(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】アスベスト含有外壁塗装の除去方法および除去装置
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20240515BHJP
E04F 21/00 20060101ALI20240515BHJP
B25D 11/00 20060101ALI20240515BHJP
B25D 17/02 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
E04G23/08 Z
E04F21/00 D
B25D11/00
B25D17/02
(21)【出願番号】P 2023044136
(22)【出願日】2023-03-20
【審査請求日】2023-07-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523101903
【氏名又は名称】株式会社徳島機械センター
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【氏名又は名称】塩田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100213425
【氏名又は名称】福島 正憲
(74)【代理人】
【識別番号】100221707
【氏名又は名称】宮崎 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100099977
【氏名又は名称】佐野 章吾
(74)【代理人】
【識別番号】100104259
【氏名又は名称】寒川 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100229116
【氏名又は名称】日笠 竜斗
(72)【発明者】
【氏名】新田 国男
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-139689(JP,A)
【文献】実開昭58-145162(JP,U)
【文献】特開2019-085715(JP,A)
【文献】特開2021-085162(JP,A)
【文献】特開2014-077341(JP,A)
【文献】特開平03-008978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/08
E04F 21/00
B25D 11/00
B25D 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物本体のコンクリート表面に形成されたアスベスト含有外壁塗装について、この外壁塗装の弾性特性を利用して、剥がし工具の刃先を所定の傾斜角度をもって前記外壁塗装に突き当てた状態で、この剥がし工具の連続した打撃動作を行うことにより、前記外壁塗装を前記コンクリート表面から連続的に剥離させる方法であって、
前記剥がし工具は、手持ち操作可能な電動打撃装置の先端部に設けられた先端工具で、前記打撃装置から与えられる前後方向振動により打撃動作する構成とされ
、
前記打撃動作により、前記刃先が、前記外壁塗装と前記コンクリート表面との接着境界部分において、前記コンクリートをわずかに削りながら前記外壁塗装を剥離除去する
ことを特徴とするアスベスト含有外壁塗装の除去方法。
【請求項2】
前記外壁塗装が所定の基準厚さ以上の厚さを有する場合、この外壁塗装自体の弾性特性を利用して、前記剥がし工具により前記打撃動作を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有外壁塗装の除去方法。
【請求項3】
前記外壁塗装が所定の基準厚さより小さい厚さを有する場合、前工程として、前記外壁塗装の表面に追加の弾性塗料を重ね塗りすることにより、この外壁塗装に前記所定の基準厚さ以上の厚さを付与してから、この厚さを付与された外壁塗装自体の弾性特性を利用して、前記剥がし工具により前記打撃動作を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有外壁塗装の除去方法。
【請求項4】
前記剥がし工具は、前記電動打撃装置の先端部に取外し交換可能に取り付けられる構造とされ、異なる形状寸法の刃先を有する複数種類の前記剥がし工具が交換用アタッチメントとして準備されている
ことを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有外壁塗装の除去方法。
【請求項5】
前記剥がし工具の刃先を前記外壁塗装に突き当てた状態における前記刃先の傾斜角度θは、15°≦θ≦45°に設定される
ことを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有外壁塗装の除去方法。
【請求項6】
前記所定の基準厚さは、使用する前記剥がし工具の刃先が前記外壁塗装の断面部分に係合する大きさに設定される
ことを特徴とする請求項2または3に記載のアスベスト含有外壁塗装の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアスベスト含有外壁塗装の除去方法および除去装置に関し、さらに詳細には、古い建築物等の解体工事等において、建築物の外壁に仕上げ塗材として施されているアスベスト含有外壁塗装を除去する塗装除去技術に関する。
【背景技術】
【0002】
古く老朽化した建築物等の解体工事等に際しては、建築材料に含有されているアスベスト(石綿)の粉塵が人体に有害であり、その飛散を防止するため、大気汚染防止法により厳しい規制が規定されており、建築物の外壁に仕上げ塗材として施されているアスベスト含有外壁塗装もその規制対象とされている。
