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  • 特許-熱伝導性樹脂シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240515BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240515BHJP
   C08K 3/014 20180101ALI20240515BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240515BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20240515BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C08J5/18 CEQ
C08L21/00
C08K3/014
C08K3/01
C08K7/00
C08J7/00 305
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019180344
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054969
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】土屋 賢人
(72)【発明者】
【氏名】星山 裕希
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-054968(JP,A)
【文献】国際公開第2021/065899(WO,A1)
【文献】特開2014-145024(JP,A)
【文献】特開2016-030774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
7/00
H01L 23/36
H01L 23/373
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が5W/m・K以上、30%圧縮強度が2000kPa以下であり、エステル結合を有する化合物の含有量が1000ppm以下であり、150℃で1000時間加熱する耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が30%以下であ
エラストマー樹脂、熱伝導性フィラー、及び酸化防止剤を含有し、
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、または硫黄系酸化防止剤であり、
前記酸化防止剤は、エステル結合を有さず、かつ3級及び4級炭素を有しない、
熱伝導性樹脂シート。
【請求項2】
フォギング試験の光沢保持率が70%以上である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項3】
前記エラストマー樹脂が、液状エラストマー樹脂を含有する、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーが、非球状フィラーを含有する、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項5】
架橋されている、請求項1~のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項6】
複数の樹脂層を積層した構造を有する、請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性樹脂シートは、主に、半導体パッケージのような発熱体と、アルミニウムや銅等の放熱体との間に配置して、発熱体で発生する熱を放熱体に速やかに移動させる機能を有する。近年、半導体素子の高集積化や半導体パッケージにおける配線の高密度化によって、半導体パッケージの単位面積当たりの発熱量が大きくなっており、これに伴い、従来の熱伝導性樹脂シートに比べ、熱伝導率が向上した、より速やかな熱放散を促すことができる熱伝導性樹脂シートへの需要が高まってきている。
このような熱伝導性樹脂シートとして、熱伝導性フィラーを含有させた熱伝導性樹脂シートが知られている。例えば、特許文献1では、液状のポリブテンと熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂シートに関する発明が記載されており、特許文献2では、エポキシ樹脂と、熱伝導性フィラーとして六方晶窒化ホウ素などを含有する熱伝導性樹脂シートに関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-38763号公報
【文献】特開2013-254880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱伝導性樹脂シートは、一般には、熱伝導率を向上させるために、熱伝導性フィラーの含有量を高くすると、シートが硬くなってしまい、シートを使用する電子機器内部でハンダクラックや基板の反りなどが生じ、電子部品にダメージを与えることが懸念される。すなわち、熱伝導性樹脂シートの熱伝導率を高くしつつ、柔軟性を良好に保つことは難しく、これらを両立する技術が望まれている。
これに加えて、近年、熱伝導性樹脂シートを長時間使用すると硬くなってしまうなど、経時で物性が変化して電子部品にダメージを与えることが問題視されており、長期間安定的な物性を維持することが求められている。さらに、熱伝導性樹脂シートを、カメラレンズを有する電子機器などに使用する場合も多く、シートから発生するアウトガスによるレンズの曇り及びこれに起因する動作不良が問題視されており、そのため、アウトガスの少ない熱伝導性樹脂シートが求められている。
