(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】はんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20240515BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20240515BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20240515BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
B23K35/22 310A
C22C13/00
C22C13/02
(21)【出願番号】P 2024015314
(22)【出願日】2024-02-04
【審査請求日】2024-02-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】飯島 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴大
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-001179(JP,A)
【文献】特開2018-202436(JP,A)
【文献】特開平07-32188(JP,A)
【文献】特表2010-505625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/22-35/40
C22C 13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ag:2.0~3.6%、In:1.0~5.0%、Sb:3.0~5.0%、Fe:0.0010~0.0300%、Co:0%以上0.050%以下、および残部がSnからなる合金組成を有することを特徴とするはんだ合金。
【請求項2】
前記合金組成は、更に、質量%で、Zr,Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する、請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
前記合金組成は、下記(1)式および(2)式を満たす、請求項1または2に記載のはんだ合金。
0.36≦Ag×In×Sb×Fe≦1.19 (1)
47≦(In×Sb)/(Ag×Fe)≦319 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、In、Sb、およびFeは、各々前記はんだ合金の質量%としての含有量である。
【請求項4】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末を有するはんだペースト。
【請求項5】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだボール。
【請求項6】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだプリフォーム。
【請求項7】
請求項1または2に記載のはんだ合金を有するはんだ継手。
【請求項8】
請求項1または2に記載のはんだ合金を有することを特徴とする車載電子回路。
【請求項9】
請求項1または2に記載のはんだ合金を有することを特徴とするECU電子回路。
【請求項10】
請求項8に記載の車載電子回路を備えたことを特徴とする車載電子回路装置。
【請求項11】
請求項9に記載のECU電子回路を備えたことを特徴とするECU電子回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、プリント基板に電子部品をはんだ付けした電子回路(以下、「車載電子回路」と称する。)が搭載されている。車載電子回路は、エンジン、パワーステアリング、ブレーキ等を電気的に制御する機器に使用されおり、自動車の走行にとって非常に重要な保安部品となっている。特に、燃費向上のためにコンピュータで車を制御する電子回路のECU(Engine Control Unit)と呼ばれる車載電子回路は、長期間に渡って故障がなく安定した状態で稼働できるものでなければならない。このような車載電子回路は、搭載領域の拡大により、衝撃、振動などの種々の外的な負荷を受ける箇所に搭載されるようになった。
【0003】
1980年代から、エンジンルームでの使用が考慮されたはんだ合金として、Sn-Pbはんだ合金の代替であるSn-Ag系はんだ合金が選択肢として挙げられていた。Sn-Agはんだ合金は、A35というJIS記号が割り振られているように、汎用性の高いはんだ合金として従来から知られている。ただ、Sn-Agはんだ合金は、鉛フリーはんだ合金としてSn-Pbはんだ合金に対応するための基本的な位置づけとして考えられており、更なる検討が行われてきた。
