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特許7488556細菌の腸内における数を調整するための剤、腸内代謝物質量調整剤、及び便通改善剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】細菌の腸内における数を調整するための剤、腸内代謝物質量調整剤、及び便通改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/644 20150101AFI20240515BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240515BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240515BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20240515BHJP
【FI】
A61K35/644
A61P1/00
A61P43/00 101
A23L33/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020102998
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021195334
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(72)【発明者】
【氏名】工藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢章
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-295328(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101439051(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101120751(CN,A)
【文献】Biomed. Pharmacother.,2019年,118,Article.109393,<DOI:10.1016/j.biopha.2019.109393>
【文献】Nutrients,9, [8],2017年,Article.875,<DOI:10.3390/nu9080875>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/644
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロポリスを有効成分として含有する、カテニバクテリウム属、サブドリグラヌルム属、Family XIII AD3011 group属、及びアナエロツルンカス属からなる群より選択される少なくとも一種の科又は属に属する細菌の腸内における数を減少させるための剤。
【請求項2】
プロポリスを有効成分として含有する、腸内代謝物質を増加させるための剤であって、前記腸内代謝物質が、ポリアミン、イミダゾールジペプチド、メラトニン、プロスタグランジンE2、ジベレリン酸、N -スクシニルオルニチン、シスチン、アルギニン、アロトレオニン、ジメチルアルギニン、シス-4-ヒドロキシプロリン、N-アセチルグルコサミン1-リン酸、イノシン、5-アミノ-4-オキソペンタン酸、ニコチンアミドモノヌクレオチド、アデニル酸、ピリドキサミン5’-リン酸、6,8-チオクト酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、2-イソプロピルリンゴ酸、p-ヒドロキシマンデル酸、3-グアニジノプロピオン酸、グルクロン酸-1/ガラクツロン酸-1、及びグルクロン酸-3/ガラクツロン酸-3からなる群より選択される少なくとも一種である、剤。
【請求項3】
プロポリスを有効成分として含有する、腸内代謝物質を減少させるための剤であって、前記腸内代謝物質がピペコリン酸である、剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の腸内における数を調整するための剤、腸内代謝物質量調整剤、及び便通改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢の構成等により判断される腸内環境は、様々な健康状態に影響することが知られており、腸内環境を良好に維持することは重要である。そのため、腸内環境を改善するための素材が求められ、検討されている。例えば、特許文献1には、寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする組成物が、腸内細菌叢の構成を肥満型から正常型又は痩せ型へ変化させること、及び生体に有益な細菌の存在割合を増加させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-163980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、腸内環境を好適に調整することが可能な剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、プロポリスを有効成分として含有する、ルミノコッカス科、カテニバクテリウム属、サブドリグラヌルム属、Family XIII AD3011 group属、及びアナエロツルンカス属からなる群より選択される少なくとも一種の科又は属に属する細菌の腸内における数を調整するための剤を提供する。
【0006】
本発明の他の一側面は、プロポリスを有効成分として含有する、腸内代謝物質量調整剤を提供する。
【0007】
腸内代謝物質量調整剤は、腸内代謝物質を増加させるための剤であってよい。この場合、腸内代謝物質は、ポリアミン、イミダゾールジペプチド、メラトニン、プロスタグランジンE2、ジベレリン酸、N-スクシニルオルニチン、シスチン、アルギニン、アロトレオニン、ジメチルアルギニン、シス-4-ヒドロキシプロリン、N-アセチルグルコサミン1-リン酸、イノシン、5-アミノ-4-オキソペンタン酸、ニコチンアミドモノヌクレオチド、アデニル酸、ピリドキサミン5’-リン酸、6,8-チオクト酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、2-イソプロピルリンゴ酸、p-ヒドロキシマンデル酸、3-グアニジノプロピオン酸、グルクロン酸-1/ガラクツロン酸-1、及びグルクロン酸-3/ガラクツロン酸-3からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0008】
