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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】積層コアおよび回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/02 20060101AFI20240515BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20240515BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20240515BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240515BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240515BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240515BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
H02K1/02 Z
H02K15/02 F
H02K1/18 B
H01F1/147 175
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019206810
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021083170
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
(72)【発明者】
【氏名】大杉 保郎
(72)【発明者】
【氏名】上川畑 正仁
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-223830(JP,A)
【文献】特開2019-178380(JP,A)
【文献】特開2006-211819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/02
H02K 15/02
H02K 1/18
H01F 1/147
C22C 38/00
C22C 38/60
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板を有し、回転電機のコアとして用いられる積層コアであって、
前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板は、板面同士が相互に対向するように、1枚または複数枚ごとに交互に位置し、
前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板の積層方向から見た場合に前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板の圧延方向は揃っており、
圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、
前記第1の電磁鋼板は、以下の(A)式を満たし、
前記第2の電磁鋼板は、以下の(B)式を満たすことを特徴とする積層コア。
(B50L+B50C)/2>(B50D1+B50D2)/2 ・・・(A)
(B50L+B50C)/2<(B50D1+B50D2)/2 ・・・(B)
【請求項2】
前記第1の電磁鋼板は、以下の(C)式を満たし、
前記第2の電磁鋼板は、以下の(D)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の積層コア。
(B50L+B50C)/2>1.1×(B50D1+B50D2)/2 ・・・(C)
1.1×(B50L+B50C)/2<(B50D1+B50D2)/2 ・・・(D)
【請求項3】
前記積層方向において、前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板の少なくとも一方が複数枚連続して配置される部分を有することを特徴とする請求項1または2に記載の積層コア。
【請求項4】
1枚の前記第1の電磁鋼板、または、前記積層方向から見て圧延方向が揃うように連続して配置された複数枚の前記第1の電磁鋼板を有する第1の電磁鋼板群と、
1枚の前記第2の電磁鋼板、または、前記積層方向から見て圧延方向が揃うように連続して配置された複数枚の前記第2の電磁鋼板を第2の電磁鋼板群と、を有し、
1つの前記第1の電磁鋼板群を構成する前記第1の電磁鋼板および1つの前記第2の電磁鋼板群を構成する前記第2の電磁鋼板の少なくとも何れかは、複数枚であり、
前記第1の電磁鋼板群および前記第2の電磁鋼板群のそれぞれの前記積層方向の長さは、前記積層コアの前記積層方向の長さの0.05倍以上、0.25倍以下であることを特徴とする請求項3に記載の積層コア。
【請求項5】
1枚の前記第1の電磁鋼板、または、前記積層方向から見て圧延方向が揃うように連続して配置された複数枚の前記第1の電磁鋼板を有する第1の電磁鋼板群と、
1枚の前記第2の電磁鋼板、または、前記積層方向から見て圧延方向が揃うように連続して配置された複数枚の前記第2の電磁鋼板を第2の電磁鋼板群と、を有し、
前記第1の電磁鋼板群および前記第2の電磁鋼板群のうち、相対的に前記積層方向の端に近い領域にある電磁鋼板群と、前記第1の電磁鋼板群および前記第2の電磁鋼板群のうち、相対的に前記積層方向の中心に近い領域にある電磁鋼板群との、2つの電磁鋼板群の組として、当該2つの電磁鋼板群のうち一方の電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数と他方の電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数とが異なる組が少なくとも1つあることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の積層コア。
【請求項6】
前記第2の電磁鋼板は、
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、および
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(E)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
以下の(F)式且つ(G)式を満たし、{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の積層コア。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(E)
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(F)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(G)
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の積層コアを有することを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コアおよび回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機のステータコアやロータコアとして、電磁鋼板を積層することにより構成される積層コアが用いられる。この中でも、電気自動車等の電動機に用いられる電磁鋼板には特に低鉄損化および高磁束密度化が求められる。電磁鋼板の磁気特性は一般に板面内において異方性を有する(無方向性電磁鋼板であっても方向性電磁鋼板ほどではないが磁気特性の異方性はある)。従って、磁気特性が優れる方向を揃えて電磁鋼板を積層すると、磁気特性が極端に優れる領域が特定の領域に集中する。このため、回転電機の磁気特性が低下する。そこで、特許文献1、2に記載の技術では、方向性電磁鋼板を回し積みすることにより、ステータコアの磁気特性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-265642号公報
【文献】特開平11-355983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の発明では、電磁鋼板を回し積みするための工程の負担が大きい。このため、回転電機の生産性を低下する虞がある。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、生産性の低下を抑制しつつ磁気特性を改善することができる積層コアおよび回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層コアは、第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板を有し、回転電機のコアとして用いられる積層コアであって、前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板は、板面同士が相互に対向するように、1枚または複数枚ごとに交互に位置し、前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板の積層方向から見た場合に前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板の圧延方向は揃っており、圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、前記第1の電磁鋼板は、以下の(A)式を満たし、前記第2の電磁鋼板は、以下の(B)式を満たすことを特徴とする。
(B50L+B50C)/2>(B50D1+B50D2)/2 ・・・(A)
(B50L+B50C)/2<(B50D1+B50D2)/2 ・・・(B)
