(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】金属-ゴム複合部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/06 20060101AFI20240515BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240515BHJP
B32B 25/14 20060101ALI20240515BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20240515BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240515BHJP
C09D 123/16 20060101ALI20240515BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240515BHJP
C09D 109/00 20060101ALI20240515BHJP
C09D 123/26 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B32B15/06 Z
B32B15/08 101Z
B32B25/14
C08L23/16
C08L23/00
C09D123/16
C09D7/63
C09D109/00
C09D123/26
(21)【出願番号】P 2020132526
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大谷 紀昭
(72)【発明者】
【氏名】浜岡 弘一
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104810(JP,A)
【文献】特開平08-132557(JP,A)
【文献】特表2012-522064(JP,A)
【文献】特開2020-002201(JP,A)
【文献】特開2016-030800(JP,A)
【文献】特開2003-232444(JP,A)
【文献】特開2001-232722(JP,A)
【文献】特許第5664836(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、ゴム層とを直接接合した金属-ゴム複合部材であって、
前記ゴム層は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと、(B)
極性基を有するポリオレフィンと、(C)アゾ系重合開始剤と、(D)多官能性チオール化合物とを含むゴム組成物を用いて形成され、
前記ゴム組成物の配合割合が、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、(B)ポリオレフィンが0.1~5質量部、(C)アゾ系重合開始剤が0.01~2質量部、(D)多官能性チオール化合物が0.01~5質量部であることを特徴とする金属-ゴム複合部材。
【請求項2】
前記エチレン-プロピレン系共重合ゴムが、エチレン-プロピレン-ジエンゴムである請求項
1に記載の金属-ゴム複合部材。
【請求項3】
前記
極性基が、酸性基である請求項1
又は2に記載の金属-ゴム複合部材。
【請求項4】
前記金属層が、アルミニウム、鉄、銅、銀、金、ニッケル、マグネシウム、白金、亜鉛、鉛及びステンレス鋼からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~
3のいずれか1項に記載の金属-ゴム複合部材。
【請求項5】
前記金属層の厚さが、10~500μmである請求項1~
4のいずれか1項に記載の金属-ゴム複合部材。
【請求項6】
前記ゴム層の厚さが、30~300μmである請求項1~
5のいずれか1項に記載の金属-ゴム複合部材。
【請求項7】
金属層と、ゴム層とを直接接合する金属-ゴム複合部材の製造方法であって、
(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと、(B)
極性基を有するポリオレフィンと、(C)アゾ系重合開始剤と、(D)多官能性チオール化合物と、(E)溶剤とを含むゴム層形成用塗料を作製する塗料作製工程と、
前記ゴム層形成用塗料を金属層に直接塗布する塗布工程と、
前記金属層に塗布した前記ゴム層形成用塗料から乾燥により前記溶剤を除去して、前記金属層の上にゴム層を形成する乾燥工程とを含み、
前記ゴム層形成用塗料の配合割合が、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、(B)ポリオレフィンが0.1~5質量部、(C)アゾ系重合開始剤が0.01~2質量部、(D)多官能性チオール化合物が0.01~5質量部であることを特徴とする金属-ゴム複合部材の製造方法。
【請求項8】
前記エチレン-プロピレン系共重合ゴムが、エチレン-プロピレン-ジエンゴムである請求項
7に記載の金属-ゴム複合部材の製造方法。
【請求項9】
前記ポリオレフィンが、変性ポリオレフィンである請求項
7又は
8に記載の金属-ゴム複合部材の製造方法。
【請求項10】