腸内代謝物質量調整剤は、腸内代謝物質を減少させるための剤であってもよい。この場合、腸内代謝物質はピペコリン酸であってよい。
【0009】
本発明の他の一側面は、プロポリス及びローヤルゼリーからなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、便通改善剤を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、腸内環境を好適に調整することが可能な剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1プロポリス摂取前後の腸内細菌(カテニバクテリウム属、サブドリグラヌルム属、Family XIII AD3011 group属、アナエロツルンカス属)の腸内における相対存在比を2群間比較解析した結果である。
図2プロポリス摂取前後の腸内細菌(ルミノコッカス科)の腸内における相対存在比を2群間比較解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の一実施形態は、特定の属に属する腸内細菌の腸内における数を調整するための剤に関する。より具体的には、本発明の一実施形態は、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、カテニバクテリウム属(Catenibacterium)、サブドリグラヌルム属(Subdoligranulum)、Family XIII AD3011 group属、及びアナエロツルンカス属(Anaerotruncus)からなる群より選択される少なくとも一種の科又は属に属する細菌の腸内における数を調整するための剤に関する。上記の細菌の腸内における数を調整することには、これらの細菌の腸内における数を増加させること、又は減少させることが含まれる。また、上記の細菌の腸内における数を調整することには、腸内細菌叢においてこれらの細菌の存在比率が増加又は減少することも含まれる。以下、便宜上、この剤を「腸内細菌数調整剤」とも呼ぶ。
【0014】
ルミノコッカス科に属する細菌の属及び種は、特に限定されるものではない。これらの細菌は、腸内に常在菌として存在する種であることができる。ルミノコッカス科に属する細菌の属としては、ルミノコッカス UCG-002(Ruminococcus UCG-002)属、ルミノコッカス UCG-003(Ruminococcus UCG-003)属、ルミノコッカス NK4A214(Ruminococcus NK4a214)属、ルミノコッカス UCG-005(Ruminococcus UCG-005)属等が挙げられる。ルミノコッカス科に属する細菌の種としては、ルミノコッカス・ブローミイ(Ruminococcaceae bromiii)、ルミノコッカス・アルバス(Ruminococcaceae albus)、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)、ルミノコッカス・オベウム(Ruminococcus obeum)、ルミノコッカス・ラクタリス(Ruminococcus lactaris)等が挙げられる。
【0015】
上述した属に属する細菌の種は、特に限定されるものではない。これらの細菌は、腸内に常在菌として存在する種であることができる。例えば、カテニバクテリウム属に属する細菌としては、カテニバクテリウム・ミオツカイ(Catenibacterium mitsuokai)等が挙げられる。サブドリグラヌルム属に属する細菌としては、サブドリグラヌルム・バリアビレ(Subdoligranulum variabile)等が挙げられる。アナエロツルンカス属に属する細菌としては、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)等が挙げられる。
【0016】
本発明の他の一実施形態は、腸内代謝物質量調整剤に関する。本明細書において、腸内代謝物質とは、腸内細菌が産生する代謝物質をいい、腸内代謝物質量調整剤とは、腸内代謝物質の量を腸内において増加又は減少させる剤をいう。
【0017】
一実施形態において、腸内代謝物質量調整剤は、腸内代謝物質を増加させるための剤である。すなわち、本発明の一実施形態は、腸内代謝物質量増加剤を提供するということができる。この場合、腸内代謝物質は、ポリアミン、イミダゾールジペプチド、メラトニン、プロスタグランジンE2、ジベレリン酸、N-スクシニルオルニチン、シスチン、アルギニン、アロトレオニン、ジメチルアルギニン、シス-4-ヒドロキシプロリン、N-アセチルグルコサミン1-リン酸、イノシン、5-アミノ-4-オキソペンタン酸、ニコチンアミドモノヌクレオチド、アデニル酸、ピリドキサミン5’-リン酸、6,8-チオクト酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、2-イソプロピルリンゴ酸、p-ヒドロキシマンデル酸、3-グアニジノプロピオン酸、グルクロン酸-1/ガラクツロン酸-1、及びグルクロン酸-3/ガラクツロン酸-3からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0018】
ポリアミンは、N-アセチルスペルミジン、スペルミジン、スペルミン、プトレシンからなる群より選択される少なくとも一種であってよい。イミダゾールジペプチドは、ホモカルノシン、アンセリン、カルノシン、バレニンからなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0019】
他の一実施形態において、腸内代謝物質量調整剤は、腸内代謝物質を減少させるための剤である。すなわち、本発明の一実施形態は、腸内代謝物質量減少剤を提供するということができる。この場合、腸内代謝物質は、ピペコリン酸であってよい。
【0020】
