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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】SiC相補型電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8232 20060101AFI20240515BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 21/337 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 29/808 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 27/098 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
H01L27/06 F
H01L29/80 W
H01L29/80 E
H01L27/098
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020104834
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021197517
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 恒暢
(72)【発明者】
【氏名】金子 光顕
(72)【発明者】
【氏名】中島 誠志
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-091873(JP,A)
【文献】特開2017-212397(JP,A)
【文献】特開2011-166025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/06
H01L 29/812
H01L 29/808
H01L 21/8232
H01L 21/337
H01L 21/338
H01L 27/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板に、ノーマリオフ型のnチャネル電界効果トランジスタ、及びpチャネル電界効果トランジスタが形成されたSiC相補型電界効果トランジスタであって、
450K以上の温度において、前記nチャネル電界効果トランジスタ、及び前記pチャネル電界効果トランジスタの飽和電流が同じ大きさになるように、前記nチャネル電界効果トランジスタのチャネル幅Wn、及び前記pチャネル電界効果トランジスタのチャネル幅Wpの比Wn/Wp、または、前記nチャネル電界効果トランジスタのチャネル長Ln、及び前記pチャネル電界効果トランジスタのチャネル長Lpの比Ln/Lpが設定されている、SiC相補型電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記nチャネル電界効果トランジスタ、及び前記pチャネル電界効果トランジスタは、それぞれ、nチャネル接合型電界効果トランジスタ、及びpチャネル接合型電界効果トランジスタで構成されている、請求項1に記載のSiC相補型電界効果トランジスタ。
【請求項3】
SiC基板に、ノーマリオフ型のnチャネル電界効果トランジスタ、及びpチャネル電界効果トランジスタが形成されたSiC相補型電界効果トランジスタであって、
前記pチャネル電界効果トランジスタのチャネル領域にドープされたp型不純物がAlであって、
前記nチャネル電界効果トランジスタのチャネル領域にドープされたn型不純物のエネルギー準位が、伝導帯端から0.13eV以上離れている、SiC相補型電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記nチャネル電界効果トランジスタのチャネル領域にドープされたn型不純物は、SまたはAsである、請求項3に記載のSiC相補型電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記nチャネル電界効果トランジスタ、及び前記pチャネル電界効果トランジスタは、それぞれ、nチャネル接合型電界効果トランジスタ、及びpチャネル接合型電界効果トランジスタで構成されている、請求項3に記載のSiC相補型電界効果トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(SiC)基板を用いて形成されたSiC相補型電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の半導体集積回路は、主にシリコン(Si)で作製されているが、産業分野においては、自動車や航空機のエンジン制御、自動車タイヤのモニター、宇宙用エレクトロニクスなど、Siでは実現不可能な200℃以上の高温において動作する集積回路が渇望されている。