【0004】
また、Sn-Agはんだ合金は、Cu電極と接続する場合には、CuがSnにほとんど固溶しないため、接合界面には、電極から拡散されたCuとはんだ合金中のSnにより粗大なCuSn金属間化合物層が形成される。さらに、Ag3Snの多量析出によりはんだ合金が脆くなり、種々の懸念がある。このため、Sn-Agはんだ合金において、厳しい使用環境であってもはんだ継手が破断しないようなはんだ合金が求められており、従来から種々の検討がされている。
【0005】
特許文献1には、はんだ合金の引張強度を向上させるため、Sn-Co-(Sb、Bi、In、Ag、Ga)はんだ合金にSb、Bi、In、Ag、およびGaを添加した検討が行われている。同文献に記載のはんだ合金は、Coを含有することにより、微細なCoSnやCoSn2がSnマトリックス中に分散し、引張強度の向上に寄与することが開示されている。また、融点を下げるため、Sbなどの元素を更に添加することが検討されている。
【0006】
特許文献2には、ボイドの発生を抑制するとともに、ヒートサイクル試験後であっても亀裂の発生を抑制するSn-Ag-Sb-Ni-Bi-Coはんだ合金が開示されている。同文献には、Cuを含有しないと溶融粘度を下げることができるため、ボイドの発生を抑制することができる、とされている。さらに、同文献には、Niを含有すると、Cuを含有せずともCuの過度な拡散が抑制されるために亀裂の進展が抑制されることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-344180号公報
【文献】特開2018-1179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、特許文献1および2に記載の発明では、はんだ合金の引張強度の向上を図り、また、ボイドの発生を抑制し、耐ヒートサイクル性の向上が図られている。また、特許文献1では融点を下げる検討がなされている。
【0009】
しかし、車載用の電子回路に用いるはんだ合金としては、これらの評価だけでは不十分である。例えば、車載用の電子回路では、電子回路を搭載する自動車が悪路を走行すると、電子回路には外部からの衝撃や振動などの応力が加わる。このため、はんだ継手が破断しないように高いシェア強度を示すことは、はんだ継手にとって大変重要である。
【0010】
また、破断し難いはんだ継手が形成されたとしても、応力が継続的にはんだ継手に加わると、いずれ破断する。このような継続的な応力は、寒暖差が激しい環境に曝されることにより継続的に加わることが考えられる。これは、電極、接合界面に形成される金属間化合物、およびバルクの熱膨張係数の違いに起因する。このとき、破断した箇所を表す破壊モードが接合界面であってはならない。接合界面は電極と接合しているため、接合界面で応力を緩和することは容易ではない。ただ、物理的および電気的な負荷は主としてはんだ継手の接合界面に加わる。このため、比較的変形しやすいバルクで応力を緩和した方が、破壊を抑制することができると考えられる。
【0011】
しかし、特許文献1および2には、シェア強度と破壊モードについては一切検討されておらず、はんだ継手の使用する上での実情が反映されているとは言い難い。はんだ継手は基板等と電子部品等を電気的に接続するものであるため、接合界面での破断は極力避けられるべきである。
【0012】
このように、特許文献1および2には、はんだ継手として重要な特性であるシェア強度と破壊モードについては何ら検討されていない。Cuを含有しないはんだ合金であっても、これらの特性が発揮されるはんだ合金は望まれている。しかし、近年の自動車は電気化が進み、搭載される基板数は増加し続けると考えられるため、これらの特性を示すはんだ合金の開発は急務である。さらに、電子部品の耐熱性を鑑みると、従来と同程度の融点を示すことも望まれている。
【0013】
そこで、本発明の課題は、融点が低く、シェア強度が高く、破壊モードが適切であるはんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、特許文献1および2に開示されているはんだ合金を再検討した。両文献に開示されているはんだ合金の中で、特許文献1の実施例5であるSn-Ag-In-Sb-Co-Gaはんだ合金、および特許文献2の実施例19であるSn-Ag-In-Sb-Co-Ni-Biはんだ合金、同文献の実施例24であるSn-Ag-Sb-Co-Fe-Ni-Biはんだ合金のシェア強度が、従来と同程度であり、改善の余地がある知見が得られた。
【0015】
