(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
C03B17/06
(21)【出願番号】P 2020105262
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】玉村 周作
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆英
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/200928(WO,A2)
【文献】特表2009-518275(JP,A)
【文献】特開2019-026489(JP,A)
【文献】特開2012-214349(JP,A)
【文献】国際公開第2014/030649(WO,A1)
【文献】特開2003-081653(JP,A)
【文献】特開2012-082107(JP,A)
【文献】特開2017-119617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーバーフローダウンドロー法により、溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形装置を備えるガラス物品の製造装置において、
前記成形装置は、成形体と、前記成形体の幅方向両端部の下部にそれぞれ設けられる案内部材とを備え、
前記成形体は、前記溶融ガラスを流下させる第1の傾斜成形面と、前記成形体の下端部で前記第1の傾斜成形面と交わり、前記第1の傾斜成形面の反対側で前記溶融ガラスを流下させる第2の傾斜成形面とを有し、
前記案内部材は、前記溶融ガラスの一部を前記第1の傾斜成形面に沿って案内する第1の傾斜案内面と、前記成形体の下端部で前記第1の傾斜案内面と交わり、前記溶融ガラスの一部を前記第2の傾斜成形面に沿って案内する第2の傾斜案内面と、前記第1の傾斜案内面および前記第2の傾斜案内面を流下する前記溶融ガラスを背面側から加熱する抵抗加熱式ヒーターとを有し
、
前記成形体は、幅方向両端部の下部に欠落部を有し、
前記案内部材は、前記第1の傾斜案内面の背面側および/又は前記第2の傾斜案内面の背面側に侵入した前記溶融ガラスを、前記欠落部に沿って案内する背面側案内面を有していることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項2】
前記ヒーターは、前記欠落部に配置されている請求項1に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項3】
前記ヒーターは、前記第1の傾斜案内面の背面側に配置された第1の加熱部と、前記第2の傾斜案内面の背面側に配置された第2の加熱部とを有している請求項
1又は2に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項4】
前記第1の加熱部と前記第2の加熱部とが、前記成形体の下端部で連続している請求項3に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項5】
前記欠落部に、前記ヒーターを保持する耐火レンガが配置されている請求項
1~
4のいずれか1項に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項6】
前記ヒーターと前記案内部材との間に、セメントを含む絶縁層が形成されている請求項
5に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項7】
オーバーフローダウンドロー法により、溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形装置を備えるガラス物品の製造装置において、
前記成形装置は、成形体と、前記成形体の幅方向両端部の下部にそれぞれ設けられる案内部材とを備え、
前記成形体は、前記溶融ガラスを流下させる第1の傾斜成形面と、前記成形体の下端部で前記第1の傾斜成形面と交わり、前記第1の傾斜成形面の反対側で前記溶融ガラスを流下させる第2の傾斜成形面とを有し、
前記案内部材は、前記溶融ガラスの一部を前記第1の傾斜成形面に沿って案内する第1の傾斜案内面と、前記成形体の下端部で前記第1の傾斜案内面と交わり、前記溶融ガラスの一部を前記第2の傾斜成形面に沿って案内する第2の傾斜案内面と、前記第1の傾斜案内面および前記第2の傾斜案内面を流下する前記溶融ガラスを背面側から加熱する抵抗加熱式ヒーターとを有し、