前記金属層が、アルミニウム、鉄、銅、銀、金、ニッケル、マグネシウム、白金、亜鉛、鉛及びステンレス鋼からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項
7~
9のいずれか1項に記載の金属-ゴム複合部材の製造方法。
【請求項11】
前記極性基が、酸性基である請求項7~10のいずれか1項に記載の金属-ゴム複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、金属層とゴム層とを直接接合した金属-ゴム複合部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDMゴム)は、耐熱性、耐薬品性、耐候性に優れているが、金属とEPDMゴムとの接着は困難である問題がある。この問題を解決するために、特許文献1では、変性ポリオレフィンを主成分とする表面処理剤からなる接着層により金属とゴムとを接着する方法が提案されている。
【0003】
しかし、上記方法では、金属とゴムとを直接接着するものでないため、金属にゴム組成物を直接塗布して連続的に金属とゴムとを接着できず、生産性に劣る。一方、接着層を介さずに、金属にゴム組成物を直接塗布する方法では、金属とゴムとの密着性の確保が困難である。
【0004】
また、EPDMゴムは、通常、架橋剤により架橋して用いられ、その架橋剤として、例えば、有機過酸化物系架橋剤又は硫黄系架橋剤が用いられる。ここで、特許文献2では、有機過酸化物を含むエチレン-プロピレン系共重合ゴム組成物が提案されている。
【0005】
しかし、金属にゴム組成物を直接塗布する方法において、架橋剤として有機過酸化物を用いると、ゴム組成物に空気(酸素)が接することにより、ゴムの架橋が進まず、ゴムの軟化劣化が発生し、ゴム特性が達成できないことが判明した。
【0006】
また、金属にゴム組成物を直接塗布する方法において、架橋剤として硫黄系架橋剤を用いると、硫黄系架橋剤に含まれる硫黄により金属が腐食するおそれがある。
【0007】
なお、本願に関連する技術文献として特許文献3及び4がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-232722号公報
【文献】特開平6-100741号公報
【文献】特開平6-172548号公報
【文献】特開平6-299003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願は、上記問題を解消するためになされたものであり、金属層とゴム層とを直接接合可能で、十分なゴム特性を有し、金属層の腐食も発生しない金属-ゴム複合部材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願で開示する金属-ゴム複合部材の第1の形態は、金属層と、ゴム層とを直接接合した金属-ゴム複合部材であって、前記ゴム層は、架橋エチレン-プロピレン系共重合ゴムとポリオレフィンとを含み、前記ポリオレフィンの含有量が、前記エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対し、0.1~5質量部である。
【0011】
また、本願で開示する金属-ゴム複合部材の第2の形態は、金属層と、ゴム層とを直接接合した金属-ゴム複合部材であって、前記ゴム層は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと、(B)ポリオレフィンと、(C)アゾ系重合開始剤と、(D)多官能性チオール化合物とを含むゴム組成物を用いて形成され、前記ゴム組成物の配合割合が、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、(B)ポリオレフィンが0.1~5質量部、(C)アゾ系重合開始剤が0.01~2質量部、(D)多官能性チオール化合物が0.01~5質量部である。
【0012】
また、本願で開示する金属-ゴム複合部材の製造方法は、金属層と、ゴム層とを直接接合する金属-ゴム複合部材の製造方法であって、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと、(B)ポリオレフィンと、(C)アゾ系重合開始剤と、(D)多官能性チオール化合物と、(E)溶剤とを含むゴム層形成用塗料を作製する塗料作製工程と、前記ゴム層形成用塗料を金属層に直接塗布する塗布工程と、前記金属層に塗布した前記ゴム層形成用塗料から乾燥により前記溶剤を除去して、前記金属層の上にゴム層を形成する乾燥工程とを含み、前記ゴム層形成用塗料の配合割合が、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、(B)ポリオレフィンが0.1~5質量部、(C)アゾ系重合開始剤が0.01~2質量部、(D)多官能性チオール化合物が0.01~5質量部である。
【発明の効果】
【0013】
本願によれば、金属層とゴム層とを直接接合可能で、十分なゴム特性を有し、金属層の腐食も発生しない金属-ゴム複合部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本願の実施形態の金属-ゴム複合部材の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(金属-ゴム複合部材)
