(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】複列自動調心ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 23/08 20060101AFI20240515BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20240515BHJP
F03D 80/70 20160101ALI20240515BHJP
【FI】
F16C23/08
F16C19/38
F03D80/70
(21)【出願番号】P 2019072707
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2018081203
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼古 一将
(72)【発明者】
【氏名】堀 径生
(72)【発明者】
【氏名】井上 靖之
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴志
(72)【発明者】
【氏名】中西 雅樹
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/164325(WO,A1)
【文献】特開2011-226638(JP,A)
【文献】特開2016-186355(JP,A)
【文献】実開平4-87021(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 23/08
F16C 19/38
F03D 80/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
球面状の軌道面を有する外輪と、
前記内輪と外輪との間に介在する、軸受幅方向に並ぶ2列の複数のころと
、
前記2列の複数のころを保持する保持器と、を備え、
前記2列のころは、それぞれ、前記外輪の軌道面に沿う断面形状の外周面を有する、複列自動調心ころ軸受であって、
一方の列のころの接触角θ1と他方の列のころの接触角θ2との比が、0.25≦θ1/θ2≦0.5の範囲にあり、
前記一方の列側の軸受端面から、両列の接触角をなす2本の作用線の交点までの軸受幅方向距離B1と、前記他方の列側の軸受端面から前記交点までの軸受幅方向距離B2との比が、0.5≦B1/B2≦0.6の範囲にあ
り、
前記保持器は、
前記軸受幅方向外側に延びる複数の柱部を有し、
前記複数のころのそれぞれが前記複数の柱部間に形成されるポケットに保持され、
前記他方の列のころを保持するポケットの内側面であるポケット面が円筒面であり、
前記円筒面の中心線が軸受中心軸心に対して成す角度である傾斜角β2が、前記他方の列のころの最大径を成す位置の傾斜角度であるころ最大径角α2に対して、次式、
0≦β2≦α2
で示される関係にある、
複列自動調心ころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記一方の列のころ長さL1と、前記他方の列のころ長さL2との比が、0.9≦L1/L2≦1.0の範囲にある、複列自動調心ころ軸受。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記各ころが、外周面に多層構造のDLC皮膜を有し、
このDLC皮膜の膜厚が2.0μm以上であり、
前記ころの母材の外表面の面粗さが、
それぞれJIS B 0601:2013に準拠して測定される、算術平均粗さRa、粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜RΔq、粗さ曲線の最大山高さRpについて、
Ra≦0.3、かつRΔq≦0.05
であり、
1≦Rp/Ra≦2を満たし、
前記多層構造のDLC皮膜における各層の膜硬さは、段階的に外層側の層が高くなる、複列自動調心ころ軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項
3のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受において、風力発電装置の主軸の支持に用いられる複列自動調心ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受幅方向に並ぶ2列のころに不均等な荷重が負荷される用途、例えば風力発電装置や産業機械の主軸の支持に用いられる複列自動調心ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の主軸を支持する軸受には、ブレードやロータヘッドの自重によるラジアル荷重の他に、風力によるアキシアル荷重が作用する。主軸支持用の軸受が
図20に示すような、軸方向に対称な構造を有する複列自動調心ころ軸受41である場合、内輪42と外輪43間に介在する2列のころ44,45のうち、主にアキシアル荷重Faに対して後ろ側となる一方の列のころ45だけがアキシアル荷重Faを受ける。つまり、一方の列のころ45がラジアル荷重とアキシアル荷重の両方を受けるのに対し、他方の列のころ44はほぼラジアル荷重だけを受ける。このため、ラジアル荷重およびアキシアル荷重を受ける列のころ45は、ラジアル荷重だけを受ける列のころ44と比べて接触面圧が大きくなり、ころ45の転動面および外輪43の軌道面43aの表面損傷や摩耗が生じやすい。この場合、一方の列のころ45の転がり寿命が他方の列のころ44の転がり寿命よりも短くなり、このアキシアル荷重を受けるころ45の列の短い転がり寿命によって、軸受全体の実質寿命が決定される。
