(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】電気化学測定用の電極体
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20240515BHJP
G01N 27/403 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
G01N27/30 311C
G01N27/403 371L
(21)【出願番号】P 2020010424
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雅人
(72)【発明者】
【氏名】伊東 哲
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-064340(JP,A)
【文献】特開2016-085098(JP,A)
【文献】特開2016-001163(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115587(WO,A1)
【文献】特開平10-104189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/30,27/36,
G01N 27/403,27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHの正常値が所定のpHである酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定に用いられる電極体において、
液を収容可能な室と、
前記室に収容された内部液と、
前記内部液に接触するように配置された内極と、
前記室の内部の前記内部液と前記被検液との間の電気的接続を可能とする液絡部と、
を有し、
前記内部液は、前記被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であ
り、該被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±1.0の範囲以内のpHであることを特徴とする電極体。
【請求項2】
前記室は、互いに区画され
てそれぞれに前記内部液が収容された複数の分室を有して構成され、
前記液絡部は、前記複数の分室の内部にそれぞれ収容された前記内部
液と前記被検液との間の
直列的な電気的接続を可能とするように複数設けられており、
前記内極は、前記複数の分室のうち、複数の前記液絡部を介し
て直列的に配置された前記複数の分室内を通る導通経路のうち前記被検液から最も遠い分室の内部に収容された前記内部液に接触するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電極体。
【請求項3】
前記複数の分室のうち、複数の前記液絡部を介し
て直列的に配置された前記複数の分室内を通る導通経路のうち前記被検液に最も近い分室の内部には、該分室に収容された前記内部液の電解質成分の錠剤が収容されていることを特徴とする請求項2に記載の電極体。
【請求項4】
前記内部液は、塩化カリウム、硝酸カリウム又は酢酸リチウムを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電極体。
【請求項5】
前記内極は、ガラス電極であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電極体。
【請求項6】
前記ガラス電極の内部液は、前記被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であ
り、該被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±1.0の範囲以内のpHであることを特徴とする請求項5に記載の電極体。
【請求項7】
前記内極は、銀/塩化銀電極であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電極体。
【請求項8】
pHの正常値が所定のpHである酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定に用いられる電極体において、
液を収容可能な第1室と、
前記第1室に収容された第1内部液と、
前記第1内部液に浸漬されるように前記第1室の内部に配置された内極と、
前記第1室を形成する壁部の少なくとも一部に設けられたpHガラス感応膜と、
前記pHガラス感応膜と接触するように液を収容可能な第2室と、
前記pHガラス感応膜と接触するように前記第2室に収容された第2内部液と、
前記第2室を形成する壁部のうち前記第1室と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、前記第2室の内部の前記第2内部液と前記第2室の外部の液との間の電気的接続を可能とする液絡部である第2室液絡部と、
前記第2室液絡部と接触するように液を収容可能な第3室と、
前記第2室液絡部と接触するように前記第3室に収容された第3内部液と、
前記第3室を形成する壁部のうち前記第2室と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、前記第3室の内部の前記第3内部液と前記第3室の外部の液との間の電気的接続を可能とする液絡部である第3室液絡部と、
を有し、
前記第2内部液及び前記第3内部液は、それぞれ前記被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であ
り、該被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±1.0の範囲以内のpHであることを特徴とする電極体。
【請求項9】
前記第2内部液及び前記第3内部液は、それぞれ塩化カリウム、硝酸カリウム又は酢酸リチウムを含有することを特徴とする請求項8に記載の電極体。
【請求項10】
前記第3室液絡部は、前記第3内部液と前記被検液とに接触し、前記第3内部液が塩化カリウムを含有する場合は前記第3室には塩化カリウムの錠剤が収容されており、前記第3内部液が硝酸カリウムを含有する場合は前記第3室には硝酸カリウムの錠剤が収容されており、前記第3内部液が酢酸リチウムを含有する場合は前記第3室には酢酸リチウムの錠剤が収容されていることを特徴とする請求項9に記載の電極体。
【請求項11】
前記第1内部液は、前記被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であ
り、該被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±1.0の範囲以内のpHであることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一項に記載の電極体。
【請求項12】
pHの正常値が所定のpHである酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定に用いられる電極体において、
液を収容可能な第1室と、
前記第1室に収容された第1内部液と、
前記第1内部液に浸漬されるように前記第1室の内部に配置された内極と、
前記第1室を形成する壁部の少なくとも一部に設けられ、前記第1室の内部の前記第1内部液と前記第1室の外部の液との間の電気的接続を可能とする液絡部である第1室液絡部と、
前記第1室液絡部と接触するように液を収容可能な第2室と、
前記第1室液絡部と接触するように前記第2室に収容された第2内部液と、
前記第2室を形成する壁部のうち前記第1室と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、前記第2室の内部の前記第2内部液と前記第2室の外部の液との間の電気的接続を可能とする液絡部である第2室液絡部と、
を有し、
前記第1内部液及び前記第2内部液は、それぞれ前記被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であ
り、該被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±1.0の範囲以内のpHであることを特徴とする電極体。
【請求項13】
前記第1内部液及び前記第2内部液は、それぞれ塩化カリウム、硝酸カリウム又は酢酸リチウムを含有することを特徴とする請求項12に記載の電極体。
【請求項14】
前記第2室液絡部は、前記第2内部液と前記被検液とに接触し、前記第2内部液が塩化カリウムを含有する場合は前記第2室には塩化カリウムの錠剤が収容されており、前記第2内部液が硝酸カリウムを含有する場合は前記第2室には硝酸カリウムの錠剤が収容されており、前記第2内部液が酢酸リチウムを含有する場合は前記第2室には酢酸リチウムの錠剤が収容されていることを特徴とする請求項13に記載の電極体。
【請求項15】
前記被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±0.5の範囲以内のpHであることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の電極体。
【請求項16】
前記
所定のpHは、pH5.5未満又はpH8.5を超えていることを特徴とする請求項1乃至
15のいずれか一項に記載の電極体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性又はアルカリ性の被検液のpH測定、イオン濃度測定、酸化還元電位(ORP)測定などの電気化学測定に用いられる、比較電極あるいは該比較電極と測定電極とを備えた複合電極とされる電極体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、pH測定には、水素イオンに感応するガラス感応膜(pHガラス感応膜)を備えたpH測定用のガラス電極(pHガラス電極)で構成された測定電極と、比較電極(基準電極、参照電極)と、が用いられる。つまり、測定電極と比較電極とが被検液に浸漬されて、両電極間の電位差に基づいて被検液のpH値が求められる。比較電極は、最も簡単な構成としては、液を収容可能な収容部と、一般に銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)とされる内極(内部電極)と、収容部に収容された比較内部液と、収容部の内外の液間の電気的な接続を可能とするための液絡部と、を有する構成とされる。測定電極と比較電極とが一体的に構成されたpH測定用の複合電極(pH複合電極)も広く用いられている。
