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特許7488541脳血管異常の同定のための方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】脳血管異常の同定のための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20240515BHJP
   A61B 6/50 20240101ALI20240515BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240515BHJP
【FI】
A61B6/03 560T
A61B6/50 500B
A61B6/50 511G
G06T7/00 350C
G06T7/00 612
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019067305
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020011042
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】201841026289
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】519112999
【氏名又は名称】ニューロアナリティクス ピーティーワイ.リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アンナヴィ,プラバカール
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154730(JP,A)
【文献】特開2011-004923(JP,A)
【文献】特開2017-174039(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047819(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055、6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の脳領域における脳血管異常を同定するためのシステムの作動方法であって、前記システムが、以下のための複数のモジュールを作動させるように構成された演算装置を用いる工程を含む方法:
医用撮像装置から1つ以上の画像を受信するため;
受信された前記1つ以上の画像を用いて脳領域の仮想表現を生成するため;
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を実行することにより、生成された前記脳領域の仮想表現における1つ以上の血管に関連する1つ以上のCNN特徴量を抽出するため;
抽出された1つ以上のCNN特徴量を用いて、前記脳領域の仮想表現における各空間位置を血管型と非血管型とに分類するため;
前記血管型を非分岐型、集束型および発散型のうちの1つに分類するため;
分類された血管型のグラフィック表現をユーザ・インターフェース上に生成および表示するため;
前記グラフィック表現内の関心領域のユーザ選択を受信するため;および、
選択された関心領域を処理して脳血管異常を同定するため。
【請求項2】
同定された脳血管異常が、発生学的静脈形成異常または脳静脈奇形のうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験体の脳領域の仮想表現が、2次元表現または3次元表現のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
循環系を含む脳領域の仮想表現は、医用撮像装置によってキャプチャされた複数の画像を用いて生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記血管に関連する1つ以上の抽出されたCNN特徴量が血管の中心、血管の半径、血管の質感、血流方向、血管の体積、および脳の中心に対する血管の相対的位置を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記血管型の各点を非分岐型、発散型および集束型に分類することは、抽出された特徴量を用いて血管を再構築するステップを含み、前記血管の縁は、血管厚さまたは血管の体積のうちの1つに正比例する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
被験体の脳領域における脳血管異常を同定するためのシステムであって、以下を含むシステム:
前記被験体の脳領域の1つ以上の画像をキャプチャするように構成された医用撮像装置;
