(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】培地の調製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240514BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20240514BHJP
H05H 1/00 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C12N1/12 B
C12N1/16 F
H05H1/00
(21)【出願番号】P 2023207440
(22)【出願日】2023-12-08
【審査請求日】2024-01-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩島 瑞生
(72)【発明者】
【氏名】平野 学
(72)【発明者】
【氏名】石塚 崇
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127267(JP,A)
【文献】特開2022-112383(JP,A)
【文献】特開2021-197227(JP,A)
【文献】国際公開第2022/148791(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の培養に際して、窒素及び酸素を含有する原料ガスを用いて得られるプラズマ含有ガスを培地に適用する、培地の調製方法
であって、
前記微生物は、微細藻類又は酵母であり、
前記微細藻類は、フェオダクチラム類、キートセロス類、ドナリエラ類、ナンノクロロプシス類、クロレラ類、ヘマトコッカス類、ユーグレナ類、及びスピルリナ類から選択される少なくとも1種であり、
前記原料ガスは、分子内に少なくとも窒素原子を含むガス及び分子内に少なくとも酸素原子を含むガスを含有する原料ガス、及び/又は、分子内に少なくとも窒素原子及び酸素原子を含むガスを含有する原料ガスであり、
前記分子内に少なくとも窒素原子を含むガスは、窒素ガス、アンモニアガス、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記分子内に少なくとも酸素原子を含むガスは、酸素ガス、二酸化炭素ガス、水蒸気、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記分子内に少なくとも窒素原子及び酸素原子を含むガスを含有する原料ガスは、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、その他の分子中に少なくとも窒素原子及び酸素原子を含むガスからなる群より選ばれる1種以上を含有する原料ガスである、
培地の調製方法。
【請求項2】
前記プラズマ含有ガスを培地に適用する工程が、下記(a)及び/又は(b);
(a)プラズマ含有ガスを培地に適用する工程、
(b)プラズマ含有ガスが適用された材料を培地に使用する工程、
を含む、請求項1に記載の培地の調製方法。
【請求項3】
培養栄養素の供給を行うためものである、請求項1又は2に記載の培地の調製方法。
【請求項4】
前記培養栄養素が硝酸イオンを含む、請求項3に記載の培地の調製方法。
【請求項5】
前記微生物が
、フェオダクチラム類、キートセロス類、ドナリエラ類、ナンノクロロプシス類、クロレラ類、ヘマトコッカス類、ユーグレナ類、及びスピルリナ類から選択される少なくとも1種である微細藻類を含む、請求項1又は2に記載の培地の調製方法。
【請求項6】
前記培地が液体培地である、請求項1又は2に記載の培地の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の培養に用いられる培地の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の培養には、微生物への栄養等を供給するために培地が用いられている。
例えば特許文献1には、発酵可能な泡盛蒸留廃液を希釈して培地として用いて、微生物として微細藻類を培養する培養方法が記載されている。特許文献1の培養方法では、泡盛を製造する際に残渣物として生じる泡盛蒸留廃液を、発酵可能な状態で培地として用いており、それにより、泡盛蒸留廃液に含まれる有機物の腐敗を防ぎ、また、微細藻類の培養に必要な炭酸ガスを泡盛蒸留廃液の発酵によって発生させることができる。
【0003】
特許文献2には、酵母等の微生物を培養液中で培養して、微生物が生産する生成物を膜分離装置によって分離し回収する連続培養方法が記載されている。特許文献2の連続培養方法では、膜分離装置が培養槽内に設置されており、培養槽内では、培養液と、その培養液の浸透圧よりも高い浸透圧を有するドロー溶液とが、分離膜を介して接触している。これにより、培養液中における微生物の生成物と水とが、正浸透によって分離膜を介してドロー溶液側に移行する。このため、生成物をドロー溶液から回収でき、また、分離膜の目詰まりが生じにくくなる。
しかし、特許文献1及び2には、微生物の培養に用いられる培地に対し、培養に必要な培地栄養素(培地栄養成分)を培地に供給する手段について記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-4807号公報
【文献】特開2019-146515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題の1つは、プラズマ含有ガスを培地に適用するという簡便な手段により、微生物の培養に際して必要な培地栄養素、特に、硝酸イオンを培地に供給する方法を提供することであり、本発明が解決しようとする別の課題は、プラズマ含有ガスを培地に適用する、培地の調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の発明を完成した。