【0003】
この法規制を遵守するため、解体業者は、建築物の解体作業に際して、直ちに建築物を解体するのではなく、その前工程として建築物の外壁塗装の除去作業を行うことで、建築物の解体作業時に外壁塗装に含まれるアスベストの飛散を防ぐとともに、建築物解体後のコンクリート塊の中にアスベストを残存させない措置を講じている。
【0004】
従来の外壁塗装の除去方法としては、塗装用の剥離剤を使用した除去方法が最も一般的である。
【0005】
この方法においては、外壁塗装を除去する前に、先ず外壁塗装全体に剥離剤を塗布する。すると、この剥離剤が外壁塗装に浸透して、外壁塗装が湿潤化し柔らかくなって、建築物本体の外壁コンクリート表面から外側へ膨らんで浮いてくるので、外壁コンクリート表面から剥がれやすくなる。そして、この外壁コンクリート表面から浮いてきた外壁塗装を、スクレーパやヘラ等の剥離具を用いて手作業で掻き取ることで剥離除去する。この作業はアスベスト含有外壁塗装が施された建築物表面全体にわたって行われる。
【0006】
この除去方法によれば、アスベストを含有する外壁塗装は、剥離剤の作用で湿潤化して柔らかくなっているので、剥離時に外壁塗装が粉塵化して舞い上がって、大気中へ飛散するようなことはなく、建築物本体から剥離除去することができる。
【0007】
ところで、上記のような従来の外壁塗装の除去方法においては、湿潤化して柔らかくなった外壁塗装が建築物本体から剥離除去されやすくなる反面、この剥離剤の作用により以下のような新たな問題が生じていた。
【0008】
すなわち、建築物本体の外壁コンクリート表面は平らで滑らかな平滑面ではなく、凹凸のある粗い面である。これは、建築物の新築時に外壁コンクリートと外壁塗装を密着一体化する目的で、表面コーティングされていないざらざらのコンパネを使用することで、外壁コンクリート表面をあえて凹凸のある粗い面に形成しているからである。
【0009】
これがため、剥離剤の作用により湿潤化して柔らかくなった外壁塗装は、剥離具による剥離作業により、その大部分が上記外壁コンクリート表面から剥離除去されるが、一方、上記外壁コンクリート表面に接する外壁塗装の部分も湿潤化して柔らかくなっているため、上記剥離具による剥離作業に伴う押し圧力により上記外壁コンクリート表面に押し付けられる。その結果、外壁塗装の一部が粗い外壁コンクリート表面の小さな窪みに侵入して詰まってしまい、これにより、この外壁塗装に含まれるアスベストも建築物表面に残存してしまうことになる。
【0010】
このように建築物表面に残存するアスベストも完全に除去してしまわないと、この残存するアスベストが建築物解体作業時に粉塵となって大気に拡散し、建設作業従事者や周辺住民への健康被害を発生するばかりか、解体後のコンクリート塊の中に残存してしまうことになる。このようなコンクリート塊は、リサイクル材としての再生砕石に加工されて再利用されることになるので、再生砕石の新たなアスベスト混入問題を生じることになる。
【0011】
したがって、このような新たな問題発生を防ぐためには、上記建築物の外壁コンクリート本体に残存するアスベスト含有塗装も、建築物解体前にすべて完全に除去してしまう必要があった。
【0012】
この目的のため、従来は、上記のように外壁塗装を剥離除去した外壁コンクリート表面に、さらに電動グラインダ等の研磨装置により研磨をかけて、外壁コンクリート表面に残存する外壁塗装を研磨除去するという方法がとられたり、あるいは、高圧の水を噴射する高圧洗浄機を使用して、高圧水により外壁コンクリート表面に残存する上記外壁塗装を洗浄除去するという方法がとられていた。これらの残存外壁塗装の除去作業も、上述した剥離剤による除去作業と同様、アスベスト含有外壁塗装が施された建築物表面全体にわたって行われる。
【0013】
なお、本出願人の知る限りにおいて、これら従来のアスベスト含有外壁塗装の除去技術を開示した特許文献等は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、これらいずれのアスベスト除去方法においても以下のような問題があり、新たな外壁塗装の除去方法の開発が強く要望されていた。
【0016】
すなわち、前者の研磨除去作業は、作業速度が遅く、しかも最低二回行う必要があり、これをアスベスト含有外壁塗装が施された建築物表面全体に行う。これがため、研磨除去作業は上述した前段階の剥離除去作業以上の手間と労力を要することになり、これが作業コストの大幅な高騰を招いていた。
【0017】
また、後者の高圧水による洗浄除去作業も、アスベスト含有外壁塗装が施された建築物表面全体に行うことになるが、上記研磨除去作業に比較すると作業時間は短くて済む。ところが、使用する高圧洗浄機が非常に高価格の装置であることから、やはり作業コストの高騰を招いていた。
【0018】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、建築物解体作業の前工程である建築物外壁塗装の除去作業に際して、外壁塗装の大気中への粉塵化飛散を防止するとともに、外壁塗装のすべてを建築物本体から完全に除去することができ、しかも作業時間が短くかつ作業コストの低いアスベスト含有外壁塗装の除去方法を提供することにある。
【0019】
また、本発明の他の目的とするところは、上記外壁塗装の除去方法に好適に使用することができるアスベスト含有外壁塗装の除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、本発明者らによる以下の着眼点に基づいた種々の試験研究の成果としてなされたものである。
【0021】