前記脳血管異常を同定するステップを実行するように構成された演算装置であって、以下を含む演算装置:
前記医用撮像装置から1つ以上の画像を受信するように構成された受信モジュール;
受信された前記1つ以上の画像を用いて前記脳領域仮想表現を生成するように構成されたグラフィック処理モジュール;
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を実行して、生成された前記脳領域の仮想表現における1つ以上の血管に関連する1つ以上のCNN特徴量を抽出するように構成された抽出モジュール;
抽出された1つ以上のCNN特徴量を用いて、前記脳領域の仮想表現における各空間位置を血管型と非血管型とに分類し、さらに前記血管型を非分岐型、集束型、および発散型のうちの1つに分類するように構成された分類モジュール;および、
1つ以上の血管型を含む前記脳領域の仮想表現を表示するように構成されたグラフィックディスプレイであって、前記演算装置が1つ以上の脳血管異常を同定するための表示された前記仮想表現における関心領域の選択をユーザから受信するように構成された、グラフィックディスプレイ。
【請求項8】
前記抽出モジュールは、前記脳領域の仮想表現における1つ以上の血管型に関連する1つ以上のCNN特徴量を抽出するための複数の相互に連結したコンピュータと通信するように構成される、請求項7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本開示は血管疾患検出に関し、より詳細には、画像処理および畳み込みニューラルネットワークを使用する脳血管疾患検出のための方法およびシステムに関する。
【0002】
〔背景技術〕
一般に、脳血管疾患は、脳の血管および脳に供給する脳動脈および脳静脈のネットワークを通る血流に影響を及ぼす種々の病状を含む。動脈は酸素を含んだ血液および他の栄養素を脳に送達し、静脈は酸素を放出した血液を心臓に戻し、二酸化炭素、乳酸、および他の代謝産物を除去する。動脈または静脈の構造におけるあらゆる変化は、非動脈瘤性および動脈瘤性の疾患に広く分類され得る脳血管疾患をもたらす。
【0003】
脳血管疾患の早期の診断および治療は、罹患または死を予防するのに非常に重要である。技術の進歩に伴い、急性脳血管疾患患者の血行動態の変化を評価し、病変を可視化するために、侵襲的血管造影の代替法として、コンピュータ断層撮影(CT)潅流画像法、デジタルサブトラクション血管造影法、CT血管造影法などが頻繁に適用されている。例えば、脳血管疾患検出のための従来のシステムは、高品質CT血管造影(CTA)画像の取得を可能にするコンピュータ断層撮影(CT)スキャナーと、画像データ/画像内の関心点(POIs)を割り当てる1つ以上のプロセッサとを含む。すなわち、1つ以上のプロセッサが脳血管の状態に関連する定義された特性に基づいて対象の画像内の血管にPOIを割り当て、それぞれのPOIの1つ以上の特徴量を計算し、計算された特徴量に基づいて1つ以上の脳血管異常の疑いを同定し、前記1つ以上の特徴量を計算することは、POIから中心線までの距離を計算すること、血管の半径を計算すること、POIにおける血管の平面性を計算すること、POIにおける形状指数を計算すること、などのうちの1つを含む。
【0004】
さらに、CTA画像を用いた脳血管疾患の自動検出のための様々なアルゴリズムが開発されている。しかしながら、このようなアルゴリズムは血管分枝に沿って抽出された局所的な画像の特徴量に依存するため、血管分枝に沿って中心線を独立して特徴付ける局所的な予測を生成することしかできない。さらに、従来のアルゴリズムは一般に、異常の形状および外観における高い変動性のため、臨床現場での有用性を達成するために必要な精度レベルに達していない。例えば、従来のシステムは、脳静脈奇形のようなまれな異常を検出することができない。これらの異常は、本質的に曲がりくねって非球形である異常な流路によって架橋された動脈系と静脈系との間の異常な接続を含むためである。さらに、従来のシステムは、異常に発達した静脈の束、解離性動脈瘤、血栓性動脈瘤などの発達性静脈異常を検出することができない。
【0005】
〔開示の概要〕
そこで、技術水準の欠点の少なくともいくつかを軽減するシステムおよび方法に対する必要性が存在する。
【0006】
この発明の概要は、本開示の詳細な説明においてさらに説明される概念の選択を簡単な方法で紹介するために提供される。この概要は、主題の鍵または本質的な発明概念を特定することを意図しておらず、本開示の範囲を決定することを意図していない。
【0007】
