(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】浮遊培養装置及び浮遊培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240515BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240515BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12N5/071
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2019191368
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】矢口 俊之
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0091487(US,A1)
【文献】特表2018-518194(JP,A)
【文献】特開2005-224787(JP,A)
【文献】水溶性二相系(Aqueous Two Phase System)を用いた細胞組織構築法の基礎技術開発,日本生体医工学会大会プログラム・抄録集,2019年06月06日,1-PM-PO-B5 PO-B-035
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外相と、前記外相中で浮遊する培養相としての内相と、を含む水性二相培養液と、
前記水性二相培養液を収容する培養槽と、
前記内相の浮遊状態を維持する浮遊手段と、
位置検出機器と、を備え、
前記外相は、ポリエチレングリコール相であり、前記内相は、デキストラン相であり、
前記浮遊手段は、ポンプであり、前記培養槽中で前記外相を流動させ、前記外相に対し下方から上方に向かう流れを付与し、
前記位置検出機器は、前記内相の浮遊状態を検出する画像センサと、前記内相の浮遊状態に応じて、前記浮遊手段を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記画像センサにより取得した前記内相の浮遊状態に応じて、
前記浮遊手段による前記外相の流速を変化させ、前記内相の前記培養槽中の位置が安定化するように、前記浮遊手段を制御する、浮遊培養装置。
【請求項2】
前記培養槽から流出した前記外相を回収し、再び前記培養槽に流入させて循環させる循環機構を備える、請求項
1に記載の浮遊培養装置。
【請求項3】
前記浮遊手段は、前記培養槽の下方から前記外相を流入させると共に、
前記培養槽の上方から前記外相を流出させることで、前記内相の浮遊状態を維持する、請求項1
又は2に記載の浮遊培養装置。
【請求項4】
培養液中で細胞を培養する浮遊培養方法であって、
前記培養液は、培養槽に収容され、
前記培養液は、外相と、前記外相中で浮遊する培養相としての内相と、を含む水性二相培養液であり、
前記外相は、ポリエチレングリコール相であり、前記内相は、デキストラン相であり、
ポンプにより、前記培養槽中で前記外相を流動させ、前記外相に対し下方から上方に向かう流れを付与し、
前記内相の浮遊状態を画像として検出すると共に、前記検出された前記内相の浮遊状態に応じて、
前記ポンプによる前記外相の流速を変化させ、前記内相の前記培養槽中の位置が安定化するように、前記内相の浮遊状態を維持して培養を行う、浮遊培養方法。
【請求項5】
前記培養槽から流出した前記外相を回収し、再び前記培養槽に流入させて循環させる、請求項
4に記載の浮遊培養方法。
【請求項6】
前記培養槽の下方から前記外相を流入させると共に、
前記培養槽の上方から前記外相を流出させることで、前記内相の浮遊状態を維持する、請求項
4又は5に記載の浮遊培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮遊培養装置及び浮遊培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において、細胞を用いて人工的に組織や臓器を作製し、傷害を受けた組織や臓器の機能を回復させる再生医療が注目されている。ヒトを含む多細胞生物の組織や臓器は、複数の細胞からなる3次元構造を有する。