【0007】
本発明の回転電機は、前記積層コアを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生産性の低下を抑制しつつ磁気特性を改善することができる積層コアおよび回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】回転電機の構成の一例を示す図である。
図2】ステータコアの構成の一例を示す平面図である。
図3】ステータコアの構成の一例を示す側面図である。
図4】ステータコアを構成する第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板の圧延方向に対する位置関係の一例を示す図である。
図5A】第1の電磁鋼板の磁気特性が最も優れる方向の一例を示す図である。
図5B】第2の電磁鋼板の磁気特性が最も優れる方向の一例を示す図である。
図6】第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板が交互に配置される様子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(積層コアに使用する電磁鋼板)
まず、後述する実施形態の積層コアに使用する電磁鋼板について説明する。
後述する実施形態では、磁気特性が相互に異なる第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板を使用する。ここで、圧延方向(から0°傾いた方向)のB50をB50L(T)とする(Tは磁束密度の単位)。圧延方向から90°傾いた方向のB50をB50C(T)とする。圧延方向から45°傾いた方向のB50をB50D1とする。圧延方向から135°傾いた方向のB50をB50D2(T)とする。尚、B50は、磁界強度が5000A/mであるときの磁束密度である。また、B50は、例えば、JIS C 2556:2015や、JIS C 2550-1:2011に記載されている方法で測定することができる。また、(T)は、磁束密度の単位(テスラ)を指す。
【0011】
第1の電磁鋼板は、少なくとも以下の(6a)式を満たす電磁鋼板である。第2の電磁鋼板は、少なくとも以下の(7a)式を満たす電磁鋼板である。(7a)式は、後述する(3)式と同じである。
(B50L+B50C)/2>(B50D1+B50D2)/2 ・・・(6a)
(B50L+B50C)/2<(B50D1+B50D2)/2 ・・・(7a)
【0012】
第1の電磁鋼板として、例えば、特開2004-332042号公報、国際公開第2018/220837号、国際公開第2018/220838号、または国際公開第2018/220839号に記載されている無方向性電磁鋼板を用いることができる。
【0013】
第2の電磁鋼板として、例えば、特開2017-145462号公報に記載されている無方向性電磁鋼板を用いることができる。ただし、当該無方向性電磁鋼板は、(特に高周波における)鉄損が大きくなる。そこで、以下の実施形態では、以下の無方向性電磁鋼板を第2の電磁鋼板として用いる。
【0014】
<第2の電磁鋼板の例>
まず、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板およびその製造方法で用いられる鋼材の化学組成について説明する。以下の説明において、無方向性電磁鋼板または鋼材に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板および鋼材は、フェライト-オーステナイト変態(以下、α-γ変態)が生じ得る化学組成であって、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。更に、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Au、Siおよびsol.Alの含有量が後述する所定の条件を満たす。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0015】
<<C:0.0100%以下>>
Cは、鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。従って、C含有量は低ければ低いほどよい。このような現象は、C含有量が0.0100%超で顕著である。このため、C含有量は0.0100%以下とする。C含有量の低減は、板面内の全方向における磁気特性の均一な向上にも寄与する。尚、C含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱炭処理のコストを踏まえ、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0016】
<<Si:1.50%~4.00%>>
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き加工性を向上したりする。Si含有量が1.50%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Si含有量は1.50%以上とする。一方、Si含有量が4.00%超では、磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。従って、Si含有量は4.00%以下とする。
【0017】
<<sol.Al:0.0001%~1.0%>>
sol.Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。sol.Alは、飽和磁束密度に対する磁束密度B50の相対的な大きさの向上にも寄与する。ここで、磁束密度B50とは、5000A/mの磁場における磁束密度である。sol.Al含有量が0.0001%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。また、Alには製鋼での脱硫促進効果もある。従って、sol.Al含有量は0.0001%以上とする。一方、sol.Al含有量が1.0%超では、磁束密度が低下したり、降伏比を低下させて、打ち抜き加工性を低下させたりする。従って、sol.Al含有量は1.0%以下とする。
【0018】
<<S:0.0100%以下>>
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、微細なMnSの析出により、焼鈍における再結晶および結晶粒の成長を阻害する。従って、S含有量は低ければ低いほどよい。このような再結晶および結晶粒成長の阻害による鉄損の増加および磁束密度の低下は、S含有量が0.0100%超で顕著である。このため、S含有量は0.0100%以下とする。尚、S含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱硫処理のコストを踏まえ、0.0003%以上とすることが好ましい。
【0019】
<<N:0.0100%以下>>
NはCと同様に、磁気特性を劣化させるので、N含有量は低ければ低いほどよい。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。尚、N含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱窒処理のコストを踏まえ、0.0010%以上とすることが好ましい。
【0020】
<<Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%>>
これらの元素は、α-γ変態を生じさせるために必要な元素であることから、これらの元素の少なくとも1種を総計で2.50%以上含有させる必要がある。一方で、総計で5.00%を超えると、コスト高となり、磁束密度が低下する場合もある。したがって、これらの元素の少なくとも1種を総計で5.0%以下とする。
【0021】
また、α-γ変態が生じ得る条件として、更に以下の条件を満たしているものとする。つまり、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、質量%で、以下の(1)式を満たすことが好ましい。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【0022】
前述の(1)式を満たさない場合には、α-γ変態が生じないため、磁束密度が低くなる。
【0023】
<<Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%>>
SnやSbは冷間圧延、再結晶後の集合組織を改善して、その磁束密度を向上させる。そのため、これらの元素を必要に応じて含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼を脆化させる。したがって、Sn含有量、Sb含有量はいずれも0.400%以下とする。また、Pは再結晶後の鋼板の硬度を確保するために含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼の脆化を招く。したがって、P含有量は0.400%以下とする。以上のように磁気特性等のさらなる効果を付与する場合には、0.020%~0.400%のSn、0.020%~0.400%のSb、および0.020%~0.400%のPからなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0024】
<<Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%>>
