(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】ゴム-スチールコード複合体及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20240515BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20240515BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240515BHJP
C08K 5/39 20060101ALI20240515BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20240515BHJP
C08K 5/47 20060101ALI20240515BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240515BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/06
C08K5/098
C08K5/39
C08K5/42
C08K5/47
C08L9/00
B60C1/00 C
(21)【出願番号】P 2020101243
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 由真
(72)【発明者】
【氏名】箕内 則夫
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03599263(EP,A1)
【文献】特表2021-532242(JP,A)
【文献】特開2009-292942(JP,A)
【文献】特開2003-082586(JP,A)
【文献】特開平10-195237(JP,A)
【文献】特開2006-124474(JP,A)
【文献】特開2008-308632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B60C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対して、
硫黄1~10質量部と、
下記式(1)で表される化合物0.1~5質量部と、
ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物
、又はヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物と1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン
の双方0.1~5質量部と
、を含むゴム組成物と、
スチールコードとを、
加硫接着してなる、ゴム-スチールコード複合体。
【化1】
【請求項2】
前記ゴム組成物は、有機酸コバルトを含まないか、又は有機酸コバルトの含有量がジエン系ゴム100質量部に対して3質量部以下である、請求項1に記載のゴム-スチールコード複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム-スチールコード複合体を備える空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム-スチールコード複合体、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのベルトやカーカスプライ、チェーハーなどの補強材として、あるいはまた工業用ベルト部材などを補強するための補強材として、ゴム組成物とスチールコードとを加硫接着してなるゴム-スチールコード複合体が用いられている。かかるゴム-スチールコード複合体においては、優れた初期接着性を有するとともに、その接着性を長期にわたり維持するために老化後接着性に優れることが求められる。
【0003】
従来、スチールコードとの接着に使用されるゴム組成物において、加硫促進剤としては一般にN,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(DCBS)が用いられている。しかしながら、この化合物は環境への影響が懸念されており、その使用量を削減することが求められる。そのため、環境への影響が少ない加硫促進剤を用いながら、初期接着性及び老化後接着性を改善することが望まれる。
【0004】
特許文献1には、金属材とともに複合体を形成するゴム組成物に加硫促進剤としてN,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(DBBS)を配合することが開示されている。
【0005】
一方、この種のゴム組成物では、スチールコードとの接着性を向上するために一般に有機酸コバルトが配合されているが、有機酸コバルトは環境への影響からその使用量を削減することが望ましい。特許文献2,3には、ゴム-スチールコード複合体のゴム組成物において、有機酸コバルトを削減するために、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物と無機含水塩を配合することが提案されている。
【0006】
特許文献4には、タイヤコード被覆用ゴム組成物にヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物や1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを配合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-308632号公報
【文献】特開平10-195237号公報
【文献】特開2004-083766号公報
【文献】特開2003-082586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タイヤの生産性を考慮すれば、ゴム組成物を未加硫状態で長時間放置した後に加硫接着したときでもスチールコードとの接着性に優れること、即ち保管後接着性に優れることが望ましい。
【0009】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、環境への影響が少ない加硫促進剤をゴム組成物に用いながら、また必ずしもゴム組成物が有機酸コバルトを含まなくとも、良好な初期接着性、老化後接着性及び保管後接着性を持たせることができるゴム-スチールコード複合体、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係るゴム-スチールコード複合体は、天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対して、硫黄1~10質量部と、N,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド0.1~5質量部と、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物及び1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンのいずれか一方又は双方0.1~5質量部とを含むゴム組成物と、スチールコードとを、加硫接着してなるものである。
【0011】
前記ゴム組成物は、有機酸コバルトを含まないか、又は有機酸コバルトの含有量がジエン系ゴム100質量部に対して3質量部以下でもよい。
【0012】
