(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】イオンガン及びイオンビームスパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
H01J 27/16 20060101AFI20240515BHJP
C23C 14/46 20060101ALI20240515BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20240515BHJP
H05H 1/46 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
H01J27/16
C23C14/46 B
H01J37/08
H05H1/46 L
(21)【出願番号】P 2020100703
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019132483
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519261725
【氏名又は名称】株式会社IIPT
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】花園 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】潟岡 泉
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-335447(JP,A)
【文献】特開平10-317138(JP,A)
【文献】特開2001-107234(JP,A)
【文献】特開2006-344527(JP,A)
【文献】特開2012-038568(JP,A)
【文献】特開2017-091826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/16
H01J 37/08
C23C 14/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生させるチャンバを有するイオンガン本体と、
前記イオンガン本体の前記チャンバの出口と対向する位置に配置されて正電圧に保持されるスクリーングリッドと、前記スクリーングリッドと間隔を開けて対向する位置に配置されて負電位に保持されるアクセルグリッドと、前記アクセルグリッドと間隔を開けて対向する位置に配置されてアース準位に保持されるディセラレートグリッドとを含むイオン引き出しグリッド群と、
前記ディセラレートグリッドと並んで配置され、ターゲットと対向する防着用グリッドとを有するイオンガンであって、
前記防着用グリッドには、前記ディセラレートグリッドに形成された前記イオンを通過させる複数のイオン通過孔と整合する位置に形成され、前記イオンが通過する複数のイオン通過孔が形成されており、
前記防着用グリッドと前記ディセラレートグリッドが同電位であることを特徴とするイオンガン。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンガンを備えたイオンビームスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンガン及びイオンビームスパッタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のイオンガンの概略図(断面図)を
図5に示す。イオンガンIGは、グリッドG1乃至G3からなるイオン引き出しグリッド群EGと、イオンガン本体MBから構成されている。
【0003】
グリッドG1乃至G3は、多数の細孔が開けられている。それぞれの細孔は最表面のグリッド上の細孔とグリッド面上の位置がそろって開けられていて、これらのグリッドで加速されるイオンがグリッドの細孔に妨げられることが無く通過できるように加工されている。
【0004】
イオンガン本体MBは、RF(高周波)コイル5と、放電チャンバ7とを備えている。RFコイル5は、マッチングボックス9と電気的に接続され、マッチングボックス9は、RF電源11と電気的に接続されている。放電チャンバ7は、通常、石英等の絶縁物で出来ている。マッチングボックス9は、放電チャンバ7内のプラズマとのインピーダンスの整合を取る役割を果たす。
【0005】
グリッドG1,G2は、直流の高圧電源13,15に接続されている。通常、高圧電源13は、プラスの電圧、高圧電源15は、マイナスの電圧を発生する。
【0006】
