(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/067 20060101AFI20240515BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240515BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240515BHJP
G02F 1/01 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
B23K26/067
B23K26/00 N
B23K26/00 P
G02F1/13 505
G02F1/01 D
(21)【出願番号】P 2020070001
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2022-10-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 優
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-006393(JP,A)
【文献】国際公開第2014/041660(WO,A1)
【文献】特開2009-056507(JP,A)
【文献】特開2006-119427(JP,A)
【文献】特許第5355576(JP,B2)
【文献】特開2017-064746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/067
B23K 26/00
G02F 1/13
G02F 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出力されたレーザ光を入力し、二次元配列された複数の画素それぞれにおいて前記レーザ光の位相を変調するホログラムを呈示して、前記ホログラムにより位相変調した後のレーザ光を出力する空間光変調器と、
前記空間光変調器の後段に設けられた集光光学系と、
前記空間光変調器から出力された位相変調後の前記レーザ光を前記集光光学系により被加工物の複数の照射点に集光させるホログラムを前記空間光変調器に呈示させる制御部と、
を備え、
前記被加工物は2種類以上の材質を含み、
前記制御部は、前記複数の照射点に含まれる少なくとも2つの前記照射点の光強度を互いに独立して制御し、前記被加工物の少なくとも一部の領域において、前記少なくとも2つの照射点の光強度を互いに異なら
せ、前記少なくとも2つの照射点それぞれにおける材質に応じて前記少なくとも2つの照射点の光強度を互いに独立して制御することにより前記少なくとも2つの照射点において加工速度を揃える、レーザ加工装置。
【請求項2】
レーザ光源から出力されたレーザ光を入力し、二次元配列された複数の画素それぞれにおいて前記レーザ光の位相を変調するホログラムを呈示して、前記ホログラムにより位相変調した後のレーザ光を出力する空間光変調器と、
前記空間光変調器の後段に設けられた集光光学系と、
前記空間光変調器から出力された位相変調後の前記レーザ光を前記集光光学系により被加工物の複数の照射点に集光させるホログラムを前記空間光変調器に呈示させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記複数の照射点に含まれる少なくとも2つの前記照射点の光強度を互いに独立して制御し、
前記制御部は、前記被加工物に照射される位相変調後の前記レーザ光の光軸と交差する第1の面内において前記複数の照射点により画成される被加工領域と、前記光軸と交差し前記第1の面から前記光軸の方向に離れている第2の面内において前記複数の照射点により画成される被加工領域との、形状及び大きさのうち少なくとも一方を互いに異ならせる、レーザ加工装置。
【請求項3】
観察光を前記被加工物に照射する観察用光源と、
前記被加工物において反射した前記観察光を検出する光検出器と、
を更に備え、
前記制御部は、前記光検出器による検出結果に基づいて各照射点における材質の変化を検出し、各照射点の光強度を前記材質の変化に応じて変更する、請求項1
または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記被加工物の材質分布に応じた、各照射点の光強度に関するデータを予め記憶する記憶部を更に備え、
前記制御部は、各照射点の光強度を前記データに基づいて制御する、請求項1~
3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記複数の照射点により画成される被加工領域を画定する仮想線に沿って各照射点の位置を変更する複数のホログラムを前記空間光変調器に順次呈示させる、請求項1~
4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記制御部は、ホログラムを変更する際に、或るホログラムを消去してから別のホログラムを呈示するまでの間、前記レーザ光の光強度を前記被加工物のいずれの部位においても加工閾値未満とするホログラムを前記空間光変調器に呈示させる、請求項1~
5のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
被加工物を加工するレーザ加工方法であって、
二次元配列された複数の画素それぞれにおいて光の位相を変調するホログラムを空間光変調器に呈示させる制御ステップと、
レーザ光源から出力されたレーザ光を前記空間光変調器に入力し、前記ホログラムにより前記レーザ光の位相変調を行う光変調ステップと、
位相変調後の前記レーザ光を集光する集光ステップと、
を繰り返し行い、
前記被加工物は2種類以上の材質を含み、
前記制御ステップでは、前記空間光変調器から出力された位相変調後の前記レーザ光を前記集光ステップにより
前記被加工物の複数の照射点に集光させるホログラムを前記空間光変調器に呈示させるとともに、前記複数の照射点に含まれる少なくとも2つの前記照射点の光強度を互いに独立して制御し、前記被加工物の少なくとも一部の領域において、前記少なくとも2つの照射点の光強度を互いに異なら
せ、前記少なくとも2つの照射点それぞれにおける材質に応じて、前記少なくとも2つの照射点の光強度を互いに独立して制御することにより前記少なくとも2つの照射点において加工速度を揃える、レーザ加工方法。
【請求項8】
二次元配列された複数の画素それぞれにおいて光の位相を変調するホログラムを空間光変調器に呈示させる制御ステップと、
レーザ光源から出力されたレーザ光を前記空間光変調器に入力し、前記ホログラムにより前記レーザ光の位相変調を行う光変調ステップと、
位相変調後の前記レーザ光を集光する集光ステップと、
を繰り返し行い、
前記制御ステップでは、前記空間光変調器から出力された位相変調後の前記レーザ光を前記集光ステップにより被加工物の複数の照射点に集光させるホログラムを前記空間光変調器に呈示させるとともに、前記複数の照射点に含まれる少なくとも2つの前記照射点の光強度を互いに独立して制御し、
前記制御ステップにおいて、前記被加工物に照射される位相変調後の前記レーザ光の光軸と交差する第1の面内において前記複数の照射点により画成される被加工領域と、前記光軸と交差し前記第1の面から前記光軸の方向に離れている第2の面内において前記複数の照射点により画成される被加工領域との、形状及び大きさのうち少なくとも一方を互いに異ならせる、レーザ加工方法。
【請求項9】
観察光を前記被加工物に照射し、前記被加工物において反射した前記観察光を検出する光検出ステップを更に含み、
前記制御ステップにおいて、前記光検出ステップによる検出結果に基づいて各照射点における材質の変化を検出し、前記各照射点の光強度を前記材質の変化に応じて変更する、請求項
7または8に記載のレーザ加工方法。
【請求項10】
前記制御ステップの前に、前記被加工物の材質分布に応じた、各照射点の光強度に関するデータを予め記憶する記憶ステップを更に含み、
前記制御ステップにおいて、各照射点の光強度を前記データに基づいて制御する、請求項
7~
9のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項11】
前記制御ステップでは、前記複数の照射点により画成される被加工領域を画定する仮想線に沿って各照射点の位置を変更する複数のホログラムを前記空間光変調器に順次呈示させる、請求項
7~
10のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項12】
前記制御ステップでは、ホログラムを変更する際に、或るホログラムを消去してから別のホログラムを呈示するまでの間、前記レーザ光の光強度を前記被加工物のいずれの部位においても加工閾値未満とするホログラムを前記空間光変調器に呈示させる、請求項
7~
11のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザアブレーションによるレーザ加工方法に関する技術が開示されている。このレーザ加工方法では、ビームプロファイルを可変とするビーム成形装置を用い、被加工物の厚さ方向に並ぶ複数の処理面のそれぞれに対し、互いに異なる幾何学形状のビームプロファイルを有するレーザビームを照射する。
