(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 33/04 20060101AFI20240515BHJP
B29D 30/00 20060101ALI20240515BHJP
B29C 35/04 20060101ALI20240515BHJP
B29C 35/16 20060101ALI20240515BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
B29C33/04
B29D30/00
B29C35/04
B29C35/16
B29L30:00
(21)【出願番号】P 2020072701
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 綾子
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-307444(JP,A)
【文献】特開平05-245852(JP,A)
【文献】特開2013-121684(JP,A)
【文献】特開2008-155567(JP,A)
【文献】特開2008-188823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29D 30/00-30/72
B29C 35/00-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内で加硫された空気入りタイヤに対してポストキュアインフレーションを行うにあたって、
空気入りタイヤの一対のビード部に嵌合する一対のリム板と、前記リム板を通して前記空気入りタイヤ内に加圧媒体を供給する供給路と、前記リム板を通して前記空気入りタイヤ内の加圧媒体を排出する排出路と、前記空気入りタイヤの外表面に空気を吹き付ける環状パイプと、前記環状パイプをタイヤ幅方向に沿って前記リム板とは独立して変位させるパイプ駆動装置と、タイヤ中心軸方向に測定される幅である前記空気入りタイヤの幅を検出するタイヤ幅検出装置とを備えた装置を用い、
前記空気入りタイヤを前記一対のリム板に取り付けて前記空気入りタイヤ内に前記加圧媒体を供給した状態で前記空気入りタイヤの幅を検出し、
前記環状パイプをタイヤ幅方向に沿って前記リム板とは独立して変位させ、前記環状パイプの位置を前記空気入りタイヤの幅に基づいて自動的に調整することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記空気入りタイヤの幅をカメラで検出することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記空気入りタイヤの幅をレーザーセンサで検出することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
空気入りタイヤの一対のビード部に嵌合する一対のリム板と、前記リム板を通して前記空気入りタイヤ内に加圧媒体を供給する供給路と、前記リム板を通して前記空気入りタイヤ内の加圧媒体を排出する排出路と、前記空気入りタイヤの外表面に空気を吹き付ける環状パイプと、前記環状パイプをタイヤ幅方向に沿って
前記リム板とは独立して変位させるパイプ駆動装置と、
タイヤ中心軸方向に測定される幅である前記空気入りタイヤの幅を検出するタイヤ幅検出装置と、前記タイヤ幅検出装置により検出された前記空気入りタイヤの幅に基づいて前記パイプ駆動装置を制御する制御部とを備えることを特徴とする空気入りタイヤの製造装置。
【請求項5】
前記タイヤ幅検出装置がカメラであることを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤの製造装置。
【請求項6】
前記タイヤ幅検出装置がレーザーセンサであることを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポストキュアインフレーション(PCI)を行う空気入りタイヤの製造方法及び製造装置に関し、更に詳しくは、寸法安定性及び品質安定性を改善することを可能にした空気入りタイヤの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機繊維コードからなるカーカス層を備えた空気入りタイヤの製造工程において、空気入りタイヤを加硫機の金型内で加硫した後、金型から取り外された加硫済みの空気入りタイヤに内圧を充填した状態で該空気入りタイヤを自然冷却するポストキュアインフレーションが一般的に行われている(例えば、特許文献1~3参照)。空気入りタイヤは加硫直後においても依然として高温であり、カーカスコードの熱収縮による寸法変化を生じる傾向があるため、ポストキュアインフレーションを行うことにより、空気入りタイヤの寸法安定性やユニフォミティを改善することができる。
