(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】三次元計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/25 20060101AFI20240515BHJP
G06T 7/557 20170101ALI20240515BHJP
【FI】
G01B11/25 H
G06T7/557
(21)【出願番号】P 2020066152
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-02-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 太一
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-002240(JP,A)
【文献】特開2020-004085(JP,A)
【文献】特開2010-246899(JP,A)
【文献】特開2020-008502(JP,A)
【文献】特開2015-132509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G06T 7/00-7/90
G06V 10/00-20/90
30/418、40/16、40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縞パターン画像を投影するプロジェクタ(20)と、
計測対象物(5)に投影された前記縞パターン画像を撮影するカメラ(40、140)とを備え、
前記カメラが撮影した画像の輝度値に基づいて、位相シフト法により前記計測対象物の三次元形状を計測する三次元計測装置であって、
前記プロジェクタが投影した光を直線偏光にする偏光子(30)と、
前記縞パターン画像が表された光が前記計測対象物によって反射された反射光から、少なくとも4つの振動方向の光を選択的に通過させる検光子(41、141)と、
前記検光子を通過して前記カメラにより検出された光の輝度値を取得する輝度値取得部(S12)と、
前記輝度値取得部が取得した輝度値に基づき、前記検光子が通過させる光の振動方向の違いによる前記輝度値の変動幅と、前記検光子が通過させる光の振動方向の違いによらない前記輝度値のベース値とを算出する輝度成分算出部(S13)と、
前記変動幅と前記ベース値とを比較して、小さい方を形状計算用の輝度値として用いて前記計測対象物の三次元形状を算出する形状算出部(S14)と、を備える三次元計測装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の三次元計測装置であって、
前記カメラ(40)は、互いに通過させる光の振動方向が相違する4種類の前記検光子(41)を備えた偏光カメラである、三次元計測装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の三次元計測装置であって、
前記検光子(141)は、前記反射光の光路において前記カメラ(140)の前に配置されている三次元計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
位相シフト法により物体の三次元形状を計測する三次元計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、計測対象物の三次元形状を計測する三次元計測装置として、位相シフト法を用いる装置が知られている。位相シフト法では位相をずらした複数枚の縞パターン画像を投影し、縞パターン画像が投影された計測対象物を撮影する。そして、計測対象物の各点の輝度をもとに、三角測量の原理で計測対象物の各点の座標を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
計測対象物が鏡面物体であると、計測対象物を撮影した画像が白飛びする可能性がある。撮影画像が白飛びしてしまうと、位相シフト法による三次元形状の測定精度が低下する。
【0005】
また、計測対象物が半透明物体であると、表面で光が反射せず、内部反射が検出されることがある。内部反射光に基づいて三次元形状を計測してしまうと、三次元形状の測定精度が低下してしまう。
【0006】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的は、精度よく計測対象物の三次元形状を計測できる三次元計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、開示した技術的範囲を限定するものではない。