一実施形態に係る、腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤は、プロポリスを有効成分として含有する。
【0021】
プロポリスは、例えば、常法に従い養蜂産品として入手することができる。プロポリスは、アレクリン由来、ユーカリ由来、ポプラ由来、クルシア属植物由来等、いずれの植物由来であってもよい。生理活性の高さの観点から、アレクリン由来のプロポリスが好ましい。アレクリンはキク科バッカリス属のバッカリス・ドゥラクンクリフォリアである。
【0022】
プロポリスは、例えば、日本産、ブラジル産、中国産、ヨーロッパ諸国産、オセアニア産、アメリカ産等であってよい。ブラジル産プロポリスは、主にアレクリンを由来とする。中国産プロポリスはケルセチン等のフラボノイド含有量が高いのに対し、ブラジル産プロポリスは桂皮酸誘導体含有量が高いなど、両者は大きく異なる組成を有する。本実施形態に係る腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤は、好ましくはブラジル産プロポリスを有効成分として含有する。
【0023】
プロポリスは、ブラウン、レッド、イエロー、グリーン、スーパーグリーン、ウルトラグリーン等のいずれのランクであってもよく、これらの中でもグリーン、スーパーグリーン又はウルトラグリーンランクのプロポリスが好ましい。これらのランクはプロポリス中のアルテピリンC含有量によって定められる。アルテピリンCが3質量%以上であるものをグリーンプロポリスと称する。プロポリス中のアルテピリンC含有量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上である。
【0024】
プロポリスとしては、ミツバチ科ミツバチ属に属する蜂由来のものであることが好ましく、ミツバチ属の中でもセイヨウミツバチ由来のものであることが好ましい。セイヨウミツバチには、24~28の亜種があるとされており、いずれの亜種由来のプロポリスを用いてもよい。特に、セイヨウミツバチの亜種の1つであるアフリカミツバチ(A.mellifera scutellata)と他のセイヨウミツバチのヨーロッパ産亜種との交雑種であるアフリカ蜂化ミツバチ由来のプロポリスを用いることが好ましい。
【0025】
プロポリスは、例えば、プロポリス原塊であってもよく、プロポリス原塊に何らかの処理を施したプロポリス処理物であってもよい。プロポリス処理物は、例えば、プロポリス原塊に、粉砕、抽出、抽出物の濃縮又は粉末化、粉末の造粒等の処理が施されたものであってよく、抽出後に残る抽出残渣であってもよい。すなわちプロポリス処理物は、例えば、プロポリスの粉砕物、抽出物、濃縮抽出物、抽出物粉末、抽出物顆粒、抽出残渣等であってよい。抽出は、例えば、水抽出、親水性有機溶媒抽出、超臨界抽出等であってよい。親水性有機溶媒としては、例えばエタノール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール等が挙げられる。プロポリス抽出物は、プロポリス原塊から抽出して得られたものであってもよく、抽出後の残渣から更に抽出して得られたものであってもよい。処理方法は1つであってよく、2つ以上を組み合わせてもよい。プロポリス処理物としては、プロポリス親水性有機溶媒抽出物が、短時間で効率的にバランスよくプロポリスの有効成分が抽出されたものであるため好ましい。プロポリス処理物は、好ましくはプロポリスエタノール抽出物である。
【0026】
プロポリスとしては、市販品を用いてもよい。プロポリスを含む市販品は、例えば、山田養蜂場社のプロポリス300、プロポリス液30(ブラジル産)、プロポリス粒、プロポリス顆粒APC、プロポリスマイルド、プロポリスドリンク、森川健康堂社のネオプロポリス粒、プロポリス粒、プロポリス液、プロポリスマイルド液、ユーカリポリス、ラベイユ社のラベイユプロポリス(液タイプ)、ラベイユプロポリス(カプセルタイプ)、ラベイユプロポリスはちみつ等が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係る腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤には、上述したプロポリスを1種のみの形態で用いてもよく、2種以上の形態を組み合わせて用いてもよい。腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤中のプロポリスの含有量は、腸内細菌数調整剤全量又は腸内代謝物質量調整剤全量に対して、例えば固形分で0.002質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、17質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上であってもよく、100質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、18質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.005質量%以下であってもよい。
【0028】
本実施形態に係る腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤は、有効成分であるプロポリスのみを含有するものであってもよく、本発明による効果を妨げない限り、他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される成分(例えば、賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤)、食品として許容される成分(例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤)を挙げることができる。
【0029】