画像処理および畳み込みニューラルネットワークを用いて脳血管異常を同定する方法およびシステムを開示する。本開示のいくつかの実施形態において、前記方法は、被験体の脳領域から循環系の仮想表現を構築するステップであって、前記仮想表現は医用撮像装置によってキャプチャされた前記脳領域の複数の画像を使用して構築されるステップと、前記仮想表現における各空間位置を、畳み込みニューラルネットワーク特徴量(CNN特徴量)を使用して血管型および非血管型に分類するステップと、前記分類の出力を使用して血管ネットワークのグラフィック表現を生成するステップと、さらに、前記血管ネットワークのグラフィック表現における各位置を、前記複数のCNN特徴量および派生特徴量を使用して収束型、発散型および非分岐型に分類するステップと、前記血管ネットワークの注釈付きグラフィック表現をユーザ・インターフェースに表示するステップと、前記グラフィック表現内の関心領域のユーザ選択を受信するステップと、前記選択されたグラフ畳み込みネットワークアーキテクチャまたはGNU-LSTMアーキテクチャのうちの1つを使用して前記選択された関心領域を処理して1つ以上の脳血管異常を同定するステップとを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、本開示のシステムは、被験体の脳領域の複数の画像を取り込み、当該複数の画像を演算装置に通信するように構成された医用撮像装置を備え、前記演算装置は複数の画像を受信し、さらに当該演算装置の記憶ユニットに画像を記憶するように構成された受信モジュールを備え、前記演算装置は、被験体の脳領域における循環系の2次元または3次元の仮想表現を再構成するように構成されたグラフィック処理モジュールと、入力画像に関連する複数の特徴量を抽出するための畳み込みニューラルネットワークを実行するように構成された抽出モジュールと、血管ネットワークのグラフィック表現における各空間位置を収束型、発散型、および非分岐型に分類するように構成された分類モジュールと、血管ネットワークのグラフィック表現を表示し、さらなる診断のためにグラフィック表現内の関心領域のユーザ選択を受信するように構成されたユーザ・インターフェースとをさらに備え、プロセッサに結合された前記分類モジュールは、ユーザ・インターフェースからの入力を受信し、且つ1つ以上の脳血管異常を同定するための入力グラフィック表現を処理するために構成されている。
【0009】
〔図面の簡単な説明〕
本開示は添付の図面を用いて、さらなる特異性および詳細と共に記述および説明される。
【0010】
図1は、本開示における種々の実施形態に従って、被験体における脳血管異常を同定するためのシステムを示す。
【0011】
図2は、本開示における種々の実施形態に従って、被験体における脳血管異常を同定するための方法を示す。
【0012】
図3は、本発明の実施形態による、i)正常な脳血管領域、ii)脳血管異常につながる動脈と静脈との間の異常な接続、およびiii)医用撮像装置によってキャプチャされた動静脈奇形に関する画像を示す。
【0013】
さらに、本開示が属する分野の当業者は、図中の要素が簡略化のために図示されており、必ずしも一定の縮尺で描かれていない可能性があることを理解するであろう。さらに、装置の構成に関して、装置の1つ以上の構成要素は従来の記号によって図面に表されており、本明細書の記述の利益を享受する当業者には容易に明らかになる詳細によって図面を不明瞭にしないように、図面は、本開示の実施形態を理解することに関連する具体的な詳細のみを示している場合がある。
【0014】
〔例示的な実施形態の詳細な説明〕
本開示の原理を理解しやすくするために、図面に示した実施形態を参照し、具体的な言葉を用いてこれらを説明する。それにもかかわらず、それによって本開示の範囲を限定する意図はないことが理解されるであろう。本開示に対するその変形例およびさらなる修正、ならびに本開示が関係する分野の当業者に通常思い浮かぶと考えられる、本明細書で説明される本開示の原理にかかるそのようなさらなる応用は、本開示の一部とみなされる。
【0015】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は本開示の例示および説明であり、それを限定することを意図しないことが、当業者によって理解されるであろう。
【0016】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、またはその他のあらゆるバリエーションはステップのリストを含むプロセスまたは方法がそれらのステップのみを含むのではなく、そのようなプロセスまたは方法に明示的に列挙されていない、または固有の他のステップを含み得るように、非排他的な包含をカバーすることを意図する。同様に、「comprises... a」が先行する1つ以上の装置またはサブシステム、要素または構造または構成要素は、それ以上の制約が無ければ、他の装置、他のサブシステム、他の要素、他の構造、他の構成要素、追加の装置、追加のサブシステム、追加の要素、追加の構造、または追加の構成要素の存在を排除しない。本明細書全体にわたる「一実施形態では」、「別の実施形態では」および類似の語句の出現は必ずしもそうとは限らないが、すべてが同じ実施形態を指す場合がある。