これらのはんだ合金は、シェア強度の向上を目的として設計された合金組成を有するわけではない。はんだ合金は、それぞれのはんだ合金ごとに,その組成成分の一つでも含有量等が異なれば,全体の特性が異なることが通常であって、所定の含有量を有する合金元素の組合せの全体が一体のものとして技術的に評価されると解すべきである。
【0016】
そこで、本発明者らは、融点の上昇を抑えつつ、シェア強度の向上と、破壊モードについて詳細に調査をおこなった。ここで、特許文献1では、Sn-Coはんだ合金に、Ag、In、Sb、Gaを添加すると融点を下げることができる、と説明されている。しかし、融点は、これらの元素の含有量に応じて大きく変動するため、たまたま特許文献1の実施例5に記載されている組成が妥当であるとは限らない。
【0017】
また、特許文献1には、引張強度の向上を目的としてCoを添加することが開示されている。しかし、シェア強度の向上に関しては何ら検討されていない。また、はんだ合金の引張強度が必要以上に向上すると、破壊モードが接合界面になる。このため、Sn-Ag-In-Sb-Co-Gaはんだ合金においては、Coの添加は好ましくないと推察される。
【0018】
特許文献2には、NiとCoが所定の範囲内であればボイドの発生を抑制することができることが記載されている。このように、特許文献2の記載を鑑みると、CoはNiと共存することにより効果を発揮し得る。したがって、特許文献1の合金組成ではシェア強度が低く破壊モードが不適切であった知見によれば、特許文献2においても、Niの添加は好ましくないと推察される。
【0019】
さらに、特許文献2には、Biの含有量が所定量以下であると耐熱衝撃性を保つことができるとされている。しかし、特許文献2においてBiは、3%程度までSnに固溶するため、Snの固溶強化によりはんだ合金の引張強度が増加し、破壊モードが接合界面になってしまう。
【0020】
そこで、本発明者らは、上述の知見などを鑑み、特許文献1および2において、Snへの添加元素からNi、Co、およびBiを除いたSn-Ag-In-Sbはんだ合金に着目した。そして、本発明者らは、このはんだ合金のシェア強度が向上し、破壊モードがバルクであるようにするため、更なる添加元素の選定と、Ag、In、およびSbの含有量について詳細に検討を行った。
【0021】
まずは、破壊モードを適切にするため、CuおよびNiを含有しないはんだ合金において、接合界面の金属間化合物の成長を抑制する必要がある。金属間化合物は電極からはんだ合金へCuが拡散することにより成長する。ここで、金属間化合物は主としてSnとCuの化合物で構成される。そして、はんだ合金と電極の界面に存在する金属間化合物層が粗大であると、破壊モードが不適切となりやすい。
【0022】
そこで、Feを含有することにより界面が改質されることに着目し、Sn-Ag-In-Sb-Feはんだ合金について、添加元素の含有量を詳細に調査した。この結果、添加元素の含有量が所定の範囲内である場合に限り、シェア強度の向上と破壊モードの適正化を図ることができる知見が得られた。
これらの知見により得られた本発明は以下のとおりである。
【0023】
(0) 質量%で、Ag:2.0~3.6%、In:1.0~5.0%、Sb:3.0~5.0%、Fe:0.0010~0.0300%、Co:0%以上0.050%以下、および残部がSnからなることを特徴とするはんだ合金。
(1) 質量%で、Ag:2.0~3.6%、In:1.0~5.0%、Sb:3.0~5.0%、Fe:0.0010~0.0300%、Co:0%以上0.050%以下、および残部がSnからなる合金組成を有することを特徴とするはんだ合金。
【0024】
(2)合金組成(はんだ合金)は、更に、質量%で、Zr、Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する、上記(0)または上記(1)に記載のはんだ合金。
【0025】
(3)合金組成(はんだ合金)は、下記(1)式および(2)式を満たす、上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金。
0.36≦Ag×In×Sb×Fe≦1.19 (1)
47≦(In×Sb)/(Ag×Fe)≦319 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、In、Sb、およびFeは、各々前記はんだ合金の質量%としての含有量である。
【0026】
(4)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末を有するはんだペースト。
【0027】
(5)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだボール。
【0028】
