(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】導電性カーボンブラック、導電性カーボンブラックの製造方法および導電材
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20240514BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240514BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C09C1/48
C01B32/05
H01B1/04
(21)【出願番号】P 2024506478
(86)(22)【出願日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2023037933
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2022193812
(32)【優先日】2022-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長村 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 研吾
(72)【発明者】
【氏名】日恵野 敦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】小澤 政範
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-172602(JP,A)
【文献】特開2019-19014(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113789068(CN,A)
【文献】特開平7-26163(JP,A)
【文献】特開昭60-190469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
C01B 32/05
H01B 1/04
H01M 4/13,62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積(N
2SA)が50~150m
2/g、
DBP吸収量が205~300mL/100g、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm
-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが100~260cm
-1である
ことを特徴とする導電性カーボンブラック。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性カーボンブラックを製造する方法であって、
ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ原料油および酸素含有ガスを導入し一次反応を行って一次反応物を生成した後、添加油導入帯域で添加油を導入して二次反応を行うにあたり、
前記原料導入帯域に導入する酸素含有ガスの酸素量が原料油1kgあたり0.05~0.20Nm
3になるように原料油および酸素含有ガスを導入する
ことを特徴とする導電性カーボンブラックの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の導電性カーボンブラックを含むことを特徴とする導電材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性カーボンブラック、導電性カーボンブラックの製造方法および導電材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等の普及に伴って、リチウムイオン二次電池が注目されるようになり、その需要が年々高まってきている。現在のリチウムイオン二次電池では、電極面積を大きくすることにより電池反応の効率を上げる目的から、通常、電極活物質、バインダー、導電材等を混合した塗料を帯状の金属箔上に塗布した正負両極が用いられ、これらがセパレータと共に巻き回された後、電池缶に収納された形態を成している(特許文献1等参照)。
【0003】
このうち、正極には、電極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物等が用いられている。このような電極活物質単独では電子伝導性、即ち導電性に乏しいため、導電性を付与するために高度にストラクチャーが発達した導電性カーボンブラック等の炭素材料を導電材料として添加し、バインダー(結着材)と共にN-メチル-2-ピロリドン等の非水系溶媒に分散させてスラリーを調製し(特許文献2参照)、このスラリーを金属箔上に塗布・乾燥して正極を形成している。
【0004】
一方、集積回路(IC)をはじめとした電子部品やICを用いた電子部品の包装形態として、インジェクショントレー、真空成形トレー、マガジン、キャリアテープ(エンボスキャリアテープ)等が使用されており、これ等の包装容器には、静電気による電子部品の破壊を防止するために、樹脂中に導電性カーボンブラックを分散させた導電性シートを積層配置して、表面固有抵抗値を低減することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-308845号公報
【文献】特開2003-157846号公報
【文献】特開2020-172602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
導電性カーボンブラックは、安価であるとともに均一にかつ安定した導電性を発揮し得るものであるが、近年の商品開発の進展に伴い、電極材や導電性シート等の導電材の配合成分として、より優れた導電性を発揮し得るものが求められるようになっていた。
【0007】