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、熱伝導性、柔軟性、及び経時で硬くならないなどの長期間の物性の安定性に優れ、かつカメラレンズを備えた電子機器等に使用した場合であってもレンズの曇りを抑制できる熱伝導性樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた。その結果、熱伝導率が5W/m・K以上であり、30%圧縮強度が2000kPa以下であり、エステル結合を有する化合物の含有量が1000ppm以下であり、耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が30%以下である、熱伝導性樹脂シートが上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]~[9]に関する。
[1]熱伝導率が5W/m・K以上、30%圧縮強度が2000kPa以下であり、エステル結合を有する化合物の含有量が1000ppm以下であり、耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が30%以下である、熱伝導性樹脂シート。
[2]フォギング試験の光沢保持率が70%以上である、上記[1]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[3]酸化防止剤を含有する、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[4]前記酸化防止剤は、エステル結合を有しない酸化防止剤である上記[3]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[5]エラストマー樹脂を含有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
[6]前記エラストマー樹脂が、液状エラストマー樹脂を含有する、上記[5]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[7]熱伝導性フィラーを含有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
[8]前記熱伝導性フィラーが、非球状フィラーを含有する、上記[7]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[9]架橋されている、上記[1]~[8]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱伝導性、柔軟性、及び経時で硬くならないなどの長期間の物性の安定性に優れ、さらに電子機器などに備えられるレンズの曇りを防止できる熱伝導性樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】積層体からなる熱伝導性樹脂シートの模式的断面図である。
図2】積層体からなる熱伝導性樹脂シートの使用状態における模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱伝導性樹脂シート]
本発明の熱伝導性樹脂シートは、熱伝導率が5W/m・K以上であり、30%圧縮強度が2000kPa以下である。一般に、熱伝導性樹脂シートは、熱伝導率を高めるにつれて、柔軟性が低下する傾向があるが、本発明の熱伝導性樹脂シートは、熱伝導率が5W/m・K以上と高いにも関わらず、30%圧縮強度が2000kPa以下であり、柔軟性にも優れている。
また、本発明の熱伝導性樹脂シートは、耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が30%以下であり、長期間の物性の安定性に優れる。
さらに、本発明の熱伝導性樹脂シートは、エステル結合を有する化合物の含有量が1000ppm以下であり、これにより、アウトガスの発生を抑制し、電子機器のレンズ等の曇りを抑制することが可能となる。
【0010】
(熱伝導率)
本発明の熱伝導性樹脂シートの熱伝導率は5W/m・K以上である。熱伝導率が5W/m・K未満であると、発熱体から発生する熱を十分に放熱することができない。熱伝導性樹脂シートの放熱性を向上させる観点から、熱伝導性樹脂シートの熱伝導率は、好ましくは7W/m・K以上であり、より好ましくは10W/m・K以上である。また、熱伝導性樹脂シートの熱伝導率は、高ければ高い方がよいが、通常、100W/m・K以下である。熱伝導率は、例えば、後述する熱伝導性フィラーの含有量や配向などを調節することで、所望の値に調整しやすくなる。
【0011】
(30%圧縮強度)
本発明の熱伝導性樹脂シートの30%圧縮強度は、2000kPa以下である。30%圧縮強度が2000kPaを超えると、シートの柔軟性が低下し、シートを使用する電子機器内部の電子部品などにダメージを与えやすくなる。熱伝導性樹脂シートの柔軟性を高める観点から、熱伝導性樹脂シートの30%圧縮強度は、好ましくは1500kPa以下、より好ましくは1000kPa以下、さらに好ましくは800kPa以下である。また、熱伝導性樹脂シートの30%圧縮強度は、通常50kPa以上であり、好ましくは200kPa以上である。
熱伝導性樹脂シートの30%圧縮強度は、後述する熱伝導性樹脂シートを構成する樹脂の種類、架橋の有無、熱伝導性フィラーの量などにより調節することができる。
30%圧縮強度は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0012】
