(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/073 20060101AFI20240515BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240515BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240515BHJP
B23K 26/066 20140101ALI20240515BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B23K26/073
B23K26/53
B23K26/00 Q
B23K26/066
H01L21/78 B
(21)【出願番号】P 2020066502
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕太
(72)【発明者】
【氏名】荻原 孝文
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-173520(JP,A)
【文献】特開2008-168328(JP,A)
【文献】特開2020-006392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子が形成されると共に隣り合う素子の間を通るようにストリートが延在している第一表面と、該第一表面の反対側の第二表面とを有するウエハを支持するステージと、
前記第一表面側から前記ウエハにレーザ光を照射することにより前記ウエハの内部に一又は複数の改質領域を形成する照射部と、
前記レーザ光のビーム幅を調整するビーム幅調整部と、
前記レーザ光のビーム幅が、前記ストリートの幅、並びに、該ストリートに隣り合う素子を構成する構造体の位置及び高さを含む表面情報に応じた目標ビーム幅以下に調整されるように、前記ビーム幅調整部を制御する制御部と、を備え、
前記ビーム幅調整部は、前記レーザ光の一部を遮断することにより前記ビーム幅を調整するスリット部を有し、
前記制御部は、前記表面情報に基づき、前記スリット部の前記レーザ光の透過領域に係るスリット幅を導出し、該スリット幅を前記スリット部に設定し、
前記制御部は、導出した前記スリット幅が、前記改質領域から延びる亀裂の長さを悪化させるスリット幅であった場合、加工条件の変更を促す情報を外部に出力する
、レーザ加工装置。
【請求項2】
複数の素子が形成されると共に隣り合う素子の間を通るようにストリートが延在している第一表面と、該第一表面の反対側の第二表面とを有するウエハを支持するステージと、
前記第一表面側から前記ウエハにレーザ光を照射することにより前記ウエハの内部に一又は複数の改質領域を形成する照射部と、
前記レーザ光のビーム幅を調整するビーム幅調整部と、
前記レーザ光のビーム幅が、前記ストリートの幅、並びに、該ストリートに隣り合う素子を構成する構造体の位置及び高さを含む表面情報に応じた目標ビーム幅以下に調整されるように、前記ビーム幅調整部を制御する制御部と、を備え、
前記ビーム幅調整部は、前記レーザ光の一部を遮断することにより前記ビーム幅を調整するスリット部を有し、
前記制御部は、前記表面情報に基づき、前記スリット部の前記レーザ光の透過領域に係るスリット幅を導出し、該スリット幅を前記スリット部に設定し、
前記制御部は、前記ウエハにおける前記レーザ光の加工深さを更に考慮して、前記スリット幅を導出し、
前記制御部は、前記ウエハの内部に前記レーザ光が照射されることにより前記ウエハの内部の互いに異なる深さにおいて複数の改質領域が形成される場合、前記表面情報及び前記レーザ光の加工深さの組み合わせ毎に、前記スリット幅を導出する
、レーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、導出した前記スリット幅が、前記改質領域の形成を可能にする限界値よりも小さくなった場合、加工不可である旨の情報を外部に出力する、請求項
1又は2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、加工時における前記第一表面でのレーザ入射位置ずれ量を更に考慮して、前記ビーム幅調整部を制御する、請求項1~
3のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
複数の素子が形成されると共に隣り合う素子の間を通るようにストリートが延在している第一表面と、該第一表面の反対側の第二表面とを有するウエハをセットすることと、
前記ストリートの幅、並びに、該ストリートに隣り合う素子を構成する構造体の位置及び高さを含む表面情報の入力を受付けることと、
前記表面情報に応じた目標ビーム幅以下に調整されるように、レーザ光のビーム幅を調整するビーム幅調整部を制御することと、
前記第一表面側から前記ウエハにレーザ光が照射されるように、レーザ光を照射する照射部を制御することと、を含
み、
前記ビーム幅調整部は、前記レーザ光の一部を遮断することにより前記ビーム幅を調整するスリット部を有し、
前記表面情報に基づき、前記スリット部の前記レーザ光の透過領域に係るスリット幅を導出し、該スリット幅を前記スリット部に設定し、
導出した前記スリット幅が、改質領域から延びる亀裂の長さを悪化させるスリット幅であった場合、加工条件の変更を促す情報を外部に出力する、検査方法。
【請求項6】
複数の素子が形成されると共に隣り合う素子の間を通るようにストリートが延在している第一表面と、該第一表面の反対側の第二表面とを有するウエハをセットすることと、
前記ストリートの幅、並びに、該ストリートに隣り合う素子を構成する構造体の位置及び高さを含む表面情報の入力を受付けることと、
前記表面情報に応じた目標ビーム幅以下に調整されるように、レーザ光のビーム幅を調整するビーム幅調整部を制御することと、
前記第一表面側から前記ウエハにレーザ光が照射されるように、レーザ光を照射する照射部を制御することと、を含み、
前記ビーム幅調整部は、前記レーザ光の一部を遮断することにより前記ビーム幅を調整するスリット部を有し、
前記表面情報に基づき、前記スリット部の前記レーザ光の透過領域に係るスリット幅を導出し、該スリット幅を前記スリット部に設定し、
前記ウエハにおける前記レーザ光の加工深さを更に考慮して、前記スリット幅を導出し、
前記ウエハの内部に前記レーザ光が照射されることにより前記ウエハの内部の互いに異なる深さにおいて複数の改質領域が形成される場合、前記表面情報及び前記レーザ光の加工深さの組み合わせ毎に、前記スリット幅を導出する、検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板と、半導体基板の一方の面に形成された機能素子層と、を備えるウエハを複数のラインのそれぞれに沿って切断するために、半導体基板の他方の面側からウエハにレーザ光を照射することにより、複数のラインのそれぞれに沿って半導体基板の内部に複数列の改質領域を形成するレーザ加工装置が知られている。特許文献1に記載のレーザ加工装置は、赤外線カメラを備えており、半導体基板の内部に形成された改質領域、機能素子層に形成された加工ダメージ等を半導体基板の裏面側から観察することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなレーザ加工装置では、ウエハにおける機能素子層が形成された面側からウエハにレーザ光を照射して半導体基板の内部に改質領域を形成する場合がある。機能素子層が形成された面側からレーザ光を照射する場合には、機能素子にレーザ光が照射されないように、隣り合う機能素子の間の領域であるストリート内にレーザ光を収める必要がある。従来、スリット等によってレーザ光の幅を制御することにより、ストリート内にレーザ光を収める制御が行われている。
