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特許7488653エマルジョン、エマルジョンの製造方法、及びエマルジョンを用いたコーティング膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】エマルジョン、エマルジョンの製造方法、及びエマルジョンを用いたコーティング膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240515BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240515BHJP
   C08F 2/20 20060101ALI20240515BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20240515BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240515BHJP
   C09D 121/02 20060101ALI20240515BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20240515BHJP
   C09D 151/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C08L101/00
B05D7/24 301F
C08F2/20
C08F265/06
C09D5/02
C09D121/02
C09D133/14
C09D151/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019537153
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 KR2018002998
(87)【国際公開番号】W WO2018169309
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-11-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】10-2017-0032264
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515358285
【氏名又は名称】ハンファ ケミカル コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA CHEMICAL CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】テ ウォン チョ
(72)【発明者】
【氏名】ヒ ユン キム
(72)【発明者】
【氏名】テ フン ヨム
(72)【発明者】
【氏名】ス ジン イ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ヒュン チェ
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】藤井 勲
【審判官】海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0017359(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0032505(KR,A)
【文献】国際公開第2015/015827(WO,A1)
【文献】特開2005-171253(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101585895(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08F 2/00- 2/60
C08F265/00-265/10
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテックス粒子を含むエマルジョンであって、
前記ラテックス粒子は、
内部網目構造を持つポリマーマトリクスからなるコア部分と、
前記コア部分を囲むシェル部分とを含んでなり、
前記コア部分は、
開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマーと、
開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマーと、
不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーとを含むモノマー混合物が重合されて形成されたものであり、
前記コア部分における前記第2モノマーの含有量は、前記コア部分における前記第1モノマーの含有量よりも小さく、
前記モノマー混合物の全体モノマー重量に対して、前記第1モノマーと前記第2モノマーの重量の和が3重量%以上5重量%以下であり、
前記第1モノマーおよび前記第2モノマーは、前記コア部分の前記内部網目構造を形成し、
前記コア部分は、前記第1モノマーの重合されていない開環重合可能な反応基を含み、 前記シェル部分は、重量平均分子量が5,000以上30,000g/mol以下であり、ガラス転移温度が30℃以上120℃以下であり、酸価が70mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であるアルカリ水溶性樹脂で形成されている、エマルジョン。
【請求項2】
前記コア部分は、
相互に架橋された複数の主鎖と、
前記主鎖に結合され、環状エーテル基を有する側鎖とを含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項3】
前記側鎖がエポキシ基を含む、請求項2に記載のエマルジョン。
【請求項4】
前記エマルジョンの粘度は50cps以上1,000cps以下であり、
ガラス転移温度は25℃以上55℃以下である、請求項3に記載のエマルジョン。
【請求項5】
アルカリ水溶性樹脂が溶解されたアルカリ性水性媒質を準備する段階と、
前記アルカリ性水性媒質にモノマー混合物を添加する段階と、
前記モノマー混合物を乳化重合する段階とを含み、
前記モノマー混合物は、
開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマー、
開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマー、及び
不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーを含み、