すなわち、本発明者らは、上記のような塗装用の剥離剤を使用する外壁塗装の除去方法においては、アスベスト含有外壁塗装を湿潤化して柔らかくすると、建築物本体から剥離除去されやすくなる反面、上記外壁塗装の一部が建築物表面に残存してしまうため、この残存する外壁塗装を完全に除去するための追加の除去作業が必要となり、結果として、2段階にわたる大掛かりな外壁塗装除去作業が必要不可欠であったという事実に着目した。
【0022】
具体的には、1回目の外壁塗装除去作業において使用する剥離剤の主たる目的および効果である外壁塗装の湿潤化・柔軟化が、アスベスト含有外壁塗装の建築物本体の外壁コンクリート表面への侵入および残存という新たな問題を引き起こしていたという事実に鑑み、従来の2段階にわたる大掛かりな外壁塗装除去作業の軽減化と作業コストの低減化のためには、上記剥離剤を使用することなく、外壁塗装の粉塵化による大気中への飛散を防止しつつ、かつ同時に外壁塗装のすべてを建築物本体から完全に除去する必要がある点に着目した。
【0023】
本発明者らは、このような除去方法を実現すべく、種々の試験・研究を行い、アスベスト含有外壁塗装の構成特性についても分析検討した結果、一般的なアスベスト含有外壁塗装は弾性塗料からなり、伸縮性・弾力性・防水性が高くて、このような弾性塗料により形成された外壁塗装は、経年劣化によっても弾性塗料の特性が極端に失われることはなく、特に破れづらいという点に着目した。そして、このようにして得られた知見に基づいて、さらなる試験・研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0024】
すなわち、上記目的を達成するため、本発明のアスベスト含有外壁塗装の除去方法は、建築物本体の外壁コンクリート表面に形成されたアスベスト含有外壁塗装について、この外壁塗装の弾性特性を利用して、剥がし工具の刃先を所定の傾斜角度をもって上記外壁塗装に突き当てた状態で、この剥がし工具の連続した打撃動作を行うことにより、上記外壁塗装を上記外壁コンクリート表面から連続的に剥離させる方法であって、上記剥がし工具は、手持ち操作可能な電動打撃装置の先端部に設けられた先端工具で、上記打撃装置から与えられる前後方向振動により打撃動作する構成とされていることを特徴とする。
【0025】
好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
(1)上記外壁塗装が所定の基準厚さ以上の厚さを有する場合、この外壁塗装自体の弾性特性を利用して、上記剥がし工具により上記打撃動作を行う。
【0026】
(2)上記外壁塗装が所定の基準厚さより小さい厚さを有する場合、前工程として、上記外壁塗装の表面に追加の弾性塗料を重ね塗りすることにより、この外壁塗装に上記所定の基準厚さ以上の厚さを付与してから、この厚さを付与された外壁塗装自体の弾性特性を利用して、上記剥がし工具により上記打撃動作を行う。
【0027】
(3)上記剥がし工具は、手持ち操作可能な電動打撃装置の先端部に設けられた先端工具で、上記打撃装置から与えられる前後方向振動により打撃動作する構成とされている。
【0028】
(4)上記剥がし工具は、上記電動打撃装置の先端部に取外し交換可能に取り付けられる構造とされ、異なる形状寸法の刃先を有する複数種類の上記剥がし工具が交換用アタッチメントとして準備することができる。
【0029】
(5)上記剥がし工具の刃先を上記外壁塗装に突き当てた状態における上記刃先の傾斜角度θは、15°≦θ≦45°に設定される。
【0030】
(6)上記所定の基準厚さは、使用する上記剥がし工具の刃先が上記外壁塗装の断面部分に係合する大きさに設定される。
【0031】
また、本発明のアスベスト含有外壁塗装の除去装置は、建築物本体の外壁コンクリート表面に形成されたアスベスト含有外壁塗装を除去する装置であって、手持ち操作可能な電動打撃装置の先端部に剥がし工具が設けられてなり、この剥がし工具は、上記打撃装置から与えられる前後方向振動により打撃動作する構成とされていることを特徴とする。
【0032】
好適な実施態様として、上記剥がし工具は、上記電動打撃装置の先端部に取外し交換可能に取り付けられる構造とされ、異なる形状寸法の刃先を有する複数種類の上記剥がし工具が交換用アタッチメントとして準備されている。
【発明の効果】
【0033】
本発明のアスベスト含有外壁塗装の除去方法は、外壁塗装の弾性特性を利用して、剥がし工具の刃先を所定の傾斜角度をもって上記外壁塗装に突き当てた状態で、この剥がし工具の連続した打撃動作を行うことにより、上記外壁塗装を上記外壁コンクリート表面から連続的に剥離させる方法であって、上記剥がし工具は、手持ち操作可能な電動打撃装置の先端部に設けられた先端工具で、上記打撃装置から与えられる前後方向振動により打撃動作する構成とされているから、以下に列挙する特有の効果が得られ、建築物外壁塗装の除去作業に際して、外壁塗装の大気中への粉塵化飛散を防止するとともに、外壁塗装のすべてを建築物本体から完全に除去することができ、しかも作業時間が短くかつ作業コストの低いアスベスト含有外壁塗装の除去方法を提供することができる。
【0034】
(1)剥がし工具の刃先を所定の傾斜角度をもって外壁塗装に突き当てた状態で、上記剥がし工具の連続した打撃動作を行うことにより、上記外壁塗装はそれ自体の弾性特性により、上記剥がし工具の刃先で連続的に建築物本体の外壁コンクリート表面から円滑かつ確実に剥離されて除去される。
【0035】
すなわち、従来の塗装用の剥離剤を使用する場合のように、外壁塗装本来の特性を変化させることがなく、その結果、弾性塗料からなる外壁塗装本来の弾性特性、特に伸縮性・弾力性に基づく破れづらさが有効に発揮されて、上記剥がし工具による剥がし力によっても、細かく分断ないしは粉砕されることなく、連続的に繋がった状態で建築物本体の外壁コンクリート表面から円滑かつ確実に剥がされて、剥がし作業中に、外壁塗装が粉塵化して大気中へ飛散することはない。