本発明の実施形態に係る空気入りタイヤは、前記ゴム-スチールコード複合体を備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、環境への影響が少ない加硫促進剤としてN,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドを使用しつつ、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物や1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンと組み合わせることにより、優れた初期接着性、老化後接着性及び保管後接着性を得ることができる。そのため、必ずしも有機酸コバルトを含まなくても、良好な接着性を持たせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明の実施形態に係るゴム-スチールコード複合体は、ゴム組成物とスチールコードとを加硫接着してなるものであり、該ゴム組成物として、天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対して、硫黄1~10質量部と、N,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド0.1~5質量部と、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物及び1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンのいずれか一方又は双方0.1~5質量部とを含むものを用いたものである。
【0016】
該ゴム組成物において、ゴム成分としてのジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)を含有するものであり、天然ゴム単独でもよく、天然ゴムとともに他のジエン系ゴムを含んでもよい。他のジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンイソプレン共重合体ゴム、スチレンイソプレンブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、他のジエン系ゴムとしては、IR、BR及びSBRからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、より好ましくはIRである。
【0017】
上記ジエン系ゴム100質量部は、天然ゴムを50質量部以上含むことが好ましく、より好ましくは天然ゴムを70質量部以上含むことであり、更に好ましくは天然ゴムを80質量部以上含むことであり、天然ゴム100質量部でもよい。
【0018】
該ゴム組成物において、加硫剤としての硫黄としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、オイル処理硫黄などが挙げられる。硫黄の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは2~8質量部であり、4~6質量部でもよい。
【0019】
該ゴム組成物には、加硫促進剤としてN,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(DBBS)(別名:2-[(ジベンジルアミノ)チオ]ベンゾチアゾール)を用いる。N,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドは、下記式(1)で表される化合物であり、環境への影響が懸念されるN,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドに対して、加硫反応時に発生する2級アミンの環境への影響が少ない。また、N,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドは、加硫速度が比較的遅くゴム層と金属との接着層への硫黄の分散が良好なため初期接着性に優れ、更に、混合後(加硫前の)ゴム組成物が空気中で安定であり、保管後接着性にも優れる。
【0020】
【0021】
N,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~4質量部であり、更に好ましくは0.8~3質量部である。
【0022】
加硫促進剤としては、N,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド単独であることが好ましいが、他の加硫促進剤を併用してもよい。なお、上記N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドは、できるだけ含有しないことが好ましく、含有する場合でも、ジエン系ゴム100質量部に対して0.5質量部以下、更には0.3質量部以下であることが好ましい。
【0023】
該ゴム組成物には、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物及び1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンのいずれか一方又は双方が配合される。ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物は下記式(2)で表されるチオサルフェート塩であり、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンは下記式(3)で表されるチオカルバモイル化合物である。
【0024】
【0025】
これらの化合物は、ゴム中やゴムとスチールコード界面において、-Sx-S-(CH2)6-S-Sy-結合を形成すると考えられる。この結合は、ポリスルフィド結合よりも熱的に安定であるため、老化後の接着性を改善する効果がある。そのため、上記のように加硫促進剤としてのN,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドと組み合わせることと相俟って、初期接着性、老化後接着性及び保管後接着性を顕著に改善することができ、よって、汎用の接着促進剤である有機酸コバルトを必ずしも含まなくともスチールコードとの良好な接着性を得ることができる。
【0026】
ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物及び/又は1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの配合量(いずれか一方のみ配合の場合はその配合量、双方配合の場合は両者の配合量の合計)は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.3~4質量部であり、更に好ましくは0.5~3質量部である。
【0027】
該ゴム組成物には、有機酸コバルトを含まないか、又は有機酸コバルトを含む場合でもその含有量はジエン系ゴム100質量部に対して3質量部以下であることが好ましい。有機酸コバルトは接着性の観点からはゴム組成物に配合することが好ましいが、環境への影響からは使用量を削減することが好ましい。本実施形態では、N,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドと、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物及び/又は1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンとの組み合わせにより、接着性を顕著に改善することができるため、有機酸コバルトの使用量を削減しても従来品と同等以上の接着性を得ることができる。
