(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】既設管更生用帯状部材及び既設管更生方法
(51)【国際特許分類】
B29C 63/32 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
B29C63/32
(21)【出願番号】P 2020023143
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 聡俊
(72)【発明者】
【氏名】北山 康
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 武司
(72)【発明者】
【氏名】津田 順
(72)【発明者】
【氏名】近藤 陸太
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-144484(JP,A)
【文献】特開2005-342915(JP,A)
【文献】特開2018-144487(JP,A)
【文献】特開平11-235757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00-63/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内直径が400mmφより大きな既設管の内周に沿って螺旋状に巻回されて、帯幅方向の両側の互いに一周ずれて隣接する縁部分どうしが接合されることによって、螺旋管状の更生管となる既設管更生用帯状部材であって、
合成樹脂からなる可撓性の本体帯材と、
前記本体帯材に沿って延びる弾性補強材と
を備え、前記弾性補強材が、前記更生管が前記既設管より小径に作製されたときの製管時曲率まで弾性を保持可能かつ
当該弾性補強材が外直径400mmφまで曲げられた状態で弾性を保持するバネ鋼材によって構成されていることを特徴とする既設管更生用帯状部材。
【請求項2】
前記弾性補強材が、前記状態から外直径450mmφ以上になるまで弾性的に伸び変形可能なバネ鋼材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の既設管更生用帯状部材。
【請求項3】
内直径が400mmφより大きな既設管を螺旋管状の更生管によって更生する方法であって、
合成樹脂からなる可撓性の本体帯材と、前記本体帯材に沿って延び
るバネ鋼材からなる弾性補強材とを含む帯状部材を用意し、
前記弾性補強材が外直径400mmφまで曲げられた状態で当該弾性補強材を構成するバネ鋼材が弾性を保持し、かつ前記弾性補強材が前記状態から外直径450mmφ以上になるまで当該弾性補強材を構成するバネ鋼材が弾性的に伸び変形可能であり、
前記弾性補強材の弾性が保持されるように前記帯状部材を螺旋状に巻回して、前記帯状部材の帯幅方向の両側の互いに一周ずれて隣接する縁部分どうしを接合することによって、前記更生管を作製して前記既設管の内周にライニングし、
前記ライニング後の更生管における前記弾性補強材が弾性的に伸び変形可能であることを特徴とする既設管更生方法。
【請求項4】
内直径が400mmφより大きな既設管を螺旋管状の更生管によって更生する方法であって、
合成樹脂からなる可撓性の本体帯材と、前記本体帯材に沿って延び
るバネ鋼材からなる弾性補強材とを含む帯状部材を用意し、
前記弾性補強材が外直径400mmφまで曲げられた状態で当該弾性補強材を構成するバネ鋼材が弾性を保持し、
前記弾性補強材の弾性が保持されるように前記帯状部材を螺旋状に巻回して、前記帯状部材の帯幅方向の両側の互いに一周ずれて隣接する縁部分どうしを接合することによって、前記更生管を前記既設管より小径になるよう作製して前記既設管の内部に配置し、
次に、前記更生管における帯状部材の前記縁部分どうしを巻き方向に沿って巻長が拡張される向きへ相対摺動させることによって、前記更生管を拡径させて前記既設管の内周面の全周に密着させ、前記密着後の更生管における前記弾性補強材が弾性的に伸び変形可能であることを特徴とする既設管更生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管更生用の帯状部材及び既設管を更生する方法及びに関し、特に螺旋管状の更生管となる帯状部材及び該帯状部材を用いた既設管更生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化した下水道管等の既設管内に更生管を構築して前記既設管を更生する方法は公知である。更生管としては、帯状部材を螺旋状に巻回して隣接する縁部分どうしを凹凸嵌合にて接合した螺旋管状の更生管が知られている(特許文献1~3等参照)。
