(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物のがん治療における使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/36 20150101AFI20240515BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20240515BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240515BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240515BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
A61K35/36
A61K31/675
A61P1/16
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021574202
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 CN2019091337
(87)【国際公開番号】W WO2020248240
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】521544920
【氏名又は名称】俊熙有限公司
【氏名又は名称原語表記】MEGA WINNING LIMITED
【住所又は居所原語表記】UNIT 511, 5/F., TOWER B HUNGHOM COMMERCIAL CENTRE, 37 MA TAU WAI ROAD, HUNGHOM KOWLOON, HONG KONG, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 承▲キン▼
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-087724(JP,A)
【文献】Oncotarget,2017年,Vol. 8, No. 46,pp. 80730-80740
【文献】J. Int. Pharm. Res.,2018年,Vol. 45, No.8,pp. 597-602
【文献】日本薬理学雑誌,1981年,第78巻5-6号,pp.451-458
【文献】Oncology,1984年,Vol. 41,pp. 289-292
【文献】癌と化学療法,Vol. 10, No.11,1983年,pp. 2389-2392
【文献】注射用エンドキサン100mg/注射用エンドキサン500mg,添付文書 ,第17版,塩野義製薬株式会社,2019年03月
【文献】泌尿器外科,2013年,26(5),pp. 799-802
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/36
A61K 31/675
A61P 1/16
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物
およびシクロホスファミ
ドを含む患者におけるがんを予防または治療
するための組成物であって、
前記がんは、肝臓が
んである、
組成物。
【請求項2】
がんの治
療のための薬剤の組み合わせ物であって、前記薬剤の組み合わせ物は第一の抗がん剤としてのワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物、および、シクロホスファミドである第二の抗がん剤を含み、
前記がんは、肝臓が
んである、薬剤の組み合わせ物。
【請求項3】
前記ワクシニアウイルスにより炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物は、経口剤または注射剤に調剤されている、請求項1
または2に記載の
組成物または薬剤の組み合わせ
物。
【請求項4】
前記ワクシニアウイルスにより炎症を起こしたウサギ皮膚からの抽出物は、筋肉内注射剤、腹膜内注射剤、腹腔内注射
剤、皮下注射剤または静脈内注射剤に調剤されている、請求項
3に記載の
組成物または薬剤の組み合わせ
物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬分野に属する。具体的には、本発明はワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の治療における新規な使用に関する。より具体的には、本発明は前記抽出物のがんの予防または治療における使用に関する。本発明はまた、前記抽出物の患者における体細胞を刺激してサイトカインを分泌させる使用に関する。さらに、本発明は、一種の薬剤の組み合わせおよびそのがんの予防または治療における使用にも関し、当該薬剤の組み合わせは前記抽出物および他の抗がん剤を含む。
【背景技術】
【0002】
先進国、開発途上国を問わず、がんは最も死亡率が高い疾病であり、そしてその死亡率および発症率はまだ増加しつつある。そのため、市場において、抗腫瘍剤に対する需要は巨大である。
【0003】
すでに開発された抗腫瘍剤は、悪性腫瘍を治療する目的を達成するため、異なるルートからがん細胞を殺滅または抑制できる。例えば、抗腫瘍剤は、がん細胞の分裂を直接抑制し(例えば細胞毒性薬)、免疫系を活性化してがん細胞を認識して排除し(例えば免疫細胞療法、抗体療法、サイトカイン療法など)、がんの成長に必要な血管新生を抑制し(例えば血管新生阻害剤)、腫瘍に関与する細胞シグナル伝達を標的とする(例えばチロシンキナーゼの活性を抑制し、ファルネシルトランスフェラーゼの活性を抑制し、MAPKシグナル伝達経路を抑制するなど)、などができる。
【0004】
中国において、現在使用されている化学療法用薬剤の大部分は細胞毒性薬に属し、毒性および副作用が大きい。安全かつ有効であり、毒性および副作用が小さい抗腫瘍剤を探すことは、すでに科学者および臨床医学専門家が直面する重大なチャレンジになっている。
【0005】
近年、より多くの免疫療法が臨床応用および普及され、そしてサイトカイン療法は免疫療法の重要な分類の一つである(Chuan Li et al.、Journal of International Oncology、Vol.40 Issue(8)、2013年8月、を参照)。サイトカイン(例えば、インターフェロンIFN、インターロイキンILおよび腫瘍壊死因子TNF)は、腫瘍の位置において免疫エフェクター細胞および間質細胞を直接刺激することにより細胞傷害性細胞の腫瘍細胞認識を増強でき、
したがってこれらは免疫調節機能を備えているためがん細胞に対する免疫応答を活性化する薬剤として用いられることができる。また、免疫細胞を刺激してこれらのサイトカインを分泌させる薬剤についても、抗腫瘍の免疫反応を活性化できることが期待される。
【0006】
また、二種類以上の異なる抗がん剤を含む併用療法を求めることは有利となり、その理由は、このような併用療法はがん治療の相乗効果を生み出すことができ、そしてがん治療の毒性と副作用を軽減できる可能性があるからである。
【0007】
本明細書において言及される「ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物」とは、中国特許ZL98103220.6(中国特許番号CN1055249C)に記載されているような、ワクシニアウイルスの接種によって炎症を起こしたウサギの皮膚から抽出した活性物質のことであり、当該中国特許の全体内容を、参考としてここに組み入れる。このようなワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物は、立再適(lepalvir)なる商品名の下に市販品として入手でき、これは威世薬業(如皋)有限会社により製造されている。ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物とその薬理効果はWO2010/054531においても記載され、この出願の内容全体を、参考としてここに組み入れる。また、PCT/CN2019/083027においてワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の造血系損傷の治療における使用が記載され、この出願の全体内容を、参考としてここに組み入れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】中国特許第1055249号明細書
【文献】国際公開第2010/054531号
【文献】国際公開第2020/211009号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Chuan Li et al.、Journal of International Oncology、Vol.40 Issue(8)、2013年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的はがんまたは腫瘍の予防、緩和または治療用薬剤、および体細胞を刺激してサイトカインを分泌させることができる薬剤、の提供を含む。また、本発明の目的はまた、一種の相乗効果を有する薬剤の組み合わせおよびそのがん治療における使用の提供を含み、当該がん治療の薬剤の組み合わせの毒性と副作用はともに著しく低減される。