【0005】
ここで、機能素子を構成する構造体は、ある程度の厚み(高さ)を有している場合がある。このことにより、ストリート内にレーザ光を収めることができている場合であっても、高さがある構造体の一部にレーザ光が遮られてしまい、所望のレーザ照射ができないおそれがある。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、回路等の構造体にレーザ光が遮られることを抑制し所望のレーザ照射を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、複数の素子が形成されると共に隣り合う素子の間を通るようにストリートが延在している第一表面と、該第一表面の反対側の第二表面とを有するウエハを支持するステージと、第一表面側からウエハにレーザ光を照射することによりウエハの内部に一又は複数の改質領域を形成する照射部と、レーザ光のビーム幅を調整するビーム幅調整部と、レーザ光のビーム幅が、ストリートの幅、並びに、該ストリートに隣り合う素子を構成する構造体の位置及び高さを含む表面情報に応じた目標ビーム幅以下に調整されるように、ビーム幅調整部を制御する制御部と、を備える。
【0008】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、複数の素子が形成された第一表面側からウエハにレーザ光が照射される構成において、第一表面のストリートの幅並びに素子を構成する構造体の位置及び高さに応じた目標ビーム幅以下になるようにレーザ光のビーム幅が調整される。このように、レーザ光のビーム幅が、ストリートの幅に加えて素子を構成する構造体の位置及び高さを考慮した目標ビーム幅以下に調整されることにより、ストリートの幅に収まるだけでなく構造体に遮られないようにレーザ光のビーム幅を調整することが可能になる。これにより、レーザ光が回路等の構造体に遮られることを抑制し、所望のレーザ照射(ストリート幅に収まると共に構造体に遮られないレーザ照射)を行うことができる。すなわち、本発明の一態様に係るレーザ加工装置によれば、レーザ光が構造体に遮られてウエハ内部におけるレーザ光の出力が低下すること等を抑制することができる。また、レーザ光が回路等の構造体に照射された場合には、干渉によって好ましくないビームがウエハの内部に進入し加工品質が悪化することが考えられる。この点、上述したようにレーザ光が構造体に遮られる(照射される)ことを抑制することにより、このような加工品質の悪化を防止することができる。また、構造体によっては、レーザ光が照射されることにより溶けてしまうこと等が考えられる。この点についても、上述したようにレーザ光が構造体に遮られる(照射される)ことを抑制することにより、構造体にレーザ光の影響がおよぶこと(例えば構造体が溶けること等)を回避することができる。
【0009】
ビーム幅調整部は、レーザ光の一部を遮断することによりビーム幅を調整するスリット部を有し、制御部は、表面情報に基づき、スリット部の前記レーザ光の透過領域に係るスリット幅を導出し、該スリット幅をスリット部に設定してもよい。このような構成によれば、ビーム幅を容易且つ確実に調整することができる。
【0010】
制御部は、導出したスリット幅が、改質領域の形成を可能にする限界値よりも小さくなった場合、加工不可である旨の情報を外部に出力してもよい。これにより、改質領域を形成することができない加工不可の状態であるにもかかわらず加工されること(無駄な加工が行われること)を回避し、効率的な加工を行うことができる。
【0011】
制御部は、導出したスリット幅が、改質領域から延びる亀裂の長さを悪化させるスリット幅であった場合、加工条件の変更を促す情報を外部に出力してもよい。これにより、適切な加工ができない状態である場合に加工条件の変更を促すことができ、円滑な加工を行うことができる。
【0012】
制御部は、ウエハにおけるレーザ光の加工深さを更に考慮して、スリット幅を導出してもよい。同じ表面情報であっても、加工深さが異なると適切なスリット幅は異なる。この点、加工深さを考慮してスリット幅が導出されることによって、より適切なスリット幅を導出し、レーザ光が構造体に遮られることを好適に抑制することができる。
【0013】
制御部は、ウエハの内部にレーザ光が照射されることによりウエハの内部の互いに異なる深さにおいて複数の改質領域が形成される場合、表面情報及びレーザ光の加工深さの組み合わせ毎に、スリット幅を導出してもよい。このように、異なる加工深さ及び表面情報の組み合わせ毎にスリット幅が導出されることにより、より適切なスリット幅が導出され、レーザ光が構造体に遮られることを好適に抑制することができる。
【0014】
制御部は、加工時における第一表面でのレーザ入射位置ずれ量を更に考慮して、ビーム幅調整部を制御してもよい。加工を進めるに従って加工ラインは徐々にずれてくると考えられる。この点、このようなずれ量を予め特定しておき、ずれ量を考慮してビーム幅調整部を制御することにより、加工ラインのずれが発生した場合であってもレーザ光が構造体に遮られることを抑制することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る検査方法は、複数の素子が形成されると共に隣り合う素子の間を通るようにストリートが延在している第一表面と、該第一表面の反対側の第二表面とを有するウエハをセットすることと、ストリートの幅、並びに、該ストリートに隣り合う素子を構成する構造体の位置及び高さを含む表面情報の入力を受付けることと、表面情報に応じた目標ビーム幅以下に調整されるように、レーザ光のビーム幅を調整するビーム幅調整部を制御することと、第一表面側からウエハにレーザ光が照射されるように、レーザ光を照射する照射部を制御することと、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回路等の構造体にレーザ光が遮られることを抑制し所望のレーザ照射を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実行形態のレーザ加工装置の構成図である。
【
図3】
図2に示されるウエハの一部分の断面図である。
【
図4】
図1に示されるレーザ照射ユニットの構成図である。
【
図5】
図1に示される検査用撮像ユニットの構成図である。
【
図6】
図1に示されるアライメント補正用撮像ユニットの構成図である。
【
図7】
