(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】バッテリー電気自動車用レンジエクステンダ
(51)【国際特許分類】
F02B 75/24 20060101AFI20240515BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20240515BHJP
F02B 63/04 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
F02B75/24
F02D29/06 D
F02B63/04 A
(21)【出願番号】P 2023142229
(22)【出願日】2023-09-01
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2023099866
(32)【優先日】2023-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523232861
【氏名又は名称】武藤 直人
(73)【特許権者】
【識別番号】523232872
【氏名又は名称】野飼 康伸
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【氏名又は名称】玉井 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100228175
【氏名又は名称】近藤 充紀
(72)【発明者】
【氏名】武藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】野飼 康伸
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-065520(JP,A)
【文献】特開2011-195036(JP,A)
【文献】実開昭59-148443(JP,U)
【文献】特開2022-077768(JP,A)
【文献】特開2022-072237(JP,A)
【文献】特開2016-175569(JP,A)
【文献】特開2012-225298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/24
F02D 29/06
F02B 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電専用エンジンと、発電専用エンジンの駆動により発電するジェネレータと、発電専用エンジンの燃料タンクと、発電専用エンジンの冷却装置とを備えており、バッテリー電気自動車の駆動用バッテリーに電力を補給するバッテリー電気自動車用レンジエクステンダにおいて、
発電専用エンジンは水平対向の2気筒、4気筒または6気筒のエンジンであって、回転中心軸線が水平であるクランクシャフトと、クランクシャフトを挟んで対向して配置された偶数個のシリンダと、クランクシャフトを挟んで対向するように各シリンダ内に配置されたピストンとを備えており、シリンダが、クランクシャフトの左右両側に、それぞれ長手方向を左右方向に向けて配置されており、ジェネレータは、発電専用エンジンおよびジェネレータが平面視T字形となるように、発電専用エンジンの長さ方向の略中央部に配置され、ジェネレータの回転軸がクランクシャフトと同一軸線上またはクランクシャフトと平行な軸線上に水平状に配置されて、伝動装置を介してクランクシャフトに連結されており、クランクシャフトが回転することにより、伝動装置を介して増速または減速されて回転させられるようになって
おり、
発電専用エンジンが、長手方向を左右方向に向けているシリンダが形成されたシリンダブロックと、各シリンダに対応するように燃焼室が形成されるとともに、当該燃焼室に臨む2つの吸気ポートおよび2つの排気ポートが形成されたシリンダヘッドと、各燃焼室の両吸気ポートを開閉する2つの吸気バルブと、各燃焼室の両排気ポートを開閉する2つの排気バルブと、全吸気バルブおよび全排気バルブを開閉する動弁機構とを備えており、動弁機構が、全吸気バルブを開閉する第1の動弁ユニットと、全排気バルブを開閉する第2の動弁ユニットとから構成されており、
2つの吸気ポートが燃焼室の上側部分に前後に並んで形成されるとともに2つの吸気バルブが前後に並んで配置され、2つの排気ポートが燃焼室の下側部分に前後に並んで形成されるとともに2つの排気バルブが前後に並んで配置され、2つの吸気バルブが2つの排気バルブよりも上方に配置され、
第1の動弁ユニットが、シリンダの上方の高さ位置でかつクランクシャフトの真上に配置されるとともに、クランクシャフトにより水平回転中心軸線の周りに回転させられる第1のカムシャフトと、各シリンダ毎に2つ設けられかつ第1のカムシャフトのカムにより駆動される第1のプッシュロッドと、各シリンダ毎に2つ設けられかつ第1のプッシュロッドにより駆動される第1のロッカーアームとを備えているとともに、第1のカムシャフトのカムによる入力を全シリンダの吸気バルブに伝えるようになっており、