【0003】
SiCは、バンドギャップがSiに比べて約3倍高いため、500℃以上の高温環境下で動作する集積回路が作製可能である。
【0004】
SiC基板を用いて作製した集積回路として、例えば、非特許文献1には、相補型MOSFETで構成された集積回路が開示されている。また、特許文献1には、nチャネルJFETとpチャネルJFETとを半絶縁性のSiC層で絶縁分離した相補型JFETが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-166025号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】S.H. Ryu et al., IEEE Trans. Electron Devices, vol.45 (1998), p.45.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示された相補型MOSFETは、SiC基板とゲート酸化膜との界面に高密度の欠陥や電荷が存在するため、しきい値電圧が温度により大きく変動し、安定した動作ができないという問題がある。また、ゲート酸化膜が高温で劣化するという問題もある。
【0008】
特許文献1に開示された相補型JFETは、nチャネルJFETとpチャネルJFETとを、ホットウォールCVD法で形成されたイントリンシックSiC層で絶縁分離する構造になっており、微細なトレンチ形成、埋め込み成長、表面平坦化研磨を繰り返す必要があるため、作製プロセスが非常に複雑になるという問題がある。
【0009】
今まで、SiC基板を用いた相補型電界効果トランジスタに関する研究はいくつか報告されているが、高温動作が確認されたに留まり、広い温度範囲において、安定した動作が可能な相補型電界効果トランジスタは実現できていない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、その主な目的は、広い温度範囲において、安定した動作が可能なSiC相補型電界効果トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るSiC相補型電界効果トランジスタは、SiC基板に、ノーマリオフ型のnチャネル電界効果トランジスタ、及びpチャネル電界効果トランジスタが形成されたSiC相補型電界効果トランジスタであって、450K以上の温度において、nチャネル電界効果トランジスタ、及びpチャネル電界効果トランジスタの飽和電流が同じ大きさになるように、nチャネル電界効果トランジスタのチャネル幅Wn、及びpチャネル電界効果トランジスタのチャネル幅Wpの比Wn/Wp、または、nチャネル電界効果トランジスタのチャネル長Ln、及びpチャネル電界効果トランジスタのチャネル長Lpの比Ln/Lpが設定されている。
【0012】
本発明に係る他のSiC相補型電界効果トランジスタは、SiC基板に、ノーマリオフ型のnチャネル電界効果トランジスタ、及びpチャネル電界効果トランジスタが形成されたSiC相補型電界効果トランジスタであって、pチャネル電界効果トランジスタのチャネル領域にドープされたp型不純物がAlであって、nチャネル電界効果トランジスタのチャネル領域にドープされたn型不純物のエネルギー準位が、伝導帯端から0.13eV以上離れている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、広い温度範囲において、安定した動作が可能なSiC相補型電界効果トランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)~(C)は、先の出願の明細書に開示したSiC JFETの構造を示した図である。
図2】相補型JFETからなるインバータ回路を示した回路図である。
図3】論理閾値電圧の温度特性を示したグラフである。
図4】インバータ回路の入出力特性の温度特性を示したグラフである。
図5】論理閾値電圧の温度特性を示したグラフである。
図6】インバータ回路の入出力特性の温度特性を示したグラフである。
図7】キャリア密度の温度依存性を示したグラフである。
図8】キャリア密度の温度依存性を示したグラフである。
図9】論理閾値電圧の温度特性を示したグラフである。
図10】インバータ回路の入出力特性の温度特性を示したグラフである。