[項1] 微生物の培養に際して、窒素及び酸素を含有する原料ガスを用いて得られるプラズマ含有ガスを培地に適用する、培地の調製方法。
[項2] 前記プラズマ含有ガスを培地に適用する工程が、下記(a)及び/又は(b);
(a)プラズマ含有ガスを培地に適用する工程、
(b)プラズマ含有ガスが適用された材料を培地に使用する工程、
を含む、項1に記載の培地の調製方法。
[項3] 培養栄養素の供給を行うためものである、項1又は2に記載の培地の調製方法。
[項4] 前記培養栄養素が硝酸イオンを含む、項3に記載の培地の調製方法。
[項5] 前記微生物が藻類を含む、項1~4のいずれか1項に記載の培地の調製方法。
[項6] 前記培地が液体培地である、項1~5のいずれか1項に記載の培地の調製方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プラズマ含有ガスを培地に適用するという簡便な手段により、微生物の培養に際して必要な培地栄養素、特に、硝酸イオンを培地に供給する方法を提供することが可能となる。
また、本発明によれば、プラズマ含有ガスを培地に適用する、培地の調製方法が提供される。
本発明の培地の調製方法は、プラズマ含有ガスの適用によって、硝酸イオンを含む培養栄養素が供給されて、培地における硝酸イオンを含む培養栄養素の含有量を増大させることができるので、硝酸塩等の培養栄養素を添加する必要がなく、硝酸塩等の培養栄養素の製造に際して発生する二酸化炭素を低減することが可能であることから、環境面で有利な方法である。さらに、本発明は、既存の培養システムを大幅に改変することなく簡単に組み込むことができ、設備投資等のコスト面でも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、微生物の培養に際して、窒素及び酸素含有ガスを用いて得られるプラズマ含有ガスを培地に適用する、培地の調製方法に関するものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
[微生物]
本発明で調製される培地を用いて培養される微生物は、特に限定されるものではないが、種々の公知の培養法、例えば、液体培地を用いた培養法、固体培地を用いた培養法等の人工的に調製可能な培地で培養が可能であれば、いかなる種類の微生物も培養の対象となる。
上述のような培養の対象となる微生物には、真正細菌、古細菌のみならず、例えば、真核生物としての藻類(微細藻類)、酵母(分裂酵母及び出芽酵母等)、原生生物、菌類、粘菌などを用いることができる。
【0010】
培養される微生物は、藻類であることが好ましい。藻類は、特に限定されるものではなく、原核生物、真核生物のいずれであっても良く、目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、藻類として、藍色植物門、灰色植物門、紅色植物門、緑色植物門、クリプト植物門、ハプト植物門、不等毛植物門、渦鞭毛植物門、ユーグレナ植物門、クロララクニオン植物門等が例示される。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
より具体的には、藻類として、フェオダクチラム類(例えば、Phaeodactylum tricornutum(微生物系統保存施設株番号:NIES-4392、微生物系統保存施設:国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES))等)、キートセロス類(例えば、Chaetoceros calcitrans(微生物系統保存施設株番号:CCAP 1085/3、微生物系統保存施設:Culture Collection of Algae and Protozoa(藻類原生動物コレクション、CCAP))等)、ドナリエラ類(例えば、Dunaliella salina(微生物系統保存施設株番号:NIES-2257、微生物系統保存施設:国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES))等)、ナンノクロロプシス(例えば、Nannochloropsis oceanica(微生物系統保存施設株番号:NIES-2145、微生物系統保存施設:国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES))等)、クロレラ類(例えば、Chlorella vulgaris(微生物系統保存施設株番号:NIES-2170、微生物系統保存施設:国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES))等)、ヘマトコッカス類(例えば、Haematococcus lacustris(微生物系統保存施設株番号:NIES-144、微生物系統保存施設:国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES))等)、ユーグレナ類(例えば、Euglena gracilis(微生物系統保存施設株番号:NIES-48、微生物系統保存施設:国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES))等)、スピルリナ類(例えば、Arthrospira platensis(微生物系統保存施設株番号:NIES-39、微生物系統保存施設:国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES))等)等が例示される。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