第2の動弁ユニットが、シリンダの下方の高さ位置でかつクランクシャフトの真下に配置されるとともに、クランクシャフトにより水平回転中心軸線の周りに回転させられる第2のカムシャフトと、各シリンダ毎に2つ設けられかつ第2のカムシャフトのカムにより駆動される第2のプッシュロッドと、各シリンダ毎に2つ設けられかつ第2のプッシュロッドにより駆動される第2のロッカーアームとを備えているとともに、第2のカムシャフトのカムによる入力を全排気バルブに伝えるようになっている、バッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【請求項2】
発電専用エンジンが、吸入空気経路にサージタンクおよび分岐管を有するとともにシリンダヘッドに設けられた吸気ポートに吸気を供給する吸気マニホルドを備えており、吸気マニホルドのサージタンクが、発電専用エンジンにおけるジェネレータが配置された側とは反対側の側面、および/または発電専用エンジンの上面におけるジェネレータが配置された側とは反対側の部分、に沿って配置されている、請求項1記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【請求項3】
吸気マニホルドの分岐管の先端部が、発電専用エンジンのシリンダヘッドの上面に接続されている、請求項2記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【請求項4】
発電専用エンジンが、クランクシャフトの左右にそれぞれ1つ、すなわち左右で2つのシリンダを備えた水平対向2気筒エンジンであり、吸気マニホルドの分岐管の先端部が、発電専用エンジンのシリンダヘッドの側面に接続されている、請求項2記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【請求項5】
燃料タンクが、発電専用エンジンの長手方向の両端が位置する鉛直面と、ジェネレータにおける発電専用エンジンから突出した先端が位置する鉛直面とに囲まれた2つの空間のうちの少なくともいずれか一方の空間内に、全体が収まるように配置されている、請求項1記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【請求項6】
発電専用エンジンの長手方向の両端が位置する鉛直面と、ジェネレータにおける発電専用エンジンから突出した先端が位置する鉛直面とに囲まれた2つの空間のうちのいずれか一方の空間内に、燃料タンクが、全体が収まるように配置され、同他方の空間内に、冷却装置が、少なくとも一部が収まるように配置されている、請求項1記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、4輪以上の車輪を有するバッテリー電気自動車に搭載されて航続距離を延ばすために用いられるバッテリー電気自動車用レンジエクステンダに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、
図1および
図4の左右を左右といい、
図2および
図3の上下を上下というものとする。また、
図1および
図4の上側(
図2の左側)を前、これと反対側を後というものとする。
【背景技術】
【0003】
世界の主要先進国市場で、バッテリーを搭載し、バッテリーにより駆動される走行用モータのみで走行するバッテリー電気自動車(以下、場合によってはBEVと称する)が急速に普及している。BEVは、バッテリーとバッテリーにより駆動される走行用モータを備えた自動車であり、乗用車、SUV(スポーツ用多目的車)、ピックアップトラック、バンタイプトラックなどのいろいろなタイプのBEVが開発されている。しかしながら、いずれのタイプのBEVの場合も、搭載可能なバッテリーのエネルギー容量の課題により、航続距離が短く、かつバッテリーの充電に比較的長時間を要するという共通の問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために種々のBEV用レンジエクステンダが提案されている。