【0003】
上記の課題に対して、軸受全体の実質寿命を向上させるために、2列のころの長さを互いに異ならせること(特許文献1参照。)、あるいは2列のころの接触角を互いに異ならせること(特許文献2参照。)が提案されている。しかし、軸受の寸法規格(ISO規格;JISB1512)の制限があるため、上記2通りの手法のうち一方の手法を用いるだけでは、アキシアル荷重を受ける列のころの負荷容量を適正な値まで高めることが難しい。つまり、寸法規格によって呼び番号に対して内径、外径、および軸受幅がそれぞれ決まっているため、アキシアル荷重を受ける列のころの長さを長くし過ぎると、軸受幅が規格値を超える。また、アキシアル荷重を受ける列のころの接触角を大きくし過ぎると、内径が規格値を超える。
【0004】
そこで、各部の寸法が軸受の寸法規格から外れることなく、アキシアル荷重を受ける列とラジアル荷重だけを受ける列の接触面圧を均等化するために、2列のころの長さを互いに異ならせる手法と、2列のころの接触角を互いに異ならせる手法とを組み合わせることが提案されている(特許文献3参照。)。この技術において、アキシアル荷重を受ける列のころの接触角を大きくして、当該ころの負荷容量を十分に大きくすることが重要であることから、そのための両列のころの接触角の適正な比率も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/050038号
【文献】米国特許第2014/0112607号明細書
【文献】特開2017-180831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に開示された軸受によって、日常的に付加される疲労荷重に対しては、両列が受ける接触面圧の均等化が図られ、軸受全体の実質寿命が改善される。しかし、50年の間に発生すると想定される最大荷重である極値荷重に対しては、上記のパラメータを設定するのみでは、ころ長さの短い側の列で負荷能力が不十分になる場合がある。
【0007】
本発明の目的は、アキシアル荷重およびラジアル荷重を受け、軸方向に並ぶ2列のころに互いに大きさが異なる荷重が作用する用途に適する軸受として、寸法規格の制約の範囲内で、疲労荷重のみならず極値荷重に対しても、両列のころで適切に負荷を分担できる複列自動調心ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る複列自動調心ころ軸受は、
内輪と、
球面状の軌道面を有する外輪と、
前記内輪と外輪との間に介在する、軸受幅方向に並ぶ2列の複数のころとを備え、
前記2列のころは、それぞれ、前記外輪の軌道面に沿う断面形状の外周面を有する、複列自動調心ころ軸受であって、
一方の列のころの接触角θ1と他方の列のころの接触角θ2との比が、0.25≦θ1/θ2≦0.5の範囲にあり、
前記一方の列側の軸受端面から、両列の接触角をなす2本の作用線の交点までの軸受幅方向距離B1と、前記他方の列側の軸受端面から前記交点までの軸受幅方向距離B2との比が、0.5≦B1/B2≦0.6の範囲にある。
【0009】
この構成によれば、前記他方の列のころの接触角を前記一方の列の接触角よりも大きくしたことにより、前記他方の列のころが大きなアキシアル荷重を負担することが可能となる。この複列自動調心ころ軸受を、アキシアル荷重およびラジアル荷重が作用する条件下で用いる場合、接触角が大きいころでアキシアル荷重のほぼすべてとラジアル荷重の一部を負担させ、接触角が小さいころでラジアル荷重の残りを負担させる。このような分担割合で2列のころでアキシアル荷重とラジアル荷重を分担して負担することにより、両列のころの接触面圧を均等にすることができる。これにより、軸受全体で大きな負荷容量を確保すると共に、軸受全体の実質寿命を向上することができる。
【0010】
さらに、両列のころの接触角の比率が異なる複数の複列自動調心ころ軸受を用意し、各複列自動調心ころ軸受について、風力発電装置の主軸支持用軸受として使用する場合に想定される荷重条件にて両列のころの接触面圧を解析した結果、接触角の比が1:3である場合に、両列のころの接触面圧が最も均等化することが分かった。前記想定される荷重条件とは、発電能力、設置場所等の諸条件を考慮して平均的な風力発電装置が最も通常に運転しているときの、疲労荷重であるアキシアル荷重およびラジアル荷重を指す。よって、平均的な風力発電装置と比べて前記条件が異なる風力発電装置に用いられる複列自動調心ころ軸受では、最適な接触角の比が1:3でないことが有り得るが、その場合でも、最適な接触角の比は1:2ないし1:4の範囲内に収まる。すなわち、両列の接触角の比を0.25≦θ1/θ2≦0.5の範囲とすることにより、疲労荷重に対して両列のころで適切に負荷を分担できる。
【0011】