培養される微生物は、酵母であってもよい。酵母は、特に限定されるものではなく、エンドミセス(Endomyces)属、エレマスクス(Eremascus)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ナドソニア(Nadsonia)属、サッカロミコデス(Saccharomycodes)属、ハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属、ウィッカーハミア(Wickerhamia)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属、ロッデロミセス(Lodderomyces)属、ウィンゲア(Wingea)属、エンドミコプシス(Endomycopsis)属、ピキア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、パキソレン(Pachysolen)属、シテロミセス(Citeromyces)属、デバリオミセス(Debaryomyces)属、シュワンニオミセス(Schwanniomyces)属、デッケラ(Dekkera)属、サッカロミコプシス(Saccharomycopsis)属、リポミセス(Lipomyces)属、スペルモフソラ(Spermophthora)属、エレモテシウム(Eremothecium)属、クレブロテシウム(Crebrothecium)属、アシュブヤ(Ashbya)属、ネマトスポラ(Nematospora)属、メトシュニコウィア(Metschnikowia)属、コッキディアスクス(Coccidiascus)属、又はキャンディダ(Candida)属に属する酵母が例示される。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
微生物を入手する方法は特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。例えば、自然界より採取する方法、市販品を用いる方法、保存機関や寄託機関から入手する方法等を用いることが可能である。なお、微生物が藻類である場合、純化工程を経由したものを用いてもよい。純化工程とは、微細藻類を単一の種類にする目的で行う工程であり、必ずしも完全に単独の藻類のみにすることを意味するものではない。
【0013】
[培地]
本発明で調製される培地は、微生物を培養可能な公知のいかなる培地も使用でき、特に限定されないが、培養する微生物の種類に応じて選択されることが好ましい。培地は、液体培地、固体培地のいずれでもよいが、液体培地であることが好ましい。液体培地としては、海水性培地及び淡水性培地のいずれでもよい。
【0014】
培地としては、例えば、AF-6培地、Allen培地、BBM培地、BG11培地、C培地、CA培地、CAM培地、CB培地、CC培地、CHU培地、CM培地、CSi培地、CT培地、CYT培地、D培地、ESM培地、f/2培地、HUT培地、HSM培地、IMK培地、JM培地、M-11培地、MA培地、MAF-6培地、MF培地、MDM培地、MG培地、MGM培地、MKM培地、MNK培地、MW培地、PES培地、P35培地、URO培地、VT培地、VTAC培地、VTYT培地、W培地、WESM培地、SW培地、SOT培地、これらの培地の2種以上の混合物等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
これらのうち、淡水性培地としては、C培地及び/又はSOT培地が好ましく、海水性培地としては、f/2培地が好ましい。
【0015】
液体培地は、液状媒体を含み、培養対象の微生物に有害でないものであれば特に限定されない。液状媒体としては、例えば、水道水、工業用水、超純水、イオン交換水、蒸留水、海水、有機溶剤からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。液体培地には、必要に応じて、タンパク質やミネラル等の栄養源、エネルギー源、リン源等のような成分が添加されていてもよい。なお、液体培地に添加する成分は、特に限定されない。また、液体培地は、菌などの微生物を含有していてもよい。
【0016】
[原料ガス]
本発明の培地の調製方法で用いられる窒素及び酸素を含有する原料ガスは、窒素原子及び酸素原子を含有するとともにプラズマ化し得る原料ガスであれば特に限定されない。窒素原子及び酸素原子を含有するとともにプラズマ化し得る原料ガスとしては、例えば、「分子内に少なくとも窒素原子を含むガス及び分子内に少なくとも酸素原子を含むガスを含有する原料ガス」及び/又は「分子内に少なくとも窒素原子及び酸素原子を含むガスを含有する原料ガス」が挙げられる。
「分子内に少なくとも窒素原子を含むガス及び分子内に少なくとも酸素原子を含むガスを含有する原料ガス」における、「分子内に少なくとも窒素原子を含むガス」としては、例えば、窒素ガス、アンモニアガス、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素等からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。また、「分子内に少なくとも酸素原子を含むガス」としては、例えば、酸素ガス、二酸化炭素ガス、水蒸気、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素等からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
「分子内に少なくとも窒素原子を含むガス及び分子内に少なくとも酸素原子を含むガスを含有する原料ガス」としては、例えば、「空気」、「窒素ガスと酸素ガスを任意の割合で含むガス」、「窒素ガスと二酸化炭素を任意の割合で含むガス」、「アンモニアと酸素ガスを任意の割合で含むガス」、「一酸化二窒素と一酸化窒素を任意の割合で含むガス」、「その他の分子内に少なくとも窒素原子を含むガス及び分子内に少なくとも酸素原子を含むガスを含有するガス」等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