たとえば、特許文献1には、発電用エンジンと、発電用エンジンの駆動により発電するジェネレータと、発電用エンジンの燃料タンクと、発電用エンジンの冷却装置とを備えており、長手方向を車幅方向に向けた状態で回転中心軸が水平となるように配置されたクランクシャフトを内蔵したクランクケースと、軸線方向が車幅方向と直交するようにクランクシャフトの片側のみに配置されたシリンダを内蔵したシリンダケースと、シリンダ内を車幅方向と直交する方向に駆動されるピストンとを備え、ジェネレータが、クランクケースの長手方向の一端部にクランクケースと一直線上に並ぶように配置され、冷却装置が、クランクケースの長手方向の他端部にクランクケースと一直線上に並ぶように配置され、ジェネレータの回転軸がクランクシャフトに連結され、クランクケース、ジェネレータおよび冷却装置からなる組合せ体と、シリンダケースとが平面視T字形となっており、燃料タンクが、冷却装置におけるクランクケースとは反対側の端部が位置する鉛直面と、発電用エンジンにおけるクランクケースとは反対側の端部が位置する鉛直面とに囲まれた空間のうちのいずれか一方の空間内に、一部が前記空間からはみ出すように配置されたBEV用レンジエクステンダが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のBEV用レンジエクステンダでは、発電用エンジンのクランクシャフトが長手方向を車幅方向に向けており、シリンダが軸線方向を車幅方向と直交する方向に向くようにクランクシャフトの片側のみに配置されており、ピストンがシリンダ内を車幅方向と直交する方向に駆動されるという構成になっているので、この発電用エンジンは直列エンジンであり、比較的大きな振動が発生する。その結果、乗員に比較的大きな振動が伝わることになる。
【0007】
この発明の目的は、上記課題を解決し、発生する振動を低減しうるとともに、車体構造や大きさが異なる各種BEVに使用できるよう、規自動車排出ガス規制、自動車衝突安全基準にも対応可能なBEV用レンジエクステンダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0009】
1)発電専用エンジンと、発電専用エンジンの駆動により発電するジェネレータと、発電専用エンジンの燃料タンクと、発電専用エンジンの冷却装置とを備えており、バッテリー電気自動車の駆動用バッテリーに電力を補給するバッテリー電気自動車用レンジエクステンダにおいて、
発電専用エンジンは水平対向の2気筒、4気筒または6気筒のエンジンであって、回転中心軸線が水平であるクランクシャフトと、クランクシャフトを挟んで対向して配置された偶数個のシリンダと、クランクシャフトを挟んで対向するように各シリンダ内に配置されたピストンとを備えており、シリンダが、クランクシャフトの左右両側に、それぞれ長手方向を左右方向に向けて配置されており、ジェネレータは、発電専用エンジンおよびジェネレータが平面視T字形となるように、発電専用エンジンの長さ方向の略中央部に配置され、ジェネレータの回転軸がクランクシャフトと同一軸線上またはクランクシャフトと平行な軸線上に水平状に配置されて、伝動装置を介してクランクシャフトに連結されており、クランクシャフトが回転することにより、伝動装置を介して増速または減速されて回転させられるようになっており、
発電専用エンジンが、長手方向を左右方向に向けているシリンダが形成されたシリンダブロックと、各シリンダに対応するように燃焼室が形成されるとともに、当該燃焼室に臨む2つの吸気ポートおよび2つの排気ポートが形成されたシリンダヘッドと、各燃焼室の両吸気ポートを開閉する2つの吸気バルブと、各燃焼室の両排気ポートを開閉する2つの排気バルブと、全吸気バルブおよび全排気バルブを開閉する動弁機構とを備えており、動弁機構が、全吸気バルブを開閉する第1の動弁ユニットと、全排気バルブを開閉する第2の動弁ユニットとから構成されており、
2つの吸気ポートが燃焼室の上側部分に前後に並んで形成されるとともに2つの吸気バルブが前後に並んで配置され、2つの排気ポートが燃焼室の下側部分に前後に並んで形成されるとともに2つの排気バルブが前後に並んで配置され、2つの吸気バルブが2つの排気バルブよりも上方に配置され、
第1の動弁ユニットが、シリンダの上方の高さ位置でかつクランクシャフトの真上に配置されるとともに、クランクシャフトにより水平回転中心軸線の周りに回転させられる第1のカムシャフトと、各シリンダ毎に2つ設けられかつ第1のカムシャフトのカムにより駆動される第1のプッシュロッドと、各シリンダ毎に2つ設けられかつ第1のプッシュロッドにより駆動される第1のロッカーアームとを備えているとともに、第1のカムシャフトのカムによる入力を全シリンダの吸気バルブに伝えるようになっており、
第2の動弁ユニットが、シリンダの下方の高さ位置でかつクランクシャフトの真下に配置されるとともに、クランクシャフトにより水平回転中心軸線の周りに回転させられる第2のカムシャフトと、各シリンダ毎に2つ設けられかつ第2のカムシャフトのカムにより駆動される第2のプッシュロッドと、各シリンダ毎に2つ設けられかつ第2のプッシュロッドにより駆動される第2のロッカーアームとを備えているとともに、第2のカムシャフトのカムによる入力を全排気バルブに伝えるようになっている、バッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【0010】