さらに、接触角が小さい前記一方の列側の軸受端面から、両列の接触角をなす2本の作用線の交点までの軸受幅方向距離B1と、接触角が大きい前記他方の列側の軸受端面から前記交点までの軸受幅方向距離B2との比を、0.5≦B1/B2≦0.6の範囲とすることにより、ほぼラジアル荷重のみを負担する前記一方の列のころの長さが、規格寸法の範囲内で過度に短くなることがない。したがって、様々な方向から負荷されることを想定する必要がある極値荷重に対しても、前記一方の列のころの負荷能力が不足することが回避される。したがって、寸法規格の制約の範囲内で、疲労荷重および極値荷重のいずれに対しても、両列のころで適切に負荷を分担することが可能になる。
【0012】
本発明において、前記一方の列のころ長さL1と、前記他方の列のころ長さL2との比が、0.9≦L1/L2≦1.0の範囲にあってもよい。この構成によれば、接触角が大きい列のころ長さが接触角が小さい列のころ長さ以上となるので、接触角が大きい列のころのアキシアル荷重に対する負荷容量が確実に向上する。これと共に、接触角が小さい列のころ長さを、他方の列のころ長さの90%以上とすることにより、上述したように、ほぼラジアル荷重のみを負担する前記一方の列のころの長さが、規格寸法の範囲内で過度に短くなることが回避される。
【0013】
本発明において、前記他方の列のころを保持する保持器の傾斜角β2が、前記他方の列のころの最大径を成す位置の傾斜角度であるころ最大径角α2に対して、次式、
0≦β2≦α2
で示される関係にあってもよい。
なお、前記「保持器の傾斜角β2」は、保持器の柱部におけるポケット面が円筒面である場合、その円筒面の中心線が保持器中心線(軸受中心軸心)に対して成す角度である。
【0014】
前記他方の列のころ、つまりアキシアル荷重の入力方向に対するリア側列のころは、最大径角α2が大きくなるため、保持器傾斜角度β2を適宜設定し、保持器のポケット面がころの最大径位置を抱えるようにしても良い。
このとき、 0≦β2≦α2
とすることで、ころの姿勢安定性が損なわれることはない。
また、このような保持器形状とすることで、左右列非対称設計特有の組み込み性の低下を防ぎ、ころを安定して保持することができる。
【0015】
この発明において、前記各ころが、外周面に多層構造のDLC皮膜を有し、
このDLC皮膜の膜厚が2.0μm以上であり、
前記ころの母材の外表面の面粗さが、
Ra≦0.3、かつRΔq≦0.05
であり、
前記多層構造のDLC皮膜における各層の膜硬さは、段階的に外層側の層が高くなるようにしてもよい。
前記DLCは、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon )の略称である。
【0016】
ころの外周面にDLC皮膜処理をすることで耐摩耗性が向上する。DLC皮膜は、母材との密着性に優れる多層構造を採用し、膜厚は2.0μm以上が望ましい。またDLC皮膜を施す外周面の粗さの値を、算術平均粗さRaで0.3Ra以下、二乗平均平方根傾斜RΔqで0.05以下とすることで、相手材への攻撃性が緩和できる。さらに、DLC皮膜の膜硬さは、多層構造で段階的に硬度を高めることで、高い密着性を得ることができる。
【0017】
この複列自動調心ころ軸受は、風力発電装置の主軸の支持に適する。風力発電装置の主軸を支持する複列自動調心ころ軸受には、ブレードやロータヘッドの自重によるラジアル荷重、および風力によるアキシアル荷重が作用する。軸受幅方向に並ぶ2列のころのうち前記他方の列のころラジアル荷重とアキシアル荷重の両方を受け、前記一方の列のころはほぼラジアル荷重のみを受ける。その場合、アキシアル荷重を受ける列のころを、接触角が大きい前記他方の列のころとし、ほぼラジアル荷重のみを受ける列のころを、接触角が小さい前記一方の列のころとすることにより、疲労荷重および極値荷重のいずれに対しても、両列のころで適切に負荷が分担される。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る複列自動調心ころ軸受によれば、寸法規格の制約の範囲内で、疲労荷重のみならず極値荷重に対しても、両列のころで適切に負荷を分担することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態にかかる複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図3】同複列自動調心ころ軸受と従来の複列自動調心ころ軸受にそれぞれアキシアル荷重とラジアル荷重の合成荷重をかけた場合におけるフロント側のころの接触面圧の分布解析結果を示すグラフである。
【
図4】同複列自動調心ころ軸受と従来の複列自動調心ころ軸受にそれぞれアキシアル荷重とラジアル荷重の合成荷重をかけた場合におけるリア側のころの接触面圧の分布解析結果を示すグラフである。
【
図5】両列のころの接触角の比がそれぞれ異なる複数種類の複列自動調心ころ軸受にアキシアル荷重とラジアル荷重の合成荷重をかけた場合におけるフロント側のころの接触面圧の分布解析結果を示すグラフである。
【
図6】両列のころの接触角の比がそれぞれ異なる複数種類の複列自動調心ころ軸受にアキシアル荷重とラジアル荷重の合成荷重をかけた場合におけるリア側のころの接触面圧の分布解析結果を示すグラフである。
【
図7】従来の複数の複列自動調心ころ軸受について軸受幅に対するころ長さの比率を同一図面上に図示した図である。
【
図8】風力発電装置の主軸支持装置の一例の一部を切り欠いて表した斜視図である。
【