放電チャンバ7にAr(アルゴン)ガスを導入し、RF電源11により発生させた高周波電力をマッチングボックス9を介してRFコイル5に給電する。給電されたRF電力により放電チャンバ7内にArガスのプラズマが発生する。この時、グリッドG1(スクリーングリッドと呼ばれる)にはプラスの高電圧が印加され、グリッドG2(アクセルグリッドと呼ばれる)にはマイナスの高電圧が印加される。またグリッドG3(ディセラレートグリッドと呼ばれる)はグランドに接続される。プラズマに発生したArイオンはプラスに帯電しているので、これら3枚のグリッドで形成される電場により加速され、模式的に図示したように、イオンガンIGより空間に放出される。
【0007】
イオン引き出しグリッド群に含まれるグリッドの枚数は、用途等によって異なり、2枚のこともある。特許第5675099号公報(特許文献1)には、イオン引き出しグリッド群が、4枚のグリッド(グリッド16,17,18,19)からなるイオンガンの例が示されている。
【0008】
次に
図6に示したイオンビームスパッタリング装置IBSを用いて成膜が行われる過程を説明する。イオンビームスパッタリング装置IBSは、イオンガンIGと、ターゲット部19と、真空チャンバ21と、真空ポンプ23と、基板ホルダ25と、ニュートライザ27から構成されている。
【0009】
ターゲット部19は、第1のターゲット19Aと第2のターゲット19Bの異なる物質が両面に取り付けられている。回転軸20を中心にして回転することにより、第1のターゲット19Aと第2のターゲット19Bを回転させることができる。
【0010】
ニュートライザ27は、成膜物質が絶縁体の場合、成膜物質が帯電し、イオンがターゲット表面で減速されるのを防ぐ効果がある。
【0011】
イオンガンIGの内部で発生させられたArイオンはイオン引き出しグリッド群EGにより加速され、ターゲット部19に照射される。ターゲット部19に照射されたArイオンはターゲット物質(第1のターゲット19Aまたは第2のターゲット19B)をスパッタし、ターゲット物質は粒子として真空チャンバ21内に飛散する。
【0012】
飛散したターゲット物質は、基板ホルダ25上に配置された基板Sの表面に堆積し薄膜を形成する。光学フィルタの様に異なる光学特性を持つ薄膜を交互に形成し所望の光学特性を得ようとする場合は、第1のターゲット19Aと第2のターゲット19Bを回転軸20の周りに回転させ交互に薄膜を形成する。
【0013】
この時、飛散したターゲット物質は基板Sと同時にイオン引き出しグリッド群EGの最前段(最表面)のグリッド(
図5に示した例では、グリッドG3)上に堆積する。積層数が少ない積層膜を製造する場合には大きな問題とはならないが、200層を超えるような高多層積層膜(以下、「高多層積層膜」)を製造するために長時間(例えば、数日間)連続してスパッタリングを行うと、堆積物によって生じる応力によって、最前段のグリッドに時間の経過と共に歪みが生じてしまう。グリッドが歪むと、イオン引き出しグリッド群の電界に変化が生じ、スパッタリングによって製造する積層膜の歩留まり率が低くなってしまうことがわかった。
【0014】
そこで、最前段のグリッドにターゲット物質が付着することを防ぐ目的で、最前段のグリッドと並んで配置する防着用グリッドを設けることが考えられる(例えば、特開平10-317138号公報(特許文献2)のフェイスプレート123)。
【0015】
特許文献2に記載のフェイスプレート123は、イオン引き出しグリッド群の最前段のグリッドに形成された複数のイオン通過孔を囲う開口部を有した絶縁物質からなるリング状のプレート部材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特許第5675099号公報
【文献】特開平10-317138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献2に記載の防着用グリッド(フェイスプレート123)は、イオン引き出しグリッド群の周縁部近傍に配置されている電気的接触部にターゲット物質が付着して絶縁不良を生じないようにするためのものであり、複数のイオン通過孔を囲う開口部を有している。そのため、ターゲット物質は、防着用グリッド(フェイスプレート123)だけでなく、開口部を通って、最前段のグリッドにも堆積してしまう。したがって、特許文献2に記載の防着用グリッド(フェイスプレート123)を用いても、高多層積層膜を製造する際の上述の課題を解決することはできない。
【0018】
