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特許7488581薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に対する抗菌組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に対する抗菌組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/741 20150101AFI20240515BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240515BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
A61K35/741 ZNA
A61P31/04
A61P29/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021503646
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009423
(87)【国際公開番号】W WO2020179868
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】62/815,101
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ」「腸内細菌株カクテルを用いた新規医薬品の創出」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03147
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03148
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03149
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03150
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03151
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03152
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03153
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03154
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03155
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03156
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03157
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03158
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03159
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03160
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03161
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03162
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03163
【微生物の受託番号】NITE  NITE BP-03164
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 賢也
(72)【発明者】
【氏名】安間 恵子
(72)【発明者】
【氏名】新 幸二
(72)【発明者】
【氏名】成島 聖子
(72)【発明者】
【氏名】古市 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】河口 貴昭
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/017389(WO,A1)
【文献】特開2011-200211(JP,A)
【文献】特表2014-501100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/741
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸内細菌を有効成分として含有する、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に対する抗菌組成物であって、
前記腸内細菌が、配列番号:105、69、80、85~92、94、96、98~101及び103のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを各々有する18種の腸内細菌の組み合わせである、抗菌組成物。
【請求項2】
医薬組成物である、請求項に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
感染症又は炎症性疾患を治療、改善又は予防するための医薬組成物である、請求項に記載の抗菌組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に対する抗菌組成物に関する。また、本発明は、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に起因する疾患を治療、改善又は予防等するための、医薬組成物又は方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管や口腔等の粘膜には多様な常在細菌が存在し、全体としてフローラを形成している。常在菌フローラは、宿主の生理や健康維持に対して非常に大きな役割を果たしている。常在菌フローラの構成異常はDysbiosisとよばれ、様々な疾患の原因となっていることが徐々に明らかになってきている。粘膜常在菌フローラの解明が進めば、様々な疾患に対する新たな疾病対策・治療開発に結びつく可能性が高いものの、その複雑さから詳細なメカニズムは十分明らかになっていない。
【0003】
ヒトは毎日1.5Lほどの唾液を作り出し、飲み込んでいる。通常、唾液に含まれる菌は(口腔内細菌)、腸管をただ単に通過するだけで、定着しない。しかし、ある状況では口腔内細菌が腸管に定着することがある。特にクローン病や、肝硬変、大腸がんにおいて、疾患発症の早期から、口腔内細菌の腸管定着が観察されることが報告されている。そして、定着した口腔内細菌が、疾患の病態に影響を与えることが知られている(非特許文献1~6)。
【0004】
また、本発明者らは、クローン病等の患者の口腔内細菌から、腸管に定着し、Th1細胞を誘導することによって、当該疾患の発症に関与する菌を、単離培養し、同定することに成功している(特許文献1)。より具体的には、本発明者らは、あるクローン病患者由来唾液を無菌マウスに経口投与した結果、大腸においてインターフェロンガンマ(IFN-γ)産生性CD4陽性T細胞(Th1細胞)が著増することを、見出している。そして、このTh1細胞の増加が見られたマウスの腸内から、Klebsiella pneumoniaeに属すると考えられるKp2H7株を単離培養することに成功している。さらに、クローン病患者の唾液由来の当該菌が、腸管に定着し、Th1細胞の増殖又は活性化を誘導することによって、腸炎の発症に関与していることも、明らかにしている。
【0005】
さらに、本発明者らは、Kp2H7株を、SPF(specific-pathogen-free)マウスに経口投与した場合、前記無菌マウスの場合と異なり、これら細菌株の腸内定着が認められないということを見出した。さらに、SPFマウスに抗生物質を投与することによって、これら細菌株が、当該マウスの腸管に定着できる場合があることも明らかにした。そして、このような結果から、腸管には、Kp2H7株等のTh1細胞誘導性細菌の腸内定着を阻害する腸内細菌が存在しており、前記抗生物質投与によって、前記腸内細菌が腸管内から排除されることにより、当該細菌の腸内定着が可能となるということを、本発明者らは想定した。
【0006】
そこで、ヒト腸内細菌において、Th1細胞誘導性細菌の腸内定着を抑制する細菌の同定を試みた。その結果、3人の健常人(#K、#F及び#I)由来の糞便試料から、各々68株、37株及び42株の腸内細菌株を単離培養し、また各菌株の16SrDNAの配列を決定することに成功した。さらに、これら細菌株投与によって、Th1細胞誘導性細菌の腸内定着が抑制されることを明らかにしている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2018/084172
【文献】国際公開2019/017389
【非特許文献】
【0008】
【文献】Y.Chenet et al.,Scientific reports 6,34055(2016)
【文献】D.Gevers et al.,Cell host&microbe 15,382-392(2014)
【文献】C.A.Lozupone et al.,Cell host&microbe 14,329-339(2013)
【文献】I.Vujkovic-Cvijin et al.,Science translational medicine 5,193ra191(2013)
【文献】N.Qin et al.,Nature 513,59-64(2014)
【文献】C.L.Sears,W.S.Garrett,Cell host&microbe 15,317-328(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明において、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に対して抗菌活性を有する腸内細菌を見出し、当該腸内細菌を有効成分とする、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に対する抗菌組成物、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に起因する疾患を治療、改善又は予防等するための、医薬組成物又は方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、前述のTh1細胞誘導性細菌の腸内定着を抑制する細菌(健常人#K由来の腸内細菌68株、健常人#F由来の腸内細菌37株、健常人#I由来の腸内細菌42株)は、多剤耐性細菌(カルバぺネム耐性腸内細菌科細菌、バンコマイシン耐性腸球菌、クロストリジウム ディフィシル、カンピロバクター ジェジュニ)及び炎症惹起性細菌(接着侵入性大腸菌)の腸内定着を抑制できることを明らかにした。
【0011】
さらに、このような腸内における細菌定着抑制能に関し、健常人#F由来の腸内細菌37株と同程度のそれを発揮し得る18株を、当該37株から選抜することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
〔1〕 腸内細菌を有効成分として含有する、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に対する抗菌組成物。
〔2〕 前記腸内細菌が、配列番号:69~105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌である、〔1〕に記載の抗菌組成物。
〔3〕 前記腸内細菌が、配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌である、〔1〕に記載の抗菌組成物。
〔4〕 前記腸内細菌が、受託番号 NITE BP-03147~03164のうちのいずれかにて特定される、少なくとも1の細菌である、〔1〕に記載の抗菌組成物。