前記第2モノマーの含有量は、前記第1モノマーの含有量よりも小さく、
前記モノマー混合物の全体モノマー重量に対して、前記第1モノマーと前記第2モノマーの重量の和が3重量%以上5重量%以下であり、
前記乳化重合する段階で、前記第1モノマーの前記開環重合可能な反応基のうちの少なくとも一部は重合されておらず、
前記アルカリ水溶性樹脂は、重量平均分子量が5,000以上30,000g/mol以下であり、ガラス転移温度が30℃以上120℃以下であり、酸価が70mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であるエマルジョンの製造方法。
【請求項6】
前記第1モノマーは、グリシジルメタクリレート、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランのうちの少なくとも1種を含み、
前記第2モノマーは、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートのうちの少なくとも1種を含む、請求項5に記載のエマルジョンの製造方法。
【請求項7】
前記乳化重合する段階で、重合されない前記エポキシ基の数は、重合が行われる前記エポキシ基の数よりも大きい、請求項6に記載のエマルジョンの製造方法。
【請求項8】
エマルジョンを含むコーティング組成物を準備する段階と、
前記コーティング組成物を基材上に塗布する段階と、
前記塗布されたコーティング組成物を乾燥させる段階とを含み、
前記エマルジョンは、ラテックス粒子を含み、
前記ラテックス粒子のぞれぞれは、内部網目構造を持つポリマーマトリクスからなるコア部分と、前記コア部分を囲むシェル部分とを含み、
前記コア部分は、
開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマーと、
開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマーと、
不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーとを含むモノマー混合物が重合されて形成されたものであり、
前記コア部分における前記第2モノマーの含有量は、前記コア部分における前記第1モノマーの含有量よりも小さく、
前記モノマー混合物の全体モノマー重量に対して、前記第1モノマーと前記第2モノマーの重量の和が3重量%以上5重量%以下であり、
前記第1モノマーおよび前記第2モノマーは、前記コア部分の前記内部網目構造を形成し、
前記コア部分は、前記第1モノマーの重合されていない開環重合可能な反応基を含み、 前記シェル部分は、重量平均分子量が5,000以上30,000g/mol以下であり、ガラス転移温度が30℃以上120℃以下であり、酸価が70mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であるアルカリ水溶性樹脂で形成されているコーティング膜の形成方法。
【請求項9】
前記乾燥させる段階後の前記エマルジョンの前記コア部分の架橋度は、
前記乾燥させる段階前の前記エマルジョンの前記コア部分の架橋度よりも大きい、請求項に記載のコーティング膜の形成方法。
【請求項10】
前記乾燥させる段階が20℃以上100℃以下の温度で行われる、請求項に記載のコーティング膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョン、前記エマルジョンの製造方法、及び前記マルジョンを用いたコーティング膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙、フィルム、木材、鉄材などの基材の表面を保護するための方法として、前記基材の表面に油性樹脂をコーティングする方法を例示することができる。前記油性樹脂は、コーティング工程の作業性を改善し且つコーティング物性を向上させるための溶剤として、油性有機溶剤を含む。ところが、前記油性樹脂は、可燃性であって火災に脆弱であり、コーティング膜の表面に残留する油性溶剤は、人体に有害な影響を及ぼすおそれがある。
【0003】
よって、可燃性と毒性を持たずに基材に対するコーティング物性などに優れるうえ、耐久性にも優れる新しいコーティング物質の開発が求められる。上述したような観点から、コーティング物質として水性樹脂を使用する方法が考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水性樹脂の一つであるスチレン/アクリル系エマルジョンを製造するための方法として、アルカリ水溶性樹脂を乳化剤として用いてモノマーを乳化重合する方法を例示することができる。
【0005】
一方、優れた物性を有するスチレン/アクリル系エマルジョンを製造するためには、重合安定性を確保することが重要である。それだけでなく、スチレン/アクリル系エマルジョンを用いたコーティング膜の適用分野が多様化するにつれて、コーティング膜の外観、フィルム性及び耐久性などのさまざまな特性が求められる。
【0006】
ところが、一般なスチレン/アクリル系エマルジョンの場合、これらの特性が相互にトレードオフの関係にあり、これらを制御することは容易でない。例えば、エマルジョンを用いたコーティング膜の耐久性を改善するために架橋性モノマーを使用すると、エマルジョンの重合安定性が低下し、コーティング膜の基材への付着性が低下し、或いはコーティング膜が形成されないこともある。一方、フィルム性を改善するためにエマルジョンのガラス転移温度を下げると、硬度、耐水性、耐化学性などの耐久性が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来の両立が困難であったフィルム性と耐久性の両方が改善されたコーティング膜を形成することができるエマルジョンを提供することである。
【0008】
本発明が解決しようとする他の課題は、フィルム性と耐久性の両方が改善されたコーティング膜を形成することができるエマルジョンを製造するための方法を提供することである。
【0009】
本発明が解決しようとする別の課題は、フィルム性と耐久性の両方が改善されたコーティング膜の形成方法を提供することである。
【0010】
本発明の課題は、上述した技術的課題に制限されず、上述していない別の技術的課題は、以降の記載から当業者に明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るエマルジョンは、ラテックス粒子を含むエマルジョンであって、前記ラテックス粒子は、内部網目構造を持つポリマーマトリクスからなるコア部分と、前記コア部分を囲むシェル部分とを含んでなる。
【0012】