「分子内に少なくとも窒素原子及び酸素原子を含むガスを含有する原料ガス」としては、例えば、「一酸化二窒素」、「一酸化窒素」、「二酸化窒素」、「その他の分子中に少なくとも窒素原子及び酸素原子を含むガス」等からなる群より選ばれる1種以上を含有する原料ガスが挙げられる。
また、窒素及び酸素を含有する原料ガスは、例えば、希ガス(アルゴン、ネオン、ヘリウム等)、炭化水素ガス等のその他のガスの1種以上を含む混合ガスであってもよい。原料ガスにおける窒素原子及び酸素原子の合計の含有率は、特に限定されないが、例えば10atom%以上、好ましくは30atom%以上、より好ましくは70atom%以上、さらに好ましくは90atom%以上、よりさらに好ましくは99atom%以上であることが好ましい。
【0017】
原料ガスは、プラズマ含有ガスを得るためにプラズマ処理空間に導入され、その少なくとも一部がプラズマ化される。プラズマ処理空間に導入された原料ガスは、プラズマの原料ガスになるとともにキャリヤーガスにもなる。
原料ガス源としては、原料ガスの収容容器(ガスボンベ)であってもよく、また、原料ガスとして空気を用いる場合には、外気取入れブロアであってもよい。
【0018】
[プラズマ含有ガス]
プラズマ含有ガスは、原料ガスをプラズマ処理空間に導入して、原料ガスの少なくとも一部がプラズマ化されることにより得られる。
プラズマ処理空間においてプラズマを生成する際の圧力は、特に限定されない。例えば0.1気圧以上、好ましくは0.7気圧以上であり、例えば10気圧以下、好ましくは1.5気圧以下である。温和な圧力条件とすることで、装置が大掛かりになるおそれがなく、コスト面で有利である。
【0019】
プラズマ含有ガスの温度は、特に限定されない。培地の取扱性や微生物への影響等を踏まえ、例えば0℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、例えば99℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下である。
プラズマ含有ガスの温度が99℃を超えると、(i)プラズマ含有ガスが高温であることから安全性、取扱性等の点で問題が生じる、(ii)培養対象の微生物が熱の影響を受け、適切な培養ができなくなる、(iii)液体培地に含まれる水等の液状媒体が沸騰する、等の影響が生じるおそれがある。
プラズマ含有ガスの温度が0℃未満であると、(i)培養対象の微生物が低温の影響を受け、適切な培養ができなくなる、(ii)液体培地に含まれる水等の液状媒体が凍結する、等の影響が生じるおそれがある。
【0020】
原料ガスをプラズマ処理空間へ導入する際の原料ガス供給量は、特に限定されない。原料ガス供給量は、例えば、0.001~200000L/minであり、好ましくは0.01~10000L/min、より好ましくは0.1~1000L/min、さらに好ましくは1~1000L/minである。原料ガス供給量が0.001L/min未満であると、プラズマ含有ガスの生成量が少なくなるため、培地への栄養素の供給機能が低下するおそれがある。また、原料ガス供給量が200000L/minを超えると、装置が大掛かりになるおそれがあり、また、プラズマ含有ガス中のプラズマ濃度が低下して、培地への栄養素の供給機能が低下するおそれがある。
【0021】
プラズマ原料ガスが導入されるプラズマ処理空間は、電源に連接する一対の電極の間に設けられる。電源から高周波、パルス波、マイクロ波等が一対の電極に印加され、放電開始電圧を超えると、プラズマ処理空間内に電界が形成される。導入された原料ガスは、その少なくとも一部がプラズマ処理空間でプラズマ化された後に、プラズマ含有ガスとして放出される。したがって、プラズマ含有ガスは、原料ガスの少なくとも一部をプラズマ化処理して得られるすべてのガスを含む。
【0022】
プラズマ処理空間において発生させる電界強度は、特に限定されない。電界強度は、例えば、1~1000kV/cm、好ましくは2~300kV/cmである。電界強度が1000kV/cmを超えると、装置が大掛かりとなりコスト面で不利となるおそれがあり、電界強度が1kV/cm未満であると、十分な量のプラズマを得ることができないおそれがある。
【0023】
電界の立ち上がり所要時間(及び立ち下がり所要時間)は、プラズマ処理空間において、電圧が連続して増加(又は減少)するのに要する時間である。電界の立ち上がり所要時間は、特に限定されず、原料ガスのガス種、圧力、原料ガス供給量、電界強度、処理電圧、処理電流等に基づき任意に設定される。立ち上がり所要時間は、例えば10μs以下であり、好ましくは50ns~5μsである。電界の立ち上がりに要する時間を10μs以下とするためには、電極にはパルス波を印加することが好ましい。
【0024】
プラズマ処理空間における電力は、特に限定されず、原料ガスのガス種、圧力、原料ガス供給量、電界強度、処理電圧、処理電流等に基づき任意に設定される。電力は、例えば100kW/h以下、好ましくは10kW/h以下とすることができる。電力が100kW/hを超えると、装置が大掛かりとなりコスト面で不利となることがある。
プラズマ処理空間における処理電圧は、特に限定されず、原料ガスのガス種、圧力、原料ガス供給量、電界強度、処理電流等に基づき任意に設定される。処理電圧は、例えば10~1000V、好ましくは20~600V、より好ましくは40~500Vとすることができる。
【0025】