〔5〕 前記腸内細菌が、配列番号:1~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌である、〔1〕に記載の抗菌組成物。
〔6〕 前記腸内細菌が、配列番号:1~68のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌である、〔1〕に記載の抗菌組成物。
〔7〕 前記腸内細菌が、配列番号:106~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌である、〔1〕に記載の抗菌組成物。
〔8〕 医薬組成物である、〔1〕~〔7〕のうちのいずれか一項に記載の抗菌組成物。
〔9〕 感染症又は炎症性疾患を治療、改善又は予防するための医薬組成物である、〔1〕~〔7〕のうちのいずれか一項に記載の抗菌組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌の腸管への定着等を抑制することによって、これら細菌の増殖又は活性化の抑制が可能となり、ひいては、これら細菌に起因する疾患を治療、改善又は予防することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】無菌マウスにクレブシエラ2H7株(Kp2H7)を投与し、その1週間後に健常人の便サンプルをマウスに投与(FMT)した時の、便中クレブシエラの菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。5種類の便を使用したがいずれのサンプルでもクレブシエラは著明に減少した。
図2】ドナー健常者 F、I、K由来の3種類の便の16Sメタ解析の結果を示した棒グラフである。一つ一つのマスが1菌株を示し、その大きさは全体の菌量に占めるその菌の割合を示している。3種類の便を嫌気環境下で培養したが、そこで培養し単離できた株を隣のグラフの(カラー表示下)黄色にて示した。下に単離できた菌の総数を示した。
図3】無菌マウスにKp2H7を定着させた後、便から単離した菌株をそれぞれ混合して投与したときの、Kp2H7の便中菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。ドナー健常者 F由来の便(F便)由来の37株が便サンプルと同等にクレブシエラを減少させた。
図4】無菌マウスにKp2H7を定着させた後、便から単離した菌株をそれぞれ混合して投与したときの、Kp2H7の便中菌量の継時的変化をCFUで示したグラフである。F便由来の37株が便サンプルとドナー健常者 K由来の便(K便)から単離した68菌株は同等にクレブシエラを減少させた。
図5】無菌マウスにKp2H7を投与した後、1週間後にF37mix(F便由来の37菌株)を投与し、さらに1ヶ月後にアンピシリンを飲水投与したときのKp2H7の便中菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。アンピシリン投与により、クレブシエラは一過性に増加したが、その後再度低下した。
図6A図5に示した実験における、各菌量(F31、F22、F20、F32)の全菌量における存在比率の継時的変化を示した図である。図の下には各菌の番号、r(クレブシエラとのスピアマンの順位相関係数)及び菌名を示した。
図6B図5に示した実験における、各菌量(F26、F28、F21、F30)の全菌量における存在比率の継時的変化を示した図である。図の下には各菌の番号、r(クレブシエラとのスピアマンの順位相関係数)及び菌名を示した。
図6C図5に示した実験における、各菌量(F24、F23/F25、F35/F36、F09)の全菌量における存在比率の継時的変化を示した図である。図の下には各菌の番号、r(クレブシエラとのスピアマンの順位相関係数)及び菌名を示した。
図6D図5に示した実験における、各菌量(F33、F12、F17/F19、F18)の全菌量における存在比率の継時的変化を示した図である。図の下には各菌の番号、r(クレブシエラとのスピアマンの順位相関係数)及び菌名を示した。
図6E図5に示した実験における、各菌量(F34、F03/F08、F29、F13)の全菌量における存在比率の継時的変化を示した図である。図の下には各菌の番号、r(クレブシエラとのスピアマンの順位相関係数)及び菌名を示した。
図6F図5に示した実験における、各菌量(F04/F08、F37、F01、F02)の全菌量における存在比率の継時的変化を示した図である。図の下には各菌の番号、r(クレブシエラとのスピアマンの順位相関係数)及び菌名を示した。
図6G図5に示した実験における、各菌量(F05、F07、F14)の全菌量における存在比率の継時的変化を示した図である。図の下には各菌の番号、r(クレブシエラとのスピアマンの順位相関係数)及び菌名を示した。
図6H図5に示した実験における、各菌量(F10/F15、F16、F11/F27)の全菌量における存在比率の継時的変化を示した図である。図の下には各菌の番号、r(クレブシエラとのスピアマンの順位相関係数)及び菌名を示した。
図7】Kp2H7と各菌の菌量におけるスピアマンの順位相関係数の正に相関のある順番に菌を並べた図である。BacteroidesにおいてはKp2H7と関係のない動きをしているものが多く、負の相関をしているものはFurmicutes属が多い。
図8】無菌マウスにKp2H7を投与して定着させた後に、図7に示す37株(F37mix)、その37株のうちBacteroidetesに属する8株(F8mix)、又はそれ以外の29菌株(F29mix)を各々混合して投与した時の、便中Kp2H7の菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。Bacteroidesを除いた29株も37株とほぼ同等のクレブシエラの減少を認め、クレブシエラの排除にBacteroidesが不要であると考えらえる。
図9図8に示す実験にて用いたF37mix、F8mix及びF29mixの内訳を示す、系統樹である。系統樹は、単離菌のサンガー法による16SrDNA解析結果のDNA塩基配列をMEGA Xを用い、Neighbor-joining法にて作成した。系統樹の作成については、図10及び12においても同様である。
図10】F便由来の18菌株(F18mix)の内訳を示す、系統樹である。
図11】無菌マウスにKp2H7を定着させた後、F便由来の37菌株(前記F37mix)、F便由来の18菌株(図10に示すF18mix)、又は健常者I由来の便(I便)由来の42菌株を各々混合して投与したときの、Kp2H7の便中菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである.F18mixでもF37mixと同等にクレブシエラを排除できている。
図12】F便由来の18菌株(F18mix)を4グループに分類し、それらの内訳を示す、系統樹である。これらの4つのグループを18菌株(F18mix)から引いてF15mix(F18mix-other phyla)、F12mix(F18mix-Lachnoclostiridum)、F14mix(F18mix-Blautia)、F13mix(F18mix-other Firmicutes)の菌株グループを調製し、図11に示す実験に供した。
図13】無菌マウスにKp2H7を定着させた後、F37mixから重複している株及びF18mixを除いた群(F31-18mix)、前記F15mix、前記F12mix、前記F14mix、前記F13mix、又は前記F18mixを各々混合して投与したときの、Kp2H7の便中菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。なお、図13には2回行った実験データを合わせて示している。F18mixから図12に示したどの群を除いても、クレブシエラ排除能は低下し、どの群もクレブシエラの排除に重要であることが明らかになった。
図14図13に示した実験において、day28の時点での各群における便中Kp2H7のCFUを示す、グラフである。F18mix投与群は、F37mix以外の他の投与群よりも、統計学的に有意にクレブシエラの菌量が少ない。
図15】F37mix投与群、F18mix投与群、又はKp2H7単独投与群の、マウス大腸粘膜固有層における免疫細胞を、フローサイトメトリーにて解析した結果を示す、ドットプロット図である。図中の各ゲート(四角)の中の数値は、CD4+IFNγ+細胞の割合を示している。Kp2H7単独投与群に比べて、F37mix投与群及びF18mix投与群ではCD4+IFNγ+細胞の誘導が抑制されている。
図16】無菌マウスにKp2H7を投与し、1週間後に各菌株mixを投与した時のKp2H7の便中菌量の継時的変化をCFUで示したグラフである。図中の「F15mix」は、F18mixからE.coli、Fusobacterium、及びBifidobacteriumの3株を除いて投与したマウスの結果を示し、「F18mix-E.coli」、「F18mix-Fusobacterium」及び「F18mix-Bifidobacterium」は、前記3株のうち各1株ずつF18mixから除いて投与したマウスの結果を各々示す。これら3株はいずれもF18mixから除くとその効果は減弱し、それぞれがクレブシエラの排除に関わっていることが示された。
図17】無菌のRag2-/-γc-/-マウス、MyD88-/-Triff-/-マウス、又は野生型マウス(WT)にKp2H7を投与し、1週間後に混合したF37mixを投与した時のKp2H7の便中菌量の継時的変化をCFUで示したグラフである。どのタイプのマウスでもクレブシエラを同等に排除することができた。このことから、宿主の主要な自然免疫、獲得免疫はクレブシエラの排除に関与していないことが示唆された。
図18】無菌マウスにクレブシエラ(Kp-CRE)を投与し、その1週間後に単離菌mix(F37mix、K68mix、I42mix)をマウスに投与した時の、便中CRE菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。F37mix、K68mixはCREも減少させることができる。
図19図18に示す実験終了時のマウスの大腸をHE染色にて解析した結果を示す、顕微鏡写真である。いずれの単離菌mix投与マウスにおいても炎症所見は認められなかった。
図20】無菌マウスにVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)を投与し、その1週間後に単離菌mix(F37mix、K68mix、I42mix)をマウスに投与した時の、便中VRE菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。VREに対してはF37mixよりもK68mixの方が菌量を低下させることができた。
図21図20に示す実験終了時のマウスの大腸をHE染色にて解析した結果を示す、顕微鏡写真である。いずれの単離菌mix投与マウスにおいても炎症所見は認められなかった。
図22】無菌マウスにAIECを投与し、その1週間後に単離菌mix(F37mix、K68mix、I42mix)をマウスに投与した時の、便中AIEC菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。AIECに対しては、F37mixが最も効果的に菌量を減らせた。
図23】無菌マウスにESBL産生クレブシエラを投与し、その1週間後に単離菌mix(F37mix、K68mix、I42mix)をマウスに投与した時の、便中ESBL産生クレブシエラ菌量の継時的変化をCFUにて示したグラフである。F37mix、K68mixは、F由来の糞便同等に、ESBL産生クレブシエラを排除することができた。
図24】無菌マウスにCampylobacter jejuniを投与し、その1週間後に単離菌mix(F37mix、K68mix、I42mix)又は健常人F由来の糞便試料をマウスに投与した時の、便中Campylobacter菌量の継時的変化をCFUでにて示したグラフである。いずれの単離菌mix投与群においても同程度に、Campylobacter jejuniの排除が認められた。