前記コア部分は、開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマー、開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマー、及び不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーを含むモノマー混合物が重合されて形成されたものであってもよい。
【0013】
前記コア部分は、相互に架橋された複数の主鎖と、前記主鎖に結合され、環状エーテル基を有する側鎖とを含んでもよい。
【0014】
また、前記側鎖はエポキシ基を含んでもよい。
【0015】
また、前記エマルジョンの粘度は50cps以上1,000cps以下であり、ガラス転移温度は25℃以上55℃以下であってもよい。
【0016】
上記他の課題を解決するための本発明の一実施形態に係るエマルジョンの製造方法は、アルカリ水溶性樹脂が溶解されたアルカリ性水性媒質を準備する段階と、前記アルカリ性水性媒質にモノマー混合物を添加する段階と、前記モノマー混合物を乳化重合する段階とを含み、前記モノマー混合物は、開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマー、開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマー、及び不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーを含む。
【0017】
前記アルカリ水溶性樹脂は、重量平均分子量が5,000以上30,000以下であり、ガラス転移温度が30℃以上120℃以下であり、酸価が70mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であってもよい。
【0018】
前記第1モノマーは、グリシジルメタクリレート、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランのうちの少なくとも1種を含み、前記第2モノマーは、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートのうちの少なくとも1種を含んでもよい。
【0019】
また、前記第2モノマーの含有量は、前記第1モノマーの含有量よりも小さくてもよい。
【0020】
また、前記モノマー混合物の全体モノマー重量に対して、前記第1モノマーと前記第2モノマーの重量の和は3重量%以上5重量%以下であってもよい。
【0021】
前記第1モノマーは、開環重合可能な反応基としてエポキシ基を有するモノマーを含み、前記乳化重合する段階で、前記エポキシ基のうちの少なくとも一部は重合されなくてもよい。
【0022】
また、前記乳化重合する段階で、重合されない前記エポキシ基の数は、重合が行われる前記エポキシ基の数よりも大きくてもよい。
【0023】
前記別の課題を解決するための本発明の一実施形態に係るコーティング膜の形成方法は、本発明の一実施形態に係るエマルジョンを含むコーティング組成物を準備する段階と、前記コーティング組成物を基材上に塗布する段階と、前記塗布されたコーティング組成物を乾燥させる段階とを含む。
【0024】
前記乾燥させる段階後の前記エマルジョンのコア部分の架橋度は、前記乾燥させる段階前の前記エマルジョンの前記コア部分の架橋度よりも大きくてもよい。
【0025】
また、前記乾燥させる段階は20℃以上100℃以下の温度で行われてもよい。
【0026】
その他の実施形態の具体的な事項は、詳細な説明及び図面に含まれている。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一実施形態に係るエマルジョンは、従来の両立が困難であったフィルム性と耐久性の両方が改善されたコーティング膜を形成することができる。
【0028】
また、本発明の一実施形態に係るエマルジョンの製造方法によれば、従来の両立が困難であったフィルム性と耐久性の両方が改善されたコーティング膜を形成することができるエマルジョンを製造することができる。
【0029】
また、本発明の一実施形態に係るコーティング膜の形成方法によれば、従来の両立が困難であったフィルム性及び耐久性の改善を達成することができる。
【0030】
本発明の実施形態に係る効果は以上で例示された内容によって制限されず、さらに様々な効果は本明細書内に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係るコーティング膜の形成方法を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態に係るコーティング膜の形成方法を説明するための図である。
図3】実験例6による結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の利点、特徴、及びそれらを達成する方法は、添付図面と共に詳細に後述されている実施形態を参照すると明確になるだろう。しかし、本発明は、以下で開示する実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で実現される。但し、これらの実施形態は、単に本発明の開示を完全たるものにし、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。本発明は、請求項の範疇によってのみ定められる。
【0033】
本明細書において、「及び/又は」は、言及されたアイテムのそれぞれ及び1つ以上の全ての組み合わせを含む。「乃至」を使って表した数値の範囲は、その前後に記載された値をそれぞれ下限と上限として含む数値の範囲を示す。「約」又は「大略」は、その後ろに記載された値又は数値範囲の20%以内の値又は数値の範囲を意味する。
【0034】
本明細書で使用される用語「アルカリ水溶性」は、常温でpH7以上の脱イオン水1Lに10g以上の樹脂又はポリマーが溶解できる特性を有することを意味する。
【0035】
本明細書で使用される用語「エマルジョン」は、分散媒に対して不溶であるラテックス粒子が分散媒中に分散された系を意味する。「ラテックス粒子」は、乳化重合によって製造される粒子状ポリマーを意味し、エマルジョンポリマー粒子を含む意味である。
【0036】
本明細書で使用される用語「エポキシ基」は、炭素鎖中の二つの炭素原子、又は炭素環中の二つの炭素原子に直接結合して脚状をなしている1つの酸素原子を意味する。すなわち、エポキシ基は、炭素鎖又は炭素環中の二つの炭素原子に結合された2価の酸素基を意味する。
【0037】
以下、本発明の例示的な実施形態に係るエマルジョン、エマルジョンの製造方法、及びコーティング膜の形成方法について詳細に説明する。
【0038】