【0028】
有機酸コバルトの配合量は、より好ましくはジエン系ゴム100質量部に対して2質量部以下であり、更に好ましくは1質量部以下であり、0.5質量部以下でもよい。一実施形態において、有機酸コバルトの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.2~1質量部としてもよい。なお、金属コバルト換算での含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.3質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以下であり、更に好ましくは0.1質量部以下であり、0.05質量部以下でもよい。一実施形態において、金属コバルト換算での含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.02~0.1質量部でもよい。
【0029】
有機酸コバルトとしては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、オレイン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、ホウ酸コバルト、マレイン酸コバルトなどが挙げられ、これらの中でも加工性の点からナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルトが特に好ましい。
【0030】
該ゴム組成物には、メチレン受容体としてのフェノール類化合物及び/又はフェノール類化合物をホルムアルデヒドで縮合したフェノール系樹脂と、そのメチレン供与体としてのヘキサメチレンテトラミン及び/又はメラミン誘導体とが配合されることが好ましい。これらを用いてゴムを硬化させることにより、ゴムとスチールコードとの接着性を更に向上することができる。
【0031】
上記フェノール類化合物としては、フェノール、レゾルシンまたはこれらのアルキル誘導体が挙げられる。アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノールといったメチル基誘導体の他、ノニルフェノール、オクチルフェノールといった比較的長鎖のアルキル基による誘導体が含まれる。フェノール類化合物は、アセチル基等のアシル基を置換基に含むものであってもよい。
【0032】
上記フェノール系樹脂には、レゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂(即ち、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂)、クレゾール樹脂(即ち、クレゾール-ホルムアルデヒド樹脂)等の他、複数のフェノール類化合物からなるホルムアルデヒド樹脂が含まれる。これらは未硬化の樹脂であって、液状又は熱流動性を有するものが用いられる。
【0033】
これらの中でも、メチレン受容体としては、レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂が好ましい。レゾルシン系樹脂としては、レゾルシン及びそのアルキル誘導体からなる群から選択された少なくとも1種を、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドで縮合してなるものが挙げられ、アルキルフェノールなどの他のモノマー成分を併用したものでもよい。具体的には、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシンとアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン-アルキルフェノール-ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。
【0034】
フェノール類化合物及び/又はフェノール系樹脂の配合量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.5~5質量部であることが好ましく、より好ましくは1~3質量部である。
【0035】
上記メラミン誘導体としては、例えば、メチロールメラミン、メチロールメラミンの部分エーテル化物、メラミンとホルムアルデヒドとメタノールの縮合物等が用いられ、その中でもヘキサメトキシメチルメラミンが特に好ましい。
【0036】
ヘキサメチレンテトラミン及び/又はメラミン誘導体の配合量は、フェノール類化合物及び/又はフェノール系樹脂に対して充分な反応、硬化を行わせるだけの量であり、具体的には、フェノール類化合物及び/又はフェノール系樹脂の配合量の0.5~2倍質量部であることが好ましい。
【0037】
該ゴム組成物には、補強性充填剤としてカーボンブラック及び/又はシリカを配合することができる。カーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)(ともにASTMグレード)のものが挙げられ、いずれか一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。より好ましくはHAF級のものである。シリカとしては、例えば湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが挙げられる。
【0038】
補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して20~120質量部でもよく、30~100質量部でもよく、40~80質量部でもよい。また、カーボンブラックの配合量は、特に限定されず、ジエン系ゴム100質量部に対し、20~100質量部でもよく、40~80質量部でもよい。
【0039】
該ゴム組成物には、上記成分の他に、酸化亜鉛、老化防止剤、軟化剤、ステアリン酸、ワックス、加工助剤など、この種のゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を任意に配合することができる。
【0040】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物や1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンとともに、硫黄及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄及び加硫促進剤を添加混合することによりゴム組成物を調製することができる。
【0041】
該ゴム組成物は、各種スチールコードを被覆するためのゴム組成物として用いることができ、ゴム-スチールコード複合体が得られる。かかるゴム-スチールコード複合体は、該ゴム組成物をスチールコードとの接触状態において加硫することにより製造することができる。加硫する際の加熱温度としては、特に限定されず、例えば140~180℃でもよい。スチールコードとしては、表面に真鍮メッキや青銅メッキ、亜鉛メッキなどのメッキが施されたものが好ましく用いられ、より好ましくは真鍮メッキされたスチールコードを用いることである。
【0042】
本実施形態に係るゴム-スチールコード複合体は、空気入りタイヤのベルトやカーカスプライ、チェーハーなどのタイヤ用補強材として、あるいはまた工業用ベルト部材などを補強するための補強材として用いることができる。好ましくは空気入りタイヤの補強材として用いることであり、従って、本実施形態に係る空気入りタイヤは、上記ゴム-スチールコード複合体を備えたものである。