【0008】
上記目的を達成するための三次元計測装置は、
縞パターン画像を投影するプロジェクタ(20)と、
計測対象物(5)に投影された縞パターン画像を撮影するカメラ(40、140)とを備え、
カメラが撮影した画像の輝度値に基づいて、位相シフト法により計測対象物の三次元形状を計測する三次元計測装置であって、
プロジェクタが投影した光を直線偏光にする偏光子(30)と、
縞パターン画像が表された光が計測対象物によって反射された反射光から、少なくとも4つの振動方向の光を選択的に通過させる検光子(41、141)と、
検光子を通過してカメラにより検出された光の輝度値を取得する輝度値取得部(S12)と、
輝度値取得部が取得した輝度値に基づき、検光子が通過させる光の振動方向の違いによる輝度値の変動幅と、検光子が通過させる光の振動方向の違いによらない輝度値のベース値とを算出する輝度成分算出部(S13)と、
変動幅とベース値とを比較して、小さい方を形状計算用の輝度値として用いて計測対象物の三次元形状を算出する形状算出部(S14)と、を備える。
【0009】
この三次元計測装置は、直線偏光を計測対象物に投影する。したがって、計測対象物からの鏡面反射成分の振動方向は特定の方向になる。また、この三次元計測装置は、反射光から、少なくとも4つの振動方向の光を選択的に通過させる検光子を備えている。検光子が、振動方向が異なる光を選択的に通過させるので、検光子を通過した光のうち、鏡面反射成分は、検光子が通過させる光の振動方向に応じて輝度が相違する。
【0010】
一方、計測対象物からの反射光には拡散反射成分が含まれる。拡散反射成分には、電場の振動方向が種々の方向を持つ光が含まれている。換言すれば、拡散反射成分は、光の振動方向によらず、ほぼ一定と考えることができる。よって、反射光の拡散反射成分は、検光子が通過させる光の振動方向によらず、ほぼ同一になる。
【0011】
これらのことから、4つ以上の振動方向について検光子を通過した輝度値を比較した場合の変動幅が、反射光の鏡面反射成分の大きさであると考えることができる。また、4つ以上の振動方向について検光子を通過した輝度値を比較した場合の、検光子が通過させる振動方向によらない部分であるベース値が、反射光の拡散反射成分であると考えることができる。
【0012】
計測対象物が鏡面物体であれば、鏡面反射成分を使ってしまうと、その値が飽和していることがあるので、輝度値が三次元形状を反映していない。そこで、拡散反射成分の輝度値を表すベース値を使う。鏡面物体であれば、鏡面反射成分を表す輝度値の変動幅よりも、拡散反射成分を表す輝度値のベース値の方が小さい。
【0013】
また、計測対象物が半透明物体である場合、計測対象物の内部で拡散反射が生じることがある。したがって、計測対象物が半透明物体である場合、輝度値の拡散反射成分は三次元形状を正確に表していない。そこで、計測対象物が半透明物体であれば、鏡面反射成分を使うことが好ましい。鏡面反射成分は変動幅であり、計測対象物が半透明物体である場合、変動幅はベース値よりも小さい。
【0014】
次に、計測対象物が鏡面物体ではないが半透明物体でもない物体(以下、通常物体)である場合を考える。通常物体は、物体表面での拡散反射が反射光の主成分となる物体である。通常物体については、三次元形状を計測する輝度値に、反射光の鏡面反射成分を使っても、拡散反射成分を使ってもよい。
【0015】
ただし、拡散反射成分は、表面拡散成分であるか内部拡散反射成分であるかは区別できない。鏡面反射成分を使えば、その区別を必要としないので、通常物体については、鏡面反射成分を使えばよいことになる。通常物体では、鏡面反射成分のほうが拡散反射成分よりも小さいと考えられる。
【0016】
以上をまとめると、計測対象物が、鏡面物体であっても、半透明物体であっても、通常物体であっても、変動幅とベース値を比較して、小さい方を形状計算用の輝度値として用いればよいことになる。
【0017】
形状算出部は、変動幅とベース値とを比較して、小さい方を形状計算用の輝度値として用いて計測対象物の三次元形状を算出する。よって、計測対象物の表面性状によらず、精度よく三次元形状を算出することができる。
【0022】
また、三次元計測装置において、カメラ(40)は、互いに通過させる光の振動方向が相違する4種類の検光子(41)を備えた偏光カメラとすることができる。偏光カメラを備える場合、カメラよりも光路の手前に検光子を別途配置する必要がない。