【0011】
本発明の技術的課題の一つは、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物、好ましくは立再適、の提供により解決される。また、本発明の技術的課題の一つは、前記抽出物と例えば細胞毒性薬(例えばDNAの化学構造に作用する薬剤または核酸合成に影響する薬剤)である他の一種の抗がん剤との組み合わせの提供により解決される。
【0012】
概していえば、発明者は、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物は、がんまたは腫瘍を有効に予防、治療または緩和できることを発見した。また、前記抽出物と他の抗がん剤の併用は、相乗的な治療効果を生むことができ、そして前記他の抗がん剤の毒性と副作用を軽減することができる。このような効果は、細胞毒性薬類である抗がん剤に対し特に有利である。なぜなら、本技術分野において、当該類の薬剤の毒性と副作用を減少すること、例えば治療効果を維持しまたはより高めながらその用量を減らすこと、が常に切望される。発明者は意外に、前記抽出物は細胞毒性薬と共に抗腫瘍の相乗効果を生め、そして細胞毒性薬の副作用を著しく軽減できる、ことを発見した。
【0013】
当業者は、一種の抗がん剤が放射線療法と相乗効果を生じることは、これが他の抗がん剤とも相乗効果を生じることを意味しないこと、を知っている。放射線療法と化学療法とは顕著に異なるがん治療メカニズムを有する。放射線療法の本質は、各種の異なるエネルギーの放射線を腫瘍に照射してがん細胞の生物分子構造を改変し、それによって局部において腫瘍を縮小する目的を達成することにある。放射線療法の副作用は主に、例えば皮膚の赤みと腫れ、喉の腫れと痛み、喉の渇きなどの、局部の反応である。一方、化学療法の作用原理は通常、がん細胞の細胞分裂を阻害すること、またはがん細胞を体からの排除を促進することであり、通常は全身投与である。化学療法副作用は通常、骨髄抑制、胃腸の反応などの全身反応である。
【0014】
化学療法、例えば細胞毒性薬、を用いてがん治療を行うとき、薬剤の副作用は通常患者の体重減少を引き起し得る。したがって、体重は薬剤の毒性および副作用を判断する総合指標である。また、化学療法剤の長期にわたる大量使用は胸腺と脾臓の免疫機能を抑制することがあるので、体の免疫系機能が低下した状態になり、腫瘍の転移および再発を引き起こしやすい。発明者は意外に、本発明の抽出物は化学療法例えば細胞毒性薬と併せて使用時、前記薬剤に起因する被験者の体重減少および脾臓指数の低下を緩和または防止できることを発見した。したがって、本発明は前記抽出物のこの態様における使用にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一態様において、本発明はワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の患者におけるがんを予防または治療する薬剤の製造における使用に関する。一態様において、本発明は、がんの予防または治療に用いられる、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物に関する。一態様において、本発明はがんを予防または治療する一種の方法に関し、前記方法は治療有効量のワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物を、必要としている患者に投与することを含む。
【0016】
一態様において、本発明はワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の患者における体細胞を刺激してサイトカインを分泌させる薬剤の製造における使用に関する。一態様において、本発明は、患者における体細胞を刺激してサイトカインを分泌させることに用いられる、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物に関する。一態様において、本発明は一種の患者における体細胞を刺激してサイトカインを分泌させる方法に関し、前記方法は治療有効量のワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物を必要としている患者に投与することを含む。
【0017】
一態様において、本発明はがん治療に用いられる一種の薬剤の組み合わせに関し、前記薬剤の組み合わせは、第一の抗がん剤としてのワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物および第二の抗がん剤を含む。前記第二の抗がん剤は前記第一の抗がん剤と異なる。
【0018】
一態様において、本発明は第一の抗がん剤としてのワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物および第二の抗がん剤の、患者におけるがんを予防または治療する薬剤の製造における使用に関する。一態様において、本発明は、抗がん剤(第二の抗がん剤)と併用して患者におけるがんの予防または治療に用いられる、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物(第一の抗がん剤)に関する。一態様において、本発明は一種のがんを予防または治療する方法に関し、前記方法は治療有効量の第一の抗がん剤としてのワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物および第二の抗がん剤を必要としている患者に投与ことを含む。前記態様において、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物(第一の抗がん剤)は他の一種の抗がん剤(第二の抗がん剤)と同時に、別々にまたは順番に施用されてよい。前記第二の抗がん剤は前記第一の抗がん剤と異なる。当該態様において、第二の抗がん剤はシクロホスファミドまたは5-フルオロウラシルであってよい。
【0019】
一態様において、本発明は、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物および任意の薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤を含む、一種の薬剤の組み合わせに関する。本発明の一態様において、前記薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤は、薬剤を経口剤または注射剤に調剤するものである。一態様において、前記ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物は経口剤または注射剤、好ましくは筋肉内注射剤、腹膜内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤または静脈内注射剤、に調剤される。一態様において、前記ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物は立再適である。前記薬剤の組み合わせはさらに第二の抗がん剤を含んでよい。
【0020】
本明細書において述べる「がん」は原発性腫瘍、腫瘍、転移性腫瘍または制御されない患者の体細胞の成長を特徴とする任意の疾病または障害を含んでよいが、これらに限定されない。がんは原発性または転移性がんであってよい。また、がんは固形がんおよび例えば白血病やリンパ腫である造血器悪性腫瘍を含んでよい。がんの実例は、肝臓がん、肺がん、子宮頸がん、胆管がん、膀胱がん、脳腫瘍、骨がん、乳がん、頭頸部がん、結腸直腸がん、大腸がん、胃がん、食道がん、胆道がん、肝細胞がん、腎臓がん、多発性骨髄腫、上咽頭がん、口腔がん、膵臓がん、卵巣がん、尿管がん、下垂体腺腫、尿道がん、前立腺がん、小細胞肺がん、扁平上皮がん、子宮内膜がん、白血病、リンパ腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、ユーイング肉腫、軟部組織肉腫、神経膠腫、皮膚がん、およびメラノーマを含む。本発明において、がんは好ましくは、例えば肝細胞がんである肝臓がん、例えば小細胞肺がんまたは非小細胞肺がんである肺がん、または子宮頸がんである。
【0021】
本明細書において述べる「サイトカイン」とは、免疫細胞(例えば単球、マクロファージ、Tリンパ球、Bリンパ球、NK細胞など)および特定の種類の非免疫細胞(例えば内皮細胞、表皮細胞、線維芽細胞など)が刺激を受けることにより合成、分泌される一群の幅広い生物学的活性を有するタンパク質のことである。サイトカインはインターロイキン(IL)およびインターフェロン(IFN)を含んでよい。本発明が関与しているサイトカインとは通常、がん治療と相関するサイトカインのことであり、例えばIFN-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-λであるIFN、および例えばIL-2、IL-4、IL-12であるIL、を含む。好ましくは、サイトカインはIL-2、IFN-γ、IL-4またはIL-12から選択される。
【0022】