本発明の目的は、イオン引き出しグリッド群の最前段のグリッドにターゲット物質が堆積することがないイオンガン、及び、該イオンガンを備えたイオンビームスパッタリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、プラズマを発生させるチャンバを有するイオンガン本体と、チャンバからイオンを引き出すために複数枚のグリッドが間隔をあけて配置されてなるイオン引き出しグリッド群と、イオン引き出しグリッド群に含まれる複数枚のグリッドのうち、イオンを放射する最前段のグリッドと並んで配置され、ターゲットと対向する防着用グリッドとを有するイオンガンを改良の対象としている。
【0020】
本発明のイオンガンは、防着用グリッドには、最前段のグリッドに形成されたイオンを通過させる複数のイオン通過孔と整合する位置に形成され、イオンが通過する複数のイオン通過孔が形成されており、防着用グリッドと最前段のグリッドが同電位である。防着用グリッドと最前段のグリッドが同電位であるため、防着用グリッドにターゲットよりスパッタされたターゲット物質が堆積して同物質とグリッドとの間に発生する応力で防着用グリッドが変形しても、2枚のグリッド間の電界分布は変化しない。すなわち、
図5に示した従来の例では、グリッドG3(ディセラレートグリッド)の変形によりグリッドG2(アクセルグリッド)との間の電界の空間分布が変化し、結果としてグリッド全体で加速減速されるイオンの分布が経時的に変化していたが、本発明のイオンガンでは、グリッドG3に相当するグリッド(最前段のグリッド)の変形が、同電位のグリッド(防着用グリッド)により防がれる。そのため、本発明のイオンガンを設置したイオンビームスパッタリング装置は、成膜中のグリッドの変形による膜厚分布の経時変化を防ぐことが出来る。結果として、積層品質及び歩留まり(生産した製品の全数量の中に占める所定の性能を発揮する良品の比率)を向上させることができる。
【0021】
なお、本発明における「同電位」は、電位が完全に一致する場合のみならず、本発明の効果を奏する範囲での電位差がある場合も含む概念である。
【0022】
防着用グリッドと最前段グリッドの電位は、同電位であればよいため、電圧が印加されていてもよいが、アース準位であることが好ましい。
【0023】
防着用グリッドと最前段のグリッドの間の間隔は、防着用グリッドの変形の影響を最前段グリッドが受けないように定められていることが好ましい。
【0024】
本発明のイオンガンは、具体的には、プラズマを発生させるチャンバを有するイオンガン本体と、イオンガン本体のチャンバの出口と対向する位置に配置されて正電圧に保持されるスクリーングリッドと、スクリーングリッドと間隔を開けて対向する位置に配置されて負電位に保持されるアクセルグリッドと、アクセルグリッドと間隔を開けて対向する位置に配置されてアース準位に保持されるディセラレートグリッドとを含むイオン引き出しグリッド群と、ディセラレートグリッドと並んで配置され、ターゲットと対向する防着用グリッドとを有するイオンガンであって、防着用グリッドには、ディセラレートグリッドに形成されたイオンを通過させる複数のイオン通過孔と整合する位置に形成され、イオンが通過する複数のイオン通過孔が形成されており、防着用グリッドとディセラレートグリッドが同電位であると特定することもできる。
【0025】
防着用グリッドとディセラレートグリッドの間の間隔は、防着用グリッドの変形の影響をディセラレートグリッドが受けないように定められてことが好ましい。
【0026】
本発明は、上述のイオンガンを備えたイオンビームスパッタリング装置としても捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施の形態のイオンガンの概略図(断面図)である。
【
図2】グリッド群に含まれるグリッドの正面図である。
【
図3】本実施の形態のイオンガンを備えたイオンビームスパッタリング装置の概略図(断面図)である。
【
図4】本実施の形態のイオンガンを備えたイオンビームスパッタリング装置の概略図(断面図)である。
【
図5】従来のイオンガンの概略図(断面図)である。
【
図6】従来のイオンビームスパッタリング装置の概略図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明のイオンガン及びイオンビームスパッタリング装置の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態のイオンガンの概略図(断面図)であり、
図2は、グリッド群に含まれるグリッドの正面図である。
【0029】
<イオンガン>
本実施の形態のイオンガンIGは、グリッド群Gと、イオンガン本体MBから構成されている。
【0030】