【0023】
また、三次元計測装置において、検光子(141)は、反射光の光路においてカメラ(140)の前に配置されていてもよい。このようにすれば、偏光カメラではないカメラを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態の三次元計測装置1の構成を示す図。
【
図3】カメラ40が備える検光子41の繰り返し単位を示す図。
【
図5】カメラ40が備えるカラーフィルタを示す図。
【
図6】第1実施形態における三次元形状を計測する処理を示す図。
【
図7】偏光角度と光検出素子が検出する光強度との関係を示す図。
【
図8】水平座標(xm、ym)の算出方法を説明する図である。
【
図9】第2実施形態における三次元形状を計測する処理を示す図。
【
図10】第3実施形態における三次元形状を計測する処理を示す図。
【
図11】第4実施形態の三次元計測装置100の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、第1実施形態の三次元計測装置1の構成を示す図である。三次元計測装置1は、制御装置10と、プロジェクタ20と、偏光子30と、カメラ40とを備えている。三次元計測装置1は、作業台2の上に置かれた計測対象物5の三次元形状を位相シフト法により計測する。作業台2の上面は平面であり、作業台2の任意の位置に計測対象物5が位置する。三次元計測装置1は、たとえば、ロボットにピッキング、組付け作業、製品検査等を行わせる際のロボットの目として利用する。
【0026】
制御装置10は、コンピュータを備えたものとすることができる。制御装置10は、プロジェクタ20が投影する画像のデータとなる画像データを生成してプロジェクタ20へ出力する。プロジェクタ20が投影する画像には、縞パターン画像がある。
【0027】
また、制御装置10は、プロジェクタ20から縞パターン画像が計測対象物5に投影された状態で、カメラ40が撮影した画像を表す画像データを取得する。そして、その画像データをもとに位相シフト法により、計測対象物5の三次元形状を計測する。
【0028】
図2に縞パターン画像を示す。本実施形態の縞パターン画像は、カラーの縞パターン画像である。なお、これとは異なり、単色の縞パターン画像を投影してもよい。
図2に示す縞パターン画像は、詳しくは、赤、緑、青ともに、0から255までの輝度範囲で輝度を変化させた3色の単色縞パターン画像を合成した合成縞パターン画像である。
【0029】
単色縞パターン画像は、赤、緑、青のいずれか1色の輝度が画像の一方向には正弦波状に変化し、その一方向と直交する方向は輝度が一定である画像である。合成縞パターン画像は、3色の単色縞パターン画像の位相が所定の角度だけずれている。
【0030】
一例としては、赤色の単色縞パターン画像の位相が最も進んでおり、緑色の単色縞パターン画像の位相がそれよりも2π/3遅れている。青色の単色縞パターン画像は、緑色の単色縞パターン画像よりもさらに2π/3だけ位相が遅れている。縞パターン画像は、赤、緑、青の単色縞パターン画像が均等に含まれる画像であるため、x画素座標の変化に伴い虹状に色が変化する。
【0031】
プロジェクタ20は、カラー画像を投影可能なプロジェクタである。プロジェクタ20が投影する縞パターン画像は、偏光子30を通過して計測対象物5に投影される。偏光子30は、プロジェクタ20が投影した光を直線偏光にする。偏光子30による偏光方向は特に制限はない。
【0032】
カメラ40は、カラー画像を撮影可能なデジタルカメラであり、フォトダイオードなどの光検出素子(すなわち画素)を受光面に縦横に多数備えている。カメラ40は偏光カメラになっている。偏光カメラであるカメラ40は、撮像素子よりも光路手前に、
図3に示す検光子41を備える。
図3には、検光子41の繰り返し単位を示している。検光子41は、詳しくは、互いに通過する光の振動方向が異なる4種類の検光子41a、41b、41c、41dに分かれる。これら4種類の検光子41a、41b、41c、41dを区別しないときは検光子41と記載する。
【0033】
本実施形態の4種類の検光子41a、41b、41c、41dは、通過する光の振動方向の角度差が、いずれも45度で等しくなっている。検光子41aを通過する光の振動方向を0度とすると、検光子41bを通過する光の振動方向は45度、検光子41cを通過する光の振動方向は90度、検光子41dを通過する光の振動方向は135度である。