このような状況下、本発明は、各種導電材の構成成分として使用したときに優れた導電性を発揮し得る導電性カーボンブラック、かかる導電性カーボンブラックの製造方法およびかかる導電性カーボンブラックを用いた導電材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
先に、出願人は、ゴム組成物に配合したときに発熱性を抑制しつつより一層優れた耐摩耗性を発揮し得るカーボンブラックとして、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅(ΔD)と窒素ガスを吸着させたときの比表面積(N2SA)との積で表される総活性点が所定の範囲内にあるものを提案するに至っている(特許文献3参照)。
【0009】
本発明者等は、上記カーボンブラックを導電性カーボンブラックとして使用することを着想したが、上記カーボンブラックは、各種導電材の構成成分として使用したときに圧縮電気抵抗率ないし体積抵抗率が高く、導電性に劣ることが判明した。
【0010】
そこで、上記技術課題を解決するために本発明者等がさらに検討したところ、窒素吸着比表面積(N2SA)が50~150m2/g、DBP吸収量が205~300mL/100g、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが100~260cm-1であるカーボンブラックを導電性カーボンブラックとして使用することにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)窒素吸着比表面積(N2SA)が50~150m2/g、
DBP吸収量が205~300mL/100g、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが100~260cm-1であることを特徴とする導電性カーボンブラック、
(2)上記(1)に記載の導電性カーボンブラックを製造する方法であって、
ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ原料油および酸素含有ガスを導入し一次反応を行って一次反応物を生成した後、添加油導入帯域で添加油を導入して二次反応を行うにあたり、
前記原料導入帯域に導入する酸素含有ガスの酸素量が原料油1kgあたり0.05~0.20Nm3になるように原料油および酸素含有ガスを導入する
ことを特徴とする導電性カーボンブラックの製造方法および
(3)上記(1)に記載の導電性カーボンブラックを含むことを特徴とする導電材を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各種導電材の構成成分として使用したときに優れた導電性を発揮し得る導電性カーボンブラック、かかる導電性カーボンブラックの製造方法およびかかる導電性カーボンブラックを用いた導電材を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る導電性カーボンブラックにおける、ΔDの半値全幅の算出方法を示す説明図である。
【
図2】本発明に係る導電性カーボンブラックにおいて、ラマンスペクトルの測定例を示す図である。
【
図3】本発明に係るカーボンブラックの製造方法に使用される反応炉の形態例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の実施例および比較例で得られたラマンスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、本発明に係る導電性カーボンブラックについて説明する。
【0015】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、
窒素吸着比表面積(N2SA)が50~150m2/g、
DBP吸収量が205~300mL/100g、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが100~260cm-1であることを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)が、50~150m2/gであるものである。
【0017】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)が上記範囲内にあることにより、カーボンブラック同士のホモ凝集を抑制しつつ各種導電材の構成成分として使用したときに高い導電性を容易に発揮することができる。
【0018】
本発明に係る導電性カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、高い導電性を付与するという観点からは、50~150m2/gが好ましく、ホモ凝集を抑制し高い導電性を付与するという観点からは、50~130m2/gがより好ましく、導電パスを形成し高い導電性を付与するという観点からは、60~130m2/gがさらに好ましい。
【0019】
N2SAは、カーボンブラックの比表面積を、カーボンブラック単位質量当たりの窒素分子の吸着量(m2/g)で表した値であり、本出願書類において、N2SAは、JIS K6217-7:2013「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」によって求めた値を意味する(参考ASTM D6556-16)。
【0020】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、N2SA/IAが0.85×103~1.10×103m2/gであるものが好ましい。
【0021】
ここで、N2SAは、上述したカーボンブラックの窒素吸着比表面積(m2/g)であり、IAは、カーボンブラックの比表面積を液相におけるカーボンブラック単位質量当たりのヨウ素分子の吸着量(mg/g)で表した値である。
【0022】