(6)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだプリフォーム。
【0029】
(7)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金を有するはんだ継手。
【0030】
(8)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金を有することを特徴とする車載電子回路。
【0031】
(9)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金を有することを特徴とするECU電子回路。
【0032】
(10)上記(8)に記載の車載電子回路を備えたことを特徴とする車載電子回路装置。
【0033】
(11)上記(9)に記載のECU電子回路を備えたことを特徴とするECU電子回路装置。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、シェア強度を測定した後におけるサンプルの光学顕微鏡写真を示し、
図1(a)は実施例14であり、
図1(b)は実施例2であり、
図1(c)は比較例3である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を以下により詳しく説明する。本明細書において、はんだ合金組成に関する「%」は、特に指定しない限り「質量%」である。
【0036】
1. はんだ合金
(1) Ag:2.0~3.6%
Agは、シェア強度の向上、Ag3Snの析出による破壊モードの適切化、および融点の低下に寄与する。Agの含有量が2.0%未満であると、化合物の析出量が少なくシェア強度が低下する。Ag含有量の下限は2.0%以上であり、好ましくは2.5%以上であり、より好ましくは2.7%以上であり、更に好ましくは3.0%以上である。
【0037】
一方、Agの含有量が3.6%を超えると、過共晶になるためにAg3Snが多量に析出してバルクの強度が過度に上がるため、破壊モードが接合界面になる。さらに、破壊モードが接合界面であることにより、シェア強度が低下する。Ag含有量の上限は3.6%以下であり、好ましくは3.5%以下であり、より好ましくは3.4%以下である。
【0038】
(2) In:1.0~5.0%
Inは、シェア強度の向上、および破壊モードの適切化に寄与する。Inの含有量が1.0%未満であると、濡れ性の低下により濡れ広がりが不十分であるとともに固溶強化の効果が十分ではないため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切になる。Inの含有量の下限は1.0%以上であり、好ましくは1.5%以上であり、より好ましくは2.0%以上であり、更に好ましくは2.5%以上であり、特に好ましくは3.0%以上である。
【0039】
一方、Inの含有量が5.0%を超えると、化合物を多量に析出することにより、融点が上昇する。さらに、バルク強度が上がり、接合界面もしくは部品での破壊の懸念がある。Inの含有量の上限は5.0%以下であり、好ましくは4.5%以下であり、より好ましくは4.0%以下であり、更に好ましくは3.5%以下である。
【0040】
(3) Sb:3.0~5.0%
Sbは、シェア強度の向上、および破壊モードの適正化に寄与する。Sbの含有量が3.0%未満であると、Snに対する固溶強化、Sn-Sb化合物の析出強化が十分ではないため、シェア強度が劣る。Sbの含有量の下限は3.0%以上であり、好ましくは3.5%以上であり、より好ましくは3.6%以上であり、さらに好ましくは3.8%以上であり、特に好ましくは3.9%以上であり、最も好ましくは4.0%以上である。
【0041】
一方、Sbの含有量が5.0%を超えると、粗大なSnSb化合物を形成するため、シェア強度が劣る。さらに、濡れ性が劣化し、破壊モードが接合界面または部品破壊となり、不適切になる。Sbの含有量の上限は5.0%以下であり、好ましくは4.8以下であり、より好ましくは4.6%以下であり、さらに好ましくは4.5%以下であり、特に好ましくは4.3%以下であり、最も好ましくは4.1%以下である。
【0042】
(4) Fe:0.0010~0.0300%
Feは、シェア強度の向上、および破壊モードの適正化に寄与する。Feの含有量が0.0010%未満であると、界面に形成される金属間化合物層の改質による界面強化の効果が十分ではないため、シェア強度が劣り、破壊モードが接合界面になり適正ではない。Feの含有量の下限は0.0010%以上であり、好ましくは0.0050%以上であり、より好ましくは0.0100%以上であり、更に好ましくは0.0150%以上であり、特に好ましくは0.0200%以上である。
【0043】