特許文献1~3の帯状部材においては、合成樹脂からなる本体帯材に金属の帯板からなる補強材が固定されている。特許文献3の帯状部材においては、既設管の内周に沿って螺旋状に巻回されたとき、補強材が塑性変形される。
【0003】
特許文献4には、既設管より小径の螺旋管状の更生管を製管して既設管内に設置した後、拡張機を用いて、該更生管を構成する帯状部材の隣接する縁部分どうしを巻き方向へ相対摺動させることによって、更生管を拡径(拡張)させるエキスパンダー(拡張)製管方法が記載されている。拡径された更生管が既設管の全周にわたって密着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平1-500502号公報
【文献】特開平05-345354号公報
【文献】特許第3657029号公報
【文献】特許第2529320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
帯状部材に補強材を付加することによって、帯状部材ひいては更生管の所要強度を確保できる。一方、補強材付きの帯状部材によって更生管を製管する場合、帯状部材を螺旋状に巻回したときに補強材が塑性変形する可能性がある。そうすると、例えばエキスパンダー製管においては、その後の拡径(拡張)操作に支障を来たすおそれがある。
本発明は、かかる事情に鑑み、所要強度を確保でき、かつエキスパンダー製管にも適した帯状部材及び既設管更生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、既設管の内周に沿って螺旋状に巻回されて、帯幅方向の両側の互いに一周ずれて隣接する縁部分どうしが接合されることによって、螺旋管状の更生管となる既設管更生用帯状部材であって、
合成樹脂からなる可撓性の本体帯材と、
前記本体帯材に沿って延びる弾性補強材と
を備え、前記弾性補強材が、前記更生管が前記既設管より小径に作製されたときの製管時曲率まで弾性を保持可能なバネ鋼材によって構成されていることを特徴とする。
【0007】
当該帯状部材によれば、弾性補強材によって所要強度を確保できる。該帯状部材からなる更生管の所要強度をも高めることができる。弾性補強材としてばね鋼材を用いることによって、巻回時に塑性変形を来たすのを防止できる。このため、例えばエキスパンダー製管における拡径(拡張)操作を円滑に行うことができる。
「弾性を保持可能」とは、弾性補強材が、製管時曲率まで曲げられたとき完全な塑性変形を来たさないことを言い、曲げの外力が除去されると該外力の付与前の原状態まで弾性復帰し得ることに限らず、原状態の近く又はその途中まで弾性的に戻り得ることを含み、少し永久ひずみが生じてもよい。少なくとも製管後の最終曲率(後記拡径後の曲率など)までは弾性的に戻り得ることが好ましい。
前記原状態は、真っ直ぐな状態(曲率≒0)に限らず、帯状部材が例えば巻取りドラムに巻かれていたために巻き癖が付与された状態(曲率>0)でもよい。
【0008】
好ましくは、前記弾性補強材が、前記作製後の更生管が前記既設管の内周面の全周に密着されるまで拡径された状態において弾性的に伸び変形可能なバネ鋼材によって構成されている。つまり、前記拡径後の弾性補強材が外力から解放されたとすると、弾性によって更に伸び変形され得ることが好ましい。これによって、更生管が既設管の内周面に弾性的に張り付くようにできる。
【0009】
本発明方法は、既設管を螺旋管状の更生管によって更生する方法であって、
合成樹脂からなる可撓性の本体帯材と、前記本体帯材に沿って延びるバネ鋼材からなる弾性補強材とを含む帯状部材を用意し、
前記弾性補強材の弾性が保持されるように前記帯状部材を螺旋状に巻回して、前記帯状部材の帯幅方向の両側の互いに一周ずれて隣接する縁部分どうしを接合することによって、前記更生管を作製して前記既設管の内周にライニングし、
前記ライニング後の更生管における前記弾性補強材が弾性的に伸び変形可能であることを第1の特徴とする。
前記帯状部材の巻回曲率(製管径)に応じて、該巻回曲率まで曲げても弾性が保持されるような弾性補強材を用いることが好ましい。
当該更生方法によれば、ライニングされた更生管における弾性補強材が弾性によって伸びようとする。これによって、更生管を既設管の内周面に張り付かせることができる。しかも、弾性補強材によって更生管の所要強度を確保できる。
【0010】
また、本発明方法は、既設管を螺旋管状の更生管によって更生する方法であって、