【0003】
また、より高精度なpH測定を可能とする方式として、内極がガラス電極で構成された比較電極を用いる差動測定方式がある。
図5に示すように、差動測定方式では、2個のガラス電極が用いられる。一方のガラス電極は測定電極101として用いられ、他方のガラス電極121は比較電極102の内極として用いられる。比較電極102のガラス電極121は、電極室122内に配置されている。図示の例では、比較電極102は、比較内部液の収容部が二重の構造とされ、二重の液絡部が設けられた、ダブルジャンクション方式のものであり、電極室122に隣接して塩橋室123が設けられている。電極室122、塩橋室123には、それぞれ高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウム(KCl)を含む約pH7.0のpH緩衝液とされる比較内部液S22、S23が収容されている。また、液絡部124、125によって、電極室122内の比較内部液S22と塩橋室123内の比較内部液S23との間、塩橋室123内の比較内部液S23と比較電極102の外部の被検液との間の電気的接続がそれぞれ可能とされている。なお、比較電極102のガラス電極の内部液S21も、高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウム(KCl)を含む約pH7.0のpH緩衝液とされている。液アース電極103を共通にして、測定電極101と液アース電極103との間の電位差、比較電極102と液アース電極103との電位差を測定することで、液アース電極103の電位をキャンセルして、測定電極101と比較電極102との間の電位差を求めることができる。そして、この電位差に基づいてpH値を求めることができる。また、温度センサ104による被検液の温度の検知結果に基づいてpHの測定値の温度補償を行うことができる。差動測定方式を採用したpH複合電極もある(特許文献1)。
【0004】
差動測定方式は、比較電極の内極がガラス電極であるため比較電極の電位が安定すること、共通の液アース電極に対する電位差を測定することで電気的ノイズの影響を低減できることなどから、より高精度な測定が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば上記従来の差動測定方式を採用したpH複合電極を用いて、酸性又はアルカリ性の被検液のpHを長期間にわたり測定する場合、頻繁に標準液を用いた校正を行ったり、比較内部液の交換を行ったりしないと、測定誤差が生じやすくなることがわかった。
【0007】
pH複合電極は、例えばほぼ一定のpHを有する酸性又はアルカリ性の被検液を長期間にわたりモニタリングするのに用いられることがある。例えば、アルカリ性の被検液の一例として、工作機械で用いられる水溶性切削油剤(pH9.0程度)が挙げられる。また、酸性の被検液の一例として、内視鏡などの医療器具を洗浄消毒するための医療器具洗浄消毒器で用いられる強酸性電解水(pH2.0程度)が挙げられる。このような被検液のpHのモニタリングを行う場合、長期間にわたり標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わずに安定して測定を行えることが求められる。しかし、このような被検液のpHのモニタリングを上記従来の差動測定方式を採用したpH複合電極を用いて行うと、上述のように、頻繁に標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わないと測定誤差が生じやすくなる。
【0008】
これは、酸性又はアルカリ性の被検液が比較電極の液絡部を通して比較内部液に拡散し、比較内部液のpHが変動して、基準電位が変化することによるものである。比較電極がダブルジャンクション方式のものであっても、被検液が塩橋室内の比較内部液に拡散して塩橋室内の比較内部液のpHを変動させ、更に塩橋室内の比較内部液が電極室内の比較内部液に拡散して電極室内の比較内部液のpHを変動させる。このように比較電極の基準電位が変化すると、結果的に検量線のシフトが生じることとなるため、頻繁に標準液を用いた校正を行うことが必要となる。あるいは、頻繁に比較内部液の交換を行うことが必要になる。
【0009】
なお、以上では、差動測定方式を例に従来の課題について説明したが、同様の課題は、例えば内極が銀/塩化銀電極である比較電極(あるいはこれを備えた複合電極)においても生じ得る。このような比較電極においても、被検液が液絡部を通して比較内部液に拡散して銀/塩化銀電極の電位を変動させることを抑制するために、比較内部液の収容部を二重の構造として、二重の液絡部を設けたダブルジャンクション方式のものもある。しかし、ダブルジャンクション方式のものであっても、酸性又はアルカリ性の被検液の測定を長期間にわたり継続して測定する際には、被検液が比較内部液に拡散して内極の電位を変動させることがあるため、頻繁に標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わないと測定誤差が生じやすくなることがある。比較電極がシングルジャンクション方式のものである場合には、この傾向は更に顕著となる。
【0010】
また、以上では、測定対象がpHである場合を例に従来の課題について説明したが、測定対象が水素イオン以外のイオン濃度やORPであり、測定電極が対応する測定電極(イオン濃度測定電極、ORP測定電極)である場合であっても、酸性又はアルカリ性の被検液の測定を長期間にわたり継続して測定する際には同様の課題が生じ得る。
【0011】
したがって、本発明の目的は、酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定を、比較的長期間にわたり継続的に安定して行うことを可能とする電気化学測定用の電極体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は本発明に係る電極体にて達成される。要約すれば、本発明は、pHの正常値が所定のpHである酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定に用いられる電極体において、液を収容可能な室と、前記室に収容された内部液と、前記内部液に接触するように配置された内極と、前記室の内部の前記内部液と前記被検液との間の電気的接続を可能とする液絡部と、を有し、前記内部液は、前記被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であり、該被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±1.0の範囲以内のpHであることを特徴とする電極体である。
【0013】
本発明の他の態様によると、pHの正常値が所定のpHである酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定に用いられる電極体において、液を収容可能な第1室と、前記第1室に収容された第1内部液と、前記第1内部液に浸漬されるように前記第1室の内部に配置された内極と、前記第1室を形成する壁部の少なくとも一部に設けられたpHガラス感応膜と、前記pHガラス感応膜と接触するように液を収容可能な第2室と、前記pHガラス感応膜と接触するように前記第2室に収容された第2内部液と、前記第2室を形成する壁部のうち前記第1室と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、前記第2室の内部の前記第2内部液と前記第2室の外部の液との間の電気的接続を可能とする液絡部である第2室液絡部と、前記第2室液絡部と接触するように液を収容可能な第3室と、前記第2室液絡部と接触するように前記第3室に収容された第3内部液と、前記第3室を形成する壁部のうち前記第2室と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、前記第3室の内部の前記第3内部液と前記第3室の外部の液との間の電気的接続を可能とする液絡部である第3室液絡部と、を有し、前記第2内部液及び前記第3内部液は、それぞれ前記被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であり、該被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±1.0の範囲以内のpHであることを特徴とする電極体が提供される。
【0014】
また、本発明の他の態様によると、pHの正常値が所定のpHである酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定に用いられる電極体において、液を収容可能な第1室と、前記第1室に収容された第1内部液と、前記第1内部液に浸漬されるように前記第1室の内部に配置された内極と、前記第1室を形成する壁部の少なくとも一部に設けられ、前記第1室の内部の前記第1内部液と前記第1室の外部の液との間の電気的接続を可能とする液絡部である第1室液絡部と、前記第1室液絡部と接触するように液を収容可能な第2室と、前記第1室液絡部と接触するように前記第2室に収容された第2内部液と、前記第2室を形成する壁部のうち前記第1室と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、前記第2室の内部の前記第2内部液と前記第2室の外部の液との間の電気的接続を可能とする液絡部である第2室液絡部と、を有し、前記第1内部液及び前記第2内部液は、それぞれ前記被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であり、該被検液のpHに近似したpHは、前記所定のpHに対して±1.0の範囲以内のpHであることを特徴とする電極体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定を、比較的長期間にわたり継続的に安定して行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例に係る電極体の断面図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る電極体に用いられる電極部材の断面図である。