プラズマ処理空間における処理電流は、特に限定されず、原料ガスのガス種、圧力、原料ガス供給量、電界強度、処理電圧等に基づき任意に設定される。処理電流は、例えば0.001~1000A、好ましくは0.01~500A、より好ましくは0.1~100Aとすることができる。
プラズマ処理空間においてパルス波により電界をかける際の周波数は、特に限定されず、原料ガスのガス種、圧力、原料ガス供給量、電界強度、処理電圧、処理電流等に基づき任意に設定される。周波数は、例えば0.001kHz以上好ましくは0.01kHz~300MHz、より好ましくは、0.1kHz~150MHzとすることができる。
【0026】
本発明の調製方法で用いるプラズマとしては、科学的に定義されたプラズマであれば特に制限なく用いられる。プラズマは、電離によって生じた荷電粒子を含む、エネルギーが高い気体状態のもので、イオンと電子の数が同数又はほぼ同数で、電気的に中性又はほぼ中性の状態であればよい。プラズマは、互いに離間した電極間での放電等の種々の方法で生成することができる。
【0027】
プラズマ含有ガス中のプラズマは、生成直後は発光を伴う高エネルギー状態となっている。このため、プラズマ原料ガスの種類に応じた色に発光し、様々な化学反応を誘起させることができる。プラズマ含有ガス中のプラズマは、エネルギーの一部を失うことで不可視状態となる。例えば、プラズマ含有ガス中のプラズマは、気流に乗り長距離移送される際に、徐々にエネルギーを失って消光し、最終的に不可視状態となる。また、例えば、プラズマ含有ガス中の発光しているプラズマから、エネルギーを奪う操作等により、消光させて不可視状態とすることができる。なお、プラズマ含有ガス中のプラズマが消光した場合であっても、プラズマ含有ガスを培地に適用することにより、培地への栄養素の供給が可能となる。
【0028】
[プラズマ含有ガスを製造する手段]
プラズマ含有ガスの製造手段は、原料ガスを少なくとも圧力0.1~10気圧の条件でプラズマ化処理することで、その少なくとも一部をプラズマ化してプラズマ含有ガスを製造することが可能であれば、特に限定されない。
プラズマ含有ガスの製造手段は、例えば、原料ガスを導入する原料ガス導入部と、原料ガスをプラズマ化するプラズマ処理空間と、電界を形成することでプラズマ処理空間を形成する一対の電極と、電極に接続する電源と、プラズマ含有ガスを放出するプラズマ含有ガス放出部とを少なくとも有する。
プラズマ含有ガスの製造手段は、圧力等の制御を容易にするために、プラズマ処理空間を覆う筐体を有することが好ましい。
【0029】
原料ガス導入部は、原料ガスのガス源とプラズマ処理空間とを接続する。例えば、原料ガス導入部は、各種の原料ガス源と接続されるとともに、必要に応じて任意の原料ガスを任意のタイミングで導入できるように切替弁等を設けることができる。なお、原料ガスが空気の場合、ブロア等の給気機を用いることもできる。
【0030】
プラズマ処理空間を覆う筐体は、例えば、ガラス、セラミックのような誘電性を備えた材料で構成できる。また、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の誘電率が2000以下の誘電体を用いることもできる。また、筺体の少なくとも一部を導電性の材料で構成することで、筺体自体を電極として用いることもできる。
筺体の形状は、特に限定されず、筒状、球状、箱状等の任意の形状とすることができる。プラズマ処理空間を覆う筺体は、プラズマ含有ガス放出部に近づくほど細くなるように加工されたノズル形状となっていてもよい。
【0031】
プラズマ処理空間内に電界を形成して放電させる手段は、特に限定されず、任意の手段を用いることができる。
例えば、筺体の外面又は内面に、互いに極性の異なる一対の電極を互いに離間して対向して形成し、それぞれの電極を、電源に接続して、電界を形成して放電させるための手段が挙げられる。一対の電極は、プラズマ処理空間を覆う筺体の内部に対向して設けることができる。また、表面に絶縁体等による層が形成された一対の電極の少なくとも一方を設置することもできる。放電用電極の間隔は、特に限定されず、電圧等を考慮して適宜好適化すればよく、例えば0.5~50.0mm、好ましくは0.5~5.0mm程度とすることができる。電極を用いて放電した場合、プラズマ濃度を高くすることができる。
【0032】
また、例えば、プラズマ処理空間を覆う筺体の外周又は内周に、コイルを設けるとともにプラズマ処理空間内に電極芯を設け、コイルと電極芯とを電源に接続して、電界を形成して放電させる手段が挙げられる。コイルの間隔、巻長、巻径、線径、電極芯とコイルの間隔、電極芯形状等は、特に限定されず、電圧等を考慮して適宜好適化される。原料ガス導入部からプラズマ含有ガス放出部が細長い筒状形状の筺体とした場合、筺体の外周又は内周に設けたコイル及び対応する電極芯を用いて放電すると、放電密度が比較的低いものの、プラズマ原料ガスが通過する放電体積を大きくすることができるため、多量のプラズマを生成することができる。
一対の電極又はコイルは、安定したプラズマ放電を得るために、プラズマ原料ガスと直接接触しない構成とするのが好ましい。そのため、一対の電極又はコイルの表面に、コーティング等の公知の手段により、石英、アルミナ等のガラス質材料やセラミック材料等の絶縁性被膜を設けてもよい。
【0033】
[培地の調製]
本発明の培地の調製方法において、窒素及び酸素を含有する原料ガスを用いて得られるプラズマ含有ガスを培地に適用して培地を調製する方法は、特に限定されない。例えば、(a)プラズマ含有ガスを培地に適用する工程、及び/又は、(b)プラズマ含有ガスが適用された材料を培地に使用する工程よって、培地を調製することができる。