本願で開示する金属-ゴム複合部材の実施形態について説明する。本実施形態の金属-ゴム複合部材は、金属層と、ゴム層とを直接接合した金属-ゴム複合部材であって、上記ゴム層は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと、(B)ポリオレフィンと、(C)アゾ系重合開始剤と、(D)多官能性チオール化合物とを含むゴム組成物を用いて形成され、上記ゴム組成物の配合割合が、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、(B)ポリオレフィンが0.1~5質量部、(C)アゾ系重合開始剤が0.01~2質量部、(D)多官能性チオール化合物が0.01~5質量部である。
【0016】
上記金属-ゴム複合部材は、ゴム層に(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと(B)ポリオレフィンとを含むため、金属層とゴム層とを密着性を確保して直接接合可能となる。即ち、上記金属-ゴム複合部材は、金属層とゴム層とを接着層を介さずに直接接着可能となる。
【0017】
また、上記金属-ゴム複合部材は、ゴム層が(C)アゾ系重合開始剤と(D)多官能性チオール化合物とを含み、上記アゾ系重合開始剤は架橋剤として機能し、上記官能性チオール化合物は共架橋剤として機能する。即ち、上記ゴム層の形成に、架橋剤として有機過酸化物を用いていないので、ゴム組成物に空気(酸素)が接しても、ゴムの架橋が進み、ゴム特性を得ることができる。更に、上記ゴム層の形成に、架橋剤として硫黄系架橋剤を用いていないので、硫黄により金属層が腐食するおそれがない。
【0018】
以下、本実施形態の金属-ゴム複合部材の形成に用いるゴム組成物の各成分について説明する。
【0019】
<(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム>
上記ゴム組成物に用いる(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムは、エチレンの含量が45~75質量%が好ましく、より好ましくは50~55質量%であり、プロピレンの含量が25~55質量%が好ましく、より好ましくは45~50質量%である。また、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムは、更に、第3成分としてジエンを2~15質量%共重合することが好ましく、より好ましくは6~10質量%共重合したものである。即ち、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムは、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDMゴム)であることが好ましい。このEPDMゴムは、主鎖に二重結合を持たない主鎖飽和型であるため、強固で安定した分子鎖であり、耐候性に優れ、耐熱性や耐薬品性も高い性能を有している。また、第3成分としてジエンを含むことにより、加工性が極めて高くなる。
【0020】
(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムの第3成分であるジエンとしては、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCP)、1,4-ヘキサジエン(HD)等が使用できる。
【0021】
<(B)ポリオレフィン>
上記ゴム組成物に用いる(B)ポリオレフィンとしては、例えば、炭素数2~8のオレフィンの単独重合体や共重合体、炭素数2~8のオレフィンと他のモノマーとの共重合体を挙げることができる。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0022】
また、(B)ポリオレフィンは、ポリオレフィンに極性基を導入した変性ポリオレフィンであることが好ましい。上記ポリオレフィンに導入する極性基としては酸性基や水酸基が該当するが、上記変性ポリオレフィンとしては、カルボキシル基等の酸性基を有する酸変性ポリオレフィンが好ましい。上記酸変性ポリオレフィンは、金属層との密着性がより向上することから、1~200mg/KOHの酸価を有することが好ましい。
【0023】
(B)ポリオレフィンの配合割合は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、0.1~5質量部であり、より好ましくは1.0~3.0質量部である。上記配合割合が5質量部を超えると、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムに対する相溶性が低下してゴム層の弾性が低下する傾向にあり、0.1質量部を下回るとゴム層と金属層との密着性が低下する。
【0024】
<(C)アゾ系重合開始剤>
(C)アゾ系重合開始剤は、熱及び光によって分解し、ラジカルを発生するアゾ基(R-N=N-R’)を持つ化合物であり、発生したラジカルは反応性に優れ、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムの架橋反応を進行させることができる。但し、(C)アゾ系重合開始剤のみでは、ゴム層のゴム弾性は十分に発現せず、後述する(D)多官能性チオール化合物と共に使用することが必要である。