本実施形態に係る腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよく、錠剤(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤等を含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液若しくは電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)等の剤形であってもよい。これらの各種製剤は、例えば、上述の方法により得られた腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤と、必要に応じて他の成分とを混合して上記剤形に成形することによって調製することができる。
【0030】
本実施形態に係る腸内細菌数調整剤は、ルミノコッカス科、カテニバクテリウム属、サブドリグラヌルム属、Family XIII AD3011 group属、及びアナエロツルンカス属からなる群より選択される少なくとも一種の属に属する細菌の数を腸内において調整する(例えば増加又は減少させる)剤である。このうち、ルミノコッカス科については、一般的に良性な腸内細菌と考えられている(Bajaj et al., 2014; Fukui, 2019)。カテニバクテリウム属は、子宮内膜癌、多嚢胞性卵巣症候群及び末期の腎疾患の患者の腸内で多いことが報告されている(Walther-Antonio et al., 2016; Insenser et al.,2018; Vaziri et al.,2013)。サブドリグラヌルム属の腸内における相対存在比は、1型糖尿病患者における内毒血症又は炎症マーカーと正の相関があることが報告されている(de Groot et al., 2017)。
【0031】
上記の観点から、本実施形態に係る腸内細菌数調整剤は、腸内環境を良好にし、種々の疾病を予防又は改善することができる。すなわち、本発明の一実施形態は、上記の腸内細菌の腸内における細菌数を調整して、腸内環境を好適に調整するための剤を提供するということができる。この腸内細菌数調整剤は、例えば、上述した細菌の数を腸内において減少させることにより、子宮内膜癌の予防又は改善、多嚢胞性卵巣症候群の予防又は改善、腎疾患の予防又は改善、1型糖尿病における内毒血症又は炎症マーカーの予防又は改善等の用途に用いることができる。すなわち、本発明の一実施形態は、これらの用途に用いるための剤を提供するということもできる。
【0032】
本実施形態に係る腸内代謝物質量調整剤は、腸内における代謝物質の量を増加又は減少させるための剤である。腸内代謝物質量調整剤により増加する腸内代謝物質のうち、ポリアミンは、動脈硬化等の予防作用、炎症又はオートファジー誘導作用など、健康増進に寄与する可能性が注目されている。また、ポリアミンは、バイオフィルム形成を通じて大腸がんの増悪化に寄与するとの報告もある(Eisenberg et al., 2016; Eisenberg et al., 2009; Johnson et al., 2015)。イミダゾールジペプチドは、脊椎動物の筋肉等に豊富に含まれ、特にホモカルノシンは脳で産生される。生理活性としては、抗酸化作用、抗糖化作用、抗疲労作用などを有すると考えられている。さらに、高血糖による最終糖化産物の生成抑制、アルツハイマー型認知症予防、局所脳虚血における神経保護といった機能を示唆する動物実験の結果が報告されている(Kaneko et al., 2017; Lee et al., 2005; Rajanikant et al., 2007; 中間報告3)。
【0033】
メラトニンは、睡眠及び概日リズムを整える機能がよく知られているが、腸炎の抑制など腸や腸内環境における機能に関する報告がいくつかある(Ma et al., 2019)。プロスタグランジンE2は、免疫や骨代謝、分娩などに関与する生理活性物質であり、陣痛促進剤(ジノプロストン)として用いられている。医薬品としては、胃酸分泌抑制作用、胃粘膜保護作用、腸管運動亢進作用、子宮収縮作用等を有するとされている。ジベレリン酸は植物ホルモンの一種であるが、野菜及び果物にも含まれており、糞便及び尿にも検出される。
【0034】
-スクシニルオルニチンは、シュードモナス属(Pseudomonas)やエシェリキア属(Escherichia)におけるアルギニン分解系の中間代謝物質である。6,8-チオクト酸はα-リポ酸とも呼ばれ、血糖及び脂質の制御に有効であることがメタ解析により示唆されている(Akbari et al., 2018)。p-ヒドロキシマンデル酸は、L-p-ヒドロキシフェニルグリシン生合成の中間代謝物質であると考えられている(Hubbard et al., 2000)。L-p-ヒドロキシフェニルグリシンは、グリコペプチド系抗生物質バンコマイシンの構成要素である。
【0035】
腸内代謝物質量調整剤により減少する腸内代謝物質のうち、ピペコリン酸は、精神発達遅滞を伴う、先天性の代謝異常による高ピペコリン酸血症の原因となる物質である。
【0036】
以上の観点から、本実施形態に係る腸内代謝物質量調整剤は、腸内代謝物質の量を好適に調整することにより、腸内環境を良好にし、種々の疾病を予防又は改善することができる。すなわち、本発明の一実施形態は、腸内代謝物質の量を調整して、腸内環境を好適に調整するための剤を提供するということができる。さらに、この腸内代謝物質量調整剤は、動脈硬化の予防又は改善、抗酸化作用の強化、抗糖化作用の強化、抗疲労作用の強化、高血糖による最終糖化産物の生成抑制、アルツハイマー型認知症予防、局所脳虚血における神経保護、睡眠及び概日リズムの改善又は調整、腸炎の抑制、陣痛促進、胃酸分泌の抑制、胃粘膜の保護、腸管運動の亢進、子宮収縮の促進、血糖及び脂質の制御、高ピペコリン酸血症の抑制等の用途に用いることができる。すなわち、本発明の一実施形態は、これらの用途に用いるための剤を提供するということもできる。
【0037】
腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤は、ヒト又は動物用として用いることができ、好ましくはヒト用、より好ましくは高齢(例えば60歳以上)のヒト用として用いられる。腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤は、疾病に罹患していない健常人に対して用いられてもよい。
【0038】
本実施形態に係る腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤は、上記の用途のための食品組成物、医薬品、又は医薬部外品としてそのまま用いてもよく、これら製品の一成分として用いてもよい。