図10】この発明の他の実施形態にかかる複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図11】同の複列自動調心ころ軸受におけるころ表層のDLC皮膜の構成を示す説明図である。
【
図12】前記各実施形態の複列自動調心ころ軸受に用いられる保持器の一例を示す斜視図である。
【
図14】同保持器のポケットところの関係を示す断面図である。
【
図20】従来の一般的な複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施形態に係る複列自動調心ころ軸受(以下、単に「軸受」と称する場合がある。)1を
図1と共に説明する。この複列自動調心ころ軸受1は、内輪2と外輪3との間に軸受幅方向(軸心方向)に並ぶ左右2列のころ4,5を介在させてある。外輪3の軌道面3aは球面状であり、左右各列のころ4,5は外周面が外輪3の軌道面3aに沿う断面形状である。言い換えると、ころ4,5の外周面は、外輪3の軌道面3aに沿った円弧を中心線C1,C2回りに回転させた回転曲面である。内輪2には、左右各列のころ4,5の外周面に沿う断面形状の複列の軌道面2a,2bが形成されている。内輪2の外周面の両端には、つば(小つば)6,7がそれぞれ設けられている。内輪2の外周面の中央部、すなわち左列のころ4と右列のころ5間に、中つば8が設けられている。なお、本明細書における用語「左」,「右」は、軸受のアキシアル方向における相対的な位置関係を便宜上示すための用語に過ぎない。本明細書において、「左」,「右」は、理解を容易にするため、各図における左右と一致させている。
【0021】
左右各列のころ4,5は、それぞれ保持器10L,10Rにより保持されている。左列用の保持器10Lは、円環部11から複数の柱部12が左側に延び、これら柱部12間のポケットに左列のころ4が保持される。右列用の保持器10Rは、円環部11から複数の柱部12が右側に延び、これら柱部12間のポケットに右列のころ5が保持される。
【0022】
図2に誇張して示すように、左右各列のころ4,5は、いずれも最大径D1max,D2maxの位置がころ長さの中央A1,A2から外れた非対称ころである。左列のころ4の最大径D1maxの位置はころ長さの中央A1よりも右側にあり、右列のころ5の最大径D2maxの位置はころ長さの中央A2よりも左側にある。このような非対称ころからなる左右各列のころ4,5は、誘起スラスト荷重が発生する。この誘起スラスト荷重を受けるために、内輪2の前記中つば8が設けられる。非対称ころ4,5と中つば8の組合せは、ころ4,5を内輪2、外輪3、および中つば8の3箇所で案内するので、案内精度が良い。
【0023】
図1に示すように、両列のころ4,5の接触角はいずれも0°より大きく、かつ互いに異なっている。この例では、右列のころ5の接触角θ2の方が、左列のころ4の接触角θ1よりも大きくなっている。左列のころ4の接触角θ1と右列のころ5の接触角θ2の比は、1:2から1:4、すなわち0.25≦θ1/θ2≦0.5の範囲内に設定されている。最も好ましい接触角θ1,θ2の比は、1:3(θ1/θ2=0.333)である。その理由については後述する。具体的には、接触角θ1の範囲は例えば3°~6°であり、好ましくはθ1=5°である。接触角θ2の範囲は例えば12°~18°であり、好ましくはθ2=15°である。
【0024】
また、左列のころ4と右列のころ5は、最大径D1max,D2maxが互いに同じで、中心線C1,C2に沿った長さL1,L2が互いに異なっている。長さが長いころ5の長さL2は、軸受幅(左列側の軸受端面E1から右列側の軸受端面E2までの軸受幅方向距離)Bの39%以上であることが好ましい。なお、左列のころ4の長さL1と右列のころ5の長さL2は等しくてもよい。もっとも、図示の例のように、接触角が大きい列のころの長さL2を接触角が小さい列のころの長さL1より長くすることにより、接触角が大きい列のころのアキシアル荷重に対する負荷容量がさらに向上する。
【0025】
両列の接触角θ1,θ2をなす2本の作用線S1,S2の交点Pの軸受幅方向位置は、中つば8の軸受幅方向の中央位置Qよりも、接触角の小さいころ4の側に距離Kだけずれている。これにより、長さの長いころ5を必要以上に長くすることなく、長さの長いころ5の接触角θ2を大きくすることができる。なお、前記作用線S1,S2は、ころ4,5と内輪2および外輪3との接触部に働く力の合成力が作用する線である。作用線S1,S2が互いに交わる点Pは、軸受中心軸心O上に位置する。
【0026】
より具体的には、交点Pの軸受幅方向位置は、接触角が小さい左列側の軸受端面E1から上記交点Pまでの軸受幅方向距離B1と、接触角が大きい右列側の軸受端面E2から交点Pまでの軸受幅方向距離B2との比が0.5≦B1/B2≦0.6の範囲内となるように設定されている。
【0027】
この構成の軸受1は、アキシアル荷重およびラジアル荷重を受け、左右のころ列に互いに大きさが異なる荷重が作用する用途、例えば風力発電装置の主軸支持軸受として用いられる。その場合、旋回翼に近い側(フロント側:
図1の左側)に左列のころ4が位置し、遠い側(リア側:
図1の右側)に右列のころ5が位置するように、軸受1を設置する。この場合、主軸からのアキシアル荷重Faはフロント側からリア側に向かう方向に付加される。これにより、接触角θ2が大きい右列のころ5が、アキシアル荷重のほぼすべてとラジアル荷重の一部を負担し、接触角θ1が小さい左列のころ4が、ラジアル荷重の残りを負担する。