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdは、溶鋼の鋳造時に溶鋼中のSと反応して硫化物若しくは酸硫化物またはこれらの両方の析出物を生成する。以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdを総称して「粗大析出物生成元素」ということがある。粗大析出物生成元素の析出物の粒径は1μm~2μm程度であり、MnS、TiN、AlN等の微細析出物の粒径(100nm程度)よりはるかに大きい。このため、これら微細析出物は粗大析出物生成元素の析出物に付着し、中間焼鈍における再結晶および結晶粒の成長を阻害しにくくなる。これらの作用効果を十分に得るためには、これらの元素の総計が0.0005%以上であることが好ましい。但し、これらの元素の総計が0.0100%を超えると、硫化物若しくは酸硫化物またはこれらの両方の総量が過剰となり、中間焼鈍における再結晶および結晶粒の成長が阻害される。従って、粗大析出物生成元素の含有量は総計で0.0100%以下とする。
【0025】
<<集合組織>>
次に、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の集合組織について説明する。製造方法の詳細については後述するが、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板はα-γ変態が生じ得る化学組成であり、熱間圧延での仕上げ圧延終了直後の急冷によって組織を微細化することによって{100}結晶粒が成長した組織となる。これにより、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板は{100}<011>方位の集積強度が5~30となり、圧延方向に対して45°方向の磁束密度B50が特に高くなる。このように特定の方向で磁束密度が高くなるが、全体的に全方向平均で高い磁束密度が得られる。{100}<011>方位の集積強度が5未満になると、磁束密度を低下させる{111}<112>方位の集積強度が高くなり、全体的に磁束密度が低下してしまう。また、{100}<011>方位の集積強度が30を超える製造方法は前述のように熱間圧延板を厚くする必要があり、製造が困難という課題がある。
【0026】
{100}<011>方位の集積強度は、X線回折法または電子線後方散乱回折(electron backscatter diffraction:EBSD)法により測定することができる。X線および電子線の試料からの反射角等が結晶方位毎に異なるため、ランダム方位試料を基準にしてこの反射強度等で結晶方位強度を求めることができる。第2の電磁鋼板の一例として好適な無方向性電磁鋼板の{100}<011>方位の集積強度は、X線ランダム強度比で5~30となる。このとき、EBSDにより結晶方位を測定し、X線ランダム強度比に換算した値を用いても良い。
【0027】
<<厚さ>>
次に、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の厚さについて説明する。第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の厚さは、0.50mm以下である。厚さが0.50mm超であると、優れた高周波鉄損を得ることができない。従って、厚さは0.50mm以下とする。
【0028】
<<磁気特性>>
次に、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の磁気特性について説明する。磁気特性を調べる際には、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の磁束密度であるB50の値を測定する。製造された無方向性電磁鋼板において、その圧延方向の一方と他方とは区別できない。そのため本実施形態では、圧延方向とはその一方および他方の双方向をいう。圧延方向におけるB50(T)の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50D2とすると、B50D1およびB50D2が最も高く、B50L+B50Cが最も低いという磁束密度の異方性がみられる。尚、(T)は、磁束密度の単位(テスラ)を指す。
【0029】
ここで、例えば時計回り(反時計回りでもよい)の方向を正の方向とした磁束密度の全方位(0°~360°)分布を考えた場合、圧延方向を0°(一方向)および180°(他方向)とすると、B50D1は45°および225°のB50値、B50D2は135°および315°のB50値となる。同様に、B50Lは0°および180°のB50値、B50Cは90°および270°のB50値となる。45°のB50値と225°のB50値とは厳密に一致し、135°のB50値と315°のB50値とは厳密に一致する。しかしながら、B50D1とB50D2とは、実際の製造に際して磁気特性を同じにすることが容易でない場合があることから、厳密には一致しない場合がある。同様に、0°のB50値と180°のB50値とは厳密に一致し、90°のB50値と270°のB50値とは厳密に一致する一方で、B50LとB50Cとは厳密には一致しない場合がある。第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板では、B50D1およびB50D2の平均値と、B50LとB50Cの平均値とを用いて、以下の(2)式且つ(3)式を満たす。
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(2)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(3)
【0030】
このように、磁束密度を測定すると、(2)式のようにB50D1およびB50D2の平均値が1.7T以上となると共に、(3)式のように磁束密度の高い異方性が確認される。
【0031】
更に、(1)式を満たすことに加え、以下の(4)式のように、(3)式よりも磁束密度の異方性が高いことが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(4)
更に、以下の(5)式のように、磁束密度の異方性がより高いことが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(5)
【0032】
尚、前記の45°は、理論的な値であり、実際の製造に際しては45°に一致させることが容易でない場合があることから、厳密には45°に一致していないものも含むものとする。このことは、当該0°,90°,135°,180°,225°,270°,315°についても同様である。
【0033】
磁束密度の測定は、圧延方向に対して45°、0°方向等から55mm角の試料を切り出し,単板磁気測定装置を用いて行うことができる。
【0034】
<<製造方法>>
次に、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の製造方法の一例について説明する。第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、例えば、熱間圧延、冷間圧延(第1の冷間圧延)、中間焼鈍(第1の焼鈍)、スキンパス圧延(第2の冷間圧延)、仕上焼鈍(第3の焼鈍)、歪取焼鈍(第2の焼鈍)等が行われる。
【0035】
まず、前述した鋼材を加熱し、熱間圧延を施す。鋼材は、例えば通常の連続鋳造によって製造されるスラブである。熱間圧延の粗圧延および仕上げ圧延はγ域(Ar1以上)の温度で行う。つまり、仕上げ圧延の仕上温度がAr1以上となるように熱間圧延を行う。これにより、その後の冷却によってオーステナイトからフェライトへ変態することにより組織は微細化する。微細化された状態でその後冷間圧延を施すと、張出再結晶(以下、バルジング)が発生しやすく、通常は成長しにくい{100}結晶粒を成長させやすくすることができる。
【0036】
また、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、更に仕上げ圧延の最終パスを通過する際の温度(仕上温度)をAr1以上とする。オーステナイトからフェライトへ変態することによって結晶組織を微細化するようにしている。このように結晶組織を微細化させることによって、その後の冷間圧延、中間焼鈍を経てバルジングを発生させやすくすることができる。
【0037】
その後、熱間圧延板焼鈍は行わずに巻き取り、酸洗を経て、熱間圧延鋼板に対して冷間圧延を行う。冷間圧延では圧下率を80%~92%とすることが好ましい。圧下率が80%未満ではバルジングが発生しにくくなり、圧下率が92%超ではその後のバルジングによって{100}結晶粒が成長しやすくなるが、熱間圧延鋼板を厚くしないといけなく、熱間圧延の巻取りが困難になり、操業が困難になりやすくなる。
【0038】
冷間圧延が終了すると、続いて中間焼鈍を行う。第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、オーステナイトへ変態しない温度で中間焼鈍を行う。つまり、中間焼鈍の温度をAc1未満とすることが好ましい。このように中間焼鈍を行うことによってバルジングが生じ、{100}結晶粒が成長しやすくなる。また、中間焼鈍の時間は、5秒間~60秒間とすることが好ましい。
【0039】
中間焼鈍が終了すると、次にスキンパス圧延を行う。前述したようにバルジングが発生した状態でスキンパス圧延、焼鈍を行うと、バルジングが発生した部分を起点に{100}結晶粒が更に成長する。これはスキンパス圧延により、{100}<011>結晶粒には歪がたまりにくく、{111}<112>結晶粒には歪がたまりやすい性質があり、その後の焼鈍で歪の少ない{100}<011>結晶粒が歪の差を駆動力に{111}<112>結晶粒を蚕食するためである。歪差を駆動力にして発生するこの蚕食現象は歪誘起粒界移動(以下、SIBM)と呼ばれる。スキンパス圧延の圧下率は5%~25%とすることが好ましい。圧下率が5%未満では歪量が少なすぎるため、この後の焼鈍で歪誘起粒界移動(以下、SIBM)が起きなくなり、{100}<011>結晶粒は大きくならない。一方、圧下率が25%超では歪量が多くなり過ぎ、{111}<112>結晶粒の中から新しい結晶粒が生まれる再結晶核生成(以下Nucleation)が発生する。このNucleationでは殆どの生まれてくる粒が{111}<112>結晶粒のため、磁気特性が悪くなる。