図25】無菌マウスにCampylobacter jejuniを投与し、その1週間後に単離菌mix(F37mix、K68mix、I42mix)又は健常人F由来の糞便試料をマウスに投与した時の、便中Campylobacterの菌量の継時的変化を全菌量で割った相対値にて示したグラフである。いずれの単離菌mix投与群においても同程度に、Campylobacter jejuniの排除が認められた。
図26】無菌マウスにClostridium difficileを投与し、その1週間後に単離菌mix(F37mix、K68mix、I42mix、K47mix)又は健常人F由来の糞便試料をマウスに投与した時の、便中Clostridium difficileの菌量の継時的変化を、qPCRにて解析した結果を示す、グラフである。K68mix、K47mixは、F由来の糞便よりもClostridium difficileを排除することができたが、F37mixの排除効果は低かった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<腸内細菌>
本発明において、抗菌組成物の有効成分として含まれる腸内細菌は、腸管内で、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌(以下「薬剤耐性細菌等」とも称する)に対して抗菌作用を有する。
【0016】
本発明において、「抗菌活性」とは、細菌の活動を抑制する活性、より具体的には、細菌の増殖若しくは定着を抑制し、又は細菌を死滅させる活性を意味し、例えば、腸内における細菌の定着を抑制する活性、腸内から細菌を排除する活性が挙げられる。
【0017】
「腸内細菌」とは、動物の腸管内に存在する細菌を意味する。また、かかる細菌が存在する動物としては、ヒト、非ヒト動物(マウス、ラット、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒル、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター等)が挙げられるが、これら動物の中では、ヒトが好ましい。
【0018】
本発明において「腸内細菌」は、1株の細菌であってもよく、複数株の細菌から構成される細菌株の混合物であってもよい。なお、複数株の細菌から構成される場合には、そのうちの少なくとも1の細菌株が薬剤耐性細菌等に対する抗菌活性を有していることが望ましい。また、そのような場合、前記複数株の細菌には、前記抗菌活性を有していない細菌株であっても、前記抗菌活性を有している細菌株の当該活性を増強する作用を有する細菌株、前記抗菌活性を有している細菌株の増殖又は定着を維持する作用を有する細菌株、前記抗菌活性を阻害する細菌に対して当該阻害活性を抑制する作用を有する細菌株が含まれていてもよい。
【0019】
本発明において「腸内細菌」としては、例えば、配列番号:1~147のうちのいずれかに記載の塩基配列若しくは当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌、配列番号:1~68のうちのいずれかに記載の塩基配列若しくは当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌、配列番号:69~105のうちのいずれかに記載の塩基配列若しくは当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌(例えば、配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌)、又は配列番号:106~147のうちのいずれかに記載の塩基配列若しくは当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌が挙げられる。
【0020】
各配列番号にて示される配列は、添付の資料におけるK68、F37及びI43各菌の16SrDNAの配列である。下記表1~4において、各菌と、各16SrDNAの配列を示す配列番号と、当該配列から推定される各菌種との対応を示す。なお、K、F及びIは、健常人(日本人)3人の糞便から各々単離された腸内細菌であることを表す(特許文献2 参照)。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
【表4】
【0025】
表1~4には各配列番号に記載の配列を、RefSeqの16sDNA配列データベースに対して、BLAST検索にかけ、top hitした種名及びRefSeqのaccessionを示す(2020年1月8日時点)。なお、一般に%identity>97%で種(species)まで同定可能であり、>94%で属(genus)まで同定可能と言われている。そのため、%identityが>94%である菌株については、属レベルにて特定され得る菌であるということにつき理解されたし。
【0026】
本発明の腸内細菌における「少なくとも70%の同一性」とは、各塩基配列に対する同一性が、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上)、より好ましくは94%以上(例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上)、特に好ましくは99%以上である。
【0027】
また、配列(アミノ酸配列又はヌクレオチド(塩基)配列)の相同性又は同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search、基本ローカルアラインメント検索)のプログラム(Altschul et al.J.Mol.Biol.,215:403-410,1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:2264-2268,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873-5877,1993)に基づいている。BLASTによって、配列間の相同性又は同一性を解析する場合には、例えば、米国国立生物学情報センター(NCBI)のBLAST等を利用して(例えば、デフォルト、すなわち初期設定のパラメータを用いて)決定することができる。
【0028】
本発明において、配列番号:1~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する「腸内細菌」として、好ましくは、それら腸内細菌群の内の少なくとも15の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも30の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも75の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも120の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも135の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも140の細菌であり、さらに好ましくは、配列番号:1~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを、各々有する147の腸内細菌であり、特に好ましくは、配列番号:1~147のうちのいずれかに記載の塩基配列からなるDNAを各々有する147の細菌である。
【0029】
本発明において、配列番号:1~68のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する「腸内細菌」として、好ましくは、それら腸内細菌群の内の少なくとも7の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも15の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも35の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも60の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも65の細菌でありより好ましくは、配列番号:1~68のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを、各々有する68の腸内細菌であり、特に好ましくは、配列番号:1~68のうちのいずれかに記載の塩基配列からなるDNAを各々有する68の細菌である。また、配列番号:1~68のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する「腸内細菌」としては、アンピシリンに対して抵抗性を有していることが望ましい。また、配列番号:1~46のうちのいずれかに記載の塩基配列若しくは当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを、各々有する46の細菌も、本発明において好適に用いられる。
【0030】
本発明において、配列番号:69~105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する「腸内細菌」として、好ましくは、それら腸内細菌群の内の少なくとも4の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも8の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも18の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも29の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも33の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも35の細菌であり、さらに好ましくは、配列番号:69~105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを、各々有する37の腸内細菌であり、特に好ましくは、配列番号:69~105のうちのいずれかに記載の塩基配列からなるDNAを各々有する37の細菌である。また、配列番号:69~105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する「腸内細菌」としては、アンピシリンに対して感受性を有していることが望ましい。
【0031】