IAは、N2SAと同様に、カーボンブラックの比表面積を表す指標であるが、カーボンブラックの表面官能基量にも依存する値である(酸性官能基量が多いほどヨウ素分子が吸着されにくくなり、N2SAよりも若干低い値になる)。
【0023】
また、N2SAの値をIAの値で除したN2SA/IAは、カーボンブラックの表面活性度を表す指標であり、このN2SA/IA値が大きいほど、カーボンブラックの表面官能基量が多いことを意味する。
【0024】
カーボンブラックの表面官能基量が少ないほど、カーボンブラック表面においてπ電子が自由に移動するため導電性が向上する。一方で、表面官能基が少なすぎると、ゴムや樹脂に対するカーボンブラックの相互作用が生じにくく、カーボンブラック同士のホモ凝集が起こりやすくなって導電性が低下し易くなる。
【0025】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、N2SA/IAが上記範囲内にあることにより、カーボンブラック同士のホモ凝集を抑制しつつ各種導電材の構成成分として使用したときに優れた導電性を容易に発揮することができる。
【0026】
本発明に係る導電性カーボンブラックのN2SA/IAは、高い導電性を付与するという観点からは、0.85×103~1.10×103m2/gが好ましく、π電子の自由移動による導電性向上という観点からは、0.85×103~1.05×103m2/gがより好ましく、ホモ凝集を抑制するという観点からは、0.90×103~1.05×103m2/gがさらに好ましい。
【0027】
なお、本出願書類において、IAは、JIS K6217-1997「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」によって求めた値を意味する。
【0028】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、DBP吸収量が、205~300mL/100gであるものである。
【0029】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、DBP吸収量が上記範囲内にあることにより、各種導電材の構成成分として使用したときに高い導電性を容易に発揮し得るものを、容易に製造し提供することができる。
【0030】
本発明に係る導電性カーボンブラックのDBP吸収量は、高い導電性を付与するという観点からは、205mL/100g以上であり、導電パス形成による高い導電性を付与するという観点からは、220mL/100g以上が好ましい。また、本発明に係る導電性カーボンブラックのDBP吸収量は、嵩高さを抑制してカーボンブラック捕集系での詰まりを低減できることから、300mL/100g以下が好ましく、250mL/100g以下がより好ましく、236mL/100g以下が更に好ましい。
【0031】
DBP吸収量は、カーボンブラックのストラクチャーを、カーボンブラック100gに対するDBP(ジブチルフタレート)の吸収量(mL/100g)で表した値である。
【0032】
本出願書類において、DBP吸収量は、JIS K6217-1997「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」によって求めた値を意味する。
【0033】
カーボンブラックのアグリゲート間の空隙率は、カーボンブラックのストラクチャーと正の相関がある。したがって、DBP吸収量の値が大きい程、カーボンブラックのストラクチャーが発達していることを意味している。
【0034】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが100~260cm-1であるものである。
【0035】
本発明に係る導電性カーボンブラックは、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが上記範囲内にあることにより、カーボンブラック同士のホモ凝集を抑制しつつカーボンブラック表面のπ電子が自由移動し易くなり、各種導電材の構成成分として使用したときに優れた導電性を容易に発揮することができる。
【0036】
本発明に係る導電性カーボンブラックにおいて、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDは、高い導電性を付与するという観点から100~260cm-1であり、ホモ凝集を抑制するという観点から120~260cm-1が好ましく、π電子の自由移動による導電性向上という観点から120~240cm-1がより好ましい。
【0037】
図1は、本発明に係る導電性カーボンブラックにおける、半値全幅(半値全幅ΔD)の算出方法を示す図である(なお、
図1は、あくまで上記半値全幅(半値全幅ΔD)の算出方法を説明するために例示したものであることに注意されたい)。
【0038】
図1に示すように、本発明に係るカーボンブラックは、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1340~1360cm
-1(1350±10cm
-1)の範囲にピークトップを有するピークが検出される。
【0039】
そして、上記ピークトップ位置における測定波長をDmax(cm-1)とし、得られたスペクトルにおいて、上記Dmaxにおけるピーク強度の半分の検出強度を有する低波長(低ラマンシフト)側の検出位置をD50(cm-1)としたときに、下記式により算出される値を、本出願における半値全幅ΔD(cm-1)とする。
ΔD=(Dmax-D50)×2
本出願書類において、上記半値全幅ΔD(cm-1)は、以下の(手順1)の測定条件で測定した後、(手順2)のデータ処理を施して得られるラマンスペクトルから算出される値を意味する。
【0040】
(手順1)レーザーラマン分光装置として(株)堀場製作所製 HR-800を用い、測定対象となるカーボンブラック試料を数粒スライドグラス上に載置し、スパチュラで数回こすり表面を平らにした状態のものを、以下の測定条件で測定する。
YAGレーザー(励起波長) :532nm