したがって、サイトカインを分泌する体細胞とは通常、免疫細胞、内皮細胞、表皮細胞または線維芽細胞などのことであり、好ましくは免疫細胞である。免疫細胞はリンパ球、単核細胞、マクロファージ、NK細胞、顆粒球、肥満細胞および樹状細胞などを含んでよく、好ましくはリンパ球である。リンパ球はTリンパ球、Bリンパ球およびK細胞を含んでよく、そのうちTリンパ球は末梢血リンパ球、リンパ節リンパ球および脾臓リンパ球であってよい。また、Tリンパ球は細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞および制御性T細胞の三つのサブグループを含んでよい。
【0023】
本明細書において述べる「患者または患畜」は哺乳類であってよく、伴侶動物、実験動物、畜産動物などを含む。本発明において、「患者」は好ましくはヒトである。
【0024】
本明細書において、「抗がん剤」、「抗腫瘍剤」および「抗がん剤治療」などは互換的に使用することができ、患者のがんまたは腫瘍に対して実施する薬物治療のことを意味する。本明細書において言及される抗がん剤、特に第二の抗がん剤は、化学療法薬および免疫療法薬を含んでよい。または、抗がん剤は低分子化学医薬および高分子バイオ医薬を含んでよい。好ましくは、抗がん剤は、例えばDNAの化学構造に作用する薬剤および核酸合成に影響する薬剤(すなわち、代謝拮抗薬)である、細胞毒性薬を含む。
【0025】
DNAの化学構造に作用する薬剤の実例はアルキル化剤またはその薬学的に許容される塩を含む。アルキル化剤はナイトロジェンマスタード類またはその薬学的に許容される塩を含んでよい。
【0026】
ナイトロジェンマスタード類はβ-クロロエチルアミン類化合物の総称であり、その構造はアルキル化部分および担体部分の二つの部分に分けられる。アルキル化部分は抗腫瘍活性の官能基であり、そして担体部分は主として薬剤の体内における吸収、分布などの薬物動態学特性に影響する。ナイトロジェンマスタード類は脂肪族ナイトロジェンマスタード、芳香族ナイトロジェンマスタード、アミノ酸ナイトロジェンマスタード、ステロイドナイトロジェンマスタードまたは複素環式ナイトロジェンマスタードまたはその薬学的に許容される塩に分けられる。前記複素環式ナイトロジェンマスタードはシクロホスファミド、イホスファミド、4H-ペルオキシシクロホスファミド、デホスファミド、マホスファミド、4-ハイドロペルオキシシクロホスファミド、トロホスファミドまたはその薬学的に許容される塩を含んでよく、好ましくはシクロホスファミドである。また、脂肪族ナイトロジェンマスタードの実例は塩酸メクロレタミンを含み、芳香族ナイトロジェンマスタードの実例はクロラムブシルを含み、アミノ酸ナイトロジェンマスタードの実例はメルファランを含み、ステロイドナイトロジェンマスタードの実例はプレドニムスチンおよびエストラムスチンリン酸エステルを含み、そして複素環式ナイトロジェンマスタードの実例はピリミジンマスタード、ウラシルマスタード、チミンマスタード(チミンアルキルアミン)およびシクロホスファミドなどを含む。
【0027】
核酸合成に影響する薬剤の実例はチミジル酸シンターゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を含む。チミジル酸シンターゼ(TS)は同一のサブユニットから構成されるホモ二量体細胞質酵素であり、これは体内DNA生合成に必要なチミジル酸の最初の合成プロセスに関与し、当該プロセスの律速酵素である。TSの活性に対する抑制は腫瘍細胞内のチミン欠乏を引き起こし、それによって細胞内のDNA合成が正常に進行できなくなり、したがって欠陥DNAの合成、分解およびアポトーシスが生じる。チミジル酸シンターゼ阻害剤はピリミジン拮抗薬(ピリミジンアナログ)またはその薬学的に許容される塩を含んでよい。ピリミジン拮抗薬は5-フルオロウラシル、カペシタビン、テガフール、デュアルテガフール、カルモフール、優弗泰、フルツロン、フロクスウリジン、ドキシフルリジンまたはその薬学的に許容される塩から選択されてよく、好ましくは5-フルオロウラシルである。
【0028】
本明細書において述べる「薬学的に許容される塩」とは、酸塩基反応により抗がん剤の活性成分を形成させる通常の非毒性塩のことである。例えば、通常の非毒性塩は無機酸例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などから得られる塩を含み、また有機酸例えば酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、ヒドロキシエチルスルホン酸、トリフルオロ酢酸、などから調製した塩も含む。通常の非毒性塩はさらに無機塩基から得られる塩を含み、アルミニウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、銅塩、鉄塩、第一鉄塩、リチウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、亜マンガン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩などを含む。通常の非毒性塩はさらに薬学的に許容される有機非毒性塩基から得られる塩を含み、前記塩基は一級、二級および三級アミンの塩を含む。
【0029】
本発明の一態様において、前記ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物(好ましくは立再適)は、約0.01-約20U/kg、好ましくは約0.05-約10U/kg、より好ましくは約0.1-約5U/kg、より好ましくは約0.5-約4U/kg、より好ましくは約0.8-約3.2U/kgの量で患者、好ましくはヒト、に投与される。例えば、前記ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物は、約0.01U/kg、約0.02U/kg、約0.05U/kg、約0.1U/kg、約0.15U/kg、約0.2U/kg約0.3U/kg、約0.4U/kg、約0.5U/kg、約0.6U/kg、約0.7U/kg、約0.8U/kg、約1U/kg、約1.5U/kg、約2U/kg、約2.5U/kg、約3U/kg、約3.5U/kg、約4U/kg、約4.5U/kg、約5U/kg、約5.5U/kg、約6U/kg、約7U/kg、約8U/kg、約9U/kg、約10U/kg、約12U/kg、約15U/kg、約20U/kgおよびこれらの数字を上限または下限とする範囲から選択される量で患者、好ましくはヒト、に投与される。投与量として、ヒトの用量(U/kgまたはmg/kg)=マウスの用量(U/kgまたはmg/kg)/12.3であり、または人の用量(U/kgまたはmg/kg)=マウスの用量(U/kgまたはmg/kg)×0.08であることは、当業者に知られている(Food and Drug Administration,Center for Drug Evaluation and Research(CDER),Pharmacology and Toxicology,Guidance for Industry:Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers,Page7,July2005を参照)。上記の用量は患者におけるがんを治療する有効量であってよい。一態様において、前記抽出物は前記の用量で経口または注射、例えば筋肉内注射、腹膜内注射、腹腔内注射、皮下注射または静脈内注射、によって投与される。
【0030】
本発明の一態様において、製造される薬剤は約0.6~約1200U、好ましくは約3~約600U、より好ましくは約6~約300U、より好ましくは約30~約240U、より好ましくは約48~約192Uのワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物を含む。前記薬剤はヒト、例えば成体ヒト、に投与される。成体ヒトの平均体重は例えば60kgである(Food and Drug Administration,Center for Drug Evaluation and Research(CDER),Pharmacology and Toxicology,Guidance for Industry: Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers,Page7,July2005を参照)。したがって、本発明において製造される薬剤の中に含まれるワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の量は、例えば約0.6U、約1.2U、約3U、約3.5U、約3.6U、約6U、約9U、約12U、約15U、約18U、約21U、約30U、約36U、約40U、約45U、約50U、約55U、約60U、約65U、約70U、約80U、約90U、約100U、約110U、約120U、約130U、約140U、約150U、約160U、約180U、約190U、約200U、約220U、約250U、約280U、約300U、約350U、約400U、約450U、約500U、約600U、約1000U、約1200U、およびこれらの数字を上限または下限とする範囲にある。一態様において、前記薬剤は経口剤または注射剤、例えば筋肉内注射剤、腹膜内注射剤、腹膜内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤または静脈内注射剤に調剤される。一態様において、前記薬剤または注射剤は分割できない固定用量である。一態様において、前記薬剤または注射剤は1日、2日、3日、4日、5日、6日または7日以内においてさらに少ない用量に分割できない。一態様において、前記薬剤または注射剤は1日、2日、3日、4日、5日、6日または7日以内において一回だけ投与される。