本発明において、配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する「腸内細菌」として、好ましくは、それら腸内細菌群の内の少なくとも2の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも5の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも10の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも14の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも15の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも16の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも17の細菌であり、より好ましくは、配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを、各々有する18の腸内細菌であり、特に好ましくは、配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列からなるDNAを各々有する18の細菌(配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:80に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:85に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:86に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:87に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:88に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:89に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:90に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:91に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:92に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:94に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:96に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:98に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:99に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:100に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:101に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、配列番号:103に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌、及び配列番号:105に記載の塩基配列からなるDNAを有する細菌)である。
【0032】
なお、配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列からなるDNAを各々有する18の細菌の典型例は、下記表5に示す、受託菌株である。いずれの細菌株も、2020年3月2日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE、〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されている。
【0033】
【表5】
【0034】
なお、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に対する抗菌作用等が損なわれない限り、これら各菌から、変異処理、遺伝子組換え、ゲノム編集、自然変異株の選択等によって育種された細菌(派生株、誘導株等)も、本発明にかかる腸内細菌に含まれる。
【0035】
本発明において、配列番号:106~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する「腸内細菌」として、好ましくは、それら腸内細菌群の内の少なくとも4の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも9の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも22の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも34の細菌であり、さらに好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも39の細菌であり、より好ましくは、前記腸内細菌群の内の少なくとも41の細菌であり、さらに好ましくは、配列番号:106~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを、各々有する42の腸内細菌であり、特に好ましくは、配列番号:106~147のうちのいずれかに記載の塩基配列からなるDNAを各々有する42の細菌である。また、配列番号:106~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも70%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する「腸内細菌」としては、アンピシリンに対して感受性を有していることが望ましい。
【0036】
また、本発明において、「腸内細菌」の一態様としては、スペクチノマイシンからなる群から選択される少なくとも一の化合物に対する抵抗性、及び/又は、アンピシリン、タイロシン及びクロロホルムからなる群から選択される少なくとも一の化合物に対する感受性を示す腸内細菌が挙げられる。また、別の態様として、メトロニダゾールに対する抵抗性、及び/又は、バンコマイシン及びタイロシンからなる群から選択される少なくとも一の化合物に対する感受性を示す腸内細菌が挙げられる。
【0037】
なお、後述の実施例に示すとおり、上述の腸内細菌は、本発明者らによって単離されたものであり、薬剤耐性細菌、炎症惹起性細菌等に対して抗菌作用を発揮し、有用なものである。したがって、本発明は、以下も提供し得る。
(1) 配列番号:69~105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌。
(2) 配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌。
(3) 受託番号NITE BP-03147~03164のうちのいずれかにて特定される、少なくとも1の細菌。
(4) 配列番号:1~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌。
(5) 配列番号:69~105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌。
(6) 配列番号:106~147のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌。
(7) 腸管内で、薬剤耐性細菌、炎症惹起性細菌、又はTh1細胞の増殖又は活性化を誘導する細菌に対し、抗菌作用を有する細菌である、(1)~(6)のうちのいずれか一項に記載の細菌。
【0038】
<抗菌組成物及び医薬組成物>
本発明の組成物は、前述の腸内細菌を含むものであればよく、当該細菌は、生菌であってもよく、死菌体であってもよい。また、組成物を複合して用いることができ、結果として併用して摂取又は吸収される場合(併用組成物の場合)、前述の腸内細菌は2種以上の組成物の中に分けて存在することもできる。
【0039】
本発明の組成物は、医薬組成物、医薬部外品用組成物、飲食品(動物用飼料を含む)、あるいは研究目的(例えば、インビトロやインビボの実験)に用いられる試薬の形態であり得る。
【0040】
本発明の組成物は、薬剤耐性細菌等に対して抗菌活性を奏するため、当該細菌に起因する疾患の治療、予防又は改善のための医薬組成物、医薬部外品用組成物、飲食品として、好適に用いられる。
【0041】
本発明の組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤等として、経口的、非経口的(例えば、腸管内、筋肉内、静脈内、気管内、鼻内、経皮、皮内、皮下、眼内、膣、腹腔内、直腸若しくは吸入)、又はこれらの複数の組み合わせからなる経路による投与用に使用することができる。
【0042】
これら製剤化においては、薬理学上若しくは飲食品として許容される担体、具体的には、滅菌水、生理食塩水、緩衝液、培地、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる。
【0043】
また、これら製剤化においては、腸管内における薬剤耐性細菌等に対してより効率的に抗菌活性を奏する等の観点から、特に経口投与を目的とする製剤においては、本発明の組成物を腸管内に効率良く送達することを可能にする組成物と組み合わせてもよい。このような腸管内への送達を可能とする組成物については特に制限されることなく、公知の組成物を適宜採用することができ、例えば、pH感受性組成物、腸管までの放出を抑制する組成物(セルロース系ポリマー、アクリル酸重合体及び共重合体、ビニル酸重合体及び共重合体等)、腸管粘膜特異的に接着する生体接着性組成物(例えば、米国特許第6.368.586号明細書に記載のポリマー)、プロテアーゼ阻害剤含有組成物、腸管内酵素によって特異的に分解される組成物)が挙げられる。
【0044】
また、本発明の抗菌組成物を医薬組成物として用いる場合には、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の治療、予防又は改善に用いられる公知の物質(例えば、他の抗菌剤、抗炎症剤、免疫抑制剤)を更に含んでいてもよく、またかかる物質と併用してもよい。
【0045】
本発明の組成物を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、栄養補助食品、病者用食品、あるいは動物用飼料であり得る。飲食品の具体例としては、発酵飲料、油分を含む製品、スープ類、乳飲料、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料、ドリンク剤、ゼリー状飲料等の液状食品、炭水化物含有食品、畜産加工食品、水産加工食品;野菜加工食品、半固形状食品、発酵食品、菓子類、レトルト製品、電子レンジ対応食品等が挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状又はゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。なお、本発明における飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術により実施することができる。当該飲食品においては、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の改善又は予防に有効な成分(例えば、栄養素等)を添加してもよい。また、当該改善等以外の機能を発揮する他の成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0046】
本発明の組成物の製品(医薬品、医薬部外品、飲食品、試薬)又はその説明書は、薬剤耐性細菌等に対して抗菌活性を奏する、又は薬剤耐性細菌等に起因する疾患を治療、改善若しくは予防するために用いられる旨の表示を付したものであり得る。また、飲食品に関しては、形態及び対象者等において一般食品との区別がつくよう、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)として健康機能の表示を、本発明の組成物の製品等に付したものであり得る。ここで「製品又は説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装等に表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物等に表示を付したことを意味する。また、本発明の組成物は、キットの態様であってもよい。
【0047】
また、上述のとおり、本発明の腸内細菌等を用い、公知の製剤化技術により、医薬組成物を製造することができる。したがって、本発明は、薬剤耐性細菌等に起因する疾患を治療、改善又は予防するための医薬組成物を製造するための、本発明の腸内細菌等の使用をも提供する。
【0048】
<治療方法等>
本発明は、上述の抗菌組成物若しくは医薬組成物、又はそれらの有効成分となる上述の腸内細菌(以下、「本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等」とも総称する)を、対象に摂取させることを特徴とする、対象における薬剤耐性細菌等に起因する疾患を治療、改善又は予防する方法をも提供するものである。
【0049】