図5に示される検査用撮像ユニットによる撮像原理を説明するためのウエハの断面図、及び当該検査用撮像ユニットによる各箇所での画像である。
【
図8】
図5に示される検査用撮像ユニットによる撮像原理を説明するためのウエハの断面図、及び当該検査用撮像ユニットによる各箇所での画像である。
【
図9】半導体基板の内部に形成された改質領域及び亀裂のSEM画像である。
【
図10】半導体基板の内部に形成された改質領域及び亀裂のSEM画像である。
【
図11】
図5に示される検査用撮像ユニットによる撮像原理を説明するための光路図、及び当該検査用撮像ユニットによる焦点での画像を示す模式図である。
【
図12】
図5に示される検査用撮像ユニットによる撮像原理を説明するための光路図、及び当該検査用撮像ユニットによる焦点での画像を示す模式図である。
【
図13】ビーム幅の調整について説明する図である。
【
図14】ビーム幅の調整について説明する図である。
【
図15】スリットパターンを利用したビーム幅の調整について説明する図である。
【
図16】スリット幅導出処理の手順を示す図である。
【
図17】スリット幅導出処理の手順を示す図である。
【
図18】レーザ入射位置ずれについて説明する図である。
【
図19】ビーム幅調整処理のフローチャートである。
【
図20】スリット幅導出処理に係る画面イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置の構成]
【0019】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、レーザ照射ユニット3と、複数の撮像ユニット4,5,6と、駆動ユニット7と、制御部8と、ディスプレイ150とを備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成する装置である。
【0020】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを吸着することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能であり、Z方向に平行な軸線を中心線として回転可能である。なお、X方向及びY方向は、互いに垂直な第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は、鉛直方向である。
【0021】
レーザ照射ユニット3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。
【0022】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延び易いという特性を有している。このような改質領域12の特性は、対象物11の切断に利用される。
【0023】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0024】
撮像ユニット4は、対象物11に形成された改質領域12、及び改質領域12から延びた亀裂の先端を撮像する。
【0025】
撮像ユニット5及び撮像ユニット6は、制御部8の制御のもとで、ステージ2に支持された対象物11を、対象物11を透過する光により撮像する。撮像ユニット5,6が撮像することにより得られた画像は、一例として、レーザ光Lの照射位置のアライメントに供される。
【0026】
駆動ユニット7は、レーザ照射ユニット3及び複数の撮像ユニット4,5,6を支持している。駆動ユニット7は、レーザ照射ユニット3及び複数の撮像ユニット4,5,6をZ方向に沿って移動させる。
【0027】
制御部8は、ステージ2、レーザ照射ユニット3、複数の撮像ユニット4,5,6、及び駆動ユニット7の動作を制御する。制御部8は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部8では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。
【0028】
ディスプレイ150は、ユーザから情報の入力を受付ける入力部としての機能と、ユーザに対して情報を表示する表示部としての機能とを有している。
【0029】
[対象物の構成]
本実行形態の対象物11は、
図2及び
図3に示されるように、ウエハ20である。ウエハ20は、半導体基板21と、機能素子層22と、を備えている。半導体基板21は、表面21a(第一表面)及び裏面21b(第二表面)を有している。半導体基板21は、例えば、シリコン基板である。機能素子層22は、半導体基板21の表面21aに形成されている。機能素子層22は、表面21aに沿って2次元に配列された複数の機能素子22a(素子)を含んでいる。機能素子22aは、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。機能素子22aは、複数の層がスタックされて3次元的に構成される場合もある。なお、半導体基板21には、結晶方位を示すノッチ21cが設けられているが、ノッチ21cの替わりにオリエンテーションフラットが設けられていてもよい。
【0030】
ウエハ20は、複数のライン15のそれぞれに沿って機能素子22aごとに切断される。複数のライン15は、ウエハ20の厚さ方向から見た場合に複数の機能素子22aのそれぞれの間を通っている。より具体的には、ライン15は、ウエハ20の厚さ方向から見た場合にストリート領域23(ストリート)の中心(幅方向における中心)を通っている。ストリート領域23は、機能素子層22において、隣り合う機能素子22aの間を通るように延在している。本実行形態では、複数の機能素子22aは、表面21aに沿ってマトリックス状に配列されており、複数のライン15は、格子状に設定されている。なお、ライン15は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。以上のように、ウエハ20は、複数の機能素子22aが形成されると共に隣り合う機能素子22aの間を通るようにストリート領域23が延在している表面21a(
図2参照)と、表面21aの反対側の裏面21b(
図3参照)とを有するウエハである。
【0031】
[レーザ照射ユニットの構成]
図4に示されるように、レーザ照射ユニット3は、光源31(照射部)と、空間光変調器32(ビーム幅調整部)と、集光レンズ33と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。光源31は、表面21a側からウエハ20にレーザ光を照射することによりウエハ20の内部に複数(ここでは2列)の改質領域12a,12bを形成する。空間光変調器32は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。空間光変調器32は、レーザ光の一部を遮断することによりレーザ光のビーム幅を調整するスリット部として機能する(詳細は後述)。空間光変調器32の機能としてのスリット部は、空間光変調器32の変調パターンとして設定されるスリットパターンである。空間光変調器32では、液晶層に表示される変調パターンが適宜設定されることにより、レーザ光Lが変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等が変調)可能となる。変調パターンとは、変調を付与するホログラムパターンであり、スリットパターンを含んでいる。空間光変調器32は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ33は、空間光変調器32によって変調されたレーザ光Lを集光する。なお、集光レンズ33は、補正環レンズであってもよい。