一方、Feの含有量が0.0300%を超えると、SnとFeの化合物が析出し、バルク強度が過度に向上するため、接合界面での破壊の懸念がある。Feの含有量の上限は0.0300%以下であり、好ましくは0.0270%以下であり、より好ましくは0.0250%以下である。
【0044】
(5) Co:0%以上0.050%以下
Coは、融点上昇の抑制、シェア強度の向上、および破壊モードの適切化に寄与する任意元素である。従来のはんだ合金では、シェア強度の向上および破壊モードの適正化の観点から含有しない方がよいと考えられた。しかし、Coを添加したところ、高いシェア強度が維持されるとともに破壊モードもバルクのままである。Sn-Ag-In-Sb系はんだ合金では、CoはCoSnなどが微細に分散されると考えられる。しかし、Snの合金組織を微細にするまでには至らない。この合金系ではFeによりSnの合金組織が微細になることから、CoSnなどの微細組織が分散されると、さらに全体の合金組織が微細になると推察される。したがって、本発明に係るはんだ合金では、CoはFeの存在下において相乗的に効果を発揮することができる。
【0045】
また、本発明に係るはんだ合金では、Coは任意元素であるため、Coを含有しない場合であっても、高いシェア強度と破壊モードの適正化を維持することができる。Co含有量の下限は0%以上であり、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.0010%以上であり、更に好ましくは0.0030%以上であり、特に好ましくは0.0060%以上であり、最も好ましくは0.0080%以上である。
【0046】
一方、Coの含有量が0.0500%を超えると、SnとCoの化合物が析出し、バルクの強度が過度に上がるため、破壊モードが接合界面になる。また、化合物の多量析出により融点が大幅に上昇し、濡れ性が悪化するため、シェア強度が低下する。Co含有量の上限は0.0500%以下であり、好ましくは0.0300%以下であり、より好ましくは0.0100%以下である。
【0047】
(6) 残部:Sn
本発明に係るはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。不可避的不純物を含有する場合であっても、前述の効果に影響することはない。なお、本発明において、Sn-Ag-In-Sb-Feはんだ合金がNiを含有すると、SnNi化合物が析出する。SnNi化合物は界面に形成される金属間化合物を核として析出するため、界面に形成される金属間化合物層が厚くなる。その結果、シェア強度の低下がする。したがって、本発明では、Niを含有しない方がよい。また、Biは、Inと共存するとSn-In-Bi低融点相を形成する。低融点相は、クリープ変形を鑑みると、融点に対して室温環境が非常に高温環境であるため、クリープ変形し易く、シェア強度が低下する。このため、本発明では、Biを含有しない方がよい。
【0048】
(7) Zr,Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下
本発明に係るはんだ合金は、本発明の効果を損なわない程度において、任意元素としてZr,Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下の範囲で含有することができる。好ましくは、合計量が0.08%以下である。含有量の下限は特に限定されないが、0.0001%以上であればよく、0.001%以上であってもよい。
【0049】
(8) (1)式および(2)式
0.36≦Ag×In×Sb×Fe≦1.19 (1)
47≦(In×Sb)/(Ag×Fe)≦319 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、In、Sb、およびFeは、各々はんだ合金の質量%としての含有量である。
【0050】
(1)式は、本発明に係るはんだ合金の添加元素のバランスが考慮された式である。本発明に係るはんだ合金は、低い融点、高いシェア強度、および適正な破壊モードを、各構成元素の相乗効果により発揮することができる。このため、Snを除くすべての構成元素のバランスは、本発明のすべての効果を、より一層向上させることができる。(1)式の中で、Ag、In、およびSbの含有量は、Feの含有量と比較して10~100倍程度である。しかし、はんだ合金への寄与度は同程度であると考えられる。したがって、本発明において低い融点、高いシェア強度、および適正な破壊モードを、1組成で、同時に、更に向上させるためには、均衡がとれた含有量にすることが好ましい。
【0051】
(2)式は、添加元素の中で、上限を超えると、部品破壊に至るまでシェア強度が向上してしまうInおよびSbの群内でのバランスと、界面破壊で留まるAgおよびFeの群内でのバランスとが考慮され、更に両群のバランスが考慮された式である。(2)式を満たすと、合金組成によっては更に破壊モードが適正になることがある。