【0025】
(C)アゾ系重合開始剤としては、アゾニトリル系、アゾエステル系、アゾアミド系、アゾアルキル系等の化合物を使用できるが、10時間半減期温度が60℃以下のものが好ましい。具体的には、例えば、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0026】
(C)アゾ系重合開始剤の配合割合は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、0.01~2質量部であり、より好ましくは0.5~1.5質量部である。上記配合割合が2質量部を超えると、ゴム組成物のポットライフが低下する傾向にあり、0.01質量部を下回る架橋反応が進行し難くなる。
【0027】
<(D)多官能性チオール化合物>
(D)多官能性チオール化合物は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムの共架橋剤として機能するが、(D)多官能性チオール化合物のみでは、ゴム層のゴム弾性は十分に発現せず、前述のとおり(C)アゾ系重合開始剤と共に使用することが必要である。
【0028】
(D)多官能性チオール化合物としては、例えば、二官能のテトラエチレングリコール ビス(3-メルカプトプロピオネート);三官能のトリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート;四官能のペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオネート);六官能のジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。
【0029】
(D)多官能性チオール化合物の配合割合は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、0.01~5質量部であり、より好ましくは0.5~3.0質量部である。上記配合割合が5質量部を超えると、ゴム組成物のポットライフが低下する傾向にあり、0.01質量部を下回ると架橋反応が進行し難くなる。
【0030】
また、(D)多官能性チオール化合物は、官能基数が少ないと配合量を多くする必要があり、官能基数が多くなるとポットライフが低下する傾向にある。
【0031】
<その他の成分>
上記ゴム組成物は、更に必要に応じて充填剤、老化防止剤、可塑剤等を含むことができる。
【0032】
上記充填剤は、ゴム層の引張強さや伸び特性等の機械的強度を向上させるため添加される。上記充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク粉、焼成クレー、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等の粉体が使用できる。上記充填剤は、2種類以上を併用してもよい。上記充填剤の粒子径は特に限定されないが、粒子径が小さいと引張強さと伸び特性は良好となる傾向があるが、圧縮永久ひずみは低下する傾向にある。一方、上記粒子径が大きいと引張強さと伸び特性は低下する傾向にあるが、圧縮永久ひずみは良好となる傾向がある。
【0033】
上記充填剤の配合割合は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、10~100質量部とすればよい。
【0034】
上記老化防止剤は、ゴム層の光、熱、酸素等による経年劣化を抑制するために添加される。上記老化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系、ベンズイミダゾール系等の老化防止剤を用いることができる。上記老化防止剤は、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
上記老化防止剤の配合割合は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、0.5~5質量部とすればよい。
【0036】
上記可塑剤は、ゴム層の加工性を向上させるために添加される。上記可塑剤としては、例えば、プロセス油、植物油、合成油、ステアリン酸、パラフィン、液体ポリイソブチレン、脂肪酸誘導体等を使用できる。上記可塑剤は、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0037】
上記可塑剤の配合割合は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、0.1~20質量部とすればよい。
【0038】
次に、上記ゴム組成物を用いて形成される本実施形態の金属-ゴム複合部材を図面に基づき説明する。
【0039】
図1は、本実施形態の金属-ゴム複合部材の一例を示す概略断面図である。
図1において、本実施形態の金属-ゴム複合部材10は、金属層11の上に、ゴム層12が直接接合して形成されている。以下、金属層11及びゴム層12について説明する。
【0040】
<金属層>
上記金属層は、本実施形態の金属-ゴム複合部材の用途に応じて、上記金属-ゴム複合部材に導電性、熱伝導性、電磁誘導加熱特性等を付与するために設けられる。