【0032】
本実行形態では、レーザ照射ユニット3は、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の表面21a側からウエハ20にレーザ光Lを照射することにより、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の内部に2列の改質領域12a,12bを形成する。改質領域12aは、2列の改質領域12a,12bのうち裏面21bに最も近い改質領域である。改質領域12bは、2列の改質領域12a,12bのうち、改質領域12aに最も近い改質領域であって、表面21aに最も近い改質領域である。
【0033】
2列の改質領域12a,12bは、ウエハ20の厚さ方向(Z方向)において隣り合っている。2列の改質領域12a,12bは、半導体基板21に対して2つの集光点C1,C2がライン15に沿って相対的に移動させられることにより形成される。レーザ光Lは、例えば集光点C1に対して集光点C2が進行方向の後側且つレーザ光Lの入射側に位置するように、空間光変調器32によって変調される。なお、改質領域の形成に関しては、単焦点であっても多焦点であってもよいし、1パスであっても複数パスであってもよい。
【0034】
レーザ照射ユニット3は、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の表面21a側からウエハ20にレーザ光Lを照射する。一例として、厚さ400μmの単結晶シリコン<100>基板である半導体基板21に対し、裏面21bから54μmの位置及び128μmの位置に2つの集光点C1,C2をそれぞれ合わせて、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の表面21a側からウエハ20にレーザ光Lを照射する。このとき、例えば2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が半導体基板21の裏面21bに至る条件とする場合、レーザ光Lの波長は1099nm、パルス幅は700n秒、繰り返し周波数は120kHzとされる。また、集光点C1におけるレーザ光Lの出力は2.7W、集光点C2におけるレーザ光Lの出力は2.7Wとされ、半導体基板21に対する2つの集光点C1,C2の相対的な移動速度は800mm/秒とされる。なお、2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が半導体基板21の裏面21bに至らない条件でレーザ光Lが照射されてもよい。すなわち、後の工程において、例えば、半導体基板21の裏面21bを研削することにより半導体基板21を薄化すると共に亀裂14を裏面21bに露出させ、複数のライン15のそれぞれに沿ってウエハ20を複数の半導体デバイスに切断してもよい。
【0035】
[検査用撮像ユニットの構成]
図5に示されるように、撮像ユニット4は、光源41と、ミラー42と、対物レンズ43と、光検出部44と、を有している。撮像ユニット4はウエハ20を撮像する。光源41は、半導体基板21に対して透過性を有する光I1を出力する。光源41は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、近赤外領域の光I1を出力する。光源41から出力された光I1は、ミラー42によって反射されて対物レンズ43を通過し、半導体基板21の表面21a側からウエハ20に照射される。このとき、ステージ2は、上述したように2列の改質領域12a,12bが形成されたウエハ20を支持している。
【0036】
対物レンズ43は、半導体基板21の裏面21bで反射された光I1を通過させる。つまり、対物レンズ43は、半導体基板21を伝搬した光I1を通過させる。対物レンズ43の開口数(NA)は、例えば0.45以上である。対物レンズ43は、補正環43aを有している。補正環43aは、例えば対物レンズ43を構成する複数のレンズにおける相互間の距離を調整することにより、半導体基板21内において光I1に生じる収差を補正する。なお、収差を補正する手段は、補正環43aに限られず、空間光変調器等のその他の補正手段であってもよい。光検出部44は、対物レンズ43及びミラー42を透過した光I1を検出する。光検出部44は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光I1を検出する。なお、近赤外領域の光I1を検出(撮像)する手段はInGaAsカメラに限られず、透過型コンフォーカル顕微鏡等、透過型の撮像を行うものであればその他の撮像手段であってもよい。
【0037】
撮像ユニット4は、2列の改質領域12a,12bのそれぞれ、及び、複数の亀裂14a,14b,14c,14dのそれぞれの先端を撮像することができる。亀裂14aは、改質領域12aから裏面21b側に延びる亀裂である。亀裂14bは、改質領域12aから表面21a側に延びる亀裂である。亀裂14cは、改質領域12bから裏面21b側に延びる亀裂である。亀裂14dは、改質領域12bから表面21a側に延びる亀裂である。
【0038】
[アライメント補正用撮像ユニットの構成]
図6に示されるように、撮像ユニット5は、光源51と、ミラー52と、レンズ53と、光検出部54と、を有している。光源51は、半導体基板21に対して透過性を有する光I2を出力する。光源51は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、近赤外領域の光I2を出力する。光源51は、撮像ユニット4の光源41と共通化されていてもよい。光源51から出力された光I2は、ミラー52によって反射されてレンズ53を通過し、半導体基板21の表面21a側からウエハ20に照射される。
【0039】
レンズ53は、半導体基板21の裏面21bで反射された光I2を通過させる。つまり、レンズ53は、半導体基板21を伝搬した光I2を通過させる。レンズ53の開口数は、0.3以下である。すなわち、撮像ユニット4の対物レンズ43の開口数は、レンズ53の開口数よりも大きい。光検出部54は、レンズ53及びミラー52を通過した光I2を検出する。光検出部54は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光I2を検出する。
【0040】