【0003】
特許文献2には、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する技術が開示されている。このレーザ加工方法では、レーザ光源から出射されたレーザ光を空間位相変調素子により位相変調して結像光学系に導き、該結像光学系によりレーザ光を被加工物に照射して、該被加工物を加工する。空間位相変調素子に入力される入力データとして、被加工物の加工形状を再生する像再生ホログラムデータと、所定加工位置に像再生を行う位置移動ホログラムデータとからなる合成データを用いる。そして、該合成データを順次変化させながら、被加工物にレーザ加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-521108号公報
【文献】特開2006-119427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ光源から出力されたレーザ光を集光光学系により集光して加工対象物に照射することにより該加工対象物を加工することができる。単にレンズを用いてレーザ光を集光する場合、レーザ光の集光位置を走査することによって、加工対象物を所望の形状に加工することができる。しかしながら、この場合には加工に長時間を要する。加工時間を短縮するために、例えば複数の照射点に対しレーザ光を同時に集光照射して多点同時加工を行うことが考えられる。そのための手法として、位相変調型の空間光変調器にホログラムを提示して、単一のレーザ光源から出力されたレーザ光を空間光変調器により位相変調し、その位相変調されたレーザ光を集光光学系により複数の照射点に同時に集光照射する手法がある。この場合、空間光変調器に提示されるホログラムは、集光光学系により複数の照射点にレーザ光が集光されるような位相変調分布を有する。
【0006】
上記のような手法においては、照射点の位置を自在に制御し、より複雑な加工を行うことが望まれている。本開示は、空間光変調器を用いてレーザ光を位相変調することにより複数の照射点に同時に集光照射を行うレーザ加工装置及びレーザ加工方法において、より複雑な加工を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係るレーザ加工装置は、レーザ光源から出力されたレーザ光を入力し、二次元配列された複数の画素それぞれにおいてレーザ光の位相を変調するホログラムを呈示して、ホログラムにより位相変調した後のレーザ光を出力する空間光変調器と、空間光変調器の後段に設けられた集光光学系と、空間光変調器から出力された位相変調後のレーザ光を集光光学系により被加工物の複数の照射点に集光させるホログラムを空間光変調器に呈示させる制御部と、を備える。制御部は、複数の照射点に含まれる少なくとも2つの照射点の光強度を互いに独立して制御する。
【0008】
一実施形態に係るレーザ加工方法は、二次元配列された複数の画素それぞれにおいて光の位相を変調するホログラムを空間光変調器に呈示させる制御ステップと、レーザ光源から出力されたレーザ光を空間光変調器に入力し、ホログラムによりレーザ光の位相変調を行う光変調ステップと、位相変調後のレーザ光を集光する集光ステップと、を繰り返し行い、制御ステップでは、空間光変調器から出力された位相変調後のレーザ光を集光ステップにより被加工物の複数の照射点に集光させるホログラムを空間光変調器に呈示させるとともに、複数の照射点に含まれる少なくとも2つの照射点の光強度を互いに独立して制御する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、空間光変調器を用いてレーザ光を位相変調することにより複数の照射点に同時に集光照射を行うレーザ加工装置及びレーザ加工方法において、より複雑な加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係るレーザ加工装置10の構成を示すブロック図である。
【
図2】(a)部は、集光光学系14を介して被加工物Wに照射された位相変調後のレーザ光La2を示す平面図である。(b)部は、(a)部の一部を拡大して示す図である。
【
図3】(a)部~(
e)部は、被加工領域Aの平面形状の例を示す図である。
【
図4】制御部18のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図5】(a)部は、材質が互いに異なる複数の領域Wa,Wb,Wcを含む被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図である。(b)部は、被加工物Wの光照射表面を示す平面図である。
【
図6】(a)部は、材質が互いに異なる複数の領域Wa,Wb,Wcを含む被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図である。(b)部は、被加工物Wの光照射表面を示す平面図である。
【
図7】(a)部は、材質が互いに異なる複数の領域Wd,Weを含む被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図である。(b)部、(c)部及び(d)部は、それぞれ(a)部のVIIb-VIIb線、VIIc-VIIc線及びVIId-VIId線に沿った断面図である。
【
図8】(a)部は、被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図である。(b)部は、被加工物Wに形成された孔Haを示す断面図である。
【
図9】(a)部、(b)部及び(c)部は、
図8の(a)部に示されるIXa-IXa線、IXb-IXb線、及びIXc-IXc線のそれぞれに沿った断面内の照射点SPの配置例を模式的に示している。
【
図10】(a)部、(b)部及び(c)部は、各断面内の照射点SPの別の配置例を模式的に示している。
【
図11】(a)部は、被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図である。(b)部は、被加工物Wに形成された孔Hbを示す断面図である。
【
図12】(a)部は、被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図である。(b)部は、被加工物Wに形成された孔Hcを示す断面図である。
【
図13】(a)部は、被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図である。(b)部は、被加工物Wに形成された孔Hc,Hdを示す断面図である。
【
図14】(a)部は、被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図である。(b)部は、被加工物Wに形成された孔Hc,Hd,Heを示す断面図である。
【
図15】(a)部は、2つの被加工領域Aの輪郭が曲率を有する場合に形成される貫通孔Hfの断面形状を示している。(b)部は、1つの被加工領域Aの輪郭が曲率を有する場合に形成される貫通孔Hgの断面形状を示している。
【
図16】(a)部は、レーザ光La2の照射により形成された孔Hhを示す断面図である。(b)部は、被加工物Wの一方の面W1における孔Hhの形状を示す平面図である。(c)部は、被加工物Wの他方の面W2における孔Hhの形状を示す平面図である。
【
図17】孔Hhを形成するための、レーザ光La2の光軸方向における被加工領域Aの形状の変化を概念的に示す図である。(a)部は、被加工物Wにレーザ光La2を照射するための構成の概略と、レーザ光La2の光軸方向における被加工物Wの断面とを示している。(b)部、(c)部、(d)部及び(e)部は、被加工物Wにおいて互いに異なる深さに位置する各面内の被加工領域Aの形状と、各面内の複数の照射点SPとを示している。
【
図18】
図17の(b)部に示された面に対応するホログラムの例を示す図である。(a)部は、
図17の(b)部に示された複数の照射点SPを示している。(b)部、(c)部及び(d)部は、(a)部に示される複数の照射点SPを実現するためのホログラムの例を示している。
【
図19】
図17の(c)部に示された面に対応するホログラムの例を示す図である。(a)部は、
図17の(c)部に示された複数の照射点SPを示している。(b)部、(c)部及び(d)部は、(a)部に示される複数の照射点SPを実現するためのホログラムの例を示している。
【
図20】
図17の(d)部に示された面に対応するホログラムの例を示す図である。(a)部は、
図17の(d)部に示された複数の照射点SPを示している。(b)部、(c)部及び(d)部は、(a)部に示される複数の照射点SPを実現するためのホログラムの例を示している。
【
図21】
図17の(e)部に示された面に対応するホログラムの例を示す図である。(a)部は、