本発明において、「薬剤耐性細菌」とは、抗菌剤(抗生物質等)に対して抵抗性を有し、当該薬剤が効かない、又は効きにくくなった細菌を意味する。また、当該薬剤は1の薬剤であってもよく、複数の薬剤であってもよい。すなわち、本発明に係る薬剤耐性細菌には、多剤耐性細菌も含まれる。かかる細菌としては、特に制限はないが、例えは、カルバぺネム耐性腸内細菌科細菌(CRE、KPC-2産生Klebsiella pneumoniae等)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE、バンコマイシン耐性遺伝子(vanA)を有する細菌等)、クロストリジウム ディフィシル、カンピロバクター ジェジュニが挙げられる。より具体的には、Klebsiella pneumoniae(ATCC BAA-1705)、Enterococcus faecium(Orla-Jensen)Schleifer and Kilpper-Balz(ATCC 700221)、Clostridioides difficile(Prevot)Lawson et al.(ATCC 43255、菌株表示:VPI 10463)、Clostridioides difficile(Prevot)Lawson et al.(ATCC BAA-1382、菌株表示:630)、Campylobacter jejuni 81-176(ATCC BAA2151)が挙げられる。
【0050】
「薬剤耐性細菌に起因する疾患」とは、薬剤耐性細菌による感染症が挙げられる。また当該感染に起因、関連する疾患も含まれる。かかる疾患としては、例えば、敗血症、腹膜炎、髄膜炎、胃腸炎、肺炎等の呼吸器感染症、尿路感染症、手術部位感染症、軟部感染症、医療器具関連感染症(医療器具関連血流感染症等)が挙げられる。
【0051】
本発明において、「炎症惹起性細菌」とは、腸管内にて炎症を惹起する細菌を意味し、例えば、接着侵入性大腸菌(AIEC)が挙げられる。より具体的には、AIEC LF82が挙げられる。
【0052】
「炎症惹起性細菌に起因する疾患」とは、当該細菌によって惹起される炎症に起因、又は関与する疾患が挙げられる。かかる疾患としては、例えば、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患といった慢性炎症性腸疾患等)が挙げられる。
【0053】
本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等は、ヒトを含む動物を対象として使用することができるが、ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物等を対象とすることができる。
【0054】
また、本発明の腸内細菌等の摂取対象としては、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の発症の如何を問わず、薬剤耐性細菌等を保有する動物が挙げられる。また予防の観点からは、該細菌を保有していない又はその保有の疑いのある動物に、本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等を摂取させてもよい。
【0055】
本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等の摂取方法としては、特に制限はなく、経口投与であってもよく、また非経口投与(例えば、腸管内への投与)であってもよいが、経口投与である場合には、本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等の効果をより向上させるという観点から、本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等の摂取対象は、プロトンポンプ阻害剤(PPI)等の摂取により胃酸の産生を減少させておくことが好ましい。
【0056】
また、本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等を摂取させる場合、その摂取量は、対象の年齢、体重、疾患の症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品等)、摂取方法等に応じて、当業者であれば適宜選択することができる。
【0057】
以上、本発明の抗菌組成物及び医薬組成物、並びに治療方法等の好適な実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されるものではない。
【0058】
後述の実施例に示すとおり、Th1細胞誘導性細菌であるクレブシエラ2H7株(Kp2H7)の腸内定着抑制能に関し、健常人#F由来の腸内細菌37株と同程度のそれを発揮し得る18株を選抜することに成功した。したがって、本発明は、抗菌組成物及び医薬組成物、並びに治療方法等に関し、下記態様も提供し得る。
<1> 腸内細菌を有効成分として含有し、前記前記腸内細菌が、配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌である、Th1細胞誘導性細菌に対する抗菌組成物。
<2> 医薬組成物である、<1>に記載の抗菌組成物。
<3> Th1細胞に起因する疾患を治療、改善又は予防するための医薬組成物である、<1>又は<2>に記載の抗菌組成物。
<4> <1>~<3>のうちのいずれか一項に記載の抗菌組成物、又は、配列番号:69、80、85~92、94、96、98~101、103及び105のうちのいずれかに記載の塩基配列又は当該塩基配列に対して少なくとも90%の同一性を有する塩基配列からなるDNAを有する、少なくとも1の細菌を、対象に摂取させることを特徴とする、対象におけるTh1細胞の増殖若しくは活性化を抑制する方法、該対象における免疫を抑制する方法、又は該対象におけるTh1細胞に起因する疾患を治療、改善又は予防する方法。
【0059】
本発明にかかる「Th1細胞誘導性細菌」は、通常ヒトの口腔内に存在しているが、腸管内に定着することにより、Th1細胞の増殖又は活性化を誘導する細菌である。好ましくは、Klebsiellaに属し、より好ましくは、Klebsiella pneumoniae又はKlebsiella aeromobilisに属し、かつ腸管内でTh1細胞の増殖又は活性化を誘導する細菌である。また、「Th1細胞誘導性細菌」は、好ましくは、抗菌剤の投薬により健常状態と比較して多様性が変化した腸内環境において、定着しやすい細菌である。また、大腸炎等により健常状態と比較して多様性が変化した腸内環境において、定着しやすい細菌でもある。
【0060】
「Th1細胞誘導性細菌」の例については、特許文献1を参照とすることができるが、典型的には、Klebsiellaに属するKp2H7株、Ka11E12株、34E1株、BAA-1705株、700603株、40B3株が挙げられる。これらの中で、より好ましくは、Kp2H7株又はKa11E12株であり、特に好ましくは、Kp2H7株である。なお、これら細菌の詳細については、表6を参照のほど。
【0061】
【表6】
【0062】
また、本発明の「Th1細胞誘導性細菌」としては、Kp2H7株、Ka11E12株、34E1株、BAA-1705株、700603株又は40B3株の16SrRNAをコードするヌクレオチド配列と90%以上(91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の同一性を有するヌクレオチド配列からなるDNAを含有する細菌が挙げられ、また、Kp2H7株、Ka11E12株、34E1株、BAA-1705株、700603株又は40B3株に特異的なヌクレオチド配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは94%以上(例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上))の相同性又は同一性を有するヌクレオチド配列からなるDNAを含有する細菌も挙げられる。
【0063】
本発明において、「Th1細胞」とは、CD4陽性のヘルパーT細胞(Th細胞)の亜群であり、細胞性免疫を増強させる細胞を意味する。また、「Th1細胞の活性」とは、該細胞によるTh1サイトカイン(IFN-γ等)の産生、該サイトカインによるマクロファージ、細胞傷害性T細胞(CTL)等の細胞の活性化、該活性化による細胞性免疫の増強を含む意味である。さらに、「Th1細胞の増殖又は活性化の誘導」とは、Th1細胞の増殖又は活性化に至る、ナイーブT細胞からTh1細胞への分化誘導も含む意味である。
【0064】
腸管内におけるTh1細胞を増殖又は活性化を誘導する作用は、Th1細胞特異的なマーカー(例えば、CD4及びIFN-γ)を定量的に検出することによって、評価することができる。かかる定量的な検出は、公知の手法によって行うことができ、例えば、フローサイトメトリー、イメージングサイトメトリー、ELISA法、ラジオイムノアッセイ、免疫組織化学的染色法、免疫沈降法、イムノブロッティング、抗体アレイ解析法等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)によって行うことができる。
【0065】
任意の菌等が、腸管内におけるTh1細胞を増殖又は活性化を誘導する作用を有しているか否かは、例えば、フローサイトメトリーによって検出された腸管内におけるCD4TCRβT細胞における、IFN-γ細胞の割合が、10%以上であった場合に、前記菌等が、腸管内におけるTh1細胞を増殖又は活性化を誘導する作用を有していると判定することができる(25%以上であった場合に、前記菌等が、腸管内におけるTh1細胞を増殖又は活性化を誘導する作用を有していると判定することが好ましく、30%以上であった場合に、前記菌、物質等が、腸管内におけるTh1細胞を増殖又は活性化を誘導する作用を有していると判定することがより好ましい)。
【0066】
本発明において、「Th1細胞に起因する疾患」とは、Th1細胞の増殖又は活性化によって誘発された疾患を意味し、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患といった慢性炎症性腸疾患等)、1型糖尿病、関節リウマチ、実験的免疫性脳炎(EAE)、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患、慢性炎症性疾患が挙げられる。また、本発明において抑制される「免疫」には、粘膜免疫(腸管免疫等)のみならず、全身免疫も含まれる。さらに、細胞性免疫のみならず、液性免疫も含まれる。
【0067】
また、本発明の抗菌組成物を医薬組成物として用いる場合には、Th1細胞に起因する疾患の治療、予防又は改善に用いられる公知の物質(例えば、抗炎症剤、免疫抑制剤)を更に含んでいてもよく、またかかる物質と併用してもよい。
【0068】
なお、上記<1>~<4>における、その他の文言については、上述の<抗菌組成物及び医薬組成物>及び<治療方法等>を適宜参照のほど。
【0069】
<薬剤耐性細菌等に起因する疾患の検査用組成物>
本発明において、薬剤耐性細菌等が腸管に定着等することを抑制し得る腸内細菌の存在が明らかになった。そのため、当該腸内細菌の存在を検出することにより、薬剤耐性細菌等に起因する疾患を検査することが可能となる。
【0070】
したがって、本発明は、以下の薬剤耐性細菌等に起因する疾患を検査するための組成物を提供する。
【0071】
本発明の腸内細菌等を特異的に認識する抗体を含む、薬剤耐性細菌等に起因する疾患を検査するための組成物。
【0072】
本発明の薬剤耐性細菌等に特異的なヌクレオチド配列を検出するためのポリヌクレオチドを含む、薬剤耐性細菌等に起因する疾患を検査するための組成物。
【0073】
本発明において、「本発明の腸内細菌等を特異的に認識する抗体」は、該細菌を特異的に認識し得る限り、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、また抗体の機能的断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、又はこれらの重合体)であってもよい。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(本発明の腸内細菌等に由来するポリペプチド、ポリヌクレオチド、糖鎖、脂質等)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0074】