エマルジョン(emulsion)
【0039】
本発明の例示的な実施形態に係るエマルジョンは、分散媒と、前記分散媒内に分散されたラテックス粒子とを含む。前記エマルジョンは、アルカリ水溶性樹脂を乳化剤として用いてモノマーを乳化重合させて製造されたものであり得る。
【0040】
ラテックス粒子は、少なくとも部分的にコア-シェル(core-shell)構造を持つことができる。コア部分は、ポリマーマトリクスを含んでなり、シェル部分は、アルカリ水溶性樹脂に由来して少なくとも部分的に前記コア部分を囲むことができる。
【0041】
例示的な実施形態において、前記シェル部分を形成するアルカリ水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、約5,000g/mol以上30,000g/mol以下であり、酸価(Acid Value)は、約70mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であり得る。また、シェル部分を形成するアルカリ水溶性樹脂のガラス転移温度は約30℃以上120℃以下、又は約55℃以上100℃以下であり得る。
【0042】
アルカリ水溶性樹脂の重量平均分子量、ガラス転移温度及び/又は酸価を上記の範囲内にあるようにして乳化剤として用いることにより、ナノメートル(nanometer)レベルの平均粒度を有し且つ幅の狭い単峰型の粒度分布を有するラテックス粒子を製造することができる。また、製造されたエマルジョンのコーティング物性を向上させるとともに、十分な耐久性を付与することができる。例えば、シェル部分を形成する前記アルカリ可溶性樹脂を、後述するコア部分をなすポリマーマトリクスに比べて相対的に高い酸価とガラス転移温度を持つように構成して、エマルジョンを用いたコーティング膜の硬度などの耐久性を補強し、湿潤性(wettability)などのコーティング物性を改善することができる。
【0043】
アルカリ水溶性樹脂は、スチレン/アクリル系モノマーをフリーラジカル重合、例えば連続バルク重合させることにより製造されたものであり得る。例示的な実施形態において、前記アルカリ水溶性樹脂は、(メタ)アクリル酸系モノマーと非酸性(non-acid)(メタ)アクリル系モノマーのうちの少なくとも一つ、及びスチレン系モノマーを含むモノマー混合物に由来するポリマーであり得る。
【0044】
前記スチレン系モノマーの例としては、スチレン又はα-メチルスチレンを例示することができ、前記(メタ)アクリル酸系モノマーの例としては、メタクリル酸又はアクリル酸を例示することができ、前記(メタ)アクリル系モノマーの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート又は2-エチルヘキシルメタクリレートを例示することができる。
【0045】
非制限的な一例として、前記アルカリ水溶性樹脂は、スチレン系モノマー約5重量%以上75重量%以下、(メタ)アクリル酸系モノマー約10重量%以上40重量%以下、及び(メタ)アクリル系モノマー約15重量%以上45重量%以下を含むモノマー混合物、重合開始剤、及び溶媒を含む組成物を、120℃以上300℃以下の温度で連続バルク重合して製造されたものであり得る。本明細書で使用される用語「モノマー混合物」は、1種以上の重合可能なモノマーのみからなるモノマーの混合物を意味する。
【0046】
前記重合開始剤は、スチレン/アクリル系モノマーの重合に使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、アルキルペルオキシベンゾエート系開始剤であり得る。又は、90℃乃至120℃で半減期が約10時間である開始剤を使用することができる。例えば、開始剤は、t-ブチルペルオキシベンゾエート(t-butyl peroxybenzoate)を含むことができる。前記重合開始剤は、前記モノマー混合物100重量部に対して、約0.001乃至2重量部の範囲で含まれ得る。
【0047】
前記溶媒は、ジプロピレングリコールメチルエーテル及び水を含むことができる。溶媒としてジプロピレングリコールメチルエーテル及び水の混合溶媒を用いることにより、溶媒と樹脂との反応、例えばエステル化反応を抑制することができ、これにより、アルカリ水溶性樹脂の粘度及び/又は反応器内の温度の制御が容易であり得る。前記溶媒は、前記モノマー混合物100重量部に対して約3乃至20重量部の範囲で含まれ得る。
【0048】
一方、前記コア部分は、内部網目構造を持つポリマーマトリクスからなり得る。前記コア部分は、相互に架橋された複数の高分子主鎖を含むことができる。具体的には、コア部分は、不飽和エチレン系モノマー及び架橋性モノマーに由来するポリマーマトリクスを含んでなることができる。前記ポリマーマトリクスは、乳化重合反応の際に乳化剤によって囲まれたモノマーが重合されて形成されたものであり得る。
【0049】
例示的な実施形態において、前記コア部分は、開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマー、開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマー、及び不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーを含むモノマー混合物に由来するポリマーマトリクスであり得る。本明細書で使用される用語「架橋性モノマー」は、線形構造の高分子鎖間を結合させて網目構造の高分子を形成することができるモノマーを意味し、「非架橋性モノマー」は、線形構造の高分子鎖の形成に参加するが、架橋性モノマーではないモノマーを意味する。
【0050】
前記第1モノマーは、開環重合(ring opening polymerization)が可能な環状反応基を有するモノマーであり得る。第1モノマーは、重合反応の際に環状反応基が開きながら、二つ以上の反応基点が生成されて網目構造の高分子を形成することができる。例えば、第1モノマーは、開環重合可能な反応基として、環状エーテル基、環状エステル基又は環状アミド基を含むことができる。すなわち、第1モノマーは、エポキシド化合物、ラクタム化合物又はラクトン化合物であり得る。例示的な実施形態において、第1モノマーは、開環重合可能な反応基としてエポキシ基を有する化合物、例えば、グリシジルメタクリレート(glycidyl metharcrylate)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(3-glycidoxypropyl trimethoxysilane)及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン(2-(3,4-epoxycyclohexyl)ethyltriethoxysilane)のうちの少なくとも1種を含むことができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