【0043】
空気入りタイヤのベルトやカーカスプライ、チェーハーなどの補強材として用いる場合、常法に従い、スチールカレンダーなどのトッピング装置によりスチールコードにゴム組成物をトッピングしてスチールコードトッピング反を製造し、これをベルトやカーカスプライ、チェーハーなどとして用いて、未加硫タイヤを作製し、例えば140~180℃で加硫成型することにより空気入りタイヤを製造することができる。
【0044】
空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤでもトラックやバスなどの重荷重用タイヤでもよく、特に限定されない。空気入りタイヤの構造自体は周知であり、特に限定されない。一般には、空気入りタイヤは、左右一対のビード部及びサイドウォール部と、左右のサイドウォール部の径方向外方端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部とを備え、左右一対のビード部間にまたがって延びる少なくとも1層のカーカスプライを備える。カーカスプライは、トレッド部からサイドウォール部をへて、両端がビード部にて係止されており、上記各部を補強するものである。また、ベルトは、トレッド部におけるカーカスプライの外周側においてトレッドゴムとの間に、通常2層以上にて設けられており、カーカスプライの外周でトレッド部を補強するものである。チェーハーは、ビード部に埋設されてビード部を補強するものである。上記ゴム-スチールコード複合体をタイヤの補強材として用いる場合、ベルトとカーカスとチェーハーのうちのいずれか1つに適用してもよく、2つ以上に適用してもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、常法に従いスチールコード被覆用ゴム組成物を調製した。詳細には、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し(排出温度=150℃)、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=110℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0047】
・天然ゴム:RSS#3
・イソプレンゴム:JSR(株)製「IR2200」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト300(HAF-LS)」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・老化防止剤:フレキシス社製「サントフレックス6PPD」
・ステアリン酸コバルト:JXTGエネルギー(株)製「ステアリン酸コバルト」(Co含有率9.5質量%)
・メラミン誘導体:ヘキサメトキシメチルメラミン、三井サイテック(株)製「サイレッツ963L」
・レゾルシン系樹脂:レゾルシン-アルキルフェノール-ホルムアルデヒド樹脂、住友化学工業(株)製「スミカノール620」
・HTS:ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物、イーストマン社製「Duralink HTS」
・KA9188:1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、ランクセス社製「Vulcrene KA9188」
・不溶性硫黄:フレキシス社製「クリステックスHS OT-20」(80質量%が硫黄分)
・DCBS:N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDZ-G」
・DBBS:N,N-ジベンジルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド。
【0048】
得られた各ゴム組成物について、下記方法により未加硫複合体を作製した上で、下記評価方法により初期接着性、保管後接着性及び老化後接着性を評価した。
【0049】
[未加硫複合体の作製]
ゴム組成物をシーティングすることにより厚さ1.0mmのゴムシートを作製した。真鍮メッキが施されたスチールコード(構造:3×0.20mm+6×0.35mm)を12本/25mmの間隔で並べゴムシートで挟み込んだものを2枚重ね、スチールコードが2層存在する未加硫複合体を作製した。
【0050】
[初期接着性]
未加硫複合体を150℃で30分間加硫することにより、25mm幅の評価用の試験片を得た。得られた試験片を、オートグラフ(島津製作所(株)製「DCS500」)を用いて2層のスチールコード間の剥離試験を行い、剥離後のスチールコードのゴム被覆率を目視で確認し、比較例1のゴム被覆率を100として指数表示した。指数が大きいほど初期接着性が良いことを意味する。
【0051】
[保管後接着性]
未加硫複合体を40℃×95%RHの恒温恒湿槽で5日間放置した後、150℃で30分間加硫することにより、25mm幅の評価用の試験片を得た。得られた試験片を、オートグラフ(島津製作所(株)製「DCS500」)を用いて2層のスチールコード間の剥離試験を行い、剥離後のスチールコードのゴム被覆率を目視で観察し、比較例1のゴム被覆率を100として指数表示した。指数が大きいほど保管後接着性が良いことを意味する。
【0052】
[老化後接着性]
未加硫複合体を150℃で30分間加硫することにより、25mm幅の評価用の試験片を得た。得られた試験片を105℃の飽和蒸気内で96時間放置した後、オートグラフ(島津製作所(株)製「DCS500」)を用いて2層のスチールコード間の剥離試験を行い、剥離後のスチールコードのゴム被覆率を目視で観察し、比較例1のゴム被覆率を100として指数表示した。指数が大きいほど湿熱老化後接着性が良いことを意味する。
【0053】
【0054】
結果は表1に示す通りである。加硫促進剤としてDCBSを用いた比較例1に対し、HTSを添加した比較例2では接着性は向上したもののその改善幅は小さいものであった。そのため、比較例2からステアリン酸コバルトを除いた比較例3では、コントロールとしての比較例1に対して初期接着性及び保管後接着性が低下しており、老化後接着性の改善効果も得られなかった。
【0055】
これに対し、加硫促進剤DBBSとともにHTSを配合した実施例1,3~6では、初期接着性、保管後接着性及び老化後接着性の全てにおいて顕著な改善効果がみられた。そのため、実施例2,7,8に示すように、接着促進剤であるステアリン酸コバルトの使用量を削減し、またステアリン酸コバルトを配合しなかった場合でも、コントロールである比較例1に対して接着性の向上効果がみられた。
【0056】
加硫促進剤DBBSとともにKA9188を配合した実施例9についても、コントロールである比較例1に対して、初期接着性、保管後接着性及び老化後接着性に顕著な改善効果がみられ、実施例10に示すようにステアリン酸コバルトを配合しなくても比較例1に対して接着性の改善効果が認められた。実施例1と実施例9との対比、及び、実施例8と実施例10との対比より、加硫促進剤DBBSと組み合わせる化合物としては、KA9188よりもHTSの方が接着性の改善効果が高かった。
【0057】
実施例11に示すように、実施例8に対してジエン系ゴムの組成を変更した場合でも、接着性の改善効果がみられた。また、実施例12に示すように、HTSとKA9188を併用した場合にも接着性の改善効果がみられた。