【0028】
上記軸受幅方向距離B1とB2との比を、0.5≦B1/B2≦0.6の範囲とすることにより、ほぼラジアル荷重のみを負担する左側の列のころの長さL1が、規格寸法の範囲内で過度に短くなることがない。仮に一方列のころの長さが過度に短い場合、ころの負荷容量が不十分となり、極値荷重のような極めて大きな荷重がラジアル方向から付加されると、ころの両端にエッジ応力が発生し、寿命低下の原因となる。しかし、本実施形態に係る軸受1では様々な方向から負荷されることを想定する必要がある極値荷重に対しても、一方の列のころの負荷能力が不足することが回避される。したがって、この軸受1によれば、寸法規格の制約の範囲内で、疲労荷重および極値荷重のいずれに対しても、両列のころで適切に負荷を分担することが可能になる。
【0029】
また、上述のように、一方の列(この例では左列)のころ長さL1よりも他方の列(この例では右列)のころ長さL2が長いことが好ましいが、左列のころ長さL1が過度に短くならないよう、L1とL2との比が、0.9≦L1/L2<1.0の範囲にあることがより好ましい。
【0030】
以下、両列のころの接触角の比を0.25以上0.5以下の範囲内に設定する理由について説明する。
図10に示す従来の複列自動調心ころ軸受41および
図1に示す本発明の複列自動調心ころ軸受1について、風力発電装置の主軸支持用軸受として使用する場合に想定されるアキシアル荷重とラジアル荷重との合成荷重の際左右両列のころの接触面圧を解析した。
図3はフロント側すなわち左列のころ44,4の接触面圧分布を示し、
図4はリア側すなわち右列のころ45,5の接触面圧解析結果分布を示す。
【0031】
図3、
図4に示す結果から以下のことが分かる。
図10の従来品は、フロント側にて接触面圧が小さく、リア側で接触面圧が大きくなっており、フロント側とリア側とで荷重負担が不均一な状態となっている。これに対し、
図1の接触角変更品は、フロント側にてころ全体に接触面圧が発生することにより、リア側の接触面圧の最大値が下がり、両列での接触面圧差が小さくなり均等化されている。
【0032】
また、左列のころ4の接触角θ1と右列のころ5の接触角θ2との比がそれぞれ異なる3種類の複列自動調心ころ軸受にて、前記同様にして左右両列のころの接触面圧を解析した。
図5はフロント側すなわち左列のころ4の接触面圧解析結果分布を示し、
図6はリア側すなわち右列のころ5の接触面圧解析結果分布を示す。接触角の比が1:1であるものは従来品であり、接触角の比が1:2、1:3であるものは本発明の接触角変更品である。
【0033】
図5、
図6に示す結果から以下のことが分かる。各接触角の比について接触面圧分布を比較すると、接触角の比が1:3のものが、フロント側とリア側とで最も接触面圧が均等化されている。接触角の比が1:2のものは、接触角の比が1:3のものに比べると均等化はされていないが、接触角の比が1:1のものに比べれば十分に均等化されている。
図1からも分かるように、ころ5の接触角θ2が大きくなると、寸法制約の関係から内輪2の肉厚が薄くなり過ぎるため、長さが長いころ5を配置することが困難になる。これらのことから、接触角の比は、1:2以上で1:4以内とするのが望ましい。
【0034】
なお、前記想定されるアキシアル荷重およびラジアル荷重とは、発電能力、設置場所等の諸条件を考慮して平均的な風力発電装置が最も通常に運転しているときの疲労荷重であるアキシアル荷重およびラジアル荷重を指す。よって、平均的な風力発電装置と比べて前記条件が異なる風力発電装置に用いられる複列自動調心ころ軸受では、最適な接触角の比が1:3でないことが有り得る。しかし、その場合でも、最適な接触角の比は1:2ないし1:4の範囲内に収まる。
【0035】
また、必須ではないが、長さが長いころ5の長さL2は軸受幅Bの39%以上であるという条件を付加することにより、寸法規格の範囲内で両列のころの接触角の比が上記適正とされた複列自動調心ころ軸受が得られる。なお、従来の複列自動調心ころ軸受について、軸受幅Bに対するころ5の長さL2の比率を調査した。その結果、
図7に示すように、前記比率が39%以上であることが判明した。上記寸法規格は、内径、外径、および軸受幅を定めた規格である。
【0036】
図8、
図9は、風力発電装置の主軸支持装置の一例を示す。支持台21上に旋回座軸受22(
図9)を介してナセル23のケーシング23aが水平旋回自在に設置されている。ナセル23のケーシング23a内には、軸受ハウジング24に設置された主軸支持軸受25を介して主軸26が回転自在に設置され、主軸26のケーシング23a外に突出した部分に、旋回翼となるブレード27が取り付けられている。主軸26の他端は、増速機28に接続され、増速機28の出力軸が発電機29のロータ軸に結合されている。ナセル23は、旋回用モータ30により、減速機31を介して任意の角度に旋回させられる。主軸支持軸受25は、図示の例では2個並べて設置してあるが、1個であってもよい。
【0037】
図10、
図11は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態において、特に説明する事項の他は、第1の実施形態と同様である。