図17の(e)部に示された複数の照射点SPを示している。(b)部、(c)部及び(d)部は、(a)部に示される複数の照射点SPを実現するためのホログラムの例を示している。
【
図22】レーザ光La2の照射点SPを被加工物Wよりもさらに遠くへ形成する様子を示す図である。
【
図23】一実施形態に係るレーザ加工方法を示すフローチャートである。
【
図24】記憶ステップS0を制御ステップS1の前に行う場合を示すフローチャートである。
【
図25】特許文献1に記載されたレーザ加工方法を説明するための図である。
【
図26】特許文献2に記載されたレーザ加工方法を説明するための図である。
【
図27】特許文献2に記載されたレーザ加工方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態に係るレーザ加工装置は、レーザ光源から出力されたレーザ光を入力し、二次元配列された複数の画素それぞれにおいてレーザ光の位相を変調するホログラムを呈示して、ホログラムにより位相変調した後のレーザ光を出力する空間光変調器と、空間光変調器の後段に設けられた集光光学系と、空間光変調器から出力された位相変調後のレーザ光を集光光学系により被加工物の複数の照射点に集光させるホログラムを空間光変調器に呈示させる制御部と、を備える。制御部は、複数の照射点に含まれる少なくとも2つの照射点の光強度を互いに独立して制御する。
【0012】
一実施形態に係るレーザ加工方法は、二次元配列された複数の画素それぞれにおいて光の位相を変調するホログラムを空間光変調器に呈示させる制御ステップと、レーザ光源から出力されたレーザ光を空間光変調器に入力し、ホログラムによりレーザ光の位相変調を行う光変調ステップと、位相変調後のレーザ光を集光する集光ステップと、を繰り返し行い、制御ステップでは、空間光変調器から出力された位相変調後のレーザ光を集光ステップにより被加工物の複数の照射点に集光させるホログラムを空間光変調器に呈示させるとともに、複数の照射点に含まれる少なくとも2つの照射点の光強度を互いに独立して制御する。
【0013】
上記のレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、制御部が(又は制御ステップにおいて)、複数の照射点に含まれる少なくとも2つの照射点の光強度を互いに独立して制御する。この場合、被加工物の部位による材質の違い、すなわち同一強度のレーザ光に対する加工速度の違いが存在するときに、各部位に対応する各照射点において適切な光強度でもってレーザ光を照射することができる。したがって、2種類以上の材質からなる被加工物を複雑な形状に加工することが容易にできる。或いは、被加工領域が単一の材質からなる場合であっても、照射点毎に独立して光強度を制御することによって、被加工物の除去率(除去量)を被加工領域の部分毎に独立して制御でき、より複雑な形状を実現できる。
上記のレーザ加工装置及びレーザ加工方法において、制御部は(制御ステップでは)、被加工物の少なくとも一部の領域において、少なくとも2つの照射点の光強度を互いに異ならせてもよい。また、被加工物は2種類以上の材質を含み、制御部は(制御ステップでは)、複数の照射点それぞれにおける材質に応じて、複数の照射点の光強度を互いに独立して制御してもよい。
【0014】
上記のレーザ加工装置は、観察光を被加工物に照射する観察用光源と、被加工物において反射した観察光を検出する光検出器と、を更に備え、制御部は、光検出器による検出結果に基づいて各照射点における材質の変化を検出し、各照射点の光強度を材質の変化に応じて変更してもよい。同様に、上記のレーザ加工方法は、観察光を被加工物に照射し、被加工物において反射した観察光を検出する光検出ステップを更に含み、制御ステップにおいて、光検出ステップによる検出結果に基づいて各照射点における材質の変化を検出し、各照射点の光強度を材質の変化に応じて変更してもよい。これらの場合、加工精度をより高めることができる。
【0015】
上記のレーザ加工装置は、被加工物の材質分布に応じた、各照射点の光強度に関するデータを予め記憶する記憶部を更に備え、制御部は、各照射点の光強度をデータに基づいて制御してもよい。同様に、上記のレーザ加工方法は、制御ステップの前に、被加工物の材質分布に応じた、各照射点の光強度に関するデータを予め記憶する記憶ステップを更に含み、制御ステップにおいて、各照射点の光強度をデータに基づいて制御してもよい。これらの場合、各照射点に必要な光強度を素早く得ることができるので、ホログラムの変更時間を短縮できる。
【0016】
上記のレーザ加工装置において、制御部は、被加工物に照射される位相変調後のレーザ光の光軸と交差する第1の面内において複数の照射点により画成される被加工領域と、光軸と交差し第1の面から光軸の方向に離れている第2の面内において複数の照射点により画成される被加工領域との、形状及び大きさのうち少なくとも一方を互いに異ならせてもよい。同様に、上記のレーザ加工方法の制御ステップにおいて、被加工物に照射される位相変調後のレーザ光の光軸と交差する第1の面内において複数の照射点により画成される被加工領域と、光軸と交差し第1の面から光軸の方向に離れている第2の面内において複数の照射点により画成される被加工領域との、形状及び大きさのうち少なくとも一方を互いに異ならせてもよい。このように、光軸方向に離れた複数の面毎に被加工領域の形状及び/又は大きさを変化させることにより、光軸方向に垂直な断面の形状を自在に設定するような、従来より複雑な加工を行うことが可能となる。
【0017】
上記のレーザ加工装置において、制御部は、複数の照射点により画成される被加工領域を画定する仮想線に沿って各照射点の位置を変更する複数のホログラムを空間光変調器に順次呈示させてもよい。同様に、上記のレーザ加工方法の制御ステップにおいて、複数の照射点により画成される被加工領域を画定する仮想線に沿って各照射点の位置を変更する複数のホログラムを空間光変調器に順次呈示させてもよい。これらの場合、各照射点に対して十分な光強度を与えつつ、単一のホログラムによりレーザ光を一度に照射する場合と比較してレーザ光源に必要な出力パワーを低減でき、レーザ光源の小型化に寄与できる。
【0018】
上記のレーザ加工装置において、制御部は、ホログラムを変更する際に、或るホログラムを消去してから別のホログラムを呈示するまでの間、レーザ光の光強度を被加工物のいずれの部位においても加工閾値未満とするホログラムを空間光変調器に呈示させてもよい。同様に、上記レーザ加工方法の制御ステップにおいて、ホログラムを変更する際に、或るホログラムを消去してから別のホログラムを呈示するまでの間、レーザ光の光強度を被加工物のいずれの部位においても加工閾値未満とするホログラムを空間光変調器に呈示させてもよい。この場合、シャッタ等の機械的手段によりレーザ光を遮断する場合と比較して、レーザ加工装置の構成を簡素化することができる。
【0019】
以上に説明した本開示のレーザ加工装置及びレーザ加工方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本開示の一実施形態に係るレーザ加工装置10の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態のレーザ加工装置10は、レーザ光源11と、空間光変調器12と、ダイクロイックミラー13と、集光光学系14と、駆動部15と、観察用光源16と、光検出器17と、制御部18と、を備える。レーザ光源11は、1ピコ秒以下(例えば数フェムト秒)の時間幅を有するパルス状のレーザ光La1を出力する。レーザ光源11から出力されるレーザ光La1の波長は、例えば250nm以上2500nm以下であって、一実施例では1030nmである。また、レーザ光源11から出力されるレーザ光La1のパワーは、例えば0.01W以上1000W以下であって、一実施例では1Wである。レーザ光源11は、例えばYb:YAG結晶やYb:KGW結晶をレーザ媒質として有する固体レーザ、又は半導体レーザにより励起されたYb添加光ファイバーレーザーである。
【0021】
空間光変調器12は、レーザ光源11と光学的に結合されており、レーザ光源11から出力されたレーザ光La1を入力する。空間光変調器12とレーザ光源11との光学的な結合は、例えば空間的な結合である。空間光変調器12は、二次元配列された複数の画素を有し、該複数の画素にホログラムを呈示することにより、各画素ごとに独立してレーザ光La1の位相を変調する。空間光変調器12は、例えば液晶型の構成を有する。空間光変調器12が液晶型である場合、二次元配列された複数の画素電極に対し、ホログラムを構成する個別の電圧を印加する。これにより、液晶層にかかる電界の大きさを画素電極ごとに制御する。各画素の液晶層における光路長は、電界の大きさに応じて変化する。故に、各画素ごとに独立してレーザ光La1の位相を変調することができる。空間光変調器12は、透過型であってもよく、反射型であってもよい。また、空間光変調器12の方式は液晶型に限られず、種々の方式の空間光変調器を適用してよい。空間光変調器12は、ホログラムにより位相変調した後のレーザ光La2を出力する。