【0003】
従来、ポストキュアインフレーションにおいては、複数のエア噴射孔を備えた環状パイプを空気入りタイヤを取り囲むように配置し、この環状パイプから空気入りタイヤの外表面に空気を吹き付けることで空気入りタイヤの冷却を行っている。ここで、ポストキュアインフレーション工程には種々異なるタイヤサイズを有する空気入りタイヤが供されるが、タイヤサイズが異なる場合、そのタイヤサイズに応じて空気が当たる位置がタイヤ幅方向に相違する。このようにしてポストキュアインフレーション中の空気入りタイヤにおける冷却箇所が相違すると、カーカスコードの熱収縮による寸法変化が一様ではなくなる。更には、ベルトカバー層においてタイヤ周方向に延在するバンドコードの中間伸度やキャップトレッドゴム層の物性等にもばらつきを生じ易くなる。そのため、タイヤサイズに応じて空気が当たる位置が相違することにより、タイヤ寸法にばらつきが生じ、延いては、ユニフォミティを含むタイヤ品質にばらつきを生じることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-190808号公報
【文献】特開2008-273095号公報
【文献】特開2017-94613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、寸法安定性及び品質安定性を改善することを可能にした空気入りタイヤの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤの製造方法は、金型内で加硫された空気入りタイヤに対してポストキュアインフレーションを行うにあたって、
空気入りタイヤの一対のビード部に嵌合する一対のリム板と、前記リム板を通して前記空気入りタイヤ内に加圧媒体を供給する供給路と、前記リム板を通して前記空気入りタイヤ内の加圧媒体を排出する排出路と、前記空気入りタイヤの外表面に空気を吹き付ける環状パイプと、前記環状パイプをタイヤ幅方向に沿って前記リム板とは独立して変位させるパイプ駆動装置と、タイヤ中心軸方向に測定される幅である前記空気入りタイヤの幅を検出するタイヤ幅検出装置とを備えた装置を用い、
前記空気入りタイヤを前記一対のリム板に取り付けて前記空気入りタイヤ内に前記加圧媒体を供給した状態で前記空気入りタイヤの幅を検出し、前記環状パイプをタイヤ幅方向に沿って前記リム板とは独立して変位させ、前記環状パイプの位置を前記空気入りタイヤの幅に基づいて自動的に調整することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の空気入りタイヤの製造装置は、空気入りタイヤの一対のビード部に嵌合する一対のリム板と、前記リム板を通して前記空気入りタイヤ内に加圧媒体を供給する供給路と、前記リム板を通して前記空気入りタイヤ内の加圧媒体を排出する排出路と、前記空気入りタイヤの外表面に空気を吹き付ける環状パイプと、前記環状パイプをタイヤ幅方向に沿って前記リム板とは独立して変位させるパイプ駆動装置と、タイヤ中心軸方向に測定される幅である前記空気入りタイヤの幅を検出するタイヤ幅検出装置と、前記タイヤ幅検出装置により検出された前記空気入りタイヤの幅に基づいて前記パイプ駆動装置を制御する制御部とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気入りタイヤの製造方法では、空気入りタイヤの幅を検出し、空気入りタイヤの外表面に空気を吹き付ける環状パイプの位置を空気入りタイヤの幅に基づいて自動的に調整することにより、タイヤサイズに拘わらず空気入りタイヤの冷却を効果的かつ一様に行うことが可能になるので、カーカスコードの熱収縮による寸法変化を抑制し、空気入りタイヤの寸法安定性及び品質安定性を改善することができる。
【0009】
また、本発明の空気入りタイヤの製造装置では、従来のポストキュアインフレーションの装置構成に加えて、冷却用の環状パイプをタイヤ幅方向に沿って変位させるパイプ駆動装置と、空気入りタイヤの幅を検出するタイヤ幅検出装置と、タイヤ幅検出装置により検出された空気入りタイヤの幅に基づいてパイプ駆動装置を制御する制御部とを備えることにより、上述の空気入りタイヤの製造方法を実施することが可能となる。
【0010】