2)発電専用エンジンが、吸入空気経路に、サージタンクおよび分岐管を有するとともにシリンダヘッドに設けられた吸気ポートに吸気を供給する吸気マニホルドを備えており、吸気マニホルドのサージタンクが、発電専用エンジンにおけるジェネレータが配置された側とは反対側の側面、および/または発電専用エンジンの上面におけるジェネレータが配置された側とは反対側の部分、に沿って配置されている、上記1)記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【0011】
3)吸気マニホルドの分岐管の先端部が、発電専用エンジンのシリンダヘッドの上面に接続されている、上記2)記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【0012】
4)発電専用エンジンが、クランクシャフトの左右にそれぞれ1つ、すなわち左右で2つのシリンダを備えた水平対向2気筒エンジンであり、吸気マニホルドの分岐管の先端部が、発電専用エンジンのシリンダヘッドの側面に接続されている、上記2)記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【0013】
5)燃料タンクが、発電専用エンジンの長手方向の両端が位置する鉛直面と、ジェネレータにおける発電専用エンジンから突出した先端が位置する鉛直面とに囲まれた2つの空間のうちの少なくともいずれか一方の空間内に、全体が収まるように配置されている、上記1)記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【0014】
6)発電専用エンジンの長手方向の両端が位置する鉛直面と、ジェネレータにおける発電専用エンジンから突出した先端が位置する鉛直面とに囲まれた2つの空間のうちのいずれか一方の空間内に、燃料タンクが、全体が収まるように配置され、同他方の空間内に、冷却装置が、少なくとも一部が収まるように配置されている、上記1)記載のバッテリー電気自動車用レンジエクステンダ。
【発明の効果】
【0015】
上記1)~6)のBEV用レンジエクステンダは、発電専用エンジンが水平対向の2気筒、4気筒または6気筒のエンジンであるので、発生する振動が比較的小さくなり、乗員に伝わる振動も比較的小さくなる。
【0016】
また、ジェネレータが、発電専用エンジンおよびジェネレータが平面視T字形となるように、発電専用エンジンの長さ方向の中央部に配置されているので、発電専用エンジンの長手方向の両端と、ジェネレータにおける発電専用エンジンから突出した先端との間に形成される2つの空間が生まれる。この剛体の発電専用エンジンと剛体のジェネレータとで生まれた、衝突時でも安全な2つの空間を、燃料タンクの全体、発電専用エンジンの冷却装置の一部、インバータなどの設置空間として有効に利用することができる。その結果、乗用車の主流構造であるモノコック構造、商用トラック、ピックアップトラックの主流構造であるラダーフレーム構造、という全く異なる車体構造であっても特段の車載用フレームや、安全のための保護フレームを不要として搭載可能となり、各種BEVの発電ユニットとしての要件となる小型化、コンパクト化、軽量化が達成できる。
【0017】
さらに、発電専用エンジンおよびジェネレータが上述したように配置されているので、発電専用エンジンおよびジェネレータを自動車の車体に搭載する際に用いるマウントの面積を広くすることができ、その結果発電専用エンジンおよびジェネレータが発生する回転モーメントを吸収しやすくなって、車体への伝達を低減することができる。
【0018】
また、上記1)のBEV用レンジエクステンダによれば、自動車排出ガス規制に適合する基本燃焼および基本排気ガス成分を粗決定する要素である、燃焼室のボアとストロークの値と比率、吸気ポートと排気ポートの数、形状および位置、ならびに点火プラグの位置を、既存の乗用車で自動車排出ガス規制に対応済のDOHC・4バルブエンジンと同様なレイアウトを確保する事が燃焼レベルを確保する為に必須となる。その中で、1シリンダあたり2つの吸気ポートおよび2つの吸気バルブ、2つの排気ポートおよび2つの排気バルブを備えていること、ストレートなポートの形状と位置、点火プラグの中央配置を確保する事が動弁系の必須条件となる。
【0019】
加えて、BEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンに求められる小型化、コンパクト化、軽量化の為に、乗員に比較的大きな振動を伝えてしまう高速回転時の発電作動は抑制し、中速回転以下の作動で補填できるため、動弁系の高速回転要素を省略し、小型化、コンパクト化、軽量化に転換する。