【
図3】本発明の効果を示す実験例の結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の他の実施例に係る電極体に用いられる電極部材の断面図である。
【
図5】差動測定方式によるpH測定を説明するための模式図である。
【
図6】電極体の他の実施例を説明するための模式図である。
【
図7】電極体の更に他の実施例を説明するための模式図である。
【
図9】他の実施例に係る電極体に用いられる電極部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電気化学測定用の電極体を図面に則して更に詳しく説明する。
【0018】
[実施例1]
1.電極体の構成
まず、本発明の一実施例に係る電極体の構成について説明する。本実施例では、電極体は、差動測定方式を採用したpH測定用の複合電極(一軸対称差動式pH測定用電極)とされる。また、本実施例の複合電極は、例えばほぼ一定のpHを有する酸性又はアルカリ性の被検液を長期間にわたりモニタリングするのに用いられる。
【0019】
図1は、本実施例の複合電極1の断面図である。また、
図2は、本実施例の複合電極1に用いられている電極部材2の断面図である。複合電極1は、全体として軸線を有する一方向に長い棒状に形成されている。複合電極1は、通常、その軸線方向が鉛直方向に沿うように配置されて使用される。以下、
図1、
図2の上下に対応する方向を、複合電極1及びその要素についての上下方向として説明することがあるが、本発明は複合電極1の使用時の向きを何ら特定するものではない。
【0020】
複合電極1は、電極部材2を有する。電極部材2は、
図2に示すように、上方の基端部2aと、その反対側である下方の先端部2bと、を結ぶ軸線方向Xに沿って、一方向に長く形成されており、次のような同軸状の三重管構造を有している。つまり、電極部材2は、軸線方向Xにおいて先端部2b側の端部が封止されたガラス製の第1の管(以下「内管」ともいう。)21を有する。また、電極部材2は、軸線方向Xにおいて内管21の基端部2a側の少なくとも一部を取り囲み先端部2b側の端部が封止されたガラス製の第2の管(以下「中央管」ともいう。)22を有する。また、電極部材2は、軸線方向Xにおいて中央管22の基端部2a側の少なくとも一部を取り囲み先端部2b側の端部が封止されたガラス製の第3の管(以下「外管」ともいう。)23を有する。本実施例では、電極部材2は、その軸線方向Xが、複合電極1の全体の軸線方向と実質的に一致するように配置される。
【0021】
内管21は、軸線方向Xに直交する断面が略円形の、ガラスで形成された略直線状の管状部材である。内管21は、内径及び外径が小さい基端部2a側の小径部21aと、内径及び外径が小径部21aより大きい先端部2b側の大径部21bと、を有する。小径部21aと大径部21bとは、実質的に同軸状に連続して形成されている。中央管22は、軸線方向Xに直交する断面が略円形の、略一様な内径及び外径を有する、ガラスで形成された略直線状の管状部材である。中央管22は、その先端部2b側の端部22aが、内管21の小径部21aと大径部21bとの連結部21cの近傍において、内管21に接合(熔着)されている。外管23は、軸線方向Xに直交する断面が略円形の、略一様な内径及び外径を有する、ガラスで形成された略直線状の管状部材である。外管23は、その先端部2b側の端部23aが、中央管22の上下略中央の側部22dに接合(熔着)されている。
【0022】
内管21により、液を収容可能な第1の収容部26が形成される。この段付き円柱状の空間である第1の収容部26には、測定内部液S1が収容される。つまり、この複合電極1における第1の収容部26は、測定電極Mにおける液(測定内部液S1)を収容可能な室(チャンバー)である測定室を構成する。また、内管21と中央管22とにより、液を収容可能な第2の収容部27が形成される。この内管21と中央管22とで形成される環状の空間である第2の収容部27には、比較第2内部液S22が収容される。つまり、この複合電極1における第2の収容部27は、比較電極Rにおける液(比較第2内部液S22)を収容可能な室(チャンバー)である比較第2室を構成する。また、中央管22と外管23とにより、液を収容可能な第3の収容部28が形成される。この中央管22と外管23とで形成される環状の空間である第3の収容部28には、比較第1内部液S21が収容される。つまり、この複合電極1における第3の収容部28は、比較電極Rにおける液(比較第1内部液S21)を収容可能な室(チャンバー)である比較第1室を構成する。本実施例では、内管21、中央管22及び外管23は、軸線方向Xに対して実質的に同軸状に、互いに間隔をあけて配置されている。
【0023】
内管21における中央管22に取り囲まれていない領域、特に本実施例では内管21の先端部2b側の端部に、測定用感応部としてpHガラス感応膜である測定用ガラス感応膜24が設けられている。測定用ガラス感応膜24は、内管21の軸線方向の端部に下方に凸の略半球状に形成され、内管21に熔着されて一体化されている。測定用ガラス感応膜24は、内管21の底部を構成する。また、中央管22における外管23に取り囲まれた領域の軸線方向Xの一部は、pHガラス感応膜である筒状の比較用ガラス感応膜25で形成されている。比較用ガラス感応膜25は、中央管22の軸線方向の一部に熔着されて一体化されている。本実施例では、比較用ガラス感応膜25は、中央管22の他の部分と略同一の内径及び外径を有し、中央管22と実質的に同軸状に形成されて、中央管22の一部を構成する。また、中央管22における外管23に取り囲まれていない領域に、第2の収容部27の内外の液間の電気的接続を可能とする液絡部(第2室液絡部)29が設けられている。液絡部29は、中央管22を貫通するように中央管22に封入されている。本実施例では、液絡部29は、多孔質部材の一例である多孔質セラミックで形成された、略円柱形(丸棒形)の部材である。
【0024】
また、複合電極1は、第1の収容部(測定室)26に収容された測定内部液S1に浸漬される測定電極内極11を有する。本実施例では、測定電極内極11は、銀/塩化銀電極である。また、複合電極1は、第3の収容部(比較第1室)28に収容された比較第1内部液S21に浸漬される比較電極内極12を有する。本実施例では、比較電極内極12は、銀/塩化銀電極である。測定電極内極11、比較電極内極12には、それぞれリード14、15が接続される。電極部材2の基端部2aは、第1、第2、第3の収容部26、27、28にそれぞれ測定内部液S1、比較第2内部液S22、比較第1内部液S21が収容され、また第1、第3の収容部26、28にそれぞれ測定電極内極11、比較電極内極12が配置された状態で、キャップ7で封止される。測定電極内極11、比較電極内極12にそれぞれ接続されたリード14、15は、それぞれ第1の収容部26、第3の収容部28内を通って上方へと延長された後、キャップ7を貫通して液密状態を保って引き出され、後述するプリアンプ8に接続される。本実施例では、キャップ7は、シリコーンゴムで形成されたパッキンとされ、このキャップ7が電極部材2の基端部2aに固定される。この固定は、例えば圧入嵌合、螺合、接着などの任意の手段で行うことができるが、本実施例では圧入嵌合した上で接着した。そして、後述するように、キャップ7で基端部2aが封止された電極部材2が、外筒3の内部に配置されて、固定される。測定電極内極11、比較電極内極12は、銀/塩化銀電極に限定されるものではなく、それぞれ例えば水銀/塩化第一水銀電極(Hg/Hg2Cl2電極)、水銀/硫酸第一水銀電極(Hg/Hg2SO4電極)などの他の電極を用いてもよい。
【0025】
また、複合電極1は、電極部材2の軸線方向Xに沿って電極部材2を取り囲んで配置され、電極部材2との間に液を収容可能な第4の収容部30を形成する外筒3を有する。この複合電極1における第4の収容部30は、後述するように比較電極Rにおける液(比較第3内部液S23)を収容可能な室(チャンバー)である比較第3室を構成する。外筒3は、複合電極1の軸線方向に直交する断面が略円形の、樹脂(プラスチック)又はガラスなどの絶縁部材(本実施例ではポリサルフォン樹脂)で形成された略直線状の管状部材である。外筒3は、上方の回路収容部3bと、内径及び外径が回路収容部3bより小さい下方の電極収容部3aと、を有する。電極収容部3aと回路収容部3bとは、実質的に同軸状に連続して形成されている。電極収容部3a内に電極部材2が配置され、電極収容部3aの上方の端部の内周に対しキャップ7の外周が固定されることで、電極部材2が外筒3の内部で固定される。この固定は、例えば圧入嵌合、螺合、接着などの任意の手段で行うことができるが、本実施例ではキャップ7の外周に形成されたネジ部と電極収容部3aの内周に形成されたネジ部とを螺合した上で接着した。外筒3の回路収容部3b内には、プリアンプ8とコネクタ9とが配置される。プリアンプ8は、コネクタ9を介して、ケーブル(図示せず)によってpH測定装置(図示せず)に接続される。
【0026】