【0039】
本実施形態に係る腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤、腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤からなる食品組成物、医薬品及び医薬部外品、又は腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤を含む食品組成物、医薬品及び医薬部外品には、例えば、子宮内膜癌の予防又は改善、多嚢胞性卵巣症候群の予防又は改善、腎疾患の予防又は改善、1型糖尿病における内毒血症又は炎症マーカーの予防又は改善、動脈硬化の予防又は改善、抗酸化作用、抗糖化作用、抗疲労作用の強化、高血糖による最終糖化産物の生成抑制、アルツハイマー型認知症予防、局所脳虚血における神経保護、睡眠及び概日リズムの改善又は調整、腸炎の抑制、陣痛促進、胃酸分泌の抑制、胃粘膜の保護、腸管運動の亢進、子宮収縮の促進、血糖及び脂質の制御、高ピペコリン酸血症の抑制等の表示が付されていてもよい。
【0040】
腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤を一成分として含む食品組成物、医薬品、及び医薬部外品は、例えば、これら製品の製造工程における中間製品に、腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤を添加することにより製造することができる。
【0041】
腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤を食品組成物として又は食品組成物の一成分として用いる場合、該食品組成物は、食品の3次機能、すなわち体調調節機能が強調されたものであることが好ましい。食品の3次機能が強調された製品としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメント及び特定保健用食品を挙げることができる。
【0042】
食品組成物としては例えば、コーヒー、ジュース及び茶飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、並びに、日本酒、洋酒、果実酒及びハチミツ酒等の酒などの飲料;カスタードクリーム等のスプレッド;フルーツペースト等のペースト;チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ及びプリン等の洋菓子;大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ及び羊羹等の和菓子;アイスクリーム、アイスキャンデー及びシャーベット等の氷菓;カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等の調理済みの食品;ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料及びスープの素等の調味料などが挙げられる。
【0043】
本実施形態に係る腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤においては、医薬品、医薬部外品若しくは食品組成物又はその一成分として経口摂取されることが好ましい。腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤は、一日一回投与されてもよいし、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与されてもよい。腸内細菌数調整剤又は腸内代謝物質量調整剤の投与量(摂取量)は、有効成分量換算で、体重60kgの成人に一日当たり、1mg以上、10mg以上、50mg以上、80mg以上、100mg以上、150mg以上、170mg以上、200mg以上、230mg以上、250mg以上、270mg以上、300mg以上、350mg以上、又は400mg以上であってよく、5000mg以下、1000mg以下、800mg以下、600mg以下、500mg以下、450mg以下、400mg以下、350mg以下、300mg以下、又は270mg以下であってよい。
【0044】
本発明の他の一実施形態は、便通改善剤に関する。便通改善剤は、好ましくは排便回数を増加させるための剤である。
【0045】
一実施形態に係る便通改善剤は、プロポリス及びローヤルゼリーからなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する。プロポリスは上述した態様のものが用いられてよい。
【0046】
ローヤルゼリーは、蜜蜂のうち日齢3~12日の働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作る乳白色のゼリー状物質である。ローヤルゼリー中の主な生理活性成分としては、例えば、ローヤルゼリーに特有な10-ヒドロキシ-2-デセン酸、10-ヒドロキシデカン酸等の有機酸類をはじめ、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、脂質、糖類、ビタミンB類、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン類、各種ミネラル類等が挙げられる。
【0047】
本明細書においてローヤルゼリーは、例えば生ローヤルゼリーであってもよく、生ローヤルゼリーに処理を施したローヤルゼリー処理物であってもよい。生ローヤルゼリーは、例えば、常法に従い養蜂産品として入手することができる。ローヤルゼリーの産地は、制限されず、日本、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ等のいずれであってもよい。
【0048】
ローヤルゼリー処理物としては、生ローヤルゼリーを濃縮又は希釈したローヤルゼリー濃縮物又は希釈物、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末、ローヤルゼリーをエタノール等の有機溶媒で抽出したローヤルゼリーエタノール抽出物等のローヤルゼリー有機溶媒抽出物、ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理した酵素分解ローヤルゼリーなどが挙げられる。ローヤルゼリー処理物は複数の処理が施されたものであってもよい。ローヤルゼリーは酵素分解及び粉末化された酵素分解ローヤルゼリー粉末であってもよい。