【0020】
具体的には、2つの吸入ポートを開閉する2つの吸気バルブは、シリンダヘッド内およびシリンダケース内に配置されている第1の動弁ユニットの第1ロッカーアームと第1プッシュロッドと第1カムシャフトで作動され、2つの排気ポートを開閉する2つの排気バルブは、シリンダヘッド内およびシリンダケース内に配置される第2の動弁ユニットの第2ロッカーアームと第2プッシュロッドと第2カムシャフトで作動される。その結果、左右各シリンダヘッド内から夫々2本のカムシャフト、すなわち左右シリンダヘッドで合計4本のカムシャフトを省略でき、夫々のカムシャフトを駆動する動弁駆動系のカムスプロケット2個(左右で4個)も省略できる。その結果、シリンダヘッド内で必要な潤滑油を省量化でき、レンジエクステンダとしての全体の小型化、コンパクト化、軽量化を図ることができる。かつコストも低減することが可能になる。以上より、既存のDOHCエンジンと同様な燃焼レベルを確保して、自動車排出ガス規制をクリアした上で、振動の少ない、小型、コンパクトな、レンジエクステンダの発電専用エンジンを提供できる。
【0021】
上記2)および3)のBEV用レンジエクステンダによれば、吸気マニホルドのサージタンクが、発電専用エンジンにおけるジェネレータが配置された側とは反対側の側面、および/または発電専用エンジンの上面におけるジェネレータが配置された側とは反対側の部分、に沿って配置されているので、BEV用レンジエクステンダの上下方向の寸法を比較的小さくすることができ、BEVへの設置スペースを小型化することが可能になる。
【0022】
水平対向の2気筒、4気筒または6気筒のエンジンを直接車両を駆動するエンジンとして用いた場合、アイドル回転時から通常回転領域、さらに、許容最高回転での出力向上の為に、吸気系のマニホルドからエンジンのシリンダヘッド内にある吸気ポートへの通路抵抗を少なくせざるを得ず、吸気マニホルドはシリンダヘッドから垂直に立ち上がり、シリンダ線上に左右を繋ぎ、中央部でチャンバーとなる構造以外に成立しない。
【0023】
これに対して、BEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンの場合には、自動車排気ガス規制に適合する基本燃焼、および排出ガス性能の確保は必須であるが、乗員に比較的大きな振動が伝わる高回転時の発電作動は抑制し、中速回転以下の回転領域での発電作動で補填できる。その結果、吸気マニホルドの形状がシリンダヘッドから垂直に立ち上がる構造の必要は無く、シリンダヘッド直上からの傾斜配置、曲げ配置が可能となる。すなわち、上記2)および上記3)の吸気マニホルドはこれにあたる。
【0024】
そして、上記2)および3)のような吸気系の改善により、基本的に振動が少ない水平対向エンジンを用いても、吸気系の高さ方向の寸法を小さくすることが可能となり、BEV用レンジエクステンダの上下方向の寸法を小さくすることが可能になる。その結果、BEVの各種車体構造、各種車体の大きさに合わせて適切な任意の位置に配置することが可能になる。具体的には、乗用車、SUV、ピックアップトラック、バンタイプトラックなどの車体構造やで大きさの異なるタイプのBEVに搭載可能となる。
【0025】
上記4)のBEV用レンジエクステンダによれば、発電専用エンジンが、クランクシャフトの左右にそれぞれ1つ、すなわち左右で2つのシリンダを備えた水平対向2気筒エンジンであり、吸気マニホルドの分岐管の先端部が、発電専用エンジンのシリンダヘッドの側面に接続されているから、吸気マニホルドの発電専用エンジンの上面からの突出高さを、上記2)および3)のBEV用レンジエクステンダよりもさらに低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】この発明によるBEV用レンジエクステンダを示す概略平面図である。
【
図2】
図1のBEV用レンジエクステンダの概略側面図である。
【
図3】
図1のBEV用レンジエクステンダの概略正面図である。
【
図4】この発明によるBEV用レンジエクステンダを示す吸気マニホルドを省略した概略平面図である。
【
図5】
図1のBEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンの一部の構成を概略的に示す正面から見た図である。
【
図6】
図1のBEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンの動弁系を示す斜視図である。
【
図7】
図1のBEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンの動弁系を示す正面図である。
【
図8】