この実施形態の複列自動調心ころ軸受1は、前記他方の列のころ5を保持する保持器10Rの傾斜角β2が、前記他方の列のころ5の最大径を成す位置の傾斜角度であるころ最大径角α2に対して、次式、
0≦β2≦α2
で示される関係となっている。
なお、前記「保持器10Rの傾斜角β2」は
、保持器10Rの柱部12におけるポケット面12aが円筒面である場合、その円筒面の中心線C2が保持器中心(軸受中心軸心O)に対して成す角度が保持器傾斜角β2である
。
【0038】
前記他方の列のころ5、つまりアキシアル荷重の入力方向に対するリア側列のころ5は、最大径角α2が大きくなるため、保持器傾斜角度β2を設定し、保持器10Rのポケット面12aがころ5の最大径位置を抱えるようにしても良い。
このとき、 0≦β2≦α2
とすることで、ころ5の姿勢安定性が損なわれることはない。
また、このような保持器10Rの形状とすることで、左右列非対称設計特有の組み込み性の低下を防ぎ、ころ5を安定して保持することができる。
【0039】
各列のころ4,5は、外周面に多層構造(3層以上)のDLC皮膜9を有している。内輪2および外輪3の各軌道面2a,2b,3aについても、ころ4,5と同様にDLC皮膜9を施してもよいが、ここではころ4,5のDLC皮膜9について説明する。このDLC皮膜9の膜厚は、2.0μm以上である。DLC皮膜9は、この実施形態では、
図11にリア側のころ5のDLC皮膜9の断面を模式的に示すように、ころ4,5の母材側から順に、下地層9a、混合層9b、および表面層9cの3層とされている。
前記ころ4,5の母材の外表面の面粗さは、算術粗さRa、および二乗平均平方根傾斜RΔqで、 Ra≦0.3、かつRΔq≦0.05
である。
前記多層構造のDLC皮膜9における各層9a,9b,9cの膜硬さは、段階的に外層側の層が高くなる。
【0040】
ころ4,5の外周面にDLC皮膜処理することで耐摩耗性が向上する。DLC皮膜9を施すと、耐摩耗性が向上する反面、耐剥離性を確保する必要がある。これを、次の構成とすることで改善している。DLC皮膜9は、母材との密着性に優れる多層構造を採用する。膜厚は2.0μm以上が望ましい。またDLC皮膜9を施す外周面の粗さの値を、算術平均粗Raで0.3Ra以下、二乗平均平方根傾斜RΔqで0.05以下とすることで、相手材への攻撃性が緩和できる。さらに、DLC皮膜9の膜硬さは、多層構造で段階的に硬度を高めることで、高い密着性を得ることができる。
【0041】
ころ4,5等の材質と、前記DLC皮膜9とにつき、具体的に説明する。ころ4,5、内輪2、および外輪3は、鉄系材料からなる。鉄系材料としては、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材などを使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。
これらの軸受部材において、DLC皮膜9が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、DLC皮膜9(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。
【0042】
ころ4,5のDLC皮膜9が形成される面において、皮膜膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、母材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、DLC皮膜9(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。
【0043】
ころ4,5のDLC皮膜9が形成される面、つまり下地層9aが成膜される面である母材表面は、算術平均粗さRaが0.1~0.3μmであり、かつ、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下である。RΔqは、好ましくは0.03以下であり、より好ましくは0.02以下である。算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根傾斜RΔqは、JISB0601に準拠して算出される数値であり、接触式または非接触式の表面粗さ計などを用いて測定される。具体的な測定条件としては、測定長さ4mm、カットオフ0.8mmである。母材表面の二乗平均平方根傾斜RΔqを0.05以下とすることで、粗さ曲線におけるピークが緩やかになり、突起の曲率半径が大きくなり局所面圧が低減できる。また、成膜時においては粗さによるミクロなレベルの電界集中も抑制でき、局所的な膜厚および硬度の変化を防ぐことができ、ひいては硬質膜の耐剥離性を向上できる。
【0044】
母材表面の粗さ曲線から求められる最大山高さRpは0.4μm以下であることが好ましい。最大山高さRpは、JISB0601に準拠して算出される。粗さ曲線から求められる最大山高さRpと算術平均粗さRaの関係は、1≦Rp/Ra≦2となることが好ましく、1.2≦Rp/Ra≦2となることがより好ましい。
【0045】
