(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】免震構造体用ゴム組成物および免震構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20240515BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20240515BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20240515BHJP
C08L 45/02 20060101ALI20240515BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240515BHJP
B32B 15/06 20060101ALI20240515BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20240515BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20240515BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20240515BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240515BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/06
C08L45/00
C08L45/02
C09K3/00 P
B32B15/06 A
B32B15/18
F16F1/36 C
F16F1/40
F16F15/04 P
F16F15/08 D
(21)【出願番号】P 2019191946
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 芙茉
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084312(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103087362(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104761828(CN,A)
【文献】特開2015-054915(JP,A)
【文献】特開2012-087196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C09K,B32B,F16F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対し、JIS K6222-1:2004 付属書A 表3および4に規定されている不溶性硫黄を0.5~3質量部、および樹脂成分を4質量部以下含有し、
ゴム成分として天然ゴムを100質量部含有し、
前記不溶性硫黄が20%オイル含有品であり、
前記樹脂成分が、芳香族系炭化水素樹脂である免震構造体用ゴム組成物。
【請求項2】
前記樹脂成分が、クマロン・インデン樹脂である請求項1に記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の免震構造体用ゴム組成物を加硫成形してなるゴム層と、鋼板からなる硬質層とを交互に積層した免震構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造体用ゴム組成物および免震構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の基礎免震、橋梁や高架道路などの構造物の支承には、加硫ゴムからなるゴム層と鋼板からなる硬質層とを交互に積層した免震構造体が用いられている。この免震構造体は、上下方向には高い剛性、せん断方向には低い剛性を有する弾性構造体であり、地震の振動数に対して建築物の固有振動数を低減することにより、振動の入力加速度を減少し、建築物あるいはその中の人、設備などに対する被害を最小限にするものである。
【0003】
ただし、免震構造体には、過度の大変形が付与されることもあり、その場合にゴム層と硬質層との剥離などの故障を避けるため、ゴム層内の強度均一化や接着性向上が要求される。
【0004】
下記特許文献1には、せん断破壊特性の向上を目的として、天然ゴムとジフェニルジスルフィド化合物とを含む加硫ゴムからなる軟質層を備える免震支承構造体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、免震構造体が備えるゴム層の強度均一化や接着性向上に関し、さらなる改良の余地があることが判明した。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、免震構造体が備えるゴム層の接着性を向上し得る免震構造体用ゴム組成物および免震構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴム成分100質量部に対し、不溶性硫黄を0.5~3質量部、および樹脂成分を4質量部以下含有する免震構造体用ゴム組成物に関する。かかる構成によれば、接着界面だけでなく、加硫後のゴム層の内部でも架橋密度が均一化されているため、接着界面およびゴム内部のいずれにおいてもゴム破断が防止される。このため、本発明に係る免震構造体用ゴム組成物を加硫してゴム層を製造した場合、硬質層との接着性に優れ、その結果、耐久性に優れた免震構造体を製造することができる。
【0009】
上記免震構造体用ゴム組成物において、前記樹脂成分が、芳香族系炭化水素樹脂であることが好ましく、前記樹脂成分が、クマロン・インデン樹脂であることがより好ましい。これらの免震構造体用ゴム組成物を加硫してゴム層を製造した場合、さらに鋼板との接着性に優れ、その結果、耐久性に優れた免震構造体を製造することができる。
【0010】
本発明に係る免震構造体は、前記いずれかに記載の免震構造体用ゴム組成物を加硫成形してなるゴム層と、鋼板からなる硬質層とを交互に積層した免震構造体であり、ゴム層と硬質層との接着性に優れるため、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】「1ブロック・ラップ・シェア型」試験体の説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、ゴム成分、不溶性硫黄、および樹脂成分を含有する。