図1のBEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンの動弁系を示す平面図である。
【
図9】この発明によるBEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンに用いられる吸気マニホルドの変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0028】
以下の説明において、
図1および
図4の左右を左右といい、
図2および
図3の上下を上下というものとする。また、
図1および
図4の上側(
図2の左側)を前、これと反対側を後というものとする。
【0029】
以下の説明において、同一物および同一部分には同一符号を付す。
【0030】
図1~
図4はBEV用レンジエクステンダの全体構成を一部を省略して概略的に示す。また、
図5はBEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンの一部の構成を概略的に示し、
図6~
図8はBEV用レンジエクステンダの発電専用エンジンの動弁系を示す。
【0031】
図1~
図5において、BEV用レンジエクステンダ(1)は、発電専用エンジン(2)と、発電専用エンジン(2)の駆動により発電するジェネレータ(3)と、発電専用エンジン(2)の燃料タンク(4)と、発電専用エンジン(2)の冷却装置(5)と、BEV用レンジエクステンダ(1)を自動車に搭載する際に用いられるマウント(図示略)とを備えている。
【0032】
なお、図示は省略したが、BEV用レンジエクステンダ(1)は、インバータなどの発電に必要な電気機器を備えている。
【0033】
発電専用エンジン(2)は水平対向エンジンであって、前後方向に伸びる水平な回転中心軸線を有するクランクシャフト(11)と、クランクシャフト(11)の左右両側にクランクシャフト(11)を挟んで対向するように配置された偶数個、この実施形態においては2つのシリンダ(12)と、クランクシャフト(11)の左右両側にクランクシャフト(11)を挟んで対向するように各シリンダ(12)内に配置されたピストン(13)と、吸気マニホルド(14)とを備えている。シリンダ(12)は、クランクシャフト(11)の左右両側に、それぞれ長手方向を左右方向に向けて同数ずつ配置されている。
【0034】
発電専用エンジン(2)は、左右2つのシリンダブロック(15)およびシリンダヘッド(16)とを備えており、クランクシャフト(11)は両シリンダブロック(15)に挟持された状態で両シリンダブロック(15)に回転自在に支持されている。左右2つのピストン(13)はそれぞれコンロッド(13a)を介してクランクシャフト(11)に接続されており、両ピストン(13)の往復運動によりクランクシャフト(11)が前記回転中心軸線の周りに回転させられる。シリンダブロック(15)およびシリンダヘッド(16)は、別々に形成されて相互に固定される場合と、両者が一体に形成される場合とがある。
【0035】
発電専用エンジン(2)の各シリンダブロック(15)に1つのシリンダ(12)が形成され、各シリンダヘッド(16)にシリンダ(12)に対応する1つの燃焼室(17)および当該燃焼室(17)に臨む2つの吸気ポート(18)および2つの排気ポート(19)が形成されている。各シリンダヘッド(16)の両吸気ポート(18)はそれぞれ吸気バルブ(21)により開閉され、両排気ポート(19)はそれぞれ排気バルブ(22)により開閉される。2つの吸気ポート(18)が燃焼室(17)の上側部分に前後に並んで形成されるとともに、両吸気ポート(18)を開閉する2つの吸気バルブ(21)が前後に並んで配置されている。また、2つの排気ポート(19)が燃焼室(17)の下側部分に前後に並んで形成されるとともに2つの排気バルブ(22)が前後に並んで配置されている。2つの吸気バルブ(21)は2つの排気バルブ(22)よりも上方に配置されている。すなわち、発電専用エンジン(2)は、2つのシリンダ(12)および2つの燃焼室(17)、4つの吸気ポート(18)および4つの排気ポート(19)、ならびに4つの吸気バルブ(21)および4つの排気バルブ(22)を備えている。
【0036】
図5~