【0034】
図4には検光子41の配列の一部を示す。
図4に示すように、4種類の検光子41を各1つずつ含む繰り返し単位が、縦横に連続して配列されている。この検光子41と光検出素子の間に
図5に示すRGBカラーフィルタが配置されている。
【0035】
RGBカラーフィルタは、赤と緑と青のいずれかのカラーフィルタが各光検出素子よりも光到来方向に配置されたものである。赤と緑と青のカラーフィルタの配列は、一般にベイヤ配列に従っている。
図5において、Rは赤色フィルタ、Gは緑色フィルタ、Bは青色フィルタを意味する。
【0036】
各色のフィルタの最小単位は1つの検光子41に対応する。各色のフィルタは、その最小単位が縦横に2つずつ配列されている。したがって、各色のフィルタとも、4種類すべての検光子41を通過した光が入射する。フィルタは、最小単位4つ分の大きさを1つの繰り返し単位としてベイヤ配列に従い配列されている。
【0037】
[三次元形状を計測する処理]
次に、三次元形状を計測する処理を説明する。
図6に三次元形状を計測する処理を示している。
図6に示す処理は、ユーザの操作に基づき、制御装置10が実行する。ステップ(以下、ステップを省略)S11では、縞パターン画像を計測対象物5に投影し、カメラ40により、そのときの計測対象物5の画像を撮影する。
【0038】
S12では、赤、緑、青の3色の色別の撮影画像を、検光子41の種類別に取得する。これは、カラーフィルタの色別かつ検光子41の種類別に、画素が検出した輝度値を取得することを意味する。このS12は輝度値取得部に相当する。
【0039】
S13は輝度成分算出部に相当する。S13では、色別かつ検光子41の種類別の撮影画像を用いて偏光解析を行う。偏光解析は、
図7に示すImax-Iminと、Iminを算出するものである。
【0040】
図7の横軸は偏光角度である。偏光角度は4種類の検光子41が通過させる光の振動方向を意味する。縦軸は各画素が検出する光強度、すなわち、輝度値である。したがって、Imax-Iminは、検光子41の違いによる輝度値の変動幅であり、Iminは検光子41によらない輝度値のベース値である。
【0041】
ここで、偏光角度を連続的に変化させて輝度値を検出したと仮定すると、
図7に示すように、偏光角度に対する輝度値の変化は正弦波状になるはずである。したがって、画素が検出する輝度値をI、偏光角度をθ、偏光角度の初期値をφとすると、式1が成立する。
【0042】
【数1】
式1において、(1+sin(2×(θ+φ)))/2は、最大値が1、最小値が0であり、「θ+φ」は
図7に示す正弦波の各偏光角度における位相を意味する。変動幅であるImax-Iminに、(1+sin(2×(θ+φ)))/2を乗じた右辺第1項は、各偏光角度における変動成分の大きさを意味する。
【0043】
式1においてImax、Imin、θ、φが未知数であり、Iは各画素が検出した輝度値である。4つの偏光角度、0度、45度、90度、135度ではIを取得できる。したがって、4つの未知数に対して4つの等式が得られるので連立方程式を解くことによりImax、Imin、θ、φを求めることができる。そして、Imax、Iminを求めたら、それらから輝度値の変動幅すなわちImax-Iminを算出する。
【0044】
ここで、変動幅とベース値が表す輝度成分の意味を説明する。
図7にも記載しているように、変動幅は反射光の鏡面反射成分を表しており、ベース値は反射光の拡散反射成分を表している。また、
図7から分かるように、鏡面反射成分は反射光の交流成分であり、拡散反射成分は反射光の直流成分である。
【0045】
次に、変動幅が反射光の鏡面反射成分を表している理由を説明する。本実施形態の三次元計測装置1は偏光子30を備えており、直線偏光を計測対象物5に投影する。鏡面反射する場合、反射光も直線偏光が維持される。検光子41の偏光角度が、反射光の直線偏光の角度と一致しているほど、その検光子41に対応する画素が検出する輝度値は大きくなる。つまり、各画素の手前に配置されている検光子41の偏光角度が異なることにより、各画素に検出される反射光の鏡面反射成分の大きさは変化する。それ故、変動幅は、反射光の鏡面反射成分を表しているのである。
【0046】
次に、ベース値が反射光の拡散反射成分を表している理由を説明する。計測対象物5に投影される光が直線偏光であっても、拡散反射成分は全方位光になる。全方位光であるので、偏光角度がどの方向であっても拡散反射成分の大きさはほぼ同じになる。したがって、ベース値が反射光の拡散反射成分を表していると考えることができるのである。