【0017】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で提供されるシステム、方法、および実施例は、例示に過ぎず、限定を意図するものではない。
【0018】
以下、添付の図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
本実施形態は、畳み込みニューラルネットワークを用いて抽出された特徴量と結合する脳領域における循環系の仮想表現を用いて、被験体の脳領域における脳血管異常を同定するための方法およびシステムを開示する。
【0020】
次に、図1を参照して、被験体における脳血管異常を同定するためのシステムが開示される。このシステムは、被験体の脳領域の複数の画像をキャプチャするように構成された医用撮像装置105を備える。医用撮像装置105は関心領域を選択し、装置105、較正等を最適化するソフトウェアを実行するためのコンピュータと任意に通信する。医用撮像装置105は、例えば64スライスまたは256スライスのCT血管造影装置である。一般的には、静脈内放射線造影材料が被験体に投与され、その後、CT血管造影装置を用いて関心範囲をスキャンする。医用撮像装置105は、通信ネットワークを介して演算装置110に動作可能となるように接続される。通信ネットワークには、例えば、有線または無線ネットワークである。任意選択的に、医用撮像装置105はある期間にわたって装置105によってキャプチャされた医用画像データをアーカイブするために、通信ネットワークを介してリモートサーバにも接続される。
【0021】
演算装置110は、複数のモジュールを動作させるように構成され、各モジュールは1つ以上の脳血管異常を同定するために、医用撮像装置105から受信した医用画像データの分析に至る1つ以上のプロセスを実行する。例えば、演算装置110は受信モジュール112、グラフィック処理モジュール114、抽出モジュール116、分類モジュール118、ユーザ・インターフェース120、および記憶ユニットに結合されたプロセッサ122を含む。プロセッサ122は、画像データを効率的に処理できるグラフィック処理ユニット(GPU)であることが好ましい。
【0022】
受信モジュール112は、被験体の脳領域に関する複数の画像を含む医用画像データを医用撮像装置105から受信する。一実施形態では、受信モジュール112はさらなる分析のために脳領域の最も適した画像をソートまたは選択するためのフィルタ機構を備えることができる。さらに、受信モジュール112は、画像および他の医療データを演算装置110の記憶ユニットに記憶する。
【0023】
グラフィック処理モジュール114は、演算装置110によって受信された画像から循環系の2次元または3次元のマップを再構成するように構成される。関心領域、すなわち被験体の脳領域に関する画像は、当該技術分野で知られている表面レンダリング技術、非立体対応等高線法などの方法を使用して、グラフィック処理モジュール114によって処理され、脳領域内の血管および他の組織を描写する循環系が再構成される。脳領域の循環系の2次元または3次元の再構成は、脳領域の「仮想表現」と呼ばれる。
【0024】
抽出モジュール116は、本開示の実施形態に従って本発明の特徴量抽出処理を実行するように構成される。脳領域の2次元または3次元の仮想表現を入力として、抽出モジュール116は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)または深層畳み込みニューラルネットワークを実行して、仮想表現に関連するCNN特徴量を抽出する。一実施例では、畳み込みニューラルネットワークが演算装置110自身で実施される。他の実施例では、抽出モジュール116は通信ネットワークを介して畳み込みニューラルネットワークを実装するコンピュータのネットワークと通信し、それぞれの演算ユニットは「ノード」として動作する。複数の演算ノードは畳み込みニューラルネットワークの入力層、隠れ層、および出力層を構成し、複数の演算ノードの各々は入力から特徴量を抽出し、さらに、トレーニングデータセットから抽出すべき特徴量を学習することができる。一実施例では、トレーニングデータセットが敵対的生成ネットワーク(GAN)を使用して生成され得る。他の実施例では、医用撮像装置105によってキャプチャされ、リモートサーバでアーカイブされた複数の画像を、トレーニングデータセットとして使用できる。抽出モジュール116によって抽出された複数のCNN特徴量は、演算装置110のプロセッサ122によってさらに処理されて、「派生特徴量」と呼ばれる1つ以上の追加の特徴量を導出することができる。