刻線数 :600gr/mm
フィルター :D0.6
対物レンズ倍率 :100倍
露光時間 :150秒
積算回数 :2回
このとき得られるスペクトル例を
図2に示す。
【0041】
(手順2)得られたスペクトルの 測定波長(RamanShift)2100cm
-1における信号強度を0とし、スペクトルを構成するデータ点のうち、隣接する39点毎に平均値を求め、次いでスムージング処理して上記各平均値を結ぶスペクトル曲線を得る。次いで、サンプル毎の比較を容易にするために、測定波長1350±10cm
-1の範囲に観察されるピークトップ強度を100とする。このとき得られるラマンスぺクトル例が、
図1または
図4に例示するようなラマンスペクトルである。ここで、グラフの横軸はラマンシフト(cm
-1)、縦軸はDmaxにおけるピーク強度を100としたピーク強度比(相対ピーク強度比)である。
【0042】
上記ラマンスペクトルにおいて、1340~1360cm-1(1350±10cm-1)の範囲にピークトップを有するピークはラマンスペクトルのDバンドにおけるピークに相当する。
【0043】
本発明者等の検討によれば、上記Dバンドのピークの半値全幅ΔDはカーボンブラック表面における結晶構造の乱雑さの程度、すなわち結晶性を表し、上記Dバンドのピークの半値全幅ΔDの値が高いほど、結晶構造が乱雑である(結晶性が低い)ことを意味する。
【0044】
結晶性が高い場合には、カーボンブラック表面におけるエッジが少なく、カーボンブラック表面のπ電子が自由に移動するため導電性が向上すると考えられる。一方、結晶性が高すぎると、カーボンブラック表面における官能基の形成箇所(活性点)が少なくなり、ゴムや樹脂に対するカーボンブラックの相互作用が起こりにくく、カーボンブラック同士のホモ凝集が起こりやすくなり、導電性が低下すると考えられる。
【0045】
このため、本発明に係る導電性カーボンブラックにおいては、上記半値全幅ΔDを所定範囲に制御することにより、カーボンブラック同士のホモ凝集を抑制しつつπ電子が自由移動しやすくなり導電性が向上すると考えられる。
【0046】
本発明に係る導電性カーボンブラックを製造する方法としては、以下に説明する本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法を挙げることができる。
【0047】
本発明によれば、各種導電材の構成成分として使用したときに優れた導電性を発揮し得る導電性カーボンブラックを提供することができる。
【0048】
次に、本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法について説明する。
【0049】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法は、上述した本発明に係る導電性カーボンブラックを製造する方法であって、
ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ原料油および酸素含有ガスを導入し一次反応を行って一次反応物を生成した後、添加油導入帯域で添加油を導入して二次反応を行うにあたり、
前記原料導入帯域に導入する酸素含有ガスの酸素量が原料油1kgあたり0.05~0.20Nm3になるように原料油および酸素含有ガスを導入することを特徴とするものである。
【0050】
この場合、反応炉として、ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられたものを使用する。このような反応炉としては、例えば、
図3に模式的に示すような広径円筒反応炉を挙げることができる。
【0051】
以下、本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法を、
図3に示す反応炉を適宜例にとって説明する。
【0052】
図3に示す反応炉には、炉内に形成されたガス流路の上流から下流方向に向かって連通する、燃料燃焼帯域3、原料導入帯域5、添加油導入帯域8および二次反応帯域9が順次設けられている。
【0053】
すなわち、
図3に示す反応炉において、燃料燃焼帯域3は、炉軸方向に垂直な方向から空気等の酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入口1と、炉軸方向に燃料を供給する燃焼用バーナー2とを備えている。また、原料導入および一次反応帯域5は、炉軸方向に垂直な方向から原料油を供給する原料油導入ノズル4を備え、燃料燃焼帯域3と同軸的に連通して設けられている。さらに、添加油導入帯域8は、炉軸方向に垂直な方向から添加油を供給する添加油導入ノズル6を備え、原料導入帯域5に同軸的に連通して設けられている。二次反応帯域9は、添加油導入帯域8に同軸的に連通して設けられている。
図3に示す反応炉においては、二次反応帯域9に同軸的に連通して反応停止帯域も設けられており、同反応停止帯域には、炉軸方向に垂直な方向から冷却液を噴霧する冷却液導入ノズル7が設けられている。
【0054】
図3に示す反応炉は、燃料燃焼帯域3から原料導入帯域5に向かって縮管するとともに、原料導入帯域5から添加油導入帯域8に向かって拡管する鼓状形状を有しているが、反応炉形状はこのような形状に限定されず、種々の形状を採ることができる。
【0055】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法においては、燃料燃焼帯域3に酸素含有ガスと燃料を導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させる。
【0056】
酸素含有ガスとしては、酸素、空気またはこれらの混合物からなるガスを挙げることができ、燃料としては、水素、一酸化炭素、天然ガス、石油ガス、FCC残渣油等、重油等の石油系液体燃料、クレオソート油等の石炭系液体燃料を挙げることができる。
【0057】
高温燃焼ガスの生成源となる燃料としては、前述した高温燃焼ガスを生成し得るものと同様のものを挙げることができる。