【0049】
ローヤルゼリー濃縮物は、例えば、生ローヤルゼリーから水分を除去することにより得ることができる。ローヤルゼリー希釈物は、例えば、生ローヤルゼリーに水分を添加することにより得ることができる。
【0050】
ローヤルゼリー粉末は、例えば、凍結乾燥及び噴霧乾燥等の本技術分野における公知の方法により生ローヤルゼリーを粉末化することにより得ることができる。乾燥方法としては、通風乾燥や天日乾燥などの自然乾燥、電気などで加熱して乾燥させる強制乾燥、凍結乾燥など、一般食品加工で採用される公知のいずれの方法を使用することができる。好ましくは、凍結乾燥である。なお、乾燥時間は特に制限されず、通風や天日乾燥などの自然乾燥の場合は、約3日程度、電気などで加熱して強制乾燥させる場合は、50℃程度で1~3日程度を挙げることができる。通常、水分含量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下になるように乾燥させることが好ましい。なお、通風や天日乾燥などの自然乾燥の場合のように水分含量を10質量%以下にすることが難しい場合は、その後、凍結乾燥機にかけて更に水分を下げる処理を行ってもよい。また、凍結乾燥又は噴霧乾燥後に粉砕機(例えば、ピンミル、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル)により粉砕してローヤルゼリー粉末を得てもよい。
【0051】
ローヤルゼリー有機溶媒抽出物は、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトン等の有機溶媒を溶媒として生ローヤルゼリー又はローヤルゼリー粉末を抽出することで得ることができる。抽出時間は、原料として用いられる生ローヤルゼリーの形態、溶媒の種類及び量、抽出の際の温度及び攪拌条件等に応じて適宜設定することができる。抽出後、ろ過、遠心分離等により固形分を除去してもよい。また、抽出された溶液をそのまま用いてもよいし、当該溶液から溶媒を除去して、濃縮液又は粉末として用いてもよい。ローヤルゼリー有機溶媒抽出物としては、ローヤルゼリーエタノール抽出物であることが好ましい。
【0052】
酵素分解ローヤルゼリーは、例えば、生ローヤルゼリー又はローヤルゼリー粉末をタンパク質分解酵素で処理することで得ることができる。タンパク質分解酵素としては、例えば、エンドペプチダーゼ作用を有する酵素、エキソペプチダーゼ作用を有する酵素、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有する酵素からなる群より選択されることが好ましい。特に、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を同時に有するペプチダーゼであることが好ましい。ここで、エンドペプチダーゼ作用は、非末端のアミノ酸のペプチド結合を分解する作用であり、エキソペプチダーゼ作用は、末端のアミノ酸のペプチド結合を分解する作用である。かかるペプチダーゼを使用した酵素処理によれば、一段階酵素処理でタンパク質を低分子化することができるので、操作が簡便であるとともに、ローヤルゼリーに含まれる有用成分の生理活性の消失及び大幅な低減を防止することができるという利点がある。
【0053】
タンパク質分解酵素は、その由来は特に制限されず、動物、植物、及び微生物(細菌、ウィルス、真菌類(カビ、酵母、キノコ等)、藻類など)に由来するペプチダーゼを広く使用できる。
【0054】
「エキソペプチダーゼ」は、「アミノペプチダーゼ」と「カルボキシペプチダーゼ」に分類される。また、ペプチダーゼは、至適pHによって、それぞれ酸性、中性、アルカリ性という用語を各酵素につけることがあり、例えば、「酸性エキソペプチダーゼ」、「中性アミノペプチダーゼ」、「アルカリ性エンドペプチダーゼ」のように記載することもある。
【0055】
少なくともエンドペプチダーゼ作用を有するタンパク質分解酵素としては、動物由来(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、植物由来(例えば、パパイン等)、微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌、放線菌等)のエンドペプチダーゼなどが挙げられる。
【0056】
エンドペプチダーゼ作用を有する酵素の好ましい例としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)産生ペプチダーゼ(商品名:オリエンターゼ22BF、ヌクレイシン)、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)産生ペプチダーゼ(商品名:アルカラーゼ)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼS)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)産生ペプチダーゼ(商品名:ニュートラーゼ)、バチルス属産生ペプチダーゼ(商品名:プロタメックス)を挙げることができる。
【0057】
少なくともエキソペプチダーゼ作用を有するタンパク質分解酵素としては、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、微生物由来(例えば、乳酸菌、アスペルギルス属菌、リゾープス属菌等)のエキソペプチダーゼ、エンドペプチダーゼ活性も併せて有するパンクレアチン、ペプシン等が挙げられる。
【0058】
エキソペプチダーゼ作用を有する酵素の好ましい例としては、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ウマミザイムG、Promod 192P、Promod 194P、スミチームFLAP)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)産生ペプチダーゼ(商品名:Sternzyme B15024)、アスペルギルス属産生ペプチダーゼ(商品名:コクラーゼP)、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ペプチダーゼR)を挙げることができる。