【0031】
本発明の一態様において、約6~約72時間、好ましくは約12~約60時間、より好ましくは約24~約48時間、より好ましくは約24~約36時間、より好ましくは約24時間ごとに前記患者にワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物を投与する。一態様において、毎日前記抽出物を1~3回、好ましくは1回投与する。他の一態様において、二日に一回、三日に一回、四日に一回、五日に一回、六日に一回、一週間に一回、二週間に一回、または一ヶ月に一回、の方式によって前記抽出物を投与する。本発明の一態様において、がん治療を受ける患者にワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物を継続して少なくとも約24か月、少なくとも約12か月、少なくとも約6か月、少なくとも約2か月、少なくとも約1か月、少なくとも約3週、少なくとも約2週、少なくとも約10日、少なくとも約7日、少なくとも約5日、少なくとも約2日または少なくとも約1日間投与する。
【0032】
本発明の一態様において、第一の抗がん剤としてのワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物は他の抗がん剤(すなわち第二の抗がん剤)と同時に、別々にまたは順番に施用されてよい。前記抽出物の用量は前記のように施用されてよい。また、前記他の抗がん剤または第二の抗がん剤は約0.01~約100mg/kg、約0.02~約50mg/kg、約0.03~約20mg/kg、好ましくは約0.05~約10mg/kg、より好ましくは約0.1~約5mg/kg、より好ましくは約0.2~約2.5mg/kg、より好ましくは約0.5~約2mg/kg、より好ましくは約0.8~約1.6mg/kgの量で患者、好ましくはヒト、に投与される。例えば、前記抗がん剤は、約0.01mg/kg、約0.02mg/kg、約0.05mg/kg、約0.1mg/kg、約0.2mg/kg、約0.3mg/kg、約0.4mg/kg、約0.5mg/kg、約0.6mg/kg、約0.7mg/kg、約0.8mg/kg、約1mg/kg、約1.1mg/kg、約1.2mg/kg、約1.3mg/kg、約1.4mg/kg、約1.5mg/kg、約1.6mg/kg、約1.7mg/kg、約1.8mg/kg、約2mg/kg、約2.5mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kg、約5mg/kg、約8mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、約25mg/kg、約30mg/kg、約35mg/kg、約40mg/kg、約50mg/kg、約60mg/kg、約70mg/kg、約80mg/kg、約90mg/kg、約100mg/kgおよびこれらの数字を上限または下限とする範囲から選択される量で患者、好ましくはヒト、に投与される。前記他の抗がん剤は、好ましくは細胞毒性薬、好ましくはDNAの化学構造に作用する薬剤、より好ましくはアルキル化剤、より好ましくはナイトロジェンマスタード類、より好ましくは複素環式ナイトロジェンマスタード、より好ましくはシクロホスファミドまたはイホスファミドである。または、前記他の抗がん剤は、細胞毒性薬、好ましくは核酸合成に影響する薬剤、より好ましくはチミジル酸シンターゼ阻害剤、より好ましくはピリミジン拮抗薬、より好ましくは5-フルオロウラシルである。
【0033】
本発明の一態様において、約6~約72時間、好ましくは約12~約60時間、より好ましくは約24~約48時間、より好ましくは約24~約36時間、より好ましくは約24時間ごとに前記患者に前記他の抗がん剤を投与する。一態様において、毎日他の抗がん剤を1~3回、好ましくは1回投与する。他の一態様において、二日に一回、三日に一回、四日に一回、五日に一回、六日に一回、一週間に一回、二週間に一回、または一か月に一回、の方式によって前記他の抗がん剤を投与する。本発明の一態様において、がん治療を受ける患者に他の抗がん剤を継続して少なくとも約24か月、少なくとも約12か月、少なくとも約6か月、少なくとも約2か月、少なくとも約1か月、少なくとも約3週、少なくとも約2週、少なくとも約10日、少なくとも約7日、少なくとも約5日、少なくとも約2日または少なくとも約1日間投与する。
【0034】
本発明の薬剤の組み合わせにおいて、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の含量は前記に定義される通りであってよい。本発明の薬剤の組み合わせにおいて、他の抗がん剤または第二の抗がん剤の含量は約0.6~約5000mg、好ましくは約3~約600mg、より好ましくは約6~約300mg、より好ましくは約12~約150mg、より好ましくは約60~約120mg、より好ましくは約48~約96mgであってよい。例えば、前記抗がん剤の含量は、約0.6mg、約0.8mg、約1mg、約1.5mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約8mg、約10mg、約12mg、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約500mg、約600mg、約800mg、約1000mg、約1500mg、約2000mg、約2500mg、約3000mg、約3500mg、約4000mg、約4500mgまたは約5000mgおよびこれらの数字を上限または下限とする範囲にある。前記他の抗がん剤は、好ましくは細胞毒性薬、好ましくはDNAの化学構造に作用する薬剤、より好ましくはアルキル化剤、より好ましくはナイトロジェンマスタード類、より好ましくは複素環式ナイトロジェンマスタード、より好ましくはシクロホスファミドまたはイホスファミドである。または、前記他の抗がん剤は、細胞毒性薬、好ましくは核酸合成に影響する薬剤、より好ましくはチミジル酸シンターゼ阻害剤、より好ましくはピリミジン拮抗薬、より好ましくは5-フルオロウラシルである。一態様において、前記薬剤は注射剤、例えば筋肉内注射剤、腹膜内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤または静脈内注射剤に調剤される。一態様において、前記薬剤または注射剤は分割できない固定用量である。一態様において、前記薬剤または注射剤は1日、2日、3日、4日、5日、6日または7日以内においてさらに少ない用量に分割できない。一態様において、前記薬剤または注射剤は1日、2日、3日、4日、5日、6日または7日以内において一回だけ投与される。
【0035】
本明細書において言及される「薬剤の組み合わせ」と「併用薬剤」は互換的に使用することができ、がんまたは腫瘍の予防または治療に用いられる二種または以上の異なる抗がん剤を含むことを意味する。本発明の薬剤の組み合わせは薬剤キット、例えばがん治療に用いられる薬剤キット、の形で提供されてもよい。例えば、前記薬剤キットは第一の組成物および第二の組成物を含み、そのうち第一の組成物は本発明のワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物としての第一の抗がん剤を含み、そして第二の組成物は本明細書において言及される他の抗がん剤としての第二の抗がん剤を含む。または、前記薬剤キットは第一の抗がん剤および第二の抗がん剤を含み、そのうち第一の抗がん剤は本発明の抽出物でありそして第二の抗がん剤は本明細書において言及される他の抗がん剤である。一態様において、前記第一のおよび第二の組成物(または第一のおよび第二の抗がん剤)は別々に同じまたは異なる容器内に包装されてよい。一態様において、前記薬剤キットは、第一の組成物および第二の組成物(または、第一の抗がん剤および第二の抗がん剤)はがん治療のために併用して施用されることを説明する、ラベルまたは説明書を含んでよく。
【0036】
ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物を単独でまたは他の抗がん剤と併用して使用する実施形態において、前記抽出物は、腫瘍細胞の増殖を直接抑制すること、体細胞(好ましくは免疫細胞、より好ましくはリンパ球)を刺激することによってサイトカイン(好ましくはIFNまたはIL、より好ましくはIFN-γ、IL-2、IL-4またはIL-12)を分泌させること、腫瘍細胞のアポトーシスを促進すること、腫瘍細胞の成長を抑制すること、患者における腫瘍細胞に対抗する免疫機能を強化すること、腫瘍細胞の活性を低下させること、腫瘍細胞のコロニー形成能力を低下させること、(例えばサイクリンA2、サイクリンB1および/またはCDK1の発現レベルを低下させることによって)腫瘍細胞のG2/M細胞周期停止を誘導すること、腫瘍細胞においてBaxの発現を増加させることおよび/またはBcl-2のレベルを低下させること、(例えばシトクロムc、カスパーゼ-3、切断型カスパーゼ-3、カスパーゼ-9および/またはp53の発現レベルを向上させることによって)腫瘍細胞のアポトーシスシグナル経路を活性化すること、またはこれらの組み合わせによって患者に対し治療を実現できる。