また、複合電極1は、封止部4を有する。封止部4は、電極部材2の軸線方向Xにおける先端部2b側の外筒3の端部の開口部3cを封止すると共に、電極部材2の測定用ガラス感応膜24を外部に露出させる。また、複合電極1は、封止部4に設けられ、第4の収容部30の内外の液間の電気的接続を可能とする外側液絡部(第3室液絡部)5を有する。封止部4は、樹脂、セラミック、ゴム、接着剤、ガラスなどの、外筒3の開口部3cを封止することができる任意の材料で形成することができる。ここで、外筒3の開口部3cを封止するとは、複合電極1が被検液に浸漬されていない状態で第4の収容部30の内部に収容された液が不合理に漏れ出すことがないように閉じることをいう。本実施例では、この封止部4は、それ自体が液絡部として機能する、多孔質部材の一例である多孔質樹脂で形成されている。具体的には、本実施例では、封止部4は、外筒3の端部の開口部3cを封鎖すると共に、電極部材2の先端部2bが挿通される貫通穴4aを備えた、リング状の部材とされる。この封止部4は、外筒3の軸線方向に沿って外筒3に対して着脱自在とされている。本実施例では、封止部4は、その外周面に形成されたネジ部が、外筒3の開口部3cの近傍の内周面に形成されたネジ部に螺合されて、取り外し可能に固定される。この固定は、圧入嵌合、スナップフィットなどの他の任意の方法で行ってもよい。封止部4には、外筒3と封止部4との間を液密にシールするシール部材としてのOリング(外側Oリング)4bと、電極部材2と封止部4との間を液密にシールするシール部材としてのOリング(内側Oリング)4cとが設けられている。電極部材2の先端部2bの測定用ガラス感応膜24は、封止部4の外部に露出される。そして、この封止部4を貫通するように、外側液絡部5が封止部4に埋め込まれている。本実施例では、外側液絡部5は、多孔質部材の一例である多孔質セラミックで形成された、略円柱形(丸棒形)の部材である。
【0027】
電極部材2と外筒3とで形成される管状の空間である第4の収容部(比較第3室)30には、比較第3内部液S23が収容される。本実施例では、封止部4が外筒3に対して着脱自在とされているので、これを取り外すことで比較第3内部液S23を交換又は補充することができる。また、封止部4(及びこれに取り付けられた外側液絡部5)を交換することもできる。
【0028】
また、複合電極1は、外筒3の下方の端部側の所定の範囲を取り囲むように外側から嵌合して取り付けられた、差動測定方式による測定における共通の液アース電極として機能するグランド管6を有する。本実施例では、グランド管6は、複合電極1の軸線方向に直交する断面が略円形の、略一様な内径及び外径を有する、金属(本実施例ではチタン)で形成された略直線状の管状部材である。また、本実施例では、グランド管6は、外筒3の開口部3c(より詳細にはそこに取り付けられた封止部4)の下方の端部よりも下方に延長され、電極部材2の測定用ガラス感応膜24の端部よりも下方にまで至る。これにより、グランド管6は、測定用ガラス感応膜24の保護部材の機能を兼ねている。なお、グランド管6の下方の端部の縁部6aには、複数の切り欠き6bが形成されており、測定用ガラス感応膜24に対する被検液の流通が促進されている。
【0029】
また、複合電極1は、外筒3を覆うボディ10を有する。ボディ10は、外筒3の上方の端部よりも上方から、グランド管6の上方の所定の範囲までを外側から覆うように取り付けられている。ボディ10はその内部の構造を保護すると共に、使用者が複合電極1を操作する際の把持部を提供する。グランド管6の上方の端部の外周には、グランド管6とボディ10との間を液密にシールするシール部材としてのOリング6cが設けられている。また、このOリング6cよりも上方において、ボディ10と外筒3との間の隙間に、温度センサ13が設けられている。また、このボディ10と外筒3との間の隙間を通って、温度センサ13、グランド管6にそれぞれ接続されたリード16、17が上方に延長され、外筒3の回路収容部3b内のプリアンプ8に接続される。
【0030】
本実施例では、測定用ガラス感応膜24、第1の収容部(測定室)26、測定内部液S1、測定電極内極11などにより測定用のガラス電極(測定電極)Mが構成される。
【0031】
一方、比較用ガラス感応膜25、第3の収容部(比較第1室)28、比較第1内部液S21、比較電極内極12などにより比較用のガラス電極が形成される。さらに、この内極としての比較用のガラス電極、電極室を構成する第2の収容部(比較第2室)27、比較第2内部液S22、液絡部29、塩橋室を構成する第4の収容部(比較第3室)30、比較第3内部液S23、外側液絡部5、封止部4などによって、ダブルジャンクション方式の比較電極Rが構成される。すなわち、比較用のガラス電極は、第2の収容部(比較第2室)27内の比較第2内部液S22に浸漬され、比較電極Rの内極として機能する。そして、この比較用のガラス電極は、第2の収容部(比較第2室)27内の比較第2内部液S22、液絡部29、第4の収容部(比較第3室)30内の比較第3内部液S23、及び外側液絡部5(本実施例では更に封止部4)を介して、被検液と電気的に接続される。より詳細には、第2の収容部(比較第2室)27内の比較第2内部液S22は、液絡部29を通して第4の収容部(比較第3室)30内の比較第3内部液S23へとにじみ出し、この第4の収容部(比較第3室)30内の比較第3内部液S23は外側液絡部5(本実施例では更に封止部4)を通して被検液へとにじみ出る。これによって、比較電極内極12と被検液とが電気的に接続される。
【0032】
第1の収容部(測定室)26内には、空気層を残して測定電極内極11が浸漬されるのに充分な量の測定内部液S1が充填されている。第2の収容部(比較第2室)27には、空気層を残して比較用ガラス感応膜25に接するのに充分な量の比較第2内部液S22が充填されている。第3の収容部(比較第1室)28には、空気層を残して比較電極内極12が浸漬されると共に比較用ガラス感応膜25に接するのに充分な量の比較第1内部液S21が充填されている。第1の収容部(測定室)26、第2の収容部(比較第2室)27、及び第3の収容部(比較第1室)28に空気層を残すのは、凍結又は温度上昇によって内部液が膨張した際に電極部材2が破損しないようにするためである。また、第4の収容部(比較第3室)30には、空気層を残すことなく比較第3内部液S23を封入することができる。第4の収容部(比較第3室)30に空気層を残すことなく比較第3内部液S23を封入できるのは、外側液絡部5(本実施例では更に封止部4)を通して被検液と圧バランスをとれるため、内部液が膨張しても電極部材2や外筒3などに過剰な圧力がかからないからである。
【0033】
なお、内部液(測定内部液S1、比較第1内部液S21、比較第2内部液S22、比較第3内部液S23)については、後述して更に詳しく説明する。ここで、内部液が液絡部を通してにじみ出るとは、内部液が溶液として流出すること、内部液の成分のみが流出(拡散)することのいずれも含む。本実施例では、内部液は、主に濃度拡散によりその成分のみが流出する。また、内部液は、所望により、増粘剤が添加されてゲル状あるいはゾル状とされていてもよい。
【0034】
測定電極Mは、被検液のpHに応じた電位を生成し、比較電極Rは比較第2内部液S22のpH(及び外側液絡部5と被検液との接触界面に生ずる液間起電力)に応じた電位を生成する。そして、グランド管6を共通の液アース電極として、測定電極Mとグランド管6との間の電位差、比較電極Rとグランド管6との電位差が測定され、グランド管6の電位がキャンセルされることで測定電極Mと比較電極Rとの間の電位差が求められて、この電位差に基づいて被検液のpH値が求められる。つまり、本実施例の複合電極1では、測定用ガラス感応膜24において得られる電位差と比較用ガラス感応膜25において得られる電位差との差に基づいて、被検液のpHが測定される。すなわち、測定用ガラス感応膜24において得られる電位差は、被検液のpHと測定内部液S1のpHとの差に基づき、比較用ガラス感応膜25において得られる電位差は、比較第1内部液S21のpHと比較第2内部液S22のpHとの差に基づく。後述するように、本実施例では、比較第1内部液S21と比較第2内部液S22とは実質的に同じpH緩衝液とされているので、最終的に得られる測定用ガラス感応膜24において得られる電位差と比較用ガラス感応膜25において得られる電位差との差は、被検液のpHを反映させたものとなる。なお、測定用ガラス感応膜24において得られる電位差は、グランド管6の電位を基準とする測定電極内極11の電位として測定される。また、比較用ガラス感応膜25において得られる電位差は、グランド管6の電位を基準とする比較電極内極12の電位として測定される。
【0035】
ここで、液絡部を構成する多孔質セラミックの材料としては、セラミックの組成の違いにより、アルミナ系、セリウム系、マグネシア系、ジルコニア系などの各種セラミックスが挙げられるが、本実施例ではアルミナ系のセラミックを用いた。また、液絡部の機能を有する封止部4を構成する多孔質樹脂の材料としては、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂を用いることができる。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー)などが挙げられる。本実施例では、PTFEを用いた。なお、本実施例では、封止部4を多孔質樹脂で構成して液絡部の機能を持たせると共に、多孔質セラミックからなる外側液絡部5を別途取り付けた。このようなハイブリッド液絡部とすることで、気孔率や孔径がより均一な多孔質セラミックにより液絡部の所定の性能を確保しつつ、多孔質樹脂により液絡部全体としての接液面積を増して寿命をのばすといった利点がある。ただし、本発明は斯かる構成に限定されるものではなく、例えば封止部4を本実施例における多孔質樹脂の代わりに液絡部の機能を有さない樹脂(プラスチック)又はゴムで形成したり、封止部4を外筒3に対して固定的に設けられる接着剤やガラスなどで形成したりしてもよい。また、封止部4を多孔質樹脂などの液絡部の機能を有する材料で形成して、別途多孔質セラミックの外側液絡部5を取り付けなくてもよい。この場合も、封止部4に液絡部が設けられているということができる。さらに、電極部材2に設けられる液絡部29は、多孔質セラミックをガラス製の管に封入したセラミック形に限定されるものではなく、斯界にて周知のガラス製の管に設けられた貫通口に単数又は複数本のファイバ(ガラスファイバや水晶ファイバなど)を封入したファイバ形、ガラス製の管に高圧放電などによって小さな穴を形成したピンホール形などであってもよい。