【0052】
(1)式の下限は、好ましくは0.36以上であり、より好ましくは0.39以上であり、更に好ましくは0.42以上であり、更により好ましくは0.43以上であり、特に好ましくは0.44以上であり、最も好ましくは0.52以上であり、0.53以上、0.60以上、0.656以上、0.66以上、0.70以上、0.75以上、0.78以上、0.79以上、0.84以上、0.87以上、0.88以上であってもよい。(1)式の上限は、好ましくは1.19以下であり、より好ましくは1.18以下であり、更に好ましくは1.09以下であり、更により好ましくは1.08以下であり、特に好ましくは1.05以下であり、最も好ましくは1.02以下であり、0.91以下、0.92以下、0.90以下であってもよい。
【0053】
(2)式の下限は、好ましくは47以上であり、より好ましくは51以上であり、更に好ましくは57以上であり、更により好ましくは68以上であり、特に好ましくは69以上であり、最も好ましくは85以上であり、86以上、91以上、102以上、103以上、114以上、120以上、133以上、137以上、141以上、142以上、143以上、154以上、160以上であってもよい。(2)式の上限は、好ましくは319以下であり、より好ましくは286以下であり、更に好ましくは285以下であり、更により好ましくは267以下であり、特に好ましくは266以下であり、最も好ましくは257以下であり、240以下、229以下、228以下、213以下、206以下、205以下、200以下、192以下、183以下、182以下、171以下であってもよい。
【0054】
(1)式および(2)式の算出には、下記表1および2に示された合金組成の実測値において、表記されている数値自体が用いられる。すなわち、(1)式および(2)式の算出では、下記表1~3で示された実測値において、有効数字の桁数より小さい桁をすべて0として取り扱う。例えば、Feの含有量が実測値で「0.0250」質量%であった場合、(1)式および(2)式の算出に用いるFeの含有量は、0.02505~0.02514%の範囲を有するのではなく、「0.025000・・・」として取り扱う。(1)式では小数点第三位まで算出し、小数点第三を四捨五入して小数点第二位まで求め、(2)式では小数点第一位まで算出し、小数点第一位を四捨五入して一の位まで求める。
なお、本明細書に記載されている特許文献やその他の文献に具体的に開示されている合金組成から(1)、(2)式を算出する場合にも、同様にして取り扱う。
【0055】
前述のように、合金はすべての構成元素が個々に機能するのではなく、すべての構成元素が全体として1つの物を成すことから、1種の元素だけですべての優れた効果が同時に発揮されることは稀である。このため、上述のように、各構成元素の最適な含有量の範囲内において、更に優れた特性を示すようにするためには、構成元素を全体的に検討する必要がある。本発明に係るはんだ合金では、低い融点、高いシェア強度、適正な破壊モードのすべてを、1組成で、更に高い水準で満足するようためには、(1)式および(2)式を満足することが好ましい。
【0056】
なお、後述する実施例において、判定結果が「◎」である場合には、「〇」と比較して実用上特に好ましいことを表す。「〇」は、従来よりも好ましい結果であるため、他の評価結果も優れている場合には本発明の範囲内であり、実施例として取り扱う。「×」は、本発明においては不十分な結果であるため、本発明の範囲外であり、比較例として取り扱う。
【0057】
2. はんだペースト
本発明に係るはんだペーストは、上述の合金組成からなるはんだ粉末とフラックスとの混合物である。本発明において使用するフラックスは、常法によりはんだ付けが可能であれば特に制限されない。したがって、一般的に用いられるロジン、有機酸、活性剤、チキソ剤、そして溶剤を適宜配合したものを使用すればよい。本発明において金属粉末成分とフラックス成分との配合割合は特に制限されないが、好ましくは、金属粉末成分:70~90質量%、フラックス成分:10~30質量%である。
【0058】
3. はんだボール
本発明に係るはんだ合金は、はんだボールとして使用することができる。はんだボールとして使用する場合は、本発明に係るはんだ合金を、当業界で一般的な方法である滴下法を用いてはんだボールを製造することができる。また、はんだボールを、フラックスを塗布した1つの電極上にはんだボールを1つ搭載して接合する等、当業界で一般的な方法で加工することによりはんだ継手を製造することができる。はんだボールの粒径は、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上であり、特に好ましくは30μm以上である。はんだボールの粒径の上限は好ましくは3000μm以下であり、より好ましくは1000μm以下であり、さらに好ましくは800μm以下であり、特に好ましくは600μm以下である。