【0040】
スキンパス圧延を施した後、歪を開放して加工性を向上させるために仕上げ焼鈍を行う。仕上げ焼鈍も同様にオーステナイトへ変態しない温度とし、仕上げ焼鈍の温度をAc1未満とする。このように仕上げ焼鈍を行うことによって、{100}<011>結晶粒が{111}<112>結晶粒を蚕食し、磁気特性を向上させることができる。また、仕上げ焼鈍時に600℃~Ac1となる時間を1200秒以内とする。この焼鈍時間が短すぎるとスキンパスで入れた歪がほとんど残り、複雑な形状を打ち抜くときに反りが発生する。一方、焼鈍時間が長すぎると結晶粒が粗大になり過ぎ、打ち抜き時にダレが大きくなり、打ち抜き精度が出なくなる。
【0041】
仕上焼鈍が終了すると、所望の鉄鋼部材とすべく、無方向性電磁鋼板の成形加工等が行われる。そして、無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材に成形加工等(例えば打ち抜き)により生じた歪等を除去すべく、鉄鋼部材に歪取焼鈍を施す。本実施形態では、Ac1よりも下で、SIBMが発生し、結晶粒径も粗大に出来るようにするため、歪取焼鈍の温度を例えば800℃程度とし、歪取焼鈍の時間を2時間程度とする。
【0042】
第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板(鉄鋼部材)では、前述の製造方法のうち、主に熱間圧延工程においてAr1以上で仕上げ圧延をすることにより、前記(1)式の高いB50および前記(2)式の優れた異方性が得られる。更に、冷間圧延工程において、圧下率を85%程度にすることで前記(3)式、スキンパス圧延工程において圧下率を10%程度にすることで前記(4)式のより優れた異方性が得られる。
【0043】
以上のように第2の電磁鋼板の一例として、無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材を製造することができる。
【0044】
次に、第2の電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、無方向性電磁鋼板のあくまでも一例にすぎず、無方向性電磁鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0045】
<<第1の実施例>>
溶鋼を鋳造することにより、以下の表1に示す成分のインゴットを作製した。ここで、式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での温度(仕上温度)は830℃であり、すべてAr1より大きい温度だった。尚、γ-α変態が起こらないNo.108については、仕上温度を850℃とした。
【0046】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、狙いの板厚の1.1倍の板厚(0.055~0.550mm)になるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中で700℃で30秒の中間焼鈍を行った。次いで、狙いの板厚(0.05~0.50mm)になるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。ただし、{100}<011>強度を制御するため、No.110~112は冷間圧延の圧下率を80%~92%、2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の圧下率を5~25%の範囲で変化させた。また、No.113は熱間圧延板の厚みを7mmにし、冷延圧下率を95%にして、スキンパス圧延は実施しなかった。
【0047】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、55mm角の試料を剪断加工で作成した後、800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50を測定した。測定試料は55mm角の試料を圧延方向に0°と45°の2種類の方向に採取した。そして、この2種類の試料を測定し、圧延方向に対して0°、45°、90°、135°の磁束密度B50をそれぞれB50L、B50D1、B50C、B50D2とした。
【0048】
【表1】
【0049】
表1中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.101~No.107、No.109~No.111、No.114~No.116は、いずれも45°方向および全周平均共に磁束密度B50は良好な値であった。一方、比較例であるNo.108はSi濃度が高く、式左辺の値が0以下であり、α-γ変態しない組成であったことから、磁気密度B50はいずれも低かった。比較例であるNo.112は、スキンパス圧延率を低くしたため、{100}<011>強度を5未満であり、磁束密度B50がいずれも低かった。比較例であるNo.113は{100}<011>強度が30以上となり、本発明から外れている。No.113は熱間圧延板の厚みが7mmもあったため、操業しづらいという難点があった。
【0050】
<<第2の実施例>>
溶鋼を鋳造することにより、以下の表2に示す成分のインゴットを作製した。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での仕上温度は830℃であり、すべてAr1より大きい温度だった。
【0051】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、板厚が0.385mmになるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中で中間焼鈍を行い、再結晶率が85%となるように中間焼鈍の温度を制御した。次いで、板厚が0.35mmになるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0052】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、55mm角の試料を剪断加工で作成した後、800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50と鉄損W10/400を測定した。磁束密度B50に関しては第1の実施例と同様の手順で測定した。一方で鉄損W10/400は、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけた時に試料に生じるエネルギーロス(W/kg)として測定した。鉄損は圧延方向に対して0°、45°、90°、135°に測定した結果の平均値とした。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
No.201~No.214は全て発明例であり、いずれも磁気特性が良好であった。特に、No.202~No.204はNo.201、No.205~No.214よりも磁束密度B50が高く、No.205~No.214はNo.201~No.204よりも鉄損W10/400が低かった。
【0056】
(積層コア)
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。尚、以下の説明では、<第2の電磁鋼板の例>の説明において、圧延方向から45°傾いた方向と、圧延方向から135°傾いた方向を、必要に応じて、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向と総称する。尚、当該45°は、時計回りおよび反時計回りの何れの向きの角度も正の値を有するものとして表記したものである。時計回りの方向を負の方向とし、反時計回りの方向を正の方向とする場合、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、圧延方向となす角度のうち絶対値の小さい方の角度が45°、-45°となる2つの方向となる。その他、圧延方向からθ°傾いた方向を、必要に応じて、圧延方向となす角度がθ°の方向と称する。このように、圧延方向からθ°傾いた方向と、圧延方向となす角度がθ°の方向は、同じ意味である。
【0057】
また、以下の説明において、特に断りがなければ、第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板は、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板であるものとする。また、以下の説明において、長さ、方向、位置等が厳密に一致する場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲内(例えば、製造工程において生じる誤差の範囲内)で同じで一致する場合も含むものとする。
尚、本実施形態では、回転電機として電動機、具体的には交流電動機、より具体的には同期電動機、より一層具体的には永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明する。この種の電動機は、例えば、電気自動車などに好適に採用される。
【0058】
図1は、回転電機の構成の一例を示す図である。図1は、回転電機を、回転電機の軸心に平行な方向から見た図(平面図)である。図2は、ステータコアの構成の一例を示す図である。図2は、ステータコアを、ステータコアの軸心に平行な方向から見た図(平面図)である。各図において、X-Y-Z座標は、各図における向きの関係を示すものである。○の中に●が付されている記号は、紙面の奥側から手前側の向かう方向を示す。○の中に×が付されている記号は、紙面の手前側から奥側に向かう方向を示す。