本発明の熱伝導性樹脂シートは耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が30%以下である。耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が30%を超えると、熱伝導性樹脂シートを長期間使用した際に、硬くなることで、シートを使用する電子機器内部の電子部品などにダメージを与えやすくなる。熱伝導性樹脂シートの適切な柔軟性を維持して、長期間安定して使用する観点から、熱伝導性樹脂シートの耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率は、0~20%であることが好ましく、0~15%であることがより好ましく、0~10%であることが更に好ましい。
耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率は、使用する後述する酸化防止剤の使用の有無、樹脂の種類、熱伝導性フィラーの量、ゲル分率などにより調節することができる。
なお、本明細書において、耐熱試験とは、試料(熱伝導性樹脂シート)を150℃で1000時間加熱する試験を意味する。また、耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率(%)は、次の式(1)により求められる。
|(1-耐熱試験前の30%圧縮強度/耐熱試験後の30%圧縮強度)×100| 式(1)
式(1)は、(1-耐熱試験前の30%圧縮強度/耐熱試験後の30%圧縮強度)×100の絶対値を表す。
【0013】
(エステル結合を有する化合物の含有量)
本発明の熱伝導性樹脂シートは、エステル結合を有する化合物の含有量(重量)が1000ppm以下である。これにより、アウトガスの発生を抑制し、電子機器に備えられるカメラレンズの曇りを防止することができる。エステル結合を有する化合物は、熱伝導性樹脂シートを製造する際の加熱や、熱伝導性樹脂シートを有機過酸化物又は電離放射線などにより架橋する際に分解しやすく、該分解物が原因となり、カメラレンズの曇りが生じると推察される。
熱伝導性樹脂シートにおける、エステル結合を有する化合物の含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは0ppmである。
エステル結合を有する化合物としては、エステル結合を有する樹脂、エステル結合を有する各種添加剤などが挙げられる。
エステル結合を有する樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂などが挙げられる。
エステル結合を有する各種添加剤としては、例えば、エステル結合を有する酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0014】
(光沢保持率)
本発明の熱伝導性樹脂シートのフォギング試験における光沢保持率は、70%以上であることが好ましい。光沢保持率が70%以上であると、電子機器等に備えられているレンズなどの曇りが抑制され、動作不良が発生し難くなる。熱伝導性樹脂シートのフォギング試験における光沢保持率は、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。なお、光沢保持率の上限は100%である。
フォギング試験は、ドイツ工業規格DIN75201-Aに準拠して行われる。具体的には、高さ1000mLのビーカーに、厚さ2mm、直径80mmの円盤状の熱伝導性樹脂シートを入れ、ガラス板をビーカー上部に蓋をするように配置し、さらにガラス板上に温度21℃に保持された冷却板を配置する。次いで、該熱伝導性樹脂シート入りビーカーをオイルバスにより100℃に加熱する。そして、この状態で16時間保持した後、ガラス板の表面の光沢度を測定する。このようにして得られた試験後のガラス板の光沢値(試験後の光沢値)と、試験前のガラス板の光沢値(試験前の光沢値)により、光沢保持率を以下の式により求めることができる。
光沢保持率(%)=100×(試験後の光沢値)/(試験前の光沢値)
上記光沢値とは、60°の光沢値であり、光沢計(村上色彩技術研究所社製、「精密光沢計GM-26PRO」)により測定した値である。
なお、光沢保持率は、上記したエステル結合を有する化合物の含有量、酸化防止剤の種類、樹脂、熱伝導性フィラーの配合量などにより調整することができる。
【0015】
(樹脂)
本発明の熱伝導性樹脂シートは、樹脂を含有し、その樹脂の種類は、特に制限されないが、柔軟性を良好とする観点から、エラストマー樹脂であることが好ましい。
エラストマー樹脂の種類としては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、水素添加ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
上記したエラストマー樹脂は、常温(23℃)かつ常圧(1気圧)で固体状のエラストマーであってもよいし、液状のエラストマーであってもよい。
【0016】
本発明の熱伝導性樹脂シート中の樹脂全量基準で、エラストマー樹脂の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0017】
本発明の熱伝導性樹脂シートの柔軟性を向上させる観点から、熱伝導性樹脂シート中のエラストマー樹脂は、液状エラストマー樹脂を含有することが好ましい。液状エラストマー樹脂としては、特に限定されず、例えば、上記したエラストマー樹脂のうち液状のものを用いることができるが、中でも、液状アクリロニトリルブタジエンゴム、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴム、液状ポリイソプレンゴム、液状ポリブタジエンゴムが好ましい。