【0022】
ダイクロイックミラー13は、或る波長範囲に含まれる光を透過し、別の波長範囲に含まれる光を反射する光学素子である。ダイクロイックミラー13の一方の面は、空間光変調器12と光学的に結合されている。空間光変調器12からダイクロイックミラー13に到達した変調後のレーザ光La2は、ダイクロイックミラー13により反射(または透過)し、被加工物Wへ向かう。ダイクロイックミラー13は、例えばショートパスダイクロイックミラーである。レーザ光La2は、空間光変調器12の後段(より正確にはダイクロイックミラー13の後段)に設けられた集光光学系14を通過して、被加工物Wに達する。集光光学系14は、例えばガラス製のレンズであって、ダイクロイックミラー13を介して空間光変調器12と光学的に結合されている。空間光変調器12、ダイクロイックミラー13及び集光光学系14の光学的な結合は、例えば空間的な結合である。集光光学系14は、ダイクロイックミラー13と被加工物Wとの間の光路上に配置されている。
【0023】
駆動部15は、空間光変調器12の各画素電極と電気的に接続されており、ホログラムを空間光変調器12に呈示させるための駆動電圧Vdを各画素電極に提供する。駆動部15は、各画素電極に電気的に接続された複数の電圧発生回路を有する。各電圧発生回路は、トランジスタを含む増幅回路を有する。
【0024】
制御部18は、駆動部15と電気的に接続されている。制御部18は、ホログラムを作成するか又は記憶部から読み出し、ホログラムの2次元データを駆動部15に提供する。駆動部15は、該ホログラムに基づくアナログ信号である駆動信号を画素毎に生成する。駆動部15の各増幅回路は、駆動信号を増幅することにより駆動電圧Vdを生成する。ここで、
図2の(a)部は、集光光学系14を介して被加工物Wに照射された位相変調後のレーザ光La2を示す平面図である。また、
図2の(b)部は、(a)部の一部を拡大して示す図である。
図2の(a)部に示すように、制御部18は、空間光変調器12から出力された位相変調後のレーザ光La2を、集光光学系14により被加工物Wの複数の照射点SPに集光させるためのホログラムを生成し、該ホログラムを空間光変調器12に呈示させる。複数の照射点SPは、被加工物Wにおける被加工領域Aを画定する。すなわち、複数の照射点SPは、閉じた仮想線B上において間隔をあけて並んでおり、被加工領域Aは、仮想線Bによって画定される。また、制御部18は、仮想線Bに沿って各照射点SPの位置を変更する複数のホログラムを、空間光変調器12に順次呈示させる。これにより、
図2の(b)部に示すように、各照射点SPは仮想線B上を離散的に移動する。
【0025】
複数の照射点SPによって画定される被加工領域Aの平面形状(レーザ光La2の光軸に垂直な平面内での形状)は、加工の目的等に応じて様々に設定される。
図3は、被加工領域Aの平面形状の例を示す図である。被加工領域Aは、
図3の(a)部に示すように円形であってもよく、(b)部に示すように楕円形であってもよく、(c)部に示すように三角形であってもよく、(d)部に示すように四角形であってもよく、(e)部に示すように任意の多角形であってもよい。
【0026】
また、制御部18は、複数の照射点SPに含まれる少なくとも2つの照射点SPの光強度(単位:W/cm2、エネルギー密度(単位:J/cm2)と言い換えてもよい)を、互いに独立して制御する。一例では、制御部18は、全ての照射点SPの光強度をそれぞれ独立して制御する。各照射点SPの光強度は、例えば各照射点SPにおける被加工物Wの材質の加工速度及び/または他の要因によって決定される。例えば、レーザ光La2に対して加工速度が速い(すなわち加工容易な)材質の場合は、光強度を小さくして加工速度を遅くする。また、レーザ光La2に対して加工速度が遅い(すなわち加工が難しい)材質の場合は、光強度を大きくして加工速度を速める。こうして、加工速度が異なる材質が被加工物Wの光照射表面内又は断面内に混在している場合であっても、複数の照射点SPにおいて加工速度を揃えることができる。或いは、熱による影響が大きい材質に対しては、光強度を小さくして熱の影響が及ぶ領域を最小化することができる。
【0027】
また、制御部18は、複数の照射点SPの光強度及び照射時間(言い換えると、ホログラム呈示時間)のうち少なくとも一方を、被加工物Wにおける複数の照射点SPの深さ位置に応じて制御する。例えば、被加工物Wの光照射表面を加工する場合に比べて深い部分を加工する時には、その直前のレーザ光La2の照射の際に残存したデブリ等がレーザ光La2の照射を妨げるので、加工速度が低下する。したがって、被加工物Wにおける深い部分ほど複数の照射点SPの光強度を大きくし、及び/又は照射時間を長くすることにより、加工速度及び加工品質が向上する。また、被加工物Wが、互いに材質が異なる複数の層から構成されている場合(例えば半導体やプリント配線基板など)には、ホログラムの変更周期や呈示時間を制御することにより、各層に適した条件でレーザ加工を行うことができる。
【0028】
なお、本実施形態において加工対象となる被加工物Wは、例えば、ガラス、半導体、金属(鉄鋼材料、非鉄金属、合金など)、複合材(炭素繊維強化プラスチックCFRPなど)といった種々の物質により構成され得る。
【0029】
再び
図1を参照する。観察用光源16は、観察光Lbを被加工物Wに照射するためのレーザ光源である。観察用光源16から出力される観察光Lbの波長は、レーザ光La1及びLa2の波長とは異なる。観察光Lbの波長は、例えば800nm以上980nm以下であって、一実施例では808nmである。観察用光源16は、例えばAl(In)GaAs系、又はInGaAsP系の半導体レーザである。観察用光源16は、ダイクロイックミラー13の他方の面と光学的に結合されている。観察用光源16からダイクロイックミラー13に到達した観察光Lbは、ダイクロイックミラー13を透過(または反射)し、レーザ光La2と平行な光路でもって被加工物Wへ向かい、被加工物Wに照射される。なお、図では観察光Lbの光軸とレーザ光La2の光軸とが並んで描かれているが、観察光Lbの光軸とレーザ光La2の光軸とは互いに一致していてもよい。被加工物Wにおける観察光Lbの照射領域は、例えば
図2の(a)に示された被加工領域Aを内含する。
【0030】
観察光Lbの一部は、被加工物Wに到達すると反射光Lcとなり、被加工物Wから出射する。反射光Lcの波長は観察光Lbの波長と同じであるため、反射光Lcはダイクロイックミラー13を透過する。光検出器17は、ダイクロイックミラー13の他方の面と光学的に結合されており、反射光Lcを、ダイクロイックミラー13を介して検出する。光検出器17は、2次元画像検出器や3次元情報を取得する検出器である。後者の場合、光検出器17は例えば干渉計測光学系を有する。その場合、光検出器17は、観察用光源16から出力された観察光Lbの一部を分岐して(或いは観察用光源16としての半導体レーザの背面光を)取得し、該観察光Lbの一部(若しくは背面光)と反射光Lcとを互いに干渉させることにより干渉光像を検出する。光検出器17は、制御部18と電気的に接続されており、検出結果に関する電気的な信号Saを制御部18に提供する。なお、本実施形態において用いられる干渉計測の例に関しては、文献「F. Mezzapesa et al., “High-resolution monitoring of the hole depthduring ultrafast laser ablation drilling by diode laser self-mixinginterferometry”, Opt. Lett. 36, 822-824 (2011)」に記載されている。
【0031】
制御部18は、光検出器17からの検出結果に基づいて、各照射点SPにおける加工状態を判断する。そして、制御部18は、空間光変調器12に呈示させるホログラムを、加工状態に応じて制御する。ここでいうホログラムの制御とは、例えばホログラムの呈示時間の制御、適切なホログラムへの変更等である。
【0032】
ここで、
図4は、制御部18のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4に示すように、制御部18は、CPU181、RAM182、ROM183、入力装置184、ディジタル/アナログ変換器185、及び補助記憶装置186、ディスプレイ出力装置187等のハードウェアを備えるコンピュータを含むものとして構成される。制御部18は、補助記憶装置186に予め記憶されたプログラム等によりこれらの構成要素が動作することによって、上述した機能を実現する。
【0033】
以下、本実施形態のレーザ加工装置10による加工の例を説明する。
図5及び
図6の(a)部は、材質が互いに異なる複数の領域Wa,Wb,Wcを含む被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図であって、レーザ光La2の光軸に沿った(言い換えると、被加工物Wの厚み方向に沿った)断面を示している。