前記第2モノマーは、多官能性架橋剤化合物であり得る。例えば、第2モノマーは、2官能性架橋剤化合物又は3官能性架橋剤化合物であり得る。第2モノマーは、複数の反応基が、それぞれ互いに異なる高分子鎖の形成に参加して網目構造の高分子を形成することができる。例示的な実施形態において、第2モノマーは、トリメチロールプロパントリメタクリレート(trimethylolpropane trimethacrylate)、トリエチレングリコールジメタクリレート(triethyleneglycol dimethacrylate)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(1,6-hexanediol diacrylate)及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(1,6-hexanediol dimethacrylate)のうちの少なくとも1種を含むことができる。
【0052】
前記第3モノマーは、不飽和エチレン系モノマーであって、(メタ)アクリル酸系モノマー、非酸性(non-acid)(メタ)アクリル系モノマー及びスチレン系モノマーのうちの少なくとも1種を含むことができる。
【0053】
前記スチレン系モノマーの例としては、スチレン又はα-メチルスチレンを例示することができ、前記(メタ)アクリル酸系モノマーの例としては、メタクリル酸又はアクリル酸を例示することができ、前記(メタ)アクリル系モノマーの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、ヘキサンジオールアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヘキサンジオールメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート又はトリメチロールプロパントリメタクリレートを例示することができる。
【0054】
幾つかの実施形態において、前記コア部分は、前記高分子主鎖に結合された側鎖をさらに含むが、前記側鎖は、環状エーテル基、環状エステル基又は環状アミド基を含む側鎖であり得る。前記側鎖は、未反応の第1モノマーに由来するものであり得る。言い換えれば、開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマーのうちの少なくとも一部は、未反応状態で残存することができる。例えば、第1モノマーがグリシジルメタクリレートを含む場合、グリシジルメタクリレートの一端のメタクリル基は、乳化重合に参加して高分子鎖を形成するが、グリシジルメタクリレートの他端のエポキシ基は、未反応状態で残存することができる。
【0055】
例えば、約60モル%以下又は約50モル%以下又は約40モル%以下の第1モノマーは、反応基全体の重合が完了してコア部分の架橋構造形成に寄与することができ、約40モル%以上又は約50モル%以上又は約60モル%以上の第1モノマーは、反応基のうちの少なくとも一部が未反応状態を維持していることができる。後述するコーティング膜の形成方法で説明するように、前記未反応の反応基を有する側鎖は、コーティング膜を形成する過程でさらに架橋できる。非制限的な一例として、前記側鎖はエポキシ基を含むことができる。
【0056】
本実施形態に係るラテックス粒子のコア部分は、不飽和エチレン系モノマーと、互いに異なる種類の複数の架橋性モノマーとを含んでなるが、エマルジョン状態で架橋性モノマーの少なくとも一部を未反応状態に維持させることにより、コア部分の架橋度を相対的に低く維持することができる。
【0057】
これにより、エマルジョンを用いたコーティング膜を形成するための最小塗膜形成温度を下げることができ、エマルジョンのフィルム性と柔軟性を向上させることができる。それだけでなく、コア部分の架橋度が十分に低いため、エマルジョンのガラス転移温度を相対的に高く構成することができるので、コーティング膜の硬度及び耐久性をより改善することができ、造膜剤(film forming agent)の含有量を最小限に抑えることができるので、揮発性有機物質(VOC)の規制要件から比較的自由に固形分含有量を設計することができる。言い換えれば、互いに異なる種類の複数の架橋性モノマーを用いることにより、エマルジョンの形成後にさらに架橋可能なポリマーマトリクスを有するラテックス粒子を製造することができ、従来の両立が困難であったフィルム性と耐久性の両方が改善されたコーティング膜を形成することができるエマルジョンを提供することができる。
【0058】
また、本実施形態に係るラテックス粒子を含むエマルジョンの粘度は、50cps以上1,000cps以下であり、ガラス転移温度は、約25℃以上55℃以下であり得る。また、酸価は約100mgKOH/g以下であり得る。エマルジョン状態でラテックス粒子のコア部分の架橋度を相対的に低く維持することにより、グリット(Grit)及び/又はスケール(Scale)を下げることができ、重合安定性を確保することができる。
【0059】
エマルジョンの製造方法
【0060】
本実施形態に係るエマルジョンの製造方法は、アルカリ水溶性樹脂が溶解されたアルカリ性水性媒質を準備する段階と、前記アルカリ性水性媒質にモノマー混合物を添加する段階と、前記モノマー混合物を乳化重合する段階とを含む。本実施形態に係るモノマー混合物は、開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマー、開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマー、及び不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーを含む。
【0061】
乳化重合に使用される連続相、すなわち分散媒は、塩基性を帯びる水性媒質であり得る。例えば、前記アルカリ性水性媒質は、水、例えば脱イオン水に溶解されたアンモニア、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含むことができる。前記アルカリ性水性媒質のpHは、エマルジョンの粘度、匂いなどの固有物性及びフィルム性、耐久性、分散性などの要求物性を考慮して制御できる。アルカリ水溶性樹脂が溶解されたアルカリ性水性媒質を準備する段階は、アルカリ水溶性樹脂を水性媒質に分散させた後、アルカリ性物質/媒質を添加する段階を含むか、或いはアルカリ水溶性樹脂をアルカリ性水性媒質に直接溶解させる段階を含むことができる。