【0036】
しかも、上記のとおり外壁塗装は、その弾性特性により破れることなく一体に剥がされる結果、上記外壁コンクリート表面に残存することなく完全に除去され得る。
【0037】
(2)剥がし工具の刃先を所定の傾斜角度をもって上記外壁塗装に突き当てた状態で、剥がし工具の連続した打撃動作を行うことにより、上記外壁塗装はそれ本来の弾性特性に基づく一体性から、上記外壁コンクリート表面に対する接着力に抗して、外壁コンクリート表面から強制的に連続して剥離除去される。
【0038】
(3)所定の基準厚さ以上の厚さ、具体的には、使用する剥がし工具の刃先が係合する大きさの厚さを有する外壁塗装に対して、剥がし工具の打撃動作を行うことにより、上記刃先による剥がし力が外壁塗装に確実かつ有効に作用して、上記(2)の効果がより発揮され得る。
【0039】
(4)外壁塗装の厚さを、使用する剥がし工具の刃先が外壁塗装の断面部分に係合する基準厚さ以上に設定することにより、剥がし工具の刃先が外壁塗装を確実にとらえて、上記外壁コンクリート表面からの剥離作用が有効に発揮される。
【0040】
(5)上記剥がし工具は、手持ち操作可能な電動打撃装置の先端部に設けられた先端工具で、上記打撃装置から与えられる前後方向振動により打撃動作する構成とされていることにより、先端工具の大きな打撃力が上記外壁塗装に作用して、外壁塗装の弾性特性との協働作用による効果が有効に発揮されて、外壁塗装が外壁コンクリート表面から円滑かつ確実に剥離される。
【0041】
(6)本発明のアスベスト含有外壁塗装の除去装置によれば、本発明のアスベスト含有外壁塗装の除去方法を確実かつ有効に実行することができ、上記(1)~(5)の特有の効果が発揮され得る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の実施形態1に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法の実施状態を示し、
図1(a)は上向きに除去する状態、
図1(b)は下向きに除去する状態を示す。
【
図2】同除去方法の実施状態における剥がし工具の刃先と外壁塗装との関係を模式的に示し、
図2(a)は剥がし工具の刃先を外壁塗装に突き立てた初期状態を、
図2(b)はがし工具の刃先の打撃動作で外壁塗装を剥離除去する状態を示す。
【
図3】同除去方法の実施対象である外壁塗装の断面構造を拡大して示す正面断面図である。
【
図4】同除去方法で使用する剥がし工具を示し、
図4(a)は全体斜視図、
図4(b)は刃先の先端形状が片刃の場合の斜視図、
図4(c)は刃先の先端形状が両刃の場合の斜視図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は同剥がし工具の異なる形状の刃先を示す斜視図である。
【
図6】同剥がし工具を先端工具として備える電動打撃装置を示す斜視図である。
【
図7】本発明に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法の実施対象となる解体作業前の古く老朽化した建築物の一例を示す斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法の実施対象である外壁塗装の断面構造を示す
図3に対応した拡大正面断面図で、
図8(a)は外壁塗装の現状の断面構造、
図8(b)は本除去方法の実施に先立つ弾性塗料を重ね塗りした状態の断面構造を示す。
【
図9】従来の塗装用剥離剤を使用したアスベスト含有外壁塗装の除去方法において、剥離具により外壁塗装を剥離除去した際の外壁コンクリート表面を撮影した写真であり、
図9(b)は
図9(a)における外壁塗装が剥離除去された外壁コンクリート表面の一部を拡大したものである。
【
図10】本発明の実施形態1に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法を実施した時の状態を撮影した写真である。
【
図11】本発明の実施形態2に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法の除去対象となる弾性リシンにより形成された外壁塗装に対して、剥がし工具による連続した打撃動作を与えた時の状態を撮影した写真である。
【
図12】同弾性リシンにより形成された外壁塗装の表面に追加の弾性塗料を重ね塗りして、この厚塗りされた外壁塗装に、剥がし工具による連続した打撃動作を与えた時の状態を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面全体にわたって同一の符号は同一の構成部材または要素を示している。
【0044】
実施形態1
本発明に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法を
図1~
図7に示し、この除去方法は、具体的には、
図7に示すような古く老朽化した建築物Bの解体工事等において、その前工程として建築物Bの外壁塗装1を除去するためのものである。
【0045】
上記外壁塗装1は、旧来の建築物Bの外壁つまり外壁コンクリートCの表面Caに施されているもので、ほとんどの外壁塗装1が耐火、耐熱、防音等の性能に優れたアスベスト(石綿)を含有する一方で、このアスベストの粉塵が人体に有害であることから、その除去作業に際しても、アスベストの粉塵が大気に飛散するのを防止する必要がある。
【0046】
本実施形態の外壁塗装1の除去方法は、上記外壁塗装1の弾性特性を利用して行うもので、その実施に際しては、
図1に示すように、打撃動作を行う剥がし工具2を好適に使用する。
【0047】