【0036】
2.内部液
次に、本実施例の複合電極1における内部液(測定内部液S1、比較第1内部液S21、比較第2内部液S22、比較第3内部液S23)について更に説明する。
【0037】
従来の差動測定方式を採用したpH複合電極では、比較第1内部液S21、比較第2内部液S22としては、高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを含む約pH7.0のpH緩衝液(リン酸緩衝液)が用いられている。また、従来、比較第3内部液S23としては、塩化カリウムの錠剤が充填されて塩化カリウムが過飽和状態とされた塩化カリウム溶液が用いられている。なお、従来、測定内部液S1としては、約pH7.0のpH緩衝液(リン酸緩衝液)が用いられている。
【0038】
しかしながら、前述のように、このような従来の差動測定方式を採用したpH複合電極を用いて、酸性又はアルカリ性の被検液のpHを長期間にわたり測定する場合、頻繁に標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わないと、測定誤差が生じやすくなることがあった。
【0039】
そこで、本実施例では、比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23として、それぞれ被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液を用いる。これにより、例えばほぼ一定のpHを有する酸性又はアルカリ性の被検液を長期間にわたりモニタリングする場合に、比較的長期間にわたり標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わなくても、継続的に安定してpH測定を行うことができる。これは、次のような理由によるものと考えられる。
【0040】
つまり、従来、頻繁に標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行う必要があったのは、酸性又はアルカリ性の被検液が液絡部を通して比較第3内部液S23、更には比較第2内部液S22に拡散し、これら比較内部液のpHが変動して、基準電位が変化することによるものである。これに対して、本実施例では、比較第3内部液S23が被検液のpHと近似したpHを有するpH緩衝液であることによって、被検液が外側液絡部5(本実施例では更に封止部4)を通して比較第3内部液S23に拡散しても、比較第3内部液S23のpH変動は抑制される。さらに、本実施例では、被検液が拡散した比較第3内部液S23が液絡部29を通して比較第2内部液S22に拡散しても、上記のように比較第3内部液S23のpH変動が抑制されていることに加えて、比較第2内部液S22が被検液のpHと近似したpHを有するpH緩衝液であることによって、比較第2内部液S22のpH変動は抑制される。
【0041】
なお、本実施例では、比較第1内部液S21も、被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液としている。これは、比較用ガラス感応膜25の内外のpH差により起電力が生じるのを抑制するためである。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、比較第1内部液S21は、pH緩衝液ではなくてもよいし、pH緩衝液であっても被検液のpHに近似したpHを有していなくてもよい。例えば、後述する本実施例におけるものに代えて、従来と同様の高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを含む約pH7.0のpH緩衝液(リン酸緩衝液)を比較第1内部液S21として用いることができる。
【0042】
ここで、本発明において、被検液が酸性又はアルカリ性であるとは、最も広義には、被検液のpHが7.0未満であるか、又は7.0を超えていることを言う。ただし、本発明者らの検討によれば、上述のような、被検液のpHの影響により比較内部液(比較第2内部液、比較第3内部液)のpHが変動して、頻繁に標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行う必要が生じるという現象は、被検液のpHが5.5未満であるか、又は8.5を超えている場合に生じやすく、被検液のpHが5.0以下であるか、又は9.0以上である場合により顕著に生じやすい。なお、被検液のpHとは、例えば、pHをモニタリングする被検液の定常状態におけるpH値(典型的には、正常値あるいは使用初期値)などである。したがって、例えば、比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23(更に任意に比較第1内部液S21)のpHは、pHをモニタリングする被検液のpHの異常値(モニタリングの結果に応じて異常などを報知する際のpH値)と近似していない場合があってもよい。この被検液のpHは、一般的なpH測定装置(例えば、後述する比較例の複合電極を用いたpH測定装置)を用いるなどして予備的に測定することで求めてもよいし、被検液(例えば水溶性切削油剤、強酸性電解水など)の公称値などとして既知の値であってもよい。
【0043】
また、被検液のpHに近似したpHとは、充分に長期間にわたり安定した測定を可能とする程度に近いpHであればよいが、被検液のpHに対して±1.0の範囲以内のpH、好ましくは被検液のpHに対して±0.5の範囲以内のpHである。比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23のpHが、被検液のpHに対して±1.0の範囲を超えて異なる場合、頻繁に標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わないと測定誤差が生じやすくなる場合がある。なお、pH値は、実質的に同一の条件(測定温度など)における値を比較するものとする。
【0044】
また、本実施例では、比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23は、高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを含有する。比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23に高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを含有させるのは、それぞれ液絡部29、外側液絡部5(本実施例では更に封止部4)の内外の液間の接触により液間電位が生じるのを抑制するためである。
【0045】
ここで、塩化カリウムは、溶液中でカリウムイオン(K+)と塩化物イオン(Cl-)とに解離するが、これら陰陽両イオンの移動度(拡散速度)が同等であることから、液間電位が非常に小さく、比較内部液の電解質として広く利用されている。ただし、陰陽両イオンの移動度が同等であり、充分に液間電位の発生を抑制することができれば、比較内部液(比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23)の電解質は塩化カリウムに限定されるものではなく、例えば、硝酸カリウム(KNO3)、酢酸リチウム(CH3COOLi)などを用いることもできる。この場合、内部液は、高濃度(10質量%~飽和)の硝酸カリウムを含有するものとするか、又は高濃度(10質量%~飽和)の酢酸リチウムを含有するものとする。
【0046】
なお、本実施例では、比較第1内部液S21も、高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを含有している。これは、比較用ガラス感応膜25の内外の液を同質のものとして起電力が生じるのを抑制するためである。比較第1内部液S21の電解質も、塩化カリウムに限定されるものではなく、例えば、硝酸カリウム、酢酸リチウムなどを用いてもよいが、比較電極内極12として銀/塩化銀電極を用いる場合、比較第1内部液S21は塩化物イオンを含有している必要がある。
【0047】
pH緩衝液としては、被検液のpHと近似したpHを有し、充分の緩衝作用を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、下記のJIS(JIS Z 8802)で規定されたpH標準液を好ましく用いることができる(各pH標準液のpH値は25℃におけるものである。)。
・しゅう酸塩pH標準液(pH1.68)(東亜ディーケーケー(株)、143F194)
0.05mol/L四しゅう酸カリウム水溶液
・フタル酸塩pH標準液(pH4.01)(東亜ディーケーケー(株)、143F191)
0.05mol/Lフタル酸水素カリウム水溶液
・中性りん酸塩pH標準液(pH6.86)(東亜ディーケーケー(株)、143F192)
0.025mol/Lりん酸一カリウム、
0.025mol/Lりん酸二ナトリウム水溶液
・ほう酸塩pH標準液(pH9.18)(東亜ディーケーケー(株)、143F193)
0.01mol/Lほう酸ナトリウム(ほう砂)水溶液
・炭酸塩pH標準液(pH10.02)(東亜ディーケーケー(株)、143F195)
0.025mol/L炭酸水素ナトリウム、
0.025mol/L炭酸ナトリウム水溶液
【0048】
ただし、pH緩衝液としては、上記pH標準液に限らず、例えば上記pH標準液の組成(共役酸・塩基の混合割合など)を変更してpHを変化させたもの、あるいはその他の任意のpH緩衝液を用いることも可能である。例えば、酸性のpHを有するpH緩衝液としては、酢酸緩衝液(酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液)(例えばpH4.0)、アルカリ性のpHを有するpH緩衝液としては、トリス緩衝液(pH7.2~9.2)などが挙げられる。また、一般に単一の緩衝剤から作製される緩衝液の有効緩衝範囲がその化合物のpKa(酸解離定数)±1程度のpH範囲であるところ、2種類以上の緩衝剤が共存し有効緩衝範囲が広範囲とされている広域緩衝液を用いることも可能である。例えば、GTA緩衝液(pH3.5~10)などが挙げられる。