また、母材表面の粗さ曲線から求められるスキューネスRskは負であることが好ましい。Rskは、歪み度の指標であり、-0.2以下であることがより好ましい。スキューネスRskは、平均線を中心にして振幅分布曲線の上下対称性を定量的に表したもの、つまり表面粗さの平均線に対する偏りを示す指標である。スキューネスRskは、JISB0601に準拠して算出される。スキューネスRskが負であることは、粗さ形状が下に凸(谷)ということを意味し、表面に平坦部が多くある状態となる。結果として凸部が少なく突起部による応力集中を起こしにくい表面であると言える。また粗さを軽減する手法にバレル研磨など研磨メディアとの衝突により表面突起を除去する方法があるが、加工条件によっては新たに突起を形成してしまいRskが正に転じる可能性があり注意が必要である。
【0046】
図11は、DLC皮膜9の構造を示す模式断面図である。同図に示すように、DLC皮膜9は、(1)ころ4,5の表面上に直接成膜されるCrとWCとを主体とする下地層9aと、(2)下地層9aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層9bと、(3)混合層9bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層9cとからなる3層構造を有する。ここで、混合層9bは、下地層9a側から表面層9c側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、かつ、該混合層中のDLCの含有率が高くなる層である。この実施形態では、DLC皮膜9の膜構造を上記のような3層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。
【0047】
下地層9aは、Crを含むので超硬合金材料や鉄系材料からなる母材との相性がよく、W、Ti、Si、Alなどを用いる場合と比較して母材との密着性に優れる。また、下地層9aに用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。また、下地層9aは、ころ表面側から混合層9b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成とすることが好ましい。これにより、ころ表面と混合層9bとの両面での密着性に優れる。
【0048】
混合層9bは、下地層と表面層との間に介在する中間層となる。混合層9bに用いるWCは、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。混合層9bが、下地層9a側から表面層9c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、下地層9aと表面層9cとの両面での密着性に優れる。また、該混合層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっており、該混合層内での破損などを防止できる。さらに、表面層9c側ではDLC含有率が高められているので、表面層9cと混合層9bとの密着性に優れる。混合層9bは、非粘着性の高いDLCをWCによって下地層9a側にアンカー効果で結合させる層である。
【0049】
表面層9cは、DLCを主体とする膜である。表面層9cにおいて、混合層9bとの隣接側に、混合層9b側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分9dを有することが好ましい。これは、混合層9bと表面層9cとでバイアス電圧が異なる場合、バイアス電圧の急激な変化を避けるためにバイアス電圧を連続的または段階的に変化させる(上げる)ことで得られる部分である。傾斜層部分9dは、このようにバイアス電圧を変化させることで、結果として上記のように硬度が傾斜する。硬度が連続的または段階的に上昇するのは、DLC構造におけるグラファイト構造(sp2)とダイヤモンド構造(sp3)との構成比率が、バイアス電圧の上昇により後者に偏っていくためである。これにより、混合層と表面層との急激な硬度差がなくなり、混合層9bと表面層9cとの密着性がさらに優れる。
【0050】
DLC皮膜9の膜厚(3層の合計)は0.5~3.0μmとすることが好ましい。膜厚が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣る場合があり、5.0μmをこえると剥離し易くなる。さらに、該DLC皮膜9の膜厚に占める表面層9cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、混合層9bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化するおそれがある。
【0051】
DLC皮膜9を以上のような組成の下地層9a、混合層9b、表面層9cとの3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。
【0052】
図12~
図19は、前記リア側の保持器10Rの構成例を示す。フロント側の保持器10L(
図1)は、これら
図12~
図19と共に説明する事項については、リア側の保持器10Rと同様であり、説明を省略する。また、この保持器10Rの構成例は、第1の実施形態および
図10の実施形態のいずれにおいても適用される。
【0053】
図12において、保持器10Rの柱部12は、長さ方向の各部が同一の基本断面形状(