図8に示すように、4つの吸気ポート(18)を開閉する吸気バルブ(21)および4つの排気ポート(19)を開閉する排気バルブ(22)は動弁機構(23)により作動させられる。動弁機構(23)は、左右の燃焼室(17)に臨む両吸気ポート(18)を開閉する全ての吸気バルブ(21)を作動させる第1の動弁ユニット(24)と、左右の燃焼室(17)に臨む両排気ポート(19)を開閉する全ての排気バルブ(22)を作動させる第2の動弁ユニット(25)とから構成されている。第1の動弁ユニット(24)は、シリンダ(12)の上方の高さ位置でかつクランクシャフト(11)の真上に配置されるとともに、クランクシャフト(11)により水平な回転中心軸線の周りに回転させられる第1カムシャフト(26)と、各シリンダ(12)毎に2つ設けられかつ第1カムシャフト(26)に取り付けられた2つの第1カム(27)により駆動される左右2本ずつ合計4本の第1プッシュロッド(28)と、各シリンダ(12)毎に2つ設けられかつ第1プッシュロッド(28)により駆動される左右2つずつ合計4つの第1ロッカーアーム(29)とを備えており、第1カムシャフト(26)の第1カム(27)による入力を全吸気バルブ(21)に伝えるようになっている。第1カムシャフト(26)は両シリンダ(12)の上方の高さ位置でかつクランクシャフト(11)の真上に配置されている。第2の動弁ユニット(25)は、シリンダ(12)の下方の高さ位置でかつクランクシャフト(11)の真下に配置されるとともに、クランクシャフト(11)により水平な回転中心軸線の周りに回転させられる第2カムシャフト(31)と、各シリンダ(12)毎に2つ設けられかつ第2カムシャフト(31)に取り付けられた2つの第2カム(32)により駆動される左右2本ずつ合計4本の第2プッシュロッド(33)と、各シリンダ(12)毎に2つ設けられかつ第2プッシュロッド(33)により駆動される左右2つずつ合計4つの第2ロッカーアーム(31)とを備えており、第2カムシャフト(27)による入力を全排気バルブ(22)に伝えるようになっている。第2カムシャフト(31)は両シリンダ(11)の下方の高さ位置でかつクランクシャフト(11)の真下に配置されている。
【0037】
なお、吸気ポートおよび吸気バルブの数と、排気ポートおよび排気バルブの数は、2つに限定されるものではない。さらに、吸気バルブおよび排気バルブを作動させる動弁機構も上述したものに限定されず、公知のSOHC(シングルオーバーヘッドカム)形式や、DOHC(ダブルオーバヘッドカム)形式や、OHV(オーバーヘッドバルブ)形式のものを用いることが可能である。
【0038】
図1および
図4を参照すると、ジェネレータ(3)は、発電専用エンジン(2)およびジェネレータ(3)が平面視T字形となるように、発電専用エンジン(2)の長さ方向の略中央部に配置されている。ジェネレータ(3)の回転軸(3a)は、クランクシャフト(11)と同一軸線上またはクランクシャフト(11)と平行な軸線上に水平状に配置されて、伝動装置(35)を介してクランクシャフト(11)に連結されており、クランクシャフト(11)が回転することにより、増速または減速されて回転させられるようになっている。
【0039】
燃料タンク(4)は、発電専用エンジン(2)の長手方向の両端が位置する鉛直面と、ジェネレータ(3)における発電専用エンジン(2)から突出した先端が位置する鉛直面とに囲まれた2つの空間(36)(37)のうちの少なくともいずれか一方、ここでは右側の空間(36)内に、全体が収まるように配置されている。燃料タンク(4)の配置箇所はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0040】
冷却装置(5)は、発電専用エンジン(2)の長手方向の両端が位置する鉛直面と、ジェネレータ(3)における発電専用エンジン(2)から突出した先端が位置する鉛直面とに囲まれた2つの空間(36)(37)のうちの燃料タンク(4)が配置された右側の空間(36)の反対側、ここでは左側の空間(37)内に、少なくとも一部が収まるように配置されている。冷却装置(5)の配置箇所はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。たとえば、冷却装置(5)は、BEV用レンジエクステンダ(1)の発電専用エンジン(2)におけるジェネレータ(3)が配置された側とは反対側の前側面側に、発電専用エンジン(2)の長手方向と平行になるように配置されていてもよい。
【0041】
また、上述した空間(36)(37)に、インバータなどの発電に必要な電気機器が配置されることもある。
【0042】
吸気マニホルド(14)は、サージタンク(38)およびシリンダ(12)と 同数の分岐管(39)を有している。吸気マニホルド(14)のサージタンク(38)は、発電専用エンジン(2)におけるジェネレータ(3)が配置された側とは反対側の前側面から上面の前側部分に沿って配置されている。分岐管(39)はサージタンク(38)から左右方向に延びてその先端部が、発電専用エンジン(2)のシリンダヘッド(16)の上面に接続されており、左側の分岐管(39)は左側の燃焼室(17)に臨む吸気ポート(21)に吸気を送り込み、右側の分岐管(39)は右側の燃焼室(17)に臨む吸気ポート(21)に吸気を送り込むようになっている。
【0043】