撮像ユニット5は、制御部8の制御のもとで、表面21a側から光I2をウエハ20に照射すると共に、裏面21b側から戻る光I2を検出することにより、裏面21bを撮像する。また、撮像ユニット5は、同様に、制御部8の制御のもとで、表面21a側から光I2をウエハ20に照射すると共に、半導体基板21における改質領域12a,12bの形成位置から戻る光I2を検出することにより、改質領域12a,12bを含む領域の画像を取得する。これらの画像は、レーザ光Lの照射位置のアライメントに用いられる。撮像ユニット6は、レンズ53がより低倍率(例えば、撮像ユニット5においては6倍であり、撮像ユニット6においては1.5倍)である点を除いて、撮像ユニット5と同様の構成を備え、撮像ユニット5と同様にアライメントに用いられる。
【0041】
[検査用撮像ユニットによる撮像原理]
図5に示される撮像ユニット4を用い、
図7に示されるように、2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が裏面21bに至っている半導体基板21に対して、表面21a側から裏面21b側に向かって焦点F(対物レンズ43の焦点)を移動させる。この場合、改質領域12bから表面21a側に延びる亀裂14の先端14eに表面21a側から焦点Fを合わせると、当該先端14eを確認することができる(
図7における右側の画像)。しかし、亀裂14そのもの、及び裏面21bに至っている亀裂14の先端14eに表面21a側から焦点Fを合わせても、それらを確認することができない(
図7における左側の画像)。
【0042】
また、
図5に示される撮像ユニット4を用い、
図8に示されるように、2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が裏面21bに至っていない半導体基板21に対して、表面21a側から裏面21b側に向かって焦点Fを移動させる。この場合、改質領域12aから裏面21b側に延びる亀裂14の先端14eに表面21a側から焦点Fを合わせても、当該先端14eを確認することができない(
図8における左側の画像)。しかし、裏面21bに対して表面21aとは反対側の領域に表面21a側から焦点Fを合わせて、裏面21bに関して焦点Fと対称な仮想焦点Fvを当該先端14eに位置させると、当該先端14eを確認することができる(
図8における右側の画像)。なお、仮想焦点Fvは、半導体基板21の屈折率を考慮した焦点Fと裏面21bに関して対称な点である。
【0043】
以上のように亀裂14そのものを確認することができないのは、照明光である光I1の波長よりも亀裂14の幅が小さいためと想定される。
図9及び
図10は、シリコン基板である半導体基板21の内部に形成された改質領域12及び亀裂14のSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。
図9の(b)は、
図9の(a)に示される領域A1の拡大像、
図10の(a)は、
図9の(b)に示される領域A2の拡大像、
図10の(b)は、
図10の(a)に示される領域A3の拡大像である。このように、亀裂14の幅は、120nm程度であり、近赤外領域の光I1の波長(例えば、1.1~1.2μm)よりも小さい。
【0044】
以上を踏まえて想定される撮像原理は、次のとおりである。
図11の(a)に示されるように、空気中に焦点Fを位置させると、光I1が戻ってこないため、黒っぽい画像が得られる(
図11の(a)における右側の画像)。
図11の(b)に示されるように、半導体基板21の内部に焦点Fを位置させると、表面21aで反射された光I1が戻ってくるため、白っぽい画像が得られる(
図11の(b)における右側の画像)。
図11の(c)に示されるように、改質領域12に表面21a側から焦点Fを合わせると、改質領域12によって、裏面21bで反射されて戻ってきた光I1の一部について吸収、散乱等が生じるため、白っぽい背景の中に改質領域12が黒っぽく映った画像が得られる(
図11の(c)における右側の画像)。
【0045】
図12の(a)及び(b)に示されるように、亀裂14の先端14eに表面21a側から焦点Fを合わせると、例えば、先端14e近傍に生じた光学的特異性(応力集中、歪、原子密度の不連続性等)、先端14e近傍で生じる光の閉じ込め等によって、裏面21bで反射されて戻ってきた光I1の一部について散乱、反射、干渉、吸収等が生じるため、白っぽい背景の中に先端14eが黒っぽく映った画像が得られる(
図12の(a)及び(b)における右側の画像)。
図12の(c)に示されるように、亀裂14の先端14e近傍以外の部分に表面21a側から焦点Fを合わせると、裏面21bで反射された光I1の少なくとも一部が戻ってくるため、白っぽい画像が得られる(
図12の(c)における右側の画像)。
【0046】
[レーザ光のビーム幅調整処理]
以下では、ウエハ20の切断等を目的として改質領域を形成する処理を行う際に実行される、レーザ光のビーム幅調整処理を説明する。なお、ビーム幅調整処理は、改質領域を形成する処理とは別に(改質領域を形成する処理とは連動せずに)実行されてもよい。
【0047】
まず、レーザ光のビーム幅調整が必要になる理由について、
図13及び
図14を参照して説明する。
図13及び
図14は、ビーム幅の調整について説明する図である。なお、
図13及び
図14等の各図面において、「DF」とはレーザ光による加工位置(集光位置)を示しており、「Cutting Position」とは後の工程において裏面21bが研磨されてウエハ20が複数の半導体デバイスに切断される際の切断位置を示している。
図13に示されるように、本実施形態のウエハ20におけるレーザ光Lの入射面である表面21aには、複数の機能素子22aが形成されている。
図13(a)に示されるように、レーザ光Lのビーム幅が大きい場合には、表面21aに入射するレーザ光Lがストリート領域23からはみ出して機能素子22aに至り、レーザ光Lの一部についてウエハ20内部に集光されない(機能素子22aによって遮られてしまう)。ストリート領域23が狭い場合や加工位置(集光位置)が深い場合等においては、レーザ光Lが機能素子22aによって遮られる状況が発生しやすくなる。レーザ光Lが機能素子22aによって遮られた場合には、レーザ光Lの一部がウエハ20の内部に集光されないため、ウエハ20の内部におけるレーザ光Lの出力が低下してしまう。また、レーザ光Lと機能素子22aとの干渉によって好ましくないビームがウエハ20の内部に進入し加工品質が悪化するおそれがある。また、機能素子22aを構成する構造体22xによっては、レーザ光Lが照射されることによって溶けてしまうおそれがある。
【0048】
レーザ光Lが機能素子22aによって遮られる状況が発生することを回避するためには、レーザ光Lのビーム幅調整が必要になる。例えば空間光変調器32のスリット部(変調パターンとして設定されるスリットパターン)によってレーザ光Lを任意の幅にカットすることにより(詳細は後述)、
図13(b)に示されるように、表面21aに入射するレーザ光Lをストリート領域23の幅に収めることができる。すなわち、レーザ光Lの一部(レーザ光カット部分LC)をカットすることによって、表面21aに入射するレーザ光Lをストリート領域23の幅に収めることができる。
【0049】