合成樹脂からなる可撓性の本体帯材と、前記本体帯材に沿って延びるバネ鋼材からなる弾性補強材とを含む帯状部材を用意し、
前記弾性補強材の弾性が保持されるように前記帯状部材を螺旋状に巻回して、前記帯状部材の帯幅方向の両側の互いに一周ずれて隣接する縁部分どうしを接合することによって、前記更生管を前記既設管より小径になるよう作製して前記既設管の内部に配置し、
次に、前記更生管における帯状部材の前記縁部分どうしを巻き方向に沿って巻長が拡張される向きへ相対摺動させることによって、前記更生管を拡径させて前記既設管の内周面の全周に密着させ、前記密着後の更生管における前記弾性補強材が弾性的に伸び変形可能であることを第2の特徴とする。
当該更生方法によれば、更生管を既設管より小径に作製する製管工程時に、弾性補強材が塑性変形を来たすのを防止又は抑制できる。したがって、その後の更生管の拡張(拡径)工程において、前記縁部分どうしを支障無く相対摺動させることができる。これによって、エキスパンダー製管を円滑に施工できる。
【0011】
前記製管工程においては、前記縁部分どうしを巻き方向へ相対摺動不能な強拘束状態にしておき、前記拡張工程に際して、前記縁部分どうしを巻き方向へ相対摺動可能な弱拘束状態にすることが好ましい。
前記拡張工程においては、前記帯状部材における前記更生管に続く帯部分を前記更生管へ送り込むことによって、前記弱拘束状態になった前記縁部分どうしを巻長が拡張される向きへ相対摺動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、帯状部材及び更生管の所要強度を確保できる。かつエキスパンダー製管を行う場合、更生管を支障無く拡径(拡張)させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態を示し、更生管によって更生された既設管の断面図である。
【
図2】
図2(a)は、前記更生管を構成する帯状部材の一例を示し、
図4のIIa-IIa線に沿う断面図である。
図2(b)は、前記更生管における螺旋状の帯状部材の隣接する縁部分どうしの嵌合構造を強拘束状態で示す、
図4の円部IIbの拡大断面図である。
図2(c)は、前記嵌合構造を弱拘束状態で示す、
図5の円部IIcの拡大断面図である。
【
図3】
図3は、前記帯状部材の弾性補強材を、製管時の状態を実線で示し、拡径工程後の状態を二点鎖線にて示し、外力から解放された状態を三点鎖線で示す斜視図である。
【
図4】
図4は、更生施工中の既設管を、更生管の製管工程の終了時の状態で示す断面図である。
【
図5】
図5は、既設管の更生施工における拘束弱化工程及び拡径工程を示す断面図である。
【
図6】
図6は、既設管の更生施工における削孔工程を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第3実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第4実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【
図10】
図10は、前記第4実施形態に係る帯状部材のリブの先端部分の拡大断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第5実施形態を示し、帯状部材のリブの先端部分の拡大断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第6実施形態を示し、帯状部材のリブの先端部分の拡大断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の第7実施形態を示し、帯状部材のリブの先端部分の拡大断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第8実施形態を示し、帯状部材のリブの先端部分の拡大断面図である。
【
図15】
図15は、本発明の第9実施形態を示し、帯状部材のリブの先端部分の拡大断面図である。
【
図16】
図16は、本発明の第10実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【
図17】
図17は、本発明の第11実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【
図18】
図18は、本発明の第12実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【
図19】