図5及び
図6の(b)部は、被加工物Wの光照射表面を示す平面図である。これらの例では、領域Wa,Wb,Wcがレーザ光La2の光軸方向(被加工物Wの厚み方向)と交差する方向に並んでおり、領域Wa,Wb,Wcの境界線が光照射表面に露出している。同一の光強度のレーザ光La2に対する、各領域Wa,Wb,Wcの材質の加工速度はそれぞれ異なる。具体的には、同一の光強度のレーザ光La2に対して、領域Waの加工速度が最も遅く、領域Wcの加工速度が最も速い。
【0034】
図5に示す例では、各領域Wa,Wb,Wcのそれぞれに対して互いに独立した3つの被加工領域Aを設定している。そして、1つの被加工領域Aを画定する複数の照射点SPを領域Waに形成し、別の被加工領域Aを画定する複数の照射点SPを領域Wbに形成し、更に別の被加工領域Aを画定する複数の照射点SPを領域Wcに形成する。
図6に示す例では、領域Wa及びWbを跨ぐ被加工領域Aと、領域Wb及びWcを跨ぐ別の被加工領域Aとを設定している。そして、一方の被加工領域Aの一部を画定する複数の照射点SPを領域Waに形成し、一方の被加工領域Aの残部を画定する複数の照射点SPと、他方の被加工領域Aの一部を画定する複数の照射点SPとを領域Wbに形成し、他方の被加工領域Aの残部を画定する複数の照射点SPを領域Wcに形成する。
【0035】
この場合、
図5及び
図6の(b)部に示すように、領域Waに形成される照射点SPの光強度が最も大きく、領域Wcに形成される照射点SPの光強度が最も小さくなるように、空間光変調器12に呈示するホログラムを制御部18が制御する。なお、
図5及び
図6の(b)部において、各照射点SPの光強度を、色の濃淡により表現している。色が濃いほど光強度が大きく、色が淡いほど光強度が小さい。これにより、各領域Wa,Wb,Wcにおける照射点SPの加工速度を互いに近づけ、加工深さを均一にすることができる。理想的には、各照射点SPにおける加工速度が互いに等しくなるように、各照射点SPの光強度の相対関係が調整される。
【0036】
図5及び
図6に示した例では、
図1に示した光検出器17における検出結果に基づいて、各照射点SPにおける材質を制御部18が検出してもよい。観察光Lbに対する反射率は材質に依存するので、観察光Lbと反射光Lcとの強度比に基づいて、各照射点SPにおける材質を知ることができる。したがって、領域Wa,Wb,Wcの境界を検出することができる。そして、領域Wa,Wb,Wcのそれぞれに対応する照射点SPの各光強度を実現するホログラムを、空間光変調器12に呈示させるとよい。言い換えると、この例では、各照射点SPの光強度を互いに独立して設定するためのホログラムを、光検出器17における検出結果に基づいて制御部18が生成するとよい。
【0037】
或いは、領域Wa,Wb,Wcの分布に応じた、各照射点SPの光強度に関するデータを、記憶部(例えば
図4に示したROM183又は補助記憶装置186)に予め記憶させてもよい。この場合、制御部18は、各照射点SPの光強度を、当該データに基づいて制御することができる。
【0038】
図7の(a)部は、材質が互いに異なる複数の領域Wd,Weを含む被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図であって、レーザ光La2の光軸に沿った(言い換えると、被加工物Wの厚み方向に沿った)断面を示している。
図7の(b)部、(c)部及び(d)部は、それぞれ(a)部のVIIb-VIIb線、VIIc-VIIc線及びVIId-VIId線に沿った断面図であって、レーザ光La2の光軸に垂直な断面を示している。この例では、領域Wd,Weがレーザ光La2の光軸方向に並んでおり、且つ、領域Wd,Weの境界面は、レーザ光La2の光軸方向に垂直な仮想平面に対して傾斜している。同一の光強度のレーザ光La2に対する、各領域Wd,Weの材質の加工速度はそれぞれ異なる。具体的には、同一の光強度のレーザ光La2に対して、領域Wdの加工速度は、領域Weの加工速度よりも遅い。
【0039】
この例では、被加工物Wに対して被加工領域Aを設定し、被加工領域Aを画定する複数の照射点SPを被加工物Wに形成する。なお、
図7の(b)部、(c)部及び(d)部においても、各照射点SPの光強度を、色の濃淡により表現している。色が濃いほど光強度が大きく、色が淡いほど光強度が小さい。最初、
図7の(b)部に示すタイミングでは、領域Wdにおける各照射点SPの加工速度が任意の速度になるように、空間光変調器12に呈示するホログラムを制御部18が制御する。或る深さまで加工が進むと、
図7の(c)部に示すように、被加工領域Aが領域Wdと領域Weとを跨ぐ。このとき、領域We内に位置する照射点SPの光強度が、領域Wd内に位置する照射点SPの光強度よりも小さくなるように、空間光変調器12に呈示するホログラムを制御部18が制御する。更に加工が進むと、被加工領域Aにおいて領域Weが占める割合が次第に大きくなり、最終的に、
図7の(d)部に示すように被加工領域Aには領域Weのみが含まれる。このとき、領域Weにおける各照射点SPの加工速度が任意の速度になるように、空間光変調器12に呈示するホログラムを制御部18が制御する。
【0040】
この例では、領域Wdに形成される照射点SPの光強度が、領域Weに形成される照射点SPの光強度よりも大きくなるように、制御部18がホログラムを制御する。これにより、被加工領域A内に領域Wd,Weが混在するタイミング(
図7の(c)部)において、各領域Wd,Weにおける照射点SPの加工速度を互いに近づけ、加工深さを均一にすることができる。理想的には、各照射点SPにおける加工速度が深さ方向に均等になるように、各照射点SPの光強度が調整される。
【0041】
図7に示した例では、
図1に示した光検出器17における検出結果に基づいて、各照射点SPにおける材質の変化を制御部18が検出してもよい。観察光Lbに対する反射率は材質に依存するので、各照射点SPにおける材質が変化すると、観察光Lbと反射光Lcとの強度比が変化する。したがって、領域Wdから領域Weへの材質の変化を検出することができる。そして、この変化のタイミングにおいて、領域Wdから領域Weへ変化した照射点SPについて光強度を変更するホログラムを、空間光変調器12に呈示させるとよい。言い換えると、この例では、各照射点SPの光強度を変更するためのホログラムの変更タイミングを、光検出器17における検出結果に基づいて判断するとよい。
【0042】
或いは、被加工物Wの材質分布に応じた、各照射点SPの光強度に関するデータを、記憶部(例えば
図4に示したROM183又は補助記憶装置186)に予め記憶させてもよい。この場合、制御部18は、各照射点SPの光強度を当該データに基づいて制御することができる。
【0043】
図8の(a)部は、被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図であって、レーザ光La2の光軸に沿った断面を示している。
図8の(b)部は、被加工物Wに形成された孔Haを示す断面図である。
図8に示す例では、被加工領域Aの大きさが、被加工物Wの光照射表面W1からその反対側の面W2にわたって、レーザ光La2の光軸方向に連続的に変化している。ここで、被加工領域Aの大きさが連続的に変化するとは、レーザ光La2の光軸方向に沿った断面において被加工領域Aの輪郭に段差が生じないことをいう。この例では、レーザ光La2の光軸方向(被加工物Wの深さ方向)に加工が進むにしたがって、ホログラムを順次切り換える。各ホログラムは、レーザ光La2の光軸と交差する面内における被加工領域Aの大きさ及び形状を実現するためのホログラムと、当該面の光軸方向位置に関するホログラムとが重畳されて成る。
【0044】
図9の(a)部、(b)部及び(c)部は、
図8の(a)部に示されるIXa-IXa線、IXb-IXb線、及びIXc-IXc線のそれぞれに沿った断面内の照射点SPの配置例を模式的に示している。この例では、レーザ光La2の光軸方向と垂直な断面における被加工領域Aの形状が円形とされている。また、
図10の(a)部、(b)部及び(c)部は、当該各断面内の照射点SPの別の配置例を模式的に示している。この例では、レーザ光La2の光軸方向と垂直な断面における被加工領域Aの形状が任意の複雑な多角形とされている。
図9及び
図10に示される各照射点SPは、
図8の(a)に示される被加工領域Aを画定する。なお、レーザ光La2の光軸方向と垂直な断面における被加工領域Aの形状は、
図9及び
図10の例に限られず、他の様々な形状とすることが可能である。
【0045】
図8に示した例において見方を変えると、制御部18は、光軸の方向に互いに離れているIXa-IXa断面及びIXb-IXb断面において、被加工領域Aの大きさを互いに異ならせる。この場合、IXa-IXa断面及びIXa-IXa断面のうち一方が本実施形態における第1の面に相当し、他方が本実施形態における第2の面に相当する。また、別の見方をすると、制御部18は、光軸の方向に互いに離れているIXb-IXb断面及びIXc-IXc断面において、被加工領域Aの大きさを互いに異ならせる。この場合、IXb-IXb断面及びIXc-IXc断面のうち一方が本実施形態における第1の面に相当し、他方が本実施形態における第2の面に相当する。なお、この例においても、制御部18は、各断面において、被加工領域Aを確定する仮想線B(