そこで、生体外で3次元構造を有する細胞組織を培養する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0091487号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術は、浸水性ポリマー相(an immersion aqueous polymer phase)と液滴ポリマー相(a droplet aqueous polymer phase)とからなる水性二相系の培養液を用い、該液滴ポリマー相中で細胞の3次元凝集体を培養する技術である。このような技術によれば、液滴の蒸発を防ぎ、また培地交換による悪影響を受けずに細胞を培養できる。しかし、浸水性ポリマー相の底部に沈降した液滴ポリマー相中で培養を行うため、培養時に細胞が平面状に広がってしまい、十分に厚みのある細胞を培養できない問題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、十分な厚みを有する3次元組織の培養が可能な培養装置及び培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、外相と、前記外相中で浮遊する培養相としての内相と、を含む水性二相培養液と、前記水性二相培養液を収容する培養槽と、前記内相の浮遊状態を維持する浮遊手段と、を備える、浮遊培養装置に関する。
【0007】
前記浮遊手段は、前記培養槽中で前記外相を流動させることで、前記内相の浮遊状態を維持してもよい。
【0008】
前記培養槽中で前記外相が流動する流速は、前記培養槽における前記内相の浮遊状態に応じて制御されてもよい。
【0009】
前記浮遊培養装置は、前記培養槽から流出した前記外相を回収し、再び前記培養槽に流入させて循環させる循環機構を備えていてもよい。
【0010】
前記内相の比重は、前記外相の比重よりも大きく、前記浮遊手段は、前記培養槽の下方から前記外相を流入させると共に、前記培養槽の上方から前記外相を流出させることで、前記内相の浮遊状態を維持してもよい。
【0011】
前記浮遊手段は、前記培養槽を回転させることで、前記内相の浮遊状態を維持してもよい。
【0012】
前記水性二相培養液は、デキストラン相と、ポリエチレングリコール相と、からなるものでもよい。
【0013】
前記外相は、ポリエチレングリコール相であり、前記内相は、デキストラン相であってもよい。
【0014】
また、本発明は、培養液中で細胞を培養する浮遊培養方法であって、前記培養液は、外相と、前記外相中で浮遊する培養相としての内相と、を含む水性二相培養液であり、前記内相の浮遊状態を維持して培養を行う、浮遊培養方法に関する。
【0015】
前記浮遊培養方法は、前記培養槽中で前記外相を流動させることで、前記内相の浮遊状態を維持してもよい。
【0016】
前記培養槽中で前記外相が流動する流速は、前記培養槽における前記内相の浮遊状態に応じて制御されてもよい。
【0017】
前記浮遊培養方法は、前記培養槽から流出した前記外相を回収し、再び前記培養槽に流入させて循環させてもよい。
【0018】
前記内相の比重は、前記外相の比重よりも大きく、前記培養槽の下方から前記外相を流入させると共に、前記培養槽の上方から前記外相を流出させることで、前記内相の浮遊状態を維持してもよい。
【0019】
前記浮遊培養方法は、前記培養槽を回転させることで、前記内相の浮遊状態を維持してもよい。
【0020】
前記水性二相培養液は、デキストラン相と、ポリエチレングリコール相と、からなるものでもよい。
【0021】
前記外相は、ポリエチレングリコール相であり、前記内相は、デキストラン相であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、十分な厚みを有する3次元組織の培養が可能な培養装置及び培養方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態に係る浮遊培養装置を示す模式図である。
【
図2】第2実施形態に係る浮遊培養装置を示す模式図である。
【
図3】実施例に係る浮遊培養方法で培養した細胞の蛍光画像を示す図である。
【
図4】比較例に係る培養方法で培養した細胞の蛍光画像を示す図である。
【
図5】実施例に係る浮遊培養方法で培養した細胞の蛍光画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る浮遊培養装置及び浮遊培養方法について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0025】