図19は、本発明の第13実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【
図20】
図20は、本発明の第14実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【
図21】
図21(a)~同図(c)は、本発明のその他の実施形態に係る帯状部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態>
図1に示すように、更生対象の既設管1は、例えば地中に埋設された下水道管であるが、本発明は、これに限定されず、上水道管、農業用水管、ガス管、水力発電導水管その他の埋設管のほか、トンネルなどが挙げられる。老朽化した既設管1の内周に更生管3がライニングされることによって、既設管1が更生される。
【0015】
更生管3は、既設管更生用帯状部材10(プロファイル)を螺旋状に巻回して作製された螺旋管である。
図4に示すように、製管時の更生管3の外径は、既設管1の内径より小径である。その後の拡径(拡張)操作(
図5)によって、更生施工完了後の更生管3は、既設管1の内周の全周に密着されている(
図1)。
【0016】
図1に示すように、下水道管からなる既設管1の中間部には取付管2(枝管)が接続されている。更生管3には、取付管2に連なる連通口3hが形成されている。
【0017】
図2(a)に示すように、帯状部材10は、本体帯材11と、弾性補強材20を含み、一定の断面形状を有して、同図の紙面と直交する帯長方向へ延びている。
本体帯材11は、ポリ塩化ビニル(PVC)などの合成樹脂によって構成され、可撓性を有している。本体帯材11は、平帯部12と、該平帯部12の帯幅方向の両側の凹凸状の嵌合部13,14と、帯幅方向の中間の複数条のリブ15を一体に含む。嵌合部13,14及びリブ15は、平帯部12から外周側(更生管3となったとき外周を向く側、
図2において上側)へ突出されている。
【0018】
図2(a)に示すように、本体帯材11の帯幅方向の一方側の縁部分10aには、第1の嵌合部13が設けられている。第1嵌合部13は、例えば2条(複数条)の嵌合凹部13a,13bを含む。本体帯材11の帯幅方向の他方側の縁部分10bには、第2の嵌合部14が設けられている。第2嵌合部14は、例えば2条(複数条)の嵌合凸部14a,14bを含む。
なお、本体帯材11の断面形状は適宜改変できる。
【0019】
図2(b)に示すように、更生管3においては、帯状部材10が螺旋状に巻回されて、互いに一周ずれて隣接する縁部分10a,10bどうしが、嵌合部13,14の凹凸嵌合によって接合されている。嵌合凹部13aに嵌合凸部14aが嵌り、嵌合凹部13bに嵌合凸部14bが嵌っている。好ましくは、嵌合凹部13a内には接着剤51が設けられ、嵌合凹部13b内にはシール剤52が設けられている。更に好ましくは、シール剤52は潤滑性を有している。
図2(c)に示すように、設置済みの更生管3においては、一部の嵌合凸部14aが根元部分から切断されている。
【0020】
図2(a)に示すように、本体帯材11には弾性補強材20が固定されている。弾性補強材20は、本体帯材11の全幅にわたる幅を有する平らな帯板状に形成され、本体帯材11に沿って帯長方向(同図の紙面直交方向)へ延びている。弾性補強材20の幅方向は、本体帯材11の幅方向に沿っている。該弾性補強材20が、平帯部12の内部に埋設されている。帯状部材10は、インサート押出成形によって形成される。
【0021】
帯状部材10における、帯長方向と直交する断面の中立弱軸L10(断面二次モーメントが最小となる軸)は、リブ15と交差され、かつ第1嵌合部13へ向かって外周側(更生管3に製管されたとき外周を向く側)へ傾いている。平帯部12内の弾性補強材20は、中立弱軸L10から外れて配置されている。
【0022】
弾性補強材20は、バネ鋼材によって構成されている。
バネ鋼材は、熱処理によってばね性を付与された鋼材でもよく、冷間圧延加工等によってばね性能を高められた鋼材でもよい。
バネ鋼材の弾性領域の最大ひずみは、一般鋼材の弾性領域の最大ひずみ(0.0010)より大きく、好ましくは0.0020以上、より好ましくは0.0100以上である。
【0023】
図1及び
図3に示すように、更生管3における弾性補強材20は、既設管1の内周に沿うように螺旋状に巻かれている。弾性補強材20の帯長方向及び帯幅方向が更生管3の管径方向に対して交差している。
図3の実線は、弾性補強材20が後記製管工程(