エラストマー樹脂は、1種のみを用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0018】
液状エラストマー樹脂の25℃における粘度は、好ましくは1~150Pa・sであり、より好ましくは10~100Pa・sである。液状エラストマー樹脂を2種以上混合して使用する場合は、混合した後の粘度が上記のとおりであることが好ましい。上記範囲であると、電子部品の汚染を防止しやすくなる。
【0019】
エラストマー樹脂全量基準に対して、液状エラストマーの含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。
【0020】
(熱伝導性フィラー)
本発明の熱伝導性樹脂シートは、熱伝導性フィラーを含有することが好ましい。熱伝導性フィラーは好ましくは、熱伝導性樹脂シート中の樹脂に分散されている。熱伝導性フィラーの熱伝導率は特に限定されないが、好ましくは12W/m・K以上であり、より好ましくは12~300W/m・K、さらに好ましくは15~70W/m・K、さらに好ましくは25~70W/m・Kである。
熱伝導性フィラーの材質としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。
窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ホウ素ナノチューブ、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。
酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)(酸化アルミニウムの水和物(ベーマイトなど)を含む。)、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。また、酸化物として、チタン酸バリウムなどの遷移金属酸化物などや、さらには、金属イオンがドーピングされている、例えば、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズなどが挙げられる。
【0021】
水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
金属としては、例えば、銅、金、ニッケル、錫、鉄、または、それらの合金が挙げられる。
炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ダイヤモンド、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノホーン、カーボンマイクロコイル、ナノコイルなどが挙げられる。
【0022】
上記以外の熱伝導性フィラーとして、ケイ酸塩鉱物であるタルクを挙げることができる。
これら熱伝導性フィラーは、単独使用または2種類以上併用することができる。熱伝導性フィラーは、熱伝導性の観点からは、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、グラフェン、窒化ホウ素ナノチューブ、カーボンナノチューブ、及びダイヤモンドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、熱伝導性フィラーが、後述する非球状フィラーの場合には、窒化ホウ素、グラフェンの少なくとも何れかであることが好ましく、一方で、球状フィラーの場合には酸化アルミニウムが好ましい。さらに電気絶縁性が要求される用途では、窒化ホウ素がより好ましい。
【0023】
熱伝導性フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.1~300μm、より好ましくは0.5~100μm、更に好ましくは5~50μmである。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により粒度分布を測定して求めることができる。
【0024】
熱伝導性樹脂シート中の熱伝導性フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは180~3000質量部であり、より好ましくは200~2500質量部、更に好ましくは250~1000質量部である。
熱伝導性フィラーの含有量は、フィラーの形状に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0025】
熱伝導性フィラーの形状は、特に限定されず、球状フィラーでも非球状フィラーでもよいが、非球状フィラーであることが好ましい。
熱伝導性フィラーとしては、非球状フィラーを含むことが好ましい。非球状フィラーを用いることにより、比較的少量で、熱伝導性を向上させ易いため、良好な柔軟性と高熱伝導性とを両立させた熱伝導性樹脂シートを得やすい。
ここで、「球状」とはアスペクト比が1.0~2.0、好ましくは1.0~1.5の形状であることを意味し、必ずしも真球であることを意味しない。なお、球状フィラーの場合のアスペクト比は、長径/短径比を意味する。また、「非球状」とは上記球状以外の形状、すなわちアスペクト比が2を超える形状を意味する。
【0026】
非球状フィラーとしては、例えば、鱗片状、薄片状などの板状フィラー、針状フィラー、繊維状フィラー、樹枝状フィラー、不定形状フィラーなどが挙げられる。中でも、熱伝導性樹脂シートの熱伝導性を良好とする観点から、板状フィラーが好ましい。