【0058】
燃料燃焼帯域3における酸素含有ガスの供給量は、2000Nm3/h~5500Nm3/hであることが好ましく、2500Nm3/h~5000Nm3/hであることがより好ましく、3000Nm3/h~4500Nm3/hであることがさらに好ましい。ガス供給量を上記の通り調整することで、発生炉内のガスの流れが安定し、本発明に係る導電性カーボンブラックを容易に製造できる。
【0059】
また、燃料燃焼帯域3における燃料の供給量は、50kg/h~400kg/hであることが好ましく、100kg/h~350kg/hであることがより好ましく、150kg/h~300kg/hであることがさらに好ましい。燃料供給量を上記の通り調整することで、導入熱量が安定し、本発明に係る導電性カーボンブラックを容易に製造できる。
【0060】
燃料燃焼帯域3においては、例えば、400℃~600℃に予熱した酸素含有ガスを供給しつつ燃料を供給することにより、両者を混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させることができる。
【0061】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、上記高温燃焼ガス流を原料導入帯域5に導入しつつ、当該原料導入帯域5に原料油導入ノズル4から原料油を導入する。
【0062】
原料導入帯域5で供給する原料油としては、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、クレオソート油、カルボン酸油等の石炭系炭化水素、エチレンボトム油(エチレンヘビーエンドオイル)、FCC残渣油等の石油系重質油、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタンやヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素などから選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0063】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、原料油は、上記炭化水素等を二種以上混合したものであってもよい。
【0064】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、上記高温燃焼ガス流を原料導入帯域5に導入しつつ、当該原料導入帯域5に原料油とともに酸素含有ガスを導入する。
【0065】
原料導入帯域5に原料油とともに導入する酸素含有ガスとしては、酸素、空気またはこれらの混合物からなるガスを挙げることができる。
【0066】
原料導入帯域5に原料油とともに導入する酸素含有ガスは、原料油導入ノズル4から原料油とともに導入してもよいし、原料油導入ノズル4とは別途設けた(図示しない)酸素含有ガス導入ノズルから原料油とは別に導入してもよい。
【0067】
原料導入帯域5に対して、原料油導入ノズル4から原料油とともに酸素含有ガスを導入する場合、例えば、原料油導入ノズル4として二流体ノズルを採用することにより原料油と酸素含有ガスを導入することができる。
【0068】
原料導入帯域5に対して、原料油導入ノズル4から原料油を導入するとともに、(図示しない)酸素含有ガス導入ノズルから原料油とは別に酸素含有ガスを導入する場合、例えば原料油導入ノズル4および(図示しない)酸素含有ガス導入ノズルとして、各々一流体ノズルを採用することにより原料油と酸素含有ガスとを導入することができる。
【0069】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法においては、上記高温燃焼ガス流を原料導入帯域に導入しつつ、当該原料導入帯域に原料油とともに酸素含有ガスを導入することにより、原料導入帯域に局所的に高温領域が形成される。そして、局所的に高温領域が形成された原料導入帯域で原料油の一次反応を行うことにより、原料導入帯域に酸素含有ガスを導入しない場合に比較して、得られる導電性カーボンブラックのDBP吸収量を上昇させるとともに、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDを低減させて、各物性値が所望範囲内に制御された導電性カーボンブラックを容易に製造することができる。
【0070】
原料導入帯域5に対する原料油の導入量は、特に制限されないが、100kg/h~3000kg/hであることが好ましく、150kg/h~2500kg/hであることがより好ましく、200kg/h~2000kg/hであることがさらに好ましい。原料油の導入量が上記範囲内にあることにより、得られる導電性カーボンブラックの窒素吸着比表面積を所望範囲に制御することができる。
【0071】
原料導入帯域5に対する酸素含有ガスの導入量は、特に制限されないが、5Nm3/h~600Nm3/hであることが好ましく、8Nm3/h~500Nm3/hであることがより好ましく、10Nm3/h~400Nm3/hであることがさらに好ましい。
【0072】
原料導入帯域5に対する酸素含有ガスの導入量が上記範囲内にあることにより、原料導入帯域5に局所的な高温領域を容易に形成して、DBP吸収量や上記ラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが所望範囲内に制御された導電性カーボンブラックを容易に製造することができる。
【0073】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法において、原料導入帯域に導入する原料油および酸素含有ガスは、酸素含有ガスの酸素量が原料油1kgあたり0.05Nm3~0.20Nm3になるように原料油および酸素含有ガスを導入する。