【0062】
例示的な実施形態において、アルカリ水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、約5,000g/mol以上30,000g/mol以下であり、酸価(Acid Value)は、約70mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であり得る。また、ガラス転移温度は、約30℃以上120℃以下、又は約55℃以上100℃以下であり得る。
【0063】
アルカリ水性媒質に添加されたアルカリ水溶性樹脂は、陰イオン性乳化剤と同様の機能を行うことができる。アルカリ水溶性樹脂は、アルカリ性水性媒質に溶解されてミセル(Micelle)を形成することができ、前記モノマー混合物は、前記ミセルに囲まれた状態で重合できる。また、上述したように制御された重量平均分子量、ガラス転移温度及び酸価などを有するアルカリ水溶性樹脂を乳化剤として用いることにより、ラテックス粒子がナノメートル(nanometer)レベルの平均粒度を有し且つ幅の狭い単峰型粒度分布を有することができる。また、前記アルカリ水溶性樹脂の他に、別途の陰イオン性又は非イオン性乳化剤を使用しないのでエマルジョンの保存安定性に優れ、透明度にも優れるエマルジョンを製造することができるという効果がある。
【0064】
前記アルカリ水溶性樹脂は、水性媒質に添加される全体固形分、例えば前記アルカリ水溶性樹脂、前記モノマー混合物及び開始剤の全体含有量に対して、約15重量%以上60重量%以下の範囲で添加できる。アルカリ水溶性樹脂の添加量が15重量%よりも小さい場合、ラテックス粒子に十分な安定性が付与されず、エマルジョンのゲル(Gel)化が行われ得る。また、60重量%よりも大きい場合、エマルジョンを用いたコーティング膜の耐水性と耐アルコール性などの耐久性が低下することがある。
【0065】
次いで、アルカリ水溶性樹脂が添加されたアルカリ性水性媒質を加熱し、開始剤を添加することができる。アルカリ性水性媒質を加熱する段階は、乳化重合の反応温度に合わせて反応系の温度を再設定する段階であり得る。例えば、アルカリ性水性媒質は、約70℃以上90℃以下の温度に加熱できる。開始剤は、重合の安定性及び反応性などを考慮して、反応開始前に一度に添加されるか、或いは連続的又は半連続的に添加され得る。例えば、開始剤は、約60分以上180分以下の時間の間連続的に添加できる。乳化重合に使用される開始剤の例としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム又は過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩系開始剤を挙げることができる。
【0066】
開始剤を添加する段階が始まった後にモノマー混合物を添加する段階が行われ得る。本実施形態に係るモノマー混合物は、開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマー、開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマー、及び不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーを含む。
【0067】
例示的な実施形態において、開始剤を連続的に添加し始めてから約5分以上15分以下の時間が経過した後に、約60分以上180分以下の時間の間連続的にモノマー混合物が添加できる。開始剤が添加されて反応系が重合可能な状態に設定された後、モノマー混合物が添加されると、水性媒質に溶解されたアルカリ水溶性樹脂が形成したミセル内にモノマー混合物が囲まれた状態で乳化重合されることにより、ラテックス粒子のコア部分を形成することができる。
【0068】
前記第1モノマーは、開環重合(ring opening polymerization)が可能な環状反応基を有するモノマーであり得る。第1モノマーは、開環重合可能な反応基としてエポキシ基を有する化合物、例えば、グリシジルメタクリレート(glycidyl metharcrylate)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(3-glycidoxypropyl trimethoxysilane)及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン(2-(3,4-epoxycyclohexyl)ethyltriethoxysilane)のうちの少なくとも1種を含むことができる。
【0069】
前記第2モノマーは、多官能性架橋剤化合物であり得る。例えば、第2モノマーは、トリメチロールプロパントリメタクリレート(trimethylolpropane trimethacrylate)、トリエチレングリコールジメタクリレート(triethyleneglycol dimethacrylate)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(1,6-hexanediol diacrylate)及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(1,6-hexanediol dimethacrylate)のうちの少なくとも1種を含むことができる。
【0070】
前記第3モノマーは、不飽和エチレン系モノマーであって、(メタ)アクリル酸系モノマー、非酸性(non-acid)(メタ)アクリル系モノマー及びスチレン系モノマーのうちの少なくとも1種を含むことができる。
【0071】
例示的な実施形態において、前記モノマー混合物の全重量に対して、前記第1モノマーと前記第2モノマーの重量の和、すなわち、架橋性モノマーの重量は約3重量%以上5重量%以下であり得る。架橋性モノマーの重量が3重量%以上である場合には、コア部分の内部架橋構造を形成するのに十分であり、架橋性モノマーの重量が5重量%以下である場合には、重合安定性を確保することができる。
【0072】
また、前記第2モノマーの重量基準の含有量は、前記第1モノマーの重量基準の含有量よりも小さくてもよい。モノマー化合物が乳化重合される段階で、第1モノマーの少なくとも一部、又は第1モノマーの環状反応基(例えば、エポキシ基)のうちの少なくとも一部は、重合に参加しなくてもよい。これに対し、第2モノマーは、実質的にほとんどが重合に参加して重合が完了できる。本実施形態に係るエマルジョンの製造方法は、未反応状態を部分的に維持する第1モノマーの含有量を第2モノマーの含有量よりも大きくすることにより、ラテックス粒子のコア部分の架橋度を相対的に低く維持することができる。これにより、十分な重合安定性を確保することができ、エマルジョンに求められる他の物性を制御し易いという効果がある。