(a)プラズマ含有ガスを培地に適用する適用工程としては、液体培地に、プラズマ含有ガスを直接接触させる工程等が挙げられる。例えば、液体培地が貯留される液体槽と、プラズマ含有ガスを供給する供給チューブとを少なくとも有するガス適用手段を用いて、供給チューブの先端部を液体槽に貯留されている液体培地中に位置するように保持した状態で、供給チューブの先端部からプラズマ含有ガスを流出させことにより、プラズマ含有ガスを培地に適用して培地を調製することができる。ガス適用手段は、例えばプラズマ含有ガスを液体槽内の培地中に螺旋状に流通させる等のように、プラズマ含有ガスを培地に接触させる接触時間を長くするように設計されることが好ましい。
【0034】
(b)プラズマ含有ガスが適用された材料を培地に使用する工程としては、プラズマ含有ガスを接触させた液状媒体を用いて培地を調製する工程等が挙げられる。例えば、上述したガス適用手段を用いて、液体槽等に貯留された水等の液状媒体に、供給チューブから流出するプラズマ含有ガスを接触させることによって、プラズマ含有ガスを液状媒体に適用し、その後、プラズマ含有ガスが適用された液状媒体を用いて液体培地を調製することにより、プラズマ含有ガスを培地に適用して培地を調製することができる。
プラズマ含有ガスが適用された材料としては、プラズマ含有ガスが適用された水等の液状媒体等が挙げられる。
【0035】
上述したプラズマ含有ガスの製造手段と、ガス適用手段との間には、プラズマ含有ガスの温度を0℃~99℃、好ましくは5℃~60℃、より好ましくは10℃~40℃とするために加熱・冷却・保温等の手段を有するガス輸送路を設けることができる。これにより、プラズマ含有ガス製造手段とガス適用手段との間が離れている場合に、プラズマ含有ガスの移送中のプラズマの失活等を抑えることができる。
【0036】
また本発明では、必要に応じて、液体培地等の液体を流動させるための管路やポンプ等、液体を吐出・排出するためのノズル等、流量や液圧等の調節弁、流量、圧力、温度、酸素、二酸化炭素、湿度、水温等の各種センサ、撮像装置(カメラ)、撹拌装置、給排気装置、プラズマ含有ガスの処理装置、空調装置、照明装置、空気循環装置、原料ガスの輸送路等からなる群より選ばれる1種類以上の機器を設けることができる。
【0037】
上述した各種機器は、外部からモニタリング又は操作できるように構成してもよい。
例えば、各種センサや撮像装置(カメラ)を、ネットワークを介してアクセス可能なコンピュータ等の端末に接続し、データ通信することにより、プラズマ含有ガスを液体培地に適用している状況等を適宜モニタリング可能にすることができる。
例えば、ポンプ、弁、各種装置等の機器を、ネットワークを介してアクセス可能なコンピュータ等の端末に接続し、データ通信することにより、ポンプ、弁、各種装置等の機器を外部から操作・制御することができる。
【0038】
(a)プラズマ含有ガスを培地に適用する工程、及び/又は、(b)プラズマ含有ガスが適用された材料を培地に使用する工程が行われることによって、処理対象である培地に培養栄養素を供給できる。特に、本発明で調製される培地は、プラズマ含有ガスの適用によって、硝酸塩等の栄養成分を添加することなく、硝酸イオンを含む培養栄養素が供給されて、培地における硝酸イオンの含有量を増大させることができる。また、培地又は培地に使用される材料に対してプラズマ含有ガスを適用することにより、使用した培地を再利用すること等の効果も期待できる。
【0039】
プラズマ含有ガスを培地又は材料に適用する適用条件(例えば、プラズマ含有ガスの流量及び供給時間、供給チューブのサイズ等)は、特に限定されない。調製する培地の種類、培養する微生物等に応じて、プラズマ含有ガスの適用条件を適宜変更できるが、プラズマ含有ガスを培地に適用する処理の処理時間は、1秒以上であることが好ましい。処理時間を1秒以上とすることにより、培地への栄養素の供給機能を適切に発揮させることができる。処理時間の設定については適用効果とコストのバランスにより任意に決めることができる。
また、培地量に対するプラズマ含有ガス適用量の比は、特に限定されず、適宜好適化すればよく、例えば0.1vvm(volume per volume per minute)~1000vvm、好ましくは0.1vvm~100vvmとすることができる。培地量に対するプラズマ含有ガス適用量の比を高くした場合、プラズマ含有ガスの適用効果を高めることができる。
【実施例】
【0040】
以下、具体例をあげてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例のみに限定されるものではない。
【0041】
[試験例1]
f/2培地、C培地、CM培地、及びSOT培地の4種類の液体培地を以下のように調製し、得られた各液体培地にプラズマ含有ガスを直接適用することにより、液体培地の調製を行った。また、プラズマ含有ガスの適用による硝酸イオンの供給効果を確認するために、プラズマ含有ガスを適用する前の液体培地における硝酸イオン濃度と、プラズマ含有ガスを適用した後の液体培地における硝酸イオン濃度とを測定した。
【0042】
<培地の調製>
(1)f/2培地
f/2培地を調製するために、先ず、以下の表1に示す成分を、同表1に示す比率で混合した。その後、得られた溶液に、オートクレーブにより121℃で20分間の滅菌を行うことによって、f/2培地を調製した。なお、表1に示す「f/2 metals」は、以下の表2に示す成分を精製水に加えることにより調製した。また、表1に示す「海水」は、工業用精製水(株式会社MonotaRO)に、マリンアート SF-1(大阪薬研株式会社)を1Lあたり38.2gの比率で溶解させることにより調製した。
【0043】
【0044】
【0045】
(2)C培地
C培地を調製するために、先ず、以下の表3に示す成分を精製水に加えて混合し、更に、1Mクエン酸水溶液をpHが7.5になるまで加えた。その後、得られた溶液に、オートクレーブにより121℃で20分間の滅菌を行うことによって、C培地を調製した。表3に示す「P IV metals」は、以下の表4に示す成分を精製水に加えることにより調製した。なお、C培地の調製に使用される精製水は、f/2培地で使用する人工海水の調製に使用される工業用精製水と同様のものである。