イオンガン本体MBは、RF(高周波)コイル5と、放電チャンバ7とを備えている。RFコイル5は、マッチングボックス9と電気的に接続され、マッチングボックス9は、RF電源11と電気的に接続されている。放電チャンバ7は、通常、石英等の絶縁物で出来ている。マッチングボックス9は、放電チャンバ7内のプラズマとのインピーダンスの整合を取る役割を果たす。
【0031】
グリッド群Gは、イオン引き出しグリッド群EGと、防着用グリッドG4からなる。イオン引き出しグリッド群EGは、イオンガン本体MBの放電チャンバ7の出口と対向する位置に配置されて正電圧に保持されるスクリーングリッドG1(グリッドG1)と、スクリーングリッドG1と間隔を開けて対向する位置に配置されて負電位に保持されるアクセルグリッドG2(グリッドG2)と、アクセルグリッドG2と間隔を開けて対向する位置に配置されてアース準位に保持されるディセラレートグリッドG3(グリッドG3)とからなる。防着用グリッドG4は、ディセラレートグリッドG3と間隔をあけて対向する位置に配置されてアース準位に保持される。本実施の形態では、ディセラレートグリッドG3と防着用グリッドG4は同電位になるように結線若しくは接合されている。本実施の形態では、グリッドG1乃至G4は、モリブデン製であるが、これに限らず、用途等に応じて、導電性のある他の材料からなっていてもよい。
【0032】
スクリーングリッドG1は高圧電源13と接続されることで正電位に保持されている。アクセルグリッドG2は高圧電源15と接続されることで負電位に保持されている。本実施の形態の例では、高圧電源13は1250Vに保持され、高圧電源15は-250Vに保持されている。ディセラレートグリッドG3及び防着用グリッドG4は同電位(完全に一致する場合のみならず、本発明の効果を奏する範囲での電位差を含む)になるように接続されている。本実施の形態では、ディセラレートグリッドG3と防着用グリッドG4は、グランド(アース準位)(0V)に接続されている。
【0033】
図2は、グリッド群Gに含まれるグリッドG1乃至G4の正面図である。本実施の形態では、グリッドG1乃至G4は、同形・同大のものである。グリッドG1乃至G4には、多数の細孔であるイオン通過孔Hが開けられている。イオン通過孔Hのそれぞれは最表面のグリッドG4上のイオン通過孔HとグリッドG1乃至G3面上の位置がそろって開けられていて、これらのグリッドで加速されるイオンがグリッドG1乃至G4のイオン通過孔Hに妨げられることが無く通過できるように加工されている。グリッドの直径寸法D1、イオン通過孔Hの密集部の直径寸法D2、イオン通過孔Hの孔径寸法D3、及び、各グリッドの厚み寸法は、用途等に応じて任意に変更可能であり、例えば、D1は28cm~30cm程度、D2は16cm~18cm程度、D3は1mm~2mm程度、各グリッドの厚み寸法は0.4mm~0.5mm程度である。各グリッドは、0.5mm~2mm程度の所定の間隔をあけて配置されている。防着用グリッドG4とディセラレートグリッドG3の間の間隔は、防着用グリッドG4の変形の影響をディセラレートグリッドG3が受けないようにするための距離にもなっている。
【0034】
イオン通過孔Hの孔径寸法D3は、必ずしも同径である必要はなく、加速されたイオンのエッチング効果により孔の内径が変化を起こす現象が生じるため、同現象を配慮してそれぞれのグリッドのイオン通過孔Hの孔径寸法を調整してもよい。また、ターゲット(第1のターゲット19A及び第2のターゲット19B)からスパッタされる原子が防着用グリッドG4のイオン通過孔を通過してグリッドG3~G1のイオン通過孔H周辺に堆積するのを軽減するように、各グリッドのイオン通過孔Hの孔径寸法を調整してもよい。
【0035】
グリッドG1乃至G4は、剛性を向上させるために同心円状に加工し断面が波型になる等の様々な工夫をしても良い。また剛性の高い材料で構成する等の工夫が有っても良い。また特に変形が予測される部分には補強を施しても良い。
【0036】
イオンを発生させる際には、放電チャンバ7内にArガス(Arガスは一例であり、用途等に応じて、他のガスでもよいのはもちろんである)を導入し、RFコイル5で高周波電力を給電する。給電されたRF電力により、放電チャンバ7内にArガスのプラズマが発生する。プラズマ中に発生したArイオンはプラスに帯電しているので、
図1に模式的に図示したように、Arイオンはイオン引き出しグリッド群EGで形成される電場により加速され空間に放出される。
【0037】
<イオンビームスパッタリング装置>
図3は、本実施の形態のイオンガンIGをイオンビームスパッタリング装置IBSに適用した例を示すものである。イオンビームスパッタリング装置IBSは、イオンガンIGと、ターゲット部19と、真空チャンバ21と、真空ポンプ23と、基板ホルダ25と、ニュートライザ27から構成されている。
