(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】シール付き電磁ノイズ対策軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240515BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
(21)【出願番号】P 2020029345
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】堀越 大裕
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-147012(JP,A)
【文献】特開2006-234093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/76-33/82
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールを備えたシール付き電磁ノイズ対策軸受において、
外輪に固定された外輪側シールと、
内輪に固定された内輪側シールとを備え、
前記外輪側シールと前記内輪側シールとの間に密閉された空間を形成し、
前記空間の中に導電性グリースを封入し、
前記導電性グリースは、前記外輪側シールの金属の芯金と前記内輪側シールの金属の芯金の両方に接触していて、
前記外輪側シールまたは前記内輪側シールの一方は、溝形状の芯金と該芯金の開口部を封止するリップを有し、
前記外輪側シールまたは前記内輪側シールの他方は前記溝の中に挿入される芯金を有することを特徴とするシール付き電磁ノイズ対策軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ノイズ対策に有効なシール付き電磁ノイズ対策軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EV車(electric car)やHV車(hybrid car)等の開発の進展もあり、一台の自動車に搭載される高電圧部品の数が増加しつつある。高電圧部品の数が増えると、部品同士の電磁気的干渉も大きくなる。電磁気的干渉は、車載ラジオなどの電子機器に伝搬すると、電磁ノイズとして機器の動作に悪影響を及ぼしかねない。そのため、現在、自動車における電磁ノイズ対策が要望されている。
【0003】
電磁ノイズを除去するための手法としては、自動車の各所に設置される軸受を利用することが知られている。例えば特許文献1には、内輪、外輪、それらの間に配置された転動体、および軸受内部空間の端部開口を塞ぐ円輪状のシールリングを備える通電式転がり軸受が開示されている。特許文献1の通電式転がり軸受では、シールリングを導電性としつつ、シールリップの先端部に全周に亙って形成した凹溝の内面と、シール溝の側壁面とに囲まれた環状空間内に導電性潤滑剤を封入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようにシールリップの先端部に導電性潤滑材いわゆる導電性グリースを封入することにより、シールリップと内輪との摩擦抵抗を低減しながら導電性を確保することができる。しかしながら、特許文献1のような構成であると、内輪との摩擦が生じた際に導電性グリースに負荷がかかる。すると、その負荷によって導電性グリースのカーボン鎖が破壊されてしまう(簡単に言えば劣化してしまう)。すると導電性が低下してくるため、長期的に安定した効果を得ることが難しくなる。また導電性グリースとしてイオン液体含有グリースを用いる場合にも、摩擦熱によってイオン液体の劣化が生じるため、同様に導電性が低下することがある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、摩擦による導電性グリースの劣化を好適に防ぐことができ、長期的に安定した導電性を得ることが可能なシール付き電磁ノイズ対策軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシール付き電磁ノイズ対策軸受の代表的な構成は、シールを備えたシール付き電磁ノイズ対策軸受において、外輪に固定された外輪側シールと、内輪に固定された内輪側シールとを備え、外輪側シールと内輪側シールとの間に密閉された空間を形成し、空間の中に導電性グリースを封入し、導電性グリースは、外輪側シールの金属の芯金と内輪側シールの金属の芯金の両方に接触していることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、導電性グリースが外輪側シールの芯金および内輪側シールの芯金に接触していることにより、外輪と内輪との間における導電性を好適に確保することができる。したがって、インピーダンスを低減することができ、インバータ等に起因する電磁ノイズを好適に抑制することが可能となる。
【0009】
このとき、導電性グリースは外輪側シールと内輪側シールとの間の空間に密閉されている。換言すれば、導電性グリースは単に収容されている状態である。したがって導電性グリースはリップによる負荷と摩擦を受けないため、摩擦に起因する導電性グリースの劣化を好適に防ぐことができ、長期的に安定した導電性を得ることが可能となる。
【0010】
具体的な構成として、上記外輪側シールのリップは内輪側シールの芯金に接触し、内輪側シールのリップは外輪側シールの芯金に接触しているとよい。他の具体的な構成として、上記外輪側シールのリップは内輪の肩に接触し、内輪側シールのリップは外輪の肩に接触しているとよい。他の具体的な構成として、上記外輪側シールまたは内輪側シールの一方は、溝形状の芯金と開口部を封止するリップを有し、外輪側シールまたは内輪側シールの他方は溝の中に挿入される芯金を有するとよい。いずれの構成によっても、上述した効果を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、摩擦による導電性グリースの劣化を好適に防ぐことができ、長期的に安定した導電性を得ることが可能なシール付き電磁ノイズ対策軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態にかかるシール付き電磁ノイズ対策軸受を説明する図である。