【0046】
【0047】
【0048】
(3)CM培地
CM培地を調製するために、先ず、以下の表5に示す成分を精製水に加えて混合し、更に、1Mクエン酸水溶液をpHが3.5になるまで加えた。その後、得られた溶液に、オートクレーブにより121℃で20分間の滅菌を行うことによって、CM培地を調製した。なお、CM培地の調製に使用される精製水は、f/2培地で使用する人工海水の調製に使用される工業用精製水と同様のものである。
【0049】
【0050】
(4)SOT培地
SOT培地を調製するために、先ず、以下の表6に示す成分を精製水に加えて混合した。その後、得られた溶液に、オートクレーブにより121℃で20分間の滅菌を行うことによって、SOT培地を調製した。表6に示す「A5 solution」は、以下の表7に示す成分を精製水に加えることにより調製した。なお、SOT培地の調製に使用される精製水は、f/2培地で使用する人工海水の調製に使用される工業用精製水と同様のものである。
【0051】
【0052】
【0053】
<プラズマ含有ガスの適用>
プラズマ含有ガスの製造装置とガス適用装置とを用いて、f/2培地、C培地、CM培地、及びSOT培地に対して、プラズマ含有ガスを適用する適用処理を行った。
試験例1で用いるプラズマ含有ガスの製造装置としては、誘電性を備えた円筒状のガラス製ガス流通部と、ガス流通部内に原料ガスを導入する原料ガス導入部と、ガス流通部の軸中心部に配される中心電極部と、ガス流通部の外周面に巻き付けられる対向電極部と、電源と、プラズマ含有ガスを放出するプラズマ含有ガス放出部とを有するものを用いた。ガス流通部内には、プラズマ処理空間が設けられている。中心電極部は、銅製の棒部材により形成されており、また、電源の陰極に接続されている。対向電極部は、銅製のメッシュ部材により形成されており、また、電源の陽極に接続されている。
このような製造装置を用いてプラズマ含有ガスを製造する場合、電源から電力を供給することにより、「中心電極部→原料ガス→誘電体(ガス流通部)→対向電極部」の向きで放電を発生させて、ガス流通部内で原料ガスの少なくとも一部をプラズマ化することができる。これにより、プラズマ含有ガスを生成して、ガス適用装置に送ることができる。
【0054】
試験例1のガス適用装置としては、250mLの合成樹脂製収容容器を8つ有し、各収容容器には、収容容器に取り付けられるとともに2つの孔を備える蓋部と、蓋部の一方の孔に挿通されるガス供給チューブと、蓋部の他方の孔に挿通される排気チューブとがそれぞれ設けられているものを用いた。
各収容容器には、プラズマ含有ガスを適用する処理液(培地)が160mL貯留されている。ガス供給チューブは、ガス供給チューブの先端部(供給口)が収容容器内の処理液中に位置するように保持されている。
プラズマ含有ガスの製造装置とガス適用装置とは、プラズマ含有ガスの温度を適切に保持する手段を備えたガス輸送路で接続されている。このガス輸送路は、8つに分岐して、ガス適用装置の供給チューブに接続されている。
【0055】
試験例1におけるプラズマ含有ガスの適用処理では、先ず、プラズマ含有ガスの製造装置の電源を入れて、プラズマ含有ガスを発生させる。試験例1では、原料ガスとして空気を使用した。
製造装置で製造されたプラズマ含有ガスは、ガス輸送路を介してガス適用装置の8つの収容容器にそれぞれ供給され、処理液中に配される供給チューブの先端部から流出して処理液に接触する。
【0056】
ガス輸送路では、プラズマ含有ガスの温度が10~40℃に保持されている。プラズマ含有ガスは、ガス適用装置に対して64L/minの流量で供給される。これにより、各収容容器では、プラズマ含有ガスを8L/minの流量で各供給チューブから流出させることができる。
この適用処理では、ガス適用装置の収容容器にプラズマ含有ガスの供給を開始してから4時間経過した後に、製造装置の電源を切ることによって適用処理を停止(終了)させる。
【0057】
本試験例1では、f/2培地、C培地、CM培地、及びSOT培地の各培地について、プラズマ含有ガスの適用処理を行う前の培地の硝酸イオン濃度と、プラズマ含有ガスの適用処理後に得られる培地の硝酸イオン濃度とを測定した。なお、f/2培地の硝酸イオン濃度については、海水対応の硝酸イオン濃度定量キット(HI 781、ハンナインスツルメンツ・ジャパン株式会社)を用いて測定を行った。C培地、CM培地、及びSOT培地の硝酸イオン濃度については、硝酸イオン濃度計(LAQUAtwin NO3-11、株式会社堀場製作所)を用いて測定を行った。
各培地について硝酸イオン濃度を測定した測定結果を、以下の表8に示す。
【0058】
【0059】
試験例1では、表8に示したように、f/2培地、C培地、CM培地、及びSOT培地に対してそれぞれプラズマ含有ガスを適用することによって培地の調製を行うことにより、何れの培地においても、培地に含まれる硝酸イオン(硝酸態窒素)の濃度が、プラズマ含有ガスの適用前よりも増大していることが確認された。
【0060】
[試験例2]
上記の試験例1で作成したf/2培地、C培地、CM培地、及びSOT培地の各培地について、培地を調製する前に、それぞれの培地の調製に用いられる液状媒体である水に対して、プラズマ含有ガスを適用する適用処理を行った。f/2培地については、海水化する前の精製水に対してプラズマ含有ガスを適用し、その後、得られた精製水に、前記マリンアート SF-1(大阪薬研株式会社)を溶解させて人工海水を調製した。試験例2におけるプラズマ含有ガスの適用処理は、処理液を培地から水に変更したこと以外は、試験例1で行った適用処理と同様に行った。また、プラズマ含有ガスの適用処理を行う前の水における硝酸イオン濃度と、プラズマ含有ガスの適用処理後に得られる水における硝酸イオン濃度とを、試験例1と同様に測定した。
