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  • 特許-害虫防除用樹脂成形体の製造方法 図1
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  • 特許-害虫防除用樹脂成形体の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】害虫防除用樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/17 20060101AFI20240515BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20240515BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B29C45/17
B29C45/26
A01M1/20 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023093941
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2019023798の分割
【原出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2023116617
(43)【公開日】2023-08-22
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水谷 理人
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-023096(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043524(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/095083(WO,A1)
【文献】特開2017-024388(JP,A)
【文献】特開2017-094671(JP,A)
【文献】特開2005-271306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
A01M 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外枠体、及び該外枠体の内側に複数の補強部材及び該外枠体の内側に少なくとも一部に立体状の曲部を有する複数の角材が配されてなる害虫防除用樹脂成形体を射出成形により製造する方法において、
揮散性防虫剤と樹脂を含有する樹脂組成物を射出成形機に充填した後、
前記外枠体、前記角材、及び前記補強部材のそれぞれの長さの総和をa(cm)、前記射出成形にて使用される金型に設けられたゲートの数をb(個)、前記樹脂組成物のJIS K7210に基づいて荷重2.16kgf、かつ試験温度190℃で測定されるメルトフローレート(g/10min)の対数値を常用対数でcとしたときに、
(式) a/(b×c)≦100
を満足させて、前記金型内に射出成形することを特徴とする害虫防除用樹脂成形体の製造方法。(ただし、前記樹脂組成物のメルトフローレートは1~50g/10minとする


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除用樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅において、窓や玄関などからの害虫の侵入を防ぐために防虫具を設置することが知られている。このような防虫具の例として、常温揮散性防虫剤を含有し開口部を有する立体状の害虫防除用樹脂成形体が提案されている(特許文献1~3参照)。
【0003】
これら立体状の害虫防除用樹脂成形体は、例えば、成形体の外枠体や角材等部材の径を細くする、あるいは害虫防除用樹脂成形体に占める空間部の容積を高めることで揮散性防虫剤の揮散効果が高まり、優れた防虫効果を有することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-131117号公報
【文献】特開2016-123390号公報
【文献】特開2014-73089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような複雑な形状を有する立体状の害虫防除用樹脂成形体を射出成形により製造する際に、目的とする成形体の一部に欠損を生ずるなどショートカットと呼ばれる欠陥が生じやすくなる。
【0006】
そこで本発明は、上記した問題点を解消し、害虫防除用樹脂成形体を容易に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外枠体、及び該外枠体の内側に複数の補強部材及び該外枠体の内側に少なくとも一部に立体状の曲部を有する複数の角材が配されてなる害虫防除用樹脂成形体を射出成形により製造する方法において、