【0037】
よって、一態様において、本発明はワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の薬剤の製造における使用に関し、前記薬剤は、腫瘍細胞の増殖を直接抑制すること、体細胞(好ましくは免疫細胞、より好ましくはリンパ球)を刺激することによってサイトカイン(好ましくはIFNまたはIL、より好ましくはIFN-γ、IL-2、IL-4またはIL-12)を分泌させること、腫瘍細胞のアポトーシスを促進すること、腫瘍細胞の成長を抑制すること、患者における腫瘍細胞に対抗する免疫機能を強化すること、腫瘍細胞の活性を低下させること、腫瘍細胞のコロニー形成能力を低下させること、(例えばサイクリンA2、サイクリンB1および/またはCDK1の発現レベルを低下させることによって)腫瘍細胞のG2/M細胞周期停止を誘導すること、腫瘍細胞においてBaxの発現を増加させることおよび/またはBcl-2のレベルを低下させること、(例えばシトクロムc、カスパーゼ-3、切断型カスパーゼ-3、カスパーゼ-9および/またはp53の発現レベルを向上させることによって)腫瘍細胞のアポトーシスシグナル経路を活性化すること、またはこれらの組み合わせ、に用いられる。当該態様において、前記薬剤は抗がん剤であってよい。一態様において、本発明は腫瘍細胞の増殖を直接抑制すること、体細胞(好ましくは免疫細胞、より好ましくはリンパ球)を刺激することによってサイトカイン(好ましくはIFNまたはIL、より好ましくはIFN-γ、IL-2、IL-4またはIL-12)を分泌させること、腫瘍細胞のアポトーシスを促進すること、腫瘍細胞の成長を抑制すること、患者における腫瘍細胞に対抗する免疫機能の強化すること、腫瘍細胞の活性を低下させること、腫瘍細胞のコロニー形成能力を低下させること、(例えばサイクリンA2、サイクリンB1および/またはCDK1の発現レベルを低下させることによって)腫瘍細胞のG2/M細胞周期停止を誘導すること、腫瘍細胞においてBaxの発現を増加させることおよび/またはBcl-2のレベルを低下させること、(例えばシトクロムc、カスパーゼ-3、切断型カスパーゼ-3、カスパーゼ-9および/またはp53の発現レベルを向上させることによって)腫瘍細胞のアポトーシスシグナル経路を活性化すること、またはこれらの組み合わせ、に用いられるワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物に関する。一態様において、本発明は、腫瘍細胞の増殖を直接抑制する、体細胞(好ましくは免疫細胞、より好ましくはリンパ球)を刺激することによってサイトカイン(好ましくはIFNまたはIL、より好ましくはIFN-γ、IL-2、IL-4またはIL-12)を分泌させる、腫瘍細胞のアポトーシスを促進する、腫瘍細胞の成長を抑制する、患者における腫瘍細胞に対抗する免疫機能を強化する、腫瘍細胞の活性を低下させる、腫瘍細胞のコロニー形成能力を低下させる、(例えばサイクリンA2、サイクリンB1および/またはCDK1の発現レベルを低下させることによって)腫瘍細胞のG2/M細胞周期停止を誘導する、腫瘍細胞においてBaxの発現を増加させるおよび/またはBcl-2のレベルを低下させる、(例えばシトクロムc、カスパーゼ-3、切断型カスパーゼ-3、カスパーゼ-9および/またはp53の発現レベルを向上させることによって)腫瘍細胞のアポトーシスシグナル経路を活性化する、方法に関し、前記方法は有効量のワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物を必要としている患者に投与することを含む。前記態様において、前記抽出物は第一の抗がん剤として他の抗がん剤(例えば第二の抗がん剤、好ましくはシクロホスファミドまたは5-フルオロウラシル)と併用して前記使用または方法に用いられることができる。
【0038】
ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物を他の抗がん剤と併用して使用する実施形態において、前記抽出物の使用は、前記抗がん剤の用量または投与量の少なくとも1%~99%、例えば少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%の減少をもたらすことができる。
【0039】
本明細書において言及される「ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物(extract from rabbit skin inflamed by vaccinia virus)」と「天然痘ワクチンによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物」は、互換的に使用することができ、ワクシニアウイルスの接種によって炎症を起こしたウサギ皮膚の中から、例えば浸出、精製、再精製などの工程を経ることによって抽出された、活性物質を含む一種類の抽出物を意味する。この抽出物は通常黄色または淡い黄色の液体であるが、乾燥方法によって固体に形成させてよい。この種類のワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の注射剤は市販品として入手でき、商品名は立再適(Lepalvir)であり、威世薬業(如皋)有限会社によって生産される。一態様において、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物または立再適の製造方法は中国特許公開公報CN1205233A、CN1613305AおよびCN1493302A、PCT国際公開公報WO2004/060381、並びに欧州特許公開公報EP1557171などにおいて説明され、これらの内容全体は引用により本明細書に組み入れる。
【0040】
本発明の抽出物の製造において、製造方法はフェノール水溶液を使用してワクシニアウイルス接種によって炎症を起こしたウサギ皮膚の砕片を抽出することを含み、そのうち好ましくはフェノールの濃度が約1%~10%、好ましくは約2%~5%、より好ましくは約2%または約3%のフェノール水溶液を使用して、約12℃を下回る温度、例えば約0~10℃、好ましくは約2~8℃、より好ましくは約3~6℃、より好ましくは約4℃において行われる。さらに、製造方法はまた吸着剤(例えば活性炭)を用いてフェノール水溶液で処理後の抽出液を吸着することを含み、そして塩基性条件下において溶出を行い、そのうち好ましくは吸着は酸性条件下(例えば約pH3~6、より好ましくは約pH4~5、より好ましくは約pH4.5)で行い、そして溶出の塩基性条件は約pH9~12、好ましくは約pH10またはpH11である。
【0041】
一態様において、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物または立再適は以下の工程を含む方法により製造できる。
(1)ワクシニアウイルス接種によって炎症を起こしたウサギ皮膚を収集し、前記ウサギ皮膚を破砕し、抽出溶媒で抽出し、溶液Aを得る工程、
(2)溶液Aに対して酸処理および熱処理をし、溶液Bを得る工程、
(3)溶液Bに対して塩基処理および熱処理をし、溶液Cを得る工程、
(4)酸性条件下で溶液Cを吸着して濾過し、塩基性条件下で溶出し、溶液Dを得る工程、
(5)溶液Dを中和して加熱し、溶液Eを得る工程、
(6)溶液Eを濃縮し、前記抽出物を得る工程、および、
(7)任意に、抽出物を薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤と混合する工程。
【0042】
一態様において、工程(1)において、ワクシニアウイルスをカイウサギに接種し、発痘させた皮膚を収集し、前記皮膚を破砕し、フェノール水溶液を加えて、約12℃を下回る温度(例えば約0~10℃、好ましくは約2~8℃、より好ましくは約3~6℃、より好ましくは約4℃)において少なくとも約12時間(例えば約24~90時間、好ましくは約48~72時間、より好ましくは約70または約72時間)浸漬し、遠心分離し上清を得、濾過して溶液Aを得る。前記フェノール水溶液中のフェノールの濃度は約1%~10%、好ましくは約2%~5%、より好ましくは約2%または約3%である。
【0043】
一態様において、工程(2)において、酸(例えば塩酸)で溶液Aを酸性(例えば約pH4~6、より好ましくは約pH4.5~5.5、より好ましくは約pH5)に調整し、(例えば約90~100℃、好ましくは約95℃において継続して少なくとも約10分間、例えば約20~50分間、好ましくは約30~40分間)加熱し、任意に温度を(例えば約50℃より低い、好ましくは約30℃より低い温度までに)下げ、その後遠心分離し上清を得、濾過して溶液Bを得る。前記工程(2)は窒素環境下において行ってよい。
【0044】
