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特許7488528尿成分の可視化洗浄製品及び尿成分の可視化洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】尿成分の可視化洗浄製品及び尿成分の可視化洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 3/20 20060101AFI20240515BHJP
   C11D 3/395 20060101ALI20240515BHJP
   C11D 7/18 20060101ALI20240515BHJP
   G01N 33/84 20060101ALI20240515BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20240515BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C11D3/20
C11D3/395
C11D7/18
G01N33/84 A
G01N21/78 Z
G01N33/493 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020109738
(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2022007057
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】南田 憲宏
(72)【発明者】
【氏名】今井 英志
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-036189(JP,A)
【文献】特開2009-042158(JP,A)
【文献】特開2011-225762(JP,A)
【文献】特開2006-234475(JP,A)
【文献】特表2005-517940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0154904(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00 - 19/00
G01N 33/48 - 33/98
G01N 21/75 - 21/83
C11D 1/00 - 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿成分による変色域を有するpH指示成分が配合された第1液と、洗浄機能物質を含む第2液とを組み合わせた尿成分の可視化洗浄製品であって、
第2液が、第1液と混合されたときに第1液がpH変動により色彩変化しないものであることを特徴とする尿成分の可視化洗浄製品。
【請求項2】
第1液のpH指示成分が、アントシアニンである請求項1に記載の尿成分の可視化洗浄製品。
【請求項3】
第2液の洗浄機能物質が、尿成分の洗浄機能を有するものである請求項1又は2に記載の尿成分の可視化洗浄製品。
【請求項4】
尿成分の付着面に尿成分による変色域を有するpH指示成分が配合された第1液を噴霧して尿成分を可視化したうえ、洗浄機能物質を含み、第1液と混合されたときに第1液がpH変動により色彩変化しない第2液を用いて、可視化された部位を洗浄することを特徴とする尿成分の可視化洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレの床面等に飛散した尿成分を可視化して洗浄するための、尿成分の可視化洗浄製品及び尿成分の可視化洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレの床面や壁面等に飛散した尿成分は放置すると細菌により分解されてアンモニア臭等の悪臭の原因となるため、定期的に清掃することが望まれる。しかし尿成分は透明であって目視することができない。このため、床面全体を清掃しなければならず、しかも確実に除去されたか否かを確認することもできない。
【0003】
pH指示薬を用いてペットなどの尿のpHを測定し、ペットの健康状態を判断することが、特許文献1、特許文献2に示されている。特許文献1では尿成分中の水素イオンに呈色するチモールブルーやフェノールフタレイン等のpH指示薬が配合された組成物を用いて、健康状態を確認している。特許文献2では、視認性を向上させるため、pH指示薬にアントシアニンを用いて健康状態を確認している。また特許文献3には、人体の手などの身体部位の洗浄が十分に行われたか否かを可視化するため、pHが異なる2種類の液を用い、色の変化によって洗浄の完了を判断することが示されている。
【0004】
しかしこれらの特許文献1~3の発明は、何れも尿成分の可視化を目的とするものではなく、トイレの床面等に飛散した尿成分を可視化して洗浄する技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許2006-234475号公報
【文献】特開2009-42158号公報
【文献】特許第5788114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、トイレの床面等に飛散した尿成分を可視化して洗浄するための、尿成分の可視化洗浄製品及び尿成分の可視化洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の尿成分の可視化洗浄製品は、尿成分による変色域を有するpH指示成分が配合された第1液と、洗浄機能物質を含む第2液とを組み合わせた尿成分の可視化洗浄製品であって、第2液が、第1液と混合されたときに第1液がpH変動により色彩変化しないものであることを特徴とするものである。なお、第1液のpH指示成分をアントシアニンとすることができる。また第2液の洗浄機能物質が、尿成分の洗浄機能を有するものであることが望ましい。