各水について硝酸イオン濃度を測定した測定結果を、以下の表9に示す。
【0061】
【0062】
試験例2では、表9に示したように、培地の調製に用いられる水にプラズマ含有ガスを適用することによって、水に含まれる硝酸イオンの濃度が増大していることが確認された。培地に使用される水等の液状媒体にプラズマ含有ガスを適用することにより、液状媒体中の硝酸イオンの濃度をあらかじめ増加させておくことができることがわかる。
【0063】
[試験例3]
試験例3では、様々な原料ガスを用いてプラズマ含有ガスを製造し、プラズマ含有ガスの適用処理の処理時間と硝酸イオンの濃度変化との関係について調べた。
【0064】
<原料ガスの準備>
プラズマ含有ガス製造用の原料ガスとしては、窒素ガス及び酸素ガスが表10に示す割合(体積比)である混合ガス(実施例1~実施例5)と、空気(実施例6)、窒素ガス(比較例1)、酸素ガス(比較例2)、二酸化炭素ガス(比較例3)及びアルゴンガス(比較例4)を用いた。なお、空気には、主に、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスが含有されており、空気中の窒素ガス及び酸素ガスの含有量は約99.1%である。
【0065】
<液状媒体(処理液)の準備>
プラズマ含有ガスを適用する材料として、菌原液:精製水=1:9の体積比で混合した混合液を用意し、処理液とした。菌原液については、先ず、サカタインクス株式会社東京工場敷地内から10gの土壌を採取して精製水100mLに分散させ、マグネチックスターラーを用いて300rpmで5分間攪拌した。その後、得られた懸濁液に対して吸引ろ過を行い、得られた土壌抽出液を菌原液として使用した。
【0066】
<プラズマ含有ガスの適用>
試験例3では、処理液に対して、硝酸イオン濃度の測定を行い、その後、プラズマ含有ガスの製造装置とガス適用装置とを用いて、プラズマ含有ガスを適用する適用処理を行った。
試験例3の適用処理では、試験例1で用いたプラズマ含有ガスの製造装置及びガス輸送路と同じ製造装置及びガス輸送路を使用した。
【0067】
試験例3のガス適用装置としては、250mLの合成樹脂製収容容器を4つ有するほかは、試験例1で用いられたガス適用装置と同様のものを用いた。
各収容容器には、前記処理液が80mL貯留されている。ガス供給チューブは、ガス供給チューブの先端部(供給口)が収容容器内の処理液中に位置するように保持されている。
プラズマ含有ガスの製造装置とガス適用装置とは、プラズマ含有ガスの温度を適切に保持する手段を備えたガス輸送路で接続されている。このガス輸送路は、4つに分岐して、ガス適用装置の供給チューブに接続されている。
【0068】
試験例3におけるプラズマ含有ガスの適用処理では、上述した実施例1~実施例6及び比較例1~比較例4の各原料ガスを用いてプラズマ含有ガスを製造し、その製造したプラズマ含有ガスを、32L/minの流量でガス適用装置に供給した。ガス適用装置では、プラズマ含有ガスを、4つの収容容器の各供給チューブから8L/minの流量で流出させることにより、収容容器内の処理液に適用した。
【0069】
試験例3では、ガス適用装置の収容容器にプラズマ含有ガスの供給を開始してから、1分後、3分後、5分後、10分後、及び15分後の処理液に対して、硝酸イオン濃度の測定と、導電率の測定とを行った。処理液の硝酸イオン濃度については、試験例1と同じ硝酸イオン濃度計を用いて測定を行った。処理液の導電率については、電気伝導率計(LAQUAtwin EC-33、株式会社堀場製作所)を用いて測定を行った。処理液の導電率は、処理液中の硝酸イオン濃度が高くなるほど高い数値を示す。
試験例3で測定した処理液の硝酸イオン濃度及び導電率の測定結果を、以下の表10に示す。
【0070】
【0071】
試験例3では、表10に示したように、窒素及び酸素を含有する実施例1~6の原料ガスを用いてプラズマ含有ガスの適用処理を行うことによって、処理時間が長くなるほど、処理液に含まれる硝酸イオンの濃度がより増大するとともに、導電率がより高くなることが確認された。特に、窒素及び酸素のみを含有する実施例1~5の原料ガスを用いる場合、空気を原料ガスとする実施例6に比べて、硝酸イオンの濃度及び導電率ともに15分以上の処理時間で高い数値を示すことが判った。
一方、窒素及び酸素の少なくとも一方を含有しない比較例1~4の原料ガスを用いた場合、プラズマ含有ガスの適用処理を15分間行っても、処理液中の硝酸イオン濃度は、21ppm以下の低い数値を示した。
【0072】
試験例3の結果から、培地に使用される水等の液状媒体にプラズマ含有ガスを適用し、その後に培地を調製した場合であっても、硝酸イオンの濃度が増大した培地を調製可能であることが確認された。
【0073】
以上、本発明の各実施形態について述べたが、今回開示された各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。特に、今回開示された各実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積等の値等は、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【要約】
【課題】簡便な手段により、微生物の培養に際して必要な培地栄養素、特に、硝酸イオンを培地に供給する方法を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、微生物の培養に際して、窒素及び酸素を含有する原料ガスを用いて得られるプラズマ含有ガスを培地に適用する、培地の調製方法が提供される。
【選択図】なし