【0049】
ここで、例えば上記pH標準液などのpH緩衝液に塩化カリウムを飽和させると、一般にpHが若干変化する。本実施例では、比較第1内部液S21、比較第2内部液S22、比較第3内部液S23のpHは、例えば上記pH標準液などのpH緩衝液に高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを含有させた際のpHであり、このpHが被検液のpHと近似している。下記表1は、例えば上記pH標準液に塩化カリウムを飽和させた際のそれぞれのpHを示している。また、表1には、上記pH標準液に硝酸カリウム、酢酸リチウムをそれぞれ飽和させた際のそれぞれのpHも併せて示している。なお、pH標準液に塩化カリウムを飽和させた液、pH標準液に硝酸カリウムを飽和させた液、pH標準液に酢酸リチウムを飽和させた液は、それぞれ上記各pH標準液に塩化カリウム、硝酸カリウム、酢酸リチウムを溶解させて調整した。例えば、塩化カリウムとしては、塩化カリウムの錠剤(KClタブレット、東亜ディーケーケー(株)、7417650K)を用いた。また、各液のpHは、温度24.8℃、湿度54%RH、気圧992.0hPaで測定した値である。
【0050】
【0051】
また、本実施例では、第4の収容部(比較第3室)30、すなわち、比較電極Rにおける最も外側(被検液側)の室には、塩化カリウムの錠剤(タブレット)を充填することが好ましい。塩化カリウムの錠剤は、できるだけ沢山充填することが好ましい。充填する塩化カリウムの錠剤が多いほど、新たな塩化カリウムの錠剤を補充することなく複合電極1を測定に供することができる期間が長くなる。また、充填する塩化カリウムを錠剤とすることにより、比較的狭い外筒3と電極部材2との間への塩化カリウムの充填が容易となる。また、塩化カリウムの錠剤は、増粘剤を含有することが好ましい。増粘剤を含有することにより、温度上昇によって錠剤の塩化カリウムが過剰に溶出しても、その後の温度低下時に外側液絡部5(本実施例では更に封止部4)が固化した塩化カリウムにより目詰まりすることを防止できる。増粘剤としては、水に可溶で、測定に影響を与えないものが好ましい。特に、ポリエチレングリコールが好ましい。増粘剤を含有する場合、その含有量は、塩化カリウムに対して、0.1~5質量%であることが好ましく、0.3~2質量%であることがより好ましく、例えば1質量%とすることができる。なお、上述のように塩化カリウム以外の電解質を用いる場合、その電解質の錠剤などを充填して、その電解質を過飽和状態とすることができる。なお、増粘剤は、塩化カリウムの錠剤と共に第4の収容部(比較第3室)30に収容する比較第3内部液S23に添加してもよい。増粘剤を比較第3内部液S23に添加することにより、イオンの動きが抑制されるため、塩化カリウムの錠剤の消耗が減る。そのため、より長期間、塩化カリウムの錠剤を補充することなく複合電極1を継続して測定に供することができる。比較第3内部液S23に添加する増粘剤の量が多すぎると、液絡部で液間電位が生じて測定精度が下がる可能性があるため、比較第3内部液S23が増粘剤を含有する場合、その含有量は、比較第3内部液S23に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。比較第3内部液S23に添加する増粘剤としては、塩化カリウムの錠剤に含有させる増粘剤と同等のものが使用できる。本実施例では、第4の収容部(比較第3室)30内に、高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを含むpH緩衝液である比較第3内部液S23と共に、塩化カリウムの錠剤を収容することで、第4の収容部(比較第3室)30内の比較第3内部液S23は塩化カリウムの過飽和状態とされる。そして、この比較第3内部液S23中の塩化カリウムが外側液絡部5(本実施例では更に封止部4)から主として濃度拡散により被検液中に流出する。なお、比較電極Rにおける最も外側の室に収容する比較内部液として硝酸カリウム、酢酸リチウムの溶液を用いる場合は、それぞれ該室に硝酸カリウムの錠剤、酢酸リチウムの錠剤を充填することができる。つまり、比較電極Rにおける最も外側の室には、該室に収容する比較内部液の主要な電解質成分(典型的には飽和濃度で含有する電解質成分)と同じ成分の錠剤を充填することができる。
【0052】
本実施例の複合電極1を用いて好適にpHをモニタリングすることのできる被検液の一例としては、工作機械で用いられる水溶性切削油剤(クーラント)が挙げられる。この種の水溶性切削油剤は、例えば定常状態におけるpH値(典型的には、正常値あるいは使用初期値)は9.0程度であり、所定の範囲を超えてpHが変化したことを検知するなどのためにpHのモニタリングが行われる。例えば、工作機械の稼働中に水溶性切削油剤に潤滑油が混入するなどして水溶性切削油剤のpHが所定範囲を超えて変化した場合などに、水溶性切削油剤が劣化したものとして警報を発することができる。下記表2は、いくつかの例の水溶性切削油剤のpHを、潤滑油を混合した場合と混合しない場合とで測定したものである。なお、表2中のpHは、一般的なpH測定装置(例えば、後述する比較例の複合電極を用いたpH測定装置)で測定した値である。例示の水溶性切削油剤は、いずれも「カストロール社」製のものであり、「ハイソル(Hysol) MB50」、「ハイソル(Hysol) X」、及び「アルマレッジ(Almaredge) 230」はエマルジョンタイプ、「クリアレッジ(Clearedge) 701EF」、「アルーソル(Alusol) RAL BF J」、及び「アルーソル(Alusol) B」はソルブルタイプ、「シンタイロ(Syntilo) 9954」、「シンタイロ(Syntilo) 9918」、及び「シンタイロ(Syntilo) 77EF」はシンセティックタイプのものである(「Hysol」、「Almaredge」、「Clearedge」、「Alusol」、「Syntilo」は、カストロール社の商標)。表2には、各水溶性切削油剤の原液からの希釈倍率、測定温度も示している。なお、潤滑油を混合した水溶性切削油剤は、各水溶性切削油剤の希釈液に、潤滑油として機械油を10質量%の割合で混合して調整した。
【0053】
【0054】
本実施例では、表1、表2の結果などに基づいて、複合電極1を水溶性切削油剤のpHのモニタリングに用いる場合、比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23(更に本実施例では比較第1内部液S21)として、炭酸塩pH標準液に高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを添加した液(約pH9.6)(表1)を用いる。なお、被検液が「シンタイロ 9918」の場合は、炭酸塩pH標準液の組成を変更した炭酸塩緩衝液を用いたり、炭酸塩pH標準液に代えてほう酸塩pH標準液を用いたりして、比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23(更に本実施例では比較第1内部液S21)のpHをより被検液のpHに近づけることが望ましい。
【0055】
また、本実施例の複合電極1を用いて好適にpHをモニタリングすることのできる被検液の他の例としては、内視鏡などの医療器具を洗浄消毒するための医療器具洗浄消毒器で用いられる強酸性電解水が挙げられる。この種の医療器具洗浄消毒器で用いられる強酸性電解水(微量の塩を含む水を電気分解して得られる強酸性水)は、例えば定常状態におけるpH値(典型的には、正常値)は2.0程度であり、所定の範囲を超えてpHが変化したことを検知するなどのためにpHのモニタリングが行われる。例えば、医療器具洗浄消毒器による医療器具の洗浄消毒中に強酸性電解水のpHが所望の洗浄消毒効果が得られるレベルから外れた場合などに、メンテナンスを促すために警報を発することができる。この種の医療器具洗浄消毒器では、複合電極1は常時pH2.0以下の被検液に曝されることがある。
【0056】
そのため、本実施例では、複合電極1を強酸性電解水のpHのモニタリングに用いる場合、比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23(更に本実施例では比較第1内部液S21)として、しゅう酸pH標準液に高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを添加した液(約pH1.55)(表1)を用いる。
【0057】
なお、本実施例では、被検液のpHにかかわらず、測定内部液S1としては、約pH7.0のpH緩衝液(リン酸緩衝液)を用いた。
【0058】
3.実験例
次に、本実施例の効果を示す実験の結果について説明する。ここでは、本実施例及び比較例の複合電極を用いて、酸性又はアルカリ性のほぼ一定のpHを有する被検液のpHを継続的に測定した場合の測定値の安定性を比較した。なお、比較例の複合電極に関しても、本実施例の複合電極のものと同一又は対応する要素には同一の符号を付して説明する。
【0059】
アルカリ性の被検液としては、約pH9.3(温度22~25℃)の水溶性切削油剤を用いた。また、酸性の被検液としては、強酸性電解水を模した約pH1.6の強酸性水を用いた。そして、本実施例の複合電極1は、アルカリ性の被検液の測定に用いる場合は比較第1内部液S21、比較第2内部液S22、比較第3内部液S23として炭酸塩pH標準液に塩化カリウムを飽和させた液(約pH9.6)を用い、酸性の被検液の測定に用いる場合は比較第1内部液S21、比較第2内部液S22、比較第3内部液S23としてしゅう酸pH標準液に塩化カリウムを飽和させた液(約pH1.55)を用いた。一方、比較例の複合電極1では、比較第1内部液S21、比較第2内部液S22、比較第3内部液S23として塩化カリウム飽和の約pH7.0のpH緩衝液(リン酸緩衝液)を用いた。なお、本実施例及び比較例の複合電極1のいずれにおいても第4の収容部(比較第3室)30にはほぼ等量の塩化カリウムの錠剤を収容した。また、本実施例及び比較例の複合電極1のいずれにおいても、測定内部液S1としては、約pH7.0のpH緩衝液(リン酸緩衝液)を用いた。