前記ヒーターは、前記第1の傾斜案内面の背面側に配置された第1の加熱部と、前記第2の傾斜案内面の背面側に配置された第2の加熱部とを有し、
前記案内部材は、前記第1の傾斜成形面と前記第1の傾斜案内面との間で前記第1の加熱部を収容する第1のポケット部と、前記第2の傾斜成形面と前記第2の傾斜案内面との間で前記第2の加熱部を収容する第2のポケット部とを有している
ことを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項8】
前記案内部材は、前記成形体の下端部において、前記第1のポケット部と前記第2のポケット部とを連通する連通部を有し、
前記第1の加熱部と前記第2の加熱部とが、前記連通部を通じて連続している請求項
7に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項9】
前記案内部材は、前記成形体の下端部において、前記第1の傾斜案内面および前記第2の傾斜案内面から垂下され、前記溶融ガラスを案内するフィンを有し、
前記フィンが、前記連通部の幅方向の一部において、前記連通部の内部まで延存している請求項
8に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項10】
前記ヒーターと前記案内部材との間に、溶射膜からなる絶縁層が形成されている請求項
7~
9のいずれか1項に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項11】
成形装置を用いて、オーバーフローダウンドロー法により、溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法において、
前記成形装置は、成形体と、前記成形体の幅方向両端部の下部にそれぞれ設けられる案内部材とを備え、
前記成形体は、前記溶融ガラスを流下させる第1の傾斜成形面と、前記成形体の下端部で前記第1の傾斜成形面と交わり、前記第1の傾斜成形面の反対側で前記溶融ガラスを流下させる第2の傾斜成形面とを有し、
前記案内部材は、前記溶融ガラスの一部を前記第1の傾斜成形面に沿って案内する第1の傾斜案内面と、前記第1の傾斜案内面の下端部で交わり、前記溶融ガラスの一部を前記第2の傾斜成形面に沿って案内する第2の傾斜案内面とを有し、
前記成形工程では、前記第1の傾斜案内面および前記第2の傾斜案内面を流下する前記溶融ガラスを背面側から抵抗加熱式ヒーターで加熱
し、
前記成形体は、幅方向両端部の下部に欠落部を有し、
前記案内部材は、前記第1の傾斜案内面の背面側および/又は前記第2の傾斜案内面の背面側に侵入した前記溶融ガラスを、前記欠落部に沿って案内する背面側案内面を有していることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項12】
成形装置を用いて、オーバーフローダウンドロー法により、溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法において、
前記成形装置は、成形体と、前記成形体の幅方向両端部の下部にそれぞれ設けられる案内部材とを備え、
前記成形体は、前記溶融ガラスを流下させる第1の傾斜成形面と、前記成形体の下端部で前記第1の傾斜成形面と交わり、前記第1の傾斜成形面の反対側で前記溶融ガラスを流下させる第2の傾斜成形面とを有し、
前記案内部材は、前記溶融ガラスの一部を前記第1の傾斜成形面に沿って案内する第1の傾斜案内面と、前記第1の傾斜案内面の下端部で交わり、前記溶融ガラスの一部を前記第2の傾斜成形面に沿って案内する第2の傾斜案内面とを有し、
前記成形工程では、前記第1の傾斜案内面および前記第2の傾斜案内面を流下する前記溶融ガラスを背面側から抵抗加熱式ヒーターで加熱し、
前記ヒーターは、前記第1の傾斜案内面の背面側に配置された第1の加熱部と、前記第2の傾斜案内面の背面側に配置された第2の加熱部とを有し、