[第1実施形態]
本実施形態に係る浮遊培養装置1は、
図1に示すように、培養液10と、培養槽11と、ポンプ20と、インキュベータ30と、流路40と、位置検出機器50と、を有する。
【0026】
培養液10は、外相101及び培養相としての内相102を含む水性二相培養液である。水性二相培養液を培養に用いることで、被培養物に与える悪影響を低減できる。水性二相培養液は、例えば2つの化学構造が異なる水性ポリマーを組み合わせることで生成される、二相に分離した培養液である。このような水性ポリマーの組み合わせとしては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、デキストラン、デキストラン硫酸塩、ポリエーテル、ポリアスパルテート、ポリアミン、ポリリジン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、エチレン/プロピレンコポリマー、及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される2種類のポリマーの組み合わせが挙げられる。
本実施形態に係る培養液10は、ポリエチレングリコールとデキストランの組み合わせにより得られるポリエチレングリコール相(以下、「PEG相」と記載する場合がある)及びデキストラン相(以下、「DEX相」と記載する場合がある)からなる水性二相培養液であることが好ましい。更に、外相101をPEG相とし、培養相としての内相102をDEX相とすることが好ましい。
【0027】
水性二相培養液には、被培養物である細胞の培養に適した培地が含まれる。培地としては特に制限されず、従来公知のものが用いられる。例えば、基礎培地に血清や血清代替物を添加した培地が用いられる。
【0028】
水性二相培養液は、上記2種類のポリマーを、培地に溶解させて混合し、自然に、又は遠心力を印加して分離させることで調製される。
水性二相培養液の調製方法について、PEG相及びDEX相からなる水性二相培養液を例に挙げて以下説明する。まず、ポリエチレングリコールを、培地に溶解することでPEG溶液が調製される。ポリエチレングリコールの分子量及び濃度は特に制限されないが、例えば、分子量8000~200000、濃度2.5~14重量%のものを用いることができる。同様に、デキストランを、培地に溶解することでDEX溶液が調製される。デキストランの分子量及び濃度は特に制限されないが、例えば、分子量20000~500000、濃度3.2~14重量%のものを用いることができる。上記調製されたPEG溶液及びDEX溶液に対し、オートクレーブ滅菌を行った後、PEG溶液及びDEX溶液を混合し、遠心分離等により二相に分離させる。これにより、ポリエチレングリコールが多く含まれるPEG相と、デキストランが多く含まれるDEX相との二相に分離した溶液が得られる。そして、例えば上記作製したPEG相で満たされた容器に、DEX相を滴下することで、PEG相を外相、DEX相を内相とする水性二相培養液が得られる。
【0029】
外相101は、培養槽11中において内相102の周囲に存在する。また、外相101は、リザーバ32に貯留される。
図1に示すように、培養槽11における外相101とリザーバ32における外相101とは、ポンプ20により流路40を通じて循環する。これにより、内相102の環境は、外相101を通じてインキュベータ30内と同様の環境に維持される。また、外相101が培養槽11内で流動することにより、内相102の浮遊状態が維持される。
【0030】
内相102は、細胞を培養する培養相として用いられ、細胞の懸濁液として調製される。例えば、DEX相を内相102として用いる場合、内相102は、DEX相に細胞を懸濁させることで調製される。
内相102は、培養槽11において外相101中で浮遊する。内相102は、
図1に示すように、球状又は長球状の液滴を形成して浮遊する。内相102の大きさや数は特に制限されない。内相102は、例えば、外相101よりも比重が大きく、内相102に働く重力は浮力よりも大きい。この場合、内相102は培養槽11内で徐々に沈降する。しかし、外相101がポンプ20等の浮遊手段により培養槽11内で流動することで、内相102に対し上向きの抗力が働き、内相102の浮遊状態が維持される。
【0031】