揮散性防虫剤と樹脂を含有する樹脂組成物を射出成形機に充填した後、
前記外枠体、前記角材、及び前記補強部材のそれぞれの長さの総和をa(cm)、前記射出成形にて使用される金型に設けられたゲートの数をb(個)、前記樹脂組成物のJIS K7210に基づいて荷重2.16kgf、かつ試験温度190℃で測定されるメルトフローレート(g/10min)の対数値をcとしたときに、
(式) a/(b×c)≦100
を満足させて、前記金型内に射出成形することを特徴とする害虫防除用樹脂成形体の製造方法よって前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、射出成形で該害虫防除用樹脂成形体を製造する際に、ショートショットの発生を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】害虫防除用樹脂成形体の例を示す斜視図
図2】害虫防除用樹脂成形体の例を示す正面図
図3】角材の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る害虫防除用樹脂成形体において、使用される揮散性防虫剤としては、トランスフルトリン(蒸気圧(25℃)3.5×10-3Pa)、メトフルトリン(蒸気圧(25℃)1.8×10-4Pa)、エンペントリン(蒸気圧(25℃)0.02Pa)、プロフルトリン(蒸気圧(25℃)0.01Pa)等のピレスロイド系化合物が挙げられる。これらのピレスロイド系化合物については、各種の光学異性体または幾何異性体が存在するがいずれの異性体類も使用することができる。またこれらピレスロイド系化合物は単独、または2種以上を使用することができる。
【0011】
前記揮散性防虫剤の含有量は、使用環境や使用期間等によって適宜決定されるが、通常、前記樹脂組成物全体量に対し1~20重量%の範囲である。
【0012】
本発明で使用される樹脂としては、前記揮散性防虫剤が効率よく担持でき、さらに担持された該揮散性防虫剤が本発明の害虫防除用樹脂成形体表面から徐々に揮散させることが可能なものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂のようなポリオレフィン系樹脂が挙げられ、ポリオレフィン系樹脂とアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル等のカルボン酸エステルとの共重合体が挙げられ、あるいはポリオレフィン系樹脂と共重合体のポリマーブレンドが挙げられる。
【0013】
これら樹脂のなかで揮散性防虫剤の揮散性の観点から、ポリオレフィン系樹脂とカルボン酸エステルの共重合体としてはカルボン酸エステルがポリオレフィン系樹脂に対して1~35重量%配合された、エチレン-メタアクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことが好ましく、またポリエチレン系樹脂とこれら共重合体とのポリマーブレンドを用いることがより好ましい。
【0014】
本発明の樹脂組成物には、前記揮散性防虫剤と前記樹脂のほか、前記害虫防除用樹脂成形体の表面からの前記揮散性防虫剤の揮散速度を調整するため、タルク、アルミナ、シリカ、ホワイトカーボン(微結晶シリカや微粉末ケイ酸)、珪藻土、ゼオライト類、粘土鉱物、木粉等の微粉末担体を添加することができる。
【0015】
前記樹脂組成物には、共力剤、抗菌剤、防黴剤、芳香剤・消臭剤、香料、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収阻害剤、結晶析出防止剤を添加することができる。
【0016】
前記樹脂組成物は、生産性の面から各原料を加圧ニーダー等の公知の混錬機にて溶融混練した後、押出成形しペレットに加工して射出成形機に投入される。
【0017】
前記樹脂組成物は、JIS K7210に基づいて荷重2.16kgf、かつ試験温度190℃で測定されるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1~50g/10minが好ましく、より好ましくは3~40g/10minとなるように調整する。MFRが本範囲にあることにより、射出成形する際に金型に前記樹脂組成物をスムーズに流し込むことができ、かつ射出成形した後の金型の冷却時間が短時間ですむ。
【0018】
本発明の害虫防除用樹脂成形体は、外枠体1と、該外枠体の内側に複数の補強部材2及び該外枠体の内側に少なくとも一部に立体状の曲部を有する複数の角材3が配される。該害虫防除用樹脂成形体の例としては、図1図3に示すような害虫防除用樹脂成形体をあげることができる。なお、該害虫防除用樹脂成形体としては、これら例に限定されるものではない。