一態様において、工程(3)において、塩基(例えば水酸化ナトリウム)を用いて溶液Bを塩基性(例えば約pH8~10、より好ましくは約pH8.5~9.5、より好ましくは約pH9または約pH9.2)に調整し、(例えば約90~100℃、好ましくは約95℃において継続して少なくとも10分間、例えば約30~50分間、好ましくは約30~40分間)加熱し、任意に温度を(例えば約50℃より低い、好ましくは約30℃より低い温度までに)下げ、濾過して溶液Cを得る。前記工程(3)は窒素環境下において行ってよい。
【0045】
一態様において、工程(4)において、酸(例えば塩酸)を用いて溶液Cを酸性(例えば約pH3~6、より好ましくは約pH4~5、より好ましくは約pH4.5)に調整し、その中に吸着剤(例えば活性炭)を加えて(例えば撹拌しながら継続して少なくとも約1時間、好ましくは約2~10時間、より好ましくは約4時間)浸漬を行い、その後溶液を除去して活性成分を含有する吸着剤を収集する。その後、前記吸着剤を溶出液(例えば水)の中に加え、塩基(例えば水酸化ナトリウム)を用いてpHを塩基性(例えば約pH9~12、好ましくは約pH10またはpH11)に調整し、活性成分を吸着剤の中から分離させ(例えば少なくとも約1時間、好ましくは2~10時間、より好ましくは4時間撹拌し、その後濾過し、さらに水を用いて吸着剤を洗浄)、溶液Dを得る。前記工程(4)は窒素環境下において行ってよい。
【0046】
一態様において、工程(5)において、酸(例えば塩酸)を用いて溶液Dを弱酸性(例えば約pH5.5~6.6、好ましくは約pH6)に中和し、溶液Eを得る。好ましくは、前記工程(5)は無菌条件下で行ってよい。
【0047】
一態様において、工程(6)において、溶液Eを(例えば減圧濃縮、好ましくは減圧蒸発濃縮、例えば約50℃~70℃において、好ましくは約54℃~56℃において)濃縮し、その後濾過し、活性成分を含有する抽出物を得る。前記工程(6)は窒素環境下において行ってよい。
【0048】
本発明の抽出物はまたワクシニアウイルスを他の動物組織に接種することによって得られることを、当業者は理解する。例えば、本発明において、ワクシニアウイルスを接種した炎症組織の抽出物を使用することができる。前記組織は哺乳類動物の組織に由来するものであってよく、前記哺乳類動物は伴侶動物、実験動物、畜産動物、例えばウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、マウス、ブタを含んでよい。前記組織は皮膚であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】立再適のマウス脾臓リンパ球上清中IL-2(A)、IFN-γ(B)、IL-4(C)およびIL-12(D)に対する影響。
*P<0.05、
**P<0.01、陰性対照群との比較、xの平均値±s、n=3。
【
図2】立再適刺激リンパ球上清液のHepG2細胞増殖に対する影響。1.陰性対照群、2.立再適(0.163U/ml)単用群、3.リンパ球上清処理群、4~7.立再適刺激脾臓リンパ球上清の体積がそれぞれ25%、50%、75%および100%である処理群。
**P<0.01、陰性対照群との比較、
##P<0.01、立再適単用群との比較、xの平均値±s、n=3。
【
図3】立再適のLM3移植腫瘍ヌードマウスの体重に対する影響(xの平均値±s、n=6)。CTX:シクロホスファミド。
【
図4】立再適のLM3移植腫瘍ヌードマウスの腫瘍体積に対する影響(xの平均値±s、n=6)。CTX:シクロホスファミド。
【
図5】LM3皮下腫瘍ヌードマウスの腫瘍組織ブロック結果図。CTX:シクロホスファミド。
【
図6】立再適併用シクロホスファミドのLM3移植腫瘍ヌードマウスの体重に対する影響(xの平均値±s、n=6)。1.対照群、2.立再適群(0.02U/g)、3.シクロホスファミド低用量群(10mg/kg)、4.シクロホスファミド高用量群(20mg/kg)、5.立再適とシクロホスファミド併用投与群(0.02U/g+10mg/kg)。
【
図7】立再適併用シクロホスファミドのLM3移植腫瘍ヌードマウスの腫瘍体積に対する影響(xの平均値±s、n=6)。1.対照群、2.立再適群(0.02U/g)、3.シクロホスファミド低用量群(10mg/kg)、4.シクロホスファミド高用量群(20mg/kg)、5.立再適およびシクロホスファミド併用投与群(0.02U/g+10mg/kg)。
【
図8】LM3皮下腫瘍ヌードマウスの腫瘍組織ブロック結果図。
【発明を実施するための形態】
【0050】
特に述べない限り、本明細書において使用するあらゆる科学用語は、当業者にとって普通に理解されているような意味を持つものとする。例示的な方法および材料は、以下に示す通りであるが、その等価なものを使用することも可能である。本明細書において述べるあらゆる刊行物およびその他の参考文献は、その内容の全体を、参考としてここに組み入れるものとする。
【0051】
本発明を、以下に記載する実施例を参照しつつ、さらに詳しく説明するが、以下の実施例は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0052】
実施例1-立再適のインビトロ抗腫瘍活性
【0053】
1.1.立再適の腫瘍細胞増殖に対する抑制効果
【0054】
対数増殖期にあるヒト肝がん細胞HepG2、高転移性肝がん細胞LM3、子宮頸がん細胞HeLa、肺胞上皮細胞A549および大細胞肺がん細胞H460を、0.25%トリプシンで消化して細胞懸濁液に調製した。細胞濃度を5×104/mlに調整して96ウェル細胞培養用プレートに100μl/ウェルで接種し、5%CO2、37℃の恒温培養器において一晩培養した。上清を捨て、予め調製した異なる濃度の立再適を含む完全培地を加え、5つの作用濃度(立再適最終濃度は1.63、0.815、0.326、0.163および0.0815U/mlであった)を設け、さらに薬剤液が加えられていない対照群および無細胞ブランク群を設け、10%FBSを含むDMEM培地またはRPMI-1640培地を加えた。各濃度につき3つ再現ウェルを設け、各ウェルの総体積は100μlであった。恒温細胞培養器において24時間培養し、各ウェルにCCK-8試薬を10μl加え、引き続き1時間インキュベートした後マイクロプレートリーダーにおいて450nmにて各ウェルの吸光度(OD)値を測定し、各群の細胞増殖抑制率を算出した。細胞抑制率(%)=1-〔(実験群OD値-ブランク群OD値)/(対照群OD値-ブランク群OD値)〕×100%。
【0055】
異なる濃度の立再適(終濃度はそれぞれ1.63、0.815、0.326、0.163および0.0815U/mlであった)を用いてHepG2、LM3、HeLa、A549およびH460を処理し、CCK-8法を使用し細胞増殖活性を検査測定した。結果は表1に示すように、立再適が高濃度で作用するとき、前記5種類の腫瘍細胞の全てに対し、特にHepG2、LM3およびH460細胞に対し、顕著な増殖抑制作用を示した。立再適の濃度が1.63U/mlに達したとき、HepG2、LM3、H460細胞に対する抑制率はそれぞれ58.95%、55.08%および57.28%に達し、HeLaおよびA549細胞に対する抑制率は僅かに低く、それぞれは48.18%および45.80%であった。立再適濃度が0.8151.63U/mlであったとき、HeLaおよびA549細胞の抑制率と比較して、HepG2、LM3細胞の抑制率の差異はともに統計学的に有意であった(P<0.05)。
【0056】
【0057】
1.2 立再適のマウス脾臓リンパ球のサイトカイン分泌に対する影響
【0058】
調製済みの脾臓リンパ球懸濁液を取り、細胞密度を5×106/mlに調整し、96ウェル細胞培養用プレートに100μl細胞液/ウェルで接種し、さらにConAまたはLPSを50μl加え(IL-2、IFN-γ測定用の脾リンパ球懸濁液中のConA終濃度は2mg/Lであり、IL-4測定用の脾リンパ球懸濁液中のConA終濃度は10mg/Lであり、IL-12測定用の脾リンパ球懸濁液中のLPS終濃度は10mg/Lであった)、さらに事前に調製済みの異なる濃度の立再適を50μl加え(終濃度は0.815、0.163および0.0815U/mlであった)、さらにConA、LPS対照群を設け、各種の処理につき全て3つの再現ウェルを設け、各ウェルの総体積は200μlであった。5%CO2、37℃の恒温培養器において24時間培養した後、室温で300×g、5分間遠心し、慎重に各群の上清を使用のために吸引した。
【0059】
ELISAを使用し、収集した脾臓リンパ球上清から、異なる濃度の立再適(終濃度は0.815、0.163および0.0815U/mlであった)がそのサイトカインIL-2、IFN-γ、IL-4およびIL-12の分泌に対する影響を検査測定した。実験結果によると、脾臓リンパ球を異なる濃度の立再適で処理した後、4種のサイトカインの分泌レベルは全てある程度増加した。対照群と対比して、立再適0.0815U/mlはIL-2の分泌レベルに対し顕著な影響はなかったが、立再適0.163および0.815U/ml群においてIL-2の分泌レベルが顕著に向上し、立再適0.815U/ml群において効果はより顕著であった(P<0.01、
図1A)。立再適0.163および0.815U/ml群においてIFN-γおよびIL-4の分泌レベルが顕著に向上し(P<0.05、P<0.01、