前記案内部材は、前記第1の傾斜成形面と前記第1の傾斜案内面との間で前記第1の加熱部を収容する第1のポケット部と、前記第2の傾斜成形面と前記第2の傾斜案内面との間で前記第2の加熱部を収容する第2のポケット部とを有していることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーバーフローダウンドロー法によりガラス物品を製造するための技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板などのガラス物品の製造方法としては、オーバーフローダウンドロー法が用いられる場合がある。この製法では、成形装置が、略楔状の成形体を備えている。成形体に供給された溶融ガラスは、成形体の頂部に形成された溝部から溢れ出た後、成形体の両側面に形成された傾斜成形面を伝って下端部で合流する。これにより、溶融ガラスから帯状のガラスリボンが連続成形される。この製法によれば、成形されるガラスリボンの表裏面が成形過程で成形体と接触しないため、表裏面に傷等のない平滑なガラスリボンを成形できるという利点がある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オーバーフローダウンドロー法の場合、成形体の幅方向両端部の下端部において、溶融ガラスが冷えて失透が生じ、失透物が形成される場合がある。失透物は、時間の経過とともに成長し、溶融ガラスの流路を妨げる障害物となり得る。失透物が障害物となるまで成長すると、溶融ガラスの一部は、失透物を伝って溶融ガラスの主たる流れから分離するとともに、成形体の下端部から垂れ下がった状態で冷却固化されてガラス玉を形成する場合がある。そして、ガラス玉が落下すると、製造装置やガラスリボンを破損するなどの重大なトラブルを招く原因となる。
【0005】
また、失透物を要因として、ガラスリボンに皺などの種々の欠陥が生じるおそれもある。
【0006】
本発明は、成形体の幅方向両端部の下端部における溶融ガラスの失透を抑制しつつ、ガラスリボンを安定的に成形することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、オーバーフローダウンドロー法により、溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形装置を備えるガラス物品の製造装置において、成形装置は、成形体と、成形体の幅方向両端部の下部にそれぞれ設けられる案内部材とを備え、成形体は、溶融ガラスを流下させる第1の傾斜成形面と、成形体の下端部で第1の傾斜成形面と交わり、第1の傾斜成形面の反対側で溶融ガラスを流下させる第2の傾斜成形面とを有し、案内部材は、溶融ガラスの一部を第1の傾斜成形面に沿って案内する第1の傾斜案内面と、成形体の下端部で第1の傾斜案内面と交わり、溶融ガラスの一部を第2の傾斜成形面に沿って案内する第2の傾斜案内面と、第1の傾斜案内面および第2の傾斜案内面を流下する溶融ガラスを背面側から加熱する抵抗加熱式ヒーターとを有していることを特徴とする。
【0008】
ここで、成形体の幅方向両端部の下端部において、溶融ガラスが失透するのを抑制するためには、当該領域において、溶融ガラスを加熱することが考えらえる。しかしながら、案内部材を通電加熱すると、ガラスリボンの幅方向両端部の温度が上昇しすぎて温度分布が不均一となり、ガラスリボンに皺が発生するおそれがある。また、誘導加熱を用いると、誘導加熱に用いるコイルの周りの金属がすべて加熱され、必要な箇所のみを選択的に加熱することが難しいという問題がある。そこで、本願発明では、成形体の幅方向両端部の下端部において溶融ガラスを加熱するために、抵抗加熱式ヒーターを用いている。抵抗加熱式ヒーターであれば、ヒーターの厚みや幅で発熱量や加熱箇所を調整でき、必要な箇所を効率的に加熱できる。このため、成形体の幅方向両端部の下端部における溶融ガラスの失透を抑制しつつ、ガラスリボンを安定的に成形できる。
【0009】
上記の構成において、成形体は、幅方向両端部の下部に欠落部を有し、ヒーターは、欠落部に配置されていてもよい。
【0010】
このようにすれば、ヒーターの配置スペースを容易に確保できる。
【0011】
欠陥部にヒーターを配置する場合、ヒーターは、第1の傾斜案内面の背面側に配置された第1の加熱部と、第2の傾斜案内面の背面側に配置された第2の加熱部とを有していることが好ましい。
【0012】
このようにすれば、第1の傾斜案内面を流下する溶融ガラスと、第2の傾斜案内面を流下する溶融ガラスとを効率よく加熱できる。
【0013】
欠陥部にヒーターを配置する場合、前記第1の加熱部と前記第2の加熱部とが、成形体の下端部で連続していることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、溶融ガラスの失透が生じやすい成形体の幅方向両端部の下端部において、溶融ガラスを効率よく加熱できる。
【0015】