図1および図2に示すように、回転電機10は、ステータ20と、ロータ30と、ケース50と、回転軸(回転シャフト)60と、を備える。ステータ20およびロータ30は、ケース50に収容される。ステータ20は、ケース50に固定される。
【0059】
本実施形態の回転電機10において、例えば、ステータ20の各相には、実効値10 A、周波数100Hzの励磁電流を印加され、これに伴い、ロータ30および回転軸60が回転数1000rpmで回転する。
【0060】
本実施形態では、回転電機10として、ロータ30がステータ20の内側に位置するインナーロータ型を採用する。しかしながら、回転電機10として、ロータ30がステータ20の外側に位置するアウターロータ型を採用してもよい。また、本実施形態では、回転電機10は、12極18スロットの三相交流モータである。しかしながら、例えば、極数やスロット数、相数などは適宜変更することができる。
【0061】
ステータ20は、ステータコア(積層コア)21と、図示しない巻線と、を備える。 ステータコア21は、環状のコアバック部22と、複数のティース部23と、を備える。以下の説明では、ステータコア21(コアバック部22)の軸方向(ステータコア21の中心軸線Oに沿う方向)を、必要に応じて軸方向と称する。また、ステータコア21(コアバック部22)の径方向(ステータコア21の中心軸線Oに直交する方向)を、必要に応じて径方向と称する。また、ステータコア21(コアバック部22)の周方向(ステータコア21の中心軸線O周りに周回する方向)を、必要に応じて周方向と称する。
【0062】
コアバック部22は、ステータ20を軸方向から見た平面視において円環状に形成される。複数のティース部23は、コアバック部22から径方向の内側に向けて(径方向に沿ってコアバック部22の中心軸線Oに向けて)に突出する。複数のティース部23は、周方向に同等の間隔をあけて配置される。本実施形態では、それぞれのティース部23において中心軸線Oを中心とする中心角が20°になるように、18個のティース部23が設けられる。複数のティース部23は、相互に同等の形状を有し、且つ、同等の大きさを有する。ステータ20の巻線は、ティース部23に巻き回されている。ステータ20の巻線は、集中巻きされていてもよく、分布巻きされていてもよい。
【0063】
ロータ30は、ステータ20(ステータコア21)に対して径方向の内側に配置される。ロータ30は、ロータコア31と、複数の永久磁石32と、を備える。ロータコア31は、ステータ20と同軸に配置される。ロータコア31の形状は、概ね環状(円環状)である。ロータコア31内には、回転軸60が配置される。回転軸60は、ロータコア31に固定される。複数の永久磁石32は、ロータコア31に固定される。本実施形態では、2つ1組の永久磁石32で1つの磁極が形成される。複数組の永久磁石32は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、それぞれの組の永久磁石32において中心軸線Oを中心とする中心角が30°になるように、12組(全体では24個)の永久磁石32が設けられる。
【0064】
本実施形態では、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータが採用される。ロータコア31には、ロータコア31を軸方向に貫通する複数の貫通孔33が形成される。複数の貫通孔33は、複数の永久磁石32に対応して設けられる。各永久磁石32は、対応する貫通孔33内に配置された状態でロータコア31に固定される。各永久磁石32のロータコア31への固定は、例えば永久磁石32の外面と貫通孔33の内面とを接着剤により接着すること等により、実現される。尚、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータに代えて表面磁石型モータを採用してもよい。
【0065】
図3は、ステータコア21の構成の一例を示す図である。図3は、ステータコア21を、ステータコア21の側方から見た図(側面図)である。図3に示すように、ステータコア21は、積層コアである。ステータコア21は、外縁が合う状態で板面(電磁鋼板が積層される方向を向く面)同士が相互に対向するように複数の電磁鋼板が積層されることで形成されている。即ち、ステータコア21は、厚み方向に積層された複数の電磁鋼板を備える。積層とは、板面同士が相互に対向するように積み重ねられることをいう。以下の説明では、複数の電磁鋼板が積層される方向を、必要に応じて、積層方向と称する。積層方向は、電磁鋼板400の厚み方向と一致する。積層方向は、中心軸線Oの延びる方向(ステータコア21の軸方向(高さ方向))と一致する。尚、ステータコア21は、周方向において分割されていない。複数の電磁鋼板は、例えば、カシメ加工や接着剤を用いることにより固定される。
【0066】
尚、ステータコア21の高さ(積層方向の長さ)は、例えば50.0mmとされる。ステータコア21の外径は、例えば250.0mmとされる。ステータコア21の内径は、例えば165.0mmとされる。ただし、これらの値は一例であり、ステータコア21の積厚、外径や内径は、これらの値に限られない。ここで、ステータコア21の内径は、ステータコア21におけるティース部23の先端部を基準とする。ステータコア21の内径は、全てのティース部23の先端部に内接する仮想円の直径である。
【0067】
図4は、ステータコア21を構成する第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板の圧延方向に対する位置関係の一例を示す図である。尚、図4の説明では、第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板を、電磁鋼板400と総称する。
【0068】
図4は、ステータコア21を構成する複数の電磁鋼板のうちの1枚を示す。電磁鋼板400は、フープ(母材)を図1に示す形に打ち抜くことにより構成される。このとき、ステータコア21を構成する全ての電磁鋼板400において、当該電磁鋼板400の各ティース(図1に示す例では18個のティース部23)を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係が、同じになるようにする。
【0069】
電磁鋼板400の各ティース部23を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係は、例えば、圧延方向と、電磁鋼板400の各ティース部23を構成する領域の中心軸とのなす角度で表される。
図4において、二点鎖線で示す仮想線Lは、電磁鋼板400の圧延方向である。二点鎖線で示す仮想線410a~410rは、電磁鋼板400のティース部23を構成する領域の中心軸である。電磁鋼板400のティース部23を構成する領域の中心軸410a~410rは、電磁鋼板400の板面に平行な方向(積層方向(Z軸方向)に垂直な方向)に延びる仮想的な直線であって、電磁鋼板400(ステータコア21)の中心軸線Oと当該ティース部23を構成する領域の周方向の中心とを通る仮想的な直線である。
【0070】
図4に示す例では、何れのフープ(母材)を打ち抜く場合も、圧延方向Lと中心軸410a~410rとのなす角度が同じになるようにする。このようにするには、例えば、フープ(母材)に対する金型の位置関係を一定にして打ち抜き加工を行えばよい。このようにしてフープ(母材)を打ち抜くことにより、ステータコア21を構成する電磁鋼板400が複数得られる。尚、図4では、中心軸410a、410jが圧延方向Lと一致する場合を例に挙げて示す。しかしながら、圧延方向Lは、中心軸と一致していなくてもよい。以上のように本実施形態では、第1の電磁鋼板も第2の電磁鋼板も、圧延方向Lと中心軸410a~410rとのなす角度が同じになる。尚、打ち抜きに替えて、例えば、レーザ加工により、図1に示す形に電磁鋼板を加工してもよい。
【0071】
図5Aは、第1の電磁鋼板510の磁気特性が最も優れる方向の一例を示す図である。以下の説明では、磁気特性が最も優れる方向を、必要に応じて磁化容易方向と称する。
図5Aに示すように、前述したように第1の電磁鋼板510は、(6a)式を満たす電磁鋼板である。本実施形態では、第1の電磁鋼板510の磁化容易方向が、圧延方向L(に平行な方向)と圧延方向Lとのなす角度が90°の方向Cとである場合を例に挙げて示す。
【0072】
図5Bは、第2の電磁鋼板520の磁気特性が最も優れる方向(磁化容易方向)の一例を示す図である。
前述したように第2の電磁鋼板520は、(7a)式を満たす電磁鋼板である。図5Bに示すように、本実施形態では、第2の電磁鋼板520の磁化容易方向が、圧延方向Lとなす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向D1、D2(に平行な方向)である場合を例に挙げて示す。尚、前述したように、X軸からY軸に向かう方向(紙面に向かって反時計回りの方向)およびY軸からX軸に向かう方向の何れの方向の角度も正の値の角度であるものとする。
尚、図5Aおよび図5Bに示す圧延方向L、圧延方向Lとなす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向D1、D2は、第1の電磁鋼板510、第2の電磁鋼板520に存在するこれらの方向のうち、中心軸線Oを通る方向である。
【0073】
(6a)式を満たす電磁鋼板を第1の電磁鋼板510とし、(7a)式を満たす電磁鋼板を第2の電磁鋼板520とし、積層方向から見た場合に圧延方向Lが揃うように第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を交互に積層することにより、回し積みをしなくても、積層方向において磁化容易方向の向きが異なるように電磁鋼板を積層させることができる。
【0074】