【0074】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法において、酸素含有ガス導入割合が上記範囲内にあることにより、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが所定の範囲内にある導電性カーボンブラックを容易に調製することができる。
【0075】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法において、上記酸素含有ガスの酸素量は、高温領域の形成という観点からは原料油1kgあたり0.05Nm3~0.20Nm3が好ましく、DBP吸収量の制御という観点からは原料油1kgあたり0.07Nm3以上がより好ましく、ラマン散乱ピークの半値全幅ΔDの制御という観点からは原料油1kgあたり0.15Nm3以下がさらに好ましい。
【0076】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法において、上記原料導入帯域に原料油および酸素含有ガスを導入して一次反応を行う場合、反応温度が、1300℃以上となるように原料導入帯域に原料油および酸素含有ガスを導入することが好ましく、1500℃以上となるように原料導入帯域に原料油および酸素含有ガスを導入することがより好ましく、1800℃以下となるように原料導入帯域に原料油および酸素含有ガスを導入することで容易に製造できる。反応温度が上記範囲にあることにより、DBP吸収量およびラマン散乱ピークの半値全幅ΔDを所望範囲に制御することができる。
【0077】
上記原料導入帯域における反応温度(原料油の一次反応時の反応温度)が上記温度となるように制御することにより、DBP吸収量や上記ラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが所望範囲内に制御された導電性カーボンブラックを容易に製造することができる。
【0078】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法においては、上記原料導入および一次反応帯域5に原料油を導入して一次反応を行った後、添加油導入帯域8に添加油を導入して二次反応を行う。
【0079】
上記添加油としては、炭化水素油が好ましく、炭化水素油としては、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタンやヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0080】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法においては、一次反応物に対する添加油の添加量が、原料油の0.20~0.80質量倍となる量反応させて二次反応を行い、安定した反応性を確保する上では原料油の0.21~0.75質量倍となる量反応させて二次反応を行うことが好ましく、安定した反応性と高い収率を確保する上では原料油の0.22~0.70質量倍となる量反応させて二次反応を行うことがより好ましい。
【0081】
具体的には、添加油導入帯域における添加油の導入量は、20~2400kg/hであることが好ましく、30~2000kg/hであることがより好ましく、40~1600kg/hであることがさらに好ましい。
【0082】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、添加油の添加量が上記範囲内にあることにより、N2SA/IAが所望範囲内に制御された導電性カーボンブラックを高い収率で製造することができる。
【0083】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法において、
図3に示す反応炉を用いた場合、原料導入帯域5で一次反応を行った後、添加油導入帯域8で添加油を導入し、添加油導入帯域8や二次反応帯域9に導入して二次反応させることにより、目的とする導電性カーボンブラックを容易に調製することができる。
【0084】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法においては、二次反応帯域9を有さない反応炉を用いて、添加油導入帯域8でのみ二次反応を行うこともできる。
【0085】
図3に示す反応炉においては、カーボンブラック含有ガスが反応停止帯域に導入され、冷却液が噴霧される。
【0086】
冷却液としては水等を挙げることができ、冷却液を噴霧することにより、高温燃焼ガス中に浮遊懸濁したカーボンブラック粒子が冷却される。冷却液の噴霧は、例えば
図3に示す冷却液導入ノズル7から冷却液を噴霧することにより行うことができる。
【0087】
次いで、冷却されたカーボンブラック粒子は、煙道等を経て、サイクロンやバッグフィルター等の捕集系(分離捕集装置)により分離捕集することにより、目的とする導電性カーボンブラックを回収することができる。
【0088】
本発明に係る導電性カーボンブラックの製造方法においては、一次反応物に添加油を導入、反応させることにより、表面に活性点となるエッジを所定数形成した導電性カーボンブラックを容易に調製することができる。
【0089】
本発明に係る製造方法で得られた導電性カーボンブラックの詳細は、前述したとおりである。
【0090】
本発明によれば、各種導電材の構成成分として使用したときに優れた導電性を発揮し得る導電性カーボンブラックを容易に製造可能な導電性カーボンブラックの製造方法を提供することができる。
【0091】
次に、本発明に係る導電材について説明する。
【0092】
本発明に係る導電材は、本発明に係る導電性カーボンブラックを含むことを特徴とするものである。
【0093】
本発明に係る導電材は、上述した本発明に係る導電性カーボンブラックを含むものであれば、特に制限されない。
【0094】
本発明に係る導電材としては、リチウムイオン二次電池の正極材等の電極材や、各種導電性シート等を挙げることができる。
【0095】