【0008】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の尿成分の可視化洗浄方法は、尿成分の付着面に尿成分による変色域を有するpH指示成分が配合された第1液を噴霧して尿成分を可視化したうえ、洗浄機能物質を含み、第1液と混合されたときに第1液がpH変動により色彩変化しない第2液を用いて、可視化された部位を洗浄することを特徴とするものである。
【0009】
なお、色彩とは、いりどりや色合いのことをいい、本発明においては、オスワルト表色系で表された色相環に基づいて定義することとする。オスワルト表色系は、24色相の色相環からなり、色相番号は1~24で表される。
色相番号1~3を黄色、4~6を橙、7~9を赤、10~12を紫、13~15を青、16~18を青緑、19~21を緑、22~24を黄緑と定義し、透明は無色とする。色彩変化する場合とは、前記色相番号が変動することを指すのではなく、前記の黄色、橙、赤、紫、青、青緑、緑、黄緑、無色に呈した色が、いずれか異なる色に変化することをいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、尿成分の付着面に第1液を噴霧してpH指示成分により尿成分を可視化し、可視化された部位を第2液により洗浄することができる。本発明では、第2液が、第1液と混合されたときに、第1液がpH変動により色彩変化しないものを用いているため、第1液によって可視化された部位の色が洗浄液である第2液の噴霧によって、pH変動で色彩変化したり、消えることがない。このため、第2液が噴霧された際、第1液がpH変動により色彩変化する場合と比較し、尿成分の確実な清掃除去が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。
本発明では、可視化剤である第1液と、洗浄剤である第2液を用いる。これらは別の噴霧用容器に収納しておき、第1液、第2液の順に噴霧して用いることが好ましいが、第2液は必ずしも噴霧する必要はない。
【0012】
第1液は尿成分による変色域を有するpH指示成分が配合されたものであり、pH指示成分としては、例えばBTB(ブロモチモールブルー)、アントシアニン、フェノールフタレインなどを用いることができる。溶剤としては水が用いられる。
【0013】
ブロモチモールブルーはpHが7付近の中性領域では黄緑色であるが、pHがアルカリ側に増加すると緑色から青色に呈色する性質を持つ。アントシアニンは植物色素であり、酸性領域では赤色、中性領域では紫色、アルカリ領域では青色に呈色する性質を持つ。フェノールフタレインは中性領域では無色であるが、アルカリ領域では赤色に呈色する。
【0014】
なお、pH指示成分によって安定するpH領域が異なるため、pHを中性に調整した状態で容器内に貯蔵すると、不安定になり変性してしまうことがある。このためアントシアニンを用いた場合にはpHが3の酸性領域で容器に収納しておき、第1液を噴霧すると同時に別容器からアルカリ性のpH調整剤を噴霧して、噴霧された表面のpHを3から7に変化させることが望ましい。
【0015】
健康な人の尿は弱酸性である。このため上記したようなpH指示成分が配合された第1液を微量噴霧すると、尿成分が付着していない部位は中性であり、尿成分が付着した部位は、尿成分の影響を受け、弱酸性となる為、尿成分が付着した部位のみが変色して可視化される。なお、本発明における尿成分とは、人の尿成分のみならず、犬、猫に代表されるペットなど、動物の尿成分も含まれる。
【0016】
また、例えばアルカリ性のpH指示成分が配合された第1液を噴霧する場合においては、尿成分が付着していない部位はアルカリ性であり、尿成分が付着した部位は、尿成分の影響を受け、弱酸性となる。
【0017】
なお第1液にはpH指示成分の他に、スメクタイト(層状珪酸塩)の粉末を添加することができる。スメクタイトは、チキソ性を有しており、通常は高粘度であるが、熱や圧力が加わると、低粘度化する性質を持っている。これにより、スメクタイトを含んだ可視化剤溶液は、圧力が加わるスプレー噴霧時は低粘度で噴霧しやすくなると同時に、スプレー噴霧後は、高粘度化する為、可視化剤溶液は、飛散したり、液ダレすることが無い。
【0018】
第2液は洗浄機能物質を含む洗浄液であり、第1液により可視化された尿成分を洗浄するために用いられる。本発明ではこの第2液として、第1液と混合されたときに第1液がpH変動により色彩変化しないものを用いる。第1液に含まれるpH指示成分の種類によって異なるものの、第2液の洗浄機能物質は尿成分のpHに近いpH3(酸性)からpH8(弱アルカリ)の間にあるものが好ましく、さらに、pH5(弱酸性)からpH8(弱アルカリ)の間にあるものとすることがより好ましい。このような第2液は第1液により可視化された部位に向けて噴霧されるが、第1液がpH変動により色彩変化しないため第1液により可視化された部位が視認不能となることがなく、確実に洗浄することが可能となる。
【0019】
以下の実施例に示されるように、第2液に含まれる洗浄機能物質は、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素などの洗浄剤であるが、このほか、界面活性剤、金属封鎖剤、泡調整剤などを添加することができる。また溶剤は水とすることが好ましいが、有機溶剤とすることも可能である。以下に本発明の実施例を示す。
【実施例
【0020】