また、本発明の検査に用いる抗体としては、標識物質を結合させた抗体を使用することができる。当該標識物質を検出することにより、本発明の腸内細菌等又は該細菌に由来する物質に結合した抗体量を直接測定することが可能である。標識物質としては、抗体に結合することができ、化学的又は光学的方法に検出できるものであれば特に制限されることはなく、例えば、蛍光色素(GFP等)、酵素(HRP等)、放射性物質が挙げられる。
【0075】
本発明の検査用組成物には、抗体成分の他、組成物として許容される他の成分を含むことができる。このような他の成分としては、例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩、標識物質、二次抗体が挙げられる。また、上記検査用組成物の他、標識物質の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、あるいは試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液、試料と本発明の抗体との反応に用いるチューブ又はプレート等を組み合わせることができ、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の検査用キットとすることもできる。また、標識されていない抗体を抗体標品とした場合には、当該抗体に結合する物質(例えば、二次抗体、プロテインG、プロテインA等)を標識化したものを組み合わせることができる。また、かかる薬剤耐性細菌等に起因する疾患の検査用キットには、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0076】
さらに、本発明の検査用組成物には、本発明の抗体を検出するための装置を組み合わせることもできる。かかる装置としては、例えば、フローサイトメトリー装置、マイクロプレートリーダーが挙げられる。
【0077】
本発明において、「本発明の腸内細菌等に特異的なヌクレオチド配列を検出するためのポリヌクレオチド」としては、該細菌に特異的な配列を検出する限り、特に制限はなく、例えば、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有する、下記(a)~(b)に記載のいずれかであるポリヌクレオチドが、挙げられる。
(a)前記特異的なヌクレオチド配列を挟み込むように設計された一対のプライマーであるポリヌクレオチド
(b)前記特異的なヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列にハイブリダイズするプライマー又はプローブであるポリヌクレオチド。
【0078】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の腸内細菌等のヌクレオチド配列に相補的な塩基配列を有する。ここで「相補的」とは、ハイブリダイズする限り、完全に相補的でなくともよい。これらポリヌクレオチドは、前記ヌクレオチド配列に対して、通常、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%の相同性を有する。
【0079】
本発明のポリヌクレオチドにおける「鎖長」としては、プライマーとして用いる場合に、通常15~100ヌクレオチドであり、好ましくは17~30ヌクレオチドであり、より好ましくは20~25ヌクレオチドである。また、プローブとして用いる場合には、通常15~1000ヌクレオチドであり、好ましくは20~100ヌクレオチドである。
【0080】
本発明のポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、またその一部又は全部において、LNA(登録商標、架橋化核酸)、ENA(登録商標、2’-O,4’-C-Ethylene-bridged nucleic acids)、GNA(グリセロール核酸)、TNA(トレオ―ス核酸)、PNA(ペプチド核酸)等の人工核酸によって、ヌクレオチドが置換されているものであってもよい。
【0081】
なお、本発明のポリヌクレオチドは、市販のヌクレオチド自動合成機等を用いて化学的に合成することができる。また、本発明の検査に用いるポリヌクレオチドとしては、標識物質を結合させたポリヌクレオチドを使用することができる。標識物質としては、ポリヌクレオチドに結合することができ、化学的又は光学的方法に検出できるものであれば特に制限されることはなく、例えば、蛍光色素(DEAC、FITC、R6G、TexRed、Cy5等)、蛍光色素以外にDAB等の色素(chromogen)、酵素、放射性物質が挙げられる。
【0082】
本発明の検査用組成物には、前述のポリヌクレオチドの他、薬理学上許容される他の成分を含むことができる。このような他の成分としては、例えば、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、防腐剤、生理食塩等が挙げられる。
【0083】
また、上記検査用組成物の他、ポリヌクレオチドに付加した標識物質の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液等の標品を組み合わせ、試料と本発明のポリヌクレオチドとの反応に用いるチューブ又はプレート等を組み合わせることができ、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の検査用キットとすることもできる。さらに、かかる薬剤耐性細菌等に起因する疾患の検査用キットには、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0084】
また、本発明の検査用組成物には、本発明の腸内細菌等に特異的なヌクレオチド配列を検出するための装置を組み合わせることもできる。かかる装置としては、例えば、サーマルサイクラ―、シークエンサー、マイクロアレイが挙げられる。
【0085】
さらに、本発明においては、前述の抗体、ポリヌクレオチド、又は検査用組成物を用いた、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の検査方法も提供する。すなわち、
前記抗体、ポリヌクレオチド、又は検査用組成物と、被検体から単離された試料とを接触させる工程、及び、該接触により、腸管内で本発明の腸内細菌等の存在又は非存在を検出する工程、を含む、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の検査方法を、本発明は提供する。
【0086】
被検体としては特に制限はなく、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の罹患が疑われるヒト等の動物が挙げられる。また、かかる被検体から単離された試料としても特に制限はないが、被検体の糞便試料、その培養物、又はそれらから抽出されるポリペプチド、ポリヌクレオチド、糖鎖、脂質等が、本発明の方法において好適に用いられる。
【0087】
本発明の抗体又はそれを含む検査用組成物と、前記試料とを接触させることにより、本発明の腸内細菌等の存在又は非存在を検出する方法としては、例えば、ELISA法、イムノブロッティング、抗体アレイ解析法、免疫組織化学的染色法、フローサイトメトリー、イメージングサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)が挙げられる。
【0088】
また、本発明のポリヌクレオチド又はそれを含む検査用組成物と、前記試料とを接触させることにより、本発明の腸内細菌等の存在又は非存在を検出する方法としては、例えば、PCR(RT-PCR、リアルタイムPCR、定量PCR)、DNAマイクロアレイ解析法、ノーザンブロッティング、16srRNAシークエンシング、次世代シークエンシング法(合成シークエンシング法(sequencing-by-synthesis、例えば、イルミナ社製Solexaゲノムアナライザー又はHiseq(登録商標)2000によるシークエンシング)、パイロシークエンシング法(例えば、ロッシュ・ダイアグノステックス(454)社製のシークエンサーGSLX又はFLXによるシークエンシング(所謂454シークエンシング))、リガーゼ反応シークエンシング法(例えば、ライフテクノロジー社製のSoliD(登録商標)又は5500xlによるシークエンシング)、ビーズアレイ法、in situ ハイブリダイゼーション、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ法、質量分析法、ゲノムPCR法、サザンブロッティングを用いることができる。
【0089】
本発明において、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の「検査」とは、該疾患の発症の有無のみならず、その発症のリスクを検査することも含まれ、前述の方法により、腸管内で本発明の腸内細菌等の存在が検出されれば、薬剤耐性細菌等に起因する疾患が発症していない又はその発症リスクが低いと判定することができる。
【0090】
被検体における薬剤耐性細菌等に起因する疾患の診断は、通常、医師(医師の指示を受けた者も含む)によって行われるが、本発明の方法によって得られるデータは、医師による診断に役立つものである。よって、本発明の方法は、医師による診断に役立つデータを収集し、提示する方法とも表現しうる。
【0091】
また、本発明においては、前述の検査方法を利用したコンパニオン診断法、及びその薬剤も提供することができる。すなわち、本発明は以下も提供する。
【0092】
本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等の、薬剤耐性細菌等に起因する疾患の治療、改善又は予防における有効性を判定する方法であって、前記抗体、ポリヌクレオチド、又は検査用組成物と、被検体から単離された試料とを接触させる工程、該接触により、前記腸内細菌等の存在又は非存在を検出する工程、前記工程において、該細菌の存在が検出されなかった場合において、前記被検体における本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等の前記疾患の治療、改善又は予防における有効性が高いと判定される方法。
【0093】
薬剤耐性細菌等に起因する疾患を治療、改善又は予防する方法であって、前記判定方法により、本発明の医薬組成物等又はそれらの有効成分等の有効性が高いと判定された患者に、該医薬組成物等又はそれらの有効成分等を摂取させる工程を含む方法。
【0094】
本発明の腸内細菌等を、有効成分として含む、薬剤耐性細菌等に起因する疾患を治療、改善又は予防するための組成物であって、前記判定方法により有効性が高いと判定された被検体に摂取される組成物。
【0095】
<腸管内で薬剤耐性細菌等に対して抗菌活性を有する腸内細菌をスクリーニングする方法>
腸内細菌において、腸管内で薬剤耐性細菌等の定着等を抑制する細菌が存在することも、本発明者らによって初めて明らかとなった。したがって、本発明は、以下の工程を含む、薬剤耐性細菌等に対して抗菌活性を有する腸内細菌をスクリーニングする方法を提供する。
【0096】
腸管内で薬剤耐性細菌等と、被験腸内細菌とを、非ヒト無菌動物に摂取させる工程、
該非ヒト無菌動物の腸管内において、前記薬剤耐性細菌等を検出する工程、
前記工程にて検出された細菌の数が、前記被験腸内細菌を摂取させなかった場合と比較して減少している場合に、該被験腸内細菌を、薬剤耐性細菌等に対して抗菌活性を有する腸内細菌であると判定する工程。
【0097】
「薬剤耐性細菌等」については上述のとおりである。「非ヒト無菌動物」は、無菌条件下で、出生及び生育している、ヒト以外の動物を意味する。ヒト以外の動物としては、例えば、マウス、ラット、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒル、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター等が挙げられるが、これらに制限されない。また、これら動物においては、マウスが好適に用いられる。
【0098】