図4)における製管時曲率まで巻回された状態28を示す。弾性補強材20を構成するバネ鋼材は、少なくとも製管時曲率まで弾性を保持可能である。すなわち、製管時曲率まで曲げられた弾性補強材20が曲げの外力から解放されると、弾性によって伸び変形される。
好ましくは、
図3の矢印aに示すように、弾性補強材20は、曲げ操作前の原状態27まで弾性復帰する。
図3の三点鎖線にて示すように、原状態の弾性補強材20(27)は、ほぼ真っ直ぐな状態(曲率≒0)に限らず、帯状部材10が巻取ドラム6(
図4)に巻かれる等していた場合には、ドラム径等に対応する巻き癖が付いた状態であってもよい。
【0024】
弾性補強材20は、製管時曲率まで曲げられることで永久ひずみが生じてもよい。その場合でも、
図3の矢印bに示すように、弾性補強材20は、製管時曲率から少なくとも後記拡張工程による拡張後曲率の状態29(
図3において二点鎖線)までは弾性的に戻り得ることが好ましい。
より好ましくは、弾性補強材20は、製管時曲率から拡張後曲率にされた状態において弾性的に伸び変形可能である。すなわち、拡張後曲率の弾性補強材20(29)が外力から解放されると、弾性によって更に伸び変形されることが好ましい。
【0025】
更生管3は、次のようなエキスパンダー製管方法によって作製される。
<製管工程>
図4に示すように、帯状部材20及び元押し式の製管機5を用意する。帯状部材20は、巻取りドラム6に巻かれて巻き癖が付いている。該巻取りドラム6を発進人孔4の近くの地上に設置する。発進人孔4の底部には、製管機5を設置する。
【0026】
巻取りドラム6から帯状部材10を順次繰り出して製管機5に供給する。製管機5に達する前の帯状部材10(19)における弾性補強材20は、原状態27(
図3の三点鎖線)になっている。
製管機5によって、帯状部材10を既設管1の内径より小径になるように螺旋状に巻回する。このとき、弾性補強材20が製管時曲率まで螺旋状に曲げられる(
図3の実線)。製管時曲率の弾性補強材20(28)は、塑性変形されることなく、弾性を保持する。
かつ前記製管機5によって、巻回した帯状部材10の互いに一周ずれて隣接する縁部分10a,10bどうしを嵌合部13,14の凹凸嵌合にて接合する。2条(複数条)の嵌合凹部13a,13b及び嵌合凸部14a,14bによる凹凸嵌合であるために、前記隣接する縁部分10a,10bどうしが、巻き方向へほぼ相対摺動不能な強拘束状態になる。
これによって、既設管1の内径より小径の螺旋管状の更生管3が作製される。
【0027】
図4に示すように、更生管3の製管と同時に、ワイヤ41(条体)を繰出リール42から繰り出して製管機5に導入する。製管機5において、ワイヤ41を嵌合凸部14a,13bの間に挿し入れて、縁部分10a,10bどうしの間に挟む。
なお、ワイヤ41の先端側の引き取り部分41bは、予め、元押し製管前の巻き出し段階の更生管3の先端3fから引き出して折り返させ、更生管3の内部空間に通して、発進側人孔4内の巻取リール43に巻き付けておく。先端3fには、ワイヤ41の折り返し部41cが設けられる。
【0028】
このようにして作製した更生管3を、順次、発進側の管口1eから既設管1の内部へ押し出す。更生管3が既設管1の内径より小径であるために、押し込み中の更生管3と既設管1との間の摩擦が低減される。
更生管3の先端3fを牽引してもよい。
【0029】
図4に示すように、更生管3の先端3fが既設管1の到達側の管口1fに達するまで、前記製管を行なう。これにより、既設管1の全域に更生管3が配置される。好ましくは、更生管3の先端3fを治具(図示せず)等によって管口1fに対して回り止めする。
更生管3における発進側の管端は、人孔4内の製管機5と係合されている。
製管工程終了時における弾性補強材20は、弾性を保持している。
【0030】
ワイヤ41は、更生管3の全域にわたって帯状部材10に沿って螺旋状に巻かれた状態で更生管3に埋め込まれる。ワイヤ41の引き取り部分41bは、先端3fと巻取リール43とを結ぶように、更生管3の内部空間の全域に通される。
【0031】
<拘束弱化工程>
その後、
図5に示すように、巻取リール43によって引き取り部分41bを巻き取りながら管軸方向に引っ張る。これによって、ワイヤ41の前記埋め込まれていた部分41aが更生管3から順次引き抜かれ、ワイヤ41の折り返し部41cが、到達側から発進側(
図5において右側から左側)へ向けて螺旋状の巻き方向に沿って移行される。このとき、
図2(c)に示すように、嵌合部13の一部の嵌合凸部14aの根元部分が、前記ワイヤ41の折り返し部41cによって切断される。これによって、更生管3の先端3fから発進側へ向けて順次、縁部分10a,10bどうしの拘束力が弱められて、これら縁部分10a,10bどうしが巻き方向へ相対摺動可能な弱拘束状態になる。