図11】インバータ回路の入出力特性を示したグラフである。
図12】SiC基板にJFETと抵抗が形成された構造を示した断面図である。
図13】相補型JFETからなるn入力NAND回路を示した図である。
図14】相補型JFETからなるn入力NOR回路を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願出願人は、ノーマリオフ化を容易にするSiC接合型電界効果トランジスタ(以下、「SiCJFET」という)の構造を、先の出願の明細書(特開2019-091873)に開示している。図1は、その明細書に開示したSiCJFETの構造を示した図で、図1(A)は、nチャネルJFETの平面図、図1(B)は、図1(A)の線B-Bに沿った断面図、図1(C)は、図1(A)の線C-Cに沿った断面図である。
【0016】
図1(A)~(C)に示すように、nチャネルJFET1は、SiC基板10に形成されたn型の埋込チャネル領域13と、埋込チャネル領域13を挟んで、互いに対向して形成されたn型のソース領域11及びドレイン領域12と、ソース領域11及びドレイン領域12が対向する方向と垂直な方向に形成された一対のp型のゲート領域14a、14bとを備えている。pチャネルJFETも、同様の構造を備えている。
【0017】
nチャネルJFET1において、一対のゲート領域14a、14bの幅Lがチャネル長、一対のゲート領域14a、14bに挟まれた距離Dがチャネル厚さ、埋込チャネル領域13の深さ方向の距離Wがチャネル幅となる。
【0018】
埋込チャネル領域13内の空乏層の広がりは、埋込チャネル領域13の両側に形成された一対のゲート領域14a、14bに印加するゲート電圧によって制御される。埋込チャネル領域13の不純物濃度N、及び厚さDを調整することによって、ノーマリオフ型のSiCJFETを実現することができる。具体的には、埋込チャネル領域13の不純物濃度N(cm-3)、及び厚さD(cm)を、N(D/2)<3×10cm-1を満たすように設定すればよい。
【0019】
図2は、ノーマリオフ型のnチャネルJFET1aと、ノーマリオフ型のpチャネルJFET1bとで構成した相補型JFETからなるインバータ回路を示す。nチャネルJFET1a及びpチャネルJFET1bのゲート電極は、インバータ回路の入力端子Vinに接続されている。nチャネルJFET1a及びpチャネルJFET1bのドレイン電極Dは、インバータ回路の出力端子Voutに接続されている。nチャネルJFET1aのソース電極Sはグランドに接続され、pチャネルJFET1bのソース電極Sは電源(VDD)に接続されている。
【0020】
通常、インバータ回路は、論理閾値電圧Vthが、電源電圧VDDの1/2になるように設計される。この場合、nチャネルJFET1a及びpチャネルJFET1bの飽和電流IDn、IDpは等しい。ここで、IDn、IDpは、以下の式(1)、(2)で表される。
【0021】
【数1】


【0022】
【数2】


【0023】
上記式(1)、(2)において、Vはゲート電圧、VTn、VTpは、nチャネルJFET1a及びpチャネルJFET1bの閾値電圧、β、βは、nチャネルJFET1a及びpチャネルJFET1bのベータ値(利得)である。
【0024】
nチャネルJFET1aのゲート電極にはVin、pチャネルJFET1bのゲート電極にはVin-VDDの電圧が印加されるため、上記式(1)、(2)を用いて、IDn=IDpから、以下の式(3)が得られる。
【0025】
【数3】


【0026】
SiC JFETでは、電源電圧VDDを2.5V以上にすると、ゲートリークが発生するため、通常、VDDは2V程度に設定される。この場合、VthはVDDの半分である1Vとすることが妥当であるため、上記式(3)は、以下の式(4)で表される。
【0027】
【数4】


【0028】
式(4)の左辺は、図1(A)~(C)に示した構造のJFETにおける物性値や構造寸法を用いて、以下の式(5)で求められる。
【0029】
【数5】


【0030】
上記式(5)において、各パラメータは、以下の通りである。なお、添字n、pは、nチャネルJFET、pチャネルJFETのパラメータを示す。
【0031】
μ、μ:電子、正孔の移動度
、p:電子密度、正孔密度
、W:チャネル幅
、L:チャネル長
、D:チャネル厚さ
、N:チャネル領域13のドーピング密度
一方、式(4)の右辺は、以下の式(6)で求められる。
【0032】
【数6】


【0033】