欠陥部にヒーターを配置する場合、案内部材は、第1の傾斜案内面および/又は第2の傾斜案内面の背面側に侵入した溶融ガラスを、欠落部に沿って案内する背面側案内面を有していることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、案内部材の内部に侵入した溶融ガラスを効率よく誘導できる。
【0017】
欠陥部にヒーターを配置する場合、欠落部に、ヒーターを保持する耐火レンガが配置されていることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、欠落部において、ヒーターを安定して保持できる。
【0019】
欠陥部にヒーターを配置する場合、ヒーターと案内部材との間に、セメントを含む絶縁層が形成されていることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、ヒーターと案内部材との間の絶縁が維持されるため、ヒーターを効率よく発熱させることができる。また、セメントによって、耐火レンガにヒーターを確実に固定することもできる。
【0021】
上記の構成において、ヒーターは、第1の傾斜案内面の背面側に配置された第1の加熱部と、前記第2の傾斜案内面の背面側に配置された第2の加熱部とを有し、案内部材は、第1の傾斜成形面と第1の傾斜案内面との間で第1の加熱部を収容する第1のポケット部と、第2の傾斜成形面と第2の傾斜案内面との間で第2の加熱部を収容する第2のポケット部とを有していてもよい。
【0022】
このようにすれば、ヒーターを配置するために、成形体に欠落部を設ける必要がなくなる。この結果、成形体の幅方向両端部を下端部まで適正に加圧でき、成形体のクリープ変形の増加を抑制できる。
【0023】
ポケット部にヒーターを配置する場合、案内部材は、成形体の下端部において、第1のポケット部と第2のポケット部とを連通する連通部を有し、第1の加熱部と第2の加熱部とが、連通部を通じて連続していることが好ましい。
【0024】
このようにすれば、溶融ガラスの失透が生じやすい成形体の幅方向両端部の下端部において、溶融ガラスを効率よく加熱できる。
【0025】
ポケット部にヒーターを配置する場合、案内部材は、成形体の下端部において、第1の傾斜案内面および前記第2の傾斜案内面から垂下され、溶融ガラスを案内するフィンを有し、フィンが、連通部の幅方向の一部において、連通部の内部まで延存していることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、フィンが連通部の剛性を高めるリブとして機能するため、案内部材の変形を防止できる。
【0027】
ポケット部にヒーターを配置する場合、ヒーターと案内部材との間に、溶射膜からなる絶縁層が形成されていることが好ましい。
【0028】
このようにすれば、ヒーターから案内部材への熱伝導を阻害することなく、ヒーターと案内部材との間の絶縁が可能となるため、溶融ガラスを効率よく加熱できる。
【0029】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、成形装置を用いて、オーバーフローダウンドロー法により、溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法において、成形装置は、成形体と、成形体の幅方向両端部の下部にそれぞれ設けられる案内部材とを備え、成形体は、溶融ガラスを流下させる第1の傾斜成形面と、成形体の下端部で第1の傾斜成形面と交わり、第1の傾斜成形面の反対側で溶融ガラスを流下させる第2の傾斜成形面とを有し、案内部材は、溶融ガラスの一部を第1の傾斜成形面に沿って案内する第1の傾斜案内面と、成形体の下端部で第1の傾斜案内面と交わり、溶融ガラスの一部を第2の傾斜成形面に沿って案内する第2の傾斜案内面とを有し、成形工程では、第1の傾斜案内面および第2の傾斜案内面を流下する溶融ガラスを背面側から抵抗加熱式ヒーターで加熱することを特徴とする。
【0030】
このようにすれば、上述の対応する構成と同様の作用効果を享受できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、成形体の幅方向両端部の下端部における溶融ガラスの失透を抑制しつつ、ガラスリボンを安定的に成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るガラス物品の製造装置に含まれる成形装置を示す正面図である。