この剥がし工具2は、
図4に示されるような棒状のもので、その先端部が刃先3とされるとともに、後端部が取付け用のシャンク部4とされてなり、
図6に示すような電動打撃装置5の先端部6に取外し交換可能に取り付けられる先端工具の形態とされている。
【0048】
具体的には、剥がし工具2のシャンク部4と上記電動打撃装置5の先端部6が相互に対応した接続構造とされ、上記シャンク部4が上記先端部6に着脱可能に挿入固定される。
【0049】
剥がし工具2の刃先3は、図示のごとく幅広の扁平な形状とされた平ノミの形態とされている。刃先3の先端3aは、
図4(a)のような片刃か、
図4(b)のような両刃のいずれでも適用可能であり、図示の実施形態においては、
図4(a)の片刃の刃先3を有する剥がし工具2が使用されている。
【0050】
上記電動打撃装置5は、手持ち操作可能な形状寸法を有し、具体的には図示しないが、装置本体7に、電動モータおよび駆動機構等の駆動部が内蔵されて、上記先端部6に取り付けられた上記剥がし工具2に、前後方向振動による打撃動作を与える従来周知の電動機械構造を備えてなる。なお、
図6において、8は使用者が把持する把持部、9は駆動スイッチ、10は電源コードをそれぞれ示している。
【0051】
換言すれば、上記電動打撃装置5としては、従来一般市販の電動ハンマや電動ハンマドライバ等の電動打撃装置も代用可能であり、その場合は、上記剥がし工具2のシャンク部4の接続構造は、使用する電動打撃装置5の先端部6の接続構造に対応して適宜設計・設定される。
【0052】
なお、上記剥がし工具2は、後述するように、上記電動打撃装置5により与えられる打撃動作によって、刃先3が外壁塗装1に対して有効な剥離動作を発揮することができれば、具体的な形状構造は特に限定されず、例えば、
図5(a)~(c)に示すように、使用箇所・目的に応じた異なる形状寸法の刃先3A、3B、3Cを有する複数種類の剥がし工具2A、2B、2Cを、交換用アタッチメントとして準備しておき、これら剥がし工具2A、2B、2Cを適宜交換使用することが有効である。
【0053】
上記剥がし工具2の使用に際しては、
図2に示すように、外壁塗装1に対して、剥がし工具2の刃先3を突き当てた状態で(
図2(a)の状態)、上記電動打撃装置5を駆動させるが、この時の上記刃先3の傾斜角度θは、後述するように15°≦θ≦45°が好適に設定される。
【0054】
上記の刃先3の傾斜角度θは、アスベスト含有外壁塗装1が弾性塗料からなり、このような弾性塗料により形成された外壁塗装1は、経年劣化によっても弾性特性を維持していることから、外壁塗装1の弾性特性を有効に利用できるように設定されている。
【0055】
すなわち、一般的な外壁塗装1の断面構造は、例えば
図3に示すよう複数の弾性塗装(弾性塗料層)11からなる断面構造を有しており、具体的には、外壁コンクリートCの表面Caに、下地調整塗料11a、下塗材11b、主材(基層)11c、主材(模様)11d、上塗材11eが順次重ね塗りされてなる。
【0056】
なお、
図3に示す外壁塗装1の断面構造は旧来の建築物Bの外壁コンクリートCに施された外壁塗装1の一例であって、他の外壁塗装1では、具体的な断面構造が異なるものも存在するが、いずれの外壁塗装1においても、複数の弾性塗料層11からからなり、経年劣化によっても弾性塗料の特性が極端に失われることはなく、特に破れづらいという弾性特性を有しているという点においては大同小異であることが判明している。
【0057】
そして、このような外壁塗装1の弾性特性を利用して、上記剥がし工具2による連続した打撃動作を行うことにより、上記外壁塗装1は上記外壁コンクリートCの表面Caから連続的に剥離させることができることが、本発明者らが繰り返し行った試験により判明した。
【0058】
次に、上記剥がし工具2により外壁塗装1を外壁コンクリートCの表面Caから有効に剥離除去するための具体的条件について詳細に説明する。
【0059】
まず、上述したように、剥がし工具2を外壁塗装1の除去作業に対して使用するに際しては、
図2(a)に示すように、外壁塗装1の表面1aに対して、剥がし工具2の刃先3を突き当てた状態で、電動打撃装置5を駆動させるが、この時の上記刃先3の傾斜角度θは、15°≦θ≦45°の範囲にする必要がある。
【0060】
この傾斜角度θは、剥がし工具2の刃先3の打撃力により、弾性特性を有する外壁塗装1を外壁コンクリートCの表面Caから円滑にかつ確実に剥離させるための条件で、この条件下で上記剥がし工具2による連続した打撃動作を行うと、
図2(b)に示すように、刃先3が外壁塗装1と外壁コンクリートCの表面Caの境界部分に食い込んで、外壁塗装1はその弾性特性により粉砕されることなく外壁コンクリートCの表面Caから円滑にかつ確実に剥離し(外壁塗装12参照)、しかも、この剥離された外壁塗装12は、その弾性特性により破断することなく連続した帯状に剥離されていき(
図1(a)または
図1(b)参照)、粉塵化による大気への拡散も起こらない。また、主材(模様)11dが構成する凹凸模様を刃先3が外壁塗装1中に進入するきっかけとすると、刃先3の進入をより容易とできるため好ましい。
【0061】
これに対して、上記刃先3の傾斜角度θが15°よりも小さいと、刃先3が外壁塗装1と外壁コンクリートCの表面Caの境界部分に食い込まず、外壁塗装1側へ逃げてしまう結果、外壁塗装1をその弾性特性にも関わらず粉々に破壊して、その粉塵化による大気への拡散を引き起こしてしまう危険がある。
【0062】
逆に、上記刃先3の傾斜角度θが45°よりも大きいと、刃先3が外壁コンクリートCに直接的に打撃力を与えて、一般のはつり工事のように外壁コンクリートC自体を切削・破壊することになる結果、外壁塗装1の剥離除去に必要以上に多くの作業時間を要して、作業効率が非常に悪くなる。