【0032】
<拡張工程>
前記ワイヤ41の巻取りによる拘束弱化工程と併行して、前記製管機5(拡張製管機)によって、帯状部材10における、更生管3に続く帯部分19を更生管3へ送り込んで更生管3に組み込む。これによって、更生管3における強拘束状態のままの管部3aが捩じられる。すなわち、管部3aの全体が一体的に回転されながら到達側(
図5において右側)へ押し込まれる。更生管3における弱拘束状態となった管部においては、縁部分10a,10bどうしが、巻き方向に沿って巻長が拡張される向きへ相対摺動される。これによって、管部3aから到達側(
図5において右側)へ向かって拡径するコーン状管部3cが形成される。
【0033】
コーン状管部3cにおける弾性補強材20は、製管時曲率の状態27から拡張後曲率の状態29へ拡径変形される。該弾性補強材20を構成するバネ鋼材は、拡径変形中、弾性を保持する。したがって、縁部分10a,10bどうしを、支障無く、相対摺動させることができる。しかも、弾性補強材20の弾性力が拡径(拡張)方向へ作用するため、拡張操作を容易化できる。
【0034】
コーン状管部3cよりも到達側(
図5において右側)には、拡径(拡張)済のストレート状の管部3bが形成される。ストレート状管部3bは、既設管1の内周面の全周にわたって密着される。ストレート状管部3bにおける弾性補強材20は、拡張後曲率の状態29になっている。
図1に示すように、発進側の端部3eまで拘束弱化工程及び拡張工程を行なうことによって、更生管3の全域が、拡径(拡張)された管部3bとなって、既設管1の内周面の全周に密着される。これによって、既設管1の内周に更生管3がライニングされる。
【0035】
ライニング後の更生管3における弾性補強材20は、拡張後曲率の状態29になっており、弾性を保持している。該弾性補強材20(29)が弾性によって伸びようとすることで、更生管3に更に拡径(拡張)させる力が働く。これによって、更生管3が既設管1の内周面に張り付くように密着させることができる。
このようにして、更生管3を円滑にエキスパンド製管できる。
【0036】
例えば、弾性補強材20を構成するバネ鋼材としてSUS301Hを用いた場合、その引張弾性率Eは193000MPa、弾性領域の最大引張応力σは1200MPa、弾性領域の最大ひずみは0.0100である。製管時における弾性補強材20の外直径が400mmφとすると、弾性補強材20の最外層にかかるひずみは0.0070である。また、拡径(拡張)後の弾性補強材20の外直径が450mmφとすると、弾性補強材20の最外層にかかるひずみは0.0060である。したがって、弾性補強材20は、製管工程~拡張工程を通じて弾性を保持し、円滑にエキスパンド製管できる。
ちなみに、一般鋼材の場合、その引張弾性率Eは197000MPa、弾性領域の最大引張応力σは200MPa、弾性領域の最大ひずみは0.0010である。このため、製管時に400mmφまで曲げると塑性変形を来たす。
【0037】
更に、弾性補強材20は、帯状部材10の断面の中立弱軸L10(断面二次モーメントが最小となる軸)から外れて配置されているために、製管によって帯状部材10内における大きなひずみが生じる箇所の剛性が高まり、更生管3の撓みを抑制できる。
しかも、弾性補強材20によって更生管3の所要強度を確保できる。
【0038】
図6に示すように、ライニング後の更生管3に取付管2との連通口3hを削孔する。更生管3における弾性補強材20は、管径方向の肉厚が薄いから、削孔の障害となるのを抑制又は回避できる。したがって、削孔機7の刃7bの消耗を抑えることができ、刃7bの取り換え回数を減らすことができる。
【0039】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
<第2実施形態(
図7)>
弾性補強材20は、平帯部12と平行である必要はない。
図7に示すように、第2実施形態の帯状部材10Bにおいては、弾性補強材20の帯幅方向が、平帯部12の幅方向に対して少し(例えば±10°程度以内)傾けられている。
【0041】
<第3実施形態(
図8)>
弾性補強材20は、本体帯材11の内部に埋め込まれている必要はない。
図8に示すように、第3実施形態の帯状部材10Cにおいては、平帯部12の内周側面(更生管3における内周面となる面、同図において下面)に弾性補強材20が設けられている。
弾性補強材20と本体帯材11との固定手段としては、接着、溶着等が挙げられる。