【0059】
4. はんだプリフォーム
本発明に係るはんだ合金は、プリフォームとして使用することができる。プリフォームの形状としては、ワッシャ、リング、ペレット、ディスク、リボン、ワイヤー等が挙げられる。
【0060】
5. はんだ継手
本発明に係るはんだ継手は、少なくとも2つ以上の被接合部材の接合に好適に使用される。被接合部材とは、例えば、素子、基板、電子部品、プリント基板、絶縁基板、ヒートシンク、リードフレーム、電極端子等を用いる半導体及び、パワーモジュール、インバーター製品など、本発明に係るはんだ合金を用いて電気的に接続されるものであれば特に限定されない。
【0061】
本発明に係るはんだ合金を用いた接合方法は、例えばリフロー法を用いて常法に従って行えばよい。リフローソルダリングを行う場合のはんだ合金の溶融温度は概ね液相線温度から20℃程度高い温度でよい。また、本発明に係るはんだ合金を用いて接合する場合には、凝固時の冷却速度を考慮した方がさらに合金組織を微細にすることができる。例えば2~3℃/s以上の冷却速度ではんだ継手を冷却する。この他の接合条件は、はんだ合金の合金組成に応じて適宜調整することができる。
【0062】
6. 車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、ECU電子回路装置
本発明に係るはんだ合金は、これまでの説明からも明らかなように、融点の上昇が抑えられ、破壊モードが適正である。このため、過酷な環境に曝される自動車用、つまり車載用として使用されても、はんだ継手の破断がバラツキなく抑制される。したがって、そのような特に顕著な特性を備えていることから、本発明に係るはんだ合金は、自動車に搭載する電子回路のはんだ付けに特に適していることがわかる。
【0063】
このように、本発明に係るはんだ合金は、より特定的には、車載電子回路のはんだ付けに用いられ、あるいは、ECU電子回路のはんだ付けに用いられても優れた効果を発揮する。
【0064】
「電子回路」とは、それぞれが機能を持っている複数の電子部品の電子工学的な組み合わせによって、全体として目的とする機能を発揮させる系(システム)である。
【0065】
そのような電子回路を構成する電子部品としては、チップ抵抗部品、多連抵抗部品、QFP、QFN、パワートランジスタ、ダイオード、コンデンサ等が例示される。これらの電子部品を組み込んだ電子回路は基板上に設けられ、電子回路装置を構成するのである。
【0066】
本発明において、そのような電子回路装置を構成する基板、例えばプリント配線基板は特に制限されない。またその材質も特に制限されないが、耐熱性プラスチック基板(例:高Tg低CTEであるFR-4)が例示される。プリント配線基板はCuランド表面をアミンやイミダゾール等の有機物(OSP:OrganicSurfaceProtection)で処理したプリント回路基板が好ましい。
【0067】
7. その他
本発明に係るはんだ合金は、その原材料として低α線量材を使用することにより低α線量合金を製造することができる。このような低α線量合金は、メモリ周辺のはんだバンプの形成に用いられるとソフトエラーを抑制することが可能となる。
【実施例】
【0068】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明が以下の実施例に限定されることはない。
本発明の効果を立証するため、表1~3に記載のはんだ合金を用いて、(1)融点、(2)シェア強度、および(3)破壊モードを評価した。
【0069】
(1) 融点
表1~3に示すはんだ合金について、DSC曲線から各々の温度を求めた。DSC曲線は、セイコーインスツルメンツ社製のDSC(型番:6200)により、大気中で5℃/minで昇温して得られた。得られたDSC曲線から液相線温度を求め、融点とした。融点が232℃以下である場合には、従来と同程度の温度でリフローはんだ付けを行うことができる。融点が232℃超過である場合には、融点が高いために従来のリフローはんだ付けを行うことができない。
【0070】
(2) シェア強度
(2-1)サンプルの作製
表1~3に示すはんだ合金を鋳造し、はんだシートを作製した(直径:1mm/、厚さ0.15mm)。FR-4基板のCu-OSP電極にリフロー炉(SNR-615:千住金属工業株式会社製)を使用し、チップ抵抗器をはんだ付けした。チップ抵抗器は、3216CR(CR32-114JV:北陸電気工業社製)を用いた。リフロープロファイルは、220℃以上を40秒保持し、窒素雰囲気で、ピーク温度を245℃とした。