先ず表1に示される3種類の第1液を調合した。pH指示成分は、配合1ではBTBであり、配合2ではアントシアニンであり、配合3ではフェノールフタレインである。これらは何れも尿成分の付着面に噴霧すれば変色し、付着した部位を可視化することができるものである。なお配合2ではアントシアニンを安定化するためにクエン酸を加えて酸性とし、噴霧すると同時に別容器からアルカリ性のpH調整剤を噴霧して、噴霧された表面のpHを3から7に変化させるものとする。表1中の数値は質量%である。
【0021】
【表1】
【0022】
次に、表2に示される5種類の第2液を調合した。表2中の脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルグルコシドは界面活性剤であり、ポリカルボン酸系共重合物は表面活性剤であり、エチルアルコールは泡調整剤である。各第2液のpHは表2に示す通りであり、配合5は強アルカリ性洗剤、配合6はアルカリ性洗剤、配合7は弱アルカリ性洗剤、配合8は弱酸性洗剤、配合9は酸性洗剤である。
【0023】
【表2】
【0024】
尿成分の付着面に対して配合1、配合2、配合3の第1液を噴霧して尿成分を可視化したうえで、配合5から配合9の第2液をその上から噴霧し、可視化された部位の色彩の変化を観察した。第2液の噴霧により色彩が変化したものを×、多少変化したが可視化を妨げるほどではないものを△、全く変化しなかったものを〇として、表3にまとめた。
【0025】
第2液としてpHが9.0である配合5の洗剤を使用した場合について説明する。可視化剤配合1の噴霧により、尿成分の付着箇所が、黄緑色(色相24)に呈色している場合において、配合5である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、緑色の色彩は、青色(色相14)に色彩が変化した。また、可視化剤配合2の噴霧により、尿成分の付着箇所が、紫色(色相10)に呈色している場合において、配合5である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、紫色の色彩は青色(色相14)に色彩が変化した。さらに、可視化剤配合3の噴霧により、尿成分の付着箇所が、無色となっている場合において、配合5である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、無色の色彩は、赤色(色相8)に変化した。
【0026】
第2液としてpHが8.0である配合6の洗剤を使用した場合について説明する。可視化剤配合1の噴霧により、尿成分の付着箇所が、黄緑色(色相24)に呈色している場合において、配合6である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、黄緑色の色彩は多少濃度が変化したものの色彩は変化せず、黄緑色(色相23)のままであった。また、可視化剤配合2の噴霧により、尿成分の付着箇所が、紫色(色相10)に呈色している場合において、配合6である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、赤色の色彩は多少濃度が変化したものの色彩は紫色(色相11)のまま変化しなかった。さらに、可視化剤配合3の噴霧により、尿成分の付着箇所が、無色となっている場合において、配合6である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、無色の色彩は、無色のまままったく変化しなかった。
【0027】
第2液としてpHが7.5である配合7の洗剤を使用した場合について説明する。可視化剤配合1の噴霧により、尿成分の付着箇所が、黄緑色(色相24)に呈色している場合において、配合7である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、緑色の色彩は全く変化しなかった。また、可視化剤配合2の噴霧により、尿成分の付着箇所が、紫色(色相10)に呈色している場合において、配合7である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、紫色(色相10)の色彩は全く変化しなかった。さらに、可視化剤配合3の噴霧により、尿成分の付着箇所が、無色となっている場合において、配合7である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、無色の色彩は、無色のまままったく変化しなかった。第2液として、pH5.0である配合8の洗剤を使用した場合においても、同様の結果が得られた。
【0028】
第2液としてpHが3.0である配合9の洗剤を使用した場合について説明する。可視化剤配合1の噴霧により、尿成分の付着箇所が、黄緑色(色相24)に呈色している場合において、配合9である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、黄緑色の色彩は黄色(色相2)に変化した。
また、可視化剤配合2の噴霧により、尿成分の付着箇所が、紫色(色相10)に呈色している場合において、配合9である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合、紫色の色彩は、赤色(色相9)に変化した。さらに、可視化剤配合3の噴霧により、尿成分の付着箇所が、無色に呈色している場合において、配合9である洗剤を前記付着箇所に噴霧した場合は無色のままで、全く変化しなかった。
【0029】
【表3】
【0030】
表3に示したように、第2液として配合6、7、8を使用した場合には第1液により可視化された部位の色彩が変化することがない。また、フェノールフタレインが配合された可視化剤配合3は、配合9を使用した場合であっても、第1液により可視化された部位の色彩が変化することはなかった。このためその色彩が消えるまで洗浄することにより、尿成分を完全に除去することが可能となった。