内相102中で培養される被培養物としては、ヒトを含む哺乳類の細胞が挙げられる。細胞の種類としては、特に制限されず、例えば、体細胞、その前駆細胞、及びこれらの混合細胞が挙げられる。具体的には、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞等の幹細胞や、心筋細胞、心臓壁細胞、肝細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、血管内皮細胞、肝前駆細胞、間葉系細胞、膵島細胞、軟骨細胞、上皮細胞等、がん細胞、及びがん由来細胞株等が挙げられる。被培養物である細胞は、接着性細胞であることが好ましい。接着性細胞を平面培養すると、平面上に広がり2次元的な組織が形成されるが、接着性細胞を浮遊培養することで、3次元的な細胞の凝集塊を形成することができる。
【0032】
培養槽11は、培養液10を収容する容器である。培養槽11には、外相101が流入する流入口111と、外相101が流出する流出口112が設けられる。流入口111は、培養槽11の下方に設けられ、流出口112は培養槽11の上方に設けられる。培養槽11の形状は特に制限されず、例えば円筒状や角筒状のものが用いられる。培養槽11の材質は、光透過性部材であることが好ましい。培養槽11を光透過性部材で構成することで、培養槽11における内相102の位置を外部から容易に把握できる。上記光透過性部材としては、特に制限されないが、例えばガラスや塩化ビニル等の透明樹脂が用いられる。
【0033】
ポンプ20は、一定流速で液体の輸送が可能な装置である。ポンプ20は、培養槽11の下方から外相101を供給し上方から回収することで、培養槽11内で内相102の浮遊状態を維持する浮遊手段である。また、ポンプ20は、後述する流路40と共に外相101を循環させる循環機構を構成する。具体的には、ポンプ20及び流路40は、培養槽11から流出した外相101を、リザーバ32に回収し、再び培養槽11に供給して循環させるように構成される。ポンプ20は、インキュベータ30の外部に配置されることが好ましい。
ポンプ20としては、例えばローラーポンプが用いられる。ローラーポンプは、内部にローラーと、ローラーが取り付けられた回転体と、回転体を回転させるモーターと、ハウジングを有する(図示省略)。ローラーポンプは、該回転体が回転する際に、ローラーにより液体が流通するチューブをしごいてハウジングに押し付け、チューブ内の液体を送液する。このようなローラーポンプとしては、特に制限されず、従来公知のものが用いられる。
【0034】
インキュベータ30は、細胞等の被培養物を収容し、培養に適した環境を維持、制御する装置である。インキュベータ30は、チャンバ31と、リザーバ32と、を備える。
【0035】
チャンバ31は、開閉可能な扉を有する。チャンバ31の内部では、例えば温度、湿度、CO2濃度等が所定の条件に調整される。チャンバ31の内部には、上記条件を調整するため、温水ヒータ、電気ヒータ、加湿皿、炭酸ガスボンベや温湿度センサ、CO2濃度センサ等が設けられる(図示省略)。上記所定の条件としては、培養される組織の種類によって異なるが、例えば、ヒトを含む哺乳類の細胞の培養を行う場合、温度37℃、湿度100%、CO2濃度5%という条件が適用される。
【0036】
リザーバ32は、チャンバ31内に配置され、外相101が貯留される容器である。リザーバ32は、一部がチャンバ31内に向けて開口した容器であり、チャンバ31内の雰囲気とガス交換可能に構成される。リザーバ32は、第2流路43を介して培養槽11と連結され、第3流路44を介してポンプ20と連結される。また、気泡除去部42を介して第1流路41と連結される。
【0037】
流路40は、培養液としての外相101が流通する流路である。流路40は、第1流路41と、気泡除去部42と、第2流路43と、第3流路44と、からなる。これらの流路は、例えば、シリコーン樹脂等の可撓性樹脂により構成される。
【0038】
第1流路41は、ポンプ20と培養槽11との間に配置される。第1流路41の上流側端部はポンプ20に接続され、下流側端部は培養槽11の流入口111に接続される。
気泡除去部42は、第1流路41とリザーバ32との間に配置されるベント配管である。気泡除去部42の上流側端部は第1流路41の途中の任意箇所に接続され、下流側端部はリザーバ32に接続される。気泡除去部42の内径は、第1流路41の内径よりも大きいことが好ましい。これにより、気泡除去部42内の流速が低下し、第1流路41中の気泡をより確実に除去できる。