図2の(b)部を参照)に沿って各照射点SPの位置を変更する複数のホログラムを、空間光変調器12に順次呈示させる。これにより、各照射点SPは被加工領域Aの輪郭線上を離散的に移動する。
【0046】
制御部18は、光検出器17による検出結果に基づいて各照射点SPにおける加工状態を判断し、上記各断面におけるホログラムの呈示時間を、該加工状態に応じて制御してもよい。加工状態とは、例えば、各照射点SPにおける加工速度(言い換えると、加工の進み具合)等である。
【0047】
被加工物Wがレーザ光La2に対して光透過性を有する場合、
図8に示すように、被加工物Wの光照射表面W1に対して逆テーパ状の(面W2に対してテーパ状の)被加工領域Aを設定してもよい。言い換えると、IXa-IXa断面及びIXb-IXb断面(またはIXb-IXb断面及びIXc-IXc断面)のうち被加工物Wの光照射表面W1からの距離が遠い一方の断面における被加工領域Aの面積が、他方の断面における被加工領域Aの面積よりも大きくてもよい。この場合、各照射点SPにレーザ光La2を集光する
ホログラムを制御部18が空間光変調器12に呈示させることにより、被加工領域Aの輪郭部分が切断され、被加工領域Aが被加工物Wから下方へ抜け落ちる。これにより、
図8の(b)部に示すように、光照射表面W1に対して逆テーパ状の貫通孔である孔Haが被加工物Wに形成される。
【0048】
被加工物Wが、レーザ光La2に対して光透過性を有する例えばガラスといった材料からなる場合、被加工物Wの光照射表面W1とは反対側の面W2の側から光照射表面W1に向かって順次加工するとよい。レーザ光La2の集光点においてのみ光強度を加工閾値より大きくし、被加工物Wにおける他の領域(光照射表面W1と集光点との間の領域)においては光強度を加工閾値より小さくすることによって、このような加工が可能である。この場合、レーザ加工により生じる剰余物(デブリや破片)を、下方に落下させながらレーザ加工を行うことができるので、剰余物によりレーザ光La2の照射が妨げられる程度が低減される。
【0049】
図11の(a)部は、被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図であって、レーザ光La2の光軸に沿った断面を示している。
図11の(b)部は、被加工物Wに形成された孔Hbを示す断面図である。
図11に示す例では、
図8に示す例と同様に、レーザ光La2の光軸に垂直な断面における被加工領域Aの大きさが、被加工物Wの光照射表面W1からその反対側の面W2にわたって、レーザ光La2の光軸方向に連続的に変化している。具体的には、当該断面における被加工領域Aの大きさが、光照射表面W1から離れるほど次第に大きくなっている。但し、
図11に示す例では、レーザ光La2の光軸に沿った断面における被加工領域Aの輪郭が、
図8のような直線状ではなく、内側に凸の曲率を有する形状(例えば円弧状)となっている。この場合においても、各照射点SPにレーザ光La2を集光する
ホログラムを制御部18が空間光変調器12に呈示させることにより、被加工領域Aの輪郭部分が切断され、被加工領域Aが被加工物Wから下方へ抜け落ちる。これにより、
図11の(b)部に示すように、光照射表面W1に対して逆テーパ状の貫通孔である孔Hbが被加工物Wに形成される。
【0050】
図12、
図13および
図14の(a)部は、被加工物Wに対してレーザ光La2を照射する様子を示す断面図であって、レーザ光La2の光軸に沿った断面を示している。
図12、
図13および
図14の(b)部は、被加工物Wに形成された孔Hc,Hd,Heを示す断面図である。この例では、まず、
図12の(a)部に示されるように、レーザ光La2の光軸方向における被加工物Wの略中心部から一方の面W3に達するテーパ状の被加工領域Aを設定する。そして、面W3とは反対側の他方の面W4からレーザ光La2を照射し、
図8に示された例と同様にして被加工領域Aの輪郭部分を切断することにより、
図12の(b)部に示される孔Hcを形成する。孔Hcは、被加工物Wの略中心部から一方の面W3に達するテーパ状(すり鉢状)の凹部である。次に、
図13の(a)部に示されるように、被加工物Wを上下反転し、レーザ光La2の光軸方向における被加工物Wの略中心部から他方の面W4に達するテーパ状の別の被加工領域Aを設定する。そして、一方の面W3からレーザ光La2を照射し、
図8に示された例と同様にして当該被加工領域Aの輪郭部分を切断することにより、
図13の(b)部に示される孔Hdを形成する。孔Hdは、被加工物Wの略中心部から他方の面W4に達するテーパ状(すり鉢状)の凹部である。最後に、
図14の(a)部に示されるように、孔Hcと孔Hdとを繋ぐ更に別の被加工領域Aを設定する。そして、面W3又はW4からレーザ光La2を照射し、
図8に示された例と同様にして当該被加工領域Aの輪郭部分を切断することにより、
図14の(b)部に示される孔Heを形成する。こうして、被加工物Wの一方の面W3と他方の面W4との間を貫通する孔が形成される。
【0051】
なお、上記の例では、レーザ光La2の光軸に沿った断面における各被加工領域Aの輪郭が直線状とされているが、これらのうち少なくとも1つが曲率を有してもよい。
図15の(a)部は、2つの被加工領域Aが曲率を有する場合に形成される貫通孔Hfの断面形状を示している。貫通孔Hfは、被加工物Wの略中心部から面W3に達する孔Hfaと、被加工物Wの略中心部から面W4に達する孔Hfbとが連通して成る。レーザ光La2の光軸に垂直な断面における孔Hfaの大きさは、被加工物Wの略中心部から面W3に近づくにつれて次第に大きくなる。レーザ光La2の光軸に垂直な断面における孔Hfbの大きさは、被加工物Wの略中心部から面W4に近づくにつれて次第に大きくなる。そして、これらの孔Hfa,Hfbの側面は、被加工物Wの厚さ方向に沿った断面において内側に凸の曲率を有する。
【0052】
また、
図15の(b)部は、1つの被加工領域Aの輪郭が曲率を有する場合に形成される貫通孔Hgの断面形状を示している。貫通孔Hgは、被加工物Wの略中心部から面W3に達する孔Hgaと、被加工物Wの略中心部から面W4に達する孔Hgbとが連通して成る。レーザ光La2の光軸に垂直な断面における孔Hgaの大きさは、被加工物Wの略中心部から面W3に近づくにつれて次第に大きくなる。そして、孔Hgaの側面は、被加工物Wの厚さ方向に沿った断面において内側に凸の曲率を有する。孔Hgbは、
図12に示された孔Hc、及び
図13に示された孔Hdと同様に、面W4から見てテーパ状(すり鉢状)を呈している。
【0053】
図16の(a)部は、レーザ光La2の照射により形成された孔Hhを示す断面図であって、被加工物Wの厚さ方向に沿った断面を示している。
図16の(b)部は、被加工物Wの光照射表面W1における孔Hhの形状を示す平面図であり、
図16の(c)部は、被加工物Wの光照射表面W1とは反対側の面W2における孔Hhの形状を示す平面図である。この例では、光照射表面W1(レーザ光La2の光軸と交差する第1の面)における孔Hhの形状と、光照射表面W1とは反対側の面W2(第1の面から光軸の方向に離れた第2の面)における孔Hhの形状とが互いに異なる。図示例では、光照射表面W1における孔Hhの形状は円形であり、反対側の面W2における孔Hhの形状は正三角形である。このような孔Hhは、制御部18が、光照射表面W1及び面W2の各面内において複数の照射点により画成される被加工領域Aの形状を互いに異ならせることにより好適に形成され得る。一例では、被加工物Wの厚さ方向に垂直な孔Hhの断面形状は、被加工物Wの厚さ方向に沿って連続的に変化する。
【0054】
図17は、
図16に示された孔Hhを形成するための、レーザ光La2の光軸方向における被加工領域Aの形状の変化を概念的に示す図である。
図17の(a)部は、被加工物Wにレーザ光La2を照射するための構成の概略と、レーザ光La2の光軸方向における被加工物Wの断面とを示している。
図17の(b)部、(c)部、(d)部及び(e)部は、被加工物Wにおいて互いに異なる深さに位置する各面内の被加工領域Aの形状と、各面内の複数の照射点SPとを示している。
図17の(b)部に示されるように光照射表面W1における被加工領域Aの形状は円形であるが、
図17の(c)部ないし(e)部に示されるように、光照射表面W1から光軸方向に離れるに従い、被加工領域Aの形状は次第に円形から三角形に近づく。最終的に、面W2における被加工領域Aの形状は三角形となる。なお、前述したように、被加工物Wが光透過性を有する場合には、面W2側から光照射表面W1に向かって加工を行うとよい。
【0055】
図18~
図21は、