【0041】
上記金属層は、アルミニウム、鉄、銅、銀、金、ニッケル、マグネシウム、白金、亜鉛、鉛及びステンレス鋼からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0042】
上記金属層の厚さは特に限定されないが、本実施形態の金属-ゴム複合部材の用途に応じて、10~500μmとすることができる。例えば、本実施形態の金属-ゴム複合部材を電磁誘導加熱する場合、上記厚さが、10μm未満では金属層を50℃以上に加熱できない傾向にあり、500μmを超えると金属-ゴム複合部材の柔軟性が低下する傾向がある。
【0043】
<ゴム層>
上記ゴム層は、前述の(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと、(B)ポリオレフィンと、(C)アゾ系重合開始剤と、(D)多官能性チオール化合物とを含むゴム組成物を用いて形成されている。従って、上記ゴム層は、架橋エチレン-プロピレン系共重合ゴムとポリオレフィンとを含み、上記ポリオレフィンの含有量は、上記エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対し、0.1~5質量部である。
【0044】
上記架橋エチレン-プロピレン系共重合ゴムは、架橋エチレン-プロピレン-ジエンゴム(架橋EPDMゴム)であることが好ましい。この架橋EPDMゴムは、主鎖に二重結合を持たない主鎖飽和型であるため、強固で安定した分子鎖であり、耐候性に優れ、耐熱性や耐薬品性も高い性能を有している。また、上記ジエンを含むことにより、加工性が極めて高くなる。
【0045】
また、上記ポリオレフィンは、前述のとおり、ポリオレフィンに極性基を導入した変性ポリオレフィンであることが好ましく、特に1~200mg/KOHの酸価を有する酸変性ポリオレフィンが好ましい。
【0046】
上記ゴム層の厚さは特に限定されないが、本実施形態の金属-ゴム複合部材の用途に応じて、30~300μmとすることができる。例えば、本実施形態の金属-ゴム複合部材を屋外設置用部材として使用する場合、上記厚さが、30μm未満では耐候性が低下する傾向にあり、300μmを超えると、コストが高くなる。
【0047】
(金属-ゴム複合部材の製造方法)
次に、本願で開示する金属-ゴム複合部材の製造方法の実施形態について説明する。本実施形態の金属-ゴム複合部材の製造方法は、金属層と、ゴム層とを直接接合する金属-ゴム複合部材の製造方法であって、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと、(B)ポリオレフィンと、(C)アゾ系重合開始剤と、(D)多官能性チオール化合物と、(E)溶剤とを含むゴム層形成用塗料を作製する塗料作製工程と、上記ゴム層形成用塗料を金属層に直接塗布する塗布工程と、上記金属層に塗布した上記ゴム層形成用塗料から乾燥により上記溶剤を除去して、上記金属層の上にゴム層を形成する乾燥工程とを備えている。また、上記ゴム層形成用塗料の配合割合は、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴム100質量部に対して、(B)ポリオレフィンが0.1~5質量部、(C)アゾ系重合開始剤が0.01~2質量部、(D)多官能性チオール化合物が0.01~5質量部である。
【0048】
本実施形態の金属-ゴム複合部材の製造方法では、ゴム層形成用塗料に(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと(B)ポリオレフィンとを含むため、金属層の上にゴム層形成用塗料を直接塗布しても、金属層とゴム層とを密着性を確保して接合可能となる。即ち、上記製造方法により、金属層の上にゴム層形成用塗料を、接着層を介さずに直接塗布可能となるため、金属層にゴム層形成用塗料を直接塗布して連続的に金属層の上にゴム層を接着でき、生産性に優れている。
【0049】
また、上記ゴム層形成用塗料が、架橋剤として(C)アゾ系重合開始剤を含み、また、共架橋剤として(D)多官能性チオール化合物を含んでいる。即ち、上記ゴム層形成用塗料は、架橋剤として有機過酸化物を用いていないので、塗布時に上記ゴム層形成用塗料が空気(酸素)に接しても、ゴムの架橋が進み、ゴム特性を得ることができる。更に、上記ゴム層形成用塗料は、架橋剤として硫黄系架橋剤を用いていないので、硫黄により金属層が腐食するおそれがない。
【0050】
続いて、本実施形態の金属-ゴム複合部材の製造方法における塗料作製工程をより具体的に説明する。上記塗料作製工程では、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと、充填剤、老化防止剤、可塑剤等の他の成分とを、加熱混錬機を用いて、60~80℃の温度で、1~10分間加熱混錬して混錬物を作製し、冷却された上記混錬物に、(B)ポリオレフィンと、(C)アゾ系重合開始剤と、(D)多官能性チオール化合物と、溶剤とを加えて、25℃の温度で、溶解分散しながら塗料を作製することが好ましい。
【0051】