第13実施形態においては、弾性補強材20を中立弱軸L
10から確実に離して配置できる。
【0042】
<第4実施形態(
図9~
図10)>
弾性補強材は、平帯部12に設けられている必要はない。
図9及び
図10に示すように、第4実施形態の帯状部材10Dにおいては、T字断面をなす各リブ15のフランジ15fの先端面(
図9において上面)にバネ鋼材からなる弾性補強材21が固定されている。弾性補強材21は、細幅の帯板状に形成され、フランジ15fの長さ方向(
図9の紙面直交方向)の全長にわたって延びている。弾性補強材21の幅方向は、フランジ15fの幅方向ひいては帯状部材10Dの幅方向へ向けられている。弾性補強材21の幅寸法は、帯状部材10Dの幅寸法より十分小さく、更にフランジ15fの幅寸法より少し小さい。
弾性補強材21とフランジ15fとの固定手段は、接着剤でもよく溶着でもよい。
フランジ15fは、帯状部材10Dの中立弱軸L
10から外れている。したがって、弾性補強材21は、中立弱軸L
10から外れて配置されている。
【0043】
<第5実施形態(
図11)>
弾性補強材21とフランジ15fとの固定手段は、接着又は溶着だけに限らない。
図11に示すように、第5実施形態の帯状部材10Eにおいては、リブ15のフランジ15fの内部に弾性補強材21が埋め込まれている。帯状部材10Eは、インサート押出成形によって製造される。
【0044】
<第6実施形態(
図12)>
図12に示すように、第6実施形態の帯状部材10Fにおいては、弾性補強材21に樹脂カバー60が被さっている。弾性補強材21が樹脂カバー60とフランジ15fに挟まれている。樹脂カバー60の両側部には一対の凸部62が形成されている。各凸部62が、フランジ15fの凹部15bに嵌め込まれている。一対の凸部62の間に弾性補強材21が配置されている。弾性補強材21は、樹脂カバー60及びフランジ15fにそれぞれ接着又は溶着されている。
【0045】
<第7実施形態(
図13)>
図13に示すように、第7実施形態の帯状部材10Gにおいては、フランジ15fの先端面に幅広の溝部15dが形成されている。溝部15dに弾性補強材21が嵌め込まれている。好ましくは、弾性補強材21とフランジ15fとが接着又は融着されている。
【0046】
<第8実施形態(
図14)>
図14に示すように、第8実施形態の帯状部材10Hにおいては、前記帯状部材10Gと同様に、フランジ15fの溝部15dに弾性補強材21が嵌め込まれている。さらに、弾性補強材21の外面上に樹脂カバー60が被せられている。樹脂カバー60は、弾性補強材21よりも幅広である。樹脂カバー60の幅方向の両端部が、弾性補強材21よりも延び出て、フランジ15fの両側部に被せられている。樹脂カバー60と弾性補強材21とフランジ15fとが互いに接着又は融着によって接合されている。
【0047】
<第9実施形態(
図15)>
図15に示すように、第9実施形態の帯状部材10Iにおいては、フランジ15fの溝部15dの幅方向の両側に一対の凹部15bが形成されている。溝部15dに弾性補強材21が嵌め込まれ、該弾性補強材21の外面上に樹脂カバー60が被せられている。樹脂カバー60の両側部には一対の凸部62が形成されており、各凸部62が、対応する凹部15bに嵌め込まれている。好ましくは、樹脂カバー60と弾性補強材21とフランジ15fとが互いに接着又は融着によって接合されている。
【0048】
<第10実施形態(
図16)>
弾性補強材の配置は、既述形態に限られない。
図16に示すように、第10実施形態の帯状部材10Jにおいては、各T字リブ15のウエブ15wの両側面にバネ鋼材からなる弾性補強材22が設けられている。弾性補強材22は、細長い帯状に形成されている。該弾性補強材22が、帯幅方向をリブ15の高さ方向(
図16において上下方向)へ向けて、帯状部材10の長さ方向(
図16の紙面直交方向)の全長にわたって延びている。弾性補強材22は、接着又は溶着によってリブ15に固定されている。
【0049】
弾性補強材22は、中立弱軸L
10上又はその近くに配置されている。好ましくは、弾性補強材22の帯幅方向(
図16において上下方向)の中間部を中立弱軸L
10が横切っている。嵌合凹部13a,13bを有する嵌合部13により近い弾性補強材22であるほど、よりリブ15の先端側(更生管の外周側、
図16において上側)に配置されている。
詳しくは、嵌合部13により近い側(
図16において、より右側)の弾性補強材22のリブ先端側端部22eは、遠い側(
図16において、より左側)の弾性補強材22のリブ先端側端部22eよりもリブ先端側(更生管の外周側、