図1B~C)、立再適0.163U/ml群において効果はより顕著であった。一方、立再適0.0815U/mlはIFN-γ、IL-4の分泌に対し顕著な影響はなかった。立再適の3つの用量群においてIL-12の分泌レベルは全て顕著に向上し、立再適0.163U/ml群において効果はより顕著であった(P<0.01、
図1D)。
【0060】
1.3 立再適刺激リンパ球上清のHepG2細胞増殖に対する影響
【0061】
調製済みの脾リンパ球懸濁液を取り、細胞濃度を5×106/mlに調整し(終濃度で5mg/LであるConAを含む)、96ウェル細胞培養用プレートに接種し、各ウェルの細胞液は100μlであった。半分に対し立再適100μlを加え(立再適の終濃度は0.163U/mlであった)、他の半分に対し同じ体積の10%FBSを含むRPMI-1640培地を加え、各ウェルの総体積は200μlであった。5%CO2、37℃の恒温培養器において24時間培養した後、室温で300×g、5分間遠心し、慎重に上清を吸い取っておいた。
【0062】
対数増殖期にあるHepG2細胞を、0.25%トリプシンで消化して細胞懸濁液に調製し、細胞密度を5×104/mlに調整し、96ウェル細胞培養用プレートに接種し、各ウェルの体積は100μlであった。5%CO2、37℃の恒温培養器で一晩培養した。上清を捨て、立再適刺激脾臓リンパ球上清を加えた。実験設計に従ってグループ化し、実験群、リンパ球上清処理群、立再適単用群およびブランク対照群とした。実験群に対しては、立再適で処理された異なる比率のリンパ球上清を加え、その上清の体積の割合はそれぞれ25%、50%、75%、100%になるようにし、立再適で処理されていないリンパ球上清群に対しては、10%FBSを含むDMEM培地で残りの体積を補足し、ブランク対照群に対しては、同じ体積の10%FBSを含むDMEM培地を加え、立再適単用群の薬剤終濃度は0.163U/mlであった。各種の処理につき全て3つの再現ウェルを設け、各ウェルの体積は100μlであった。5%CO2、37℃の恒温培養器において24時間培養した後に細胞増殖活性測定に用いた。
【0063】
前記処理済みの測定予定の細胞に、各ウェルにcck-8試薬を10μl加え、引き続き1.5時間インキュベートした後、マイクロプレートリーダーで450nmの波長にて各ウェルのOD値を測定し、各群の細胞増殖抑制率を算出した。
【0064】
リンパ球上清の中には多種の免疫活性因子が含まれ、前記ELISA検査測定結果と総合し、立再適0.163U/ml刺激脾臓リンパ球上清を採用しHepG2細胞を処理した。結果は
図2に示すように、上清体積の割合が25%、50%、75%および100%であったとき、HepG2細胞に対する抑制率はそれぞれ16.06%、21.10%、28.46%および41.70%であり、全てが同じ濃度の立再適単用群の抑制率3.87%を上回り、特に上清体積が100%に達したときは、陰性対照群と対比して、HepG2細胞の増殖は顕著に抑制された(P<0.01)。
【0065】
1.4 結論
【0066】
A.立再適はHepG2、LM3、H460、A549およびHeLaの5種のヒト由来腫瘍細胞増殖をインビトロで抑制した。立再適は腫瘍細胞成長の抑制作用を備え、そしてヒト肝がん細胞HepG2、LM3に対する抑制作用はより顕著であることを実証した。
【0067】
B.立再適はマウスインビトロ培養の脾臓リンパ球中のIL-2、IFN-γ、IL-4、IL-12などのサイトカインの分泌レベルをアップレギュレートさせることができた。立再適はリンパ球を活性化し、Th1およびTh2細胞の増殖および分化を促進し、身体の細胞の免疫機能を強化することができることを示した。
【0068】
C.立再適刺激脾臓リンパ球上清は同濃度の立再適単独処理と比べ、HepG2細胞の抑制効果がより顕著であった。立再適はリンパ球の活性化により、多種のサイトカインを分泌させ細胞の免疫機能をアップレギュレートし、自身の腫瘍細胞成長抑制作用を強化することができることをさらに実証した。
【0069】
実施例2-立再適のヒト肝がん腫瘍担持ヌードマウスに対する薬効学研究
【0070】
2.1 ヒト肝癌LM3細胞の調製
【0071】
対数増殖期におけるLM3細胞を5%CO2、37℃恒温培養器から取り出し、もとの培地を吸引除去し、適量のPBSを加えて洗浄し、残留する血清を取り除き、吸引除去してから1mのl0.25%トリプシンを加えて消化し、顕微鏡で観察し、細胞の形態が次第に球状になったところ、10%FBSを含むDMEM培地を適量加えて消化を停止し、細胞が完全に浮遊するまでピペッティングとタッピングを繰り返し、15ml遠沈管に収集し、室温で1500rpm、8分間遠心し、上清を捨て、0.9%塩化ナトリウム注射液を適量加え、細胞が均一に分散するまで軽くピペッティングとタッピングし、細胞数を数え、アイスボックスに入れておいた。
【0072】
2.2 ヒト肝がんLM3皮下移植腫瘍の接種
【0073】
調製済みのLM3細胞の細胞濃度を1×107/mlに調整し、八匹のBALB/Cヌードマウスの右前肢の腋窩に皮下接種し、各匹に0.2mlの細胞懸濁液を注射した。注射時、75%アルコールで拭き消毒し、針を皮下約1cmへ挿入し、接種部位が即時隆起したことが見られ、接種後は綿棒を用いてしばらく穿刺部位を抑え、ヌードマウスを飼育ケージに戻した。ヌードマウスの皮下腫瘍体積が800~1000mm3まで成長したのち、頸椎脱臼で屠殺し、75%アルコールで拭いた後クリーンベンチの中へ移し無菌操作で腫瘍組織を摘出し、0.9%塩化ナトリウム注射液で一回洗浄した後、ハサミで約1mm3の小ブロックに切り、套管針を使用し、50匹のBALB/cヌードマウスの右前肢の腋窩に皮下接種した。接種時、75%アルコール拭き消毒し、套管針を皮下約1cmに挿入し、接種部位に腫瘍ブロックの隆起が見られ、接種後はコットンボールで穿刺部位をしばらく抑え、ヌードマウスを飼育ケージに戻した。ヌードマウスの精神状態、食餌、活動、排泄状況を毎日観察し、腫瘍成長状況を記録した。
【0074】
2.3 動物グループ分け投与
【0075】
50匹のBALB/cヌードマウスのヒト肝がんLM3皮下移植腫瘍モデルを作製し、腫瘍の成長状況を毎日観察記録した。腫瘍体積が100~300mm3に成長したのち、腫瘍体積に応じて無作為にグループ分けして投与した。50匹のヌードマウスを無作為に5のグループに分け、それぞれをブランク対照群(10匹)、陽性対照群(10匹)、立再適低中高用量群(各群それぞれ10匹)とした。ブランク対照群に対しては、0.9%塩化ナトリウム注射液を投与し、0.2ml/d、腹腔内注射とした。陽性対照群に対しては、シクロホスファミドを投与し、20mg/kg、隔日に一回投与、腹腔内注射とした。立再適低用量群に対しては、0.01U/g/d、腹腔内注射とした。立再適中用量群対しては、0.02U/g/d、腹腔内注射とした。立再適高用量群対しては、0.04U/g/d、腹腔内注射とした。連続して15日間投与した。投与の一日目からヌードマウスの精神状態、食餌、活動、排泄状況を毎日観察し、三日に一回ヌードマウスの体重状況および腫瘍成長状況を記録し、16日目において実験を終了し、各群のヌードマウスの体重を計測した後、頸椎脱臼で屠殺し、腫瘍組織および脾臓組織を完全に摘出して重量測定および計測を行い、腫瘍抑制率および脾臓指数を算出した。
【0076】
2.4 腫瘍抑制率および脾臓指数の測定
【0077】
16日目で実験を終了し、各群のヌードマウスを頸椎脱臼で屠殺し、皮下腫瘍組織を完全に摘出して重量測定および計測を行った。ノギスを使用して腫瘍の長径(a)、短径(b)を計測し、腫瘍体積を算出した。腫瘍体積=a×b×b/2。腫瘍抑制率(%)=[(対照群平均腫瘍重量-投与群平均腫瘍重量)/対照群平均腫瘍重量]×100%。
【0078】
16日目で実験を終了し、ヌードマウスの体重を計測し、各群のヌードマウスを頸椎脱臼で屠殺した後、脾臓組織を完全に摘出して重量を測った。脾臓指数の算出式は以下である。脾臓指数=脾臓重量(mg)/マウス体重(g)×10。
【0079】
2.5 立再適のヒト肝がんヌードマウスの体重に対する影響
【0080】
LM3移植腫瘍を接種したBALB/Cヌードマウスについて、実験開始前のブランク対照群の体重は19.81±0.49gであって、実験終了時の体重は21.48±0.76gであって、立再適低中高用量群について、ヌードマウスの体重変化曲線はブランク対照群と基本的に一致し、群間における統計学的な差はなかった(P>0.05)。一方、シクロホスファミド(CTX)群のヌードマウスの体重は顕著に軽減し、実験終了時の体重は18.91±0.46gであって、対照群と比較して、統計学的に有意な差があった(P<0.05)(
図3)。
【0081】
2.6 立再適のヒト肝がんヌードマウス皮下移植腫瘍に対する抑制作用
【0082】
ヒト肝がん細胞LM3をBALB/Cヌードマウス皮下に接種し、接種後腫瘍体積が100~300mm
3に成長したのち、腫瘍体積に応じて無作為にグループ化し、ブランク対照群、陽性対照群、立再適低中高用量群、の計5つの群に分けて投与した。ノギスを使用して腫瘍長径(a)、短径(b)を計測し、腫瘍体積を算出し、腫瘍成長曲線をプロットした。各群の腫瘍体積の増加状況から見ると、陽性対照群および立再適低中高用量群は投与の6日目において、ブランク対照群と比較して、すでに統計学的有意な差があって(P<0.05)(