【0038】
ターゲット部19には、第1のターゲット19Aと第2のターゲット19Bの異なる物質が両面に取り付けられている。ターゲット部19は、回転軸20を中心にして回転し、第1のターゲット19Aと第2のターゲット19Bを回転させることができる。
【0039】
ニュートライザ27は、成膜物質が絶縁体の場合、成膜物質が帯電しイオンがターゲット表面で減速されるのを防ぐ効果がある。
【0040】
イオンガンIGの内部で発生させられたArイオンはイオン引き出しグリッド群EGにより加速され、防着用グリッドG4を通過して、ターゲット部19に照射される。ターゲット部19に照射されたArイオンはターゲット物質(第1のターゲット19Aまたは第2のターゲット19B)をスパッタし、ターゲット物質は粒子として真空チャンバ21内に飛散する。
【0041】
飛散したターゲット物質は、基板ホルダ25上に配置された基板Sの表面に堆積し薄膜を形成する。光学フィルタの様に異なる光学特性を持つ薄膜を交互に形成し所望の光学特性を得ようとする場合は、第1のターゲット19Aと第2のターゲット19Bを回転軸20の周りに回転させ交互に薄膜を形成する。ターゲット物質は用途によって任意に選択可能であるが、例えば、第1のターゲット19Aとしては二酸化ケイ素(SiO2)、第2のターゲット19Bとしては五酸化タンタル(Ta205)の組み合わせを採用可能である。これにより、基板S上に二酸化ケイ素(SiO2)と五酸化タンタル(Ta205)が積層された高多層積層膜が得られる。この際、真空チャンバ21に酸素ガスを導入し、同酸化膜の化学量論値を改善する事も可能である。
【0042】
飛散したターゲット物質は基板S上に堆積するのと同時に防着用グリッドG4上にも堆積する。200層を超えるような高多層積層膜を製造するために長時間(例えば、数日間)連続してスパッタリングを行うと、堆積物によって生じる応力によって、防着用グリッドG4に時間の経過と共に歪みが生じるが、ディセラレートグリッドG3とアクセルグリッドG2の間の電界分布は変化しない。すなわち、防着用グリッドG4にターゲット物質が堆積し、ディセラレートグリッドG3にはターゲット物質が実質的に堆積しないため、ディセラレートグリッドG3とアクセルグリッドG2の間の電界の空間分布が変化することがない。そのため、本発明のイオンガンIGを設置したイオンビームスパッタリング装置IBSは、成膜中のグリッドの変形による膜厚分布の経時変化を防ぐことが出来る。
【0043】
図4は、アシストイオンガンAIGを備えているイオンビームスパッタリング装置IBSを示す実施の形態である。この例のイオンビームスパッタリング装置IBSは、アシストイオンガンAIGを備えていること、また、第1のターゲット19Aがシリコン(Si)、第2のターゲット19Bがタンタル(Ta)の組み合わせであること以外は、上記例と同様のものであるため、同じ符号を付して説明を省略する。アシストイオンガンAIGは、イオンガンIGと同様の構成で、放電チャンバ7内に導入される酸素(O
2)ガスに基づいて酸素イオンを空間に放出するものである。
【0044】
イオンガンIGによって第1のターゲット19A(シリコン(Si))、第2のターゲット19B(タンタル(Ta))がスパッタされる際に、アシストイオンガンAIGは真空チャンバ21内に酸素イオンを放出する。これにより、スパッタされたシリコン(Si)とタンタル(Ta)が酸化され、上記例と同様に、基板S上に二酸化ケイ素(SiO2)と五酸化タンタル(Ta205)が積層された高多層積層膜が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、イオン引き出しグリッド群の最前段のグリッドにターゲット物質が堆積することがないイオンガン、及び、該イオンガンを備えたイオンビームスパッタリング装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
G グリッド群
EG イオン引き出しグリッド群
G1 スクリーングリッド
G2 アクセルグリッド
G3 ディセラレートグリッド
G4 防着用グリッド
H イオン通過孔
IG イオンガン
MB イオンガン本体
5 RFコイル
7 放電チャンバ
9 マッチングボックス
11 RF電源
13,15 高圧電源
19 ターゲット部
19A 第1のターゲット
19B 第2のターゲット
20 回転軸
21 真空チャンバ
23 真空ポンプ
25 基板ホルダ
27 ニュートライザ
AIG アシストイオンガン