【
図2】第2実施形態にかかるシール付き電磁ノイズ対策軸受を説明する図である。
【
図3】第3実施形態にかかるシール付き電磁ノイズ対策軸受を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかるシール付き電磁ノイズ対策軸受(以下、軸受100)を説明する図である。
図1に示すように、第1実施形態の軸受100は、内輪102と外輪104との間に転動体として一列の玉106および保持器108を備えた単列の深溝玉軸受である。軸受100は、内外の軌道輪の間にて玉106を側方から覆うシール110を有する。シール110は、潤滑油の漏洩や異物の侵入防止などを行いつつ、内輪102と外輪104との間で導電回路を形成する。
【0015】
本実施形態では、シール110は、外輪104に固定された外輪側シール120と、内輪102に固定された内輪側シール130とを含んで構成される。外輪側シール120は、芯金122およびリップ124を有する。芯金122は、導電性を有する金属板からなり、一端が外輪104に固定されていて、他端がリップ124によって覆われている。内輪側シール130は、芯金132およびリップ134を有する。芯金132は、導電性を有する金属板からなり、一端が内輪102に固定されていて、他端がリップ134によって覆われている。
【0016】
外輪側シール120と内輪側シール130とは、外輪104と内輪102との間で向かい合うように配置される。そして、外輪側シール120のリップ124が内輪側シール130の芯金132に接触し、内輪側シール130のリップが外輪側シール120の芯金122に接触することにより、外輪側シール120と内輪側シール130との間に密閉された空間Sが形成される。空間Sには導電性グリース140が封入されていて、導電性グリース140は外輪側シール120の芯金122と内輪側シール130の芯金132の両方に接触している。
【0017】
上記構成によれば、導電性グリース140が外輪側シール120の芯金122および内輪側シール130の芯金132に接触していることにより、外輪104と内輪102との間における導電性を好適に確保することができる。これにより、インピーダンスを低減することができ、インバータ等に起因する電磁ノイズを好適に抑制することが可能となる。
【0018】
また導電性グリース140は外輪側シール120と内輪側シール130との間の空間Sに密閉されている。換言すれば、導電性グリース140は単に収容されている状態である。したがって導電性グリース140はリップ124,134による負荷と摩擦を受けないため、摩擦に起因する導電性グリース140の劣化を好適に防ぐことができ、長期的に安定した導電性を得ることが可能となる。
【0019】
なお、本実施形態の軸受100では、外輪側シール120、内輪側シール130および導電性シール140が導電性を有することにより、シール110によって外輪104と内輪102との間で導電回路が形成されている。このためリップ124・134については、導電性ゴムまたは非導電性ゴムのどちらを用いてもよい。ただし、リップ124・134として導電性ゴムを用いれば、より高い導電性を得られると考えられる。
【0020】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態にかかるシール付き電磁ノイズ対策軸受(以下、軸受200)を説明する図である。第1実施形態の軸受100では、外輪側シール120と内輪側シール130によって密閉された空間Sに導電性グリース140が封入されていた。これに対し第2実施形態の軸受200では、
図2に示すように、外輪シール220のリップ224が内輪102の肩102aに接触し、内輪シール230のリップ234が外輪104の肩104aに接触することにより、密閉された空間Sが形成される。そして、その空間Sに導電性グリース140が封入されている。このような構成によっても、第1実施形態の軸受100と同様の効果が得られる。
【0021】
(第3実施形態)
図3は、第3実施形態にかかるシール付き電磁ノイズ対策軸受(以下、軸受300)を説明する図である。
図3に示すように、第3実施形態の軸受300では、外輪側シール320は、溝形状を形成する一対の芯金322a・322bと、芯金322a・322bの端部を覆ってその開口部を封止するリップ324とを有する。これにより、外輪側シール320において密閉された空間Sが形成され、その空間Sに導電性グリース140が封入される。一方、内輪側シール330は、外輪側シール320の溝の中に挿入される芯金332によって構成される。芯金332の先端にはリップを有していない。かかる構成によれば、外輪側シール320の芯金322a・322bと内輪側シール330の芯金332とが導電性グリース140を介して導通した状態となり、第1実施形態の軸受100と同様の効果を得ることが可能となる。
【0022】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、電磁ノイズ対策に有効なシール付き電磁ノイズ対策軸受として利用することができる。
【符号の説明】
【0024】
100…軸受、102…内輪、102a…肩、104…外輪、104a…肩、106…玉、108…保持器、110…シール、120…外輪側シール、122…芯金、124、224…リップ、130…内輪側シール、132…芯金、134、234…リップ、140…導電性グリース、200…軸受、300…軸受、320…外輪側シール、322a…芯金、322b…芯金、324…リップ、330…内輪側シール、332…芯金