【0063】
次に、上記外壁塗装1は所定の基準厚さT0以上の厚さT1を有する必要があり、この条件は、剥がし工具2による打撃力が外壁塗装1に有効に作用して、外壁塗装1を外壁コンクリートCの表面Caから確実に剥離させるために必須のものである。
【0064】
具体的には、上記所定の基準厚さT0は、使用する上記剥がし工具2の刃先3が上記外壁塗装1の断面部分に係合する大きさに設定される。つまり、剥がし工具2の刃先3がその打撃力を外壁塗装1に有効に作用する係合状態が得られる大きさに設定される。
【0065】
換言すれば、一般的には旧来の建築物Bのほとんどの外壁塗装1の厚さT1がほぼ1.0~2.0mmであることから、逆に、剥がし工具2の刃先3の先端厚さが、厚さT1の外壁塗装1の断面部分に上記係合状態で係合する大きさに設定されていれば、原則的には一般的な外壁塗装1のすべてに剥がし工具2の打撃力が有効に作用して、外壁コンクリートCの表面Caから確実に剥離させることができる。
【0066】
一方、上記外壁塗装1の厚さT1が基準厚さT0よりも小さい場合には、後述する実施形態2の除去方法により剥離除去される。
【0067】
しかして、以上のように構成された外壁塗装の除去方法においては、電動打撃装置5を駆動して、剥がし工具2を打撃動作させながら、その刃先3を
図2(a)に示すように外壁塗装1に突き当てて、そのまま前進させることにより、刃先3は連続した打撃動作により、上記外壁塗装1を建築物B本体の外壁コンクリートCの表面Caから連続的に剥離させていく。
【0068】
具体的には、
図2(b)に示すように、剥がし工具2の刃先3が外壁塗装1と外壁コンクリートCの表面Caの接着境界部分に食い込みながら、その前後振動による連続した打撃力により、外壁塗装1は外壁コンクリートCの表面Caから円滑にかつ確実に剥離されるとともに、その剥離された外壁塗装12は、その弾性特性により、破断することなく図示のごとく連続した帯状に剥離されていき、粉塵化による大気への拡散も起こらない。
【0069】
なお、上記の剥がし工具2の刃先3が外壁塗装1と外壁コンクリートCの表面Caの接着境界部分に食い込む際の状況は、実際には、刃先3は、外壁塗装1と外壁コンクリートCの表面Caの接着境界部分において、外壁コンクリートCの表面Caをわずかに削りながら外壁塗装1全体を剥離除去する形となる。これにより、外壁塗装1は、
図3に示される下地調整塗料11aを含む弾性塗料層11全体が外壁コンクリートCの表面Caから確実に剥離除去され、外壁コンクリートCの表面Caに外壁塗装1が残存することはない。
【0070】
この状況は、上記刃先3が外壁コンクリートCに直接打撃力を与えて、外壁コンクリートC自体を切削・破壊する、従来のはつり作業のようなものではなく、あくまでも、外壁塗装1と外壁コンクリートCの表面Caの接着境界部分の外壁コンクリートCの表面Caをわずかに削りながら外壁塗膜1全体を剥離除去する形となる。したがって、このときに剥がし工具2にかかる負荷は、従来のはつり時にかかる負荷に比較してはるかに小さく、作業者かかる負担もそれほど大きくなく、作業時間も短くて、作業効率が非常に良い。
【0071】
以上の動作により、剥がし工具2の刃先3の先端幅に対応した幅寸法の外壁塗装12(
図1(a)および(b)参照)が剥離除去されていくので、剥がし工具2の刃先3をその幅方向へ順次ずらせながら、同様の動作を繰り返すことにより、建築物Bの外壁塗装1のすべてを剥離除去する。
【0072】
以上詳述したように、本実施形態の外壁塗装の除去方法によれば、以下に列挙する特有の効果が得られる。
【0073】
(a)剥がし工具2の刃先3を所定の傾斜角度θ(15°≦θ≦45°)をもって外壁塗装1に突き当てた状態で、上記剥がし工具2の連続した打撃動作を行うことにより、上記外壁塗装1はそれ自体の弾性特性により、上記剥がし工具2の刃先3で連続的に建築物B本体の外壁コンクリートCの表面Caから円滑かつ確実に剥離されて除去される。
【0074】
すなわち、従来の塗装用の剥離剤を使用する場合のように、外壁塗装1本来の特性を変化させることがなく、その結果、弾性塗料からなる外壁塗装1本来の弾性特性、特に伸縮性・弾力性に基づく破れづらさが有効に発揮されて、上記剥がし工具2による剥がし力(打撃力)によっても、細かく分断ないしは粉砕されることなく、連続的に繋がった状態(外壁塗装12)で建築物B本体の外壁コンクリートCの表面Caから円滑かつ確実に剥がされて、剥がし作業中に、外壁塗装1が粉塵化して大気中へ飛散することはない。
【0075】
しかも、上記のとおり外壁塗装1は、その弾性特性により破れることなく一体に剥がされる結果、上記外壁コンクリートCの表面Caに残存することなく完全に除去され得る。
【0076】
(b)剥がし工具2の刃先3を所定の傾斜角度θをもって上記外壁塗装1に突き当てた状態で、剥がし工具2の連続した打撃動作を行うことにより、上記外壁塗装1はそれ本来の弾性特性に基づく一体性から、上記外壁コンクリートCの表面Caに対する接着力に抗して、外壁コンクリートCの表面Caから強制的に連続して剥離除去される。
【0077】
(c)所定の基準厚さT0、具体的には使用する剥がし工具2の刃先3が係合する大きさの厚さを有する外壁塗装1に対して、剥がし工具2の打撃動作を行うことにより、上記刃先3による剥がし力が外壁塗装1に確実かつ有効に作用して、上記(b)の効果がより発揮され得る。
【0078】
(d)外壁塗装1の厚さT1を、使用する剥がし工具2の刃先3が外壁塗装1の断面部分に係合する基準厚さT0以上に設定することにより、剥がし工具2の刃先3が外壁塗装1を確実にとらえて、上記外壁コンクリートCの表面Caからの剥離作用が有効に発揮される。