図14に想像線で示す形状)の棒状の部分から、円筒面状のポケット面12aが除去され、かつ先端にテーパー形状部13が設けられた形状とされている。前記基本断面形状は、それぞれ円筒面の一部を成す外周面12bおよび内周面12cと、半径方向に延びる両側の平面状の側面12dとでなる形状である。ポケット面12aを成す円筒面の直径は、ころ5の最大径よりも僅かに大きな径とされている。ポケット面12aは、前記中心線C2(
図1、
図10)を中心とする円筒面である。前記中心線C2は、
図17に示すように、柱部12が延びる方向に対して、柱部先端側が内径側に近づくように傾斜している。
【0054】
図13に示す保持器10Rの外径Do、内径Di、柱部長さLは、次のように最適化されている。
保持器10Rの環状部11の外径Doは、ころ5の配列のピッチ円直径PCDよりも大きく、環状部11の内径Diはピッチ円直径PCD(
図10)よりも小さい。
環状部11の外径Doは、例えば、PCD×102~105%、である。
環状部11の内径Diは、例えば、PCD×95~98%、である。
柱部12の長さL、詳しくは柱部12のポケット7を構成する部分の長さLは、ころ長さL2(
図1、
図10)の65%以下とされている。
【0055】
前記テーパー形状部13(
図12~
図13、
図15~
図17) は、柱部12の先端の外径面に、最先端に至るに従って保持器内径側に下がるように形成されている。テーパー形状部13は、ころ5の最大径角を成す直線a(
図15に破線で示す)上であるか、この直線aよりも柱部先端側から始まる。換言すると、テーパー形状部13は、ころ5の中心線C2上の最大径となる位置M (
図10) 上、またはこの位置Mよりも柱部先端側から始まる。
【0056】
柱部12に前記テーパー形状部13が形成され、かつ円筒面状のポケット面12aが柱部12が延びる軸方向に対して傾斜していることで、
図16に示すように、柱部12を保持器半径方向の外方から保持器中心側に見た柱部幅は、柱部12の最先端で最も狭くW1となっており、テーパー形状部13が始まる手前の幅W2に対して狭くなっている。また、柱部12の先端面12eの径方向厚さd(
図17) が小さくなっている。
【0057】
保持器10L,10Rの材質は、軸受鋼やその他の鉄系材料、または黄銅系材料が用いられている。
【0058】
この構成の保持器保持器10Rによると、柱部12のポケット面12aが円筒面であるため、ころ5の確実な保持が行える。また、テーパー形状部13を形成したため、ころ5の組み込み性が向上する。
【0059】
テーパー形状部13ところ5の組み込み性の関係について説明する。柱部12のポケット面12aとなる円筒面の中心線C2は、柱部12が延びる方向に対して先端側が内径側へ傾斜している。そのため、
図19の例のように、前記テーパー形状部13(
図18参照)がなければ、柱部12を保持器半径方向の外方から保持器中心側に見た柱部幅が、前記柱部の最先端で最も広くなる。そのため、この広くなった柱部12の先端の外径部で阻害されてポケット15内へのころ5の組み込みが行い難く、またその広い柱部12の先端の外径部が、強度や機能的に良い影響を持たない無駄部分となる。
【0060】
この実施形態では、前記テーパー形状部13を形成したため、柱部先端の周方向幅W1(
図16)および径方向厚さd(
図17) が共に小さくなっている。そのため、ころ5の組み込み性が向上し、かつ保持器10Rの軽量化が得られる。ころ5の組み込み性が向上するため、組み込み時に保持器10Rを大きく変形させる必要がなく、保持器10Rの変形による形状の崩れが防止される。
【0061】
テーパー形状部13は、無駄部分を省くように形成するため、ころ5の保持性に影響せず、また軽量化の面からも、テーパー形状部13を形成することが好ましい。
ただし、テーパー形状部13は、長く形成し過ぎると、ころ5の保持性が低下するため、ころ5の最大径となる位置M(
図16)上またはこの位置Mよりも柱部先端側から始まるようにしており、そのため、ころ5の保持性が確保される。
また、ころ5の組み込み性からは、テーパー形状部13の先端の径方向厚さd(
図17)が薄いほど好ましいが、円筒面からなるポケット面12aは柱部12の先端側からドリル加工で形成するため、先端に平面を残す必要があり、加工に支障のない範囲で薄くすることが好ましい。
【0062】
なお、リア側の保持器10Rにつき説明したが、上記の保持器形状についての構成および効果は、フロント側の保持器10Lもリア側の保持器10Rと同様である。
これら保持器10L、10Rは、例えば
図19の例のように、柱部12の先端にテーパー形状部13を持たない形状であってもよく、さらにポケット面12aを成す円筒面の中心線C2が、柱部12が延びる方向に対して傾斜していない形状であってもよい。
【0063】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1,1A,1B…複列自動調心ころ軸受
2…内輪
3…外輪
3a…軌道面
4,5…ころ
6,7…小つば
8…中つば
9…DLC皮膜
11…環状部
12…柱部
13…テーパー形状部
15…ポケット
26…主軸
A1,A2…ころ長さの中央
B…軸受幅
B1,B2…軸受の端面から作用線の交点までの軸受幅方向距離
D1max,D2max…最大径
E1,E2…軸受の端面
L1,L2…ころの長さ
P…作用線の交点
θ1,θ2…接触角