第2流路43は、培養槽11とリザーバ32との間に配置される。第2流路43の上流側端部は培養槽11の流出口112に接続され、下流側端部はリザーバ32に接続される。
第3流路44は、リザーバ32とポンプ20との間に配置される。第3流路44の上流側端部はリザーバ32に接続され、下流側端部はポンプ20に接続される。
【0039】
位置検出機器50は、培養槽11における内相102の位置等の浮遊状態を検出する。また、内相102の浮遊状態に応じて、培養槽11に流入及び流出する外相101の流速を自動的に制御する。位置検出機器50は、画像センサ51と、制御部52と、通信部53と、を備える。
【0040】
画像センサ51は、レンズ等の光学部品を通して光を読み取るイメージセンサを備えたカメラ装置であり、撮影した物体の画像をデジタル信号に変換する機能を有する。画像センサ51には、予め培養槽11中における内相102の形状や色彩が登録されており、撮影した画像中における内相102の位置座標データを取得できる。
【0041】
制御部52は、画像センサ51により取得した内相102の位置座標データを元に、通信部53を通じてポンプ20を制御する。例えば、内相102の中心位置が培養槽11の上下方向における中間位置よりも下方である場合、ポンプ20の流速を増加させるような制御を行う。また、内相102の中心位置が培養槽11の上下方向における中間位置よりも上方である場合、ポンプ20の流速を低下させるような制御を行う。制御部52は、上記制御を行うことで、内相102を培養槽11中で一定位置となるように安定して浮遊させることができる。
【0042】
以上説明した浮遊培養装置1を用い、外相101を装置内で流通させ、内相102内で被培養物を浮遊培養する方法は以下の通りである。
ポンプ20を用いて外相101を圧送すると、外相101は矢印132の方向に流れ、第1流路41を通じて培養槽11に流入する。この際、外相101に混入した気泡は、培養槽11に流入する前に気泡除去部42に流入して除去される。なお、気泡除去部42はインキュベータ30内のリザーバ32に通じており、気泡と共に回収された外相101はリザーバ32に流入する。培養槽11の下方に設けられた流入口111から培養槽11に流入した外相101は、重力方向121に逆らって、下方から上方に向けて流動し、培養槽11中の内相102を浮遊させる。外相101は、培養槽11の上方に設けられた流出口112から流出する。培養槽11から流出した外相101は、第2流路43を通じて矢印131の方向に流れ、インキュベータ30内のリザーバ32に流入する。リザーバ32に流入した外相101は、リザーバ32内で所定の条件に保たれ、貯留される。リザーバ32内に貯留された外相101は、第3流路44を通じてポンプ20に供給される。
ポンプ20から培養槽11に流入する外相101の流速は、培養槽11中の内相102の浮遊状態に応じて制御する。これにより、内相102の浮遊状態を維持できる。この際、外相101の流速を、位置検出機器50を用いて制御してもよい。
【0043】
以上説明した第1実施形態に係る浮遊培養装置1及び培養方法によれば、以下の効果が奏される。
浮遊培養装置1を、外相101と、外相101中で浮遊する培養相としての内相102を含む水性二相培養液10と、培養槽11と、浮遊手段と、を備えて構成した。これにより、内相102の浮遊状態を維持でき、十分な厚みを有する3次元組織を培養できる。
【0044】
内相102の浮遊手段を、外相101を培養槽11内で流動させるポンプ20とした。これにより、内相102の浮遊状態を維持できる。
【0045】
培養槽11に流入及び流出する外相101の流速は、培養槽11における内相102の浮遊状態に応じて制御されることとした。これにより、培養槽11における内相102の浮遊状態を安定して維持でき、被培養物の長期培養が可能となる。
【0046】
外相101が流通する流路40を設け、培養槽11から流出した外相101は、インキュベータ30内に配置されたリザーバ32を介し、再び培養槽11に流入するよう、外相101が循環するように構成した。循環機構としてはポンプ20及び流路40を用いた。これにより、培養槽11から流出した外相101を再利用できる。また、リザーバ32を介して外相101が培養槽11に供給されるため、培養槽11内の環境を、インキュベータ30内と同様の環境に維持できる。従って、内相102の浮遊状態と共に、培養環境を維持できる。
【0047】