【
図3】
図1に示す成形装置の部品を分解して配列した部分拡大正面図である。
【
図4】
図1に示す成形装置の部分拡大正面図である。
【
図6】
図1に示す成形装置に含まれる抵抗加熱式ヒーターの展開図である。
【
図7】
図4に示す成形装置の変形例のB-B断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係るガラス物品の製造装置に含まれる成形装置を示す正面図である。
【
図9】
図8に示す成形装置に含まれる案内部材を示す斜視図である。
【
図10】
図8に示す成形装置のC-C断面図である。
【
図11】
図8に示す成形装置のD-D断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、図中に示すXYZからなる直交座標系において、X方向及びY方向が水平方向であり、Z方向が鉛直方向である。また、成形されるガラスリボンGの幅方向に対応する方向を幅方向X、成形されるガラスリボンGの厚み方向に対応する方向を厚み方向Yと呼ぶ。さらに、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0034】
(第1実施形態)
図1~
図7では、第1実施形態に係るガラス物品の製造装置を例示する。
図1及び
図2に示すように、本製造装置は、オーバーフローダウンドロー法によって、溶融炉(図示略)から供給される溶融ガラスGmを、帯状のガラスリボンGに成形する成形装置1を備えている。
【0035】
成形装置1は、成形室(図示略)の内部に配置された成形体2を備えている。成形装置1は、成形室の下方に、ガラスリボンGの徐冷(アニール)を行う徐冷室、ガラスリボンGの冷却を行う冷却室、ガラス物品としてのガラス板を得るために、ガラスリボンGを所定サイズに切断する切断室をさらに備えている。得られたガラス板は、例えばディスプレイのガラス基板やカバーガラスに用いられる。
【0036】
成形体2は、成形されるガラスリボンGの幅方向Xに沿って長尺な耐火物により形成されている。なお、本明細書において、成形体2の幅方向は、成形されるガラスリボンGの幅方向Xと同じ方向を意味する。
【0037】
成形体2の頂部には、幅方向Xに沿って形成された溝部(オーバーフロー溝)3が設けられている。溝部3の幅方向Xの一端側には、供給パイプ(図示略)が接続されている。この供給パイプを通じて溝部3内に溶融ガラスGmが供給される。溶融ガラスGmの供給方法はこれに限定されない。例えば溝部3の幅方向Xの両端側から溶融ガラスGmを供給するようにしてもよいし、溝部3の上方から溶融ガラスGmを供給するようにしてもよい。
【0038】
成形体2は、厚み方向Yにおいて対称形状をなす。成形体2の厚み方向Yの両外側面(第1の外側面及び第2の外側面)4はそれぞれ、鉛直方向に沿った平面状をなす垂直成形面(第1の垂直成形面及び第2の垂直成形面)5と、垂直成形面5の下方に連なり、鉛直方向に対して傾斜した平面状をなす傾斜成形面(第1の傾斜成形面及び第2の傾斜成形面)6とを備えている。各垂直成形面5は、互いに平行な面である。各傾斜成形面6は、下方に向かうに連れて厚み方向Yに互いに近づくように傾斜した面である。つまり、成形体2は、各傾斜成形面6が形成されることで、幅方向Xから見た場合に下方に向かって先細りする楔状をなし、各傾斜成形面6が交わる角部が成形体2の下端部2aを形成している。なお、垂直成形面5は、傾斜面や曲面などに形状を変更してもよいし、省略してもよい。
【0039】
図1及び
図2に示すように、成形体2の幅方向Xの両端部には、垂直成形面5及び傾斜成形面6を流下する溶融ガラスGmの広がりを規制する規制部材7がそれぞれ設けられている。
【0040】
規制部材7は、例えば白金又は白金合金により形成されている。
【0041】
本実施形態では、規制部材7の規制面8は、垂直成形面5及び傾斜成形面6に対して垂直であり、かつ、下方に真っ直ぐ延びる平面からなる。すなわち、規制面8は、YZ平面に沿う平面である。規制部材7は、成形体2の幅方向Xの両端部にそれぞれ外嵌された状態で固定されている。詳細には、規制部材7に設けられた嵌合凹部9に成形体2の幅方向Xの端部が嵌め込まれている。なお、規制部材7の固定方法はこれに限定されない。例えば、規制部材7は、成形体2にピン等により固定されていてもよい。
【0042】
図1及び