本発明において、空気入りタイヤの幅はカメラ又はレーザーセンサで検出することができる。つまり、タイヤ幅検出装置としてはカメラ又はレーザーセンサを使用することができる。カメラ又はレーザーセンサによれば、空気入りタイヤの幅を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの製造装置(ポストキュアインフレーション装置)を示す子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤの製造方法における環状パイプの動作を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの製造装置を示すものである。
【0013】
図1に示すように、この空気入りタイヤの製造装置は、タイヤ中心軸が鉛直方向になるように配置された空気入りタイヤTの一対のビード部に嵌合する一対のリム板1,2と、これらリム板1,2を鉛直方向に駆動する支持軸3,4と、下側のリム板1を通して空気入りタイヤT内に加圧媒体Mを供給する供給路5と、上側のリム板2を通して空気入りタイヤT内の加圧媒体Mを排出する排出路6とを備えている。空気入りタイヤTはその中心軸が水平方向となるように配置されていても良い。リム板1,2は空気入りタイヤTのビード部に対して嵌合することで空気入りタイヤTの空洞部を閉塞するように構成されている。供給路5及び排出路6はリム板1,2のいずれの側に形成されていても良く、共通の流路であっても良い。加圧媒体Mとしては、空気を使用することが好ましいが、他の気体又は液体を使用することも可能である。
【0014】
リム板1,2で支持された空気入りタイヤTの上方には水平方向に延長する支持梁11が配設され、該支持梁1から垂下するように複数本の支持棒12が配設されている。支持棒12にはパイプ駆動装置13を介して2本の環状パイプ14が取り付けられている。パイプ駆動装置13は、環状パイプ14に連結されていてタイヤ幅方向に延長する上下一対のロッド13aと、これらロッド13aをその長手方向に沿って進退させる駆動部13bとから構成され、ロッド13aの進退により環状パイプ14をタイヤ幅方向に沿って変位させるようになっている。各環状パイプ14は空気入りタイヤTを取り囲むように延在し、その内周側に複数のエア噴射孔15を備えている。環状パイプ14には不図示の空気供給源に接続されており、ポストキュアインフレーション中にエア噴射孔15から空気入りタイヤTの外表面に向かって冷却用の空気を噴射するようになっている。
【0015】
また、一方の環状パイプ14には空気入りタイヤTの幅を検出するタイヤ幅検出装置21が配設され、このタイヤ幅検出装置21により検出される空気入りタイヤTの幅が制御部22に入力されるようになっている。タイヤ幅検出装置21としては、カメラ又はレーザーセンサを用いることが好ましい。カメラの場合、撮影された画像から空気入りタイヤTの幅を検出することができる。一方、レーザーセンサの場合、レーザー光の遮断状況に基づいて空気入りタイヤTの幅を検出することができる。カメラ又はレーザーセンサによれば、空気入りタイヤTの幅を正確に検出し、その出力データをそのまま制御に利用することができる。制御部22は、タイヤ幅検出装置21により検出された空気入りタイヤTの幅に基づいてパイプ駆動装置13を制御する。なお、空気入りタイヤTの幅は、全体としての幅を測定することも可能であるが、パイプ駆動装置13の中心位置と空気入りタイヤTの中心位置とが一致している場合、空気入りタイヤTのタイヤ幅方向の端部位置を検出するだけでも良い。つまり、空気入りタイヤTのタイヤ幅方向の端部位置を基準として空気入りタイヤTの中心位置に対して対称となるように一対の環状パイプ14のタイヤ幅方向の位置を決定することが可能である。
【0016】
次に、上述した空気入りタイヤの製造装置を用いて空気入りタイヤTを製造する方法について説明する。先ず、不図示の加硫機において空気入りタイヤTを加硫した後、その加硫機の金型から取り外された加硫済みの空気入りタイヤTをポストキュアインフレーション工程に供する。つまり、
図1に示すように、一対のリム板1,2を空気入りタイヤTの一対のビード部に嵌合させ、排出路6を閉止した状態で供給路5から空気入りタイヤT内に加圧媒体Mを供給する。その一方で、タイヤ幅検出装置21により空気入りタイヤTの幅を検出し、タイヤ幅検出装置21により検出された空気入りタイヤTの幅に基づいて制御部22がパイプ駆動装置13を制御し、環状パイプ14の位置を空気入りタイヤTの幅に基づいて自動的に調整する。例えば、環状パイプ14のエア噴射孔15が空気入りタイヤTのショルダー部付近となるように環状パイプ14の位置を調整することができる。
【0017】