上述したBEV用レンジエクステンダ(1)は、BEVの種々の場所に設置される。
【0044】
たとえば、ピックアップトラックの場合、BEV用レンジエクステンダ(1)はエンジンルームの下部や荷台の下方に配置される。バンタイプトラックの場合、BEV用レンジエクステンダ(1)は貨物室の下方に配置される。乗用車の場合、BEV用レンジエクステンダ(1)はエンジンルームの下部やトランクの下方に配置される。SUV(スポーツ用多目的車)の場合、BEV用レンジエクステンダ(1)はエンジンルームの下部や荷室の下方に配置される。
【0045】
これらはあくまでも例示であり、自動車用レンジエクステンダ(1)の設置位置は図示のものに限定されず、必要なスペースを確保しうる場所であれば、設置可能である。
【0046】
そして、BEV用レンジエクステンダ(1)が搭載されているBEVの駆動用バッテリーの残量が低下した場合、発電専用エンジン(2)が駆動されてジェネレータ(3)により発電され、発電された電力がBEVの駆動用バッテリーに補給される。その結果、BEVの航続距離が延びる。
【0047】
上述した実施形態においては、吸気マニホルド(14)のサージタンク(38)は、発電専用エンジン(2)におけるジェネレータ(3)が配置された側とは反対側の前側面から上面の前側部分に沿って配置されているが、これに限定されるものではない。
【0048】
たとえば、
図9に示すように、発電専用エンジン(2)は、発電専用エンジン(2)の前側面に沿って配置されたサージタンク(41)と、サージタンク(41)から左右方向に延びてその先端部が発電専用エンジン(2)のシリンダヘッド(16)の前側面に接続された左右の分岐管(42)からなる吸気マニホルド(40)を備えていてもよい。左側の分岐管(42)は左側の燃焼室(17)に臨む吸気ポート(21)に吸気を送り込み、右側の分岐管(42)は右側の燃焼室(17)に臨む吸気ポート(21)に吸気を送り込むようになっている。
【0049】
また、上述した実施形態においては、発電専用エンジン(2)は2つのシリンダ(12)を有する水平対向エンジンであるが、これに限定されるものではなく、4つのシリンダを備えた水平対向エンジンや、6つのシリンダを備えた水平対向エンジンであってもよい。これらの場合、発電専用エンジンに用いられる吸気マニホルドの分岐管の先端はシリンダヘッド(16)の上面に接続される。また、これらの場合、クランクシャフト(11)の両側にそれぞれ同じ偶数のシリンダが配置され、クランクシャフト(11)の両側のシリンダが1つのシリンダブロックに形成されるとともに、当該シリンダブロックに1つのシリンダヘッドが取り付けられ、当該シリンダヘッドに各シリンダに対応する燃焼室および当該燃焼室に臨む2つの吸気ポートおよび2つの排気ポートが形成される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明による自動車用レンジエクステンダは、BEVの航続距離を延ばす為に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0051】
(1):自動車用レンジエクステンダ、(2):発電専用エンジン、(3):ジェネレータ、(3a):回転軸、(4):燃料タンク、(5):冷却装置、(11):クランクシャフト、(12):シリンダ、(13):ピストン、(14):吸気マニホルド、(15):シリンダブロック、(16):シリンダヘッド,(17):燃焼室、(18):吸気ポート、(19):排気ポート、(21);吸気バルブ、(22):排気バルブ、(23):動弁系、(24):第1の動弁ユニット、(25):第2の動弁ユニット、(26):第1カムシャフト、(27):第1カム、(28):第1プッシュロッド、(29):第1ロッカーアーム、(31):第2カムシャフト、(32):第2カム、(33):第2プッシュロッド、(34):第2ロッカーアーム、(36)(37):空間、(38):サージタンク、(39):分岐管、(40):吸気マニホルド、(41):サージタンク、(42):分岐管。
【要約】
【課題】発生する振動を低減しうる自動車用レンジエクステンダを提供する。
【解決手段】BEV用レンジエクステンダ1は、水平対向2気筒の発電専用エンジン2と、ジェネレータ3と、発電専用エンジン2の燃料タンク4と、発電専用エンジン2の冷却装置8とを備えている。発電専用エンジン2は、回転中心軸線が水平であるクランクシャフト11と、クランクシャフト11を挟んで対向して配置された2つのシリンダ12と、クランクシャフト11を挟んで対向するように各シリンダ12内に配置されたピストン13とを備えている。ジェネレータ3は、発電専用エンジン2およびジェネレータ3が平面視T字形となるように、発電専用エンジン2の長さ方向の略中央部に配置されている。
【選択図】
図1