上記の式(6)において、ψjn、ψjpは、nチャネルJFET1a及びpチャネルJFET1bのゲート部の拡散電位、ψpn、ψppは、nチャネルJFET1a及びpチャネルJFET1bのピンチオフ電位である。
【0034】
上述したように、論理閾値電圧Vthが、電源電圧VDDの1/2になるように設計するためには、nチャネルJFET1a及びpチャネルJFET1bの飽和電流IDn、IDpを等しくするために、上記の式(4)が成立するように設計すればよい。この場合、式(6)に示した右辺のパラメータは調整が難しいため、式(5)に示した右辺のパラメータを調整して、式(4)が成立するように設計される。
【0035】
従来、MOSFETをSiで構成した場合、室温での電子の移動度μが、正孔の移動度μの約2倍であることから、nチャネルJFETのチャネル幅Wを、nチャネルJFETのチャネル幅Wの1/2に設定することによって、式(4)が室温で成立するように設計されている。
【0036】
JFETをSiCで構成した場合も、Siの場合と同様の設計指針により、式(4)が室温で成立するように設計することができる。この場合、室温での電子の移動度μが、正孔の移動度μの約38倍であることから、nチャネルJFETのチャネル幅Wを、pチャネルJFETのチャネル幅Wの1/38(W=0.4μm、W=15μm)に設定することによって、式(4)が室温で成立するように設計することができる。
【0037】
なお、pチャネルJFETのチャネル幅Wpを15μmに設定する代わりに、例えば、チャネル幅Wpを1.5μmに設定したpチャネルJFETを10個並列に接続してもよい。
【0038】
図3は、図1(A)~(C)に示した構造のSiC JFETを、式(4)が室温で成立するように設計した場合の論理閾値電圧Vthの温度特性を計算で求めたグラフ(Aで示したグラフ)である。また、図4は、インバータ回路の入出力特性の温度特性をシミュレーションにより求めたグラフである。ここで、Vthの温度特性は、上記の式(3)を変形して得られる下記の式(7)を用いて計算した。また、インバータ回路の入出力特性の温度特性は、周知の電流-電圧特性の式を用いて計算した。
【0039】
【数7】


【0040】
なお、計算は、図1(A)~(C)に示したSiC JFETの構造において、下記のパラメータの数値を用いた。なお、移動度μ、μは、文献(H. Matsuura et al., J. Appl. Phys. 96 (2004) 2708, S. Kagamihara et al., J. Appl. Phys. 96 (2004) 5601)で与えられた式を用いて計算した。また、キャリア密度n、pは、一般の教科書(例えば、S. M. Sze and K. K. Ng, Physics of Semiconductor (John Wiley $ Sons)に載っている周知の方程式を用いて計算した。
【0041】
、W:0.4μm、15μm
、L:4μm、4μm
、D:425nm、428nm
、N:5×1016cm-3、5×1016cm-3
なお、図3には、式(4)の右辺の温度特性を、式(6)を用いて計算した結果(Bで示したグラフ)、及び、式(4)の左辺の温度特性を、式(5)を用いて計算した結果(Cで示した曲線)も示している。
【0042】
図3に示すように、矢印Pで示す室温(300K)において、Bで示したグラフと、Cで示したグラフは一致しており、論理閾値電圧Vthは1Vに設定されている。しかしながら、図3及び図4に示すように、論理閾値電圧Vthは、温度が高くなるにつれて、1Vから大きくシフトしている。これは、式(4)の右辺と左辺の値が、それぞれ、図3のグラフB、Cに示すように、異なる温度特性を有するため、式(4)が高温側で成立しなくなったためである。
【0043】
このように、広い温度範囲で、論理閾値電圧Vthの変動を抑えるためには、既存のSi論理回路で採用されていた設計指針とは異なる構造設計が必要となる。そのためには、論理閾値電圧Vthを決定するパラメータの物性値の温度依存性を考慮した設計を行うことが必要となる。
【0044】
(第1の実施形態)
本願発明者等は、上記の式(7)において、論理閾値電圧Vthを決定するパラメータとして、nチャネルJFETの閾値電圧VTn、及びpチャネルJFETの閾値電圧VTpに着目した。すなわち、室温付近では、VTnとVTpの差は小さいため、式(4)が成立していなくても、論理閾値電圧Vthは、電源電圧VDDの1/2ほどに定まる。一方、高温では、VTnとVTpの差が大きくなるが、高温側で、式(4)が成立するように構造設計しておけば、高温側においても、論理閾値電圧Vthを、電源電圧VDDの1/2ほどに定めることができる。
【0045】