ここで、機能素子22aを構成する構造体22xは、ある程度の高さt(厚みt)を有している。このことによって、上述したようにストリート領域23内にレーザ光Lを収めることができている場合であっても、高さtを有した構造体22xの一部にレーザ光Lが遮られてしまうおそれがある。例えば、
図14(a)に示される例では、ストリート領域23にレーザ光Lが入射する面において、ストリート領域23の幅よりもレーザ光Lのビーム幅W
t0が狭くなるように制御されている。しかしながら、ストリート領域23の両端部から距離Xだけ離れた位置(位置X)に、高さtの構造体22x,22xが設けられており、当該高さtの位置におけるレーザ光Lのビーム幅W
tが構造体22x,22xの離間距離よりも大きいことによって、高さtを有した構造体22xの一部にレーザ光Lが遮られてしまっている。
【0050】
一方で、例えば
図14(b)に示されるように、構造体22x,22xの高さtが、上述した
図14(a)に示される構造体22x,22xの高さtよりも十分に低い場合には、レーザ光Lのビーム幅W
t0及び構造体22x,22xのストリート領域23の端部からの距離X等の条件が
図14(a)に示される構成と同様であっても、機能素子22aを構成する構造体22xにレーザ光Lが遮られる状況が発生しない。また、例えば
図14(c)に示されるように、構造体22x,22xのストリート領域23の端部からの距離Xが、上述した
図14(a)に示される構造体22x,22xのストリート領域23の端部からの距離Xよりも十分に大きい場合には、レーザ光Lのビーム幅W
t0及び構造体22x,22xの高さt等の条件が
図14(a)に示される構成と同様であっても、機能素子22aを構成する構造体22xにレーザ光Lが遮られる状況が発生しない。
【0051】
以上のように、機能素子22aを構成する構造体22xにレーザ光Lが遮られる状況が発生することを抑制するためには、ストリート領域23の幅に加えて、ストリート領域23に隣り合う機能素子22aを構成する構造体22xの位置及び高さを考慮して、レーザ光Lのビーム幅調整を行う必要がある。以下では、レーザ光のビーム幅調整に係る制御部8の詳細な機能について説明する。
【0052】
制御部8は、レーザ光のビーム幅が、ストリート領域23の幅、並びに、ストリート領域23に隣り合う機能素子22aを構成する構造体22xの位置及び高さを含む、表面情報に応じた目標ビーム幅以下に調整されるように、空間光変調器32(ビーム幅調整部)を制御する。制御部8は、例えばディスプレイ150に表示される設定画面(
図20(b)参照)においてユーザに入力された情報に基づき、ストリート領域23の幅W、並びに、ストリート領域23に隣り合う機能素子22aを構成する構造体22xの位置X及び高さtを含む、表面情報を取得する。構造体22xの位置Xとは、ストリート領域23の端部から構造体22xまでの離間距離Xである。目標ビーム幅は、表面21aにおける値、及び、構造体22xの高さtにおける値がある。表面21aにおける目標ビーム幅は、例えば、ストリート領域23の幅Wである。構造体22xの高さtにおける目標ビーム幅は、例えば、ストリート領域23に隣り合う構造体22x,22xの離間距離であり、ストリート領域23の幅Wと、一方の構造体22xの位置Xと、他方の構造体22xの位置Xとを足し合わせた値(W+X+X)である。レーザ光の表面21aにおけるビーム幅が表面21aにおける目標ビーム幅以下となるように制御されると共に、レーザ光の高さtにおけるビーム幅が高さtにおける目標ビーム幅以下となるように制御されることにより、レーザ光をストリート領域23内に確実に収めると共に、機能素子22aを構成する構造体22xにレーザ光Lが遮られる状況が発生することを回避することができる。
【0053】
制御部8は、上述した表面情報に基づき、スリット部として機能する空間光変調器32におけるレーザ光の透過領域に係るスリット幅を導出し(詳細は後述)、該スリット幅に応じたスリットパターンを空間光変調器32に設定する。
図15は、スリットパターンSPを利用したビーム幅の調整について説明する図である。
図15(a)に示されるスリットパターンSPは、空間光変調器32の液晶層に表示される変調パターンである。スリットパターンSPは、レーザ光Lを遮断する遮断領域CEと、レーザ光Lを透過する透過領域TEとを含んでいる。透過領域TEは、スリット幅に応じた大きさに設定されている。スリット幅が小さいほど、透過領域TEが小さく(遮断領域CEが大きく)なり、レーザ光カット部分LCが大きくなるようにスリットパターンSPが設定される。
図15(a)のスリットパターンSPでは、レーザ光Lのビーム幅を小さくすべく、レーザ光Lにおける幅方向両端部が遮断領域CEとされており、中央の領域が透過領域TEとされている。
図15(a)に示されるように、スリットパターンSPをレーザ光が通過することにより、レーザ光Lの幅方向両端部(レーザ光カット部分LC)がカットされ、レーザ光Lのビーム幅を目標ビーム幅以下とすることができる。
【0054】
制御部8は、ウエハ20におけるレーザ光Lの加工深さを更に考慮して、スリット幅を導出してもよい。
図15(b)は、上述した
図15(a)よりも加工深さ(「DF」の位置)が浅い例を示している。
図15(a)及び
図15(b)において、表面情報等の他の条件は互いに同様であるとする。この場合、制御部8は、加工深さが浅い
図15(b)のスリットパターンSPについて、加工深さが深い
図15(a)のスリットパターンSPと比べて、遮断領域CEを小さくし透過領域TEを大きくする。すなわち、制御部8は、レーザ光Lの加工深さが深いほど、スリットパターンSPにおける遮断領域CEを大きくしてもよい。これにより、表面情報に加えて加工深さを考慮して、より適切にスリットパターンSPを設定することが可能になる。制御部8は、例えば
図4に示されるように、導体基板21の内部において互いに異なる深さに複数(2列)の改質領域12a,12bが形成される場合、表面情報及びレーザ光Lの加工深さの組み合わせ毎に、スリット幅を導出してもよい。
【0055】
図16及び
図17は、具体的なスリット幅導出処理の一例について説明する図である。制御部8は、例えば以下の手順1~手順4の計算を実行することにより、スリット幅を導出する。なお、後述するように、制御部8による計算手順は以下に限定されない。
【0056】
図16(a)に示されるように、ウエハ20のストリート領域23の幅をW、構造体22x,22xの位置(ストリート領域23の端部からの離間距離)をX、構造体22xの高さをt、レーザ光Lの加工深さをDFとする。なお、加工深さとは、表面21aからの加工深さである。
【0057】
手順1では、
図16(b)及び
図16(c)に示されるように、制御部8は、構造体22xの存在を無視し、レーザ光のビーム幅が表面21aにおける目標ビーム幅(ストリート領域23の幅W)以下となるように、スリット幅を計算する。スリット幅は、以下の(1)式により導出される。
【数1】
【0058】
上記(1)式において、「SLIT」はスリット幅、Zは空間光変調器32等の種別に応じて決まる固定値、nは加工対象材質に応じて決まる屈折率、aは加工対象材質の屈折率を考慮した定数(dzレート)である。いま、n=3.6、a=4.8、Z=480、ストリート領域23の幅W=20μm、加工深さDF=50μmであるとする。この場合、手順1でのストリート領域23の幅に基づくスリット幅SLITstreet=72μmと導出される。