(2-2)シェア強度の評価
このように作製したサンプルを、シェア試験機(STR-1000:RHESCA社製)を用い、シェア速度を6mm/min.としてシェア強度を測定した。シェア強度が84.0N以上である場合には「◎」と評価した。シェア強度が70.0N以上84.0N未満である場合には「〇」と評価した。シェア強度が70.0N未満である場合には「×」と評価した。
【0071】
(3) 破壊モード
上記「(2) シェア強度」で評価したサンプルを、光学顕微鏡(VHX-5000:KEYENCE社製)を用いて破壊モードを観察した。サンプルがバルクで破壊している場合には「◎」と評価した。サンプルがバルク及び接合界面の金属間化合物(IMC)で破壊している場合には「〇」と評価した。サンプルが金属間化合物で破壊している場合には「×」と評価した。
評価結果を表1~3に示す。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
表1および表2に示すように、実施例1~110は、いずれも各構成元素の含有量が適量であるため、すべての評価が実用上耐え得る結果になった。また、(1)式および(2)式を満たす実施例3~14、16、19、22、28~31、37~48、50、54、57、66、68~73、および77~110は、すべての評価において、極めて優れる結果を示すことがわかった。これは、実用上耐え得る結果の中でも、有意差がある程度に優れる結果であった。
【0076】
一方、表3に示すように、比較例1は、In、Sb、およびFeを含有しないため、シェア強度が劣り、破壊モードが適切ではなかった。比較例2は、Agの含有量が少ないため、シェア強度が劣った。比較例3は、Agの含有量が多いため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。
【0077】
比較例4はInを含有せず、比較例5は、Inの含有量が少ないため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。比較例6は、Inの含有量が多いため、破壊モードが不適切であった。
【0078】
比較例7は、Sbの含有量が少なくFeを含有しないため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。比較例8は、Sbの含有量が少ないため、シェア強度が劣った。比較例9は、Sbの含有量が多いため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。
【0079】
比較例10~12は、Feの含有量が適切ではなかったため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。比較例13は、Coの含有量が多いため、融点が大幅に上昇し、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。比較例14および15は、各々NiまたはBiを含有するため、シェア強度が劣った。
【0080】
図1は、シェア強度を測定した後におけるサンプルの光学顕微鏡写真を示し、
図1(a)は実施例14であり、
図1(b)は実施例2であり、
図1(c)は比較例3である。
図1から明らかなように、実施例14では、バルク破壊によりはんだ継手が破断していることがわかった。また、実施例2ではバルクおよび接合界面の金属間化合物で破壊していることがわかった。一方、比較例3は、接合界面の金属間化合物での破壊によりはんだ継手が破断していることがわかった。このため、本実施例14では、破壊モードが適正であることがわかった。この結果は、他の実施例でも同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るはんだは、燃費向上のためにコンピュータで自動車を制御する電子回路であるECUなどの車載電子回路として利用することができるが、例えば、パソコンなどの民生電子機器にも使用して優れた効果を奏するものである。
【要約】 (修正有)
【課題】融点が低く、シェア強度が高く、破壊モードが適切であるはんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置を提供する。
【解決手段】はんだ合金は、質量%で、Ag:2.0~3.6%、In:1.0~5.0%、Sb:3.0~5.0%、Fe:0.001~0.030%、Co:0%以上0.050%以下、および残部がSnからなる合金組成を有する。好ましくは、この合金組成は、更に、質量%で、Zr,Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する。
【選択図】
図1