図17の(b)部~(e)部に示された各面に対応するホログラムの例を示す図である。
図18~
図21の(a)部は、それぞれ
図17の(b)部~(e)部に示された複数の照射点SPを示している。
図18~
図21の(b)部、(c)部及び(d)部は、それぞれの(a)部に示される複数の照射点SPを実現するためのホログラムの例を示している。なお、
図18~
図21の(b)部、(c)部及び(d)部においては、位相の大きさを色の濃淡で示し、色が濃いほど位相が小さく(0ラジアンに近く)、色が淡いほど位相が大きい(2πラジアンに近い)。また、
図18~
図21の各図において、(b)部、(c)部及び(d)部は、被加工領域Aの輪郭線(
図2に示された仮想線B)に沿って各照射点SPの位置を変更するための複数のホログラムを示している。図中の矢印により示されるように、制御部18は、(b)部、(c)部及び(d)部に示された各ホログラムを空間光変調器12に対して周期的に繰り返し呈示させることによって、各照射点SPの位置を被加工領域Aの輪郭線に沿って移動させつつ加工を行う。
【0056】
ここで、
図7~
図17に示された各加工例においては、レーザ加工の途中においてホログラムの変更が必要となる。そして、ホログラムを変更する際、次に呈示するホログラムを記憶部(例えば
図4に示したROM183又は補助記憶装置186)から呼び出したり、あるいは光検出器17における検出結果に基づいて次に呈示するホログラムを計算により生成するための時間が必要となる。制御部18は、或るホログラムを消去してから別のホログラムを呈示するまでの間、レーザ光La2の光強度を被加工物Wのいずれの部位においても加工閾値未満とするホログラムを空間光変調器12に呈示させる。例えば、
図22に示されるように、制御部18は、レーザ光La2の照射点SPを被加工物Wよりもさらに遠くへ形成するようなホログラムを、空間光変調器12に呈示させてもよい。これにより、レーザ光源11がオフ状態とされたのと等価な作用を実現することができる。
【0057】
また、
図8~
図17に示された各加工例にてレーザ光La2の光軸方向に並ぶ各面内においても、
図5~
図7に示された各加工例と同様に、制御部18が、複数の照射点SPの光強度を、照射点SP毎に独立して制御してもよい。また、制御部18は、光軸方向に並ぶ各面内における照射点SPの光強度を、各面ごとに独立して制御してもよい。例えば、
図8~
図10に示した例において、IXa-IXa断面、IXb-IXb断面及びIXc-IXc断面における照射点SPの光強度は、各断面における材質(又は加工速度)に応じて、各断面毎に独立して設定されてもよい。また、各断面毎の照射時間も独立に設定されてもよい。
【0058】
図23は、本実施形態に係るレーザ加工方法を示すフローチャートである。このレーザ加工方法は、上述したレーザ加工装置10を用いて行うことができる。
図23に示されるように、まず、制御ステップS1として、二次元配列された複数の画素それぞれにおいて光の位相を変調するホログラムを空間光変調器12に呈示させる。次に、光変調ステップS2として、レーザ光源11から出力されたレーザ光La1を空間光変調器12に入力し、ホログラムによりレーザ光La1の位相変調を行う。そして、集光ステップS3として、位相変調後のレーザ光La2を、集光光学系14を用いて集光する。先の制御ステップS1では、位相変調後のレーザ光La1を集光ステップS3により被加工物Wの複数の照射点SPに集光させるホログラムを、空間光変調器12に呈示させる。これにより、被加工物Wに対して複数の照射点SPが形成され、各照射点SPにおいて被加工物Wの加工(溶融、クラックの発生、切断等)が進行する。そして、光検出ステップS4として、レーザ光La2の波長とは異なる波長を有する観察光Lbを被加工物Wに照射し、被加工物Wにおいて反射した観察光(反射光Lc)を検出する。以降、ホログラムを変更しながら、ステップS1~S4を繰り返し行う。制御ステップS1では、
図2に示したように、被加工領域Aを画定する仮想線Bに沿って各照射点SPの位置を変更する複数のホログラムを、空間光変調器12に順次呈示させる。また、照射点SPの光強度の設定目標値と観察光の検出結果との差が目標誤差より大きい場合は(ステップS5:NO)、ホログラムを補正してもよい(ステップS6)。
【0059】
図5~
図7に示されたように、制御ステップS1では、複数の照射点SPの光強度を、照射点SP毎に独立して制御する。または、
図8~
図17に示されたように、制御ステップS1では、複数の照射点SPにより画成される被加工領域Aの形状を、レーザ光La2の光軸と交差する複数の面毎に異ならせる。或いは、制御ステップS1では、複数の照射点SPの光強度を照射点SP毎に独立して制御するとともに、複数の照射点SPにより画成される被加工領域Aの形状を、レーザ光La2の光軸と交差する複数の面毎に異ならせる。
【0060】
照射点SP毎に光強度を独立して制御する場合、制御ステップS1において、先の光検出ステップS4による検出結果に基づいて各照射点SPにおける材質の変化を検出し、各照射点SPの光強度を材質の変化に応じて変更する。或いは、
図24に示されるように、記憶ステップS0を制御ステップS1の前に行い、記憶ステップS0において、被加工物Wの材質分布に応じた、各照射点SPの光強度に関するデータを記憶部(例えば
図4に示したROM183又は補助記憶装置186)に予め記憶させる。そして、制御ステップS1において、各照射点SPの光強度を該データに基づいて制御する。また、照射点SPの光強度の設定目標値と観察光の検出結果との差が目標誤差より大きい場合は(ステップS5:NO)、ホログラムを補正してもよい(ステップS6)。
【0061】
また、レーザ光La2の光軸と交差する複数の面毎に被加工領域Aの形状を異ならせる場合、
図8~
図15に示されたように、被加工領域Aの形状を、レーザ光La2の光軸方向において連続的に変化させることも可能である。被加工物Wがレーザ光La2に対して光透過性を有する場合には、
図8~
図15に示されたように、被加工物Wの光照射表面W1からの距離が遠い面における被加工領域Aの面積を、光照射表面W1からの距離が近い面における被加工領域Aの面積より大きくすることも可能である。光検出ステップS4における検出結果に基づいて各照射点SPにおける加工状態を判断し、各面に対するホログラムの呈示時間を加工状態に応じて制御することも可能である。複数の照射点SPの光強度を各面ごとに独立して制御することも可能である。
【0062】
また、制御ステップS1においてホログラムを変更する際には、或るホログラムを消去してから別のホログラムを呈示するまでの間、レーザ光La2の光強度を被加工物Wのいずれの部位においても加工閾値未満とするホログラムを、空間光変調器12に呈示させる。
【0063】
以上に説明した本実施形態のレーザ加工装置10及びレーザ加工方法によって得られる効果について説明する。本実施形態のレーザ加工装置10及びレーザ加工方法では、制御部18が(又は制御ステップS1において)、複数の照射点SPに含まれる少なくとも2つの照射点SPの光強度を互いに独立して制御する。この場合、被加工物Wの部位による材質の違い、すなわち同一強度のレーザ光La2に対する加工速度の違いが存在するときに、各部位に対応する各照射点SPにおいて適切な光強度でもってレーザ光La2を照射することができる。したがって、2種類以上の材質からなる被加工物Wを複雑な形状に加工することが容易にできる。また、本実施形態によれば、各照射点SPの光強度の調整、各照射点SPのオン/オフ、及び仮想線Bに沿った各照射点SPの移動を、機構部を全く用いることなく実現することができる。したがって、レーザ加工装置10の装置構成を大幅に単純化することができ、また、高速かつ高精度に加工処理を実施することができる。
【0064】
本実施形態のように、レーザ加工装置10は、観察光Lbを被加工物Wに照射する観察用光源16と、被加工物Wにおいて反射した観察光である反射光Lcを検出する光検出器17と、を備えてもよい。同様に、レーザ加工方法は、観察光Lbを被加工物Wに照射し、被加工物Wからの反射光Lcを検出する光検出ステップS4を更に含んでもよい。そして、制御部18は(制御ステップS1では)、光検出器17による検出結果に基づいて各照射点SPにおける加工状態を判断し、各面に対するホログラムの呈示時間を加工状態に応じて制御してもよい。或いは、制御部18は(制御ステップS1では)、光検出器17(光検出ステップS4)による検出結果に基づいて各照射点SPにおける材質の変化を検出し、少なくとも2つの照射点SPの光強度を材質の変化に応じて変更してもよい。これらの場合、加工精度をより高めることができる。
【0065】
本実施形態のように、レーザ加工装置10は、被加工物Wの材質分布に応じた、各照射点SPの光強度に関するデータを予め記憶する記憶部を備え、制御部18は、各照射点SPの光強度を当該データに基づいて制御してもよい。同様に、レーザ加工方法は、制御ステップS1の前に、被加工物Wの材質分布に応じた、各照射点SPの光強度に関するデータを予め記憶する記憶ステップS0を含み、制御ステップS1において、各照射点SPの光強度を当該データに基づいて制御してもよい。これらの場合、各照射点SPに必要な光強度を素早く得ることができるので、ホログラムの変更時間を短縮できる。