【0079】
(e)上記剥がし工具2は、手持ち操作可能な電動打撃装置5の先端部6に設けられた先端工具で、上記打撃装置5から与えられる前後方向振動により打撃動作する構成とされていることにより、剥がし工具2の大きな打撃力が上記外壁塗装1に作用して、外壁塗装1の弾性特性との協働作用による効果が発揮されて、外壁塗装1が外壁コンクリートCの表面Caから円滑かつ確実に剥離される。
【0080】
(f)本実施形態の除去装置5によれば、本実施形態のアスベスト含有外壁塗装1の除去を確実かつ有効に実行することができ、上記(a)~(e)の特有の効果が発揮され得る。
【0081】
実施形態2
本実施形態は
図8に示されており、実施形態1において述べた外壁塗装1に必要な基準厚さT
0を有していない厚さT
2の外壁塗装21を、前述した剥がし工具2で剥離除去する方法である。
【0082】
前述したように、旧来の建築物Bのほとんどの外壁塗装1は基準厚さT0以上の厚さT1を有しており、実施形態1の外壁塗装の除去方法により外壁コンクリートCの表面Caから剥離除去することができるが、中には上記基準厚さT0よりも薄い外壁塗装21も存在する。
【0083】
例えば、弾性塗料のリシン(弾性リシン)により形成された外壁塗装が上記外壁塗装21に該当する。弾性リシンは、外壁コンクリートCの表面Caに下地塗装等を介さないで直接塗られるため、その厚さT2はどうしても薄くなる(実際の建築物Bに施された外壁塗装21の厚さT2は0.8mm程度)。したがって、弾性リシンにより形成された外壁塗装は、そのままでは実施形態1に述べた必須の条件を満たさず、実施形態1の外壁塗装除去方法を実施することができない。
【0084】
換言すれば、上記外壁塗装21に対して、剥がし工具2による連続した打撃動作を与えると、外壁塗装21は外壁コンクリートCの表面Caから剥離されることなく、剥がし工具2の打撃力により破断、粉砕されてしまい、実施形態1の外壁塗装の除去方法をまったく実施できないことが判明した。
【0085】
このように、薄い厚さT2の外壁塗装21においては、剥がし工具2の刃先3の打撃力も有効に作用させることができずに、外壁コンクリートCの表面Caから剥離させることができないばかりか、外壁塗装21は厚さT2が上記基準厚さT0よりも薄く不足しているため、弾性特性にも乏しくてやぶれやすくて、剥がし工具2の刃先3の打撃力によって外壁塗装21は粉々に破壊されてしまい、その粉塵化による大気への拡散を引き起こしてしまうことにもなる。
【0086】
本発明者らは、この点についてさらなる試験・研究を行った結果、上記のような外壁塗装21でも、
図8(b)に示すように、その表面21aに追加の弾性塗料22を重ね塗りして厚さを増加させて、この外壁塗装21に上記基準厚さT
0以上の厚さT
3を付与することにより、この厚さを付与された外壁塗装23が、一般的な外壁塗装1(実施形態1)の弾性特性と同等の弾性特性を得ることができることを突き止めて、本実施形態の外壁塗装の除去方法を完成するに至った。
【0087】
すなわち、本実施形態においては、剥がし工具2による除去作業を実行する前の前工程として、
図8(b)に示すように、上記外壁塗装21の表面21aに追加の弾性塗料22を一回重ね塗りすることにより、この外壁塗装21に上記基準厚さT
0以上の厚さT
3を付与して、剥がし工具2の刃先3の打撃力が外壁塗装21に有効に作用するとともに、十分な弾性特性を有するようにしてから、この厚塗りされた外壁塗装23自体の弾性特性を利用して、上記剥がし工具3により上記打撃動作を行うようにする。
【0088】
なお、上記外壁塗装21の表面21aに対する追加の弾性塗料22の重ね塗りは、上記のごとく一回のみで所期の結果が得られ、二回以上重ね塗りした場合でも、一回の重ね塗りと同程度の効果しか得られず、結論として、上記のような一回の重ね塗りで良いことが判明している。
【0089】
しかして、本実施形態の外壁塗装の除去方法によれば、実施形態1における除去方法と同様に、電動打撃装置5の剥がし工具2により、外壁塗装23(外壁塗装21+弾性塗料22)を建築物B本体の外壁コンクリートCの表面Caから連続的に剥離して除去することができるとともに、その剥離された外壁塗装23(外壁塗装21+弾性塗料22)は、その弾性特性により、破断することなく連続した帯状に剥離されていき、粉塵化により大気への拡散も起こらない。
その他の構成および作用は実施形態1と同様である。
【実施例】
【0090】
以下、実施例および比較例等に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0091】
実施例1
図9は、本発明の背景技術において言及した従来の塗装用剥離剤を使用したアスベスト含有外壁塗装の除去方法において、剥離具により外壁塗装を剥離除去した際の外壁コンクリート表面を撮影した写真である。剥離剤によって剥離された外壁塗装1aは、剥離剤が外壁塗装に浸透して、外壁塗装1が湿潤化し柔らかくなって、建築物本体の外壁コンクリート表面Caから外側へ膨らんで浮いたものを剥離したものである。なお、マスキングテープMは、本実施例の検討に使用した外壁の領域を区分するために使用したものであり、以下の実施例においても同様である。
【0092】
図9(b)は、
図9(a)における外壁塗装が剥離除去された外壁コンクリート表面の一部を拡大した写真であるが、一部コンクリート表面Caが露出している部分はあるものの、この拡大写真の丸印に示した領域に示されるように、この除去方法では、剥離具による外壁塗装1aの剥離作業後においても、アスベスト含有外壁塗装の一部1bが外壁コンクリート表面Caの小さな窪みに侵入して詰まってしまい、この外壁塗装に含まれるアスベストも建築物表面に残存してしまうことが分かる。
【0093】