図16において上側)に突出されている。
【0050】
さらに、嵌合部13により近い側の弾性補強材22の断面重心G
20が、遠い側の弾性補強材22の断面重心G
20よりもリブ先端側(
図16において上側)に配置されている。
ここで、断面重心とは、弾性補強材22の長さ方向と直交する断面形状における重心を言う。
帯状部材10Jによれば、弾性補強材22を中立弱軸L
10上又はその近くに配置することで、弾性補強材22のひずみが低減される。
【0051】
<第11実施形態(
図17)>
図17に示すように、第11実施形態の帯状部材10Kにおいては、複数の弾性補強材22どうしの幅寸法(
図17において上下方向の寸法)が、互いに異なり、かつ、これら弾性補強材22のリブ先端側の端部22eの高さが、不規則に配置されている。
嵌合部13に相対的に近い側のリブ15における弾性補強材22の断面重心G
20が、遠い側の断面重心G
20よりもリブ先端側(
図17において上側)に配置されている点は、帯状部材10Jと同様である。
【0052】
<第12実施形態(
図18)>
図18に示すように、第12実施形態の帯状部材10Lにおいては、弾性補強材22が、T字リブ15のウエブ15wの内部に埋設されている。帯状部材10Lは、インサート押出成形によって形成される。
嵌合部13に相対的に近い側のリブ15の弾性補強材22が、遠い側よりもリブ先端側(
図18において上側)に配置され、各弾性補強材22が中立弱軸L
10上又はその近くに配置されている点は、帯状部材10Jと同様である。
【0053】
<第13実施形態(
図19)>
図19に示すように、第13実施形態の帯状部材10Mにおいては、各リブ15に弾性補強材22が埋設されるとともに、これら弾性補強材22どうしの幅寸法(
図19において上下方向の寸法)が、互いに異なり、かつリブ先端側の端部22eの高さが、不規則に配置されている。
嵌合部13に相対的に近い側のリブ15における弾性補強材22の断面重心G
20が、遠い側の断面重心G
20よりもリブ先端側(
図17において上側)に配置されている点は、帯状部材10Jと同様である。
【0054】
<第14実施形態(
図20)>
弾性補強材の形状は、帯状に限られない。
図20に示すように、第13実施形態の帯状部材10Nにおいては、弾性補強材23が円形断面の棒状(線状)に形成されている。弾性補強材23は、帯状部材10Nの帯長方向に沿って延びている。複数の弾性補強材23が、帯状部材10Nの幅方向(
図20の左右方向)に離れて並行に配置されている。
各弾性補強材23は、対応するリブ15に埋まっている。弾性補強材23は、中立弱軸L
10上又はその近くに配置されている。嵌合部13に近い側の弾性補強材23が、遠い側の弾性補強材23よりもリブ先端側(更生管の外周側、
図20において上側)に配置されている。さらに、嵌合部13に近い側の弾性補強材23の断面重心G
20が、遠い側の弾性補強材22の断面重心G
20よりもリブ先端側(
図20において上側)に配置されている。
【0055】
<その他の実施形態(
図21)>
図21に例示するように、帯状部材の断面形状は、種々の態様を適用できる。
図21(a)~(c)の帯状部材10P,10Q,10Rにおいては、弾性補強材20が、平帯部12の内周側面に貼り付けられているが、弾性補強材が平帯部12の内部に埋め込まれていてもよく(
図2(a)、
図7参照)、弾性補強材がリブ15に設けられていてもよい(
図9~
図20参照)。帯状部材10P~10Rが、幅方向へ伸縮可能な伸縮部16を有していてもよい。
【0056】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、弾性補強材は、平帯状、棒状に限らず、波形断面の帯状などであってもよい。
拡径(拡張)後の更生管の断面形状は、円でなくてもよく、楕円や四角でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば老朽化した下水道管の更生技術に適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 既設管
3 更生管
5 製管機
6 巻取りドラム
10 既設管更生用帯状部材
10B~10R 既設管更生用帯状部材
10a,10b 縁部分
11 本体帯材
12 平帯部
13,14 嵌合部
15 リブ
20 弾性補強材
21~23 弾性補強材
27 原状態の弾性補強材
28 製管時曲率状態の弾性補強材
29 拡径後曲率状態の弾性補強材
L10 中立弱軸