【0047】
S14は形状算出部に相当する。S14は、具体的にはS15以下である。S15では形状計算用の輝度値を色別に決定する。形状計算用の輝度値は、S13で算出した変動幅とベース値とを比較して小さい方の値である。
【0048】
この理由を説明する。計測対象物5が鏡面物体である場合には、鏡面反射成分を使ってしまうと、その値が飽和していることがあるので、輝度値が三次元形状を表していない。一方、鏡面物体でも、通常、少しは反射光に拡散反射成分が含まれる。鏡面物体からの反射光に含まれる拡散反射成分であれば、飽和はしていない。したがって、計測対象物5が鏡面物体である場合、拡散反射成分を使うことが好ましい。鏡面物体からの反射光において、鏡面反射成分と拡散反射成分とを比較すると、拡散反射成分の方が小さい。
【0049】
次に、計測対象物5が半透明物体である場合を考える。半透明物体では、計測対象物5の内部で拡散反射が生じることがある。したがって、計測対象物5が半透明物体である場合、輝度値の拡散反射成分は三次元形状を正確に表していない。そこで、計測対象物5が半透明物体であれば、鏡面反射成分を使うことが好ましい。鏡面反射は物体の表面で生じる反射だからである。半透明物体での鏡面反射成分は大きくない。したがって、半透明物体での鏡面反射成分は拡散反射成分よりも小さい。
【0050】
次に、計測対象物5が通常物体である場合を考える。通常物体は、鏡面物体でも半透明物体でもない物体である。通常物体であれば、鏡面反射成分を採用してもよいし、拡散反射成分を採用してもよい。ただし、任意の物体の表面形状を計測する場合には、計測対象物5が半透明物体である可能性もある。拡散反射は、物体内部での拡散反射であるか、物体表面での拡散反射であるかを区別することが難しい。そこで、通常物体であれば、鏡面反射成分を使うことにすればよい。通常物体では、拡散反射成分よりも鏡面反射成分の方が小さい。
【0051】
以上より、物体が鏡面物体でも、半透明物体でも、通常物体でも、拡散反射成分と鏡面反射成分を比較して小さい方を採用すればよいことになる。
【0052】
S16では、S15で決定した形状計算用の輝度値を色別に正規化する。S17では、各座標(x、y)の色別に正規化した輝度値をもとに、式2から、各座標(x、y)における位相θ(x、y)を算出する。なお、
図5を用いて説明したように、本実施形態では、色毎に縦横に2つずつ、合計4つの画素が1つの繰り返し単位となっている。ここでの座標は、その繰り返し単位ごとの座標である。たとえば、4つの画素の中心座標を、ここでの座標とする。
【0053】
【数2】
式2において、Nは位相シフト総回数、nは色別に取得した撮影画像の位相シフト回数である。縞パターン画像において最も早い位相とした色のnが0、次に位相が早い色のnが1、最も位相が遅い色のnが2である。位相シフト総回数Nは3である。また、a(x、y)は輝度振幅、b(x、y)は背景輝度、θ(x、y)はn=0での位相θである。
【0054】
式2において、未知数は、a(x、y)、b(x、y)、θ(x、y)の3つである。したがって、S16で色別に決定した3つの撮像画像についての各座標(x、y)の輝度値を用いれば、位相θを含む、3つの未知数、a(x、y)、b(x、y)、θ(x、y)を算出することができる。
【0055】
S18では、S17で算出した各座標(x、y)の位相θ(x、y)から、座標計測点Pの高さ座標zmを決定する。座標計測点Pは、計測対象物5あるいは作業台2の表面上の点である。
【0056】
高さ座標zmは、プロジェクタ20とカメラ40とを含む平面から物体までの距離である。高さ座標zmは、位相θと高さ座標zmとの関係を示すグラフと、S17で算出した位相θとを用いて決定する。位相θと高さ座標zmとの関係を示すグラフは、プロジェクタ20の座標、カメラ40の座標、高さ座標zm、基準面における縞パターン画像の1周期分の長さが分かれば作成することができる。なお、基準面は、作業台2の表面である投影面に平行であって、プロジェクタ20およびカメラ40までの距離がzmとなっている面である。
【0057】
プロジェクタ20とカメラ40を固定すれば、プロジェクタ20の座標、カメラ40の座標は既知になる。また、基準面までの高さ座標zmは与える値である。さらに、基準面までの高さ座標zmが決まれば、その基準面における縞パターン画像の1周期分の長さも決まる。よって、位相θと高さ座標zmとの関係を示すグラフは事前に求めることができる。