また、磁気異方性を強くして、磁化容易方向における磁気特性をより優れたものとするために、第1の電磁鋼板510が以下の(6b)式を満たし、且つ、第2の電磁鋼板520が以下の(7b)式を満たすのが好ましく、第1の電磁鋼板510が以下の(6c)式を満たし、且つ、第2の電磁鋼板520が以下の(7c)式を満たすのがより好ましい。(7b)式、(7c)式は、それぞれ、(4)式、(5)式と同じである。
(B50L+B50C)/2>1.1×(B50D1+B50D2)/2 ・・・(6b)
1.1×(B50L+B50C)/2<(B50D1+B50D2)/2 ・・・(7b)
(B50L+B50C)/2>1.2×(B50D1+B50D2)/2 ・・・(6c)
1.2×(B50L+B50C)/2<(B50D1+B50D2)/2 ・・・(7c)
【0075】
尚、(6a)式~(6c)式および(7a)式~(7c)式を一般化すると、以下の(8a)式および(8b)式のようになる。
(B50L+B50C)/2>α×(B50D1+B50D2)/2 ・・・(8b)
α×(B50L+B50C)/2<(B50D1+B50D2)/2 ・・・(8b)
αが1である場合が(6a)式および(7a)式であり、αが1.1である場合が(6b)式および(7b)式であり、αが1.2である場合が(6c)式および(7c)式である。理論的に、(B50L+B50C)/2が、√2×(B50D1+B50D2)/2を上回ることも、(B50D1+B50D2)/2が、√2×(B50L+B50C)/2を上回ることもない。従って、αの上限値は、√2(≒1.414)である。即ち、αは、1以上√2以下の値をとり得る。
【0076】
また、第1の電磁鋼板510において、(B50L+B50C)/2は、以下の(9a)式を満たすのが好ましい。また、第2の電磁鋼板520において、B50Dは、以下の(9b)式を満たすのが好ましい。磁化容易方向におけるB50を大きくし、磁化容易方向の磁気特性をより優れたものにすることができるからである。
[(B50L+B50C)/2]÷Bs>0.85 ・・・(9a)
[(B50D1+B50D2)/2]÷Bs>0.85 ・・・(9b)
【0077】
ここで、Bsは、飽和磁束密度(T)である。飽和磁束密度Bsは、例えば、VSM(試料振動型磁力計:Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定することができる。また、例えば、以下の(10)式を用いて飽和磁束密度Bsを求めてもよい。
Bs=2.1561-0.0413×Si-0.0198×Mn-0.0604×Al ・・・(10)
ここで、Siは、第2の電磁鋼板520におけるSiの含有量(質量%)であり、Mnは、第2の電磁鋼板520におけるMnの含有量(質量%)であり、第2の電磁鋼板520におけるAlは、Alの含有量(質量%)である。
【0078】
前述したように、ステータコア21を構成する際に、圧延方向Lを揃えて第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を積層する。
この際、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520が交互に1枚ずつまたは複数枚ずつ位置するように、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を交互に積層していればよい。
【0079】
例えば、積層方向において第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520が交互に1枚ずつ位置するように、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を交互に積層することができる。このようにすれば、ステータコア21の積層方向における磁気特性を均一化することができる。しかしながら、このようにすると、積層工程(電磁鋼板を積層させるための工程)の負担が大きくなる。
【0080】
そこで、積層方向において、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の少なくとも一方が複数枚連続して位置する部分が存在するように、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を交互に積層することができる。
【0081】
図6は、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520が交互に配置される様子の一例を示す図である。図6は、ステータコア21を、ステータコア21の側方から見た図(側面図)である。
図6において、第1の電磁鋼板群610a、610b、610cは、それぞれ、1枚または(圧延方向Lを揃えて積層された)複数枚の第1の電磁鋼板510を有する。図6では、第1の電磁鋼板群610a、610b、610cが複数枚の第1の電磁鋼板510を有する場合を例に挙げて示す。第1の電磁鋼板群610a、610b、610cを構成する第1の電磁鋼板510の枚数は、同じであっても異なっていてもよい。図6では、第1の電磁鋼板群610a、610b、610cを構成する第1の電磁鋼板510の枚数が同じである場合を例に挙げて示す。
【0082】
また、図6において、第2の電磁鋼板群620a、620b、620cは、それぞれ、1枚または(圧延方向Lを揃えて積層された)複数枚の第2の電磁鋼板520を有する。図6では、第2の電磁鋼板群620a、620b、620cが複数枚の第2の電磁鋼板520を有する場合を例に挙げて示す。第2の電磁鋼板群620a、620b、620cを構成する第2の電磁鋼板520の枚数は、同じであっても異なっていてもよい。図6では、第2の電磁鋼板群620a、620b、620cを構成する第2の電磁鋼板520の枚数が同じである場合を例に挙げて示す。
【0083】
第1の電磁鋼板群610a、610b、610cを構成する第1の電磁鋼板510の枚数と、第2の電磁鋼板群620a、620b、620cを構成する第2の電磁鋼板520の枚数は、第1の電磁鋼板群610a、610b、610および第2の電磁鋼板群620a、620b、620cの少なくとも1つが、複数枚の電磁鋼板(第1の電磁鋼板510、第2の電磁鋼板520)を有していれば、1枚であっても、2枚であってもよい。また、第1の電磁鋼板群610a、610b、610cを構成する第1の電磁鋼板510の枚数と、第2の電磁鋼板群620a、620b、620cを構成する第2の電磁鋼板520の枚数は、同じであっても異なっていてもよい。積層工程の負担を軽減する場合には、第1の電磁鋼板群610a、610b、610cを構成する第1の電磁鋼板510の枚数と、第2の電磁鋼板群620a、620bを構成する第2の電磁鋼板520の枚数とを同じにすることができる。
【0084】
また、ステータコア21の磁気特性を均一化する観点から、図6に示すように、第1の電磁鋼板群610a、610b、610cの数(=3)と、第2の電磁鋼板群620a、620bの数(=2)とが同じであるのが好ましいが、第1の電磁鋼板群の数と第2の電磁鋼板群の数は、異なっていてもよい。また、第1の電磁鋼板群の数と第2の電磁鋼板群の数は、幾つであってもよい。
【0085】
以上のように、積層方向において、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の少なくとも一方が複数枚連続して配置される部分が存在するように、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を交互に積層することにより、積層工程の負担を低減することができる。
【0086】
ただし、以下の(11)式を満たすようにするのが好ましい。
0.05×ZT≦Zl≦0.25×ZT ・・・(11)
ここで、Zlは、ステータコア21を構成する第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のそれぞれの高さ(積層方向の長さ)(mm)である。lは、1から、ステータコア21を構成する第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群の総数までの整数である。図6では、第1の電磁鋼板群610a、第2の電磁鋼板群620a、第1の電磁鋼板群610b、第2の電磁鋼板群620b、第1の電磁鋼板群610c、第2の電磁鋼板群620cの高さを、それぞれ、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5、Z6と表記する。また、ZTは、ステータコア21の高さ(積層方向の長さ)(mm)とする。
【0087】
ステータコア21を構成する第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のそれぞれの高さZlが、0.05×ZTを下回ると、積層工程の負担が大きくなる。ステータコア21を構成する第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のそれぞれの高さZlが、0.25×ZTを上回ると、ステータコア21の周方向における磁気特性を均一化する効果が低減する。
【0088】
また、ステータコア21に使用する第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の枚数(総数)は、以下の(12a)式~(12d)式を満たすのが好ましい。
1=(Bk2×t2×k2×β)÷(Bk1×t1) ・・・(12a)
0.7<β<1.3 ・・・(12b)
k1=(B50L+B50C)÷2 ・・・(12c)
k2=B50L ・・・(12d)
【0089】
ここで、k1は、ステータコア21に使用する第1の電磁鋼板510の枚数である。k2は、ステータコア21に使用する第2の電磁鋼板520の枚数である。t1は、ステータコア21に使用する第1の電磁鋼板510の厚み(mm)である。t2は、ステータコア21に使用する第2の電磁鋼板520の厚み(mm)である。尚、βは、(12b)式の範囲の定数である。
【0090】