【0019】
前記外枠体1、前記補強部材2、及び前記角材3の厚みは、揮散性防虫剤の揮散性の点から0.1~3mmの範囲とすることが好ましい。
【0020】
前記外枠体1、前記補強部材2、及び前記角材3の幅は、揮散性防虫剤の揮散性の点から0.1~3mmの範囲とすることが好ましい。
【0021】
前記角材3が有する立体状の曲部の高さ31は、揮散性防虫剤の揮散性の点から角材の厚みに対し2~20倍の範囲とすることが好ましい。また、1つの角材は樹脂成形体表面からの揮散性防虫剤の揮散性を高めるため、他の角材と交差していることが好ましい。
【0022】
前記害虫防除用樹脂成形体の開口部4の全面積は、揮散性防虫剤の揮散性の点から、前記害虫防除用成形体の全表面積に対し40~85%の範囲にすることが好ましく、更には50~75%とすることが好ましい。
【0023】
前記外枠体1、前記補強部材2、及び前記角材3のそれぞれの長さの総和a(cm)は、使用環境、使用期間、樹脂の強度などによって適宜設計されるが、好ましくは100~15000cm、より好ましくは100~10000cmの範囲である。
【0024】
本発明の害虫防除用樹脂成形体は、公知の射出成形法により製造され、例えば、前記樹脂組成物を射出成形機のシリンダー内で溶融した後、金型に設けられたゲートを通じて金型内のキャビティに前記樹脂組成物を射出して前記害虫防除用樹脂成形体を得るという工程を有する。
【0025】
本発明で使用する金型に設けられたゲートとは、例えば、ダイレクトゲート、サイドゲート、ピンゲート、フィルムゲート、バルブゲート等が挙げられる。前記ゲートの径については、生産性の面から直径φが0.2~1.0mmが好ましく、0.3~0.8mmがより好ましい。また前記ゲートの数は、前記害虫防除用樹脂成形体の外枠体、角材及び補強部材のそれぞれの総和と成形体の形状や使用する樹脂組成物のメルトフローレートの対数値を基に、本発明の製造方法を満足するように設ける。
【0026】
射出成形機のシリンダー内の温度は、160~220℃となるように設定する。160℃より低いと、溶融した樹脂組成物が金型の末端部に到達できないといった成形不良(ショートショット)が生じ、220℃より高いと常温揮散性防虫剤が分解するおそれがある。
【0027】
射出成形時の金型温度は、150~200℃、好ましくは160℃~190℃である。また金型への前記樹脂組成物の注入圧力は、100~300MPa、好ましくは150~250MPaである。所定量の前記樹脂組成物を金型のキャビティに射出された後は、1~5秒程度保圧する、その後、前記金型を冷却・成型し、金型を開いて害虫防除用樹脂成形体を得る。
【0028】
このようにして得られる害虫防除用樹脂成形体は、その表面から前記揮散性防虫剤が揮散し手に触れる恐れがあるため、開口部を有する収納容器に収納して使用する。
【0029】
前記害虫防除用樹脂成形体は、多くの昆虫類をはじめとする節足動物、特に飛翔害虫、具体的には、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ブユ、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類、イガ類等に対して優れた防除効果を発揮する。
【実施例
【0030】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本実施形態について説明するが、本実施形態は後述する実施例に限定されるものではない。
【0031】
メルトフローレート測定においては、後述する実施例及び比較例で製造した樹脂組成物をニッパーで細かく粉砕したものを測定試料とし、JIS K7210に基づいて荷重2.16kgf、かつ試験温度190℃で測定した。
【実施例1】
【0032】
エチレンーメタクリル酸メチル共重合体(共重合体中のメタクリル酸メチルの割合:20重量%、商品名:アクリフトWH206、住友化学株式会社製)90重量部と2,3、5,6-テトラフルオロー4-メトキシメチルベンジル (1R)-トランス-2,2-ジメチル-3-[(Z)-1-プロペニル]シクロプロパンカルボキシレート(メトフルトリン、商品名:エミネンス、住友化学株式会社製)10重量部を、密閉式加圧ニーダー(森山製作所製)を用いて200℃で溶融混練し、得られた混練物を押出機から押し出しながらホットカットして、ペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物のメルトフローレートは4.0であった。
次いで害虫防除用樹脂成形体を、図1に示すような長径135mm、短径105mmの楕円形状であって、外枠体1は厚み1mm、幅1mm、補強部材2は厚み3mm、幅2mm、角材3は厚み1mm、幅1mm、高さ31が3mmとなる曲部を設け、害虫防除用樹脂成形体の外枠体、補強部材及び角材のそれぞれの長さの総和(a)が520cmとなるように設計した。