図2に示すように、成形体2の幅方向Xの両端部の下部には、成形体2の下端部2a(傾斜成形面6の下端部6a)の一部を下方から覆うように、案内部材10がそれぞれ設けられている。案内部材10は、成形体2の傾斜成形面6を正常に流下する溶融ガラスGmの一部を傾斜成形面6に沿って案内する役割と、成形体2と規制部材7との間の隙間から嵌合凹部9内に侵入した溶融ガラスGmを成形体2の下端部2aでF方向に排出し、成形体2の傾斜成形面6に沿って正常に流下する溶融ガラスGmに合流させる役割とを有する。
【0043】
案内部材10は、規制部材7と同一材料(例えば白金又は白金合金)により形成されている。
【0044】
案内部材10は、規制部材7の規制面8に沿った垂直案内面11と、成形体2の傾斜成形面6に沿った傾斜案内面12と、成形体2の下端部2aで傾斜案内面12から垂下されたフィン13とを備えている。フィン13は、鉛直方向Zに沿って延びる板状体である。
【0045】
案内部材10は、垂直案内面11、傾斜案内面12及びフィン13が一体化された単一部材である。本実施形態では、垂直案内面11を規制部材7の規制面8に溶接等することにより、案内部材10が規制部材7に固定されている。なお、案内部材10の固定方法はこれに限定されない。例えば、案内部材10は、傾斜成形面6に固定されていてもよい。
【0046】
傾斜案内面12は、成形体2の下端部2aの形状に倣ったV字状をなし、その下端部2aの一部、及び各傾斜成形面6の一部を覆っている。また、傾斜案内面12は、幅方向Xの寸法が案内部材10の下端側に向かうに連れて長くなるように形成されている。
【0047】
垂直案内面11の厚みは、例えば0.5~3mmである。傾斜案内面12の厚みは、例えば0.5~3mmである。フィン13の厚みは、例えば0.5~10mmであり、フィン13の幅方向Xの寸法は、例えば10~100mmである。
【0048】
本実施形態では、フィン13は、傾斜成形面6の下端部6aの幅方向両端部のみに設けられているが、これに限定されない。例えば、フィン13は、傾斜成形面6の下端部6aの全域に設けられていてもよい。あるいは、フィン13は、省略してもよい。
【0049】
図1に示すように、本実施形態では、成形体2は、幅方向Xの両端部の下部に、成形体2を構成する耐火物の一部が欠落することで形成される欠落部14をそれぞれ有する。欠落部14は、案内部材10の傾斜案内面12及び規制部材7の下部に対応する位置に形成されている。欠落部14(耐火物の一部が欠落することで形成される空間)には、各傾斜案内面12を流下する溶融ガラスGmを背面側から加熱する抵抗加熱式ヒーター(例えば、白金製や白金合金製、ニクロム製、鉄クロム製、カーボン製、炭化ケイ素製等のヒーター)15が配置されている。このようにヒーター15が抵抗加熱式ヒーターであれば、その厚みや幅で発熱量や加熱箇所を簡単に調整できるため、必要な箇所を効率的に加熱できる。したがって、成形体2の幅方向Xの両端部の下端部2aにおける溶融ガラスGmの失透を抑制しつつ、ガラスリボンGを安定的に成形できる。
【0050】
図3~
図5に示すように、欠落部14には、ヒーター15を保持する耐火レンガ16が配置されている。本実施形態では、耐火レンガ16は、欠落部14に対応した形状(幅方向Xから見た場合に、下方に向かって先細りする楔状)をなし、その表面にヒーター15がセメントを含む絶縁層17によって固定されている。詳細には、
図5に示すように、ヒーター15は、耐火レンガ16と絶縁層17との間に挟まれた状態で保持されており、ヒーター15が案内部材10(あるいは、案内部材10及び規制部材7)に直接接触しないようになっている。このようにすれば、ヒーター15に通電する際に、案内部材10に漏電することがなく、ヒーター15を効率よく発熱させることができる。
【0051】
セメントを含む絶縁層17は、例えばモルタルやコンクリートにより形成される。
【0052】
絶縁層17は、案内部材10(あるいは、案内部材10及び規制部材7)とヒーター15との間の絶縁が維持できれば、ヒーター15の配置領域の全体に形成されていてもよいし、ヒーター15の配置領域に部分的に形成されていてもよい。
【0053】
本実施形態では、規制部材7の幅方向Xの外側端部の下部に開口部18が設けられており、開口部18を通じて案内部材10の内部(各傾斜案内面12の間)に耐火レンガ16を収容することで、欠落部14に耐火レンガ16を配置可能とされている。なお、ヒーター15を欠落部14に配置した状態で、耐火レンガ16及び/又は絶縁層17を省略してもよい。あるいは、絶縁層17として、後述の溶射膜からなる絶縁層を用いてもよい。