第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の厚みt1、t2は、回転電機に使用される電磁鋼板の一般的に使用される厚みとすることができる。ただし、電磁鋼板が薄くなるに連れて次第に鉄損の改善効果が飽和する。また、電磁鋼板が薄くなるに連れて電磁鋼板の製造コストは増す。そのため、鉄損の改善効果および製造コストを考慮すると、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の厚みt1、t2は、0.10mm以上とすることが好ましい。一方、電磁鋼板が厚すぎると、電磁鋼板のプレス打ち抜き作業が困難になる。そのため、電磁鋼板のプレス打ち抜き作業を考慮すると、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の厚みt1、t2は、0.70mm以下とすることが好ましい。尚、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の厚みt1、t2には、絶縁被膜の厚みも含まれる。
【0091】
ステータコア21に使用する第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の枚数k1、k2が、(12a)式~(12d)式を満たすようにすることにより、ステータコア21において、第1の電磁鋼板510に起因する磁化容易方向L、Cの磁気特性と、第2の電磁鋼板520に起因する磁化容易方向D1、D2の磁気特性とを近付けることができる。従って、ステータコア21の周方向の磁気特性をより均一化することができる。
【0092】
また、第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のうち、相対的にコイルエンドに近い領域にある電磁鋼板群と、第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のうち、相対的に積層方向の中心に近い領域にある電磁鋼板群との、2つの電磁鋼板群を1つの組とする。この場合、当該2つの電磁鋼板群の一方の電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数と、他方の電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数とが異なる組が少なくとも1つあるようにするのが好ましい。ここでは、コイルエンドは、ステータコア21の積層方向の端の領域を指すものとする。
【0093】
図6に示す例では、前記2つの電磁鋼板群の組は、第1の電磁鋼板群610aおよび第2の電磁鋼板群620aの組と、第1の電磁鋼板群610aおよび第1の電磁鋼板群610bの組と、第1の電磁鋼板群610aおよび第2の電磁鋼板群620bの組と、第1の電磁鋼板群610aおよび第1の電磁鋼板群610cの組と、第2の電磁鋼板群620aおよび第1の電磁鋼板群610bの組と、第2の電磁鋼板群620bおよび第2の電磁鋼板群620bの組と、第2の電磁鋼板群620aおよび第2の電磁鋼板群620cの組と、第1の電磁鋼板群610bおよび第1の電磁鋼板群610cの組と、第1の電磁鋼板群610bおよび第2の電磁鋼板群620cの組と、第2の電磁鋼板群620bおよび第1の電磁鋼板群610cの組と、第2の電磁鋼板群620bおよび第2の電磁鋼板群620cの組と、第1の電磁鋼板群610cおよび第2の電磁鋼板群620cの組である。
【0094】
例えば、前記2つの電磁鋼板群の組として、相対的にコイルエンドに近い領域にある電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数の方が、相対的に積層方向の中心に近い領域にある電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数よりも少なくなる関係にある電磁鋼板群の組が少なくとも1つあるようにするのが好ましく、このような組が多い方がより好ましく、全ての組において、このようにするのがより一層好ましい。
【0095】
例えば、第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のうち、相対的にコイルエンドに最も近い領域にある電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数の方が、第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のうち、相対的に積層方向の中心に最も近い領域にある電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数よりも少なくなる関係になるようにする。図6に示す例では、第1の電磁鋼板群610aを構成する第1の電磁鋼板510の枚数と、第2の電磁鋼板群620cを構成する第2の電磁鋼板520の枚数が、第1の電磁鋼板群610bを構成する第1の電磁鋼板510の枚数および第2の電磁鋼板群620bを構成する第2の電磁鋼板520の枚数よりも少なくなるようにする。
【0096】
コイルエンドに近い領域で積層方向において磁化容易方向の向きが異なる電磁鋼板を細かく交互に配置する理由は以下の通りである。ステータコアで生じるエネルギーロスは、積層方向の中心部よりも、コイルエンド近傍で増える。コイルエンド近傍では磁気回路が非対称になり、磁束の分布が不均一になるためと考えられる。そこで、コイルエンドに近い領域で積層方向において磁化容易方向の向きが異なる電磁鋼板を細かく交互に配置して、磁化容易方向をコイルエンド近傍で均等化することで、磁束の分布の不均一を緩和させることにより、エネルギーロスを低減できる。
【0097】
ただし、必ずしもこのようにする必要はなく、前記2つの電磁鋼板群の組として、相対的にコイルエンドに近い領域にある電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数の方が、相対的に積層方向の中心に近い領域にある電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数よりも多くなる関係にある電磁鋼板群の組が少なくとも1つあるようにしてもよく、全ての組において、このようにしてもよい。
また、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明したように、以上のようにして構成されるステータコア21に対して、歪取焼鈍が行われる。
【0098】
(まとめ)
以上のように本実施形態では、圧延方向Lを揃えて積層方向に第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を交互に積層することによりステータコア21を構成する。従って、生産性の低下を抑制しつつ磁気特性を改善することができる積層コアおよび回転電機を提供することができる。第1の電磁鋼板510が(6b)式を満たすようにすれば、ステータコア21の磁気特性をより向上させることができ、第1の電磁鋼板510が(6c)式を満たすようにすれば、ステータコア21の磁気特性をより一層向上させることができる。同様に、第2の電磁鋼板520が(7b)式を満たすようにすれば、ステータコア21の磁気特性をより向上させることができ、第2の電磁鋼板520が(7c)式を満たすようにすれば、ステータコア21の磁気特性をより一層向上させることができる。
【0099】
また、本実施形態では、積層方向において、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520の少なくとも一方が複数枚連続して配置される部分が存在するように、第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を交互に積層する。このようにすれば、積層工程の負担を低減することができる。
【0100】
このとき、(11)式を満たすようにすれば、積層工程の負担を低減しつつ、ステータコア21の周方向における磁気特性が不均一になることを抑制することができる。
また、このとき、第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のうち、相対的にコイルエンドに近い領域にある電磁鋼板群と、第1の電磁鋼板群および第2の電磁鋼板群のうち、相対的に積層方向の中心に近い領域にある電磁鋼板群との、2つの電磁鋼板群の組として、前者の電磁鋼板の枚数の方が、後者の電磁鋼板群を構成する電磁鋼板の枚数よりも少なくなる関係にある電磁鋼板群の組が少なくとも1つあるようにすれば、積層方向における磁気特性を均一化することができる。
【0101】
また、本実施形態では、(12a)式~(12d)式を満たすようにする。従って、ステータコア21の周方向の磁気特性をより均一化することができる。
【0102】
(変形例)
<変形例1>
ステータコアの形状は、図1に示した形状に限定されるものではない。具体的には、ステータコアの外径および内径の寸法、積厚、スロット数、ティース部の周方向と径方向の寸法比率、ティース部とコアバック部との径方向の寸法比率、などは所望の回転電機の特性に応じて任意に設計可能である。
【0103】
<変形例2>
本実施形態では、2つ1組の永久磁石32で1つの磁極を形成するロータ30を例に挙げて説明した。しかしながら、ロータの構成は、このようなものに限定されない。例えば、1つの永久磁石32で1つの磁極を形成していてもよく、3つ以上の永久磁石32で1つの磁極を形成していてもよい。
【0104】
<変形例3>
本実施形態では、インナーロータ型の回転電機を例に挙げて説明したが、回転電機はこれに限定されない。例えば、アウターロータ型の回転電機であってもよい。また、本実施形態では、ステータ20とロータ30とが径方向において間隔を有して対向するラジアルギャップ型の回転電機を例に挙げて説明したが、回転電機はこれに限定されない。例えば、ステータとロータとが軸方向において間隔を有して対向するアキシャルギャップ型の回転電機であってもよい。