本発明によれば、本発明に係る導電性カーボンブラックを含有する優れた導電性を発揮し得る導電材を提供することができる。
【0096】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0097】
(実施例1)
図3に示すような概略円筒形状を有する反応炉を用いてカーボンブラックを作製した。
【0098】
図3に示す反応炉には、炉内に形成されたガス流路の上流から下流方向に向かって連通する、燃料燃焼帯域3、原料導入帯域5、添加油導入帯域8、二次反応帯域9および反応停止帯域が順次設けられている。
【0099】
図3に示す反応炉において、燃料燃焼帯域3は、炉軸方向に垂直な方向から空気等の酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入口1と、炉軸方向に燃料を供給する燃焼用バーナー2とを備えている。また、原料導入帯域5は、原料油導入ノズル4として炉軸方向に垂直な方向から原料油および酸素を供給する二流体ノズルを備え、燃料燃焼帯域3と同軸的に連通して設けられている。
【0100】
添加油導入帯域8は、炉軸方向に垂直な方向から添加油を供給する添加油導入ノズル6である一流体ノズルを備え、原料導入および一次反応帯域5と同軸的に連通して設けられており、さらに、二次反応帯域9は、添加油導入帯域8に同軸的に連通して設けられている。また、反応停止帯域は、炉軸方向に垂直な方向から冷却水を供給する図の上下方向に位置変更可能な冷却液導入ノズル7(水冷クエンチ)を備え、二次反応帯域9に同軸的に連通して設けられている。
【0101】
図3に示すように、上記反応炉は、原料導入帯域5の前後において、燃料燃焼帯域3から原料導入帯域5に向かって緩やかに縮管するとともに、原料導入帯域5から添加油導入帯域8に向かってテーパー状に拡管する鼓状絞り形状を成している。
【0102】
燃料燃焼帯域3においては、酸素含有ガス導入口1から、500℃に予熱した空気(酸素含有割合21体積%)4000Nm3/hを供給するとともに、燃焼用バーナー2から燃料油としてFCC残渣油(石油系残渣油)200kg/hで噴射供給し、混合燃焼させて、炉軸方向に流通する高温燃焼ガス流を形成した。
【0103】
原料導入帯域5に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ、原料油導入ノズル4である二流体ノズルから、原料油としてFCC残渣油を1500kg/hで供給するとともに酸素を100Nm3/hで供給し、次いで、添加油導入帯域8において、添加油導入ノズル6からシクロヘキサンを370kg/hで供給して、反応温度1600℃で一次反応を行うことにより、導電性カーボンブラック含有ガスを生成した。
【0104】
このとき、原料導入帯域5に導入した上記原料油および酸素は、原料油1kgあたり0.07Nm3の酸素量になるように原料油および酸素を導入したことに相当する。
【0105】
次いで、原料導入帯域5および添加油導入帯域8を経て生成した導電性カーボンブラック含有ガスを二次反応帯域9に導入してさらに十分に反応させた後、反応停止帯域に導入して、冷却液導入ノズル7から冷却水を噴霧した。冷却されたカーボンブラック粒子は、煙道等を経て、図示しない分離捕集装置により捕集され、目的とする導電性カーボンブラックを回収した。
【0106】
得られた導電性カーボンブラックにおける、窒素吸着比表面積N2SA(m2/g)、DBP吸収量(mL/100g)、IA(mg/g)を測定した。得られた結果について、N2SA/IA(×103m2/g)とともに表2に示す。
【0107】
また、得られた導電性カーボンブラックにおける、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm
-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDを測定した。このとき得られたラマンスペクトルを
図4に示すとともに、ラマン散乱ピークの半値全幅ΔDを表2に示す。
【0108】
(実施例2~実施例7、比較例1~比較例9)
実施例1において、原料導入帯域に原料油導入ノズル4(二流体ノズル)から供給する原料油供給量(kg/h)、酸素供給量(kg/h)および原料油1kgあたりの酸素量(Nm3)を表1に記載するとおり各々変更した以外は、実施例1と同様にして導電性カーボンブラックを調製した。
【0109】
得られた各導電性カーボンブラックにおける、窒素吸着比表面積N2SA(m2/g)、DBP吸収量(mL/100g)、IA(mg/g)を測定した。得られた結果について、N2SA/IA(×103m2/g)とともに表2に示す。
【0110】
また、得られた各カーボンブラックにおける、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDを表2に示す。
【0111】
比較例5および比較例7で得られた導電性カーボンブラックにおける、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm
-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDの測定時に得られたラマンスペクトルを
図4に示す。
【0112】
なお、比較例8および比較例9で得られた導電性カーボンブラックは、特許文献3記載のカーボンブラックに相当する。
【0113】
【0114】
【0115】
<評価1(正極材の作製)>
1.正極材料の調製
実施例1~実施例7および比較例1~比較例9で得られた導電性カーボンブラックを各々用い、以下の方法により正極材料を作成した。
【0116】
5質量%の上記導電性カーボンブラックと、95質量%の市販のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM811(中国製))粉末を振とう機を用いて簡易的に混合して、評価サンプルを作製した。
【0117】
2.導電性の評価(圧縮電気抵抗率の測定)
