の表1に示す。
【表1】
【0030】
各B-スキャンの位相と振幅の情報が分かれば、フルレンジOCT画像を再構成することができる。より詳細には、その後、複数の要素の原強度データは、代表的な位相の分子を実部とし、代表的な位相の分母を虚部として再構成された複素信号で表現することができる。従って、4つの要素(A-ライン、又は、B-スキャン)に基づく複素信号は、次のように与えることができる。
【数8】
そして、従来技術のように実信号だけでなく、複素信号にフーリエ変換を施すことでOCT画像を生成することができる。
【0031】
異なる位相変調に関連するアーチファクトを除去するために、位相変調信号の調整方向を考慮することができる。例えば、B-スキャン内で位相が変調される場合、正の調整方向(位相遅延が増加)に対応する原強度データは、負の調整方向(位相遅延が減少)に対応する強度データとは別に、
図7に関して上述したように処理される。
図8に示すように、このような別処理により、正に調整されたOCT画像と負に調整されたOCT画像とが生成される。これらの画像をつなぎ合わせて、最終的なフルレンジOCT画像を作成することができる。つなぎ合わせ(stitching)は、調整されたOCT画像のそれぞれから適切なA-ラインを結合することによって実行され得る。
【0032】
例えば、
図8に見られるように、各調整されたOCT画像における実像部分に関連するA-ラインは合成され、各調整されたOCT画像における鏡像に関連するA-ラインは破棄される。上述のように位相変調ガルバノ制御信号(従って、位相が正に調整されているか負に調整されているか)と高速スキャンガルバノ(A-ラインを示す)との関係が既知であるため、各画像から使用する適切なA-ラインは既知である。重なり合うA-ライン(例えば、
図6Dに関して上述した反転高速スキャンガルバノに起因した)は、平均化、最大値又は最小値の使用、正に調整されたA-ラインの使用、負に調整されたA-ラインの使用などによって結合することができる。他の実施形態では、正又は負に調整された画像の一方からの虚数成分が、分散補償技術で反転される。
【0033】
様々な特徴が上記に提示されているが、これらの特徴は、単独で使用してもよいし、任意の組み合わせで使用されてもよいことを理解されたい。更に、特許請求の範囲に記載された例が属する技術分野の当業者にとって、変形及び修正が生じる可能性があることを理解されたい。
【符号の説明】
【0034】
100 光源
102 検出器
104 参照アーム
106 サンプルアーム
108 光学系
110 ミラー
112 眼(対象物)
114 プロセッサ
116 スキャン光学系
118 位相変調器
200 ガラス
202 光(入射光)
204 素子
206 光(出射光)