【0025】
通常、畳み込みニューラルネットワークの1つ以上の層内の各ノードは、入力内の1つ以上の空間位置のそれぞれに関連する特定の型の特徴量を検出する学習可能フィルタを含む。結果として、被験体の脳領域の仮想表現を含むグラフィック処理モジュール114によって提供される入力に対して、畳み込みニューラルネットワークと結合された抽出モジュール116は、仮想表現に関連する複数の特徴量を抽出する。これらの特徴量は、ここでは「CNN特徴量」と呼ばれる。抽出されたCNN特徴量は、演算装置110のデータベース(図示せず)にさらに記憶される。
【0026】
一実施形態では、より少ないトレーニング画像を用いて正確な画像を得るために、抽出モジュール116の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は複数の特徴量を抽出し、続いて、出力画像の精度を改善するための連結またはプーリング動作を行うためのいくつかの層を有するように構成される。従来のCNNモデルとは対照的に、このアプローチでは、従来のプーリング動作を実行する代わりに、特徴量をフィルタリングし、画像データをアップサンプリングするために、ネットワークの連続する層が使用される。この結果、出力の分解能が向上する。
【0027】
別の実施形態では、抽出モジュール116がカプセルニューラルネットワークと呼ばれるCNNの変形形態を実施し、ここでプーリング動作は各子層が親層からの出力を予測し、ある期間にわたって学習が収束して高分解能の出力を与えるように、子および親のトポロジ内の層によって置き換えられる。
【0028】
分類モジュール118は、医用画像データに対して1つ以上の分類プロセスを実行するように構成される。一実施形態では、分類モジュール118は抽出モジュール116によって抽出されたCNN特徴量を使用して、仮想表現内の領域を血管型および非血管型に分類する機能およびプロセスを実行する。本開示の目的を満たすために、前記分類モジュールはより良い診断のために実際の循環系の高度で正確な表現を有することが望ましい。分類モジュール118は、脳領域の仮想表現における領域を、血管型、および、組織、コラーゲンなどの非血管型に分類することによって、循環系のそのような正確な表現を生成する。分類モジュールは分類モジュール118への入力として提供されるCNN特徴量ベクトルを使用して、2つのカテゴリ、すなわち、血管型および非血管型のうちの1つに、仮想表現における各空間位置を同定する。
【0029】
さらに、グラフィック処理モジュール114は、分類モジュール118および抽出モジュール116の出力を使用して、分類モジュール118によって同定された1つ以上の血管のそれぞれのグラフィック表現を生成するように構成される。具体的にはグラフィック処理モジュール114が脳領域内の各血管のグラフィック表現を作成し、グラフィック表現内の各空間位置は、限定しないが、CNN特徴量を含む抽出モジュール116によって抽出された特徴量を使用して生成される。CNN特徴量と派生特徴量には、例として、血管の中心、血管の半径、質感、血流方向、考察中の範囲の体積、脳の中心に対する考察中の範囲の相対的位置などが含まれる。さらに、グラフィック処理モジュール114によって生成される脳領域における血管のグラフィック表現は2次元表現(この場合、血管の縁における寸法は血管の厚さに正比例する)または3次元表現(この場合、血管の縁における寸法は血管を通る血流の体積に正比例する)であり得る。なお、血管の厚さや血流の体積などの特性は、抽出モジュール116により抽出された特徴量から導出される。
【0030】
分類モジュール118はさらに、グラフィック処理モジュール114によって生成されたグラフィック表現内の血管を、発散型、収束型、および非分岐型のうちの1つに分類するように構成される。一実施例では、分類モジュール118がグラフ畳み込みネットワーク(GCN)を実施して、グラフィック表現における1つ以上の血管のそれぞれにおける各空間位置を、発散型、収束型、および非分岐型のうちの1つに分類する。グラフィック表現は、カラーコード、英数字の凡例などを使用して、この分類データを用いてさらに注釈が付けられる。
【0031】