【0054】
図3及び
図4に示すように、案内部材10は、各傾斜案内面12の背面側に侵入した溶融ガラスGmを、欠落部14に沿って案内する背面側案内面19を備えている。背面側案内面19は、下方に移行するに連れて、幅方向Xの中央側に移行するように傾斜している。このため、背面側案内面19によって誘導される溶融ガラスGmは、背面側案内面19の傾斜に倣って徐々に幅方向Xの中央側に移動する。そして、成形体2の下端部2aにおいて、背面側案内面19によって誘導される溶融ガラスGmは、案内部材10と成形体2との間の隙間から、成形体2の傾斜成形面6に沿って正常に流下する溶融ガラスGmに合流するように、
図4のF方向に排出される。
【0055】
図4に示すように、本実施形態では、成形体2、規制部材7、案内部材10及び耐火レンガ16が、互いに組付けられた状態で、成形体2の欠落部14と背面側案内面19との間に隙間Sが形成されている。この隙間Sは、成形体2の欠落部14と背面側案内面19との寸法精度差を吸収するためのクリアランスである。このため、欠落部14は、幅方向Xの外側から加圧されていない。
【0056】
図5に示すように、ヒーター15は、一対の傾斜案内面12のうちの一方の背面側に配置された加熱部(第1の加熱部)20と、一対の傾斜案内面12のうちの他方の背面側に配置された加熱部(第2の加熱部)20とを備えている。各加熱部20は、各傾斜案内面12と実質的に平行に配置されている。一方の傾斜案内面12の背面側に配置された加熱部20と、他方の傾斜案内面12の背面側に配置された加熱部20とは、成形体2の下端部2aで連続している。ヒーター15の連続部21は、耐火レンガ16の下端部16a(成形体2の下端部2a)に倣ったV字形状をなす。本実施形態では、連続部21は、傾斜案内面12の下端部の幅方向Xの外側端部に対応する位置に形成されている。このようにすれば、溶融ガラスGmの失透が生じやすい成形体2の幅方向Xの両端部の下端部2aにおいて、溶融ガラスGmを効率よく加熱できる。
【0057】
図6に示すように、ヒーター15は、傾斜案内面12の略全面を加熱できるように蛇行した帯状体である。ヒーター15は、中心線Lで二つ折りにすることで、一方の傾斜案内面12側から他方の傾斜案内面12側に折り曲げられる。つまり、ヒーター15の折り曲げ部分が、上記の連続部21とされる。詳細には、二つ折りにされたヒーター15の一端部及び他端部が成形体2の下端部2aよりも上方に位置し、ヒーター15の中央部(連続部21)が成形体2の下端部2a周辺に位置している。
【0058】
なお、ヒーター15の配置態様は、これに限定されない。例えば、ヒーター15の一端部及び他端部を成形体2の下端部2a周辺に位置させ、ヒーター15の中央部(連続部21)を成形体の下端部2aよりも上方に位置させてもよい。
【0059】
また、例えば
図7に示すように、耐火レンガ16の下端部16a下方の絶縁層17中において、ヒーター15の一部に鉛直方向に沿った鉛直部22を設けてもよい。このようにすれば、一つの鉛直部22によって、各傾斜案内面12を流下する溶融ガラスGmを同時に加熱できる。なお、この鉛直部22は、(1)上記のヒーター15の一端部及び他端部を成形体2の下端部2aよりも上方に位置させてヒーター15の中央部(連続部21)を成形体2の下端部2a周辺に位置させる態様と、(2)上記のヒーター15の一端部及び他端部を成形体2の下端部2a周辺に位置させ、ヒーター15の中央部(連続部21)を成形体2の下端部2aよりも上方に位置させる態様とにそれぞれ適用できる。
【0060】
さらに、ヒーター15は、連続部21を設けることなく、一方の傾斜案内面12の背面側に配置された加熱部20と、他方の傾斜案内面12の背面側に配置された加熱部20とをそれぞれ独立した回路としてもよい。
【0061】
本実施形態に係るガラス物品の製造方法は、上記の成形装置1を用いて、オーバーフローダウンドロー法により、溶融ガラスGmからガラスリボンGを成形する成形工程を含む。成形工程では、溝部3に供給された溶融ガラスGmが、溝部3から溢れ出た後、各外側面4をそれぞれ伝って、成形体2の下端部2aで合流する。これにより、溶融ガラスGmからガラスリボンGが連続成形される。
【0062】
(第2実施形態)
図8~
図11では、第2実施形態に係るガラス物品の製造装置を例示する。本実施形態では、成形体2に欠落部14を設けることなく、ヒーター15を配置する構成を例示する。なお、後述する
図10及び