【0059】
つづいて、手順2では、
図16(d)に示されるように、制御部8は、手順1において求めたスリット幅SLIT
street=72μmを採用した場合における、表面21aから構造体22xの高さtまでにレーザ光のビームが広がる距離X
tを計算する。距離X
tは、(1)式を変形した以下の(2)式により導出される。いま、構造体22xの高さt=40μmであるとする。この場合、(2)式のSLITに上述したスリット幅SLIT
street=72μmを代入することにより、距離X
t=8μmと導出される。
【数2】
【0060】
つづいて、手順3では、制御部8は、手順2において導出した距離X
t=8μmと構造体22xの位置(ストリート領域23の端部からの離間距離)Xとを比較する。制御部8は、例えば、
図17(a)に示されるように、距離X
tよりも位置Xのほうが大きい(位置Xが8μmよりも大きい)場合には、スリット幅SLIT
street=72μmを採用しても構造体22xにレーザ光が遮られないと判断し、スリット幅SLIT
streetを最終的なスリット幅に決定する。一方で、制御部8は、例えば、
図17(b)に示されるように、距離X
tよりも位置Xのほうが小さい(位置Xが8μmよりも小さい)場合には、スリット幅SLIT
street=72μmを採用すると構造体22xにレーザ光が遮られると判断し、スリット幅SLIT
streetを採用せずに、構造体22xの位置及び高さを考慮した最終的なスリット幅を再計算すると決定する。
【0061】
手順4は、手順3にて、構造体22xの位置及び高さを考慮した最終的なスリット幅を再計算すると決定された場合にのみ実行される。手順4では、制御部8は、
図17(c)に示されるように、構造体22xの位置及び高さを考慮して、レーザ光のビーム幅が構造体22xの高さtにおける目標ビーム幅以下となるように、スリット幅を計算する。スリット幅は、以下の(3)式により導出される。いま、構造体22xの位置(ストリート領域23の端部からの離間距離)X=4μmであるとする。この場合、構造体22xの位置及び高さを考慮した最終的なスリット幅SLIT
構造体=56μmと導出される。
【数3】
【0062】
なお、上述した計算手順では、最初に構造体22xの存在を無視してスリット幅を計算した後に、そのスリット幅である場合において構造体22xにレーザ光が遮られないか否かを判断し、最終的なスリット幅を導出したが、計算手順はこれに限定されない。制御部8は、例えば、(1)式で導出されるスリット幅SLITstreetと(3)式で導出されるスリット幅SLIT構造体とを両方導出した後に、小さいほうのスリット幅を最終的なスリット幅として決定してもよい。
【0063】
制御部8は、加工時における表面21aでのレーザ光の入射位置ずれ量を更に考慮して、スリットパターンを設定する空間光変調器32を制御してもよい。
図18に示されるように、複数の加工ラインl1~l3のストリート領域23に対して、連続的にレーザ光が照射される場合、チップ間に隙間が発生することによって、加工ラインl1~l3の位置が徐々にずれていく。
図18の例では、最初に加工を行った加工ラインl1よりも、次に加工を行った加工ラインl2のほうが左側に位置がずれており、当該加工ラインl2よりも、さらに次に加工を行った加工ラインl3のほうが左側に位置がずれている。例えば数加工ラインに一度、補正処理を行うことが考えられるが、毎加工ライン補正を行わない限りは、位置ずれを無くすことはできない。しかしながら、毎加工ライン補正を行うことは、処理時間を考慮すると現実的ではない。本実施形態では、制御部8が、加工時におけるレーザ光の入射位置ずれ量(加工位置ずれマージン値)を予め特定しておき、上述した(1)式又は(3)式を用いてスリット幅を導出する際に、ストリート領域23の幅Wに加工位置ずれマージン値を考慮した値を設定する。制御部8は、例えばストリート領域23の幅Wから加工位置ずれマージン値を差し引いた値を、補正後のストリート領域23の幅Wとして設定し、スリット幅を導出してもよい。そして、制御部8は、加工位置ずれマージン値を考慮して導出されたスリット幅に基づくスリットパターンが設定されるように、空間光変調器32を制御する。
【0064】
制御部8は、導出したスリット幅が、改質領域の形成を可能にする限界値であるリミットスリット値よりも小さくなった場合には、加工不可である旨の情報が表示されるように、ディスプレイ150を制御してもよい。リミットスリット値は、例えば事前の加工実験に基づいてエンジン毎に設定される値である。
【0065】
制御部8は、導出したスリット幅が、改質領域12から延びる亀裂の長さを悪化させるスリット幅であった場合に、各種加工条件の変更を促す情報が表示されるようにディスプレイ150を制御してもよい。加工条件とは、例えば、加工本数、ZH(Zハイト)、VD、焦点数、パルスエネルギー、集光状態パラメータ、加工速度、周波数、パルス幅等である。ZHとは、レーザ加工を行う際の加工深さ(高さ)を示す情報である。
【0066】
次に、
図19を参照して、制御部8が実行するビーム幅調整処理について説明する。
【0067】
制御部8は、最初に加工条件(レシピ)に係る入力を受付ける(ステップS1)。制御部8は、例えばディスプレイ150に表示された設定画面を介してユーザから情報の入力を受付ける。具体的には、制御部8は、
図20(a)に示されるように、複数の改質領域12(
図20では、SD1,SD2,SD3)の加工位置のZハイト(ZH1,ZH2,ZH3)の入力を受付ける。また、制御部8は、
図20(c)に示されるように、ストリート領域23の幅W、構造体22xの高さt、構造体22xの位置X、及び加工対象材質(例えばシリコン)の入力を受付ける。さらに、制御部8は、ユーザの入力ではなく、予め設定されている固定値を取得する。具体的には、制御部8は、
図20(b)に示されるように、材質による固定値N(例えば(1)式におけるn及びaに対応する固定値)、限界スリット幅(リミットスリット値)、及び加工位置ずれマージンYを取得する。なお、これらの値は、ディスプレイ150に表示されていてもよいし、されていなくてもよい。また、これらの値は、ディスプレイ150に表示される場合、ユーザからの入力によって設定されるものであってもよい。
【0068】
つづいて、制御部8は、複数の改質領域12(SD1,SD2,SD3)の加工位置の中からスリット幅計算前の加工位置を選択する(ステップS2)。そして、制御部8は、選択した加工位置でのスリット幅を計算する(ステップS3)。具体的には、制御部8は、例えば上述した手順1~手順4により、選択した加工位置でのスリット幅を計算する。
【0069】
つづいて、制御部8は、導出したスリット幅が適正であるか否かを判定する(ステップS4)。具体的には、制御部8は、導出したスリット幅が限界スリット幅(リミットスリット値)よりも小さくないかを判定する。さらに、制御部8は、導出したスリット幅が、改質領域12から延びる亀裂の長さを悪化させるスリット幅でないかを判定してもよい。