ユーザ・インターフェース120は、例えば、脳領域内の血管のグラフィック表現をグラフィックディスプレイインターフェース上に表示するように構成されている。一実施形態では、ユーザ・インターフェース120が対話型であり、演算装置110のユーザから命令を受信することができる。ユーザは、例えば、医師および医療専門家である。一実施例では、ユーザ・インターフェース120が被験体の脳の断面図を表す楕円体でグラフィック表現を表示する。さらに、ユーザ・インターフェース120はグラフィック表現内の関心範囲の選択を受信するように構成され、当該関心範囲は楕円体の中心から円周まで好ましくは一方向に選択される。関心範囲の選択は、例えば、ユーザ・インターフェース120のタッチスクリーンを介して受信される。一実施例では、複数の関心範囲がユーザによって選択可能である。
【0032】
ユーザによって選択された関心範囲は、被験体の脳領域内の1つ以上の脳血管異常を同定するためにさらに処理される。一実施形態では、選択された関心範囲のグラフィック表現内の血管網が分類モジュール118に入力として供給される。分類モジュール118は、第2のグラフ畳み込みネットワークを実行して、発生学的静脈形成異常(DVA)などのまれな脳血管異常の属性と、グラフィック表現内の血管網内の空間位置の特徴量とを使用して、選択された関心範囲を分類する。
【0033】
別の実施形態では、分類モジュール118がグラフィック表現における選択された関心範囲から血管網内の空間位置(すなわち、収束型、発散型、および非分岐型)ごとに複数の特徴量および分類を受信するGNU-LSTM(long short term memory)アーキテクチャを実施する。分類モジュール118の出力は、脳静脈奇形として知られるまれな脳血管異常の異なる分類の同定をもたらす。LSTMアーキテクチャを使用することにより、分類モジュール118は、選択された関心範囲を、多くの様々なタイプの脳静脈奇形のうちの1つに分類することができる。
【0034】
ここで図2を参照して、関心領域における脳血管異常を同定するための方法が開示される。一実施形態では、該方法が演算装置110の受信モジュール112によって、CT血管造影のような医用撮像装置からの複数の画像を受信するステップを含む。複数の画像は、関心範囲に関係する。具体的には、複数の画像が診断されている被験体の脳領域をキャプチャする。さらに、脳領域における循環系の2次元または3次元の仮想表現は、グラフィック処理モジュール114によって複数の画像を用いて再構成される。
【0035】
ステップ205において、循環系の仮想表現が抽出モジュール116への入力として提供される。このステップにおいて、抽出モジュール116は、演算装置110上、または通信ネットワークを介して演算装置110に動作可能に接続された演算ノードのネットワーク上のいずれかで、畳み込みニューラルネットワークアーキテクチャを実施する。CNN特徴量と呼ばれる、仮想表現における1つ以上の空間点の各々に関連付けられた複数の特徴量が抽出される。一実施形態では、敵対的生成ネットワーク(GAN)が、CNN特徴量を抽出するために、関心領域に関連する複数の画像を含むトレーニングデータを提供する。
【0036】
ステップ210において、循環系の仮想表現は、抽出されたCNN特徴量を使用して、分類モジュール118によって血管および非血管に分類される。理解され得るように、仮想表現における血管網内の血管の構造は、本開示の目的を満たすために非常に重要である。仮想表現でキャプチャされた非血管は、例えば、このステップで分類モジュール118によってフィルタ除去される組織、コラーゲン等である。
【0037】
ステップ215において、抽出されたCNN特徴量を使用して、または派生特徴量のセットを使用して、血管網の2次元または3次元のグラフィック表現が、グラフィック処理モジュール114によって生成される。1つ以上のCNN特徴量および派生特徴量には、例えば、血管の中心、血管の半径、質感、血流方向、考察中の範囲の体積、脳の中心に対する考察中の範囲の相対的位置などが含まれる。血管網内の血管の縁における寸法は、被験体の脳領域内の血管の厚さまたは血管を通って流れる血液の体積に正比例する。
【0038】
ステップ220において、分類モジュール118は、グラフ畳み込みネットワーク(GCN)アーキテクチャを実施して、血管網のグラフィック表現における各空間位置を、収束型、発散型、および非分岐型に分類する。複数の抽出および導出された特徴量と共に血管網のグラフィック表現は、グラフ畳み込みネットワークへの入力として提供される。さらに、血管網のグラフィック表現はGCNの出力で注釈付けされ、すなわち、グラフィック表現におけるそれぞれの空間位置は色分けされ、または例えば、収束型、発散型、および非分岐型を同定するため、英数字の凡例が与えられる。
【0039】
ステップ225において、グラフィック表現は、更なる診断を行うための関心範囲のユーザ選択を受信するためにユーザ・インターフェース120上に表示される。ユーザは、例えば、医師、医療専門家である。関心範囲のユーザ選択は例えば、演算装置110の対話型ディスプレイユニットを介して受信される。好ましくは、血管網の三次元のグラフィック表現は、楕円の中心が被験体の脳領域の中心と一致するように楕円で表される。さらに、関心範囲のユーザ選択は例えば、楕円体の中心からその縁まで、セクションの形式で受信されることが好ましい。