図11では、便宜上、垂直案内面11の図示を省略している。
【0063】
図10及び
図11に示すように、ヒーター15は、第1実施形態と同様に、各傾斜案内面(第1の傾斜案内面および第2の傾斜案内面)12のそれぞれの背面側に配置された加熱部(第1の加熱部及び第2の加熱部)20を備えている。
【0064】
図8~
図11に示すように、案内部材10は、一方の傾斜成形面6とこれに対応する一方の傾斜案内面12との間で加熱部(第1の加熱部)20を収容するポケット部(第1のポケット部)23と、他方の傾斜成形面6とこれに対応する他方の傾斜案内面12との間で加熱部(第2の加熱部)20を収容するポケット部(第2のポケット部)23と備えている。このようにすれば、ヒーター15を配置するために、成形体2に欠落部14を設ける必要がなくなるため、成形体2の幅方向Xの両端部を下端部2aまで適正に加圧でき、成形体2のクリープ変形の増加を抑制できる。
【0065】
図8~
図11に示すように、傾斜案内面12のうち、ポケット部23が形成されている領域R1は、ポケット部23が形成されていない領域R2に比べて隆起している。ただし、ポケット部23が形成されている領域R1は、溶融ガラスGmの流れに悪影響を与えないように隆起高さや隆起形状(例えば領域R1と領域R2とが凸曲面を介して連続する形状)などが設定されている。本実施形態では、領域R1と領域R2が平行な平面であり、隆起高さは(領域R1の平面から領域R2の平面までの距離)、例えば1mm~3mm程度である。
【0066】
図9及び
図10に示すように、案内部材10は、成形体2の下端部2aにおいて、各ポケット部23を互いに連通する連通部24を有する。各加熱部20の連続部21は、連通部24を通じて連続している。本実施形態では、連通部24及び連続部21は、傾斜案内面12の下端部の幅方向Xの外側端部に対応する位置(
図8のC-C断面に対応する位置)に形成されている。このようにすれば、溶融ガラスGmの失透が生じやすい成形体2の幅方向Xの両端部の下端部2aにおいて、溶融ガラスGmを効率よく加熱できる。
【0067】
図11に示すように、フィン13は、連通部24の幅方向Xの一部において、連通部24の内部まで延存している。本実施形態では、連通部24の内部のフィン13は、連通部24の幅方向Xのうち、傾斜案内面12の下端部の幅方向Xの外側端部に対応する位置を除く領域に形成されている。連通部24の内部のフィン13は、連通部24を閉塞するように、ポケット部23の上下壁面の間に跨って配置されている。これにより、フィン13が連通部24の剛性を高めるリブとして機能するため、案内部材10の変形を防止できる。
【0068】
図11に拡大して示すように、ヒーター15と案内部材10との間には、溶射膜からなる絶縁層25が形成されている。詳細には、絶縁層25は、ヒーター15の表面に成膜されている。このように溶射膜からなる絶縁層25を形成すれば、ヒーター15から案内部材10への熱伝導を阻害することなく、ヒーター15と案内部材10との間の絶縁が可能となるため、溶融ガラスGmを効率よく加熱できる。
【0069】
絶縁層25は、例えばアルミナ・ジルコニアの溶射膜やアルミナの溶射膜、ジルコニアの溶射膜により形成される。
【0070】
絶縁層25は、案内部材10とヒーター15との間の絶縁が維持できれば、ヒーター15の表面全体に成膜されていてもよいし、ヒーター15の表面に部分的に成膜されていてもよい。本実施形態では、ヒーター15の表面全体に絶縁層25が成膜されており、ヒーター15と規制部材7との間の絶縁も維持されている。なお、絶縁層25は省略してもよい。
【0071】
本発明は、上記の実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0072】
上記の実施形態では、ガラス物品がガラス板である場合を説明したが、ガラス物品は、例えば、ガラスリボンGを巻芯などの周りにロール状に巻き取ったガラスロールなどであってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 成形装置
2 成形体
4 外側面
5 垂直成形面
6 傾斜成形面
7 規制部材
8 規制面
9 嵌合凹部
10 案内部材
11 垂直案内面
12 傾斜案内面
13 フィン
14 欠落部
15 抵抗加熱式ヒーター
16 耐火レンガ
17 絶縁層
18 開口部
19 背面側案内面
20 加熱部
21 連続部
23 ポケット部
24 連通部
25 絶縁層