図5は、図1(A)~(C)に示した構造のSiC JFETを、式(4)が高温側(700K)で成立するように設計した場合の論理閾値電圧Vthの温度特性を上記式(7)を用いて計算で求めたグラフ(Aで示したグラフ)である。また、図6は、インバータ回路の入出力特性の温度特性を周知の電流-電圧特性の式を用いて計算で求めたグラフである。ここで、700Kでの電子の移動度μが、正孔の移動度μの約12倍であることから、nチャネルJFETのチャネル幅Wを、pチャネルJFETのチャネル幅Wの1/12(W=0.4μm、W=5μm)に設定することによって、式(4)が700Kで成立するように設計した。それ以外のパラメータは、図3で示した場合と同じである。
【0046】
なお、pチャネルJFETのチャネル幅Wpを5μmに設定する代わりに、例えば、チャネル幅Wpを1μmに設定したpチャネルJFETを5個並列に接続してもよい。
【0047】
また、図5には、式(4)の右辺の温度特性を、式(6)を用いて計算した結果(Bで示したグラフ)、及び、式(4)の左辺の温度特性を、式(5)を用いて計算した結果(Cで示した曲線)も示している。
【0048】
図5に示すように、矢印Qで示す高温(700K)において、Bで示したグラフと、Cで示したグラフは一致しており、論理閾値電圧Vthは1Vに設定されている。また、Bで示したグラフと、Cで示したグラフが、室温側で一致していなくても、図5及び図6に示すように、論理閾値電圧Vthは、室温側でもほぼ1Vになっている。
【0049】
このように、高温側で、式(4)が成立するように構造設計することによって、広い温度範囲において、論理閾値電圧Vthの変動を大幅に抑制することができる。すなわち、室温よりも高温側において、nチャネルJFET、及びpチャネルJFETの飽和電流IDn、IDpが同じ大きさになるように、nチャネルJFETのチャネル幅Wn、及びpチャネルJFETのチャネル幅Wpの比Wn/Wpを設定することによって、広い温度範囲において、論理閾値電圧Vthの変動を大幅に抑制することができる。これにより、広い温度範囲において、安定した動作が可能なSiC相補型電界効果トランジスタが得られる。
【0050】
なお、図5では、nチャネルJFETとpチャネルJFETのチャネル比Wn/Wpを、700Kで式(4)が成立するように設計した例を説明したが、図5において、450K以上では、グラフBとグラフCとの差が、450K以下の差に比べて少ないことから、450K以上で、式(4)が成立するように、すなわち、nチャネルJFET、及びpチャネルJFETの飽和電流IDn、IDpが同じ大きさになるように設計すればよい。
【0051】
また、上記の説明では、nチャネルJFETとpチャネルJFETのチャネル比Wn/Wpを、高温側(450K以上)で、nチャネルJFET、及びpチャネルJFETの飽和電流IDn、IDpが一致するように設計したが、必ずしも一致させる必要はなく、広い温度範囲で論理閾値電圧Vthの変動が抑制できる範囲で、飽和電流IDn、IDpを揃えればよい。
【0052】
なお、チャネル幅の比Wn/Wpを設定する代わりに、nチャネルJFETのチャネル長Ln、及びpチャネルJFETのチャネル長Lpの比Ln/Lpを設定してもよい。
【0053】
(第2の実施形態)
上記実施形態では、論理閾値電圧Vthを決定するパラメータとして、nチャネルJFETの閾値電圧VTn、及びpチャネルJFETの閾値電圧VTpに着目したが、本願発明者等は、上記の式(5)に示したβのパラメータのうち、温度変化に最も影響があるパラメータとして、埋込チャネル領域13にドープされたp型不純物の正孔密度pに着目した。
【0054】
図7は、SiC JFETにおいて、電子及び正孔のキャリア密度の温度依存性を示したグラフである。ここで、Aで示したグラフが電子密度n、Bで示したグラフが正孔密度pを示す。n型不純物は、P(リン)、p型不純物はAl(アルミニウム)である。
【0055】
図7に示すように、電子密度nは、広い温度範囲においてほぼ一定であるのに対し、正孔密度pは、室温から高温にかけて大きく変化している。これは、n型不純物のエネルギー準位が、伝導帯端から浅く(約0.06eV)、イオン化率が大きいのに対し、p型不純物のエネルギー準位が、価電子帯端から深く(約0.2eV)、イオン化率が小さいためである。そのため、正孔密度pのみが温度変化が大きく、式(5)に示すように、正孔密度pの温度変化が、β(∝n/p)の温度変化に大きく影響する。
【0056】
そこで、n型不純物として、p型不純物と同じように深いエネルギー準位を有する不純物を用いることによって、電子密度nの温度変化を、正孔密度pの温度変化と揃えることができる。