1.で得られた正極材料を各々用いて、以下の方法により正極材を作製し、JISK1469に準拠して圧縮電気抵抗率を測定することにより、導電性を評価した。
【0118】
絶縁性のアルミナ製スリーブ(外径12mm、内径8mm、長さ50mm)と該アルミナ製スリーブを固定するための台座治具を使用し、2gの正極材料をスリーブ内に充填させた。充填させたサンプルをピストンで1000Nの力で圧縮させ、既知の一定電流I(A)でのサンプル間に電流を流し、その時の電圧降下E(V)を測定し、電気抵抗RをE÷Iより求めた。充填されたサンプルの断面積S(cm2)を直径0.8cmの円の面積とし、測定時のサンプルの高さh(cm)をサンプルが存在しない場合の圧縮後のピストン上部の変位計のポジションを原点とし、サンプルを圧縮後のピストン上部の変位計のポジションをサンプル高さとして測定し、以下の式により圧縮電気抵抗率ρ(Ω・cm)を求めた。
【0119】
ρ=S/h×R
結果を表3に示す。
【0120】
<評価2(樹脂配合導電性シートの作製)>
1.樹脂配合導電性シートの作製
実施例1~実施例7および比較例1~比較例9で得られた導電性カーボンブラックを各々用い、以下の方法により樹脂配合導電性シートを作製した。
【0121】
エチレン酢酸ビニルコポリマー100質量部に対して、各実施例及び比較例で得られた導電性カーボンブラックを40質量部添加し、密閉型ミキサー(型式10M100型)でブレード回転数を50rpmとして120℃で10分間混練した後、加圧熱プレス機で105℃で15分加硫することで樹脂配合シートを得た。
【0122】
2.導電性の評価(体積抵抗率の測定)
1.で得られた樹脂配合導電性シートを各々用いて、JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)により体積抵抗率VR(Ω・cm)を測定することにより導電性を評価した。具体的には、以下の条件で、体積抵抗率VR(Ω・cm)を求めた。
(体積抵抗率)
測定装置 :ADCMT製デジタル超高抵抗/微小電流計
測定方法 :二重リング電極法
ガード電極 :外径80mm、内径70mm
主電極直径 :50mm
試料外寸法(縦×横) :100mm×100mm
試料厚さ :2mm
印加電圧 :1V
検知電流範囲 :200pA~20mA
測定した体積抵抗率VRの対数(LogVR)を表3に示す。
【0123】
<評価3(ゴム配合導電性シートの作製)>
1.ゴム配合導電性シートの作製
実施例1~実施例7および比較例1~比較例9で得られた導電性カーボンブラックを各々用い、以下の方法によりゴム配合導電性シートを作製した。
【0124】
EPDMゴム100質量部に対して、各実施例及び比較例で得られた導電性カーボンブラック30質量部と硫黄1.5質量部とを添加し、密閉型ミキサー(神戸製鋼(株)製MIXTRON BB-2)でブレード回転数を85rpmとして160℃で5分間混練した後、加硫プレス機で150℃で40分加硫することでゴム配合シートを得た。
【0125】
2.導電性の評価(体積抵抗率の測定)
1.で得られたゴム合導電性シートを各々用いて、JIS K6271-1:2015(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-電気抵抗率の求め方)に従って、体積抵抗率VR(Ω・cm)を測定した。具体的には、以下の条件で、体積抵抗率VR(Ω・cm)を求めた。
(体積抵抗率)
測定装置 :ADCMT製デジタル超高抵抗/微小電流計
測定方法 :二重リング電極法
ガード電極 :外径80mm、内径70mm
主電極直径 :50mm
試料外寸法(縦×横) :100mm×100mm
試料厚さ :2mm
印加電圧 :1V
検知電流範囲 :200pA~20mA
測定した体積抵抗率VRの対数(LogVR)を表3に示す。
【0126】
【0127】
表2および表3の結果から、実施例1~実施例7で得られた本発明に係る導電性カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)、DBP吸収量およびラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが各々所定の範囲内にあるものであることにより、各種導電材の構成成分として使用したときに圧縮電気抵抗率ないし体積抵抗率が低く、優れた導電性を発揮し得るものであることが分かる。
【0128】
一方、表2および表3の結果から、比較例1~比較例9で得られた導電性カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)、DBP吸収量およびラマン散乱ピークの半値全幅ΔDのいずれかが各々所定の範囲外にあるものであることにより、各種導電材の構成成分として使用したときに圧縮電気抵抗率ないし体積抵抗率が高く、導電性に劣るものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、各種導電材の構成成分として使用したときに優れた導電性を発揮し得る導電性カーボンブラック、かかる導電性カーボンブラックの製造方法および導電材を提供することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 酸素含有ガス導入口
2 燃焼用バーナー
3 燃料燃焼帯域
4 原料油導入ノズル
5 原料導入帯域
6 添加油導入ノズル
7 冷却液導入ノズル
8 添加油導入帯域
9 二次反応帯域
【要約】
各種導電材の構成成分として使用したときに、優れた導電性を発揮し得る導電性カーボンブラックを提供することを目的とするために、窒素吸着比表面積(N2SA)が50~150m2/g、DBP吸収量が205~300mL/100gであり、 励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが100~260cm-1であることを特徴とするカーボンブラックを導電性カーボンブラックとして使用する。