【0066】
本実施形態のように、制御部18は(制御ステップS1において)、レーザ光La2の光軸方向に並ぶ複数の面内において、被加工領域Aの形状及び大きさのうち少なくとも一方をそれぞれ異ならせてもよい。このように、光軸方向に離れた複数の面毎に被加工領域Aの形状及び/又は大きさを変化させることにより、光軸方向に垂直な断面の形状を自在に設定するような、従来より複雑な加工を行うことが可能となる。
【0067】
本実施形態のように、制御部18は(制御ステップS1では)、光軸方向に並ぶ複数の面のそれぞれにおいて、被加工領域Aを画定する仮想線Bに沿って各照射点SPの位置を変更する複数のホログラムを空間光変調器12に順次呈示させてもよい。この場合、各照射点SPに対して十分な光強度を与えつつ、単一のホログラムによりレーザ光La2を一度に照射する場合と比較してレーザ光源11に必要な出力パワーを低減でき、レーザ光源11の小型化に寄与できる。
【0068】
本実施形態のように、制御部18は(制御ステップS1では)、ホログラムを変更する際に、或るホログラムを消去してから別のホログラムを呈示するまでの間、レーザ光La2の光強度を被加工物Wのいずれの部位においても加工閾値未満とするホログラムを空間光変調器12に呈示させてもよい。この場合、シャッタ等の機械的手段によりレーザ光La2を遮断する場合と比較して、機械的シャッタ自体や機械的シャッタを動作させるために必要な高電圧装置等が不要になるので、レーザ加工装置10の構成を簡素化し、レーザ加工装置10の小型化及びコスト低減に寄与することができる。
【0069】
本実施形態のように、被加工物Wが位相変調後のレーザ光La2に対して光透過性を有し、被加工物Wの光照射表面W1からの距離が遠い面における被加工領域Aの面積が、該距離が近い面における被加工領域Aの面積より大きくてもよい。この場合、例えば被加工物Wの光照射表面W1から遠ざかるにつれて孔径が広がる逆テーパ形状の孔の形成といった複雑な加工をも容易に行うことができる。
【0070】
本実施形態のように、制御部18は(制御ステップS1では)、被加工領域Aの形状及び大きさの少なくとも一方を、レーザ光La2の光軸方向において連続的に変化させてもよい。この場合、光軸方向に垂直な断面の形状が光軸方向において滑らかに変形する孔等の加工を容易に行うことができる。
【0071】
本実施形態のように、制御部18は(制御ステップS1では)、少なくとも2つの面内における照射点SPの光強度を、各面毎に独立して制御してもよい。この場合、各面をそれぞれ構成する材質の違い、すなわち同一強度のレーザ光La2に対する加工速度の違いが存在するときに、各面の材質に応じて適切な光強度でもってレーザ光La2を照射することができる。
【0072】
ここで、従来のレーザ加工方法の例について説明する。
図25は、特許文献1に記載されたレーザ加工方法を説明するための図である。このレーザ加工方法は、処理面112を有するワークピース(被加工物)110をレーザアブレーションにより加工する方法であって、三次元の幾何学的形状114をワークピース110内に形成する。
図25には、3つの異なるビームプロファイル116、118および120が示されている。各ビームプロファイル116,118,120において、縦軸は光強度を表し、横軸は位置を表す。各ビームプロファイル116,118,120において、レーザビームは、処理面112の箇所において、照射領域122と非照射領域124とのパターンを有する。照射領域122においては、光強度がアブレーション閾値を上回っている。非照射領域124においては、光強度がワークピース110の材料の溶解閾値を下回っている。各ビームプロファイル116,118,120は、その直径、等価直径、及び/又は幾何学的形状に関して、互いに相違している。すなわち、ビームプロファイル116,118,120は、この順番で、小さくなる直径又は等価直径を有する。更に、ワークピース110の一部切欠き断面図には、これらのビームプロファイル116,118,120が互いに異なる幾何学的形状を有し得ることが示されている。したがって、ワークピース110には階段状の幾何学的形状が生じる。
【0073】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、一度にレーザ光を照射する領域が大きいので、全領域にわたってアブレーション閾値を上回るためには、極めて大きな出力パワーを有するレーザ光源が必要となる。したがって、レーザ光源が大型化してしまう。また、基本的には加工が進むほどビームプロファイルの直径が小さくなるので、形成可能な形状には制限がある。更には、加工速度がそれぞれ異なる複数の材質がワークピース110に混在している場合、各材質の性質に応じて光強度及び照射時間を設定することは困難である。これらの課題に対し、本実施形態のレーザ加工装置10及びレーザ加工方法によれば、複数の照射点SPにレーザ光La2を集光させて加工を行うので、レーザ光源11の出力パワーは比較的小さくて済み、レーザ光源11の小型化に寄与できる。また、例えば
図8に示されるような逆テーパ状の孔Haや、
図16に示される孔Hhといった複雑な形状の加工も容易である。更には、照射点SP毎に光強度及び照射時間を独立して制御するので、被加工領域に複数の材質が混在している場合でも各材質の性質に応じて光強度及び照射時間を容易に設定することができる。また、光強度を調整するためのλ/2板や偏光ビームスプリッタといった光学部品が不要となり、レーザ加工装置の構成を更に簡素化できる。
【0074】
図26及び
図27は、特許文献2に記載されたレーザ加工方法を説明するための図である。このレーザ加工方法では、複数個の像再生ホログラムデータを準備してレーザ加工を行う。具体的には、
図26の(a)部に示すように、被加工面200を複数個のセル201に分割し、1つのセル201に対して1個の照射点202を対応させ、各セル201に対して照射点202を形成するか否かを自由に選択する。この像再生ホログラムデータに位置移動ホログラムデータを重畳する。そして、位置移動ホログラムデータを変化させながら、
図26の(b)部~(e)部に示す離散的な点像を被加工面200に加工形成することにより、
図27に示す複雑形状の加工形状203を得る。
【0075】
しかしながら、特許文献2に記載された方法では、各照射点202の光強度を個別に制御していないため、加工速度がそれぞれ異なる複数の材質が被加工面200に混在している場合、各材質の性質に応じて光強度及び照射時間を設定することは困難である。これに対し、本実施形態のレーザ加工装置10及びレーザ加工方法によれば、照射点SP毎に光強度及び照射時間を独立して制御するので、被加工領域に複数の材質が混在している場合でも各材質の性質に応じて光強度及び照射時間を容易に設定することができる。
【0076】
本開示によるレーザ加工装置及びレーザ加工方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、複数の材質が被加工領域Aに含まれている場合に、照射点SP毎に独立して光強度を制御することによって各材質の性質に応じた光強度での加工が可能になることを述べた。このような例に限られず、例えば被加工領域Aが単一の材質からなる場合であっても、照射点SP毎に独立して光強度を制御することによって、被加工物Wの除去率(除去量)を被加工領域Aの部分毎に独立して制御でき、より複雑な形状を実現できる。また、上記実施形態では複数の照射点SPの光強度をそれぞれ独立して制御する場合について例示したが、必ずしも全ての照射点SPを独立して制御する必要がない場合には、複数の照射点SPのうち少なくとも2つの照射点SPの光強度を互いに独立して制御してもよい。その場合であっても、上記実施形態の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0077】
10…レーザ加工装置、11…レーザ光源、12…空間光変調器、13…ダイクロイックミラー、14…集光光学系、15…駆動部、16…観察用光源、17…光検出器、18…制御部、110…ワークピース、112…処理面、114…幾何学的形状、116,118,120…ビームプロファイル、122…照射領域、124…非照射領域、181…CPU、182…RAM、183…ROM、184…入力装置、185…ディジタル/アナログ変換器、186…補助記憶装置、200…被加工面、201…セル、202…照射点、203…加工形状、A…被加工領域、B…仮想線、Ha,Hb,Hc,Hd,He,Hh…孔、Hf,Hg…貫通孔、Hfa,Hfb,Hga,Hgb…孔、La1,La2…レーザ光、Lb…観察光、Lc…反射光、Sa…信号、SP…照射点、Vd…駆動電圧、W…被加工物、W1…光照射表面、W2,W3,W4…面、Wa,Wb,Wc,Wd,We…領域。