【0057】
図8は、n型不純物のエネルギー準位が、伝導帯端から深い不純物として、S(硫黄)を用いた場合の電子及び正孔のキャリア密度の温度依存性を示したグラフである。なお、SSのエネルギー準位は、伝導帯端から約0.26eVである。ここで、Aで示したグラフが正孔密度p、Bで示したグラフが電子密度nを示す。図8に示すように、電子密度n、及び正孔密度pは、室温から高温にかけて、広い温度範囲でほぼ同じように変化する。
【0058】
図9は、n型不純物としてS、p型不純物としてAlを用いた場合の論理閾値電圧Vthの温度特性を、上記式(7)を用いて計算で求めたグラフ(Aで示したグラフ)である。また、図10は、インバータ回路の入出力特性の温度特性を周知の電流-電圧特性の式を用いて計算で求めたグラフである。なお、図10には、式(4)の右辺の温度特性を、式(6)を用いて計算した結果(Bで示したグラフ)、及び、式(4)の左辺の温度特性を、式(5)を用いて計算した結果(Cで示した曲線)も示している。
【0059】
図9及び図10に示すように、論理閾値電圧Vthは、広い温度範囲で、約1Vになっている。これは、図9に示すように、Bで示したグラフと、Cで示したグラフが、広い温度範囲でほぼ重なっており、式(4)の右辺の温度特性と、式(4)の左辺の温度特性が、ほぼ一致し、式(4)が、広い温度範囲で成立しているためである。
【0060】
このように、n型不純物として、p型不純物と同じように深いエネルギー準位を有する不純物を用いることによって、広い温度範囲において、論理閾値電圧Vthの変動を大幅に抑制することができる。ここで、nチャネルJFETの埋込チャネル領域13にドープされたn型不純物のエネルギー準位は、伝導帯端から0.13eV以上離れていることが好ましい。
【0061】
図8では、深いエネルギー準位を有するn型不純物として、S(硫黄)を用いる例を説明したが、S以外に、例えばAs(ヒ素)等を用いることができる。ここで、Asのエネルギー準位は、伝導帯端から約0.13eVである(文献:J. B. Tucker et al., Diamond and Related Materials 9 (2000) 1887)。図7のAで示したグラフのn型不純物(P)のエネルギー準位が0.06eVで、図8のAで示したグラフのn型不純物(S)のエネルギー準位が0.26eVであることから、エネルギー準位が0.13eVのAsのキャリア密度の温度依存性は、その中間付近であることから、Bで示したグラフのp型不純物(Al)のキャリア密度の温度依存性に近くなり、論理閾値電圧Vthの変動を抑えることができるものと推定される。
【0062】
本実施形態では、SiC JFETの新規な構造設計により、広い温度範囲において、論理閾値電圧Vthの変動を大幅に抑制することができるが、SiCJFETの作製プロセスのバラツキにより、デバイスパラメータが設計値からずれることによって、論理閾値電圧Vthが変動することがある。本実施形態では、このような場合でも、論理閾値電圧Vthの変動を抑制する効果が得られる。以下、SiCJFETのチャネル厚さDが設計値からずれた場合を例に説明する。
【0063】
論理閾値電圧Vthは、上記の式(7)で決まるが、式(7)中の閾値電圧Vは、以下の式(8)で求められる。
【0064】
【数8】


【0065】
ここで、ψは拡散電位、ψはピンチオフ電位である。また、ピンチオフ電位ψは、以下の式(9)で求められる。
【0066】
【数9】


【0067】
ここで、qは電子の電荷、εsはSiCの誘電率、Nは埋込チャネル領域13の不純物濃度、Dは埋込チャネル領域13の厚さである。
【0068】
式(9)に示すように、チャネル厚みDが変化すると、ピンチオフ電位ψが変化し、式(8)に示すように、ピンチオフ電位ψが変化すると、閾値電圧Vも変化する。そのため、式(7)に示すように、論理閾値電圧Vthも変化する。
【0069】
図11は、チャネル厚さDが、設計値425nmに対して、プロセスバラツキにより500nmになった場合のインバータ回路の入出力特性を示したグラフである。Aで示したグラフが、D=425nmの場合、Bに示したグラフが、D=500nmで、n型不純物にP(浅いエネルギー準位)を用いた場合、Cに示したグラフが、D=500nmで、n型不純物にS(深いエネルギー準位)を用いた場合を、それぞれ示す。
【0070】
図11に示すように、n型不純物にSを用いた場合の方が、Pを用いた場合よりも、論理閾値電圧Vthの変化が小さい。すなわち、エネルギー準位の深いn型不純物を用いることによって、プロセスバラツキにより、デバイスパラメータが設計値からずれても、論理閾値電圧Vthの変動を抑えることができる。