【0059】
エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有する酵素の好ましい例としては、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)産生ペプチダーゼ(商品名:アクチナーゼAS)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼA、フレーバーザイム、プロテアックス、スミチームLP-G)、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼP)を挙げることができる。
【0060】
生ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理する際の反応条件(タンパク質分解酵素
の使用量、反応時の温度、pH、反応時間等)は、使用するタンパク質分解酵素の種類等
に応じて、適宜設定すればよい。
【0061】
本実施形態に係る便通改善剤には、上述したプロポリス又はローヤルゼリーを1種のみの形態で用いてもよく、2種以上の形態を組み合わせて用いてもよい。便通改善剤中のプロポリス及びローヤルゼリーの含有量は、便通改善剤全量に対して、例えば固形分で0.002質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、17質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であってもよく、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、18質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.005質量%以下であってもよい。
【0062】
便通改善剤は、上述した腸内細菌数調整剤等で用いられ得る他の成分を更に含有していてもよい。便通改善剤は、プロポリス又はローヤルゼリーの乳酸菌発酵物、又はプロポリス又はローヤルゼリーを含む組成物の乳酸菌発酵物を含有しなくてもよい。便通改善剤は、乳酸菌を含有しなくてもよい。
【0063】
便通改善剤の形状は、上述した腸内細菌数調整剤等と同様の形状をとり得る。
【0064】
便通改善剤は、排便回数を増加させることにより、便通を改善することができる。すなわち、本発明の一実施形態は、排便回数増加剤を提供するということもできる。さらに、便通改善剤は、体内における毒素の排泄等の用途に用いることができる。
【0065】
便通改善剤は、ヒト又は動物用として用いることができ、好ましくはヒト用、より好ましくは高齢(例えば60歳以上)のヒト用として用いられる。便通改善剤は、疾病に罹患していない健常人に対して用いられてもよい。
【0066】
本実施形態に係る便通改善剤は、上記の用途のための食品組成物、医薬品、又は医薬部外品としてそのまま用いてもよく、これら製品の一成分として用いてもよい。食品組成物、医薬品、又は医薬部外品の態様は、上述した腸内細菌数調整剤等における態様と同様であり得る。
【0067】
本実施形態に係る便通改善剤においては、医薬品、医薬部外品若しくは食品組成物又はその一成分として経口摂取されることが好ましい。便通改善剤は、一日一回投与されてもよいし、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与されてもよい。
【0068】
便通改善剤が、有効成分としてプロポリスを含有する場合、便通改善剤の投与量(摂取量)は、有効成分量換算で、体重60kgの成人に一日当たり、1mg以上、10mg以上、50mg以上、80mg以上、100mg以上、150mg以上、170mg以上、200mg以上、230mg以上、250mg以上、270mg以上、300mg以上、350mg以上、又は400mg以上であってよく、5000mg以下、1000mg以下、800mg以下、600mg以下、500mg以下、450mg以下、400mg以下、350mg以下、300mg以下、又は270mg以下であってよい。
【0069】
便通改善剤が有効成分としてローヤルゼリーを含有する場合、便通改善剤の投与量(摂取量)は、生ローヤルゼリーとしての有効成分量換算で、体重60kgの成人に一日当たり、10mg以上、100mg以上、150mg以上、200mg以上、300mg以上、500mg以上、800mg以上、1000mg以上、1200mg以上、1600mg以上、2000mg以上、2400mg以上、2800mg以上、3200mg以上、3600mg以上、4000mg以上、4800mg以上、5400mg以上、6000mg以上、6600mg以上、又は7200mg以上であってよく、15000mg以下、10000mg以下、8000mg以下、7200mg以下、6600mg以下、6000mg以下、5400mg以下、4800mg以下、4000mg以下、36000mg以下、3000mg以下、2800mg以下、2400mg以下、2000mg以下、1000mg以下、800mg以下、又は500mg以下であってよい。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
試験食品としては、下記のものを用いた。
<プロポリス>
ブラジル産グリーンプロポリス粉末含有食品
試験食品摂取量:425mg/球(1日3球摂取の為、1275mg/日)
試験食品中のプロポリス含有量:84.7mg/球(254mg/日)
試験食品剤型:ソフトカプセル
<ローヤルゼリー>
酵素分解ローヤルゼリー凍結乾燥粉末含有食品
試験食品摂取量:542mg/粒(1日2粒摂取の為、1084mg/日)
試験食品中のローヤルゼリー含有量:生ローヤルゼリー換算1200mg/粒(生ローヤルゼリー換算2400mg/日)
試験食品剤型:錠剤
【0072】