【0013】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、ゴム成分として、例えばジエン系ゴムを含有することが好ましい。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、およびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。上記ジエン系ゴムの中でも、天然ゴムおよびイソプレンゴムの少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0014】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、不溶性硫黄を0.5~3質量部含有する。特に、ゴム成分100質量部に対し、不溶性硫黄を0.5~1.5質量部含有することが好ましい。不溶性硫黄は、JIS K6222-1:2004 付属書A 表3,4に10グレードが規定されており、本発明においては任意のグレードのものを使用可能である。
【0015】
また、本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、樹脂成分を4質量部以下含有する。特に、ゴム成分100質量部に対し、樹脂成分を1~3質量部含有することが好ましい。
【0016】
本発明においては、樹脂成分として、特に芳香族系炭化水素樹脂を使用することが好ましく、クマロン・インデン樹脂を使用することがより好ましい。クマロン・インデン樹脂は、クマロン、インデン、スチレンを主成分とする共重合樹脂であり、市販品としては例えば日塗レジン社製の商品名「G-90」などが挙げられる。
【0017】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、上記ゴム成分、不溶性硫黄、および樹脂成分と共に、加硫促進剤、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0018】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどが用いられる。カーボンブラックは、加硫後のゴムの硬度、補強性、低発熱性などのゴム特性を調整し得る範囲で使用することができる。カーボンブラックの配合量はゴム成分100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましい。
【0019】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0020】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0021】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、上記ゴム成分、不溶性硫黄、および樹脂成分と共に、加硫促進剤、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0022】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、不溶性硫黄、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0023】
本発明に係る免震構造体は、ロールやローラヘッド付押出機などを用いて、混練りすることにより得られた未加硫の免震構造体用ゴム組成物をシート状に成形し、ついで円板状に打ち抜いた後、鋼板(硬質層)と未加硫のシート状のゴム層(免震構造体用ゴム組成物)とを交互に積層し、必要に応じて加圧しつつ、所定の温度で加硫成形することにより製造することができる。
【0024】
なお、硬質層とゴム層とを積層する前に、少なくとも片方、あるいは両方の接着面に加硫接着剤を塗工しても良い。硬質層に加硫接着剤を塗工する場合は、鋼板との接着性に優れた加硫接着剤を適宜選択すれば良く、ゴム層に加硫接着剤を塗工する場合は、ゴムとの接着性に優れた加硫接着剤を適宜選択すれば良い。また、硬質層およびゴム層の両方に加硫接着剤を塗工しても良い。
【0025】
本発明に係る免震構造体は、ゴム層と硬質層との間の接着性に優れるため、耐久性に優れる。
【実施例】
【0026】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0027】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100質量部に対して、表1の配合処方に従い、実施例1~5、比較例1~3のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す。
【0028】
(a)ゴム成分 NR(RSS#3)
(b)カーボンブラック(商品名「シーストS(SRF)」、東海カーボン社製)
(c)オイル(商品名「NC140」、JX日鉱日石エネルギー社製)
(d)ワックス(商品名「OZOACE2701」、日本精鑞社製)
(e)樹脂成分(芳香族系炭化水素樹脂(クマロン・インデン樹脂))(商品名「G-90」、日塗化学社製)
(f)酸化亜鉛(商品名「酸化亜鉛2種」、三井金属鉱業社製)
(g)ステアリン酸(商品名「工業用ステアリン酸」、花王社製)
(h)老化防止剤(商品名「ノクラック6C」、大内振興化学社製)
(i)硫黄A(粉末硫黄)(商品名「5%オイル処理150メッシュ粉末硫黄」、鶴見化学社製)
(j)硫黄B(不溶性硫黄)(商品名「20%オイル処理サンフェルEX」、三新化学工業社製)
(k)加硫促進剤(商品名「サンセラーNS-G」、三新化学工業社製)
【0029】
(接着性評価)
図1に示す「1ブロック・ラップ・シェア型」試験体(ゴム部:幅25mm、長さ25mm、厚み5mm)を製造し、これを150℃で20分間加硫接着することにより評価サンプルを製造した。次に、島津製作所社製オートグラフを使用して、評価サンプルを20mm/minの速度でせん断方向に引っ張ることで、評価サンプルの破断強度および破断伸びを評価した。評価は、いずれも比較例1を100とした指数評価で行い、破断強度および破断伸びのいずれも指数が大きいほど、ゴム層の接着界面およびゴム内部でのゴム破断が防止され、ゴム層と硬質層との接着性に優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
表1の結果から、実施例1~5に係るゴム組成物の加硫ゴムは、破断強度および破断伸びの両方に優れるため、ゴム層の接着界面およびゴム内部でのゴム破断が防止され、ゴム層と硬質層との接着性に優れることがわかる。一方、不溶性硫黄の配合量が多い比較例2、樹脂成分の配合量が多い比較例3に係るゴム組成物の加硫ゴムは、破断強度および破断伸びのいずれも実施例1~5に比して劣るため、ゴム層と硬質層との接着性に劣ることがわかる。