内相102の浮遊手段を、培養槽11の下方から外相101を流入させ、培養槽11の上方から外相101を流出させるポンプ20とした。これにより、内相102の比重が外相101よりも大きく、内相102が培養槽11内で徐々に沈降する場合において、内相102の浮遊状態を維持できる。
【0048】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る浮遊培養装置1Aは、
図2に示すように、培養液10と、培養槽11Aと、回転機構12と、インキュベータ30と、を有する。
以下、本実施形態の各構成について説明するが、第1実施形態と共通の箇所については記載を省略する場合がある。
【0049】
培養槽11Aは、培養液10を収容する容器であり、インキュベータ30内に配置される。培養槽11Aは、外部からの培養液10の出入りが無く、密閉された容器である。培養槽11Aの形状は特に制限されず、例えば第1実施形態と同様、円筒状や角筒状の形状である。培養槽11Aの材質は、O2やCO2等の気体に対して透過性を有し、培養液10等の液体に対しては非透過性である、ガス透過性樹脂を用いることが好ましい。これにより、培養液10の環境をチャンバ31内と同様にすることができる。
このようなガス透過性樹脂としては、特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、低密度ポリエチレン、低密度ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらのガス透過性樹脂は、厚さが増すとガス透過性が低下する。このため、培養槽11Aの少なくとも一部を厚さの薄いガス透過性樹脂で構成することが好ましい。また、一部を強度確保用に任意の材料で構成してもよい。又は、強度確保用の枠体等の支持体を別途設けてもよい。
【0050】
回転機構12は、インキュベータ30内で培養槽11Aを回転可能に支持する。このような回転機構12の構成としては特に制限されない。例えば、回転機構12に自立可能な脚部を設け、培養槽11Aの両側端部を回転可能に支持してもよいし、インキュベータ30内で培養槽11Aを吊り下げて回転可能に支持してもよい。
回転機構12は、更に、モーター等の駆動装置を備える。回転機構12は、該駆動装置により培養槽11Aを回転できる。
【0051】
以上説明した浮遊培養装置1Aを用い、培養槽11Aを回転させ、内相102内で被培養物を浮遊培養する方法は以下の通りである。
内相102は、外相101との比重差により、例えば外相101中で徐々に沈降する。内相102が培養槽11Aの底面に到達する前に、回転機構12を用い、培養槽11Aを回転させる。これにより、内相102が培養槽11Aの壁面に到達すること無く、内相102の浮遊状態を維持できる。回転機構12の回転数は、内相102の浮遊状態が維持されるように制御される。
【0052】
以上第2実施形態に係る浮遊培養装置1Aによれば、以下の効果が奏される。
浮遊培養装置1Aを、培養槽11Aを回転させる回転機構12を備えて構成した。これにより、培養槽11Aが回転されることで、培養槽11Aにおける内相102の浮遊状態を維持できる。上記構成は、内相102内での撹拌が起こり難いため、細胞同士の接着が促進される。従って十分な厚みを有する3次元組織を培養できるため好ましい。
【0053】
本発明は、上記実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0054】
第1実施形態に係る培養槽11を、下方に外相101の流入口111が形成され、上方に流出口112が形成されるものとして説明したが、この構成に限定されない。内相102の比重が外相101よりも小さく、内相102に働く浮力が重力よりも大きい場合、内相102は培養槽11中で徐々に浮上する。この場合、外相101の流入口を培養槽11の上方に形成し、流出口を培養槽11の下方に形成してもよい。これにより、外相101は培養槽11内で下向きに流動し、内相102に下向きの効力が働く。このような構成によっても、内相102の培養槽11内での浮遊状態を維持できる。
【0055】
上記実施形態において、外相101としてPEG相を用い、培養相である内相102としてDEX相を用いるものとして説明したが、この構成に限定されない。外相101としてDEX相を用い、内相102としてPEG相を用いることもできる。また、PEG相を培養相として用いることもできる。
【0056】