被験者として、年齢が60歳以上の健康な男女に、試験は、非盲検ランダム化クロスオーバー試験により実施された。被験者をA群、B群の2群に分け、いずれの群においても、2週間のスクリーニング期間、及び7~10日の前観察期を経て、本試験第1期(4~5週間)、本試験第2期(4~5週間)の摂取期間を設けた。A群では第1期にローヤルゼリーを、第2期にプロポリスを摂取し、B群では第1期にプロポリス、第2期にローヤルゼリーを摂取した。いずれの群においても、第1期と第2期との間には2週間以上のウォッシュアウト期間(プロポリスもローヤルゼリーも摂取しない期間)を設けた。脱落した被験者及び所定の除外基準により除外された被験者を除き、A群13名、B群11名により試験を行った。
【0073】
いずれの群においても第1期及び第2期の摂取期間の直前(摂取0日目)と、第1期及び第2期の摂取28日目以降35日目前に、採便が行われた。以下では、プロポリス摂取前及びプロポリス摂取後の採便期間(タイムポイント)を、それぞれ、P1、P2と表記し、ローヤルゼリー摂取前及びローヤルゼリー摂取後の採便期間を、それぞれ、R1、R2と表記する。
【0074】
<腸内細菌叢のマイクロバイオーム解析>
腸内細菌叢の細菌系統組成を明らかにするため、便検体に対する16s rRNA遺伝子配列を用いたメタゲノム解析を行った。メタゲノム解析はMurakamiら(2015)の方法に従った。まず便検体から抽出したDNAを鋳型として、16s rRNA遺伝子のV1-V2領域のDNA断片をPCRにて増幅し、続いてPCR産物の配列をIllumina MiSeq(イルミナ株式会社)を用いたペアエンド法により解析した。
【0075】
検体当たり得られたリードペア数は、平均51402、最多62916、最少40724であった。これは、全96検体(被験者24名×4タイムポイント)において十分量の塩基配列が得られたことを示す。得られた塩基配列を、ペアエンド配列のマージ、PhiX由来の塩基配列除去、クオリティーフィルタリングなどの前処理工程に供し、高品質の塩基配列を得た。これらの塩基配列をbowtie2により16S rRNA遺伝子のデータベースに対してマッピングした。16S rRNA遺伝子のデータベースには、silva(https://www.arb-silva.de)が提供するSILVA SSU Refを99%の閾値でクラスタリングして得られたOTU(operational taxonomic unit)を用いた(以下、SILVAデータベースと記載)。上記マッピングにより、各塩基配列はSILVAデータベース内で最も類似しているOTUに帰属される。各OTUに帰属した(マップされた)塩基配列数を数えることで、腸内細菌叢の細菌系統組成が定量化される。実際には、10000配列をランダムに選択することで検体間の検出感度を統一した上で、細菌系統組成を算出した。
【0076】
上記の方法で得られた腸内細菌叢のOTU組成から属(genus)組成を算出した。P1、P2、R1、R2の各タイムポイントで得られた全96検体のいずれかで検出された細菌の属数は379であった。
【0077】
被験食品の摂取が腸内細菌叢の系統組成に与える効果を明らかにするため、プロポリス摂取前後(P1vsP2)の対応のある2群間比較解析(Wilcoxon signed rank test、有意水準5%)を実施した。全便検体での平均相対存在比が0.001(ランダムサンプリング後のリード数10に相当)以上の腸内細菌属を解析対象とした。結果を図1及び図2に示す。なお、図1及び図2においては、有意差(p<0.05又はp<0.01)が認められた群間の上部に黒線を描き、値の低い群の上部に、黒線から下方へ線を描いた。図1及び図2に示すように、ルミノコッカス科に属する属(図(a)~(d))、カテニバクテリウム属(図(a))、サブドリグラヌルム属(図(b))、Family XIII AD3011 group属(図(c))、アナエロツルンカス属(図(d))のそれぞれの属が、プロポリスの摂取により有意に減少した。
【0078】
<腸内代謝物質の評価>
腸内の代謝物質組成を明らかにするため、便検体に含まれる代謝物質のメタボローム解析を行った。まず、便検体に濃度補正用に内部標準物質を添加し、次いで代謝物質を抽出した。抽出した代謝物質については、キャピラリー電気泳動装置を飛行時間型質量分析計に接続させたCE-TOFMSを用いて測定し、検出されたピークの泳動時間、質量電荷比(m/z)、及びピーク面積を取得した。これらの情報を標準試料992化合物の測定結果と照合することで、各ピークが対応する代謝物質を同定した。本解析では合計で346種類の代謝物質が検出された。これらのピークは、検体ごとに内部標準物質との面積比が一定になるように補正され、サンプル間で相対定量が可能な値(相対面積比、relative area)に変換された。また、119種の代謝物質については濃度既知の標準試料の測定結果と比較することにより、絶対定量を行い、91種の代謝物質が定量された。
【0079】
被験食品の摂取が腸内代謝物質のプロファイルに与える効果を明らかにするため、プロポリス摂取前後(P1vsP2)の対応のある2群間比較解析(Wilcoxon signed rank test、有意水準5%)を実施した。プロポリス摂取前後で、相対面積比に有意差が認められた腸内代謝物質は65種、有意に減少した代謝物質が2種であった。このうち、主要な腸内代謝物質の結果に関して、表1に示す。表1においては、検定結果のP値、摂取前の相対面積比に対する摂取後の相対面積比の倍率(fold-change、FC)及びq値を示した。摂取前の相対面積比に対する摂取後の相対面積比の倍率(FC)については、1より大きければ、プロポリス摂取後に当該物質が増加したことを意味し、1より小さければ、プロポリス摂取後に当該物質が減少したことを意味する。表1における「inf」(無限大)と表示されている物質については、被験食品摂取前には検出されなかったが、摂取後に検出されたものである。
【0080】
【表1】
【0081】
<排便回数の評価>
A群及びB群の被験者計24名(解析対象集団)について、前観察期の1週間の排便回数と、各試験食品摂取期の最後の1週間の排便回数を比較した。結果を表2に示す。プロポリス及びローヤルゼリーを摂取した場合のいずれにおいても、摂取後には有意に排便回数が増加した。また、摂取後の排便回数が前観察期の最大値である5回の2倍以上(10回以上)の者を除いた層別解析を行った。層別解析でも、プロポリス及びローヤルゼリーを摂取した場合のいずれにおいても有意に排便回数が増加した。
【0082】
【表2】

図1
図2