【0071】
上記では、チャネル厚みDの変動を例に説明したが、他のデバイスパラメータが変動した場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0072】
(第3の実施形態)
上記実施形態では、nチャネルJFETの飽和電流IDnと、pチャネルJFETの飽和電流IDpが、広い温度範囲で一致するように、JFETの構造設計を行ったが、図12に示すように、SiC基板10に、nチャネルJFET1の埋込チャネル領域13と同じn型不純物のイオン注入領域22で抵抗20を形成し、JFET1に抵抗20を直列接続した構成にしてもよい。この場合、イオン注入領域22のn型不純物には、エネルギー準位の深い不純物(例えばS)を使用する。
【0073】
抵抗20が直列接続されたnチャネルJFET1では、抵抗20による電圧降下分だけドレイン電圧が低下する。そのため、ドレイン電圧は、抵抗20の温度変化に応じて変化する。その結果、nチャネルJFETの飽和電流IDnと、pチャネルJFETの飽和電流IDpを、広い温度範囲で一致させることができる。これにより、広い温度範囲で、論理閾値電圧Vthの変動を抑えることができる。
【0074】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【0075】
例えば、上記実施形態では、SiC相補型JFETをインバータ回路に適用した例を説明したが、他の論理ゲートにも適用することもできる。
【0076】
図13は、ノーマリオフ型のnチャネルJFETと、ノーマリオフ型のpチャネルJFETとで構成した相補型JFETからなるn入力(多入力)NAND回路を示した図である。
【0077】
図13に示すように、nチャネルJFETが直列接続され、pチャネルJFETが並列接続されている。そのため、直列接続されたnチャネルJFETは、チャネル長がn倍されたと考えられ、IDn=IDpを満たすためには、nチャネルJFETのベータ値βをn倍する必要がある。従って、この場合、IDn=IDpを満たすために、上記式(3)の代わりに、以下の式(10)が成立するよう、チャネル幅の比Wn/Wp、または、チャネル長の比Ln/Lpを調整すればよい。
【0078】
【数10】


【0079】
図14は、ノーマリオフ型のnチャネルJFETと、ノーマリオフ型のpチャネルJFETとで構成した相補型JFETからなるn入力NOR回路を示した図である。
【0080】
図14に示すように、nチャネルJFETが並列接続され、pチャネルJFETが直列接続されている。そのため、直列接続されたpチャネルJFETは、チャネル長がn倍されたと考えられ、IDn=IDpを満たすためには、pチャネルJFETのベータ値βをn倍する必要がある。従って、この場合、IDn=IDpを満たすために、上記式(3)の代わりに、以下の式(11)が成立するよう、チャネル幅の比Wn/Wp、または、チャネル長の比Ln/Lpを調整すればよい。
【0081】
【数11】


【0082】
また、上記実施形態では、上記式(3)から、電源電圧VDDを2V、Vthを1Vとして、式(4)を算出し、高温側(450K以上)において、式(4)が成立するよう、チャネル幅の比Wn/Wp、または、チャネル長の比Ln/Lpを調整したが、電源電圧を2.5V以下の任意の値VDDとして、以下の式(10)が高温側で成立するよう、チャネル幅の比Wn/Wp、または、チャネル長の比Ln/Lpを調整してもよい。
【0083】
【数12】


【0084】
また、上記実施形態では、SiC相補型JFETを例に説明したが、SiC相補型MOSFETにも適用することができる。
【0085】
また、上記実施形態では、図1に示した構造のSiC JFETを例に説明したが、勿論、他の構造のSiC JFETまたはSiC MOSFETに適用することができる。
【0086】
また、上記実施形態では、SiC基板を用いて形成されたSiC JFETを例に説明したが、ワイドギャップ半導体であるGaNやダイヤモンドを基板に用いて形成した電界効果トランジスタにも適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 JFET
1a nチャネルJFET
1b pチャネルJFET
10 SiC基板
11 ソース領域
12 ドレイン領域
13 埋込チャネル領域
14a、14b ゲート領域
20 抵抗
22 イオン注入領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14