【0060】
本実施例及び比較例の複合電極1のいずれについても、各被検液のpH測定の開始前にpH標準液を用いたゼロ校正及びスパン校正を同様にして行った。ゼロ校正は、上述の中性りん酸塩pH標準液を用いて行った。また、スパン校正は、上述の炭酸塩pH標準液(被検液がアルカリ性の場合)又は上述のしゅう酸塩pH標準液(被検液が酸性の場合)を用いて行った。そして、被検液の温度を約25℃で一定として、途中でpH標準液を用いた校正を行わずに継続的にpH測定を行った。結果を
図3に示す。
【0061】
図3からわかるように、比較例の複合電極1では、アルカリ性の被検液の場合は測定開始後約20日という比較的短い期間が経過するまでの間にpHの測定値は1.0以上変動(低下)した。また、比較例の複合電極1では、酸性の被検液の場合は測定開始後約60日という比較的短い期間が経過するまでの間にpHの測定値は1.0以上変動(上昇)した。そのため、比較例の複合電極1では、pH測定の精度を維持するためには、本実験例で用いたアルカリ性の被検液の場合は1カ月に満たない期間ごとに標準液を用いた校正や比較内部液の交換が必要であり、本実験例で用いた酸性の被検液の場合は2カ月に満たない期間ごとに標準液を用いた校正や比較内部液の交換が必要である。
【0062】
これに対して、本実施例の複合電極1では、アルカリ性の被検液及び酸性の被検液のいずれの場合も、測定開始後200日を経過してもpHの測定値の変動は約0.2程度であり、比較例の複合電極1よりも測定値が安定していた。この程度の変動であれば、用途にもよるが、多くの場合標準液を用いた校正や比較内部液の交換は依然として必要ない。このように、本実施例の複合電極1は、例えば、少なくとも半年間にわたり標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わずに実質的に継続的に被検液に浸漬されたまま被検液のpHをモニタリングする用途などにおいて、非常に有用である。
【0063】
このように、本実施例によれば、酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定(本実施例ではpH測定)に用いられる電極体1が提供される。電極体1は、液を収容可能な第1室28と、第1室28に収容された第1内部液S21と、第1内部液S21に浸漬されるように第1室28の内部に配置された比較電極内極12と、第1室28を形成する壁部(中央管22、外管23、キャップ7)の少なくとも一部に設けられたpHガラス感応膜25と、を有する。また、電極体1は、pHガラス感応膜25と接触するように液を収容可能な第2室27と、pHガラス感応膜25と接触するように第2室27に収容された第2内部液S22と、第2室27を形成する壁部(内管21、中央管22、キャップ7)のうち第1室28と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、第2室27の内部の第2内部液S22と第2室27の外部の液(第3内部液S23)との間の電気的接続を可能とする液絡部である第2室液絡部29と、を有する。また、電極体1は、第2室液絡部29と接触するように液を収容可能な第3室30と、第2室液絡部29と接触するように第3室30に収容された第3内部液S23と、第3室30を形成する壁部(内管21、中央管22、外管23、外筒3、キャップ7、封止部4)のうち第2室27と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、第3室30の内部の第3内部液S23と第3室30の外部の液(被検液)との間の電気的接続を可能とする液絡部である第3室液絡部5と、を有する。そして、第2内部液S22及び第3内部液S23は、それぞれ被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液である。また、本実施例では、第1内部液S21も、被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液である。
【0064】
以上説明したように、本実施例によれば、酸性又はアルカリ性の被検液のpH測定を、比較的長期間にわたり標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わずに、継続的に安定して行うことが可能となる。
【0065】
[実施例2]
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例では、電極体は、実施例1と同様に、pH測定用の複合電極とされる。本実施例の複合電極において、実施例1の複合電極のものと同一又は対応する構成あるいは機能を有する要素については、実施例1と同一の符号を付して、詳しい説明は省略する。
【0066】
本実施例では、主に、液絡部29の配置と、比較電極内極12の配置とが、実施例1とは異なる。本実施例では、複合電極1における第2の収容部27が比較電極Rにおける比較第1室を構成し、複合電極1における第3の収容部28が比較電極Rにおける比較第2室を構成する。
【0067】
図4は、本実施例の複合電極1で用いられている電極部材2の断面図である。本実施例では、電極部材2は、実施例1と同様の三重管構造を有している。すなわち、内管21の先端部2b側の端部にpHガラス感応膜である測定用ガラス感応膜24が設けられ、中央管22の外管23に取り囲まれた領域の一部がpHガラス感応膜である筒状の比較用ガラス感応膜25で形成されている。しかし、本実施例では、実施例1とは異なり、液絡部29は外管23に設けられている。本実施例では、液絡部29は、外管23と中央管22との接合部の近傍に設けられている。この液絡部29は、外管23と中央管22とで形成される第3の収容部28の内外の液間の電気的接続を可能とする。なお、本実施例では、測定用ガラス感応膜24は略球状に形成されている。また、本実施例では、外管23は、その先端部2b側の端部23aが、中央管22の上下方向中央からやや下よりの側部22dに接合されている。
【0068】
そして、本実施例では、第1の収容部(測定室)26に測定内部液S1が収容され、この測定内部液S1に測定電極内極11が浸漬される。また、第2の収容部(比較第1室)27に比較第1内部液S21が収容され、この比較第1内部液S21に比較電極内極12が浸漬される。そして、第3の収容部(比較第2室)28に比較第2内部液S22が収容される。
【0069】
本実施例では、測定用ガラス感応膜24、第1の収容部(測定室)26、測定内部液S1、測定電極内極11などにより測定用のガラス電極(測定電極M)が形成される。一方、比較用ガラス感応膜25、第2の収容部(比較第1室)27、比較第1内部液S21、比較電極内極12などにより比較用のガラス電極が形成される。さらに、この内極としての比較用のガラス電極、電極室を構成する第3の収容部(比較第2室)28、比較第2内部液S22、液絡部29、塩橋室を構成する第4の収容部(比較第3室)30(
図1参照)、比較第3内部液S23(
図1参照)、外側液絡部5(
図1参照)、封止部4(
図1参照)などによって、ダブルジャンクション方式の比較電極Rが構成される。
【0070】
本実施例の複合電極1においても、実施例1の複合電極1と同様に、被検液のpHに応じて、比較第2内部液S22及び比較第3内部液S23(更に本実施例では比較第1内部液S21)を被検液のpHと近似したpHを有するpH緩衝液とする。なお、本実施例においても、実施例1と同様に、これら内部液には高濃度(3.3mol/L~飽和)の塩化カリウムを含有させ、比較第3内部液S23は塩化カリウムの錠剤を加えることで過飽和状態とする。また、塩化カリウムに代えて、硝酸カリウム、酢酸リチウムを用い得ることは実施例1で説明したとおりである。
【0071】
以上のような本実施例の構成によっても、実施例1と同様、酸性又はアルカリ性の被検液のpH測定を、比較的長期間にわたり標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行わずに、継続的に安定して行うことが可能となる。
【0072】
[その他の実施例]
以上、本発明を具体的な実施例に即して説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。
【0073】
上述の実施例では、電極体は、測定電極と比較電極とが一体化された複合電極として構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。電極体は、測定電極とは別個の比較電極として構成されていてもよい。例えば、
図5において、比較電極102が測定電極101とは別個に構成されることに相当する。
【0074】
また、上述の実施例では、比較電極はダブルジャンクション方式の構成とされていたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、
図6(a)に示すように、比較電極102は、塩橋室(比較第3室)123(
図5)を有しておらず、電極室(比較第2室)122内の比較第2内部液S22が液絡部124を介して直接被検液と電気的に接続されるシングルジャンクション方式の構成とされていてもよい。シングルジャンクション方式はダブルジャンクション方式と比べて被検液のpHの影響を受けやすい。これに対して、本発明に従って、比較第2内部液S22(更に任意に比較第1内部液S21)を、被検液のpHと近似したpHを有するpH緩衝液とする。これにより、被検液が電極室(比較第2室)内の比較第2内部液S22に拡散することによる比較第2内部液S22のpHの変動を抑制して、長期間にわたり、標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行うことなく、継続的に安定してpH測定を行うことができる。
【0075】
また、例えば、
図6(b)に示すように、比較電極102は、塩橋室(比較第3室)123(