上記塗料作製工程では、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムの架橋反応を確実に実施でき、また、(A)エチレン-プロピレン系共重合ゴムと(B)ポリオレフィンとを均一に混合分散でき、金属層との密着性に優れたゴム層を形成できる。
【0052】
上記塗料作製工程で用いる溶剤としては、上記ゴム層形成用塗料の各成分を均一に混合できるものであれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン等を使用できる。
【0053】
また、本実施形態の金属-ゴム複合部材の製造方法における乾燥工程で実施する乾燥が、加熱乾燥であることが好ましい。上記ゴム層形成用塗料に含まれる溶剤の除去が短時間で行えるからである。
【0054】
上記ゴム層形成用塗料に含まれる溶剤以外の各成分については、前述の金属-ゴム複合部材の実施形態で説明したものと同様のものが使用できるので、重複する説明は省略する。本実施形態の金属-ゴム複合部材の製造方法に使用する金属層についても同様である。
【実施例】
【0055】
以下、本願で開示する金属-ゴム複合部材を実施例に基づいて詳細に説明する。但し、以下の実施例は、本願で開示する金属-ゴム複合部材を制限するものではない。また、実施例中の「部」は「質量部」を示す。
【0056】
(実施例1)
<ゴム層形成用塗料の作製>
先ず、以下に示す材料を前述の方法で加熱混練してEPDMゴム混錬物を作製した。
(1)EPDMゴム(住友化学社製、商品名“エスプレン532”):100部
(2)充填剤(カーボンブラック、東海カーボン社製、商品名“シースト116”):50部
(3)老化防止剤(大内新興化学工業社製、商品名“ノクラックMB”):2部
(4)可塑剤(プロセスオイル):1部
【0057】
次に、上記混錬物を(5)トルエン:450質量部で溶解し、ゴム溶液を作製した。続いて、このゴム溶液に以下に示す材料を加えてミキサーで混合してゴム層形成用塗料を作製した。
(6)変性ポリオレフィン溶液(三井化学社製、商品名“ユニストールP902”、酸価:55mg/KOH、固形分濃度:22質量%):11.4部(固形分量:2.5部)
(7)アゾ系重合開始剤〔2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、東京化成社製〕:0.8部
(8)多官能性チオール〔ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、SC有機化学社製〕:2部
【0058】
<金属-ゴム複合部材の作製>
上記ゴム層形成用塗料を乾燥後の厚さが100μmとなるように、厚さ30μmのアルミニウム箔(福田金属箔粉工業社製)の表面に塗布し、100℃にて10分乾燥し、上記アルミニウム箔の上に架橋EPDMゴム層を形成して、実施例1の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0059】
(実施例2)
変性ポリオレフィン溶液の配合量を0.7部(固形分量:0.15部)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0060】
(実施例3)
変性ポリオレフィン溶液の配合量を20.5部(固形分量:4.5部)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0061】
(実施例4)
変性ポリオレフィン溶液の配合量を11.4部(固形分量:2.5部)に変更し、アゾ系重合開始剤の配合量を0.02部に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0062】
(実施例5)
アゾ系重合開始剤の配合量を1.8部に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例5の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0063】
(実施例6)
多官能性チオールの配合量を0.02部に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例6の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0064】
(実施例7)
多官能性チオールの配合量を4.8部に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例7の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0065】
(比較例1)
変性ポリオレフィン溶液を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0066】
(比較例2)
アゾ系重合開始剤を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例2の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0067】
(比較例3)
多官能性チオールを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例3の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0068】