位置の調整後、環状パイプ14のエア噴射孔15から空気入りタイヤTの外表面に向かって冷却用の空気を吹き付ける。このようにして空気入りタイヤTに対するポストキュアインフレーションを開始する。また、ポストキュアインフレーションを終了させる場合、空気入りタイヤT内の加圧媒体Mを排出路6から排出し、一対のリム板1,2を空気入りタイヤTのビード部から離脱させる。
【0018】
図2は環状パイプの動作を概略的に示すものである。
図2に示すように、幅が相対的に小さい空気入りタイヤT1と幅が相対的に大きい空気入りタイヤT2についてポストキュアインフレーションを行う場合、幅狭の空気入りタイヤT1については一対の環状パイプ14を位置P1に配置し、幅広の空気入りタイヤT2については一対の環状パイプ14を位置P2に配置する。
【0019】
上述した空気入りタイヤの製造方法によれば、空気入りタイヤTの幅を検出し、空気入りタイヤTの外表面に空気を吹き付ける環状パイプ14の位置を空気入りタイヤTの幅に基づいて自動的に調整することにより、タイヤサイズに拘わらず空気入りタイヤTの冷却を効果的かつ一様に行うことが可能になるので、カーカスコードの熱収縮による寸法変化を抑制し、空気入りタイヤTの寸法安定性を改善することができる。更に、バンドコードの中間伸度のばらつきやユニフォミティのばらつきを抑制し、空気入りタイヤTの品質安定性を改善することができる。
【実施例】
【0020】
乗用車用空気入りタイヤを製造するにあたって、ポストキュアインフレーションにおける冷却用の環状パイプの構造及びタイヤサイズだけを異ならせた従来例1,2及び実施例1,2のタイヤ製造方法を実施し、それぞれ120本の空気入りタイヤを製造した。
【0021】
従来例1では、冷却用の環状パイプの位置を固定し、タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤを対象とした。従来例2では、冷却用の環状パイプの位置を固定し、タイヤサイズ225/60R18の空気入りタイヤを対象とした。実施例1では、冷却用の環状パイプの位置を空気入りタイヤの幅に基づいて自動的に調整する構造を採用し、タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤを対象とした。実施例2では、冷却用の環状パイプの位置を空気入りタイヤの幅に基づいて自動的に調整する構造を採用し、タイヤサイズ225/60R18の空気入りタイヤを対象とした。
【0022】
上述した空気入りタイヤの製造方法で得られた試験タイヤについて、下記評価方法により、寸法安定性、ユニフォミティ、バンドコードの中間伸度を評価し、その結果を表1に示した。
【0023】
寸法安定性:
各試験タイヤのプロファイルを測定し、従来例1,2及び実施例1,2の各々についてプロファイル測定値の標準偏差を求めた。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど寸法安定性が良好であることを意味する。
【0024】
ユニフォミティ:
各試験タイヤのラジアルフォースバリエーション(RFV)を測定し、従来例1,2及び実施例1,2の各々についてRFV値の標準偏差を求めた。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどユニフォミティが良好であることを意味する。
【0025】
バンドコードの中間伸度:
各試験タイヤのショルダー部からベルトカバー層のバンドコードの採取し、その中間伸度を測定し、従来例1,2及び実施例1,2の各々についてバンドコードの中間伸度の標準偏差を求めた。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどバンドコードの中間伸度のばらつきが少ないことを意味する。
【0026】
【0027】
表1から判るように、実施例1の方法で得られたタイヤは、従来例1との対比において、寸法安定性及びユニフォミティがいずれも改善され、しかもバンドコードの中間伸度のばらつきが少ないものであった。また、タイヤサイズを従来例1よりも大きくした従来例2では、環状パイプの空気入りタイヤに対する相対的な位置が不適切であるため、従来例1よりも悪い結果となった。これに対して、タイヤサイズを従来例2と同じにした実施例2では、実施例1と同等の結果が得られた。
【符号の説明】
【0028】
1,2 リム板
3,4 支持軸
5 供給路
6 排出路
11 支持梁
12 支持棒
13 パイプ駆動装置
13a ロッド
13b 駆動部
14 環状パイプ
15 エア噴射孔
21 タイヤ幅検出装置
22 制御部
M 加圧媒体
T,T1,T2 空気入りタイヤ