【0058】
位相θと高さ座標zmとの関係を示すグラフを事前に求めておき、S18では、事前に求めた上記グラフに、S17で算出した位相θ(x、y)を当てはめて、各座標計測点Pの高さ座標zmを決定する。なお、位相θが何周期目であるかが不明だと、高さ座標zmも決定することができない。しかし、ある座標計測点Pにおける高さ座標zmは、その座標計測点Pに隣接する座標計測点Pの高さ座標zmに対して連続的な変化をする。したがって、位相θが何周期目であるかが不明でも計測対象物5の三次元形状を計測することはできる。また、作業台2の高さ座標zmは既知であるので、作業台2の高さ座標zmと比較をすることで、座標計測点Pの高さ座標zmを決定してもよい。
【0059】
S19では、S18で高さ座標zmを決定した座標計測点Pについて、水平座標(xm、ym)を決定する。S18において決定した高さ座標zmは、画素上の座標には対応付けられている。画素上の座標が決まると、カメラ40に対する方向(αx、αy)は定まる。なお、αxは、
図8に示すように、カメラ40から座標計測点Pに向かう方向のうち、xmzm平面におけるzm軸との間の角度である。αyは
図8には図示していないが、αyはカメラ40から座標計測点Pに向かう方向のうち、ymzm平面におけるzm軸との間の角度である。
図8から分かるように、水平座標(xm、ym)は、高さ座標zmとαm、αyから幾何学計算により算出することができる。
【0060】
S14の処理を各座標(x、y)に対して実行することで、計測対象物5の三次元形状を計測することができる。
【0061】
[実施形態のまとめ]
以上、説明した本実施形態では、偏光子30により直線偏光とした縞パターン画像を計測対象物5に投影する。また、カメラ40は、偏光角度が互いに相違する4つの検光子41を備える。この構成により、輝度値の変動幅(すなわち反射光の鏡面反射成分の大きさ)と、輝度値のベース値(すなわち拡散反射成分の大きさ)を決定することができる(S13)。そして、変動幅とベース値とを比較して小さい方を形状計算用の輝度値とすることで(S15)、計測対象物5の性状によらず、計測対象物5の三次元形状を精度よく算出することができる。
【0062】
また、カメラ40として偏光カメラを用いているので、カメラ40よりも手前に検光子を配置する必要がない。
【0063】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態を説明する。この第2実施形態以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0064】
第2実施形態は、計測対象物5が鏡面物体であることが事前に分かっている場合に適用できる実施形態である。
図9に第2実施形態において
図6に代えて実行する処理を示す。
図9では、
図6と同じS11、S12を実行して、赤、緑、青の3色の色別の撮影画像を、検光子41の種類別に取得する。
【0065】
続いて、
図6のS13、S14に代えてS23、S24を実行する。S23は、S13と同じ計算をして、Imax、Imin、θ、φを求める。S13との違いは、Imax-Iminは算出しない点である。
【0066】
S24は具体的には、S26、S27、S28、S29の処理である。これらS26、S27、S28、S29は、それぞれ、S16、S17、S18、S19と同じあるいは類似の処理である。S14にはS15が含まれていたが、S24にはS15に相当する処理はない。計測対象物5が鏡面物体である場合には、形状計算用の輝度値にはベース値であるIminを使えばよいことが分かっている。そのため、輝度値の変動幅の大きさとベース値の大きさを比較する必要がないからである。
【0067】
S26では、第2実施形態における形状計算用の輝度値である各座標(x、y)のIminを色別に正規化する。S27、S28、S29は、それぞれ、S17、S18、S19と同じである。したがって、S27では、各座標(x、y)の色別に正規化した輝度値をもとに、式2から、各座標(x、y)における位相θ(x、y)を算出する。S28では、S27で算出した各座標(x、y)の位相θ(x、y)から、座標計測点Pの高さ座標zmを決定する。S29では、S28で高さ座標zmを決定した座標計測点Pについて、水平座標(xm、ym)を、高さ座標zmとαm、αyから幾何学計算により算出する。
【0068】