【0073】
たとえば、乳化重合する段階で反応に参加せずに未反応状態を維持する第1モノマーの環状反応基の数は、乳化重合する段階で重合に参加する第1モノマーの環状反応基の数よりも大きくてもよい。部分的に未反応状態を維持する第1モノマーは、ラテックス粒子のコア部分をなす高分子主鎖に結合された側鎖の形で残存することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0074】
コーティング膜の形成方法
【0075】
本実施形態に係るコーティング膜の形成方法は、コーティング組成物を準備する段階と、前記コーティング組成物を基材上に塗布する段階と、前記塗布されたコーティング組成物を乾燥させる段階とを含む。
【0076】
前記コーティング組成物は、本発明に係るエマルジョンを含むことができる。前記エマルジョンについては上述したことがあるので、具体的な説明は省略する。幾つかの実施形態において、前記コーティング組成物は、エマルジョンに加えて、造膜剤や分散剤などの添加剤及びその他の溶剤をさらに含むことができる。
【0077】
図1はコーティング組成物を基材上に塗布する段階を示す図である。図1を参照すると、基材200上にコーティング組成物100を塗布する。塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、コーティング工程を用いることができる。
【0078】
コーティング組成物100を塗布する段階で、コーティング組成物100は、ラテックス粒子10を含むことができる。ラテックス粒子10は、少なくとも部分的にコア-シェル構造を持つことができる。コア部分10aは、内部網目構造を持つポリマーマトリクスからなり得る。例えば、コア部分10aは、開環重合可能な反応基を有する架橋性モノマーである第1モノマー、開環重合可能な反応基を有しない多官能性架橋性モノマーである第2モノマー、及び不飽和エチレン系モノマーを含む非架橋性モノマーである第3モノマーを含むモノマー混合物に由来するポリマーマトリクスであり得る。ラテックス粒子10は、本発明の一実施形態に係るエマルジョンが含むラテックス粒子と実質的に同じものであり得る。
【0079】
図2はコーティング組成物を乾燥させる段階を示す図である。図2を参照すると、コーティング組成物を乾燥させてコーティング膜110を形成する。コーティング組成物を乾燥させる段階は、例えば、約20℃以上100℃以下の温度で行われ得る。
【0080】
コーティング組成物を乾燥させる段階で組成物内の溶剤が除去されてコーティング膜110を形成することができる。この場合、ラテックス粒子の前記シェル部分は、少なくとも部分的に崩壊してコーティング膜110と混合できる。一方、ラテックス粒子のコア部分11aは、さらに重合又は架橋が行われてコーティング膜110内に残存することができる。すなわち、乾燥させる段階後のコア部分11aの架橋度は、乾燥させる段階前のコア部分10aの架橋度よりも大きくてもよい。例えば、エマルジョン状態で未反応状態を維持する第1モノマー(すなわち、ラテックス粒子の主鎖に結合された側鎖)のうちの少なくとも一部が、乾燥段階でさらに重合又は架橋されるものであり得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0081】
前述したように、本発明に係るエマルジョンは、ラテックス粒子のコア部分の架橋度を相対的に低く維持することができるため、優れたフィルム性と柔軟性を与えることができ、コーティング膜の形成が容易である。さらに、前記エマルジョンを用いてコーティング膜を形成する場合に前記コア部分の架橋度が増加することができ、これによりコーティング膜の外観、光沢及び耐久性をより改善することができるという効果がある。
【0082】
以下、製造例、比較例及び実験例を参照して、本発明の例示的な実施形態に係るエマルジョン、エマルジョンの製造方法及びコーティング膜の形成方法についてより詳細に説明する。
【0083】
製造例
【0084】
<製造例1>
5LのSUS反応器でスチレン/アクリル系アルカリ水溶性樹脂411gを水1320gに入れて撹拌しながら、アンモニア水溶液50gを投入して前記アルカリ水溶性樹脂を溶解させた後、76℃に昇温させながら過硫酸アンモニウム4.2gを120分間連続投入した。そして、スチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、グリシジルメタクリレート20.4g、ヘキサンジオールジアクリレート4.2gを含むモノマー混合物817.2gを180分間連続的に投入してエマルジョンを製造した。
【0085】
<製造例2>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン20.4g、ヘキサンジオールジアクリレート4.2gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0086】
<製造例3>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン20.4g、ヘキサンジオールジアクリレート4.2gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0087】
<製造例4>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、グリシジルメタクリレート20.4g、トリメチロールプロパントリメタクリレート4.2gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0088】
<製造例5>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、グリシジルメタクリレート20.4g、トリエチレングリコールジメタクリレート4.2gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0089】
<製造例6>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、グリシジルメタクリレート20.4g、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート4.2gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0090】