図4)、そして腫瘍抑制作用は計量と一定の相関性を有した。十六日目の実験終了時に、ブランク対照群のヌードマウスの腫瘍重量は1.01±0.24gであって、陽性対照群の腫瘍重量は0.21±0.10gであって、立再適低用量群(0.01U/g)、中用量群(0.02U/g)、高用量群(0.04U/g)の腫瘍重量はそれぞれ0.75±0.13g、0.66±0.08gおよび0.50±0.07gであって、ヌードマウスLM3移植腫瘍の成長に対する抑制率はそれぞれ25.24%、34.71%、49.86%であって、陽性対照群シクロホスファミドの腫瘍抑制率は79.33%であって、ブランク対照群の腫瘍重量と比較して、各処理群間は全て統計学的有意な差があった(P<0.05或P<0.01)(表2、
図5)。
【0083】
【0084】
2.7 立再適のヒト肝がんヌードマウスの免疫器官に対する影響
【0085】
第十六日目実験終了時、ヌードマウスを頸椎脱臼で屠殺した後、脾臓組織を完全に摘出し、余分な癒着組織を除去し、先に0.9%塩化ナトリウム注射液で濯ぎ、さらに吸水紙を用いて水分を吸収してから重量を計測し、脾臓指数を算出した。結果によると(表3)、ブランク対照群の脾臓指数は0.84±0.12であって、陽性対照群の脾臓指数は0.70±0.10であって、立再適低用量群(0.01U/g)、中用量群(0.02U/g)、高用量群(0.04U/g)の脾臓指数はそれぞれ1.15±0.05、1.23±0.07、1.17±0.02であって、各処理群はブランク対照群と比較して、全て統計学的有意な差があった(P<0.01)。
【0086】
【0087】
2.8 結論
【0088】
A.BALB/CヌードマウスのLM3皮下移植腫瘍モデルの作製に成功し、立再適の体内薬効学研究を展開するための基礎を作った。
【0089】
B.立再適はLM3皮下腫瘍BALB/Cヌードマウスの体重増加に対し顕著な影響がなく、その高い安全性を示した。
【0090】
C.立再適はBALB/CヌードマウスのLM3皮下移植腫瘍の成長に対し顕著な抑制作用を有し、また投与量とは一定な相関性を有し、そのがん治療領域における応用価値を示唆した。
【0091】
D.立再適はLM3皮下腫瘍BALB/Cヌードマウスの免疫器官脾臓に対し重量増加作用を有し、ヌードマウスの脾臓指数を向上でき、立再適は身体の免疫機能を向上できることを提示した。
【0092】
実施例3-立再適併用シクロホスファミドのヒト肝がん腫瘍担持ヌードマウスに対する薬効学研究
【0093】
ヒト肝がんLM3細胞の調製およびBALB/CヌードマウスのLM3皮下移植腫瘍モデルの作製方法は実施例2を参照されたい。
【0094】
3.1 動物グループ分け投与
【0095】
50匹のBALB/Cヌードマウスヒト肝がんLM3皮下移植腫瘍モデルを作製し、毎日腫瘍の成長状況を観察記録し、腫瘍体積が100~300mm3に成長したのち、腫瘍体積に応じて無作為にグループ分けして投与した。50匹のヌードマウスを無作為に5の群に分け、それぞれをブランク対照群(10匹)、立再適単用群(10匹)、シクロホスファミド低用量群(10匹)、シクロホスファミド高用量群(10匹)、立再適とシクロホスファミド併用投与群(10匹)とした。対照群に対しては、0.9%塩化ナトリウム注射液を投与し、0.2ml/d、腹腔内注射とした。立再適単用群に対しては、0.02U/g/d、腹腔内注射とした。シクロホスファミド低用量群に対しては、10mg/kg、二日おきに一回投与し、腹腔内注射とした。シクロホスファミド高用量群に対しては、20mg/kg、二日おきに一回投与し、腹腔内注射とした。立再適とシクロホスファミド併用投与群に対しては、0.02U/g+10mg/kg、立再適は毎日一回投与し、シクロホスファミドは二日おきに一回投与し、腹腔内注射とした。連続して15日間投与した。投与の一日目から毎日ヌードマウスの精神状態、食餌、活動、排泄状況を観察し、三日に一回ヌードマウスの体重状況および腫瘍成長状況を記録し、16日目において実験を終了し、各群のヌードマウスの体重を計測し、その後頸椎脱臼で屠殺し、腫瘍組織および脾臓組織を完全に摘出して重量測定および計測を行い、腫瘍抑制率および脾臓指数を算出した。
【0096】
3.2 腫瘍抑制率および脾臓指数の測定
【0097】
16日目で実験を終了し、各群のヌードマウスを頸椎脱臼で屠殺し、皮下腫瘍組織を完全に摘出して重量測定および計測を行った。ノギスを使用して腫瘍長径(a)、短径(b)を計測し、腫瘍体積を算出した。腫瘍体積=a×b×b/2。腫瘍抑制率(%)=[(モデル群平均腫瘍重量-投与群平均腫瘍重量)/モデル群平均腫瘍重量]×100%。
【0098】
16日目で実験を終了し、ヌードマウスの体重を計測し、各群のヌードマウスを頸椎脱臼で屠殺した後、脾臓組織を完全に摘出して重量測定を行った。脾臓指数の算出式は以下に示す。脾臓指数=脾臓重量(mg)/マウス体重(g)×10。
【0099】
3.3 立再適のヒト肝がんヌードマウスの体重に対する影響
【0100】
LM3移植腫瘍を接種したBALB/Cヌードマウスについて、実験開始前の対照群の体重は18.13±0.54gであって、実験終了時の体重は19.83±0.51gであって、立再適群、立再適とシクロホスファミド併用投与群のヌードマウスの体重変化曲線は対照群と基本的に一致し、群間における統計学的な差はなかった(P>0.05)。シクロホスファミド低、高用量群のヌードマウスの実験終了時の体重はそれぞれ18.58±0.41g、17.54±0.28gであって、対照群と比較して、統計学的有意な差があった(P<0.05)(
図6)。
【0101】
3.4 立再適のヒト肝がんヌードマウス皮下移植腫瘍に対する抑制作用
【0102】
ヒト肝がん細胞LM3をBALB/Cヌードマウスの皮下に接種し、接種後腫瘍体積が100~300mm
3に成長したのち、腫瘍体積に応じて無作為にグループ化し、対照群、立再適群、シクロホスファミド低用量群、シクロホスファミド高用量群、立再適とシクロホスファミド併用投与群の計五つの群に分けて投与した。ノギスを使用して腫瘍長径(a)、短径(b)を計測し、腫瘍体積を算出し、腫瘍成長曲線をプロットした。各群の腫瘍体積の成長状況からみると、立再適群、シクロホスファミド低、高用量群、立再適とシクロホスファミド併用投与群は投与の第九日目において、対照群と比較して、すでに統計学的有意な差があった(P<0.05)(
図7)。十六日目実験終了時、対照群ヌードマウスの腫瘍重量は0.75±0.04であって、立再適群(0.02U/g)の腫瘍重量は0.58±0.06gであって、ヌードマウスのLM3移植腫瘍の成長に対する抑制率は22.25%であった。シクロホスファミド低用量群(10mg/kg)、高用量群(20mg/kg)の腫瘍重量はそれぞれ0.50±0.02g、0.28±0.06gであって、腫瘍抑制率はそれぞれ33.21%および62.67%であった。立再適とシクロホスファミド併用投与群(0.02U/g+10mg/kg)の腫瘍重量は0.29±0.05gであって、腫瘍抑制率は60.95%であって、対照群の腫瘍重量と比較して、各処理群は全て統計学的有意な差があった(P<0.01)。立再適とシクロホスファミド併用投与群の腫瘍重量と比較して、立再適群とシクロホスファミド低用量群とはともに有意な差があった(P<0.01)(表4、
図8)。表4および
図7から、立再適とシクロホスファミド併用投与の腫瘍抑制率は、立再適単独投与の腫瘍抑制率とシクロホスファミド単独投与の腫瘍抑制率との合計より大であったことが分かる。当該結果は、立再適とシクロホスファミドの併用が腫瘍治療において相乗効果を有することを示した。
【0103】
【0104】
3.5 立再適のヒト肝がんヌードマウスの免疫器官に対する影響
【0105】
十六日目実験終了時に、ヌードマウスを頸椎脱臼で屠殺した後、脾臓組織を完全に摘出し、余分な付着組織を除去し、先に0.9%塩化ナトリウム注射液で濯ぎ、さらに吸水紙を用いて水分を吸収してから重量を計測し、脾臓指数を算出した。結果によると(表5)、対照群の脾臓指数と比較して、立再適群(0.02U/g)およびシクロホスファミド低(10mg/kg)、高用量群(20mg/kg)は全て統計学的有意な差があったが(P<0.05)、立再適とシクロホスファミド併用投与群(0.02U/g+10mg/kg)は有意な差がなかった(P>0.05)。併用投与群の脾臓指数と比較して、立再適群とシクロホスファミド低、高用量群は全て統計学的有意な差があった(P<0.05)。
【0106】
【0107】
3.6 結論
【0108】
A.立再適はシクロホスファミドの身体に対する毒性および副作用を軽減し、身体の健康レベルを向上することができる。
【0109】
B.立再適はシクロホスファミドに対して抗腫瘍相乗効果を有し、そして、立再適の併用により、シクロホスファミドの用量を低減して同様の抗腫瘍効果を達成することができ、立再適の抗がん補助薬としての応用価値を示した。
【0110】
C.立再適とシクロホスファミド併用投与群は、単独使用の同じ投与量のシクロホスファミド群と比較して、顕著に脾臓指数が向上し、シクロホスファミドの脾臓に対する抑制作用を軽減した。立再適は身体の免疫機能を向上させ、シクロホスファミドに対して、毒性を軽減させかつ効果を向上させる作用を発揮することができる。