計測対象物5が鏡面物体であることが分かっている場合には、この第2実施形態のように、輝度値のベース値と変動幅の比較を省略し、輝度値のベース値であるIminを形状計算用の輝度値として用いて計測対象物5の三次元形状を計測することができる。
【0069】
<第3実施形態>
第3実施形態は、計測対象物5が半透明物体であることが事前に分かっている場合に適用できる実施形態である。
図10に第3実施形態において
図6に代えて実行する処理を示す。
図10では、
図6と同じS11、S12を実行して、赤、緑、青の3色の色別の撮影画像を、検光子41の種類別に取得する。
【0070】
続くS33は
図6のS13と同じであり、Imax、Imin、θ、φを求め、さらに、Imax、IminからImax-Iminを算出する。
【0071】
S34は具体的には、S36、S37、S38、S39の処理である。これらS36、S37、S38、S39は、それぞれ、S16、S17、S18、S19と同じあるいは類似の処理である。S14にはS15が含まれていたが、S34にはS15に相当する処理はない。計測対象物5が半透明物体である場合には、形状計算用の輝度値には変動幅であるImax-Iminを使えばよいことが分かっている。そのため、輝度値の変動幅の大きさとベース値の大きさを比較する必要がないからである。
【0072】
S36では、第3実施形態における形状計算用の輝度値である各座標(x、y)のImax-Iminを色別に正規化する。S37、S38、S39は、それぞれ、S17、S18、S19と同じである。したがって、S37では、各座標(x、y)における位相θ(x、y)を算出する。S38では、座標計測点Pの高さ座標zmを決定する。S39では、座標計測点Pの水平座標(xm、ym)を算出する。
【0073】
計測対象物5が半透明物体であることが分かっている場合、この第3実施形態のように、輝度値のベース値と変動幅の比較を省略し、輝度値の変動幅であるImax-Iminを形状計算用の輝度値として用いて計測対象物5の三次元形状を計測することができる。
【0074】
<第4実施形態>
図11に第4実施形態の三次元計測装置100の構成を示す。三次元計測装置100は、偏光カメラではないカメラ140を備える。そして、このカメラ140よりも、反射光の光路においてカメラ140の前となる位置に、検光子141が1つ配置されている。検光子141は、たとえば円形薄板状であり、厚さ方向に貫通する中心軸周りに回転可能である。
【0075】
検光子141は、その中心軸周りの任意の回転角度で固定させることができる。したがって、ある回転角度を0度とすると、0度、45度、90度、135度の回転角度で固定することができる。これら4つの回転角度で固定した状態は、それぞれ、互いに異なる4つの振動方向の光を選択的に通過させる状態である。
【0076】
三次元計測装置100を用いて計測対象物5の三次元形状を計測する場合、S11において、検光子141の回転角度を4種類以上の回転角度として、それぞれの回転角度で、縞パターン画像の投影と、計測対象物5の撮影を行えばよい。
【0077】
この三次元計測装置100は、偏光カメラではないカメラ140を用いることができる。また、全部の画素が同じ偏光角度の輝度を検出する。したがって、三次元形状の分解能を向上することができる。
【0078】
以上、実施形態を説明したが、開示した技術は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も開示した範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0079】
<変形例1>
実施形態では、カラーの縞パターン画像を投影していた。しかし、互いに位相が異なる3つの単色の縞パターン画像を投影してもよい。
【0080】
<変形例2>
第4実施形態の検光子141は、回転可能に構成されていた。しかし、回転可能に構成することに代えて、所定の取付部材に対して検光子141が着脱可能になっており、偏光方向を異ならせた検光子141を、順次、取付部材に装着してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1:三次元計測装置 2:作業台 5:計測対象物 10:制御装置 20:プロジェクタ 30:偏光子 40:カメラ 41:検光子 100:三次元計測装置 140:カメラ 141:検光子 S12:輝度値取得部 S13:輝度成分算出部 S14:形状算出部 S23:輝度成分算出部 S24:形状算出部 S33:輝度成分算出部 S34:形状算出部