<比較例1>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、グリシジルメタクリレート24.6gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0091】
<比較例2>
モノマー混合物としてスチレン374.7g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート273.3g、グリシジルメタクリレート41.1gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0092】
<比較例3>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、ヘキサンジオールジアクリレート24.6gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0093】
<比較例4>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン24.6gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0094】
<比較例5>
モノマー混合物としてスチレン382.8g、メチルメタクリレート128.1g、エチルヘキシルアクリレート281.7g、トリメチロールプロパントリメタクリレート24.6gを含むモノマー混合物817.2gを使用した以外は、製造例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
【0095】
実験例
【0096】
<実験例1:グリット含有量の測定>
前記製造例及び比較例に係るエマルジョンを300メッシュ(mesh)の篩(sieve)にかけた後、篩上物である粒子の重量を測定し、その結果を表1に示した。
【0097】
<実験例2:粒度測定>
粒度分析器(モデル名:MicrotracTM 150)を用いて、前記製造例及び比較例に係るエマルジョンに含まれているラテックス粒子の平均粒度及び粒度分布を測定し、その結果を表1に示した。
【0098】
<実験例3:最小造膜剤量の測定>
前記製造例及び比較例に係るエマルジョン100gに造膜剤(DPM/DPnB=1/1)を混合してオパシティーチャートにコーティング(湿度膜の厚さ50μm)した後、25℃の温度で乾燥させる条件で塗膜が壊れずに形成される最小造膜剤の含有量を測定し、その結果を表2に示した。実験例3で最小造膜剤の含有量が少ないほど、フィルム性に優れることを意味する。
【0099】
<実験例4:硬度の測定>
前記製造例及び比較例に係るエマルジョンをガラス板基材にコーティング(湿度膜の厚さ100μm)した後、50℃の温度で24時間乾燥させた。そして、ペンデュラム硬度計(モデル名:SP-SP0500)と鉛筆硬度計(モデル名:KP-M5000M)を用いて硬度を測定し、その結果を表2に示した。実験例4で、ペンデュラム硬度はCountが多いほど優れる硬度を示し、鉛筆硬度は1H>HB>1B>2Bの順に優れる硬度を示すことを意味する。
【0100】
<実験例5:耐水性の測定>
前記製造例及び比較例に係るエマルジョン100gに、実験例3によって得られた結果である最小含有量の造膜剤(DPM/DPnB=1/1)を混合し、オパシティーチャートにコーティング(湿度膜の厚さ50μm)した後、100℃の温度で1分間乾燥させた。そして、乾燥したコーティング膜に水入りの30mlのバイアル瓶をひっくり返しのせて水とコーティング膜を接触させた状態で24時間を維持した。その後、水を除去し、コーティング膜の白濁発生有無を確認し、その結果を表2に示した。実験例5で白濁がないほど耐水性に優れることを意味する。
【0101】
<実験例6:耐アルコール性の測定>
前記製造例及び比較例に係るエマルジョン100gに、実験例3によって得られた結果である最小含有量の造膜剤(DPM/DPnB=1/1)を混合し、オパシティーチャートにコーティング(湿度膜の厚さ50μm)した後、100℃の温度で1分間乾燥させた。そして、乾燥したコーティング膜に50%エタノール溶液(水:エタノール=1:1)入りの30mlのバイアル瓶をひっくり返しのせてエタノール溶液とコーティング膜を接触させた状態で1時間を維持した。その後、エタノール溶液を除去し、コーティング膜の白濁発生有無を確認し、その結果を表2及び図3に示した。実験例6で白濁がないほど耐アルコール性に優れることを意味する。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
前記表1を参照すると、製造例に係るエマルジョンは、単峰型(unimodal)の粒度分布を有し且つナノメートルレベルの平均粒度を有するラテックス粒子を含むことを確認することができる。また、乳化重合が行われるにつれてグリットの含有量及び粘度が優れることを確認することができる。これに対し、比較例1及び比較例2に係るエマルジョンは、相対的に粘度が非常に高いことを確認することができる。また、比較例2乃至5に係るエマルジョンは、グリットの含有量が増加するなど、重合安定性が良くないことを確認することができる。
【0105】
前記表2を参照すると、製造例に係るエマルジョンは、最小造膜剤量が相対的に低くてコーティング性に優れることを確認することができる。一方、比較例に係るエマルジョンは、最小造膜剤量が相対的に大きいことを確認することができる。
【0106】
また、表2及び図3を参照すると、製造例に係るエマルジョンを用いたコーティング膜は、硬度に優れるうえ、耐水性と耐アルコール性を持つため優れた耐久性を有することを確認することができる。すなわち、製造例に係るエマルジョンは、優れた重合安定性を有するだけでなく、従来のトレードオフの関係において両立することができなかったフィルム性と耐久性の両方を確保することができることを確認することができる。これに対し、比較例に係るエマルジョンを用いたコーティング膜は、硬度及び耐アルコール性が低いことを確認することができる。
【0107】
以上で、本発明の実施形態を中心に説明したが、これは例示に過ぎず、本発明を限定するものではなく、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の実施形態の本質的な特性から外れない範囲で、以上に例示されていない様々な変形と応用が可能であることが分かるだろう。例えば、本発明の実施形態に具体的に示された各構成要素は、変形して実施することができる。それらの変形及び応用に関わる相違点は、添付された特許請求の範囲で規定する本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3