また、
図9における剥離剤によって剥離された外壁塗装1aを除去した後の外壁コンクリートCの表面Ca近傍におけるアスベスト含有量を分析(分析方法:JIS A1481-1)したところ、分析結果は推定アスベスト質量分率で0.1%より多く、5.0%以下含まれていた。すなわち、外壁コンクリート表面Caの小さな窪みに侵入して詰まった外壁塗装1aの残存によりアスベストが除去できていないことが判明した。また、一旦外壁コンクリート表面Caの小さな窪みに侵入して詰まった外壁塗装1aを手作業で掻き取り除去することは困難であり、先に述べた電動グラインダ等の研磨装置により研磨をかける方法、若しくは高圧の水を噴射する高圧洗浄機を使用しなければ残ったアスベストを除去することはできなかった。
【0094】
これに対して、
図10は、同じ外壁塗装に、本発明の実施形態1に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法を実施した時の状態を撮影した写真であり、この写真から明らかなように、外壁塗装1は、剥がし工具2の刃先3による連続した打撃力により、外壁コンクリートCの表面Caから確実に剥離されるとともに、その剥離された外壁塗装12は、その弾性特性により、破断することなく写真のごとく連続した帯状に剥離されていくことが分かる。
【0095】
実施例2
図11は、本発明の実施形態2に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法の除去対象となる外壁塗装の一例である弾性リシンにより形成された外壁塗装21に対して、剥がし工具2による連続した打撃動作を与えた時の状態を撮影した写真であり、この写真から明らかなように、外壁塗装21は外壁コンクリートCの表面Caから剥離させることができないばかりか、楕円の丸印に示すように、外壁塗装21は粉々に破壊されて粉塵化し飛散してしまうことが分かる。
【0096】
これに対して、
図12は、
図8(b)に示すように、上記外壁塗装21の表面21aに追加の弾性塗料22を一回重ね塗りして、この厚塗りされた外壁塗装23に、剥がし工2による連続した打撃動作を与えた時の状態を撮影した写真である。この写真から明らかなように、剥がし工具2により打撃動作を行うことにより、実施形態1における除去方法と同様に、電動打撃装置5の剥がし工具2により、外壁塗装23(外壁塗装21+弾性塗料)は、外壁コンクリートCの表面Caから剥離除去されるとともに、その剥離された外壁塗装23(外壁塗装21+弾性塗料)は、その弾性特性により、破断することなく連続した帯状に剥離されることが分かる。
【0097】
実施例3
実施形態1および実施形態2に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法をアスベスト含有外壁塗装に対して実施した時の、作業現場の作業環境空気におけるアスベスト濃度を実際に測定したところ、アスベスト粉じん濃度は0.3f/L以下で測定不能であり、一般的な大気のアスベスト濃度(0.1~0.3f/L程度)と同等であり、大気汚染防止法における大気汚染の許容限度(10f/L)を大きく下回っていることが判明した。
【0098】
実施例4
実施形態1および実施形態2に係るアスベスト含有外壁塗装の除去方法をアスベスト含有外壁塗装に対して実施した時の、外壁塗装が剥離除去された外壁コンクリートCの表面Ca近傍におけるアスベスト含有量を分析(分析方法:JIS A1481-1)したところ、分析結果は推定アスベスト質量分率が0.1%以下で、実質的にアスベスト残量は無しであることが判明した。
【0099】
なお、上述した実施形態はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこの実施形態に限定されることなく、その範囲内において種々設計変更可能である。
【0100】
例えば、図示の実施形態においては、剥がし工具2の他に、
図5(a)~(c)に例示する剥がし工具2A、2B、2Cを、交換用アタッチメントとして準備しておき、これらを適宜交換使用する場合を示したが、前述したように、同様の機能を発揮し得る限り、つまり打撃装置5により与えられる打撃動作によって、剥がし工具の刃先が外壁塗装1に対して有効な剥離動作を発揮することができれば、具体的な形状構造は特に限定されず、図示の実施形態以外の他の形状寸法の刃先を有する剥がし工具にも設計変更可能である。
【符号の説明】
【0101】
B 建築物
C 外壁コンクリート
Ca 外壁コンクリートの表面
T1、T2、T3 外壁塗装の厚さ
T0 外壁塗装の基準厚さ
t 剥がし工具の刃先の先端厚さ
1 外壁塗装
2、2A、2B、2C 剥がし工具
3、3A、3B、3C 剥がし工具の刃先
4 剥がし工具のシャンク部
5 電動打撃装置
6 電動打撃装置の先端部
7 電動打撃装置の装置本体
12 剥離された外壁塗装
21 外壁塗装
22 追加の重ね塗り弾性塗料
23 厚塗りされた外壁塗装
【要約】
【課題】建築物解体作業の前工程である建築物外壁塗装の除去作業に際して、外壁塗装の大気中への粉塵化飛散を防止するとともに、外壁塗装のすべてを建築物本体から完全に除去することができるアスベスト含有外壁塗装の除去方法を提供する。
【解決手段】建築物本体のコンクリートCの表面Caに形成されたアスベスト含有外壁塗装1について、この外壁塗装1の弾性特性を利用して、剥がし工具2の刃先3を所定の傾斜角度をもって外壁塗装1に突き当てた状態で、この剥がし工具2の連続した打撃動作を行うことにより、外壁塗装1をコンクリートCの表面Caから連続的に剥離させる。これにより、外壁塗装1の大気中への粉塵化飛散を防止しつつ、外壁塗装1のすべてを建築物本体から完全に除去することができる。
【選択図】
図1