熱伝導性フィラーのアスペクト比は、熱伝導性を向上させる観点から、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。
熱伝導性樹脂シートは、アスペクト比が高い熱伝導性フィラーを後述するように高い配向角度で配向させることで、厚さ方向の熱伝導性を一層向上させることが可能である。
なお、非球状フィラーにおいて、アスペクト比とは、フィラーの最大長さの最小長さに対する比(最大長さ/最小長さ)であり、例えば、形状が板状である場合は、フィラーの最大長さの厚みに対する比(最大長さ/厚み)である。アスペクト比は走査型電子顕微鏡で、十分な数(例えば250個)の熱伝導性フィラーを観察して平均値として求めるとよい。
【0027】
熱伝導性フィラーの最小長さ(板状フィラーの場合は厚さに相当)は、熱伝導率を向上させる観点から、好ましくは0.05~500μm、より好ましくは0.25~250μmである。
【0028】
熱伝導性フィラーが、非球状フィラーを含む場合は、非球状フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは180~700質量部であり、より好ましくは200~600質量部であり、更に好ましくは300~500質量部である。180質量部以上であると熱伝導性が高くなり、本発明で規定する熱伝導率を達成し易くなる。また、700質量部以下であると柔軟性が良好となりやすい。
熱伝導性フィラー中の非球状フィラーの含有量は、熱伝導性フィラー全量基準で、60質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0029】
(酸化防止剤)
本発明の熱伝導性樹脂シートは、酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤を含有することで、熱伝導性樹脂シートの耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が小さくなり、長期間の物性安定性が向上する。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
ここでフェノール系酸化防止剤とは、フェノール性水酸基を有する化合物である。アミン系酸化防止剤は、アミノ基を有する化合物である。硫黄系酸化防止剤とは、硫黄原子を有する化合物である。なお、これらのうち2つの基を有する場合は、2つの種類の酸化防止剤に該当するものとする。例えば、フェノール性水酸基及びアミノ基を有する化合物は、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の両方に該当するものとする。
【0030】
酸化防止剤としては、エステル結合を有しない酸化防止剤が好ましい。エステル結合を有しない酸化防止剤を用いることにより、フォギング試験の光沢率保持率が高まり、電子機器等に備えられているレンズなどの曇りを防止し、動作不良が発生し難くなる。
エステル結合を有しない酸化防止剤としては、例えば、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン、4,4’,4’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデン-ジ-m-クレゾール、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイドなどの硫黄系酸化防止剤、フェニルナフチルアミン、4,4’-ジメトキシジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、4-イソプロポキシジフェニルアミン、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4トリアゾール、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンなどのアミン系酸化防止剤が挙げられる。
これらの中でも、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4トリアゾール、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンなどが好ましい。
【0031】
酸化防止剤としては、エステル結合を有さず、かつ3級及び4級炭素を有しない酸化防止剤が好ましい。このような酸化防止剤を用いることにより、電子機器等に備えられるカメラレンズの曇りをより効果的に抑制しやすくなり、さらに長期間の物性安定性も高くなる。ここで、3級炭素とは3つの炭素原子に結合している炭素であり、4級炭素とは4つの炭素原子に結合している炭素である。なお、ベンゼン環、ナフタレン環など芳香環を構成する炭素原子は、3級炭素及び4級炭素に該当しないものとする。
【0032】
エステル結合を有さず、かつ3級及び4級炭素を有しない酸化防止剤のうち、好ましい酸化防止剤としては、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4トリアゾール、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0033】
熱伝導性樹脂シート中の酸化防止剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.5~10質量部、更に好ましくは1~5質量部である。酸化防止剤の含有量がこれら下限値以上であると、耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が小さくなり、長期間の物性安定性が向上する。酸化防止剤の含有量がこれら上限値以下であると、電子機器等に備えられるカメラレンズの曇りを防止しやすくなる。