(比較例4)
変性ポリオレフィン溶液の配合量を27.3部(固形分量:6.0部)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例4の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0069】
(比較例5)
アゾ系重合開始剤の配合量を2.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例5の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0070】
(比較例6)
多官能性チオールの配合量を5.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例6の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0071】
(比較例7)
アゾ系重合開始剤〔2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)〕に代えて、有機過酸化物重合開始剤(日本油脂社製、商品名“パークミルD”)を0.8部配合した以外は、実施例1と同様にして比較例7の金属-ゴム複合部材を作製した。
【0072】
次に、上記実施例1~7及び上記比較例1~7で作製したゴム層形成用塗料のポットライフ及び同様に作製した金属-ゴム複合部材について、アルミニウム箔とゴム層との密着性、及びゴム層の破断強度と破断伸びをそれぞれ下記のように評価した。
【0073】
<ポットライフ>
作製したゴム層形成用塗料を23℃で1日保存し、塗料がゲル化しなかった場合には、ポットライフ:良(〇)、塗料がゲル化した場合にはポットライフ:不良(×)と評価した。
【0074】
<密着性>
作製した金属-ゴム複合部材のゴム層面のクロスカット試験を下記のように実施して、アルミニウム箔とゴム層との密着性を評価した。上記クロスカット試験は、先ず、試験面(ゴム層面)にカッターナイフを用いて、縦横2mm間隔で6本の切り傷をつけ25個の碁盤目を作製した。次に、上記碁盤目部分に粘着テープ(ニチバン社製、商品名“セロテープ”)を強く圧着させ、粘着テープの端を45°の角度で一気に剥がし、25個の碁盤目のうち剥離せずに残っている碁盤目数を測定した。その結果、25個の碁盤目が全て剥離せずに残っていた場合には、密着性:良(〇)、25個の碁盤目が全て剥離した場合には、密着性:不良(×)と評価した。
【0075】
<破断強度及び破断伸び>
作製した金属-ゴム複合部材を用いてゴム層の破断強度及び破断伸びを測定するとアルミニウム箔の影響が大きいと考えられるので、測定サンプルを下記のように作製した。離型PETフィルム(中本パックス社製、商品名“NS-50-ZW”、厚さ:50μm)の片面に、作製したゴム層形成用塗料を塗布して乾燥した後に、離型PETフィルムを剥がしてゴムシートとし、そのゴムシートを幅10mm、長さ100mmに切断し、測定サンプルとした。
【0076】
破断強度及び破断伸びの測定は、上記測定サンプルを引張圧縮試験機(ミネベヤミツミ株式会社製“TGE-10kN”)用いて、上記測定サンプルを300mm/分の速度で長さ方向に引っ張り、測定サンプルが破断するまでの破断荷重(破断強度)及び元の長さに対す伸び長さの割合%(破断伸び)を測定した。その結果、破断荷重が5MPa以上の場合には、破断強度:良(〇)、破断荷重が2MPa以下の場合には、破断強度:不良(×)と判断し、伸び長さの割合が100%以上の場合には、破断伸び:良(〇)、伸び長さの割合が50%以下の場合には、破断伸び:不良(×)と評価した。
【0077】
上記結果を表1及び表2に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
表1から、実施例1~7では、ポットライフ、密着性、破断強度及び破断伸びの全てにおいて高い評価結果を得た。即ち、実施例1~7では、金属層とゴム層とを直接接合可能で、十分なゴム特性を有する金属-ゴム複合部材を提供できることが分かる。
【0081】
一方、(B)変性ポリオレフィンを配合しなかった比較例1では密着性が劣り、(C)アゾ系重合開始剤を配合しなかった比較例2では架橋反応が進行しないので破断強度及び破断伸びが劣り、(D)多官能性チオール化合物を配合しなかった比較例3でも同様に架橋反応が進行しないので破断強度及び破断伸びが劣り、(B)変性ポリオレフィンの配合量が5質量部(固形分量)を超えた比較例4ではゴム成分が相対的に減少して破断強度が劣り、(C)アゾ系重合開始剤の配合量が2質量部を超えた比較例5ではアゾ系重合開始剤が塗料中で架橋反応を起こしやすくなるためポットライフが劣り、(D)多官能性チオール化合物の配合量が5質量部を超えた比較例6でも同様にアゾ系重合開始剤が塗料中で架橋反応を起こしやすくなるためポットライフが劣り、有機過酸化物重合開始剤を用いた比較例7では空気中の酸素阻害により架橋反応が進行しないので破断強度及び破断伸びが劣り、いずれも満足のいく結果を得られなかったことが分かる。
【符号の説明】
【0082】
10 金属-ゴム複合部材
11 金属層
12 ゴム層