非ヒト無菌動物に摂取させる被験腸内細菌としては、動物の腸内に存在する細菌であればよく、かかる動物としては、ヒト、非ヒト動物(マウス、ラット、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒル、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター等)が挙げられる。また、非ヒト無菌動物に摂取させる被験腸内細菌は、単離された腸内細菌であってもよいが、腸内細菌を含む試料(例えば、前記動物の糞便試料、又はその培養物)が挙げられる。
【0099】
また、被験腸内細菌及び薬剤耐性細菌等を、非ヒト動物に「摂取」させる方法としては特に制限はなく、通常、経口投与によって行われるが、非経口投与(例えば、腸管内への投与)であってもよい。また、被験腸内細菌と薬剤耐性細菌等との摂取は、同時であってもよく、被験腸内細菌を非ヒト動物に摂取させた後に前記薬剤耐性細菌等を該動物に摂取させてもよく、前記薬剤耐性細菌等を非ヒト動物に摂取させた後に被験腸内細菌を該動物に摂取させてもよい。
【0100】
腸管内における薬剤耐性細菌等の「検出」は、当該薬剤耐性細菌等特異的なヌクレオチド配列を検出することによって行なうことができる。かかる検出方法として、例えば、PCR(RT-PCR、リアルタイムPCR、定量PCR)、DNAマイクロアレイ解析法、ノーザンブロッティング、16srRNAシークエンシング、次世代シークエンシング法(合成シークエンシング法(sequencing-by-synthesis、例えば、イルミナ社製Solexaゲノムアナライザー又はHiseq(登録商標)2000によるシークエンシング)、パイロシークエンシング法(例えば、ロッシュ・ダイアグノステックス(454)社製のシークエンサーGSLX又はFLXによるシークエンシング(所謂454シークエンシング))、リガーゼ反応シークエンシング法(例えば、ライフテクノロジー社製のSoliD(登録商標)又は5500xlによるシークエンシング)、ビーズアレイ法、in situ ハイブリダイゼーション、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ法、質量分析法、ゲノムPCR法、サザンブロッティングが挙げられる。
【0101】
また、腸管内における薬剤耐性細菌等の「検出」は、例えば、当該薬剤耐性細菌等特異的なアミノ酸配列を検出することによって行なうことができる。かかる検出方法として、ELISA法、イムノブロッティング、抗体アレイ解析法、免疫組織化学的染色法、フローサイトメトリー、イメージングサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)が挙げられる。検出のタイミングとしては、特に制限はなく、当業者であれば、用いる動物の種類等に応じ、適宜調整し得る。
【0102】
なお、本発明のスクリーニング方法において、1回の実施により、薬剤耐性細菌等に対して抗菌活性を有する腸内細菌を選抜することができなかった場合には、得られた該細菌を含む腸管内試料を、次なる被験腸内細菌として、新たな非ヒト無菌動物に摂取させ、前述のスクリーニングを複数回行うことにより、前記抗菌活性を有する腸内細菌を単離することができる。
【実施例
【0103】
(実施例1)
図1の上部に示すように、無菌マウスにクレブシエラ2H7株(Kp2H7)を投与し、1週間後に健常ボランティアの便サンプルを投与した。
【0104】
具体的には、無菌マウスはC57BL/6N(日本クレア株式会社)の4~8週齢を、飼育用ビニルアイソレータ(無菌アイソレータ)(株式会社アイシーエム製;ICM-1B)内で、自由飲水給餌条件で1週間以上飼育し、環境馴化させてから使用した。実験開始時の週齢は8~14週齢となる。本明細書中の他の実施例も同様である。
【0105】
クレブシエラの菌液を、LB液体培地に入れ37℃で一晩培養しOD値を1.2(1*10^9CFU/mL相当)に調整し、200μL/匹(2*10^8CFU/匹相当)の菌液をマウスの胃内にゾンデを使用して投与した。
【0106】
便サンプルは、日本人健常者ボランティア(#A、#F、#I、#J、#K)から提供された糞便をグリセロールPBS溶液(グリセロールの終濃度:20体積%)で5倍重量に希釈し、100μm径フィルタで濾過したものを、ストック液として-80℃で保存した。便投与時に嫌気チャンバー内でストック液をPBSで10倍希釈し200μL/匹ずつマウスの胃内にゾンデを使用して投与した。
【0107】
マウスの便サンプルをグリセロール(終濃度20%)及びEDTA(終濃度10mM)をPBSに混合した溶液に50mg便/mLの割合で溶解した。便溶解液を50mg/L アンピシリン及び50mg/L スペクチノマイシンを入れたDHL培地に適切な希釈をした後に播種し、37℃で一晩培養した後にコロニー数をカウントし、便1gあたりのCFU数を算出した。
【0108】
本明細書中の他の実施例でも、クレブシエラの菌液及び糞便の投与は同様の方法で行い、CFUも同様の方法でカウントした。
【0109】
その結果、図1の下部(グラフ)に示すとおり、5種類の便を使用したが、いずれのサンプルでも、Kp2H7菌量の顕著な低下が認められた。
【0110】
(実施例2) 健常者ボランティア便からの菌の単離
実施例1において調製した、健常者F、K及びI由来の便(F便、K便及びI便)由来の各凍結便サンプルを、常温にて融解した後、PBSで希釈し、EG培地、変法GAM寒天培地(日水製薬株式会社;05426)、REINFORCED CLOSTRIDIAL AGAR(RCM AGAR)(Thermo Fisher Scientific Inc;CM0151)又はSchaedler血液培地(Wako社製;517-45805)の各アガープレートにて、37℃、10%CO嫌気環境下で培養し、形成したコロニーを単離した。F便からは37株、I便からは42株、K便からは47株を単離した。その後K便に関しては再度単離を行い、最終的にK便から68株を単離した。
【0111】
単離菌は、サンガー法による16SrDNA解析により、遺伝子配列の解析及び菌種の推定を行った。シークエンス解析は、Thermo Fisher Scientific社製3130 DNA Analyzer、及び、以下の配列のプライマーセットを用いて行なった。
27Forward-mod:5’-AGRGTTTGATYMTGGCTCAG-3’ (配列番号:148)
1492Reverse:5’-GGYTACCTTGTTACGACTT-3’ (配列番号:149)
ここで、R:A又はG、Y:C又はT、M:A又はCである。
【0112】
さらに、F便由来の37菌株について、次世代シーケンサーを用いてゲノム配列を決定した。すなわち、Illumina社製 MiSeq及びPacific Biosciences社製Sequelを用いて、それぞれゲノムシークエンスを行い、Unicyclerを用いたハイブリッドアセンブリにより全ゲノム配列をそれぞれ取得した。この各ゲノム配列に対し、RNAmmerを用いて16S rRNA配列を抽出することで、前記サンガー法で決定した16S rDNA配列では決定することができなかった両末端配列を含む、より高精度な配列を取得した。
【0113】
このようにして解析した結果を、表1~4に示す。また、ドナーF、I、K由来の3種類の便を16Sメタ解析した結果を、図2に示す。
【0114】
(実施例3)
図3の上部に示すように、無菌マウスにKp2H7を投与し、1週間後に混合した単離菌(F便由来の37株(F37mix)、I便由来の42株(I42mix)、K便由来の47株(K47mix))又はI便を投与した。
【0115】
単離菌はmGAM液体培地、EG培地又はCM0149培地を用いて37℃で、嫌気チャンバー内で24~48時間培養し、混合した。混合液を5倍濃縮し、200μL/匹(Total菌量 1*10^9CFU/匹相当)の菌液を、ゾンデを用いて胃内に投与した。以下の実施例での混合単離菌株の投与も同様の方法にて行った。
【0116】
その結果、図3の下部(グラフ)に示すとおり、F便由来の37株は、クレブシエラのマウス腸管内からの排除能に関し、I便と同等の活性を有していることが明らかになった。
【0117】
(実施例4)
図4の上部に示すように、無菌マウスにKp2H7を投与し、1週間後に混合した単離菌(F便由来の37株、K便由来の68株)を投与した。その結果、図4の下部(グラフ)に示すとおり、F便由来の37株とK便由来の68株は同等にクレブシエラをマウスの腸管内から排除した。
【0118】
(実施例5)
図5の上部に示すように、無菌マウスにKp2H7を投与し、1週間後に混合した単離菌(F37mix)を投与し、単離菌投与後後からアンピシリン 200mg/Lを飲水投与した。投与した各菌の菌量の変化を調べるために、各菌の特異的プライマーを用いてPCRを行なった。解析に用いたプライマーを表7に示す。
【0119】
【表7】
【0120】
その結果、図5の下部に示すように、アンピシリン投与により、クレブシエラの菌量は一過性に上昇したがその後再度減少した。
【0121】
また、全菌量における各単離菌菌の存在比率について、Kp2H7のそれと共に、経時的変化を解析した。得られた結果を図6A~6Hに示す。さらに、クレブシエラの菌量と各菌のスピアマンの順位相関係数を算出し、正の相関の高いものから順に並べた。得られた結果を図7に示す。
【0122】
図7に示すとおり、Bacteroidetesに属する株はクレブシエラの動きと関係なく動いていることが判明した。一方、負の相関をしている株はFurmicutes属に属するものが多かった。
【0123】
(実施例6)
図9に示すように、F便由来の37株をBacteroidetesに属する8株(F8mix)とそれ以外の29菌株(F29mix)に分けてそれぞれ混合し、無菌マウスにKp2H7を定着させた後、混合した単離菌を投与した。なお、図9、10及び12に示す系統樹は、単離菌のサンガー法による16SrDNA解析結果のDNA塩基配列をMEGA Xを用い、Neighbor-joining法にて作成した。
【0124】
その結果、図8に示すとおり、F37mixとF29mixは同等にクレブシエラをマウスの腸管内から排除した。一方、Bacteroidetesに属するF8mix投与群において、クレブシエラの菌量は変わらず、F8mixは、クレブシエラの排除に関係ないことが示唆された。
【0125】
(実施例7)
37株からBacteroidetesに属する株、16SrDNAレベルで重複している株、アンピシリン投与で消失した株、クレブシエラと無関係の挙動を示す株を除外し18株を選出した(図10 参照)。
【0126】
そして、図11の上部に示すように、無菌マウスにKp2H7株を投与し、1週間後に混合した単離菌(F便由来の37株(F37mix)、18株(F18mix)、I便由来の42株(I42mix))を投与した。
【0127】
その結果、図11の下部(グラフ)に示すとおり、図10に示す18株でも37株と同等に、クレブシエラ株排除能を発揮できることが明らかになった。
【0128】
(実施例8)
図10に示す18株を系統樹に基づいて4つのグループに分けた(Blautia、Lachonoclostridum、other Firmicutes、other Phyla)(図12 参照)。さらに、これらの4つのグループを18菌株(F18mix)から引いてF15mix(F18mix-other phyla)、F12mix(F18mix-Lachnoclostiridum)、F14mix(F18mix-Blautia)、F13mix(F18mix-other Firmicutes)の菌株グループを作製した。また37株から重複した株を除き、その31株からさらに前記18株を除いた13株(F13mix(F31-18mix))を混合した菌株セットも作製した。そして、図13の上部に示すように、無菌マウスにKp2H7を投与し、1週間後に、前述のとおり混合した各単離菌を投与した。
【0129】
その結果、図13の下部(グラフ)に示すとおり、F18mixは最もよくクレブシエラを排除した。しかしながら、そこからどのグループを除いてもクレブシエラの菌量は有意に多くなった。また図14に示すとおり、図13に示す実験におけるday28の時点における各投与群における便中クレブシエラのCFUにおいても、F18mixは、F37mix以外の他の群よりも、統計学的に有意にクレブシエラを低減できた。