射出成形機においてペレット状の樹脂組成物を190℃で溶融後、金型への樹脂注入圧力200MPa、ゲート数(b)9個、ゲート径0.7mmの条件で実施例1の害虫防除用樹脂成形体を製造した。
【比較例1】
【0033】
実施例1において、ゲート数(b)のみ8個に変更し比較例1の害虫防除用樹脂成形体を製造した。
【実施例2】
【0034】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(共重合体中の酢酸ビニルの割合:20重量%、商品名:エバテートH4011、住友化学株式会社製)7重量部と2,3、5,6-テトラフルオロベンジル (1R、3S)-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(トランスフルトリン、商品名:バイオスリン、住友化学株式会社製)12.5重量部、カープレックス#80を4.5重量部とポリエチレン(スミカセンFV405、住友化学株式会社製)76重量部を、密閉式加圧ニーダー(森山製作所製)を用いて溶融混練し、得られた混練物を押出機から押し出しながらホットカットして、ペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物のメルトフローレートは18であった。
次いで、害虫防除用樹脂成形体の形状は実施例1と同様とし、射出成形機においてペレット状の樹脂組成物を190℃で溶融後、金型への樹脂注入圧力200Mpa、ゲート数(b)5個、ゲート径0.7mmの条件で害虫防除用樹脂成形体を製造した。
【比較例2】
【0035】
実施例1において、ゲート数(b)のみ4個に変更し、比較例2の害虫防除用樹脂成形体を製造した。
【実施例3】
【0036】
エチレンー酢酸ビニル共重合体(共重合体中の酢酸ビニルの割合:20重量%、商品名:エバテートH4011、住友化学株式会社製)50重量部と2,3、5,6-テトラフルオロー4-メトキシメチルベンジル (1R)-トランス-2,2-ジメチル-3-[(Z)-1-プロペニル]シクロプロパンカルボキシレート(メトフルトリン、商品名:エミネンス、住友化学株式会社製)10重量部とカープレックス#80(EVONIK社製)5重量部とポリエチレン(スミカセンFV405、住友化学株式会社製)35重量部を、密閉式加圧ニーダー(森山製作所製)を用いて溶融混練し、得られた混練物を押出機から押し出しながらホットカットして、ペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物のメルトフローレートは28であった。
次いで、害虫防除用樹脂成形体を、長径135mm、短径105mmの楕円形状であって、外枠体1の厚みは1mm、幅1mm、補強部材2の厚み1mm、幅1mm、角材3の厚み1mm、幅1mm、高さ31が10mmとなる曲部を設け、害虫防除樹脂成形体の外枠体、補強部材及び角材のそれぞれの長さの総和(a)が802cmとなるように設計した。
射出成形機においてペレット状の樹脂組成物を190℃で溶融後、金型への樹脂注入圧力200MPa、ゲート数(b)6個、ゲート径0.7mmの条件で実施例3の害虫防除用樹脂成形体を製造した。
【実施例4】
【0037】
エチレンー酢酸ビニル共重合体(共重合体中の酢酸ビニルの割合:25重量%、商品名:アクリフトRK307、住友化学株式会社製)40重量部と2,3、5,6-テトラフルオロー4-メトキシメチルベンジル (1R)-トランス-2,2-ジメチル-3-[(Z)-1-プロペニル]シクロプロパンカルボキシレート(メトフルトリン、商品名:エミネンス、住友化学株式会社製)10重量部、ポリエチレン(スミカセンFV405、住友化学株式会社製)50重量部を、密閉式加圧ニーダー(森山製作所製)を用いて溶融混練し、得られた混練物を押出機から押し出しながらホットカットして、ペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物のメルトフローレートは7.9であった。
次いで、害虫防除用樹脂成形体を、長径135mm、短径105mmの楕円形状であって、外枠体1の厚みは1mm、幅1mm、補強部材2の厚み1mm、幅1mm、角材3の厚み1mm、幅1mm、高さ31が3mmとなる曲部を設け、害虫防除樹脂成形体の外枠体、補強部材及び角材のそれぞれの長さの総和(a)が257cmとなるように設計した。
射出成形機においてペレット状の樹脂組成物を190℃で溶融後、金型への樹脂注入圧力200MPa、ゲート数(b)3個、ゲート径0.7mmの条件で実施例4の害虫防除用樹脂成形体を製造した。
【0038】
表1に、製造結果を示す。
【表1】
【符号の説明】
【0039】
1 外枠体
2 補強部材
3 角材
4 開口部

図1
図2
図3