【0034】
(その他の添加剤)
本発明の熱伝導性樹脂シートには、酸化防止剤以外のその他の添加剤を必要に応じて添加してもよい。その他の添加剤としては、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、前記熱伝導性フィラー以外の充填材、分解温度調整剤等の熱伝導性樹脂シートに一般的に使用する添加剤を配合されてもよい。
【0035】
(配向)
熱伝導性樹脂シートにおいて、熱伝導性フィラーの長軸が熱伝導性樹脂シートの表面であるシート面に対して45°より大きい角度で配向していることが好ましく、より好ましくは50°以上、更に好ましくは60°以上、更に好ましくは70°以上、更に好ましくは80°以上の角度で配向していることが好ましい。熱伝導性フィラーがこのような配向をしている場合は、熱伝導性樹脂シートの厚み方向の熱伝導率が向上する。なお、熱伝導性フィラーの長軸は、前記した熱伝導性フィラーの最大長さと方向が一致している。
【0036】
上記角度は、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向の断面を走査型電子顕微鏡により観察することにより測定できる。例えば、まず、熱伝導性樹脂シートの厚み方向の中央部分の薄膜切片を作製する。そして、走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率3000倍で該薄膜切片中の熱伝導性フィラーを観察し、観察されたフィラーの長軸と、シート面を構成する面とのなす角度を測定することにより、求めることができる。本明細書において、45°、50°、60°、70°、80°以上の角度とは、上記のように測定された値の平均値がその角度以上であることを意味する。例えば「70°以上の角度で配向している」は、70°は平均値であるため、配向角度が70°未満の熱伝導性フィラーの存在を否定するものではない。なお、なす角度が90°を超える場合は、その補角を測定値とする。
【0037】
(ゲル分率)
本発明の熱伝導性樹脂シートは、長期間の物性安定性を優れたものとする観点から、架橋されていることが好ましく、一定のゲル分率(架橋度)を有することが好ましい。
熱伝導性樹脂シートの全体のゲル分率は、柔軟性を良好とする観点から、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、また、耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率を小さくする観点から、ゲル分率は5質量%以上が好ましく、10質量%以上が好ましい。
【0038】
(積層体)
本発明の熱伝導性樹脂シートは単層でもよいし、積層体でもよい。熱伝導性を良好とする観点から、樹脂及び非球状フィラーを含む樹脂層が積層された積層体が好ましい。以下、樹脂及び非球状フィラーを含む樹脂層が積層された積層体の実施形態の一例を図1により説明する。
各図において、各フィラーは上下に隣接するフィラーと重複しているが、本発明においてフィラー同士は必ずしも重複していなくてよい。
図1に示すように、熱伝導性樹脂シート1は、複数の樹脂層2を積層した構造を有している。複数の樹脂層2の積層面に対する垂直面が樹脂シート1の表面であるシート面5となる。
【0039】
熱伝導性樹脂シート1の厚み(すなわち、シート面5とシート面5との間の距離)は特に限定されないが、例えば、0.1~30mmの範囲とすることができる。
樹脂層2の1層の厚み(樹脂層幅)は特に限定されないが、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下であり、そして、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上とすることができる。このように厚みを調整することにより、熱伝導性を高めることができる。
樹脂層2は、熱伝導性フィラー6を含有する熱伝導性樹脂層7である。熱伝導性樹脂層7は、樹脂8中に熱伝導性の熱伝導性フィラー6が分散された構造を有する。
各樹脂層2においては、熱伝導性フィラーは、上記のようにシート面に対して45°より大きい角度、より好ましくは50°以上、更に好ましくは60℃以上、更に好ましくは70°以上、更に好ましくは80°以上の角度で配向している。
【0040】
熱伝導性樹脂層7の厚みは、熱伝導性樹脂層7中に含まれる熱伝導性フィラー6の厚みの好ましくは1~1000倍、より好ましくは1~500倍である。
熱伝導性樹脂層7の幅(厚み)を上記範囲とすることにより、熱伝導性フィラー6を、その長軸が、前記シート面に対して90°に近い角度に配向させやすくなる。なお熱伝導性樹脂層7の幅は、上記範囲内であれば均等でなくてもよい。
【0041】
[熱伝導性樹脂シートの製造方法]
本発明の熱伝導性樹脂シートの製造方法は、特に限定されないが、単層の熱伝導性樹脂シートを製造する場合は、例えば、非球状の熱伝導性フィラー、樹脂、及び必要に応じて添加剤を押出機に供給し溶融混練して得た混合物を、押出機からシート状に押出すことによって熱伝導性樹脂シートを成形すればよい。
【0042】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体からなる熱伝導性樹脂シートの製造方法は、特に限定されないが、以下に説明するように、混練工程、積層工程、さらに必要に応じてスライス工程を含む方法により製造することができる。
【0043】
<混練工程>
熱伝導性フィラーと樹脂とを混練して、熱伝導性樹脂組成物を作製する。