【0070】
ステップS4において、スリット幅が適正でないと判定された場合には、制御部8は、アラームが表示されるようにディスプレイ150を制御する(ステップS5)。アラームを表示するとは、例えばスリット幅が限界スリット幅である場合には加工不可である旨の情報を表示することである。また、アラームを表示するとは、例えばスリット幅が亀裂の長さを悪化させるスリット幅である場合には加工条件の変更を促す情報を表示することである。
【0071】
ステップS4において、スリット幅が適正であると判定された場合には、制御部8は、選択した加工位置のスリット幅を、導出したスリット幅で確定する(ステップS6)。つづいて、制御部8は、未選択の加工位置があるか否かを判定し(ステップS7)、未選択の加工位置がある場合には再度ステップS2の処理から実行される。一方で、未選択の加工位置がない場合(全ての加工位置についてスリット幅が確定している場合)には、制御部8は、それぞれの加工位置について、導出したスリット幅に応じたスリットパターンを空間光変調器32に設定し、加工を開始する(ステップS8)。以上が、ビーム幅調整処理である。
【0072】
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置1の作用効果について説明する。
【0073】
本実施形態に係るレーザ加工装置1は、複数の機能素子22aが形成されると共に隣り合う機能素子22aの間を通るようにストリート領域23が延在している表面21aと、該表面21aの反対側の裏面21bとを有するウエハ20を支持するステージ2と、表面21a側からウエハ20にレーザ光を照射することによりウエハ20の内部に一又は複数の改質領域12を形成する光源31と、レーザ光のビーム幅を調整するビーム幅調整部としての空間光変調器32と、レーザ光のビーム幅が、ストリート領域23の幅、並びに、該ストリート領域23に隣り合う機能素子22aを構成する構造体22xの位置及び高さを含む表面情報に応じた目標ビーム幅以下に調整されるように、空間光変調器32を制御する制御部8と、を備える。
【0074】
レーザ加工装置1では、複数の機能素子22aが形成された表面21a側からウエハ20にレーザ光が照射される構成において、表面21aのストリート領域23の幅並びに機能素子22aを構成する構造体22xの位置及び高さに応じた目標ビーム幅以下になるようにレーザ光のビーム幅が調整される。このように、レーザ光のビーム幅が、ストリート領域23の幅に加えて機能素子22aを構成する構造体22xの位置及び高さを考慮した目標ビーム幅以下に調整されることにより、ストリート領域23の幅に収まるだけでなく構造体22xに遮られないようにレーザ光のビーム幅を調整することが可能になる。これにより、レーザ光が回路等の構造体22xに遮られることを抑制し、所望のレーザ照射(ストリート領域23の幅に収まると共に構造体22xに遮られないレーザ照射)を行うことができる。
【0075】
すなわち、本実施形態に係るレーザ加工装置1によれば、レーザ光が構造体22xに遮られてウエハ20の内部におけるレーザ光の出力が低下すること等を抑制することができる。また、レーザ光が回路等の構造体22xに照射された場合には、干渉によって好ましくないビームがウエハ20の内部に進入し加工品質が悪化することが考えられる。この点、上述したようにレーザ光が構造体22xに遮られる(照射される)ことを抑制することにより、このような加工品質の悪化を防止することができる。また、構造体22xによっては、レーザ光が照射されることにより溶けてしまうこと等が考えられる。この点についても、上述したようにレーザ光が構造体22xに遮られる(照射される)ことを抑制することにより、構造体22xにレーザ光の影響がおよぶこと(例えば構造体22xが溶けること等)を回避することができる。
【0076】
空間光変調器32は、レーザ光の一部を遮断することによりビーム幅を調整するスリット部として機能し、制御部8は、表面情報に基づき、スリット部のレーザ光の透過領域に係るスリット幅を導出し、該スリット幅をスリット部に設定してもよい。このような構成によれば、ビーム幅を容易且つ確実に調整することができる。
【0077】
制御部8は、導出したスリット幅が、改質領域の形成を可能にする限界値よりも小さくなった場合、加工不可である旨の情報を外部に出力してもよい。これにより、改質領域を形成することができない加工不可の状態であるにもかかわらず加工されること(無駄な加工が行われること)を回避し、効率的な加工を行うことができる。
【0078】
制御部8は、導出したスリット幅が、改質領域から延びる亀裂の長さを悪化させるスリット幅であった場合、加工条件の変更を促す情報を外部に出力してもよい。これにより、適切な加工ができない状態である場合に加工条件の変更を促すことができ、円滑な加工を行うことができる。
【0079】
制御部8は、ウエハ20におけるレーザ光の加工深さを更に考慮して、スリット幅を導出してもよい。同じ表面情報であっても、加工深さが異なると適切なスリット幅は異なる。この点、加工深さを考慮してスリット幅が導出されることによって、より適切なスリット幅を導出し、レーザ光が構造体22xに遮られることを好適に抑制することができる。
【0080】
制御部8は、ウエハ20の内部にレーザ光が照射されることによりウエハ20の内部の互いに異なる深さにおいて複数の改質領域12が形成される場合、表面情報及びレーザ光の加工深さの組み合わせ毎に、スリット幅を導出してもよい。このように、異なる加工深さ及び表面情報の組み合わせ毎にスリット幅が導出されることにより、より適切なスリット幅が導出され、レーザ光が構造体22xに遮られることを好適に抑制することができる。
【0081】
制御部8は、加工時における表面21aでのレーザ入射位置ずれ量を更に考慮して、空間光変調器32を制御してもよい。加工を進めるに従って加工ラインは徐々にずれてくると考えられる。この点、このようなずれ量を予め特定しておき、ずれ量を考慮して空間光変調器32を制御する(スリットパターンを設定する)ことにより、加工ラインのずれが発生した場合であってもレーザ光が構造体22xに遮られることを抑制することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、制御部8が空間光変調器32におけるスリットパターンを設定することによりレーザ光のビーム幅を調整するとして説明したが、ビーム幅の調整方法はこれに限定されず、例えばスリットパターンではなく物理的なスリットがセットされることによりビーム幅が調整されてもよい。また、例えば、空間光変調器32においてレーザ光の楕円率が調整されることによりビーム幅が調整されてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1…レーザ加工装置、2…ステージ、8…制御部、20…ウエハ、21a…表面(第一表面)、21b…裏面(第二表面)、22a…機能素子(素子)、22x…構造体、23…ストリート領域(ストリート)、31…光源(照射部)、32…空間光変調器(ビーム幅調整部)。