【0105】
また、本実施形態では、回転電機10として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明した。しかしながら、回転電機の構造は、以下に例示するようにこれに限定されず、更には以下に例示しない種々の公知の構造も採用可能である。
まず、本実施形態では、同期電動機として、永久磁石界磁型電動機を例に挙げて説明したが、回転電機はこれに限定されない。例えば、回転電機がリラクタンス型電動機や電磁石界磁型電動機(巻線界磁型電動機)であってもよい。また、本実施形態では、交流電動機として、同期電動機を一例に挙げて説明したが、回転電機はこれに限定されない。例えば、回転電機が誘導電動機であってもよい。また、本実施形態では、電動機として、交流電動機を一例に挙げて説明したが、回転電機はこれに限定されない。例えば、回転電機が直流電動機であってもよい。また、本実施形態では、回転電機として、電動機を一例に挙げて説明したが、回転電機はこれに限定されない。例えば、回転電機が発電機であってもよい。
【0106】
<変形例4>
本実施形態では、積層コアをステータコアに適用した場合を例に挙げて説明した。しかしながら、積層コアはステータコア以外にも適用することができる。例えば、積層コアを、ロータコアに適用することも可能である。
【0107】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0108】
(実施例)
次に、実施例を説明する。
本発明者らは、以下の永久磁石界磁型の三相交流電動機(以下、回転電機と称する)の無負荷運転時のエネルギー損失の評価をした。ステータコアおよびロータコアの形状は、何れも図1に示すものと同じである。
ステータコアの外径:250.0mm
ステータコアの内径:165.0mm
ステータコアの高さ(積厚):50.0mm
第1の電磁鋼板・第2の電磁鋼板の厚み:0.25mm
極数:12
スロット数:18
ロータコアの外径:163.0mm
ロータコアの内径:30.0mm
ロータコアの高さ:50.0mm
回転数:1000rpm
【0109】
入力(電力)と出力(動力)の差分からエネルギー損失を求めた。入力は、回転電機に与えた電圧と電流との積の時間積分値を指し、出力は、三相交流電動機の回転速度と回転力(トルク)との積の時間積分値を指す。エネルギー損失が小さいことは、ステータコアの磁気特性が良いことに対応する。
【0110】
発明例のステータコアは、圧延方向を揃えて積層方向に第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板を交互に積層することにより構成される。
比較例のステータコアは、圧延方向を揃えて積層方向に第1の電磁鋼板のみを積層することにより構成される。
第1の電磁鋼板として、国際公開第2018/220839号に記載されている無方向性電磁鋼板を用いた。第2の電磁鋼板として、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明した無方向性電磁鋼板を用いた。
比較例のステータコアを用いた回転電機のエネルギー損失を1とした時の比較例、発明例のエネルギー損失を表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
表4において、No.1は、比較例のステータコアを用いた回転電機に対する結果である。ステータコアを構成する第1の電磁鋼板のみでは、(6a)式を満たすが、(7a)式~(7c)式を満たさない。
【0113】
No.2~9は、発明例のステータコアを用いた回転電機に対する結果である。
No.2~5は、第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板を交互に1枚ずつ配置して構成したステータコアを用いた回転電機に対する結果である。
【0114】
No.2における第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板は、(6a)式および(7a)式を満たすが、(6b)式~(6c)式および(7b)式~(7c)式を満たさない。
No.3における第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板は、(6b)式および(7b)式を満たすが、(6c)式および(7c)式を満たさない。
No.4における第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板は、(6c)式および(7c)式を満たす。
No.2~4における第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板は、これらの点のみが異なる。No.2~4における第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板は、何れも(9a)式および(9b)式と、(12a)式~(12d)式を満たす。
【0115】
No.1とNo.2とを比較すると、圧延方向を揃えて積層方向に第1の電磁鋼板510および第2の電磁鋼板520を交互に積層することにより、ステータコアの磁気特性が大きく向上することが分かる。
No.2~4を比較すると、第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板が、(6a)式および(7a)式を満たす場合よりも、(6b)式および(7b)式を満たす場合の方が、ステータコアの磁気特性が向上し、更に、(6b)式および(7b)式を満たす場合よりも、(6c)式および(7c)式を満たす場合の方が、ステータコアの磁気特性が向上することが分かる。
【0116】
No.5における第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板は、(9a)式および(9b)式を満たさない。No.5における第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板は、No.2における第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板とこの点のみが異なる。
No.2とNo.5とを比較すると、(9a)式および(9b)式を満たすようにすることで、ステータコアの磁気特性が向上することが分かる。
【0117】
No.6~9は、第1の電磁鋼板群と第2の電磁鋼板群を交互に配置して構成したステータコアを用いた回転電機に対する結果である。
No.6は、第1の電磁鋼板群の数を5とし、第1の電磁鋼板群を構成する第1の電磁鋼板の数を20枚とし、第2の電磁鋼板群の数を5とし、第2の電磁鋼板群を構成する第2の電磁鋼板の数を20枚とした場合の結果を示す。No.7は、第1の電磁鋼板群の数を5とし、第1の電磁鋼板群を構成する第1の電磁鋼板の数を25枚とし、第2の電磁鋼板群の数を5とし、第2の電磁鋼板群を構成する第2の電磁鋼板の数を15枚とした場合の結果を示す。このように、No.6とNo.7は、(11)式を満たす。また、No.6では、(12a)式~(12d)式を満たすが、No.7では、(12a)式~(12d)式を満たさない。No.7は、No.6とこの点のみが異なる。尚、No.6とNo.7において、第1の電磁鋼板群を構成する第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板群を構成する第2の電磁鋼板は、同じものである。第1の電磁鋼板群を構成する第1の電磁鋼板および第2の電磁鋼板群を構成する第2の電磁鋼板は、(6a)式および(7a)式を満たすが、(6b)式~(6c)式および(7b)式~(7c)式を満たさない。
No.6とNo.7とを比較すると、(12a)式~(12d)式を満たすようにすることで、ステータコアの磁気特性が向上することが分かる。
【0118】
No.8は、第1の電磁鋼板群の数を1とし、第1の電磁鋼板群を構成する第1の電磁鋼板の数を100枚とし、第2の電磁鋼板群の数を1とし、第2の電磁鋼板群を構成する第2の電磁鋼板の数を100枚とした場合の結果を示す。このように、No.6とNo.8では、第1の電磁鋼板群を構成する第1の電磁鋼板の数と、第2の電磁鋼板群を構成する第2の電磁鋼板の数は同じである。No.6では(11)式を満たし、No.8では(11)式を満たさない。No.6とNo.8はこの点のみが異なる。
No.6とNo.8とを比較すると、(11)式を満たすようにすることで、ステータコアの磁気特性が向上することが分かる。
【0119】
No.9は、基本的な積み方はNo.6と同じだが、No.9のステータコアでは、No.6のステータコアにおいて、コイルエンドに最も近い位置にある第1の電磁鋼板群のコイルエンドに接している1枚を第2の電磁鋼板群の第2の電磁鋼板とし、コイルエンドに最も近い位置にある第2の電磁鋼板群のコイルエンドに接している1枚を第1の電磁鋼板群の第1の電磁鋼板とした。No.6とNo.9はこの点のみが異なる。
No.6とNo.9とを比較すると、コイルエンドに最も近い位置にある第1の電磁鋼板群・第2の電磁鋼板群を構成する第1の電磁鋼板・第2の電磁鋼板の数を、積層方向の中心に最も近い位置にある第1の電磁鋼板群・第2の電磁鋼板群を構成する第1の電磁鋼板・第2の電磁鋼板の数よりも少なくすることで、ステータコアの磁気特性が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0120】
10:回転電機、20:ステータ、21:ステータコア(積層コア)、30:ロータ、40:電磁鋼板、50:ケース、60:回転軸、510:第1の電磁鋼板、520:第2の電磁鋼板、610a~610c:第1の電磁鋼板群、620a~620b:第2の電磁鋼板群、L:圧延方向(第1の電磁鋼板の磁化容易方向)、D1,D2:第2の電磁鋼板の磁化容易方向、O:中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6