前記の混練は、例えば、熱伝導性フィラーと樹脂とを、プラストミル等の二軸スクリュー混練機や二軸押出機等を用いて、加熱下において混練することが好ましく、これにより、熱伝導性フィラーが樹脂中に均一に分散された熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
次いで、該熱伝導性樹脂組成物をプレスすることにより、シート状の樹脂層(熱伝導性樹脂層)を得ることができる。
【0044】
<積層工程>
積層工程では、前記混練工程で得た樹脂層を積層してn層構造の積層体を作成する。積層方法としては、例えば、混練工程で作製した樹脂層をx分割して積層し、x層構造の積層体を作製後、必要に応じて、熱プレスを行い、その後、更に、必要に応じて、分割と積層と前記の熱プレスを繰り替えして、幅がDμmでn層構造の積層体を作製する方法を用いることができる。
熱伝導性フィラーが板状である場合、積層工程後の積層体の幅(Dμm)、前記熱伝導性フィラーの厚み(dμm)は、0.0005≦d/(D/n)≦1を満足することが好ましく、0.001≦d/(D/n)≦1を満足することがより好ましく、0.02≦d/(D/n)≦1を満足することが更に好ましい。
このように、複数回の成形を行う場合には、各回における成形圧を、1回の成形で行う場合に比べて、小さくすることができるため、成形に起因する積層構造の破壊等の現象を回避することができる。
その他の積層方法として、例えば、多層形成ブロックを備える押出機を用い、前記多層形成ブロックを調製して、共押出し成形により、前記n層構造で、かつ、前記厚さDμmの積層体を得る方法を用いることもできる。
具体的には、第1の押出機及び第2の押出機の双方に前記混練工程で得た熱伝導性樹脂組成物を導入し、第1の押出機及び第2の押出機から熱伝導性樹脂組成物を同時に押出す。第1の押出機及び第2の押出機から押出された熱伝導性樹脂組成物は、フィードブロックに送られる。フィードブロックでは、第1の押出機及び上記第2の押出機から押出された熱伝導性樹脂組成物が合流する。それによって、熱伝導性樹脂組成物が積層された2層体を得ることができる。次に、前記の2層体を多層形成ブロックへと移送し、押出し方向に平行な方向であり、かつ積層面に垂直な複数の面に沿って2層体を複数に分割後、積層して、n層構造で、厚みDμmの積層体を作製することができる。このとき、1層当たりの厚み(D/n)は、多層形成ブロックを調整して所望の値とすることができる。
【0045】
(スライス工程)
前記積層工程で得た積層体を積層方向に対して平行方向にスライスすることにより、熱伝導性樹脂シートを作製することができる。
【0046】
(その他工程)
熱伝導性樹脂シートの製造方法においては、樹脂を架橋する工程を設けることが好ましい。架橋することにより、熱伝導性樹脂シートの耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率を小さくしやすくなる。架橋は、例えば、電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する方法、有機過酸化物を用いる方法等により行えばよい。30%圧縮強度の変化率を小さくする観点から、電子線照射を行う場合の加速電圧は50~800kVが好ましく、200~700kVがより好ましく、400~600kVがさらに好ましい。同様の観点から、電子線照射の照射量は200~1200kGyが好ましく、300~1000kGyがより好ましく、400~800KGyがさらに好ましい。
【0047】
本発明の熱伝導性樹脂シートは、熱伝導性、柔軟性、耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率が低く、長期間の物性安定性に優れている。このような特性を利用して、本発明の熱伝導性樹脂シートは、例えば、電子機器内部の発熱体と放熱体の間に配置させることで、発熱体から放熱体への熱放散を促進させることができる。このことを図1で説明した熱伝導性樹脂シート1を用いて説明する。
図2に示すように、熱伝導性樹脂シート1は、シート面5が発熱体3や放熱体4と接するように配置される。また、熱伝導性樹脂シート1は、発熱体3と放熱体4等の2つの部材の間において、圧縮した状態で配置される。なお、発熱体3は、例えば、半導体パッケージ等であり、放熱体4は、例えば、アルミニウムや銅などの金属等である。熱伝導性樹脂シート1をこのような状態で使用することにより、発熱体3で発生した熱が、放熱体4へ熱拡散しやすくなり、効率的な放熱が可能となる。
【0048】
さらに、本発明の熱伝導性樹脂シートは、エステル結合を有する化合物の量を一定値以下にしており、これにより電子機器等に備えられるカメラレンズの曇りを抑制できる。そのため、車載カメラ、ドライブレコーダー、デジタルカメラ、スマートフォン、携帯電話などカメラレンズを有する電子機器に使用することが特に好ましい。これにより、カメラレンズの曇りが抑制され、電子機器の動作不良を防止することができる。
【実施例
【0049】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0050】
以下の実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
樹脂
・液状エラストマー1:液状ポリブタジエンゴム、株式会社クラレ社製、商品名「L-1203」
【0051】
(2)熱伝導性フィラー
(i)窒化ホウ素 デンカ社製、商品名「SGP」
形状;非球状(板状)
アスペクト比;20
長辺方向熱伝導率;250W/m・K
厚み:1μm
【0052】
(3)酸化防止剤
(i)酸化防止剤1 (エステル基有、4級炭素有)
ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、(株)ADEKA製、商品名「アデカスタブAO-60」
(ii)酸化防止剤2 (エステル基無、3級及び4級炭素無)
3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4トリアゾール、(株)ADEKA製、商品名「アデカスタブ CDA-1」
(iii)酸化防止剤3 (エステル有、3級及び4級炭素無)
チオジプロピオン酸ジステアリル、(株)大内新興化学工業株式会社製「ノクラック400S」
(iv)酸化防止剤4 (エステル基無、4級炭素有)
1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、(株)ADEKA製、商品名「アデカスタブ AO-330」
(v)酸化防止剤5 (エステル基無、3級及び4級炭素無)
N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、(株)大内新興化学工業株式会社製「ノクラックWhite」
【0053】
各種物性、評価方法は以下のとおりである。
<粘度>
樹脂50gを、25℃で、B型粘度計(東洋産業社製)で測定した。
<熱伝導率>
得られた熱伝導性樹脂シートの厚み方向の熱伝導率を、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(NETZSCH社製「LFA447」)を用いて測定を行った。
<30%圧縮強度>
得られた熱伝導性樹脂シートの30%圧縮強度を、エー・アンド・ディ社製「RTG-1250」を用いて測定した。サンプル寸法を2mm×15mm×15mm、測定温度を23℃、圧縮速度を1mm/minとして測定を行った。
【0054】
<耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率>
得られた熱伝導性樹脂シートを150℃、1000時間オーブンで加熱し、30%圧縮強度を測定し、以下の式で耐熱試験後の物性変化率を求めた。
耐熱試験後の30%圧縮強度の変化率は下記式(1)で求めた。
|(1-耐熱試験前の30%圧縮強度/耐熱試験後の30%圧縮強度)×100| 式(1)
【0055】
<組み付け試験>
BGA(Ball Grid Array)の実装されたテスト用基板に、得られた耐熱試験前後のそれぞれの熱伝導性樹脂シートを30%圧縮となるように組み付け試験を行い、組み付け後のハンダクラック、ショート、変色などの不良の有無をX線装置を用いて観察した。以下の評価基準で評価した。
A:不良なし
B:クラックあり
C:変色あり
D:クラックと変色あり
【0056】
<フォギング試験における光沢保持率>
ドイツ工業規格DIN75201-Aに準拠して、下記の通り光沢保持率を測定し、ガラス曇り度を評価した。
高さ1000mLのビーカーに、厚さ2mm、直径80mmの円盤状の熱伝導性樹脂シートを入れ、ガラス板をビーカー上部に蓋をするように配置し、さらにガラス板上に温度21℃に保持された冷却板を配置した。次いで、該熱伝導性樹脂シート入りビーカーをオイルバスにより100℃に加熱した。そして、この状態で16時間保持した後、ガラス板の表面の光沢度を測定した。このようにして得られた試験後のガラス板の光沢値(試験後の光沢値)と、試験前のガラス板の光沢値(試験前の光沢値)により、光沢保持率を以下の式により求め、ガラス曇り度を以下の基準で評価した。
光沢保持率(%)=100×(試験後の光沢値)/(試験前の光沢値)
上記光沢値とは、60°の光沢値であり、光沢計(村上色彩技術研究所社製、「精密光沢計GM-26PRO」)により測定した値である。
A:光沢保持率が80%以上
B:光沢保持率が60%以上80%未満
C:光沢保持率が40%以上60%未満
D:光沢保持率が40%未満
【0057】
(実施例1)
液状エラストマー1(株式会社クラレ社製、商品名「L-1203」)100質量部と、窒化ホウ素(デンカ社製、商品名「SGP」)330質量部とからなる混合物を溶融混練後、プレスすることにより厚さ0.5mm、幅80mm、奥行き80mmのシート状の樹脂層を得た。次に積層工程として、得られた樹脂層を16等分して重ねあわせて総厚さ8mm、幅20mm、奥行き20mmの16層からなる積層体を得た。次いで積層方向に平行にスライスし、厚さ2mm、幅8mm、奥行き20mmの熱伝導性樹脂シートを得た。該熱伝導性樹脂シートの積層体を構成する樹脂層の1層の厚みは0.5mmであった。次いで該熱伝導性樹脂シートの両面にそれぞれ加速電圧525kV、線量600kGyの電子線を照射してシートを架橋させた。この熱伝導性樹脂シートについて表1の各項目について評価した。
【0058】
(実施例2~3、比較例1~2)
表1のとおりに組成を変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性樹脂シートを得た。この熱伝導性樹脂シートについて表1の各項目について評価した。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1~3に示す本発明の熱伝導性樹脂シートは、熱伝導率及び柔軟性が高く、組付け試験の結果が良好であり、経時で硬くなることなく長期間物性が安定していた。さらに、これに加えて、ガラスの曇りを防止しやすいことが分かった。これに対して、比較例1~2に示す熱伝導性樹脂シートは、エステル基を含有する化合物の量が多く、ガラスの曇りを防止するのが難しいことが分かった。
【符号の説明】
【0061】
1 熱伝導性樹脂シート
2 樹脂層
3 発熱体
4 放熱体
5 シート面
6 熱伝導性フィラー
7 熱伝導性樹脂層
8 樹脂
図1
図2