【0040】
一実施例では、ユーザによって選択された関心セクションの半径は研究されている脳血管異常の種類と相関する。例えば、発生学的静脈形成異常(DVA)については、一般的にはより大きな半径が選択される。一方、脳静脈奇形については、より小さな半径の複数の選択が選択される。
【0041】
ステップ230において、ユーザによって選択された関心セクションは、分類モジュール118への入力として提供される。分類モジュール118はさらに、選択された領域のグラフィック表現およびそれに関連する特徴量を使用して、DVAなどのまれな脳血管異常の属性を同定するために、第2のグラフ畳み込みネットワークを実施する。別の実施形態では、ユーザによって選択された関心のある1つ以上のセクションが、1つ以上の脳静脈奇形を同定するために、分類モジュール118によって実施されるGNU-LSTMアーキテクチャへの入力として提供される。
【0042】
図3は、本開示の実施形態による医用撮像装置105を用いてキャプチャされた被験体の脳血管領域の断面図を示す。3Aは、動脈および静脈における徴候的な隆起または結節が見えないという点で、正常な脳血管領域の断面図を示す。3Bは、「x」と記された領域における動脈と静脈との間の異常な通路を有する対象の断面図を示す。同様に、3Cは動静脈奇形を有する対象の断面図を示し、ここで、異常な接続は、毛細血管系を介することなく動脈と静脈との間に形成される。
【0043】
図3Bおよび3Cから分かるように、動脈と静脈との間の異常な接続は一般にヒトの眼に似ているように見え、これらの脳血管異常のほとんどが非常に類似した症状を有することを考えると、特定の脳血管の状態を有する被験体を適切に診断することは非常に困難になる。本開示のシステムおよび方法を使用することによって、2つの状態の断面図は、複数の画像をキャプチャすること、キャプチャされた画像においてされた脳血管領域に関連するCNN特徴量を抽出すること、循環系を血管および非血管にグループ化すること、関心領域の血管に関連する特徴量を抽出すること、関心領域の血管上のそれぞれの点を分類すること、および前述の開示の実施形態を使用して脳血管異常を決定することによって識別可能である。
【0044】
前述の開示から明らかであるように、本開示のシステムおよび方法はCT血管造影法などの医用撮像装置によるスキャンを使用して通常検出できないまれな異常を含む複数の型の脳血管異常を同定することができ、本開示のシステムによって実施される特徴量訓練モデルによって早期診断を行うことができるという点で有利である。さらに、この方法は、ユーザが単一のスキャンおよび特徴量訓練モデルを用いて、異なる型の脳血管異常の診断を実行することを可能にする。いくつかの他の利点が顕著である。
【0045】
本開示を説明するために特定の言葉を使用したが、これらによって生じるいかなる制限も意図していない。当業者には明らかなように、本明細書で教示する本開示の概念を実施するために、本方法に様々な作業変更を加えることができる。
【0046】
図面および前述の説明は、実施形態の例を提供する。当業者は、記載された要素の1つ以上が単一の機能要素に組み合わされてもよいことを理解するのであろう。あるいは、ある要素が複数の機能要素に分割されてもよい。1つの実施形態からの要素は、別の実施形態に追加されてもよい。例えば、本明細書に記載されるプロセスの順序は変更されてもよく、本明細書に記載される方法に限定されない。さらに、いかなる流れ図の動作も示された順序で実施される必要はなく、動作の全てが必ずしも実行される必要もない。また、他の動作に依存しない動作は、他の動作と並行して行われてもよい。実施形態の範囲は、これらの具体的な実施例によって決して限定されない。構造、寸法、および材料の使用の差分など、明細書において明示的に与えられるか否かにかかわらず、多数の変形形態が考えられる。実施形態の範囲は、少なくとも、以下の特許請求の範囲によって与えられるのと同じくらい広い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本開示における種々の実施形態に従って、被験体における脳血管異常を同定するためのシステムを示す。
図2】本開示における種々の実施形態に従って、被験体における脳血管異常を同定するための方法を示す。
図3】本発明の実施形態による、i)正常な脳血管領域、ii)脳血管異常につながる動脈と静脈との間の異常な接続、およびiii)医用撮像装置によってキャプチャされた動静脈奇形に関する画像を示す。
図1
図2
図3