上記実施形態において、内相102中で培養される被培養物を、ヒトを含む哺乳類の細胞として説明したが、この構成に限定されない。内相102中で哺乳類以外の細胞や、大腸菌や緑膿菌等のバクテリアを培養することもできる。
【0057】
第1実施形態に係る浮遊培養装置1を、位置検出機器50を有するものとして説明したが、この構成に限定されない。培養槽11中で流動する外相101の流速は、他の構成により制御されてもよい。
【0058】
第2実施形態に係る浮遊培養装置1Aを、培養液10と、培養槽11Aと、回転機構12と、インキュベータ30と、を有するものとして説明したが、この構成に限定されない。浮遊培養装置1Aは、第1実施形態に係る浮遊培養装置1と同様、位置検出機器50を備えて構成してもよい。
この場合、位置検出機器50は回転機構12と通信可能に構成され、内相102の浮遊状態に応じて回転機構12の回転数が制御されるように構成できる。これにより、内相102の浮遊状態を安定して維持できる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
<培養液の作製(実施例及び比較例)>
溶質としてPEG(分子量35000)とDEX(分子量500000)について、それぞれ培養液を媒体とした溶液(各濃度5重量%および濃度10重量%)を作製し、これらを混合して二相に分離させ、PEG相及びDEX相からなる二相培養液を作製した。
【0061】
<培養条件>
(実施例)
上記作製したDEX相に対し、2.0×106(cells/ml)となるようにマウス線維芽細胞(NIH-3T3)を懸濁させた。次に、上記懸濁させたDEX相のうち10μlを、上記作製したPEG相で満たされた円筒形の培養槽(タイゴンチューブ、内径4mm)中に滴下した。更に、PEG相に対し下方から上方に向かう流れを付与することでDEX相をPEG相中で3時間浮遊させた。流通するPEG相はインキュベータを用い、37℃、5%CO2となるように調整した。
【0062】
(比較例)
上記作製したDEX相に対し、2.0×106(cells/ml)となるようにマウス線維芽細胞(NIH-3T3)を懸濁させた。次に、上記懸濁させたDEX相のうち10μlを、上記作製したPEG相で満たされたディッシュに滴下し、インキュベータ(37℃、5%CO2)内に3時間静置した。
【0063】
[共焦点顕微鏡撮像による厚み評価]
上記条件で培養した実施例及び比較例のDEX相中に内在する細胞塊のうち、DEX相の中央部付近に存在する細胞塊を任意にそれぞれ5個選択し、共焦点顕微鏡を用いて撮像した。
図3は実施例の培養方法で培養した細胞塊を撮像したZスタック画像であり(128Slice、1μm/Slice)同様に
図4は比較例の細胞塊を撮像したZスタック画像である(30Slice、1μm/Slice)。詳しくは、
図3(A)、
図4(A)は、細胞塊をZ軸方向からそれぞれ撮像した画像であり、
図3(B)、
図4(B)はX軸方向、
図3(C)、
図4(C)はY軸方向からそれぞれ細胞塊のZ軸方向の厚みを撮影したZスタック画像である。
上記撮像した画像を分析した結果、実施例の細胞塊のZ軸方向の大きさの平均値は78.8μm(N=5)であった。また、比較例の細胞塊のZ軸方向の大きさの最大値は12μm(N=5)であった。
【0064】
図3及び
図4に示す通り、実施例に係る培養方法で培養した細胞塊は、比較例に係る培養方法で培養した細胞塊よりもZ軸方向の大きさが大きく、3次元的な組織が形成されていることが確認された。
【0065】
[Propidium Iodide(PI)による死細胞の染色]
実施例に係る培養方法で培養した細胞塊に対し、ヨウ化プロピジウム(Propidium Iodide;PI)を用いて死細胞を染色し、顕微鏡を用いて撮像した。
図5(A)は明視野像であり、
図5(B)はPIにより死細胞を染色した蛍光画像である。
図5(B)中の点線部は、明視野像における細胞塊の位置に対応する箇所を示す。
【0066】
図5に示す通り、実施例に係る培養方法で培養した細胞塊をPIで染色したところ、大部分で蛍光染色が確認されず、実施例に係る培養方法で培養した細胞塊の大半が生細胞であることが確認された。
【符号の説明】
【0067】
1、1A 浮遊培養装置、10 水性二相培養液(培養液)、101 外相(ポリエチレングリコール相)、102 内相(デキストラン相)、11、11A 培養槽、12 回転機構(浮遊手段)、20 ポンプ(浮遊手段)