【0130】
以上のことから、図10に示した4つのグループのいずれも、クレブシエラの排除に関わっており、コミュニティとしてクレブシエラの排除を行なっていることが示唆された。
【0131】
また、図13に示す実験において、F37mix、F18mix、F31-18mixのグループのマウスから大腸粘膜固有層のリンパ球を抽出し、フローサイトメトリーでの解析に供した。
【0132】
その結果、図15に示すように、CD4+IFNγ+細胞の割合はF13mix(F31-18mix)群で高く、F37mix、F18mixではTh1細胞の誘導が抑制されていることが明らかになった。
【0133】
(実施例9)
実施例8にて示したとおり、F18mixから各グループの菌を除いた実験において、other Phylaの3株を除いたF15mixが、クレブシエラ排除能において、最も低かった。そこで、この群に着目し、F便由来の18株からこの3株(E.coli、Bifidobacterium、Fusobacterium)を1株ずつ除いたものを作製した。そして、図16の上部に示すように、無菌マウスにKp2H7株を投与し、1週間後に、前記のとおり混合した単離菌、F18mix又はF15mixを投与した。
【0134】
その結果、図16の下部(グラフ)に示すとおり、前記3株のいずれかを除くことによって、クレブシエラ菌量の1log程度の増加が認められ、いずれの株もクレブシエラの排除に関わっていることが示唆された。
【0135】
(実施例10)
F37mixのクレブシエラを排除するメカニズムを探索するために、本メカニズムにホストの免疫が関与しているかに着目した。そこで、図17の上部に示すとおり、無菌のRag2-/-γc-/-マウス、MyD88-/-Triff-/-マウス、又は野生型マウスにクレブシエラ2H7株を投与し、1週間後に混合したF37mixを投与した。
【0136】
その結果、図17の下部(グラフ)に示すとおり、どのタイプのマウスにおいても、F37mixによる同程度のクレブシエラ2H7株の排除が認められた。このことから、ホストの主要な自然免疫、獲得免疫は、クレブシエラの排除に関与していないことが示唆された。
【0137】
次に、単離した菌株のKp2H7株以外の病原菌や薬剤耐性菌への排除効果を評価した。なお、解析には、各菌特異的なプライマーとして、表8に示すプライマーを用いた。
【0138】
【表8】
【0139】
(実施例11)
先ず、図18の上部に示すように、無菌マウスにカルバペネム耐性クレブシエラ(CRE)を投与し、1週間後に、混合したF37mix、K68mix又はI42mixを投与した。得られた結果を、図18の下部に示す。
【0140】
なお、CREの菌液は、LB液体培地に入れ37℃で一晩培養し、OD値を1.2(1*10^9 CFU/mL相当)に調整し、200μL/匹(2*10^8 CFU/匹相当)の菌液をマウスの胃内にゾンデを使用して投与した。CREのCFUのカウントには、アンピシリン30mg/L、スペクチノマイシン 30mg/L入りのDHL培地を選択培地として使用し、37℃好気条件下で一晩培養した。
【0141】
また、混合した単離菌の投与後1ヶ月のマウスを解剖し、大腸を4%PFAで固定し、パラフィン包埋した後、薄切切片を作製した。この切片をヘマトキシリン液及びエオジン液で染色し、組織の炎症像を観察した。得られた結果を図19に示す。
【0142】
図18の下部(グラフ)に示すとおり、F37mix及びK68mixは同等のCRE排除能を示し、I42mixはそれらよりもやや劣る結果であった。また、図19に示すとおり、いずれのマウスにおいても、潰瘍形成や炎症細胞の浸潤等の炎症所見は認められなかった。このことから、前記各単離菌混合群を投与することによって、大腸における炎症惹起が抑制されることが明らかになった。
【0143】
(実施例12)
図20の上部に示すように、無菌マウスにバンコマイシン耐性Enterococcus faecium(VRE)を投与し、1週間後に混合したF37mix、K68mix又はI42mixを投与した。
【0144】
なお、VREの菌液は、LB液体培地に入れ37℃で一晩培養しOD値 1.2(1*10^9 CFU/mL相当)に調整し、200μL/匹(2*10^8 CFU/匹相当)の菌液をマウスの胃内にゾンデを使用して投与した。VREのCFUカウントにはVRE培地(日本ベクトン)を使用し、37℃好気条件下で一晩培養した。
【0145】
その結果、図20の下部(グラフ)に示すように、VREに対し、K68mixが最も高い排除能を発揮した。また、図21に示すとおり、いずれのマウスにおいても、潰瘍形成や炎症細胞の浸潤等の炎症所見は認められなかった。このことから、前記各単離菌混合群を投与することによって、大腸における炎症惹起が抑制されることが明らかになった。
【0146】
(実施例13)
図22の上部に示すように、無菌マウスにadhesion-invasive E.coli(AIEC LF82)を投与し、1週間後に混合したF37mix、K68mix、I42mixを投与した。
【0147】
なお、AIEC LF82の菌液は、LB液体培地に入れ37℃で一晩培養しOD 1.2(1*10^9 CFU/mL相当)に調整し、200μL/匹(2*10^8 CFU/匹相当)の菌液をマウスの胃内にゾンデを使用して投与した。AIEC LF82のCFUのカウントには、セフォタキシム1mg/L入りのマッコンキー培地を選択培地として使用し、37℃好気条件下で一晩培養しCFUを算出した。
【0148】
その結果、図22の下部(グラフ)に示すとおり、F37mixが最もAIEC LF82に対する排除能が高かった。
【0149】
(実施例14)
図23の上部に示すように、無菌マウスにESBL産生クレブシエラ(Kp-ESBL)(ATCC 700721)を投与し、1週間後に混合したF37mix、K68mix、I42mix又はF便を投与した。
【0150】
なお、Kp-ESBLの菌液は、LB液体培地に入れ37℃で一晩培養し、OD 1.2(1*10^9 CFU/mL相当)に調整し、200μL/匹(2*10^8 CFU/匹相当)の菌液をマウスの胃内にゾンデを使用して投与した。Kp-ESBLのCFUのカウントには、アンピシリン 30mg/L、スペクチノマイシン 30mg/L入りのDHL培地を選択培地として使用し、37℃好気条件下で一晩培養し算出した。
【0151】
その結果、図23の下部(グラフ)に示すとおり、F37mix及びK68mixは、F便と同等のKp-ESBL排除能を示した。
【0152】
(実施例15)
図24及び25の上部に示すように、無菌マウスにCampylobacter jejuni 81-176(ATCC BAA2151)を投与し、1週間後に混合したF37mix、K68mix、I42mix又はF便を投与した。
【0153】
Campylobacter jejuniの菌液は、TS液体培地に入れ微好気アネロパックとともに嫌気ジャーに入れて42℃、48時間培養し、その菌液をマウスの胃内にゾンデを使用して投与した。
【0154】
Campylobacter jejuniに関してはその菌量を示すのに、CFU及びqPCRを用いた。
【0155】
CFUカウントにはクロモアガーカンピロバクターを使用し、微好気アネロパックとともに嫌気ジャーに入れて42℃、48時間培養した。得られた結果を図24に示す。
【0156】
qPCR測定は、以下の手順で行った
LightCycler(登録商標)480II(Roche;05015243001)及びThunderbird(登録商標)SYBR(登録商標)qPCR Mix(TOYOBO;QPS-201X5)を用いて、Campylobacter jejuniゲノム特異的プライマー及びユニバーサル細菌プライマーで増幅定量し、算出したDNA濃度比率をCampylobacter jejuniの存在比率とした。得られた結果を図25に示す。
【0157】
なお、qPCRのCampylobacter jejuniゲノム特異的プライマーとして、配列番号:220及び221に記載のプライマーセットを用い、ユニバーサル細菌プライマーとしては、配列番号:222及び223に記載のプライマーセットを用いた。
【0158】
また、菌ゲノムの抽出は、以下の工程で行った
マウス糞便10mgに対してEDTA及びグリセロール含有PBS溶液(EDTAの終濃度:10mM、グリセロールの終濃度:20体積%)を5倍重量加え、激しく振盪撹拌して破砕懸濁した。サンプル液100μLに、15mgリゾチーム(Sigma-Aldrich社製、Lysozyme from chicken egg white;L4919)及び5μL RNase(Thermo Fisher Scientific社製、PureLink RNase A(20mg/mL);12091-021)を溶解した10mM Tris/10mM EDTA緩衝液(pH8.0、以下「TE10」とも称する)800μLを加え、37℃で1時間振盪した。続いて、アクロモペプチダーゼ(登録商標)(Wako;015-09951)2,000Uを添加し、37℃で30分間振盪し、溶菌した。そして、20%SDS TE10溶液 50μLと、終濃度が20mg/ml プロテイナーゼK(Roche,Proteinase K,recombinant,PCR Grade;03115852001)を溶解したTE10溶液50μLを加え、55℃で60分間振盪した。次いで、400μLの溶液からMaxwell(登録商標) RSC Cultured Cells DNA Kit(Promega社)を用いてDNAを得た。
【0159】
図24及び25に示すとおり、Campylobacter jejuniに対してはいずれの混合した菌もF便と同等の良好な菌排除能を有していた。
【0160】
(実施例16)
図26の上部に示すとおり、無菌マウスにClostridum difficile(St.630)を投与し、1週間後に混合したF37mix、K68mix、I42mix、K47mix又はF便を投与した。なお、K47mixは、#K由来の糞便試料から単離された47株であり、1の菌株を除き、前記68菌株と重複(表1及び2に記載のK1~K46)している。
【0161】
C.difficleの菌液は、Spore化し、1x10^5 cells前後に調整しててマウスの胃内にゾンデを使用して投与した。Spore化は、Clospore培地で8日間、37℃嫌気チャンバー内で培養し、培地をPBSでwashした後、超音波処理、Lysoizyme及びtrypsinを加えて45℃、6時間、その後70℃で10分間処理し作製した。
【0162】
C.difficleに関してはその菌量を定量するのにqPCRを用いた。qPCRのプライマーには、配列番号:224及び225に記載のプライマーセットを用いた。
【0163】
その結果、図26の下部に示すように、C.difficileに対しては、K68mix及びK47mixにおいて高い排除能が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0164】
以上説明したように、本発明によれば、薬剤耐性細菌及び炎症惹起性細菌の腸管への定着等を抑制することによって、これら細菌に起因する疾患を治療、改善又は予防することが可能となる。したがって、本発明は、薬剤耐性細菌又は炎症惹起性細菌に起因する感染症等に関する、医薬品の開発、治療、改善及び予防等において、極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図7
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図10
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図13
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図15
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図26
【配列表】
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