図5)に加えて追加の塩橋室(比較第4室)126を有し、この追加の塩橋室(比較第4室)126内の内部液(比較第4内部液)S24が液絡部127を介して被検液と電気的に接続されるトリプルジャンクション方式の構成とされていてもよい。この場合も、本発明に従って、比較第2内部液S22、比較第3内部液S23及び比較第4内部液S24(更に任意に比較第1内部液S21)を、被検液のpHと近似したpHを有するpH緩衝液とする。これにより、ダブルジャンクション方式と比べて更に被検液のpHの影響を受けにくくなり、更に長期間にわたり、標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行うことなく、継続的に安定してpH測定を行うことができる。同様に、塩橋室を3つ、4つと更に増やしていくことも可能である。
【0076】
なお、
図5、
図6(a)、(b)のいずれのジャンクション構造を採用する場合も、電極体は、比較電極と測定電極とが一体化された複合電極として構成することができる。また、
図5、
図6(a)、(b)のいずれのジャンクション構造を採用する場合も、最も外側の室には、比較内部液の電解質成分と同じ成分の錠剤を収容させて該電解質成分を過飽和状態とすることができる。ただし、電極体の小型化を図りつつ、pH測定値の安定性の向上を図る観点からは、上述の実施例のようにダブルジャンクション方式を採用することが望ましいと言える。
【0077】
また、以上では、本発明を内極がガラス電極で構成された差動測定方式で用いられる比較電極(あるいはこれを備えた複合電極)に適用した場合について説明したが、本発明は例えば内極が銀/塩化銀電極である比較電極(あるいはこれを備えた複合電極)にも適用することができる。例えば、比較電極200は、
図7(a)に示すような構成(ダブルジャンクション方式)とすることができる。つまり、比較電極200は、液を収容可能な第1室(電極室)201と、第1室201に収容された第1内部液S21と、第1内部液S21に浸漬されるように第1室201の内部に配置された内極210と、第1室201を形成する壁部の少なくとも一部に設けられ、第1室201の内部の第1内部液S21と第1室201の外部の液(第2内部液S22)との間の電気的接続を可能とする液絡部である第1室液絡部204と、を有する。また、この比較電極200は、第1室液絡部204と接触するように液を収容可能な第2室(塩橋室)202と、第1室液絡部204と接触するように第2室202に収容された第2内部液S22と、第2室202を形成する壁部のうち第1室201と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、第2室202の内部の第2内部液S22と第2室202の外部の液(被検液)との間の電気的接続を可能とする液絡部である第2室液絡部205と、を有する。このとき、内極210は、銀/塩化銀電極で構成することができる。ただし、内極210は、銀/塩化銀電極に限定されるものではなく、例えば水銀/塩化第一水銀電極、水銀/硫酸第一水銀電極などの他の電極を用いてもよい。そして、この場合も、本発明に従って、第1内部液S21及び第2内部液S22は、それぞれ被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液とする。これにより、被検液が第2室202内の第2内部液S22、更には第1室201内の第1内部液S21に拡散することによる第2内部液S22、第1内部液S21のpHの変動を抑制して、長期間にわたり、標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行うことなく、継続的に安定してpH測定を行うことができる。
【0078】
また、例えば、
図7(b)に示すような構成(トリプルジャンクション方式)とすることができる。つまり、この比較電極200は、
図7(a)の構成に加えて更に、第2室液絡部205と接触するように液を収容可能な第3室(追加の塩橋室)203と、第2室液絡部205と接触するように第3室203に収容された第3内部液S23と、第3室203を形成する壁部のうち第2室202と接触しない壁部の少なくとも一部に設けられ、第3室203の内部の第3内部液S23と第3室203の外部の液(被検液)との間の電気的接続を可能とする液絡部である第3室液絡部206と、を有する。そして、この場合も、本発明に従って、第3内部液S23は、被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液とする。これにより、ダブルジャンクション方式と比べて更に被検液のpHの影響を受けにくくなる。同様に、塩橋室を3つ、4つと更に増やしていくことも可能である。
【0079】
さらに、比較電極200は、多重のジャンクション構造を有するものに限定されず、例えば、
図7(c)に示すように、室201と、内部液S21と、内極210と、液絡部204と、を有するシングルジャンクション方式のものであってもよい。この場合も、本発明に従って、内部液S21を被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液とする。前述のように、シングルジャンクション方式は被検液のpHの影響を受けやすいが、本発明を適用することによって、被検液が室201内の内部液S21に拡散することによる内部液S21のpHの変動を抑制して、長期間にわたり、標準液を用いた校正や比較内部液の交換を行うことなく、継続的に安定してpH測定を行うことができる。
【0080】
なお、
図7(a)、(b)、(c)のいずれのジャンクション構造を採用する場合も、電極体は、比較電極と測定電極とが一体化された複合電極として構成することができる。例えば、
図8は、実施例1の複合電極1における比較電極Rに代えて、内極が銀/塩化銀電極などで構成された比較電極Rを用いた、複合電極1の例を示す断面図である。
図8において実施例1の複合電極1と同一又は対応する機能あるいは構成を有する要素には同一符号を付している。
図8の複合電極1では、実施例1の複合電極1における外管23(第3の収容部28)は設けられておらず、比較第1室を構成する第2の収容部27内に比較第1内部液S21が収容され、この比較第1内部液S21に比較電極内極12が浸漬されている。また、
図8の複合電極1では、実施例1の複合電極1における第4の収容部30に対応する、電極部材2と外筒3との間に形成される第3の収容部30が比較第2室を構成して、この第3の収容部30内に比較第2内部液S22が収容されている。さらに、
図7(a)、(b)、(c)のいずれのジャンクション構造を採用する場合も、最も外側の室には、比較内部液の電解質成分と同じ成分の錠剤を収容させて該電解質成分を過飽和状態とすることができる。
【0081】
このように、換言すれば、酸性又はアルカリ性の被検液の電気化学測定に用いられる電極体は、液を収容可能な室と、室に収容された内部液と、内部液に接触するように配置された内極と、室の内部の内部液と被検液との間の電気的接続を可能とする液絡部と、を有し、上記内部液が、被検液のpHに近似したpHを有するpH緩衝液であればよい。また、該室は、互いに区画された複数の分室(比較第1室、比較第2室、比較第3室など)を有して構成されていてよく、また該液絡部は、該複数の分室の内部にそれぞれ収容された内部液を介して内極と被検液との間の電気的接続を可能とするように複数設けられていてよい。この場合、内極は、該複数の分室のうち、複数の該液絡部を介した被検液から内極までの導通経路のうち被検液から最も遠い分室の内部に収容された内部液に接触するように配置されている。また、該複数の分室のうち、複数の該液絡部を介した被検液から内極までの導通経路のうち被検液に最も近い分室の内部には、該分室に収容された内部液の電解質成分の錠剤が収容されていてよい。そして、上記内極は、ガラス電極、又は銀/塩化銀電極であってよい。
【0082】
さらに、上述の実施例では、測定対象がpHである場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、pH測定、水素イオン以外のイオン濃度測定、ORP測定などの電気化学測定に用いられる電極体に広く適用できる。本発明を水素イオン以外のイオン濃度の測定に適用する場合、上述の実施例における測定用感応部としての測定用ガラス感応膜を、測定対象イオンに感応するガラス感応膜に代え、対応する測定電極内部液を用いるようにすることができる。また、例えば、難溶性銀塩を感応物質とするイオン濃度測定に適用する場合は、ガラスに封入された白金電極の表面に銀をめっきし更に塩素めっきして銀塩化銀膜を形成し、ここに目的とする感応物質の難溶性銀塩の粉末を基材としてのシリコーンゴムに含有させたものを貼り付ける方法が可能である。また、例えば、液体膜を感応物質とするイオン濃度測定用に適用する場合は、ガラスに封入された白金電極の表面に銀をめっきし更に塩素めっきして銀塩化銀膜を形成し、ここに基材としてのPVC(ポリ塩化ビニル)に目的とする感応物質を含有させたものを貼り付ける方法が可能となる。また、本発明をORPの測定に適用する場合、上述の実施例における測定用感応部としての測定用ガラス感応膜を、ガラスに封入された金属電極(白金電極、金電極など)に代えたものを用いることができる。例えば、
図9は、実施例1の複合電極1における電極部材2の代わりに用い得る、ORP測定電極を備えた電極部材2の一例の断面図である。この電極部材2は、実施例1における測定用ガラス感応膜に代えて、ガラスに封入された金属電極(白金電極、金電極など)40を有し、第1の収容部26には測定電極内部液が収容されずに、金属電極に接続されたリード41が通される。
【符号の説明】
【0083】
1 複合電極(電極体)
2 電極部材
3 外筒
4 封止部
5 外側液絡部
6 グランド管
11 測定電極内極
12 比較電極内極
24 測定用ガラス感応膜
25 比較用ガラス感応膜
26 測定室
27 比較第2室
28 比較第1室
29 液絡部
30 比較第3室
S1 測定内部液
S21 比較第1内部液
S22 比較第2内部液
S23 比較第3内部液
M 測定電極
R 比較電極